特許第6836346号(P6836346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝産業機器システム株式会社の特許一覧

特許6836346固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法
<>
  • 特許6836346-固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法 図000002
  • 特許6836346-固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法 図000003
  • 特許6836346-固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法 図000004
  • 特許6836346-固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法 図000005
  • 特許6836346-固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法 図000006
  • 特許6836346-固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法 図000007
  • 特許6836346-固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836346
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20210215BHJP
   H02K 1/18 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   H02K15/02 F
   H02K1/18 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-138484(P2016-138484)
(22)【出願日】2016年7月13日
(65)【公開番号】特開2018-11417(P2018-11417A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 博之
(72)【発明者】
【氏名】長田 昌浩
【審査官】 津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−535675(JP,A)
【文献】 特開2016−048982(JP,A)
【文献】 特開昭57−009243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の鉄心片を積層して固定子鉄心を製造する固定子鉄心の製造装置であって、
サーボモータを駆動源として構成され、積層した前記鉄心片を結束する際に当該鉄心片に力を加える複数の機能部と、
前記機能部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記機能部の動作に伴って変化する前記鉄心片に加わる力が、鉄損と寸法精度の変化との相関関係から求められた最適化パラメータに基づいた所定の範囲内になるように前記サーボモータを制御することにより、前記鉄心片に加わる力を調整しつつ複数の前記機能部の動作を制御することを特徴とする固定子鉄心の製造装置。
【請求項2】
前記機能部として、積層された前記鉄心片をその中心側から径方向外側に向かって拡張する拡張部を備え、
前記制御部は、前記拡張部を、当該拡張部の動作時に前記鉄心片に対して加わる力を調整可能に制御することを特徴とする請求項1記載の固定子鉄心の製造装置。
【請求項3】
前記機能部として、積層された前記鉄心片の外周面に形成されている溝部に挿入された固着金具を変形させることにより当該鉄心片を固着する固着部を備え、
前記制御部は、前記固着部を、当該固着部の動作時に前記鉄心片に対して加わる力を調整可能に制御することを特徴とする請求項1または2記載の固定子鉄心の製造装置。
【請求項4】
前記機能部として、平板状の金属材を成型して前記固着金具とするとともに、当該固着金具を前記固着部に連続的に供給する供給部を備え、
前記制御部は、前記固着部から前記鉄心片に対して加えられる力が前記供給部の動作によって変化する際の変化量を調整可能に制御することを特徴とする請求項3記載の固定子鉄心の製造装置。
【請求項5】
前記機能部として、積層された前記鉄心片をその積層方向に加圧する加圧部を備え、
前記制御部は、前記加圧部を、当該加圧部の動作時に前記鉄心片に対して加わる力を調整可能に制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の固定子鉄心の製造装置。
【請求項6】
前記制御部は、信号因子を磁束密度とし、出力を鉄損とし、前記鉄心片に力が加わる工程を制御因子としたシステムモデルを対象とした実験計画法により得られた前記最適化パラメータを用いて、前記機能部の動作時に前記鉄心片に加わる力を調整することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の固定子鉄心の製造装置。
【請求項7】
薄板状の鉄心片を積層して固定子鉄心を製造する固定子鉄心の製造方法であって、
サーボモータを駆動源として構成された複数の機能部を、当該機能部の動作に伴って変化する前記鉄心片に加わる力が、鉄損と寸法精度の変化との相関関係から求められた最適化パラメータに基づいた所定の範囲内になるように前記サーボモータを制御して制御することにより、積層した鉄心片に加わる力を調整しつつ当該鉄心片を結束することを特徴とする固定子鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は鉄心片を積層して形成される固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機には、鉄心片を積層して形成した固定子鉄心が広く採用されている。このような固定子鉄心は、積層した鉄心片を溶接により固着するものもあるが、例えば特許文献1に開示されているように、鉄心片に形成されている溝に固着金具を挿入し、固着金具を変形させることにより鉄心片を固着するものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−161178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、固定子鉄心は、鉄心片を積層しただけの状態と比べると、鉄損が増大することが知られている。この鉄損の増大は、その一因として、製造時に固定子鉄心に加わった力が応力として固定子鉄心内に残留し、その残留応力に起因して生じると考えられている。
そこで、鉄損の低減の最適化が可能で、鉄損を低減することができる固定子鉄心の製造装置、固定子鉄心の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の固定子鉄心の製造装置は、積層した鉄心片を結束する際に当該鉄心片に力を加える機能部の動作を制御する制御部を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の固定子鉄心を模式的に示す図
図2】結束装置の構成を模式的に示す図
図3】マンドレルにより鉄心片を拡張する際の態様を模式的に示す図
図4】フラットローラによりバンドを加圧変形する際の態様を模式的に示す図
図5】鉄心片を積層した積層体に加わる力を模式的に示す図
図6】固定子鉄心の製造工程の流れを模式的に示す図
図7】鉄損の改善結果の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について図1から図7を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態で対象とする固定子鉄心1は、薄板状の鉄心片2を積層することにより形成されている。この鉄心片2は、鉄心片2の内周側に図示しない巻線を挿入するスロット3を構成する凹部が設けられ、その外周側に金属製のバンド4(固着金具)を挿入する溝部5を形成する凹部が設けられた状態で、電磁鋼板を例えば周知のプレス機にて打ち抜くこと等によって形成されている。なお、溝部5は、径方向内側に向かってその幅が拡大するいわゆる蟻溝状に形成されている。
【0008】
固定子鉄心1は、この鉄心片2を板厚方向に所定枚数積層することにより形成されている。なお、図1に示す固定子鉄心1の形状は一例であり、例えば外周部に取り付け用のフランジ部を有するような形状であってもよい。
【0009】
図2は、本実施形態による結束装置10(製造装置に相当する)を模式的に示している。この結束装置10は、強固なフレーム11を有しており、そのフレーム11に、積層された鉄心片2を拡張するマンドレル12、マンドレル12を駆動するサーボモータ13を有する駆動部14、加圧板15、加圧板15に接続されて当該加圧板15を上下動させるシャフト16、シャフト16を駆動するサーボモータ17を有する駆動部18、金属材(4a。図6参照)を成形してバンド4として供給する2つのVローラ19、バンド4を加圧変形させるフラットローラ20(図4等参照)、およびそれらを制御する制御部21等を備えている。なお、図示は省略するが、結束装置10には、積層した鉄心片2の寸法を計測する計測部等も一体あるいは別体として設けられている。
【0010】
マンドレル12、サーボモータ13および駆動部14は、環状に積層された鉄心片2を、その中心側から径方向外側に向かって拡張する拡張部として機能する。以下、この鉄心を拡張する動作をマンドレル拡張とも称する。マンドレル12は、概ね円柱状に形成されているとともに、図3(a)に示すように、周方向に6等配されているとともに径方向に移動可能な可動部12aと、この可動部12aの内周側に配置されている旋回軸12bとを有している。この旋回軸12bは、周方向に6等配されている各部位おいて、その直径寸法が周方向に連続的に変化するカム状に形成されており(図3(b)も参照)、自身が旋回するとによって可動部12aとの接触位置が径方向に変化する。つまり、マンドレル12は、サーボモータ13によって旋回軸12bを旋回させることにより、可動部12aを径方向に沿って往復移動させることが可能な構造となっている。
【0011】
そして、マンドレル12は、鉄心片2を積層する際には可動部12aが径方向内側に移動することにより、その外形が鉄心片2の内周よりも小さくなり、鉄心片2の積層を阻害しない状態となる。一方、マンドレル12は、鉄心片2を積層した後においては、可動部12aが径方向外側に移動することにより、図3(b)に示すように、各鉄心片2に接触した状態または各鉄心片2を径方向外側に向かって押圧する状態となる。これにより、各鉄心片2は、同心円状に位置決めされる。換言すると、各鉄心片2は、その中心位置が一致した状態に配置される。
【0012】
このように、マンドレル12は、旋回軸12bの旋回角度すなわちサーボモータ13の回転角度によって、可動部12aの位置すなわち鉄心片2の拡張量を制御することができる。つまり、例えば鉄心片2の内周にちょうど接触する位置を第1拡張位置とし、第1拡張位置から所定距離だけ径方向外側の位置を第2拡張位置とした場合、可動部12aは、第1拡張位置から第2拡張位置までの間の任意の位置、つまりは、予め定められている基準範囲内の任意の位置に位置決めすることが可能となっている。換言すると、結束装置10は、サーボモータ13の回転角度を制御することによって、鉄心片2を径方向外側に拡張するマンドレル拡張時に鉄心片2に加わる力を容易に調節することが可能となっている。なお、本実施形態では、マンドレル拡張時の基準範囲は、例えば0.2mmに設定されている。
【0013】
加圧板15、シャフト16および駆動部は、積層した鉄心片2をその積層方向に加圧する加圧部として機能する。この加圧板15は、シャフト16をサーボモータによって駆動することで上下動することから、出力可能な最大圧力を上限とし、高さ寸法を満足する最小の圧力を下限とした所定の基準範囲内の任意の圧力を加えることが可能となっている。換言すると、結束装置10は、鉄心片2を積層方向に加圧する加圧時に鉄心片2に加わる力を容易に調節することができる。
【0014】
フラットローラ20は、溝部5に挿入されているバンド4を加圧して溝部5内で変形させることにより、各鉄心片2を一体に固着する固着部として機能する。バンド4は、図4(a)に示すようにその断面が概ね山型に形成されている。そして、バンド4は、溝部5に挿入された後、図4(b)に示すようにフラットローラ20によって押しつぶされて変形する。これにより、バンド4は、溝部5を周方向に拡張する状態となり、以て、各鉄心片2が一体に固着される。
【0015】
このとき、フラットローラ20の位置は、図示しないサーボモータによって制御される。そのため、図4(a)に示すように例えばフラットローラ20が変形前のバンド4に接触した状態を第1基準位置とし、第1基準位置から所定距離だけ径方向内側であってバンド4を変形させることができる位置を第2基準位置とした場合、フラットローラ20は、第1基準位置から第2基準位置までの間、つまりは、予め定められている基準範囲内の任意の位置に位置決めすることが可能となる。
【0016】
換言すると、結束装置10は、鉄心片2を径方向外側に拡張するマンドレル拡張時に鉄心片2に加わる力を容易に調節することができる。なお、本実施形態では、バンド4を変形つまりは鉄心を固着させる際の基準範囲は、例えば3.2mmに設定されている。
【0017】
Vローラ19は、雄側ローラ19aと雌側ローラ19b(いずれも図6参照)を有し、平板状の金属材4aを山形に成型してバンド4とするとともに、後述するように、ある程度のテンションを維持した状態でバンド4を連続的に供給する供給部として機能する。このとき、雄側ローラ19aと雌側ローラ19bとの間の寸法、および、Vローラ19と積層された鉄心片2との間の距離つまりはVローラ19を保持する保持部の鉄心片2に対する傾き量は、図示しないサーボモータにより制御される。
【0018】
そのため、金属材4aを成型する際に金属板に加える力、および、バンド4を供給する際のテンションは、容易に調節可能となっている。換言すると、結束装置10は、固着部から鉄心片2に対して加えられる力が供給部の動作によって変化する際の変化量を容易に調節することができる。なお、本実施形態では、Vローラ19と鉄心片2との間の距離を変化させる基準範囲を、2.0mmに設定している。
【0019】
制御部21は、図示しないマイクロコンピュータ等を有しており、拡張部、加圧部、固着部および供給部の動作を制御する。このとき、制御部21は、詳細は後述するが、各部の動作に応じて積層された鉄心片2に加わる力を調整しつつ、各部の動作を制御する。
【0020】
次に、上記した構成の作用について説明する。
前述のように、固定子鉄心1は、鉄心片2を積層しただけの状態と比べると鉄損が増大することが知られており、これは、製造時に固定子鉄心1に加わった力が応力として鉄心内に残留することが一因であると考えられている。
【0021】
しかし、固定子鉄心1は、その特性が仕様目的等に応じて、高さ寸法や直径寸法あるいはその寸法内における磁性体の密度等が定められている。また、固定子鉄心1は、その内周側に収容される回転子鉄心との間のギャップが不均一になると特性の悪化を招くおそれがあるため、各鉄心片2の中心位置を精度よく一致させることも重要である。このため、固定子鉄心1には、製造時には、特に本実施形態であれば積層した鉄心片2を固着する固着時には、様々な力が様々な方向に加えられることになる。
【0022】
例えば、積層された鉄心片2(以下、便宜的に積層体30と称する)には、図5(a)に示すように、上記したマンドレル拡張時に径方向外側へ加えられる力(F1)、および高さ寸法を出すために積層方向に加えられる力(F1)が加えられる。また、本実施形態のようにバンド4により固着する構成の固定子鉄心1の場合には、図5(b)に示すようにバンド4を挿入および変形させる際に径方向内側に向かって加わる力(F3)、バンド4が変形した際に溝部5を周方向に拡張する形で加わる力(F4)、およびバンド4を曲げて引っかける際に加わる力(F5)が発生する。このとき、バンド4を挿入する際に加わる力は、供給されるバンド4のテンションによって変化すると考えられる。
【0023】
ここで、比較として、従来の製造装置について簡単に説明する。従来の製造装置においても、加圧部、拡張部、固着部に相当する機能部は設けられている。しかし、各機能部の動作、例えば上記したシャフト16の上下動等の動作は、駆動源として油圧式のものが用いられていた。油圧式の場合、例えばシャフト16を設定された位置まで上下動させることはできるものの、移動時の推力や速度および停止位置を調整することは困難であった。つまり、従来の製造装置では、固定子鉄心1に加える力を調整することができなかった。
【0024】
これに対して、本実施形態の結束装置10は、上記したように各部をサーボモータにより駆動することから、固定子鉄心1に加わる力を容易に調整できる構成となっている。
ところで、固定子鉄心1に加わる力を調整できるとしても、どのように調整したらよいのかが重要となる。これは、例えばマンドレル拡張後に加圧する場合、マンドレル拡張時に加えた力によって鉄心片2内に生じる力が変化する可能性があるためである。つまり、鉄心片2に加わる力は、交互作用が生じる可能性がある。
【0025】
また、固定子鉄心1は、幾つかの工程を経て製造される。例えば、固定子鉄心1の製造工程は、周知のように鉄心片2をプレス加工する打ち抜き工程、鉄心片2を積層する積層工程、積層した鉄心片2を結束する結束工程を含んでいる。そして、詳細は後述するが、結束工程に注目した場合、図6(a)〜(f)に示すように複数の工程において鉄心片2に力が加えられている。
【0026】
具体的には、図6(a)に示す拡張工程においては、マンドレル12によって積層体30が径方向外側に向かって拡張される。このとき、積層体30には、上記した力(F1)が加わる。
図6(b)に示すバンド4前進工程においては、フラットローラ20等を積層体30に接近する方向に移動させており、そのフラットローラ20がバンド4を介して鉄心に接触するとともに、折り曲げられているバンド4の上端が積層体30に上方から接触する。このとき、積層体30には、上記した力(F5。但し上方側)が加わる。また、力(F5)は、固定子鉄心1となった状態でも加わり続ける。
【0027】
図6(c)に示す加圧工程では、加圧板15が移動して積層体30に接触するとともに、積層体30をその積層方向に加圧する。このとき、積層体30には、上記した力(F2)が加わる。
図6(d)に示す固着工程では、フラットローラ20が積層体30の側面に沿って加工するとともに、上記した図4(b)のようにバンド4を加圧変形させて積層体30の各鉄心片2を固着する。
【0028】
このとき、積層体30には、上記した力(F3およびF4)が加わる。この力(F3)は、Vローラ19と鉄心片2との間の距離つまりはVローラ19の位置によってバンド4のテンションが変化することによっても変化する。また、力(F4)は、固定子鉄心1となった状態でも加わり続ける。また、鉄心片2に瞬間的に加わる力は、フラットローラ20の下降速度に依存する。なお、この固着工程は、積層体30を適宜旋回させることで、溝部5の全てにバンドを挿入および加圧変形させている。
【0029】
図6(e)に示す切断工程では、カッター22によってバンド4を切断するとともに、バンド4の下部を折り曲げて積層体30の下面側に接触させる。このとき、積層体30には、上記した力(F5。但し下方側)が加わる。また、力(F5)は、固定子鉄心1となった状態でも加わり続ける。
【0030】
図6(f)に示すバンド4後退工程では、フラットローラ20等を積層体30から離間する方向に移動させることでバンド4を後退させる。その後、加圧板15を上方に移動させて加圧を解除し、必要に応じて積層体30を回転させて他の溝部5へのバンド4の挿入・加圧変形を繰り返すことで、積層体30の各鉄心片2が一体に固着され、固定子鉄心1が製造される。
【0031】
このような複数の工程において、鉄心片2に加わる力をそれぞれ変化させ、最適なパラメータを実験的に求めることは、多大な労力を要する。そこで、本実施形態では、実験計画法により最適なパラメータを予め求め、得られたパラメータを用いて鉄心片2に加わる力を調整しつつ、固定子鉄心1を製造している。
【0032】
そして、各工程において鉄心片2に力が加わる要因を抽出し、鉄損や寸法精度に与える影響が大きい要素をランク付けすることにより、各要因の特性要因マトリックスを生成する。そして、特性要因マトリックスに基づいて、信号因子を磁束密度とし、出力を鉄損とし、鉄心片2に力が加わる工程を制御因子としたシステムモデルを構築する。このとき、固定子鉄心1の寸法精度を確保できるように、出力として外形寸法、内径寸法、外周面の直角度、積層厚みも設定している。なお、外乱因子は適宜設定されている。
【0033】
続いて、鉄心片2に力が加わる工程の交互作用、すなわち、ある因子の優劣が他の因子の水準によって変化するケースを検討あるいは実験により求め、その結果を交互作用マトリックスとして特定する。
【0034】
その結果、本実施形態の固定子鉄心1の製造時には、上記した図6(a)〜(f)に示す各工程のうち拡張工程、加圧工程および固着工程において鉄心片2に加わる力が、鉄損への影響が大きいことが判明した。そのため、それらの工程において積層体30に加わる力を調整可能とするために、各工程を実施する各機能部、本実施形態で言えば、拡張部、加圧部、固着部および供給部をサーボモータにて駆動つまりは可動とする構成とした。
【0035】
そして、上記した交互作用マトリックスに基づいて、各制御因子(パラメータ)の水準を決定する。具体的には、拡張工程に対しては、上記した第1拡張位置を水準−、第2拡張位置を水準+として決定し、その範囲内で加える力を調整可能とした。また、加圧工程に対しては、出力可能な最大圧力を+水準とし、その半分の圧力を−水準として決定し、その範囲内で加える力を調整可能とした。
【0036】
また、固着工程に対しては、上記した第1基準位置を水準−とし、第2基準位置を水準+として決定し、その範囲内で加える力を調整可能とした。また、フラットローラ20の下降速度を、サーボモータの定格回転数を水準+とし、作業時間を鑑みてその1/3の回転数を水準−とし、その範囲内で下降速度を調整可能とした。また、Vローラ19の定常位置を水準−とし、そこから2.0mmずれた位置を水準+とし、バンド4のテンションを調整可能とした。
そして、実験計画法に基づいて、各制御因子の水準値を用いて固定子鉄心1を試作して鉄損および寸法精度の変化を求め、パラメータの最適化を図った。
【0037】
そして、得られた最適化パラメータを用いて固定子鉄心1を試作したところ、図7に示すように、鉄心片2を積層した状態つまりは固着前の積層体30の鉄損を100とした場合、実施形態による固定子鉄心1の鉄損は、比較例である従来の製造装置によって製造した場合と比べて約2%の改善が確認された。
これにより、拡張工程、加圧工程および固着工程において鉄心片2に加わる力が鉄損に影響を与えていることが確認できたとともに、その力を調整することで鉄損を改善できることが確認できた。
【0038】
以上説明した実施形態によれば次のような効果を得ることができる。
結束装置10は、薄板状の鉄心片2を積層して固定子鉄心1を製造する装置であって、積層した鉄心片2を結束する際に当該鉄心片2に力を加える機能部の動作を制御する制御部21を備える。これにより、製造時に鉄心片2に加わる力を調整することが可能となり、鉄損が増大する一因となる残留応力の低減すなわち鉄損の改善を図ることができる。したがって、鉄損の低減の最適化が可能であるとともに、鉄損を低減することができる。
【0039】
機能部として、積層された鉄心片2をその中心側から径方向外側に向かって拡張する拡張部を備え、制御部21は、拡張部の動作時に鉄心片2に対して加わる力を調整可能に、当該拡張部を制御する。これにより、拡張工程において鉄心片2に加わる力を調整することができる。
【0040】
機能部として、積層された鉄心片2の外周面に形成されている溝部5に挿入されたバンド4(固着金具)を加圧変形させることにより当該鉄心片2を固着する固着部を備え、制御部21は、固着部の動作時に鉄心片2に対して加わる力を調整可能に当該固着部を制御する。これにより、固着工程において鉄心片2に加わる力を調整することができる。
【0041】
機能部として、平板状の金属材を成型してバンド4とするとともに、当該バンド4を固着部に連続的に供給する供給部を備え、制御部21は、固着部から鉄心片2に対して加えられる力が供給部の動作によって変化する際の変化量を調整可能に、当該供給部を制御する。これにより、固着工程において鉄心片2に加わる力への影響を調整することができる。
【0042】
機能部として、積層された鉄心片2をその積層方向に加圧する加圧部を備え、制御部21は、加圧部の動作時に鉄心片2に対して加わる力を調整可能に、当該加圧部を制御する。これにより、加圧工程において鉄心片2に加わる力を調整することができる。
【0043】
制御部21は、信号因子を磁束密度とし、出力を鉄損とし、鉄心片2に力が加わる工程を制御因子としたシステムモデルを対象とした実験計画法により得られた最適化パラメータを用いて、機能部の動作時に鉄心片2に加わる力を調整する。これにより、所望する特性や寸法が異なる固定子鉄心1に対しても、結束装置10を適用することができる。
【0044】
また、積層した鉄心片2に加わる力を調整しつつ当該鉄心片2を結束する固定子鉄心1の製造方法によっても、上記したように、鉄損の低減の最適化が可能であるとともに、鉄損を低減することができる。
【0045】
(その他の実施形態)
実施形態では拡張部、加圧部、固着部および供給部をサーボモータにて駆動する(可動させる)構成とした例を示したが、これら全ての機能部をサーボモータにて駆動する必要は必ずしもなく、拡張部、加圧部、固着部および供給部のうちいずれか1つの機能部をサーボモータにて駆動する構成も本発明の均等の範囲に含まれる。
【0046】
制御部21は、機能部を自動制御するものであってもよいし、作業者が手動で制御する操作部を有するものであってもよい。例えば、実施形態では加圧板15を上下動させるシャフト16をサーボモータ17で駆動する例を示したが、加圧工程では鉄心片2のバリ取りができる程度の大きな圧力を加えることがあるため、加圧部は、サーボモータ17ではなく油圧式としてもよい。その場合、例えば減圧弁を設けることにより、圧力を手動で制御することができる。勿論、減圧弁を自動で制御する構成であってもよい。
【0047】
実施形態では最適化パラメータの一例を示したが、所望する特性や大きさ等に応じてそれぞれ最適化パラメータを予め求めておき、製造時にその最適化パラメータを用いて固定子鉄心1を製造してもよい。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
図面中、1は固定子鉄心、2は鉄心片、4はバンド(固着金具)、5は溝部、10は結束装置(固定子鉄心の製造装置)、12はマンドレル(拡張部)、13はサーボモータ(拡張部)、14は駆動部(拡張部)、15は加圧板(加圧部)、16はシャフト(加圧部)、17はサーボモータ(加圧部)、18は駆動部(加圧部)、19はVローラ(供給部、固着部)、20はフラットローラ(固着部)、21は制御部を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7