特許第6836825号(P6836825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6836825水不溶性またはわずかに水溶性の薬剤の水可溶性を改善するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836825
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】水不溶性またはわずかに水溶性の薬剤の水可溶性を改善するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/107 20060101AFI20210222BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210222BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20210222BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   A61K9/107
   A61K47/26
   A61K8/06
   A61K8/63
【請求項の数】17
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-566080(P2017-566080)
(86)(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公表番号】特表2019-501861(P2019-501861A)
(43)【公表日】2019年1月24日
(86)【国際出願番号】EP2016066999
(87)【国際公開番号】WO2017009480
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2019年6月10日
(31)【優先権主張番号】14/801,578
(32)【優先日】2015年7月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509035244
【氏名又は名称】マリノメド ビオテヒ エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】グラッサウアー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】プリィシゥル‐グラッサウアー,エバ
(72)【発明者】
【氏名】ボーデンタイヒ,アンジェリカ
(72)【発明者】
【氏名】モロクッティ‐クルツ,マーティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ナコーウィッチ,サビン
(72)【発明者】
【氏名】カインツ,コーネリア
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−253078(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103520081(CN,A)
【文献】 特開2004−065128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 8/00
A61K 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝水性溶媒系に水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物を可溶化することを含む医薬組成物または化粧品組成物の製造方法であって、
前記緩衝水性溶媒のpHをpH4〜pH8の範囲内の値に調整することと、
セルの形成を惹起するのに十分な量で、エスチンおよびグリチルリチンからなる群から選択されるサポニン成分を前記緩衝水性溶媒に添加すること
前記サポニン成分の濃度、エスチンの場合には0.01〜0.5%(w/v)の値に、そしてグリチルリチンの場合には0.5〜5%(w/v)の値に調整することと
デクスパンテノールを前記緩衝水性溶媒へ、0.5%〜5%(v/v)の濃度で添加することと、
記疎水性有機化合物、サポニン成分の添加前に前記緩衝水性溶媒中に添加すること、またはそれに代わって、
記疎水性有機化合物、医薬としてまたは化粧として許容され得る有機溶媒中に事前に溶解し、前記事前に溶解した疎水性有機化合物を含む前記有機溶媒サポニン成分を含む前記緩衝水性溶媒へ混合すること
を含み、
前記水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物は、ルリコナゾールを含まず、
その上で、前記水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物の少なくとも一部は可溶化し、及び前記サポニン成分との相互作用を通じて前記緩衝水性溶媒中で溶解して、共通のミセル構造を形成し、この中で、前記疎水性有機化合物は、形成された前記ミセルへ付着しまたは前記ミセル内に捕捉される
前記方法。
【請求項2】
凍結乾燥により前記医薬組成物または化粧品組成物を乾燥することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サポニン成分の前記添加は、20〜80℃、または35〜50℃の温度で、または30〜40℃の範囲内で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
エスチンは、1つまたは唯一のサポニン成分として、0.02〜0.5%(w/v)の濃度で前記緩衝水性溶媒へ添加される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
グリチルリチンは、1つまたは唯一のサポニン成分として、0.1〜5%(w/v)の濃度で前記緩衝水性溶媒へ添加される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記緩衝水性溶媒は、プロピレングリコールを1〜15%(v/v)の濃度で含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機溶媒は、DMSO、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンカーボネート、ジメチルイソソルビド、脂肪酸アルコール、トリアセチンモノステアラート、エチレングリコールジステアラート、グリセリルモノステアラート、プロピレングリコールモノステアラート、ポリビニルアルコール、カルボマー、水素化ひまし油由来の非イオン性ポリエトキシ化洗浄剤、および化学的に修飾されたセルロース誘導体からなる群から選択される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
プロピレングリコール、カラゲナン、セルロース誘導体、およびヒアルロン酸からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる成分は、前記緩衝水性溶媒へ添加される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
記水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物は、鎮痛薬、抗リウマチ薬、抗アレルギー薬、抗生物質、化学療法薬、抗てんかん薬、抗真菌薬、抗マラリア薬、コルチコイド、皮膚薬、催眠薬、鎮静薬、免疫治療薬、免疫抑制薬、サイトカイン、麻酔薬、抗片頭痛薬、副甲状腺ホルモン、カルシウム代謝調節薬、点眼薬、向精神薬、性ホルモン、性ホルモン阻害薬、細胞分裂阻害薬、および転移抑制薬からなる群から選択される医薬として活性のある薬剤である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
化粧調製物または薬剤の製造のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
緩衝水性溶媒系に溶解した水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物を含む医薬組成物または化粧組成物であって、
前記緩衝水性溶媒系が、pH4〜pH8の範囲のpH値に調整された緩衝液と、臨界的なミセル濃度以上のエスチンおよびグリチルリチンからなる群から選択されるサポニン成分とを含むことを特徴とし、
前記サポニン成分濃度は、エスチンの場合には0.01〜0.5%(w/v)の値であり、そしてグリチルリチンの場合には0.5〜5%(w/v)の値であり、
前記緩衝水性溶媒は、0.5%〜5%(v/v)の濃度のデクスパンテノールを含み、
前記水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物は、ルリコナゾールを含まず、
前記水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物の少なくとも一部は、前記緩衝水性溶媒中に存在するサポニン−ミセルへの付着を経て可溶化を通じて溶解する、
前記医薬組成物または化粧組成物。
【請求項12】
プロピレングリコールをさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載の医薬組成物または化粧組成物。
【請求項13】
1〜15%(v/v)の濃度のプロピレングリコールを含むことを特徴とする、請求項11または12に記載の医薬組成物または化粧組成物。
【請求項14】
前記緩衝水性溶媒系は、DMSO、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンカーボネート、ジメチルイソソルビド、脂肪酸アルコール、トリアセチンモノステアラート、エチレングリコールジステアラート、グリセリルモノステアラート、プロピレングリコールモノステアラート、ポリビニルアルコール、カルボマー、水素化ひまし油由来の非イオン性ポリエトキシ化洗浄剤、および化学的に修飾されたセルロース誘導体からなる群から選択される有機溶媒の一部を含むことを特徴とする、請求項11〜13のいずれか一項に記載の医薬組成物または化粧組成物。
【請求項15】
イオタ−カラゲナン、カッパ−カラゲナン、およびヒアルロン酸からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる成分を含むことを特徴とする、請求項11〜14のいずれか一項に記載の医薬組成物または化粧組成物。
【請求項16】
前記水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物は、鎮痛薬、抗リウマチ薬、抗アレルギー薬、抗生物質、化学療法薬、抗てんかん薬、抗真菌薬、抗マラリア薬、コルチコイド、皮膚薬、催眠薬、鎮静薬、免疫治療薬、免疫抑制薬、サイトカイン、麻酔薬、抗片頭痛薬、副甲状腺ホルモン、カルシウム代謝調節薬、点眼薬、向精神薬、性ホルモン、性ホルモン阻害薬、細胞分裂阻害薬、および転移抑制薬からなる群から選択される医薬として活性のある薬剤であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれか一項に記載の医薬組成物または化粧組成物。
【請求項17】
粘膜表面、特に鼻の、口の、眼の、気道の、肺の、生殖器領域の、および肛門直腸領域の粘膜表面への投与に適したゲル剤、クリーム剤、軟膏、スプレー剤、洗口剤、うがい液、吸入溶液剤、または坐剤として製剤化されていることを特徴とする、請求項11〜16のいずれか一項に記載の医薬組成物または化粧組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は主として、有機化学の分野にあり、水性溶媒中の水不溶性またはわずかに水溶性の有機化合物、特に治療上または化粧上有用な薬剤または作用因子の溶解度を実質的に増大させる方法に関する。本出願はさらに、治療価値または化粧価値のある高濃度の溶解した水不溶性またはわずかに可溶性の有機化合物を含む水性の医薬組成物または化粧組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
序論
有効医薬作用因子または有効医薬剤が全身レベルで生体利用可能である必要がある場合の大部分において、当該作用因子または薬剤は哺乳類体液において容易に可溶性であるべきである。これらの流体が水を基にしているので、生理活性のある有機化合物の水可溶性が乏しいことは常に、薬剤開発業者にとって難解な問題であってきたし、なおもそうである。
【0003】
ステロイドは、生理活性のあるおよび治療上重要な化合物の、傑出したおよび重要なクラスを構成しており、ステロイドの水可溶性はあまりにも乏しいので、脂質に分類される。ステロイドは、新たな薬剤調製物へと頻繁に改良されており、当該薬剤調製物は主として、多かれ少なかれ重症の病理学的な呼吸器系、皮膚科学的または眼科的症状を発症し得るホルモン異常または炎症性容態を治療するよう企図される。薬剤開発業者はそれゆえ、低可溶性のステロイドの皮膚、粘膜組織、または全身循環への送達を改善する適切な方法を探索してきた。その結果として、いくつかの実用的な解決策が示唆および実施されてきた。
【0004】
プロピレングリコールは、医学的関心対象の種々のステロイドのための、特に抗炎症性ステロイドのための可溶化剤として使用されてきた。カナダ国特許第1,119,957号は、弱酸性のpHでの水性プロピレングリコールにおけるヒドロコルチゾンの溶液を開示しており、この中で、プロピレングリコールは、15重量%〜50重量%に及ぶ濃度で提供され、当該ステロイドは、当該組成物の0.025重量%〜0.4重量%の濃度で提供される。
【0005】
ポリエチレングリコール(PEG)も、ステロイドのための溶媒を作製するためにプロピレングリコールとともに使用されてきた。欧州特許第246652号は、点鼻製剤における組成物の容積当たり最大0.05重量%の濃度のフルニソリドおよびベクロメタゾンを教示している。米国特許第4,868,170号は、62〜70重量%のPEG(分子量350〜500ダルトン)プラス10〜20重量%のプロピレングリコール及び15〜25重量%の水を含有する担体系において、最高0.15重量%の濃度でチプレダン(tipredane)(0.2mg/l未満の水中溶解度を有するステロイド)を含有するローションを開示している。国際特許出願第WO2006/029013号は、アンドロスタン、特に最高0.1重量%の濃度で存在するプロピオン酸フルチカゾンの局所製剤においてステロイド濃度を高めるためにプロピレングリコール(典型的には2.5〜15重量%)及び炭酸プロピレン(典型的には2.5〜7.5重量%)の組み合わせを請求している。
【0006】
ジメチルイソソルビドは、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及び水を含む溶媒系へ添加する時、プレドニゾン、デキサメタゾン、及びプレドニゾロンの溶解度を高めるとともに、各薬剤の最大溶解度は、1:2のジメチルイソソルビド/水またはジメチルイソソルビド/プロピレングリコール濃度比にまたはその近くに到達することが発見されており、高濃度のジメチルイソソルビドが必要とされることを強調している。
【0007】
先に記載のものを含むステロイドのためのたいていの溶媒系は、外皮への皮膚科学的適用に適し得るが、種々の治療適用においてステロイドの経口または粘膜送達の必要条件を十分に満たしておらず、特に気道または眼の炎症性容態の治療においてそうである。その理由は、ステロイドの有効な水中濃度が、企図される目的に対して最適に対して程遠く、および/または溶液の粘度は、あまりにも高過ぎて簡便な適用ができず、例えば、鼻への非常に小さな液滴を噴霧するためにそうである。また、非常に粘度の高い組成物は、鼻の中にねばねば感を創出し得、このことは通常不快とみなされる。さらに悪いことに、非常に粘度の高い点眼薬は、おそらく視界に干渉し得る。また、粘性のある溶媒または担体の系において細かく分散した懸濁液またはエマルションを製造するのに必要とされる激しい機械的な拡散によって生じる剪断応力は、例えば、カラゲナンのような、アジュバントまたは添加剤として溶媒または担体の系に同時に存在する高分子量化合物に対して有害であり得る。最終的には、これらの調製物の多くは通常、ステロイドが長期保存後に沈殿する傾向があるので、安定性の問題に遭遇する。
【0008】
概して、粘膜組織は極度に感受性があり、望ましくない副作用は、さもなくば十分に耐容性のある化合物を用いてでさえ容易に生じる。例えば、鼻への純水の投与でさえ、くしゃみおよび風邪の症状を発症させることができる。それゆえ、粘膜投与に適しているであろう水不溶性化合物の水性製剤を開発するための選択肢は限られている。
【0009】
種々の抗マラリア薬は、極度に制限された水可溶性を備えている。例えば、アルテミシニン及びその化学的誘導体は、水中でわずかに可溶性であるにすぎない。アルテムエーテルとしばしば併用されるルメファントリンは、水中で事実上不溶性である(溶解度0.002%)。別の有望な抗マラリア薬であるクルクミンは、水可溶性、溶液安定性、および経口生物学的利用率の点で主要な欠点に悩まされる。
【0010】
水溶解度が多くの医薬調製物において制限因子となるさらに別のクラスの化合物は、大きな環状ペプトイドであるシクロスポリンA、FK−506とも呼ばれる、大環状ラクトンであるタクロリムス、および別の大環状ラクトンであり、ラパマイシンとしても公知のシロリムスのような、免疫抑制活性および抗炎症活性を有する環状化合物を包含する。これらの化合物は、多くのステロイドの分子量を超過しさえする分子量を有し、構造上、ステロイドおよび共通の抗マラリア薬の両方とは明らかに異なる。先に記載の解決策に極めて類似している水性調製物に関する多くの解決策は、当該技術分野で説明されてきた。しかしながら、これらのすべての場合において、当該調製物は、製造するのが複雑であり、適切な保存安定性を欠き、および/または少なくとも準均質な溶液ではないかのいずれかである。
【0011】
それゆえ、より良好な局所的または全身的な生物学的利用率を可能にするために、ならびに物理的および化学的な保存安定性を改善するために、水不溶性またはわずかに水溶性の治療上または化粧上有用な化合物の水中溶解度を補強するための需要がなおも存在することは、上述から推測される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは驚くべきことに、水性媒体中の多くの有機化合物の難溶解度をうまく克服することができ、このような化合物の溶解度は驚くべきことに、非常に低濃度のサポニン成分を当該水性媒体、典型的には医薬としてまたは化粧として許容され得る水性の溶媒または溶媒系へ添加すること、および当該水性の溶媒または溶媒系へ、従来の非水性有機溶媒中に事前に溶解した所望の水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物の一部を混合することによって数倍、多くの場合、数桁までの程度上昇する。
【0013】
本発明者らによって実施される実験は、本明細書に説明される実施形態を実施するのに適したサポニンの可溶化効果が、密接な化学的、生理学的または構造上の類似性を共有するが代わりに、本明細書で言及される治療上有用な化合物を含む広範な種々の疎水性有機化合物へ広く適用可能であるようにみえる、特定のクラスの水不溶性またはわずかに可溶性の化合物との相互作用に限定されないことを立証した。
【0014】
さらには、本発明者らは、デクスパンテノールを添加すると、サポニンの可溶化効果を支えたり、さらには改善できたりする場合もあることを発見した。おそらくさらに重要なことは、デクスパンテノールも、大気温で長期保存中にサポニン含有溶液を安定化させることができることを認識したことである。
【0015】
本明細書に説明される溶媒系を含む医薬組成物または化粧組成物は、可溶化剤および/または安定化剤としてのデクスパンテノールの添加があろうとなかろうと、典型的には粘膜表面と適合性がある。デクスパンテノールを含有する時、当該組成物は、室温で少なくとも1か月間安定であり、当該組成物の多くは少なくとも3か月間でさえ安定であり、すなわち、当該組成物は、例えば、液体−液体(脂肪性/水性)相または液体−固体(粒子状/水性)相のような、多相系へと分解せず、および/あるいはこのような保存期間の間、意訳活性または生理活性の5%超を失わない。典型的には、当該組成物は、従来法を用いて濾過滅菌されることができるが、特定の適用のための、親水コロイド、エマルション、懸濁液、クリーム、ゲルまたは軟膏のような非透明調製物へとも製剤化され得る、澄んだ、透明な溶液である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、サポニン成分の添加を有しないかつデクスパンテノールの非存在下での、0%、5%、10%および15%(重量/容積)プロピレングリコールを含有する0.25×Mcllvaine緩衝液(pH6.0に調整済み)中の糖質コルチコイドであるブデソニドの溶解度を表す。
図2a図2aおよび図2bは、5%(図2a)および10%(図2b)のプロピレングリコールを含有する0.25×Mcllvaine緩衝液中で大気温(T約20〜25℃)で1か月間の保存後になおも溶解したブデソニドの濃度を指す(最大濃度550μg/mlブデソニド)。
図2b図2aおよび図2bは、5%(図2a)および10%(図2b)のプロピレングリコールを含有する0.25×Mcllvaine緩衝液中で大気温(T約20〜25℃)で1か月間の保存後になおも溶解したブデソニドの濃度を指す(最大濃度550μg/mlブデソニド)。
図3a図3aおよび図3bは、図2a/2bのものと同一だが、大気温(T約20〜25℃)で3か月間の保存後のデータセットに基づいている。
図3b図3aおよび図3bは、図2a/2bのものと同一だが、大気温(T約20〜25℃)で3か月間の保存後のデータセットに基づいている。
図4図4は、0.03%(w/v)エスチンおよび5%(v/v)デクスパンテノールがプロピレングリコールの非存在下でのMcllvaine緩衝液の溶解度を非依存的に高めることを表す。
図5図5は、グリチルリチンおよびキラヤ・サポナリア(Quillaya saponaria)抽出物由来のサポニンが、デクスパンテノールの存在下でステロイド溶解度に及ぼす実質的な効果がないままであることを表す。
図6図6は、プロピレングリコール(0%、5%、および10%)、エスチン(0%、0.03%、0.1%)およびデクスパンテノール(0%、2%、5%)の組み合わせを含有する0.25×Mcllvaine緩衝液(pH6に調整済み)中の糖質コルチコイドであるプロピオン酸フルチカゾンについての可溶性データを表す。
図7図7は、5%プロピレングリコールを含有する0.25×Mcllvaine緩衝液中のプロピオン酸フルチカゾンの分解に及ぼすデクスパンテノールおよびサポニンの濃度の影響を表す(達成される最大濃度=5μg/ml)。A・・・0%デクスパンテノール、B・・・5%デクスパンテノール、x軸・・・%グリチルリチン
図8a図8aは、5%プロピレングリコールおよび1.2g/Lイオタ−カラゲナンを含有するMcllvaine緩衝液中に溶解したブデソニド(y軸)と、大気温(T約20〜25℃)での3か月間の保存後のデクスパンテノールおよびエスチンの濃度変化との関係を表し、0%(シリーズA)、2%(シリーズB)、または5%(v/v)(シリーズC)におけるデクスパンテノール濃度、x軸=エスチン濃度である。
図8b図8bは、図8aにあるのと同一だが実験溶液がさらに0.4g/Lカッパ−カラゲナンを含有していたという事実について例外である実験セットアップから得られた類似のデータを表す。
図9a図9aは、一方では、10%プロピレングリコール、1.2g/Lイオタ−カラゲナン、および任意にデクスパンテノールを含有するMcllvaine緩衝液中に溶解したブデソニドの濃度(y軸)と、もう一方では大気温での1か月間の保存後のサポニン濃度との関係を表し、x軸=エスチン濃度である。
図9b図9bは、図9aにあるのと同一だが実験溶液がさらに0.4g/Lカッパ−カラゲナンを含有していたという事実について例外である実験セットアップから得られた類似のデータを表す。
図10図10は、大気温での1か月間の保存後のエスチン濃度変化(x軸)と関連した、5%プロピレングリコール、7.5g/lヒアルロン酸、および任意にデクスパンテノールを含有するMcllvaine緩衝液中に溶解したプロピオン酸フルチカゾンの濃度(y軸)を表し、A・・・0%デクスパンテノール、B・・・2%デクスパンテノール、C・・・5%デクスパンテノール、x軸・・・%(w/v)エスチン、y軸・・・μg/mlプロピオン酸フルチカゾンである。
図11a図11aおよび図11bは、適切な指標としての、室温での水中の蛍光色素(ヘキスト33342)を用いることによって判断される、ミセルの形成に及ぼすエスチン(図11a)またはグリチルリチン(図11b)のいずれかの濃度の関連性を表し、x軸=%エスチンまたは%グリチルリチン、y軸=相対的な蛍光単位(RFU)である。
図11b図11aおよび図11bは、適切な指標としての、室温での水中の蛍光色素(ヘキスト33342)を用いることによって判断される、ミセルの形成に及ぼすエスチン(図11a)またはグリチルリチン(図11b)のいずれかの濃度の関連性を表し、x軸=%エスチンまたは%グリチルリチン、y軸=相対的な蛍光単位(RFU)である。
図12図12は、溶解したFK506に及ぼす安定性試験を表し、300μg/mlのFK−506をエスチンとデクスパンテノールなし(A)または60mg/mlデクスパンテノール(B)のいずれかとを含有する製剤中に溶解し、4℃で3か月間保存した。
図13図13は、2つの異なる濃度、すなわち、100μg/ml(A、C)および300μg/ml(B、D)における溶解したFK−506を用いた凍結乾燥実験の結果を表し、左の黒い棒は、凍結乾燥前の溶解したFK−506の濃度を表し、右の棒は50mg/mlデクスパンテノールと、30mg/ml(A、B)または50mg/ml(C、D)プロピレングリコールのいずれかとを補充した水中での再構築の24時間後のFK−506濃度を表し、y軸は、溶解したFK−506(μg/ml)を示す。
図14図14は、ブタ鼻粘膜におけるプロピオン酸フルチカゾンのエクスビボでの浸透動態を表し、A(上の線)本発明により調製した5μg/mlのプロピオン酸フルチカゾン、B(下の線)サポニン非含有の比較懸濁液として調製した5μg/ml、x軸=インキュベーション時間(分)、y軸=プロピオン酸フルチカゾンng/組織gである。
図15図15は、LPS誘発性急性肺炎症モデルにおけるブデソニドの投与の際の未処置の対象の百分率(100%)におけるTNFアルファレベルを表し、A=1.28mg/mlの比較のブデソニド懸濁液、B=0.3mg/mlの比較のブデソニド懸濁液、C=0.3mg/mlの実験的ブデソニド溶液である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
本明細書で使用する「ステロイド」という用語は、以下の式A
【化1】
に図示するように、4つの炭素環からなるステロール中心構造に基づいたいかなるおよびすべての化合物(複数可)を意味することになっている。ホルモン作用を発揮するステロイドは、2つの主要なクラス、すなわち、炭水化物、脂肪およびタンパク質の代謝を制御し、しばしば抗炎症性作用を有する糖質コルチコイド、ならびに電解質および水のレベルを制御する鉱質コルチコイドに分けられる。本明細書で言及されるステロイドは典型的には、コルチコステロイドであり、糖質コルチコイドおよび鉱質コルチコイドからなる群から選択され得る。適切な例は、ブデソニド、フルチカゾン、プロピオン酸フルチカゾン、およびモメタゾンフロアートのうちのいずれか1つを含む。
【0018】
本明細書で使用する「抗マラリア薬(antimalarial)」または「抗マラリア薬(antimalarial drug)」という用語は、プラスモジウム(plasmodium)属の蚊媒介性細胞内寄生物による感染を終止、低下、または予防することが現に公知のまたは将来公知となるであろう、かつ水中で不溶性またはわずかに可溶性であるにすぎないいかなるおよびすべての化合物を意味することになっている。化合物の当該カテゴリーの典型的な代表例は、アルテミシニンおよびルメファントリンである。
【0019】
本明細書で使用する「免疫抑制薬」または「大環状免疫抑制薬」という用語は、哺乳類における免疫反応を低下または抑制させることが現に公知のまたは将来公知となるであろう(好ましくはイムノフィリンを結合する)、かつ水中で不溶性またはわずかに可溶性のいかなるおよびすべての大環状分子を意味することになっている。このような大環状分子の代表例としては、シクロスポリン、タクロリムス、およびシロリムス(ラパマイシン)、ならびにこれらの化学的修飾物、ならびにバイオリムスA9、ゾタロリムス、エベロリムス、ミオリムス(myolimus)、ノボリムス、ピメクロリムス、リダフォロリムス、およびテムシロリムスのような化合物が挙げられる。
【0020】
本明細書で使用する「サポニン」という用語は、トリテルペノイドまたはステロイド性アグリコーンの中心構造(サポゲニン)およびサポゲニンへ付着する1つ以上の単糖類またはオリゴ糖の残基または鎖(複数可)を含むグルコシドを意味することになっている。本明細書で特に好ましいサポニンは、エスチン、グリチルリチン、およびキラヤ・サポナリア抽出物である。
【0021】
本明細書で使用する「エスチン」という用語は、それぞれ、アルファ−およびベータ−エスチン(escin)、またはアルファ−およびベータ−エスチン(aescin)、これらの混合物、一価、二価または三価の陽イオンを含むこれらの塩、ならびに有機酸および/またはアルコールを用いて、特に低分子量の有機酸および/またはアルコール、主として一価の酸および/またはアルコールを用いて形成されるエステルという用語の下で当該文献中で言及されるいかなるおよびすべてのサポニンを包含することになっている。
【0022】
本明細書で使用する「グリチルリチン」という用語は、18−アルファおよび18−ベータの両形態におけるグリチルリチン酸という用語と等価であるものと理解されることになっている。
【0023】
本明細書で使用するキラヤ・サポナリア抽出物という用語は、米国食品医薬品局によって、タイトル21 CFR 172.510,FEMA番号2973の下で食品および飲料(GRAS)における使用のための成分として認可された市販の生成物キラヤ・サポナリア(ソープバーク(soapbark)抽出物)を指すことになっている。これはまた、コードE999、現行CAS番号:068990−67−0またはEPAリスト4A CAS番号:1393−03−9(キラヤサポニン)の下で、ヨーロッパ連合において類似の使用のための成分としても認可されている。
【0024】
本明細書で使用する「炎症性容態」という用語は、哺乳類身体組織が、浮腫、膨潤、局所温上昇、圧痛、および疼痛からなる群から選択される少なくとも1つの症状によって、ならびに/あるいは、反応性プロテインCまたは炎症促進性サイトカインのような炎症性マーカーのレベル上昇によって、あるいはこのような症状と炎症マーカーのレベル上昇との何らかの組み合わせによって影響される急性または慢性の容態をすべて包含することになっている。
【0025】
「抗炎症性ステロイド」という用語は、哺乳類動物における炎症の先の症状のうちのいかなるものも低下させることのできるステロイドをすべて包含することになっている。この群の最も重要なメンバーは、糖質コルチコイドである。
【0026】
詳細な説明
少量のサポニンでさえ水性溶媒へ添加すると、数多くの治療上関連のある化合物を含む疎水性有機化合物の水中溶解度を劇的に増大させることができることは、本発明者らによって認識された。本発明に従って得られることのできる水性溶媒中で有効に溶解した疎水性有機化合物材料の濃度は、従来のサポニン非含有水系、例えば水/プロピレングリコール溶媒系において、少なくとも数倍、および同化合物の濃度よりも高い最高数桁の程度である。
【0027】
これまで生じた実験データは、可溶化の改善に必要とされる濃度におけるサポニン成分が、特異的なミセルまたはミセル様構造を疎水性有機化合物とともに形成し、そのようにするうえで、このような化合物の疎水性部分と水性環境との接触領域を低下させる、すなわち、疎水性を低下させ、水溶性を高めることを示唆している。
【0028】
サポニン作用とは別に、サポニンの濃度よりも通常高い濃度で、および一部の実施形態においては1〜5%(v/v)の範囲内の濃度で本発明に従って調製された組成物へのデクスパンテノールの添加は、溶解した疎水性有機化合物、特にステロイドの、保存中の沈殿を防止し得る。さらに、当該添加は、室温での長期保存中のこのような組成物の成分の混合物から多相系への崩壊を防止し得る。その上、本発明によって、サポニン濃度およびデクスパンテノール濃度を調整することは、鼻、口、眼、気道、小腸管、生殖器領域および肛門直腸領域、ならびに哺乳類身体の他の部分の感受性のある粘膜表面への適用のための必要条件を完全に満たすことを許容する。
【0029】
したがって、実施形態において、本発明は、可溶化した水不溶性のまたはわずかに水溶性の疎水性有機化合物の水溶液の保存安定性を改善する方法に関し、この中で、サポニン成分に加えて、デクスパンテノールを可溶化亢進剤としておよび/または安定化剤として添加する。
【0030】
本発明の原理が、このような水不溶性またはわずかに水溶性の化合物、特に治療上または化粧上適用される化合物の、既存の含水の溶液、懸濁液、エマルションまたは親水コロイドへ、サポニン成分およびデクスパンテノール成分のいずれかまたは両方をこのような溶液、懸濁液、エマルションまたは親水コロイドへ添加することによって適用され得ることは、この場合、指摘されることになっている。本結果は、すなわち、従来溶解していない疎水性化合物材料を、溶解した状態へと変換させる、有効に溶解した疎水性化合物材料の濃度の実質的な上昇である。
【0031】
このことは、これらの化合物の生物学的利用率が、同様に亢進するであろうし、それにより、レシピエントの身体における疎水性化合物の薬物動態および反応力学を改善する効果において有するであろうし、医薬として活性のある化合物の場合に所望の薬理学的作用のより早期の開始も惹起するであろう。
【0032】
さらに、本発明の方法に従って調製した粒子非含有かつ通常澄んで透明な溶液が直接的な濾過滅菌を可能にすることは強調されることになっている。このことは、濾過滅菌した2相調製物、すなわち、懸濁液、エマルションまたは親水コロイドを得る最先端の方法とは対照的であり、当該方法は典型的には、所望の疎水性化合物を含む純粋有機溶液を濾過滅菌すること、及び独立して、水性緩衝液を濾過滅菌すること、および当該水性緩衝液を当該有機溶液と混合することを含む。しかしながら、この手順は、有機相に溶解した疎水性化合物分子の大部分を水性緩衝液と接触させる際に沈殿させ、したがって、結果的には、非常に少量の有効に可溶化した化合物のみを非常に多量の溶解していない、任意に粒子状の当該化合物の実体とともに含有する懸濁液、エマルションまたは親水コロイドを生じる。
【0033】
滅菌済み調製物を生成するこのような方法は、本発明の実施形態において使用することもできるが、違いは、水性緩衝液成分がさらに、サポニンおよび任意に、デクスパンテノールも含み、結果的に、当該技術分野で公知のものと類似の調製物を生じ、この中で、溶解した疎水性化合物の濃度はしかしながら、サポニン成分および任意のデクスパンテノール成分を含有しない当該技術分野で公知の対応する調製物に対して実質的に上昇する。
【0034】
したがって、本明細書における実施形態は、水性2相調製物、すなわち、サポニンおよび任意にデクスパンテノール成分も含む懸濁液、エマルション、および親水コロイドからなる群から選択される調製物に関し、この中で、有効に溶解した疎水性有機化合物の濃度は、サポニン成分および任意のデクスパンテノール成分を有しない対応する従来の調製物において達成されるものよりも実質的に高い。
【0035】
疎水性化合物を含む多くの最先端の技術が、1つ以上の有機溶媒を適切な量の水とともに含む溶媒系に基づいていることを考慮に入れると、わずかに水溶性または水不溶性の疎水性有機化合物を含む組成物において、非水性の有機溶媒または有機溶媒混合物の共有を低下させるための方法を提供し、同時に当該組成物における純粋に水性の溶媒または緩衝液系の共有を高めることも本明細書の目的である。このことは、先により詳細に考察したように、最先端の調製物の種々の欠点を克服するであろうし、治療上のまたは化粧上の適用の範囲を、特に、このような疎水性の有機化合物または薬剤の予防上または治療上の経口および非経口の、例えば経皮的および経粘膜的な適用に関して、大きく拡大することができるだろう。
【0036】
したがって、本明細書の別の実施形態は、水不溶性またはわずかに水溶性の化合物を溶解するために当該技術分野で使用される従来の有機溶媒または可溶化剤に加えて、水溶液および1つ以上のサポニン、ならびに任意にデクスパンテノールを含む、このような化合物のための水系溶媒系に関する。
【0037】
本明細書で使用する「疎水性化合物の溶解度を改善すること」という用語は、疎水性化合物を、当該化合物の化学的修飾を用いずにより水溶性にすることとして理解されることになっている。より具体的には、このことは、不溶性または難水溶性の化合物の、水性溶媒中でのその溶解した、非粒子状状態での濃度を、本発明の原理を適用することなく達成することができた溶解した状態における当該化合物の濃度に対して有意に増大させることを包含する。
【0038】
本明細書で示される疎水性化合物の水溶液の「安定性を改善すること」という用語は、疎水性化合物の水溶液の保存安定性を、デクスパンテノールの添加なしで達成することができた保存安定性に対して有意に亢進することとして理解されることになっている。より具体的には、「保存安定性」は事前に決めておいた時間にわたって実質的に変化しないままである、すなわち、関心対象の溶解した化合物(複数可)の沈殿に関するいかなる兆候の発生もなく、液体−液体相(エマルション)または液体−固体相(懸濁液)のような2つ以上の相への医薬組成物または化粧組成物の崩壊に関するいかなる兆候もなく、および好ましくは当該組成物の生理活性の有意な喪失のない、当該組成物の能力として理解されることになっている。
【0039】
本明細書において言及される化学的に種々のおよび生理学的に明白に異なる医薬として活性のある作用因子の種々のクラスまたはカテゴリーは、元来非常に疎水性であり、それゆえ、少しでも水溶性である場合、ほんのわずかであることを共通して有する。したがって、本明細書に明白に言及される疎水性化合物は、本発明に従った使用に適した例であるが、本発明が、生理活性があろうと化粧上有用であろうと、疎水性および難水溶性の化合物のいかなるこのようなクラスまたはカテゴリーも適用され得ることは、当業者に明らかであろう。したがって、水溶性の改善に適格であるものとして本明細書で明白に言及される水不溶性またはわずかに水溶性の疎水性有機化合物の例は、徹底してはおらず、それゆえ、特許請求の範囲に規定された本発明の範囲を制限するものとして解釈されることになってはいない。
【0040】
本明細書で最も有用なサポニン成分の1つの代表は、エスチンである。エスチンは、セイヨウトチノキ(アエスクルス・ヒッポカスタヌム(Aesculus hippocastanum)の果実)からアルコールおよび他の有機溶媒を用いた抽出によって得られることのできる周知のトリテルペンサポニン生成物である。当該生成物は、チグル酸または酢酸がエステルとして結合するのに対し、2つのグルクロン酸分子がグリコシド結合を通じて結合する密接に関連した高度にヒドロキシル化したトリテルペン誘導体からなる混合物である。エスチンを構成する混合物中の成分は、当該成分の糖残基に関して、またアグリコーンのアセチル置換基に関しても異なっている。エスチンの主要グリコシドは、以下の化学構造(式B)
【化2】
を有する。
【0041】
エスチン系製剤は、静脈不全および過剰な毛細血管透過性に関する種々の容態を治療することに数十年間用いられてきた。典型的にはプロピレングリコール、イソプロパノール、およびカルボマーを含有する、エスチンを含有する局所ゲルは、静脈瘤に由来する局所浮腫または痔核の治療のために市販されている。経口エスチン調製物も入手可能である。
【0042】
欧州特許EP1090629は、個体の眼の周りの刺激を予防または治療するためのエスチンおよび硫酸デキストランからなる組み合わせを教示している。
【0043】
カンゾウ(Glycyrrhiza glabra)由来のサポニンであるグリチルリチンは、トリテルペングリチルリチン酸であるアグリコーンおよびグルクロン酸からなる。グリチルリチンは、リコリスの甘味成分であり、食品および化粧品の業界で多く使用されている。グリチルリチンは報告によると、抗炎症性、抗糖尿病性、抗酸化物質、抗腫瘍性、抗菌性、抗ウイルス性、および肝保護性の特性を有する。グリチルリチンの構造は、次(式C)の通りである。
【化3】
【0044】
国際特許出願WO2002/074238は、少なくとも1個の窒素原子を含有する広範な種々の難溶性化合物からなる高度に水溶性の複合体の調製におけるグリチルリチンの使用を開示している。当該複合体は、好ましくはイオン性であり、グリチルリチンと活性のある作用因子とのモル比は、好ましくは1:1〜1:3である。
【0045】
対照的に、本発明の実施形態は、可溶化されることになっている化合物中に窒素原子を必要とせず、存在することになっているイオン状態を必要とせず、サポニンのほんのわずかな量、すなわち、グリチルリチンについてWO2002/074238において教示されている量をはるかに下回る、および典型的には可溶化されることになっている化合物の量のある範囲の数画分にある量を必要とする。それにもかかわらず、グリチルリチンは、本発明に従って、遊離塩基としてまたはその塩、特にそのカリウム塩もしくはアンモニウム塩の形態のいずれかで、および任意に別のサポニンとの組み合わせで、本明細書に説明されるプロトコルに従って適用され得る。驚くべきことに、そのアグリコーン、すなわちグリチルリチン酸またはエノキソロンは、本発明に従って可溶化亢進剤として使用されないかもしれない。
【0046】
本明細書で使用されるサポニン成分は典型的には、所望の水不溶性またはわずかに水溶性の有機化合物を含有する最終的な化粧調製物または医薬調製物の0.01%(w/v)〜10%(w/v)に及ぶ濃度で提供される。種々の実施形態において、サポニン成分の濃度は、具体的な目的のための所与の実施形態において使用されるサポニンの種類に応じて、最終的な水溶液または水性調製物のそれぞれ、0.02%(w/v)〜0.1%(w/v)または0.5%(w/v)〜5%(w/v)の範囲であろう。
【0047】
パントテノールのD型鏡像体(または立体化学的にはR形)であるデクスパンテノールは、パントイン酸およびβアラニンのアミドである。補酵素Aを合成するのに必須の栄養素であるので、ビタミンB5としても公知である。その構造は、次(式D)の通りである。
【化4】
【0048】
デクスパンテノールは、化粧品および局所的パーソナルケア製品において皮膚軟化薬および保水剤として広く使用されており、医学的有用性も有している。より具体的には、小さな削皮、局所的な第1度熱傷、および皮膚疾患の治癒を支援し得る。
【0049】
デクスパンテノールは、当該技術分野で公知の方法によってまたは本出願によってのいずれかで調製された不溶性または難水溶性の化合物の溶液のための安定化剤として有用であり得ることが発見された。
【0050】
本明細書で使用されるデクスパンテノール成分は典型的には、最終調製物、例えば、所望の水不溶性またはわずかに水溶性の有機化合物を含有する化粧組成物または医薬組成物の0.5%(v/v)〜10%(v/v)に及ぶ濃度で提供される。種々の実施形態において、デクスパンテノール成分の濃度は、最終的な溶液または組成物の1%(v/v)〜5%(v/v)の範囲であろう。
【0051】
生理活性成分として難水溶性有機化合物を含む種々の医薬組成物は、炎症性容態の治療において、マラリアのような疾患の治療において、ならびに自己免疫障害の治療および移植手術と関連した術後免疫抑制の経過においても現に使用されている。例えば、シクロフィリン結合免疫抑制薬は、アトピー性皮膚炎、乾癬、白斑、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、および自己免疫性ぶどう膜炎のような容態を発症する自己免疫障害を治療するために、現に使用されている。この群由来の特異的な免疫抑制薬は、骨髄移植由来の移植片対宿主病を含む、同種臓器移植の拒絶のような望ましくない免疫反応を予防するためにも投与され得る。これらの組成物はすべて、本明細書に説明される本発明の実施形態に従って実質的に改善され得る。
【0052】
本発明に従って調製される水溶液は典型的には、1つ以上の医薬としてまたは化粧として許容され得る非水性の溶媒、担体、および/または賦形剤を含み、任意にさらに、保存剤および/または他の添加物を含む。溶媒、担体ならびに/または賦形剤は、PEG−400のようなポリエチレングリコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、またはオレイルアルコール、トリアセチンモノステアラート、エチレングリコールジステアラート、グリセリルモノステアラート、プロピレングリコールモノステアラート、およびポリビニルアルコールのような脂肪酸アルコール、カルボキシポリメチレンのようなカルボマー、DMSO、水素化ひまし油を商品名Cremophor(登録商標)の下で公知のもののような酸化エチレンと反応させることによって得られる非イオン性ポリエトキシ化洗浄剤、ならびにカルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースのような化学的に修飾されたセルロース誘導体を含む群から選択され得る。
【0053】
他の添加物は、ポリオキシエチレンソルビタンならびにそのモノラウラートおよびモノオレアート(例えば、トゥイーン20、トゥイーン60、またはトゥイーン80)、ソルビタンパルミタート、オレアート、およびステアラート(例えば、スパン40、スパン60、スパン65、またはスパン80)のようなソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンエステル、Cremophor(商標)のようなポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノラウラート、トリエタノールアミンオレアート、エチルラウラート、ラウリル硫酸ナトリウム、プルロニックF68、ポロキサマー188を含む群から任意に選択される洗浄剤、乳化剤および/または界面活性剤を含み得、保存剤は、臭化セトロモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、および/または上述の化合物の混合物を含む群から選択され得る。
【0054】
本明細書に説明される実施形態の医薬組成物は、種々の様式の投与のために調整され得る。例えば、経口、非経口、または経粘膜経路の1つを使用する体内吸収のために調整され得、あるいは、皮膚組織または粘膜組織における局所的な使用のために調整され得る。
【0055】
非経口使用のための組成物は、脈管内注入にまたはボーラス注射に特に適応し得る。
【0056】
嚥下のために企図された経口薬は、甘味シロップ剤として製剤され得るが、軟質もしくは硬質カプセル剤または他の適切なガレヌス形態へも製剤され得る。
【0057】
粘膜投与および経粘膜投与のための組成物は典型的には、ゲル剤、クリーム剤、軟膏、スプレー剤、洗口剤、うがい液、吸入溶液剤、または坐剤として場合により製剤されるであろう。
【0058】
本明細書に説明される組成物は、カラゲナンも含有し得る。最も頻繁に使用されるカラゲナンは、イオタ−、カッパ−およびラムダ−カラゲナンであり、イオタ−およびカッパ−カラゲナンは、特異的な抗ウイルス活性および抗アレルギー活性を有する。
【0059】
以下の実施例は、説明目的のためであり、以後明白に開示される実施例に本発明を制限することなく、本発明の理解を容易にすることになっている。
【0060】
実施例1:ブデソニド含有点鼻薬(5%プロピレングリコール終濃度)
溶液の調製
A.ブデソニド事前溶液
1gのブデソニドをガラスフラスコ中で秤量し、緩徐な撹拌および加熱下でプロピレングリコール中に溶解し、プロピレングリコールで100mlまで満たした。HPLCによって測定される実際に溶解したブデソニドの濃度は、10mg/mlであった。
【0061】
B.Mcllvaine緩衝液
次の物質、すなわち、22.52gのNaHPO×2HO、7.73gのクエン酸一水和物、4.0gのEDTAナトリウムを秤量して蒸留水中に溶解して。1×Mcllvaine緩衝液pH6を生成した。蒸留水を添加して、pH6の1000ml溶液にし、これを濾過滅菌して、室温で保存した。
【0062】
C.エスチン含有Mcllvaine緩衝液
0.5gのエスチンを秤量し、1×Mcllvaine緩衝液中に溶解し、250mlまで満たし、濾過滅菌した(以後、Mcllvaine0.05%と呼び、その理由は、この溶液を終濃度0.05%のエスチンを含有する試料を調製するために使用したからである)。Mcllvaine緩衝液中の他のエスチン濃度を、表1に説明するように、異なる部分のMcllvaine緩衝液およびMcllvaine0.05%を混合することによって調製した。
【表1】
【0063】
D.カラゲナンストック溶液
a)2.4gのイオタ−カラゲナンを秤量し、緩徐な加熱および撹拌の下で蒸留水中に溶解し、蒸留水で1000mlまで満たした。
【0064】
b)2.4gのイオタ−カラゲナンおよび0.8mg/mlのカッパ−カラゲナンを秤量し、光加熱および撹拌の下で蒸留水中に溶解し、1000mlまで蒸留水で満たした。
【0065】
溶液を80℃で1時間置いた後、熱濾過滅菌を行った。
【0066】
市販のカラゲナン製品はしばしば、イオタ−、カッパ−および/またはラムダカラゲナンからなる混合物である。本明細書に言及されるたいていの実施形態について、種々の調製物の製造に使用されるカラゲナン成分は、少なくとも50重量%、通常少なくとも80重量%、および典型的には少なくとも90重量%のイオタカラゲナン、またはイオタ−およびカッパ−カラゲナンの組み合わせのいずれかを、本明細書で使用されるカラゲナン製品中に存在するすべてのカラゲナンの合計に対して含むものとして理解されることになっている。
【0067】
E.実験組成物の調製
シリーズAの試料(0%デクスパンテノール):個々のエスチン濃度(Mcllvaine0.01%、0.02%、0.03%またはMcllvaine緩衝液)を含有する2.5ml溶液を5mlカラゲナンストック溶液および0.5mlブデソニド事前溶液と混合し、10mlまで蒸留水で満たした。
【0068】
シリーズBの試料(2%デクスパンテノール):個々のエスチン濃度(Mcllvaine0.01%、0.02%、0.03%またはMcllvaine緩衝液)を含有する2.5ml溶液を、0.2mlデクスパンテノール、5mlカラゲナンストック溶液および0.5mlブデソニド事前溶液と混合し、10mlまで蒸留水で満たした。
【0069】
シリーズCの試料(5%デクスパンテノール):個々のエスチン濃度(Mcllvaine0.01%、0.02%、0.03%またはMcllvaine緩衝液)を含有する2.5ml溶液を0.5mlデクスパンテノール、5mlカラゲナンストック溶液および0.5mlブデソニド事前溶液と混合し、10mlまで蒸留水で満たした。
【0070】
結果として生じる製剤を80℃で1時間置いた後、熱濾過滅菌した。試料をガラスバイアルに充填し、室温で3か月間保存した。
【0071】
実験組成物の分析
室温で3か月間の保存後、試料を採取し、15700rcfで11分間遠心分離した。透明な上清をガラスバイアルに満たし、溶解したブデソニドの濃度(最高500μg/ml)を二つ組でHPLCによって測定した。
【0072】
HPLC法:
ブデソニドをRP−HPLC(244nmでの紫外吸光検出)によって、55%アセトニトリル、0.01%TFA/45%水、0.01%TFAによる定組成溶離を用いて、1ml/分で7分間、4×4mmのRP8プレカラムを備えたAgilent Zorbax SB C18 3.5μm 4.6×150mmカラムで分析した。ブデソニド含有試料から40μlを注入し分析した。
【0073】
当該システムを、アセトニトリル/水が2:8における、20〜640ng/μlブデソニドの範囲の10個の希釈物で較正した。較正試料から、各25μlを三つ組で注入し、1回の分析当たり0.5〜16μgのブデソニドの範囲に及んだ。
【0074】
溶解度増大実験から得られた結果を以下に説明し、図8aおよび図8bに図示する。実施例1において開示された実験溶液は、局所的使用のための、特に経皮投与または経粘膜投与のための医薬組成物として調整することができる。実施形態において。当該溶液は、点鼻薬として適応させる。
【0075】
本明細書において、点鼻薬は、感受性のある鼻粘膜における望ましくない副作用を回避するために、0.05%(w/v)以下のエスチンを含有することが好ましい。サポニン成分の溶解度増大活性を最適化するために、グリチルリチンおよび/またはキラヤ・サポナリア抽出物を、以後に示す許容され得る濃度でエスチンへ補充し得る。
【0076】
抗炎症性ステロイドとともに当該組成物中に任意に存在するカラゲナンは、抗アレルギー性および/または抗ウイルス性の活性のあるアジュバントとして、当該組成物の全体的な治療有効性に寄与し得る。
【0077】
実施例2:ブデソニド含有点鼻薬(終濃度10%のプロピレングリコール)
溶液の調製物
溶液を実施例1の段落A〜段落Dにおいて説明した通り調製した。
【0078】
実験組成物の調製
シリーズAの試料(0%デクスパンテノール):個々のエスチン濃度(Mcllvaine0.01%、0.02%、0.03%またはMcllvaine緩衝液)を含有する2.5ml溶液を5mlカラゲナンストック溶液、0.5mlプロピレングリコールおよび0.5mlブデソニド事前溶液と混合し、10mlまで蒸留水で満たした。
【0079】
シリーズBの試料(2%デクスパンテノール):個々のエスチン濃度(Mcllvaine0.01%、0.02%、0.03%またはMcllvaine緩衝液)を含有する2.5ml溶液を、0.2mlデクスパンテノール、5mlカラゲナンストック溶液、0.5mlプロピレングリコールおよび0.5mlブデソニド事前溶液と混合し、10mlまで蒸留水で満たした。
【0080】
シリーズCの試料(5%デクスパンテノール):個々のエスチン濃度(Mcllvaine0.01%、0.02%、0.03%またはMcllvaine緩衝液)を含有する2.5ml溶液を0.5mlデクスパンテノール、5mlカラゲナンストック溶液、0.5mlプロピレングリコールおよび0.5mlブデソニド事前溶液と混合し、10mlまで蒸留水で満たした。
【0081】
結果として生じる製剤を加熱し、80℃で1時間維持した後、熱濾過滅菌した。試料をガラスバイアルに充填し、室温で1か月間保存した。
【0082】
実験組成物の分析
室温で1か月間の保存後、試料を採取し、15700rcfで11分間遠心分離した。透明な上清をHPLC分析ガラスバイアルに満たし、溶解したブデソニドの濃度(最高500μg/ml)を二つ組でHPLCによって測定した。HPLC法は、実施例1において説明されるとおりであった。
【0083】
溶解度増大実験から得られた結果を以下に説明し、図9aおよび図9bに図示する。実施例2において開示された実験溶液は、局所的使用のための、特に経皮投与または経粘膜投与のための医薬組成物として調整することができる。実施形態において。当該溶液は、点鼻薬として適応させることができる。
【0084】
実施例3:フルチカゾンプロピオナート含有点眼薬製剤
溶液の調製
A.フルチカゾンプロピオナート事前溶液
1mgのフルチカゾンプロピオナートをガラスフラスコ中で秤量し、プロピレングリコール中に溶解し、プロピレングリコールで10mmlまで充填した。HPLCによって測定されたフルチカゾンプロピオナートの濃度は、100μg/mlであった。
【0085】
B.Mcllvaine緩衝液
実施例1に説明した通りであった。
【0086】
C.エスチン含有Mcllvaine緩衝液
実施例1に説明した通りであった。
【0087】
D.ヒアルロン酸ストック溶液
2.5gのヒアルロン酸を秤量し、緩徐な加熱下で蒸留水中で溶解し、蒸留水で120mlまで充填し、80℃で1時間保持した後、熱濾過滅菌した。
【0088】
実験組成物の調製
シリーズAの試料(0%デクスパンテノール):個々のエスチン濃度(Mcllvaine0.01%、0.02%、0.03%またはMcllvaine緩衝液)を含有する2.5ml溶液を3.6mlヒアルロン酸ストック溶液および0.5mlフルチカゾンプロピオナート事前溶液と混合し、10mlまで蒸留水で満たした。
【0089】
シリーズBの試料(2%デクスパンテノール):個々のエスチン濃度(Mcllvaine0.01%、0.02%、0.03%またはMcllvaine緩衝液)を含有する2.5ml溶液を0.2mlデクスパンテノール、3.6mlヒアルロン酸ストック溶液および0.5mlフルチカゾンプロピオナート事前溶液と混合し、10mlまで蒸留水で満たした。
【0090】
シリーズCの試料(5%デクスパンテノール):個々のエスチン濃度(Mcllvaine0.01%、0.02%、0.03%またはMcllvaine緩衝液)を含有する2.5ml溶液を0.5mlデクスパンテノール、3.6mlヒアルロン酸ストック溶液および0.5mlフルチカゾンプロピオナート事前溶液と混合し、10mlまでADで満たした。
【0091】
結果として生じる製剤を80℃で1時間置いた後、熱濾過滅菌した。試料をガラスバイアルに充填し、室温で1か月間保存した。
【0092】
実験組成物の分析
室温で1か月間の保存後、試料を採取し、15700rcfで11分間遠心分離した。透明な上清をガラスバイアルに満たし、溶解したFPの濃度(最高5μg/ml)を二つ組でHPLCによって測定した。
【0093】
HPLC法:
ヒアルロン酸の存在下でのフルチカゾンプロピオナートをRP−HPLC(235nmでの紫外吸光検出)によって、0.01%のTFAを含有する水中の5%アセトニトリル〜90%アセトニトリルの勾配を用いて分析した(以下の詳細な勾配の説明を参照されたい)。
【0094】
溶媒A:水HPLC勾配等級、0.01%トリフルオロ酢酸。溶媒B:アセトニトリルHPLC勾配等級、0.01%トリフルオロ酢酸、流量1ml/分。5〜90%の溶媒Bの勾配を10分、90%の溶媒Bを2分、90〜5%の溶媒Bを2分、および5%の溶媒Bを1分を、25℃で、4×4 RP−8 Merckプレカラムを備えたHPLCカラムThermo Aquastar 4.6×150mm,S/N 0202797Kで実施した。フルチカゾンプロピオナート含有試料から各40μlを注入し分析した。フルチカゾンプロピオナートは、約9.95分で対称的なピークとして溶出した。
【0095】
当該システムを、1回の分析当たり0,5〜2000ngの範囲を含有する、アセトニトリル/水が4:6における、0.1〜80ng/μlフルチカゾンプロピオナートの範囲の7個の希釈物で較正した。
【0096】
溶解度増大実験から得られた結果を以下に説明し、図10に図示する。実施例3において開示された実験溶液は、局所的使用のための、特に経皮投与または経粘膜投与のための医薬組成物として調整することができる。実施形態において。当該溶液は、点眼薬として適応させる。
【0097】
実施例4:異なる薬剤の溶解度増大
サポニン成分としてのエスチンを含有するMcllvaine緩衝液:
1gのエスチンを秤量し、少量のMcllvaine緩衝液(緩衝液組成:1Lの蒸留水中に溶解した22.52g NaHPO×2HO、7.73gのクエン酸一水和物、および4.0gのEDTA、pH6.0)中に溶解し、Mcllvaine緩衝液で250mlまで充填し、濾過滅菌して、0.4%(w/v)エスチンを含有するストック溶液を作製した。このエスチンストック溶液を使用して、本明細書において、以後、「Mcllvaine0.1%」と呼ぶ、終濃度0.1%エスチンを含有する試料を調製した。
【0098】
試料化合物溶液
10%プロピレングリコール、0.1%エスチン、および5%デクスパンテノールを含有する緩衝した溶媒中の実験化合物の1ml溶液を調製するために、以下の化合物を小さな容器において提供した。
【0099】
250μlの「Mcllvaine0.1%」を50μlのデクスパンテノールストック溶液と混合し、蒸留水で900μlにし、プロピレングリコール中に事前に懸濁しておいて個々に事前に溶解しておいた100μlの実験化合物と組み合わせて激しく混合した。DMSO中の化合物の事前希釈物/事前懸濁液を含有する代替的な溶液を調製した。試料を15800rcfで10分間遠心分離した。一定分量の透明な上清をオートサンプラーのガラスバイアルに移し、溶解した実験化合物の内容物を、HPLCによって70%または80%アセトニトリル、0.01%TFA/10%または30%水、0.01%TFAによる定組成溶離を用いて、1ml/分および50℃で10分間、Agilent Zorbax Eclipse Plus C18カラム(3.5μm、4.6×150mm)および個々の実験化合物に適した波長での紫外吸光検出で分析した。
【表2】
【0100】
実施例5(比較実施例):サポニン成分の非存在下での水溶液中のブデソニドの溶解度
図1は、0%(w/v)、5%(w/v)、10%(w/v)および15%(w/v)のプロピレングリコールを含有する、サポニン成分の添加のないおよびデクスパンテノールの非存在下での0.25×Mcllvaine緩衝液(pH6.0に調整)中での糖質コルチコイドであるブデソニドの溶解度を表す。
A・・・緩衝液
B・・・5%プロピレングリコール
C・・・10%プロピレングリコール
D・・・15%プロピレングリコール
y軸・・・溶解したブデソニドの濃度
【0101】
皮膚に対する局所的な適用以外のたいていの適用に対して薬理学的に許容され得ない15重量%のプロピレングリコール濃度でさえ、溶解したブデソニド濃度は、175μg/mlと低い。
【0102】
実施例6:サポニン成分の存在下での水溶液中のブデソニドの溶解度
図2aおよび図2bは、5%(図2a)および10%(図2b)のプロピレングリコール(最大濃度550μg/ブデソニドml)を含有する0.25×Mcllvaine緩衝液における大気温(T約20〜25℃)での1か月間の保存後になおも溶解していたブデソニドの濃度を指す。結果は、0.01〜0.02%(w/v)のエスチンのみの添加が当該ステロイドの溶解度を劇的に増大させることを示す。エスチン濃度のさらなる増大は、実質的に付加的な利益を伴わないままである。追加成分としてのデクスパンテノールの添加は、ステロイドの溶解度に干渉しない。
図2a:5%プロピレングリコール、図2b:10%プロピレングリコール
A・・・0%デクスパンテノール
B・・・1%デクスパンテノール
C・・・2%デクスパンテノール
D・・・5%デクスパンテノール
y軸・・・μg/溶解したブデソニドml
x軸・・・%(w/v)エスチン
【0103】
実施例7:保存安定性に及ぼすデクスパンテノールの効果
図3aおよび図3bは、図2a/図2bのものと同一のデータセットに基づいているが、大気温(T約20〜25℃)における保存の3か月後である。
図3a:5%プロピレングリコール、図3b:10%プロピレングリコール
A・・・0%デクスパンテノール
B・・・1%デクスパンテノール
C・・・2%デクスパンテノール
D・・・5%デクスパンテノール
y軸・・・μg/溶解したブデソニドml
x軸・・・%(w/v)エスチン
【0104】
デクスパンテノールの添加は、実験溶液の安定性を、特により低いプロピレングリコール濃度(図3a)で、および非常に低いエスチン濃度で改善するように見える。また、実験溶液における10%プロピレングリコールで、2〜5%(v/v)デクスパンテノールの添加は、エスチンの非存在下でステロイドの溶解度を増大させるように見える(図3b)。この場合、本実施例において意味する実験組成物が点眼薬として有利に製剤され得ることは言及され得る。
【0105】
実施例8:ブデソニドの溶解度に及ぼすデクスパンテノールの影響
図4は、0.03%(w/v)エスチンおよび5%(v/v)デクスパンテノールが、プロピレングリコールの非存在下でMcllvaine緩衝液中のブデソニドの溶解度を独立して増大させることを表す。0.03%エスチンおよび5%デクスパンテノール(図4のカラムDを参照されたい)において、相乗性が生じるように見え、すなわち、ステロイドの溶解度は単なる相加効果を超えて増強するように見える。だが、この緩衝系における、すなわち、プロピレングリコールの非存在下におけるブデソニドの溶解度は、プロピレングリコール単独の存在下で、すなわち、エスチンおよびデクスパンテノールの非存在下で達成される相応の値以下のままである(図2a、図2b、および図3a、図3bを参照されたい)。唯一の例外は、プロピレングリコール単独で達成された溶解度の値を中程度に超過するカラムDにおける値である。
A・・・0%エスチン/0%デクスパンテノール
B・・・0%エスチン/5%デクスパンテノール
C・・・0.03%エスチン/0%デクスパンテノール
D・・・0.03%エスチン/5%デクスパンテノール
y軸・・・溶解したブデソニドの濃度(μg/ml)
【0106】
実施例9:ステロイドの溶解度に及ぼすグリチルリチンおよびキラヤ・サポナリア抽出物の効果
図5は、グリチルリチンおよび、キラヤ・サポナリア抽出物由来のサポニンが、デクスパンテノールの非存在下でステロイドの溶解度に及ぼす実質的な効果を有することなく留まっていることを表す。しかしながら、デクスパンテノールの存在下で、これらのサポニンは、実験溶液中でそれぞれ0.03%または0.05%の濃度で提供される時、5%のデクスパンテノールの非存在下または存在下で、同じ濃度のエスチンを用いて達成されるものに匹敵する程度まで、ブデソニドの溶解度を改善することができる。キラヤサポニンについては、このことは、0.1%のサポニン濃度でも当てはまるが、グリチルリチンについてはそうではない。エスチンは、サポニンおよびデクスパンテノールの濃度全部にわたる最も一貫した性能を呈し、ブデソニドの溶解度における最高10倍の増大を達成する。
A・・・エスチン
B・・・グリチルリチン
C・・・キラヤ抽出物
・・・%(w/v)サポニン成分(エスチン、グリチルリチンまたはキラヤ抽出物)
#・・・%(v/v)デクスパンテノール
y軸・・・溶解したブデソニドの濃度
【0107】
実施例10:種々の設定におけるフルチカゾンプロピオナートの溶解度
図6は、プロピレングリコール(0%、5%、および10%)、エスチン(0%、0.03%、0.1%)およびデクスパンテノール(0%、2%、5%)の組み合わせを含有する0.25×Mcllvaine緩衝液(pH6に調整)における糖質コルチコイドであるフルチカゾンプロピオナートについての溶解度データを表す。
A・・・0%プロピレングリコール
B・・・5%プロピレングリコール
C・・・10%プロピレングリコール
・・・%(w/v)エスチン
#・・・%(v/v)デクスパンテノール
y軸・・・溶解したフルチカゾンプロピオナートの濃度
【0108】
実験化合物の最良の溶解が、少なくとも0.03%のサポニン成分の存在下での最大濃度のプロピレングリコールおよびデクスパンテノールにおいて達成されるようである。さらに、フルチカゾンプロピオナートの溶解度が。PGの濃度の増大とともに、およびデクスパンテノール濃度の増大とともに、いかなるサポニン成分の非存在下でさえ独立して増大することは、データから推測できる。しかしながら、サポニンなしでの達成される最良濃度は、少なくとも0.03%のサポニン、すなわち、本実施例ではエスチンの存在下で得られる最大濃度の約50%に過ぎない。
【0109】
実施例11:フルチカゾンプロピオナートの溶解度に及ぼすデクスパンテノールおよびグリチルリチンの濃度の効果
図7は、5%プロピレングリコールを含有する0.25×Mcllvaine緩衝液中のフルチカゾンプロピオナートの溶解に及ぼすデクスパンテノールおよびサポニンの濃度の影響を表す(達成される最大濃度=5μg/ml)。結果は、サポニン成分としての0.5〜1%グリチルリチンの追加量が、溶解度を最高9倍増大させることを実証する。5%デクスパンテノールの存在は、溶解度上昇効果をもたらすようにみえる。
A・・・0%デクスパンテノール
B・・・5%デクスパンテノール
y軸・・・溶解したフルチカゾンプロピオナートの濃度
x軸・・・%グリチルリチン
【0110】
実施例12:カラゲナン成分の存在下でのブデソニドの溶解度
図8aは、5%プロピレングリコールおよび1.2g/Lイオタ−カラゲナンを含有するMcllvaine緩衝液中の溶解したブデソニド(y軸)と、大気温(T約20〜25℃)での3か月間の保存後のデクスパンテノールおよびエスチンの濃度変化との関連性を表す。0%(v/v)デクスパンテノール濃度(シリーズA)、2%(v/v)デクスパンテノール濃度(シリーズB)、または5%(v/v)デクスパンテノール濃度(シリーズC)であり、x軸=エスチン濃度である。
【0111】
図8bは、図8aにあるような同一の実験設定から得られた類似のデータを表すが、例外は、実験溶液がさらに、0.4g/Lカッパ−カラゲナンを含有していたという事実である。
A・・・0%デクスパンテノール
B・・・2%デクスパンテノール
C・・・5%デクスパンテノール
x軸・・・%(w/v)エスチン
y軸・・・μg/mlブデソニド
【0112】
3か月間の保存後に観察される最大濃度の薬剤に、少なくとも0.03%エスチンを含む調製物、および検査された最大濃度のデクスパンテノール、すなわち、5%デクスパンテノールとともに少なくとも0.02%のエスチンを含む調製物が付随するようである。本実施例においておよび以後の実施例13において使用される実験組成物は、点鼻薬としての使用に有利に適応し得る。
【0113】
実施例13:カラゲナンの存在下でのブデソニドの溶解度および保存安定性
図9aは、大気温における1か月間の保存後の10%プロピレングリコール、1.2g/Lイオタ−カラゲナン、および任意に一方ではデクスパンテノール、もう一方ではサポニン濃度を含有するMcllvaine緩衝液中の溶解したブデソニドの濃度(y軸)の関連性を表し、x軸=エスチン濃度である。
【0114】
図9bは、図9aにあるような同一の実験設定から得られた類似のデータを表すが、例外は、実験溶液がさらに、0.4g/Lカッパ−カラゲナンを含有していたという事実である。
A・・・0%デクスパンテノール
B・・・2%デクスパンテノール
C・・・5%デクスパンテノール
x軸・・・%(w/v)エスチン
y軸・・・μg/mlブデソニド
【0115】
図8a、図8bおよび図9a、図9bにおいて図示される結果から、実験溶液におけるカラゲナンの存在が、実験的ステロイド化合物の溶解度に実質的に干渉しないことは推測されることができる。より低濃度のプロピレングリコール(例えば、5%)では、サポニン成分を0.01%から0.02%または0.03%までわずかに増大させることは有用であり得る。
【0116】
実施例14:ヒアルロン酸の存在下でのフルチカゾンの溶解度に及ぼすエスチンおよびデクスパンテノールの濃度変化の効果
図10は、大気温における1か月間の保存後のエスチンの濃度変化(x軸)と関連した、5%プロピレングリコール、7.5g/lヒアルロン酸、および任意にデクスパンテノールを含有するMcllvaine緩衝液中の溶解したフルチカゾンプロピオナートの濃度(y軸)を表す。
A・・・0%デクスパンテノール
B・・・2%デクスパンテノール
C・・・5%デクスパンテノール
x軸・・・%(w/v)エスチン
y軸・・・μg/mlフルチカゾンプロピオナート
【0117】
デクスパンテノールは、所与の環境下で、すなわちヒアルロン酸の存在下で、フルチカゾンプロピオナートに及ぼすエスチンの溶解度増大活性を相乗的に押し上げるように見える。サポニン成分の非存在下で、検査された濃度でのデクスパンテノールの添加は、フルチカゾン溶解度に及ぼすいかなる有意な効果も発揮しない。
【0118】
実施例15:可溶化はミセルの存在と相関する
臨界ミセル濃度を下回る洗浄剤を含有する水および水性緩衝液中で、ヘキスト33342色素の蛍光はほぼ検出不可能である。洗浄剤の濃度上昇の際に、臨界ミセル濃度に到達するまで、ミセルは形成し始め、色素はミセルへと組み込まれ、その際、蛍光シグナルの増大を検出することができる。本実施例の実験のために、色素は、7μMの終濃度で、異なる濃度のサポニンを含む水性緩衝液と、黒色の透明な平底96穴プレートの中で混合され、マイクロプレートリーダーを用いて発光スペクトルを測定した(使用フィルター:励起=355nmおよび発光=460nm)。最後に、データを背景補正した。
【0119】
図11aおよび図11bに示されるように、ヘキスト33342色素の蛍光は、サポニンの濃度上昇とともに増大する。エスチンについては、0.02%の濃度は、ミセルの形成を惹起するのに十分である。グリチルリチンを用いて同じ蛍光レベル(RFU=相対蛍光単位)を達成するために、0.5%の最低濃度(すなわち、25倍の増大)が必要とされる。これまで実施された実験は、ミセルが、種々の疎水性化合物を溶液中へ実質的に組み入れるのに必要とされるサポニン濃度で形成されているという明確な証拠を提供する。おそらく、ミセルの形成は、このような難溶性化合物の可溶化を改善する鍵である。
【0120】
さらに、疎水性有機化合物をミセル構造へと組み込むことは、このような化合物を望ましくない加水分解から保護することにも貢献するであろうし、薬剤の場合、生理活性を維持するのを支援するであろう。
【0121】
それゆえ、本発明に従って実施される可溶化の方法が、最終的な調製物におけるミセル構造の形成を結果的に生じる方法で実施されることは好ましい。ミセルの形成は、グリチルリチンをサポニン成分として使用する時に、特殊なグリチルリチン−薬剤複合体の形成を教示する一部の最先端技術とは対照的に想定される。したがって、第一のステップにおいて不溶性またはわずかに可溶性の疎水性有機化合物を適切な医薬としてまたは化粧として許容され得る有機溶媒中に高濃度で溶解し、第二のステップにおいてこの溶液を、サポニン成分および任意にデクスパンテノールを含む類似の許容され得る水性溶媒系へ、緩徐な撹拌の下で、20〜80℃、特に30〜40℃の温度で、かつ4〜8のpHで組み入れることは有利である。有機および水性の溶液混合のステップを切り替えて、水相を有機相へ組み入れることは、ミセル構造の形成を実質的に妨害するであろうし、したがって本発明の有利な効果を実質的に低下させるであろうから、好ましくない。
【0122】
50℃を上回る温度はミセル構造を破壊する傾向にあり、一時的な過熱が最終生成物に対して常に有害ではないかもしれないが、80℃以上の温度ではミセルは全く形成されず、少なくともその状態では、実験化合物は熱感受性ではない。実験は、その後、手短に過熱した調製物を50℃を下回る温度へと冷却すると、たいていの場合、少なくともミセル構造を修復することを示してきた。
【0123】
pH4〜8の好ましい範囲の外側のpH値を適用すると、望ましくない副作用、例えば、刺激、疼痛およびその他を、例えば、鼻、眼、気道、肺、または生殖領域および肛門直腸領域の粘膜表面への医薬組成物の投与の際に生じるであろう。また、4を下回るpH値では、エスチンは分解する傾向にあり、グリチルリチンは凝固する傾向にある。その上、8を上回るpH値は、例えば、皮下、皮内、真皮内、静脈内、筋肉内、関節内、くも膜下腔内(intrathekal)、脊髄内、心内、腹腔内または肺内への注射を含む種々の想定される種類の注射に企図された調製物に対して許容され得ない。
【0124】
蛍光色素が、ミセル形成溶媒系における疎水性有機化合物の溶解を確認するための分析ツールとして使用され得ることも、本明細書で想定される。蛍光色素は、水性溶媒系における水不溶性またはわずかに可溶性の疎水性有機化合物の溶解度の改善のための当該が豪物の適格性を判定する迅速かつ単純な方法において適用することができ、すなわち、検出可能な蛍光は、ミセル形成の開始、それゆえ、個々の化合物の可溶化を定量的にではない場合、少なくとも定性的に示す。したがって、蛍光色素は、本発明の方法に従って改善された可溶化に適している化合物の構造的な定義よりもむしろ機能的な定義として、本発明の境界を判定するための指針を提供することができた。
【0125】
実施例16:凍結乾燥は実質的な損失なしで再構成することのできる乾燥製剤を可能にする
凍結乾燥実験を、溶媒としてエタノールをおよび凍結乾燥亢進剤としてトレハロースを含有する溶解したFK−605を用いて実施した。より具体的には、100%エタノール中に溶解したFK−506を、5%エタノール、クエン酸緩衝液pH6.0、1%(10mg/ml)グリチルリチン、0.03%(0.3mg/ml)エスチンおよび150mMトレハロースを含む最終溶液へ1:20希釈した。この液体製剤を液体窒素中で急速凍結させた後、Alpha 1−4LSCplus凍結乾燥システムにおいて凍結乾燥させた。凍結乾燥後、この製剤を、50mg/mlデクスパンテノールおよび30mg/mlまたは50mg/mlのいずれかのプロピレングリコールを含有する水の中で再構成した。凍結乾燥前および再構成24時間後の溶解したFK−506の濃度をHPLCによって測定した。
【0126】
図13において、上部のケース文字は以下を指す。
A・・・30mg/ml(3%)プロピレングリコールで再構成されたFK−506(100μg/ml)
B・・・30mg/ml(3%)プロピレングリコールで再構成されたFK−506(300μg/ml)
C・・・50mg/ml(5%)プロピレングリコールで再構成されたFK−506(100μg/ml)
D・・・50mg/ml(5%)プロピレングリコールで再構成されたFK−506(300μg/ml)
1・・・凍結乾燥前のFK−506、2・・・凍結乾燥および再構成後のFK−506、y軸は、μg/ml溶解したFK−506を示す。
【0127】
図13から得られることができるように、本発明の原理は、本発明に従って可溶化した関心対象の化合物の液体組成物を第一のステップにおいて生成するために、および当該組成物を第二のステップにおいて凍結乾燥させるために適用することもできる。その際、第三のステップにおいて、化粧としてまたは医薬として許容され得る水性組成物への凍結乾燥した材料の再構成は、個々の化合物の実質的な損失なしで実施され得る。このことは、関心対象の化合物がその最終的な液剤、クリーム剤、ゲル剤または軟膏などの形態において必ずしも保存される必要がないが、代わりに、凍結乾燥物として保存され得、デクスパンテノールに加えて所望の場合、さらなる添加物で任意に補充された適切な水性緩衝液系を用いて最終的な形態へと再構成され得ることを意味する。このことは、短命の、容易に分解可能な、またはさもなくば迅速に悪化する有効物質、とりわけ多くの有用な疎水性薬剤の長期保存に特に有益であり得る。
【0128】
実施例17:粘膜投与−生物学的利用率検査
本発明に従って調製された組成物の生物学的利用率について検査するために、実験をエクスビボで実施し、この中で、フルチカゾンプロピオナートを関心対象の化合物として含む実験組成物を、同じ濃度の同じ化合物を含むが可溶化亢進剤としてサポニンを含有しない組成物と比較した。
【0129】
図14は、異なる時点でのブタ鼻粘膜へのエクスビボで浸透したフルチカゾンの濃度を表す。実験組成物は、0.03%エスチン、3%プロピレングリコールおよび5%デクスパンテノールを含む水性緩衝液中に溶解した5μg/mlフルチカゾンプロピオナートを含んでいた。比較標品は、同じ水性緩衝液を含むがサポニンもデクスパンテノールも含まない懸濁液とした。両製剤をエクスビボで外科的に摘出したブタ鼻粘膜へ添加した。インキュベーションの15、30、45および60分後、粘膜を洗浄し、透過したフルチカゾンプロピオナートの量をHPLC−MS/MSによって測定した。
A−実験組成物、
B−比較フルチカゾンプロピオナート懸濁液、
x軸=インキュベーション時間(分)
y軸=フルチカゾンプロピオナートng/組織g
【0130】
本結果は、粘膜組織へうまく浸透した有効薬剤の濃度が、非実験薬懸濁液と比較して、本発明に従って調製した実験組成物を用いる時、約5倍高いことを非常に精密に示している。
【0131】
実施例18:ブデソニドのインビボでの生理活性の比較
実験をマウスモデルにおいて、0.03%エスチン、5%デクスパンテノールおよび5%プロピレングリコールを水性緩衝液中に含む実験組成物とは対照的に、2つの異なる濃度の最先端の懸濁液として投与されるブデソニドの生物学的利用率および生理活性を比較するために実施した。
【0132】
LPS誘発性急性肺炎モデルにおいて、麻酔したマウスに、LPS負荷の3時間前に、偽薬でまたは300μg/mlの溶解したブデソニドを含む実験溶液で、またはそれぞれ300μg/mlおよび1.28mg/mlの濃度の分散液として製剤されたブデソニドの比較組成物で鼻内処置した。気管支肺胞洗浄(BAL)へのLPS誘発性TNF−アルファ放出を炎症についての代用パラメータとして、市販のELISAキットを用いて負荷2時間後に評価した。結果を図15に図示する。
【0133】
図15は、偽薬対照の百分率(=100%)におけるBALへと放出された個々のTNF−アルファ濃度を表す。
A−ブデソニド懸濁液(1.28mg/ml)、
B−ブデソニド懸濁液(300μg/ml)、
C−実験溶媒中に溶解したブデソニド懸濁液(300μg/ml)、
x軸=検査した試料、
y軸=偽薬対照の%(100%)におけるBALへと放出されたTNF−アルファ。
【0134】
図15から、インビボでのマウスモデルにおいて、比較ブデソニド製剤は、本発明に従って提供された実験ブデソニド調製物と比較して、最大検査濃度でさえ、LPS負荷の際にTNFアルファレベルを抑圧する上でほとんど有効ではないことが得られることができる。
【0135】
先の実施例1〜18において開示された、および対応する図において表される実験から得られたデータから、エスチン、および任意にデクスパンテノールのようなサポニン成分の添加が水性溶媒系における関心対象の溶解した不溶性またはわずかに可溶性の疎水性有機化合物の濃度を最高1桁以上の程度まで増大させることができおよび任意に安定化させることができることが推測できる。だが、この場合において、粘膜適用または経粘膜適用に適した組成物を提供するために、最終的な使用準備済み組成物に関して、エスチンの最大濃度は好ましくは0.5%(w/v)を超過すべきではなく、グリチルリチンの最大濃度は好ましくは5%(w/v)を超過すべきではなく、デクスパンテノールの最大濃度は好ましくは5%を超過すべきではなく、かつプロピレングリコールの最大濃度は好ましくは10%(w/v)を超過すべきではないことは強調されることになっている。
【0136】
さらに、本明細書で開示される実験結果は、最も適切なサポニン成分としてのエスチンが疎水性有機化合物のいくつかのクラスの溶解度を実質的に増大させるだけでなく、これらのクラスのうちの1つから選択される所与の化合物について、長期保存のために結果として生じる溶液の溶解度の最良の改善および最良の安定化を達成するために、エスチンおよびデクスパンテノールの濃度を具体的に調整することが可能であるという結論も可能となるという明白な証拠を提供する。また、元来疎水性であり、および水不溶性またはわずかに可溶性である限り、本明細書で説明される成功結果が、可溶化されることになっている有機化合物におけるいかなる特定の化学構造の存在にも依存しないことがデータから得られることができる。
【0137】
当業者は、本明細書で言及される図面を含む本開示から、水または水性溶媒中で不溶性またはわずかに可溶性であるに過ぎない何らかの疎水性有機化合物が、医薬として活性のある薬剤、所望の化粧成分または別の化学物質であるかどうかにかかわらず、本発明の原理が当該有機化合物の可溶化を改善するために適用することができることを理解するであろう。
【0138】
本発明と関連した特定の関心対象の化合物は、その至適使用が溶解度の制約によってしばしば妨げられる種々の薬剤を含む。本発明は、当該化合物の多くを実質的に増大したレベルの溶液に含める上での改善を提唱し得るだけでなく、さらに有用性を医学療法または化粧の適用可能性に関する新規の分野へ、場合により拡大さえし得る。
【0139】
難溶性が本発明を用いて改善され得るまだ上述していない関心対象の化合物の例は、とりわけ以下を含む。
a.鎮痛薬および抗リウマチ薬
例えば、モルヒネ、コデイン、ピリトラミド、フェンタニル、レボメタドン、トラマドール、ジクロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、ピロキシカムなど、
b.抗アレルギー薬
例えば、フェニラミン、ジメチンデン、テルフェナジン、アステミゾール、ロラチジン、ドキシルアミンおよびメクロジンなど、
c.抗生物質および化学療法薬
例えば、リファンピシン、エタンブトール、チアセタゾンなど、
d.抗てんかん薬
例えば、カルバマゼピン、クロナゼパム、メスキシミド、フェニトイン、バルプロ酸など、
e.抗真菌薬
例えば、ナタマイシン、アンフォテリシンB、ミコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、フェンチコナゾール、ビフォナゾール、ケトコナゾール、トルナフタートなど、
f.抗マラリア薬
例えば、クロロキン、メフロキン、アルテミシニン、プリマキン、クメファントリン、ハロファントリンなど、
g.コルチコイド
例えば、アルドステロン、ブデソニド、フルドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、フルオコルトロン、フルチカゾンプロピオナート、ヒドロキシコルチゾン、プレドニゾロン、プレニリデン、クロプレドノール、メチルプレドニゾロンなど
h.ダーマティクス
例えば、テトラサイクリン、エリスロマイシン、フラミセチン、チロスリシン、フシジン酸、ビダラビンのようなビロスタティクス、を含む群由来の抗生物質、
アムシノニド、フルプレドニデン、アルクロメタゾン、クロベタゾール、ジフォラゾン、ハルシノニド、フルオシノロン、クロコルトロン、フルメタゾン、ジフルコルトロン、フルドロキシコルチド、ハロメタゾン、デスオキシメタゾン、フルオシノフィド、フルオコルチンブチル、フルプレドニデン、プレドニカルバート、デソニドを含む群由来のコルチコイド
i.催眠薬および鎮痛薬
例えば、シクロバルビタール、ペントバルビタール、メタクアロン、フルアゼパム、ミダゾラム、ニトラゼパム、ロルメタゼパム、フルニトラゼパム、トリアゾラム、ブロチゾラム、テマゼパム、ロプラゾラムを含む群由来のベンゾジアゼピン類など
j.免疫治療薬およびサイトカイン類
例えば、アザチオプリン、シクロスポリン、ピメクロリムス、シロリムス、タクロリムス、ラパマイシンなど、
k.局所麻酔薬
ブタニリカイン、メピバカイン、ブピバカイン、エチドカイン、リドカイン、アルチカイン、オキシブプロカイン、テトラカイン、ベンゾカインなど、
l.抗片頭痛薬
例えば、リスリド、メチルセルギド、ジヒドロエルゴタミン、エルゴタミンなど、
m.麻酔薬
例えば、メトヘキシタール、プロポフォール、エトミダート、ケタミン、チオペンタール、ドロペリドール、フェンタニルなど、
n.副甲状腺ホルモン、カルシウム代謝調節薬
例えば、ジヒドロタキステロールなど
o.点眼薬
例えば、シクロドリン、シクロペントラート、ホモトロピン、トロピカミド、フォレドリン、エドクスジン、アシクロビル、アセタゾラミド、ジクロフェナミド、カルテオロール、チモロール、メチプラノロール、ベタキソロール、ピンドロール、ブプラノロール、レボブヌノール、カルバコールなど、
p.向精神薬
例えば、ロラゼパムおよびジアゼパムを含むベンゾジアゼピン類、クロメチアゾールなど、
q.性ホルモンおよびその阻害薬
例えば、タンパク同化薬、アンドロゲン、抗アンドロゲン、ゲスタゲン、エストロゲン、抗エストロゲンなど、
r.細胞分裂阻害薬および転移抑制薬
例えば、メルファラン、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、トロホスファミド、クロラムブチル、ブスルファン、プレドニムスチン、チオテパを含む群由来のアルキル化薬、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニンを含む群由来の代謝拮抗薬、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンを含む群由来のアルカロイド類、ダクチノマイシンのような抗生物質、タキソールおよび関連するまたは類似の化合物、ダカルバジン、エストラムスチン、エトポシドなど。
【0140】
本明細書に開示される実験は主として、エスチンをサポニン成分として使用して実施されてきたが、グリチルリチンおよびキラヤ・サポナリア抽出物が、先に開示したように、特にデクスパンテノールの存在下で溶解度押し上げ活性を発揮することが発見されていることも反復されることになっている。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9a
図9b
図10
図11a
図11b
図12
図13
図14
図15