特許第6836645号(P6836645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グンゼ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000002
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000003
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000004
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000005
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000006
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000007
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000008
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000009
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000010
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000011
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000012
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000013
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000014
  • 特許6836645-導電性複合シート 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836645
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】導電性複合シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/025 20190101AFI20210222BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20210222BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20210222BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20210222BHJP
   D02G 3/38 20060101ALI20210222BHJP
   A61B 5/256 20210101ALI20210222BHJP
【FI】
   B32B7/025
   B32B27/12
   D02G3/04
   D02G3/36
   D02G3/38
   A61B5/04 300M
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-507516(P2019-507516)
(86)(22)【出願日】2018年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2018008729
(87)【国際公開番号】WO2018173749
(87)【国際公開日】20180927
【審査請求日】2019年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-54658(P2017-54658)
(32)【優先日】2017年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 孝臣
(72)【発明者】
【氏名】中村 太
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭49−032174(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3204003(JP,U)
【文献】 特開2016−000364(JP,A)
【文献】 特開平10−144168(JP,A)
【文献】 特開2014−237060(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/115441(WO,A1)
【文献】 特開2014−108134(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0194792(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0359485(US,A1)
【文献】 特開2017−046913(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3195050(JP,U)
【文献】 特開2007−191811(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0278671(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/129887(WO,A1)
【文献】 実開昭63−158310(JP,U)
【文献】 国際公開第2016/114298(WO,A1)
【文献】 特開2010−255157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
A41D 13/00
A61B 5/256
D02G 3/04
D02G 3/36−3/38
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛に装着される導電性複合シートであって、
伸縮性を備えた熱可塑性樹脂シートと、
前記熱可塑性樹脂シートの一方の面に所望のパターンで配され、伸縮性芯糸に金属被覆糸を巻き付けたカバリング糸で構成された導電糸と、
を備え、
前記導電糸の外表面の一部が長手方向に沿って前記熱可塑性樹脂シートに埋没するように熱融着固定されている導電性複合シート。
【請求項2】
前記導電糸の前記熱可塑性樹脂シートへの埋没量が、前記導電糸の長手方向に沿って部分的に大きく設定された領域を備えている請求項1記載の導電性複合シート。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂シートの上面で露出する前記導電糸を被覆するように、撥水生地または防水生地でなる被覆地が前記熱可塑性樹脂シートに接着されている請求項1または2記載の導電性複合シート。
【請求項4】
前記導電糸は絶縁性の樹脂材料により被覆されている請求項1または2記載の導電性複合シート。
【請求項5】
請求項1記載の導電性複合シートの製造方法であって、
所望のスリットパターンが形成された型枠の一方の面に粘着シートを貼り付ける工程と、
前記型枠の他方の面から前記スリットパターンに沿って前記導電糸を配置して前記粘着シートに保持させる工程と、
前記導電糸を配置した前記型枠を前記熱可塑性樹脂シートに重畳して、前記型枠の上から前記熱可塑性樹脂シートの溶融温度以上の加熱板により押圧加熱する工程と、
前記熱可塑性樹脂シートから前記型枠及び前記粘着シートを除去する工程と、
を備えている導電性複合シートの製造方法。
【請求項6】
請求項2記載の導電性複合シートの製造方法であって、
所望のスリットパターンであって、一部に切残しによる不連続部を有するスリットパターンが形成された型枠の一方の面に粘着シートを貼り付ける工程と、
前記型枠の他方の面から前記スリットパターンに沿って前記導電糸を配置して前記粘着シートに保持させる工程と、
前記導電糸を配置した前記型枠を前記熱可塑性樹脂シートに重畳して、前記型枠の上から前記熱可塑性樹脂シートの溶融温度以上の加熱板により押圧加熱する工程と、
前記熱可塑性樹脂シートから前記型枠及び前記粘着シートを除去する工程と、
を備えている導電性複合シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体温、心拍数、心電図、筋電図などの生体情報を計測するウェアラブルデバイス用の衣服に装着される導電性複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣服などに装着することにより様々な生体情報を計測するウェアラブルデバイスが注目されている。この様なウェアラブルデバイスは衣服に装着され、さらに計測ポイントに配された電極とウェアラブルデバイスとの間を電気的に接続する配線部材が衣服に組み込まれている。
【0003】
特許文献1には、伸長されても高い導電性を保持する導電性布帛が開示されている。当該導電性布帛は、布帛の上に配線が設けられた導電性布帛で、配線は布帛の上に形成された第1絶縁層と、第1絶縁層の上に設けられた導電層と、導電層の上に設けられた第2絶縁層を含み、配線の長手方向へ100%伸長時の抵抗変化倍率が0%伸長時の100倍以下になるように構成されている。
【0004】
そして、当該導電層は、導電性フィラーと樹脂を含有する導電性ペーストを第1絶縁層に塗布または印刷することにより構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2016/114339号公報
【特許文献2】WO2016/114298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された導電性布帛は、所望の伸縮性を確保するとともに伸長時にクラックが生じないように、導電性フィラーの添加量を適正に管理する必要があり、しかも着心地の悪化を招くことがないように印刷時の膜厚も適正に管理する必要があり、煩雑な製造工程の管理が要求されていた。
【0007】
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、十分な伸縮性を備え、しかも布帛へ装着した場合に良好な肌触りを確保することができる導電性複合シートを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明による導電性複合シートの第一の特徴構成は、布帛に装着される導電性複合シートであって、伸縮性を備えた熱可塑性樹脂シートと、前記熱可塑性樹脂シートの一方の面に所望のパターンで配され、伸縮性芯糸に金属被覆糸を巻き付けたカバリング糸で構成された導電糸と、を備え、前記導電糸の外表面の一部が長手方向に沿って前記熱可塑性樹脂シートに埋没するように熱融着固定されている点にある。
【0009】
可塑性樹脂シートの一方の面上に配された導電糸によって所定の配線パターンが形成される。導電糸を用いることにより高い自由度で所望の湾曲形状や屈曲形状を実現することができる。仮に折り曲げられても導電糸は容易に破断することがなく、布帛に装着された場合でも肌触りの悪化を招くことがない良好で信頼性の高い導電性複合シートが得られる。そして、導電糸の外表面の一部が長手方向に沿って熱可塑性樹脂シートに埋没するように熱融着固定されているため、導電糸と熱可塑性樹脂シートとが強固に固定された状態で熱可塑性樹脂シートとともに導電糸が伸縮し、導電糸が熱可塑性樹脂シートから容易に離脱するようなことがない。
【0010】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記導電糸の前記熱可塑性樹脂シートへの埋没量が、前記導電糸の長手方向に沿って部分的に大きく設定された領域を備えている点にある。
【0011】
熱可塑性樹脂シートへの導電糸の埋没量が大きく設定された部分ではそれだけ導電糸の固定強度が確保できるので、導電糸の長手方向に沿って全域の埋設量を大きくする必要がなくなる。
【0012】
同第三の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記熱可塑性樹脂シートの上面で露出する前記導電糸を被覆するように、撥水生地または防水生地でなる被覆地が前記熱可塑性樹脂シートに接着されている点にある。
【0013】
着用者の発汗などによって導電糸同士の短絡を回避することができ、着用感を良好にできる。
【0014】
同第四の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記導電糸は絶縁性の樹脂材料により被覆されている点にある。
【0015】
導電糸が絶縁性の樹脂材料により被覆されていれば、別途の被覆材を用いることなく、着用者の発汗などによって導電糸同士の短絡を回避することができる。
【0017】
本発明による導電性複合シートの製造方法の第一の特徴構成は、上述した第一の特徴構成を備えた導電性複合シートの製造方法であって、所望のスリットパターンが形成された型枠の一方の面に粘着シートを貼り付ける工程と、前記型枠の他方の面から前記スリットパターンに沿って前記導電糸を配置して前記粘着シートに保持させる工程と、前記導電糸を配置した前記型枠を前記熱可塑性樹脂シートに重畳して、前記型枠の上から前記熱可塑性樹脂シートの溶融温度以上の加熱板により押圧加熱する工程と、前記熱可塑性樹脂シートから前記型枠及び前記粘着シートを除去する工程と、を備えている点にある。
【0018】
スリットパターンに沿って導電糸を配置して粘着シートに保持させることにより正確に導電糸を所望のパターンに配することができ、導電糸を配置した型枠を熱可塑性樹脂シートに重畳して、型枠の上から熱可塑性樹脂シートの溶融温度以上の加熱板により押圧加熱することにより、導電糸の外表面を長手方向に沿って均一に熱可塑性樹脂シートに埋没するように融着固定することができる。
【0019】
同第二の特徴構成は、上述した第二の特徴構成を備えた導電性複合シートの製造方法であって、所望のスリットパターンであって、一部に切残しによる不連続部を有するスリットパターンが形成された型枠の一方の面に粘着シートを貼り付ける工程と、前記型枠の他方の面から前記スリットパターンに沿って前記導電糸を配置して前記粘着シートに保持させる工程と、前記導電糸を配置した前記型枠を前記熱可塑性樹脂シートに重畳して、前記型枠の上から前記熱可塑性樹脂シートの溶融温度以上の加熱板により押圧加熱する工程と、前記熱可塑性樹脂シートから前記型枠及び前記粘着シートを除去する工程と、を備えている点にある。
【0020】
スリットパターンに沿って導電糸を配置して粘着シートに保持させることにより正確に導電糸を所望のパターンに配することができ、導電糸を配置した型枠を熱可塑性樹脂シートに重畳して、型枠の上から熱可塑性樹脂シートの溶融温度以上の加熱板により押圧加熱することにより、スリットパターンに配置された導電糸部分よりもスリットパターンの不連続部に配置された導電糸部分がより深く熱可塑性樹脂シートに埋設され、当該部分により熱可塑性樹脂シートに安定保持されるようになる。また、スリットの形成に伴う型枠の曲げ強度が低下する虞がある場合でも、型枠に設けた切り残し部により曲げ強度の低下が抑制される。従って、型枠の折れ曲がりなどの損傷の発生を回避して導電性複合シートの製造時の作業性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明した通り、本発明によれば、十分な伸縮性を備え、しかも布帛へ装着した場合に良好な肌触りを確保することができる導電性複合シートを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(a)は本発明による導電性複合シートの説明図であり、第2の熱可塑性樹脂シート2が伸縮縫いされていることを模式的に示した断面図、図1(b)は導電糸が縫い込まれた第2の熱可塑性樹脂シートの平面図、図1(c)は衣服に装着された状態の断面図、図1(d)は一対の導電糸を挟んで第1の熱可塑性樹脂シートが一部切断された状態の説明図である。
図2図2(a)は伸縮縫いの例である偏平縫いされた第2の熱可塑性樹脂シートの表面の写真画像による説明図、図2(b)は同裏面の写真画像による説明図である。
図3図3(a)は導電性複合シートの説明図、図3(b)はコンプレッションパンツに装着された導電性複合シートの説明図、図3(c)は防水生地で被覆された導電性複合シートの説明図である。
図4図4は伸縮縫いの例であるオーバーロック縫い、偏平縫い、環縫いまたは千鳥縫いの説明図である。
図5図5(a)は本発明による導電性複合シートの別実施形態を示す断面図、図5(b)は導電糸が配された第1の熱可塑性樹脂シートの底面図、図5(c)は衣服に装着された状態の断面図である。
図6図6(a)は導電糸が配された第1の熱可塑性樹脂シートの写真画像による説明図、図6(b)は導電糸の構成を示す説明図、図6(c)は導電糸の伸縮方向を示す説明図である。
図7図7(a)は本発明による導電性複合シートの別実施形態を示す平面視の説明図、図7(b)は図7(a)のA−A線断面の説明図である。
図8図8(a),図8(b),図8(c)は、図7(a),図7(b)に示した導電性複合シートの製造プロセスを示す説明図である。
図9図9(a),図9(b),図9(c)は、図7(a),図7(b)に示した導電性複合シートの製造プロセスを示す説明図である。
図10図10は、図7(a),図7(b)に示した導電性複合シートの変形例を示す平面視の説明図である。
図11図11は、図7(a),図7(b)に示した導電性複合シートの変形例を示す図7(a)のA−A線断面の説明図である。
図12図12(a),図12(b),図12(c)は、図11に示した導電性複合シートの製造プロセスを示す説明図である。
図13図13は、図7(a),図7(b)に示した導電性複合シートの衣服への装着例を示す平面視の説明図である。
図14図14(a),(b),(c),(d)は、導電性複合シートの変形例を示す断面の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による導電性複合シートを図面に基づいて説明する。
導電性複合シートは、体温、心拍数、心電図、筋電図などの生体情報を計測するウェアラブルデバイス用の布帛に装着され、例えば体表面の計測ポイントに配した電極または温度センサなどの各種のセンサとウェアラブルデバイスとを電気的に接続する配線部材として機能する。
【0024】
布帛として伸縮性を備えた編地や織地が好適に用いられる。以下の説明では、布帛で構成された衣服を例に説明するが、導電性複合シートの装着対象は衣服に限るものではなく、身体表面と接触する任意の布帛、例えば帽子、手袋、靴下、鉢巻、サポータ、包帯などであってもよい。
【0025】
[導電性複合シートの第1の態様]
図1(a),(b)に示すように、導電性複合シート10は、伸縮性を備えた第1の熱可塑性樹脂シート1と、第1の熱可塑性樹脂シート1の一方の面に所望のパターンで配された導電糸5とを備えている。
【0026】
導電糸5は芯糸に金属成分を被着させた金属メッキ糸で構成され、導電糸5を用いて所望のパターンで伸縮縫いされた第2の熱可塑性樹脂シート2が第1の熱可塑性樹脂シート1に融着されている。
【0027】
導電糸5を用いて配線パターンを形成することにより高い自由度で所望の湾曲形状や屈曲形状を実現することができる。そして、仮に折り曲げられても導電糸5は容易に破断するようなことがなく、衣服に装着された場合でも着心地の悪化を招くことがない良好で信頼性の高い導電性複合シート10となる。
【0028】
そして、導電糸5自体に伸縮性を備えていなくても伸縮縫いによって配線パターンが描かれるので、第1及び第2の熱可塑性樹脂シート1,2と一体となって伸縮性が現れるようになる。さらに、ミシンを用いて所定のパターンで伸縮縫いすればよいので、仮に多品種少量生産であっても設備コストの高騰を来すことなく臨機応変に対応できるようになる。
【0029】
伸縮縫いとしてオーバーロック縫い、偏平縫い、環縫いまたは千鳥縫いの何れかを採用することができ、使用可能なミシンの選択の範囲が広がり、設備コストも抑制することができる。
【0030】
図1(a),(b)は、伸縮縫いとして2本針偏平縫いが採用された例が示されている。上下2本の導電糸5が表糸として2本針で並行に縫い付けられ、裏糸となる飾り糸6で導電糸5のループが交絡されている。
【0031】
図2(a),(b)には、2本針偏平縫いされた第2の熱可塑性樹脂シート2の表面と裏面の写真画像が示されている。表面に視認される白色の2本の糸が導電糸5で、裏面に視認される黒色の糸が飾り糸6である。
【0032】
図4(a)には、オーバーロック縫いの例として1本針オーバーロック(地縫い、3本糸)の表裏外観が示され、図4(b)には、2本針オーバーロック(4本糸)の表裏外観が示されている。
【0033】
また、図4(c)には、偏平縫いの例として片面飾り(地縫い)の表裏外観が示され、図4(d)には、環縫いの例として1本針二重環縫い(地縫い)の表裏外観が示され、図4(e)には、環縫いの例として2本針二重環縫いの表裏外観が示され、図4(f)には、千鳥縫いの表裏外観が示されている。
【0034】
何れの縫い方を採用してもよく、針の本数も任意である。例えば4本針偏平縫いであるフラットシームなどを採用でき、他に1本針、2本針、3本針、4本針の何れかを用いた任意のオーバーロック縫い、偏平縫い、環縫い、千鳥縫いなどを採用できる。
【0035】
図1,2で示したように、導電糸5は、互いに絶縁状態で配された一対の導電糸5を基本単位として、第1の熱可塑性樹脂シート1の一方の面に所定の直線形状または曲線形状さらには折り曲げ形状に配されていることが好ましい。一対の導電糸5を基本単位として第1の熱可塑性樹脂シート1に配することにより、計測ポイントとウェアラブルデバイスとの間の信号伝達または給電用の電気回路を構成する配線が容易く実現できるようになる。
【0036】
図3(a)に示すように、導電性複合シート10は、一端側11で互いに平行に配された複数対の導電糸5が基本単位毎に他端側12で枝分かれするように配され、他端側12で電極材13,14と電気的に接続されていることが好ましい。
【0037】
複数対の導電糸5の一端側11に例えばコネクタを接続することにより、ウェアラブルデバイスと複数対の導電糸5である配線を一か所で纏めて接続することができる。また、様々な計測ポイントに向けて複数対の導電糸5を他端側12で枝分かれするように配することにより、他端側12で様々に異なる計測ポイントに対応する電極材13,14と電気的に接続することができるようになる。
【0038】
なお、図3(a)に示す導電性複合シート10は、所定サイズの矩形の第2の熱可塑性樹脂シート2に所望のパターンで導電糸5を伸縮縫いし、当該第2の熱可塑性樹脂シート2を第1の熱可塑性樹脂シート1に熱融着した後に、シート状のホットメルト接着剤などを用いて各導電糸5の先端側に電極材13,14を電気的に導通が得られるように融着し、さらにその後、適切な形状に切り出されている。
【0039】
ホットメルト接着剤として、例えば、ポリウレタン系ホットメルト樹脂、ポリエステル系ホットメルト樹脂、ポリアミド系ホットメルト樹脂、EVA系ホットメルト樹脂、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、湿気硬化型ウレタン系ホットメルト樹脂、反応型ホットメルト樹脂等が挙げられる。
【0040】
図1(c)に示すように、このようにして得られた導電性複合シート10は、予め衣服の身生地20に融着された第3の熱可塑性樹脂シート3に、導電性複合シート10の導電糸5を挟むようにして第1の熱可塑性樹脂シート1を融着することにより、当該衣服の身生地20に取り付けられる。
【0041】
第3の熱可塑性樹脂シート3を介して導電性複合シート10が衣服の身生地20に融着されるので、導電性複合シート10は十分な接着力で衣服に保持されるようになる。なお、予め導電糸5を挟むようにして第1の熱可塑性樹脂シート1に第3の熱可塑性樹脂シート3が融着された導電性複合シート10を衣服の身生地20に熱融着してもよい。
【0042】
さらに、衣服の身生地20と導電性複合シート10との間に第3の熱可塑性樹脂シート3を配置した後に、身生地20と導電性複合シート10間を押圧加熱して、第3の熱可塑性樹脂シート3を溶融させて身生地20と導電性複合シート10の両者を融着固定してもよい。
【0043】
図1(d)に示すように、一対の導電糸5が配された導電性複合シート10を、一端部から一対の導電糸5の中央部で分離切断することにより、一対の導電糸5の端部を身生地20に対して適切な位置に位置調整して熱融着することも可能になる。図1(d)中、符号9は切断箇所を示している。
【0044】
[導電性複合シートが組み込まれた衣服の第1の態様]
図3(b)は、上述した導電性複合シート10が、筋肉をサポートすることで運動機能を支援するコンプレッションタイプのパンツ30の肌面側に熱融着された状態が示されている。この様な衣服は、例えばポリウレタン糸を混用した天竺編(平編)、リブ編(ゴム編、フライス編)、パール編、デンビー編(トリコット編)、アトラス編、コード編、あるいはそれらの変化組織などの編地で構成することができる。
【0045】
導電性複合シート10に配された導電糸5の一端側11が、身生地20に形成されたスリット(図示せず)を介して表面側に取り出されて、ウェアラブルデバイスを接続するためのコネクタCN(図3(b),(c)中、破線で示されている。)に接続されている。
【0046】
なお、導電性複合シート10が装着されるウェアは、コンプレッションタイプのパンツに限るものではなく、コンプレッションタイプの上半身用のウェアであってもよいし、コンプレッションタイプ以外のウェアであってもよい。各種のスポーツやフィットネスに用いる肌着などにも適用できる。
【0047】
図3(c)は、着用者の発汗などによって導電糸5同士が短絡することがないように、撥水生地または防水生地で導電糸5を被覆する被覆地40(図3(c)中、ハッチングされた領域)がホットメルト接着剤で貼り付けられた状態を示している。
【0048】
被覆地40として専用の撥水生地または防水生地を用いる必要はなく、身生地と同じ素材の生地で撥水処理または防水処理された生地を用いることもできる。このような被覆地40を貼り付けることによって着用感もさらに改善することができる。
【0049】
[導電性複合シートの構成材料]
伸縮性を備えた熱可塑性樹脂シート1,2,3として、融点が90〜220℃、厚さ30〜200μmのポリウレタンシートが好適に用いられる。熱可塑性樹脂シート1,2,3はそれぞれ2層以上の熱可塑性樹脂シートが複合されたものでもよい。各層の融点を異ならせることも可能である。例えば装着対象となる布帛に近い側の層の融点をより低いものとすることが好ましい。このようにすることで、高い防水性を実現しつつ、同時に布帛との高い接着強度を発現させることができるようになる点で好ましい。
【0050】
熱可塑性樹脂シート1,2,3として、ポリウレタンシート以外にポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリオレフィンエラストマーなどの熱可塑性エラストマーなどを用いることもできる。
【0051】
導電糸5として、樹脂繊維や天然繊維、或いは金属線等を芯として、この芯に湿式や乾式のコーティング、メッキ、真空成膜、その他の適宜被着法を行って金属成分を被着させた金属被着線(メッキ線)を使用するのが好適である。芯には、モノフィラメントを採用することも可能ではあるが、モノフィラメントよりもマルチフィラメントや紡績糸のほうが好ましい。
【0052】
芯に被着させる金属成分には、例えばアルミ、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト等の純金属やそれらの合金、ステンレス、真鍮等を使用することができる。本実施形態ではナイロンやポリエステルで構成されるマルチフィラメントに銀メッキした糸が用いられている。
【0053】
複数本のメッキ線を撚り合せた撚糸を用いることにより、ミシンを用いた場合でも簡単に破断することなく、また滑りが良くなるのでパッカリングのような縫い縮みやひきつれが回避できる。この様な燃糸として特に三子糸が好ましく利用できる。
【0054】
さらに、融点が90〜150℃の低融点のポリウレタンで被覆された導電糸5を用いることにより、第2の熱可塑性樹脂シート2に縫い付けた状態で絶縁性を確保することができるようになり、また第3の熱可塑性樹脂シート3を介在させることなく衣服に熱融着させることができるようになる。導電糸5をポリウレタンで被覆する態様として、導電糸5をポリウレタン製の糸でカバリングする態様や導電糸5をポリウレタン樹脂でコーティングする態様が含まれる。
【0055】
導電糸の繊度は33dtex〜400dtexが好ましい。特には70dtex〜300dtexが好ましい。
【0056】
導電糸5として芯糸に金属成分を被着させた金属メッキ糸を用いる例を説明したが、例えば、日本新素材株式会社製のシルベルンZAG(登録商標)などのように、天然繊維や合成繊維に銀イオンを付着させた銀イオン糸を用いることも可能である。本明細書では、これらを総称して金属被覆糸と表記している。
【0057】
電極材13,14は、導電糸5を用いて編成または織成した布帛で構成することができ、後述する伸縮性の導電糸のように、ポリウレタンのような弾性糸を芯糸にして、上述した導電糸5を芯糸に巻きつけて被覆したカバリング糸を用いて編成または織成することにより導電性複合シート10或いは衣服を構成する身生地の伸縮に伴って伸縮するようになる点で好ましい。
【0058】
なお、電極材13,14の構成は、特に限定されるものではなく、公知の電極用材料を適宜用いることができることはいうまでもない。また、導電糸5それ自体を電極材13,14として機能させてもよい。
【0059】
一対の電極材13,14を衣服の着用者の筋肉の計測ポイントに対応する部位に配することにより、所望の筋電図が得られる。また、一対の電極材13,14間または一方の電極に熱電対やサーミスタのような感温素子を配することにより着用者の体温変化を計測できるようになる。
【0060】
[導電性複合シートの第2の態様]
さらに、上述した第2の熱可塑性樹脂シート2を用いて導電性複合シート10を構成してもよい。
【0061】
例えば、伸縮性導電糸5に非伸縮性糸を添えて第2の熱可塑性樹脂シート2にミシンを用いた所望のパターンの縫製処理を行なった後に、非伸縮性糸を引っ張りにより破断させ、あるいは熱処理により溶断させることにより、第2の熱可塑性樹脂シート2に伸縮性導電糸5を用いた所望のパターンを配することができる。
【0062】
この場合の縫製処理とは本縫いのような非伸縮縫いを意味し、伸縮性導電糸5の張力が十分でないために、伸縮性導電糸5のみを用いたミシン縫いが困難な場合であっても、伸縮性導電糸5に非伸縮性糸を添えることにより、ミシン縫いに耐える張力を確保しながら安定的に縫製することができる。
【0063】
非伸縮性糸として、ポリアミド系繊維糸、ポリエステル系繊維糸またはポリオレフィン系繊維糸から選ばれる低融点熱融着性繊維糸が好適に用いられる。単繊維繊度が5dtexから110dtexのフィラメント糸が複数本撚糸され、融点が50℃から90℃の範囲の非伸縮性糸を用いることが好ましい。
【0064】
縫製処理が終了した後に加熱処理して溶断される非伸縮性糸を第2の熱可塑性樹脂シート2から除去することも可能であり、このようにしても第2の熱可塑性樹脂シート2に伸縮性導電糸5が所望のパターンで配された導電性複合シート10を実現することができる。なお、溶断された非伸縮性糸をそのまま第2の熱可塑性樹脂シート2に残存させた状態であってもよい。
【0065】
非伸縮性糸として上述の低融点熱融着性繊維糸に代えて、加熱によって容易に溶断されることがない綿糸などの他の糸種を採用することも可能であることはいうまでもない。
【0066】
伸縮性導電糸5の張力が十分で、伸縮性導電糸5のみを用いたミシン縫いが容易に行なえる場合には、非伸縮性糸を添えることなく非伸縮縫いすればよい。例えば、上糸に非伸縮性糸を用いるとともに下糸に伸縮性導電糸を用いて、第2の熱可塑性樹脂シート2に本縫いすることにより所望のパターンを配することができ、上糸に伸縮性導電糸を用いるとともに下糸に非伸縮性糸を用いて、第2の熱可塑性樹脂シート2に本縫いすることにより所望のパターンを配することも可能である。なお、何れの場合でも非伸縮縫いに限るものではなく伸縮縫いを採用してもよい。
【0067】
即ち、導電糸に非伸縮性糸を添えて、または導電糸を用いつつ上糸及び下糸の少なくとも一方には非伸縮性糸を用いて、所望のパターンで非伸縮縫いまたは伸縮縫いされた第2の熱可塑性樹脂シートが第1の熱可塑性樹脂シートに複合一体化されていればよい。
【0068】
[導電性複合シートの第3の態様]
図5(a),(b)には、導電性複合シート10の他の実施形態が示されている。当該導電性複合シート10は、上述した実施形態の第2の熱可塑性樹脂シート2を用いることなく、第1の熱可塑性樹脂シート1の一方の主面に導電糸5が所望の形状で配されて熱融着されている(図5(a)参照。)図5(b)は、導電糸5が配された面を下方から眺めた様子が示されている。
【0069】
このような導電性複合シート10を衣服に装着する場合も、図1(c)と同様に、予め衣服の身生地20に融着された第3の熱可塑性樹脂シート3に、導電性複合シート10の導電糸5を挟むようにして第1の熱可塑性樹脂シート1を融着することにより取り付けられる。
【0070】
図6(a)には、伸縮性を示す導電糸5が配された第1の熱可塑性樹脂シート1の裏面から撮影した写真画像が示されている。
【0071】
図6(b),(c)に示すように、当該導電糸5は、ポリウレタンなどの伸縮性芯糸5aに上述した金属皮膜糸5bが巻きつけられたカバリング糸で構成され、導電糸5それ自体が芯糸5aの長手方向に伸縮するように構成されている。
【0072】
カバリング糸としてSCY、DCYの何れを採用することも可能であるが、良好な伸縮特性及び伸縮時の電気抵抗値の安定性の観点でDCYを採用することが好ましい。特に下巻き糸と上巻き糸の巻き方向を逆方向とする(例えば下巻きをS巻きとする場合には上巻きをZ巻きとする、あるいは下巻きをZ巻きとする場合には上巻きをS巻きとする)DCYが好ましい。
【0073】
第1の熱可塑性樹脂シート1の一方の面に所望のパターンで導電糸5を配して融着させれば、導電糸5自体が第1の熱可塑性樹脂シート1の伸縮に伴って伸縮するようになる。このような伸縮性の導電糸5を、上述したような低融点のポリウレタンで被覆することも可能である。上述と同様に、導電糸5をポリウレタンで被覆する態様として、導電糸5をポリウレタン製の糸でカバリングする態様や導電糸5をポリウレタン樹脂でコーティングする態様が含まれる。
【0074】
図7(a)には、第1の熱可塑性樹脂シート1の一方の主面に配された1本の導電糸5によって渦巻き状の電極部51と直線状の配線部52が構成され、生体電気信号を取得するための生体電極を備えたセンサシートとして機能するように構成された導電性複合シート10が例示されている。
【0075】
電極部51を形成する導電糸5の一部は、所望の生体電気信号を得るべく人体の肌表面と接するように、第1の熱可塑性樹脂シート1の一方の主面側で露出しており、配線部52に対応する箇所には上述した被覆地40がホットメルト接着剤などを用いて貼り付けられている。
【0076】
図7(b)に示すように、電極部51及び配線部52を構成する導電糸5は、その外表面の一部が第1の熱可塑性樹脂シート1に埋没して固定されている。本実施形態では、導電糸5の長手方向全域で第1の熱可塑性樹脂シート1に一部埋没するようにして固定されている。
【0077】
伸縮性を備えた導電糸5として、繊度が33dtex〜1000dtexであることが好ましい。特に70dtex〜650dtexであることが好ましい。また、芯糸5aに金属被覆糸が巻きつけられたカバリング糸として導電糸5を構成する場合、芯糸5aの繊度は310dtex〜1880dtexが好ましく、620dtex〜1240dtexがより好ましい。
【0078】
カバリング糸として構成する際には芯糸は引き伸ばされた(ドラフトをかけられた)状態で巻糸を巻きつけられるのが好ましい。芯糸に巻きつけられる金属被覆糸の繊度は33dtex〜200dtexが好ましく、44dtex〜90dtexがより好ましい。
【0079】
また、予め絶縁性の樹脂材料によって被覆した導電糸5を配線部52に対応する導電糸5として使用することもできる。このような導電糸5を用いれば上述の被覆地40を設ける必要が無い。
【0080】
このような絶縁性の樹脂材料として、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン(ナイロン6やナイロン66などであって、アミド結合により長く連続した鎖状の合成高分子を紡糸して繊維化したポリアミド系の合成繊維の総称)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、PFA、PVDF、ETFE等のフッ素系樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ホルマール(ポリビニルホルマール)、ブチラール(ポリビニルブチラール)などを挙げることができる。なお、絶縁被覆層として使用可能な材料はこれらの樹脂種に限定されない。
【0081】
この様な導電性複合シート10の製造方法について説明する。
図8(a)に示すように、ステンレスなどの金属薄板に導電糸を配する所望のパターンのスリット71を形成した型枠7を準備し、図8(b)に示すように、型枠7に形成されたスリット71を覆うように、一方面に粘着面が形成された粘着シート72を貼り付ける。
【0082】
続いて、図8(c)に示すように、粘着テープ72が貼着された面とは反対側の面を上にして、型枠7に形成されたスリット71に沿ってスリット71の内部に導電糸5を配置する。導電糸5は粘着テープ72の粘着面によって保持されるので、位置ずれすることなく仮固定される。
【0083】
次に、図9(a)に示すように、スリット71に導電糸5が配された型枠7のうち、粘着テープ72の貼着面とは反対側の面を第1の熱可塑性樹脂シート1に重ね合わせ、図9(b)に示すように、粘着テープ72の上方側から第1の熱可塑性樹脂シート1の溶融温度以上に加熱した加熱板100で型枠7及び導電糸5を押圧加熱する。
【0084】
例えば、第1の熱可塑性樹脂シート1に融点90〜150℃のポリウレタンシートを用いる場合には、約170℃に加熱した加熱板100で型枠7及び導電糸5を押圧加熱すればよい。
【0085】
押圧加熱によって、第1の熱可塑性樹脂シート1に電極部51や配線部52を形成する導電糸5の外表面の一部が埋没しつつ熱融着されて固定される。押圧加熱の完了後、粘着テープ72及び型枠7を除去することにより図9(c)に示すような導電性複合シート10が完成する。
【0086】
図10には、センサシートとして機能する導電性複合シート10の他の態様が示されている。電極部51を構成する導電糸50を部分的に被覆して第1の熱可塑性樹脂シート1に固定される補強シート部材5a,5bを備えている。電極部51を構成する導電糸50の先端部を被覆する補強シート部材5aと、渦巻き状の線状構造を有する電極部51に対して、複数個所を纏めて被覆する補強シート部材5bである。
【0087】
補強シート部材5a,5bとしては、図7(a)で説明した配線部52を覆う被覆地40と同様の素材を使用することができる。補強シート部材を第1の熱可塑性樹脂シート1に固定するために上述のホットメルト接着剤などを用いることができる。第1の熱可塑性樹脂シート1と同様のシート状の樹脂素材を用いることも可能である。
【0088】
このような補強シート部材5a,5bを備えることにより、電極部51と第1の熱可塑性樹脂シート1との密着性をより一層高めることができ、電極部51を構成する導電糸50が、第1の熱可塑性樹脂シート1から剥離、脱落することを効果的に防止することができる。
【0089】
補強シート部材5a,5bを取り付ける場所は特に限定されないが、少なくとも電極部51を構成する導電糸50の先端部を被覆するようにして設けられることが好ましい。電極部51の構造上、該先端部は第1の熱可塑性樹脂シート1から剥離しやすい個所であり、補強シート部材を導電糸50の先端部に設けることにより、電極部51の耐久性をより一層向上させることが可能となる。
【0090】
図7(b)で説明した例では、第1の熱可塑性樹脂シート1に対する導電糸5の外表面の埋没の程度がほぼ一定であるが、埋設の程度は一様である必要はなく、埋没深さが異なっていてもよいし、一部に埋没していない部分があってもよい。
【0091】
図11に示すように、導電糸5の一部分5Aが、他の部分5Bよりも第1の熱可塑性樹脂シート1への埋没量が大きくなるように構成してもよい。なお、図11は、図7(a)の導電性複合シート10の一態様を示すA−A線断面図である。
【0092】
部分的に第1の熱可塑性樹脂シート1に対する埋没量が大きい部分を備えることにより、第1の熱可塑性樹脂シート1に対する導電糸5の密着強度を高めることが可能となる。また、電極部51として機能させる場合には、全体の埋没量を大きくする場合と比較して、着用者の肌表面との接触面積が大きく減じることを防止することができる。
【0093】
埋没量の調整を可能にするために、例えば、押圧加熱によって第1の熱可塑性樹脂シート1の一方の主面に導電糸5の外表面の一部を埋没させつつ熱融着する際に、部分的に埋没量が多くなるように強く押圧すればよい。
【0094】
この様な導電性複合シート10の製造方法の一例について詳述する。
図12(a)に示すように、ステンレスなどの金属薄板に導電糸を配する所望のパターンのスリット71を形成した型枠7を準備する。当該スリット71は部分的に不連続となるように切り残し部73を備えている。
【0095】
図12(b)に示すように、型枠7に形成されたスリット71を覆うように、一方面に粘着面が形成された粘着シート72を貼り付け、粘着テープ72が貼着された面とは反対側の面を上にして、型枠7に形成されたスリット71に沿ってスリット71の内部に導電糸5を配置する。導電糸5は切り残し部73を除いてスリット71内部で粘着テープ72の粘着面によって保持されるので、位置ずれすることなく仮固定される。
【0096】
次に、図12(c)に示すように、スリット71に導電糸5が配された型枠7のうち、粘着テープ72の貼着面とは反対側の面を第1の熱可塑性樹脂シート1に重ね合わせ、粘着テープ72の上方側から第1の熱可塑性樹脂シート1の溶融温度以上に加熱した加熱板100で型枠7及び導電糸5を押圧加熱する。
【0097】
加熱板100で押圧加熱する際に、型枠7の切り残し部73によって導電糸5が直接的に押圧される結果、切り残し部73に位置する導電糸部分は、切り残し部73に位置しない他の導電糸部分に比べて、第1の熱可塑性樹脂シート1に対する埋没量が大となる。
【0098】
なお、スリット71の形成に伴う型枠7の曲げ強度が低下する虞がある場合でも、型枠7に設けた切り残し部73により曲げ強度の低下が抑制される。従って、型枠7の折れ曲がりなどの損傷の発生を回避してセンサシート1製造時の作業性を向上させることができる。
【0099】
[導電性複合シートが組み込まれた衣服の第2の態様]
図13には、上述した導電性複合シート10をセンサシートとして用いた衣服の例であるTシャツ100が例示されている。Tシャツ100の胸部左右に一対の導電性複合シート10が配置され、心電図を検出可能に構成されたものである。
【0100】
左右一対の電極部51が着用者の左右の胸部に接触するように、Tシャツ100の肌側面に導電性複合シート10が融着固定され、Tシャツ100の表面側に端子部として機能する金属製の雄型または雌型のスナップボタン53が配され、配線部52と電気的に接続されるように加締め固定されている。
【0101】
当該スナップボタン53に係合可能な雌型または雄型のスナップボタンが先端に固定された信号線が外部機器である心電計などの生体情報測定装置に接続されることにより心電図の計測が可能になる。
【0102】
[導電性複合シートの第4の態様]
図7(a),(b)から図9(a),(b),(c)に示した導電性複合シート10では、第1の熱可塑性樹脂シート1が単層で構成された例を説明したが、第1の熱可塑性樹脂シート10は融点が異なる複数の熱可塑性樹脂層の積層体で構成されていてもよい。
【0103】
融点が異なる熱可塑性樹脂層の積層体で構成された第1の熱可塑性樹脂シート1のうち、低融点側の熱可塑性樹脂層が融着層として機能し、高融点側の熱可塑性樹脂層が導電糸5の配置状態を安定に維持する保形層として機能するようになる。
【0104】
図14(a)から図14(d)には、第1の熱可塑性樹脂シート1が融点の異なる複数の熱可塑性樹脂層の積層体で構成された様々な態様が示されている。なお、図14(a)から図14(d)に示す断面構造は、図7(b)の断面構造と類似しているが、図7(b)に示す渦巻状に配された電極部51の断面を示すものではなく、互いに平行に配された4本の長尺の導電糸5の断面構造を示すものであり、信号の伝達などに用いられる配線部材としての機能を備えるものである。
【0105】
図14(a)には、第1の熱可塑性樹脂シート1が融点の異なる2層の熱可塑性樹脂層1a,1bの積層体で構成され、低融点側の熱可塑性樹脂層1aに導電糸5が配置されて複合一体化された例が示されている。
【0106】
当該第1の熱可塑性樹脂シート1は、第3の熱可塑性樹脂シート3を介して衣服の身生地20に熱融着される。第3の熱可塑性樹脂シート3も融点の異なる2層の熱可塑性樹脂層3a,3bの積層体で構成され、高融点側の熱可塑性樹脂層3aが第1の熱可塑性樹脂シート1の低融点側の熱可塑性樹脂層1aに対向配置されて熱融着され、低融点側の熱可塑性樹脂層3bが身生地20側に対向配置されて身生地20側に熱融着される。なお、図1(a)で説明した「第2」の熱可塑性樹脂シート2との混同を避けるため、敢えて「第2」と表記せずに「第3」の熱可塑性樹脂シート3と表記している。
【0107】
本実施形態では第1及び第3の熱可塑性樹脂シート1,3が厚さ30〜200μmの2層のポリウレタン樹脂シートで構成され、高融点側のポリウレタン樹脂層として融点が150〜220℃のポリウレタン樹脂が用いられ、低融点側のポリウレタン樹脂層として融点が90〜150℃のポリウレタン樹脂が用いられている。以下に説明する熱可塑性樹脂層の積層体で構成される熱可塑性樹脂シートも同様である。
【0108】
図14(b)には、第1の熱可塑性樹脂シート1が高融点の熱可塑性樹脂層1bを挟んで両側に低融点の熱可塑性樹脂層1a,1cが配された積層体で構成されている。高融点の熱可塑性樹脂層1bを挟んで一方の低融点の熱可塑性樹脂層1aの表面に所望のパターンで配された導電糸5が融着されて複合一体化され、他方の低融点の熱可塑性樹脂層1cに当該導電性複合シート10を装着する被装着部である身生地20に熱融着される。
【0109】
つまり、第1の熱可塑性樹脂シート1を構成する低融点の熱可塑性樹脂層1cによって、導電性複合シート10を身生地20に熱融着する第3の熱可塑性樹脂シート3の機能が代替されるので、別途の第3の熱可塑性樹脂シート3が不要になる。
【0110】
図14(b)の例では、身生地20に熱融着された導電性複合シート10を保護するために、第1の熱可塑性樹脂シート1に複合一体化された導電糸4に対向して保護用の熱可塑性樹脂シート4がさらに積層されている。当該熱可塑性樹脂シート4も融点の異なる2層の熱可塑性樹脂層4a,4bの積層体で構成され、低融点側の熱可塑性樹脂層4bが第1の熱可塑性樹脂シート1の低融点側の熱可塑性樹脂層1aに対向配置されて熱融着され、導電糸5が何らかの物体との接触により摩耗することが無いように高融点側の熱可塑性樹脂層4bが導電糸5の保護層として機能する。
【0111】
図14(c)には、図14(b)の保護用の熱可塑性樹脂シート4が高融点側の熱可塑性樹脂層の単層で構成された例が示されている。さらに、図14(d)には、保護用の熱可塑性樹脂シート4が融点の異なる2層の熱可塑性樹脂層4a,4bの積層体で構成され、高融点側の熱可塑性樹脂層4aが第1の熱可塑性樹脂シート1の低融点側の熱可塑性樹脂層1aに対向配置されて熱融着され、低融点側の熱可塑性樹脂層4bがさらにその上層に配される被覆地40と熱融着するように構成されている。
【0112】
図14(a)から図14(d)に示した何れの導電性複合シート10も、身生地20に対する熱融着面に離形フィルムが配されていることが好ましい。身生地20への熱溶着プロセスまでの間の製造、運搬などの様々なプロセスで環境による影響により導電性複合シート10に汚れ付着や損傷などが発生することを回避するためである。
【0113】
以上、導電性複合シート10の様々な実施形態について説明したが、上述した各実施形態を適宜組み合わせて導電性複合シート10を構成することも可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明による導電性複合シート10は、体温、心拍数、心電図、筋電図などの生体情報を計測するウェアラブルデバイス用の衣服に装着する信号伝達配線部材として広く活用される。
【符号の説明】
【0115】
10:導電性複合シート
1:第1の熱可塑性樹脂シート
2:第2の熱可塑性樹脂シート
3:第3の熱可塑性樹脂シート
5:導電糸
7:型枠
71:スリット
72:粘着テープ
73:切り残し部
100:加熱板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14