特許第6836697号(P6836697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6836697ポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6836697
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 183/07 20060101AFI20210222BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20210222BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20210222BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20210222BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210222BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20210222BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20210222BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20210222BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210222BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   C09J183/07
   C09J183/05
   C09J183/04
   C09J11/04
   C09J11/06
   C08K5/541
   C08L83/05
   C08L83/07
   C08K3/22
   C08K3/26
【請求項の数】10
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2020-558634(P2020-558634)
(86)(22)【出願日】2020年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2020039351
【審査請求日】2020年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2019-196407(P2019-196407)
(32)【優先日】2019年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】高梨 正則
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−151695(JP,A)
【文献】 特開2015−3987(JP,A)
【文献】 特開平7−126533(JP,A)
【文献】 特開2018−12809(JP,A)
【文献】 特表2016−510358(JP,A)
【文献】 特開2006−117845(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/104080(WO,A1)
【文献】 特開2013−124297(JP,A)
【文献】 特開2018−65965(JP,A)
【文献】 特開2003−96299(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/057558(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00− 5/10
7/00− 7/50
9/00−201/10
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子中に2個以上のアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサン;
(B)分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン;
(C)白金系触媒;
(D)周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩;並びに(E)接着性付与剤
を含む、ポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物であって、
組成物全体に対する(D)成分の含有量が0.1〜20重量%である、組成物。
【請求項2】
(D)成分がマグネシウム、カルシウム及び亜鉛から選択される金属の酸化物又は炭酸塩である、請求項1記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
(D)成分が酸化亜鉛である、請求項1又は2記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
(E)成分が、下記(E1)〜(E4):
(E1)ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式(1):
【化1】

で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物、
(E2)Si(OR基とエポキシ基含有基を有する有機ケイ素化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、
(E3)Si(OR基と脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、並びに
(E4)Si(ORで示されるテトラアルコキシシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物
(上記各式中、Qは、ケイ素原子とエステル結合の間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Qは、酸素原子と側鎖のケイ素原子の間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Rは、炭素数1〜4のアルキル基又は2−メトキシエチル基を表し;Rは、炭素数1〜3のアルキル基を表し;nは、1〜3の整数である)
からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
(A)成分が、(A1)両末端がRSiO1/2単位で封鎖され、中間単位がRSiO2/2単位であり、23℃における粘度が0.1〜500Pa・sである直鎖状ポリオルガノシロキサン:並びに、(A2)必須の単位としてSiO4/2単位とRSiO1/2単位を含み、任意の単位としてRSiO2/2単位及び/又はRSiO3/2単位からなる群より選択される1種以上の単位を含む、分岐状のポリオルガノシロキサンの組合せ(上記各式中、Rは、R又はRであり、Rは、アルケニル基であり、Rは、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であり、分子中に2個以上のRを含有する)である、請求項1〜4のいずれか1項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
(C)成分が白金−ビニルシロキサン錯体である、請求項1〜5のいずれか1項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項7】
更に、(F)ジルコニウム化合物を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項8】
更に、(G)BET比表面積が50〜500m/gである無機充填剤を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項9】
更に、(H)反応抑制剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項10】
ポリフェニレンスルフィド樹脂と請求項1〜9のいずれか1項記載のポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物との接着部分を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加反応によって硬化するポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
付加反応硬化型のポリオルガノシロキサン組成物は、室温あるいは若干の加熱(40℃から150℃)により硬化して各種被着体に対する接着性を発現する。特許文献1には、ジルコニウム化合物及び特定の接着性付与剤を含む接着性ポリオルガノシロキサン組成物が提案されている(特許文献1)。
【0003】
一方、航空機、自動車産業及び電子材料分野においては、地球環境問題への対応、小型軽量化への要求が年々高まっており、鉄やアルミニウム等の金属からプラスチック材料への代替が検討されている。中でも、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、機械的強度、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックであり、金属の代替材料として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019−151695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された組成物の硬化物は、鉄、アルミニウム等の金属への接着性は良好であるものの、ポリフェニレンスルフィド樹脂においては、硬化直後、比較的低温の環境下、及び高温環境でも短時間の場合は、良好な接着性を示すが、高温環境下で長期間使用すると、その接着性が大きく低下するという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、ポリフェニレンスルフィド樹脂に対する接着性が優れ、かつ、長期間高温環境下で使用した場合の接着性の低下が少ない付加反応硬化型のポリオルガノシロキサン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、ポリフェニレンスルフィド樹脂とポリオルガノシロキサン組成物の硬化物との接着体を長期間高温環境下、例えば150℃以上の環境下で使用すると、ポリフェニレンスルフィド樹脂由来の硫黄を含む化合物が接着界面に移行してくること、及び硬化物の重量が減少することを見出した。そして、本発明者らは、接着界面に移行してきた硫黄を含む化合物が硬化物中の樹脂を分解し、分解物が揮発するため、硬化物の重量が減少するとともにポリフェニレンスルフィド樹脂に対する接着性が低下するものと考えた。本発明者らは、硫黄を含む化合物の影響を抑えるべく鋭意検討した結果、ポリオルガノシロキサン組成物に周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩を配合することにより、高温環境下で使用した場合の接着性の低下が抑制されることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[10]に関する。
[1](A)分子中に2個以上のアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサン;(B)分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン;(C)白金系触媒;(D)周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩;並びに(E)接着性付与剤を含む、ポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物であって、組成物全体に対する(D)成分の含有量が0.1〜20重量%である、組成物。
[2](D)成分がマグネシウム、カルシウム及び亜鉛から選択される金属の酸化物又は炭酸塩である、[1]記載のポリオルガノシロキサン組成物。
[3](D)成分が酸化亜鉛である、[1]又は[2]記載のポリオルガノシロキサン組成物。
[4](E)成分が下記(E1)〜(E4):
(E1)ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式(1):
【化1】

で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物、
(E2)Si(OR基とエポキシ基含有基を有する有機ケイ素化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、
(E3)Si(OR基と脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、並びに
(E4)Si(ORで示されるテトラアルコキシシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物
(上記各式中、Qは、ケイ素原子とエステル結合の間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Qは、酸素原子と側鎖のケイ素原子の間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Rは、炭素数1〜4のアルキル基又は2−メトキシエチル基を表し;Rは、炭素数1〜3のアルキル基を表し;nは、1〜3の整数である)
からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]〜[3]のいずれか1つに記載のポリオルガノシロキサン組成物。
[5](A)成分が、(A1)両末端がRSiO1/2単位で封鎖され、中間単位がRSiO2/2単位であり、23℃における粘度が0.1〜500Pa・sである直鎖状ポリオルガノシロキサン:並びに、(A2)必須の単位としてSiO4/2単位とRSiO1/2単位を含み、任意の単位としてRSiO2/2単位及び/又はRSiO3/2単位からなる群より選択される1種以上の単位を含む、分岐状のポリオルガノシロキサンの組合せ(上記各式中、Rは、R又はRであり、Rは、アルケニル基であり、Rは、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であり、分子中に2個以上のRを含有する)である、[1]〜[4]のいずれか1つに記載のポリオルガノシロキサン組成物。
[6](C)成分が白金−ビニルシロキサン錯体である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載のポリオルガノシロキサン組成物。
[7]更に、(F)ジルコニウム化合物を含む、[1]〜[6]のいずれか1つに記載のポリオルガノシロキサン組成物。
[8]更に、(G)BET比表面積が50〜500m/gである無機充填剤を含む、[1]〜[7]のいずれか1つに記載のポリオルガノシロキサン組成物。
[9]更に、(H)反応抑制剤を含む、[1]〜[8]のいずれか1つに記載のポリオルガノシロキサン組成物。
[10]ポリフェニレンスルフィド樹脂と[1]〜[9]のいずれか1つに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物との接着部分を含む物品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、ポリフェニレンスルフィド樹脂に対する接着性が優れ、かつ、長期間高温環境下で使用した場合の接着性の低下が少ない付加反応硬化型のポリオルガノシロキサン組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ポリフェニレンスルフィド樹脂]
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)は、芳香環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(2)で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂である。
【化2】

(式中、R11及びR12は、それぞれ独立的に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、 ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)
【0011】
上記一般式(2)中のR11及びR12は、ポリフェニレンスルフィド樹脂の機械的強度が向上することから水素原子であることが好ましく、その場合、下記一般式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記一般式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【化3】
【0012】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香環に対する硫黄原子の結合は、上記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが、ポリフェニレンスルフィド樹脂の耐熱性や結晶性が向上することから好ましい。
【0013】
また、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、上記一般式(2)で表される構造部位のみならず、下記一般式(5)〜(8)で表される構造部位から選択される少なくとも1つを有していてもよい。下記一般式(5)〜(8)の構造部位を有する場合、これらの構造部位のポリフェニレンスルフィド樹脂中のモル比率は、耐熱性、機械的強度が良好となることから、30モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【化4】
【0014】
ポリフェニレンスルフィド樹脂中に、上記一般式(5)〜(8)で表される構造部位を含む場合、上記一般式(2)で表される構造部位の繰り返し単位との結合としては、ランダム型であっても、ブロック型であってもよい。
【0015】
更に、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、その構造中に、下記一般式(9)で表される3官能の構造部位、ナフチルスルフィド結合等を有していてもよい。なお、この場合、これらの構造部位のポリフェニレンスルフィド樹脂中のモル比率は、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下がより好ましい。
【化5】
【0016】
ポリフェニレンスルフィド樹脂は、ポリオレフィン系樹脂等の他の樹脂、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状の無機又は有機の充填材、無機又は有機顔料、潤滑剤、ワックス、安定剤、着色剤等を含んでいてもよい。
【0017】
ポリフェニレンスルフィド樹脂は市販されており、例えば、東ソー株式会社製、サスティール(登録商標)シリーズ、DIC株式会社製、FZシリーズ、ポリプラスチックス株式会社製、ジュラファイド(登録商標)シリーズを例示することができる。
【0018】
[用語の定義]
シロキサン化合物の構造単位を、以下のような略号によって記載することがある(以下、これらの構造単位をそれぞれ「M単位」「D単位」等ということがある)。
:Si(CH1/2
:SiH(CH1/2
Vi:(CH=CH)(CHSiO1/2
:Si(CH2/2
:SiH(CH)O2/2
Vi:Si(CH=CH)(CH)O2/2
:Si(CH)O3/2
:SiO4/2(四官能性)
【0019】
本明細書において、基の具体例は以下のとおりである。
1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及びアルケニル基が挙げられる。脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基としては、アルケニル基以外の前記1価の炭化水素基が挙げられる。
アルケニル基は、炭素数2〜6の直鎖又は分岐状の基であり、ビニル基、アリル基、3−ブテニル基及び5−ヘキセニル基等が挙げられる。
アルキル基は、炭素数1〜18の直鎖又は分岐状の基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基及びオクタデシル基等が挙げられる。
シクロアルキル基は、炭素数3〜20の単環又は多環の基であり、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
アリール基は、炭素数6〜20の単環又は多環の基を含む芳香族基であり、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基は、アリール基で置換されたアルキル基であり、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基等が挙げられる。
アルキレン基は、炭素数1〜18の直鎖又は分岐状の基であり、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、2−メチルエチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。
アルケニル基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及びアルキレン基は、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン;シアノ基等で置換されていてもよい。ハロゲン又はシアノ基で置換された基としては、クロロメチル基、クロロフェニル基、2−シアノエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0020】
本明細書において、「(A)分子中に2個以上のアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサン」を「(A)」ともいう。「(C)白金系触媒」等についても同様である。
【0021】
[ポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物]
ポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物(以下、「組成物」ともいう。)は、(A)分子中に2個以上のアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサン;(B)分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン;(C)白金系触媒;(D)周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩;並びに(E)接着性付与剤を含み、組成物全体に対する(D)成分の含有量が0.1〜20重量%である。
【0022】
組成物は、室温(例えば、23℃)で、少なくとも1週間、好ましくは72時間、特に好ましくは24時間の硬化時間で、ポリフェニレンスルフィド樹脂に対する優れた接着性を達成できる。また、組成物は、50℃で30分の硬化時間で、ポリフェニレンスルフィド樹脂に対する優れた接着性を達成できる。さらに、例えば100〜150℃に加熱することで短時間で優れた接着性を達成できる。
【0023】
上記のようにして接着したポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との接着体は、長期間高温環境下で使用した場合でも接着性の低下が少ない。本発明において、高温環境とは、100℃以上の環境を指し、具体的には、120℃以上、特には150℃以上の環境のことを言う。また、長時間とは、1日以上、具体的には1週間以上、特には1ヶ月以上の期間を言う。高温環境下で接着界面に移行したポリフェニレンスルフィド樹脂由来の硫黄を含む化合物を(D)成分が捕捉することにより、硬化物中の樹脂の分解が抑制され、接着性が維持されるものと考えられる。したがって、本発明の組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂用接着剤として好適に使用することができる。
【0024】
本発明はまた、(D)周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩の、ポリフェニレンスルフィド樹脂用接着剤の製造における使用及び使用方法に関する。本発明はさらに、本発明に係るポリオルガノシロキサン組成物を調製する工程、該組成物をポリフェニレンスルフィド樹脂に塗布する工程、及び該組成物を硬化させる工程を含む、ポリフェニレンスルフィド樹脂と該組成物の硬化物とを接着させる方法に関する。
【0025】
<(A)分子中に2個以上のアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサン>
(A)分子中に2個以上のアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサン(以下、「(A)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン」ともいう。)は、組成物において、ベースポリマーとなる成分である。(A)は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に平均で2個以上有し、(B)のヒドロシリル基(Si−H基)との付加反応により、網状構造を形成することができるものであれば、特に限定されない。(A)は、代表的には、一般式(I):
(R(RSiO(4−a−b)/2 (I)
(式中、
は、アルケニル基であり;
は、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であり;
aは、1〜3の整数であり;
bは、0〜2の整数であり、但し、a+bは1〜3である)
で示されるアルケニル基含有シロキサン単位を、分子中に、少なくとも2個有する。(A)におけるケイ素原子に結合したアルケニル基の数は、一分子中、2〜100個であることが好ましく、2〜50個であることがより好ましい。なお、(A)は、(E3)ではない。
【0026】
は、合成が容易で、また硬化前の組成物の流動性や、硬化後の組成物の耐熱性を損ねないという点から、ビニル基が好ましい。aは、合成が容易なことから、1が好ましい。Rは、合成が容易であって、機械的強度及び硬化前の流動性等の特性のバランスが優れているという点から、メチル基が好ましい。
【0027】
(A)中の他のシロキサン単位のケイ素原子に結合した有機基としては、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基が挙げられる。前記有機基は、Rと同様の理由から、メチル基が好ましい。
【0028】
は、(A)の分子鎖の末端又は途中のいずれに存在してもよく、その両方に存在してもよい。
【0029】
(A)のシロキサン骨格は、直鎖状又は分岐状であることができる。即ち、(A)は、(A1)直鎖状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサン又は(A2)分岐状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンであることができる。
【0030】
(A1)直鎖状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとしては、両末端がRSiO1/2単位で封鎖され、中間単位がRSiO2/2単位である直鎖状ポリオルガノシロキサンが挙げられる。ここで、Rは、R又はRであるが、R中、1分子当たり2個以上がRである。(A1)の23℃における粘度は、0.1〜500Pa・sであることが好ましく、0.5〜300Pa・sであることがより好ましく、1.0〜200Pa・sであることが特に好ましい。(A1)におけるRSiO1/2単位は、RSiO1/2単位、RSiO1/2単位又はRSiO1/2単位であることが好ましく、RSiO1/2単位であることが特に好ましい。中でも、(A1)は、両末端がMvi単位(ジメチルビニルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)のみからなる直鎖状のポリオルガノシロキサンが特に好ましい。
【0031】
(A2)分岐状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとしては、必須の単位としてSiO4/2単位とRSiO1/2単位を含み、任意の単位としてRSiO2/2単位及び/又はRSiO3/2単位を含む、分岐状のポリオルガノシロキサンが挙げられる。ここで、Rは、R又はRであるが、R中、1分子当たり2個以上がRである。硬化反応において架橋点となるように、R中、1分子当たり少なくとも3個のRがRであり、残余がRであることが好ましい。組成物の硬化物が、優れた機械的強度を有する観点から、RSiO1/2単位とSiO4/2単位の比率は、モル比として、1:0.8〜1:3の範囲の、常温で固体ないし粘稠な半固体の樹脂状のものが好ましい。
【0032】
(A2)において、Rは、RSiO1/2単位のRとして存在してもよく、RSiO2/2単位又はRSiO3/2単位のRとして存在してもよい。室温で速い硬化が得られる観点から、RSiO1/2単位の一部又は全部が、RSiO1/2単位であることが好ましい。
【0033】
(A)の粘度は、23℃において、0.1〜500Pa・sであることが好ましく、0.5〜300Pa・sであることがより好ましく、1.0〜200Pa・sであることが特に好ましい。(A)の粘度が前記の範囲であると、効率的にポリフェニレンスルフィド樹脂を含む様々な基材に対する接着性をより高めることができ、未硬化状態の組成物が、良好な流動性を示して、注型やポッティングの際に優れた作業性を示し、硬化後の組成物が、優れた機械的強度、及び適度の弾性と硬さを示すことができる。また、室温でも接着性をより高める点から、(A)の粘度が高いことが好ましい。ここで、(A)が、2種以上の組合せである場合、(A)の粘度とは、混合されたアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンの粘度を意味する。本明細書において、粘度は、JIS K6249:2003に準拠して、回転粘度計を用いて、スピンドル番号及び回転数を適宜設定し、23℃の条件で測定した値である。
【0034】
(A)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。(A)は、(A1)直鎖状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと(A2)分岐状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとの混合物であることが好ましい。(A)は、(A1’)両末端がRSiO1/2単位で封鎖され、中間単位がRSiO2/2単位であり、23℃における粘度が0.1〜500Pa・sである直鎖状ポリオルガノシロキサン:並びに、(A2’)必須の単位としてSiO4/2単位とRSiO1/2単位とRSiO1/2単位とを含み、任意の単位としてRSiO2/2単位及び/又はRSiO3/2単位を含む、分岐状のポリオルガノシロキサンの組合せ(上記各式中、Rは、R又はRであり、Rは、アルケニル基であり、Rは、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であり、分子中に2個以上のRを含有する)であることが特に好ましい。
【0035】
<(B)分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン>
(B)分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン(以下、「(B)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン」ともいう。)は、分子中に含まれるヒドロシリル基が、(A)のRとの間で付加反応することにより、(A)の架橋剤として機能するものである。(B)は、硬化物を網状化するために、該付加反応に関与するケイ素原子に結合した水素原子を分子中に3個以上有しているものであれば、特に限定されない。(B)は、ケイ素原子に結合した水素原子以外に、エポキシ基、シラノール基、アルコキシシリル基等の反応性有機官能基を有さないことが好ましい。また、(B)が環状シロキサン構造を有する場合、(B)は、主鎖に芳香族骨格を有さないことが好ましい。なお、(B)は、(E)ではない。
【0036】
(B)は、代表的には、一般式(II):
(RSiO(4−c−d)/2 (II)
(式中、
は、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基を表し;
cは、0〜2の整数であり;
dは、1〜3の整数であり、但し、c+dは1〜3の整数である)
で示される単位を分子中に3個以上有する。
【0037】
は、合成が容易な点から、メチル基が好ましい。また、dは、合成が容易なことから、1が好ましい。
【0038】
合成が容易である点から、(B)は、3個以上のシロキサン単位からなることが好ましい。また、硬化温度に加熱しても揮発せず、かつ流動性に優れて(A)と混合しやすいことから、(B)のシロキサン単位の数は、6〜200個であることが好ましく、10〜150個であることが特に好ましい。
【0039】
(B)におけるシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよく、直鎖状が好ましい。
【0040】
(B)は、(B1)両末端が、それぞれ独立して、RSiO1/2単位で閉塞され、中間単位がRSiO2/2単位のみからなる、直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサン、又は、(B2)RSiO1/2単位とSiO4/2単位のみからなる、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン(上記各式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であるが、但し、Rのうち、1分子当たり少なくとも平均で3つ以上は水素原子である)であることが好ましい。(B1)及び(B2)の場合において、RSiO1/2単位としては、HRSiO1/2単位及びRSiO1/2単位が挙げられ、RSiO2/2単位としては、HRSiO2/2単位及びRSiO2/2単位(上記各式中、Rは、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基である)が挙げられる。(B1)の場合において、ケイ素原子に結合する水素原子は、末端に存在していても、中間単位に存在していてもよいが、中間単位に存在することが好ましい。
【0041】
(B)としては、(B1−1)両末端がM単位(トリメチルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなる直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、(B1−2)両末端がM単位(トリメチルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)及びD単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなり、ジメチルシロキサン単位1モルに対して、メチルハイドロジェンシロキサン単位が0.1〜2.0モルである直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、又は(B2−1)M単位(ジメチルハイドロジェンシロキサン単位)及びQ単位(SiO4/2単位)のみからなるポリメチルハイドロジェンシロキサンが特に好ましい。
【0042】
(B)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0043】
<(C)白金系触媒>
(C)白金系触媒は、(A)中のアルケニル基と(B)中のヒドロシリル基との間の付加反応を促進させ、また同様の付加反応によって、架橋重合体のシロキサン網状構造に、後述する(E1)及び/又は(E3)を導入するための触媒である。
【0044】
(C)としては、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコールの反応生成物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ケトン錯体、白金−ホスフィン錯体のような白金化合物等が挙げられる。これらのうち、触媒活性が良好な点から、白金−ビニルシロキサン錯体が好ましく、室温において短時間に硬化して接着性を発現することから、白金−1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン錯体(Pt−Mvivi錯体)が特に好ましい。
(C)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0045】
<(D)周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩>
(D)周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩は、ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との接着体を高温環境下で使用した場合において、接着界面に移行したポリフェニレンスルフィド樹脂由来の硫黄を含む化合物を捕捉し、硬化物中の樹脂の分解を抑制する成分である。
【0046】
周期表第2族の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムが挙げられる。周期表第12族の金属としては、亜鉛、カドミウム、水銀及びコペルニシウムが挙げられる。これらの中でも、(D)としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂由来の硫黄を含む化合物の捕捉効果が高いことから、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛から選択される金属の酸化物又は炭酸塩が好ましく、亜鉛の酸化物又は炭酸塩がより好ましく、酸化亜鉛が特に好ましい。
(D)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0047】
(D)の平均粒子径は、(D)の分散性及びポリフェニレンスルフィド樹脂由来の硫黄を含む化合物の捕捉効果の観点から、0.1〜50μmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜20μmであり、特に好ましくは0.3〜10μmである。平均粒子径の測定値は、例えば空気透過法により測定したメジアン径(d50)である。
【0048】
(D)のBET法による比表面積は、ポリフェニレンスルフィド樹脂由来の硫黄を含む化合物の捕捉効果の観点から、0.1m/g以上50m/g未満であることが好ましく、より好ましくは0.5〜20m/gである。
【0049】
<(E)接着性付与剤>
(E)接着性付与剤は、組成物に、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む様々な基材に対する接着性を付与する成分である。また、組成物が(E)を含むことにより、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む様々な基材に対する接着性が付与される。これらの特性をいっそう向上させる点から、(E)は、下記(E1)〜(E4)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。(E)成分は、通常、23℃における粘度が80cP以下の流動性に富む液体である。
【0050】
(E1)ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式(1):
【化6】

で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物、
(E2)Si(OR基とエポキシ基含有基を有する有機ケイ素化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、
(E3)Si(OR基と脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、並びに
(E4)Si(ORで示されるテトラアルコキシシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物。
(上記各式中、Q、Q、R、R及びnは、前記のとおりである。)
【0051】
(E1)、(E2)、(E3)及び(E4)は、それぞれ、1種又は2種以上の組合せであってもよい。例えば、(E)は、1種の(E1)と2種の(E2)と2種の(E3)との組合せであってもよい。
【0052】
<<(E1)>>
(E1)は、組成物の硬化の際に(A)と付加反応して、(A)及び(B)との付加反応によって架橋したシロキサン構造に導入され、式(1)の側鎖が接着性を発現する部分として、組成物の室温における接着性に寄与する成分である。また、(E1)の側鎖に存在するアルコキシ基(以下、ORは、炭素数1〜4のアルコキシ基又は2−メトキシエトキシ基を表す)は、(E2)、(E3)及び/又は(E4)のアルコキシ基との共加水分解・縮合反応により、(E2)、(E3)及び/又は(E4)をシロキサン構造に導入することにも寄与する。
【0053】
は、合成及び取扱いが容易なことから、エチレン基及び2−メチルエチレン基が好ましい。Qは、合成及び取扱いが容易なことから、トリメチレン基が好ましい。Rは、良好な接着性を与え、かつ加水分解によって生じるアルコールが揮発しやすいことから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0054】
(E1)の特徴である上記の水素原子と上記の側鎖とは、合成が容易なことから、別個のケイ素原子に結合していることが好ましい。したがって、(E1)の基本部分は、鎖状、分岐状又は環状シロキサン骨格を形成していることが好ましく、特定の化合物を制御よく合成し、精製しうることから、環状シロキサン骨格が特に好ましい。(E1)に含まれるSi−H結合の数は、1個以上の任意の数であり、環状シロキサン化合物の場合、2個又は3個が好ましい。
【0055】
(E1)としては、下記の化合物が挙げられる。
【化7】
【0056】
<<(E2)>>
(E2)は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、(E1)、(E3)及び/又は(E4)のケイ素原子に結合したアルコキシ基との共加水分解・縮合反応によって、架橋したシロキサン構造に導入され、エポキシ基が接着性を発現する部分として、組成物の室温における接着性、特にプラスチックに対する接着性の向上に寄与する成分である。
【0057】
は、良好な接着性を与えることから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。nは、2又は3が好ましい。エポキシ基含有基としては、合成が容易で、加水分解性がなく、優れた接着性を示すことから、3−グリシドキシプロピル基のような、エーテル酸素原子を含む脂肪族エポキシ基含有基;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基のような脂環式エポキシ基含有基等が好ましい。Si(ORn基は、分子中に2個以上あってもよい。OR基の数は、分子中2個以上であることが好ましい。OR基とエポキシ基含有基とは、同一のケイ素原子に結合していてもよく、別のケイ素原子に結合していてもよい。
【0058】
(E2)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような3−グリシドキシプロピル基含有アルコキシシラン類;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシランのような2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基含有アルコキシシラン類;nが2以上のこれらシラン類の部分加水分解縮合物;並びに鎖状又は環状メチルシロキサンのメチル基の一部が、トリメトキシシロキシ基又は2−(トリメトキシシリル)エチル基と、上記のエポキシ基含有基とで置き換えられた炭素/ケイ素両官能性シロキサン等が挙げられる。
【0059】
<<(E3)>>
(E3)は、組成物の硬化の際に(B)と付加反応して、(A)及び(B)との付加反応によって架橋したシロキサン構造に導入され、側鎖に存在するアルコキシ基が、接着性を発現する部分として、組成物の室温における接着性、特に金属に対する接着性の向上に寄与する成分である。また、(E3)のアルコキシ基は、(E1)、(E2)及び/又は(E4)のアルコキシ基との共加水分解・縮合反応により、(E1)、(E2)及び/又は(E4)を架橋したシロキサン構造に導入することにも寄与する。(E3)は、Si(OR基と1個の脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物であることが好ましい。
アルコキシ基が他の(E3)のアルコキシ基、及び(E2)と併用する場合は、(E2)のアルコキシ基との共加水分解・縮合反応によって、他の(E3)及び/又は(E2)をシロキサン構造に導入する。
【0060】
は、良好な接着性を与えることから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。nは、2又は3が好ましい。脂肪族不飽和炭化水素基は、一価の基であることが好ましい。脂肪族不飽和炭化水素基は、ビニル、アリル、3−ブテニルのようなアルケニル基の場合、ケイ素原子に直接結合していてもよく、3−アクリロキシプロピル、3−メタクリロキシプロピルのように、不飽和アシロキシ基が3個以上の炭素原子を介してケイ素原子に結合していてもよい。不飽和炭化水素基含有基としては、合成及び取扱いが容易なことから、ビニル基、メタクリロキシプロピル基等が好ましい。Si(ORn基は、分子中に2個以上あってもよい。OR基の数は、分子中2個以上であることが好ましい。OR基と脂肪族不飽和炭化水素基とは、同一のケイ素原子に結合していてもよく、別のケイ素原子に結合していてもよい。
【0061】
(E3)としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルビニルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、メチルアリルジメトキシシランのようなアルケニルアルコキシシラン類及び/又はその部分加水分解縮合物;3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような(メタ)アクリロキシプロピル(メチル)ジ−及び(メタ)アクリロキシプロピルトリ−アルコキシシラン類及び/又はその部分加水分解縮合物等が挙げられる。
【0062】
<<(E4)>>
(E4)は、組成物の室温における金属への接着性を、更に向上させる成分である。Rとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルのような、直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられ、容易に入手でき、取扱いが容易で、接着性の向上効果が著しいことから、メチル基、エチル基が好ましい。また、(E4)は、テトラアルコキシシラン化合物単体で使用できるが、加水分解性に優れる点及び毒性が低くなる点から、テトラアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物であることが好ましい。
【0063】
<<他の接着性付与剤>>
(E1)〜(E4)以外の他の接着性付与剤としては、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド;チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトライソプロペニルオキシドのようなチタンアルコキシド等の金属アルコキシド類(但し、ジルコニウムアルコキシドを含まない)等が挙げられる。
【0064】
他の接着性付与剤としては、さらに、
【化8】

【化9】

等の一分子中に加水分解性シリル基と反応性有機官能基を有する化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(但し、(E1)〜(E4)を含まない);
【化10】

等の一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と反応性有機官能基を有する化合物;
【化11】

(式中、kは1〜3の整数である)等の一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と2価の芳香族基を有する化合物等が挙げられる。他の接着性付与剤の併用により、更に接着強さを高めることができる。
【0065】
<<好ましい態様>>
(E)は、(E1)、(E2)、(E3)及び/又は(E4)の組合せを含むことが好ましい。(E1)〜(E4)は、それぞれ1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0066】
<(F)ジルコニウム化合物>
組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む様々な基材に対する室温における接着性を更に向上させるために、任意成分として(F)ジルコニウム化合物を含有することが好ましい。(F)は、ジルコニウムを有する化合物であれば特に制限されない。(F)としては、オクタン酸ジルコニウム、テトラ(2−エチルヘキサン酸)ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム等のジルコニウムアシレート;n−プロピルジルコネート、n−ブチルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド(但し、ジルコニウムキレートを除く。);トリブトキシジルコニウムアセチルアセトネート、ジブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート等のジルコニウムキレート等が挙げられる。なお、ジルコニウムキレートは、分子中に1つ以上のキレート配位子(例えば、C、C等)を有する限り、アルコキシ基を有していてもよい。様々な基材に対する接着性により優れる点から、(F)は、ジルコニウムキレート化合物であることが好ましい。
【0067】
<(G)BET比表面積が50〜500m/gである無機充填剤>
組成物は、適度の流動性を与え、その硬化物に高い機械的強度を付与するために、任意成分として(G)BET比表面積(本明細書において、単に「比表面積」ともいう。)が50〜500m/gである無機充填剤を含有することが好ましい。なお、(G)は、(D)周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩を含まないものとする。
【0068】
(G)としては、煙霧質シリカ、焼成シリカ、シリカエアロゲル、沈殿シリカ、煙霧質酸化チタン、及びこれらの表面をポリオルガノシロキサン類、ヘキサメチルジシラザン等で疎水化したもののような補強性充填剤;並びにけいそう土、粉砕シリカ、酸化アルミニウム、アルミノケイ酸、ケイ酸カルシウム、タルク、酸化第二鉄のような非補強性充填剤が挙げられ、塗布作業性と、硬化して得られるゴム状弾性体に必要な物性に応じて選択される。(G)としては、補強性充填剤が好ましく、煙霧質シリカ、焼成シリカ、シリカエアロゲル及び沈殿シリカ等のシリカがより好ましく、煙霧質シリカが特に好ましい。
【0069】
(G)のBET比表面積は、50〜500m/gであることが好ましく、80〜400m/gであることがより好ましく、100〜300m/gであることが更に好ましく、110〜240m/gであることが特に好ましい。
【0070】
<(H)反応抑制剤>
組成物は、任意成分として(H)反応抑制剤を含有することが好ましい。(H)としては、マレイン酸ジアリル等の分子中に極性基を有する有機化合物;アセチレンアルコール類やその誘導体等の不飽和結合を有する有機化合物;等が挙げられる。(H)は、組成物の硬化反応速度を抑制して、取扱いの作業性、及び接着性の発現と硬化速度とのバランスの向上にも寄与する。
【0071】
<(I)更なる成分>
組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(I)更なる成分を含むことができる。このような成分として、(I1)分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、(I2)各種の添加剤等が挙げられる。なお、(I1)は、(E)ではない。(I)更なる成分は、それぞれ、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0072】
<<(I1)分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン>>
組成物は、更に、(I1)分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含むことができる。(I1)は、(A)等と反応して付加反応することにより、鎖延長剤として機能し得る。このような(I1)は、分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有すること以外は、(B)において説明したとおりである。(I1)は、(B)において前記した一般式(II)で示される単位を分子中に2個有する。
【0073】
(I1)におけるシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよく、直鎖状が好ましい。また、(I1)は、両末端が、それぞれ独立して、RSiO1/2単位で閉塞され、中間単位がRSiO2/2単位のみからなる(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であるが、但し、Rのうち、1分子当たり2つが水素原子である)、直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンであることがより好ましい。ケイ素原子に結合する水素原子は、末端に存在していても、中間単位に存在していてもよいが、末端に存在することが好ましい。よって、(I1)としては、両末端がM単位(ジメチルハイドロジェンシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)のみからなるポリメチルハイドロジェンシロキサンが特に好ましい。
【0074】
<<(I2)各種の添加剤>>
組成物は、目的に応じて、更に、有機溶媒、顔料(但し、(D)及び(G)を除く)、カーボンブラックのような導電性充填剤、チクソトロピー性付与剤、塗布作業性を改良するための粘度調整剤、紫外線防止剤、防かび剤、耐熱性向上剤、難燃化剤等の(I2)各種の添加剤を含むことができる。(I2)各種の添加剤は、それぞれ、1種又は2種以上の組合せであってもよい。なお、用途によっては、組成物を、トルエン、キシレンのような有機溶媒に溶解ないし分散させてもよい。
【0075】
なお、組成物は、酸無水物を含まないことが好ましい。組成物が酸無水物を含まないことにより、金属基材に対する腐蝕の問題が回避し得る。
【0076】
[組成]
組成物中の各成分の含有量は以下のとおりである。
(A)の含有量は、(B)、(C)、(D)及び(E)の合計100重量部に対し、10〜5,000重量部であることが好ましく、50〜4,000重量部であることがより好ましく、100〜3,000重量部であることが特に好ましい。このような範囲であると、室温において接着性を効率的に高めることができる。
【0077】
(A)が、(A1)直鎖状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと(A2)分岐状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとの混合物である場合、(A2)の含有量は、(A1)と(A2)の合計100重量部に対して、1〜80重量部であることが好ましく、1〜60重量部であることが特に好ましい。前記(A2)の含有量が80重量部以下であると、架橋密度が高くなりすぎず、硬化物の柔軟性がより優れる。また、前記(A2)の含有量がこのような範囲であると、室温において接着性がより高まる。
【0078】
(B)の含有量は、(A)のアルケニル基の個数Viに対する、(B)のケイ素原子に結合した水素原子の個数Hの比(H/Vi)が、0.1以上1.5未満であるような量が好ましく、0.2〜1.2であるような量がより好ましく、0.3〜1.0であるような量が特に好ましい。組成物におけるH/Viが、0.1以上であると、硬化物の機械的強度が優れやすく、1.5未満であると、組成物の各種部材に対する接着性が向上しやすい。
【0079】
(C)の含有量は、(A)に対して、白金金属原子換算で0.1〜1,000重量ppmであることが好ましく、0.5〜200重量ppmであることが特に好ましい。(C)の含有量が前記範囲であると、室温での速硬化性が十分となりやすい。
【0080】
組成物全体に対する(D)の含有量は、0.1〜20重量%である。組成物全体に対する(D)の含有量は、0.3〜10重量%であることがより好ましく、0.5〜6重量%であることが特に好ましい。組成物全体に対する(D)の含有量が0.1重量%未満であると、ポリフェニレンスルフィド樹脂由来の硫黄を含む化合物の捕捉効果が得られない。(D)の含有量が20重量%を超えると、前記捕捉効果が飽和する。
【0081】
組成物が、(E1)、(E2)及び/又は(E3)を含む場合、(E1)、(E2)及び/又は(E3)の合計量は、(A)の100重量部に対して0.1〜20重量部であることが好ましく、0.5〜10重量部であることが特に好ましい。この範囲にあると、室温における接着性が充分となりやすく、かつ、組成物の硬化物の機械的強度や柔軟性が向上しやすい。また、組成物が、(E4)を含む場合、(E4)の含有量は、硬化して得られるシリコーンゴムに、室温における金属への優れた接着性を付与することから、(A)の100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることが特に好ましい。なお、(E)が(E1)〜(E4)からなる群より選択される2種の混合物である場合、良好な接着性を得るために、重量比で(E1)〜(E4)の一方が他方の0.02〜50倍の範囲であることが好ましい。また、(E)が(E1)〜(E4)からなる群より選択される3種又は4種の混合物である場合、それぞれが(E)の3重量%以上配合されていることが好ましい。
【0082】
(F)の含有量は、(A)の100重量部に対して、(F)のジルコニウム原子換算で0.10重量部未満であることが好ましく、0.0025重量部以上0.10重量部未満であることがより好ましく、0.005〜0.070重量部であることが更に好ましく、0.010〜0.050重量部であることが特に好ましい。(A)の100重量部に対する(F)の含有量が、前記範囲であると、室温において、ポリフェニレンスルフィド樹脂に対する接着性がより優れやすい。
【0083】
(G)の含有量は、(A)の100重量部に対して、50重量部未満であることが好ましく、0.1〜50重量部であることがより好ましく、1〜30重量部であることが特に好ましい。このような含有量であれば、塗布作業性に優れ、及び、得られる硬化物の機械的強度が優れる。
【0084】
(H)及び(I)の含有量は、組成物の使用目的を損なわないかぎり特に限定されない。
【0085】
組成物の粘度は、特に限定されず、流動性のものから半流動性のもの及び非流動性のものまで、用途に応じて適宜調整することができる。
【0086】
(組成物の製造方法)
組成物は、必須成分である(A)〜(E)及び任意成分である(F)〜(I)を、万能混練機、ニーダー等の混合手段によって均一に混練して製造することができる。(B)、(C)及び(E)の添加順番は、任意であるが、(A)に(D)及び任意成分である(G)を加えて混合する工程の後に、(B)、(C)及び(E)の順に加えて混合することが好ましい。
【0087】
(組成物の好ましい態様)
安定に長期間貯蔵するために、(B)と(E1)に対して、(C)が別の容器になるように、適宜、2個の容器に配分して保存しておき、使用直前に混合し、減圧で脱泡して使用に供してもよい。この場合の組成物は、(A)〜(E)及び任意成分である(F)〜(I)を含む、第1部分及び第2部分からなる組成物であって、第1部分が(C)を含み、第2部分が(B)及び(E1)を含み、(A)、(D)、(E2)〜(E4)及び任意成分である(F)〜(I)は、それぞれ独立に、第1部分及び/又は第2部分に含まれる。この場合の組成物の製造方法は、工程(1a)(A)に(D)及び任意成分である(G)を加えて混合する工程と、工程(1b)工程(1a)で得られた混合物に(C)並びに任意成分である(F)、(H)及び(I2)、また必要に応じて(E2)〜(E4)を加えて混合する工程と、を含む第1部分を得る工程;並びに、工程(2a)(A)に(D)及び任意成分である(G)を加えて混合する工程と、工程(2b)工程(2a)で得られた混合物に(B)、(E)並びに任意成分である(F)、(H)及び(I)を加えて混合する工程と、を含む第2部分を得る工程;を含むことが好ましい。
【0088】
(ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との接着部分を含む物品の製造方法)
ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物とは、接着部分を有していればよく、その形状には限定されない。
例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との接着部分を含む物品の製造方法の第一の態様は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む部品及び組成物を準備する工程;前記部品の表面に前記組成物を塗布する工程;並びに前記組成物を硬化して、前記部品及び前記組成物の硬化物を接着する工程を含む。本態様では、組成物の硬化物は、部品の保護膜として作用し得る。組成物の硬化物が保護膜として作用する場合、保護膜としての特性を保持していればよく、その厚みは特に限定されない。
【0089】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む部品は、ポリフェニレンスルフィド樹脂と1種以上の他の材料との複合材料であってもよい。他の材料としては、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅等の金属又はそれらの合金、及び、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)等の有機樹脂等が挙げられる。部品は、電気電子部品、光学部品又は自動車部品であることが好ましい。
【0090】
組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む部品の表面の接着すべき部位に、所定の厚さで、滴下、注入、流延、容器からの押出し、バーコート、ロールコート等のコーティング、スクリーン印刷等の方法により塗布される。組成物は、前記部品の表面上に全体的かつ均一に塗布されてもよく、線状、ストライプ状、ドット状等のように不均一又は部分的に塗布されてもよい。
【0091】
前記部品の表面に塗布された組成物は、室温(例えば、23℃)で放置して又はより高温に加熱して硬化させることにより、前記部品と組成物の硬化物とを接着させることができる。より高温に加熱する場合は、室温よりも短時間で硬化させることができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0092】
加熱条件は、組成物が適用される部材の耐熱温度に合わせて適宜調整することができ、硬化時間を決めることができる。例えば、室温(23℃)超120℃以下の熱を、1分〜2週間、好ましくは5分〜72時間の範囲で加えることができる。加熱温度は、操作性の観点から、40〜120℃であることが好ましく、50〜110℃であることが特に好ましい。加熱時間は、硬化工程の簡便さの観点から、5分〜72時間であることが好ましく、5分〜24時間であることが特に好ましい。また、室温で硬化させる場合、硬化時間は、1週間以下であることが好ましく、72時間以下であることがより好ましく、24時間以下が特に好ましい。
【0093】
本態様の一態様において、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む部品としてシート状の部品を使用し、その一方又は両方の面に組成物の硬化物を設けたシート状の物品とすることができる。組成物は、シート表面上に全体的かつ均一に塗布されても、線状、ストライプ状、ドット状等のように不均一又は部分的に塗布されてもよい。シートの厚みは、特に制限されない。このようにして得たシート状の物品は、適宜不要部分を除去する、又は中空を有するビード状(線状)、リング状等に加工する等して、例えば自動車部品用のパッキンとして使用することができる。ビード状、リング状等に加工した場合の断面の形状は、円形;楕円形;三角形、四角形等の多角形;不定形等にすることができ、その大きさは、特に限定されない。
【0094】
本態様の別の態様において、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む部品として、断面が円形;楕円形;三角形、四角形等の多角形;不定形等であり、中空を有する又は有さないビード状、リング状等の部品を使用し、その部品の外周面に組成物の硬化物を設けた物品とすることができる。この態様の物品も、例えば自動車部品用のパッキンとして使用することができる。
【0095】
ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との接着部分を含む物品の製造方法の第二の態様は、ポリフェニレンスルフィド樹脂からなる容器及び組成物を準備する工程;前記容器中に前記組成物を充填する工程;並びに前記組成物を硬化して、前記容器及び前記組成物の硬化物を接着する工程を含む。
【0096】
ポリフェニレンスルフィド樹脂からなる容器は、ポリフェニレンスルフィド樹脂のみから構成されていてもよく、ポリフェニレンスルフィド樹脂と1種以上の他の材料とから構成されていてもよい。他の材料としては、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅等の金属又はそれらの合金、及び、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)等の有機樹脂等が挙げられる。他の材料を併用した容器の例としては、アルミニウム製の底板と、ポリフェニレンスルフィド樹脂製の胴体部分とを貼り合わせた容器等が挙げられる。
【0097】
容器の形状は、組成物を充填可能なものであれば特に限定されず、円柱状;楕円柱状;三角柱状、直方体状等の多角形柱状;不定形な柱状;ボトルのような上面が底面に比べ窄まった形状;お椀のような上面が底面に比べ広がった形状;容器の胴体部分に窪み又は出っ張りがある形状等を挙げることができる。容器の上面と底面の形状は、同一であっても異なっていてもよい。上面と底面の形状が異なる場合、上面の面積は、底面の面積以上であってもよく、底面の面積より小さくてもよい。容器は、電子部品搭載容器であることが好ましい。
【0098】
ポリフェニレンスルフィド樹脂からなる容器に組成物を充填する方法は、特に限定されず、滴下、注入、流延、容器からの押出し等の方法により行われる。容器の総容量に対する組成物の充填率は、特に限定されず、0%超100%以下の任意の範囲である。容器に組成物を充填した後、室温(例えば、23℃)で放置して又はより高温に加熱して硬化させることにより、容器と組成物の硬化物とを接着させることができる。より高温に加熱する場合は、室温よりも短時間で硬化させることができ、作業効率の向上を図ることができる。組成物の加熱条件は、第一の態様で記載したのと同様である。
【0099】
また、容器の中の所定の位置に、予め電気電子部品、光学部品、自動車部品等の部品を配置した後、組成物を容器に充填し、硬化させて、容器と部品とを組成物の硬化物を介して接着させることができる。あるいは、容器の中に組成物を充填後、組成物を介して部品を所定の位置に配置し、組成物を硬化させて、容器と前記部品とを組成物の硬化物を介して接着させることもできる。
部品は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含んでいてもよく、含まなくてもよいが、含んでいることが好ましい。また、部品は、ポリフェニレンスルフィド樹脂と1種以上の他の材料との複合材料であってもよい。
【0100】
ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との接着部分を含む物品の製造方法の第三の態様は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む第一の部品、第二の部品及び組成物を準備する工程;第一の部品及び/又は第二の部品の表面に前記組成物を塗布する工程;第一の部品と第二の部品とを前記組成物を介して重ね合わせる工程;並びに前記組成物を硬化して、第一の部品及び第二の部品を前記組成物の硬化物を介して接着する工程を含む。
【0101】
第一の部品は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む。第一の部品は、ポリフェニレンスルフィド樹脂と1種以上の他の材料との複合材料であってもよい。他の材料としては、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅等の金属又はそれらの合金、及び、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)等の有機樹脂等が挙げられる。
【0102】
第二の部品の材質は、特に限定されず、ポリフェニレンスルフィド樹脂であってもよく、第一の部品で例示したような他の材料であってもよい。第二の部品は、上記材料を2種以上組み合わせた複合材料であってもよい。第一の部品と第二の部品は、同一でも異なっていてもよい。
第一の部品及び第二の部品は、電気電子部品、光学部品又は自動車部品であることが好ましい。
【0103】
組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む第一の部品及び/又は第二の部品の表面の接着すべき部位に、滴下、注入、流延、容器からの押出し、バーコート、ロールコート等のコーティング、スクリーン印刷等の方法により塗布される。その後、第一の部品と第二の部品とを組成物を介して重ね合わせる。重ね合わせた後、接着部位がずれるのを防止するため、治具等により該部位を固定してもよい。
組成物を塗布する工程及び第一の部品と第二の部品とを組成物を介して重ね合わせる工程は、例えば、所定の間隔に保持された第一の部品と第二の部品との間に、組成物を注入等することによって、同時に行われてもよい。
重ね合わせる部分は、組成物を貼り合わせる形になればよく、その形状に制限はない。また、貼り合わせた部位のシール性、機械的強度等が保持されていれば、組成物の厚みは、特に制限されない。
【0104】
第一の部品と第二の部品とを組成物を介して重ね合わせた後、室温(例えば、23℃)で放置して又はより高温に加熱して硬化させることにより、両部品を組成物の硬化物を介して接着させることができる。より高温に加熱する場合は、室温よりも短時間で硬化させることができ、作業効率の向上を図ることができる。組成物の加熱条件は、第一の態様で記載したのと同様である。
組成物を塗布する工程、第一の部品と第二の部品とを組成物を介して重ね合わせる工程、及び硬化・接着工程は、トランスファー成形や射出成形により、第一の部品、組成物の硬化物及び第二の部品を一体成形することによって同時に行われてもよい。
【0105】
(ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との接着部分を含む物品)
ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との接着部分を含む物品は、該接着部分の接着性が優れ、高温環境下で使用した場合でも接着性の低下が少ない。ポリフェニレンスルフィド樹脂と他の材料が組成物の硬化物を介して接着される場合、他の材料の材質は、特に限定されず、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅等の金属又はそれらの合金、及び、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)、PPS(ポリフェニレンスルフィド樹脂)等の有機樹脂等を使用することができる。
【0106】
(用途)
組成物は、電気電子用及び自動車用部品の実装又は封止、半導体又は汎用プラスチックの接着等に用いることができる。具体的には、組成物は、光学素子、半導体モジュール、パッキン等の各種部品用のシール剤又はポッティング剤に用いることができる。組成物は、これらの部品等におけるポリフェニレンスルフィド樹脂に対する接着用途に好適である。更に、ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との接着部分を含む物品は、100℃以上、具体的には、120℃以上、特には150℃以上の高温環境に晒される用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を更に詳細に説明する。これらの例において、部は重量部を示し、粘度は23℃における粘度を示す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0108】
(使用成分)
実施例及び比較例にて用いた成分は、以下のとおりである。
(A)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン
A−1:Mvivi(式中、nは、23℃における粘度が10Pa・sであるような値である)で示される直鎖状ポリメチルビニルシロキサン
A−2:M単位、Mvi単位及びQ単位のみからなり、モル単位比がMviで示される分岐状ポリメチルビニルシロキサン(重量平均分子量4,000、1分子当たり平均4個のビニル基)
(B)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン
B:MD2020Mで示され、23℃における粘度が20mPa・sである直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン(1分子当たり平均20個の水素原子)
(C)白金系触媒
C:塩化白金酸をMviviで示されるシロキサン二量体と加熱することによって得られ、白金含有量が2.0重量%である白金−ビニルシロキサン錯体(Pt−Mvivi錯体)
(D)周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩
D−1:炭酸カルシウム(日東粉化工業株式会社製、NS#400、平均粒子径:1.7μm)
D−2:酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社、パイロキスマ5301、平均粒子径:2.0μm)
D−3:酸化亜鉛(三井金属鉱業株式会社製、亜鉛華1号、平均粒子径:0.75μm)
(E)接着性付与剤
E−1:式:
【化12】

で示される環状シロキサン
E−2:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
E−3:ビニルトリメトキシシラン
E−4:テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(4量体)(三菱ケミカル株式会社製、MKC(登録商標)シリケートMS51)
(F)ジルコニウム化合物
F:(n−CO)Zr(C) トリブトキシジルコニウムアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル株式会社製、ZC−540)、有効成分45重量%、金属含有量10.2重量%
(G)BET比表面積が50〜500m/gである無機充填剤
G:比表面積160m/gの煙霧質シリカ(アエロジルR−8200、日本アエロジル株式会社製)
(H)反応抑制剤
H:マレイン酸ジアリル
【0109】
実施例1
(1)第1部分の調製
あらかじめ重量比1:1でA−2をA−1に溶解したもの47.0重量部、1.0重量部のD−1及び18.0重量部のGを万能混練機に移して、室温(23℃)で60分間撹拌し、150℃で60分間減圧下に撹拌した。50℃以下まで冷却して、40.0重量部のA−1を加えて30分間撹拌した。こうして得た混合物に、A−1及びA−2の合計に対し白金金属原子換算で100重量ppmになるようにCを加えて、室温で10分間撹拌した。0.25重量部のFを加えて、室温で10分間撹拌して、「第1部分」を調製した。第1部分の配合比を表1に示す。
(2)第2部分の調製
あらかじめ重量比1:1でA−2をA−1に溶解したもの47.0重量部、1.0重量部のD−1及び18.0重量部のGを万能混練機に移して、室温(23℃)で60分間撹拌し、150℃で60分間減圧下に撹拌した。50℃以下まで冷却して、28.9重量部のA−1を加えて30分間撹拌した。3.135重量部のBを加えて、室温で10分間撹拌した。0.03重量部のH、6.0重量部のE−1、0.88重量部のE−2、1.0重量部のE−3、及び0.32重量部のE−4を加えて、室温で10分間撹拌して、「第2部分」を調製した。第2部分の配合比を表2に示す。
(3)ポリオルガノシロキサン組成物(第1部分及び第2部分の混合物)の調製
あらかじめ調製しておいた「第1部分」及び「第2部分」を混合し、10分間すばやく減圧混練することにより、脱泡を行って、ポリオルガノシロキサン組成物(第1部分及び第2部分の混合物)を調製した。なお、組成物におけるH/Viは、0.60であった。
【0110】
実施例2〜6
D成分の種類及び量を変更した以外は、実施例1と同様にして「第1部分」及び「第2部分」を調製し、実施例2〜6のポリオルガノシロキサン組成物を調製した。実施例2〜6の第1部分及び第2部分の配合比をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0111】
比較例1
D成分を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして「第1部分」及び「第2部分」を調製し、比較例1のポリオルガノシロキサン組成物を調製した。比較例1の第1部分及び第2部分の配合比をそれぞれ表1及び2に示す。
【0112】
(評価方法)
<試験片の作製>
JIS K6249:2003に準拠して、せん断接着試験用の試験片を以下のようにして作製した。具体的には、以下のとおりである。
実施例1〜6及び比較例1の組成物を、それぞれコーカーに充填した。ポリフェニレンスルフィド樹脂(東ソー株式会社製、サスティール(登録商標) GS−40%)の樹脂板(80mm×25mm×2mm)を2枚用意した。1枚の樹脂板の一方の面に、一方の短辺からの塗布長さが10mm、塗布部分が25mm×10mm、厚さが1.0mmになるように、組成物をコーカーから押出して塗布した。組成物が塗布された部分に、もう1枚の樹脂板を、接着部分が25mm×10mmになるように一つの短辺から重ね合わせ、重ね合わせた部分を治具で固定した。このようにして固定した樹脂板を50℃で30分間加熱し、組成物を硬化し、樹脂板同士を接着させて、試験片を得た。
【0113】
<150℃保管試験>
せん断接着試験用の試験片を、それぞれ、熱風循環式乾燥機中150℃で250、500及び1000時間加速試験し、以下のせん断接着試験及び凝集破壊率の評価に供した。
【0114】
<せん断接着試験>
初期評価用として作製1日後、並びに150℃で250、500及び1000時間加速試験後の各試験片について、JIS K6249:2003に準拠して、せん断接着力を評価した。但し、引張速度は、10mm/minとした。
【0115】
<凝集破壊率の評価>
せん断接着試験後の試験片の接着面を観察し、全接着面積当たりの、ポリフェニレンスルフィド樹脂に硬化物が付着している割合を凝集破壊率として評価した。凝集破壊率は、10%刻みの数値として算出した。凝集破壊率が大きいほど、ポリフェニレンスルフィド樹脂と組成物の硬化物との間の界面が強く接着していることを示す。
【0116】
実施例1〜6及び比較例1の組成物を用いて作製した試験片について、初期及び150℃保管後のせん断接着力及び凝集破壊率の結果を表3にまとめる。
【0117】
【表1】

Cの配合比は、A−1及びA−2の合計に対する白金金属原子換算の値である。
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
表3から明らかなように、実施例1〜6のポリオルガノシロキサン組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂に対する初期接着性が優れるだけでなく、150℃保管後の接着性の低下が少ない。
【0121】
実施例1〜2、実施例3〜4及び実施例5〜6の比較より、Dは、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムの順で、150℃保管後の凝集破壊率の低下が小さく、良好である。また、実施例1、3及び5と実施例2、4及び6の比較より、Dの配合部数が5.0重量部である実施例2、4及び6は、150℃保管後の凝集破壊率の低下が小さく、良好である。
【0122】
Dとして酸化亜鉛を使用する実施例5は、配合部数が1.0重量部と少なくても、150℃で1000時間の加速試験後のせん断接着力が高く、凝集破壊率が100%に維持されており、150℃保管後のポリフェニレンスルフィド樹脂に対する接着性に優れていた。
【0123】
比較例1の組成物は、Dを含まないため、ポリフェニレンスルフィド樹脂に対する初期接着性は良好であるものの、150℃で250時間の加速試験後でもせん断接着力及び凝集破壊率が大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物は、電気電子用及び自動車用部品のような高温環境に晒される部品の接着剤として使用することができる。
【要約】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に対する接着性が優れ、かつ、長期間高温環境下で使用した場合の接着性の低下が少ない付加反応硬化型のポリオルガノシロキサン組成物を提供する。
(A)分子中に2個以上のアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサン;(B)分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン;(C)白金系触媒;(D)周期表第2族及び第12族の金属から選択される金属の酸化物又は炭酸塩;並びに(E)接着性付与剤を含む、ポリフェニレンスルフィド樹脂接着用ポリオルガノシロキサン組成物であって、組成物全体に対する(D)成分の含有量が0.1〜20重量%である組成物。