特許第6836770号(P6836770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836770
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】防曇コーティング組成物および防曇皮膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20210222BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210222BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20210222BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   C09D175/04
   C09D7/61
   C09D4/02
   C09D5/02
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-178933(P2016-178933)
(22)【出願日】2016年9月13日
(65)【公開番号】特開2018-44052(P2018-44052A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222417
【氏名又は名称】トーヨーポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100148356
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 英人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 友寛
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−504938(JP,A)
【文献】 特表2005−523981(JP,A)
【文献】 特開2003−13046(JP,A)
【文献】 特開2012−201778(JP,A)
【文献】 特開平6−64326(JP,A)
【文献】 特開平11−209648(JP,A)
【文献】 特表2004−536947(JP,A)
【文献】 特表2010−532402(JP,A)
【文献】 特開2008−304904(JP,A)
【文献】 特開2001−131445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
C08J 7/04− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン水分散体と、
アルコキシポリエチレングリコールアクリレートまたはアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートである親水性(メタ)アクリレートと、
コロイダルシリカと、
ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、を含有する防曇コーティング組成物。
【請求項2】
前記ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、
前記親水性(メタ)アクリレートの含有量が20質量部以上85質量部以下である、請求項1に記載の防曇コーティング組成物。
【請求項3】
前記ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、
前記ホウ素系ノニオン性界面活性剤の含有量が0.2質量部以上30質量部以下である
請求項1又は請求項2に記載の防曇コーティング組成物。
【請求項4】
さらにレベリング剤を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の防曇コーティング剤。
【請求項5】
コロイダルシリカ由来のシリカと、
アルコキシポリエチレングリコールアクリレートまたはアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートである親水性(メタ)アクリレート由来のポリ(メタ)アクリレート成分と、
ポリウレタンと、
ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、
を含有する防曇皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇コーティング組成物および防曇皮膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材の表面温度が周囲の空気の露点よりも低くなると、基材の表面に水滴が付着し曇りが生じる。レンズやガラス窓、透明フィルムなどの透明基材および鏡などの反射材においては、表面に曇りが生じることにより透過像または反射像の可視性が損なわれる。そのため、基材の表面に防曇効果を付与するコーティングを形成し、曇りを防ぐ方法が提案されている。例えば基材の表面に皮膜を形成し、基材表面の親水性を高めたりレンズと水との接触角を小さくしたりすることで基材表面における水滴の形成を防ぎ、基材の曇りを防止する方法が既に開示されている(例えば特許文献1、特許文献2など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−83846号公報
【特許文献2】特開2007−137937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材の曇りは生活環境における様々な場面で起こりうる。例えば常温の室内から浴室などの高温環境下に移動した場合、あるいは冬の室外などの低温環境下から常温の室内に移動した場合などにおいて曇りが生じやすい。そのため基材に塗布される防曇コーティング剤には、常温の環境下だけではなく、より幅広い温度環境下で防曇効果を発揮できる材料が求められている。
【0005】
また防曇コーティング剤には防曇効果の持続性が求められる。基材に防曇コーティングを施した場合、コーティングにより形成された防曇性皮膜の防曇効果が徐々に失われると防曇効果を持続できなくなる。例えば、コーティング成分が基材から流出したり、防曇皮膜の基材からの剥離または脱離したりすると防曇効果を維持できなくなる。また防曇性皮膜を有する透明基材は、常温の通常の環境下に加え、様々な環境下で使用される。例えば、防曇皮膜を有する透明基材は、風呂場などの温水に長時間曝露される環境においても使用される。またプールで使用するゴーグル等にも防曇効果が求められる。プールの水は、塩素水などの消毒剤を含む場合が多い。そのため防曇皮膜には、温水や、薬品を含む水などに曝露されても防曇効果が失われないような基材との密着性が求められる。
【0006】
加えて、コーティング用材料としては基材に塗工する際の塗工しやすさ(塗工性)が求められる。さらに、皮膜を通じて視認される外景の視認性を確保するために、防曇皮膜には透明性が求められる。
【0007】
したがって、塗工性に優れた防曇コーティング組成物、ならびに幅広い温度環境下で防曇効果を発揮でき、塗膜の外観、基材に対する密着性、および透明性に優れた防曇皮膜を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の防曇コーティング組成物は、ポリウレタン水分散体と、親水性(メタ)アクリレートと、コロイダルシリカと、ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、を含有する。
【0009】
また本願発明の防曇皮膜は、コロイダルシリカ由来のシリカと、親水性(メタ)アクリレート由来のポリ(メタ)アクリレート成分と、ポリウレタンと、ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、を含有する。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、塗工性に優れた防曇コーティング組成物、ならびに幅広い温度環境下で防曇効果を発揮でき、塗膜の外観、基材に対する密着性、および透明性に優れた防曇皮膜を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。本願発明の第1の態様にかかる防曇コーティング組成物は、ポリウレタン水分散体と、親水性(メタ)アクリレートと、コロイダルシリカと、ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、を含有する。このような防曇コーティング組成物は、広い温度域において基材に親水性を付与する成分と基材への密着性を付与する成分とを含む。その親水性のために幅広い温度環境下で防曇効果が発揮される。さらに防曇コーティング組成物から形成される防曇皮膜と基材との密着性が高いため、基材からの防曇成分の流出および基材からの防曇皮膜の剥離や脱離が抑制され、防曇効果の持続性に優れる。また防曇コーティング組成物は、上記各成分の相溶性を高める成分を含むため、得られる防曇皮膜は透明性に優れた外観を有する。さらに塗工性にも優れる。このように、上記組成を有することにより、必要とされる上述の物性を兼ね備えた防曇コーティング組成物を提供することができる。
【0012】
本願発明の防曇コーティング組成物においては、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、親水性(メタ)アクリレートの含有量が20質量部以上85質量部以下であってもよい。親水性(メタ)アクリレートの含有量がこの範囲内であれば、基材への密着性と高温防曇性により優れ、外観がより良好な防曇皮膜を形成することができる。
【0013】
本願発明の防曇コーティング組成物においては、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、ホウ素系ノニオン性界面活性剤の含有量が固形分換算で0.2質量部以上30質量部以下であってもよい。ホウ素系ノニオン性界面活性剤の含有量がこの範囲内であれば、基材への密着性と高温防曇性がより良好な防曇被膜を形成することができる。
【0014】
本願発明の防曇コーティング組成物は、さらにレベリング剤を含んでもよい。レベリング剤を含有することにより、防曇コーティング組成物の塗工性を向上することができる。さらに基材と水の接触角を低下させ、水滴を生じにくくすることができる。そのためレベリング剤を含有することにより、より安定した塗膜特性と防曇性を有する防曇皮膜を形成することができる。
【0015】
本願発明の防曇コーティング組成物において、親水性(メタ)アクリレートは、アルコキシポリエチレングリコールアクリレートまたはアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートであってもよい。親水性(メタ)アクリレートとしてアルコキシポリエチレングリコールアクリレートまたはアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートを選択することにより、防曇コーティング組成物および防曇皮膜の親水性をより適度なものとし、より安定的に防曇性を発揮することができる。
【0016】
本願発明の第2の態様にかかる防曇皮膜は、コロイダルシリカ由来のシリカと、親水性(メタ)アクリレート由来のポリ(メタ)アクリレート成分と、ポリウレタンと、ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、を含有する。このような成分を含むことにより、幅広い温度範囲において防曇性を発揮する防曇皮膜を提供することができる。またこのような防曇皮膜は防曇持続性に優れ、良好な外観を有する。
【0017】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本願発明の防曇コーティング組成物の一実施の形態について説明する。本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物は、ポリウレタン水分散体と、親水性(メタ)アクリレートと、コロイダルシリカと、ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、を含有する。
【0018】
[ポリウレタン水分散体]
ポリウレタン水分散体は、ポリウレタン樹脂が水中に分散されたディスパージョンまたはエマルジョンである。ポリウレタン水分散体に含まれるポリウレタン樹脂は単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。このような水分散型ポリウレタン樹脂エマルジョンとしては、水系ウレタン樹脂や自己架橋性水系ウレタン樹脂を水に分散させたポリウレタンディスパージョンや、自己架橋型ポリウレタン水分散体などが挙げられる。
【0019】
ポリウレタン水分散体としては、市販品を用いることもできる。このような市販品としては、例えば、スーパーフレックス(R)126(エーテル/エステル系、アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)130(エーテル系、アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)150(エーテル/エステル系、アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)300(エーテル/エステル系、弱アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)420(ポリカーボネート系/アニオンタイプ)、スーパーフレックス(R)460(ポリカーボネート系/アニオンタイプ)(いずれも第一工業製薬株式会社製);ネオレッツ(R)、ネオレッツ(R)R−972(脂肪族ポリエステル系)、ネオレッツ(R)R−9637(脂肪族ポリエステル系)、ネオレッツ(R)R−9679(脂肪族ポリエステル系)、ネオレッツ(R)R−966(脂肪族ポリエーテル系)、ネオレッツ(R)R−967(脂肪族ポリエーテル系)、ネオレッツ(R)R−9603(脂肪族ポリカーボネート系)(いずれもDSM.N.K社製);タケラック(R)W−6010(ポリカーボネート系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W−6020(エーテル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W−6061(エーテル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W−405(エステル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W−605(エステル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)W−635(カーボネート系/ノニオンタイプ)、タケラック(R)WR−640(エーテル系/ノニオンタイプ)、タケラック(R)WR−620(ノニオンタイプ)、タケラック(R)WS−5000(ポリエステル系/アニオンタイプ)、タケラック(R)WS−4000(ポリカーボネート系/アニオンタイプ)(いずれも三井化学株式会社製);アデカボンタイター(R)HUX−232(エステル系、アニオンタイプ)、アデカボンタイター(R)HUX−320(エーテル/エステル系、アニオンタイプ)、アデカボンタイター(R)HUX−350(エーテル系、アニオンタイプ)、アデカボンタイター(R)HUX−380(エステル系、アニオンタイプ)、アデカボンタイター(R)HUX−386(ポリカーボネート系、アニオンタイプ)(いずれも株式会社ADEKA製)、ビームセット(R)EM−90、ビームセット(R)EM−92(いずれも荒川化学工業株式会社製)、UCE(R)COAT 7571、UCECOAT(R)7655、UCECOAT(R)7849(いずれもダイセル・オルネクス株式会社製)などが挙げられる。
【0020】
これらのポリウレタン水分散体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本実施の形態に係る防曇コーティング組成物において、防曇コーティング組成物中のポリウレタン水分散体、親水性(メタ)アクリレート、コロイダルシリカ及びホウ素系ノニオン性界面活性剤の固形分の合計に対するポリウレタン水分散体の固形分濃度は、30質量%以上87質量%以下であるのが好ましい。防曇コーティング組成物中のポリウレタンの固形分濃度を30質量%以上87質量%以下とすることにより、塗膜の塗工性に優れ、基材への密着性および防曇性に優れた防曇皮膜をより確実に得ることができる。防曇コーティング組成物の総質量中のポリウレタンの固形分濃度は、より好ましくは34質量%以上57質量%以下、特に好ましくは38質量%以上49質量%以下である。ポリウレタン水分散体に含まれるポリウレタン樹脂の固形分濃度は特に限定されない。
【0022】
[親水性(メタ)アクリレート]
親水性(メタ)アクリレートは、分子内に親水性部位(ポリエチレングリコール部位など)を有する、水との親和性の高いアクリレートまたはメタクリレートである。防曇コーティング組成物が親水性(メタ)アクリレートを含有することで、防曇コーティング組成物および防曇皮膜に好適な親水性を付与することができる。
【0023】
ここで「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートのうちいずれか一方または両方を意味する。本願発明において使用できる親水性(メタ)アクリレートとしては、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレンポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、およびエトキシポリプロピレンポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの、置換または非置換のアルコキシ基を有するアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの、置換または非置換のフェノキシ基を有するフェノキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびポリプロピレンポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。なかでも本願発明の防曇コーティング組成物に含有される親水性(メタ)アクリレートとしては、アルコキシポリエチレングリコールアクリレートまたはアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコールアクリレートまたはメトキシポリエチレングリコールメタクリレートがより好ましい。
【0024】
親水性(メタ)アクリレートとしては、市販品を用いることもできる。そのような市販品としては、例えば、ライトエステルBC(ブトキシジエチレングリコールメタクリレート)、ライトエステル130MA(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)、ライトエステル041MA(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)、ライトエステル2EG(ジエチレングルコールジメタクリレート)、ライトエステル3EG(トリエチレングルコールジメタクリレート)、ライトエステル4EG(ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート)、ライトエステル9EG(ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート)、およびライトエステル14EG(ポリエチレングリコール#600ジメタクリレート)(いずれも共栄社化学株式会社製)、ファンクリル(R)FA−314A(ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート)、ファンクリル(R)FA−318A(ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート)、ファンクリル(R)FA−240A(ポリエチレングリコール#400ジアクリレート)、ファンクリル(R)FA−400M(100)(メトキシポリエチレングリコール#400メタクリレート)、ファンクリル(R)FA−220M(ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート)、ファンクリル(R)FA−240M(ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート)(いずれも日立化成株式会社製)などが挙げられる。
【0025】
これらの親水性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物において、上記親水性(メタ)アクリレートの含有量は特に限定されないが、例えばポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し5質量部以上であってもよい。基材への密着性および高温防曇性の観点からは、上記親水性(メタ)アクリレートの含有量は、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し20質量部以上85質量部以下であるのが好ましい。20質量部以上85質量部以下であれば、常温での基材への密着性が高く、温水や、薬品を含む水などに曝露されても防曇被膜の基材への密着性が維持され、かつ高温での防曇性に優れる点で好ましい。さらに、上記密着性、高温防曇性に加え、低温防曇性にも優れる点で、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、上記親水性(メタ)アクリレートの含有量が45質量部以上85質量部以下であるのがより好ましく、55質量部以上85質量部以下であるのがさらに好ましい。また塗膜の塗工性が良好で、上記密着性、高温防曇性に優れる防曇被膜が得られるという観点からは45質量部以上70質量部以下であるのが好ましい。
【0027】
[コロイダルシリカ]
コロイダルシリカとは、二酸化ケイ素(シリカ)またはその水和物を水などの分散媒に分散させたコロイドである。防曇コーティング組成物がコロイダルシリカを含有することにより、好適な親水性および親水持続性を有し、基材に対する密着性を備えた防曇皮膜を得ることができる。
【0028】
コロイダルシリカとしては、コロイダルシリカの一次粒子が鎖状に結合した鎖状コロイダルシリカ、コロイダルシリカの一次粒子が球状に凝集した球状コロイダルシリカ、コロイダルシリカの一次粒子が数珠状に結合した数珠状コロイダルシリカなどが挙げられる。本願発明の防曇コーティング組成物に含有されるコロイダルシリカの種類は特に限定されないが、コロイダルシリカの一次粒子が鎖状に結合した鎖状コロイダルシリカが好ましい。
【0029】
コロイダルシリカの市販品としては、例えば、扶桑化学工業株式会社製のクォートロン(R)PLシリーズ(球状コロイダルシリカ)、日産化学工業株式会社製のスノーテックス(R)シリーズ(球状コロイダルシリカ、鎖状コロイダルシリカ)、日本アエロジル株式会社製のAEROSIL(R)シリーズ(球状コロイダルシリカ)等が挙げられる。
【0030】
これらのコロイダルシリカは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物において、上記コロイダルシリカの固形分含有量は、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、10質量部以上であるのが好ましく、55質量部以上100質量部以下であるのがより好ましく、60質量部以上90質量部以下であるのがさらに好ましい。コロイダルシリカの固形分含有量が上記範囲内であれば、塗工性および塗膜の外観に優れた防曇コーティング組成物、ならびに基材への密着性、高温防曇性および低温防曇性に優れた防曇皮膜をより確実に得ることができる。
【0032】
[ホウ素系ノニオン性界面活性剤]
ホウ素系ノニオン性界面活性剤は、半極性有機ホウ素界面活性剤とも呼ばれ、ホウ酸エステルからなる。本発明者らは、コロイダルシリカとホウ素系ノニオン性界面活性剤を含有することにより、コロイダルシリカが有する特性をより高め、優れた防曇皮膜をより確実に得ることができることを見出した。これはホウ素系ノニオン性界面活性剤を含有することによりコロイダルシリカの濡れ性およびぬれ接触角を下げる効果があるためと推測される。すなわち、ホウ素系ノニオン性界面活性剤は、コロイダルシリカの特性をより向上させる助剤として機能する。したがって、コロイダルシリカとホウ素系ノニオン性界面活性剤とを組み合わせることで、より安定した品質の防曇コーティング組成物を得ることができる。
【0033】
ホウ素系ノニオン性界面活性剤は、グリセリンホウ酸エステル(グリセリンボレート)であるのが好ましい。ホウ素系ノニオン性界面活性剤の市販品としては、ハイボロン(R)LB120(アシルポリオキシエチレングリセリンエーテルボレート)などのハイボロン(R)シリーズ(株式会社ボロンインターナショナル製)があげられる。これらのホウ素系ノニオン性界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物において、上記ホウ素系ノニオン性界面活性剤の含有量は、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、固形分として0.2質量部以上であるのが好ましく、0.7質量部以上であるのがより好ましい。ホウ素系ノニオン性界面活性剤の含有量が上記範囲内であれば、塗工性に優れた防曇コーティング組成物、ならびに塗膜の外観、基材への密着性、高温防曇性および低温防曇性に優れた防曇皮膜をより確実に得ることができる。上限は特に限定されないが、コスト面などを考慮して、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。またホウ素系ノニオン性界面活性剤には、コロイダルシリカの特性を向上させる効果があることから、コロイダルシリカの含有量の増減に合わせてホウ素系ノニオン性界面活性剤の量を調整するのが好ましい。
【0035】
[ポリエーテル変性シラン]
本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物は、さらにポリエーテル変性シランを含んでもよい。ポリエーテル変性シランは、防曇皮膜の親水性を高め、防曇コーティング組成物に含まれる各成分の相溶性を高めるのに寄与する。さらにポリエーテル変性シランを含有することで、防曇皮膜の基材に対する密着性がより安定する。ポリエーテル変性シランとしては、ポリエーテル変性(アルコキシ)シランが好ましい。またポリエーテル変性シランの市販品としては、X12―641K(短鎖ポリエーテル変性(アルコキシ)シラン、信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0036】
本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物は、さらにレベリング剤を含んでもよい。レベリング剤を含有することにより、防曇コーティング組成物の塗工性を向上することができる。さらに基材と水の接触角を低下させ、水滴を生じにくくすることができる。そのためレベリング剤を含有することにより、より安定した塗膜特性と防曇性を有する防曇皮膜を形成することができる。
【0037】
上記レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、アクリル系レベリング剤、ビニル系レベリング剤、並びにフッ素系とアクリル系が複合化されたレベリング剤などが挙げられる。
【0038】
シリコーン系レベリング剤とは、ポリシロキサン骨格を有する化合物を含むレベリング剤である。上記シリコーン系レベリング剤としては、公知のシリコーン系レベリング剤を使用できる。特に限定されないが、例えば、商品名BYK−302、BYK−307、BYK−325BYK(R)−331、BYK−333、BYK(R)−341、BYK(R)−345/346、BYK(R)−347、BYK(R)−348、BYK(R)−349、BYK(R)−378、BYK(R)−UV3500(いずれもビックケミー・ジャパン株式会社製)、ポリフローKL−401、ポリフローKL−402、ポリフローKL−403、ポリフローKL−404(いずれも共栄社化学株式会社製)、KP−104、KP−110(いずれも信越化学工業株式会社製)、14 ADDITIVE、51 ADDITIVE、52 ADDITIVE、55 ADDITIVE、67 ADDITIVE、500W ADDITIVE、501W ADDITIVE、502W ADDITIVE(いずれも東レ・ダウコーニング株式会社製)、シルフェイス(R)SAG002、シルフェイス(R)SAG503A(いずれも日信化学工業株式会社製)などの市販品が挙げられる。
【0039】
フッ素系レベリング剤としては、ポリオキシアルキレンとフルオロカーボンとの共重合体などを用いることができる。フッ素系レベリング剤の市販品としては、DIC株式会社製のMEGAFAC(R)シリーズ、住友スリーエム株式会社製のFCシリーズ、フタージェント(R)100、フタージェント(R)150、フタージェント(R)250、フタージェント(R)212M、フタージェント(R)251(いずれも株式会社ネオス製)などを挙げられる。
【0040】
アクリル系レベリング剤の市販品としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製の、BYK(R)−381、BYK(R)−3560、BYK(R)−UV3500、BYK(R)−UV3505、BYK(R)−UV3530、BYK(R)−UV3535、BYK(R)−UV3575、BYK(R)−UV3576などが挙げられる。
【0041】
レベリング剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物がレベリング剤を含有する場合、上記レベリング剤の含有量は、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、固形分換算で1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましい。本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物がポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対しレベリング剤を固形分換算で1質量部以上含有することで、より塗工性が良好で、低温から高温にいたるまでの幅広い温度範囲において防曇性を発揮することができる。上限は特に限定されないが、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、好ましくは固形分換算で30質量部以下である。
【0043】
本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物は、さらに重合開始剤を含んでもよい。使用できる重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤等が挙げられ、なかでも防曇コーティング組成物を塗布した後の硬化が容易に行える点で光重合開始剤が好ましい。さらに光重合開始剤の中でも紫外線により硬化する光重合開始剤が好ましい。そのような光重合開始剤の例としては、イルガキュア(R)シリーズ(BASF社製)が挙げられる。重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本実施の形態における防曇コーティング組成物は、発明の効果を損なわない範囲で他の添加成分を含んでいてもよい。例えば上記成分に加えて、造膜助剤、抑泡剤、安定剤、充填剤、接着促進剤、硬化剤、硬化促進剤、可塑剤、揺変剤、顔料、酸化防止剤等の公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0045】
[防曇コーティング組成物]
本実施の形態にかかる防曇コーティング組成物は、上記ポリウレタン水分散体と、親水性(メタ)アクリレートと、コロイダルシリカと、ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、任意成分であるポリエーテル変性シランと、任意成分であるレベリング剤と、その他の必要な成分とを撹拌機内に投入し、撹拌することにより調製することができる。各成分の投入順序は特に限定されず、技術常識に照らして当業者が任意に調整できる。
【0046】
本実施の形態において、好ましい防曇コーティング組成物は、ポリウレタン水分散体と、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上85質量部以下、さらに好ましくは45質量部以上85質量部以下、特に好ましくは55質量部以上85質量部以下または45質量部以上70質量部以下の親水性(メタ)アクリレートと、固形分換算で好ましくは10質量部以上、より好ましくは55質量部以上100質量部以下、さらに好ましくは60質量部以上90質量部以下のコロイダルシリカと、固形分換算で好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上のホウ素系ノニオン性界面活性剤と、を含有する。
【0047】
本実施の形態において、別の好ましい防曇コーティング組成物は、ポリウレタン水分散体と、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上85質量部以下、さらに好ましくは45質量部以上85質量部以下、特に好ましくは55質量部以上85質量部以下または45質量部以上70質量部以下の親水性(メタ)アクリレートと、固形分換算で好ましくは10質量部以上、より好ましくは55質量部以上100質量部以下、さらに好ましくは60質量部以上90質量部以下のコロイダルシリカと、固形分換算で好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上のホウ素系ノニオン性界面活性剤と、固形分換算で好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは2質量部以上30質量部以下のレベリング剤と、を含有する。
【0048】
[防曇皮膜]
本実施の形態にかかる防曇皮膜は、コロイダルシリカ由来のシリカと、親水性(メタ)アクリレート由来のポリ(メタ)アクリレート成分と、ポリウレタンと、ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、を含有する。このような防曇皮膜は、幅広い温度環境下で防曇効果を発揮でき、外観、防曇効果の持続性、および透明性に優れる。また上記防曇皮膜は、ポリエーテル変性シランまたはレベリング剤をさらに含有していてもよい。
【0049】
本実施の形態にかかる防曇皮膜は、好ましくは上述の防曇コーティング組成物、すなわち、ポリウレタン水分散体と、親水性(メタ)アクリレートと、コロイダルシリカと、ホウ素系ノニオン性界面活性剤と、を含有する防曇コーティング組成物から形成される。具体的には、上述の防曇コーティング組成物を基材に塗布し乾燥させることにより形成できる。塗布後、硬化反応させながら皮膜を形成してもよい。例えば防曇コーティング組成物が光重合開始剤を含有する場合には、塗布後、紫外線などの光を照射することにより各成分の硬化を促進しながら防曇皮膜を形成することもできる。
【0050】
上記防曇コーティング組成物を塗布する上記基材としては、ガラスや樹脂製(プラスチック製)のシート又はフィルムなどの透明な基材が好ましい。なかでも樹脂との相性がよいことから、基材としては樹脂製のシート又はフィルム、特にポリカーボネートやポリ(メタ)アクリレートのシート又はフィルムが好ましい。
【0051】
本実施の形態にかかる防曇皮膜は、高温防曇性および低温性防曇性を有する。そのため、幅広い温度環境下で防曇効果を発揮できる。さらに基材への密着性が高く、防曇性を付与する物質の流出が抑制されていることから防曇効果の持続性に優れる。また透明性にも優れることから、基材の外観や基材を通した外景の像の視認性を損なわない皮膜として使用することができる。
【0052】
[用途]
本実施の形態にかかる防曇コーティング剤および防曇皮膜は、幅広い温度環境下で防曇効果を発揮でき、防曇効果の持続性、および透明性に優れる。そのため、プラスチック成形品、プラスチックフィルム、無機ガラスレンズ、建造物の窓、浴室の窓、鏡、自動車又は列車、航空機、船舶などのような乗り物の窓、スキーや水泳などに用いるゴーグル、面体、オートバイヘルメットなどに用いるシールドなどの基材に対する防曇用材料として使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下において、実施例を参照して本発明をより具体的に説明する。本発明の範囲は、これら実施例の記載によって限定して解釈されるものではない。
【0054】
以下の実施例・比較例において配合した成分は次のとおりである。
1)ポリウレタン水分散体
ポリウレタン水分散体(A)
タケラック(R)WR‐640(ポリエーテル系ポリウレタンアクリレートディスパージョン、固形分濃度40質量%、三井化学株式会社製)
ポリウレタン水分散体(B)
タケラック(R)WR‐620(ポリウレタンアクリレートディスパージョン、固形分濃度45質量%、三井化学株式会社製)
ポリウレタン水分散体(C)
タケラック(R)WS‐5000(ポリエステル系ポリウレタンディスパージョン、固形分濃度30質量%、三井化学株式会社製)
2)親水性(メタ)アクリレート
ライトエステル041MA(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、共栄社化学株式会社製)
3)コロイダルシリカ
スノーテックス(R)UP(鎖状コロイダルシリカ/固形分濃度20質量%、日産化学工業株式会社製)
4)ホウ素系ノニオン性界面活性剤
ハイボロン(R)LB120(アシルポリオキシエチレングリセリンエーテルボレート/固形分濃度20質量%、株式会社ボロンインターナショナル製)
5)ポリエーテル変性シラン
X12‐641K(短鎖ポリエーテル変性(アルコキシ)シラン、信越化学工業株式会社製)
6)レベリング剤
DOW CORNING(R) 67 ADDITIVE(3−(ポリオキシエチレン)プロピルヘプタメチルトリシロキサン、固形分濃度70〜80質量%、東レ・ダウコーニング株式会社製)
7)その他の添加剤
(造膜助剤A)
ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ダウ・ケミカル・カンパニー社製)
(造膜助剤B)
ダワノール(R)PnP(プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ダウ・ケミカル・カンパニー社製)
(抑泡剤)
SNデフォーマー777(疎水性シリカ系抑泡剤/サンノプコ株式会社製)
(光重合開始剤)
イルガキュア(R)2959(2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−メチル−1−プロパノン、BASF社製)
【0055】
[防曇コーティング組成物の調製および防曇皮膜の形成]
所定量の上述の各種成分を混練機に投入し、混練することにより防曇コーティング組成物を得た。得られた防曇コーティング組成物を、乾燥後の膜厚が約10μmになるように、基材であるポリカーボネートの透明なシート上に塗布し、80℃で10分間加熱乾燥して塗膜を形成した。出力密度120W/cmの高圧水銀灯を用い、光源下12cmの位置で形成された塗膜に、積算光量で1,000mJ/cmの紫外線を照射することにより塗膜を硬化させ、防曇皮膜を形成した。
【0056】
[防曇皮膜の評価]
得られた防曇皮膜を以下の評価項目に基づいて評価した。全評価項目について、ランクを、順にS、A、B、C、D、Fの6段階で評価した。ランクS〜Dを許容範囲とする。ランクFは要求される品質を満たさず不合格であることを意味する。
【0057】
(1)塗膜の外観評価
塗膜の外観を目視にて評価した。評価の際には、透明性、ヘイズの有無を調べた。無色透明なものをランクSとした。またヘイズが観察される皮膜のうち、ヘイズの度合いに基づいて許容レベル以上のものをヘイズが低い方から順にランクA〜Dとした。また不透明であり塗膜として許容できない外観を有するものをランクFとした。
【0058】
(2)密着性の評価
JIS K 5400に準拠したクロスカット試験により防曇皮膜の密着性を評価した。上述の方法で形成した防曇皮膜を次の条件1〜5の下で処理した。
条件1:(常態)室温(約20〜25℃)に静置
条件2:80℃の温水に12時間浸漬
条件3:湯中で2時間煮沸
条件4:室温(約20〜25℃)にて、1%塩素水に30分間浸漬
条件5:室温(約20〜25℃)にて、1%塩素水に120分間浸漬
【0059】
未処理(条件1)または処理後(条件2〜5)のサンプルを素地上に置き、カッターナイフを用いて、防曇皮膜上に素地に達する11本の切り傷をつけ100個の碁盤目を形成した。形成した碁盤目の部分にテープを強く圧着させた。その後、テープの端を、素地の表面に対して45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の状態を目視で観察した。なお処理後(条件2〜5)のサンプルは試験前に浸漬液を十分洗浄し、室温にて12時間以上乾燥した。防曇皮膜の密着性は以下の基準(ランク)にしたがって評価した。
S:どの格子の目も剥がれない
A:剥がれている面積が全体の1%未満
B:剥がれている面積が全体の1%以上5%未満
C:剥がれている面積が全体の5%以上10%未満
D:剥がれている面積が全体の10%以上50%未満
F:剥がれている面積が全体の50%以上
【0060】
(3)高温防曇性の評価
上面が開放された容器を準備し、80℃±5の温水を入れた。評価対象の複合シート(シート状の基材の表面に防曇皮膜が形成されたもの)を準備し、容器の開放された面を、防曇皮膜側を下にしてその複合シートで覆った。このとき防曇皮膜の面と温水面の距離は100mm±5mmとした。そのまま静置し、2分経過した後のフィルム表面変化を観察した。高温防曇性を以下の基準により目視にて評価した。
S:曇らない、A:わずかに曇る、B:中程度の曇り有り、C:許容レベルの曇り有り、F:曇りにより完全に不透明
【0061】
(4)低温防曇性の評価
評価対象の複合シートを−20℃の環境に30分置いた後、室温20℃±5の環境に取り出した。室温環境に取り出してから、60秒経過した後の防曇皮膜の表面の曇りを観察した。低温防曇性を以下の基準により目視にて評価した。
S:曇らない、A:わずかに曇る、B:許容レベルの曇り有り、F:曇りにより完全に不透明
【0062】
(5)塗工性の評価
上述の方法により防曇皮膜の形成する際の、塗布時の塗布のしやすさおよび硬化前の状態における塗膜表面の外観を目視で観察した。塗布のしやすさおよび塗膜表面の外観ともに問題ないものをSランクとした。また許容範囲のうち、欠陥の発生頻度が少ないものから順にランクA、B、C、Dとした。塗布時に塗布がしにくいなどの問題がある場合、または塗膜表面の欠陥が許容範囲を超える程度に多い場合、ランクFとした。
【0063】
(実施例1〜3および比較例1〜3)
表1の配合に示す各成分を含む防曇コーティング組成物および防曇皮膜を形成した。表1に示す例のうち実施例1〜実施例3は、本発明の実施の形態にかかる防曇コーティング組成物および防曇皮膜である。実施例3は、実施例1の組成にレベリング剤5質量部を加えたもの、あるいは実施例2の組成にポリエーテル変性シラン2質量部を加えたものである。比較例1は、親水性メタクリレートを含有しない以外は実施例3と同じ組成である。比較例2は、コロイダルシリカおよびホウ素系ノニオン性界面活性剤を含有しない以外は実施例3と同じ組成である。比較例3は、ホウ素系ノニオン性界面活性剤を含有しない以外は実施例3と同じ組成である。評価結果を表1に示す。なお、下記表1〜6において、表中の数字は、ポリウレタン水分散体(A)〜(C)の合計量を100質量部としたときの各成分の質量部数を表す。ポリウレタン水分散体(A)〜(C)、コロイダルシリカ、ホウ素系ノニオン性界面活性剤、およびレベリング剤の部数は固形分濃度ではなく、溶媒などを含めた正味の量である。また「SC」は固形分濃度(単位:質量%)を表す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の評価結果からわかるように、実施例1の防曇コーティング組成物および防曇皮膜は塗膜外観、5つの条件下での基材への密着性、低温防曇性に関する特性を評価した結果いずれもSランクであった。またそれ以外の評価項目も全て許容範囲内であった。
【0066】
さらに実施例2および実施例3に示す防曇コーティング組成物および防曇皮膜は、全ての評価結果がSランクであった。すなわち実施例2および実施例3の防曇コーティング組成物および防曇皮膜は、塗膜外観に優れ、常温での静置後、温水への浸漬後、および塩素水への浸漬後の全ての条件において基材に対する高い密着性を有し、幅広い温度環境下で防曇効果を発揮できることがわかった。
【0067】
これに対し、親水性メタクリレートを含有しない比較例1の防曇コーティング組成物および防曇皮膜においては、温水への浸漬後および塩素水への浸漬後において、浸漬前と比較して、基材に対する防曇皮膜の密着性がFランクにまで低下することがわかった。また低温防曇性も不充分であった。この結果から、親水性メタクリレートは、温水および塩素水に対する耐性の付与、および低温防曇性の向上に寄与していることがわかった。
【0068】
コロイダルシリカおよびホウ素系ノニオン性界面活性剤を含有しない比較例2の防曇コーティング組成物および防曇皮膜においては、常温での静置後、温水への浸漬後、および塩素水への浸漬後の全ての条件において基材に対する防曇皮膜の密着性が不充分であった。
【0069】
ホウ素系ノニオン性界面活性剤を含有しない比較例3の防曇コーティング組成物および防曇皮膜においては、温水に浸漬すると、基材に対する防曇皮膜の密着性が低下することが明らかとなった。特に湯中で煮沸した場合に基材に対する密着性が大きく低下した。この比較例2および比較例3の結果から、コロイダルシリカは基材に対する防曇皮膜の密着性の向上に寄与していることがわかった。またホウ素系ノニオン性界面活性剤は、コロイダルシリカととともに、温水に対する耐性を付与し、温水への浸漬後における基材への密着性の維持に寄与していることがわかった。
【0070】
以上の結果から、本願発明にかかる防曇コーティング組成物および防曇皮膜は、塗膜外観に優れ、基材に対する高い密着性を有し、幅広い温度環境下で防曇効果を発揮できることがわかった。
【0071】
[親水性(メタ)アクリレートの配合量と物性との関係の評価]
次に親水性メタクリレートの配合量を変更し、防曇コーティング組成物および防曇皮膜の物性を評価した。以下の基本配合Aに含まれる成分と共に、表2に示す配合量の親水性(メタ)アクリレート(ライトエステル041MA)とを混練機で混練し、防曇コーティング組成物を作成した。その後、上述の方法に従ってポリカーボネートの基材上に防曇皮膜を形成し、各評価項目について評価を行った。結果を表2に示す。なお下記表2〜6中の「PUD」とはポリウレタン水分散体を意味する。
【0072】
<基本配合A>
タケラック(R)WR‐640 70質量部
タケラック(R)WR‐620 16質量部
タケラック(R)WS‐5000 14質量部
[タケラック(R)WR‐640、タケラック(R)WR‐620、およびタケラック(R)WS‐5000の合計が100質量部]
スノーテックス(R)UP 120質量部
ハイボロン(R)LB120(濃度20%) 2質量部
X12‐641K 2質量部
DOW CORNING(R) 67 ADDITIVE 5質量部
ブチルカルビトール 8質量部
ダワノール(R)PnP 4質量部
SNデフォーマー777 0.05質量部
イルガキュア(R)2959 3質量部
基本配合Aに含まれる全成分の合計:244.05質量部
【0073】
【表2】

※実施例8は、表1の実施例3に相当
【0074】
表2の結果から、防曇コーティング組成物が親水性(メタ)アクリレートを含まない場合(比較例1)、温水または1%塩素水に浸漬することにより基材に対する密着性が低下した。また低温防曇性もFランクであった。これに対し、防曇コーティング組成物が親水性(メタ)アクリレートを含有することにより、親水性(メタ)アクリレートを含まない比較例1と比べて各物性が向上することが明らかとなった(実施例4〜11)。
【0075】
特に、表2に示すように、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対する親水性(メタ)アクリレートの量は5質量部以上であればS〜Dランクの許容範囲内の評価が得られた。上記親水性(メタ)アクリレートの含有量が20質量部以上85質量部以下の範囲であれば、基材に対する密着性の評価結果が全てSランクであった。すなわち、上記範囲においては、常温での静置後、温水への浸漬後、および塩素水への浸漬後の全ての条件において基材に対する高い密着性を示すことが明らかとなった。またこの範囲においては高温での防曇性に優れる防曇皮膜が得られた。また上記親水性(メタ)アクリレートの含有量が45質量部以上85質量部以下であれば、優れた基材への密着性および高温防曇性を有し、かつ低温防曇性にも優れる防曇被膜が得られた。さらに55質量部以上85質量部以下であれば低温防曇性に優れていた。また上記親水性(メタ)アクリレートの含有量が45質量部以上70質量部以下であれば、塗膜の塗工性が良好で、かつ基材への密着性および高温防曇性に優れる防曇皮膜が得られた。さらに、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対する親水性(メタ)アクリレートの量が66質量部である実施例8(表1の実施例3に相当)では、塗工性、塗膜外観、基材への密着性、高温防曇性、低温防曇性の全ての項目においてSランクである優れた防曇コーティング組成物および防曇皮膜を得ることができた。
【0076】
[コロイダルシリカの配合量と物性との関係の評価]
コロイダルシリカの配合量を変更し、防曇コーティング組成物および防曇皮膜の物性を評価した。以下の基本配合Bに含まれる成分と共に、表3に示す配合量のコロイダルシリカ(スノーテックス(R)UP)およびホウ素系ノニオン性界面活性剤(ハイボロン(R)LB120)とを混練機で混練し、防曇コーティング組成物を作成した。配合は、コロイダルシリカの助剤であるホウ素系ノニオン性界面活性剤と、コロイダルシリカの量の比が一定になるように変更した。その後、上述の方法に従ってポリカーボネートの基材上に防曇皮膜を形成し、各評価項目について評価を行った。結果を表3に示す。
【0077】
<基本配合B>
タケラック(R)WR‐640 70質量部
タケラック(R)WR‐620 16質量部
タケラック(R)WS‐5000 14質量部
[タケラック(R)WR‐640、タケラック(R)WR‐620、およびタケラック(R)WS‐5000の合計が100質量部]
ライトエステル041MA 26質量部
X12‐641K 2質量部
DOW CORNING(R) 67 ADDITIVE 5質量部
ブチルカルビトール 8質量部
ダワノール(R)PnP 4質量部
SNデフォーマー777 0.05質量部
イルガキュア(R)2959 3質量部
基本配合Bに含まれる全成分の合計:148.05質量部
【0078】
【表3】

※実施例15は、表1の実施例3に相当
【0079】
表3の結果から、防曇コーティング組成物がコロイダルシリカを含まない場合(比較例2)、基材に対する密着性に劣ることがわかる。これに対し、コロイダルシリカを含有する防曇コーティング組成物は、比較例2と比べて基材に対する密着性が向上することが明らかとなった(実施例12〜17)。ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対するコロイダルシリカ(固形分)の量が概ね10質量部以上含有することにより基材に対する密着性が安定した防曇皮膜を得ることができ、概ね55質量部以上100質量部以下の範囲においては塗膜外観に優れた防曇皮膜を得ることができ、さらに概ね60質量部以上90質量部以下の範囲においては、評価結果が全てSランクの、優れた特性を示す防曇皮膜が得られることが明らかとなった。
【0080】
[ホウ素系ノニオン性界面活性剤の配合量と物性の関係の評価]
ホウ素系ノニオン性界面活性剤の配合量を変更し、防曇コーティング組成物および防曇皮膜の物性を評価した。以下の基本配合Cに含まれる成分と、表4に示す配合量のホウ素系ノニオン性界面活性剤(ハイボロン(R)LB120(固形分濃度20%))とを混練機で混練し、防曇コーティング組成物を作成した。その後、上述の方法に従ってポリカーボネートの基材上に防曇皮膜を形成し、各評価項目について評価を行った。結果を表4に示す。
【0081】
<基本配合C>
タケラック(R)WR‐640 70質量部
タケラック(R)WR‐620 16質量部
タケラック(R)WS‐5000 14質量部
[タケラック(R)WR‐640、タケラック(R)WR‐620、およびタケラック(R)WS‐5000の合計が100質量部]
ライトエステル041MA 26質量部
スノーテックス(R)UP 120質量部
X12‐641K 2質量部
DOW CORNING(R) 67 ADDITIVE 5質量部
ブチルカルビトール 8質量部
ダワノール(R)PnP 4質量部
SNデフォーマー777 0.05質量部
イルガキュア(R)2959 3質量部
基本配合Cに含まれる全成分の合計:268.05質量部
【0082】
【表4】
※実施例21は、表1の実施例3に相当
【0083】
表4の結果から、ホウ素系ノニオン性界面活性剤を含まない場合、温水に浸漬後、特に湯中で2時間防曇皮膜を煮沸した後の基材に対する防曇皮膜の密着性が、常温で静置した状態と比較して低下することがわかる。ホウ素系ノニオン性界面活性剤を含有することで、湯中で2時間防曇皮膜を煮沸した後の基材に対する防曇皮膜の密着性を許容範囲に維持できる。中でも、湯中で2時間煮沸した後も、基材に対する防曇皮膜の密着性が充分に維持される観点から、ポリウレタン水分散体中の固形分100質量部に対しホウ素系ノニオン性界面活性剤を固形分として0.8質量部以上含有するのが好ましい(実施例20〜23)。
【0084】
[レベリング剤の配合量と物性の関係]
レベリング剤の配合量を変更し、防曇コーティング組成物および防曇皮膜の物性を評価した。以下の基本配合Dに含まれる成分と共に、表5に示す配合量のレベリング剤(DOW CORNING(R) 67 ADDITIVE)とを混練機で混練し、防曇コーティング組成物を作成した。その後、上述の方法に従ってポリカーボネートの基材上に防曇皮膜を形成し、各評価項目について評価を行った。結果を表5に示す。
【0085】
<基本配合D>
タケラック(R)WR‐640 70質量部
タケラック(R)WR‐620 16質量部
タケラック(R)WS‐5000 14質量部
[タケラック(R)WR‐640、タケラック(R)WR‐620、およびタケラック(R)WS‐5000の合計が100質量部]
ライトエステル041MA 26質量部
スノーテックス(R)UP 120質量部
ハイボロン(R)LB120(濃度20%) 2質量部
X12‐641K 2質量部
ブチルカルビトール 8質量部
ダワノール(R)PnP 4質量部
SNデフォーマー777 0.05質量部
イルガキュア(R)2959 3質量部
基本配合Eに含まれる全成分の合計:265.05質量部
【0086】
【表5】

※1 実施例24は、表1の実施例1に相当
※2 実施例27は、表1の実施例3に相当
【0087】
表5の結果から、レベリング剤を含有しない場合(実施例24)の防曇コーティング組成物および防曇皮膜においては、全ての項目において許容範囲内であるが、塗工性と高温防曇性は改善の余地があった。これに対し、レベリング剤を含有することで、全ての物性においてSランクの防曇コーティング組成物および防曇皮膜を得ることができた(実施例25〜29)。すなわち、レベリング剤を含有していなくても許容範囲の物性を備えた防曇コーティング組成物および防曇皮膜が得られるが、より安定した物性が得られる点でレベリング剤を含有するのが好ましいことが明らかとなった。
【0088】
このように、上記評価結果から、本実施形態の防曇コーティング組成物は、塗工性に優れた防曇コーティング組成物、ならびに幅広い温度環境下で防曇効果を発揮でき、塗膜の外観、基材に対する防曇皮膜の密着性、および透明性に優れた防曇皮膜を提供することが可能となることが明らかとなった。
【0089】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本願の防曇コーティング組成物は、幅広い温度環境下で防曇効果が求められる技術分野において、特に有利に適用され得る。