【実施例1】
【0026】
本発明の第1の実施例にかかる眠気推定装置を
図1乃至
図12を参照して説明する。眠気推定装置1は
図1に示すように、状態判別部2と、パラメータテーブル3と、眠気基準心拍数テーブル4と、眠気算出部5と、眠気表示部6と、I/F7、I/F8と、眠気基準心拍数算出部9と、を備えている。そして、眠気推定装置1は、心拍センサ11が接続されている。
【0027】
図1に示した構成の眠気推定装置1は、例えばスマートフォン等の携帯機器やパーソナルコンピュータ等のアプリケーションプログラム(アプリ)として構成されてもよいし、カーナビゲーションシステム等の車載機器や家電機器等に搭載されていてもよい。また、眠気推定装置1が心拍センサ11を備える構成であってもよい。
【0028】
なお、眠気推定装置1が測定手段としての心拍センサ11を備えるものをユーザ(被検者)の状態を監視する状態監視装置100とし、例えば当該状態監視装置100を車両に搭載することでドライバーモニターとして動作させることができる。勿論ドライバーモニターに限らず、例えばデスクワークや勉強、或いは工場等における作業等の他の活動状態を監視するものとすることもできる。
【0029】
心拍センサ11は、心拍に関する生体情報として少なくとも心拍数を取得することができるセンサであれば、周知のものを用いることができる。例えば、腕時計型や、車両の座席に埋め込まれているもの、或いは屋内の椅子やベッド等に備え付けられているもの等、種々の形態のものを利用することができる。また、心拍センサ11は、1種類に限らず、後述する活動状態に応じて複数種類を使い分けてもよい。
【0030】
上述した構成の眠気推定装置1においては、状態判別部2、眠気算出部5及び眠気基準心拍数算出部9はCPU(Central Processing Unit)等の演算装置が機能する。また、パラメータテーブル3及び眠気基準心拍数テーブル4はハードディスクやフラッシュメモリなどの記憶媒体が機能する(記憶媒体は揮発性として毎回ロードする形式でもよいが不揮発性とした方が好ましい)。また、眠気表示部6は、液晶ディスプレイ等の表示装置が機能する。I/F7、8は、心拍センサ11等と通信する通信制御部等が機能する。
【0031】
状態判別部2は、I/F8を介して外部から入力されるユーザの位置情報及びユーザの加速度情報と、に基づいて安静、運転中、作業中、睡眠等といったユーザの活動状態を判別する。即ち、状態判別部2は、ユーザの活動状態を検出する。
【0032】
位置情報は、例えばGPS(Global Positioning System)により得られる緯度経度情報が入力される。加速度情報は、携帯機器や、車両自体或いは車載機器等が備える加速度センサの情報が入力される。また、活動量センサ(活動量計)等加速度センサ等を内蔵して人の活動状態を検出することが可能な機器から情報を取得してもよい。
【0033】
状態判別部2における活動状態の判別の例を
図2に示す。
図2は、活動状態を判別するテーブルの例である。
図2のテーブルにおいて、状態sta1の内容は安静、状態sta2の内容は運転中、状態sta3の内容は作業中、状態sta4の内容は睡眠、の活動状態を示している。勿論活動状態は、エクササイズや重労働等、図示した項目以外が含まれていてもよい。
【0034】
図2のテーブルでは、位置情報がリビングで、加速度情報が小さく、速度が小さく、デバイスが腕時計である場合に状態sta1(安静)と判別する。ここで、速度は、位置情報の変化から算出すればよい。或いは車両であれば速度センサから取得するようにしてもよい。デバイスは心拍センサ11の種類や設置されている場所を示しており、心拍センサ11から取得してもよいし、別途ユーザ等が設定してもよい。
【0035】
また、位置情報が車両で、加速度情報が中、速度が大きく、デバイスが運転席である場合に状態sta2(運転中)と判別する。位置情報が事務所で、加速度情報が大きい、速度が中、デバイスが椅子である場合に状態sta3(作業中)と判別する。位置情報がベッドで、加速度情報が小さい、速度が小さい、デバイスがベッドである場合に状態sta4(睡眠)と判別する。また、特に加速度情報、速度については、一例であり具体的な数値等は適宜設定上で任意に変更することができる。
【0036】
なお、
図2のテーブルでは、位置情報、加速度情報、速度情報、デバイス情報で判別していたが、いずれか1項目のみで判定してもよいし2項目又は3項目のみであってもよい。また、心拍センサ11で測定した心拍数で判別してもよい。例えば、心拍数の変化が少ない場合は安静状態か睡眠、心拍数が低いが変動がある場合は運転か作業中など、大まかな判別は可能である。
【0037】
パラメータテーブル3は、後述する眠気予測パラメータが活動状態毎に設定されているテーブルを備えている。そして、状態判別部2の判別結果に基づいて、その活動状態に対応する眠気予測パラメータを眠気算出部5に出力する。テーブルの例を
図3に示す。
【0038】
眠気予測パラメータは
図3に示したようにa、bの2種類が設定される。
図3の例では、状態sta1(安静)の場合、眠気予測パラメータaは15、眠気予測パラメータbは0.2とし、状態sta2−1(運転中:手動運転)の場合、眠気予測パラメータaは20、眠気予測パラメータbは0とし、状態sta2−2(運転中:自動運転)の場合、眠気予測パラメータaは20、眠気予測パラメータbは0.2とする。また、状態sta3(作業中)の場合、眠気予測パラメータaは15、眠気予測パラメータbは0.2とし、状態sta4(睡眠)の場合、眠気予測パラメータaは10、眠気予測パラメータbは0.2としている。
図3のテーブル例では眠気予測パラメータa、bは0〜100の範囲の値が設定される。
【0039】
図3において、眠気予測パラメータは、状態が運転の場合(sta2)を手動運転(sta2−1)と自動運転(sta2−2)とに分けている。これは、詳細は後述するが、手動運転と自動運転とでは、眠気予測パラメータの設定値を変更する必要があるためである。
【0040】
眠気基準心拍数テーブル4は、ユーザの眠気基準心拍数が時刻及び活動状態毎に格納されているテーブルを備えている。そして、状態判別部2の判別結果に基づいて、その活動状態と心拍センサ11から取得した心拍数の測定時刻(現在時刻)に対応する眠気基準心拍数を読出して(取得して)眠気算出部5に出力する。テーブルの例を
図4に示す。また、眠気基準心拍数テーブル4は、後述する眠気基準心拍数算出部9により算出された眠気基準心拍数が設定される。
【0041】
ここで、眠気基準心拍数とは、眠気発生時の心拍数である。つまり、この心拍数以下では人が眠気を感じる心拍数である。即ち、ユーザが眠気を感じる基準とする心拍数である。眠気基準心拍数の算出方法としては、例えば平均心拍数に基づいて算出する方法や最低心拍数に基づいて算出する方法等挙げられる。詳細は後述する。
【0042】
図4の例の場合、時刻t1〜t4の1時間間隔で各状態sta1〜sta3毎に眠気基準心拍数を設定している。時刻t1〜t4は、例えば午後0時や、午前1時などの時刻を示している。
【0043】
眠気基準心拍数は、心拍センサ11から取得した心拍数等の情報に基づいて算出される。例えば午後0時の眠気基準心拍数を算出する場合は、午後0時近傍の所定期間の心拍数を取得し、その心拍数に基づいて算出すればよい。そして、その時の活動状態を状態判別部2から取得し、その活動状態の午後0時の眠気基準心拍数としてテーブルに設定する。
【0044】
例えば人は午後にはしばしば強い眠気が出現する。昼食後に起こることから昼食後の眠気(post lunch dip)とも呼ばれ、昼食をとったことが原因であると考える人も多い。しかし、昼食を2時間早めた場合でも昼食を抜いた場合でも、さらに恒常法を用いて2時間毎に軽食をとった場合でも午後には眠気が生じる。つまり、睡眠不足でなくても、また昼食の影響を取り除いた場合でも午後には眠気が生じることから、午後の眠気は生体リズムを反映していると考えられている。
【0045】
眠気には約24時間周期のサーカディアンリズム(circadian rhythm)、約12時間周期のサーカセミディアンリズム(circasemidian rhythm)、そして約2時間周期のウルトラディアンリズム(ultradian rhythm)が関わっていると考えられている。夜間に生じる眠気は体温リズムの低下と一致しており、体温におけるサーカディアンリズムを反映している。午後の眠気は夜間の最低体温出現時刻の約半日後に生じていることから、サーカセミディアンリズムを反映していると考えられている。
【0046】
したがって、
図4のように時刻毎の眠気基準心拍数を設定できるようにすることで、人の生体リズムを考慮した眠気基準心拍数に基づいて眠気Sを算出することができる。
【0047】
また、眠気基準心拍数の算出にあたり心拍数を蓄積する蓄積手段は、眠気基準心拍数テーブル4を構成する記憶媒体が兼ねてもよいし、別途記憶媒体を設けてもよい。また、眠気基準心拍数は、
図5に示すような構成で別途算出、設定し、眠気推定装置1の眠気基準心拍数テーブル4に転送するようにしてもよい。初期校正部21は、後述する方法で心拍数を蓄積して眠気基準心拍数を算出する。眠気基準心拍数テーブル22は、眠気基準心拍数テーブル4と同様である。即ち、
図1の構成の場合、眠気基準心拍数テーブル4と眠気基準心拍数算出部9とで眠気基準心拍数算出装置200を構成する。
図5の構成の場合、初期校正部21と眠気基準心拍数テーブル22とで眠気基準心拍数算出装置を構成する。
【0048】
また、人は1日に様々な活動を行うので、24時間心拍数を測定しても、眠気基準心拍数テーブル4の全ての時刻と活動状態を埋めるのは困難である(
図6(a))。そこで、空白となった部分はその前後のデータに基づいて滑らかになるようにデータを補間するようにしてもよい(
図6(b))。
【0049】
また、初期状態で補間により埋めた部分は、その後の測定によって眠気基準心拍数が算出された場合はその算出値に更新(追加)してもよい。更に、その更新(追加)に基づいて他の補間値を更新してもよい。このようにすることで、眠気基準心拍数の精度を向上させることができる。即ち、眠気基準心拍数テーブル4は、心拍数の測定時刻及び状態判別部2(活動状態検出部)が検出したユーザの活動状態に基づいて眠気基準心拍数を追加又は更新する眠気基準心拍数設定部としても機能する。
【0050】
なお、
図4では、眠気基準心拍数は時刻毎に算出しているが、例えば活動状態毎に1種類の眠気基準心拍数を設定し、
図7に示したようなオフセット値(ofs)を時刻毎に設定してもよい。このオフセット値は、例えば眠気基準心拍数テーブル4に眠気基準心拍数とともに設定すればよい。また、オフセット値による補正は眠気基準心拍数テーブル4に演算部等を設けて行ってもよいし、後述する眠気算出部5で行ってもよい。即ち、眠気基準心拍数テーブル4または眠気算出部5は、心拍数の測定時刻に基づいて眠気基準心拍数を補正する補正手段として機能する。
【0051】
次に、眠気基準心拍数の算出について説明する。一人の人間が取り得る心拍数の範囲は決まっており、その心拍数の分布は正規分布に近くなることが知られている。また、眠気を感じているときは心拍数が低いことも知られている。したがって、眠気発生時の心拍数である眠気基準心拍数は、最低心拍数から平均心拍数までの間にあると言える。
【0052】
ここで、本発明者らは、ユーザの平均心拍数や最低心拍数と実際の眠気との関係を調査するため実験を行った。実験は、活動状態としてオートマチックタイプの乗用車を運転中及び助手席乗車中とし、健常者11名(30歳〜59歳男性)を対象にした。被験者には、心拍計(ユニオンツール社製のMyBeat)を着用させ、心拍数と呼吸変動に対応する高周波変動成分(HF)を記録した。また、眠気の強さの評価には、VASを利用し、被験者の感じる眠気の強さの主観値を記録した。
【0053】
実験に際し、以下のような条件を定めた。運転状況以外の要因が心拍・眠気に影響を与えることを避けるため、乗車中の会話や音楽の視聴、カーナビゲーションによるガイダンスの利用を禁止とした。同様に、食事による影響を排除するため、朝食後の約2時間を避け、午前10時〜12時の間に実験を実施した。助手席に座った被験者には、自動運転の監視役という擬似的な役割を負わせた。緊張やストレス負荷がかかるのを避けるため、車線変更は極力控え、左側車線を自然の流れにのった運転をするよう指示した。
【0054】
実験手順としては、被験者が二人一組で運転席・助手席に座り、折り返し地点到着時に運転手を交代する形で行った。最初に、眠い状態から実験を開始するのを防ぐため(覚醒状態をリセットしてから実験を開始するため)、5分間、被験者に簡単な暗算課題を与えてストレス負荷をかけた後、さらに5分間、安静を行わせた。その後、後述する一般道と高速を走行するコースの運転を開始させ、走行中は、タイマーの音が鳴る5分ごとのタイミングで、VASを用いて自分の眠気を記録させた。実験の際には、一般道を約10km(所要時間 約30分)、高速道路を約40km(所要時間 約30分)、往復で約2時間のコースを走行した。
【0055】
図8に平均心拍数と眠気基準心拍数との関係のグラフを示す。平均心拍数(HR_ave)は、上述した条件で行った実験の結果得られた心拍数の平均値であり横軸に示す。眠気基準心拍数(HR_ref)は、上述した条件で行った実験の際に記録したVASの結果から算出したものであり縦軸に示す。
図8〜
図10のグラフでは、上記コースの往路と復路とをそれぞれ別のデータとしている(のべ22名分のデータをプロット)。ここで、
図8のグラフにプロットした実験データを直線近似するとy=0.827x+8.184、決定係数R
2=0.9176となり、少ない誤差で直線近似が可能となることが明らかとなった。
【0056】
図8の結果に基づく、本実施例における眠気基準心拍数の第1算出方法としては、平均心拍数から線形関数を予め定め、その線形関数から算出することである。
【0057】
図9に最低心拍数と眠気基準心拍数との関係のグラフを示す。最低心拍数(HR_min)は、上述した条件で行った実験の結果得られた心拍数の最低値であり横軸に示す。ここで、
図9のようにHR_ref=HR_minとなる直線を引くと、HR_ref=HR_min+αの傾向があることが明らかとなった。
【0058】
図9の結果に基づく、本実施例における眠気基準心拍数の第2算出方法としては、最低心拍数に所定のオフセット値(α)を加算することである。
【0059】
図10に平均心拍数から標準偏差を減算した値と眠気基準心拍数との関係のグラフを示す。標準偏差(HR_std)は、上述した条件で行った実験の結果得られた心拍数の標準偏差である。ここで、
図10のようにHR_ref=HR_ave−HR_stdとなる直線を引くと、実験データは概ね当該直線上に分布することが明らかとなった。
【0060】
図10の結果に基づく、本実施例における眠気基準心拍数の第3算出方法としては、平均心拍数から標準偏差を減算することである。
【0061】
本実施例においては、心拍数の蓄積量に応じて、これら3つの算出方法を適宜使い分ける。例えば、初期状態においては、心拍数のデータが蓄積されてないため、最低心拍数や標準偏差が不明又は信頼性が低いので、第1算出方法である線形関数を使用し、データが蓄積されるに従って第2算出方法や第3算出方法に切り替える。
【0062】
第2算出方法への切り替えについては、予め定め所定時間連続して運転した場合に蓄積された心拍数から最低心拍数を決定し切り替える。この所定時間は運転等の特定の活動状態を継続することで眠気が一度でも発生する可能性が高い時間を適宜設定すればよい(例えば4〜8時間程度)。また、ボタンやタッチパネル或いは音声入力等の入力手段等を備えて、ユーザが眠気を感じた際に当該入力手段からその旨の入力をして申告をすることで、最低心拍数を決定し、第2算出方法を用いるようにしてもよい。
【0063】
第3算出方法への切り替えについては、蓄積された心拍数が標準偏差を算出するために正規分布になったことを検出して切り替える。正規分布については正規性の検定を行うことで判定すればよい。または、予め定めた所定時間心拍数を蓄積したら正規分布になったと見做して切り替えるようにしてもよい。このときの所定時間は第2算出方法と異なり、連続した時間でなく複数回の運転の合計時間でよい。
【0064】
また、上述した第1〜第3算出方法を統合的に使用してもよい。例えば、各算出方法でそれぞれ眠気基準心拍数を算出し、算出された眠気基準心拍数のばらつきが小さく、算出値の誤差が予め定めた閾値以下であれば、算出された値の平均値を眠気基準心拍数としてもよい。勿論3つの方法を全て算出するに限らずいずれか2つの平均であってもよい。
【0065】
なお、上述した線形関数やオフセット値は、上記のような実験を行って活動毎に予め算出すればよい。また、上述した眠気基準心拍数の算出方法は運転時に限らず、他の活動状態においても適用することができる。
【0066】
眠気算出部5は、心拍センサ11で測定された心拍数と、パラメータテーブル3から出力された眠気予測パラメータと、眠気基準心拍数テーブル4から出力された眠気基準心拍数と、に基づいて眠気(眠気に関する情報)を算出することでユーザの眠気を推定する。
【0067】
眠気算出部5で算出する眠気とは、現在の心拍数が眠気基準心拍数よりも低いときの、現在の心拍数と眠気基準心拍数との差分から求められる情報であり、現在の心拍数が眠気基準心拍数より下がる割合に応じて眠気値も強くなるように算出される。
【0068】
ここで、眠気を算出する前提について説明する。心拍変動から自律神経のバランスを推定するために、心拍変動についての時系列データから、呼吸変動に対応する高周波変動成分(HF成分)と血圧変動であるメイヤー波(Mayer wave)に対応する低周波成分(LF成分)を抽出し、両者の大きさを比較する。呼吸変動を反映するHF成分は、副交感神経が緊張(活性化)している場合のみに心拍変動に現れる。一方、LF成分は、交感神経が緊張しているとき、及び副交感神経が緊張しているときにも心拍変動に現れる。
【0069】
眠気算出部5では次の(1)式で眠気Sを算出する。
S=Ki×Si+Kp×Sp+Kd×Sd・・・(1)
【0070】
(1)式においてSpは生理学的眠気、Siは生理学的眠気Spの積分要素、Sdは生理学的眠気Spの微分要素である。Ki、Kp、Kdは、各要素の重み付けのための係数である。
【0071】
生理学的眠気Spは、眠気予測パラメータをa及びb、現在測定された1分間当たりの心拍数HR、眠気基準心拍数HR_ref、高周波変動成分HF、基準高周波変動成分HF_refとすると、次の(2)式により算出される。
Sp=a×max(HR_ref−HR,0)+b×max(HF−HF_ref,0)・・・(2)
【0072】
関数maxは、括弧内にカンマで区切られた引数のうち最大値を戻り値とする関数であり、(2)式においては、HR<HR_refの場合にはHR_ref−HRの算出結果が、HF>HF_refの場合にはHF−HF_refの算出結果が戻り値となる。
【0073】
また、基準高周波変動成分HF_refについては、眠気基準心拍数HR_refと同様に、眠気基準心拍数テーブル4に時刻や活動状態毎に設定されているものとする。即ち、生理学的眠気Spを算出する眠気算出部5は、少なくともユーザの心拍数と眠気基準心拍数との差分に基づきユーザの眠気を示す眠気値を算出している。
【0074】
ここで、眠気予測パラメータa及びbをそれぞれ設定することについて説明する。例えば運転中の眠気は単調な運転時(高速道路等)で起こりやすく、眠気を伴った機能低下が起こる。このような機能低下は、生理機能上は心拍数、血圧などが沈静して、眼球運動と脳波の異常などが動揺しながら出現する。自覚症状 疲労感が眠気とだるさ、四肢の疲れを中心に大きく増大し、集中低下も強く感じられる。行動能力 反応時間の大きな延長とばらつきが増大、正確さの低下があり、閉眼、まどろみによる危険状態にも至る。
【0075】
眠気の状態は自律神経の機能により下記のように分類される。
<1.眠気のない場合>
交感神経が亢進し、副交感神経が抑制している状態である。心拍数HRが大きく、呼吸変動に対応する高周波変動成分(心拍揺らぎの高周波変動成分ともいう)HFが小さい。
<2.眠気の兆候がある場合>
単調な運転や疲労などにより、心理的に眠気の自覚は少ないが生理的にその兆候が現れる。交感神経活動が亢進状態から抑制状態に変わるので、心拍数が下がる。
<3.眠気が生じる場合>
交感神経は抑制したままであるが、副交感神経活動が亢進状態に変わるので、心拍数HRが下がり、呼吸変動に対応する高周波変動成分HFが上がる。
<4.眠気に抗した葛藤状態>
危険を感じ、眠気に抗するために、緊張状態を生じる。ヒヤッとしたときなどに、交感神経活動が断続的に亢進し、呼吸変動に対応する高周波変動成分HFが減少する。
<5.眠気に抗しきれない状態>
緊張が消失し、居眠りが始まる。交感神経活動が抑制されるので心拍数HRは下がる。
【0076】
上記の分類で、通常の居眠り運転では1の状態(眠気のない場合)から2の状態(眠気の兆候がある場合)に変化し、さらに4の状態(眠気に抗した葛藤状態)に至ることが多い。一方、安静状態では、1の状態から2の状態になり、3の状態(眠気が生じる場合)になり、そして、眠ってしまうと5の状態(眠気に抗しきれない状態)に至る。
【0077】
そこで、(2)式では、
図3に示したように、手動運転中では心拍揺らぎの眠気予測パラメータbを0にして計算する。つまり、手動運転状態は、心拍数変化の眠気予測パラメータaを大きくし、心拍揺らぎの眠気予測パラメータbを小さくする。一方、自動運転中は、運転手であっても、運転操作を行っていないことから安静状態に近い状態となるため、心拍数変化の要素の眠気予測パラメータaを小さくし、心拍揺らぎの眠気予測パラメータbを大きくする。
【0078】
即ち、眠気予測パラメータをa及びbは、心拍数(RR間隔)及び心拍揺らぎのそれぞれに対する重み付けをするための係数である。上述したように、心拍数と心拍揺らぎは、活動状態によって眠気への寄与が異なるため、それぞれに重み付けをすることで、算出される眠気の精度を高めている。
【0079】
生理学的眠気Spの積分要素Siは次の(3)式により算出される。
Si=ΣSp・・・(3)
【0080】
(3)式は、眠気が蓄積したときの積分要素を示す。即ち、眠気値(生理学的眠気Sp)の積算値を算出している。例えば運転状態の場合、運転開始後は眠気が少ないが、運転が長時間続くと眠気が増加する。そこで、生理学的眠気Spを積算することで、特定の活動状態を継続したときに発生する眠気を考慮することができる。積分要素Siは、例えば運転状態の場合、運転開始時を0とし、その後目的地に到着或いは休憩等で運転をやめるまで蓄積する。即ち、活動状態が変化した場合は積算値をリセットする。
【0081】
活動状態の変化は、状態判別部2により検出することができる。即ち、状態判別部2が検出手段として機能する。活動状態の変化は、例えば眠気推定装置が車載であった場合は、運転者等が車両から離れたことを検出した、あるいは車両のイグニッションスイッチをOFFにした場合に運転をやめたとして他の活動状態に変化したと判定すればよい。
【0082】
なお、積分要素Siは上述したように特定の活動状態を継続する限りは際限なく積算する。この場合、ユーザによっては、時間の経過とともに眠気Sと自身の感覚とに差が生じることがある。そこで、積分要素Siには上限値を設け、上限値を超える値にはならないようにしてもよい。即ち、上限値を超えた場合には当該上限値を積算値とするようにしてもよい。
【0083】
生理学的眠気Spの微分要素Sdは次の(4)式により算出される。
Sd=dSp/dt・・・(4)
【0084】
微分要素Sdは、眠気の変化を強調するために算出する。即ち、眠気値の微分値を算出している。眠気の変化が少ない場合、微小な区間での眠気の増減は心理的に知覚され易い(ウェーバーの法則)。例えば運転中に眠気を数値等で表示している場合、微小な変化を拡大してフィードバックすることで眠気の変化をユーザにより強く自覚させることができる。
【0085】
係数Ki、Kp、Kdは、ユーザ個人毎に設定することができる。また、微分要素Sdの係数Kdは、Kd>0である。また、敏感なユーザはその変化を感じ易くするためKdを大きくし、鈍感なユーザはその変化を感じにくくするためKdを小さくする。また、係数Ki、Kp、Kdは、バイタルセンサやユーザ自身の告知により取得するユーザの体調に応じて変更するようにしてもよい。
【0086】
なお、微分要素Sdは、上述したように、ユーザ等に表示等報知する際に影響するものであり、眠気Sの算出に必ずしも必要な要素ではない。したがって、生理学的眠気Sp及び係数Kpと積分要素Si及び係数Kiのみで眠気Sを算出してもよい。
【0087】
そして、(1)式により算出された眠気Sは、VAS等の主観的眠気の評価軸と対比し易いように0〜100の数値の範囲とする。この眠気Sは、0が眠気が小さく100が眠気が大きい。
【0088】
即ち、眠気算出部5は、第1算出手段、第2算出手段、第3算出手段及び推定手段として機能する。また、眠気予測パラメータは活動状態によって変化するので、眠気算出部5は、心拍数(生体情報)、活動状態、眠気基準心拍数に基づいて眠気Sを算出していることとなる。
【0089】
眠気表示部6は、眠気算出部5で算出(推定)された眠気Sを表示する。眠気Sは、単にその時の数値のみを表示してもよいし、時系列の変化が分かるように棒グラフ或いは折れ線グラフ等で表示するようにしてもよい。
【0090】
眠気表示部6の表示例を
図11に示す。
図11(a)は、時刻毎の心拍数と眠気基準心拍数と算出された眠気Sを示した表である。
図11(b)は、
図11(a)を棒グラフにしたものである。即ち、
図11(a)のように心拍数が測定された場合は、
図11(b)のようにユーザに対して表示する。この表示は、上述した微分要素Sdも含まれた眠気Sが表示されるものであり、眠気表示部6は、眠気算出部5(推定手段)が推定した眠気に基づいて、眠気を示す表示をする表示制御手段として機能する。
【0091】
I/F7は、心拍センサ11が接続されるインタフェース(I/F)である。I/F7は、心拍センサ11が有線接続の場合は有線接続に対応するインタフェース、無線接続の場合は無線接続に対応するインタフェースとなる。即ち、I/F7は、ユーザにおいて測定された該ユーザの心拍に関する生体情報(心拍数やその測定時刻等)を取得する。即ち、I/F7は心拍数の測定時刻を取得する取得手段として機能する。
【0092】
I/F8は、位置情報や加速度情報が入力されるインタフェース(I/F)である。I/F8は、有線接続のインタフェース、無線接続のインタフェースのいずれであってもよい。即ち、I/F8は、ユーザの位置情報を取得するとともに、ユーザの加速度情報を取得する。
【0093】
眠気基準心拍数算出部9は、上述した第1〜第3算出方法を用いて眠気基準心拍数を算出する。
【0094】
図12に眠気推定装置1の動作のフローチャートを示す。
図12(a)は全体的な動作のフローチャートである。まず、ステップS11において、心拍センサ11から心拍数を取得し、状態判別部2でユーザの活動状態を判別する。即ち、本ステップが、ユーザにおいて測定された該ユーザの心拍に関する生体情報を取得する生体情報取得工程と、ユーザの活動状態を検出する活動状態検出工程として機能する。
【0095】
次に、ステップS12において、心拍センサ11から取得した心拍数とパラメータテーブル3から出力された眠気予測パラメータと眠気基準心拍数テーブル4から出力された眠気基準心拍数とに基づいて眠気算出部5で眠気Sを算出する。即ち、本ステップが、生体情報取得工程で取得した生体情報、活動状態検出工程で検出したユーザの活動状態、及び眠気基準心拍数格納部にユーザの眠気基準心拍数が活動状態毎に格納されている眠気基準心拍数に基づいてユーザの眠気に関する情報を算出する眠気算出工程として機能する。
【0096】
図12(b)は、ステップS12における眠気算出動作のフローチャートである。まず、ステップS21において、生理学的眠気Spを(2)式により算出する。次に、ステップS22において、生理学的眠気Spの積分要素Siを算出する。なお、上述したように積分要素Siは運転等の特定の活動を始めた時点からやめるまで積算する。次に、生理学的眠気Spの微分要素Sdを算出する。微分要素Sdは、厳密には(4)式であるが、演算を簡略化するため、今回測定されたHR等に基づいて算出されたSpから前回測定されたHR等に基づいて算出されたSpを減算することで算出する。つまり、HR等の測定間隔に基づいて算出する。そして、ステップS24において、眠気Sを(1)式により算出する。
【0097】
即ち、ステップS21が第1算出工程、ステップS22が第2算出工程、ステップS24が推定工程となり、
図12(b)のフローチャートが眠気算出方法となる。
【0098】
本実施例によれば、眠気算出部5でユーザの心拍数HRと眠気基準心拍数HR_refとの差分に基づきユーザの生理学的眠気Spを算出し、生理学的眠気Spの積分要素Siを算出する。さらに、生理学的眠気Spの微分要素Sdを算出する。そして、生理学的眠気Sp、積分要素Si及び微分要素Sdに基づいてユーザの眠気Sを算出する。このようにすることにより、心拍数の変動が少ないユーザであって、生理学的眠気Spのみでは正確な眠気推定が困難な場合であっても積分要素Siを考慮することで眠気の推定精度を向上させることができる。
【0099】
また、微小時間における眠気値の変化量を微分要素Sdとして算出することで、眠気値の変化が大きいときには心理的な眠気の変化が大きくなるような表示を行うことができる。したがって、表示される眠気を示す情報をユーザの感覚に近づけることができる。
【0100】
また、眠気算出部5は、係数Kpを乗じた生理学的眠気Spと係数Kiを乗じた積分要素Siとの和に基づいて眠気Sを算出する。このようにすることにより、眠気値と積分要素Siとに重み付けをすることができる。したがって、個人の特質等に合わせて積分要素Siの反映の度合いを定めることができる。
【0101】
また、積分要素Siが所定の上限値を超えた場合には当該上限値を積分要素Siとして算出する。このようにすることにより、積算により積分要素Siが際限なく増加することを防止することができ、積分要素Siによる眠気への影響を限定して、ユーザとの感覚のずれを少なくすることができる。
【0102】
また、眠気推定装置1が車両に搭載され、眠気算出部5は、ユーザが車両の運転をやめた場合は活動状態が変化したとして積分要素Siをリセットする。このようにすることにより、休憩や目的地に到着した等により運転を継続することにより生じる眠気の成分をリセットして眠気の推定精度の低下を防止することができる。
【0103】
また、心拍センサ11から心拍数及び心拍数の測定時刻を取得し、眠気算出部5が眠気基準心拍数テーブル4に設定されたオフセット値に基づいて眠気算出部5が眠気基準心拍数を補正するようにしてもよい。このようにすることにより、生体リズムにより眠気が生じやすい時間帯を考慮した眠気基準心拍数を設定することができる。
【0104】
また、眠気推定装置1は、I/F7が心拍センサ11で測定されたユーザの心拍数及び測定時刻を取得し、I/F8に入力された位置情報及び加速度情報から状態判別部2でユーザの活動状態を判別する。また、眠気基準心拍数テーブル4にユーザの眠気基準心拍数が時刻及び活動状態毎に格納されている。そして、眠気算出部5でI/F7が取得した心拍数、心拍揺らぎ、状態判別部2が判別したユーザの活動状態及びI/F7が取得した測定時刻から選択された眠気予測パラメータ及び眠気基準心拍数に基づいてユーザの眠気Sを算出する。このようにすることにより、ユーザの活動状態と時刻に基づいて眠気判定の基準とする眠気基準心拍数を変更することができる。従って、活動状態と時刻に応じた基準に基づいて眠気Sを算出することができ、高精度に眠気Sを算出することができる。
【0105】
また、心拍数が測定された時刻及び状態判別部2が判別したユーザの活動状態に基づいて眠気基準心拍数テーブル4に格納される眠気基準心拍数を追加又は更新している。このようにすることにより、ユーザの日常生活による活動状態の時刻毎の眠気基準心拍数の変化を随時更新又は追加することができる。
【0106】
また、眠気算出部5は、活動状態毎に予め設定された眠気予測パラメータに基づいてユーザの眠気Sを算出している。このようにすることにより、心拍数と心拍揺らぎを活動状態に応じて重み付けすることができる。
【0107】
また、ユーザの位置情報及び加速度情報を取得するI/F8を備えている。このようにすることにより、ユーザの移動速度や加速度から活動状態を検出することができる。
【0108】
また、眠気表示部6を備えているので、ユーザは、自身の眠気を具体的に知覚することができ、表示された眠気に基づいて例えば休憩や運動等の対応を行うことができる。
【0109】
なお、上述した実施例において活動状態と測定時刻とに基づいて眠気予測パラメータや眠気基準心拍数を選択していたが、活動状態のみに基づいて眠気予測パラメータや眠気基準心拍数を選択してもよい。但し、測定時刻も考慮した方が、適切な眠気予測パラメータや眠気基準心拍数を選択できるので好ましい。
【0110】
また、眠気表示部6に加えて音声や振動で眠気を通知するようにしてもよい。或いは、一定以上の眠気の場合に音声等による通知を行ってもよい。
【0111】
また、上述した構成の眠気推定装置1において算出(推定)された眠気値とユーザの間隔との間に差がある場合は、主観評価を入力させるようにして、その主観評価に基づいて眠気基準心拍数HR_refや基準高周波変動成分HF_refを修正するようにしてもよい。このようにすることにより、眠気算出部5が算出(推定)した眠気をユーザが主観評価することができる。そして、その主観評価結果をフィードバックして再度眠気算出部5が眠気を算出することができる。従って、ユーザ個人に合わせた眠気に関する情報をより精度良く算出することができる。