特許第6836363号(P6836363)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836363
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】造形支援システム
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20210222BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20210222BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20210222BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20210222BHJP
【FI】
   B29C64/386
   B29C64/40
   B33Y30/00
   B33Y50/00
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-181473(P2016-181473)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-43469(P2018-43469A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】713005473
【氏名又は名称】株式会社カブク
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 昌彦
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/191798(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/198759(WO,A1)
【文献】 特開2012−101443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/10,64/20,64/386,64/40
B33Y 10/00,30/00,50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形対象の立体の形状の情報を受付ける受付部と、
受付けた情報をサーバ装置に送信する送信部と、
造形装置によって立体を造形する際に導入されるサポート部材の位置を表す情報を、サーバ装置から取得する取得部と、
前記立体とともに、前記サポート部材を該取得された情報に従った位置に表示する表示部と
を有し、
前記受付部は、前記表示部に前記立体および前記サポート部材の位置が表示された後に、造形条件の指定を受付け、前記送信部は該指定された造形条件を前記サーバ装置へ送信する、
端末装置。
【請求項2】
前記造形装置は素材を積層する、
請求項1に記載の端末装置。
【請求項3】
前記受付部は、前記立体の造形条件を更に指定する、
請求項1または2に記載の端末装置。
【請求項4】
前記造形条件は、造形の方向、前記立体の大きさ、前記立体と前記サポート部材とが接触する位置、前記立体の造形に先立って前記サポート部材を用いて形成される土台となる部分の厚みのうち少なくともいずれか一つを含む、
請求項3に記載の端末装置。
【請求項5】
前記表示部は、前記立体と前記サポート部材とを区別して表示する
請求項1〜4のいずれか一つに記載の端末装置。
【請求項6】
端末装置から、造形対象の立体の形状の情報を取得する取得部と、
造形装置によって前記立体を造形する際に導入されるサポート部材の位置を決定する決定部と、
該決定された位置を表す情報を前記端末装置に送信する送信部と
を有し、
前記取得部は、さらに、該決定された位置を表す情報を送信した後、前記端末装置から造形条件の指定を受付け、前記決定部は、該受け付けた造形条件に基づいてサポート部材の位置を再度決定する
サーバ。
【請求項7】
前記サポート部材の位置は、前記サポート部材が前記立体または他のサポート部材と接触する位置である
請求項6に記載のサーバ。
【請求項8】
前記決定部は、前記サポート部材の形状を決定する
請求項6に記載のサーバ。
【請求項9】
前記決定部は、複数のサポート部材による位置の組み合わせを複数決定し、
前記送信部は、該決定された位置の組み合わせを送信する、
請求項6〜8のいずれか一つに記載のサーバ。
【請求項10】
前記取得部は、造形の方向、前記立体の大きさ、前記立体と前記サポート部材とが接触する位置、前記立体の造形に先立って前記サポート部材を用いて形成される部位の厚みのうち少なくともいずれか一つを含む造形条件をさらに取得し、
前記決定部は、前記造形条件に基づいて前記位置を決定する、
請求項6〜9のいずれか一つに記載のサーバ。
【請求項11】
前記決定部は、該決定された位置に従って前記サポート部材を使用して造形を行う際に、当該サポート部材の素材または総量、および推定される造形精度のうち少なくともいずれか一つを含む付帯情報をさらに決定し、
前記送信部は前記付帯情報をさらに送信する、
請求項6〜10のいずれか一つに記載のサーバ。
【請求項12】
前記取得部によって取得された形状と、前記決定部にて決定された位置とを対応付けて記憶する記憶部をさらに有し、
前記決定部は、前記記憶部に記憶された対応付けに基づいて前記位置を決定する、
請求項6〜11のいずれか一つに記載のサーバ。
【請求項13】
表示部を有するコンピュータに、
造形対象の立体の形状の情報を受付けるステップと、
受付けた情報をサーバ装置に送信するステップと、
造形装置によって立体を造形する際に導入されるサポート部材の位置を表す情報を、サーバ装置から取得するステップと、
前記表示部に、前記立体とともに、前記サポート部材を該取得された情報に従った位置に表示するステップと
有し、
前記表示部に前記立体および前記サポート部材の位置が表示された後に、造形条件の指定を受付け、該指定された造形条件を前記サーバ装置へ送信する
実行させるためのプログラム。
【請求項14】
前記立体の造形条件を指定するステップを更に前記コンピュータに実行させる、
請求項13に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体的形状の造形に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3Dプリンタなど、立体的形状を造形する装置が注目されている。3Dプリンタにおいては、素材を積層することで造形を行う。この際、重力の影響下で所望の造形を実現させるため、造形対象の立体(以下、「対象物」という)の形状や用いる材料の物性等に応じて、造形途中の立体を支持し造形完了後に目的物から除去される部材(「サポート部材」や「サポート材」などと呼ばれる)を導入することが、一般的に行われている。
【0003】
一般的に、3Dプリンタ等、造形プロセスに方向性がある装置の場合、対象物をどのような方向(造形方向という)から造形するか(換言すると、造形装置を基準として完成後の目的物の向きをどのように決定するか)については、多数の可能性が考えられる。造形方向が異なれば、サポート部材の導入方法(サポート部材を形成する位置、形成するサポート部材の総量、その他サポート部材についての情報)は異なり得る。サポート部材の導入方法は、造形完了までの時間、要求される造形装置の能力、造形精度、コストなどに影響する。
この観点から、対象物に対して適切にサポート部材が導入されるように、ユーザが造形方向の指定を調整できることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−1267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、サポート部材の最適な位置などを決定するにはコンピュータによる複雑な構造計算が必要であり、ハードウェアリソースを大量に消費する。よって、このような計算を条件変えて何度も繰り返すことは現実的でなかった。
本発明は、ユーザによるサポート部材の導入方法についての決定を支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一の態様において、造形対象の立体の形状の指定を受付ける受付部と、該指定をサーバ装置に送信する送信部と、造形装置によって立体を造形する際に用いられるサポート部材の位置を表す情報を、サーバ装置から取得する取得部と、前記立体とともに、前記サポート部材を該取得された情報に従った位置に表示する表示部とを有する端末装置を提供する。
本発明は、他の観点において、端末装置から、造形対象の立体の形状の情報を取得する取得部と、造形装置によって前記立体を造形する際に用いられるサポート部材の位置を決定する決定部と、該決定された位置を前記端末装置に送信する送信部とを有するサーバを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ユーザによるサポート部材の導入方法についての決定が支援される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】造形支援システム100の概要を示す図。
図2】ユーザ端末200の機能構成を示す図。
図3】サーバ300の機能構成を示す図。
図4】造形の対象物990の外観斜視図。
図5】対象物990の向きの一例。
図6】(a)〜(c)は、造形方向に応じて用いられるサポート部材の例。
図7】造形支援システム100の動作例を示す図。
図8】造形方向を指定する際にユーザ端末200に表示される画面の一例。
図9】(a)はサポート部材の使用方法を確認する際にユーザ端末200に表示される画面の一例。(b)はサポート部材980の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は造形支援システム100の概要を示す。造形支援システム100は、ユーザ端末200と、サーバ300と、造形装置400とを含む。ユーザ端末200、サーバ300、各造形装置400は通信網900を介して接続される。通信網900は、例えばインターネットである。
【0010】
各造形装置400は、3Dプリンタやマシニングセンタなどと呼ばれるコンピュータ制御による造形装置であって、サーバ300から供給された3Dデータに従って造形を実行する。一般的に、3次元の造形においては方向性が存在する。例えば、素材を積層することによって造形を実現する装置においては、積層方向(一般的には鉛直方向)が、造形処理の方向性を規定する一つのパラメータとなる。すなわち、積層タイプの装置としては、例えば、熱溶解積層方式(FDM法;Fused Deposition Modeling)、光造形方式(STL法;Stereo lithography)、粉末焼結方式(SLS法;Selective Laser Sintering)、インクジェット方式、インクジェット粉末積層方式、プロジェクション方式などを用いた装置が存在する。
造形に用いる素材は、造形方式やユーザの指定、装置の能力に応じて異なる。目的の物品を構成する素材とサポート部材とは、同一であってもよいし異なっていてもよい。なお、造形装置400の台数は例示である。また、各造形装置400の性能や機能は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0011】
図2はユーザ端末200の機能構成を示す。ユーザ端末200は、例えば汎用のコンピュータであって、受付部210と、制御部230と、記憶部250と、通信部220と、表示部240とを含む。
【0012】
記憶部250は、ハードディスク、半導体メモリ、その等の記憶装置であって、制御部230にて実行されるプログラムおよび当該プログラムによって読み出される3Dデータを記憶する。3Dデータとは、造形対象の物体の3次元形状を示すデータであって、例えば、STL、OBJ、PLY、OFF、3DS、COLLADA、PTX、V3D、PTS、APTS、XYZ、GTS、TRI、ASC、X3D、X3DV、VRML、ALN、DXF、GTS、U3D、IDTF、X3D等の形式のデータである。3Dデータは、3DCGソフトで作成して出力されたデータであってもよいし、3Dスキャニングしたデータであってもよいし、3Dデータ共有サイト等から入手したデータであってもよいし、その生成方法や取得方法は問わない。
【0013】
通信部220は、所定の通信規格に従って、サーバ300との間でデータを送受信するための通信インタフェースとして実装され、送信部221と取得部222とを含む。
送信部221は、受付部210にて受付けられた指定をサーバ装置に送信する。
取得部222は、造形装置400によって造形方向に立体を造形する際に用いられるサポート部材の位置を表す情報をサーバ300から取得する。
【0014】
受付部210は、キーボード、タッチパネル、マウス、スタイラス等のユーザ端末200のユーザ(以下、単にユーザという)によって操作される入力デバイスであって、ユーザからの指示を受付ける。具体的には、受付部210は、少なくとも造形対象の立体の形状を受付ける。形状には立体全体の大きさについての情報が存在しなくてもよい。例えば、形状の情報は、立体を構成する各辺や面の相対的大きさのみを含んでいてもよい。加えて、受付部210は、前記立体の造形条件に関する指定を受付ける。造形条件に関する指定には、立体の造形方向に、前記立体の大きさ、あるいは前記立体の造形に先立って前記サポート部材と同じ素材を用いて形成され、サポート部材を支持又は接合する土台部についての情報が含まれていてもよい。土台部の情報は、サポート部材と土台部が接触する1以上の位置、および土台部の厚み(積層方向におけるオフセット位置)、土台部の形状のうち少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0015】
制御部230は、1以上の、汎用のプロセッサ(CPU等)および/または描画処理プロセッサ(GPU)等の専用プロセッサとして実装される。
【0016】
表示部240は、液晶ディスプレイ等の表示装置であって、制御部230から供給される画像データに基づいて画像を表示する。
具体的には、制御部230は、3DCGや3DCAD等と一般的に称される3次元のモデリングを行うためのアプリケーションプログラムが有する一般的な機能(3次元的な方向の指定と指定された方向からみた、立体的形状の画像を表示する機能)を有する。より具体的には、制御部230は、対象物の画像とともに、サーバ300から取得した情報に従った位置にサポート部材を表示部240に表示する。制御部230は、ユーザが立体とサポート部材とを視認しやすいように、例えば、立体とサポート部材とを互いに異なる色で描画する。
【0017】
図3はサーバ300の機能構成を示す。サーバ300は、例えば汎用のサーバ装置として実現される。なお、サーバ300は、サーバ300の管理者によって使用される、図示せぬ、キーボード、タッチパネル、マウスなどの入力部、およびディスプレイを備えていてもよい。
サーバ300は、通信部310と、制御部320と、記憶部340とを含む。通信部310は、通信インタフェースとして実装され、ユーザ端末200および各造形装置400との間で情報の送受信を行う。通信部310は、受付部311と送信部312とを含む。
【0018】
受付部311は、造形対象の立体の形状の情報と当該立体の造形条件とをユーザ端末200から取得すると、制御部320に供給する。造形条件とは、造形装置400にて実行される造形処理の内容を規定する情報である。造形条件は、例えば、対象物とサポート部材とが接触する1以上の位置、対象物においてサポート部材との接触を禁止する部分の領域、造形装置400の能力、造形に使用する素材、サポート部材の素材、サポート部材の形状、造形完成までの時間、造形の精度、および造形に使用する素材の総量のうち少なくともいずれか一つを含むが、これらの情報に限られない。なお、受付部311は、造形条件の少なくとも一部をユーザ端末200および造形装置400の少なくともいずれかから取得してもよい。
送信部312は、制御部320から供給されたサポート部材の3Dデータをユーザ端末200に送信する。
【0019】
記憶部340は、ハードディスク、半導体メモリ、その他の記憶装置であって、制御部320にて実行されると後述の機能を実現させるためのプログラムを記憶する。加えて、記憶部340には、各造形装置400の機能、価格、など、サポート部材の導入方法を含む造形行程の内容に基づいて、当該内容の造形を実行したい場合の費用、当該内容を複数の造形装置400のうちどの造形装置400に実行させるかを制御部320にて決定するために必要な情報が格納される。加えて、記憶部340には、過去に制御部320にて決定されたサポート部材の導入方法についての情報を記憶する。具体的には、ユーザに指定された対象物の形状に応じて、サポート部材の形成位置の情報が対応付けられて記憶される。
【0020】
制御部320は、1以上のプロセッサとして実装され、所定のアルゴリズムに従って、受付部311から供給された造形条件に基づいてサポート部材の導入方法を決定する。造形条件に関し、例えばユーザが造形方向として造形方向のみを指定した場合、造形方向以外に必要な情報があれば、適宜、造形装置400あるいは記憶部340から取得する。
好ましい態様において、サポート部材の導入方法には、対象物に対するサポート部材の位置を表す情報が含まれる。サポート部材の位置を表す情報には、好ましくはサポート部材が対象物と接触する1以上の位置(対象物を支える位置)が含まれるが、これに限らず、造形された対象物に対してサポート部材が存在しているべき位置を表す情報であればよい。なお、当該接触は一点で実現されてもよいし、面で実現されてもよい。好ましくは、制御部320は、対象物の角やエッジなどの部分とはなるべく接触しないようにサポート部材の位置を決定する。
【0021】
また、サポート部材の位置を表す情報は、座標(直交座標や極座標)によって表現されてもよいし、対象物を特徴づけるパラメータ(頂点、面、辺など)との相対的な位置関係を表現するものであってもよい。例えば、対象物の全ての頂点に通し番号が付されている場合に、サポート部材の位置を通し番号で表わしてもよい。この場合、番号に対応する頂点はサポートと接触すべきことを意味する。サポート部材の位置を表す情報をサポート部材の導入方法についての情報をどのように表現するかは、対象物の3Dデータのフォーマット、ユーザ端末200とサーバ300との間の通信リソースなどの条件に応じて適宜決定される。
制御部320は、決定したサポート部材の導入方法に基づいてサポート部材の3Dデータを生成し、送信部312に出力する。
【0022】
このアルゴリズムは、例えば、構造的(力学的)に所定の基準を満たすことを条件とし、使用するサポート部材の総量と、対象物と接触する領域の大きさとが最少となる解を求めるものである。一般的に、使用するサポート部材が少ないほど材料費が抑えられるし、対象物と接触する領域が小さいほど、サポート部材を除去する際の手間や、除去に伴う造形精度の低下をより抑えることができるからである。
【0023】
サポート部材の導入方法には、サポート部材の形状を指定する情報がさらに含まれてもよい。例えば、この情報は、円柱、角柱、1以上の柱状や、棒状、あるいは分岐のある枝状を指定する。
また、制御部320は、サポート部材の導入方法を複数決定してもよい。例えば、強度的またはコストの観点から等価である位置の組み合わせが複数パターン存在すると計算された場合、1以上のパターンを選択して送信部312に出力する。
さらに、制御部320は、サポート部材を支える他のサポート部材(対象物やサポート部材の造形に先立って形成され、造形の土台として機能する部材)についての情報を決定してもよい。具体的には、この情報は、この部材が前記立体と接触する1以上の位置、部材の厚み(積層方向におけるオフセット位置)、部材の形状のうち少なくともいずれかを含んでいてもよい。
制御部320は、ユーザ端末200から造形方向以外の造形条件を取得した場合、この造形条件を加味して、サポート部材の位置を含むサポート部材の導入方法を決定してもよい。
【0024】
また、制御部320は、決定した位置に従ってサポート部材を使用して造形装置400にて造形を行う際に、当該サポート部材の素材または総量、および推定される造形精度のうち少なくともいずれか一つを含む造形に関する付帯情報をさらに決定して、送信部312に供給してもよい。この付帯情報を造形に用いると決定された造形装置400から取得してもよいし、予め記憶部340に記憶されていてもよいし、ユーザ端末200から取得してもよい。
また、制御部320は、サポート部材の導入方法の決定に際し、所定のアルゴリズムのみに従うのではなく、記憶部340に記憶された、過去に計算したサポート部材の導入方法についての情報を加味してもよい。
【0025】
図4は、対象物990の外観を示す斜視図である。説明の便宜上、対象物990は、頂点A、B,C,D,E,F,G,Hを有する六面体であるとする。
【0026】
図5は、対象物990を面ABCDが正面となる方向で表した図である。この物品としての向き(使用状態における向き)は、同図の矢印の方向であるとする。この物品としての向きと造形方向とは、必ずしも同一である必要はない。一般に、造形方向は理論的には無限に存在するが、必要なサポート部材は造形方向によって異なることになる。
【0027】
図6(a)〜(c)は、造形方向に応じて導入されるサポート部材980の例を示す。造形装置400が、水平面内で素材を吐出して所定の厚みの一つの層を形成し、これを繰り返して鉛直方向下から上に素材を積層することにより対象物を完成させる装置である場合において、例えば(a)に示す造形方向を採用した場合、(面AFHD)が底面(最初に形成される面;最下層)で、面BCGFが上面(最上層;最後に形成される面)となるような向きで造形がなされることになる。
ここで、一般的に、せり出した面(オーバハング部)の角度が所定値を超える場合にサポート部材が必要となる。この所定値をθ0、同図においてθ1<θ0<θ2であるとすると、同図(a)の例においては、面DCGHの形成をサポートするために、DCI(I‘)で示されるサポート部材980−1が設けられる。なお、サポート部材980−1は3角柱として描いているが、これは例示であって、例えばサポート部材は中空の三角柱であってもよいし、要するに面DCGHを力学的に支持する形状であればよい。
【0028】
同図(b)に示すように、CBFGが底面、HAEHが上面となるような造形方法を採用した場合、例えば、JCBKK‘J’GFで表わされる空間部分にサポート部材980−2を設ける必要がある。
同図(c)に示すようにBFEAが底面、CGHDが上面となるような造形方法を採用した場合、例えばBLMM‘FL’で表わされる空間部分にサポート部材980−3を設ける必要がある。
【0029】
このように、造形装置にて採用される造形方向によって、サポート部材980の形状、サイズ、総量等が異なる。また、サポート部材980が対象物990とどのように接触するのかによって、手作業または工作機械によって、サポート部材980を対象物990から除去する際の造形精度に影響が生じる可能性がある。
【0030】
なお、対象物の面の角度は、サポート部材の導入方法を決定する際の一要素にすぎない。サポート部材の形状、一つのサポート部材の長さ(指示点の間の距離)、隣り合うサポート部材同士の間隔などの要素にも依存しうる。また、θ0はサポート部材の垂直方向の位置(高さ)に応じて変動し得る。すなわち、最適な造形方向を決定する際に制御部320にて用いられるアルゴリズムは、上述した例に限定されない。
【0031】
図7は造形支援システム100の動作例を示す。ユーザは、対象物の形状を入力する(S502)。具体的には、造形対象の3Dデータを指定する。図8は、このときにユーザ端末200に表示される画面の一例である。画面には、オブジェクトOB1、オブジェクトOB2、およびオブジェクトOB3が含まれる。オブジェクトOB1は、ユーザが指定する角度からみた対象物990の画像である。ユーザ視点の指定を変更する度に視点からみた画像に更新される。オブジェクトOB2は操作を促すメッセージである。オブジェクトOB3は、ユーザが指定した内容を確定される際に用いられる。
【0032】
ユーザは造形条件を指定する(S504)。具体的には、マウス等を用いて、オブジェクトOB1を画面上で所望の方向に回転させ、画面の上方向が造形方向(積層方向)となるように回転を調節する。ユーザは、必要に応じて、サイズなど造形方向以外の造形条件を入力してオブジェクトOB3を選択すると、指定した造形条件が確定する。
【0033】
図7に戻り、造形条件はサーバ300に送信される(S506)。サーバ300は、造形条件に基づいて、サポート部材の位置を少なくとも含む、サポート部材の導入方法を決定する(S508)。サポート部材の導入方法を表す情報はユーザ端末200に送信される(S510)。
【0034】
ユーザ端末200は、対象物とサポート部材とを合成表示する(S512)。図9(a)は、サポート部材の使用方法を確認する際にユーザ端末200に表示される画面の一例である。同図(a)において、対象物のオブジェクトOB1´とともに、それぞれサポート部材および土台となる部分を表すオブジェクトOB5およびオブジェクトOB6が、サーバ300にて計算された位置に表示される。
【0035】
同図(b)は、サポート部材がある領域の拡大図である。すなわち、ユーザ端末200には完成予想図が表示される。より詳細には、(b)のように、オブジェクトOB5は、それぞれ対象物990に接触する面UEおよびオブジェクトOB6と接触する面LEを有する、所定の間隔で配置された柱状部材である。各オブジェクトOB5の形状や太さ配置間隔は、同一でもよいし異なっていてもよい。
オブジェクトOB6は厚さdの板状である。オブジェクトOB5およびオブジェクトOB6は互いに区別しやすいように、異なる色で表示される。なお、色の違いではなく、輝度や濃度、グラデーションを異ならせてもよいし、常時表示/点滅表示を使い分けてもよい。また、各オブジェクトOBを異なる色で表示してもよい。例えば、サーバ300にて複数種類のオブジェクトを用いることが決定された場合、形状や特性が共通するサポート部材に対応するオブジェクト5ごとに、色分け表示する。あるいは、色分けは一つのサポート部材の各特徴部分で行ってもよい。例えば、あるサポート部材が分岐を有する棒状である場合に、分岐した部分と分岐していない部分とで色分けしてもよい。
また、上記の色には無色または透明が含まれる。例えば、サポート部材全体を表示せず、サポート部材と対象物または土台部分が接触する領域を、対象物とは異なる色で着色する。この表示態様は、対象物の形状について確認は不要であるが、対象物を用いる位置のみを把握したい場合に有用である。
【0036】
オブジェクトOB2´はユーザに確認を促すメッセージである。ユーザは画像を確認し、意図に沿っているかどうかを検証し、サポート部材の位置、形状、総量(体積)、サポート部材と対象物との接触位置や接触領域、土台部の厚みがユーザの意図に沿ったものかを確認する。
【0037】
ユーザは、サポート部材の導入方法に修正が必要と考えた場合、オブジェクトOB4を選択する(図7のS514:YES)。すると、ユーザ端末200は図8に示す画面を表示し、新たな造形条件の指定を受付ける(図7のS504)。例えば、サポート部材980が製品のサンプルである場合であって、そのサイズは重要でなく、造形されるサポート部材の量が予想以上に多く、予算の関係上サポート部材の総量を減らしたいと考えたような場合、サーバ300に通知する新たな造形条件において、サポート部材980の全体のサイズがより小さい値に指定する、または造形方向を変更する。あるいは、ユーザの経験則上、オブジェクトOB6がなくても不都合が生じる可能性が高いと判断した場合、オブジェクトOB6が不要(つまりd=0)であると指定する。あるいは、サポート部材の総量から判断すると予算的に余裕がありそうなので、新たな造形条件として、造形時の重力による造形精度低下をサポート部材の総量についての条件を指定する。なお、ユーザ端末200において、サーバ300から取得したサポート部材の導入方法についての情報に基づいて合成表示された画像を記憶し、複数の画像を一つの画面に、対比しやすいように、同時に並列して表示してもよい。
【0038】
このように、ユーザが満足するまで、図7のS504〜S514の行程が繰り返される。
ユーザがオブジェクトOB3を選択すると(S514;NO)、ユーザ端末200からサーバ300に、依頼の確定を表す情報が送信される(S516)。
サーバ300は、サポート部材980の3Dデータと、制御部320にて決定したサポート部材の導入方法についての情報を表すデータとを記憶する(S518)。そして、サーバ300は、一の造形装置400を選択し、3Dデータと、サポート部材導入方法を表す情報とを、当該一の造形装置400に送信して造形処理を依頼する(S520)。サーバ300は、納期、費用の見積もり、決定した造形装置400の識別子など、造形処理の実行に関係する情報を決定し(S522)、ユーザ端末200に送信する(S524)。
【0039】
上記実施例においては、サポート部材の導入方法についての計算についてユーザ端末200で実行する必要がない。ユーザ端末200は、サーバ300から取得した情報に基づいて描画を行うだけでよい。また、ユーザは、サポート部材がどのように導入されるかをシミュレーションした結果を視覚的に確認し、意図にそぐわなければ、造形方向などの造形条件を修正してそのシミュレーション結果を確認することができる。この修正・確認作業はユーザが納得するまで繰り返すことができる。
【0040】
<その他の実施例>
造形装置400が使用する造形方法は、素材を積層する方式に限られない。例えば、造形装置400は原材料を切削することによって造形を実現してもよい。また、造形の方向は鉛直方向である必要はない。例えば、切削加工によって造形を実現する場合、ユーザが規定する造形方向は、コンピュータ制御による切削工具の移動方向を規定する。要するに、造形方向とは、造形プロセスを規定する1以上のパラメータであればよい。例えば、造形装置によって制御される造形方向は2以上でもよい。例えば、素材の吐出口を走査して一層分の造形を完成させる積層型装置の場合、積層方向に加えて、走査の方向を造形方向として指定する。
【0041】
要するに、本発明のシステムは、端末装置とサーバ装置とを備え、端末装置は、造形対象の立体の形状の指定を受付ける受付部と、該指定をサーバ装置に送信する送信部と、造形装置によって立体を造形する際に用いられるサポート部材の位置を表す情報を、サーバ装置から取得する取得部と、前記立体とともに、前記サポート部材を該取得された情報に従った位置に表示する表示部とを有し、サーバ装置は、前記端末装置から、造形対象の立体の形状と当該立体の造形方向についての情報とを取得する取得部と、造形装置によって前記造形方向に従って前記立体を造形する際に用いられるサポート部材の位置を決定する決定部と、該決定された位置を前記端末装置に送信する送信部とを有していればよい。
【符号の説明】
【0042】
100・・・造形支援システム、400・・・造形装置、200・・・ユーザ端末、230・・・制御部、240・・・表示部、210・・・受付部、221・・・送信部、220・・・通信部、222・・・取得部、250・・・記憶部、300・・・サーバ、311・・・受付部、312・・・送信部、320・・・決定部、340・・・記憶部、900・・・通信網、980・・・サポート部材、990・・・対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9