(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、自然環境に配慮したエネルギーシステムの構築が期待されており、その一環としてレドックスフロー電池の電池性能の向上が期待されている。発明者らは、レドックスフロー電池のセルフレームに備わる双極板の流路に着目し、レドックスフロー電池の電池性能を向上させることができる構成を検討した。
【0010】
本開示は、レドックスフロー電池の電池性能を向上させることができるセルフレーム、およびセルスタックを提供することを目的の一つとする。また、本開示は、電池性能に優れたレドックスフロー電池を提供することを目的の一つとする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示のセルフレーム、およびセルスタックによれば、レドックスフロー電池の電池性能を向上させることができる。また、本開示のレドックスフロー電池は、電池性能に優れる。
【0012】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0013】
<1>実施形態に係るセルフレームは、
レドックスフロー電池の正極電極と負極電極との間に配置される双極板、および前記双極板を外周側から支持する枠体を備えるセルフレームであって、
前記セルフレームにおける前記正極電極に対向する面と前記負極電極に対向する面とにそれぞれ、各電極に電解液を導入する導入流路と、前記導入流路と連通せずに独立して設けられ、各電極から前記電解液を排出する排出流路と、を備え、
前記導入流路は、導入側整流溝と、前記導入側整流溝に連通し、互いに離隔する複数の導入側分岐溝と、を備え、
前記排出流路は、排出側整流溝と、前記排出側整流溝に連通し、互いに離隔する複数の排出側分岐溝と、を備え、
前記導入側分岐溝は、前記排出側整流溝に向って延び、かつ前記排出側分岐溝は、前記導入側整流溝に向って延びており、
前記導入側整流溝と前記排出側分岐溝との離隔距離X、および前記排出側整流溝と前記導入側分岐溝との離隔距離Yは共に、1mm以上30mm以下である。
【0014】
セルフレームに上記導入流路を設けることで、セルフレームの双極板の全面に電解液を速やかに行き渡らせることができ、双極板に隣接する電極の全面に電解液をムラなく供給することができる。また、セルフレームに上記排出流路を設けることで、電極に供給され、活物質の価数が変化した電解液を、電極の全面からムラなく速やかに回収することができる。
【0015】
上記セルフレームでは、導入側整流溝と排出側分岐溝との離隔距離X、および排出側整流溝と導入側分岐溝との離隔距離Yを1mm以上30mm以下としている。ここで、『離隔距離X,Y』とは、整流溝と分岐溝の最短距離のことで、例えば、排出側分岐溝が先細り形状であれば、その先細りの突端から導入側整流溝までの最短距離が離隔距離Xとなる。また、『離隔距離X,Yが1mm以上30mm以下』とは、双極板における複数の離隔距離X,Yの全てが1mm以上30mm以下という意味である。例えば、排出側分岐溝(導入側分岐溝)が4本形成される双極板では、各排出側分岐溝(導入側分岐溝)と導入側整流溝(排出側整流溝)との4つの離隔距離X(離隔距離Y)が全て、1mm以上30mm以下である。
【0016】
離隔距離Xおよび離隔距離Yが1mm以上であれば、導入流路から電極を介さず排出流路に電解液が流れるリークパスを抑制することができる。リークパスを抑制することで、価数が変化せずにレドックスフロー電池のセル内から排出される活物質の量を減らすことができる。その分だけ、レドックスフロー電池の電池性能を向上させることができる。また、離隔距離Xおよび離隔距離Yが30mm以下であれば、電解液の電池反応に伴って発生するガスや、電解液にもともと混入しているガスがレドックスフロー電池のセル内から抜け易くなる。その結果、セル内にガスが滞留することに伴う不具合、例えばセル内に滞留するガスによって電解液と電極との接触面積が減少する不具合を抑制でき、その不具合に起因するレドックスフロー電池のセル抵抗の上昇を抑制することができる。電解液へのガスの混入は、セルスタックからタンクに電解液が戻ってくる際や、セルスタックへの電解液の循環を開始した際にも生じる恐れがある。特に、セルスタックに最初に電解液を循環させる際や、電解液の循環の停止によってセルスタックから電解液が抜けた状態から電解液の循環を再開する際に、セル内のガスが抜けきらないと、レドックスフロー電池のセル抵抗が顕著に上昇する恐れがある。しかし、このような問題は、セル内からガスが抜け易くなっている実施形態のセルフレームでは生じ難い。以上説明したように、本例のセルフレームによれば、レドックスフロー電池のセル抵抗の上昇を抑制でき、その結果としてレドックスフロー電池の電池性能を向上させることができる。
【0017】
<2>実施形態に係るセルフレームの一形態として、
前記導入側整流溝、前記排出側整流溝、前記導入側分岐溝、および前記排出側分岐溝は全て、前記双極板に設けられている形態を挙げることができる。
【0018】
上記セルフレームを用いてレドックスフロー電池を製造すれば、レドックスフロー電池の電池性能を向上させることができる。セルフレームの双極板に設けた整流溝と分岐溝との離隔距離が所定範囲にあることで、セル内でのリークパスとガスの滞留が抑制されるからである。
【0019】
<3>実施形態に係るセルフレームの一形態として、
前記導入側整流溝および前記排出側整流溝は、前記枠体に設けられており、
前記導入側分岐溝および前記排出側分岐溝は、前記双極板に設けられている形態を挙げることができる。
【0020】
上記セルフレームを用いてレドックスフロー電池を製造すれば、レドックスフロー電池の電池性能を向上させることができる。枠体に設けた整流溝と、双極板に設けた分岐溝との離隔距離が所定範囲にあることで、セル内でのリークパスとガスの滞留が抑制されるからである。
【0021】
<4>実施形態に係るセルフレームの一形態として、
前記導入側分岐溝と前記排出側分岐溝とが交互に並んでおり、
隣接する前記導入側分岐溝と前記排出側分岐溝との離隔距離Zに対し、前記離隔距離Xおよび前記離隔距離Yは共に、前記離隔距離Zの1/10以上10倍以下である形態を挙げることができる。
【0022】
離隔距離Zとは、電解液の流通方向に直交する方向における導入側分岐溝と排出側分岐溝との距離のことである。電解液の流通方向のどの位置における離隔距離Zも、離隔距離X,Yとの関係が上記範囲を満たす。ここで、電解液の流通方向とは、双極板における全体的な電解液の流れる方向のことで、例えば矩形状の双極板であれば、電解液が供給される側の辺から、電解液が排出される側の辺に向う方向のことである。例えば、後に実施形態1の説明で参照する
図4では、太矢印で示される紙面上向きの方向のことである。
【0023】
上記<4>の規定を数式にすれば、Z/10≦X≦10Zであり、Z/10≦Y≦10Zである。離隔距離X,Yと離隔距離Zとの関係を上記不等式の関係とすることで、導入側分岐溝から排出側分岐溝へのリークパスをより効果的に抑制し易く、またセル内にガスが滞留することをより効果的に抑制し易い。その結果、レドックスフロー電池の電池性能を向上させることができる。
【0024】
<5>実施形態に係るセルフレームの一形態として、
複数の前記離隔距離Xのバラツキが3mm以下である形態を挙げることができる。
【0025】
各離隔距離Xのバラツキ(離隔距離Xのうち最長のものと、離隔距離Xのうち最短のものとの差)が3mm以下であれば、導入側整流溝から各排出側分岐溝への電解液の移動が均一的になり、電極の全面に電解液が行き渡り易くなる。バラツキが小さいほど、電解液の移動がより均一的になるので、例えば、当該バラツキを1mm以下としたり、複数の離隔距離Xの平均値に対する各離隔距離Xの差を平均値の±4%以内としたりすることが好ましい。より好ましくは、上記バラツキを公差の範囲内とする、即ち、各離隔距離Xの設計値を同一とし、各離隔距離Xを実質的に同一の長さとすると良い。ここで、一般的な公差の範囲(例えば、±4%以下)で、離隔距離Xが1mm以上30mm以下の範囲を外れることは許容される。例えば、離隔距離Xの設計値が1mmの場合、いずれかの離隔距離Xが0.96mmであったとしても、その離隔距離Xは実施形態の範囲に含まれると見做す。
【0026】
<6>実施形態に係るセルフレームの一形態として、
複数の前記離隔距離Yのバラツキが3mm以下である形態を挙げることができる。
【0027】
各離隔距離Yのバラツキが3mm以下であれば、各導入側分岐溝から排出側整流溝への電解液の移動が均一的になり、電極の全面からの電解液の排出をスムースにすることができる。バラツキが小さいほど、電解液の移動がより均一的になるので、例えば、当該バラツキを1mm以下としたり、複数の離隔距離Yの平均値に対する各離隔距離Yの差を平均値の±4%以内としたりすることが好ましい。より好ましくは、上記バラツキを前記一般的な公差の範囲内とする、即ち、各離隔距離Yの設計値を同一とし、各離隔距離Yを実質的に同一の長さとすると良い。離隔距離Yも、一般的な公差の範囲で、1mm以上30mm以下の範囲を外れることは許容される。
【0028】
<7>実施形態に係るセルフレームの一形態として、
前記電解液の流通方向における異なる位置の複数の前記離隔距離Zのバラツキが2mm以下である形態を挙げることができる
【0029】
各離隔距離Zのバラツキが2mm以下であれば、導入側分岐溝から排出側分岐溝への電解液の移動が均一的になり、電極の全面に電解液が行き渡り易くなる。離隔距離Zのバラツキを調べるには、電解液の流通方向における異なる複数箇所(例えば、等間隔に3箇所以上)離隔距離Zを測定し、比較すれば良い。離隔距離Zのバラツキが小さいほど、電解液の移動がより均一的になるので、例えば、当該バラツキを1mm以下としたり、複数の離隔距離Zの平均値に対する各離隔距離Zの差を平均値の±5%以内としたりすることが好ましい。より好ましくは、バラツキを前記一般的な公差の範囲内とする、即ち、互いに隣接する導入側分岐溝と排出側分岐溝とがほぼ等距離で並走するようにすると良い。離隔距離Zも、一般的な公差の範囲で、2mm超となることは許容される。
【0030】
<8>実施形態に係るセルスタックは、
実施形態に係るセルフレームを備える。
【0031】
上記セルスタックを用いてレドックスフロー電池を製造すれば、レドックスフロー電池の電池性能を向上させることができる。セルスタックを構成するセルフレームに備わる実施形態の双極板によって、セルスタックにおけるセル内でのリークパスとガスの滞留が抑制されるからである。
【0032】
<9>実施形態に係るセルスタックの一形態として、
前記正極電極と前記負極電極の目付量が30g/m
2以上である形態を挙げることができる。
【0033】
一般に、電極の目付量が高くなれば、セル内のガスが抜け難くなる。これに対して、実施形態に係るセルスタックは、実施形態のセルフレームを採用することでセル内からガスが抜け易い構成となっている。そのため、実施形態に係るセルスタックの電極として、目付量が30g/m
2以上の電極を採用しても、セル内にガスが滞留し難い。
【0034】
<10>実施形態に係るレドックスフロー電池は、
実施形態に係るセルスタックを備える。
【0035】
実施形態に係るレドックスフロー電池は、電池性能に優れる。
【0036】
<11>実施形態に係るレドックスフロー電池の一形態として、
前記セルスタックを循環する電解液の粘度が10
−2Pa・s以下である形態を挙げることができる。
【0037】
一般に、電解液の粘度が低くなると、電解液のリークパスが発生し易い。これに対して、実施形態に係るレドックスフロー電池は、実施形態のセルフレームを採用することでリークパスが生じ難い構成となっている。そのため、実施形態に係るレドックスフロー電池の電解液として、粘度が10
−2Pa・s以下の電解液を採用しても、リークパスに起因するレドックスフロー電池の電池性能の低下が生じ難い。
【0038】
<12>実施形態に係るレドックスフロー電池の一形態として、
表面に溝の無い双極板を使用したレドックスフロー電池に比べて、セル抵抗率が30%以上小さい形態を挙げることができる。
【0039】
セル抵抗率が小さいレドックスフロー電池は、充放電時のエネルギー損失が小さく、自然エネルギーを効率良く蓄電できるため、好ましい。ここで『表面に溝の無い双極板を使用したレドックスフロー電池』とは、溝の有無を除いて、同様の構成、つまり形状、寸法、材質が実施形態に係るレドックスフロー電池と同じレドックスフロー電池である。
【0040】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本開示のレドックスフロー電池(RF電池)の実施形態を説明する。なお、本発明は実施形態に示される構成に限定されるわけではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内の全ての変更が含まれることを意図する。
【0041】
<実施形態1>
実施形態に係るレドックスフロー電池(以下、RF電池)を
図1〜
図5に基づいて説明する。
【0042】
≪RF電池≫
RF電池は、電解液循環型の蓄電池の一つであって、太陽光発電や風力発電といった新エネルギーの蓄電に利用されている。
図1のRF電池1の動作原理図に示すように、RF電池1は、正極用電解液に含まれる活物質イオンの酸化還元電位と、負極用電解液に含まれる活物質イオンの酸化還元電位との差を利用して充放電を行う電池である。RF電池1は、水素イオンを透過させる隔膜101で正極セル102と負極セル103とに分離されたセル100を備える。
【0043】
正極セル102には正極電極104が内蔵され、かつ正極用電解液を貯留する正極電解液用タンク106が導管108,110を介して接続されている。導管108にはポンプ112が設けられており、これら部材106,108,110,112によって正極用電解液を循環させる正極用循環機構100Pが構成されている。同様に、負極セル103には負極電極105が内蔵され、かつ負極用電解液を貯留する負極電解液用タンク107が導管109,111を介して接続されている。導管109にはポンプ113が設けられており、これらの部材107,109,111,113によって負極用電解液を循環させる負極用循環機構100Nが構成されている。各タンク106,107に貯留される電解液は、充放電の際にポンプ112,113によりセル102,103内に循環される。充放電を行なわない場合、ポンプ112,113は停止され、電解液は循環されない。
【0044】
≪セルスタック≫
上記セル100は通常、
図2、
図3に示すような、セルスタック2と呼ばれる構造体の内部に形成される。セルスタック2は、サブスタック200(
図3)と呼ばれる積層構造物をその両側から二枚のエンドプレート210,220で挟み込み、締付機構230で締め付けることで構成されている(
図3に例示する構成では、複数のサブスタック200を用いている)。
【0045】
サブスタック200(
図3)は、セルフレーム3、正極電極104、隔膜101、および負極電極105を複数積層し、その積層体を給排板190,190(
図3の下図参照、
図2では省略)で挟み込んだ構成を備える。上記構成を備える本実施形態のRF電池1の特徴の一つとして、セルフレーム3の構成を挙げることができる。以下、セルフレーム3の構成を詳細に説明する。
【0046】
≪セルフレーム≫
セルフレーム3は、貫通窓を有する枠体32と、貫通窓を塞ぐ双極板31と、を有している。つまり、枠体32は、双極板31をその外周側から支持している。双極板31の一面側には正極電極104が接触するように配置され、双極板31の他面側には負極電極105が接触するように配置される。この構成では、隣接する各セルフレーム3に嵌め込まれた双極板31の間に一つのセル100が形成されることになる。
【0047】
図3に示す給排板190,190を介したセル100への電解液の流通は、セルフレーム3に形成される給液用マニホールド33,34と、排液用マニホールド35,36により行われる(
図4を合わせて参照)。正極用電解液は、給液用マニホールド33からセルフレーム3の一面側(紙面表側)に形成される入口スリット33s(
図4)を介して正極電極104に供給され、セルフレーム3の上部に形成される出口スリット35s(
図4)を介して排液用マニホールド35に排出される。同様に、負極用電解液は、給液用マニホールド34からセルフレーム3の他面側(紙面裏側)に形成される入口スリット34s(
図4)を介して負極電極105に供給され、セルフレーム3の上部に形成される出口スリット36s(
図4)を介して排液用マニホールド36に排出される。各セルフレーム3間には、平パッキンなどの環状シール部材37(
図3)が配置され、サブスタック200からの電解液の漏れが抑制されている。
【0048】
本例では、
図4の平面図に示すように、入口スリット33sを介して双極板31の表面(紙面手前側の面)に供給された正極電解液が正極電極104(
図3)の全面にムラなく行き渡るように、双極板31の表面に導入流路4が形成されている。また、正極電極104(
図3)で価数が変化した正極活物質を含む正極電解液を正極電極104の全面から速やかに回収し、出口スリット35sに導く排出流路5が形成されている。
図4では、双極板31における導入流路4と排出流路5以外の部分をクロスハッチングで示しており、
図4に示すように導入流路4と排出流路5とは互いに連通せずに独立して設けられている。このような双極板31における全体的な電解液の流れる方向(流通方向)は、
図4の左側に太線矢印で示すように、紙面上方向となる。
【0049】
ここで、双極板31の裏面には、負極電解液を負極電極105(
図3)に供給する導入流路と負極電解液を排出する排出流路とが形成されている。双極板31の裏面の導入流路と排出流路の構成は、
図4に示す導入流路4と排出流路5と同じであるため、その説明を省略し、以降の説明では主に正極側の構成について説明する。
【0050】
導入流路4は、導入側整流溝40と複数の導入側分岐溝41とを備える。本例の導入側整流溝40は、流通方向に交差する方向(本例では直交する方向)に延びており、入口スリット33sに繋がっている。一方、導入側分岐溝41は、導入側整流溝40に交差する方向(本例では直交する方向)に延びている。この導入側分岐溝41の延伸方向は、流通方向にほぼ沿った方向であって、後述する排出側整流溝50に向う方向である。各導入側分岐溝41は、互いに離隔している。このような導入流路4の構成によって、入口スリット33sから双極板31に導入された正極電解液は、導入側整流溝40の延伸方向に分散すると共に、導入側分岐溝41を通って双極板31の全面に行き渡る。正極電解液が各溝40,41から各溝50,51に行き渡る過程で、正極電解液は、双極板31の表面に配置される正極電極104(
図3)に染み込み、正極電解液に含まれる正極活物質の価数が変化する。
【0051】
上記導入側分岐溝41は、本例に示すように、流通方向に対して平行に延びていても良いし、斜行していても良いし、あるいは蛇行していても良い。また、導入側分岐溝41の幅は、図示するように一様とすることの他に、変化させても構わない。例えば、先端に行くほど導入側分岐溝41の幅が狭くなるようにすることができ、その場合、導入側分岐溝41は台形状または三角形状となる。
【0052】
排出流路5は、排出側整流溝50と複数の排出側分岐溝51とを備える。本例の排出側整流溝50は、流通方向に交差する方向(本例では直交する方向)に延びており、出口スリット35sに繋がっている。一方、排出側分岐溝51は、排出側整流溝50に交差する方向(本例では直交する方向)に延びている。この排出側分岐溝51の延伸方向は、流通方向と逆向きの方向であって、上述した導入側整流溝40に向う方向である。各排出側分岐溝51は、互いに離隔しており、当該離隔方向に排出側分岐溝51と上述した導入側分岐溝41とは交互に並んでいる。各排出側分岐溝51によって正極電極104(
図3)から回収された正極電解液は、排出側整流溝50で合流し、出口スリット35sに排出される。排出側分岐溝51が双極板31の全面に分散して配置されているため、正極電極104(
図3)の全面から正極電解液を回収することができる。
【0053】
上記排出側分岐溝51は、本例に示すように、流通方向に対して平行に延びていても良いし、斜行していても良いし、あるいは蛇行していても良い。また、排出側分岐溝51の幅は、図示するように一様とすることの他に、変化させても構わない。例えば、先端に行くほど排出側分岐溝51の幅が狭くなるようにすることができ、その場合、排出側分岐溝51は台形状または三角形状となる。
【0054】
ここで、導入側整流溝40と各排出側分岐溝51との離隔距離X、および排出側整流溝50と各導入側分岐溝41との離隔距離Yは共に1mm以上30mm以下とする。本例では、6本の排出側分岐溝51があり、各排出側分岐溝51と導入側整流溝40との間の6つの離隔距離Xの全てが1mm以上30mm以下である。また、本例では、6本の導入側分岐溝41があり、各導入側分岐溝41と排出側整流溝50との間の6つの離隔距離Yの全てが1mm以上30mm以下である。各離隔距離X,Yは、本例では実質的に同じとしているが、異なっていても良い。例えば並列される6本のうち、3本の分岐溝51の離隔距離Xが10mmで、残りの離隔距離Xが20mmなどとすることができる(離隔距離Yも同様)。また、離隔距離X,Yの各々が異なっていても良い。いずれにせよ、全ての離隔距離X、Yが1〜30mmの範囲内にあれば良い。
【0055】
離隔距離X(Y)が1mm以上であれば、導入流路4から排出流路5に正極電解液が集中的に流れるリークパスを抑制することができる。リークパスを抑制することで、価数が変化せずにRF電池1(
図1,2参照)のセル100内から排出される活物質の量を減らすことができる。その分だけ、RF電池1の電池性能を向上させることができる。また、離隔距離X(Y)が30mm以下であれば、正極電解液の電池反応に伴って発生するガスや、正極電解液にもともと混入しているガス、正極電解液の循環に伴って正極電解液に混入するガスなどがRF電池1のセル100内から抜け易くなる。その結果、セル100内にガスが滞留することに伴う不具合、例えばガスによって正極電解液と正極電極104との接触面積が減少することによるRF電池1のセル抵抗の上昇を抑制することができる。セル抵抗の上昇を抑制した分だけ、RF電池1の電池性能を向上させることができる。離隔距離X,Yの好ましい値は、2mm以上20mm以下であり、3mm以上10mm以下とすることがより好ましい。
【0056】
導入側整流溝40と各排出側分岐溝51との離隔距離Xのバラツキは3mm以下とすることが好ましい。そうすることで、導入側整流溝40から各排出側分岐溝51への正極電解液の移動が均一的になり、正極電極104(
図1−3参照)の全面に正極電解液が行き渡り易くなるからである。この効果は、離隔距離Xのバラツキ小さくなるほど高くなるので、当該バラツキは1mm以下とすることが好ましく、実質的に0mmとする(つまり、各離隔距離Xの設定値を同じにする)ことがより好ましい。また、排出側整流溝50と各導入側分岐溝41との離隔距離Yのバラツキは3mm以下とすることが好ましい。そうすることで、導入側分岐溝41から排出側整流溝50への正極電解液の移動が均一的になり、正極電極104(
図1−3参照)の全面からの正極電解液の排出をスムースにすることができる。この効果は、離隔距離Yのバラツキが小さくなるほど高くなるので、離隔距離Yは1mm以下とすることが好ましく、実質的に0mmとする(つまり、各離隔距離Yの設定値を同じにする)ことがより好ましい。
【0057】
さらに、互いに隣接する導入側分岐溝41と排出側分岐溝51との離隔距離Zは、Z/10≦X≦10Z、Z/10≦Y≦10Zを満たすことが好ましい。電解液の流通方向のどの位置における離隔距離Zも、離隔距離X,Yとの関係が上記範囲を満たす。
【0058】
離隔距離X,Yと離隔距離Zとが上記不等式を満たすことで、より効果的に、導入側分岐溝41から排出側分岐溝51へのリークパスを抑制しつつ、セル100(
図2)内にガスが滞留することを抑制できる。その結果、RF電池1(
図2)の電池性能を向上させることができる。離隔距離Xと離隔距離Zは、Z/8≦X≦9Zを満たすことがより好ましく、Z/3≦X≦7Zを満たすことが更に好ましい。また、離隔距離Yと離隔距離Zは、Z/8≦Y≦9Zを満たすことがより好ましく、Z/3≦Y≦7Zを満たすことが更に好ましい。
【0059】
また、離隔距離Zのバラツキは、2mm以下とすることが好ましい。離隔距離Zのバラツキを調べるには、電解液の流通方向における異なる複数箇所(例えば、等間隔に3箇所以上)離隔距離Zを測定し、比較すれば良い。離隔距離Zのバラツキが小さい構成はつまり、互いに隣接する導入側分岐溝41と排出側分岐溝51とがほぼ等距離で並走する構成である。このような構成とすることで、導入側分岐溝41から排出側分岐溝51への正極電解液の移動が均一的になり、正極電極104(
図1−3参照)の全面に正極電解液が行き渡り易くなる。離隔距離Zのバラツキは小さいほど好ましく、例えば1mm以下とすることが好ましく、実質的に0mmとする(つまり、各離隔距離Zの設定値を同じにする)ことがより好ましい。
【0060】
≪効果≫
図4を参照して説明した導入流路4と排出流路5を備える双極板31を用いることで、RF電池1の電池性能を向上させることができる。導入流路4と排出流路5とが所定の条件を満たすことで、RF電池1のセル100内でリークパスが生じ難く、また電解液中のガスがセル100内に滞留し難いからである。
【0061】
≪その他の構成≫
電極104,105(
図3参照)の目付量を大きくすれば、電極104,105と電解液との接触面積が大きくなりRF電池1(
図1,2参照)の電池性能が向上する。その反面、電極104,105の空隙が狭く複雑になり、セル100内にガスが滞留し易くなる。本例のRF電池1では、
図4に示す双極板31を採用することで、セル100内のガスが抜け易くなっているため、電極104,105の目付量を大きくすることができる。具体的には、例えば電極104,105の目付量を30g/m
2以上とすることができる。当該目付量は50g/m
2以上とすることもできる。当該目付量の上限値は、500g/m
2とすることが挙げられる。
【0062】
また、電解液の粘度を低くすれば、電解液を循環させるポンプ112,113(
図1,2参照)の負荷を低減でき、RF電池1のランニングコストを低減することができる。その反面、電解液のリークパスが生じ易くなる可能性がある。本例のRF電池1では、
図4に示す双極板31を採用することで、リークパスが生じ難くなっているため、電解液の粘度を小さくすることができる。具体的には、例えば電解液の粘度を10
−2Pa・s以下とすることができる。当該粘度は8×10
−3Pa・s以下とすることもできる。当該粘度の下限値は、10
−3Pa・sである。
【0063】
<実施形態2>
実施形態2では、双極板31における導入流路4と排出流路5の形成状態が実施形態1と異なる例を
図5に基づいて説明する。双極板31以外の構成は実施形態1とほぼ同様の物を利用できるため、
図5には双極板31のみを図示し、実施形態2では双極板31以外の説明は省略する。
【0064】
図5の双極板31は、太線矢印で示す流通方向に長くなっている。この双極板31に備わる導入流路4の導入側整流溝40、および排出流路5の排出側整流溝50は、流通方向に沿った方向に延びている。このような構成においても、導入側整流溝40と排出側分岐溝51との離隔距離X、および排出側整流溝50と導入側分岐溝41との離隔距離Yは、1mm以上30mm以下とする。また、離隔距離X,Yと離隔距離Zは、Z/10≦X≦10Z、Z/10≦Y≦10Zとすることが好ましい。
【0065】
≪効果≫
本例の構成によっても、RF電池1(
図1−2参照)のセル100内でリークパスが生じ難く、また電解液中のガスがセル100内に滞留し難くなるため、その分だけRF電池1の電池性能を向上させることができる。
【0066】
<実施形態3>
実施形態3では、枠体32に整流溝40,50を、双極板31に分岐溝41、51を設けたセルフレーム3を
図6に基づいて説明する。
【0067】
図6に示すように、本例のセルフレーム3では、枠体32の内周縁部(双極板31が嵌め込まれる貫通窓に近接する部分)のうち、給液用マニホールド33,34側の辺に導入側整流溝40が設けられ、排液用マニホールド35,36側の辺に排出側整流溝50が設けられている。導入側整流溝40は、給液用マニホールド33,34の並列方向に沿って延び、その上端側(排液用マニホールド35,36側)が貫通窓に繋がっている。また、排出側整流溝50は、排液用マニホールド35,36の並列方向に沿って延び、その下端側(給液用マニホールド33,34側)が貫通窓に繋がっている。
【0068】
一方、双極板31には、導入側分岐溝41と排出側分岐溝51とが交互に並んで設けられている。導入側分岐溝41は、導入側整流溝40に繋がっているが、排出側整流溝50には繋がっていない。また排出側分岐溝51は、排出側整流溝50に繋がっているが導入側整流溝40には繋がっていない。
【0069】
上記構成においても、離隔距離X,Y,Zを実施形態1と同様に設定することで、セル100内でリークパスと、セル100内のガスの滞留を抑制でき、RF電池1の電池性能を向上させることができる。本例における離隔距離X,Y,Zはそれぞれ、実施形態1と同様に、導入側整流溝40と各排出側分岐溝51との離隔距離、排出側整流溝50と各導入側分岐溝41との離隔距離、および隣接する導入側分岐溝41と排出側分岐溝51との離隔距離である。
【0070】
≪効果≫
本例の構成によっても、RF電池1(
図1−2参照)のセル100内でリークパスが生じ難く、また電解液中のガスがセル100内に滞留し難くなるため、その分だけRF電池1の電池性能を向上させることができる。
【0071】
≪その他≫
整流溝40,50を枠体32に、分岐溝41,52を設ける構成は、実施形態2に示すような、電解液の流通方向に長いセルフレームにも適用することができる。
【0072】
<試験例1>
離隔距離X,Y,Zが異なる
図4の双極板31を備えるセルフレーム3を用いた複数のRF電池1(試験体A〜G)を作製した。また、表面に溝(導入流路および排出流路)を有さないRF電池(試験体H)を作製した。電極104,105(
図1,2参照)の目付量は150〜200g/m
2、電解液の粘度は4×10
−3Pa・sであった。そして、各RF電池1を用いて充放電試験を行なうことで、各RF電池1のセル抵抗率を測定した。充放電試験の条件は、放電終了電圧:1V、充電終了電圧:1.6Vとした。セル抵抗率の評価は、充放電試験に基づいて充放電曲線を作成し、その充放電曲線から3サイクル目のセル抵抗率で行なった。
【0073】
・試験体A
試験体Aの双極板31における離隔距離X,Yは1mm、離隔距離Zは1mmであった。また、離隔距離X,Y,Zのバラツキはそれぞれ、公差の範囲内であった。この試験体Aのセル抵抗率は、0.63Ω・cm
2であった。
・試験体B
試験体Bの双極板31における離隔距離X,Yは3mm、離隔距離Zは3mmであった。また、離隔距離X,Y,Zのバラツキはそれぞれ、公差の範囲内であった。その他の条件(形状、寸法、材質など)は、試験体Aと全く同じであった。この試験体Bのセル抵抗率は、0.58Ω・cm
2であった。
・試験体C
試験体Cの双極板31における離隔距離X,Yは7mm、離隔距離Zは7mmであった。また、離隔距離X,Y,Zのバラツキはそれぞれ、公差の範囲内であった。その他の条件は、試験体Aと全く同じであった。この試験体Cのセル抵抗率は、0.57Ω・cm
2であった。
・試験体D
試験体Dの双極板31における離隔距離X,Yは3mm、離隔距離Zは1mmであった。また、離隔距離X,Y,Zのバラツキはそれぞれ、公差の範囲内であった。その他の条件は、試験体Aと全く同じであった。この試験体Dのセル抵抗率は、0.65Ω・cm
2であった。
・試験体E
試験体Eの双極板31における離隔距離X,Yは3mm、離隔距離Zは7mmであった。また、離隔距離X,Y,Zのバラツキはそれぞれ、公差の範囲内であった。その他の条件は、試験体Aと全く同じであった。この試験体Eのセル抵抗率は、0.55Ω・cm
2であった。
・試験体F
試験体Fの双極板31における離隔距離X,Yは26mm、離隔距離Zは4mmであった。また、離隔距離X,Y,Zのバラツキはそれぞれ、公差の範囲内でであった。その他の条件は、試験体Aと全く同じであった。この試験体Fのセル抵抗率は、0.57Ω・cm
2であった。
・試験体G
試験体Gの双極板31における離隔距離X,Yは41mm、離隔距離Zは1mmであった。また、離隔距離X,Y,Zのバラツキはそれぞれ、公差の範囲内であった。その他の条件(形状、寸法、材質など)は、試験体Aと全く同じであった。この試験体Gのセル抵抗率は、0.71Ω・cm
2であった。
・試験体H
試験体Hは、導入流路および排出流路を有さないセルフレームを用いたRF電池である。流路の有無以外の条件(形状、寸法、材質など)は、試験体Aと全く同じであった。この試験体Hのセル抵抗率は、0.97Ω・cm
2であった。
【0074】
≪試験結果のまとめ≫
上述した試験体のセル抵抗率の比較により、離隔距離X,Yが1mm以上30mm以下とすることで、RF電池1のセル抵抗率を低減できることが明らかになった。また、離隔距離X,Yと離隔距離Zとが、Z/10≦X≦10Z、Z/10≦Y≦10Zを満たすことで、RF電池1のセル抵抗率を低減できることが明らかになった。さらに、離隔距離X,Yが1mm以上30mm以下である流路4,5を有する試験体A〜Fと、流路を有さない試験体Hと、を比較した結果、試験体A〜Fのセル抵抗率は、試験体Hのセル抵抗率よりも30%以上小さかった。このように、セル抵抗率が小さいRF電池1は、充放電時のエネルギー損失が小さく、効率的に運用することができる。