【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年7月20日 一般社団法人 日本建築学会発行 「2015年度 日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集」にて公開 平成27年9月5日 一般社団法人 日本建築学会主催 「2015年度 日本建築学会大会(関東)」にて公開
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変位規制部材は、前記上側フランジ部と前記下側フランジ部との間に配置されるとともに、平面視にて前記拡幅部における前記柱と反対側の端部側に位置し、前記上側フランジ部と前記下側フランジ部とに接合される端部リブを含む、
請求項1に記載の片側拡幅鉄骨梁の補強構造。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る片側拡幅鉄骨梁の補強構造について説明する。
【0020】
先ず、第1実施形態について説明する。
【0021】
(片側拡幅鉄骨梁)
図1及び
図2には、本実施形態に係る片側拡幅鉄骨梁の補強構造10が適用された片側拡幅鉄骨梁12が示されている。片側拡幅鉄骨梁12は、例えば、構造物の外周部に配置される外周梁とされ、外装材16(
図2参照)等を支持する。この片側拡幅鉄骨梁12は、鉄骨梁20と、一対の拡幅部40と、一対の端部リブ50とを備えている。
【0022】
(鉄骨梁)
図2に示されるように、鉄骨梁20は、H形鋼で形成されており、一対の上側フランジ部22及び下側フランジ部24と、一対の上側フランジ部22及び下側フランジ部24を接続するウェブ部26とを有している。上側フランジ部22と下側フランジ部24とは、上下方向(梁成方向)に互いに対向して配置されている。また、上側フランジ部22の上には、例えば、鉄筋コンクリート造のスラブ14が設けられる。このスラブ14と上側フランジ部22とは、上側フランジ部22の上面に設けられた図示しない複数のスタッド等を介して接合される。
【0023】
上側フランジ部22と下側フランジ部24との間には、ウェブ部26が配置されている。ウェブ部26の上下の端部は、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の幅方向の中央部にそれぞれ接合されている。また、上側フランジ部22及び下側フランジ部24は、ウェブ部26から当該ウェブ部26の板厚方向の両側(矢印W1側及び矢印W2側)へそれぞれ張り出している。この鉄骨梁20は、いわゆるノンブラケット形式の鉄骨梁とされており、その端部20Eが、例えば、現場において鉄骨柱30の仕口部30Jに溶接等によって接合されている。
【0024】
図1に示されるように、鉄骨柱30は、角形鋼管によって形成されている。なお、鉄骨柱30は、角形鋼管に限らず、例えば、丸形鋼管やH形鋼等であっても良いし、CFTであっても良い。この鉄骨柱30の仕口部30Jには、一対のダイアフラム32が設けられている。一対のダイアフラム32は、例えば、通しダイアフラムとされている。この一対のダイアフラム32は、鋼板等で板状に形成されており、鉄骨柱30の材軸方向に互いに対向して配置されている。
【0025】
一対のダイアフラム32には、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の鉄骨柱30側の端部がそれぞれ突き当てられた状態で溶接等によって接合されている。また、仕口部30Jの側面30Sには、ウェブ部26の鉄骨柱30側の端部が溶接等によって接合されている。なお、鉄骨梁20のウェブ部26は、ガセットプレート及びボルト等を介して鉄骨柱30の側面30Sに接合されても良い。また、一対のダイアフラム32は、通しダイアフラムに限らず、内ダイアフラム又は外ダイアフラム等であっても良い。
【0026】
(拡幅部)
図3及び
図4に示されるように、鉄骨梁20の鉄骨柱30側の端部20Eには、当該端部20Eにおける上側フランジ部22及び下側フランジ部24のフランジ幅Dをウェブ部26の一方側(矢印W1側であり、以下、「拡幅側」ともいう)へのみ広げる一対の拡幅部40が設けられている。一対の拡幅部(拡幅プレート)40は、鋼板等によって板状に形成されている。また、一対の拡幅部40は、平面視にて三角形状(直角三角形状)に形成されており、鉄骨柱30側へ向かうに従って、その幅dが徐々に広くなるように配置されている。
【0027】
一対の拡幅部40は、ウェブ部26から拡幅側へ延出する上側フランジ部22及び下側フランジ部24の延出方向先端側の端部(先端部)22A,24Aに沿ってそれぞれ設けられている。換言すると、一対の拡幅部40は、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の長手方向に沿った端部22A,24Aに沿ってそれぞれ設けられている。
【0028】
また、一対の拡幅部40は、各々の端部40Aが上側フランジ部22及び下側フランジ部24の端部22A,24Aに突き合わされた状態で溶接等によって接合されており、当該端部22A,24Aからウェブ部26の一方側へそれぞれ延出されている。これにより、鉄骨梁20の端部20Eでは、上側フランジ部22及び下側フランジ部24のフランジ幅D(拡幅部40を含む)が、一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40Bから鉄骨柱30へ向かうに従って徐々に広げられている。また、一対の拡幅部40の鉄骨柱30側の端部40Cは、一対のダイアフラム32にそれぞれ突き当てられた状態で溶接等によって接合されている。
【0029】
ここで、
図3に示されるように、鉄骨梁20は、鉄骨柱30に対して当該鉄骨柱30の幅方向の一方側(拡幅側と反対側)に寄せられた状態で配置されている。つまり、鉄骨柱30の材軸(柱心)C2は、鉄骨梁20の材軸C1上から拡幅側に外れた位置(離れた位置)に配置されている。この鉄骨柱30に対して、鉄骨梁20の端部20Eが偏心した状態で接合されている。
【0030】
図2に示されるように、鉄骨梁20の拡幅側と反対側には、例えば、外装材16が配置されている。外装材16は、例えば、コンクリートパネルやスパンクリートパネル等の外壁材や各種の仕上げ材とされる。この外装材16は、上側フランジ部22に設けられた複数のブラケット18に取り付けられる。なお、鉄骨梁20に対する外装材16の取付構造は、適宜変更可能である。また、上側の拡幅部40は、例えば、図示しないスタッド等を介してスラブ14に接合される。
【0031】
(端部リブ)
図3に示されるように、ウェブ部26の両側には、一対の変位規制部材としての一対の端部リブ50が設けられている。一対の端部リブ50は、鋼板等によって板状に形成されている。この一対の端部リブ50は、ウェブ部26の両側において、上側フランジ部22と下側フランジ部24の間に、鉄骨梁20の材軸方向(矢印X1,X2方向)を板厚方向として配置されている。
【0032】
一対の端部リブ50は、鉄骨梁20の材軸方向の位置が、一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40B側に位置されている。なお、ここでいう一対の拡幅部40の端部40B側とは、例えば、拡幅部40の全長(鉄骨梁20の材軸方向に沿った長さ)をLとすると、一対の拡幅部40の端部40Bから鉄骨梁20の材軸方向の両側へそれぞれ0.25Lの領域(端部40Bの周辺領域)を意味する。
【0033】
図2に示されるように、一対の端部リブ50は、上側フランジ部22の下面、下側フランジ部24の上面、及びウェブ部26の側面に溶接等によって接合されている。これにより、一対の端部リブ50によって上側フランジ部22と下側フランジ部24とが連結され、上側フランジ部22に対する下側フランジ部24のウェブ部26の板厚方向の変位が規制されている。
【0034】
次に、第1実施形態の作用について説明する。
【0035】
本実施形態に係る片側拡幅鉄骨梁の補強構造10によれば、鉄骨梁20は、ノンブラケット形式の鉄骨梁とされており、その端部20Eが現場において鉄骨柱30の仕口部30Jに溶接等によって接合される。
【0036】
ここで、地震時に鉄骨梁20に作用する正方向の曲げモーメントは、鉄骨梁20の両端、すなわち鉄骨梁20と鉄骨柱30との溶接部(接合部)で最大となる。一方、現場での溶接部(現場溶接部)は、品質管理が困難な場合が多い。したがって、地震時には、鉄骨梁20と鉄骨柱30との溶接部に破壊等が生じ易く、鉄骨梁20に十分な耐力を発揮させることが困難になる可能性がある。
【0037】
これに対して本実施形態では、鉄骨梁20の端部20Eに一対の拡幅部40が設けられている。この一対の拡幅部40によって、ウェブ部26から一方側(矢印W1側)へ張り出す上側フランジ部22及び下側フランジ部24のフランジ幅Dが広げられている。これにより、鉄骨梁20の端部20Eにおいて、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の断面積が増加するため、鉄骨梁20と鉄骨柱30との溶接部に作用する応力が低減される。
【0038】
また、地震時に鉄骨梁20に発生する曲げモーメントは、前述したように、鉄骨梁20と鉄骨柱30との溶接部で最大となり、鉄骨梁20の材軸方向の中央側(矢印X1側)に向かうに従って小さくなる。これに対して本実施形態では、鉄骨梁20の端部20Eに一対の拡幅部40を設けたことにより、塑性ヒンジが発生する位置が鉄骨梁20の材軸方向の中央側へ移動する。より具体的には、塑性ヒンジが発生する位置が、一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40B付近に移動する。これにより、鉄骨梁20と鉄骨柱30との溶接部よりも曲げモーメントが小さい位置で、鉄骨梁20に塑性ヒンジを発生させることができる。
【0039】
しかも、鉄骨梁20と鉄骨柱30との接合部(溶接部)では、一般に、鉄骨梁20の曲げ耐力を算定する際にウェブ部26の断面積を考慮することができないが、鉄骨柱30から鉄骨梁20の中央側(矢印X1側)へ離れた位置では、ウェブ部26の断面積を考慮して鉄骨梁20の曲げ耐力を算定することができる。したがって、鉄骨梁20の設計が容易となる。
【0040】
また、本実施形態では、ウェブ部26の一方側へ延出する上側フランジ部22及び下側フランジ部24にのみ一対の拡幅部40が設けられている。そして、
図2に示されるように、鉄骨梁20は、鉄骨柱30の幅方向の一方側(拡幅側と反対側)に寄せられた状態で配置されている。
【0041】
これにより、鉄骨梁20における拡幅側と反対側には、鉄骨梁20及び鉄骨柱30の側面に沿って外装材16を配置することができるため、鉄骨梁20から外装材16側へ突出するブラケット18の突出量が短くなる。したがって、ブラケット18の小型化を図ることができるとともに、ブラケット18の必要数を低減することができる。
【0042】
また、ブラケット18の突出量が長くなると、外装材16の重量に起因して鉄骨梁20の材軸回りに発生する捩れモーメントMが大きくなるが、ブラケット18の突出量を短くすることにより、上記捩れモーメントMを小さくすることができる。
【0043】
ここで、片側拡幅鉄骨梁12では、地震時に、鉄骨梁20に正方向の曲げモーメントが作用すると、上側フランジ部22には、鉄骨梁20の材軸方向の圧縮力が作用する一方で、下側フランジ部24には、鉄骨梁20の材軸方向の引張力が作用する。この際、鉄骨梁20の端部20Eでは、一対の拡幅部40によって上側フランジ部22及び下側フランジ部24の断面が偏心しているため、偏心曲げ(偏心曲げモーメント)が生じる。そのため、後述のFEM解析で説明するように、上側フランジ部22はウェブ部26の他方側(矢印W2側)へ変位し、下側フランジ部24はウェブ部26の一方側(矢印W1側)へ変位しようとする(
図11参照)。
【0044】
ただし、本実施形態では、上側フランジ部22がスラブ14(
図2参照)と接合される。そのため、上側フランジ部22は、スラブ14に拘束されるため変位せず、下側フランジ部24のみがウェブ部26の他方側へ変位する。そのため、下側フランジ部24における拡幅部40と他の部位との境界部付近(端部40B付近)24Rに局所的な塑性化が生じ易く、鉄骨梁20の耐力が低下する可能性がある。
【0045】
なお、偏心曲げについて補足すると、例えば、
図4に示されるように、下側フランジ部24では、地震時に、拡幅部40が設けられていない部位に作用する引張力S1と、拡幅部40が設けられた部位に作用する引張力S2とにずれが生じる。この引張力S1,S2のずれによって、下側フランジ部24に偏心曲げQが生じる。
【0046】
これに対して本実施形態では、一対の端部リブ50によって、上側フランジ部22と下側フランジ部24とが連結されている。これにより、下側フランジ部24の変位が、一対の端部リブ50及び上側フランジ部22を介してスラブ14に拘束される。したがって、地震時における下側フランジ部24の拡幅側(矢印X1側)への変位が規制される。この結果、前述した下側フランジ部24の境界部付近24Rに生じる局所的な塑性化が抑制される。したがって、鉄骨梁20の耐力の低下が低減される。
【0047】
また、一対の端部リブ50は、一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40B側に位置されている。これにより、下側フランジ部24の拡幅側の変位が効果的に規制(抑制)される。したがって、前述したように、下側フランジ部24の境界部付近24Rに生じる局所的な塑性化が抑制されるため、鉄骨梁20の耐力の低下がさらに低減される。
【0048】
さらに、一対の端部リブ50は、ウェブ部26の両側に設けられている。これにより、ウェブ部26の片側に端部リブ50を設ける場合と比較して、地震時における下側フランジ部24の拡幅側への変位が低減される。したがって、鉄骨梁20の耐力の低下がさらに低減される。
【0049】
次に、上記第1実施形態の変形例について説明する。
【0050】
上記第1実施形態では、端部リブ50を上側フランジ部22、下側フランジ部24及びウェブ部26に接合したが、上記第1実施形態はこれに限らない。端部リブ50は、少なくとも上側フランジ部22及び下側フランジ部24に接合され、上側フランジ部22と下側フランジ部24とを連結していれば良い。
【0051】
また、上記第1実施形態では、鉄骨梁20のウェブ部26の両側に一対の端部リブ50を設けたが、端部リブ50は、ウェブ部26の片側にのみ設けても良い。
【0052】
また、上記第1実施形態では、変位規制部材として端部リブ50を用いたが、上記第1実施形態はこれに限らない。変位規制部材としては、例えば、
図5に示されるように、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の拡幅側と反対側の端部22B,24Bに接合される連結プレート52を用いても良い。
【0053】
具体的には、連結プレート52は、鋼板等によって板状に形成されており、ウェブ部26の拡幅側と反対側(矢印W2側)に当該ウェブ部26と対向して配置されている。また、連結プレート52は、一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40B(
図3参照)側に位置されている。この連結プレート52は、その上端部が上側フランジ部22の端部22Bに溶接等によって接合されるとともに、その下端部が下側フランジ部24の端部24Bに溶接等によって接合されている。
【0054】
このように連結プレート52によって上側フランジ部22と下側フランジ部24とを連結することにより、地震時における下側フランジ部24の拡幅側への変位が低減される。したがって、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0055】
なお、連結プレート52は、ウェブ部26の両側に設けても良いし、ウェブ部26の片側にのみ設けても良い。
【0056】
また、上記第1実施形態では、一対の端部リブ50が一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40B側に位置されているが、上記実施形態はこれに限らない。一対の端部リブ50の鉄骨梁20の材軸方向の位置は、適宜変更可能である。
【0057】
次に、第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を省略する。
【0058】
図6には、第2実施形態に係る片側拡幅鉄骨梁の補強構造60が適用された片側拡幅鉄骨梁62が示されている。片側拡幅鉄骨梁62は、鉄骨梁20と、一対の拡幅部40と、一対の連結部材70とを備えている。
【0059】
一対の変位規制部材としての一対の連結部材70は、例えば、鋼板や形鋼等によって形成されている。この一対の連結部材70は、上記第1実施形態と同様に、鉄骨梁20のウェブ部26の両側に配置されるとともに、一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40B(
図3参照)側に位置されており、下側フランジ部24とスラブ14とを連結している。
【0060】
具体的には、一対の連結部材70は、下側フランジ部24からスラブ14に向かうに従って互いに反対側へ傾斜されており、各々上端部が上側フランジ部22の外側を通過してスラブ14に達している。この連結部材70の上端部には、フランジ部72が設けられている。フランジ部72の上面には、複数のスタッド74が設けられており、これらのスタッド74をスラブ14に埋設することにより、連結部材70の上端部がスラブ14に接合されている。なお、連結部材70のスラブ14との接合方法は、適宜変更可能である。
【0061】
一方、連結部材70の下端部は、ガセットプレート76を介して下側フランジ部24に接合されている。ガセットプレート76は、下側フランジ部24の上面及びウェブ部26の側面にそれぞれ溶接等によって接合されている。このガセットプレート76にボルト78及び図示しないナットによって連結部材70の下端部が接合されている。この一対の連結部材70によって、下側フランジ部24の拡幅側への変位が規制されている。
【0062】
なお、下側フランジ部24に対する連結部材70の接合方法は、適宜変更可能であり、例えば、下側フランジ部24に連結部材70を溶接等によって接合しても良い。
【0063】
次に、第2実施形態の作用について説明する。
【0064】
本実施形態によれば、鉄骨梁20のウェブ部26の両側には、一対の連結部材70が配置されている。この一対の連結部材70は、一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40B側に位置されており、下側フランジ部24とスラブ14とを連結している。
【0065】
これにより、地震時における下側フランジ部24の拡幅側への変位が、一対の連結部材70を介してスラブ14に拘束(規制)される。この結果、前述したように、下側フランジ部24における拡幅部40と他の部位との境界部付近24R(
図4参照)に生じる局所的な塑性化が抑制される。したがって、鉄骨梁20の耐力の低下が低減される。
【0066】
また、一対の連結部材70は、一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40B側に位置されている。これにより、下側フランジ部24の拡幅側への変位が効果的に規制される。したがって、鉄骨梁20の耐力の低下がさらに低減される。
【0067】
さらに、一対の連結部材70は、ウェブ部26の両側に配置されている。この一対の連結部材70によって、ウェブ部26の下端部から両側へ延出する下側フランジ部24とスラブ14とがそれぞれ連結されている。これにより、連結部材70がウェブ部26の片側にのみ配置される場合と比較して、地震時における下側フランジ部24の拡幅側への変位がより低減される。したがって、鉄骨梁20の耐力の低下がさらに低減される。
【0068】
次に、第2実施形態の変形例について説明する。
【0069】
上記第2実施形態では、ウェブ部26の両側に一対の連結部材70を設けたが、上記第2実施形態はこれに限らない。連結部材70は、ウェブ部26の片側にのみ設けても良い。また、連結部材としては、鋼板や形鋼に限らず、例えば、鉄筋やPC鋼棒、ワイヤー等の線状部材であっても良い。
【0070】
また、上記第2実施形態では、一対の連結部材70が一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40B側に位置されるが、上記第2実施形態はこれに限らない。一対の連結部材70の鉄骨梁20の材軸方向の位置は、適宜変更可能である。
【0071】
また、連結部材70の上端側は、スラブ14及び上側フランジ部22の両方に接合しても良い。さらに、鉄骨梁20には、連結部材70と、第1実施形態における端部リブ50(
図1参照)の両方を設けても良い。すなわち、変位規制部材は、下側フランジ部24と、上側フランジ部22及びスラブ14の少なくとも一方とを連結することができる。
【0072】
次に、第3実施形態について説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を省略する。
【0073】
図7(A)及び
図7(B)には、第3実施形態に係る片側拡幅鉄骨梁の補強構造80が適用された片側拡幅鉄骨梁82が示されている。この片側拡幅鉄骨梁82は、鉄骨梁20と、一対の拡幅部40と、一対の端部リブ50と、柱側リブ84とを備えている。
【0074】
柱側リブ84は、鋼板等によって板状に形成されており、一対の拡幅部40の間に、鉄骨梁20の材軸方向を板厚方向として配置されている。また、柱側リブ84は、ウェブ部26と一対の拡幅部40とに亘って配置されている。さらに、柱側リブ84は、一対の端部リブ50よりも鉄骨柱30側に配置されている。
【0075】
より具体的には、柱側リブ84は、一対の端部リブ50よりも鉄骨柱30側で、かつ、一対の拡幅部40の幅dが最も広い部位に配置されている。さらに、柱側リブ84は、鉄骨柱30と近接して配置されている。この柱側リブ84は、上側の拡幅部40の下面、上側フランジ部22の下面、下側の拡幅部40の上面、下側フランジ部24の上面及びウェブ部26の側面にそれぞれ溶接等によって接合されている。この柱側リブ84によって、一対の拡幅部40、上側フランジ部22及び下側フランジ部24に剛性(面外剛性)が付与されている。
【0076】
次に、第3実施形態の作用について説明する。
【0077】
本実施形態によれば、鉄骨梁20の端部20Eには、一対の拡幅部40が設けられている。この一対の拡幅部40によって、上側フランジ部22及び下側フランジ部24のフランジ幅Dが、一対の拡幅部40における鉄骨柱30と反対側の端部40Bから当該鉄骨柱30へ向かうに従って徐々に広げられている。
【0078】
ここで、一対の拡幅部40によって上側フランジ部22及び下側フランジ部24のフランジ幅Dを広げると、地震時に鉄骨梁20と鉄骨柱30との溶接部に作用する応力が低減される一方で、一対の拡幅部40、上側フランジ部22及び下側フランジ部24に局部座屈が発生し易くなり、鉄骨梁20の耐力が低下する可能性がある。
【0079】
これに対して本実施形態では、一対の拡幅部40の間に柱側リブ84が設けられている。柱側リブ84は、一対の端部リブ50よりも鉄骨柱30側に配置されている。つまり、柱側リブ84は、上側フランジ部22及び下側フランジ部24のフランジ幅Dが広くなる位置に配置されている。そして、柱側リブ84は、一対の拡幅部40、上側フランジ部22、下側フランジ部24及びウェブ部26にそれぞれ接合されている。この柱側リブ84によって、一対の拡幅部40、上側フランジ部22及び下側フランジ部24に剛性が付与されるため、地震時における一対の拡幅部40、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の局部座屈が抑制される。なお、上側の拡幅部40及び上側フランジ部22は、スラブ14に拘束されるため、下側フランジ部24と比較して局部座屈が発生し難い。
【0080】
また、前述したように、地震時に鉄骨梁20に作用する曲げモーメントは、鉄骨梁20と鉄骨柱30との溶接部で最大となる。そのため、一対の拡幅部40、上側フランジ部22及び下側フランジ部24における鉄骨柱30側の部位に局部座屈が発生し易くなる。
【0081】
これに対して本実施形態では、柱側リブ84は、鉄骨柱30に近接して配置されている。これにより、一対の拡幅部40、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の局部座屈が効率的に抑制される。
【0082】
また、本実施形態では、柱側リブ84によって一対の拡幅部40が互いに連結される。これにより、例えば、一対の拡幅部40を別々の柱側リブによって補剛する場合と比較して、一対の拡幅部40の剛性が高められる。これと同様に、柱側リブ84によって、上側フランジ部22と下側フランジ部24とが連結される。これにより、上側フランジ部22及び下側フランジ部24を別々の柱側リブ84によって補剛する場合と比較して、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の剛性が高められる。したがって、地震時における一対の拡幅部40、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の局部座屈がさらに抑制される。
【0083】
さらに、柱側リブ84は、ウェブ部26にも接合されている。これにより、一対の拡幅部40、上側フランジ部22及び下側フランジ部24の局部座屈がさらに抑制されるとともに、ウェブ部26の局部座屈も抑制される。したがって、鉄骨梁20の耐力の低下がさらに低減される。
【0084】
次に、第3実施形態の変形例について説明する。
【0085】
上記第3実施形態では、一対の拡幅部40、上側フランジ部22、下側フランジ部24及びウェブ部26に柱側リブ84をそれぞれ接合したが、上記第3実施形態はこれに限らない。柱側リブ84は、一対の拡幅部40の少なくとも一方に接合されていれば良い。また、一対の拡幅部40には、別々の柱側リブを接合しても良い。
【0086】
また、上記第3実施形態では、一対の拡幅部40の幅dが最も広い位置に柱側リブ84が配置されているが、上記第3実施形態はこれに限らない。柱側リブ84は、例えば、
図7(B)に示される位置よりも鉄骨梁20の中央側(矢印X1側)に配置されても良い。
【0087】
次に、一対の拡幅部の変形例について説明する。なお、以下では、上記第1実施形態を例に各種の変形例について説明するが、これらの変形例は、第2,第3実施形態にも適宜適用可能である。
【0088】
上記第1実施形態では、拡幅部40が平面視にて三角形状に形成されるが、拡幅部の形状はこれに限らない。例えば、
図8に示されるように、拡幅部90は、平面視にて台形状に形成しても良い。
【0089】
具体的には、拡幅部90は、平面視にて、鉄骨梁20の材軸方向を長手方向とした長方形状に形成されている。この拡幅部90は、断面増加部90G及び断面一定部90Hを有している。断面増加部90Gは、平面視にて三角形状に形成されており、拡幅部90における鉄骨柱30と反対側の端部90Bから鉄骨柱30に向かうに従って幅d1が徐々に広くされている。断面一定部90Hは、平面視にて矩形状に形成されており、断面増加部90Gの鉄骨柱30側に配置されている。この断面一定部90Hの幅d2は、一定とされている。なお、ここでいう一定には、製造誤差等による幅d2の僅かな増減を含む概念である。
【0090】
このように一対の拡幅部の形状は、適宜変更可能である。また、例えば、
図8に示される変形例では、一対の拡幅部90から断面増加部90Gを省略することも可能である。さらに、図示を省略するが、例えば、拡幅部を階段状に形成することにより、拡幅部における鉄骨柱30と反対側の端部から鉄骨柱30に向かうに従って、拡幅部の幅を段階的に広くしても良い。
【0091】
また、上記第1実施形態では、例えば、上側フランジ部22の端部22Aに拡幅部90を接合したが、例えば、幅の広い鋼板から上側フランジ部22及び拡幅部90を一体に切り出しても良い。また、例えば、拡幅部を有する当て板を上側フランジ部22に重ね合せた状態で接合することにより、上側フランジ部22に拡幅部を設けることも可能である。なお、下側フランジ部24に設けられる拡幅部についても同様である。さらに、一対の拡幅部の形状は、同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0092】
次に、片側拡幅鉄骨梁の耐力のFEM解析について説明する。
【0093】
(解析モデル)
図9には、実施例に係る片側拡幅鉄骨梁100及び鉄骨柱30の解析モデルが示されている。この片側拡幅鉄骨梁100は、一対の拡幅部(拡幅部40と拡幅部90)の形状が異なる点を除き、上記第1実施形態に係る片側拡幅鉄骨梁12と同様の構成とされている。
【0094】
また、本解析では、比較例1として、実施例に係る片側拡幅鉄骨梁100(
図9参照)から一対の端部リブ50を省略した片側拡幅鉄骨梁110(
図11参照)の解析モデルを用いた。さらに、比較例2として、鉄骨梁のウェブ部から両側へ延出する上側フランジ部及び下側フランジ部に拡幅部がそれぞれ設けるとともに、鉄骨梁の材軸上に鉄骨柱の材軸が配置された両側拡幅鉄骨梁(図示省略)の解析モデルを用いた。
【0095】
(解析方法)
本解析では、
図9に示されるように、鉄骨柱30の上下の両端部30U,30L及び鉄骨梁20の上側フランジ部22のウェブ部26の板厚方向の両側(矢印W1及び矢印W2)の変位を固定に設定した状態(鉄骨梁20の材軸方向の変位、鉄骨柱30の材軸方向の変位、及び回転変形は非拘束状態)で、鉄骨梁20の材軸方向の中央側の所定位置に鉛直上向きの荷重Fを入力し、荷重F(せん断力)と、当該荷重Fの入力位置での鉄骨梁20の変位との関係をグラフ化した(
図10参照)。
【0096】
(解析結果)
図10には、実施例、比較例1及び比較例2の解析結果を示すグラフJ,K1,K2がそれぞれ示されている。これらのグラフJ,K1,K2を比較すると、グラフK2(比較例2に係る両側拡幅鉄骨梁の解析モデル)の耐力及び剛性が最も高いことが分かる。しかしながら、比較例2に係る両側拡幅鉄骨梁の解析モデルでは、ウェブ部の両側に拡幅部が設けられるため、前述した外装材16(
図2参照)との納まりが悪くなる場合がある。
【0097】
次に、
図10では、グラフK1(比較例1に係る片側拡幅鉄骨梁110の解析モデル)の耐力及び剛性が最も低くなることが分かる。ここで、
図11には、荷重Fが入力された比較例1に係る片側拡幅鉄骨梁110の変形状態の解析結果を示す下面図が示されている。この
図11に示されるように、片側拡幅鉄骨梁110では、鉄骨梁20の端部20Eに発生する偏心曲げによって、上側フランジ部22に対し下側フランジ部24が拡幅側(矢印W1側)へ変位することが分かる。なお、
図11では、上側フランジ部22が実線で示され、下側フランジ部24が二点鎖線で示されている。
【0098】
また、
図11に示される下側フランジ部24の変形状態の応力分布を解析すると、下側フランジ部24における拡幅部90と他の部位との境界部付近24Rに局所的な塑性化が生じることが分かる。このことから、比較例1に係る片側拡幅鉄骨梁110では、
図10のグラフJ1のように、比較例2に係る両側拡幅鉄骨梁よりも耐力及び剛性が低下したものと考えられる。
【0099】
これに対し、
図10のグラフJに示されるように、実施例に係る片側拡幅鉄骨梁100の解析モデルの耐力及び剛性は、比較例2に係る両側拡幅鉄骨梁の解析モデル(グラフK2)よりも低いが、比較例1に係る片側拡幅鉄骨梁100の解析モデル(グラフK1)よりも高くなることが分かる。これは、実施例に係る片側拡幅鉄骨梁100の解析モデルでは、一対の端部リブ50によって、下側フランジ部24の拡幅側への変位が規制され、前述した下側フランジ部24の境界部付近24Rに生じる局所的な塑性化が抑制されたためと考えられる。
【0100】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。