特許第6836454号(P6836454)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6836454ディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836454
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】ディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 1/00 20060101AFI20210222BHJP
   F16T 1/48 20060101ALI20210222BHJP
   F16K 51/00 20060101ALI20210222BHJP
   G01M 3/02 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   G01H1/00 G
   F16T1/48 D
   F16K51/00 F
   G01M3/02 G
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-92472(P2017-92472)
(22)【出願日】2017年5月8日
(65)【公開番号】特開2018-189514(P2018-189514A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 康祐
【審査官】 岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−90198(JP,A)
【文献】 実開平1−122596(JP,U)
【文献】 特開平1−158297(JP,A)
【文献】 特開平4−296299(JP,A)
【文献】 特開2013−152102(JP,A)
【文献】 特許第2954183(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00−17/00
F16T 1/48
F16K 51/00
G01M 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管系統に連通するドレン排出経路を開放又は密閉する開閉盤を有するディスク式スチームトラップの蒸気漏れを検査するディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置において、
ディスク式スチームトラップの振動を検出し、振動検出信号を出力する振動検出手段、
異なる複数の判定基準又は異なる複数の算出規則、のいずれか一方又は双方を記憶している記憶手段、
前記振動検出信号に基づいて蒸気漏れの状態を把握し、当該蒸気漏れの状態に対応した判定基準又は算出規則のいずれか一方又は双方を取り込み、前記振動検出信号と判定基準との比較に基づいて行う蒸気漏れの有無の判定、又は前記振動検出信号に基づき算出規則に従って行う蒸気漏れ量の算出、のいずれか一方又は双方を実行する判別手段、
を備えたことを特徴とするディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置。
【請求項2】
請求項1に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置において、
前記判別手段は、振動検出信号の変動のピークの回数に基づいて蒸気漏れの状態を把握する、
ことを特徴とするディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置において、
前記判別手段が把握する蒸気漏れの状態は、開閉盤又は排出経路の損傷に起因する密閉不良による蒸気漏れ、又は開閉盤又は排出経路の損傷以外の原因に起因する空打ちによる蒸気漏れである、
ことを特徴とするディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置。
【請求項4】
配管系統に連通するドレン排出経路を開放又は密閉する開閉盤を有するディスク式スチームトラップの蒸気漏れを検査するディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査方法において、
ディスク式スチームトラップの振動を検出し、振動検出信号を出力し、
異なる複数の判定基準又は異なる複数の算出規則、のいずれか一方又は双方を記憶しており、
前記振動検出信号に基づいて蒸気漏れの状態を把握し、当該蒸気漏れの状態に対応した判定基準又は算出規則のいずれか一方又は双方を取り込み、前記振動検出信号と判定基準との比較に基づいて行う蒸気漏れの有無の判定、又は前記振動検出信号に基づき算出規則に従って行う蒸気漏れ量の算出、のいずれか一方又は双方を実行する、
ことを特徴とするディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法は、蒸気移送のための配管系統からドレン等を排出するためのディスク式スチームトラップの蒸気漏れを検査する検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プラントには、ボイラーで生成された蒸気等を供給先に向けて高温・高圧で移送する配管系統が設置されていることがある。この配管系統で蒸気を移送しようとする初期の段階においては、スムーズに蒸気を移送するため、配管内の空気を外部に排出しながら蒸気移送を行う必要がある。また、蒸気の移送を継続して行う過程においては、蒸気が液化してドレン(蒸気の凝縮水)が発生する。このドレンが配管内で滞留すると蒸気移送のための空間が縮小され、その結果、蒸気の移送効率が低下してしまうため、適宜、ドレンを外部に排出する必要がある。
【0003】
このような空気の排出やドレンの排出を行うために、配管系統には例えばディスク式スチームトラップが設けられている。ディスク式スチームトラップは、円盤状のディスク弁を内蔵しており、このディスク弁は浮動自在に配置されている。そして、通常時はこのディスク弁がディスク式スチームトラップ内の排出経路の弁座を塞ぐことによって蒸気漏れが生じないようになっている。
【0004】
蒸気移送の初期の段階においては、温度に応じて伸縮するバイメタル環がディスク弁を押し上げているためディスク弁と排出経路の弁座の間には僅かな隙間が形成されており、この隙間から配管内の空気が排出され、初期段階における蒸気移送がスムーズに行われる。配管内への蒸気流入により温度が上昇すると、バイメタル環が降下してディスク弁が閉弁する。続いて、蒸気移送にともなってドレンが発生し、ディスク式スチームトラップがドレンで満たされると、その水圧によってディスク弁が押し上げられて排出経路が開放され、排出経路に沿ってドレンが排出される。
【0005】
ドレンが排出された後は、同じ排出経路をたどって引き続き蒸気が外部に流れ始める。この際、ディスク弁の下面に形成される低圧域によってディスク弁が排出口に向けて引き寄せられるとともに、ディスク弁の上面に回り込んだ蒸気の圧力によってディスク弁が排出口に向けて押し下げられる。こうして、ディスク弁が排出経路の弁座を密閉し、以後蒸気漏れを生じることなく蒸気移送が行われる。なお、蒸気移送にともなうドレンの発生に応じて、ディスク弁は排出経路の上記開放及び密閉の動作を繰り返す。
【0006】
ところで、ディスク式スチームトラップの経年劣化等が原因で、ディスク弁や排出経路の弁座の縁部に摩耗や変形等の損傷が発生し、排出経路の密閉不良による蒸気漏れが生じることがある。蒸気漏れが生じると蒸気の適正な移送が阻害されるため、ディスク式スチームトラップの蒸気漏れを検査する検査技術が重視されている。また、この検査においては蒸気漏れの有無だけではなく、ディスク式スチームトラップの状態を把握するために蒸気漏れの量を計測する必要がある。
【0007】
このような検査技術として、後記特許文献1に開示されているような、ディスク式スチームトラップの蒸気漏れの漏洩音による振動を検出する検査器がある。この特許文献1に開示されている検査技術は、ディスク式スチームトラップの正常なディスク弁の作動回数が通常、1分間に4回程度であることに着目し、所定時間内に計測したディスク弁の作動回数に基づいて密閉不良による蒸気漏れ(特許文献1においては一部でこれを「空うち」と表現している)を判定している。
【0008】
そして、密閉不良による蒸気漏れと判定した場合、所定時間内における実測したディスク弁の振動強さの平均値を演算し、演算した平均値と正常なスチームトラップの振動強さの平均値とを比較して蒸気漏れ量を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平1-122596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前述の特許文献1に開示された技術においては、動作状態によっては蒸気漏れ量を正確に求めることができない場合があった。すなわち、ディスク式スチームトラップに内蔵されているディスク弁は浮動自在に配置されているため構造的に不安定であり、スチームトラップの内圧等の影響を受けて規格外の動作状態に陥ることがある。
【0011】
このため、ディスク式スチームトラップにおける蒸気漏れは、ディスク弁自体や排出経路の弁座の縁部の損傷に起因して発生する密閉不良以外にも、外気温等の影響を受けてディスク式スチームトラップ内の圧力変化等が生じ、ディスク弁が排出経路の弁座から浮き上がることに起因して発生する空打ちがある。
【0012】
ところが、前述の特許文献1開示の技術においては、このような空打ちを考慮していないため、空打ちによる蒸気漏れを正確に検出することができない。また、この空打ちにおいても蒸気漏れが生じているため、本来、蒸気漏れ量を計測する必要があるが、密閉不良による蒸気漏れと比較し、空打ちの場合の蒸気漏れによる振動の発生形態は全く異なるものである。このため、前述の特許文献1開示の技術を、空打ちの蒸気漏れ検査に適用した場合、精度の高い蒸気漏れの有無、蒸気漏れ量の測定を行うことが困難となり得た。
【0013】
そこで本願に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法は、これらの問題を解決することを課題とし、精度の高い蒸気漏れの検査を実現することができるディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置は、
配管系統に連通するドレン排出経路を開放又は密閉する開閉盤を有するディスク式スチームトラップの蒸気漏れを検査するディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置において、
ディスク式スチームトラップの振動を検出し、振動検出信号を出力する振動検出手段、
異なる複数の判定基準又は異なる複数の算出規則、のいずれか一方又は双方を記憶している記憶手段、
前記振動検出信号に基づいて蒸気漏れの状態を把握し、当該蒸気漏れの状態に対応した判定基準又は算出規則のいずれか一方又は双方を取り込み、前記振動検出信号と判定基準との比較に基づいて行う蒸気漏れの有無の判定、又は前記振動検出信号に基づき算出規則に従って行う蒸気漏れ量の算出、のいずれか一方又は双方を実行する判別手段、
を備えたことを特徴としている。
【0015】
また、本願に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査方法は、
配管系統に連通するドレン排出経路を開放又は密閉する開閉盤を有するディスク式スチームトラップの蒸気漏れを検査するディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査方法において、
ディスク式スチームトラップの振動を検出し、振動検出信号を出力し、
異なる複数の判定基準又は異なる複数の算出規則、のいずれか一方又は双方を記憶しており、
前記振動検出信号に基づいて蒸気漏れの状態を把握し、当該蒸気漏れの状態に対応した判定基準又は算出規則のいずれか一方又は双方を取り込み、前記振動検出信号と判定基準との比較に基づいて行う蒸気漏れの有無の判定、又は前記振動検出信号に基づき算出規則に従って行う蒸気漏れ量の算出、のいずれか一方又は双方を実行する、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本願に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法においては、振動検出信号に基づいて蒸気漏れの状態を把握し、当該蒸気漏れの状態に対応した判定基準又は算出規則のいずれか一方又は双方を取り込み、振動検出信号と判定基準との比較に基づいて行う蒸気漏れの有無の判定、又は振動検出信号に基づき算出規則に従って行う蒸気漏れ量の算出、のいずれか一方又は双方を実行する。
【0017】
すなわち、ディスク式スチームトラップに蒸気漏れに伴う振動が生じている場合、蒸気漏れの状態に対応した判定基準又は算出規則を選択することができ、これらに従った蒸気漏れの有無の判定や蒸気漏れ量の算出を行うことが可能になる。したがって、精度の高い蒸気漏れの検査を実現することができる。
【0018】
特に、ディスク式スチームトラップにおける開閉盤は、開放又は密閉の動作との関係で不安定に配置されているため、蒸気漏れを生じさせる状態・形態は、ディスク式スチームトラップの設置状況等によって様々である。したがって、蒸気漏れの状態・形態に対応した判定基準又は算出規則を選択することによって、種々の蒸気漏れの状態・形態に対し、柔軟かつ的確な検査処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本願に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法の第1の実施形態を示す検査器の断面図である。
図2図1に示す検査器が実行する検査処理のフローチャートである。
図3】検査対象であるディスク式スチームトラップの断面図である。
図4A】密閉不良による蒸気漏れの振動レベルの変動を表す波形L1を示すグラフである。
図4B】空打ちによる蒸気漏れの振動レベルの変動を表す波形L2を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施形態における用語説明]
【0021】
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法の下記の構成要素に対応している。
検出針4、超音波マイクロフォン14、振動板15・・・振動検出手段
メモリ45・・・記憶手段
制御部46・・・判別手段
ディスク弁60・・・開閉盤
密閉不良用数式A1、空打ち用数式A2…算出規則
密閉不良用判定値J1、空打ち用判定値J2・・・判定基準
振動信号・・・振動検出信号
【0022】
なお、本願に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法において、「密閉不良による蒸気漏れ」とは、ディスク式スチームトラッのディスク弁自体や排出経路の弁座の縁部の摩耗や変形等の損傷に起因して発生する蒸気漏れをいい、「空打ちによる蒸気漏れ」とは、たとえば外気温等の影響を受けてディスク式スチームトラップ内の圧力変化等が生じ、ディスク弁が排出経路の弁座から浮き上がることに起因して発生するような、密閉不良による蒸気漏れ以外の蒸気漏れをいう。
【0023】
[ディスク式スチームトラップの説明]
まず、検査対象であるディスク式スチームトラップの構成、動作を図3に基づいて説明する。産業プラントに配置される配管系統の主管(図示せず)には、ボイラーで生成された蒸気が供給先に向けて移送されており、主管の随所には枝管(図示せず)が連通している。そして、この枝管にディスク式スチームトラップ50の本体50Bに形成された接続口51が接続されており、ここから排出経路となる矢印91方向に沿って蒸気やドレンがディスク式スチームトラップ内に流入する。なお、ディスク式スチームトラップの本体50Bには錆やスケール等の異物を除去するためのスクリーン55が設けられており、蒸気やドレンはこのスクリーン55を透過する。
【0024】
ディスク式スチームトラップ50の排出経路には弁座57が設けられている。そして、この弁座57の上部開口にはディスク弁60が配置されている。このディスク弁60は、本体50Bに螺着された内蓋61の内部空間61Sで上下方向に浮動可能に位置している。さらに、本体50Bには外蓋62が内蓋61を覆って螺着されており、内蓋61との間に内部空間62Sを形成している。そして、外蓋62の内部空間62Sはバイパス63によって本体50Bの排出経路と連通している。
【0025】
弁座57の外周には斜面57Kが形成されており、斜面57Kを覆うようにバイメタル環58が配置されている。このバイメタル環58は環状部材の一部を切り欠いたC形の形状を有しており、温度に応じて環の径長さが伸縮するようになっている。ディスク式スチームトラップ50に蒸気が流入していない初期の段階では、本体50Bは低温であるためバイメタル環58は縮閉しており、弁座57の斜面57Kに沿って上方にスライドしてディスク弁60を押し上げ、図3に示すように、ディスク弁60と弁座57の上部開口との間に僅かな隙間を形成している。また、本体50Bには排出口52が設けられており、弁座57の上部開口から矢印92方向に沿って排出経路を形成する。
【0026】
続いて、ディスク式スチームトラップ50の動作を説明する。配管系統を通じて蒸気を移送しようとする初期の段階においては、スムーズに蒸気を移送するために、配管内の空気を外部に排出しながら蒸気移送が行われる。上述のように、ディスク式スチームトラップ50が低温である初期の段階では縮閉したバイメタル環58がディスク弁60を押し上げることによって、ディスク弁60と弁座57の上部開口との間には僅かな隙間が形成され、ディスク弁60は開弁状態となる。このため、初期段階の蒸気移送に従ってこの隙間から空気が矢印92方向に沿って流出し排出口52から排出される。
【0027】
初期段階における空気の排出が行われた後、配管内を蒸気が移送されることに伴いバイメタル環58が加熱されて膨張拡開して斜面57Kを滑り落ちて、ディスク弁60の開弁状態を解除する。その後ドレンが発生すると、このドレンは接続口51から矢印91方向に沿ってディスク式スチームトラップ50の本体50B内に流入する。このドレンの水圧によって弁座57の上部開口に位置しているディスク弁60は上方に大きく押し上げられ、ドレンは矢印92方向に沿って排出口52から排出される。
【0028】
本体50Bに充満したドレンが排出されると、これに続いて高温高圧の蒸気が同じ排出経路をたどって流入し、この蒸気はディスク弁60の下面を通過し、矢印92方向に流出する。この際、ディスク弁60の下面を高速で流れる蒸気のジェット流がベルヌーイの定理により低圧域を生じさせ、これによってディスク弁60が弁座57の上部開口を塞ぐ方向に引き寄せられる。また、これと同時に蒸気は内部空間61S内においてディスク弁60の上面にも回り込み、蒸気の再圧縮による内部空間61Sの高圧によってディスク弁60が押し下げられる。
【0029】
このようにディスク弁60の下面側に生じる低圧、及び上面側に生じる高圧の作用を受け、ディスク弁60は弁座57の上部開口に密着して排出経路を閉塞し、蒸気はディスク弁60によって遮られて矢印92方向への蒸気漏れが防止される。これによって、以後、配管系統の主管内で適正な蒸気の移送が行われる。
【0030】
なお、排出経路を密閉する段階においては、バイメタル環58は高温の蒸気によって加熱されて膨張拡開し、弁座57の斜面57Kに沿って下方に沈み込んでディスク弁60の動きには干渉しない。このため、バイメタル環58がディスク弁60による排出経路の密閉の障害になることはない。また、本体50Bに流入した蒸気は、バイパス63を通じて内部空間62Sにも回り込み、その内側に形成されている内部空間61S内の高温高圧を保持する。このため、ディスク弁60の押し下げを継続することができ、排出経路が確実に閉塞される。
【0031】
以上のようにディスク式スチームトラップ50が動作することにより、蒸気移送にともなうドレンの発生に応じて、ディスク弁60が排出経路の開放及び密閉の動作を繰り返す。
【0032】
ところで、ディスク式スチームトラップ50の経年劣化等が原因で、ディスク弁60や弁座57の上部開口の縁部に摩耗や変形等の損傷が発生し、排出経路の密閉不良によって蒸気漏れが生じることがある。このような損傷による蒸気漏れが生じている場合、蒸気漏れ量によっては、ディスク式スチームトラップ50の修理、交換等が必要になることがある。
【0033】
また、損傷に起因する密閉不良以外にも、外気温等の影響を受けてディスク式スチームトラップ50内に圧力変化等が生じ、ディスク弁60が排出経路の弁座57から浮き上がることに起因する空打ちによって蒸気漏れが生じることがある。
【0034】
蒸気漏れが生じた場合の振動の周波数は約40 kHzであるが、密閉不良による蒸気漏れの場合と空打ちによる蒸気漏れの場合とで、その振動レベルの発生形態は異なる。図4Aのグラフに示す波形L1は密閉不良による蒸気漏れの振動レベルの変動であり、図4Bのグラフに示す波形L2は空打ちによる蒸気漏れの振動レベルの変動である。
【0035】
[第1の実施形態]
本願に係るディスク式スチームトラップの蒸気漏れ検査装置及び蒸気漏れ検査方法の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態における検査器の断面図、図
2はこの検査器の検査処理のフローチャートである。
【0036】
図1に示すように、本実施形態における検査器は本体2と表示器40から構成されており、両者はケーブル41で接続されている。本体2の先端部分には検出針4と検出針保持部材6が設けられており、この検出針4の先端が検査対象物に押し付けられた際、検査対象物に検出針保持部材6の先端部分が接触するまで、検出針4が検出針保持部材6内で摺動して埋没するようになっている。そして、検出針保持部材6と本体2とはフロントカバー8によって連結されている。また、本体2の後端部分にはケーブル取出し口10を有するリヤキャップ11が取り付けられている。
【0037】
フロントカバー8と本体2とで形成する円筒状の内部スペースには、一端に振動板15が螺着された振動板取付け部材12が、保持板19によって保持されて配置されている。この振動板取付け部材12には、検出針4の後端が圧入されて接続・固定されている。振動板取付け部材12は、スプリングホルダー13によって本体2内に保持されている。そして、スプリングホルダー13内には、振動板取付け部材12との間にコイルスプリング20が設けられており、このコイルスプリング20の働きによって検出針4の検査対象物への押し付け力が一定に維持されるようになっている。
【0038】
なお、振動板15に対面する位置には超音波マイクロフォン14が設けられており、超音波マイクロフォン14の接続ピンは、検出信号を増幅するプリント基板16内へ結線している。そして、この超音波マイクロフォン14は、マイクホルダー18によって本体2内に保持されている。
【0039】
検出針4はほぼ円筒形状を有しており、先端に温度センサー24が設けられている。温度センサー24からの導線は、検出針4の中央に途中まで設けた導線孔25を通り、検出針保持部材6の縦穴7から、保持板19、スプリングホルダー13及びマイクホルダー18を連通する連通孔32を通じて、プリント基板16内に結線している。
【0040】
保持板19にはマイクロスイッチ30が取り付けられている。マイクロスイッチ30からの導線はプリント基板16内に結線する。マイクロスイッチ30は、振動板取付け部材12との距離が一定以上になればオンになり一定以下になればオフになる。このオン、オフが切りかわる距離は検出針4の先端が検出針保持部材6の先端まで押し込まれて埋没する位置である。
【0041】
なお、本体2に接続された表示器40は、プリント基板16から送信された各信号を取り込み所定の処理を実行する制御部46、液晶表示部48を備えて構成される。また、表示器40にはメモリ45が設けられており、このメモリ45には密閉不良用数式A1及び空打ち用数式A2が予め記憶されている。この密閉不良用数式A1及び空打ち用数式A2は、検出した振動信号に基づく値を代入することによって、蒸気の漏洩量を算出するための関数である。また、メモリ45には、密閉不良用判定値J1及び空打ち用判定値J2も予め記憶されている。
【0042】
以上のような構成を備える本実施形態における検査器は、次のように作動する。検出針4の先端の温度センサー24を検査対象物に押し当てると、検出針4がコイルスプリング20の付勢力に抗して検出針保持部材6の先端まで押し込まれて埋没し、この位置でマイクロスイッチ30がオンになり測定開始状態になる。
【0043】
温度センサー24からの温度信号が導線等を通じ直接、表示器40に取り込まれる。そして、同時に機械的振動が検出針4を通して振動板取付け部材12に伝わり振動板15を振動させ、この振動がマイクホルダー18内の空間を伝播して超音波マイクロフォン14に伝わり、振動信号としてプリント基板16を通して表示器40へ送られる。
【0044】
表示器40の制御部46が実行する検査処理を、図2のフローチャートに従って説明する。ディスク式スチームトラップ50(図3)の蒸気漏れの検査を行う場合、操作者は図1に示す検査器を持ち、検出針4の先端をディスク式スチームトラップ50の外部表面に押し当てて検出針4を埋没させる。これによって、マイクロスイッチ30がオンになり、制御部46はこのオン信号を受信して、まずタイマーによる計測を開始する(ステップS2)。
【0045】
そして、制御部46はケーブル41を通じ、15秒間、繰り返して振動信号を取り込んで振動レベルを検出し、そのピーク回数をKとしてメモリ45に記録する(ステップS4、S6)。本実施形態では、1秒間に1回、振動レベルの検出・把握を実行する。本実施形態において、振動レベルのピークとは、振動レベルが上昇から下降に転じた時点であり、かつその前後において振動レベルが例えば「20」以上、増加及び減少している時点である。
【0046】
15秒間の検出動作を実行した後、ステップS6からステップS8に進み、15秒間、検出した振動レベルの平均値Cを求める。そして、ステップS4で記録したピーク回数Kが予め設定されている基準値N以下か否かを判別する(ステップS10)。本実施形態においては、基準値Nは「0」に設定されている。
【0047】
今、仮にディスク式スチームトラップ50のディスク弁60や弁座57の上部開口の縁部に摩耗や変形等の損傷が発生し、排出経路の密閉不良による蒸気漏れが生じているとする。この場合の蒸気漏れに伴う振動レベルの変化は図4Aに示す波形L1として表れるため、制御部46がステップS4で記録したピーク回数Kは「0」回である。
【0048】
したがって、ステップS10からステップS12に進み、ここでまず制御部46はメモリ45から密閉不良用判定値J1を読み出し、ステップS8で求めた振動レベルの平均値CがJ1以下か否かを判別する。本実施形態においては、密閉不良用判定値J1は予め「40」に設定されている。
【0049】
図4Aに示す波形L1の平均値C1が「54」であるとすると、判定値J1「40」より大きいことから密閉不良による蒸気漏れが生じていると判断し、ステップS14に進みここで制御部46はメモリ45から密閉不良用数式A1を読み出す。そして、ステップS8で求めた振動レベルの平均値C(この場合C1=「54」)を数式A1に代入し漏洩量q1を算出する。その後、制御部46は液晶表示部48(図1)に蒸気漏れの種類として「密閉不良」を表示すると同時に、算出した漏洩量q1を表示する(ステップS16)。
【0050】
なお、ステップS12において、振動レベルの平均値CがJ1以下である場合、検出した振動はディスク弁60が正常に開放及び密閉の動作を行う際の振動の波形L9であると判断することができる。このため、ステップS12からステップS30に進み、液晶表示部48(図1)に「正常」を表示する。
【0051】
以上の処理に対し、ディスク式スチームトラップ50に空打ちによる蒸気漏れが生じている場合、その振動レベルの変化は図4Bに示す波形L2として表れる。波形L2には、振動レベルが上昇から下降に転じた時点であり、かつその前後において振動レベルが「20」以上、増加及び減少しているピークが生じているため、15秒間におけるピーク回数K(ステップS4、S6)は「1」以上の値として記録される。
【0052】
このため、ステップS10からステップS22に進み、制御部46はメモリ45から空打ち用判定値J2を読み出し、ステップS8で求めた振動レベルの平均値CがJ2以下か否かを判別する。本実施形態においては、空打ち用判定値J2は予め「28」に設定されている。
【0053】
図4Bに示す波形L2の平均値C2が「31」であるとすると、判定値J2「28」より大きいことから空打ちによる蒸気漏れが生じていると判断し、ステップS24に進みここで制御部46はメモリ45から空打ち用数式A2を読み出す。そして、ステップS8で求めた振動レベルの平均値C(この場合C2=「31」)を数式A2に代入し漏洩量q2を算出する。その後、制御部46は液晶表示部48(図1)に蒸気漏れの種類として「空打ち」を表示すると同時に、算出した漏洩量q2を表示する(ステップS16)。
【0054】
なお、ステップS22において、振動レベルの平均値CがJ2以下である場合、検出した振動はディスク弁60が正常に開放及び密閉の動作を行う際の振動の波形L9であると判断することができる。このため、ステップS22からステップS30に進み、液晶表示部48(図1)に「正常」を表示する。
【0055】
ここで、本実施形態において図4A図4Bに示した正常動作に伴う振動の波形L9はピーク回数が「0」である。したがって、ステップS10で1回以上のピーク回数があると判別した場合、これは正常動作ではなく、必ず空打ちが生じていると判断することもできるため、ステップS22の処理は省略可能である。しかし、ディスク式スチームトラップの設置状況等によっては、正常動作の場合にもノイズの混入等に起因して波形L9に小さい波形変動のピークが表れるケースがあり、ステップS22の処理を介在させることによって、このようなケースと空打ちに起因する振動とを区別することができる。
【0056】
以上のように、本実施形態ではディスク弁60の正常動作に伴う振動と蒸気漏れに伴う振動とを区別するための判定値を、異なる値の密閉不良用と空打ち用の複数の判定値J1、J2として予め用意し、メモリ45に記憶している。そして、空打ち用判定値J2(図4B)を正常動作に伴う振動レベル(波形L9)の平均値よりも大きくかつ直近の値「28」に設定することによって、正常動作に伴う振動と空打ちによる蒸気漏れに伴う振動(波形L2)とを正確に区別することができる。他方、密閉不良用判定値J1(図4A)を正常動作に伴う振動レベル(波形L9)の平均値よりも大きくかつ比較的離れた値「40」に設定することによって、ノイズ等の影響による誤判定を回避し、正常動作に伴う振動と密閉不良による蒸気漏れに伴う振動(波形L1)とを確実に別することができる。
【0057】
また、本実施形態における密閉不良用演算式A1及び空打ち用演算式A2の内容は、実験値や経験値に基づいて決定し、最良の数式を採用して予めメモリ45に記憶している。なお、本実施形態においては、演算式A1と演算式A2とは係数の値を異なるものとすることによって、異なる数式としている。
【0058】
なお、図3に示すように、ディスク式スチームトラップ内のディスク弁60は排出経路の開放及び密閉の動作を行うため、構造上、浮動可能に配置されていることから、ディスク式スチームトラップの設置状況等の影響を受けてディスク弁60に不安定な動きが生じることがある。このため、たとえばフロート式スチームトラップと比較し、ディスク式スチームトラップには様々な形態の蒸気漏れが発生し得る。したがって、蒸気漏れの種類、すなわち蒸気漏れを生じさせる状態・形態に対応した判定値や数式を複数種類用意し、これらを選択的に用いて検査を行うことによって、より確実・正確な蒸気漏れの検査を行うことができる。
【0059】
[その他の実施形態等]
第1の実施形態においては、上述のように振動レベルのピークの判定を、振動レベルが上昇から下降に転じた時点であり、かつその前後において振動レベルが「20」以上、増加及び減少している時点としたが、振動レベルが上昇から下降に転じた時点の前又は後において、振動レベルが「20」以上、増加又は減少のいずれか一方のみが認められる時点を振動レベルのピークと判定することもできる。また、蒸気漏れの種類を判別することができる限り、増加又は減少の幅を「20」とは異なる数値を採用してもよい。
【0060】
さらに、第1の実施形態においては、密閉不良と空打ちの二種類の蒸気漏れを判別したが、他の実施形態として、三種類以上の判定値Jや数式Aを用意し、三種類以上の蒸気漏れを判別することもできる。
【符号の説明】
【0061】
4:検出針 14:超音波マイクロフォン 15:振動板 45:メモリ
46:制御部 60:ディスク弁 A1:密閉不良用数式 A2:空打ち用数式
J1:密閉不良用判定値 J2:空打ち用判定値

図1
図2
図3
図4A
図4B