(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る通気部材1の概略構成を示す図である。
図2は、実施の形態に係る通気部材1の断面図であり、
図1のII−II部の断面図である。
通気部材1は、例えば自動車のトランスミッションを収容するトランスミッションケースや、エンジンを構成する各部品を収容するシリンダブロック、シリンダヘッド、クランクケース等の機器筐体100に装着される。つまり、通気部材1は、液体が介在することにより円滑に作動するとともに作動することにより発熱する駆動機構を収容する機器筐体100に装着される。あるいは、通気部材1は、液体および液体浮遊粒子が存在する環境下で、機器筺体100に装着される。
図2には、機器筐体100に設けられた、通気部材1装着用の部位であって端部が開口した被装着部110を二点鎖線で示している。また、機器筐体100の被装着部110に装着されたホースやチューブの先端に通気部材1が装着されてもよい。
【0015】
なお、機器筐体100が収容する液体としては、エンジン油、ギヤ油、マシン油、スピンドル油、冷凍機油(鉱油系)、カップグリース、リチウムグリース、シリコーングリース、ATF、CVT油等の潤滑油であることを例示することができる。また、液体としては、タービン油、油+水エマルジョン系、水+グリコール系、リン酸エステル系、シリコーン系、ブレーキ油、トルコン油等の作動油であることを例示することができる。また、液体としては、軽油・灯油、重油、ガソリン等の燃料であることを例示することができる。
【0016】
通気部材1は、機器筐体100の内部空間への液体および固体の侵入を阻止するとともに気体が機器筐体100の内部空間と外部空間との間で流通(透過)するのを許容する孔が複数形成されている第1多孔体の一例としての通気膜10を有している。通気膜10が侵入を阻止することができる液体としては、水、塩水、泥水、洗浄水などを例示することができる。
【0017】
また、通気部材1は、通気膜10と接触しないように通気膜10よりも機器筐体100の内部空間側に配置され、液体浮遊粒子(例えばオイルミスト)を捕集するとともに気体が機器筐体100の内部空間と外部空間との間で流通(透過)するのを許容する孔が複数形成されている第2多孔体の一例としての捕集膜20を有している。捕集膜20が捕集することができる液体浮遊粒子は、上述した、機器筐体100に収容された液体の液体浮遊粒子であることを例示することができる。また、捕集膜20は、上述した、機器筐体100に収容された液体を捕集する。
【0018】
また、通気部材1は、機器筐体100の開口部の一例としての被装着部110に装着される装着部材の一例であって、機器筐体100の内部空間と外部空間とを連通する後述する連通孔33が形成されているとともに通気膜10および捕集膜20を保持する保持部材30を有している。
また、通気部材1は、通気膜10の周囲を覆うカバー部材40を有している。
【0019】
《通気膜10》
通気膜10は、円盤状に成形された膜である。通気膜10の外径は、後述する第2連通孔332の径よりも大きく、カバー部材40の後述する側壁部41の内周面の径よりも小さい。
通気膜10は、気体の透過を許容し、液体の透過を阻止する膜であれば、構造や材料は特に限定されない。通気膜10は、メッシュ状または繊維状の、布、樹脂または金属であることを例示することができる。例えば、通気膜10は、織布、不織布、樹脂メッシュ、ネット、スポンジ、金属多孔体、金属メッシュであることを例示することができる。
【0020】
本実施の形態に係る通気膜10は、樹脂多孔質膜に、通気膜10を高強度とするための補強層を積層した膜である。
樹脂多孔質膜の材料としては、公知の延伸法、抽出法によって製造することができるフッ素樹脂多孔質体やポリオレフィン多孔体を例示することができる。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等を例示することができる。ポリオレフィンを構成するモノマーとしては、エチレン、プロピレン、4−メチルペンテン−1,1ブテン等を例示することができ、これらのモノマーを単体で重合した、または共重合して得たポリオレフィンを使用することができる。また、樹脂多孔質膜の材料として、上記したポリオレフィンを2種類以上ブレンドしたものであってもよいし、層構造としたものであってもよい。
また、樹脂多孔質膜の材料としては、ポリアクリロニトリル、ナイロン、ポリ乳酸を用いたナノファイバーフィルム多孔体等を例示することもできる。
【0021】
本実施の形態に係る通気膜10は、小さな面積でも十分な通気量を得ることができ、かつ、機器筐体100内部への水や埃の侵入を阻止する機能が高いことに鑑み、PTFE多孔質膜を用いている。
【0022】
通気膜10に形成された孔の平均孔径は、0.01μm以上100μm以下の範囲であることを例示することができる。この範囲の中でも、平均孔径は、0.1μm以上50μm以下の範囲であることが好ましく、0.1μm以上5μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0023】
通気膜10に形成された平均孔径が0.01μm未満である場合、通気膜10を空気が通過し難くなる。一方、通気膜10の平均孔径が100μmを超える場合、通気膜10を通って機器筐体100内部に液体や固体が侵入し易くなる。
【0024】
通気膜10の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、10μm以上1000μm以下の範囲であることを例示することができる。
通気膜10の厚さが過度に薄いと、通気膜10の強度が低下し易くなる。一方、通気膜10の厚さが過度に厚いと、通気部材1の大きさが大きくなり易い。
【0025】
通気膜10の表面(特に、外側の部位)には、撥水処理や撥油処理等の撥液処理を施してもよい。通気膜10に撥液処理を施すことで、通気膜10に対する汚れ等の付着が抑制される。その結果、通気膜10の詰まりが抑制される。
通気膜10の撥液処理は、例えばフッ素で飽和した炭化水素基(ぺルフルオロアルキル基)を側鎖に含み、主鎖がアクリル系、メタクリル系、シリコーン系等である化合物を成分とする撥液剤を通気膜10の表面に塗布することにより行うことができる。通気膜10の表面に撥液剤を塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、グラビア塗工、スプレー塗工、キスコーティング、浸漬等を採用することができる。
また、撥油処理としては、ペルフルオロアルキル基を有する高分子を含む撥油皮膜を形成することができるのであれば、その方法は特に限定されない。形成方法としては、エアースプレー法、静電スプレー法、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法、カーテンフローコート法、含浸法等によるペルフルオロアルキル基を有する高分子の溶液もしくはディスパージョンのコーティングや、電着塗装法やプラズマ重合法による皮膜形成法等を例示することができる。
【0026】
《捕集膜20》
捕集膜20は、円盤状に成形された膜である。捕集膜20の外径は、後述する第1連通孔331の径よりも大きく、第2連通孔332の径よりも小さい。
捕集膜20は、液体浮遊粒子(例えばオイルミスト)を捕集するとともに液体浮遊粒子を捕集した状態で気体の透過を許容する孔が複数形成されている膜であれば、材料は特に限定されない。液体浮遊粒子を捕集するとは、捕集膜20に形成された複数の孔の内部に液体浮遊粒子を吸収して捕集膜20を透過させないようにすることを意味する。
【0027】
図3は、曲路率rを示す模式図である。
液体浮遊粒子(例えばオイルミスト)を捕集するという観点からすると、捕集膜20は、孔にて形成される気体や液体浮遊粒子の経路長lを、捕集膜20の厚みdで除した曲路率r(=l/d)が1となる部分が存在しない膜であることが望ましい。
曲路率rが1となる部分は、経路長lと厚みdとが同じであるため、厚み方向に形成されたストレートの貫通孔であると捉えることができる。曲路率rが1のストレートの貫通孔においては、液体浮遊粒子は、このストレートの貫通孔を通って厚み方向に進み、貫通孔の周囲の壁面に衝突することなく膜を通過し易くなると考えられる。
ゆえに、曲路率rが1となる部分が存在しないということは、経路長lが厚みdよりも大きい部分のみが存在するため、液体浮遊粒子は、捕集膜20における孔の周囲の壁面に衝突し易くなる。そして、液体浮遊粒子は、捕集膜20における孔の周囲の壁面に衝突することで捕集膜20に捕集され、擬集し、粗大化する。言い換えれば、曲路率rが1となる部分が存在しない膜は、液体浮遊粒子を捕集し、擬集し、粗大化する機能を有しており、また、粗大化することで液体浮遊粒子を液化して、自重で機器筐体100内部に戻す機能を有する。
【0028】
また、粗大化して液化した液体浮遊粒子が捕集膜20の孔の表面に付着することで液膜が形成される。液膜は、液体浮遊粒子を吸収する。捕集膜20の孔の表面に液膜が形成されることで、液体浮遊粒子は、液膜に吸収され、捕集膜20を通過することが困難となる。
このように、捕集膜20は、使用初期段階において、液体浮遊粒子を捕集し、擬集し、粗大化して液化して、自重で機器筐体100内部に戻す機能を有する。また、捕集膜20は、液化した液体浮遊粒子が液膜を形成した後の段階において、液膜にて液体浮遊粒子を吸収する機能を有する。
【0029】
液体浮遊粒子を捕集するという観点からすると、捕集膜20の孔径は小さいことが望ましい。一方で、液体浮遊粒子を捕集した状態で気体の透過を許容するという観点からすると、捕集膜20の孔径は大きいことが望ましい。
液膜が形成された後の段階において、大孔径の部位(太く短い孔部)から、液体は抜け、気体の流路となると考えられる。他方、小孔径の部位(細く長い孔部)においては、自重で液体が落ちていくと考えられるものの、新たに液体浮遊粒子を吸収するため液膜が形成されたままであると考えられる。
本発明者らが鋭意検討した結果、捕集膜20の孔径は、1μm以上400μm以下の範囲であることが好ましく、捕集膜20の平均孔径は5μm以上60μm以下の範囲であることが好ましいことを見出した。平均孔径が5μm未満であると、孔の表面に形成された液膜の影響で気体が通過せずに目詰まりが生じ易くなってしまう。平均孔径が60μmを超えると、液体浮遊粒子が孔の周囲の壁面や液膜に衝突することなく通過し易くなると考えられる。
また、捕集膜20は液体浮遊粒子を捕集した状態で気体の透過を許容し、通気膜10は機器筐体100の内部空間への液体および固体の侵入を阻止するとともに気体の透過を許容するという観点からすると、捕集膜20の孔径は、通気膜10の孔径よりも大きいことが望ましい。
【0030】
また、液体浮遊粒子を捕集するとともに、液体浮遊粒子を捕集した状態で気体の透過を許容するという観点からすると、捕集膜20の気孔率は、10%以上99%以下の範囲であることを例示することができる。本発明者らが鋭意検討した結果、この範囲の中でも、捕集膜20の気孔率は、25%以上90%以下の範囲であることが好ましいことを見出した。気孔率が大き過ぎると、液体浮遊粒子を通過させてしまい捕集し難くなるからであり、気孔率が小さ過ぎると、液体浮遊粒子を捕集した状態で気体の透過を許容し難くなるからである。
【0031】
捕集膜20は、樹脂、セラミックおよび金属の少なくともいずれかの多孔体または発泡体であることを例示することができる。
樹脂としては、焼結させる等の観点から、超高分子量の樹脂であることを例示することができる。超高分子量の樹脂は、通常、粉末状であり、単独で用いてもよいし、2種以上のものを混合して用いてもよい。
超高分子量の樹脂としては、超高分子量ポリエチレン(以下「UHMWPE」と称す。)、超高分子量ポリプロピレン、超高分子量ポリアミド等を例示することができる。超高分子量の樹脂の分子量(粘度法による測定値)は、通常の樹脂よりもはるかに大きい。例えば、通常のポリエチレンあるいはポリプロピレンの分子量はいずれも約10万以下であるのに対し、UHMWPEあるいは超高分子量ポリプロピレンの分子量はいずれも約50万以上である。また、通常のポリアミドの分子量が5000以下であるのに対し、超高分子量ポリアミドの分子量は約4万以上である。
【0032】
本実施の形態に係る捕集膜20は、UHMWPEを用い、例えば、以下のようにして製造されたものであることを例示することができる。すなわち、先ず、UHMWPE粉体を金型に充填し、UHMWPEの融点よりも低い温度で加熱した後、所定の圧力で加圧圧縮させることにより予備成形物化する。次に、予備成形物化した物を金型に入れたまま、UHMWPEの融点以上の温度に加熱して焼結させ、多孔質焼結体化する。次に、生成した多孔質焼結体を金型から取り出した後、旋盤等を用いて、所定の厚みのシート状に切削して多孔質シートを得る。得られた多孔質シートのシート面に、表面平滑なポリエステルフィルム等の転写用基材の平滑面を重ね、これを、所定の温度(UHMWPEの融点ないし融点近傍の温度)に加熱された一対の熱板で挟んで所定時間経過させる。そして、多孔質シートのシート面に転写用基材の平滑面を熱転写させ、ついで冷却し熱板間から取り出す。以上のようにして得られた多孔質シートを、旋盤等による切削によって、厚み0.03〜3mmのシート状に切断することにより円盤状の捕集膜20とする。
このようにして製造することにより、厚みが均一となる。また、UHMWPE粉体粒子同士の焼結によって連続気孔が形成され、高い通気性が備わる。
また、捕集膜20の気孔率と孔径は、UHMWPE粉体の粒子径や焼結の際の加圧程度により調整することができる。
【0033】
なお、上述した製造方法では、UHMWPEの融点よりも低い温度で加熱した後、所定圧力で加圧することにより予備成形物化したが、必ずしもこの工程を経る必要はない。UHMWPE粉体が充填された型を、直接、UHMWPEの融点以上の温度に加熱後焼結させて多孔質体を得るようにしてもよい。
また、上述した製造方法では、多孔質シートのシート面に転写用基材の平滑面を圧接し熱転写しているが、その際、予め、多孔質シートを加熱して軟化させておいてもよい。
また、予備成形物化を行う際に行う加圧は、目的とする多孔質体の通気度に応じて調整するが、0.3〜40kg/cm
2であるとよい。
【0034】
また、上述した製造方法において、多孔質焼結体を得る工程での加熱は、UHMWPEの融点〜(UHMWPEの融点+50℃)の範囲の加熱を行うことが好ましい。
また、熱転写に用いる表面平滑な転写用基材としては、合成樹脂フィルムや、金属表面を鏡面のように研磨した鏡面金属等を用いることができる。なかでも、合成樹脂フィルムを用いることが好ましい。合成樹脂フィルムは、特に限定するものではないが、ポリエステルフィルム等が好ましい。
また、上述した製造方法は、本出願人の出願に係る特願平7−333518において開示した製造方法に相当するものである。また、本出願人の出願に係る特願2009−99962において開示した製造方法を用いて製造してもよい。
【0035】
捕集膜20の表面に、撥水処理や撥油処理等の撥液処理を施してもよい。捕集膜20に撥液処理を施すことで、捕集膜20に対する汚れ等の付着が抑制される。その結果、捕集膜20の詰まりが抑制される。捕集膜20に対する撥液処理や撥油処理は、上述した通気膜10に対する撥液処理や撥油処理と同じ処理であることを例示することができる。
【0036】
《保持部材30》
図1および
図2に示すように、保持部材30は、円筒状の円筒状部31と、円筒状部31から外側に突出した外側突出部32とを有する。円筒状部31の内部が、機器筐体100の内部空間と外部空間とを連通する連通孔33として機能する。
円筒状部31は、内周面から中心側に全周に亘って突出した内側突出部34を有している。連通孔33は、内側突出部34の内部に形成された第1連通孔331と、第1連通孔331よりも外部空間側に形成された第2連通孔332とから構成される。
【0037】
保持部材30は、円筒状部31における中心線CLの方向(以下、「中心線方向」と称する場合もある。)の外部空間側の端部31aに通気膜10を保持する。通気膜10は、円筒状部31における中心線方向の外部空間側の開口を覆う。つまり、通気膜10は、第2連通孔332を塞ぐように保持部材30に固定されている。通気膜10を円筒状部31に固定する手法については後で詳述する。
【0038】
保持部材30は、通気膜10よりも内部空間側に捕集膜20を保持する。保持部材30は、通気膜10と捕集膜20とが接触しない位置に捕集膜20を保持する。より具体的には、保持部材30は、内側突出部34における中心線方向の外部空間側の端部34aに捕集膜20を保持する。捕集膜20は、第1連通孔331を塞ぐように保持部材30に固定されている。通気膜10と捕集膜20との間の隙間には気体が流通する第2連通孔332が存在する。捕集膜20を円筒状部31に固定する手法については後で詳述する。
【0039】
円筒状部31の内部空間側の端部31b側の内側の部位には面取り31cが形成されている。そして、保持部材30は、円筒状部31における中心線方向の内部空間側の端部31bが機器筐体100の被装着部110に圧入されることで機器筐体100に装着される。つまり、円筒状部31の内部空間側の端部31b側の内周面と機器筐体100との間に生じる接触圧力で保持部材30が機器筐体100の被装着部110から脱落することが抑制される。
【0040】
外側突出部32は、円筒状部31の外周面31dから外側に突出した部位である。外側突出部32は、周方向に等間隔に複数(本実施の形態では4つ)形成されている。複数の外側突出部32を中心線CLに直交する面で切断した場合、複数の外側突出部32の外周面32aは、略同一円上に形成される。外側突出部32の外周面32aは、中心線方向に略平行な面である。ただし、
図1および
図2に示すように、外側突出部32における中心線方向の外部空間側の端部には、中心線方向の外部空間側から内部空間側に行くに従って中心線CLからの大きさが徐々に大きくなる面取り32bが形成されている。
【0041】
保持部材30の材料は、成形が容易な熱可塑性樹脂であることを例示することができる。例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスルホン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、熱可塑性エラストマーまたはこれらの複合材等であることを例示することができる。また、保持部材30の材料として、上記した熱可塑性樹脂の他に、熱可塑性樹脂にガラス繊維、炭素繊維等の強化材や金属等を複合し、耐熱性、寸法安定性、剛性等が向上した複合材料を用いてもよい。また、保持部材30の材料として、金属や、NBR(ニトリルゴム)、EPDM(エチレン−プロピレンゴム)、シリコーンゴム、ふっ素ゴム、アクリルゴム、水素化ニトリルゴム等の合成ゴムを用いてもよい。
保持部材30の成形方法は、特に限定されるものではなく、例えば射出成形や切削等により行うことを例示することができる。
【0042】
保持部材30の表面(特に、外側の部位)には、撥水処理や撥油処理等の撥液処理を施してもよい。保持部材30に撥液処理を施すことで、保持部材30に対する汚れ等の付着が抑制される。保持部材30に対する撥液処理や撥油処理は、上述した通気膜10に対する撥液処理や撥油処理と同じ処理であることを例示することができる。
【0043】
通気膜10および捕集膜20を保持部材30に固定する方法としては、保持部材30が熱可塑性樹脂の場合には、アイロン溶着、超音波溶着、レーザー溶着等の熱溶着であるとよい。また、通気膜10および捕集膜20を金型にセットした状態で樹脂を流すインサート成形を用いて、通気膜10および捕集膜20を保持部材30に固定してもよい。
通気膜10と捕集膜20とは、通気膜10および/または捕集膜20が熱膨張により厚みが増したり撓んだりしたとしても、また、機器筐体100の内部空間と外部空間との間で流通する気体の圧力を受けて撓んだとしても、接触しない位置に固定されている。
【0044】
《カバー部材40》
図1および
図2に示すように、カバー部材40は、円筒状の側壁部41と、側壁部41における中心線方向の外部空間側の端部に設けられた円盤状の頂部42とを有する。
側壁部41の内径の大きさは、保持部材30の外側突出部32の外周面32aの大きさと略同一である。
図2に示すように、頂部42における中心線方向の内部空間側の端面には、内部空間側に突出した突起43が、周方向に等間隔に複数(本実施の形態では3つ)形成されている。
【0045】
カバー部材40は、頂部42に形成された複数の突起43が、通気膜10と接触するように組み付けられる。言い換えれば、カバー部材40の複数の突起43が通気膜10に突き当たるまで、カバー部材40が保持部材30に対して押し込まれる。そして、カバー部材40が組み付けられた状態で、カバー部材40の側壁部41の内周面が保持部材30の外側突出部32の外周面と接触し、カバー部材40が保持部材30から脱落することが抑制される。
【0046】
そして、
図2に示すように、カバー部材40の突起43と通気膜10とが接触した状態で、保持部材30に形成された連通孔33、カバー部材40の頂部42と通気膜10との間の隙間、カバー部材40の側壁部41の内周面と保持部材30の円筒状部31の外周面との間の隙間等が、気体が機器筐体100の内部空間と外部空間との間を流通する通気路Fとして機能する。
【0047】
《通気部材1の作用・効果》
以上のように構成された通気部材1においては、機器筐体100内の駆動機構の作動による摩擦等により発熱すると、機器筐体100内の空気が膨張する。そして、膨張した空気によって機器筐体100の内部空間の圧力が機器筐体100の外部空間の圧力に対して大きくなった場合、通気部材1を介して、機器筐体100内の空気が機器筐体100の外部空間へ放出される。
【0048】
また、以上のように構成された通気部材1においては、機器筐体100内の空気を機器筐体100の外部空間へ排出する際、通気膜10よりも機器筐体100の内部空間側に設けられた捕集膜20が、機器筐体100の内部空間から機器筐体100の外部空間へ向かう液体浮遊粒子(例えばオイルミスト)を捕集する。そのため、本実施の形態に係る通気部材1は、機器筐体100内の空気を機器筐体100の外部空間へ排出する際に液体浮遊粒子が通気膜10に到達することが抑制される。たとえ、液体浮遊粒子が捕集膜20を透過したとしても、捕集膜20と通気膜10との間には空間があるため、液体浮遊粒子は通気膜10に到達し難い。また、通気膜10は、液体浮遊粒子を捕集する捕集膜20と接触していないため、捕集膜20に捕集された液体浮遊粒子が直接通気膜10に移動することが抑制される。これらにより、液体浮遊粒子が通気膜10に到達して通気膜10が液体浮遊粒子を捕集することに起因して通気膜10に目詰まりが生じることが抑制される。
【0049】
一方、機器筐体100内の駆動機構の作動が停止した場合には、機器筐体100内の空気が収縮する。そして、機器筐体100の内部空間の圧力が機器筐体100の外部空間の圧力に対して負圧となり、機器筐体100の外部空間の空気が、通気部材1を介して、機器筐体100の内部空間へ引き込まれる。
通気部材1の通気膜10は、機器筐体100の外部空間の空気を機器筐体100の内部空間へ導く際、機器筐体100の外部空間から機器筐体100の内部空間へ液体および固体が侵入することを阻止する。そのため、通気部材1は、水や粉塵等が機器筐体100の内部空間へ侵入することを阻止する。また、機器筐体100の外部空間の空気を機器筐体100の内部空間へ導く際、捕集膜20から、捕集された液体浮遊粒子や粗大化して液化した液体浮遊粒子が脱落する。加えて、捕集膜20に付着した液体が自重で落下する。これらにより、捕集膜20における気体の流路が確保される。つまり、捕集膜20は、液体浮遊粒子を捕集しつつ気体の透過を許容するので、捕集膜20が液体浮遊粒子を捕集することに起因して捕集膜20に目詰まりが生じることが抑制される。
【0050】
[試験]
続いて、通気部材1の作用について、実験例を用いてより詳細に説明する。
図4(a)は、実験装置200の模式図である。
図4(b)は、
図4(a)のIVb部の拡大図である。
図5は、第2膜を異ならせた場合の、第1膜へのオイル付着についての外観結果を示した図である。
図6は、第2膜を異ならせた場合の、第1膜の通気性能結果を示した図である。
【0051】
実験装置200であるATI社製オイルミスト発生機(エアロゾル発生機)(品番「TDA−4B」)に、トヨタ自動車株式会社製のトヨタ純正ATF オートフルード タイプT−IVを充填した。その後、入口側をエアラインと接続しレギュレーターの空気圧を5psi(175kPa)に設定した。また出口側にベント部210を設けた治具に接続した後、STEC社製流量計220(品番「SEF−51」)を接続した。
【0052】
ベント部は、2枚の膜まで挿入できるようになっている。
図5に示すように、実験例では、第1膜211が、PTFE多孔質膜で、第2膜212が、UHMWPE多孔膜、厚みが0.2mm、平均孔径が17μm、気孔率が30%の膜である。比較例では、PTFE多孔質膜の第1膜211のみを挿入し、第2膜212を挿入していない。
第1膜211および第2膜212ともに、φ47mmに打ち抜いた物をベント部210に挿入している。
第1膜211と第2膜212との間の距離等の各種寸法は
図4に示した通りである。
【0053】
[実験結果]
図5は、第1膜211へのオイル付着についての判定結果を、目視で外観確認した結果である。
図5に示すように、第2膜212を設けない比較例においては、実験例のように第1膜211よりも上流側にUHMWPE多孔膜の第2膜212を設ける場合と比較して第1膜211に多量のオイルが付着していることが確認された。実験例のようにUHMWPE多孔膜の第2膜212を設ける場合には、第2膜212がオイルミストを捕集するため第1膜211へのオイル付着量が少ない。試験を30min行ったのち、JIS P 8117に準拠し、第1膜211の通気度を測定した。
図5に示すように、比較例では、通気量が低下していることが明らかである。
【0054】
<変形例1>
図6(a)は、変形例1に係る通気部材300の概略構成図である。
図6(b)は、
図6(a)のVIb-VIb部の断面図である。
変形例1に係る通気部材300は、通気膜310と、捕集膜320と、通気膜310と捕集膜320とが接触しないように通気膜310と捕集膜320とを保持する保持部材330と、を備えている。
【0055】
通気膜310および捕集膜320は、それぞれ上述した通気膜10および捕集膜20と同一である。ただし、通気膜310および捕集膜320は、外径が略同一となるように成形されている。
保持部材330は、薄肉でドーナツ状の部材であり、一方の面に通気膜310を保持し、他方の面に捕集膜320を保持する。保持部材330は、例えば両面テープであることを例示することができる。
【0056】
変形例1に係る通気部材300は、捕集膜320が機器筐体100の内部空間側で通気膜310が機器筐体100の外部空間側となるように機器筐体100に装着される。例えば、変形例1に係る通気部材300は、機器筐体100の被装着部110の開口部や、被装着部110に装着されたホースやチューブの開口部に、接着されることを例示することができる。あるいは、変形例1に係る通気部材300を支持する部材を介して、機器筐体100の被装着部110の開口部や、被装着部110に装着されたホースやチューブの開口部に取付けられることを例示することができる。
【0057】
保持部材330の厚みは、通気膜310および/または捕集膜320が、機器筐体100内の駆動機構の作動による摩擦等により発熱することに起因して熱膨張により厚みが増したり撓んだりしたとしても、また、機器筐体100の内部空間と外部空間との間で流通する気体の圧力を受けて撓んだとしても、通気膜310と捕集膜320とが接触しないように定められている。
【0058】
以上のように構成された変形例1に係る通気部材300においても、上述した実施の形態に係る通気部材1と同一の作用・効果を奏することができる。
【0059】
<変形例2>
上述した実施の形態に係る通気部材1および変形例1に係る通気部材300においては、内部空間に液体を収容する機器筐体100の開口部に装着されて、液体が存在する(液体浮遊粒子が発生する)内部空間側に捕集膜20,320が、外部空間側に通気膜10,310が配置されているが、特にかかる態様に限定されない。外部空間側に液体が存在する筐体に通気部材1,300を装着する場合には、液体が存在する(液体浮遊粒子が多く発生する)外部空間側に捕集膜20,320を、内部空間側に通気膜10,310を配置するとよい。
【0060】
図7は、変形例2に係る通気部材400の断面図である。
変形例2に係る通気部材400は、通気膜410と、捕集膜420と、通気膜410と捕集膜420とが接触しないように通気膜410と捕集膜420とを保持する保持部材430と、を備えている。
【0061】
保持部材430の形状および材質などは、上述した実施の形態に係る通気部材1の保持部材30の形状および材質と同じである。
ただし、保持部材430は、内側突出部34における中心線方向の外部空間側の端部34aに通気膜410を保持する。通気膜410は、第1連通孔331を塞ぐように保持部材430に固定されている。また、保持部材430は、円筒状部31における外部空間側の端部31aに捕集膜420を保持する。捕集膜420は、円筒状部31における中心線方向の外部空間側の開口を覆う。つまり、捕集膜420は、第2連通孔332を塞ぐように保持部材430に固定されている。そして、通気膜410と捕集膜420との間の隙間には気体が流通する第2連通孔332が存在する。通気膜410および捕集膜420を保持部材430に固定する手法については上述した通りである。
【0062】
通気膜410および捕集膜420は、それぞれ上述した通気膜10および捕集膜20と同一である。ただし、捕集膜420の外径が、通気膜410の外径よりも大きくなるように成形されている。
【0063】
変形例2に係る通気部材400は、内部空間よりも外部空間に液体および液体浮遊粒子が多くある機器筐体100の開口部に装着される。また、変形例2に係る通気部材400は、外部空間に液体および液体浮遊粒子がある機器筐体100の被装着部110に装着されたホースやチューブの先端に装着されてもよい。つまり、変形例2に係る通気部材400は、捕集膜420が機器筐体100の外部空間側で通気膜410が機器筐体100の内部空間側となるように機器筐体100または機器筐体100の被装着部110に装着されたホースやチューブの先端に装着される。
【0064】
以上のように構成された変形例2に係る通気部材400においては、機器筐体100外の膨張した空気によって機器筐体100の外部空間の圧力が機器筐体100の内部空間の圧力に対して大きくなった場合、通気部材400を介して、機器筐体100外の空気が機器筐体100の内部空間へ引き込まれる。
また、以上のように構成された変形例2に係る通気部材400においては、機器筐体100外の空気が機器筐体100の内部空間へ引き込まれる際、通気膜410よりも機器筐体100の外部空間側に設けられた捕集膜420が、機器筐体100の外部空間から機器筐体100の内部空間へ向かう液体浮遊粒子(例えばオイルミスト)を捕集する。そのため、変形例2に係る通気部材400は、機器筐体100外の空気が機器筐体100の内部空間に引き込まれる際に液体浮遊粒子が通気膜410に到達することが抑制される。たとえ、液体浮遊粒子が捕集膜420を透過したとしても、捕集膜420と通気膜410との間には空間があるため、液体浮遊粒子は通気膜410に到達し難い。また、通気膜410は、液体浮遊粒子を捕集する捕集膜420と接触していないため、捕集膜420に捕集された液体浮遊粒子が直接通気膜410に移動することが抑制される。また、捕集膜420が通気膜410よりも下方となるように装着されることで、捕集膜420に捕集された液体が自重で外部空間側に脱落する。これらにより、液体浮遊粒子が通気膜410に到達して通気膜410が液体浮遊粒子を捕集することに起因して通気膜410に目詰まりが生じることが抑制される。