特許第6836799号(P6836799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836799
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】イモグサレ線虫防除剤および防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/22 20200101AFI20210222BHJP
   A01P 5/00 20060101ALI20210222BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20210222BHJP
【FI】
   A01N63/22
   A01P5/00
   !C12N1/20 E
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-150534(P2018-150534)
(22)【出願日】2018年8月9日
(65)【公開番号】特開2020-26393(P2020-26393A)
(43)【公開日】2020年2月20日
【審査請求日】2019年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】518285430
【氏名又は名称】株式会社浜口微生物研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】山中 則昭
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−262277(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/161160(WO,A1)
【文献】 特表2014−507130(JP,A)
【文献】 特開平06−157226(JP,A)
【文献】 特開昭61−205202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
CAplus(STN)
BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス属OYK−01−600菌株(FERM BP−6394)、OYK−03−600菌株(FERM BP−6395)およびOYK−04−600菌株(FERM BP−6396)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の微生物を含むことを特徴とするイモグサレ線虫防除剤。
【請求項2】
農作物を防除の対象として使用する、請求項1に記載のイモグサレ線虫防除剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のイモグサレ線虫防除剤を用いて処理することを含むイモグサレ線虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イモグサレ線虫を防除するための防除剤、およびこの防除剤を用いてイモグサレ線虫を防除する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、イモグサレ線虫による農作物への被害が大きな問題となっている。イモグサレ線虫は土壌中に存在しており、本来はジャガイモに対する害虫である。特に近年では、ニンニクに寄生するイモグサレ線虫も発見されており、ニンニク鱗球中に寄生したイモグサレ線虫によって農作物の褐変や腐敗を招いている。
【0003】
イモグサレ線虫を防除するための農薬については、これまでにも様々提案されている。しかしながら、これまでに提案されている農薬は、毒性が高いものが多く、その取扱い性の点で問題があるばかりでなく、農作物への残留農薬による人体への影響の点で問題がある。
【0004】
また農作物の収穫時には、イモグサレ線虫の寄生数が少ない場合であっても、収穫後に著しく増殖し、収穫物の褐変や腐敗の発生を招く場合もある。
【0005】
こうした状況の下、近年では、微生物を利用した所謂生物農薬が注目を集めている。このような生物農薬は、残留農薬による人体への影響がないことが期待される。また生物農薬は、人体に対する安全性が確保されている必要がある。しかしながら、イモグサレ線虫を防除するための有効で安全な生物農薬については実現できていないのが実情である。
【0006】
本発明者らは、かねてより新規微生物の開発について研究を進めており、その研究の一環として、「バチルス属OYK−01−600菌株(FERM BP−6394)、OYK−03−600菌株(FERM BP−6395)およびOYK−04−600菌株(FERM BP−6396)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の微生物」を見出している。またこの微生物を、排水処理剤や脱臭剤に利用する技術(特許文献1)や、微生物を増殖させるときに発生する代謝エネルギーを、堆肥を製造するときの加熱エネルギーに利用する技術(特許文献2)なども提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4202597号公報
【特許文献2】特許第4191789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、イモグサレ線虫の寄生若しくは増殖を防除できるイモグサレ線虫防除剤、およびこのようなイモグサレ線虫防除剤を用いてイモグサレ線虫を効果的に防除するための防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記微生物を、イモグサレ線虫を防除するための生物農薬として有効に利用できないかという観点から鋭意検討した。その結果、バチルス属OYK−01−600菌株(FERM BP−6394)、OYK−03−600菌株(FERM BP−6395)およびOYK−04−600菌株(FERM BP−6396)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の微生物を含む生物農薬では、イモグサレ線虫の防除に極めて大きな効果を発揮し得ることを見出し、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の一局面は、バチルス属OYK−01−600菌株(FERM BP−6394)、OYK−03−600菌株(FERM BP−6395)およびOYK−04−600菌株(FERM BP−6396)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の微生物を含むことを特徴とする。以下では、上記のような微生物の夫々を、または総括して「OYK菌」と呼ぶことがある。
【0011】
一方、上記課題を解決し得た本発明の防除方法とは、上記のようなイモグサレ線虫防除剤を用いて処理することを含む点に要旨を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イモグサレ線虫の寄生若しくは増殖を防除できるイモグサレ線虫防除剤、およびこのようなイモグサレ線虫防除剤を用いてイモグサレ線虫を効果的に防除できる防除方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、イモグサレ線虫を無処理の状態で24時間経過したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図2図2は、イモグサレ線虫を無処理の状態で140時間経過したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図3図3は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で24時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用写真である。
図4図4は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で140時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図5図5は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で24時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図6図6は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で140時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図7図7は、イモグサレ線虫を無処理の状態で30時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図8図8は、イモグサレ線虫を無処理の状態で30時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図9図9は、イモグサレ線虫に対してOYK菌を接触させた状態で30時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図10図10は、イモグサレ線虫に対してOYK菌を接触させた状態で30時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態のイモグサレ線虫防除剤は、バチルス属OYK−01−600菌株(FERM BP−6394)、OYK−03−600菌株(FERM BP−6395)およびOYK−04−600菌株(FERM BP−6396)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の微生物を含む。
【0015】
本実施形態のイモグサレ線虫防除剤で用いるOYK菌は、バチルス属(Bacillus属)に属するズブチルス種(subtilis種)の類縁菌であり、標準枯草菌(IFO3134株)と同様にグラム陽性菌であるが、標準枯草菌に比較して菌体体積が4倍以上あり、タンパク質を消化してよく繁殖する。例えば、37℃におけるニュートリエントプロセス浸透培養では培養初期に殆ど誘導期がないため、103個/mLの初期菌数が4時間後に107個/mL以上に増加する繁殖力を有している。またOYK菌は、溶血素を産生しない特徴を有しており、人体に取り込んでも何ら問題はない。なおOYK菌は、経済産業省工業技術院生命工学技術研究所特許微生物寄託センターに国際寄託されている。
【0016】
本実施形態のイモグサレ線虫防除剤に用いられるOYK菌は、寒天などの凝固成分を含む固形培地、または凝固成分を含まない液体培地のいずれを用いても調製することができる。通常は、OYK菌の菌株を培地に接種して培養する前培養と、その後OYK菌を増殖させる本培養を含む。これらの培養で用いる培地の成分としては、炭素源(グルコースなどの糖類)、窒素源(肉エキス、ペプトンなど)、塩類(塩化ナトリウムなど)の他、タンパク質源(ゼラチンなど)などを含む。
【0017】
OYK菌は、胞子化したままの状態で、または菌体だけを分離精製した状態で、イモグサレ線虫防除剤として用いることができるが、OYK菌の増殖速度を速やかに上げ、しかも取扱い易い形態とするために、OYK菌の菌体を富栄養源に包囲、付着或いは混入させた菌体製剤として用いても良い。
【0018】
上記富栄養源としては、その主成分がタンパク質であることが好ましい。このようなタンパク質としては、大豆、脱脂大豆、おからなどの大豆加工品や大豆滓、大豆を絞った豆乳、これを濃縮したものやフリーズドライ化したもの、大豆を粉末化して水などの溶媒に分散或いは溶解した混合物、穀類に含まれるグルテン、乳に含まれるカゼイン、コラーゲンを熱湯処理したゼラチン、魚粉から得られる魚タンパク質などが挙げられる。
【0019】
またOYK菌の菌体を、固体担体(粘土類、タルク類など)や液体担体(水、植物油など)に担持若しくは分散させ、また必要によって界面活性剤や保水剤などの補助剤を含有
させ、粉剤、顆粒剤、水和物などの固体製剤や、乳剤、フレアブル剤(水などに分散させた製剤)などの液体製剤に製剤化した状態で使用することもできる。
【0020】
上記界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル類、アルキルアリールエーテル類、ポリオキシエステル脂肪酸エステル類、多価アルコールエステル類、糖アルコール誘導体などが挙げられる。このような界面活性剤を含有させることによって、イモグサレ線虫防除剤の水溶液中での分散状態を良好にできる。
【0021】
また上記保水剤としては、例えばカラギーナンやカルボキシメチルセルロースなどの多糖類、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどの動物性高分子、グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類などが挙げられる。このような保水剤を含有させることによって、イモグサレ線虫防除剤自体の保水状態を良好にできるとともに、農作物を成育するときの土壌の保水状態をも良好に保つことができる。
【0022】
製剤化したイモグサレ線虫防除剤には、製剤1mLあたりOYK菌の菌体を、生菌濃度で106〜1010cfu(colony forming unit:コロニー形成単位)で含有することが好ましい。
【0023】
本実施形態のイモグサレ線虫防除剤を用いて処理するに際しては、上記各種製剤化したイモグサレ線虫防除剤を水溶液中に分散させ、これを農作物の生育時に苗木の周囲に散布すれば良い。また収穫後の農作物に散布しても良い。前者の処理では、イモグサレ線虫が農作物に寄生することが防止され、後者の処理では収穫後の農作物に寄生しているイモグサレ線虫の増殖が防止され、或いは防除できる。いずれの処理によっても、イモグサレ線虫の防除効果が発揮される。これらの処理は併用してもよいことは勿論である。なお、水溶液中に分散させるときの希釈率は、上記各種形態のイモグサレ線虫防除剤の1000倍希釈程度まで有効である。
【0024】
本実施形態のイモグサレ線虫防除剤は、ジャガイモやニンニクに限らず、玉ねぎ、サツマイモ、きゅうり等、イモグサレ線虫による被害が予想される様々な農作物において、イモグサレ線虫に対する防除効果が発揮される。
【0025】
本実施形態のイモグサレ線虫防除剤を用いることによって、イモグサレ線虫が防除できる理由については、その全てを明らかにした訳ではないが、おそらく次のように考えることができる。すなわち、OYK菌は、培養初期に殆ど誘導期がなく繁殖力が大きいので、生物農薬として用いた初期の段階でOYK菌の菌体数が多くを占め、イモグサレ線虫が増殖するのを防止する。また、寄生したイモグサレ線虫が増殖するときには、OYK菌の菌体を摂取しながら増殖するが、OYK菌は菌体内に各種酵素(例えば、タンパク質分解酵素)を生成する能力を持っており、イモグサレ線虫がOYK菌の菌体を摂取するときに、これらの酵素も取り込むことになる。その結果、これらの酵素がイモグサレ線虫の生育を阻害し(例えば、イモグサレ線虫の菌体を構成するタンパク質が分解される)、イモグサレ線虫の防除に有効に作用するものと考えられる。
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をより具体的に示す。なお、本発明は下記実施例によって制限されず、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することは可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
市販のOYK菌含有液(「OYKファーミングブロック」商品名 株式会社浜口微生物研究所製:以下、「OYK菌原液」と呼ぶ)を調製した。このときOYK菌原液における生菌濃度は、1×109cfu/mLであった。そしてイモグサレ線虫が寄生したニンニク鱗球に対し、OYK菌原液を用いて、静止または振動しつつ処理し、イモグサレ線虫の防除効果について調査した。このとき、OYK菌原液を添加せずに、無処理の状態(イモグサレ線虫が寄生したニンニク鱗球だけの状態)の例についても調査した。各条件で処理したときのイモグサレ線虫の動態を、光学顕微鏡で観察した(倍率:100倍)。
【0028】
図1は、イモグサレ線虫を無処理の状態で24時間経過したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。図2は、イモグサレ線虫を無処理の状態で140時間経過したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、無処理では、イモグサレ線虫は活発に活動しており、イモグサレ線虫の破断も認められないことが観察できた。
【0029】
図3は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で24時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。図4は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で140時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、OYK菌原液を用いて静止して処理した場合では、イモグサレ線虫は動きが鈍くなっており、或いは断裂の残骸となることが観察できた。
【0030】
図5は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で24時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。図6は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で140時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、OYK菌原液を用いて振動して処理した場合では、イモグサレ線虫はほとんど動きがなくなっており、或いは断裂直前であることが観察できた。
【0031】
(実施例2)
イモグサレ線虫の分散液10mLに、生菌濃度が1×106cfu/mLのOYK菌(実施例1で培養したOYK菌原液を水で希釈)を添加し、30時間で静止した状態と振動を与えた状態で処理し、その防除効果について調査した。このとき、OYK菌を添加せずに、無処理の状態の例についても調査した。各条件で処理したときのイモグサレ線虫の動態を、光学顕微鏡で観察した(倍率:100倍)。
【0032】
図7は、イモグサレ線虫を無処理の状態で30時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。図8は、イモグサレ線虫を無処理の状態で30時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、無処理では、イモグサレ線虫は生存を示す動きがあることが観察できた。
【0033】
図9は、イモグサレ線虫に対してOYK菌を接触させた状態で30時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。図10は、イモグサレ線虫に対してOYK菌を接触させた状態で30時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、OYK菌を用いて処理した場合には、イモグサレ線虫は死滅して動きがなくなり、溶断するに至る状況のものも観察された。
【0034】
(実施例3)
ニンニク鱗球をスライスし、これを25℃のベルマン装置に設置した。このベルマン装置は、ニンニク鱗球からイモグサレ線虫を抽出する装置である。ベルマン装置から24時間後または48時間後にニンニク鱗球から抽出したイモグサレ線虫を、水に分散させて時計皿に2mL採り、OYK菌(実施例1のOYK菌原液)の50倍希釈液または500倍希釈液2mLを添加し(すなわち、100倍希釈液または1000倍希釈液)、その防除効果について調査した(実験No.1、2)。このとき、市販の生物農薬(「インプレションクリア」(商品名:株式会社エス・ディー・エスバイオテック社製))を添加した例(1000倍希釈だけ:実験No.3)、およびOYK菌を添加せずに、無処理の例(蒸留水を添加しただけの例:実験No.4)についても調査した。そして、下記式に基づき、イモグサレ線虫の生存率を求めた。調査は、夫々3回ずつ繰り返し行ない、その平均値を求めた。
イモグサレ線虫の生存率(%)
=(処理後のイモグサレ線虫の生存数/処理前のイモグサレ線虫の生存数)×100
その結果を、生物農薬の種類とともに、下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
この結果から、次のように考察できる。OYK菌を用いて処理した例(実験No.1)では、100倍希釈で極めて高い防除効果が発揮されていることが分かる。またOYK菌を用いて処理した場合には、1000倍希釈でも優れた防除効果が発揮されていることが分かる(実験No.2)。
【0037】
これに対し、市販の生物農薬を添加した例(実験No.3)では、防除効果が殆ど認められず、無処理の例では(実験No.4)、イモグサレ線虫がむしろ増殖していることが分かる。
【0038】
(安全性確認試験)
本発明者らは、OYK菌の人体に対する安全性を確認するために、実施例1で培養したOYK菌を用いて、動物に対する安全性確認試験を行った。
【0039】
(試験1)
生物農薬が眼に入った場合に生じる刺激性を確認するために、実施例1で培養したOYK菌を含有する製剤(以下、「被験物質」と呼ぶ)を動物の眼に1回滴下し、対象動物における眼刺激性を調査した。
【0040】
対象動物:雄の白色ウサギ(SPF Japanese White)6羽
試験開始週齢:11週齢
試験期間:試験開始後7日間
試験方法は、各ウサギの右眼の下瞼を眼球から穏やかに引き出し、被験物質を滅菌生理食塩水で希釈したもの(生菌濃度:1×108cfu/mL)を0.1mL(1×107cfu/眼)下瞼と眼球の間に滴下し、暴露した。暴露24時間後、滅菌生理食塩水で眼を洗浄した。
【0041】
そして、被験物質を投与した右眼について、投与日は1時間に、その後は投与後、1日、2日、3日、4日、7日に観察を行い、角膜の混濁の有無および範囲、虹彩および結膜の状態を調査した。このとき、被験物質を投与していない左眼は無投与対照として同様の観察を行った。なお、眼の表面に被験物質を滴下した場合に起こる可逆的変化を「眼刺激」、不可逆的変化を「眼浸食」と定義した。
【0042】
その結果、いずれの対象動物においても、被験物質の投与直後(1時間後)から投与後7日までの観察期間中、角膜、虹彩および結膜の眼刺激並びに眼浸食などの異常は認められなかった。なお、観察期間中、投与群の対象動物に死亡または瀕死は認められず、また食欲、元気、糞便および毛並みなどの一般状態についても異常は認められなかった。
【0043】
これらのことから、OYK菌は、動物の眼に対する刺激性はないと判断できる。
【0044】
(試験2)
生物農薬を経口投与した場合の影響を確認するために、試験1の被験物質を鳥類に投与した場合について、対象動物への影響を調査した。
【0045】
対象動物:ニホンウズラ 40羽(平均体重がほぼ均一となるように10羽ずつ4群に分けて観察)
試験開始日齢:14日齢
試験期間:試験開始後30日間
4群の全ての対象動物にブロイラー試験用飼料を不断給餌で与えると共に、そのうちの一群(10羽)については、滅菌生理食塩水を投与した。また、残りの3群(30羽)については、被験物質を滅菌生理食塩水で希釈したもの(生菌濃度:1×108cfu/0.2mL)を、胃ゾンデを用いて5日間連続して強制経口投与した。
【0046】
そして、下記(a)〜(c)の事項について、観察した。
(a)一般状態の観察
羽毛逆立、翼下垂、元気消失、頭部懸垂、閉眼、流涎、下痢、呼吸困難、衰弱、死亡などを観察期間中毎日観察した。
(b)体重測定
体重は投与直前(0日)、7日、14日、21日および28日後に観察し、各期間における増体重を算出した。
(c)病理学的検査
試験終了時に全ての個体について剖検し、肉眼的病理所見を記録した。
【0047】
その結果、羽毛逆立、翼下垂、元気消失、頭部懸垂、閉眼、流涎、下痢、呼吸困難、衰弱などについては、いずれの対象動物においても異常は認められず、死亡動物も認められなかった。また体重についても、いずれの測定時点においても、試験群間において有意的な差異は認められなかった。更に、いずれの対象動物とも、肉眼的病理検査における異常は認められなかった。
【0048】
これらのことから、OYK菌を、ウズラに5日間連続して強制経口投与しても健康を阻害するような影響はないと判断できる。
【0049】
上記安全性確認試験(試験1、2)から明らかなように、OYK菌は、人体に対して安全であることが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10