(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
〔ポリエチレン樹脂組成物〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、
下記のエチレン系重合体Aを75〜98質量部及びBを25〜2質量部含む、ポリエチレン樹脂組成物である。
(エチレン系重合体A)
エチレン単独重合体、及び/又はエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体を含み、下記(1)〜(2)を満たすエチレン系重合体;
(1)MFR2.16が0.04g/10分以上0.15g/10分未満である。
(2)分子量分布が15以上40未満である。
(エチレン系重合体B)
エチレン系重合体、及び/又はエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体を含み、エチレン重合体AのMFR2.16に対するMFR2.16の比が300以上600未満である、エチレン系重合体。
【0014】
〔エチレン系重合体A〕
本実施形態におけるエチレン系重合体Aは、それ自体が単独でパイプ及び継手用材料として用いることができるものが好ましい。
【0015】
本実施形態におけるエチレン系重合体は、エチレン単独重合体、及び/又はエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体を含む。
本実施形態における炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、特に限定されないが、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−イコセン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5−メチル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン及びシクロヘキサジエン等が挙げられる。
【0016】
本実施形態におけるエチレン系重合体AのMFR2.16は、機械特性や成形加工性、耐衝撃性等の観点から、0.04g/10分以上0.15g/10分未満であり、好ましくは0.04g/10分以上0.12g/10分未満であり、より好ましくは0.04g/10分以上0.10g/10分未満である。
なお、エチレン系重合体AのMFR2.16は、重合時の温度や添加する水素の量等によって制御することができる。また、上記MFR2.16は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
〔分子量分布〕
本実施形態におけるエチレン系重合体Aの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)であり、成形加工性や外観、耐衝撃性等の観点から、15以上40未満であり、好ましくは20以上40未満であり、より好ましくは25以上36未満である。
なお、エチレン系重合体Aの分子量分布は、製造時に用いる触媒や重合温度や添加する水素の量等によって制御できる。また、上記分子量分布は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0018】
本実施形態におけるエチレン系重合体Aの密度(JIS K7112−1999)は、940〜970kg/m
3であることが好ましく、945〜960kg/m
3であることがより好ましく、945〜955kg/m
3であることがさらに好ましい。密度が940kg/m
3以上であることにより、成型した管の剛性が十分なものとなる傾向にある。また、970kg/m
3以下であることにより、高温加速条件下でのESCRや伸び特性が低下することがなく、長期間使用によるクラックの発生、低速亀裂破壊等の脆性的な破壊がより抑制される傾向にある。
エチレン系重合体Aの密度は、製造時に用いる触媒や重合温度や添加するα−オレフィンの量等によって制御できる。また、上記密度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
本実施形態におけるエチレン系重合体Aの重量平均分子量は、200,000〜500,000であることが好ましく、200,000〜450,000であることがより好ましく、250,000〜400,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が200,000以上であることにより、成形加工性は良好であり、かつ、FNTFTの長期特性が良く、また耐衝撃性にも優れる傾向にある。また、重量平均分子量が500,000以下であることにより、機械特性が充分で、かつ成形加工性が良好となる傾向にある。
エチレン系重合体Aの重量平均分子量は、製造時に用いる触媒や重合温度や添加する水素の量等によって制御できる。また、上記重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0020】
エチレン系重合体Aは、二段重合により得られるものであることが好ましい。二段重合により調製し、(1)MFR2.16が0.04g/10分以上0.15g/10分未満で、(2)分子量分布が15以上40未満であることが好ましい。エチレン系重合体AのMFR2.16は、製造時に用いる触媒や重合温度や添加する水素の量等によって制御できる。また、エチレン系重合体Aの分子量分布は、製造時に用いる触媒や重合温度や重合槽の滞留時間等によって制御できる。
二段重合は具体的には、2つの重合槽によって行われ、一段目の重合槽には、モノマーとしてエチレンのみを供給し、二段目にはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンを供給して重合することが好ましい。
また、一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなるポリエチレン樹脂成分の生産量の割合を30〜60wt%とし、二段目の重合槽で得られる共重合体からなるポリエチレン樹脂成分の生産量の割合を70〜40wt%とすることが好ましく、
一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなるポリエチレン樹脂成分の生産量の割合を40〜60wt%とし、二段目の重合槽で得られる共重合体からなるポリエチレン樹脂成分の生産量の割合を60〜40wt%とすることがより好ましく、
一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなるポリエチレン樹脂成分の生産量の割合を50〜60wt%とし、二段目の重合槽で得られる共重合体からなるポリエチレン樹脂成分の生産量の割合を50〜40wt%とすることがさらに好ましい。
【0021】
〔エチレン系重合体B〕
上述のとおり、前記エチレン系重合体Aは、それ自体が単独でパイプ及び継手用材料として用いることができるものであることが好ましく、本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、より長寿命のパイプ及び継手用材料とするために、エチレン系重合体Bを含む。
エチレン系重合体Bはエチレン系重合体、及び/又はエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体を含むものであり、エチレン系重合体Bにおける、エチレン系重合体、及びエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体の定義は、エチレン系重合体Aにおけるエチレン系重合体及びエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体における定義と同様である。
【0022】
エチレン系重合体Bは、一段のみでの重合によっても、二段重合によっても得ることができる。
一段のみでの重合を行う場合、具体的には、重合槽にエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを供給して重合することが好ましい。エチレン系重合体BのMFR2.16は、製造時に用いる触媒や重合温度や添加する水素の量等によって制御できる。
【0023】
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、エチレン系重合体AのMFR2.16とエチレン系重合体BのMFR2.16との比が重要である。エチレン系重合体BのMFR2.16の、エチレン系重合体AのMFR2.16に対する比(エチレン系重合体BのMFR2.16/エチレン系重合体AのMFR2.16)は、300以上600未満であり、好ましくは400以上550未満であり、より好ましくは450以上550未満である。MFR2.16の比が上記範囲にあることで、成形体の強度が向上する。MFR2.16の比が上記範囲にあることで成形体の強度が向上する理由は確かではないが、成形機にてエチレン系重合体A及びBを混練する過程において、エチレン系重合体A及びBが相互に延伸され配向しているものと推定される。エチレン系重合体A及びBが相溶しても、分離しても、成形体の強度が向上する傾向はみられず、特にエチレン系重合体A及びBが分離した条件では成形品の表面肌荒れを起こしやすい。エチレン系重合体AのMFR2.16とエチレン系重合体BのMFR2.16との比は、選択するエチレン系重合体AのMFR2.16及びエチレン系重合体BのMFR2.16によって決まる。
【0024】
本実施形態におけるエチレン系重合体BのMFR2.16は、上記のMFR2.16比を満たす範囲であれば特に制限されず、10〜100g/10分であることが好ましく、20〜50g/10分であることがより好ましく、24〜45g/10分であることがさらに好ましい。
なお、エチレン系重合体BのMFR2.16は、重合時の温度や添加する水素の量等によって制御することができる。また、上記MFR2.16は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
本実施形態におけるエチレン系重合体Bの密度は、950〜970kg/m
3であることが好ましく、955〜965kg/m
3であることがより好ましく、955〜963kg/m
3であることがさらに好ましい。密度が950kg/m
3以上であることにより、熱間内圧クリープ特性における長期側の突然の脆性破壊が起こりにくくなり、長期特性が十分なものとなる傾向にある。
エチレン系重合体Bの密度は、製造時に用いる触媒や重合温度や添加するα−オレフィンの量等によって制御できる。また、上記密度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0026】
本実施形態におけるエチレン系重合体Bの重量平均分子量は、20,000〜100,000であることが好ましく、30,000〜50,000であることがより好ましく、35,000〜45,000であることがさらに好ましい。エチレン系重合体Bの重量平均分子量が20,000以上であることにより、べたつきや長期特性の低下がなく、またエチレン系重合体Aとの分散性に優れる傾向にある。また、エチレン系重合体Bの重量平均分子量が100,000以下であることにより、成形性が良好となる傾向にある。
エチレン系重合体Bの重量平均分子量は、製造時に用いる触媒や重合温度や添加する水素の量等によって制御できる。また、上記重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
〔エチレン系重合体の混合比〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、エチレン系重合体A及びエチレン系重合体Bを含み、エチレン系重合体Aは、75〜98質量部であり、85〜98質量部であることが好ましく、90〜98質量部であることがより好ましい。また、エチレン系重合体Bは、25〜2質量部であり、15〜2質量部であることが好ましく、10〜2質量部であることがより好ましい。エチレン系重合体Aの割合を98質量部以下とし、エチレン系重合体Bの割合を2質量部以上とすることで、パイプとしたときの表面性により優れ、特に給水、給湯用パイプとして用いる場合には成形時の表面肌荒れや凹凸が抑制された高品質なものとなる。また、エチレン系重合体Aの割合を75質量部以上とし、エチレン系重合体Bの割合を25質量部以下とすることで、高分子量成分が十分なものとなり、熱間内圧クリープの長期側の寿命、及び伸び特性や耐衝撃性が十分なものとなる傾向にある。
【0028】
(エチレン系重合体の製造方法)
本実施形態におけるエチレン系重合体A及びBは、チーグラー触媒、フィリップス型触媒、及び担持型幾何拘束型シングルサイト触媒からなる群より選択される1種以上を用いて、ベッセル型のスラリー重合法により製造することができる。このなかでも、チーグラー触媒及び/又は担持型幾何拘束型シングルサイト触媒を用いることが好ましい。
【0029】
上記チーグラー触媒とは、塩化チタン化合物とアルキルアルミニウム化合物とを必須成分とするオレフィン重合用触媒のことである(例えば、理化学辞典第5版(岩波書店)のP.836参照)。上記チーグラー触媒の製造方法は、特に限定されないが、下記の製造方法により製造されることが好ましい。
本実施形態におけるエチレン系重合体A及びBは、固体触媒成分[A]及び有機アルミニウム化合物[B]を含むチーグラー触媒により製造されたものであることが好ましい。
【0030】
ここで、固体触媒成分[A]は、下記式(1)で示される炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物(i)1molと、下記式(2)で示されるクロロシラン化合物(ii)0.01〜100molとを反応させて固体(A−1a)を得て、該固体(A−1a)中に含まれるC−Mg結合1molに対して、アルコール(A−2)を0.01〜1mol反応させて固体(A−1b)を得て、さらに該固体(A−1b)に、下記式(3)で示される有機金属化合物(A−3)を反応させて固体(A−1c)を得て、さらに該固体(A−1c)に、必要に応じて下記式(5)で示される有機金属化合物、及びチタン化合物(A−4)を担持することにより製造されるオレフィン重合用チーグラー触媒であることが好ましい。チタン化合物としては、特に限定されないが、具体的には、下記式(4)で表されるチタン化合物(A−4)が好ましい。
【0031】
(Al)
a(Mg)
b(R
1)
c(R
2)
d(OR
3)
e ・・・・・(1)
【0032】
(式(1)中、R
1、R
2及びR
3は炭素数2〜20の炭化水素基であり、a、b、c、d及びeは次の関係を満たす数である。0≦a、0<b、0≦c、0≦d、0≦e、0<c+d、0≦e/(a+b)≦2、3a+2b=c+d+e)
【0033】
H
hSiCl
iR
4(4-(h+i)) ・・・・・(2)
【0034】
(式(2)中、R
4は炭素数1〜20の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす数である。0<h、0<i、h+i≦4)
【0035】
AlR
5sQ
3-s ・・・・・(3)
【0036】
(式(3)中、R
5は炭素数1〜20の炭化水素基であり、QはOR
6,OSiR
7R
8R
9,NR
10R
11,SR
12及びハロゲンからなる群より選ばれた基を表し、R
6,R
7,R
8,R
9,R
10,R
11,R
12は水素原子又は炭化水素基であり、sは次の関係を満たす数である。0<s<3)
【0037】
Ti(OR
5)
jX
(4-j) ・・・・・(4)
【0038】
(式(4)中、jは0〜4の実数であり、R
5は炭素数1〜20の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【0039】
まず、有機マグネシウム化合物(i)について説明する。有機マグネシウム化合物(i)は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体のすべてを包含するものである。式(1)の記号a、b、c、d及びeは関係式3a+2b=c+d+eを満たし、これは金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
【0040】
上記式(1)中、R
1、R
2で表される炭素数2〜20の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、それぞれアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、プロピル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも、R
1及びR
2は、それぞれアルキル基であることが好ましい。
【0041】
アルミニウムに対するマグネシウムの比b/aは、特に限定されないが、0.1〜30であることが好ましく、0.5〜10であることがより好ましい。また、a=0である場合には、例えば、R
1が1−メチルプロピル等であることが好ましく、これにより有機マグネシウム化合物(i)は不活性炭化水素溶媒に対する可溶性により優れる傾向にある。また、式(1)において、a=0の場合には、R
1、R
2は次に示す3つの群(1)、群(2)、群(3)のいずれか一つを満たすことが好ましい。
【0042】
群(1) R
1、R
2の少なくとも一方が炭素数4〜6である二級又は三級のアルキル基であることが好ましく、R
1、R
2がともに炭素数4〜6であり、少なくとも一方が二級又は三級のアルキル基であることがより好ましい。
群(2) R
1とR
2とが炭素数の互いに相異なるアルキル基であることが好ましく、R
1が炭素数2又は3のアルキル基であり、R
2が炭素数4以上のアルキル基であることがより好ましい。
群(3) R
1、R
2の少なくとも一方が炭素数6以上の炭化水素基であることが好ましく、R
1、R
2に含まれる炭素数の和が12以上になるアルキル基であることがより好ましい。
【0043】
以下、これらの基を具体的に示す。群(1)における炭素数4〜6である二級又は三級のアルキル基としては、具体的には、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、2−メチルブチル、2−エチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2−メチル−2−エチルプロピル基等が挙げられる。このなかでも、1−メチルプロピル基が好ましい。
次に、群(2)における炭素数2又は3のアルキル基としては、具体的には、エチル、1−メチルエチル、プロピル基等が挙げられ、エチル基が好ましい。また、炭素数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、具体的には、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、ヘキシル基が好ましい。
【0044】
群(3)における炭素数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2−ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基が特に好ましい。
【0045】
一般に、アルキル基に含まれる炭素数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあるが、溶液の粘度が高くなるために適宜必要に応じた鎖長のアルキル基を用いることが好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物(i)は不活性炭化水素溶液の状態で使用されるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有され、あるいは残存していても差し支えなく使用できる。なお、上記不活性炭化水素溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;及びシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0046】
次にアルコキシ基(OR
3)について説明する。R
3で表される炭素数2以上〜20以下の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、炭素数2〜20のアルキル基又はアリール基が好ましく、3〜10のアルキル基又はアリール基がより好ましい。炭素数2〜20のアルキル基又はアリール基としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2−エチルペンチル、2−エチルヘキシル、2−エチル−4−メチルペンチル、2−プロピルヘプチル、2−エチル−5−メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルペンチル及び2−エチルヘキシル基がより好ましい。
【0047】
前記有機マグネシウム化合物(i)の合成方法には特に制限はないが、式R
1MgX及びR
12Mg(R
1は前記と同様の基であり、Xはハロゲン原子である。)からなる群より選ばれる有機マグネシウム化合物と、式AlR
23及びAlR
22H(R
2は前記と同様の基である。)からなる群より選ばれる有機金属化合物とを不活性炭化水素溶媒中、25℃〜150℃の温度で反応させることにより得ることができる。また、必要な場合には、この反応に続いてR
3(R
3は前記と同様の基である。)で表される炭化水素基を有するアルコール、不活性炭化水素溶媒に可溶なR
3で表される炭化水素基を有するアルコキシマグネシウム化合物、及び/又はアルコキシアルミニウム化合物と反応させる方法が好ましい。
【0048】
このうち、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとを反応させる場合、反応の順序については特に制限はなく、有機マグネシウム化合物中にアルコールを加えていく方法、アルコール中に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、又は両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとの反応比率については特に限定されないが、反応の結果、得られるアルコキシ基含有有機マグネシウム化合物における、全金属原子に対するアルコキシ基のモル組成比e/(a+b)は0≦e/(a+b)≦2であり、0≦e/(a+b)<1であることが好ましい。
【0049】
次に、クロロシラン化合物(ii)について説明する。クロロシラン化合物(ii)は式(2)で表される、少なくとも一つのSi−H結合を有する塩化ケイ素化合物である。
H
hSiCl
iR
4(4-(h+i)) ・・・・・式(2)
(式(2)中、R
4は炭素数1〜20の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす数である。0<h、0<i、h+i≦4)
【0050】
式(2)においてR
4で表される炭素数1〜20の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。この中でも炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル基等の炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。また、h及びiはh+i≦4の関係を満たす0より大きな数であり、iが2〜3であることが好ましい。
【0051】
このようなクロロシラン化合物(ii)としては、特に限定されないが、具体的には、HSiCl
3、HSiCl
2CH
3、HSiCl
2C
2H
5、HSiCl
2(C
3H
7)、HSiCl
2(2−C
3H
7)、HSiCl
2(C
4H
9)、HSiCl
2(C
6H
5)、HSiCl
2(4−Cl−C
6H
4)、HSiCl
2(CH=CH
2)、HSiCl
2(CH
2C
6H
5)、HSiCl
2(1−C
10H
7)、HSiCl
2(CH
2CH=CH
2)、H
2SiCl(CH
3)、H
2SiCl(C
2H
5)、HSiCl(CH
3)
2、HSiCl(C
2H
5)
2、HSiCl(CH
3)(2−C
3H
7)、HSiCl(CH
3)(C
6H
5)、HSiCl(C
6H
5)
2等が挙げられる。この中でも、HSiCl
3、HSiCl
2CH
3、HSiCl(CH
3)
2、HSiCl
2C
2H
5が好ましく、HSiCl
3、HSiCl
2CH
3がより好ましい。クロロシラン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
次に、有機マグネシウム化合物(i)とクロロシラン化合物(ii)との反応について説明する。反応に際してはクロロシラン化合物(ii)をあらかじめ不活性炭化水素溶媒;1,2−ジクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、ジクロロメタン等の塩素化炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系媒体;又はこれらの混合媒体を用いて希釈した後に利用することが好ましく、触媒の性能上、不活性炭化水素溶媒がより好ましい。有機マグネシウム化合物(i)とクロロシラン化合物(ii)との反応比率は特に限定されないが、有機マグネシウム化合物(i)に含まれるマグネシウム原子1molに対するクロロシラン化合物(ii)に含まれるケイ素原子が0.01mol〜100mol以下となることが好ましく、0.1mol〜10molとなることがより好ましい。
【0053】
有機マグネシウム化合物(i)とクロロシラン化合物(ii)との反応方法については特に制限はなく、有機マグネシウム化合物(i)とクロロシラン化合物(ii)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法、クロロシラン化合物(ii)を事前に反応器に仕込んだ後に有機マグネシウム化合物(i)を反応器に導入させる方法、及び有機マグネシウム化合物(i)を事前に反応器に仕込んだ後にクロロシラン化合物(ii)を反応器に導入させる方法のいずれの方法でもよいが、クロロシラン化合物(ii)を事前に反応器に仕込んだ後に有機マグネシウム化合物(i)を反応器に導入させる方法が好ましい。上記反応により得られる固体(A−1a)は、ろ過あるいはデカンテーション法により分離した後、不活性炭化水素溶媒を用いて充分に洗浄し、未反応物あるいは副生成物等を除去することが好ましい。
【0054】
有機マグネシウム化合物(i)とクロロシラン化合物(ii)との反応温度については特に制限はないが、25℃〜150℃であることが好ましく、40℃〜150℃であることがより好ましく、50℃〜150℃であることがさらに好ましい。有機マグネシウム化合物(i)とクロロシラン化合物(ii)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法においては、あらかじめ反応器の温度を所定温度に調節し、同時添加を行いながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度は所定温度に調節することが好ましい。クロロシラン化合物(ii)を事前に反応器に仕込んだ後に有機マグネシウム化合物(i)を反応器に導入させる方法においては、クロロシラン化合物(ii)を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、有機マグネシウム化合物(i)を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することが好ましい。有機マグネシウム化合物(i)を事前に反応器に仕込んだ後にクロロシラン化合物(ii)を反応器に導入させる方法においては、有機マグネシウム化合物(i)を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、クロロシラン化合物(ii)を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することができる。
【0055】
有機マグネシウム化合物(i)とクロロシラン化合物(ii)との反応を固体の存在下に行うこともできる。この固体は無機固体、有機固体のいずれでもよいが、無機固体を用いるほうが好ましい。無機固体として、下記のものが挙げられる。
(I) 無機酸化物
(II) 無機炭酸塩、珪酸塩、硫酸塩
(III)無機水酸化物
(IV) 無機ハロゲン化物
(V) (I)〜(IV)からなる複塩、固溶体、又は混合物
【0056】
無機固体の具体例としては、特に限定されないが、具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、水和アルミナ、マグネシア、トリア、チタニア、ジルコニア、リン酸カルシウム・硫酸バリウム、硫酸カルシウム、珪酸マグネシウム、マグネシウム・カルシウム、アルミニウムシリケート[(Mg・Ca)O・Al
2O
3・5SiO
2・nH
2O]、珪酸カリウム・アルミニウム[K
2O・3Al
2O
3・6SiO
2・2H
2O]、珪酸マグネシウム鉄[(Mg・Fe)2SiO
4]、珪酸アルミニウム[Al
2O
3・SiO
2]、炭酸カルシウム、塩化マグネシウム、よう化マグネシウム等が挙げられる。このなかでも、シリカ、シリカ・アルミナ、及び塩化マグネシウムが好ましい。無機固体の比表面積は、好ましくは20m
2/g以上であり、より好ましくは90m
2/g以上である。
【0057】
上記のようにして得られた固体(A−1a)を、さらにアルコール(A−2)と反応させて固体(A−1b)を得る。この際用いられるアルコール(A−2)としては、特に限定されないが、具体的には、炭素数1〜20の飽和又は不飽和のアルコールを例示することができ、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、iso−アミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、フェノール、クレゾール等を挙げることができる。このなかでも、C
3からC
8の直鎖アルコール、iso−ブチルアルコール、及びiso−アミルアルコールが好ましい。
【0058】
次にアルコール(A−2)の使用量は、固体(A−1a)中に含まれるC−Mg結合1mol当たり、好ましくは0.01〜1molであり、より好ましくは0.05〜0.5molであり、さらに好ましくは0.1〜0.25molの範囲である。固体(A−1a)とアルコール(A−2)との反応は、不活性媒体の存在下又は非存在下において行うことができる。不活性媒体としては前述の脂肪族、芳香族、及び脂環式炭化水素のいずれを用いてもよい。反応時の温度は特に限定されないが、好ましくは室温〜200℃で実施することができる。
【0059】
次に、固体(A−1a)とアルコール(A−2)との反応により得られた固体(A−1b)を、以下の式(3)で示される有機金属化合物(A−3)と反応させて、固体(A−1c)を得ることができる。
AlR
5sQ
3-s ・・・・・式(3)
(式(3)中、R
5は炭素数1〜20の炭化水素基であり、QはOR
6,OSiR
7R
8R
9,NR
10R
11,SR
12及びハロゲンからなる群より選ばれた基を表し、R
6,R
7,R
8,R
9,R
10,R
11,R
12は水素原子又は炭化水素基であり、sは次の関係を満たす数である。0<s<3)。
【0060】
当該有機金属化合物(A−3)としては、特に限定されないが、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリn−プロピルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリiso−ブチルアルミニウム、トリn−アミルアルミニウム、トリiso−アミルアルミニウム、トリn−ヘキシルアルミニウム、トリn−オクチルアルミニウム、トリn−デシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジiso−ブチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド等のハロゲン化アルミニウム;ジエチルアルミニウムエトキシド、ジiso−ブチルアルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム;ジメチルヒドロシロキシアルミニウムジメチル、エチルメチルヒドロシロキシアルミニウムジエチル、エチルジメチルシロキシアルミニウムジエチル等のシロキシアルキルアルミニウム;及びこれらの混合物等が挙げられる。このなかでも、ハロゲン化アルミニウムが好ましく、ジメチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジプロピルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリドがより好ましい。
【0061】
固体(A−1a)とアルコール(A−2)との反応により得られた固体(A−1b)と、有機金属化合物(A−3)との反応は、好ましくは不活性反応媒体を用いることができる。このような不活性反応媒体としては、特に限定されないが、具体的には、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。このなかでも、脂肪族炭化水素が好ましい。有機金属化合物(A−3)の使用量は、固体成分(A−1a)に含まれるC−Mg結合1mol当たり、0.5mol以下が好ましく、0.1mol以下がより好ましい。反応温度については、特に限定されないが、室温〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0062】
次にチタン化合物(A−4)について説明する。チタン化合物(A−4)は前述の式(4)で表されるチタン化合物であることが好ましい。
【0063】
Ti(OR
5)
jX
(4-j) ・・・・・式(4)
【0064】
(式(4)中、jは0〜4の実数であり、R
5は炭素数1〜20の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【0065】
R
5で表される炭素数1〜20の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、アリル基等の脂肪族炭化水素基;シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基;フェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。このなかでも、脂肪族炭化水素基が好ましい。Xで表されるハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、塩素が好ましい。チタン化合物(A−4)は、1種単独で使用することも、2種以上混合して使用することも可能である。
【0066】
チタン化合物(A−4)の使用量には、特に制限はないが、固体(A−1c)に含まれるマグネシウム原子に対するモル比で0.01〜20が好ましく、0.05〜10がより好ましい。
【0067】
固体(A−1c)とチタン化合物(A−4)の反応温度については、特に限定されないが、25℃〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0068】
固体(A−1c)に対するチタン化合物(A−4)の担持方法については特に制限がなく、固体(A−1c)に対して過剰なチタン化合物(A−4)を反応させる方法や第三成分を使用することによりチタン化合物(A−4)を効率的に担持する方法を用いてもよいが、チタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5)との反応により担持する方法が好ましい。
【0069】
次に、有機金属化合物(A−5)について説明する。(A−5)としては、下記式(5)又は式(6)で表されるものが好ましい。
【0070】
(M
1)
a(Mg)
b(R
1)
c(R
2)
dY
e ・・・・・(5)
【0071】
(式(5)中、M
1は、周期律表第1族、第2族、第12族及び第13族からなる群より選ばれるマグネシウム以外の金属原子であり、R
1、R
2は前述のとおりであり、Yはアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R
6,R
7、−SR
8、β−ケト酸残基(ここで、R
6、R
7及びR
8は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。eが2以上の場合には、Yはそれぞれ異なっていてもよい。)のいずれかであり、a、b、c、d及びeは次の関係を満たす実数である。0≦a、0<b、0≦c、0≦d、0≦e、0<c+d、0≦e/(a+b)≦2、f×a+2b=c+d+e(ここで、fはM
1の原子価である。))
【0072】
M
2R
9kQ
(m-k) ・・・・・(6)
【0073】
(式(6)中、M
2は周期律表第1族、第2族、第12族、第13族からなる群より選ばれる金属原子であり、R
9は炭素数1〜20の炭化水素基であり、QはOR
10、OSiR
11R
12R
13、NR
14R
15、SR
16及びハロゲンからなる群より選ばれる基を表し、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16は水素原子又は炭化水素基であり、kは0より大きな実数であり、mはM
2の原子価である。)
【0074】
以下では、上記式(5)及び式(6)で表される有機金属化合物をそれぞれ有機金属化合物(A−5a)、有機金属化合物(A−5b)という。
【0075】
まず、有機金属化合物(A−5a)について説明する。有機金属化合物(A−5a)の使用量は、チタン化合物(A−4)に含まれるチタン原子に対する有機金属化合物(A−5a)に含まれるマグネシウム原子のモル比で0.1〜10であることが好ましく、0.5〜5であることがより好ましい。チタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5a)との反応の温度については特に限定されないが、−80℃〜150℃であることが好ましく、−40℃〜100℃の範囲であることがより好ましい。
有機金属化合物(A−5a)の使用時の濃度については、特に制限はないが、有機金属化合物(A−5a)に含まれるマグネシウム原子基準で0.1mol/L〜2mol/Lであることが好ましく、0.5mol/L〜1.5mol/Lであることがより好ましい。なお、有機金属化合物(A−5a)の希釈には不活性炭化水素溶媒を用いることが好ましい。
【0076】
固体(A−1c)に対するチタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5a)の添加順序には特に制限はなく、チタン化合物(A−4)に続いて有機金属化合物(A−5a)を加える、有機金属化合物(A−5a)に続いてチタン化合物(A−4)を加える、チタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5a)とを同時に添加する、のいずれの方法も可能であるが、チタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5a)とを同時に添加する方法が好ましい。チタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5a)との反応は不活性炭化水素溶媒中で行われるが、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることが好ましい。かくして得られた触媒は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用される。
【0077】
次に、有機金属化合物(A−5b)について説明する。有機金属化合物(A−5b)は式(6)で表される有機金属化合物である。上記式(6)において、M
2は周期律表第1族、第2族、第12族、第13族からなる群より選ばれる金属原子であり、特に限定されないが、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、亜鉛等が挙げられる。このなかでも、マグネシウム、ホウ素、アルミニウムが好ましい。R
9で表される炭素数1〜20の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも、R9で表される炭素数1〜20の炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。
【0078】
QはOR
10、OSiR
11R
12R
13、NR
14R
15、SR
16及びハロゲンからなる群より選ばれる基を表し、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16は水素原子又は炭化水素基であり、Qがハロゲンであることが好ましい。
【0079】
このような有機金属化合物(A−5b)としては、特に限定されないが、具体的には、メチルリチウム、ブチルリチウム、メチルマグネシウムクロリド、メチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムアイオダイド、エチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムアイオダイド、ブチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムアイオダイド、ジブチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、トリエチルホウ素、トリメチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムブロミド、ジメチルアルミニウムクロリド、ジメチルアルミニウムメトキシド、メチルアルミニウムジクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジエチルアルミニウムエトキシド、エチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリ(2−メチルプロピル)アルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等が挙げられる。このなかでも、有機アルミニウム化合物が好ましい。また、これらの化合物は、1種単独で用いることも、2種以上を混合して用いることも可能である。kは0より大きな実数であり、0.5より大きな実数であることが好ましい。
【0080】
有機金属化合物(A−5b)の使用量は、チタン化合物(A−4)に含まれるチタン原子に対する有機金属化合物(A−5b)に含まれるM
2原子のモル比で0.1〜10であることが好ましく、0.5〜5であることがより好ましい。チタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5b)との反応の温度については特に限定されないが、20℃〜150℃であることが好ましく、40℃〜100℃であることがより好ましい。
【0081】
有機金属化合物(A−5b)の使用時の濃度については、特に制限はないが、有機金属化合物(A−5b)に含まれるM
2原子基準で0.1mol/L〜2mol/Lであることが好ましく、0.5mol/L〜1.5mol/Lであることがより好ましい。なお、有機金属化合物(A−5b)の希釈には不活性炭化水素溶媒を用いることが好ましい。
【0082】
固体(A−1c)に対するチタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5b)の添加方法には特に制限はなく、まずチタン化合物(A−4)を添加し、これに続いて有機金属化合物(A−5b)を添加する方法、まず有機金属化合物(A−5b)を添加し、これに続いてチタン化合物(A−4)を添加する方法、チタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5b)とを同時に添加する方法、のいずれの方法も可能であるが、まず有機金属化合物(A−5b)を添加し、これに続いてチタン化合物(A−4)を添加する方法が好ましい。チタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5b)との反応は不活性炭化水素溶媒中で行われるが、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることが好ましい。かくして得られた触媒は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用される。
【0083】
有機金属化合物(A−5b)が使用される場合には、固体(A−1c)に対してチタン化合物(A−4)と有機金属化合物(A−5b)とを添加する前に、固体(A−1c)をあらかじめアルコールと反応させ、さらに有機金属化合物(A−5b)と反応させておくことが好ましい。
【0084】
このようなアルコールとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素数が1〜10のものが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、デカノール等が挙げられる。このなかでも、炭素数が2〜6のものがより好ましく、例えば、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール等が挙げられる。アルコールの使用量については特に限定されないが、固体(A−1c)に含まれるマグネシウム原子に対するモル比で0.01〜1であることが好ましく、0.01〜0.5であることがより好ましい。アルコールの使用時の濃度については特に限定されないが、不活性炭化水素溶媒を用いて0.1M〜2Mに希釈して使用することが好ましい。固体(A−1c)とアルコールとの反応の温度については特に限定されないが、25℃〜150℃であることが好ましく、40℃〜80℃であることがより好ましい。
【0085】
アルコールと反応させた後の固体(A−1c)と有機金属化合物(A−5b)との反応について説明する。有機金属化合物(A−5b)の使用量については特に限定されないが、使用したアルコールに対するモル比で0.1〜10であることが好ましく、0.5倍〜5倍であることがより好ましい。有機金属化合物(A−5b)の使用時の濃度については特に制限はないが、有機金属化合物(A−5b)に含まれるM2原子基準で0.1mol/L〜2mol/Lであることが好ましく、0.5mol/L〜1.5mol/Lであることがより好ましい。なお、有機金属化合物(A−5b)の希釈には不活性炭化水素溶媒を用いることが好ましい。アルコールと反応させた後の固体(A−1c)と有機金属化合物(A−5b)との反応の温度については特に限定されないが、25℃〜150℃以下であることが好ましく、40℃〜80℃であることがより好ましい。
【0086】
次に、有機金属化合物成分[B]について説明する。固体触媒成分[A]は、有機金属化合物成分[B]と組み合わせることにより、高活性な重合用触媒となる。有機金属化合物成分[B]としては、特に限定されないが、具体的には、周期律表第1族、第2族、第12族及び第13族からなる群より選ばれる金属を含有する化合物であることが好ましく、有機アルミニウム化合物及び/又は有機マグネシウム化合物であることがより好ましい。
【0087】
このような有機アルミニウム化合物としては、下記式(7)で表される化合物を単独又は混合して使用することが好ましい。
【0088】
AlR
17nZ
(3-n) ・・・・・(7)
【0089】
(式中、R
17は炭素数1〜20の炭化水素基、Zは水素、ハロゲン、アルコキシ、アリロキシ、シロキシ基からなる群より選ばれる基であり、nは2〜3の数である。)
【0090】
上記の式(7)において、R
17で表される炭素数1〜20の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素を包含するものが挙げられる。このような式(7)で表される化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリ(2−メチルプロピル)アルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリ(3−メチルブチル)アルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ビス(2−メチルプロピル)アルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド等のハロゲン化アルミニウム化合物;ジエチルアルミニウムエトキシド、ビス(2−メチルプロピル)アルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム化合物;ジメチルヒドロシロキシアルミニウムジメチル、エチルメチルヒドロシロキシアルミニウムジエチル、エチルジメチルシロキシアルミニウムジエチル等のシロキシアルミニウム化合物;及びこれらの混合物が好ましい。このなかでも、トリアルキルアルミニウム化合物がより好ましい。
【0091】
有機マグネシウム化合物としては、式(8)で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物が好ましい。
【0092】
(M
1)
a(Mg)
b(R
1)
c(R
2)
d(OR
3)
e・・・・・式(8)
【0093】
(式中、M
1は周期律表第1族、第2族、第12族及び第13族からなる群より選ばれるマグネシウム以外の金属原子であり、R
1及びR
2はそれぞれ炭素数2〜20の炭化水素基であり、R
3は炭素数1〜20の炭化水素基であり、a、b、c、d及びeは次の関係を満たす実数である。0≦a、0<b、0≦c、0≦d、0≦e、0<c+d、0≦e/(a+b)≦2、f×a+2b=c+d+e(ここで、fはM
1の原子価である。))
【0094】
また、このような有機マグネシウム化合物としては、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジアルキルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体の全てを包含するものである。この有機マグネシウム化合物は、不活性炭化水素溶媒に対する溶解性が高い化合物が好ましいため、b/aは0.5〜10であることが好ましく、またM
1がアルミニウムである化合物がより好ましい。
【0095】
固体触媒成分[A]及び有機金属化合物成分[B]を重合条件下である重合系内に添加する方法については特に制限はなく、両者を別々に重合系内に添加してもよいし、あらかじめ両者を反応させた後に重合系内に添加してもよい。また組み合わせる両者の比率には特に制限はないが、固体触媒成分[A]1gに対し有機金属化合物[B]は1mmol〜3,000mmolであることが好ましい。
【0096】
固体触媒成分[A]とともに用いる有機アルミニウム化合物[B]としては、特に限定されないが、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリn−プロピルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリiso−ブチルアルミニウム、トリn−アミルアルミニウム、トリiso−アミルアルミニウム、トリn−ヘキシルアルミニウム、トリn−オクチルアルミニウム、トリn−デシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジiso−ブチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド等のハロゲン化アルミニウム;ジエチルアルミニウムエトキシド、ジiso−ブチルアルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム;ジメチルヒドロシロキシアルミニウムジメチル、エチルメチルヒドロシロキシアルミニウムジエチル、エチルジメチルシロキシアルミニウムジエチル等のシロキシアルキルアルミニウム;及びこれらの混合物が用いられ、特にトリアルキルアルミニウムは最も高い活性が達成されるため好ましい。
【0097】
固体触媒成分[A]及び有機アルミニウム化合物は、重合条件下に重合系内に添加してもよいし、あらかじめ重合に先立って混合してもよい。また組み合わせる両成分の比率は、固体触媒成分[A]中のTiと有機アルミニウム化合物[B]中のAlとのモル比で規定され、好ましくは、Al/Ti=0.3〜1000である。
【0098】
重合溶媒としては、スラリー重合に通常使用される炭化水素溶媒が用いられる。具体的には、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素が挙げられる。これら炭化水素溶媒は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。重合温度は、通常、室温〜100℃、好ましくは50℃〜90℃の範囲である。重合圧力は、重合時のスラリー(溶媒とエチレン系重合体粒子の混合状態)中のポリエチレン濃度は50%未満、好ましくは40%未満とする。通常、常圧〜100気圧の範囲で実施される。得られる重合体の分子量は、重合系に水素を存在させるか、あるいは重合温度を変化させることによって調節することができる。また、担持型幾何拘束型シングルサイト触媒を用い、ベッセル型のスラリー重合法により製造する方法も好ましく用いることができる。また、スラリーをエチレン系重合体と溶媒に分離する工程において、溶媒を揮発除去する工程を有し、更にこの揮発工程の前段にエチレン系重合体に対する溶媒の含液量を60重量部未満に分離する。
【0099】
こうして得られるポリエチレン樹脂組成物は、特に高分子量のポリエチレン樹脂成分へコモノマー導入量を高くすることができるため、高分子量のポリエチレン樹脂成分がタイ分子を形成しやすくなる点で好ましい。
【0100】
(その他の成分)
上記本実施形態のポリエチレン樹脂組成物には、必要に応じて添加剤や充填剤等を添加してもよい。使用される添加剤としては、特に限定されないが、具体的には、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等の各種酸化防止剤;HALS系光安定剤、ベンゾフェノン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の各種光安定剤;脂肪酸金属塩やハイドロタルサイト等の中和剤;耐熱安定剤;耐候剤;顔料;ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用することができる。また、充填剤としては、特に限定されないが、具体的には、タルク、シリカ、カーボン、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、木粉等が挙げられる。必要に応じて、酸化チタンや有機顔料を使用するためにマスターバッチで添加することも可能である。
各種添加剤は、エチレン系重合体A及びエチレン系重合体Bの両方又はいずれか一方に配合したマスターバッチとして添加してもよい。
また、着色成分は、分散性の観点から、エチレン系重合体Bに配合したマスターバッチとして添加することが好ましい。マスターバッチで添加することにより、予め添加剤や着色成分を樹脂に分散させておくことができ、成形時における成型品への分散性の向上が期待できる。
【0101】
〔用途〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、様々な用途に用いることができるが、特に配管材料(例えば、配管及び継手からなる群から選択される1種以上等)として用いた場合に、長期クリープ特性に優れ、ISO9080規格に記載されたPE100に分類され、100年後の最小保証応力が高く、成形加工性に優れる。また、本実施形態の配管材料は、長期特性、伸び特性、耐衝撃性、及び成形性に優れ、その上、SCGの長寿強化及び表面肌荒れ特性等の表面性にも優れる傾向にある。
【0102】
ここで「PE100」とは、ISO9080に記載されている熱間内圧クリープ試験において、最高温度と最低温度が50℃以上離れた異なる3水準の温度で、それぞれ応力−破壊時間曲線の測定を少なくとも9000時間まで行い、重相関平均により20℃での50年後の最小保証応力を外挿により推定した値のLPLの値が、ISO12162に規定されている分類表で10MPa以上11.19MPa以下であり、最小保証応力が10MPaであるポリエチレンをいう。
【0103】
「100年保証」とは、上記「PE100」と同様の方法で、20℃での100年後の外挿による最小保証応力が10MPa以上となるポリエチレン樹脂組成物をいう。
本実施形態で用いるポリエチレン樹脂組成物は、従来のポリエチレン配管材料用樹脂組成物よりもSCGの長寿強化及び表面性に優れており、これから得られる配管材料は長期特性が飛躍的に向上し、生産性も非常に高いものとなる。
【0104】
配管材料としては、特に限定されないが、例えば、パイプ及び継手等からなる群から選択される1種以上が挙げられ、好ましくは水道用のパイプ又は水道用の継手が挙げられる。特に、本実施形態の配管材料をパイプとして用いたときには、高温加速条件での長期特性、剛性、伸び特性、耐衝撃性、及び成形加工性に優れるパイプとなる上、表面性にも優れる。また、本実施形態の配管材料を継手として用いたときには、高温加速条件での長期特性、剛性、伸び特性、耐衝撃性、及び表面性に優れる継手となる上、射出成形等の成形加工性にも優れる。
【0105】
なお、水道用の配管材料として上水道用ポリエチレンパイプを例に挙げると、国内において水道水を使用する際には塩素水による気泡の発生と、これに伴う表層剥離等が起こるため、いわゆる耐塩素水性能が必要となる。通常ポリエチレンパイプ及び継手を生産する際にはパイプとしての使途を限定するために、着色顔料と共に着色した形で提供されるのが通常である。このように、着色顔料を含むポリエチレンパイプ及び継手用樹脂において灰分(着色顔料由来の成分)が多いと、耐塩素水性を低下させることが考えられる。そのため、灰分は所定量以下に制限することがJIS K6762の水道用ポリエチレン管に記載されている。本実施形態のパイプ及びパイプの継手に含まれる灰分は、0.07質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。
【0106】
〔特性〕
パイプ用材料は、パイプの長期疲労特性に優れることが求められる。パイプの長期疲労特性を評価する試験としては繰り返し引張り疲労試験(FNTFT: Full−Notch Tensile Fatigue Test)がある。これはポリエチレン製パイプから6mm×6mm×110mmの角柱片を切り出した試験片を用い、試験片の中央部に深さ0.5mmのノッチを鋭利なカミソリで全周に入れたものを使用する。試験装置としては、サム電子機械製 油圧疲労試験機(サーボコンポFTシリーズ、型式:FT−10/SC−05−50−5B)等が挙げられる。測定条件としては、80℃の温度条件下で、条件はモード:ST/DY、中心:−22.0mm、振幅:19.0mm、波形:ユーザ波、周波数:2.00Hz、波形はSINEとし、繰り返し引張り応力(σ;)を3〜20MPaの範囲で試験片に印加し、印加した繰り返し引張り応力(σ)に対する破断回数(N)を測定する。ただし、印加応力は応力零から指定応力までの両振りである。印加応力は試験終了後に印加荷重を試料の断面積で除することにより求める。試料の断面積は角柱片の寸法からノッチ寸法を差し引きすることにより求める。
【0107】
このような試験で得られるσとNより、σ−LogN相関図を作成し、σとLogNの相関近似直線を求める。相関近似直線は一般に破壊形式が延性破壊モード(高印加応力側の破壊モード)から脆性破壊モード(低印加応力側の破壊モード)に転移する領域で折れ曲がり点(ニーポイント)が観測され、近似直線の傾きが変化する。σ−LogN相関図の近似直線に基づいて、ニーポイントが観測される回数、及び、10MPaの印加応力での破断までの繰り返し回数(N10MPa)を求め、これをポリエチレン樹脂組成物の長期疲労特性とする。
【0108】
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、配管材料としたとき、ニーポイントが観測される回数が10万回以上、10MPaの印加応力での破断までの繰り返し回数(N10MPa)が10万回以上であることが好ましい。
【実施例】
【0109】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
本発明及び以下の実施例、比較例において示す記号ならびに測定方法は以下のとおりである。
【0110】
(1)MFR2.16:
メルトインデックスを表し、低分子量側のポリエチレン樹脂をJIS K7210により温度190℃、荷重2.16kgの条件下で測定した。単位はg/10minとした。
【0111】
(3)密度:
低分子量ポリエチレン樹脂、高分子量ポリエチレン樹脂、及びポリエチレン樹脂組成物をJIS K7112に準拠して測定した。単位はkg/m
3とした。
【0112】
(4)分子量分布(Mw/Mn):
ポリエチレン樹脂組成物を高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた分子量分布のチャートにおいて、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比から求めた。高温GPC測定には、Waters社製Alliance GPCV2000を用い、カラムには、昭和電工(株)製のAT−807S(1本)と東ソー(株)製GMHHR−H(S)HT(2本)を直列に接続し、移動相にオルトジクロロベンゼン(ODCB)、カラム温度140℃、流量1.0mL/分、試料濃度20mg/溶媒(ODCB)10mL、試料溶解温度140℃、試料溶解時間1時間の条件下で行った。
【0113】
(5)FNTFT:
(5−1)パイプ成形
パイプとしての物性測定では、ポリエチレン樹脂組成物を用いてパイプを以下のように成形してテストに供した。パイプは直径65mm押出機(東芝プラスチックエンジニアリング社製)を用い、樹脂組成物を220℃で溶融し、押出機に付属した外径80mm、内径68mmダイより円筒状に押出し、サイジング槽にてサイジングプレートを通すことにより外径を形成させるとともに、一次冷却としてサイジング槽水温を25℃で冷却を行い、さらにサイジング槽を出てから次の水槽で二次冷却として水温20℃にて冷却を行ったパイプを成形した。このパイプを、引取り機にて外径/肉厚比=11となるように引き取り、外径63mm、肉厚5.8mmの管状体のパイプを成形した。
(5−2)サンプル作製
試験サンプルは、ポリエチレン製パイプから6mm×6mm×110mmの角柱片を切り出し、試験片の中央部に深さ0.5mmのノッチを鋭利なカミソリで全周に入れたものを使用した。
【0114】
(5−3)FNTFT測定
試験装置はサム電子機械製 油圧疲労試験機(サーボコンポFTシリーズ、型式:FT−10/SC−05−50−5B)を使用し、試験は80℃の温度条件下で実施し、条件はモード:ST/DY、中心:−22.0mm、振幅:19.0mm、波形:ユーザ波、周波数:2.00Hzとし、波形はSINEとし、繰り返し引張り応力(σ;)を3〜20MPaの範囲で試験片に印加し、印加した繰り返し引張り応力(σ)に対する破断回数(N)を測定した。ただし、印加応力は応力零から指定応力までの両振りとした。また、印加応力は試験終了後に印加荷重を試料の断面積で除することにより求めた。試料の断面積は角柱片の寸法からノッチ寸法を差し引きすることにより求めた。
【0115】
(5−4)ニーポイントの判断
得られたσとNより、σ−LogN相関図を作成し、σとLogNの相関近似直線を求めた。相関近似直線は一般に破壊形式が延性破壊モード(高印加応力側の破壊モード)から脆性破壊モード(低印加応力側の破壊モード)に転移する領域で折れ曲がり点(ニー・ポイント)が観測され、近似直線の傾きが変化する。σ−LogN相関図の近似直線に基づいて、ニーポイントが観測された回数を評価した。
【0116】
(5−5)10MPa時の破断回数
10MPaの印加応力での破断までの繰り返し回数(N10MPa)を求め、パイプ用素材であるポリエチレンの長期疲労特性を評価した。
【0117】
(6)パイプの表面性:
上記(5−1)で得たパイプの表面を目視で確認し、メルトフラクチャーによる縞や荒れによる凹凸が認められる場合は×、わずかに肌荒れを起こしている場合は△、滑らかである場合は○とした。
【0118】
(7)パイプの表面傷付き性:
上記(5−1)で得たパイプ表面のデュロメータ硬さ(JIS K7215)を測定した。
【0119】
(8)パイプの外部応力耐性:
上記(5−1)で得たパイプ表面の曲げ弾性率(JIS K7171)を測定した。
【0120】
(9)ESCR(単位:hr):
JIS−K6761に準拠するが、試験片のアニールは無し、恒温水槽の水温は50℃とした。試験液としてはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(イゲパルCO−630)の10wt%水溶液を使用した。
【0121】
〔実施例1〕
[触媒の調製]
(固体触媒成分[A]の調製)
(1)クロロシラン化合物との反応によるマグネシウム含有固体の合成
充分に窒素置換された15Lの反応器に、トリクロロシラン(HSiCl
3)(成分(ii))を2mol/Lのn−ヘプタン溶液として2740mL仕込み、攪拌しながら65℃に保ち、これに、式AlMg
6(C
2H
5)
3(i−C
4H
9)
10.8(Oi−C
4H
9)
1.2で示される有機マグネシウム成分(成分(i))のn−ヘプタン溶液7L(マグネシウム換算で5mol)を1時間かけて加え、さらに65℃にて1時間攪拌下反応させた。反応終了後、上澄み液を除去し、n−ヘキサン7Lで4回洗浄を行い、固体スラリーを得た。この固体(A−1a)を分離・乾燥して分析した結果、固体1g当たり、Mg8.62mmol、Cl17.1mmol、i−ブトキシ基(Oi−C
4H
9)0.84mmolを含有していた。
【0122】
(2)固体触媒の調製
上記固体(A−1a)500gを含有するスラリーを、iso−ブチルアルコール(成分(A−2))1mol/Lのn−ヘキサン溶液2,160mLとともに、攪拌下50℃で1時間反応させた。反応終了後上澄みを除去し、7Lのn−ヘキサンで1回洗浄を行ない、固体スラリー(A−1b)を得た。この固体スラリー(A−1b)を50℃に保ち、ジエチルアルミニウムクロリド(成分(A−3))1mol/Lのn−ヘキサン溶液970mLを攪拌下加えて1時間反応させた。反応終了後上澄みを除去し、7Lのn−ヘキサンで2回洗浄を行ない、固体スラリー(A−1c)を得た。この固体スラリー(A−1c)を50℃に保ち、ジエチルアルミニウムクロリド1mol/Lのn−ヘキサン溶液270mL及び四塩化チタン(成分(A−4))1mol/Lのn−ヘキサン溶液270mLを加えて、2時間反応した。反応終了後上澄みを除去し、内温を50℃に保った状態で、7Lのn−ヘキサンで4回洗浄して、固体触媒成分(成分[A])をヘキサンスラリー溶液として得た。この固体触媒スラリー溶液上澄み液中の塩素イオン濃度は2.5mmol/L、アルミニウムイオン濃度は4.5mmol/Lであった。
【0123】
(3)重合
上記で得られた固体触媒成分[A]、及びトリエチルアルミニウム(成分[B])を含む重合触媒を用いた連続スラリー重合法で、直列に接続した2つの重合槽による二段重合を行った。用いたコモノマーは1−ブテンとした。一段目の重合槽には、モノマーとしてエチレンのみを供給し、温度85℃、圧力9.5Kg/cm
3G、水素濃度70%、スラリー濃度35%にて重合を行い、二段目にはエチレンと1−ブテンを供給し70℃、2.6Kg/cm
3G、水素濃度4.8%、1−ブテン濃度12.5%にて重合した。一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなるポリエチレン樹脂成分の生産量の割合を53wt%、二段目の重合槽で得られる共重合体からなるポリエチレン樹脂成分の生産量の割合を47wt%に設定することで、エチレン系重合体のパウダーを得た。
上記重合により得られたパウダーを含液量が45%になるように分離した後に溶媒を揮発乾燥し、パウダー100質量部に対して、二次抗酸化剤としてトリ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートを1,000ppm、耐熱安定剤としてテトラキス(3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート)メタンを1500ppm、耐候剤として2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールを400ppm、ステアリン酸カルシウムを800ppm、日本製鋼製TEX−44型押出機(スクリュー径44mm、L/D=42)設定温度200℃、樹脂押出量40kg/hrにて押出し造粒することによりエチレン系重合体Aを得た。ペレットのMFR2.16は0.09g/10分、密度が950kg/m
3であった。
【0124】
重合槽にエチレンと1−ブテンを供給し、温度85℃、圧力10Kg/cm
2G、水素濃度58%にて重合を行い、一段のみで重合を行った以外はエチレン重合体Aと同様にし、得られたパウダーを乾燥し、パウダー100質量部に対して、ステアリン酸カルシウムを1,000ppmにて押出し造粒することによりMFR2.16が42g/10分、密度が961kg/m
3のエチレン系重合体Bを得た。
上記エチレン系重合体Aとエチレン系重合体Bを95:5の割合で混合したペレットを用いて外径63mmのパイプを成形しパイプの物性測定を行った。その結果を表1に示す。パイプの表面を目視で確認したところ肌荒れは見られず滑らかであった。
【0125】
〔実施例2〕
一段目の重合槽を水素濃度77%にて重合を行い、二段目にはエチレンと1−ブテンを供給し、水素濃度2.7%、1−ブテン濃度11.5%にて重合し、一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を52wt%、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を48wt%に設定した以外は実施例1と同様にし、MFR2.16が0.79g/10分、密度が951kg/m
3のパウダーを得た。さらにこれを実施例1と同様に押出し造粒することによりMFR2.16が0.30g/10分、密度が951kg/m
3のエチレン系重合体Aを得た。その結果を表1に示す。
【0126】
重合槽の水素濃度を53%にて重合を行う以外は実施例1と同様にし、得られたパウダーを乾燥し、パウダー100質量部に対して、ステアリン酸カルシウムを1,000ppmにて押出し造粒することによりMFR2.16が42g/10分、密度が961kg/m
3のエチレン系重合体Bを得た。
上記エチレン系重合体Aとエチレン系重合体Bを95:5の割合で混合したペレットを用いて外径63mmのパイプを成形しパイプの物性測定を行った。
【0127】
〔比較例1〕
実施例1のエチレン系重合体Aのみを用いて外径63mmのパイプを成形しパイプの物性測定を行った。その結果を表1に示す。
【0128】
〔比較例2〕
実施例2のエチレン系重合体Aのみを用いて外径63mmのパイプを成形しパイプの物性測定を行った。その結果を表1に示す。
【0129】
〔比較例3〕
実施例1のエチレン系重合体Bのみを用いて外径63mmのパイプの成形を試みたが、パイプの成形はできなかった。その結果を表1に示す。
【0130】
〔比較例4〕
実施例2のエチレン系重合体Bのみを用いて外径63mmのパイプの成形を試みたが、パイプの成形はできなかった。その結果を表1に示す。
【0131】
〔比較例5〕
実施例1のエチレン系重合体Aと実施例2のエチレン系重合体Bを95:5の割合で混合したペレットを用いて外径63mmのパイプを成形しパイプの物性測定を行った。その結果を表1に示す。
【0132】
〔比較例6〕
実施例2のエチレン系重合体Aと実施例1のエチレン系重合体Bを95:5の割合で混合したペレットを用いて外径63mmのパイプを成形しパイプの物性測定を行った。その結果を表1に示す。
【0133】
〔比較例7〕
実施例1のエチレン系重合体Aと実施例1のエチレン系重合体Bを50:50の割合で混合したペレットを用いて外径63mmのパイプを成形しパイプの物性測定を行った。その結果を表1に示す。
【0134】
〔比較例8〕
実施例2のエチレン系重合体Aと実施例2のエチレン系重合体Bを50:50の割合で混合したペレットを用いて外径63mmのパイプを成形しパイプの物性測定を行った。その結果を表1に示す。
【0135】
【表1】