特許第6836833号(P6836833)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6836833外部ペーシングを有する医療モニタリングおよび治療装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836833
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】外部ペーシングを有する医療モニタリングおよび治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/365 20060101AFI20210222BHJP
   A61N 1/39 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   A61N1/365
   A61N1/39
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-515266(P2015-515266)
(86)(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公表番号】特表2015-522318(P2015-522318A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】US2013043736
(87)【国際公開番号】WO2013181617
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年5月27日
【審判番号】不服2018-8448(P2018-8448/J1)
【審判請求日】2018年6月20日
(31)【優先権主張番号】61/653,889
(32)【優先日】2012年5月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504242032
【氏名又は名称】ゾール メディカル コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】ZOLL Medical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホワイティング,ジェイソン・ティ
(72)【発明者】
【氏名】カイブ,トーマス・イー
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,レイチェル・エイチ
(72)【発明者】
【氏名】フランク,グレゴリー・アール
【合議体】
【審判長】 芦原 康裕
【審判官】 莊司 英史
【審判官】 栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−514107(JP,A)
【文献】 特表2002−534233(JP,A)
【文献】 特開平10−127781(JP,A)
【文献】 特表2004−524074(JP,A)
【文献】 特開2004−351122(JP,A)
【文献】 特開2000−51372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N1/365,1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型医療モニタリングおよび治療装置であって、
バッテリーと、
患者の身体の表面に配置され、前記バッテリーに結合された少なくとも1つの治療電極と、
前記患者の身体の表面に配置され、前記患者の心臓活動をモニタリングするように構成された少なくとも1つの外部心電図(ECG:electrocardiographic)検知電極と、
前記患者の心臓活動を示す情報を格納するメモリと、
複数のペーシングルーチンを実行する複数の要素とを備え、前記複数のペーシングルーチンの各ペーシングルーチンは、複数の心不整脈のうちのそれぞれの心不整脈に対応し、
前記携帯型医療モニタリングおよび治療装置は、
前記患者の動きを検出するように構成された運動センサと、
前記メモリと、前記少なくとも1つの外部ECG検知電極と、前記少なくとも1つの治療電極とに結合された少なくとも1つのプロセッサをさらに備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記患者の心臓活動を示す情報において、前記複数の心不整脈からある心不整脈を識別し、
識別された心不整脈を治療するために、前記複数の要素のうち、前記識別された心不整脈に対応する少なくとも1つのペーシングルーチンを少なくとも部分的に実行することによって前記識別された心不整脈に応答し、
前記運動センサを用いて、前記少なくとも1つのペーシングルーチンの実行中の前記患者の動きをモニタリングし、
前記少なくとも1つのペーシングルーチン中の前記患者の動きの変化を識別し、
前記少なくとも1つの外部ECG検知電極を用いて前記患者の心臓活動をモニタリングして、前記少なくとも1つのペーシングルーチンが捕捉をもたらしたかどうか判断し、
前記少なくとも1つのペーシングルーチン中の前記患者の動きの変化を識別すること、および捕捉がもたらされたか否かを判断することに応答して、外部ペーシングに関連する不快感を最小化しつつペーシングパルスが捕捉をもたらし得るように、前記少なくとも1つのペーシングルーチンのその後の実行中に前記少なくとも1つの治療電極を介して印加されるペーシングパルスの特性を調節するように構成されている、装置。
【請求項2】
前記携帯型医療モニタリングおよび治療装置は、除細動器である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記識別された心不整脈は徐脈を含み、
前記少なくとも1つのペーシングルーチンは、
心拍を検出することなく第1の間隔が経過したと判断し、
前記第1の間隔が経過したと判断したことに応答して、前記少なくとも1つの治療電極を介してペーシングパルスを印加するように構成されている、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の間隔は、ベースペーシングレートおよびヒステリシスレートによって規定される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、
第2の間隔の経過に先立って固有心拍を検出し、
ベースペーシングレートと、ヒステリシスレートと、固有心拍が検出された点とに基づいて、第3の間隔を判断し、
前記第3の間隔内で別の固有心拍が生じるかどうか判断するように構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記識別された心不整脈は頻脈を含み、
前記少なくとも1つのペーシングルーチンは、
第1の間隔の経過に先立って複数の固有心拍を検出するように構成されており、前記複数の固有心拍は固有周波数を有し、前記第1の間隔は抗頻脈性不整脈ペーシングレートによって規定され、前記少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、
前記固有周波数を検出したことに応答して、前記少なくとも1つの治療電極を介して一連のペーシングパルスを印加するように構成されており、前記一連のペーシングパルスは、前記固有周波数を上回る周波数を有する、請求項1または2に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、前記一連のペーシングパルスを印加後に、第2の間隔内に他の複数の固有心拍が生じたか否かを検出するように構成され、
前記第2の間隔は、前記抗頻脈性不整脈ペーシングレートによって規定される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記識別された心不整脈は不規則な心拍数を含み、
前記少なくとも1つのペーシングルーチンは、
前記情報内において、より低い周波数を有する第1の一連の心拍を識別し、
前記情報内において、より高い周波数を有する第2の一連の心拍を識別し、
不規則な心拍数を識別したことに応答して、前記少なくとも1つの治療電極を介して一連のペーシングパルスを印加するように構成されており、前記一連のペーシングパルスは、より低い周波数を上回り、かつより高い周波数を下回る周波数を有する、請求項1または2に記載の装置。
【請求項9】
前記識別された心不整脈は、心停止および無脈性電気活動のうちの少なくとも1つを含み、
前記少なくとも1つのペーシングルーチンは、
心拍を検出することなく第1の間隔が経過したと判断し、
前記第1の間隔が経過したと判断したことに応答して、前記少なくとも1つの治療電極を介してペーシングパルスを印加するように構成されている、請求項1または2に記載の装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、前記ペーシングパルスを印加する前に、除細動ショックを印加するように構成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、前記少なくとも1つのペーシングルーチン中の前記患者の動きの変化が識別され、かつ捕捉がもたらされなかったと判断したことに応答して、前記少なくとも1つのペーシングルーチンのその後の実行中に印加されるペーシングパルスの特性を調節するように構成されている、請求項1または2に記載の装置。
【請求項12】
調節されるペーシングパルスの特性は、パルスエネルギーレベル、パルスレート、およびパルス幅を含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型医療モニタリングおよび治療装置によって実行される方法であって、前記携帯型医療モニタリングおよび治療装置は、患者の身体の表面に配置された少なくとも1つの治療電極と、前記患者の身体の表面に配置され、前記患者の心臓活動をモニタリングするように構成された少なくとも1つの外部ECG検知電極と、前記患者の動きを検出するように構成された運動センサとを含み、
前記方法は、
前記携帯型医療モニタリングおよび治療装置の前記少なくとも1つの外部ECG検知電極が、前記患者の心臓活動を示す情報をモニタリングすることと、
前記携帯型医療モニタリングおよび治療装置が、前記患者の心臓活動を示す前記情報において心不整脈を識別することと、
前記携帯型医療モニタリングおよび治療装置が、識別された心不整脈に基づいて、複数のペーシングルーチンから少なくとも1つのペーシングルーチンを選択することと、
前記少なくとも1つの外部ECG検知電極によって前記患者の心臓活動をモニタリングして、前記少なくとも1つのペーシングルーチンが捕捉をもたらしたかどうか判断することと、
前記運動センサを用いて、前記少なくとも1つのペーシングルーチンの実行中の前記患者の動きをモニタリングすることと、
前記少なくとも1つのペーシングルーチン中の前記患者の動きの変化を識別することと、
前記携帯型医療モニタリングおよび治療装置によって前記少なくとも1つのペーシングルーチン中の前記患者の動きの変化を識別すること、および捕捉がもたらされたか否かを判断することに応答して、外部ペーシングに関連する不快感を最小化しつつペーシングパルスが捕捉をもたらし得るように、前記少なくとも1つのペーシングルーチンのその後の実行中に前記少なくとも1つの治療電極を介して印加されるペーシングパルスの特性を調節することとを備える、方法。
【請求項14】
前記識別された心不整脈は徐脈を含み、
前記少なくとも1つのペーシングルーチンは、
心拍を検出することなく第1の間隔が経過したと判断することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記識別された心不整脈は頻脈を含み、
前記少なくとも1つのペーシングルーチンは、
第1の間隔の経過に先立って複数の固有心拍を検出することを含み、前記複数の固有心拍は固有周波数を有し、前記第1の間隔は抗頻脈性不整脈ペーシングレートによって規定される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2012年5月31日に出願された、「外部ペーシングを有する非侵襲性の携帯型医療モニタリングおよび治療装置」(NONINVASIVE AMBULATORY MONITORING AND TREATMENT DEVICE WITH EXTERNAL PACING)と題された米国仮出願連続番号第61/653,889号の、米国特許法第119(e)条による優先権を主張する。当該仮出願は、本願によりその全体がここに引用により援用される。
【0002】
1. 技術分野
この発明は非侵襲性の携帯型医療装置に向けられ、より特定的には、装置を着用している患者の心臓のペースを外部から調整する(外部ペーシングする)ことができる、非侵襲性の医療モニタリングおよび治療装置に向けられている。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
心拍停止および他の心臓の健康疾患は、世界的に主な死因となっている。被害者の命を救おうとして、さまざまな蘇生努力が、心拍停止中に身体の循環器系および呼吸器系を維持することを目的としている。これらの蘇生努力が早く始まるほど、被害者の生存の見込みは高くなる。
【0004】
心拍停止および他の心臓の健康疾患から守られるために、危険な状態にある患者は、マサチューセッツ州チェルムズフォード(Chelmsford)のゾール メディカル コーポレイション(Zoll Medical Corporation)から入手可能である着用可能な電気的除細動器であるライフベスト(LifeVest)(登録商標)といった着用可能な除細動器を使用してもよい。守られたままとなるために、患者は、通常の日常活動に携わっている間は、起きている間も、および眠っている間も、装置をほぼ連続的に着用する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
この発明のいくつかの局面および実施形態は、非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型医療モニタリングおよび治療装置(以下、「医療モニタリングおよび治療装置」と呼ぶ)を使用して、心臓に外部ペーシングを施す。ここに使用されるように、「非侵襲性」という用語は、装置が患者の身体に侵入しないことを意味する。これは、装置の少なくとも一部が皮下に配置される、埋込み可能な医療装置といった侵襲性装置とは対照的である。「身体に取付けられる」という用語は、装置の少なくとも一部(除細動器、電気除細動器またはペースメーカーの場合には、その電極を除く)が、機械的結合(たとえば、手首ストラップ、頚部カラー、二頭筋リングによって)、接着(たとえば、接着ゲル媒介物によって)、吸引、磁力、織物または他の柔軟な材料(たとえば、ストラップ、または衣服への一体化によって)、もしくは前述の例によって限定されない他の身体搭載構成などによって、患者の身体に取外し可能に取付けられることを意味する。これらの結合要素は、装置を、患者の身体に対して実質的に固定された位置に保持する。「携帯型」という用語は、患者が日常活動に携わる際に、装置が患者とともに移動可能であり、移動するために設計されている、ということを意味する。
【0006】
医療モニタリングおよび治療装置の一例は、マサチューセッツ州チェルムズフォードのゾール メディカル コーポレイションから入手可能である着用可能な電気的除細動器であるライフベスト(登録商標)である。医療モニタリングおよび治療装置は、心室細動(Ventricular Fibrillation:VF)または心室頻拍(Ventricular Tachycardia:VT)といった治療可能な形の心不整脈を患っている患者に、救命除細動治療を提供することができる。出願人は、そのような医療モニタリングおよび治療装置が、徐脈、頻脈、不規則な心臓律動、および心停止(ショック後の心停止を含む)といった多種多様の異なる心不整脈を治療するために、さまざまな異なるタイプの心臓ペーシングを行なうように構成可能であることを認識した。出願人はまた、他の実施形態では、医療モニタリングおよび治療装置が、無脈性電気活動を治療するためにペーシングを行なうように構成可能であることを認識した。この発明の一局面によれば、医療モニタリングおよび治療装置は、固定エネルギーレベル(たとえば、固定電流、固定電圧など)およびパルスレートで患者の心臓をペーシングするように構成可能であり、または、患者の心臓の検出された固有の活動レベルに応答して、固定エネルギーレベルおよび調節可能レートでオンデマンドで患者の心臓をペーシングするように構成可能であり、または、患者の心臓の検出された固有のレート、およびペーシングに対する患者の心臓の検出された反応に応答して、調節可能エネルギーレベルおよび調節可能レートで捕捉管理を使用して患者の心臓をペーシングするように構成可能であり、各心拍ベースの分析の場合、および他のさまざまな時間間隔にわたって分析される場合の双方を含む。
【0007】
いくつかの実施形態によれば、医療モニタリングおよび治療装置が提供される。医療モニタリングおよび治療装置は、バッテリーと、バッテリーに結合された少なくとも1つの治療電極と、患者の心臓活動を示す情報を格納するメモリと、メモリおよび少なくとも1つの治療電極に結合された少なくとも1つのプロセッサとを含む。少なくとも1つのプロセッサは、情報内の心不整脈を識別し、識別された心不整脈を治療するために少なくとも1つのペーシングルーチンを実行するように構成されている。
【0008】
医療モニタリングおよび治療装置では、少なくとも1つのプロセッサが識別するように構成されている心不整脈は徐脈を含んでいてもよく、少なくとも1つのペーシングルーチンは、心拍を検出することなく第1の間隔が経過したと判断し、第1の間隔が経過したと判断したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介してペーシングパルスを印加するように構成されてもよい。第1の間隔は、ベースペーシングレートおよびヒステリシスレートによって規定されてもよい。少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、第2の間隔の経過に先立って固有心拍を検出し、ベースペーシングレートと、ヒステリシスレートと、固有心拍が検出された点とに基づいて、第3の間隔を判断し、第3の間隔内で別の固有心拍が生じるかどうか判断するように構成されてもよい。
【0009】
医療モニタリングおよび治療装置では、少なくとも1つのプロセッサが識別するように構成されている心不整脈は頻脈を含んでいてもよく、少なくとも1つのペーシングルーチンは、第1の間隔の経過に先立って複数の固有心拍を検出するように構成されてもよく、複数の固有心拍は固有周波数を有し、第1の間隔は抗頻脈性不整脈ペーシングレートによって規定され、少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、固有周波数を検出したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介して一連のペーシングパルスを印加するように構成されてもよく、一連のペーシングパルスは、固有周波数を上回る周波数を有する。少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、一連のペーシングパルスを印加した後で、第2の間隔内で別の複数の固有心拍が生じるかどうか検出するように構成されてもよく、第2の間隔は抗頻脈性不整脈ペーシングレートによって規定される。
【0010】
医療モニタリングおよび治療装置では、少なくとも1つのプロセッサが識別するように構成されている心不整脈は不規則な心拍数を含んでいてもよく、少なくとも1つのペーシングルーチンは、情報内のより低い周波数を有する第1の一連の心拍を識別し、情報内のより高い周波数の第2の一連の心拍を識別し、不規則な心拍数を識別したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介して一連のペーシングパルスを印加するように構成されてもよく、一連のペーシングパルスは、より低い周波数を上回り、かつより高い周波数を下回る周波数を有する。
【0011】
医療モニタリングおよび治療装置では、少なくとも1つのプロセッサが識別するように構成されている心不整脈は、心停止および無脈性電気活動のうちの少なくとも1つを含んでいてもよく、少なくとも1つのペーシングルーチンは、心拍を検出することなく第1の間隔が経過したと判断し、第1の間隔が経過したと判断したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介してペーシングパルスを印加するように構成されてもよい。少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、ペーシングパルスを印加する前に除細動ショックを印加するように構成されてもよい。
【0012】
医療モニタリングおよび治療装置では、少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、少なくとも1つのペーシングルーチンが捕捉をもたらしたかどうか判断し、捕捉がもたらされなかったと判断したことに応答して、少なくとも1つのペーシングルーチンのその後の実行中に印加されるペーシングパルスの特性を調節するように構成されてもよい。調節されるペーシングパルスの特性は、パルスエネルギーレベル、パルスレート、およびパルス幅を含んでいてもよい。
【0013】
医療モニタリングおよび治療装置では、少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、少なくとも1つのペーシングルーチンが捕捉をもたらしたかどうか判断し、捕捉がもたらされたと判断したことに応答して、少なくとも1つのペーシングルーチンのその後の実行中に印加されるペーシングパルスの特性を調節するように構成されている。
【0014】
他の実施形態によれば、非侵襲性の、身体に取付けられる、着用可能な携帯型除細動器が提供される。非侵襲性の、身体に取付けられる、着用可能な携帯型除細動器は、バッテリーと、バッテリーに結合された少なくとも1つの治療電極と、患者の心臓活動を示す情報を格納するメモリと、メモリおよび少なくとも1つの治療電極に結合された少なくとも1つのプロセッサとを含む。少なくとも1つのプロセッサは、情報内の心不整脈を識別し、識別された心不整脈を治療するために少なくとも1つのペーシングルーチンを実行するように構成されている。
【0015】
非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型除細動器では、少なくとも1つのプロセッサが識別するように構成されている心不整脈は徐脈を含んでいてもよく、少なくとも1つのペーシングルーチンは、心拍を検出することなく第1の間隔が経過したと判断し、第1の間隔が経過したと判断したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介してペーシングパルスを印加するように構成されてもよい。第1の間隔は、ベースペーシングレートおよびヒステリシスレートによって規定されてもよい。少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、第2の間隔の経過に先立って固有心拍を検出し、ベースペーシングレートと、ヒステリシスレートと、固有心拍が検出された点とに基づいて、第3の間隔を判断し、第3の間隔内で別の固有心拍が生じるかどうか判断するように構成されてもよい。
【0016】
非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型除細動器では、少なくとも1つのプロセッサが識別するように構成されている心不整脈は頻脈を含んでいてもよく、少なくとも1つのペーシングルーチンは、第1の間隔の経過に先立って複数の固有心拍を検出するように構成されてもよく、複数の固有心拍は固有周波数を有し、第1の間隔は抗頻脈性不整脈ペーシングレートによって規定され、少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、固有周波数を検出したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介して一連のペーシングパルスを印加するように構成されてもよく、一連のペーシングパルスは、固有周波数を上回る周波数を有する。少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、一連のペーシングパルスを印加した後で、第2の間隔内で別の複数の固有心拍が生じるかどうか検出するように構成されてもよく、第2の間隔は抗頻脈性不整脈ペーシングレートによって規定される。
【0017】
非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型除細動器では、少なくとも1つのプロセッサが識別するように構成されている心不整脈は不規則な心拍数を含んでいてもよく、少なくとも1つのペーシングルーチンは、情報内のより低い周波数を有する第1の一連の心拍を識別し、情報内のより高い周波数の第2の一連の心拍を識別し、不規則な心拍数を識別したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介して一連のペーシングパルスを印加するように構成されてもよく、一連のペーシングパルスは、より低い周波数を上回り、かつより高い周波数を下回る周波数を有する。
【0018】
非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型除細動器では、少なくとも1つのプロセッサが識別するように構成されている心不整脈は、心停止および無脈性電気活動のうちの少なくとも1つを含んでいてもよく、少なくとも1つのペーシングルーチンは、心拍を検出することなく第1の間隔が経過したと判断し、第1の間隔が経過したと判断したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介してペーシングパルスを印加するように構成されてもよい。少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、ペーシングパルスを印加する前に除細動ショックを印加するように構成されてもよい。
【0019】
非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型除細動器では、少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、少なくとも1つのペーシングルーチンが捕捉をもたらしたかどうか判断し、捕捉がもたらされなかったと判断したことに応答して、少なくとも1つのペーシングルーチンのその後の実行中に印加されるペーシングパルスの特性を調節するように構成されてもよい。調節されるペーシングパルスの特性は、パルスエネルギーレベル、パルスレート、およびパルス幅を含んでいてもよい。
【0020】
非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型除細動器では、少なくとも1つのペーシングルーチンはさらに、少なくとも1つのペーシングルーチンが捕捉をもたらしたかどうか判断し、捕捉がもたらされたと判断したことに応答して、少なくとも1つのペーシングルーチンのその後の実行中に印加されるペーシングパルスの特性を調節するように構成されてもよい。
【0021】
別の実施形態によれば、ペーシングを有する医療モニタリングおよび治療装置を使用して、心機能障害を治療する方法が提供される。医療モニタリングおよび治療装置は、非侵襲性の、身体に取付けられる、携帯型除細動器を含んでいてもよい。この方法は、医療モニタリングおよび治療装置によって、患者の心臓活動を示す情報内の心不整脈を識別する行為と、医療モニタリングおよび治療装置によって、識別された心不整脈を治療するために少なくとも1つのペーシングルーチンを実行する行為とを含む。
【0022】
この方法では、心不整脈が徐脈を含む場合、少なくとも1つのペーシングルーチンを実行する行為は、心拍を検出することなく第1の間隔が経過したと判断する行為と、第1の間隔が経過したと判断したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介してペーシングパルスを印加する行為とを含んでいてもよい。第1の間隔が経過したと判断する行為は、ベースペーシングレートおよびヒステリシスレートを使用して第1の間隔を規定する行為を含んでいてもよい。少なくとも1つのペーシングルーチンを実行する行為は、第2の間隔の経過に先立って固有心拍を検出する行為と、ベースペーシングレートと、ヒステリシスレートと、固有心拍が検出された点とに基づいて、第3の間隔を判断する行為と、第3の間隔内で別の固有心拍が生じるかどうか判断する行為とを含んでいてもよい。
【0023】
この方法では、心不整脈が頻脈を含む場合、少なくとも1つのペーシングルーチンを実行する行為は、第1の間隔の経過に先立って複数の固有心拍を検出する行為を含んでいてもよく、複数の固有心拍は固有周波数を有し、第1の間隔は抗頻脈性不整脈ペーシングレートによって規定され、少なくとも1つのペーシングルーチンを実行する行為はさらに、固有周波数を検出したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介して一連のペーシングパルスを印加する行為を含んでいてもよく、一連のペーシングパルスは、固有周波数を上回る周波数を有する。
【0024】
この方法では、心不整脈が不規則な心拍数を含む場合、少なくとも1つのペーシングルーチンを実行する行為は、情報内のより低い周波数を有する第1の一連の心拍を識別する行為と、情報内のより高い周波数の第2の一連の心拍を識別する行為と、不規則な心拍数を識別したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介して一連のペーシングパルスを印加する行為とを含んでいてもよく、一連のペーシングパルスは、より低い周波数を上回り、かつより高い周波数を下回る周波数を有する。
【0025】
この方法では、心不整脈が心停止および無脈性電気活動のうちの少なくとも1つを含む場合、少なくとも1つのペーシングルーチンを実行する行為は、心拍を検出することなく第1の間隔が経過したと判断する行為と、第1の間隔が経過したと判断したことに応答して、少なくとも1つの治療電極を介してペーシングパルスを印加する行為とを含んでいてもよい。少なくとも1つのペーシングルーチンを実行する行為は、ペーシングパルスを印加する前に除細動ショックを印加する行為を含んでいてもよい。
【0026】
この方法では、少なくとも1つのペーシングルーチンを実行する行為は、少なくとも1つのペーシングルーチンが成功した捕捉をもたらしたかどうか判断する行為と、捕捉がもたらされなかったと判断したことに応答して、少なくとも1つのペーシングルーチンのその後の実行中に印加されるペーシングパルスの特性を調節する行為とを含んでいてもよい。特性を調節する行為は、パルスエネルギーレベル、パルスレート、およびパルス幅のうちの少なくとも1つを調節する行為を含んでいてもよい。
【0027】
さらに他の局面、実施形態、ならびにこれらの例示的な局面および実施形態の利点を、以下に詳細に説明する。また、前述の情報および以下の詳細な説明は双方とも、この発明のさまざまな局面および実施形態の例示的な例に過ぎず、請求される局面ならびに実施形態の性質および特徴を理解するための概要または枠組を提供するよう意図されている、ということが理解されるべきである。ここに開示されるどの実施形態も、ここに開示される局面のうちの少なくとも1つと一致する態様で、任意の他の実施形態と組合されてもよく、また、「ある実施形態」、「いくつかの実施形態」、「代替的な実施形態」、「さまざまな実施形態」、「一実施形態」、「少なくとも1つの実施形態」、「このおよび他の実施形態」などへの言及は必ずしも相互排他的ではなく、その実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造または特性が、少なくとも1つの実施形態に含まれ得ることを示すよう意図されている。そのような用語のここでの出現は、必ずしもすべて同じ実施形態に言及しているとは限らない。
【0028】
さらに、この文書とここに引用により援用された文献とで用語の使用が一致していない場合、援用された文献での用語の使用は、この文書での用語の使用を補足するものであり、矛盾する不一致については、この文書での用語の使用が支配する。加えて、添付図面は、さまざまな局面ならびに実施形態の例示およびさらなる理解を提供するために含まれており、この明細書に援用されてこの明細書の一部を構成する。図面は、明細書の残りとともに、説明され請求される局面ならびに実施形態の原理および動作を説明する役割を果たす。
【0029】
図面の簡単な説明
添付図面は、縮尺通りに描かれているよう意図されてはいない。図面では、さまざまな図に示される同一またはほぼ同一の構成要素は各々、同じ符号によって表わされる。明瞭性のために、すべての図面ですべての構成要素に符号が標記されているとは限らない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】着用可能な除細動器といった医療モニタリングおよび治療装置を示す図である。
図2図1の医療モニタリングおよび治療装置で使用され得る携帯用治療コントローラの一例の機能ブロック図である。
図3】40msの定電流パルスを含む、医療モニタリングおよび治療装置によって提供され得る複数の異なるペーシング波形を示す図である。
図4】オンデマンドペーシングまたは捕捉管理ペーシングに関連して調節可能であるデマンドペーシングのさまざまな局面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
この発明は、その用途が、以下の説明で述べられ、または図面に示された構成要素の構成および配置の詳細に限定されない。この発明は他の実施形態が可能であり、さまざまなやり方で実践または実行可能である。また、ここに使用される語法および用語は説明のためのものであり、限定的であるよう見なされるべきでない。ここでの「を含む」、「を備える」、「を有する」、「を含有する」、「を伴う」、およびそれらの変形の使用は、その後に列挙される項目、およびそれらの等価物、ならびに追加の項目を包含するよう意図されている。
【0032】
図1は、マサチューセッツ州チェルムズフォードのゾール メディカル コーポレイションから入手可能である着用可能な電気的除細動器であるライフベスト(登録商標)といった医療モニタリングおよび治療装置を示す。図示されているように、医療モニタリングおよび治療装置100は、1対のショルダーストラップと、患者の胴の周りで着用されるベルトとを有する、ハーネス110を含む。ハーネス110は典型的には、綿、ナイロン、スパンデックス、またはアントロン(antron)(登録商標)といた通気性のある材料から作られており、長期間の間着用された場合でさえ皮膚炎症を引き起こす可能性が低い。医療モニタリングおよび治療装置100は複数の心電図(electrocardiographic :ECG)検知電極112を含み、それらは、ハーネス110によって患者の身体の周りのさまざまな位置に配置され、接続ポッド130を介して携帯用治療コントローラ120に(無線でまたは有線接続によって)電気的に結合されている。複数のECG検知電極112は、患者の心臓機能をモニタリングするために携帯用治療コントローラ120によって使用され、通常、前後で対になったECG検知電極と、左右で対になったECG検知電極とを含む。追加のECG検知電極が提供されてもよいこと、および、複数のECG検知電極112は患者の身体の周りのさまざまな位置に配置されてもよいことが、認識されるべきである。加えて、複数のECG電極112は、従来の貼付け式の接着電極、乾式検知容量性ECG電極、放射線透過性電極、セグメント化された電極、または、長期間(たとえば3日以上)の間、患者によって連続的に着用されるように構成された1つ以上の長期着用される電極を含む、いかなる電極システムを組込んでいてもよい。そのような長期着用される電極の一例は、本願によりその全体がここに引用により援用される、2012年5月31日に出願された、「長期着用される多機能の生体用電極」(LONG TERM WEAR MULTIFUNCTION BIOMEDICAL ELECTRODE)と題された同時係属中の出願連続番号第61/653,749号に記載されている。
【0033】
ここに開示された医療モニタリングおよび治療装置は、患者の身体との適切なフィット性を維持するために、さまざまな構成で配置されたいろいろな材料を取入れていてもよい。たとえば、いくつかの実施形態は、本願によりその全体がここに引用により援用される、2012年4月30日に出願された、「患者によって着用されるエネルギー送出装置およびそれをサイズ調節するための手法」(PATIENT-WORN ENERGY DELIVERY APPARATUS AND TECHNIQUES FOR SIZING SAME)と題された同時係属中の出願連続番号第13/460,250号に記載されたような衣服を含む。このため、実施形態は、図1を参照して上述した構成および材料に限定されない。
【0034】
医療モニタリングおよび治療装置100は複数の治療電極114も含み、それらは、接続ポッド130を介して携帯用治療コントローラ120に電気的に結合されており、1回以上の治療用除細動ショックを、そのような治療が必要とされると判断された場合に患者の身体に送出できる。図示されているように、複数の治療電極114は、患者の胴の前部に配置された第1の治療電極114aと、患者の胴の後部に配置された第2の治療電極114bとを含む。第2の治療電極114bは、電気的にともに結合されて第2の治療電極114bとして作用する1対の治療電極を含む。2つの治療電極114a、114bの使用は、2つの治療電極のうちの一方が二相性ショックの第1相を送出しつつ他方の治療電極がリターンとして作用し、他方の治療電極が二相性ショックの第2相を送出しつつ一方の治療電極がリターンとして作用することができるように、二相性ショックが患者の身体に送出されることを可能にする。接続ポッド130は、複数のECG検知電極112および複数の治療電極114を携帯用治療コントローラ120に電気的に結合しており、また、電子回路を含んでいてもよい。たとえば、一実現化例では、接続ポッド130は、複数のECG検知電極112のうちのそれぞれからECG信号を受信し、それらの間の差に基づいて差分ECG信号を携帯用治療コントローラ120に提供するための複数の差動増幅器といった信号取得回路を含む。接続ポッド130はまた、患者の活動をモニタリングし得る運動センサまたは加速度計といった他の電子回路を含んでいてもよい。
【0035】
いくつかの実施形態では、第1の治療電極114aおよび第2の治療電極114bは双方とも、患者の胴の前部に配置される。たとえば、第1の治療電極114aは心臓尖部の外部に位置し、第2の治療電極114bは胸骨傍線に沿って位置していてもよい。このため、実施形態は、治療電極114の或る特定の配置に限定されない。
【0036】
いくつかの実施形態では、複数のECG検知電極112は、電気活動から生じるアーティファクトが減少するように位置付けられ、対になっている。他の実施形態では、携帯用治療コントローラ120に含まれる電子回路が、ゲインまたはインピーダンスを変更することによって、電極で測定されるアーティファクトを等しくしてもよい。ここに開示された実施形態とともに使用され得る、測定された電気活動内のアーティファクトを減少させ、または防止する他の手法は、その全体がここに引用により援用される、2012年5月22日に発行された、「外部電気刺激中の生理学的信号のモニタリング」(MONITORING PHYSIOLOGICAL SIGNALS DURING EXTERNAL ELECTRICAL STIMULATION)と題された米国特許第8,185,199号で説明されている。
【0037】
図1に示すように、医療モニタリングおよび治療装置100は、携帯用治療コントローラ120に電気的に結合されたユーザインターフェイスポッド140も含んでいてもよい。ユーザインターフェイスポッド140は、たとえば、インターフェイスポッド140の一部に取付けられたクリップ(図示せず)を介して、患者の衣類に、またはハーネス110に取付け可能である。また、これに代えて、ユーザインターフェイスポッド140は単に、人の手に保持されてもよい。ユーザインターフェイスポッド140は典型的には、患者または居合わせた人が携帯用治療コントローラ120と通信できるようにする、1つ以上の作用可能なユーザインターフェイス要素(たとえば、1つ以上のボタン、指紋スキャナー、タッチスクリーン、マイクロホンなど)と、携帯用治療コントローラ120が患者または居合わせた人と通信できるようにするスピーカーとを含む。着用可能な電気的除細動器であるライフベスト(登録商標)の或るモデルでは、ユーザインターフェイスポッド140の機能性は、携帯用治療コントローラ120に組込まれている。
【0038】
患者が心不整脈を患っていると携帯用治療コントローラ120が判断した場合、携帯用治療コントローラ120は、携帯用治療コントローラ120および/またはユーザインターフェイスポッド140上のラウドスピーカー(図示せず)を介して、患者および居合わせた人々に患者の症状について警告する可聴アラームを発行してもよい。携帯用治療コントローラ120によって発行される通知の例は、その全体がここに引用により援用される、2012年3月23日に出願された、「着用可能な医療装置においてアラームを適合させるためのシステムおよび方法」(SYSTEM AND METHOD FOR ADAPTING ALARMS IN A WEARABLE MEDICAL DEVICE)と題された同時係属中の出願連続番号第13/428,703号に記載されている。携帯用治療コントローラ120はまた、患者に、自分に意識があることを示すために、携帯用治療コントローラ120上の、またはユーザインターフェイスポッド140上の1つ以上のボタンを押したままにするように命令し、それにより、携帯用治療コントローラ120に、1回以上の治療用除細動ショックの送出を保留するように命令してもよい。患者が反応しない場合、装置は、患者に意識がないと推測し、治療シーケンスを進めて、患者の身体への1回以上の除細動ショックの送出をもたらしてもよい。
【0039】
携帯用治療コントローラ120は一般に、テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments)、インテル(Intel)、AMD、サン(Sun)、IBM、モトローラ(Motorola)、フリースケール(Freescale)およびARMホールディングス(ARM Holdings)などの企業から商業的に入手可能なプロセッサといった、少なくとも1つのプロセッサ、マイクロプロセッサ、またはコントローラを含む。一実現化例では、少なくとも1つのプロセッサは、インテル(登録商標)PXA270プロセッサなどの汎用プロセッサと、フリースケール(商標)DSP56311デジタル信号プロセッサなどの専用プロセッサとを含む節電プロセッサ構成を含む。そのような節電プロセッサ構成は、その全体がここに引用により援用される、2010年7月9日に出願された、「医療装置において節電するためのシステムおよび方法」(SYSTEM AND METHOD FOR CONSERVING POWER IN A MEDICAL DEVICE)と題された同時係属中の出願連続番号第12/833,096号(以下、「’096出願」)に記載されている。携帯用治療コントローラ120の少なくとも1つのプロセッサは、患者の症状をモニタリングし、医療データロギングおよび格納を行ない、心不整脈などの検出された症状に応じて患者に医療を提供するように構成されている。
【0040】
図示されていないが、医療モニタリングおよび治療装置100は、ECG検知電極112以外に、患者の生理学的状態または活動をモニタリングできる追加のセンサを含んでいてもよい。たとえば、患者の血圧、心拍数、心音、胸郭インピーダンス、脈酸素レベル、呼吸数、および活動レベルを測定可能なセンサも提供されてもよい。
【0041】
図2は、異常がないか生理学的情報をモニタリングし、検出された異常の治療を始めるという重要な機能を行なうように構成された携帯用治療コントローラ120を示す。図示されているように、携帯用治療コントローラ120は、’096出願に記載された節電プロセッサ構成200と、センサインターフェイス212と、治療送出インターフェイス202と、データストレージ204と、通信ネットワークインターフェイス206と、ユーザインターフェイス208と、バッテリー210とを含んでいてもよい。この図示された例では、バッテリー210は、充電と充電との間に最小24時間のランタイムで他の装置コンポーネントに電力を提供する、再充電可能な3セル2200mAhリチウムイオン電池パックである。そのようなバッテリー210は、1つ以上の治療用ショックを施すのに十分な容量を有しており、治療送出インターフェイス202は、負荷を治療電極114に運ぶのに好適な配線を有する。さらに、図示された例では、バッテリー210は、バッテリーランタイムの満了時でさえ、最大で5回またはそれを上回る治療用ショックを送出するのに十分な容量を有している。1回の除細動ショック中に患者に送出可能な電力量は、実質的には、たとえば最大でおよそ200ジュールである。
【0042】
センサインターフェイス212および治療送出インターフェイス202は、’096出願に記載されたような節電プロセッサ構成200に、より特定的には節電プロセッサ構成200の専用プロセッサに結合されている。データストレージ204、ネットワークインターフェイス206、およびユーザインターフェイス208も、同様に’096出願に記載されたような節電プロセッサ構成200に、より特定的には節電プロセッサ構成の汎用プロセッサに結合されている。
【0043】
図示された例では、データストレージ204は、非一時的な命令および他のデータを格納するように構成された、コンピュータ読取可能および書込可能な不揮発性データ記憶媒体を含む。この媒体は、たとえば、とりわけ光ディスク、磁気ディスクまたはフラッシュメモリであってもよく、永続的に携帯用治療コントローラ120に取付けられ、またはそれから取り外されてもよい。
【0044】
図2に示すように、携帯用治療コントローラ120は、いくつかのシステムインターフェイスコンポーネント202、206および212を含む。これらのシステムインターフェイスコンポーネントの各々は、携帯用治療コントローラ200内に、または他の場所に位置し得る特殊装置と、データを交換する、すなわちデータを送受信するように構成されている。インターフェイス202、206および212によって使用されるコンポーネントは、ハードウェアコンポーネント、ソフトウェアコンポーネント、またはそれらの組合せを含んでいてもよい。各インターフェイスの事例では、これらのコンポーネントは、携帯用治療コントローラ200を1つ以上の特殊装置に物理的にかつ論理的に結合する。この物理的かつ論理的な結合は、携帯用治療コントローラ120が特殊装置と通信すること、および、いくつかの事例では特殊装置の動作を制御することを、両方とも可能にする。これらの特殊装置は、生理学的センサ、治療送出装置、およびコンピュータネットワーキング装置を含んでいてもよい。
【0045】
さまざまな例によれば、インターフェイス202、206および212のハードウェアコンポーネントならびにソフトウェアコンポーネントは、さまざまな結合手法およびコミュニケーション手法を採用している。いくつかの例では、インターフェイス202、206および212は、携帯用治療コントローラ120と特殊装置との間でデータを交換する導管として、リード線、ケーブルまたは他の有線コネクタを使用する。他の例では、インターフェイス202、206および212は、無線周波数または赤外線技術といった無線技術を使用して特殊装置と通信する。インターフェイス202、206および212に含まれるソフトウェアコンポーネントは、節電プロセッサ構成200が特殊装置と通信することを可能にする。これらのソフトウェアコンポーネントは、オブジェクト、実行可能コード、および取込まれたデータ構造といった要素を含んでいてもよい。これらのハードウェアコンポーネントおよびソフトウェアコンポーネントはともに、節電プロセッサ構成200が特殊装置と情報を交換できるようにするためのインターフェイスを提供する。さらに、少なくともいくつかの例では、1つ以上の特殊装置がアナログ信号を使用して通信する場合、インターフェイス202、206および212は、アナログ情報をデジタル情報に変換する、およびその逆も同様に行なうように構成されたコンポーネントを含んでいてもよい。
【0046】
上述のように、図2の例に示すシステムインターフェイスコンポーネント202、206および212は、異なるタイプの特殊装置をサポートする。たとえば、センサインターフェイス212のコンポーネントは、体温センサ、呼吸モニター、および乾式容量性ECG検知電極といった1つ以上の生理学的センサに、節電プロセッサ構成200を結合する。この発明はどの特定のタイプのECG検知電極にも限定されていないため、他のタイプのECG検知電極が使用されてもよい、ということが認識されるべきである。治療送出インターフェイス202のコンポーネントは、キャパシタおよび除細動器電極といった1つ以上の治療送出装置を、節電プロセッサ構成200に結合する。加えて、ネットワークインターフェイス206のコンポーネントは、ブリッジ、ルーター、またはハブといったネットワーキング装置を介して、節電プロセッサ構成をコンピュータネットワークに結合する。ネットワークインターフェイス206は、さまざまな規格およびプロトコルをサポートしていてもよく、それらの例は、USB、TCP/IP、イーサネット(登録商標)、無線イーサネット(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ジグビー(ZigBee)、M−バス、IP、IPV6、UDP、DTN、HTTP、FTP、SNMP、CDMA、NMEA、およびGSM(登録商標)を含む。データ転送が安全であることを確実にするために、いくつかの例では、携帯用治療コントローラ200は、たとえばTSL、SSLまたはVPNを含むさまざまなセキュリティ対策を使用して、ネットワークインターフェイス206を介してデータを送信することができる。他の例では、ネットワークインターフェイス206は、無線通信用に構成された物理的インターフェイスと、有線通信用に構成された物理的インターフェイスとの双方を含む。
【0047】
図2に示すユーザインターフェイス208は、携帯用治療コントローラ200がユーザなどの外部エンティティと通信することを可能にする、ハードウェアコンポーネントとソフトウェアコンポーネントとの組合せを含む。これらのコンポーネントは、物体の動き、言葉のイントネーション、または思考過程などの行動から情報を受け取るるように構成されている。加えて、ユーザインターフェイス208のコンポーネントは、情報を外部エンティティに提供できる。ユーザインターフェイス208内で採用され得るコンポーネントの例は、キーボード、マウス装置、トラックボール、マイクロホン、電極、タッチスクリーン、印刷装置、ディスプレイスクリーン、およびスピーカーを含む。
【0048】
着用可能な電気的除細動器であるライフベスト(登録商標)は、患者のECG信号をモニタリングし、さまざまな心不整脈を検出し、心室細動(VF)または心室頻拍(VT)といった治療可能な形の心不整脈を患っている患者に、救命除細動治療を提供することができる。
【0049】
出願人は、そのような医療モニタリングおよび治療装置が、徐脈、頻脈、不規則な心臓律動、または心停止といった多種多様の異なる心不整脈を治療するために、さまざまな異なるタイプの心臓ペーシングを行なうように構成可能であることを認識した。出願人はまた、他の実施形態では、医療モニタリングおよび治療装置が、無脈性電気活動を治療するためにペーシングを行なうように構成可能であることを認識した。この発明の一局面によれば、この装置は、固定エネルギーレベルおよびパルスレートで患者の心臓をペーシングするように構成可能であり、または、患者の心臓の検出された固有の活動レベルに応答して、固定エネルギーレベルおよび調節可能レートでオンデマンドで患者の心臓をペーシングするように構成可能であり、または、患者の心臓の検出された固有の活動レベル、および患者の心臓の検出された反応に応答して、調節可能エネルギーレベルおよびレートで捕捉管理を使用して患者の心臓をペーシングするように構成可能である。治療電極114a、114b(図1)のうちの1つ以上によって、さまざまなタイプのペーシングが外部から患者に適用されてもよい。着用可能な電気的除細動器であるライフベスト(登録商標)といった医療モニタリングおよび治療装置によって実行可能なさまざまなタイプのペーシングは、固定レートおよびエネルギーでの非同期ペーシングと、可変レートおよび固定エネルギーでのオンデマンドペーシングと、調節可能レートおよび調節可能エネルギーレベルでの捕捉管理ペーシングとを含んでいてもよい。
【0050】
いくつかの実施形態では、医療モニタリングおよび治療装置は、ペーシング動作中、患者の不快感のレベルを周期的に評価するように構成されている。これらの実施形態では、患者の不快感レベルがしきい値を超えたと判断したことに応答して、装置は、患者が体験する不快感を減少させるようにペーシング活動の属性を調節しようとする。
【0051】
一実施形態では、医療モニタリングおよび治療装置は、患者が体験する不快感レベルを示す情報を装置が受信するためのユーザインターフェイスを提供する。この情報が、不快感のレベルがしきい値レベルを超えたことを示す場合、装置は、不快感のレベルを減少させようとして、ペーシング動作の特性を調節する。
【0052】
別の実施形態では、医療モニタリングおよび治療装置は、ペーシングパルスを施す前、最中、および後に患者の動きをモニタリングおよび記録することによって、患者の不快感のレベルを評価する。装置は、たとえば1つ以上の加速器、音声センサなどを含むさまざまな器具を使用して、患者の動きをモニタリングしてもよい。ペーシングパルス中に患者が体験する不快感のレベルを評価するために、装置は、患者の動きの記録された履歴を分析し、患者の動きの変化とペーシングパルスとの相関関係を識別してもよい。ペーシングパルスとフリンチを表わし得る患者の突然の動きとの強い相関関係、および、ペーシングパルスと動きの突然の停止との強い相関関係は、患者が不快感を体験していることを示す場合がある。しきい値を超える値を有する相関関係は、不快感を示すと考えられてもよく、装置にペーシングパルスの特性を調節させてもよい。
【0053】
他の実施形態では、装置は、患者の不快感レベルを減少させるようにペーシング動作の特性を調節する。調節され得るペーシング動作の特性は、たとえば、ペーシングパルスのエネルギーレベル、ペーシングパルスの幅、およびペーシングパルスのレートを含む。いくつかの実施形態では、装置は、ペーシング動作がひき続き心臓機能を効果的に管理することを確実にするために、この調節プロセス中の患者の心臓の活動をモニタリングする。これらの実施形態では、ペーシング動作が無効になると、装置は、ペーシング動作の特性を以前の設定に戻してもよい。
【0054】
1. 固定レートおよびエネルギーでのペーシング
この発明の一局面によれば、着用可能な電気的除細動器であるライフベスト(登録商標)といった医療モニタリングおよび治療装置は、さまざまなタイプの心不整脈に応じて、固定レートおよび固定エネルギーで患者の心臓をペーシングするように構成可能である。これらの心不整脈の例は、徐脈性不整脈、検知される心臓活動の欠如(特発性またはショック後心停止)、および無脈性電気活動を含む。場合によっては、これらの心不整脈は、1回以上の除細動ショックの前または後に生じるかもしれない。たとえば、装置は、ECG検知電極112による上述の事象のうちのいずれかの検出に応答して、固定エネルギーレベル、固定パルス幅、および固定周波数でパルスを提供するように構成されてもよい。ペーシングパルスのエネルギーレベルは、定められた持続時間の間、治療電極114a、114bのうちの1つ以上によって所望の電流波形を印加することにより、固定値に設定されてもよい。電流波形の最大電流レベルは、およそ0mAmps〜200mAmpsの間の値に設定されてもよく、パルス幅は、およそ0.05ms〜2msの間の固定値に設定されてもよく、パルスの周波数は、およそ30パルス/分(pulses per minute:PPM)〜およそ200PPMの間の固定値に設定されてもよい。一実施形態によれば、40msの方形波パルスが使用される。40msの定電流パルスと、5msの定電流パルスと、可変電流パルスとを含む例示的なペーシング電流波形を、図3に示す。
【0055】
医療モニタリングおよび治療装置のペーシング動作中、装置は、正常洞調律が戻ったかどうか判断するためにECG検知電極を介して患者を評価するために、周期的に或る期間の間休止してもよい。装置が正常洞調律を検出した場合、装置はペーシングパルスの印加を中断し、単に、患者のECG、温度、脈酸素レベルといった患者の生理学的信号のモニタリングを続けてもよい。
【0056】
医療モニタリングおよび治療装置を最初に装着する間、電流のレベル、パルス幅、およびパルスの周波数は、(患者の心臓病専門医などの)医療専門家の入力と、(たとえば、患者の正常な安静時心拍数、患者の胸郭インピーダンスなどに基づいた)患者の生理学的症状とに基づいて、適切なレベルに設定されてもよい。また、これに代えて、電流のレベル、パルス幅、およびパルスの周波数は単に、大人用または子供用の典型的なインピーダンス値と、大人用または子供用の典型的な安静時心拍数とに基づいて、適切なレベルに設定されてもよい。
【0057】
固定レートでのペーシングは患者自身の固有心拍数に干渉するかもしれないため、装置は、致命的な除脈性不整脈や、ショックに続く検出される心臓活動の欠如、またはショックに続く無脈性電気活動に応答してのみ、そのような固定レートおよびエネルギーでのペーシングを行なうように構成可能である、ということが認識されるべきである。
【0058】
2. デマンド(調節可能レート)ペーシング
この発明の一局面によれば、着用可能な電気的除細動器であるライフベスト(登録商標)といった医療モニタリングおよび治療装置はまた、徐脈性不整脈(すなわち、過度に遅い心拍数)、頻脈(すなわち、過度に速い心拍数)、認識可能な正常洞調律がない不規則な心拍数、検知される心臓活動の欠如(心停止)、および無脈性電気活動を含むさまざまなタイプの心不整脈に応じて、可変レートおよび固定エネルギーで患者の心臓をペーシングするように構成可能である。 これらの心不整脈のうちのいくつかは、1回以上の除細動ショックに続いて起こるかもしれない。
【0059】
当業者には公知であるように、固定レートおよびエネルギーでのペーシングは、特定のタイプの心不整脈の患者には適切ではないかもしれず、レートおよびエネルギーレベルが適切な場合であっても、固定レートでのペーシングは、ペーシングパルスが印加されているレートと患者の心臓の固有リズムとの間の競合をもたらす場合がある。たとえば、固定レートでのペーシングは、心室頻拍または心室細動を促進し得る、正常な心臓周期の相対不応期(T波に対するR波の効果の一種)中に、ペーシングパルスの印加をもたらすかもしれない。固定レートおよびエネルギーでのペーシングの欠点のうちのいくつかを克服するために、医療モニタリングおよび治療装置は、患者の生理学的状態に依存してペーシングパルスのレートが変更され得るデマンドペーシングを行なうように構成可能である。たとえば、デマンドペーシング中、装置は、患者によって必要とされる場合のみ、ペーシングパルスを送出できる。一般に、デマンドモードのペーシング中、装置は患者の固有の心臓活動を捜索し、指定された間隔内で心拍が検出されない場合、ペーシングパルスが送出され、タイマーが指定された間隔に設定される。患者の検出された固有の心臓活動なしで、指定された間隔が満了した場合、別のペーシングパルスが送出され、タイマーがリセットされる。また、これに代えて、指定された間隔内で患者の固有心拍が検出された場合、装置はタイマーをリセットし、固有の心臓活動をひき続き捜索する。
【0060】
図4は、デマンドペーシングの局面のうちのいくつか、および、デマンドペーシングが医療モニタリングおよび治療装置によって実行され得る態様を示すのに役立つ。図4に示すように、装置は、ECG検知電極112とECGモニタリングおよび検出回路とによって検出される任意の検出された固有の心臓活動がない場合にペーシングパルスが患者に送出されるレートに対応している、可変ペーシング間隔410を有していてもよい。たとえば、パルシングペースが患者に送出されるレート(ここに「ベースペーシングレート」と呼ぶ)は60PPMに設定されてもよく、したがって、対応するベースペーシング間隔410は1秒に設定されるであろう。
【0061】
医療モニタリングおよび治療装置はまた、患者の検出された固有心拍数に対応するヒステリシスレート(図4に図示せず)を有していてもよく、それ未満で装置はペーシングを実行する。いくつかの実施形態によれば、ヒステリシスレートは、患者の固有心拍数のパーセンテージとして表わされる、設定可能なパラメータである。上述の例では、ヒステリシスレートは毎分50拍(beats per minute:BPM)に対応していてもよい。この例では、患者の固有心拍数が50BPM以下に下がった場合(たとえば、検出された心拍間がおよそ1.2秒を上回る場合)、装置は、ペーシングインパルスを発生させて患者に印加するであろう。
【0062】
患者の身体へのペーシングパルスの印加中、およびその後の短い時間の間、医療モニタリングおよび治療装置は、ECGモニタリングおよび検出回路(たとえば、増幅器、A/D変換器など)がペーシングパルスによって圧倒される(たとえば、飽和される)ことを防止するために、この回路が受信しているECG信号の一部を意図的にブランクアウトしてもよい。これは、ハードウェア、ソフトウェア、または双方の組合せで行なわれてもよい。ここに「ブランキング間隔」420と呼ばれるこの期間は(たとえば、およそ30ms〜200msの間で)変わり得るが、典型的には、持続時間がおよそ40ms〜80msである。
【0063】
ブランキング間隔420に加えて、医療モニタリングおよび治療装置は、ベースペーシングレートに依存して変わり得る可変不応期430を有していてもよい。不応期430は、ECG検知電極112とECGモニタリングおよび検出回路とによって検知された信号が無視される期間に対応しており、ブランキング間隔を含む。不応期430は、患者においてペーシングパルスによって誘発された任意の生成されたQRS群またはT波が無視され、患者の固有の心臓活動として解釈されないことを可能にする。たとえば、ベースペーシングレートが80PPM未満に設定される場合、不応期は340msに対応するかもしれず、およびベースペーシングレートが90PPMよりも上に設定される場合、不応期は240msに対応するかもしれない。典型的な用途については、不応期は一般に、約150ms〜500msである。
【0064】
この発明の一局面によれば、医療モニタリングおよび治療装置によって行なわれるECGモニタリングおよび検出の感度も、ECG検知電極と関連するECGモニタリングおよび検出回路とが患者の固有の心臓活動を検出できる程度を調節するために、変更されてもよい。たとえば、患者の固有のECG信号の或る認識可能な部分(たとえばR波)の振幅が、典型的に遭遇されるもの未満である場合、患者の固有の心臓活動をより良好に検出するために、電圧しきい値(それを超えると、この認識可能な部分は、ECG信号に属するとして(および、ノイズまたは他の要因に起因していないとして)検出され得る)が、たとえば2.5mVから1.5mVまで下げられてもよい。たとえば、医療モニタリングおよび治療装置を最初に装着する間、装置の感度しきい値は極小値(たとえば、0.4mV)まで下げられてもよく、患者の固有のECG信号がモニタリングされてもよい。次に、感度しきい値を漸進的に増加させて(それにより装置の感度を減少させて)、患者の固有のECG信号がもはや検知されなくなるまでこれらのECG信号がモニタリングされてもよい。次に、患者の固有のECG信号が再び検知されるまで感度しきい値を漸進的に減少させ(それにより装置の感度を増加させ)てもよく、装置の感度しきい値をこの値のおよそ半分に設定してもよい。
【0065】
固定エネルギーおよびレートでのペーシングと同様に、装置は、ECG検知電極112とECGモニタリングおよび検出回路とによる上述の事象のうちのいずれかの検出に応答して、固定エネルギーレベルおよび固定パルス幅でパルスを提供するように構成されてもよい。電流波形の最大電流レベルは、およそ10mAmps〜200mAmpsの間の値に設定されてもよく、パルス幅は、およそ20ms〜40msの間の固定値に設定されてもよく、パルスのベースレートは、およそ30パルス/分(PPM)〜およそ200PPMの間の固定値に設定されてもよいが、ペーシングパルスの実際のレートは、患者の固有の心臓活動に基づいて変わり得る。一実施形態によれば、40msの定電流パルスが使用され、電流レベルは、患者の心臓病専門医などの医療専門家の入力と、患者の生理学的症状とに基づいて、固定値に設定される。ベースペーシングレートおよびヒステリシスレートも、患者の心臓病専門医(または他の医療専門家)の入力と、患者の生理学的症状とに基づいて設定されてもよく、ベースペーシングレートおよび/またはヒステリシスレートに基づいて、ブランキング間隔および不応期が適切な時間間隔に設定されてもよい。
【0066】
ベースペーシングレートは、患者の生理学的症状と医療専門家からの入力とに基づいて、或る特定の値に設定されてもよいが、医療モニタリングおよび治療装置は、徐脈、頻脈、認識可能な正常洞調律がない不規則な心拍数、心停止、または無脈性電気活動といった異なる心不整脈に応じるために、複数の異なるペーシングルーチンを含んでいてもよい。これらのペーシングルーチンは、さまざまなハードウェアコンポーネントおよびソフトウェアコンポーネントを使用して実現されてもよく、実施形態は、ハードウェアまたはソフトウェアの或る特定の構成に限定されない。たとえば、ペーシングルーチンは、ここに説明される機能を行なうように適合された特定用途向け集積回路(application-specific integrated circuit:ASIC)を使用して実現されてもよい。
【0067】
A. 徐脈
上述のように、徐脈が検出され、かつ患者の固有心拍数がヒステリシスレートのもの未満である場合、医療モニタリングおよび治療装置は、予め設定されたベースペーシングレートで患者をペーシングするであろう。この時間の間、装置は患者の固有心拍数をモニタリングし続け、ヒステリシスレートに対応する指定された間隔内で固有心拍が検出された場合には、ペーシングパルスを保留するであろう。このタイプのオンデマンドペーシングはしばしば、「維持ペーシング」と呼ばれる。
【0068】
B. 頻脈
頻脈に応じるために、医療モニタリングおよび治療装置はさらに、ここに「抗頻脈性不整脈ペーシングレート」と呼ばれる別のペーシングレートを含んでいてもよく、それを上回ると、装置は、患者が頻脈を患っていると識別し、患者の固有心拍をベースレーシングレートの方へ戻す態様で患者をペーシングするであろう。たとえば、装置は、患者の心拍数の制御を得ようとして、患者の固有レートを上回る周波数で一連のペーシングパルス(たとえば、約5〜10回のペーシングパルス)を患者に送出する、オーバードライブペーシングとして公知の手法を採用してもよい。装置が患者の心拍数を制御していると一旦判断されれば、パルスのレート(すなわち周波数)がたとえば約10ms減分されてもよく、別の一連のペーシングパルスが送出されてもよい。パルスのこの送出および周波数の減少は、患者の検出された固有心拍数が抗頻脈性不整脈ペーシングレート未満になるまで、またはベースペーシングレートになるまで、続いてもよい。このタイプのペーシングはしばしば、「オーバードライブペーシング」または「高速ペーシング」と呼ばれる。
【0069】
C. 不規則な心拍数
不規則な心拍数に応じるために、医療モニタリングおよび治療装置は、上述の維持ペーシングとオーバードライブペーシングとの組合せと同様である一種のペーシングを行なってもよい。たとえば、医療モニタリングおよび治療装置が、認識可能な洞調律がない不規則な心拍数を検出した場合、装置は、或る特定の周波数で一連のペーシングパルス(たとえば、約5〜10回のペーシングパルス)を患者に送出してもよい。この周波数は、患者の検出された一連の固有心拍のより低い周波数を上回り、かつ患者の検出された固有心拍のより高い周波数を下回るものであってもよい。一連のパルスの送出後、装置は患者の心臓をモニタリングして、それが送出された一連のパルスのレートに同期したかどうか判断してもよい。患者の固有心拍が依然として不規則な場合、装置は、一連のパルスの周波数を増加させ、別の一連のパルスを送出してもよい。これは、患者の心臓が現在、より規則的な状態にあることが確立されるまで、続いてもよい。患者の心臓が現在、より規則的な状態にあると判断すると、装置は、上述の項目2Aで説明されたように患者の固有心拍数が低すぎると判断された場合には維持ペーシングを行なってもよく、または、必要とされる場合には上述の項目2Bで説明された態様で減分されたレートでペーシングを行なってもよい。
【0070】
D. 心停止または無脈性電気活動
心停止、または無脈性電気活動の検出された状態に応じるために、医療モニタリングおよび治療装置は、上述の項目2Aで説明されたものと同様の維持ペーシングを行なってもよい。このタイプのペーシングは、患者の心臓に正常洞調律を回復させようとする一連の1回以上の除細動ショックの後に行なわれるであろう。
【0071】
上述の各タイプのペーシングにおいて、医療モニタリングおよび治療装置は、そのような心不整脈が検出された後のプログラム可能な遅延の後にのみ、または、1回以上の除細動ショックが送出された後のプログラム可能な期間の後にのみ、或る特定のタイプのペーシングを行なうように構成されてもよい。
【0072】
3. 捕捉管理
この発明の一局面によれば、着用可能な電気的除細動器であるライフベスト(登録商標)といった医療モニタリングおよび治療装置はまた、さまざまなタイプの心不整脈に応じて、調節可能エネルギーレベルおよび調節可能レートで捕捉管理を使用して患者の心臓をペーシングするように構成可能である。さまざまなタイプの心不整脈は、徐脈、頻脈、認識可能な正常洞調律がない不規則な心拍数、1回以上の除細動ショックに続く、またはそれらから独立した、検知された心臓活動の欠如(心停止)、1回以上の除細動ショックに続く致命的な除脈性不整脈、または1回以上の除細動ショックに続く無脈性電気活動を含み得る。
【0073】
当業者には公知であるように、捕捉管理とは、ペーシングパルスのエネルギーレベルと、それらのペーシングパルスの送出レートとが、患者の心臓の検出された固有活動レベルと、それらのペーシングパルスに対する患者の心臓の検出された反応とに基づいて変更され得る一種のペーシングを指す。心臓ペーシングでは、「捕捉」という用語は、心室脱分極をもたらすエネルギーのパルスに対する患者の心臓の反応を指すために使用される。心臓ペーシングでは、各パルスにおけるエネルギー量を、捕捉に必要な最小量に限定し、それにより、外部ペーシングに関連する不快感の量を最小限に抑えることが望ましい。
【0074】
一般に、医療モニタリングおよび治療装置が捕捉管理ペーシングを実行できる態様は、患者の心臓活動の検出された固有レートに基づいてペーシングパルスを送出するレートを調節し得るという点で、上述のデマンドペーシングのものと同様である。患者のECGに対する装置の感度は、デマンドペーシングに関して上述したものと同様の態様で調節されてもよい。さらに、捕捉管理ペーシングは、徐脈、頻脈、認識可能な洞調律がない不規則な心拍数、心停止、または無脈性電気活動といった、上述のデマンドペーシングと同じタイプの心不整脈を治療するために、使用されてもよい。
【0075】
しかしながら、デマンドペーシングを行なう装置とは対照的に、捕捉管理ペーシングを行なうように構成された装置は典型的には、デマンドペーシングを行なうように構成された装置よりも著しく短い不応期430(図4参照)を有するであろう。実際、捕捉管理ペーシングを使用する場合、不応期430は全くないかもしれず、ブランキング間隔420のみがあるかもしれない。また、これに代えて、不応期430がある場合、不応期430は持続時間がブランキング間隔420と同様であってもよい。当業者であれば認識するように、これは、捕捉管理ペーシング中、エネルギーの送出されたパルスが捕捉をもたらしたかどうか検出するために、患者の心臓の反応がECG検知電極112とECGモニタリングおよび検出回路とによってモニタリングされるためである。この理由により、ECGモニタリングおよび検出回路は、エネルギーパルスの送出中はスイッチオフされるかまたは効果的に無効にされるものの、送出されたパルスが捕捉をもたらしたかどうか検出するために、その後すぐにスイッチオンされるかまたは他の態様で有効にされるということが重要である。40msの定電流パルスが使用される一実施形態では、ECGモニタリングおよび検出回路の飽和を回避しつつ、ペーシングパルスによって誘発された患者の心臓のいかなる固有の電気活動も検出されることを確実にするために、ブランキング間隔420はおよそ45msに設定されてもよい。
【0076】
捕捉管理ペーシング中、医療モニタリングおよび治療装置は、捕捉がもたらされたか判断するために、定めれたエネルギーレベルでエネルギーのパルスを送出して、患者の反応をモニタリングすることができる。送出されたパルスが捕捉をもたらさなかったと判断された場合、次のパルスのエネルギーレベルが増加されてもよい。たとえば、装置が患者の外部にある医療モニタリングおよび治療装置である場合、初期設定は、40mAmpsの電流で40msの直線定電流パルスのエネルギーを提供し、捕捉がもたらされるまで電流の量を2mAmpsずつ増加させるように構成されてもよい。次のペーシングパルスが、第1のペーシングパルスに比べて増加した電流で、および患者の検出された固有の心臓活動がない場合の第1のペーシングパルスに対する所望のレートで、送出されてもよい。次のペーシングパルスが捕捉をもたらさない場合、捕捉が検出されるまでエネルギーが増加されてもよい。医療モニタリングおよび治療装置は次に、このエネルギーレベルで、および患者の検出された固有の心臓活動がない場合の所望のレートで、ペーシングを続けてもよい。この期間中、装置は、ペーシングパルスに対する患者の心臓の反応をモニタリングしており、その後の1回以上のパルスにわたって捕捉がもたらされなかったと判断された場合にはエネルギーレベルをさらに増分してもよい。
【0077】
代替的な一構成では、医療モニタリングおよび治療装置は、捕捉がもたらされたかどうか判断するために、初期エネルギーレベルおよびレートで一連のパルスを印加し、患者の反応をモニタリングしてもよい。捕捉がもたらされなかった場合、またはパルスのうちのすべてではないもののいくつかに応答して捕捉がもたらされた場合、装置は、各パルスについて捕捉がもたらされるまで、次の一連のパルスのエネルギーを増加させてもよい。
【0078】
また、これに代えて、装置は、捕捉管理ペーシング中に捕捉をもたらす最小量のエネルギーを識別するように構成されてもよい。送出されたパルスが捕捉をもたらしたと判断された場合、次のパルスのエネルギーレベルが減少されてもよい。たとえば、装置が患者の外部にある医療モニタリングおよび治療装置である場合、初期設定は、70mAmpsの電流で40msの定電流パルスのエネルギーを提供するように構成されてもよい。送出されたパルスが捕捉をもたらしたと判断された場合、捕捉がもはや達成されなくなるまで、次のペーシングパルスが、5mAmpsずつ減少されて、および患者の検出された固有の心臓活動がない場合の第1のペーシングパルスに対する所望のレートで、送出されてもよい。次のペーシングパルスが捕捉をもたらさない場合、捕捉をもたらすパルスを生成するために、わかっている最後の電流までエネルギー設定を増加させてもよく、次により高いエネルギー設定でパルスを送出し、このように、捕捉のために必要とされる最小量のエネルギーを送出する。医療モニタリングおよび治療装置は次に、このエネルギーレベルで、および患者の検出された固有の心臓活動がない場合の所望のレートで、ペーシングを続けてもよい。この期間中、捕捉のために最小量のエネルギーが送出されていることを確実にするために、同様のルーチンが予め定められた間隔で再度行なわれてもよい。加えて、この期間中、装置は、ペーシングパルスに対する患者の心臓の反応をモニタリングしており、その後の1回以上のパルスにわたって捕捉がもたらされなかったと判断された場合にはエネルギーレベルを増加させてもよい。
【0079】
上述のさまざまな実施形態では、救命除細動または電気的除細動治療を提供するだけではなく、多種多様の異なるペーシング治療法も提供し得る、外部の医療モニタリングおよび治療装置が説明されてきた、ということが認識されるべきである。医療モニタリングおよび治療装置は、患者の固有の心臓活動、患者の胸郭インピーダンス、および患者の他の生理学的パラメータをモニタリングできるため、装置は、検討および承認のために医療専門家にさまざまな設定を推奨するように構成されてもよい。推奨され得るさまざまな設定は、推奨されるベースペーシングレート、推奨されるヒステリシスレート、推奨される抗頻脈性不整脈ペーシングレート、推奨されるエネルギーレベル(または、捕捉管理が使用される場合、初期エネルギーレベル)、推奨されるブランキング間隔および/または不応期、ならびに推奨された感度しきい値を含んでいてもよい。ライフベスト(登録商標)電気的除細動器といった医療モニタリングおよび治療装置の場合、この初期推奨は、患者に装置が装着され、患者が装置の使用について訓練される際に行なわれてもよい。
【0080】
検討および承認のために医療専門家にそのような設定を推奨する能力は、ライフベスト(登録商標)電気的除細動器といった医療モニタリングおよび治療装置に特に良好に適しているが、そのような機能性は、マサチューセッツ州チェルムズフォードのゾール メディカル コーポレイション製のMシリーズ除細動器、RシリーズALS除細動器、Rシリーズプラス(R Series Plus)除細動器、またはEシリーズ除細動器といった、自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator:AED)または高度生命維持(Advanced Life Support:ALS)タイプの除細動器でも実現可能である。患者の固有の心臓活動および他の生理学的パラメータをモニタリングすること、ならびに、それらの検討および承認(または起こり得る修正)のために訓練された医療専門家への推奨を行なうことは、患者での使用に先立ってそのような装置を手動で構成するのに費やされる時間量を減少させ得る、ということが認識されるべきである。
【0081】
このようにこの発明の少なくとも1つの実施形態のいくつかの局面を説明してきたが、当業者であれば、さまざまな変更、修正および改良を容易に思いつくであろう、ということが認識されるべきである。そのような変更、修正および改良は、この開示の一部であるように意図されており、この発明の範囲内に該当するように意図されている。したがって、前述の説明および図面は、単なる例示である。
図1
図2
図3
図4