特許第6836748号(P6836748)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836748
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】レニン濃度の免疫学的測定法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/40 20060101AFI20210222BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20210222BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20210222BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20210222BHJP
【FI】
   C07K16/40ZNA
   G01N33/573 A
   G01N33/53 D
   !C12N15/57
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-546347(P2018-546347)
(86)(22)【出願日】2017年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2017037484
(87)【国際公開番号】WO2018074455
(87)【国際公開日】20180426
【審査請求日】2019年9月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-206957(P2016-206957)
(32)【優先日】2016年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】濱野 久美子
(72)【発明者】
【氏名】原 隆二郎
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−092299(JP,A)
【文献】 特開昭63−217272(JP,A)
【文献】 ZUO, WM et al., Characterization of a Monoclonal Antibody Specific for Human Active Renin, Hypertension, 1992.03, Vol 19, No. 3, 249-254,1992年
【文献】 Galen FX, Devaux C, Atlas S, et al. New monoclonal antibodies directed against human renin. Powerful tools for the investigation of the renin system. J Clin Invest. 1984;74(3):723-735. doi:10.1172/JCI111488,1984年
【文献】 Krop M, et al.,New renin ihibitor VTP-27999 alters renin immunoreactivity and does not unfold prorenin.,Hypertension,2013年 5月,61(5),1075-82,doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.111.00967.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 16/40
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)の特徴を有する抗体。
(a)レニン阻害剤が結合して不活性された成熟レニンまたはオープン構造プロレニンと比較して、レニン阻害剤が結合していない成熟レニンまたはオープン構造プロレニンに高い反応性を示す。
(b)配列番号:1に記載のアミノ酸配列の30番目から86番目のアミノ酸配列からなるペプチドに結合する。
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列の58番目から170番目のアミノ酸配列からなるペプチドに結合しない。
【請求項2】
試料中のレニン濃度を抗体を用いて測定する方法であって、当該抗体が請求項1に記載の抗体である方法。
【請求項3】
請求項に記載の方法に用いるためのキットであって、少なくとも、請求項1に記載の抗体を含むキット。
【請求項4】
試料中のレニンを検出するための薬剤であって、請求項1に記載の抗体を含む薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性型レニンに特異的な抗体、当該抗体を利用したレニン濃度の免疫学的測定法、当該抗体を含む薬剤、および当該薬剤を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
レニンは、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を介して血圧調節を行うタンパク質であり、その活性は、高血圧や原発性アルドステロン症などの診断において重要な指標となっている。
【0003】
このためレニン活性やレニン濃度を測定するための方法の開発が行われており、現在、日本においては、血漿中のレニンによりアンジオテンシノーゲンが分解されて生成したアンジオテンシン-Iを検出するレニン活性測定法が主流となっている(非特許文献1)。しかしながら、この方法には、レニン活性が血漿中のアンジオテンシノーゲンの濃度に依存してしまうという問題がある。
【0004】
一方、アンジオテンシノーゲン濃度の影響を受けない方法として、活性型レニンを検出する方法も利用されている。活性型である成熟レニンは、プロレニンから生成されるが、プロレニンにはクローズ構造とオープン構造の2形態が存在し、そのうちオープン構造は活性型である。このため、活性型レニンの測定において、成熟レニンとオープン構造プロレニンの両方を免疫学的に測定しうる方法も開発されている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、これら免疫学的手法に用いられている抗体は、レニン阻害剤の結合により不活性化された成熟レニンやプロレニンまで認識してしまうことから(非特許文献2、3)、レニン阻害剤が投与された患者の活性型レニンを測定した場合には、測定されるレニン濃度がレニン活性と相関を示さないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Campbell DJ et al. Clin Chem. 2009 May;55(5):867-77
【非特許文献2】Campbell DJ. Hypertension. 2008 Jan;51(1):15-8
【非特許文献3】Derkx FH. Clin Chem. 1996 Jul;42(7):1051-63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、レニン濃度を免疫学的に測定する方法であって、レニン阻害剤の存在下においても、測定されたレニン濃度がレニン活性と相関を示す方法を提供することにある。また、本発明は、当該測定のための活性型レニン特異的抗体、当該活性型レニン特異的抗体を含む薬剤、および当該薬剤を含むキットを提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、レニン阻害剤存在下におけるレニン濃度を免疫学的に測定するための系を構築し、選抜した抗体につき、当該系を利用してレニン阻害剤の添加時におけるレニン濃度の測定値とレニン活性との関係を評価した。その結果、評価した多くの抗体の中から、遂に、レニン阻害剤存在下で測定されるレニン濃度がレニン活性と強く相関する複数の抗体を同定することに成功した。
【0009】
同定した抗体は、レニン阻害剤の一つであるアリスキレンを添加した場合のみならず、他のレニン阻害剤であるレニン阻害剤IIIやVTP-27999を添加した場合でも、測定されたレニン濃度はレニン活性と強い相関を示した。この事実は、取得した抗体が、レニン阻害剤が結合せず活性を有しているレニンには高い反応性を示す一方、レニン阻害剤が結合して不活性化したレニンへの反応性は大きく低下することを意味する。また、このような反応性を示す抗体は、レニン上の共通のエピトープを認識した。
【0010】
一方、市販されている抗体については、従来の報告にあるように、レニン阻害剤が結合して不活性化したレニンに対しても高い反応性を示し、測定されるレニン濃度とレニン活性との相関が全く見られなかった。
【0011】
このように本発明者らは、レニン阻害剤の有無に拘わらず、活性型レニンに特異的な反応性を示す抗体の開発に世界で初めて成功するとともに、当該抗体を利用して、測定されるレニン濃度がレニン活性と強い相関を示す免疫学的測定法を構築することにも成功し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、活性型レニンに特異的な抗体、当該抗体を利用したレニン濃度の免疫学的測定法、当該抗体を含む薬剤、および当該薬剤を含むキットに関するものであり、より詳しくは、以下を提供するものである。
【0013】
[1]不活性型レニンと比較して、活性型レニンに高い反応性を示す抗体。
【0014】
[2]配列番号:1に記載のアミノ酸配列の30番目から86番目のアミノ酸配列からなるペプチドに結合する、[1]に記載の抗体。
【0015】
[3]試料中のレニン濃度を抗体を用いて測定する方法であって、当該抗体が[1]または[2]に記載の抗体である方法。
【0016】
[4][3]に記載の方法に用いるためのキットであって、少なくとも、[1]または[2]に記載の抗体を含むキット。
【0017】
[5]試料中のレニンを検出するための薬剤であって、[1]または[2]に記載の抗体を含む薬剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レニン阻害剤の存在下においても、非存在下と同様に、レニン活性と相関したレニン濃度の測定値を得ることができる。このためレニン阻害剤が投与された患者においても的確な診断を行うことが可能である。また、本発明の方法は、アンジオテンシノーゲンのレニンによる分解産物であるアンジオテンシン-Iを指標としたレニン活性の測定法のように、測定値が血漿中のアンジオテンシノーゲン濃度の影響を受けてしまうという問題もない。このため本発明は、原発性アルドステロン症などのレニン活性が関連する疾患の診断などにおいて極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】組換えプロレニンおよび組換え成熟レニンをSDS-PAGE解析により検出した結果を示す写真である。
図2】作製した各抗成熟レニン抗体の成熟レニンおよびプロレニンに対する反応性を示すグラフである。
図3】各市販抗体の成熟レニンおよびプロレニンに対する反応性を示すグラフである。
図4】市販抗体12-12と11-6の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによる、アリスキレン添加時のレニン濃度とレニン活性の相関を示すグラフである。棒グラフはレニン活性を示し、折れ線グラフはレニン濃度を示す。グラフの横軸をアリスキレン濃度とし、縦軸を相対レニン活性(左)とレニン濃度(右)として表した。
図5】自社抗体RREN33H11とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによる、アリスキレン添加時のレニン濃度とレニン活性の相関を示すグラフである。棒グラフはレニン活性を示し、折れ線グラフはレニン濃度を示す。グラフの横軸をアリスキレン濃度とし、縦軸を相対レニン活性(左)とレニン濃度(右)として表した。
図6】各自社抗体および各市販抗体の、アリスキレン添加時および非添加時における成熟レニンへの反応性を示すグラフである。
図7】自社抗体rREN-I-115とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによる、アリスキレン添加時のレニン濃度とレニン活性の相関を示すグラフである。図上においては、棒グラフはレニン活性を示し、折れ線グラフはレニン濃度を示す。グラフの横軸をアリスキレン濃度とし、縦軸を相対レニン活性(左)とレニン濃度(右)として表した。図下においては、グラフの横軸を相対レニン活性とし、縦軸をレニン濃度(Abs.450nm)として表した。
図8】自社抗体RREN63A8とRREN21E10-19との組み合わせを用いたサンドイッチELISAによる、アリスキレン添加時のレニン濃度とレニン活性の相関を示すグラフである。陰性対照として、市販抗体12-12と11-6との組み合わせを用いた。棒グラフはレニン活性を示し、折れ線グラフはレニン濃度を示す。グラフの横軸をアリスキレン濃度とし、縦軸を相対レニン活性(左)とレニン濃度(右)として表した。
図9】市販抗体12-12と11-6の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによる、レニン阻害剤III添加時のレニン濃度とレニン活性の相関を示すグラフである。棒グラフはレニン活性を示し、折れ線グラフはレニン濃度を示す。グラフの横軸をアリスキレン濃度とし、縦軸を相対レニン活性(左)とレニン濃度(右)として表した。
図10】自社抗体rREN-I-115もしくはRREN33H11とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによる、レニン阻害剤III添加時のレニン濃度とレニン活性の相関を示すグラフである。陰性対照として、市販抗体12-12と11-6との組み合わせを用いた。棒グラフはレニン活性を示し、折れ線グラフはレニン濃度を示す。グラフの横軸をアリスキレン濃度とし、縦軸を相対レニン活性(左)とレニン濃度(右)として表した。
図11】自社抗体rREN-I-115とRREN21E10-19との組み合わせを用いたサンドイッチELISAにより、アリスキレン添加時および非添加時におけるプロレニンへの反応性を測定した結果を示すグラフである。グラフの横軸を添加したプロレニン濃度とし、縦軸を測定されたプロレニン濃度(Abs.450nm)として表した。
図12】エピトープ解析に用いたレニン断片を示す図である。
図13】ウェスタン・ブロッティングにより自社抗体RREN63A8のエピトープを同定した結果を示す写真である。
図14】自社抗体(rREN-d-104-1、rREN-I-115、RREN63A8)の競合阻害実験の結果を示すグラフである。
図15】自社抗体rREN-I-115もしくはRREN33H11とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによる、VTP-27999添加時のレニン濃度とレニン活性の相関を示すグラフである。陰性対照として、市販抗体12-12と11-6との組み合わせを用いた。棒グラフはレニン活性を示し、折れ線グラフはレニン濃度を示す。グラフの横軸をアリスキレン濃度とし、縦軸を相対レニン活性(左)とレニン濃度(右)として表した。
図16】自社抗体rREN-d-104-1とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによる、アリスキレン添加時のレニン濃度とレニン活性の相関を示すグラフである。棒グラフはレニン活性を示し、折れ線グラフはレニン濃度を示す。グラフの横軸をアリスキレン濃度とし、縦軸を相対レニン活性(左)とレニン濃度(右)として表した
図17】自社抗体の組み合わせ、または市販抗体の組み合わせを用いたサンドイッチELISAにより、アリスキレン添加時および非添加時におけるヒト血漿に含まれる成熟レニンへの反応性を検出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、不活性型レニンと比較して、活性型レニンに高い反応性を示す抗体(以下、「本発明の活性型レニン特異的抗体」と称する)を提供する。また、本発明は、試料中のレニン濃度を抗体を用いて測定する方法であって、当該抗体が本発明の活性型レニン特異的抗体である方法を提供する。
【0021】
本発明において「レニン」とは、成熟レニンおよびその前駆体であるプロレニンを意味する。プロレニンには、クローズ構造プロレニンとオープン構造プロレニンが含まれる。このうち、成熟レニンおよびオープン構造プロレニンは、本来、アンジオテンシノーゲンを分解してアンジオテンシン-Iを生成する活性を有し、クローズ構造プロレニンは、本来この活性を有しない。しかしながら、レニン阻害剤が結合した場合には、成熟レニンおよびオープン構造プロレニンは不活性化する。従って、本発明における「活性型レニン」には、上記レニンのうち、レニン阻害剤が結合していない成熟レニンおよびオープン構造プロレニンが含まれ、「不活性型レニン」には、上記レニンのうち、本来活性を有しないクローズ構造プロレニン、ならびにレニン阻害剤が結合して不活性化された成熟レニンおよびオープン構造プロレニンが含まれる。
【0022】
本発明における「レニン阻害剤」としては、例えば、アリスキレン、レニン阻害剤III、あるいはVTP-27999が挙げられるが、レニンに結合してその活性を阻害する限り、これらに制限されない。なお、アリスキレン(Aliskiren)は、高血圧症治療薬(商品名ラジレス)として、ノバルティス ファーマ社から市販されている。また、レニン阻害剤III(Renin Inhibitor III)は、ヒトレニン阻害活性を有するペプチド(Wood J. et al. Hypertension. 7, 797 (1985))であり、KareBay Biochem社から市販されている。また、VTP-27999は、Vitae Pharmaceuticals社が開発したヒトレニン阻害活性を有するアルキルアミン化合物(Lanqi Jia et al. ACS Med. Chem. Lett. 2, 747 (2011))であり、Chemscene社から市販されている。本発明の活性型レニン特異的抗体のレニンに対する反応性の評価においては、これら市販品を利用することもできる。
【0023】
本発明の活性型レニン特異的抗体は、不活性型レニンと比較して、活性型レニンに高い反応性を示す限り、特に制限はない。「不活性型レニンと比較して、活性型レニンに高い反応性を示す」とは、少なくとも不活性型成熟レニンと比較して活性型成熟レニンに高い反応性を示すことを意味する。好ましくは、さらに、不活性型プロレニンと比較して活性型プロレニンに高い反応性を示すことを意味する。
【0024】
ここで「高い反応性」とは、好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上(例えば、3倍以上、4倍以上、5倍以上)の反応性である。不活性型成熟レニンおよび活性型成熟レニンに対する反応性は、例えば、本実施例6に記載の方法(成熟レニン濃度100ng/ml)に従って測定された450nmの吸光値を基準として評価することが可能である。また、不活性型プロレニンおよび活性型プロレニンに対する反応性は、例えば、本実施例11に記載の方法(プロレニン濃度100ng/ml)に従って測定された450nmの吸光値を基準として評価することが可能である。
【0025】
本発明の活性型レニン特異的抗体の特に好ましい態様としては、配列番号:1に記載のアミノ酸配列の30番目から86番目のアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体(ヒト成熟レニンのアミノ酸配列の30番目から86番目のアミノ酸配列にエピトープを有する抗体)である。当該抗体は、さらに、配列番号:1に記載のアミノ酸配列の58番目から170番目のアミノ酸配列からなるペプチドに結合しない抗体であることが好ましい。具体的な抗体としては、本実施例に記載の「RREN63A8」、「rREN-I-115」、および「rREN-d-104-1」が挙げられる。「RREN63A8」および「rREN-I-115」は、レニン阻害剤が結合した成熟レニンと比較して、レニン阻害剤が結合していない成熟レニンに対して、それぞれ約2倍および約5倍の反応性を示す(図6)。「rREN-I-115」は、さらに、レニン阻害剤が結合したプロレニンと比較して、レニン阻害剤が結合していないプロレニンに対して、約2倍の反応性を示す(図11)。「rREN-d-104-1」は、活性型成熟レニンに対して、「rREN-I-115」と同等の特異性を示す(図17)。このため、これら抗体を利用して測定されたレニン濃度は、レニン活性と強い相関を示すことができる(図7、8、10、15、16)。また、「RREN63A8」、「rREN-I-115」、あるいは「rREN-d-104-1」と同一のエピトープを認識するその他の抗体も、同様の特性を持つと考えられることから、本発明において有用である。
【0026】
本発明の測定に用いられる「試料」としては、レニンが存在し得る試料である限り特に制限はない。レニン活性の異常が関連する疾患の診断の基礎となるレニン濃度を測定する目的においては、一般的には、血液検体が用いられる。血液検体は、好ましくは血清または血漿である。
【0027】
本発明の活性型レニン特異的抗体を用いてレニン濃度を免疫学的に測定する方法としては、例えば、標識として放射性同位元素を用いるRIA法(放射免疫測定法)、標識として化学発光性化合物を用いるCLIA法(化学発光免疫測定法)、標識として酵素を用いるCLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)やEIA法(酵素免疫測定法)、ラテックス凝集法、イムノクロマトグラフィーなどが挙げられるが、これらに制限されない。免疫学的な測定は、非競合的測定法であっても、競合的測定法であってもよい。
【0028】
免疫学的手法において使用する抗体は、例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgY等のいずれのアイソタイプであってもよい。このような抗体はまた、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体(例、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体)、それらの抗体断片であってもよい。抗体断片は、例えば、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv、単鎖抗体、ダイアボディーなどが挙げられるが、これらに限定されない。抗体は、好ましくは、モノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法など公知の方法によって作製したものを用いることができる。
【0029】
本発明に用いるモノクローナル抗体の作製においては、本実施例に記載のように、まず、成熟レニンに対するモノクローナル抗体を作製し、成熟レニンに対して高い反応性を有する一方、プロレニンに対して反応性が低いモノクローナル抗体を選抜する。次いで、選抜したモノクローナル抗体の中から、レニン阻害剤の有無に拘わらず、測定値がレニン活性と相関を示す抗体を選抜すればよい。また、一旦、本発明の活性型レニン特異的抗体が得られた場合には、そのエピトープを特定し、当該エピトープを含むペプチドを抗原として利用することにより、効率的に目的の活性型レニン特異的抗体を得ることも可能である。
【0030】
ハイブリドーマ法としては、代表的には、ケーラーよびミルスタインの方法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495 (1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(標的蛋白質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ラクダ、アルパカ、ニワトリ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞およびミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、標的蛋白質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。標的蛋白質に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
【0031】
組換えDNA法は、上記抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞などからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P. J. Delves, Antibody Production:Essential Techniques, 1997 WILEY、P. Shepherd and C.Dean Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A. M. et al.,Eur. J. Biochem. 192:767-775 (1990))。抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖または軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(WO94/11523号公報参照)。組換え抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内または培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0032】
本発明の測定に用いられる活性型レニン特異的抗体としては、標識物質を結合させた抗体を使用することができる。標識物質としては、抗体に結合させて検出できるものであれば特に制限はないが、例えば、125Iなどの放射性同位元素、アルカリホスファターゼ(ALP)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、βガラクトシダーゼ(β-gal)などの酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC)などの蛍光色素、アロフィコシアニン(APC)やフィコエリスリン(R-PE)などの蛍光蛋白質、アビジン、ビオチン、ラテックス、金粒子などが挙げられる。
【0033】
標識物質として酵素を用いた場合には、基質として、発色基質、蛍光基質、あるいは化学発光基質などを添加することにより、基質に応じて種々の検出を行うことができる。
【0034】
標識物質を結合させた活性型レニン特異的抗体を用いてレニンを直接的に検出する方法以外に、本発明の活性型レニン特異的抗体には標識物質を結合せず、標識物質が結合した二次抗体などを利用して間接的に検出する方法を利用することもできる。ここで「二次抗体」とは、本発明の活性型レニン特異的抗体に対して反応性を示す抗体である。例えば、本発明の活性型レニン特異的抗体をマウス抗体として調製した場合には、二次抗体として抗マウスIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、本発明の活性型レニン特異的抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択して使用することができる。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインAなどを用いることも可能である。
【0035】
本発明の活性型レニン特異的抗体と標識物質との結合には、ビオチン−アビジン系を利用することもできる。この方法においては、例えば、本発明の活性型レニン特異的抗体をビオチン化し、これに、アビジン化した標識物質を作用させ、ビオチンとアビジンの相互作用を利用して、本発明の活性型レニン特異的抗体に標識物質を結合させる。
【0036】
本発明に用いる免疫学的測定法の検出原理としては、高感度な検出システムを構築することができる点で、サンドイッチ法が好適である。サンドイッチ法においては、固相化した捕捉用抗体で検出対象物質を捕捉し、それを標識物質が結合した検出用抗体に認識させ、洗浄後、標識物質の種類に応じた検出を行う。固相としては、例えば、磁性粒子やラテックス粒子などの粒子、プラスチックプレートなどのプレート、あるいはニトロセルロースなどの繊維状物質を用いることができる。
【0037】
捕捉用抗体は固相に直接固定してもよいが、間接的に固定してもよい。例えば、捕捉用抗体に結合する物質を固相に固定し、当該物質に捕捉用抗体を結合させることにより、補足用抗体を固相に間接的に固定することができる。捕捉用抗体に結合する物質としては、例えば、上記の二次抗体、プロテインG、プロテインAなどが挙げられるが、これらに制限されない。また、捕捉用抗体がビオチン化されている場合には、アビジン化した固相を利用することができる。
【0038】
本発明においては、活性型レニン特異的抗体を捕捉用抗体として用いても、検出用抗体(標識抗体)として用いてもよい。従って、サンドイッチ法を利用する場合には、必ずしも本発明の活性型レニン特異的抗体を標識する必要はなく、他の一方の抗体を標識してもよい。他の一方の抗体は、少なくともレニン阻害剤が結合していない成熟レニンに反応性を示すものであれば、レニン阻害剤が結合している成熟レニンに反応性を示すものであってもよい。さらに、プロレニンに反応性を示してもよい。例えば、レニン阻害剤の有無に拘わらずレニン全般に高い反応性を示す抗体(本実施例のRREN21E10-19など)や、プロレニンへの反応性は高くはないが、レニン阻害剤の有無に拘わらず成熟レニンに高い反応性を示す抗体(本実施例の11-6など)を好適に用いることができる(図3、6)。サンドイッチ法としては、例えば、CLIA法の一態様であるサンドイッチCLIA法、CLEIA法の一態様であるサンドイッチCLEIA法、RIA法の一態様であるIRMA法(免疫放射定量法)が好適である。
【0039】
得られた測定値からのレニン濃度の特定は、一般的に、各濃度の標準レニン試薬による測定値との比較により行うことができる。この場合、例えば、標準レニン試薬による測定値に基づいて作成された標準曲線上のどの位置に、実際の測定値が位置づけられるかを調べることにより、試料中のレニン濃度を求めることができる。
【0040】
本発明により測定された試料中のレニン濃度は、試料中のレニン活性と相関を示す。従って、本発明の方法は、レニン活性の異常に関連する疾患の診断(罹患やそのリスクの評価)に利用することができる。ここで「レニン活性の異常に関連する疾患」には、レニン活性の異常に起因する疾患および疾患の発症の結果としてレニン活性が異常となる疾患の双方を含む意である。レニン活性の異常が関連する疾患において、レニン活性が高値を示す疾患としては、例えば、悪性高血圧症、褐色細胞腫、原発性選択的低アルドステロン血症、腎血管性高血圧症、腎実質性高血圧症、慢性心不全、ネフローゼ症候群、肝硬変、脱水、Addison病、Bartter症候群、Gitelman症候群、レニン産生腫瘍、高レニン性本態性高血圧症などが挙げられ、レニン活性が低値を示す疾患としては、例えば、原発性アルドステロン症、低レニン性本態性高血圧症、間質性腎炎、糖尿病腎症、腎盂腎炎、11β-水酸化酵素欠損症、17α-水酸化酵素欠損症、AME症候群、DOC産生腫瘍、Liddle症候群、偽性アルドステロン症、先天性副腎酵素欠損症、低レニン性選択的低アルドステロン症、糖質コルチコイド反応性アルドステロン症、特発性アルドステロン症などが挙げられる。
【0041】
また、本発明は、試料中のレニンを検出するための薬剤であって、本発明の活性型レニン特異的抗体を含む薬剤を提供する。本発明の薬剤に含まれる活性型レニン特異的抗体は、上記の通り、標識物質が結合したものであってもよい。本発明の薬剤においては、抗体成分の他、必要に応じて、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、保存剤など、他の成分を含むことができる。
【0042】
また、本発明は、上記本発明の方法に用いるためのキットを提供する。本発明のキットは、少なくとも本発明の活性型レニン特異的抗体を抗体標品として含むが、さらに、標準レニン試薬(各濃度)、対照試薬、試料の希釈液、希釈用カートリッジ、洗浄液などを組み合わせることができる。酵素標識を利用した場合には、標識の検出に必要な基質や反応停止液などを含めることができる。サンドイッチ法を検出原理とする場合には、例えば、固相化したレニン捕捉用抗体あるいはレニン捕捉用抗体に結合する物質を固定した固相を含めることができる。また、一次抗体を標識しない場合には、例えば、当該一次抗体に結合する物質を標識したものをキットに含めることができる。また、本発明の活性型レニン特異的抗体がビオチン化されている場合には、例えば、アビジン化された標識物質をキットに含めることができる。本発明のキットには、さらに、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【0043】
本発明の薬剤やキットは、例えば、体外診断用医薬品として、上記レニン活性の異常に関連する疾患の診断の基礎となるレニン濃度の測定に利用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]組換え成熟レニンの調製
(1)組換えプロレニンの精製
Hisタグ標識プロレニン発現CHO細胞を高密度培養用ユニットAD1000を使用し、無血清培地BD select(BD Biosciences)で1週間培養した。培養上清を回収し、4℃、1000rpm、10分で遠心し、上清を回収した。上清をHisタグ精製用のアフィニティカラム(Talon Metal Affinity Resin(Clontech))に通した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄後、150mMイミダゾール溶液で溶出し、溶出液を1mLずつ、10フラクション回収した。回収したフラクションについてSDS-PAGE解析を実施し、プロレニンが溶出されていることを確認した後、全てのフラクションをまとめて、PBSで一晩透析を実施した。翌日、透析後の溶液を回収し、限外濾過カラム(Amicon Ultra 10K)を使用して濃縮し、プロレニン溶液を回収した。
【0046】
(2)組換え成熟レニンの精製
(1)で精製した組換えプロレニンに、重量比1:50となるようにトリプシン(Sequencing grade modified Trypsin, Promega)溶液(0.1mg/mL, 50mM Acetate)を添加し、4℃で1時間反応させ、15000rpm,RT,5分遠心して上清を回収した。回収した上清について、20mM Tris-HCl(pH7.0)溶液でゲル濾過クロマトグラフィー(カラム:Superdex75 10/300)により精製を行った。SDS-PAGEによりフラクション解析を行い、成熟レニンが含まれるフラクションを回収した。回収した溶液について、PBSで一晩透析した。翌日、透析後の溶液を回収し、限外濾過カラム(Amicon Ultra 10K)を使用して濃縮を行った。
【0047】
(3)組換えプロレニンおよび組換え成熟レニンのSDS-PAGE解析
20μg/mLに調整した組換え成熟レニン溶液および組換えプロレニン溶液に、等量の100mM DTTを含む2×SDS-PAGE sample buffer(2×Laemmli sample buffer, BioRad)を添加し、95℃,5分で変性させた。調製したサンプルを10μL/laneでSDS-PAGE用のプレキャストゲル(Mini-PROTEAN PGX Precast Gel 4-20%)に添加した。ゲルを泳動装置にセットし、定電圧、200Vで24分間泳動した。ゲルを超純水で洗浄後、GelCode Blue Safe Proteinstain(Thermo Scientific)を添加して室温で2時間程度染色を行った。染色したゲルを超純水で脱色し、撮像した。その結果、組換えプロレニンおよび組換え成熟レニンが精製されていることが確認された(図1)。
【0048】
[実施例2]成熟レニン特異的な抗体の取得
(1)マウス免疫
7-8週齢のBALB/cマウスおよびICRマウス(メス)に50μg/bodyの組換え成熟レニンとフロイント完全アジュバントの等量エマルジョンを腹腔投与した。以後2週間おきに、50μg/bodyの組換え成熟レニンとフロイント不完全アジュバントの等量エマルジョンを抗体価の上昇が確認されるまで2-5回腹腔投与した。
【0049】
(2)抗成熟レニン抗体産生ハイブリドーマの作製
十分な抗体価の上昇が確認されたマウスに、50μg/bodyの組換え成熟レニン溶液を腹腔投与した。3-4日後マウス脾臓を摘出し、脾臓細胞と、前もってRPMI1640で培養していたミエローマ細胞P3U1とPEGを用いて融合を実施した。融合後7-14日後の培養上清を、抗マウスイムノグロブリン抗体を固相化し、洗浄したプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄した後、市販のビオチン化試薬(Sulfo-NHS-LC biotin, Thermo Scientific)でビオチン化した組換えレニン溶液(1μg/mL)もしくはビオチン化プロレニン溶液を添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄した後、POD標識のストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄した後、ABTSもしくはTMBを添加し、発色反応を行った。1.5M シュウ酸水溶液もしくは0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止し、405nmもしくは450nmの吸光を測定した。レニンに対する反応の高いクローンを選択し、限界希釈によるクローニングを経てモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを樹立した。
【0050】
(3)抗成熟レニン抗体の精製
ハイブリドーマを無血清培地で1-2週間ほど培養し、その培養上清を回収した。培養上清をProtein Gカラムに通し、抗体を結合させた。PBSによる洗浄後、溶出液(0.2M Glycine-HCl, pH2.5)で抗体を溶出し、中和液(1M Tris-HCl, pH9.0)を添加して中和した。抗体溶液をPBSで一晩透析し、限外濾過カラムで濃縮した。
【0051】
(4)ビオチン化成熟レニンおよびビオチン化プロレニンに対する反応性の検討
PBSで希釈した2μg/mLの抗マウスイムノグロブリン抗体溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄した後、1% BSA-PBSをアッセイプレートに添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄した後、1% BSA-PBSで希釈した抗成熟レニン抗体溶液を添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄した後、1% BSA-PBSで希釈した1μg/mLのビオチン化レニンおよびビオチン化プロレニンを添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄した後、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識のストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄した後、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。その結果、複数のクローンがビオチン化成熟レニンに対して高い特異性を示した(図2)。
【0052】
[実施例3]市販抗体の反応性検討
PBSで希釈した2μg/mLの抗マウスイムノグロブリン抗体溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄した後、1% BSA-PBEをアッセイプレートに添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄した後、1% BSA-PBSで希釈した1μg/mLの各市販抗体および自社抗体を添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄した後、1% BSA-PBSで希釈した1μg/mLのビオチン化レニンおよびビオチン化プロレニンを添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄した後、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識のストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄した後、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。その結果、市販抗体11-6が成熟レニンに対して高い特異性を示した(図3)。
【0053】
[実施例4]市販抗体の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによるアリスキレン添加時のレニン濃度の測定
(1)レニン濃度の測定
PBSで希釈した2μg/mLの市販抗体12-12をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBEをアッセイプレートに添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈した1μg/mLの組換え成熟レニン溶液と、200, 40, 8, 1.6, 0.32ng/mLのアリスキレン溶液を等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したビオチン化標識市販抗体11-6をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0054】
(2)レニン活性の測定
160μLのアッセイバッファー(50mM Tris, 0.1M NaCl, 10mM EDTA)を白色プレートに添加した。次いで、20μLの20μMレニン蛍光基質(DMSO, Cayman Chemical)を添加し、さらに、20μLの組換え成熟レニン溶液とアリスキレン溶液を等量ずつ混和したもの(濃度測定に使用したものと同様のサンプル)およびレニン濃度キャリブレーターを添加した。37℃で1時間反応させ、490nmの蛍光(励起光:340nm)を検出した。
【0055】
その結果、市販抗体12-12と11-6の組み合わせサンドイッチELISAでは、アリスキレン添加時にレニン濃度とレニン活性が相関を示さなかった(図4)。
【0056】
[実施例5]自社抗体RREN33H11とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによるアリスキレン添加時のレニン濃度の測定
(1)レニン濃度の測定
PBSで希釈した2μg/mLの自社抗体RREN33H11溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSを添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈した1μg/mLの組換え成熟レニン溶液と、200, 40, 8, 1.6, 0.32ng/mLのアリスキレン溶液を等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したビオチン化標識RREN21E10-19をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0057】
(2)レニン活性の測定
160μLのアッセイバッファー(50mM Tris, 0.1M NaCl, 10mM EDTA)を白色プレートに添加した。次いで、20μLの20μMレニン蛍光基質(DMSO, Cayman Chemical)を添加し、さらに、20μLの組換え成熟レニン溶液とアリスキレン溶液を等量ずつ混和したもの(濃度測定に使用したものと同様のサンプル)およびレニン濃度キャリブレーターを添加した。37℃で1時間反応させ、490nmの蛍光(励起光:340nm)を検出した。
【0058】
その結果、成熟レニンに対する特異性を指標に樹立した自社抗体RREN33H11とRREN21E10-19の組み合わせサンドイッチELISAでも、アリスキレン添加時にレニン濃度とレニン活性は相関を示さなかった(図5)。
【0059】
[実施例6]アリスキレン添加時におけるビオチン化レニン捕捉能を用いたスクリーニング法の確立および活性型レニン特異的抗体の取得
(1)アリスキレン添加時におけるビオチン化レニン捕捉能の測定
PBSで希釈した2μg/mLの抗レニン抗体溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSを添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈し1μg/mLのビオチン化成熟レニン溶液と200ng/mLのアリスキレン溶液を等量ずつ混和したものを添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0060】
その結果、アリスキレン添加時のビオチン化成熟レニン捕捉能を測定することで、アリスキレン存在時の成熟レニンに対する反応性を指標としたスクリーニング系を構築できた。また、アリスキレン添加時に成熟レニンに対する反応性が著しく減少するクローンが得られた(図6)。
【0061】
[実施例7]自社抗体rREN-I-115とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによるアリスキレン添加時のレニン濃度の測定
(1)レニン濃度の測定
PBSで希釈した2μg/mLの自社抗体rREN-I-115溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSを添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈した1μg/mLの組換え成熟レニン溶液と、200, 40, 8, 1.6, 0.32ng/mLのアリスキレン溶液を等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したビオチン化標識RREN21E10-19をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0062】
(2)レニン活性の測定
160μLのアッセイバッファー(50mM Tris, 0.1M NaCl, 10mM EDTA)を白色プレートに添加した。次いで、20μLの20μM レニン蛍光基質(DMSO, Cayman Chemical)を添加し、さらに、20μLの組換え成熟レニン溶液とアリスキレン溶液を等量ずつ混和したもの(濃度測定に使用したものと同様のサンプル)およびレニン濃度キャリブレーターを添加した。37℃で1時間反応させ、490nmの蛍光(励起光:340nm)を検出した。
【0063】
その結果、アリスキレン存在下の成熟レニンに対する反応性を指標に選択した自社抗体rREN-I-115とRREN21E10-19の組み合わせサンドイッチELISAでは、レニン濃度とレニン活性が強い相関を示した(図7)。
【0064】
[実施例8]自社抗体RREN63A8とRREN21E10-19との組み合わせを用いたサンドイッチELISAによるアリスキレン添加時のレニン濃度の測定
(1)レニン濃度の測定
PBSで希釈した2μg/mLの自社抗体RREN63A8溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSを添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈した1μg/mLの組換え成熟レニン溶液と、200, 40, 8, 1.6, 0.32ng/mLのアリスキレン溶液を等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したビオチン化標識RREN21E10-19をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0065】
(2)レニン活性の測定
160μLのアッセイバッファー(50mM Tris, 0.1M NaCl, 10mM EDTA)を白色プレートに添加した。次いで、20μLの20μMレニン蛍光基質(DMSO, Cayman Chemical)を添加し、さらに、20μLの組換え成熟レニン溶液とアリスキレン溶液を等量ずつ混和したもの(濃度測定に使用したものと同様のサンプル)およびレニン濃度キャリブレーターを添加した。37℃で1時間反応させ、490nmの蛍光(励起光:340nm)を検出した。
【0066】
その結果、rREN-I-115同様、アリスキレン存在時の成熟レニンに対する反応性を指標に選択したクローンRREN63A8を用いて組んだサンドイッチELISAでは、レニン濃度とレニン活性が相関を示した(図8)。
【0067】
[実施例9]市販抗体12-12と11-6の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによるレニン阻害剤III添加時のレニン濃度の測定
(1)レニン濃度の測定
PBSで希釈した2μg/mLの市販抗体12-12をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBEをアッセイプレートに添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈した200ng/mLの組換え成熟レニン溶液と、2000, 400, 80, 16, 3.2ng/mLのレニン阻害剤III溶液を等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したビオチン化標識市販抗体11-6をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0068】
(2)レニン活性の測定
160μLのアッセイバッファー(50mM Tris, 0.1M NaCl, 10mM EDTA)を白色プレートに添加した。次いで、20μLの20μMレニン蛍光基質(DMSO, Cayman Chemical)を添加し、さらに、20μLの組換え成熟レニン溶液とレニン阻害剤III溶液を等量ずつ混和したもの(濃度測定に使用したものと同様のサンプル)およびレニン濃度キャリブレーターを添加した。37℃で1時間反応させ、490nmの蛍光(励起光:340nm)を検出した。
【0069】
その結果、市販抗体の組み合わせは、レニン阻害ペプチド添加時にもレニン濃度とレニン活性の相関を示さなかった(図9)。
【0070】
[実施例10]自社抗体rREN-I-115もしくはRREN33H11とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによるレニン阻害剤III添加時のレニン濃度の測定
(1)レニン濃度の測定
PBSで希釈した2μg/mLの自社抗体rREN-I-115もしくはRREN33H11溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSを添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈した200ng/mLの組換え成熟レニン溶液と、2000, 400, 80, 16, 3.2ng/mLのレニン阻害剤III溶液を等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したビオチン化標識RREN21E10-19をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0071】
(2)レニン活性の測定
160μLのアッセイバッファー(50mM Tris, 0.1M NaCl, 10mM EDTA)を白色プレートに添加した。次いで、20μLの20μM レニン蛍光基質(DMSO, Cayman Chemical)を添加し、さらに、20μLの組換え成熟レニン溶液とレニン阻害剤III溶液を等量ずつ混和したもの(濃度測定に使用したものと同様のサンプル)およびレニン濃度キャリブレーターを添加した。37℃で1時間反応させ、490nmの蛍光(励起光:340nm)を検出した。
【0072】
その結果、アリスキレン添加時同様、RREN33H11の組み合わせはレニン活性との相関を示さなかったが、rREN-I-115の組み合わせはレニン活性と強い相関を示した(図10)。
【0073】
[実施例11]自社抗体rREN-I-115とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAによるアリスキレン添加時のプロレニン濃度の測定
PBSで希釈した2μg/mLの自社抗体rREN-I-115もしくはRREN33H11溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSを添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈した200, 50, 8, 0.4ng/mLの組換えプロレニン溶液と、10μg/mLのアリスキレン溶液を等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したビオチン化標識RREN21E10-19をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0074】
その結果、rREN-I-115とRREN21E10-19の組み合わせを用いたサンドイッチELISAでは、アリスキレンと結合したプロレニンも測定しないことが確認された(図11)。
【0075】
[実施例12] エピトープの同定
(1)レニン切断断片の作成
全長のレニン遺伝子配列を適当に断片化(図のA, B, C, D, E, A3, A13, A23)し、末端に制限酵素消化サイトが付加したレニン断片配列を作製した(図12)。GST発現ベクターに、これらレニン断片配列を制限酵素を用いて導入し、N末端にGSTが融合したレニン切断断片発現ベクターを作製した。作製した発現ベクターを大腸菌DH5αに遺伝子導入し、プラスミドの増幅を行った。得られたプラスミドを大腸菌BL21に導入し、LB培地にて一晩振盪培養した。その後、菌液を10倍希釈になるようにLB培地で希釈し、1時間振盪培養した。1mM IPTGで発現誘導し、さらに3時間振盪培養した。15000rpm、室温、1分間遠心して菌体を回収した。菌体に0.01% Tween 20含有PBSを300μL添加し、懸濁液を15分間超音波破砕した。超音波破砕液を15000rpm、室温、10分間遠心して上清を回収し、切断断片液とした。
【0076】
(2)ウェスタン・ブロッティングによるエピトープの同定
切断断片液に半量の3×SDS-PAGEサンプルバッファーを添加し、96℃で5分間加熱変性した。調製したサンプルをSDS-PAGE用ゲル(Mini PROTEAN TGX Precast Gel, 4-20%, Bio rad)に7.5μL(25μL culture分)添加し、定電圧200Vで30分間泳動した。SDS-PAGE用ゲルをi-Blot(Thermo scientific)を用いてPVDF膜に転写し、そのPVDF膜を1% スキムミルク含有PBSに浸してブロッキングを行った。PVDF膜を1μg/mLのRREN63A8及び抗GST抗体(GST2-1)を含む1%スキムミルク含有PBSに浸して振盪し、一次反応を行った。PVDF膜をPBS-Tで5分間、3回洗浄し、1% スキムミルク含有PBSで1000倍に希釈したPOD標識抗マウス抗体液に浸して振盪し、二次反応を行った。PVDF膜をTween 20含有PBSで5分間、3回洗浄し、PVDF膜に発光基質(ECL Prime, GE Healthcare)を添加し、余分な液を除いてからLAS500(GE Healthcare)で発光を確認した。
【0077】
その結果、RREN63A8は、REN-A、A13、A23、A3のそれぞれを認識したが、REN-B、C、D、Eは認識しなかった(図13)。RREN63A8は、REN-A3を認識することから、レニンアミノ酸配列の30番目から86番目の57アミノ酸の範囲を認識することが示された。さらに、REN-Dを認識しないことから、レニンアミノ酸配列30番目から57番目の28アミノ酸の範囲を認識する可能性も示唆された。
【0078】
(3)抗体同士の阻害試験
PBSで2μg/mLに希釈した3種類の自社抗体(rREN-d-104-1、rREN-I-115、RREN63A8)をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBEをアッセイプレートに添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈した200ng/mLのレニンと、1% BSA-PBSで希釈した800μg/mLの3種類の自社抗体もしくは1% BSA-PBSを等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈した1μg/mLのビオチン化RREN21E10-19を添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識のストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0079】
その結果、3種類の抗体すべての組み合わせで、抗原とともに添加した阻害抗体により反応が阻害された(図14)。これにより、rREN-d-104-1およびrREN-I-115は、RREN63A8と同一のエピトープを認識することが示された。
【0080】
[実施例13] 自社抗体rREN-I-115もしくはRREN33H11とRREN21E10-19の組み合わせサンドイッチによるVTP-27999添加レニン濃度測定
(1)レニン濃度測定
PBSで希釈した2μg/mLの自社抗体rREN-I-115もしくはRREN33H11溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSを添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈した200ng/mLの組換えレニン溶液と、100, 20, 4, 0.8, 0.16, 0nMのVTP-27999溶液を等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したビオチン化標識RREN21E10-19をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0081】
(2)レニン活性の測定
160μLのアッセイバッファー(50mM Tris, 0.1M NaCl, 10mM EDTA)を白色プレートに添加し、次いで、20μLの20μM レニン蛍光基質(DMSO, Cayman Chemical)を添加した。さらに、20μLの組換えレニン溶液とVTP-27999溶液を等量ずつ混和したもの(濃度測定に使用したものと同様のサンプル)及びレニン濃度キャリブレーターを添加し、37℃で1時間反応させ、490nmの蛍光(励起光:340nm)を検出した。
【0082】
その結果、アリスキレン添加時同様、RREN33H11の組み合わせはレニン活性との相関を示さなかったが、rREN-I-115の組み合わせはレニン活性と強い相関を示した(図15)。
【0083】
[実施例14] 自社抗体rREN-d-104-1とRREN21E10-19との組み合わせサンドイッチによるアリスキレン添加レニン濃度の測定
(1)レニン濃度測定
PBSで希釈した2μg/mLの自社抗体RREN63A8溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSを添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、PBSで希釈した400ng/mLの組換えレニン溶液と、200, 40, 8, 1.6, 0.32ng/mLのアリスキレン溶液を等量ずつ混和したものをアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したビオチン化標識RREN21E10-19をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSで希釈したPOD標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行った。0.5M H2SO4を添加し、発色反応を停止して、450nmの吸光を測定した。
【0084】
(2)レニン活性の測定
160μLのアッセイバッファー(50mM Tris, 0.1M NaCl, 10mM EDTA)を白色プレートに添加し、次いで、20μLの20μM レニン蛍光基質(DMSO, Cayman Chemical)を添加した。さらに、20μLの組換えレニン溶液とアリスキレン溶液を等量ずつ混和したもの(濃度測定に使用したものと同様のサンプル)及びレニン濃度キャリブレーターを添加し、37℃で1時間反応させ、490nmの蛍光(励起光:340nm)を検出した。
【0085】
その結果、rREN-I-115同様、アリスキレン存在時のレニンに対する反応性を指標に選択したクローンrREN-d-104-1を用いて組んだサンドイッチELISAでは、レニン濃度とレニン活性が相関を示した(図16)。
【0086】
[実施例15] アリスキレン添加検体のレニン濃度測定
PBSで希釈した5μg/mLの市販抗体12-12、または自社抗体rREN-I-115、RREN33H11、もしくはrREN-d-104-1溶液をアッセイプレートに添加し、固相化した。PBS-Tで3回洗浄し、1% BSA-PBSを添加し、ブロッキングを行った。PBS-Tで3回洗浄し、含有する成熟レニンがすでに値付けされた2種類の市販のヒト血漿にアリスキレンを1000nMとなるように添加し、約1時間室温で静置したものを検体希釈液(富士レビオ社製)で5倍に希釈してアッセイプレートに添加し、一次反応を行った。洗浄液(富士レビオ社製)で3回洗浄し、2% BSAを含むTris緩衝液で1μg/mLに希釈したビオチン化標識11-6もしくはビオチン化標識RREN21E10-19をアッセイプレートに添加し、二次反応を行った。洗浄液(富士レビオ社製)で3回洗浄し、2% BSAを含むTris緩衝液で0.01μg/mLに希釈したALP標識ストレプトアビジン溶液を添加し、三次反応を行った。洗浄液(富士レビオ社製)で3回洗浄し、基質液(富士レビオ社製)を添加し、37℃で5分間反応させた後、化学発光を検出した。
【0087】
その結果、組換えレニンにアリスキレンを添加したとき同様、市販抗体12-12と11-6の組み合わせ、または、自社抗体RREN33H11とRREN21E10-19の組み合わせは、アリスキレン添加時のレニン濃度はほとんど変わらなかったが、rREN-I-115またはrREN-d-104-1を含む組み合わせでは、アリスキレン添加時にレニン濃度が減少した(図17)。
【0088】
このことから、アリスキレンが結合して活性を持たないレニンを、rREN-I-115およびrREN-d-104-1が認識していないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明によれば、レニン活性と相関した活性型レニン濃度を活性型レニン特異的抗体を用いて効率的に測定することが可能となる。レニン活性は、原発性アルドステロン症などの疾患と関連することから、本発明は、研究上の利用にとどまらず、疾患の診断においても大きく貢献しうるものである。
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]