特許第6836823号(P6836823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836823
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】アース装置、アース方法
(51)【国際特許分類】
   H05F 3/02 20060101AFI20210222BHJP
【FI】
   H05F3/02 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-26240(P2019-26240)
(22)【出願日】2019年2月18日
(65)【公開番号】特開2020-136014(P2020-136014A)
(43)【公開日】2020年8月31日
【審査請求日】2019年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】519055124
【氏名又は名称】有限会社フクイトレーディング
(74)【代理人】
【識別番号】100180482
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 将隆
(72)【発明者】
【氏名】福井 一成
【審査官】 関 信之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−037118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流に含まれる高周波成分を除去可能なアース機能材料として圧電効果を示すトルマリンとフェライトの混合物を焼結したものを用い、任意の電気機器と導線接続されるアース端子を介してアース機能材料に電流を流入させるアース装置であって、

前記アース機能材料からなる円柱形状または多角柱形状に成形されたアース部材と、
銅その他の金属を構成材料とする棒状部材であってアース部材のなかに同アース部材の
軸方向に平行に埋設される芯部材と、
芯部材に接続された金属材料からなる前記アース端子と、
弾性体からなるバネ部材であって、弾性力をアース部材に作用させるバネ部材と、を備え、

バネ部材をアース部材の底面に接触させることにより同アース部材を加圧することで、アース部材に圧電効果を生じさせる
ように構成されたことを特徴とする、アース装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアース装置であって、
ネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする希土類磁石、をさらに備え、
アース部材の表面近傍に希土類磁石を配置することにより当該希土類磁石の磁力をアース部材に作用させる
ように構成されたことを特徴とする、アース装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアース装置であって、
円柱形状または多角柱形状に成形したアース部材の側面部すべてを覆う絶縁材料からなる薄膜状の側面カバー部材と、
前記アース部材の2つの底面部を覆う絶縁材料からなる底面カバー部材と、
矩形の帯形状を有する薄膜状の前記希土類磁石と、を備え、

希土類磁石の長手方向がアース部材の軸方向と一致するように希土類磁石を側面カバー部材に貼付することにより、希土類磁石をアース部材の表面近傍に配置する
ように構成されたことを特徴とする、アース装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアース装置であって、
前記芯部材の一部がアース部材から突出しており、当該芯部材の突出部分がアース端子として機能する
ように構成されたことを特徴とする、アース装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアース装置であって、
トルマリンに代えて、その他の圧電体である水晶・石英・トパーズ・セラミック・酒石酸ナトリウムカリウムのいずれかをフェライトと混合してアース機能材料を作製する
ように構成されたことを特徴とする、アース装置。
【請求項6】
電流に含まれる高周波成分を除去可能なアース機能材料として圧電効果を示すトルマリ
ンとフェライトの混合物を焼結したものを用い、任意の電気機器と導線接続されるアース
端子を介してアース機能材料に電流を流入させるアース方法であって、

アース機能材料からなる円柱形状または多角柱形状に成形されたアース部材をあらかじ
め作製する行程と、
銅その他の金属を構成材料とする棒状部材であってアース部材のなかに同アース部材の
軸方向に平行に埋設される芯部材をあらかじめ作製する行程と、
芯部材に接続された金属材料からなる前記アース端子をあらかじめ作製する行程と、
弾性体からなり弾性力をアース部材に作用させるバネ部材をアース部材の底面に接触させることにより同アース部材を加圧することで、アース部材に圧電効果を生じさせる行程と
を有する
ように構成されたことを特徴とする、アース方法。
【請求項7】
請求項6に記載のアース方法であって、
ネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする希土類磁石をアース部材の表面近傍に配置することにより、当該希土類磁石の磁力をアース部材に作用させる行程、をさらに有する
ように構成されたことを特徴とする、アース方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体(とりわけトルマリン)とフェライトを利用して高周波ノイズを低減させるアース装置・アース方法に関する。
【背景技術】
【0002】
言うに及ばず、日本はその国土が海に囲まれた島国であり、海洋国家である。
このような地理的条件から自然、日本では古来より漁業が盛んであり、食文化も海産物にちなんだものが多い。
そのことは統計指標の数字にも端的に表れており、2016年度の世界における商用漁船隻数ランキング(大型船舶・ノパ型船舶を含む動力付きの全漁船隻数)では、中国・インドネシアに次いで日本が3位にランクインしている。
【0003】
ところで昨今では、ソナー・魚群探知機・冷凍機・照明機器などをはじめとする様々な電気機器が船舶に搭載される傾向にある。
一般に船舶において電気機器のアース(電気的接地)を行う場合、いわゆるジンクを犠牲金属として電気機器に接続し、ジンクと海水中の電解質との両者間の電位差を利用してアースが行われる。
【0004】
上記のジンクとしては、海水中の電解質に含まれる被防食体に比べてイオン化傾向が大きく、陽イオン化して他のマイナスイオンと結合しやすい金属が一般に用いられる。
ジンクの具体例としては、アルミニウム・マグネシウム・亜鉛などが挙げられる。
【0005】
ジンクを犠牲金属として船内の電気機器に接続した場合、電気機器における各部品の構成材料がジンクから電子を奪うことにより相対的にマイナス電位となる。
これによりジンクの陽イオン化が促進され、相対的にプラス電位にあるジンク側において腐食(外部のマイナスイオンとの結合)が進行する。
そのため、海水中の電解質に含まれる被防食体から船内の電気機器を保護しつつ(陰極防食)、これらの電気機器を使用することができる。
さらにジンクを利用したアース方式によれば、船内の電気機器に対する高調波成分(静電気や電磁波の歪み)の影響をある程度まで緩和することができる。
【0006】
しかしながら上記のアース方式には、犠牲金属としての役割を担うジンクがイオン化して消耗してしまうという技術的宿命がある。
【0007】
またジンクを用いたアース方式によれば、落雷により船舶に突発的に大量発生した電荷ないしは帯電した海面に存在する多量の電荷による船内電気機器への影響をすみやかに緩和するほどの即効性(充分なアース性能)は有していない。
そのため同方式によれば、船舶が被雷した場合や海面に多量の電荷が存在している場合、これらの電荷による船内電子機器に対する影響を防ぎきれず、電子機器に悪影響が及ぶだけでなく、さらにはエンジン・配線・バルブ・スクリューといった船舶部品のイオン化や腐食すら引起こすおそれがある。とりわけ配線のイオン化・腐食は、短絡して火災を引起こすおそれがあるため非常に危険である。
さらに船舶部品のうちオイル皮膜されているベアリングについては、通電により皮膜成分が剥がれてしまうことにより、ベアリング自体に歪みが生じて故障しやすい。
【0008】
なお従来においても、電気製品(部品)に関するアース電位の安定化を図るための様々な技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−080805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1の技術は、その技術の適用対象として自動車ないしは電気製品を想定している。
船舶に搭載された電気機器に対し同文献1の技術を適用する場合、船内電気機器のアース電位となるべき部位へとマイナスイオン発生物質(トルマリン鉱石の粉末など)を塗布・密着・混入のいずれかをすることになる(引用文献1・図2)。
しかしながら、船舶における電気機器のアースの問題は陸上におけるアースとは異なり、接地対象となる電気機器と海水中の電解質との間の電位差を考慮することが必要になる。
そのため引用文献1の開示内容に従い、船内の電気機器自体にマイナスイオン発生物質の塗布などを施しても、塗布した程度のごく僅かな量のマイナスイオン発生物質により船舶自体もしくは海面に存在する多量の電荷の影響を完全に除去することは困難と考えられ、上述した船舶におけるアース固有の問題(船舶そのもの若しくは海面に多量の電荷が存在するときの、船舶部品のイオン化・腐食の防止)を依然解決できないままとなってしまう。
【0011】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、イオン化傾向が大きい金属材料からなるジンクを使用することなく、船内の電気機器や船舶部品のイオン化・腐食の発生を抑制しつつ、船内電気機器をアース(電気接地)できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〔第1発明〕
そこで、上記の課題を解決するために、本願の第1発明に係るアース装置は、
電流に含まれる高周波成分を除去可能なアース機能材料として圧電効果を示すトルマリンとフェライトの混合物を焼結したものを用い、任意の電気機器と導線接続されるアース端子を介してアース機能材料に電流を流入させるアース装置であって、

アース機能材料からなる円柱形状または多角柱形状に成形されたアース部材と、
銅その他の金属を構成材料とする棒状部材であってアース部材のなかに同アース部材の軸方向に平行に埋設される芯部材と、
芯部材に接続された金属材料からなる前記アース端子と、
弾性体からなるバネ部材と、を備え、

バネ部材をアース部材の底面に接触させることにより同アース部材を加圧する構成とした。
【0013】
船舶において採用されるジンクを使った従来のアース方式では、継続的に船内電気機器のアースをしている間に、腐食が進行しジンクが消耗してしまう。
しかしながら本願の第1発明に係るアース装置では、圧電効果を示すトルマリン(電気石)に着目し、これに加圧してコンデンサとして振舞わせることでアース機能を実現している。
ここで「圧電効果」とは、格子状の結晶に外部から圧力が加わったときに結晶内に配置されている陽イオンと陰イオンの相対的な位置ずれが大きくなることに起因する、加わった圧力に比例した分極現象のことをいう。
トルマリンは鉱物であるためイオン化傾向の大きいジンクとは異なり、船内電気機器からの電流が流入しても消耗による減量が起こらない。そのため、高寿命かつ耐久性の高いアース装置を実現できる。
さらに第1発明のアース装置は、落雷により船舶に突発的に大量の電荷が発生したり、帯電した海面に多量の電荷が存在する場合であっても、船内電気機器もしくは船舶部品のイオン化・溶解を防止できる。
【0014】
また本願の第1発明によればアース機能材料に含まれるフェライトは、船内電気機器から芯部材12に流入した電流Iにより発生する磁界H(磁気エネルギー)に対して磁気損失を生じさせる役割を果たす(図5参照)。
すなわち磁気損失により磁気エネルギーが発熱により消費され、ひいては船内電気機器における高周波成分による雑音の影響を低減することができる。
【0015】
なお第1発明のアース装置は、漁船・プレジャーボート・客船・貨物船・タンカーにおける船舶用アースとしての用途はもちろん、広く電子機器・通信機器・医療機器・産業機械・自動車・航空機・発電所における高周波成分による雑音を低減させる目的でも使用可能である。
なおアース装置の装置規模(サイズ)は、当該アース装置に接続される電気機器の容量に応じて適宜変更すればよい。
【0016】
〔第2発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第2発明に係るアース装置は、本願の第1発明に係るアース装置であって、
ネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする希土類磁石、をさらに備え、
アース部材の表面近傍に希土類磁石を配置することにより当該希土類磁石の磁力をアース部材に作用させる構成とした。
【0017】
第2発明によれば、アース部材11の表面近傍に希土類磁石15を配置することにより(図4参照)、アース機能材料に含まれるフェライトの振動を促し、ひいては圧電効果を示すトルマリンのアース機能の活性化をも図っている。
【0018】
〔第3発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第3発明に係るアース装置は、本願の第1または第2発明に係るアース装置であって、
円柱形状または多角柱形状に成形したアース部材の側面部すべてを覆う絶縁材料からなる薄膜状の側面カバー部材と、
アース部材の2つの底面部を覆う絶縁材料からなる底面カバー部材と、
矩形の帯形状を有する薄膜状の希土類磁石と、を備え、

希土類磁石の長手方向がアース部材の軸方向と一致するように希土類磁石を側面カバー部材に貼付することにより、希土類磁石をアース部材の表面近傍に配置する構成とした。
【0019】
第3発明によれば、帯状の希土類磁石をアース部材の軸方向に貼付することにより、円柱形状または多角柱形状のアース部材にまんべんなく希土類磁石が発する磁界を作用させることができる。
また第3発明によれば、アース部材を覆う側面カバー部材に帯状の希土類磁石を貼付することにより、希土類磁石をアース部材の近くに安定的に配置することができる。
【0020】
〔第4発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第4発明に係るアース装置は、本願の第1〜第3発明に係るアース装置であって、
芯部材の一部がアース部材から突出しており、当該芯部材の突出部分がアース端子として機能する構成とした。
【0021】
第4発明によれば、芯部材12のうちアース部材11から突出している部分がアース端子13を兼ねるため(図4参照)、構造が単純化されアース装置100の生産効率を向上できるとともに、部品点数が少なくなることから製造原価の低コスト化を図ることができる。
【0022】
〔第5発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第5発明に係るアース装置は、本願の第1〜第4発明に係るアース装置であって、
トルマリンに代えて、その他の圧電体である水晶・石英・トパーズ・セラミック・酒石酸ナトリウムカリウムのいずれかをフェライトと混合してアース機能材料を作製する構成とした。
【0023】
第5発明によればフェライトと混合する材料として、トルマリンに代えて、トルマリン以外の圧電体である水晶・石英・トパーズ・セラミック・ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム)のいずれかに置換える。
このように第4発明は、第1発明における一部構成要素(トルマリン)と置換可能な実質的に同一原理の技術的特徴を有するため、第1発明と同様の効果を奏する。
【0024】
〔第6発明〕
上記の課題を解決するために、本願の第6発明に係るアース方法は、
電流に含まれる高周波成分を除去可能なアース機能材料として圧電効果を示すトルマリンとフェライトの混合物を焼結したものを用い、任意の電気機器と導線接続されるアース端子を介してアース機能材料に電流を流入させるアース方法であって、

アース機能材料からなる円柱形状または多角柱形状に成形されたアース部材をあらかじめ作製する行程と、
銅その他の金属を構成材料とする棒状部材であってアース部材のなかに同アース部材の軸方向に平行に埋設される芯部材をあらかじめ作製する行程と、
芯部材に接続された金属材料からなる前記アース端子をあらかじめ作製する行程と、
弾性体からなるバネ部材をアース部材の底面に接触させることにより同アース部材を加圧する行程と、を有する構成とした。
【0025】
第6発明によれば、第1発明に対応する技術的特徴を有するため、第1発明と同様の効果を奏する。
【0026】
〔第7発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第7発明に係るアース方法は、本願の第6発明に係るアース方法であって、
ネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする希土類磁石をアース部材の表面近傍に配置することにより、当該希土類磁石の磁力をアース部材に作用させる行程、をさらに有する構成とした。
【0027】
第7発明によれば、第2発明に対応する技術的特徴を有するため、第2発明と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係るアース装置の外観を示す模式図である。
図2】アース装置の使用状態を示す模式図である。
図3】アースユニットの外観を示す模式図である。
図4】アース装置の断面を示す模式図である。
図5】芯部材に流入した電流によって生じる磁界を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図1乃至図5を参照して、本発明のアース装置について説明する。
[実施形態]
本発明の実施形態はトルマリンとフェライトの混合物を焼結してなるアース機能材料を適用して、船舶部品もしくは船内電気機器のイオン化や腐食を発生させることなく、船内の電気機器をアース接地できるアース装置を構成した例である。
以下、この内容について詳しく説明する。
【0030】
図1は、本実施形態に係るアース装置100の構成を示す模式図である。
本例のアース装置100は、電流に含まれる高周波成分を除去可能なアース機能材料を用いたものである。
図1のようにアース装置100は外観上、長方体形状の筐体カバー部材3で覆われている。また、アース装置100にはアース端子13が設けられている。
上記カバー部材3内には、図3に示すアースユニット1が格納されている。
【0031】
アース装置100の使用時においては図2に示すように、任意の電気機器(図示略)を導線WRによりアース端子13に接続しておき、同端子13を介してアース装置100外部(電気機器)からの電流をアース機能材料へと流入させる。
【0032】
つぎに、筐体カバー部材3に格納されているアースユニット1について説明する。
図3に示すようにアースユニット1の表面は、側面カバー部材21および底面カバー部材22に覆われている。
【0033】
側面カバー部材21は、絶縁材料(例えば、ポリプロピレンなどの合成樹脂)からなる薄膜状のカバーである。
この側面カバー部材21は、円柱形状に成形したアース部材11(図4)の側面部分すべてを覆うために用いられる。
【0034】
図3に示す底面カバー部材22も、側面カバー部材21と同様に絶縁材料から構成されている。
底面カバー部材22は、アース部材11(図4)の2つの底面部を覆う役割を担う。
【0035】
また図3のように本例の側面カバー部材21には、矩形の帯形状を有する薄膜状の希土類磁石15が貼付されている。
希土類磁石15の長手方向がアース部材11の軸方向と平行になるよう同磁石15を側面カバー部材21に貼付することにより、非常に磁力の強い希土類磁石15をアース部材11の近傍に安定的に配置できる。
なお希土類磁石15の側面カバー部材21に対する貼付手法は、接着剤や両面テープなどを用いて固着させるようにすればよい。
【0036】
つぎに、アース装置100の内部構成について説明する。
図4に示すようにアース装置100は、アース部材11と、芯部材12と、アース端子13と、バネ部材14と、希土類磁石15と、を備える。
【0037】
アース部材11は、アース機能材料を構成材料とする。
本願発明ではアース機能材料として「トルマリン(電気石)とフェライトの混合物を焼結したもの」を用いる。
本例におけるアース部材11は、上記アース機能材料(トルマリンとフェライトの混合物)を円柱形状に成形した部材である。
なお本例ではアース部材11が円柱形状である場合を例に挙げて説明するが、同部材11の全体形状は任意の多角柱形状(例えば、四角柱)に成形することも可能である。
【0038】
上述した「トルマリン」は、6つのSiO四面体が環状結合してなる環状体型ケイ酸塩鉱物に属する鉱物であり、NaXAl(BOSi18(OH,F)の組成を有する(X:マグネシウム,鉄,マンガン,リチウム,アルミニウムなど)。
なおトルマリンは、誘電率6.7〜7.3[F/m]の電気的性質、硬度6.5〜7の機械的性質、比重2.90〜3.22の物理的性質を有する。
【0039】
もう一方のアース機能材料である「フェライト」は、酸化鉄を主成分とするセラミックスであり、強磁性を示す。
本発明においてアース機能材料に含まれるフェライトは、アース装置100外部の電気機器から芯部材12に流入した電流Iにより発生する磁界H(磁気エネルギー)に対して磁気損失を生じさせる役割を果たす。
すなわち磁気損失により磁気エネルギーがフェライト内における発熱により消費され、ひいては高周波成分による雑音を低減できる。
【0040】
芯部材12は、銅その他の金属を構成材料とする棒状部材である。
本例の芯部材12は、電気伝導率の高い良導体として広く一般的に利用されている銅により構成される。
【0041】
図4に示すように、芯部材12はアース部材11のなかに埋設されている。
本例では、芯部材12の一部がアース部材11から突出しており(同図4)、当該芯部材12の突出部分がアース端子13として機能する。
なおアース端子13は、芯部材12と物理的に異なる別個の構成部品とすることも可能である。この場合、アース端子13は芯部材12に電気的に導通可能に接続する必要がある。
【0042】
バネ部材14は、弾性体からなるバネである。本例では図4に示すように、バネ部材14としてコイルバネを用いる。同バネ部材14には、板バネなどを用いてもよい。
図4の例においてバネ部材14は、自然長よりも圧縮された状態で底面カバー部材22−2と筐体カバー部材33の間に挟込むように挿入されている。
このようにアース部材11の底面にバネ部材14の弾性力を作用させることにより、バネ部材14は、同アース部材11を加圧して圧電効果を生じさせる役割を果たす。
【0043】
希土類磁石15は、ネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする磁石である。
本例では、永久磁石のうちで最も磁力の高いネオジム磁石を希土類磁石15として用いる。なお、ネオジム磁石のキュリー温度(強磁性体が常磁性体に変化する転移温度)は約320〜340℃である。
本アース装置100では希土類磁石15をアース部材11の表面近傍に配置することにより、希土類磁石15の磁力をアース部材11に作用させる。
同磁石15は、アース機能材料に含まれるフェライトの振動を促すことにより、圧電効果を示すトルマリンのアース機能を活性化させる役割を果たす。
【0044】
なおアース部材11の構成材料の1つであるトルマリンは、圧電効果だけでなく、加熱することで表面の両端に分極された電荷を生じる焦電効果をも示す。
そのため本発明のアース装置100では、トルマリンに分極を生じさせる手法としてアース機能材料を加熱することも考えられる。
しかしながら、トルマリンに分極を生じさせるためにアース機能材料を加熱すると、アース機能材料の温度上昇に伴う熱減磁によりフェライトの磁気的性能が低下してしまう。
さらにアース部材11の温度が上昇すると、同部材11の近傍に配置された希土類磁石15(本例では、ネオジム磁石)の磁力も著しく低下してしまう。
そのため本願のアース装置100を構成するにあたっては、図4に示したごとくバネ部材14の弾性力を利用してアース部材11に圧力を加え、トルマリンの圧電効果により分極を生じさせることが望ましい。
【0045】
つぎに本実施形態に係るアース装置100の動作について説明する。
アース装置100を使用するにあたっては、まず図2のごとく導線WRにより電気機器(図示略)をアース端子13に接続する。
そして電気機器を動作させると図5に示すように、アース端子13を介して同電気機器からの電流Iが芯部材12に流入する。
【0046】
このとき芯部材12を流れる電流Iは、同図5のごとく磁界Hを発生させる。
磁界Hはアース機能材料からなるアース部材11に作用するものの、アース機能材料中に含まれるフェライトにより磁気損失が生じる。
そのため、磁界Hの有する磁気エネルギーはフェライト内における発熱により消費され、ひいてはアース装置100に接続された電気機器への高周波成分による雑音を低減できる。
【0047】
またアース部材11にはバネ部材14の弾性力により圧力が加わっている。そのため、同部材11に含まれるトルマリンには圧電効果による分極が生じ、トルマリンはコンデンサとして振舞うことになる。
電気機器から芯部材12に流入した電荷(電流として運ばれたもの)はアース部材11において一旦蓄えられるものの、高周波成分についてはトルマリン内で生じる誘電損失(誘電体中で電気エネルギーが熱エネルギーとして失われる現象)により消失する。
【0048】
また芯部材12からアース部材11へと流入した電流は、アース部材11(アース機能材料)自体が有する抵抗成分によりジュール熱の発生に消費されてしまう。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係るアース装置100によれば、圧電効果を示すトルマリンを加圧してコンデンサとして振舞わせることで、アース装置100外部の電気機器から流入した電流Iの電気エネルギーをアース部材11(アース機能材料)において消失させる。
【0050】
より具体的には、アース装置100に流入した電流Iに含まれる高周波成分を誘電損失により消失させるとともに、当該の電流Iそのものをアース機能材料が有する抵抗成分によりジュール熱の発生に費やさせる。
そのため、(1)電気機器における高周波成分に起因する雑音の低減、ならびに、(2)船舶をはじめとする乗物における安定的なアース、を実現することが可能になる。
【0051】
なお、トルマリンは鉱物であるためイオン化傾向の大きいジンクとは異なり、船内電気機器からの電流が流入してもアース機能材料の消耗が起こらない。
そのため、アルミニウムやマグネシウムといった犠牲金属の消耗を前提とした船舶における従来のアース方式に代えて、アース装置の耐久性を高く確保しつつ船内における電気接地をきわめて安全に実施できる。
【0052】
さらに本実施形態のアース装置においては、流入した電流Iの高周波成分の誘電損失による消失や、アース機能材料の抵抗成分による電流Iのジュール熱発生が、電流Iの流入時点からごく短時間で行われる。
この流入電流Iに対する高速応答性ゆえに、本願のアース装置100では、落雷により船舶に突発的に大量の電荷が発生したり、帯電した海面に多量の電荷が存在する場合でも、船内電気機器もしくは船舶部品のイオン化・溶解が回避される。
【0053】
さらにアース機能材料に含まれるフェライトは、船内電気機器から芯部材12に流入した電流Iにより発生する磁界H(磁気エネルギー)に対して磁気損失を生じさせる(図5)。
これにより、流入した電流Iに起因する磁界Hの磁気エネルギーが発熱により消費され、船内電気機器における高周波成分による雑音を低減できる。
【0054】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が理解し得る各種の変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 アースユニット
11 アース部材
12 芯部材
13 アース端子
14 バネ部材
15 希土類磁石
21 側面カバー部材
22 底面カバー部材
3 筐体カバー部材
100 アース装置
図1
図2
図3
図4
図5