(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836364
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】焼結軸受およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 5/00 20060101AFI20210222BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20210222BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20210222BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20210222BHJP
F16C 33/14 20060101ALI20210222BHJP
F16C 17/10 20060101ALI20210222BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20210222BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20210222BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20210222BHJP
【FI】
B22F5/00 C
F16C33/12 B
F16C33/10 A
F16C17/02 Z
F16C33/14 A
F16C17/10 A
B22F1/00 E
B22F1/00 L
B22F1/00 U
!C22C38/00 304
!C22C9/00
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-184290(P2016-184290)
(22)【出願日】2016年9月21日
(65)【公開番号】特開2018-48694(P2018-48694A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 容敬
(72)【発明者】
【氏名】竹田 大輔
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−137660(JP,A)
【文献】
特開2015−092097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/02,3/10,5/00,7/00
C22C 9/00,38/00
F16C 17/02,17/10,33/10,33/12,
33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉の表面に第一銅粉を付着させたFe−Cu部分拡散合金粉と、第二銅粉と、銅よりも低融点の低融点金属粉とを含む圧紛体を焼結させてなる焼結軸受において、
前記部分拡散合金粉の粒径が106μmを超えておらず、前記部分拡散合金粉の第一銅粉の最大粒径が10μm以下であることを特徴とする焼結軸受。
【請求項2】
前記第二銅粉が多孔質状に形成されている請求項1に記載の焼結軸受。
【請求項3】
軸受面を動圧発生溝のない円筒面状にした請求項1または2に記載の焼結軸受。
【請求項4】
鉄粉の表面に第一銅粉を部分拡散により付着させた部分拡散合金粉と、第二銅粉と、銅よりも低融点の低融点金属粉とを含む圧紛体を焼結させて焼結軸受を製造する際に、
部分拡散合金粉の粒径が106μmを超えておらず、前記部分拡散合金粉の第一銅粉の最大粒径が10μm以下であることを特徴とする焼結軸受の製造方法。
【請求項5】
前記第二銅粉として、多孔質銅粉を使用する請求項4に記載の焼結軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結軸受およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型モータ用の軸受、例えばノート型パソコン等に装備されるファンモータ用の軸受としては、焼結金属製の軸受部材の内周面にヘリングボーン形状等に配列した複数の動圧発生溝を形成した流体動圧軸受を使用する場合が多い(特許文献1)。このように動圧発生溝を形成することで、軸の回転中は、動圧発生溝によって潤滑油が軸受面の軸方向一部領域に集められて動圧効果を生じ、この動圧効果によって回転する軸が軸受部材に対して非接触に支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−50648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受部材の内周面の動圧発生溝は、例えば焼結体をサイジングする際に、コアピンの外周面に動圧発生溝の形状に対応した複数の凸部を形成し、サイジングに伴う加圧力で、焼結体の内周面をコアピンの外周面の凸部に食いつかせることで形成することができる。しかしながら、かかる工程では、動圧発生溝が焼結材料の塑性変形で形成されるため、塑性変形量のばらつきから、その精度確保には限界がある。
【0005】
その一方で、軸受面の粗大気孔を少なくすれば、油膜形成率が向上するため、動圧発生溝を省略しても十分な油膜剛性が得られると考えられる。そのため、動圧発生溝を有する流体動圧軸受を、そのような動圧発生溝を有しない、いわゆる真円軸受に置き換えることが可能となり、軸受装置の低コスト化を達成できると考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、軸受面の粗大気孔を少なくし、表面開孔と内部気孔を微細化しかつ均質化した焼結軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、本発明は、鉄粉の表面に第一銅粉を部分拡散により付着させた部分拡散合金粉と、第二銅粉と、銅よりも低融点の低融点金属粉とを含む圧紛体を焼結させてなる焼結軸受において、部分拡散合金粉の最大粒径が106μmであり、前記部分拡散合金粉の第一銅粉の最大粒径が10μm以下であることを特徴とするものである。
【0008】
本発明では、部分拡散合金粉および銅粉(第一銅粉)の最大粒径を制限しており、しかも当該銅粉の最大粒径を10μm以下として銅粉を小粒径化している。従って、部分拡散合金粉の粒径を揃えることができ、これにより焼結後に粗大気孔を生じ難くすることができる。その一方で、原料粉の粒径が小さくなりすぎることはなく、圧紛体を成形する際の原料粉の流動性も良好なものとなる。
【0009】
第二銅粉を不規則形状で多孔質状にすれば、焼結後の焼結体を圧紛体よりも収縮させることができる。従って、焼結組織を緻密化して、粗大気孔の発生をさらに抑制することが可能となる。
【0010】
本発明によれば、軸受面を動圧発生溝のない円筒面状にした場合でも、十分な油膜剛性を確保し、高い油膜形成率を得ることが可能となる。従って、動圧発生溝を省略することが可能となり、そのような動圧発生溝を有する流体動圧軸受を使用する場合に比べて、軸受装置の低コスト化を図ることができる。
【0011】
また、本発明は、鉄粉の表面に第一銅粉を部分拡散により付着させた部分拡散合金粉と、第二銅粉と、銅よりも低融点の低融点金属粉とを含む圧紛体を焼結させて焼結軸受を製造する際に、部分拡散合金粉の最大粒径を106μmとし、前記部分拡散合金粉の第一銅粉の最大粒径が10μm以下にすることを特徴とする。この場合、第二銅粉として、不規則形状の多孔質銅粉を使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、軸受面における粗大気孔を少なくして表面開孔を微細化しかつ均質化することができる。これにより、軸受面での圧力逃げが生じ難くなるため、高い油膜形成率を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】部分拡散合金粉の形態を模式的に示す図である。
【
図4】多孔質銅粉の顕微鏡写真を二値化処理した図である。
【
図5】本発明における焼結組織を模式的に示す図である。
【
図6】部分拡散合金粉の他例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に、情報機器、特に携帯電話やタブレット型端末等のモバイル機器に組み込まれる冷却用のファンモータを示す。このファンモータは、軸受装置1と、軸受装置1の軸部材2に装着されたロータ3と、ロータ3の外径端に取付けられた羽根4と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル6aおよびロータマグネット6bと、これらを収容するケーシング5とを備える。ステータコイル6aは、軸受装置1の外周に取付けられ、ロータマグネット6bはロータ3の内周に取付けられる。ステータコイル6aに通電することにより、ロータ3、羽根4、及び軸部材2が一体に回転し、これにより軸方向あるいは外径方向の気流が発生する。
【0016】
図2に示すように、軸受装置1は、軸部材2と、ハウジング7と、焼結軸受8と、シール部材9と、スラスト受け10とを備える。
【0017】
軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で円柱状に形成されており、円筒状をなす焼結軸受8の内周面に挿入される。軸部材2は、軸受面となる焼結軸受8の内周面8aでラジアル方向に回転自在に支持される。軸部材2の下端はハウジング7の底部7bに配置されたスラスト受け10と接触しており、軸部材の回転時には、スラスト受け10によって軸部材2がスラスト方向に支持される。ハウジング7は、略円筒状の側部7aと、側部7aの下方の開口部を閉塞する底部7bとを有する。側部7aの外周面にケーシング5及びステータコイル6aが固定され、側部7aの内周面に軸受部材8が固定される。シール部材9は樹脂あるいは金属で環状に形成され、ハウジングの側部の内周面の上端部に固定されている。シール部材9の下側の端面が軸受部材8の上側端面と軸方向で当接している。シール部材9の内周面は軸部材2の外周面と半径方向で対向し、両者の間にはシール空間Sが形成されている。かかる軸受装置1では、少なくとも軸受部材8の内周面と軸部材2の外周面とで形成されるラジアル隙間が潤滑油で満たされる。この他、ハウジング7の内部空間を全て潤滑油で満たしてもよい(この場合、シール空間Sに油面が形成される)。
【0018】
軸受部材8は、主成分として鉄と銅を含む鉄銅系の焼結体で形成される。この焼結体は、各種粉末を混合した原料粉を金型に供給し、これを圧縮して圧紛体を成形した後、圧紛体を焼結することで製作される。本実施形態で使用する原料粉は、部分拡散合金粉と単体銅粉を主原料とし、これに低融点金属、および固体潤滑剤を配合した混合粉末である。以下、上記の各粉末について詳細に述べる。
【0019】
[部分拡散合金粉]
図3に示すように、部分拡散合金粉11としては、核となる鉄粉12の表面に、当該鉄粉より粒径の小さい銅粉13(第一銅粉)を部分拡散により付着させたFe−Cu部分拡散合金粉が使用される。この部分拡散合金粉11の拡散部分はFe−Cu合金を形成しており、この合金部分は鉄原子12aと銅原子13aとが相互に結合し、配列した結晶構造を有する。
【0020】
部分拡散合金粉11の鉄粉12としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉等を使用することができるが、本実施形態では還元鉄粉を使用する。還元鉄粉は、不規則形状で、かつ内部気孔を有する海綿状(多孔質状)をなす。還元鉄粉を使用することで、アトマイズ鉄粉を使用する場合に比べ、圧縮性を向上させて成形性を高めることができる。また、焼結後の鉄組織が多孔質状となるため、鉄組織中にも潤滑油を保有できるようになり、焼結体の保油性を向上できる利点も得られる。さらに鉄粉に対する銅粉の付着性が向上するため、銅濃度が均一な部分拡散合金粉を得ることができる。
【0021】
また、部分拡散合金粉11の核となる鉄粉12としては、粒度145メッシュ以下の粉末が使用される。ここで「粒度145メッシュ」とは、目開きが145メッシュ(約106μm)の篩を通過させた粉末を意味する。従って、この場合の鉄粉の最大粒径は、106μmとなる。「粒度145メッシュ以下」は粉末の粒度が145メッシュ以下であること、つまり粉末の最大粒径が106μm以下であることを意味する。なお、鉄粉12の粒度は、230メッシュ(目開き63μm、最大粒径63μm)以下とするのがより好ましい。粉末の粒径は、例えばレーザー回析・散乱法で測定することができる(以下、同じ)。
【0022】
また、部分拡散合金粉11の銅粉13(第一銅粉)としては、電解銅粉およびアトマイズ銅粉の双方が使用可能であるが、電解銅粉を使用するのがより好ましい。電解銅粉は一般に樹枝状であることから、銅粉13として電解銅粉を使用することで、焼結時に焼結が進みやすくなる利点が得られる。また、部分拡散合金粉11の銅粉13の最大粒径は10μm以下とする。なお、部分拡散合金粉11におけるCu粉の割合は、10〜30質量%(好ましくは15質量%〜25質量%)とする。
【0023】
以上に説明した部分拡散合金粉11としては、粒度145メッシュ以下(最大粒径106μm)のものが使用される。
【0024】
[単体銅粉]
単体銅粉(第二銅粉)としては、
図4に示すように、表面および内部の双方が多孔質となった銅粉(
図4の白地中で黒く現れた部分が空孔を示す)が使用される。この多孔質の銅粉は、銅粉を焼鈍させることで得ることができる。単体銅粉の粒径は部分拡散合金粉における鉄粉12と同程度であり、具体的には、粒度145メッシュ以下(最大粒径106μm以下)、より好ましくは230メッシュ以下(最大粒径63μm以下)である。
【0025】
単体銅粉として、以上に述べた多孔質銅粉と、アスペクト比が例えば13以上となるように扁平化させた箔状銅粉とを使用することもできる。箔状銅粉は圧紛体の成形時に表面に現れやすいため、軸受面を含む焼結体の表面を容易に銅膜で形成することができる。
【0026】
[低融点金属粉]
低融点金属粉は焼結時のバインダーとして添加される。低融点金属粉としては、融点が銅よりも低い金属粉、特に融点が700℃以下の金属粉、例えば錫、亜鉛、リン等の粉末が使用される。本実施形態では、これらの中でも銅と鉄に拡散し易く、単粉で使用することが容易な錫粉、特にアトマイズ錫粉を使用する。低融点金属粉は焼結時に液相となって移動し、元の場所に空孔を形成する。従って、空孔を微細化するためにも低融点金属粉としては粒度が小さいもの、例えば粒度が250メッシュ以下(最大粒径63μm以下)、好ましくは350メッシュ以下(最大粒径45μm以下)のものを使用するのが好ましい。
【0027】
なお、銅と低融点金属を合金化させた合金化銅粉(例えば青銅粉)を使用することもできる。
【0028】
[固体潤滑剤]
固体潤滑剤としては、黒鉛、二硫化モリブデン等の粉末を一種又は二種以上使用することができる。本実施形態では、コストを考えて黒鉛粉、特に鱗片状黒鉛粉を使用する。固体潤滑剤粉は軸受面8aに露出することで、軸部材2との摺動を潤滑する役割を果たす。
【0029】
以上に述べた原料粉の組成は、単体銅粉が10質量%以上50質量%以下(好ましくは20質量%以上30質量%以下)、低融点金属粉が1質量%〜4質量%、炭素が0.1〜1.5質量%であり、残りが部分拡散合金粉となる。原料粉には、必要に応じて各種成形助剤(例えば成形用潤滑剤)を添加してもよい。本実施形態では、上記の原料粉100%に対して、成形用潤滑剤が0.1〜1.0質量%配合される。成形用潤滑剤として、例えば金属セッケン(ステアリン酸カルシウム等)やワックスを使用できる。但し、これらの成形用潤滑剤は、焼結により分解・消失して粗大気孔の要因となるため、成形用潤滑剤の使用量はなるべく抑えることが好ましい。
【0030】
上記の原料粉を金型の内部に充填し、圧縮することで圧紛体が成形される。その後、圧紛体を焼結することで、焼結体が得られる。焼結温度は、低融点金属の融点以上で、かつ銅の融点以下の温度とされ、具体的には760℃〜900℃程度とする。圧紛体を焼結することにより、圧紛体中の錫粉が液相となって部分拡散合金粉の表面の銅粉(第一銅粉)や単体銅粉(第二銅粉)の表面を濡らすため、銅粒子同士や銅粒子と鉄粒子間の焼結が促進される。
【0031】
この焼結体は、例えば密度6.0〜7.4g/cm
3(好ましくは6.9〜7.3g/cm
3)、内部空孔率が4〜20%、好ましくは4〜12%(より好ましくは5〜11%)とされる。また、焼結体における各元素の含有量は、銅が30質量%〜60質量%、低融点金属が1質量%〜4質量%、炭素が0.1〜1.5質量%であり、残りが鉄となる。
【0032】
この焼結体をサイジングにより整形することにより、軸受面の真円度を1μm以下まで高めることができる。その後、真空含浸等の手法で焼結体の内部空孔に潤滑油を含浸させることで、
図2に示す焼結軸受8(焼結含油軸受)が完成する。潤滑油は、例えば40℃における動粘度が10〜200mm
2/sec、好ましくは10〜60mm
2/secであり、かつ粘度指数が100〜250であるものが使用される。
【0033】
この焼結体の焼結組織は、
図5に示すように、部分拡散合金粉11の鉄粉12に由来するFe組織12’(散点模様で示す)の周囲に、部分拡散合金粉11の銅粉13に由来するCu組織13’(濃いグレーで示す)と、単体銅粉に由来する銅組織14’(淡いグレーで示す)とが混在した形態をなす。これにより多くの鉄組織12’が銅組織13’,14’で被覆された形態となるため、軸受面における鉄組織12’の露出量を少なくすることができ、これにより焼結軸受8の初期なじみ性を向上させることができる。このように鉄組織の周囲を銅組織で覆った焼結組織は、鉄粉を銅めっきした銅被覆鉄粉を使用することでも得ることができるが、銅被覆鉄粉を使用した場合には、本発明で使用するFe−Cu部分拡散合金粉に比べて、焼結後の銅組織と鉄組織間のネック強度が低下するため、焼結軸受の圧環強度が大幅に低下する。
【0034】
Fe−Cu部分拡散合金粉の製造過程において、鉄粉12および銅粉13の最大粒径を上記のように制限していない場合、たとえこれら鉄粉12や銅粉13の平均粒径が上記最大粒径と近い値であったとしても、粒径の大きい鉄粉や銅粉も混入した状態で部分拡散合金粉が製造されることになる。そのため、
図6に模式的に示すように、粒径の大きい鉄粉と銅粉が一体化された粒子(粗大粒子)が相当量形成される。このような粗大粒子が集合した状態で焼結されれば、粒子間の隙間が大きくなるため、焼結後に粗大気孔を生じることになる。
【0035】
これに対し、本発明では、銅粉13、さらに部分拡散合金粉の最大粒径を制限しており、しかも銅粉13の最大粒径が部分拡散合金粉12の最大粒径よりもかなり小さい。従って、部分拡散合金粉の粒度分布がシャープな形となる(部分拡散合金の粒径が揃った状態となる)。その一方で、原料粉の粒径が小さくなりすぎることはなく、粉末の状態での流動性も良好なものとなる。そのため、焼結後に粗大気孔を生じ難くなり、焼結組織中の空孔を微細化かつ均質化することができる。
【0036】
加えて、本発明では単体銅粉として多孔質銅粉を使用している。本発明者らの検証によれば、多孔質の銅粉(多孔質のCu−Sn合金粉も含む)を使用することで、焼結後の焼結体は圧紛体よりも収縮することが明らかになった。具体的には圧紛体に対する焼結体の寸法変化率が、内径寸法および外径寸法とも0.995〜0.999程度となった。これは、多孔質の銅粉が焼結時に周辺の銅粒子(部分拡散合金粉の銅粉および他の多孔質銅粉)を引き付ける作用を奏するためと考えられる。これに対し、多孔質ではない銅粉を使用した既存の銅鉄系焼結体では、焼結時には圧紛体の状態よりも膨張するのが通例である。このように焼結時に焼結体が収縮することで、焼結組織が緻密化されるため、粗大気孔の発生をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0037】
これらの作用を通じて、各表面気孔の面積を0.005mm
2以下とした焼結体を得ることができ、粗大気孔の発生を防止することが可能となる。因みに、軸受面の表面開孔率は、面積比で4%以上15%以下となる。また、焼結体における通油度は0.05〜0.025g/10分となる。ここでいう「通油度」は、多孔質のワークが、その多孔質組織を介してどの程度潤滑油を流通させることができるのかを定量的に示すためのパラメータ[単位:g/10min]である。通油度は、室温(26〜27℃)環境下で円筒状試験体の内周孔を0.4MPaの加圧力を負荷しながら潤滑油で満たし、試験体の外径面に開口した表面開孔から滲み出して滴下した油を採取することで求めることができる。
【0038】
このように本発明によれば、軸受面に生じる粗大気孔をなくし(表面気孔の最大面積が0.005mm
2)、表面開孔の大きさを均一化することができる。これにより軸受面8aでの圧力逃げを抑制して油膜形成率を高めることができるため、低速回転および高速回転を問わず、高い油膜剛性を確保して軸を安定的に支持することが可能となる。そのため、動圧発生溝を有しない真円軸受の形態であっても、動圧発生溝付きの焼結軸受と同等の軸受性能を得ることができ、動圧発生溝付き焼結軸受の代替え品として用いることが可能となる。特に動圧溝付きの焼結軸受では、周速5m/min以下の領域では、動圧効果が十分得られないために使用が困難となるが、本発明の焼結軸受であれば、周速5m/min以下の低速領域でも安定して軸を支持できるメリットが得られる。
【0039】
また、
図6に示す粗大粒子では、銅粉の体積に比べて拡散接合部の面積が小さくなるため、両者の接合強度が低下する。そのため、部分拡散合金粉を篩掛けした際には、その衝撃で銅粒子が鉄粒子から脱落し易くなる。この場合、原料粉中には小粒径の単体銅粉が多数混入した状態となるため、原料粉の流動性が低下し、銅の偏析を招く要因となる。これに対し、本願発明では、部分拡散合金粉の製造に使用する銅粉13の最大粒径を制限しているため、部分拡散合金粉は総じて
図3に示すように形態を有する。この場合、銅粉13の体積に比べて拡散接合部の面積が相対的に大きくなるため、鉄粉12と銅粉13の接合強度が高まる。従って、篩掛けを行った際にも銅粉が脱落し難くなり、上記の弊害を防止することができる。
【実施例】
【0040】
図7に本発明品と比較品の油膜形成率の測定結果を示す。なお、比較品としては、100メッシュ以下の鉄粉を核とする銅被覆鉄粉を用いた焼結軸受を用いている。
【0041】
油膜形成率は、
図8に示す回路を使用し、サンプルとして軸と焼結軸受を組み合わせたものをセットした上で電圧を測定することにより求めている。検出電圧が0[V]であれば油膜形成率は0%であり、検出電圧が電源電圧と等しければ油膜形成率は100%である。油膜形成率100%は軸と焼結軸受が非接触状態にあることを意味し、油膜形成率0%は軸と焼結軸受が接触したことを意味する。
図7の横軸は、時間を表す。測定条件として、軸の回転数は2000min
-1、軸のスラスト荷重は0.2Nに設定している。
【0042】
図7からも明らかなように、比較品は軸と焼結軸受が頻繁に接触していると考えられるのに対し、本発明品はほぼ非接触状態が維持されている。従って、比較品と比べ、本発明品の方がより良好な油膜形成率を得られることが確認された。
【0043】
以上、本発明に係る焼結軸受の使用例としてファンモータを例示したが、本発明にかかる焼結軸受の適用対象はこれに限定されず、種々の用途に使用することができる。
【0044】
また、焼結軸受8の軸受面8aの内周面に動圧発生溝を形成しない場合を説明したが、必要に応じて軸受面8aに複数の動圧発生溝を形成することができる。動圧発生溝は軸2の外周面に形成することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 軸受装置
2 軸部材
8 焼結軸受
8a 内周面(軸受面)
11 部分拡散合金粉
12 鉄粉
13 銅粉