<発明の概要>
既に述べたように、卒FITにより生じる余剰電力の使途は、主に2通り想定される。すなわち、小売電気事業者への売電、または、自宅に設置した蓄電設備(例:昼間運転型エコキュート、蓄電池)または電気自動車への蓄電による自家消費、である。
その一方で、多くのメリットがある電気自動車を、卒FIT世帯が購入し、例えば、家庭用太陽光発電システムで生じた余剰電力を、当該電気自動車にて蓄電するとすれば、別の観点で課題が生じ、電気自動車導入を妨げる結果となりうる。
こうした課題とは、1.電気自動車の使用時(自宅から電気自動車で外出するケース)の余剰電力は、小売電気事業者が定めた安価な買取単価で売電することなり、経済的メリットを享受しにくい、2.外出先での電気自動車の充電(例:スーパーや駐車場などでの充電)は、上述の買取単価よりも高い市場価格(販売単価)で買電した電力で行われ、自宅で充電するよりも高コスト化する、といったものになる。
上記課題を解決せずに、余剰電力を外部装置に充電すなわち売電すると共に、そうした外部装置から、必要に応じてユーザ都合のタイミングで買電し、自らの電気自動車に充電する、という運用を行えば、当該ユーザは経済的メリットを得る機会やその程度が低いか、或いは経済的にはマイナスとなる恐れもある。
また、そのような運用を行うためには、各ユーザや小売電気事業者、街中の充電設備といった各プレイヤーを一元管理し、各電気自動車の売電/買電の情報を集約管理する必要もでてくる。そうなると、当該運用を担う事業者等と契約する/できる者のみが参加できる、排他的で中央集権的な環境が生じかねない。電気自動車を蓄電対象として導入し、再生可能エネルギーにより生まれた余剰電力の蓄電や利用を、低コストで幅広く促進することは困難になる。
そこで本発明では、例えば各世帯で太陽光発電システム等により発電した電力のうち当該世帯で使用しなかった余剰電力の情報に、暗号化処理を適用して正の電力資産の情報を生成し、当該正の電力資産の情報を、当該世帯の電気自動車が備える記憶装置(例:ETCカードのICチップなど)に格納し、街中の店舗や駐車場にて上述の電気自動車が充電サービスを受ける場合、そうした店舗等での充電量の情報に、暗号化処理を適用して負の電力資産の情報を生成し、当該負の電力資産の情報を電気自動車の記憶装置に格納し、正および負の各電力資産の情報を復号化して得た各値の間で相殺処理を行って電力純資産を算定し、当該電力純資産に暗号化処理を適用して電力純資産の情報を生成し、当該電力純資産の情報を上述の電気自動車の記憶装置に格納する。
こうした構成によれば、再生可能エネルギーに起因する余剰電力の効率的な利用を、電気自動車を通じて低コストに促進可能となる。
<ネットワーク構成>
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態の電力アセット管理システム10を含むネットワーク構成図である。
図1に示す電力アセット管理システム10は、再生可能エネルギーに起因する余剰電力の効率的な利用を、電気自動車を通じて低コストに促進可能とするコンピュータシステムである。
こうした電力アセット管理システム10は、例えば、世帯端末50、電気自動車の車載端末100(情報処理装置)、小売電気事業者システム200、および充電設備システム300から構成できる。勿論、システム構成としてはこの形態に限定はしない。例えば車載端末100ではなく、当該電気自動車のユーザが所持するスマートフォンを情報処理装置として採用するなど想定可能である。
また、本実施形態の電力アセット管理システム10は、インターネットや適宜な専用線などのネットワーク1を介して、上述の世帯端末50、車載端末100、小売電気事業者システム200、および充電設備システム300が互いに通信可能に接続され、構成されている。
上述のシステム構成のうち、世帯端末50は、上述の電気自動車のユーザが居住する世帯に備わる端末であり、例えば、当該世帯に備わる太陽光発電システムおよび系統電源(小売電気事業者から給電される商用電源)の間にある配電盤(情報処理機能を保持)などを想定しうる。世帯端末50は、宅内ネットワーク(例:電灯線ネットワークや無線LANなど)を介し、売買管理情報5に関して、当該世帯の敷地にて駐車中の電気自動車の車載端末100と通信可能であるとする。
上述の売買管理情報5は、当該世帯が系統電源から買電した電力の情報、および太陽光発電システムでの発電量のうち余剰電力を売電した情報、などが該当する。
この世帯では、再生可能エネルギーである太陽光により太陽光発電システムにて発電し、この電力を一般的な自家消費を行う他、電気自動車への給電源としても利用する。勿論、そうした太陽光発電システムでの発電量が、当該世帯での電力消費全てをまかなえない状況もありうるため、その場合、系統電源から従前どおりの給電を受けることになる。
また、車載端末100は、上述のユーザが管理する電気自動車の車載端末であって、一例としては、ETCカード165の読み取りとETCゲートでの決済処理を行うETC端末を想定する。この車載端末100は、本実施形態の電力アセット管理システムを主として構成する情報処理装置に該当する。また、自身の通信装置110を用いて、およびネットワーク1や上述の宅内ネットワークを介して、世帯端末50、充電設備システム300、と通信可能であるとする。この車載端末100のハードウェア構成やデータベースの具体的な例については後述する。
また、小売電気事業者システム200は、各小売電気事業者(図中では小売電気事業者Aと小売電気事業者B)が運用するシステムであって、一例としてはサーバ装置を想定する。また、この小売電気事業者システム200は、上述の車載端末100を備える電気自動車が通常所在する世帯、すなわち当該電気自動車のユーザの所在世帯での、再生可能エネルギーにより発電された電力を、系統を通じて受け入れ、予め定めた買取単価にて買電する処理と、逆に、系統を通じて当該世帯(や電気自動車)に給電して販売単価で売電する処理を実行する。
この小売電気事業者システム200は、上述の世帯への給電や当該世帯からの買電に伴い、世帯端末50すなわち配電盤に、それらの情報すなわち売買管理情報5を通知する。
また、充電設備システム300は、街中のスーパーやコンビニエンスストアなどの店舗、高速道路や一般道の給油所、駐車場、或いはカーディーラー、公共施設などに設置されている、電気自動車向け充電設備を管理するシステムであって、一例としてはサーバ装置を想定する。
この充電設備システム300は、充電設備における電気自動車への給電(充電)に伴い、給電量の情報(或いは電気自動車からの買電の情報も含みうる)すなわち売買管理情報5を管理し、これを当該電気自動車の車載端末100に通知しうる装置である。そのため、充電設備システム300は、例えば、電気自動車の車載端末100と、給電用ケーブルを介して通信可能に接続されるものとする。
<ハードウェア構成>
続いて、電力アセット管理システム10を構成する各装置のうち、車載端末100のハードウェア構成について
図1に基づき説明する。
本実施形態における車載端末100は、通信装置110、記憶装置120、演算装置130、入力装置140、出力装置150、およびカードリーダ160を備える。
このうち通信装置110は、携帯電話網や公衆無線LAN、宅内電灯線ネットワーク、など適宜なネットワーク1と接続して、世帯端末50、充電設備システム300などの外部装置との通信処理を担う。
また、記憶装置120は、ハードディスクドライブやSSDなど適宜な不揮発性記憶素子で構成された記憶手段である(この記憶装置120の概念に、揮発性記憶素子のRAMなど、いわゆるメモリの構成を含むとしてもよい)。
また、演算装置130は、例えば記憶装置120に保持されるプログラム121を読み出して実行し装置自体の統括制御を行なうとともに各種判定、演算及び制御処理を行なうプロセッサである。
なお、記憶装置120内には、本実施形態の電力アセットシステム10における車載端末100として必要な機能を実装する為のプログラム121において、売買管理情報5に適用して電力資産の情報を生成するアルゴリズムとして、暗号化プログラム122を保持している。
また、上述の暗号化プログラム122で生成された電力資産の情報は、カードリーダ160を介してETCカード165のICチップ内における、アセット管理DB170に格納される。また、このETCカード165には、正負の電力純資産の情報に基づき生成される電力純資産情報171も格納される。これらアセット管理DB170や電力純資産情報171のデータ構成詳細については後述する。ただし、こうした格納形態は一例であって、記憶装置120に予め設けたセキュアな記憶領域に格納するとしてもよい。
また、入力装置140は、当該車載端末100のユーザによる入力操作を受け付けるインターフェイスであって、各種ボタン、キーボード、マウス、マイク等が含まれる。
また、出力装置150は、演算装置130での処理結果を出力するインターフェイスであって、ディスプレイ、スピーカーといったものが含まれる。
<データ構造例>
次に、本実施形態の電力アセット管理システム10における車載端末100が用いるデータベースにおけるデータ構造例について説明する。
図2は本実施形態におけるアセット管理DB170の構成例を示す図である。
このアセット管理DB170は、電気自動車に関して生じた正負の電力資産の情報を格納したデータベースである。より具体的に、アセット管理DB170のデータ構造は、例えば、日付をキーに、当該日において生じた電力資産の情報として、当該電気自動車のID、利用者を一意に識別するユーザID、当該電気自動車が日常的に所在する施設を一意に識別する自施設ID、当該電気自動車が充電を受けた別施設のID、当該自施設の余剰電力を売電した小売電気事業者のID、電力資産の正負、および当該電力資産の情報、といった値を対応付けたレコードの集合体となっている。
このうち、電力資産の情報は、買取金額の値か買電金額の値を示すものとなる。このうち買電金額は、店舗等の外部施設で上述の電気自動車に充電がなされた際の、充電量の情報であって、より具体的には、当該電気自動車への充電量に、当該外部施設における充電料金の単価を乗算して得た充電額が該当する。また、買取金額は、当該電気自動車の所在施設である上述の世帯において、その太陽光発電システムなどでの発電量のうちの余剰電力を系統を通じて小売電気事業者に買い取らせた際の金額である。この買取金額は、当該余剰電力の電力量に、当該小売電気事業者が定めた買取単価を乗算し算定する。
また、
図3に電力純資産情報171の例を示す。電力純資産情報171は、上述のアセット管理DB170で保持する各電力資産の情報を、その正負を踏まえて相殺して残った残価を、現時点での電力純資産として管理する情報である。
また、
図4に売買管理情報5のデータ構成例を示す。この売買管理情報5は、上述のアセット管理DB170の1レコードの元となる情報である。そのデータ構成は、例えば、日付をキーに、電気自動車ID、ユーザID、施設ID、電力資産の正負、および電力資産の情報といった値を対応付けたレコードの集合体である。
ここで示す売買管理情報5は、一例として、街中で電気自動車に充電サービスを提供する施設の充電設備システム300が保持するものをあげている。したがって、この施設を訪れて充電を受けようとする電気自動車が現れるごとに、売買管理情報5のレコードが追加されていくことになる。
また、売買管理情報5における項目のうち、電気自動車IDは、当該施設で充電を受けた電気自動車の識別情報である。また、ユーザIDは、その電気自動車のユーザの識別情報である。また、施設IDは、その充電サービスを提供している本施設の識別情報である。
こうした売買管理情報5は、充電設備システム300が、電気自動車IDごとにレコードを仕訳した上で、当該電気自動車の車載端末100に送信される。
<電力アセット管理方法のフロー例>
以下、本実施形態の電力アセット管理システム10における動作例について図に基づき説明する。
図5は、本実施形態における電力アセット管理方法のフロー例を示す図である。以下で説明する各種動作は、電力アセット管理システム10における世帯端末50や車載端末100、充電設備システム300が実行するプログラムによって実現される。そして、このプログラムは、以下に説明される各種の動作を行うためのコードから構成されている。
まず前提として、或る世帯の建物において太陽光発電システムが稼働中であり、この世帯の居住者は電気自動車を保有しているものとする。また、上述の太陽光発電システムで発電した電力のうち、当該建物の電気機器等での消費分を除いた余剰電力は、電気自動車の充電に使用されるが、当該電気自動車が外出中または満充電である場合、系統を通じて小売電気事業者に売却すなわち買い取りさせるポリシーが運用中である(但し、これはあくまでも一例である)。
こうした前提の世帯において、上述の太陽光発電システムにおいて発電中であり、その発電量に余剰分が生じており、かつ電気自動車は不在であったとする。その場合、当該世帯の建物に備わる世帯端末50は、系統を通じて小売電気事業者に売電した余剰電力量の値を、ネットワーク1を通じて電気自動車の車載端末100に通知(
図6参照)する。
一方、車載端末100は、上述の余剰電力量の値の通知を受け、これを暗号化プログラム122に適用することで、正の電力資産の情報を生成する(s10)。
なお、電気自動車が不在であった場合、世帯端末50は上述の余剰電力量の値を一旦保持しておき、当該電気自動車が戻ってきた際に通知するとしてもよい。
こうした暗号化プログラム122における正の電力資産の情報の生成手順としては、例えば、上述の小売電気事業者における買取単価を余剰電力量の値に乗算することで買取金額を算定する。また、この買取金額を例えば暗号鍵で暗号化し、これを正の電力資産の情報とするものとなる。この暗号鍵は、車載端末100に固有のもので、暗号化プログラム122または記憶装置120のセキュアな領域に秘匿されている。
また、車載端末100は、s10で生成した正の電力資産の情報を、カードリーダ160を介し、ETCカード165の記憶領域におけるアセット管理DB170に格納する(s11)。
その後、上述の電気自動車が移動して充電施設に到着し、この充電施設にて充電サービスを受けようとしている状況を想定する。この場合、車載端末100は、ETCカード165のアセット管理DB170で保持する電力純資産情報171を抽出し、これを暗号化プログラム122により復号化(
図7参照)し(暗号化プログラム122は復号化の機能も備える)、この電力純資産の値が少なくとも0以上で、充電に対応する残り価値があるか判定する(s12)。
なお、車載端末100は、アセット管理DB170において正の電力資産の情報しか存在していない場合、上述のs12において、当該正の電力資産の情報それぞれを暗号化プログラム122に適用して復号化し、買取金額の各値を取得、集計し、電力純資産の値を得るとしてもよい。
上述の判定の結果、充電に対応する残り価値が無い場合(s12:n)、電気自動車に対する電施設での充電量すなわち買電量の値を、暗号化プログラム122に適用して負の電力資産の情報(
図8参照)を生成し、ETCカード165のアセット管理DB170に格納し(s13)、処理をs10に遷移させる。
こうした暗号化プログラム122における負の電力資産の情報の生成手順としては、例えば、上述の充電施設における充電単価を、充電量の値に乗算することで買電金額を算定する。また、この買電金額を例えば暗号鍵で暗号化し、これを負の電力資産の情報とするものとなる。この暗号鍵は、車載端末100に固有のもので、暗号化プログラム122または記憶装置120のセキュアな領域に秘匿されている。
一方、上述の判定の結果、充電に対応する残り価値がある場合(s12:y)、車載端末100は、ETCカード165のアセット管理DB170で保持する電力純資産情報171を抽出して、これを暗号化プログラム122により復号化し、この電力純資産の値を決済資金とし、上述の充電施設における今回の充電のための充電料金に充当(
図9参照)する(s14)。
この場合、充電施設の充電設備システム300が、電気自動車への充電量に充電単価を乗算した充電金額を、車載端末100に通知するものとする。一方、車載端末100は、充電設備システム300との間で、上述の通知が示す充電金額に対応した額を、上述の電力純資産の値で決済する処理を実行することとなる。こうした決済処理自体は、従来技術を適宜に適用したものとなる。
続いて、車載端末100は、上述のs14での充当の処理により減算された電力純資産の値を、暗号化プログラム122に適用して、新たな電力純資産の情報を生成し、これで電力純資産情報171を更新する(s15)。
車載端末100は、上述の更新の結果、電力純資産の値が負の値となっている場合(s16:y)、電力資産の貸付情報として出力装置150に表示(
図10参照)し(s17)、処理を終了する。他方、上述の更新の結果、電力純資産の値が正の値となっている場合(s16:n)、そのまま処理を終了する。
なお、車載端末100は、上述のように電力純資産情報171の更新や登録を随時行うのではなく、一定期間ごとに実行するとしてもよい。その場合、車載端末100は、アセット管理DB170で保持する、正および負の各電力資産の情報を暗号化プログラム122で復号化する。また、車載端末100は、この復号化で得た各値(正または負)を集計すなわち相殺処理を行い、電力純資産の値を算定し、この算定値に暗号化プログラム122を適用することで電力純資産の情報を生成する。
また、売電分の電力の買取先である小売電気事業者と、電気自動車への充電用電力の売電元(充電施設への給電を行う小売電気事業者)とが異なる事業者である場合、上述の車載端末100は、暗号化プログラム122として、買取先の小売電気事業者から取得した買取単価に基づいて、売電分の電力の買取金額を算定し、当該算定で得た買取金額の値に暗号化プログラム122を適用することで、正の電力資産の情報を生成する。また、車載端末100は、売電元の小売電気事業者から取得した充電単価に基づいて、電気自動車への充電電力の買電金額を算定し、当該算定で得た買電金額の値に暗号化プログラム122を適用することで、負の電力資産の情報を生成する。
また、上述の建物ないし電気自動車が、充電施設ないし他の電気自動車に対する充電を行った場合、車載端末100は、当該充電量に暗号化プログラム122を適用して、正の電力資産の情報を生成して、ETCカード165のアセット管理DB170に格納する。また、電気自動車が他の電気自動車から充電を受けた場合、車載端末100は、当該充電量に暗号化プログラム122を適用して、負の電力資産の情報を生成し、これをETCカード165のアセット管理DB170に格納する。
以上、本発明を実施するための最良の形態などについて具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
こうした本実施形態によれば、再生可能エネルギーに起因する余剰電力の効率的な利用を、電気自動車を通じて低コストに促進可能となる。