【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイス100の平面図である。
図1のように、実施例1の弾性波デバイス100は、基板10上に、直列共振器S1からS4及び並列共振器P1からP3を構成する複数の弾性波共振器20、配線60、及びパッド62が設けられたラダー型フィルタである。
【0022】
基板10は、例えばタンタル酸リチウム(LiTaO
3)基板などの圧電基板である。タンタル酸リチウム基板の一例として、例えば34°〜50°YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板が挙げられる。基板10は、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)基板でもよいし、サファイア基板などの支持基板に圧電基板を貼り付けた基板でもよい。
【0023】
弾性波共振器20は、例えば弾性表面波共振器である。弾性波共振器20は、1ポート共振器であり、IDT(Interdigital Transducer)とその両側に設けられた反射器Rとを備える。
【0024】
配線60及びパッド62は、金(Au)膜などの金属膜を含んで構成されている。配線60は、弾性波共振器20間及び弾性波共振器20とパッド62との間を接続する。パッド62上にバンプ64が設けられている。バンプ64は、例えば金バンプ又は銅バンプであり、例えばスタッドバンプ又はめっきバンプである。
【0025】
直列共振器S1からS4は、入力端子INであるパッド62と出力端子OUTであるパッド62との間に配線60を介して直列に接続されている。並列共振器P1からP3の一端は配線60を介して直列共振器S1からS4に接続され、他端は配線60を介してグランド端子GNDであるパッド62に接続されている。
【0026】
図2(a)は、弾性波共振器20の平面図、
図2(b)は、
図2(a)のA−A間の断面図、
図2(c)は、
図2(b)のIDT近傍を拡大した図である。
図2(a)から
図2(c)のように、弾性波共振器20は、1対の櫛形電極22からなるIDTと、IDTを挟む1対の反射器Rと、を備える。櫛形電極22は、複数の電極指24と、複数の電極指24が接続されるバスバー26と、を備える。1対の櫛形電極22は、電極指24がほぼ互い違いとなるように対向して設けられている。電極指24が励振する弾性波は、主に電極指24の配列方向に伝搬する。1対の反射器Rは、弾性波の伝搬方向でIDTを挟んで設けられ、弾性波を反射する。
【0027】
基板10上に、IDT(櫛形電極22)及び反射器Rよりも薄い膜厚でIDT(櫛形電極22)及び反射器Rを覆う絶縁膜50が設けられている。絶縁膜50は、例えば酸化シリコン(SiO
2)膜、窒化シリコン(SiN)膜、炭化シリコン(SiC)膜、フッ素添加酸化シリコン(SiOF)膜、酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜、酸化ジルコニウム(ZrO
2)膜、又は酸化チタン(TiO
2)膜などである。絶縁膜50の厚さは例えば10nmである。絶縁膜50は、IDT(櫛形電極22)及び反射器Rが水分に曝されて腐食することを抑制する保護膜としての機能を有する。
【0028】
櫛形電極22は、チタン(Ti)層28とアルミニウム(Al)層30とアルミニウム(Al)層32の積層構造をしている。Ti層28の厚さは例えば160nmである。Al層30の厚さは例えば100nmである。Al層32の厚さは例えば120nmである。Ti層28及びAl層30の側面は、基板10の上面の法線に対してほぼ同じ角度で傾いていて、その角度は例えば10°である。Al層32の側面は、基板10の上面の法線に対してTi層28及びAl層30よりも大きい角度で傾いていて、その角度は例えば50°である。ここで、基板10の上面の法線に対して同じ角度で傾斜した側面を有するTi層28とAl層30をまとめて金属層44とする。また、基板10の上面の法線に対して金属層44よりも大きな角度で傾斜した側面を有するAl層32を金属層46とする。
【0029】
IDTの寸法の一例を以下に示す。電極指24のピッチ間隔Pは例えば2.3μmである。この場合、電極指24が励振する弾性波の波長λは例えば4.6μmである。IDTの開口長は例えば92μm(20λ)である。電極指24の間隔Sは例えば1.1μmである。電極指24の下面の幅W1は例えば1.0μmである。電極指24の上面の幅W2は例えば0.78μmである。デューティ比は例えば52%である。
【0030】
なお、櫛形電極22は、TiとAlで形成される場合に限られず、Ti、Al、銅(Cu)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、及び金(Au)のうちの少なくとも1種を含んで形成されてもよい。櫛形電極22は、単層金属膜でもよいし、積層金属膜でもよい。
【0031】
図3(a)から
図3(e)は、実施例1に係る弾性波デバイス100の製造方法を示す断面図である。
図3(a)のように、基板10上に、少なくとも櫛形電極22が形成される領域に開口72を有するレジスト膜からなるマスク層70を形成する。マスク層70の厚さは例えば1μmである。マスク層70は、開口72において逆テーパ形状の側面を有する。
【0032】
図3(b)のように、マスク層70をマスクとして、真空蒸着法を用いて、基板10上にTi層28とAl層30とをこの順に形成する。すなわち、金属層44を形成する。真空蒸着は、例えば4×10
−4Paの真空度(第1真空度)で行う。4×10
−4Paのような高真空度での真空蒸着によって金属を堆積することで、金属原子は基板10の上面にほぼ垂直に入射するようになる。なお、金属原子には、原子単体の他に、複数の原子が結合したクラスターなども含まれる。金属原子が基板10の上面にほぼ垂直に入射する場合、マスク層70上に堆積される金属層44が庇となって、マスク層70の開口72内に形成される金属層44は台形形状になる。また、マスク層70の側面が逆テーパ形状になっているため、マスク層70の側面に金属層44は形成され難い。
【0033】
図3(c)のように、マスク層70をマスクとして、第1真空度よりも低い第2真空度での真空蒸着法によって、Al層30の上面にAl層32を形成する。すなわち、金属層44上に金属層46を形成する。第2真空度としては、例えば4×10
−2Paが挙げられる。第1真空度から第2真空度への真空度の低下は、例えば真空蒸着装置のチャンバー内に導入するアルゴンガスの流量を増やすことで行う。真空蒸着法において、真空度があまり高くない場合では、基板10の上面の法線に対して角度を伴って基板10に入射する金属原子が多くなる。すなわち、基板10の上面に斜め方向から入射する金属原子が多くなる。このため、マスク層70の開口72内に形成される金属層46は、金属層44よりも基板10の上面の法線に対して大きな角度で傾いた側面を有するようになる。また、金属層46はマスク層70の側面にも形成されるが、金属層44が既に形成されているために、マスク層70の側面の下側部分には形成され難い。
【0034】
図3(d)のように、マスク層70をリフトオフ法によって除去する。
図3(c)で説明したように、マスク層70の側面の下側部分は金属層が形成され難くて露出しているため、マスク層70をリフトオフ法で除去することができる。これにより、Ti層28、Al層30、及びAl層32の積層構造をした櫛形電極22が形成される。なお、図示は省略しているが、櫛形電極22と同時に反射器Rも形成される。
【0035】
図3(e)のように、スパッタリング法(例えば高周波(RF)スパッタリング法やマグネトロンスパッタリング法など)又は化学気相成長(CVD)法(例えばプラズマCVD法など)を用いて、基板10上に櫛形電極22よりも薄い膜厚で櫛形電極22を覆う絶縁膜50を形成する。なお、図示は省略しているが、絶縁膜50は反射器Rも覆う。
【0036】
ここで、実施例1の弾性波デバイスの効果を説明するにあたり、比較例の弾性波デバイスについて説明する。
図4(a)から
図4(c)は、比較例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図4(a)のように、圧電基板80上に、少なくとも櫛形電極が形成される領域に開口84を有するレジスト膜からなるマスク層82を形成する。マスク層82は、開口84において逆テーパ形状の側面を有する。
【0037】
図4(b)のように、マスク層82をマスクとして、スパッタリング法によって櫛形電極を構成する金属(例えばTi、Al)を堆積して、櫛形電極と同じ層構造をした金属層86を形成する。スパッタリング法では、圧電基板80の上面の法線に対して大きな角度で圧電基板80に入射する金属原子が多いため、金属層86はマスク層82の側面にも形成される。このため、マスク層82をリフトオフ法によって除去することが難しくなる。
【0038】
また、マスク層82をリフトオフ法で除去できたとしても、マスク層82の側面に金属層86が形成されているため、
図4(c)のように、金属層86からなる櫛形電極88に大きなバリが発生するようになる。これにより、弾性波デバイスの特性にばらつきが生じてしまう。
【0039】
図5(a)から
図5(d)は、比較例2に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図5(a)のように、圧電基板80上に、少なくとも櫛形電極が形成される領域に開口84を有するレジスト膜からなるマスク層82を形成する。マスク層82は、開口84において逆テーパ形状の側面を有する。
【0040】
図5(b)のように、マスク層82をマスクとして、高真空度(例えば4×10
−4Pa)での真空蒸着法によって櫛形電極を構成する金属(例えばTi、Al)を堆積して、櫛形電極と同じ層構造をした金属層86を形成する。高真空度での真空蒸着では、上述したように、金属原子が圧電基板80の上面にほぼ垂直に入射するため、マスク層82の開口84内に形成される金属層86は台形形状になる。また、マスク層82の側面は逆テーパ形状をしているため、マスク層82の側面に金属層86は形成され難い。
【0041】
図5(c)のように、マスク層82をリフトオフ法で除去する。マスク層82の側面に金属層86が形成され難いため、マスク層82はリフトオフ法によって除去することができる。これにより、金属層86からなる櫛形電極88が形成される。マスク層82の側面に金属層86が形成され難いため、櫛形電極88にバリが発生し難くなる。
【0042】
図5(d)のように、スパッタリング法又はCVD法を用いて、圧電基板80上に櫛形電極88よりも薄い膜厚で櫛形電極88を覆う絶縁膜90を形成する。
【0043】
比較例2によれば、高真空度での真空蒸着法によって金属層86を形成しているため、金属原子が圧電基板80の上面にほぼ垂直に入射することから、櫛形電極88の肩の部分(上面と側面の角部)は直角に近い形状となる。このため、絶縁膜90が櫛形電極88の肩の部分で破損や剥離が生じることがある。絶縁膜90に破損や剥離が生じた場合、櫛形電極88が水分に曝されて腐食が生じ特性が劣化してしまう。
【0044】
一方、実施例1によれば、
図3(a)のように、基板10上に開口72を有し且つ開口72における側面が逆テーパ形状をしたマスク層70を形成する。
図3(b)のように、マスク層70をマスクに櫛形電極22を構成するTi及びAlを堆積して金属層44を形成する。
図3(c)のように、金属層44を形成するときよりも基板10の上面の法線に対して大きな角度で金属原子が基板10に入射するようにマスク層70をマスクにAlを堆積して金属層44上に金属層46を形成する。金属層46は櫛形電極22の上面を構成する。
図3(d)のように、マスク層70をリフトオフ法によって除去する。
図3(e)のように、基板10上に櫛形電極22を覆う絶縁膜50を形成する。これにより、櫛形電極22は、基板10の上面の法線に対して第1角度で傾いた側面を有する金属層44と、金属層44上に金属層44に含まれる金属(Al)を含んで設けられ、基板10の上面の法線に対して金属層44よりも大きい第2角度で傾いた側面を有し且つ櫛形電極22の上面を構成する金属層46と、を有する。金属層46の側面が基板10の上面の法線に対して大きな角度で傾いていることから、櫛形電極22の肩の部分は緩やかなテーパ形状となっている。このため、櫛形電極22を覆う絶縁膜50が櫛形電極22の肩の部分で破損や剥離することを抑制でき、また、櫛形電極22の側面における絶縁膜50の厚みを確保することができる。したがって、櫛形電極22を覆う絶縁膜50の被覆性を向上させることができ、弾性波デバイスの特性劣化を抑制できる。
【0045】
また、実施例1によれば、基板10の上面に斜め方向から入射する金属原子の量を制御することで、金属層44の側面と金属層46の側面の傾きを変えている。このため、金属層44と金属層46とが同じ材料を含んで構成されていても、金属層44の側面と金属層46の側面の傾きを変えることができる。すなわち、金属材料の制限を受けずに、側面が所望の大きさで傾いた金属層44と金属層46とを形成することができる。
【0046】
また、実施例1によれば、
図3(e)のように、櫛形電極22よりも薄い絶縁膜50を形成する。櫛形電極を覆う絶縁膜が薄い場合、比較例2のように櫛形電極の肩の部分が直角に近い形状をしていると、絶縁膜に破損や剥離が生じやすい。しかしながら、実施例1では、櫛形電極22の肩の部分は緩やかなテーパ形状になっているため、絶縁膜50が薄い場合でも絶縁膜50に破損や剥離が生じることを抑制できる。
【0047】
また、実施例1によれば、Ti層28の厚さは160nm、Al層30の厚さは100nm、Al層32の厚さは120nmとなっている。すなわち、金属層44の厚さ(Ti層28とAl層30の合計厚さ)は、金属層46の厚さ(Al層32)よりも厚い。基板10の上面の法線に対する金属層44の側面の角度は比較的小さいことから、金属層44を厚くすることで、櫛形電極22の断面積を大きくして電気抵抗を小さくすることができる。
【0048】
また、実施例1によれば、金属層44を形成するときよりも低い真空度での真空蒸着法によって金属層46を形成する。これにより、金属層46の形成において、金属層44を形成するときよりも基板10の上面の法線に対して大きな角度で金属原子が基板10に入射するようになる。また、金属層44と金属層46とを共に真空蒸着法で形成することで、基板10を途中で大気に曝すことなく連続した成膜によって金属層44と金属層46とを形成できる。よって、金属層44と金属層46との界面に不純物が入り込むことを抑制できる。
【0049】
なお、実施例1では、金属層44を形成するときの真空度から金属層46を形成するときの真空度に低下させる方法としてアルゴンガスの流量を増やす場合を例に示したが、その他の方法によって真空度を低下させてもよい。
図6は、真空蒸着法における真空度を低下させる他の方法を示す図である。
図6のように、真空蒸着装置のチャンバー52内に基板10と蒸着源54とが対向して配置されている。この場合に、真空蒸着中にイオン銃56で例えば酸素イオンを基板10に向かって照射するイオンビームアシスト蒸着を行うことで、基板10上における真空度を低下させてもよい。
【0050】
なお、実施例1では、金属層44と金属層46とを、異なる真空度での真空蒸着法によって形成する場合を例に示したが、この場合に限られない。例えば、金属層44と金属層46とを同じ真空度(例えば高真空度)での真空蒸着法によって形成し且つ金属層46を形成するときは金属層44を形成するときよりも蒸着源に対して基板10を傾けて行ってもよい。また、金属層44を真空蒸着法(例えば高真空度での真空蒸着法)で形成し、金属層46をスパッタリング法で形成してもよい。スパッタリング法は真空蒸着法に比べて基板10の上面の法線に対して大きな角度で金属原子が基板10に入射し易いためである。
【0051】
また、金属層44と金属層46とを共にスパッタリング法によって形成してもよい。このことについて
図7(a)及び
図7(b)を用いて説明する。
図7(a)は、金属層44をスパッタリング法で形成する場合を示す図、
図7(b)は、金属層46をスパッタリング法で形成する場合を示す図である。
図7(a)及び
図7(b)のように、スパッタリング装置のチャンバー58内に基板10とターゲット59とが対向して配置されている。
図7(a)のように、金属層44は、基板10とターゲット59との間隔を距離L1にしたスパッタリング法で形成する。
図7(b)のように、金属層46は、基板10とターゲット59との間隔を距離L1よりも短い距離L2にしたスパッタリング法で形成する。基板10とターゲット59との間の距離が短くなるほど、基板10の上面の法線に対して大きな角度で金属原子が基板10に入射するようになる。したがって、
図7(a)及び
図7(b)の方法によっても、金属層46の形成において、金属層44を形成するときよりも基板10の上面の法線に対して大きな角度で金属原子が基板10に入射するようになる。
【0052】
なお、実施例1において、金属層44は、金属原子が基板10の上面にほぼ垂直に入射する条件で形成される場合に限られない。基板10の上面に斜め方向から入射する金属原子を有する条件で金属層44を形成してもよい。しかしながら、バリの低減やリフトオフの容易性を考慮すると、基板10の上面にほぼ垂直に金属原子が入射して、開口72でのマスク層70の側面に金属層44が形成されないようにすることが好ましい。
【0053】
なお、実施例1では、金属層44は基板10の上面の法線に対して10°傾いた側面を有し、金属層46は基板10の上面の法線に対して50°傾いた側面を有する場合を例に示したがこれに限られる訳ではなく、5°から65°の範囲内で傾いた側面を有する場合でもよい。絶縁膜50の被覆性の点から、基板10の上面の法線に対する金属層46の側面の傾きは、40°以上且つ65°以下の場合が好ましく、45°以上且つ65°以下の場合がより好ましく、50°以上且つ65°以下の場合がさらに好ましい。櫛形電極22の断面積を大きくして電気抵抗を小さくする点から、基板10の上面の法線に対する金属層44の側面の傾きは、5°以上且つ20°以下が好ましく、5°以上且つ15°以下がより好ましく、5°以上且つ10°以下がさらに好ましい。
【実施例2】
【0054】
図8は、実施例2に係る弾性波デバイスに備わる弾性波共振器のIDT近傍の断面図である。
図8のように、実施例2では、IDTを構成する櫛形電極22aは、Ti層28及びAl層30からなる金属層44とAl層32である金属層46との間にAl層34である金属層48が設けられている。Ti層28の厚さは例えば160nmである。Al層30の厚さは例えば80nmである。Al層32、34の厚さは例えば70nmである。金属層44の側面は、基板10の上面の法線に対して例えば10°で傾いている。金属層46の側面は、基板10の上面の法線に対して例えば50°で傾いている。金属層48の側面は、基板10の上面の法線に対して金属層44よりも大きい角度且つ金属層46よりも小さい角度で傾いていて、その角度は例えば30°である。電極指24の下面の幅W1は例えば1.0μm、上面の幅W2は例えば0.72μmである。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0055】
図9(a)から
図9(e)は、実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図9(a)のように、基板10上に、少なくとも櫛形電極22aが形成される領域に開口72を有するレジスト膜からなるマスク層70を形成する。マスク層70をマスクとして、例えば4×10
−4Paの真空度(第1真空度)での真空蒸着法によって、基板10上にTi層28とAl層30とからなる金属層44を形成する。実施例1で説明したように、4×10
−4Paのような高真空度での真空蒸着では、金属原子は基板10の上面にほぼ垂直に入射するため、マスク層70の開口72内に形成される金属層44は台形形状になる。また、マスク層70の側面が逆テーパ形状になっているため、マスク層70の側面に金属層44は形成され難い。
【0056】
図9(b)のように、マスク層70をマスクとして、第1真空度よりも低い第2真空度での真空蒸着法によって、Al層30の上面にAl層34を形成する。すなわち、金属層44上に金属層48を形成する。第2真空度としては、例えば1×10
−2Paが挙げられる。第1真空度よりも低い第2真空度で真空蒸着を行うことで、金属層48の形成では、金属層44を形成するときよりも基板10の上面の法線に対して大きな角度で金属原子が基板10に入射するようになる。このため、マスク層70の開口72内に形成される金属層48は、金属層44よりも基板10の上面の法線に対して大きな角度で傾いた側面を有するようになる。また、金属層48はマスク層70の側面にも形成されるが、金属層44が既に形成されているために、マスク層70の側面の下側部分には形成され難い。
【0057】
図9(c)のように、マスク層70をマスクとして、第2真空度よりも低い第3真空度での真空蒸着法によって、Al層34の上面にAl層32を形成する。すなわち、金属層48上に金属層46を形成する。第3真空度としては、例えば4×10
−2Paが挙げられる。第2真空度よりも低い第3真空度で真空蒸着を行うことで、金属層46の形成では、金属層48を形成するときよりも基板10の上面の法線に対して大きな角度で金属原子が基板10に入射するようになる。このため、マスク層70の開口72内に形成される金属層46は、金属層48よりも基板10の上面の法線に対して大きな角度で傾いた側面を有するようになる。
【0058】
図9(d)のように、マスク層70をリフトオフ法によって除去する。これにより、Ti層28、Al層30、Al層34、Al層32の積層構造をした櫛形電極22aが形成される。
【0059】
図9(e)のように、スパッタリング法又はCVD法を用いて、基板10上に櫛形電極22aよりも薄い膜厚で櫛形電極22aを覆う絶縁膜50を形成する。
【0060】
実施例2によれば、
図9(b)のように、金属層46を形成する前に、金属層44を形成するときよりも低く且つ金属層46を形成するときよりも高い真空度での真空蒸着法によって金属層44上に金属層48を形成する。したがって、金属層44と金属層46との間に、基板10の上面の法線に対して金属層44よりも大きく且つ金属層46よりも小さい角度で傾いた側面を有する金属層48が形成される。これにより、櫛形電極22aは丸みを帯びた形状に近づくため、櫛形電極22aの上面に形成される絶縁膜50の膜厚と側面に形成される絶縁膜50の膜厚との差が小さくなり、櫛形電極22aを覆う絶縁膜50の破損や剥離をさらに抑制でき、絶縁膜50の被覆性をさらに向上できる。また、金属層44から金属層48を全て真空蒸着法で形成しているため、基板10を途中で大気に曝さなくて済み、金属層の界面に不純物が入り込むことを抑制できる。
【0061】
また、実施例2によれば、電極指24は丸みを帯びた形状に近づくため、複数の電極指24間に生じる形状のばらつきを抑えることができる。
【0062】
なお、実施例2において、
図7(a)及び
図7(b)で説明したようなスパッタリング法によって金属層44と金属層46を形成する場合では、金属層44を形成するときよりも基板10とターゲット59との距離を短くし且つ金属層46を形成するときよりも基板10とターゲット59との距離を長くしたスパッタリング法で金属層48を形成してもよい。この場合でも、金属層44から金属層48の全てをスパッタリング法で形成しているため、基板10を途中で大気に曝さなくて済み、金属層の界面に不純物が入り込むことを抑制できる。
【0063】
なお、実施例2では、櫛形電極22aの側面の角度が3段階に変化する場合を例に示したが、4段階以上で変化する場合でもよい。
【実施例3】
【0064】
図10は、実施例3に係る弾性波デバイスに備わる弾性波共振器のIDT近傍の断面図である。
図10のように、実施例3では、櫛形電極22bを覆う絶縁膜50aの厚さが櫛形電極22bよりも厚く、絶縁膜50aの上面は平坦面となっている。絶縁膜50aの厚さは例えば1μmである。絶縁膜50aは、基板10を構成する圧電基板の弾性定数の温度係数とは逆符号の温度係数の弾性定数を有し、例えば酸化シリコン(SiO
2)膜又はフッ素添加酸化シリコン(SiOF)膜などである。絶縁膜50aは、保護膜としての機能に加え、温度変化による特性変化を抑制する温度補償膜としての機能を有する。
【0065】
基板10は、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO
3)基板である。ニオブ酸リチウム基板の一例として、例えば128°±10°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板、0°±10°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板、15°±10°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板が挙げられる。基板10は、タンタル酸リチウム基板でもよいし、支持基板に圧電基板を貼り付けた基板でもよい。
【0066】
櫛形電極22bは、チタン(Ti)層36、銅(Cu)層38、銅(Cu)層40、チタン(Ti)層42の積層構造をしている。Ti層36の厚さは例えば10nm〜80nmである。Cu層38の厚さは例えば140nmである。Cu層40の厚さは例えば90nmである。Ti層42の厚さは10nmである。Ti層36及びCu層38の側面は、基板10の上面の法線に対してほぼ同じ角度で傾いていて、その角度は例えば10°である。Cu層40及びTi層42の側面は、基板10の上面の法線に対してほぼ同じ角度で且つTi層36及びCu層38よりも大きい角度で傾いていて、その角度は例えば50°である。基板10の上面の法線に対して同じ角度で傾斜した側面を有するTi層36とCu層38とが金属層44であり、基板10の上面の法線に対して金属層44よりも大きな角度で且つ互いに同じ角度で傾斜した側面を有するCu層40とTi層42とが金属層46である。
【0067】
IDTの寸法の一例を以下に示す。電極指24のピッチ間隔Pは例えば2μmである。この場合、電極指24が励振する弾性波の波長λは例えば4μmである。IDTの開口長は例えば80μm(20λ)である。電極指24の間隔Sは例えば1μmである。電極指24の下面の幅W1は例えば1.0μmである。電極指24の上面の幅W2は例えば0.78μmである。デューティ比は例えば50%である。
【0068】
図11(a)及び
図11(b)は、実施例3に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。まず、実施例1の
図3(a)から
図3(d)で説明した工程と同様の工程を実施する。これにより、Ti層36、Cu層38、Cu層40、及びTi層42の積層構造をした櫛形電極22bが形成される。その後、
図11(a)のように、スパッタリング法又はCVD法を用いて、基板10上に櫛形電極22bを覆い且つ櫛形電極22bよりも厚い絶縁膜50aを形成する。
図11(b)のように、絶縁膜50aに対して例えばCMP(Chemical Mechanical Polish)などの研磨処理を施して、絶縁膜50aの上面を平坦化する。
【0069】
図12は、比較例3に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。まず、比較例2の
図5(a)から
図5(c)で説明した工程と同じ工程を実施する。その後、
図12のように、スパッタリング法又はCVD法を用いて、圧電基板80上に櫛形電極88を覆い且つ櫛形電極88よりも厚い絶縁膜90aを形成する。その後、絶縁膜90aに対して研磨処理を施すがここでは説明を省略する。
【0070】
比較例3によれば、櫛形電極88を覆い且つ櫛形電極88よりも厚い絶縁膜90aを形成すると、櫛形電極88の電極指の間に絶縁膜90aが形成されていない溝部が大きく形成されてしまう。これは、櫛形電極88が矩形に近い台形形状をしているため、櫛形電極88間に絶縁膜90aが埋め込まれ難いためである。
【0071】
一方、実施例3によれば、金属層44を形成するときよりも基板10の上面の法線に対して大きな角度で金属原子が基板10に入射するように金属層46を形成している。このため、櫛形電極22bの肩の部分は緩やかな角度をしたテーパ形状となっている。これにより、
図11(a)のように、櫛形電極22bを覆い且つ櫛形電極22bよりも厚い絶縁膜50aを形成したとしても、櫛形電極22bの電極指24の間に絶縁膜50aが埋め込まれ易く、電極指24の間で絶縁膜50aが形成されていない溝部を小さくできる。このため、絶縁膜を過度に厚く形成しなくても、
図11(b)のように、絶縁膜50aの上面を平坦化することができる。このため、製造工程の短縮が図れる。
【0072】
実施例1から実施例3においては、弾性波共振器として弾性表面波共振器を例に示したが、弾性境界波共振器又はラブ波共振器でもよい。また、弾性波デバイスとしてラダー型フィルタを例に示したが、多重モード型フィルタなどの他の弾性波フィルタの場合でもよい。また、弾性波デバイスは、ラダー型フィルタ又は多重モード型フィルタを送信フィルタ及び受信フィルタに用いた分波器の場合でもよい。
【0073】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。