【文献】
Plain Sparkling Water, 2015年10月,Mintel,ID#:3470525,http://www.gnpd.com, 検索日:2020年5月25日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように香料を別途添加する方法や吸収剤に吸収させる方法では、そうした香料や吸収剤自体の風味が追加されることで、無臭又は低臭の飲料水を提供することが困難となる場合がある。そのため、こうした難消化性デキストリン含有液は、飲料水としておいしく(飲み易く)飲むことができないという問題がある。
【0006】
前記事情に照らして、本発明は、難消化性デキストリン含有液中の難消化性デキストリンに起因する特異的な風味を軽減する飲料水及び飲料水の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は一側面にて飲料水の製造方法である。
すなわち、本発明に係る飲料水の製造方法は、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味が軽減された飲料水の製造方法であって、難消化性デキストリン含有液を80〜180℃で15〜120分間加熱する工程を含む。
これにより、香料等を添加することなく難消化性デキストリンに起因する特異的な風味を軽減することができる。
【0008】
前記加熱工程前に前記難消化性デキストリン含有液のpH値を3以上7未満とするpH値調整工程を更に含むことが好適である。
こうすることで、難消化性デキストリンの変性等を防ぎ、より効果的に難消化性デキストリン含有液に起因する前記特異的な風味を軽減することができる。
【0009】
また、前記加熱工程後の難消化性デキストリン含有液のヘキサナール量は、500ppb未満とすることができる。
本発明者らが鋭意研究を続けた結果、難消化性デキストリン含有液の難消化性デキストリンに起因する特異的な風味は、ヘキサナールに由来するものと判明した。このヘキサナール量を500ppb未満とすることで、こうした特異的な風味を軽減することができる。
【0010】
更に、前記加熱工程後の難消化性デキストリン含有液は、トルアルデヒドを含有することができる。
本発明者らが更に研究を続けた結果、トルアルデヒドが上記特異的な風味をマスキングする効果を有することが判明した。よって、加熱工程後の難消化性デキストリン含有液がこうしたトルアルデヒドを有することにより、より確実に上記特異的な風味を軽減することができる。
【0011】
また、本発明は、別の側面にて飲料水である。本発明に係る飲料水は、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味が軽減された飲料水であって、前記飲料水中のヘキサナール量が500ppb未満である。
【0012】
前記飲料水のpH値は、3以上7未満であることが好適である。また、前記飲料水は、トルアルデヒドを含有することができる。
【0013】
また本発明に係る飲料水は、更に海洋深層水を含有するものとすることができる。
近年、飲料水として海洋深層水が用いられてきている。海洋深層水は、ダイオキシン等の有害化学物質を含まずに清浄性を有し、且つ、人や他の生物が生きるために不可欠なミネラル分を多種類含むと共に、低温での安定性がある。本発明がこうした海洋深層水を更に含有することで、この海洋深層水が有する効果と、難溶性デキストリンが有する効果とを併せもち、上記特異的な風味を抑えることができる飲料水を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、難消化性デキストリン含有液中の難消化性デキストリンに起因する特異的な風味を軽減することができる飲料水及び飲料水の製造方法を提供することができる。そのため、おいしく(飲み易く)飲むことができる飲料水及び飲料水の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る飲料水及び飲料水の製造方法の好適な実施の形態について、以下に詳細に説明する。
なお、以下において、飲料水と言及する場合には、特段の事情がない限り、難消化性デキストリンを含有する飲料水を意味するものとする。
【0017】
[飲料水の製造方法]
本発明に係る飲料水の製造方法の好適な実施の形態について説明する。本実施の形態に係る飲料水の製造方法は、加熱工程を少なくとも含む。
加熱工程では、難消化性デキストリン含有液を所定の温度及び時間で加熱する。これによって、難消化性デキストリン含有液が有する難消化性デキストリンに起因する特異的な風味、特にヘキサナール(C
6H
12O:カプロンアルデヒド)に由来する特有の臭気を低減することができる。
【0018】
加熱工程での加熱温度は、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味を低減できる温度であればよく、限定されない。より具体的には、加熱工程での加熱温度は、80℃以上180℃以下であることが好ましく、90℃以上180℃以下であることがより好ましい。加熱温度が80℃未満であると、特異的な風味を低減することができない。また、加熱温度が180℃を超えると、過度の熱処理となり必要以上に製造コストが増加する。更に、加熱温度を80℃以上とすることで、難消化性デキストリン含有液に対して適切な殺菌処理を可能とし、より安全な飲料水を得ることができる。以上より、加熱温度が前記範囲内であれば、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味が軽減された飲料水を製造することができる。
【0019】
加熱工程での加熱時間は、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味を低減できる時間であればよく、限定されない。より具体的には、加熱工程での加熱時間は、15分以上120分以下が好ましく、20分以上120分以下がより好ましい。加熱時間が15分未満であれば、難消化性デキストリンに起因する特異的の風味を低減する効果が不十分となる。また、加熱時間が120分を超えると、過度の加熱により製造コストが増加すると共に、難消化性デキストリンの構造が分解する虞がある。加熱温度が前記範囲内であれば、既存の飲料水の製造に要する時間内での製造を可能とすると共に、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味のない飲料水を製造できる。
【0020】
また、加熱工程の前に、難消化性デキストリンと水とを混合し、難消化性デキストリン含有液を得る混合工程を更に含むことができる。混合工程での難消化性デキストリンの量は、難消化性デキストリンが水に溶解できる量であればよく、限定されない。一例として、難消化性デキストリンの量は、水の体積に対する重量体積パーセント(w/v)で0.1%以上50%以下の範囲とすることができる。
【0021】
加熱工程の後では、難消化性デキストリン含有液中のヘキサナールの量は、500ppb未満とすることができ、100ppb以下が好ましく、50ppb以下がより好ましい。ヘキサナールの量を500ppb以上とすると、ヘキサナールの風味を低減する効果が得られない。また通常、試薬としてのヘキサナールや、不純物を含まない純水等にヘキサナールを含有させた溶液では、ヘキサナールの量を500ppb未満とすることで、その特異的な風味を低減することができる。その一方で、例えば後述する海洋深層水等の様々な成分を包含する水中にヘキサナールを含有させた場合には、ヘキサナールの含有量が低量であってもその風味を呈することがある。しかし、このようにヘキサナールを50ppb以下とすることで、例えば純水等の純度の高い水以外の水を用いて難消化性デキストリン含有液とした場合であっても、特異的な風味を低減する効果を確実に得ることができる。なお、ヘキサナール量は、例えばGC−MS分析法によって測定できる。
【0022】
混合工程の後、且つ加熱工程の前に、難消化性デキストリン含有液にpH調整剤を添加し、そのpH値を調整するpH値調整工程を更に含むことができる。pH値調整工程では、加熱処理前の難消化性デキストリン含有液のpH値を、3以上7未満の範囲内に調整することが好ましく、4以上7未満の範囲内に調整することがより好ましい。pH値が3未満であると、処理後も高い酸性となるため、飲料水としては好ましくない。またこのように高い酸性下では難消化性デキストリンが変性してしまい、これを含有する飲料水を摂取しても、難消化性デキストリンが奏する特有の効果を得られなくなる場合もある。
更に、pH値が7以上の場合には、難消化性デキストリン含有液が変性して褐変し、カラメル臭が強くなるため、やはり飲料水としては好ましくない。
【0023】
更にまた、加熱工程の後では、難消化性デキストリン含有液は、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味、特にヘキサナールに由来する臭気をマスキングするマスキング物質を含むことが好ましい。マスキング物質は、加熱工程によって難消化性デキストリン含有液中で生成又は増加して含有され、その特有の臭気成分によって臭気物質の紙様臭をマスキングする物質である。このようなマスキング物質としては、杏子様の香気を有するp−トルアルデヒド(C
8H
8O)を挙げることができる。p−トルアルデヒドは、加熱工程によって、難消化性デキストリンの製造工程に起因して予め混合物に含有される安息香酸-2-エチルヘキシルから生成すると推定できる。すなわち、加熱工程では、難消化性デキストリン含有液中のヘキサナールの量が減少すると共に、安息香酸−2−エチルヘキシルの量が減少している。
p−トルアルデヒドがマスキング物質として機能することによって、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味を低減した飲料水を得ることができる。
【0024】
[飲料水]
続いて、本発明に係る飲料水の好適な実施の形態について説明する。本発明に係る飲料水は、難消化性デキストリン含有液が前述の加熱工程を経てなる飲料水であって、飲料水中のヘキサナール量が500ppb未満のものであり、好ましくは100ppb以下であり、より好ましくは50ppb以下のものである。すなわち、本発明に係る飲料水は、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味、特にヘキサナール由来の風味が低減ないしは消失されている。
【0025】
ヘキサナールは、難消化性デキストリンの製造過程に起因して、難消化性デキストリン含有液に含まれる物質である。
【0026】
1)難消化性デキストリン含有液
難消化性デキストリン含有液は、難消化性デキストリンと水との混合液である。この難消化性デキストリン含有液は、任意選択的にpH調整剤を含有できる。このようなpH調整剤は、難消化性デキストリン含有液のpH値を調整できるものであればよく、限定されない。一例として、pH調整剤としては、有機酸およびその塩が挙げられ、実用的な観点より、リン酸(H
3PO
4)、クエン酸(C
6H
8O
7)、またはそれらの塩を含んでなる緩衝液が好ましい。
【0027】
難消化性デキストリン含有液は、pH調整剤を含有しながら加熱工程を経て飲料水となる。加熱工程後の難消化性デキストリン含有液(飲料水)のpH値は、3以上7未満であることが好ましく、4以上7未満であることがより好ましく、4.4以上6.6以下であることが更に好ましい。上述のように、pH値が3未満であると、処理後も高い酸性となるため飲料水としては好ましくない。また、難消化性デキストリンが変性してしまい、これを含有する飲料水を摂取しても、特有の効果を得られなくなる場合もある。またpH値が7以上の場合には、難消化性デキストリン含有液が褐変し、カラメル臭が生じる。そのため、この場合にも飲料水としておいしく(飲み易く)飲むことができなくなる。
【0028】
2)難消化性デキストリン
難消化性デキストリンとしては、でん粉を加熱及びアミラーゼ処理により加水分解して得られる難消化性デキストリン又は還元難消化性デキストリンを用いることができる。なお、これら難消化性デキストリンは、これらを含有した液の形態のもの(濃縮液)を用いることができる。難消化性デキストリンとしては、例えば、松谷工業社製のファイバーソル2(商品名)が挙げられる。また、還元難消化性デキストリンとしては、例えば、松谷工業社製のファイバーソル2H(商品名)が挙げられる。
【0029】
難消化性デキストリンは、例えば、とうもろこし、小麦、大麦、米等のでん粉に塩酸を添加して高温にて加水分解し、α−アミラーゼ、及び用途に応じてグルコアミラーゼ又はβ‐アミラーゼで加水分解した後に、活性炭等による脱色、イオン交換樹脂による脱塩、濃縮等の精製を行い、クロマト分離により分取して得ることができる。
還元難消化性デキストリンは、難消化性デキストリンの還元末端のカルボニル基を還元して得たものである。一例として、還元難消化性デキストリンは、難消化性デキストリンに、ラネーニッケル等の還元触媒を添加し、水素圧下での水素添加等の還元処理を施して一部を変性して得ることができる。なお、還元難消化性デキストリンに対しても、難消化性デキストリンと同様、前記した還元処理後の精製を実施することができる。
【0030】
3)水
難消化性デキストリンと混合される水は、陸水又は海水のいずれでもよい。陸水とは、海洋以外の陸地に囲まれた地表およびその付近の水体である。このような陸水としては、例えば、河川水、湖沼水、地下水、雪氷等が挙げられる。また、海水とは、海洋中の水体であり、このような海水としては、例えば、海洋深層水が挙げられる。
前記水は、海水が好ましく、海洋深層水がより好ましい。難消化性デキストリン含有液中の水として海洋深層水を用いれば、加熱処理により滅菌した清浄性の高い飲料水を得ることができる。また、難消化性デキストリン含有液中の水として海洋深層水を用いれば、健康増進の機能を有する飲料水を得ることができる。海洋深層水の作用は、そのミネラル(無機塩)類が、細胞の営みに大きな影響を与えることができる点である。このような作用は、単一のミネラル(無機塩)の多寡によるものではなく、全体としてのミネラルバランスに起因するものと推測している。したがって、海洋深層水の有用成分の細胞への取り込みを促進して、細胞活性を高くできる飲料水を得ることができる。海洋深層水は、取水地点の深さに対応する長さ(通常200m〜1000m)の採水用管体を備えた採水装置を用いて採水することができる。また、このような採水装置及び方法としては、従来知られているものを用いることができる。
【0031】
海洋深層水としては、原水、EDミネラル水、ED塩水、RO淡水又はRO濃縮水が挙げられる。
原水は、海洋深層から汲み上げたままの(無処理)の海洋深層水であり、その硬度が6300〜6600の範囲である。原水には、ミネラル(無機塩類)として、300〜500mg/lのカリウム、300〜500mg/lのカルシウム、1100〜1500mg/lのマグネシウム、9000〜12000mg/lのナトリウムが含有されている。すなわち、原水中のミネラル比は、カリウム:カルシウム:マグネシウム:ナトリウム=3〜5:3〜5:11〜15:90〜120の範囲である。
EDミネラル水は、原水を電気透析法によって1価の陽イオンを除去した海洋深層水であり、その硬度が5300〜6200の範囲である。EDミネラル水には、5〜20mg/lのカリウム、200〜400mg/lのカルシウム、1100〜1400mg/lのマグネシウム、450〜800mg/lのナトリウムが含有されている。すなわち、EDミネラル水中のミネラル比は、カリウム:カルシウム:マグネシウム:ナトリウム=1〜4:40〜100:220〜280:90〜160の範囲である。電気透析(ED:Electrodialyzer)法はイオン交換膜と電気を利用する膜分離法である。イオン交換膜は電荷をもつ多孔質膜であり、陽イオンまたは陰イオンのみを通す性質をもつ。電気透析法ではこれらを組み合わせて水に溶けているイオン成分の除去や濃縮を行う。この分離法の駆動力は電気量であり、加えた電気量に比例して水中のイオンを分離できる。
ED塩水は、原水から1価の陽イオンを濃縮した海洋深層水であり、その硬度が6500〜7500の範囲である。ED塩水には、600〜1000mg/lのカリウム、400〜700mg/lのカルシウム、1100〜1600mg/lのマグネシウム、17000〜21000mg/lのナトリウムが含有されている。すなわち、ED塩水中のミネラル比は、カリウム:カルシウム:マグネシウム:ナトリウム=6〜10:4〜7:11〜16:17〜210の範囲である。
RO淡水は、原水を逆浸透膜(RO:Reverse Osmosis Membrane)法で淡水化した海洋深層水であり、その硬度は1.0以下である。RO淡水には、1.0mg/l以下のカリウム、1.0mg/l以下のカルシウム、1.0mg/l以下のマグネシウム、1.0mg/l以下のナトリウムが含有されている。すなわち、RO淡水中のミネラル比は、mg/lのスケールにてカリウム:カルシウム:マグネシウム:ナトリウム=1:1:1:1程度である。逆浸透膜法による淡水化は、既知の方法によって実施することができる。例えば、中空糸膜モジュールを用いた逆浸透膜装置(RO装置)による逆浸透膜法を採用することができる。このような中空糸膜モジュールは、中空糸を実質上同一方向に揃えて束ねた中空糸型選択透過膜エレメントを容器内に中空糸の長手方向に並べて配置している。このような逆浸透膜装置を用い、海洋深層水を中空糸内に流入させ、中空糸を透過したものを淡水として回収することによって実施することができる。逆浸透膜装置を用いる方法は、エネルギー消費量が比較的少なく、かつ、ほぼ完全に溶存イオンを除去することができるという利点がある。
RO濃縮水は、原水からRO淡水を取り除き濃縮された海洋深層水であり、その硬度は9000〜11000の範囲である。RO濃縮水には、500〜800mg/l以下のカリウム、500〜800mg/l以下のカルシウム、1800〜2300mg/l以下のマグネシウム、14000〜17000mg/l以下のナトリウム、が含有されている。すなわち、RO濃縮水中のミネラル比は、カリウム:カルシウム:マグネシウム:ナトリウム=5〜8:5〜8:18〜23:140〜170の範囲である。
【0032】
また、このような海洋深層水として、現在、10都道県で16か所存在する取水施設で採水した海洋深層水を用いることができる。このような取水施設としては、静岡県伊豆半島、新潟県佐渡島、沖縄県久米島、鹿児島県甑島、高知県室戸、北海道羅臼が挙げられる。これらのうち、海洋深層水は、静岡県伊豆半島沖で採水した海洋深層水が好ましく、伊豆赤沢沖の海洋深層水がより好ましい。
【0033】
伊豆赤沢沖の海洋深層水は、伊豆赤沢温泉沖の水深800mに存在する海洋深層水である。この水深から汲み上げられた海洋深層水は、微生物の存在比が表層水に比べて数千分の一程度である。更に、伊豆赤沢は、水の大消費地である首都圏・大都市圏に最も近い海洋深層水の取水地であり、輸送その他の経費を考慮した場合、他の地域に比べてコストメリットが大きい。
他方で、首都圏に最も近いということは、京浜地域によって汚染された東京湾から太平洋に向けて流れ出た海水によって汚染されることが懸念される。ところが、伊豆半島付近の海洋表層には、北東方向に向けて黒潮が流れており、また、伊豆半島南東沖海底には高い海底火山群からなる伊豆・小笠原弧が形成されている。したがって、実際には、伊豆赤沢沖には、黒潮の流れ、そして、伊豆・小笠原弧によって、東京湾から流れ出た汚染された海水が流れ込むことはない。このため、伊豆赤沢沖は、首都圏・大都市圏に最も近い海洋深層水の取水地でありながら、汚染されていない清浄性の高い海洋深層水を得ることができる場所となっている。このような海洋深層水として、例えば、ディーエイチシー社製のDHC海洋深層水(商品名)がある。
【0034】
4)マスキング物質
飲料水は、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味、特にヘキサナール由来の臭気をマスキングするマスキング物質を含むことができる。このようなマスキング物質としては、杏子様の香気を有するp−トルアルデヒド等のトルアルデヒドを挙げることができる。飲料水に含有されるp−トルアルデヒドの量は難消化性デキストリン含有液に含有される量よりも多いことが好ましく、飲料水に含有される安息香酸-2-エチルヘキシルの量は難消化性デキストリン含有液に含有される量よりも少ないことがより好ましい。
【0035】
[用途]
なお、本発明に係る飲料水及び飲料水の製造方法によれば、難消化性デキストリンと混合される水として、前述の陸水又は海水の他、水は、常水、イオン水、精製水、これらの混合
水が挙げら
れる。
【0036】
また、本発明に係る飲料水及び飲料水の製造方法によれば、淡黄色透明の飲料水を得ることができる。このため、着色度の高い有色の飲料又は食料に対して本発明に係る製造方法により得られた飲料水を混合することによって、淡黄色透明の飲料品又は食料品を得ることもできる。前記有色の飲料又は食料としては、コーラ、サイダー等の炭酸飲料、ビール等のアルコール飲料、緑茶、ウーロン茶、麦茶等の茶飲料、果汁及び/又は野菜汁入り飲料、コーヒー、ココア等の麦芽飲料、栄養補給飲料、牛乳、ヨーグルト等の乳酸菌飲料又は食料品、スープ、みそ汁等の食料品等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明することにより、本発明の効果を明らかにする。本発明に係る飲料水及び飲料水の製造方法は、以下の実施例によって制限されない。
【0038】
1.試験例の調整
難消化性デキストリンとして、松谷化学工業社製のファイバーソル2を用い、海洋深層水として、伊豆赤沢沖で採取したRO淡水を用いた。
難消化性デキストリン50gをビーカーに移し、これに海洋深層水250mlを徐々に加えて溶解混合し、重量体積パーセントが20%(w/v)の難消化性デキストリン含有液を得た。これを試験例1とした。
【0039】
2.加熱温度による外観及び風味の評価
試験例1について、加熱時間を20分間で一定とし、常圧下で加熱温度を70〜180℃の範囲で変えて加熱処理を施した。各加熱温度で加熱処理した難消化性デキストリン含有液をそれぞれ採取し、氷水にて冷却後、得られた各溶液の外観及び風味を評価した。加熱装置として水浴又はホットプレートを用いた。
【0040】
外観の評価は、目視確認にて溶液の色を観察することによって行った。
風味の評価では、30代男性2人、50代男性1人が脱臭度を評価した。脱臭度は、紙様臭が一番強いものを「0」、紙様臭を全く感じないものを「5」とし、以降、紙様臭の程度が下がる毎に数値を1ずつ増加することとした。このように、風味の評価では、難消化性デキストリンに起因する特異的な風味、すなわち紙様臭を軽減した程度を脱臭度として評価した。結果として得られた平均値を風味の評価値とした。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、加熱処理後の各溶液の外観について、加熱温度が70〜180℃の範囲で淡黄色透明であった。それらの風味(脱臭度)については、加熱温度が70℃では2であり、75℃では3であり、80〜85℃の範囲では4であり、90〜180℃の範囲では5であった。なお、全ての条件において、難消化性デキストリンの含有量に変化はなかった。
【0043】
結果より、加熱処理による風味の変化については、加熱温度が80℃以上であれば、紙様臭をほぼ感じなくなるため好適であり、90℃以上であれば、紙様臭を全く感じなくなるためより好適であることがわかった。
【0044】
3.加熱時間による外観及び風味の評価
続いて、試験例1について、加熱温度を90℃で一定とし、常圧下で加熱時間を0分間(加熱処理無し)〜120分間の範囲で変えて加熱処理を施した。各加熱時間で加熱処理した各難消化性デキストリン含有液をそれぞれ採取し、氷水にて冷却後、得られた各溶液の外観及び風味について前述の方法と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示すように、加熱処理を施さなかった(加熱時間が0分)溶液の外観は淡黄色透明であり、その風味(脱臭度)は0であった。
また、加熱処理後の各溶液の外観について、加熱時間が0〜120分の範囲で淡黄色透明であった。それらの風味(脱臭度)については、加熱時間が5分間である場合は1であり、10分間である場合は3であり、15分間である場合は4であり、20〜120分間の範囲では5であった。なお、全ての条件において、難消化性デキストリンの含有量に変化はなかった。
【0047】
加熱処理による風味の変化については、加熱時間が15分以上であれば、紙様臭をほぼ感じなくなるため好適であり、20分以上であれば、紙様臭を全く感じなくなるため、より好適であることがわかった。
【0048】
4.pH値による外観及び風味の評価
続いて、試験例1のpH値を測定しながらリン酸緩衝液を添加していき、pH5〜8の範囲でpH値を変えた各溶液を準備した。各溶液に対して、加熱温度を90℃、加熱時間を20分で一定とし、加熱処理を実施した。加熱処理後、各溶液に対してpH値の測定を再度実施した。また、比較として、リン酸緩衝液を添加せずに、同様の加熱処理をした溶液についても評価した。pH値は、pHメーター(ザルトリウス社製)を用いて測定した。
【0049】
pH値の異なる各溶液に対して、前述の試験と同様の評価方法により、それらの外観、風味及び加熱処理後のpH値を評価した。評価結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表3に示すように、pH添加剤を添加しなかった(調整無し)溶液のpHは3.78であり、外観は淡黄色透明であり、その風味(脱臭度)は5であった。また、pH値を調整した各溶液の外観について、加熱処理前のpHが4〜6の範囲である場合は、淡黄色透明であり、pH7〜8の範囲である場合では、褐変した。それらの風味(脱臭度)については、加熱処理前のpH4〜6の範囲である場合は5であった。pH7〜8の範囲である場合は、紙様臭は軽減されたものの、溶液がカラメル臭を有していたため、評価外であった。
更に、加熱処理後の各溶液のpH値について、pH添加剤を添加しなかったpH3.78の溶液はpH4.46となり、pH調整剤によりpH5とした場合は5.10となり、pH6とした場合は5.81となり、pH7とした場合は6.63となり、pH8とした場合は6.82となった。なお、全ての条件において、難消化性デキストリンの含有量に変化はなかった。
【0052】
結果より、加熱処理前のpH値による風味と外観の変化について、pH値が7未満であれば、紙様臭を感じることがなくなり、且つ溶液が褐変してカラメル臭が生じることを防ぐことができるため、好適であることがわかった。また、pH値が4以上であれば、確実にこうした効果が得られることを確認した。
また、加熱処理後の溶液のpH値については、pH値が7未満、特に6.6以下の範囲が好適であることがわかった。また、加熱処理後の溶液のpH値が4以上、特に4.4以上であれば、確実に効果が得られることを確認した。
【0053】
5.臭気成分の評価
におい嗅ぎGC/MS測定を実施し、難消化性デキストリン特異的な風味、特に紙様臭の原因となる成分の同定と、その影響について検討した。
試験例1について、加熱処理を施さない溶液と、加熱温度を90℃、加熱時間を20分間として、加熱処理を施した溶液をそれぞれ準備した。また、比較として、ヘキサナールの標準試薬を準備した。
各溶液200mlを減圧蒸留し、得られた留分をジエチルエーテルにて振とう抽出後、ジエチルエーテル層を0.2mlまで濃縮したものについて、GC−MS分析を実施した。
におい嗅ぎGC分析は、装置としてGC−4000(CGLサイエンス社製)、検出器としてFIDを用いて、検出温度を250℃、カラム温度を50℃(2分)、10℃/分、及び250℃(5分)として行った。結果を
図1(a)〜(c)に示す。
【0054】
図1(a)、
図1(b)及び
図1(c)には、それぞれ、加熱処理前の試験例1の溶液、加熱処理後の試験例1の溶液及びヘキサナール標準試薬について、保持時間RT(min.)に対して検出されたピークの相対値(%)を示す。
図1(a)〜(c)に示すように、加熱処理前の試験例1のピーク(A)の位置と、加熱処理後の試験例1のピーク(B)の位置と、標準試薬のヘキサナールのピーク(C)の位置とは、略同等のRT領域にて一致していた。また、加熱処理前の試験例1のヘキサナールの濃度は85.8ppbであり、加熱処理後の試験例1のヘキサナール濃度は42.0ppbであった。
【0055】
結果より、難消化性デキストリン含有液には難消化性デキストリンと共に、ヘキサナールが混合されており、これが特異的の風味に由来することがわかった。また、加熱工程によってヘキサナール濃度が85.8ppbから42.0ppbまで43.8ppm(加熱工程前の50%未満の濃度まで)減少していることがわかった。すなわち、このヘキサナールが減少することによって、紙様臭が低減することを確認した。
【0056】
6.マスキング物質の検討
続いて、前記臭気成分の評価と同様に、加熱処理前と加熱処理後の試験例1の溶液をそれぞれ準備してGC−MS分析を実施し、加熱処理前後の他の成分の挙動について検討した。各試験例に対してSPME法(固相マイクロ抽出法)による前処理を行い、前述と同様の条件にてGC−MC分析を実施した。結果を
図2(a)〜(b)に示す。
【0057】
図2(a)及び
図2(b)には、それぞれ、加熱処理前の試験例1の溶液、加熱処理後の試験例1の溶液について、保持時間RT(min.)に対して検出されたピーク強度(pA)を示す。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、加熱処理前と加熱処理後の試験例1の溶液を比較すると、加熱工程前後の溶液では、図中の1のピークで表されるトルアルデヒドの含有量が増加し、図中の2のピークで表される安息香酸−2−エチルヘキシルの含有量が減少していることがわかった。また、加熱処理後の試験例1では、トルアルデヒドの香気を確認できなかった。結果より、加熱処理によって安息香酸−2−エチルヘキシルからp−トルアルデヒドが生成し、これが増えることにより、紙様臭のマスキングを行っていることを確認した。