【実施例】
【0027】
(実施例1)
市販のOYK菌含有液(「OYKファーミングブロック」商品名 株式会社浜口微生物研究所製:以下、「OYK菌原液」と呼ぶ)を調製した。このときOYK菌原液における生菌濃度は、1×10
9cfu/mLであった。そしてイモグサレ線虫が寄生したニンニク鱗球に対し、OYK菌原液を用いて、静止または振動しつつ処理し、イモグサレ線虫の防除効果について調査した。このとき、OYK菌原液を添加せずに、無処理の状態(イモグサレ線虫が寄生したニンニク鱗球だけの状態)の例についても調査した。各条件で処理したときのイモグサレ線虫の動態を、光学顕微鏡で観察した(倍率:100倍)。
【0028】
図1は、イモグサレ線虫を無処理の状態で24時間経過したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図2は、イモグサレ線虫を無処理の状態で140時間経過したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、無処理では、イモグサレ線虫は活発に活動しており、イモグサレ線虫の破断も認められないことが観察できた。
【0029】
図3は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で24時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図4は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で140時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、OYK菌原液を用いて静止して処理した場合では、イモグサレ線虫は動きが鈍くなっており、或いは断裂の残骸となることが観察できた。
【0030】
図5は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で24時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図6は、イモグサレ線虫に対してOYK菌原液を接触させた状態で140時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、OYK菌原液を用いて振動して処理した場合では、イモグサレ線虫はほとんど動きがなくなっており、或いは断裂直前であることが観察できた。
【0031】
(実施例2)
イモグサレ線虫の分散液10mLに、生菌濃度が1×10
6cfu/mLのOYK菌(実施例1で培養したOYK菌原液を水で希釈)を添加し、30時間で静止した状態と振動を与えた状態で処理し、その防除効果について調査した。このとき、OYK菌を添加せずに、無処理の状態の例についても調査した。各条件で処理したときのイモグサレ線虫の動態を、光学顕微鏡で観察した(倍率:100倍)。
【0032】
図7は、イモグサレ線虫を無処理の状態で30時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図8は、イモグサレ線虫を無処理の状態で30時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、無処理では、イモグサレ線虫は生存を示す動きがあることが観察できた。
【0033】
図9は、イモグサレ線虫に対してOYK菌を接触させた状態で30時間静止したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。
図10は、イモグサレ線虫に対してOYK菌を接触させた状態で30時間振動したときのイモグサレ線虫の動態を示す図面代用顕微鏡写真である。その結果、OYK菌を用いて処理した場合には、イモグサレ線虫は死滅して動きがなくなり、溶断するに至る状況のものも観察された。
【0034】
(実施例3)
ニンニク鱗球をスライスし、これを25℃のベルマン装置に設置した。このベルマン装置は、ニンニク鱗球からイモグサレ線虫を抽出する装置である。ベルマン装置から24時間後または48時間後にニンニク鱗球から抽出したイモグサレ線虫を、水に分散させて時計皿に2mL採り、OYK菌(実施例1のOYK菌原液)の50倍希釈液または500倍希釈液2mLを添加し(すなわち、100倍希釈液または1000倍希釈液)、その防除効果について調査した(実験No.1、2)。このとき、市販の生物農薬(「インプレションクリア」(商品名:株式会社エス・ディー・エスバイオテック社製))を添加した例(1000倍希釈だけ:実験No.3)、およびOYK菌を添加せずに、無処理の例(蒸留水を添加しただけの例:実験No.4)についても調査した。そして、下記式に基づき、イモグサレ線虫の生存率を求めた。調査は、夫々3回ずつ繰り返し行ない、その平均値を求めた。
イモグサレ線虫の生存率(%)
=(処理後のイモグサレ線虫の生存数/処理前のイモグサレ線虫の生存数)×100
その結果を、生物農薬の種類とともに、下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
この結果から、次のように考察できる。OYK菌を用いて処理した例(実験No.1)では、100倍希釈で極めて高い防除効果が発揮されていることが分かる。またOYK菌を用いて処理した場合には、1000倍希釈でも優れた防除効果が発揮されていることが分かる(実験No.2)。
【0037】
これに対し、市販の生物農薬を添加した例(実験No.3)では、防除効果が殆ど認められず、無処理の例では(実験No.4)、イモグサレ線虫がむしろ増殖していることが分かる。
【0038】
(安全性確認試験)
本発明者らは、OYK菌の人体に対する安全性を確認するために、実施例1で培養したOYK菌を用いて、動物に対する安全性確認試験を行った。
【0039】
(試験1)
生物農薬が眼に入った場合に生じる刺激性を確認するために、実施例1で培養したOYK菌を含有する製剤(以下、「被験物質」と呼ぶ)を動物の眼に1回滴下し、対象動物における眼刺激性を調査した。
【0040】
対象動物:雄の白色ウサギ(SPF Japanese White)6羽
試験開始週齢:11週齢
試験期間:試験開始後7日間
試験方法は、各ウサギの右眼の下瞼を眼球から穏やかに引き出し、被験物質を滅菌生理食塩水で希釈したもの(生菌濃度:1×10
8cfu/mL)を0.1mL(1×10
7cfu/眼)下瞼と眼球の間に滴下し、暴露した。暴露24時間後、滅菌生理食塩水で眼を洗浄した。
【0041】
そして、被験物質を投与した右眼について、投与日は1時間に、その後は投与後、1日、2日、3日、4日、7日に観察を行い、角膜の混濁の有無および範囲、虹彩および結膜の状態を調査した。このとき、被験物質を投与していない左眼は無投与対照として同様の観察を行った。なお、眼の表面に被験物質を滴下した場合に起こる可逆的変化を「眼刺激」、不可逆的変化を「眼浸食」と定義した。
【0042】
その結果、いずれの対象動物においても、被験物質の投与直後(1時間後)から投与後7日までの観察期間中、角膜、虹彩および結膜の眼刺激並びに眼浸食などの異常は認められなかった。なお、観察期間中、投与群の対象動物に死亡または瀕死は認められず、また食欲、元気、糞便および毛並みなどの一般状態についても異常は認められなかった。
【0043】
これらのことから、OYK菌は、動物の眼に対する刺激性はないと判断できる。
【0044】
(試験2)
生物農薬を経口投与した場合の影響を確認するために、試験1の被験物質を鳥類に投与した場合について、対象動物への影響を調査した。
【0045】
対象動物:ニホンウズラ 40羽(平均体重がほぼ均一となるように10羽ずつ4群に分けて観察)
試験開始日齢:14日齢
試験期間:試験開始後30日間
4群の全ての対象動物にブロイラー試験用飼料を不断給餌で与えると共に、そのうちの一群(10羽)については、滅菌生理食塩水を投与した。また、残りの3群(30羽)については、被験物質を滅菌生理食塩水で希釈したもの(生菌濃度:1×10
8cfu/0.2mL)を、胃ゾンデを用いて5日間連続して強制経口投与した。
【0046】
そして、下記(a)〜(c)の事項について、観察した。
(a)一般状態の観察
羽毛逆立、翼下垂、元気消失、頭部懸垂、閉眼、流涎、下痢、呼吸困難、衰弱、死亡などを観察期間中毎日観察した。
(b)体重測定
体重は投与直前(0日)、7日、14日、21日および28日後に観察し、各期間における増体重を算出した。
(c)病理学的検査
試験終了時に全ての個体について剖検し、肉眼的病理所見を記録した。
【0047】
その結果、羽毛逆立、翼下垂、元気消失、頭部懸垂、閉眼、流涎、下痢、呼吸困難、衰弱などについては、いずれの対象動物においても異常は認められず、死亡動物も認められなかった。また体重についても、いずれの測定時点においても、試験群間において有意的な差異は認められなかった。更に、いずれの対象動物とも、肉眼的病理検査における異常は認められなかった。
【0048】
これらのことから、OYK菌を、ウズラに5日間連続して強制経口投与しても健康を阻害するような影響はないと判断できる。
【0049】
上記安全性確認試験(試験1、2)から明らかなように、OYK菌は、人体に対して安全であることが確認できた。