特許第6836474号(P6836474)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6836474可撓性マンドレル、複合材部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836474
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】可撓性マンドレル、複合材部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20210222BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   B29C70/54
   B29C33/38
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-150650(P2017-150650)
(22)【出願日】2017年8月3日
(65)【公開番号】特開2019-25870(P2019-25870A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2019年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆之
(72)【発明者】
【氏名】奥田 晃久
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 了太
(72)【発明者】
【氏名】真能 翔也
(72)【発明者】
【氏名】清水 正彦
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−532000(JP,A)
【文献】 特開2012−131080(JP,A)
【文献】 特表2008−521645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00−70/88
B29C 33/00−33/76
B29C 43/00−43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を含む複合材を成形するための可撓性マンドレルであって、
第1の材料を含む本体と、
前記第1の材料より高い熱伝導率を有する第2の材料を含み、前記本体の少なくとも一部を覆うように形成された熱伝導層と、
を備え、
前記熱伝導層は、前記可撓性マンドレルのうち成形時に前記複合材に接触する接触面から前記複合材に接触しない非接触面に至るように延在し、
前記第2の材料は繊維方向における熱伝導率が他の方向に比べて優れるように熱伝導性に異方性を有する繊維材料を含み、
前記第2の材料は、前記繊維方向が前記接触面から前記非接触面に向かうように構成される、可撓性マンドレル。
【請求項2】
前記熱伝導層は前記本体の周方向全体を囲む、請求項1に記載の可撓性マンドレル。
【請求項3】
前記繊維材料はPITCH系CFRPである、請求項1又は2に記載の可撓性マンドレル。
【請求項4】
前記第1の材料はPAN系CFRPである、請求項1から3のいずれか一項に記載の可撓性マンドレル。
【請求項5】
前記熱伝導層は2mm未満の厚さを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の可撓性マンドレル。
【請求項6】
前記本体には内側に向けて少なくとも一つの穴部が形成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の可撓性マンドレル。
【請求項7】
前記穴部は前記本体のうち前記非接触面側に設けられる、請求項6に記載の可撓性マンドレル。
【請求項8】
前記穴部を充填する充填材を更に備え、
前記充填材は前記第1の材料より高い熱伝導率を有する、請求項6又は7に記載の可撓性マンドレル。
【請求項9】
一対の可撓性マンドレルを用いて熱硬化性樹脂を含む複合材を成形することにより、複合材部品を製造するための方法であって、
第1の材料を用いて、前記可撓性マンドレルの本体を形成する工程と、
前記第1の材料より高い熱伝導率を有する第2の材料を用いて、前記可撓性マンドレルのうち成形時に前記複合材に接触する接触面から前記複合材に接触しない非接触面に至るまで、前記本体の少なくとも一部を覆うように熱伝導層を形成する工程と、
前記熱伝導層が形成された前記可撓性マンドレルの間に前記複合材を介在させ、熱硬化処理を実施する工程と、
を備え、
前記第2の材料は繊維方向における熱伝導率が他の方向に比べて優れるように熱伝導性に異方性を有する繊維材料を含み、
前記熱伝導層は、前記繊維方向が前記接触面から前記非接触面に向かうように形成される、複合材部品の製造方法。
【請求項10】
前記本体に前記熱伝導層を形成する前に、前記本体の内側に向けて穴部を形成する工程を更に備える、請求項9に記載の複合材部品の製造方法。
【請求項11】
前記熱伝導層は金属材料を溶射することにより形成される、請求項9又は10に記載の複合材部品の製造方法。
【請求項12】
一対の可撓性マンドレルを用いて熱硬化性樹脂を含む複合材を成形することにより、複合材部品を製造するための方法であって、
第1の材料を用いて、前記可撓性マンドレルの本体を形成する工程と、
前記第1の材料より高い熱伝導率を有する第2の材料を用いて、前記可撓性マンドレルのうち成形時に前記複合材に接触する接触面から前記複合材に接触しない非接触面に至るまで、前記本体の少なくとも一部を覆うように熱伝導層を形成する工程と、
前記熱伝導層が形成された前記可撓性マンドレルの間に前記複合材を介在させ、熱硬化処理を実施する工程と、
を備え、
前記熱伝導層は金属材料を溶射することにより形成される、複合材部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材部品を成形するために用いられる可撓性マンドレル及び、当該可撓性マンドレルを用いた複合材部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスティック(CFRP:carbon fiber reinforced plastic)に代表される複合材は、一般的な金属材に比べて強度・剛性に優れており、軽量化が要求される航空機や宇宙機器等の構造に多く利用されている。CFRPでは主にエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂が使用されており、複合材を高温高圧のオートクレーブと呼ばれる容器内で熱硬化することにより、成形が行われる。
【0003】
このような複合材部品の一例として、航空機に使用される板材を補強するためのストリンガがある。ストリンガは機体設計によって輪郭やねじりを含む複雑な形状を有しており、例えばI型の断面形状を有する。このようなストリンガは、型材である一対のマンドレルの間に半硬化状態の柔らかいCFRPシート(複合材)を積層した後に、真空バッグで全体を囲うことで内部の空気を排除し、複合材とマンドレルとを密着させて熱硬化処理を行うことで成形される。
【0004】
特許文献1では、このようなストリンガを成形するために用いられる金属製のマンドレルにおいて、深さ方向に溝を形成することで良好な可撓性を実現し、複雑な形状(輪郭やねじり)に対応可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4896035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のように熱硬化性樹脂を含む複合材の成形に用いられるマンドレルは、成形対象である複合材に比べて熱容量も大きくなる。そのため、成形対象である複合材に対して熱硬化処理を実施する際に、十分に昇温するために多くの時間を要しており、部品製造レートの低下や、熱硬化処理で消費される電力増加によってコスト増を招く要因となっている。
【0007】
またストリンガのような複雑な形状を有する複合材部品の成形に用いられるマンドレルは、自身も軽量で可撓性を有するCFRPで形成されることがある。この場合、マンドレル自身の可撓性を確保しながら上記課題を解決する必要がある。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、良好な可撓性を確保しつつ、熱硬化性樹脂を含む複合材を熱硬化処理時する際の昇温を促進することにより、部品製造レートを向上させ、コスト低減を達成可能な可撓性マンドレル及び複合材部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る可撓性マンドレルは上記課題を解決するために、熱硬化性樹脂を含む複合材を成形するための可撓性マンドレルであって、第1の材料を含む本体と、前記第1の材料より高い熱伝導率を有する第2の材料を含み、前記本体の少なくとも一部を覆うように形成された熱伝導層と、を備え、前記熱伝導層は、前記可撓性マンドレルのうち成形時に前記複合材に接触する接触面から前記複合材に接触しない非接触面に至るように延在する。
【0010】
上記(1)の構成によれば、第1の材料を含む本体部の少なくとも一部は、第1の材料より高い熱伝導率を有する第2の材料を含む熱伝導層によって覆われる。このような熱伝導層は接触面から非接触面に至るように延在するため、熱硬化処理時に外部から供給される熱量は、熱伝導層を介して成形対象である複合材に効果的に伝達される。そのため熱硬化処理に昇温に必要な時間を短縮でき、部品製造レートを向上させ、コスト低減を達成できる。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では上記(1)の構成において、前記熱伝導層は前記本体の周方向全体を囲む。
【0012】
上記(2)の構成によれば、熱硬化処理時に外部から供給される熱量をより効果的に複合材に伝達できる。
【0013】
(3)幾つかの実施形態では上記(1)又は(2)の構成において、前記第2の材料はPITCH系CFRPである。
【0014】
上記(3)の構成によれば、熱伝導層を形成する第2の材料としてPITCH系CFRPが用いられる。PITCH系CFRPは比較的高価な材料であるが、本体に比べて熱伝導層は薄いため、コストを抑えながら効率的な熱伝導を実現できる。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では上記(3)の構成において、前記PITCH系CFRPは前記接触面から前記非接触面に向かう繊維方向を有する。
【0016】
PITCH系CFRPの熱伝導率は異方性を有しており、繊維方向における熱伝導率が優れている。上記(4)の構成によれば、熱伝導層に含まれるPITCH系CFRPは、繊維方向が接触面から非接触面に向かうため、熱硬化処理の実施時に外部から供給される熱量は、成形対象である複合材に対して良好に伝達される。
【0017】
(5)幾つかの実施形態では上記(1)又は(2)の構成において、前記第2の材料は金属である。
【0018】
上記(5)の構成によれば、熱伝導層に含まれる第2の材料として、良好な熱伝導率を有する金属を用いてもよい。この場合、熱伝導層に含まれる金属の厚さは、成形時に要求される可撓性を阻害しないような厚さに設定されるとよい。
【0019】
(6)幾つかの実施形態では上記(1)から(5)のいずれか一構成において、前記第1の材料はPAN系CFRPである。
【0020】
上記(6)の構成によれば、可撓性マンドレルの大部分の容積を占める本体を構成する第1の材料として、比較的安価で良好な可撓性を有するPAN系CFRPが用いられる。
【0021】
(7)幾つかの実施形態では上記(1)から(6)のいずれか一構成において、前記熱伝導層は2mm未満の厚さを有する。
【0022】
上記(7)の構成によれば、熱伝導層の厚さを上記範囲に設定することで、マンドレルに要求される可撓性を十分に確保しながら、熱伝導層による昇温時間の短縮を達成できる。
【0023】
(8)幾つかの実施形態では上記(1)から(7)のいずれか一構成において、前記本体には内側に向けて少なくとも一つの穴部が形成される。
【0024】
上記(8)の構成によれば、可撓性マンドレルの本体に穴部が形成されることにより、可撓性マンドレルの熱容量を低減させられる。これにより、熱硬化処理の昇温に必要な時間を更に短縮できる。
【0025】
(9)幾つかの実施形態では上記(8)の構成において、前記穴部は前記本体のうち前記非接触面側に設けられる。
【0026】
上記(9)の構成によれば、成形時に複合材と接触しない非接触面に穴部を設けることで、接触面では複合材との接触状態を確保して良好な熱伝導を確保しつつ、可撓性マンドレルの熱容量を低減することで、熱硬化処理時の昇温時間をより効果的に短縮できる。
【0027】
(10)幾つかの実施形態では上記(8)又は(9)の構成において、前記穴部を充填する充填材を更に備え、前記充填材は前記第1の材料より高い熱伝導率を有する。
【0028】
上記(10)の構成によれば、充填材として本体に比べて高い熱伝導率を有する充填剤が穴部に充填されることで、可撓性マンドレルの熱伝導性を更に向上できる。これにより、加熱硬化処理時の昇温を、より迅速に行うことができる。
【0029】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る複合材部品の製造方法は上記課題を解決するために、一対の可撓性マンドレルを用いて熱硬化性樹脂を含む複合材を成形することにより、複合材部品を製造するための方法であって、第1の材料を用いて、前記可撓性マンドレルの本体を形成する工程と、前記第1の材料より高い熱伝導率を有する第2の材料を用いて、前記可撓性マンドレルのうち成形時に前記複合材に接触する接触面から前記複合材に接触しない非接触面に至るまで、前記本体の少なくとも一部を覆うように熱伝導層を形成する工程と、前記熱伝導層が形成された前記可撓性マンドレルの間に前記複合材を介在させ、熱硬化処理を実施する工程と、を備える。
【0030】
上記(11)の方法によれば、上述の可撓性マンドレル(上記各種形態を含む)を用いることで、良好な可撓性を確保しつつ、熱硬化性樹脂を含む複合材に対して熱硬化処理を実施する際に、昇温を促進できる。
【0031】
(12)幾つかの実施形態では上記(11)の方法において、前記本体に前記熱伝導層を形成する前に、前記本体の内側に向けて穴部を形成する工程を更に備える。
【0032】
上記(12)の方法によれば、本体に対して穴部を形成した後に熱伝導層を形成することで、熱硬化性樹脂を含む複合材に対して熱硬化処理を実施する際に、より効果的に熱伝導が可能な可撓性マンドレルを製造できる。
【0033】
(13)幾つかの実施形態では上記(11)又は(12)の方法において、前記熱伝導層は金属材料を溶射することにより形成される。
【0034】
上記(13)の方法によれば、熱伝導層を金属材料から形成する場合には、溶射を用いることで、マンドレルの仕様として要求される可撓性を有する熱伝導層を好適に形成できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、良好な可撓性を確保しつつ、熱硬化性樹脂を含む複合材を熱硬化処理時する際の昇温を促進することにより、部品製造レートを向上させ、コスト低減を達成可能な可撓性マンドレル及び複合材部品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の少なくとも一実施形態に係る可撓性マンドレルを示す斜視図である。
図2図1の断面図である。
図3図2の第1変形例である。
図4図2の第2変形例である。
図5】本発明の少なくとも一実施形態に係る複合材部品2の製造方法を工程毎に示すフローチャートである。
図6】I型断面を有する複合材部品2を成形するためのCFRPシートの組み合わせパターンを示す模式図である。
図7】熱硬化処理時における図1及び図2の可撓性マンドレルの内部温度とオートクレープ内の雰囲気温度の時間経過を示す測定結果である。
図8】熱硬化処理時における図3の可撓性マンドレルの内部温度とオートクレープ内の雰囲気温度の時間経過を示す測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
また例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0038】
以下の実施形態では、複合材として、炭素繊維を樹脂で強化された炭素繊維強化プラスティック(CFRP:carbon fiber reinforced plastic)であって、主にエポキシ樹脂をはじめ、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノール、シアネートエステル、ポリイミドのような熱硬化性樹脂を含むことにより、熱硬化処理によって成形が可能な材料を例に説明する。
尚、複合材の強化繊維は、炭素繊維以外にもガラス繊維、ボロン繊維、アラミド繊維なども同様に適用可能である。
【0039】
また以下の実施形態では、複合材を成形することで得られる複合材部品として、航空機に使用される板材を補強するためのストリンガを例示するが、技術的思想が共通する範囲において、種々の部品に適合可能である。特に、強度・剛性とともに軽量化が要求される航空機や宇宙機器等の構造に利用可能である。
【0040】
(可撓性マンドレル)
まず複合材部品の成形に用いられる可撓性マンドレルの構成について説明する。図1は本発明の少なくとも一実施形態に係る可撓性マンドレル1を示す斜視図であり、図2図1の断面図である。図1及び図2では、同形状を有する一対の可撓性マンドレル1(以下、それぞれを区別して述べる場合には、それぞれ「第1の可撓性マンドレル1A」及び「第2の可撓性マンドレル1B」と称する)とともに、成形対象物である複合材部品2がともに示されている。
【0041】
可撓性マンドレル1は、複合材部品2を成形するための型材であり、成形対象物である複合材部品2に対応する形状を有する。本実施形態では、複合材部品2の一例としてI型断面を有し、長手方向に延在する形状を有する航空機ストリンガが示されている。第1の可撓性マンドレル1A及び第2の可撓性マンドレル1Bは同形状を有しており、図1では、それらの間に複合材部品2の材料となる複合材を配置して成形が行われる様子が示されている。
【0042】
可撓性マンドレル1は、本体3と、本体3の少なくとも一部を覆うように形成された熱伝導層7と、を備える。本体3は、複合材部品2を成形するための型材であり、成形対象物である複合材部品2に対応する形状を有する。本実施形態では、複合材部品2の一例としてI型断面を有し、長手方向に延在する形状を有する航空機ストリンガが示されている。第1の可撓性マンドレル1A及び第2の可撓性マンドレル1Bは同形状を有しており、図1では、それらの間に複合材部品2の材料となる複合材を配置して成形が行われる様子が示されている。
【0043】
図2に示されるように、可撓性マンドレル1の本体3は、熱伝導層7を介して複合材部品2に接触する接触面4、及び、熱伝導層7を介して複合材部品2に接触しない非接触面6を含む。このうち接触面4は、上述したように、複合材部品2を成形するために複合材部品2に対応する形状を有するが、非接触面6は任意の形状を有してもよい。
【0044】
本体3は第1の材料を含む。第1の材料は、熱硬化処理を実施する際に、外部から供給される熱量を複合材部品2に対して伝達するために、熱伝導性材料を含む。また本体3の材料は、複合材部品2の仕様形状に応じて変形可能な可撓性を有する。このような第1の材料として、例えば、複合材(CFRP)が使用可能であり、特に、比較的コストが安いPAN系CFRPを用いることができる。
【0045】
熱伝導層7は、本体3の少なくとも一部を覆うように形成されており、本実施形態では特に、本体3の周方向全体を囲んでいる。このような熱伝導層7は、本体3に含まれる第1の材料に比べて高い熱伝導率を有する第2の材料を含んでおり、図2に示されるように、本体3の接触面4から非接触面6に至るように延在する。熱伝導層7の一部は雰囲気中に露出するため、可撓性マンドレル1が高温高圧のオートクレープ内で加熱された際に、外部雰囲気からの熱量が熱伝導層7を介して、当該熱伝導層7に接触する複合材部品2に伝達される。そのため、熱伝導層7を有さない可撓性マンドレルに比べて、熱硬化処理時の昇温に必要な時間を短縮できる。
【0046】
熱伝導層7は、可撓性マンドレル1の基本的形状を画定する本体3に比べて薄く形成される。熱伝導層7の厚さは、可撓性マンドレル1の基本的形状に影響を与えない範囲が好ましく、例えば、2mm以下である。また熱伝導層7に含まれる第2の材料として、例えばPITCH系CFRPが使用可能である。PITCH系CFRPは、PAN系CFRPに比べて高価であるが、熱伝導層7は本体3に比べて薄いため、コストが大幅に増加することもない。
【0047】
熱伝導層7に含まれる第2の材料としてPITCH系CFRPを採用した場合、PITCH系CFRPの熱伝導率は繊維方向に対して異方性を有するため、繊維方向が接触面4から非接触面6に向かう方向になるように形成するとよい。これにより、接触面4から非接触面6に向かう方向における熱伝達が向上するため、外部雰囲気から複合材部品2への熱伝達を、より効果的に向上できる。
【0048】
またPITCH系CFRPは繊維方向に沿った変形に対する耐久性に優れる。そのため、繊維方向が接触面4から非接触面6に向かう方向になるように熱伝導層7を形成することで、可撓性マンドレル1が変形した際に、熱伝導層7に割れやヒビを生じることがなく、柔軟に対応できる。つまり本体3に熱伝導層7を設けた際においても、可撓性マンドレル1の可撓性を良好に確保できる。
【0049】
尚、熱伝導層7は金属材料を溶射することにより形成されてもよい。金属材料は上述のPITCH系CFRPに比べて高剛性であるが、溶射によって十分薄い熱伝導層として形成することで、要求される可撓性を確保可能である。
【0050】
図3図2の第1変形例である。第1変形例に係る可撓性マンドレル1は、本体3の内側に向けて形成された少なくとも一つの穴部8を有する。この種の可撓性マンドレルは、典型例には、中実のバルク体からなるが、この場合、成形対象物である複合材部品2に比べてマンドレル本体の熱容量が大きくなりがちであり、熱硬化処理時の昇温に時間を要してしまう。その点、第1変形例に係る可撓性マンドレル1では、本体3に穴部8が形成されることで、可撓性マンドレル1の熱容量を低減できるので、熱硬化処理時の昇温を促進できる。
【0051】
ここで第1変形例では特に、穴部8は本体3のうち非接触面6に開口されている。そのため、接触面4では複合材部品2との接触状態が確保され、複合材部品2に対して良好な熱伝達が可能となる。
【0052】
穴部8は、有底の非貫通穴として形成されている。穴部8の深さは任意でよいが、例えば、接触面4及び非接触面6間の距離Lの60%〜90%の深さを有する。穴部8の深さを当該範囲に設定することで、可撓性マンドレル1の熱容量を的確に低減し、複合材部品2への良好な熱伝導が可能である。
【0053】
尚、穴部8は貫通穴として形成されてもよい。また図3の穴部8は略ストレート形状を有しているが、例えば本体3の内部において湾曲形状を有してもよい。
【0054】
また第1変形例では、穴部8は複数設けられている。このように複数の穴部8を設けることにより、穴部8が単一しか設けられていない場合に比べて、可撓性マンドレル1の可撓性及び剛性を的確に確保しつつ、熱容量を効果的に低減できる。
【0055】
また第1変形例では、複数の穴部8は、均一な分布を有している。このように穴部8が均一に分布する領域では、その領域全体に亘って熱容量が一定の割合で減少するため、熱硬化処理時に複合材に対して均一に熱量を供給でき、良好な品質の成形が可能となる。
【0056】
尚、複数の穴部8は不均一に形成されていてもよい。この場合、穴部8の分布はランダムでもよいが、例えば可撓性マンドレル1が複合材部品2の形状に応じて変形された際に、所定の温度分布、応力分布等が実現されるように、複合材部品2の形状に応じて設定されてもよい。これにより、熱硬化処理時に、複合材部品2に対して伝達される熱量をコントロールすることができ、良質な品質の成形が可能となる。
【0057】
図4図2の第2変形例である。第2変形例では、第1変形例の穴部8に対して、本体3に比べて高い熱伝導率を有する材料を含む充填材12が充填される。穴部8に充填される充填材12によって本体3の熱伝導性を更に向上でき、より迅速な昇温が可能となる。充填材12の材料としては、例えば金属発泡体が有用であり、具体的には発泡アルミニウムのように、軽量であり、且つ、熱伝導率に優れた材料が好ましい。
【0058】
(複合剤部品の製造方法)
続いて上記構成を有する可撓性マンドレル1を用いた複合材部品2の製造方法について説明する。図5は、本発明の少なくとも一実施形態に係る複合材部品2の製造方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0059】
まず所定の材料を用いて可撓性マンドレル1の本体3を形成する(ステップS1)。ここで本体3の材料は、上述したように、熱硬化処理時に、外部から供給される熱量を複合材部品2に伝達可能な熱伝導性を有するとともに、複合材部品2の仕様形状に応じて変形可能な可撓性を有する材料であり、例えば、複合材(PAN系CFRP)が用いられる。
このような本体3は、例えば略直方体形状の中実なバルク体として形成される。
【0060】
続いてステップS1で形成された本体3を少なくとも部分的に囲むように熱伝導層7を形成する(ステップS2)。熱伝導層7は、本体3に含まれる第1の材料に比べて高い熱伝導率を有する第2の材料、例えばPITCH系CFRPから形成される。熱伝導層7の厚さは、可撓性マンドレル1の基本的形状に対して影響を与えない程度であり、例えば、2mm以下に設定される。またPITCH系CFRPのように熱伝導性に異方性を有する材料の場合、繊維方向が接触面4から非接触面6に向かう方向になるように形成される。
尚、第2の材料として金属材料が用いられる場合には、熱伝導層7は例えば溶射によって形成される。
【0061】
ここで上述の変形例(図3及び図4を参照)のように、本体3に穴部8を設ける場合には、ステップS2で熱伝導層7を形成する前に、本体3に対して切削のような機械加工を行うとよい。またステップS1で本体3を形成する際に、同時に穴部8を形成してもよい(例えば本体3と穴部8とを一体的に形成してもよい)。
【0062】
また上述の第2変形例のように、本体3に形成された穴部8に充填材12が充填される場合、充填材12の充填作業もまた、ステップS2で熱伝導層7を形成する前に行われるとよい。充填材12は、本体3に比べて高い熱伝導率を有する材料を含んでもよく、例えば発泡アルミニウムのような金属発泡体が使用可能である。
【0063】
続いて、このように完成した可撓性マンドレル1を用いて、複合材部品2の成形が進められる。上述の可撓性マンドレル1を一対用意し(ステップS3)、それらの間に複合材部品2の材料となる複合材を配置する(ステップS4)。ここで使用される複合材は、例えば半硬化状態の柔らかなCFRPシートであり、複合材部品2の形状に応じて組み合わされる。
【0064】
図6はI型断面を有する複合材部品2を成形するためのCFRPシートの組み合わせパターンを示す模式図である。図1に示されるようなI型断面を有する複合材部品2を成形する場合には、例えば、第1の可撓性マンドレル1Aの接触面4を覆う第1シート2Aと、第2の可撓性マンドレル1Bの接触面4を覆う第2シート2Bと、第1シート2A及び第2シート2Bにわたって上方から覆う第3のシート2Cと、第1シート2A及び第2シート2Bにわたって上方から覆う第4のシート2Dと、が組み合わされる。
【0065】
続いて、一対の可撓性マンドレル1の間に複合材を配置させた状態で、全体をバッグ材で覆い、内部の空気を排出することにより真空バッグ処理を実施する(ステップS5)。続いて真空バッグ処理が施された状態で、複合材が間に配置された一対の可撓性マンドレル1に対して熱硬化処理を行う(ステップS6)。熱硬化処理は高温高圧のオートクレープ内で行われる。オートクレープ内の雰囲気温度が上昇すると、可撓性マンドレル1を介して伝達された熱量によって複合材が加熱される。
【0066】
ここで図7は、熱硬化処理時における図1及び図2の可撓性マンドレル1の内部温度とオートクレープ内の雰囲気温度の時間経過を示す測定結果である。図7では、破線はオートクレープ内の雰囲気温度を示しており、時間の経過とともに目標温度T0まで次第に増加する様子が示されている。このように雰囲気温度が変化するに従って、可撓性マンドレル1の内部温度も追従するように増加する。測定結果(実線)は熱伝導層7を有さない比較例(熱伝導層7を有さないことを除いて、図1及び図2の可撓性マンドレル1と同一のもの)に係る計測結果であり、測定結果(一点鎖線)は穴部8が形成された本実施形態の可撓性マンドレル1に係る計測結果である。図7に示されるように、本実施形態は比較例に比べて目標温度T0に到達する時間が約48分ほど早い結果が得られた。これは、本実施形態に係る可撓性マンドレル1は熱伝導層7を有することにより、迅速に昇温が可能であることを示している。
【0067】
また図8は熱硬化処理時における図3の可撓性マンドレル1の内部温度とオートクレープ内の雰囲気温度の時間経過を示す測定結果である。図8では、破線はオートクレープ内の雰囲気温度を示しており、時間の経過とともに目標温度T0まで次第に増加する様子が示されている。このように雰囲気温度が変化するに従って、可撓性マンドレル1の内部温度も追従するように増加する。測定結果(実線)は熱伝導層7を有さない比較例(熱伝導層7及び穴部8を有さないことを除いて、図3の可撓性マンドレル1と同一のもの)に係る計測結果であり、測定結果(一点鎖線)は穴部8が形成された本実施形態の可撓性マンドレル1に係る計測結果である。図8示されるように、本実施形態(図3)は比較例に比べて目標温度T0に到達する時間が約75分ほど早い結果が得られた。これは、本実施形態に係る可撓性マンドレル1は熱伝導層7を有することにより、更に迅速に昇温が可能であることを示している。
【0068】
ステップS6の熱硬化処理では、このように目標温度に昇温された状態が所定時間維持されることで、複合材の熱硬化が進行し、複合材部品2の成形が行われる。熱硬化処理が完了すると、バッグ材を解放し、内部から完成した複合材部品2が取り出される(ステップS7)。
【0069】
以上説明したように本発明の少なくとも一実施形態によれば、可撓性マンドレルの本体のうち非接触面に非貫通孔を形成することで、可撓性マンドレルの熱容量を低下させ、熱硬化処理に昇温に必要な時間を短縮でき、良好な部品製造レート及びコスト低減を達成できる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の少なくとも一実施形態は、CFRP等の複合材を含む複合材部品を成形するために用いられる可撓性マンドレル及び、当該可撓性マンドレルを用いた複合材部品の製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 可撓性マンドレル
2 複合材部品
3 本体
4 接触面
6 非接触面
7 熱伝導層
8 穴部
12 充填材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8