特許第6836872号(P6836872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6836872活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、その硬化物、及びこれを用いた積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836872
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、その硬化物、及びこれを用いた積層体
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/06 20060101AFI20210222BHJP
   C09D 175/14 20060101ALI20210222BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   C08F299/06
   C09D175/14
   B32B27/30 A
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-193143(P2016-193143)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-53162(P2018-53162A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】592019589
【氏名又は名称】ダイセル・オルネクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 喜一
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−222568(JP,A)
【文献】 特開2014−196430(JP,A)
【文献】 特開2009−227915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 299/00−299/08
C08F 290/00−290/14
C08G 18/00−18/87
C09D
B32B 27/00−27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン(メタ)アクリレート(X)を含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であって、
前記のウレタン(メタ)アクリレート(X)が、脂環式骨格を有するポリカーボネートポリオール及び/又は構成単位として1,4−ブタンジオールを含まないポリカーボネートポリオールであるポリオール(A)
リイソシアネート(B);
1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、及び2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールからなる群より選択される少なくとも1つのポリオールであるポリオール(C);及
酸基含有(メタ)アクリレート(D)の反応物であり、
ポリオール(A)100重量部に対するポリオール(C)の使用量が5〜40重量部であり、
前記のウレタン(メタ)アクリレート(X)から、下記のウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーに該当するものが除かれることを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
[ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー]
少なくとも(a−1)ポリイソシアネート、(a−2)脂環式構造を有する数平均分子量500以下の低分子量ポリオール及び(a−3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの反応物であるウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー
【請求項2】
ポリオール(A)が有する水酸基1モルに対し、ポリイソシアネート(B)が有するイソシアネート基が2.3モル以上である請求項に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
塗料として用いられる請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜の何れか1項に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物。
【請求項5】
基材の少なくとも一方の面に請求項に記載の硬化物の層を有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、その硬化物、及びこれを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築材料や家具材料として用いられる木製の基材、プラスチック系基材、金属基材、及びセメント系基材等の基材は、その表面保護や美観を保つ観点から、塗料を用いて基材表面をコーティングすることが一般的である。この様な塗料としては、エネルギー線により硬化する樹脂を含む塗料(エネルギー線硬化型塗料)が知られており、レジスト用材料や接着剤等の幅広い分野でも利用されている。
【0003】
エネルギー線硬化型塗料に要求される性能の一つとして耐汚染性が挙げられる。つまり、これらの塗料によりコーティングされた基材において、汚染物質が付着し難い性質を有することが求められる。
【0004】
エネルギー線硬化型塗料に耐汚染性を付与する方法として、特許文献1では塗料にフッ素系表面改質剤を配合することが提案されている。また、特許文献2では塗料に放射線硬化型シリコーン樹脂を用いるものが提案されている。さらに、特許文献3及び4では、塗料に特定構造を有するウレタンアクリレートを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−269287号公報
【特許文献2】特開平11−029720号公報
【特許文献3】特開2002−226519号公報
【特許文献4】特開2005−97373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2の塗料は比較的汚れが除去し易い汚染物質(例えば、油性マジック)に対する耐汚染性は示すものの、汚れが除去し難い汚染物質に対する耐汚染性は低く、例えば、塗膜(コーティング層)に浸透し易い特徴を有する毛染め液の様な汚染物質に対する耐汚染性を備えているとはいえなかった。
【0007】
また、特許文献3、4の塗料は、毛染め液の様な汚染物質でもある程度の耐汚染性を有するものの、その硬化物が加工性(伸長性・可とう性)を有しないことから、コーティング後の基材を折り曲げ加工する際にコーティング層に亀裂が生じるといった問題や、コーティング層が基材から剥離する等の問題があった。
【0008】
この様に、一般的に、硬化物(コーティング層)の架橋密度を上げることにより耐汚染性が向上するため、エネルギー線硬化型塗料に多官能モノマーや多官能オリゴマーを加える手法が採用されている。しかしながら、この手法では硬化物の加工性(伸長性・可とう性)が損なわれることとなる。
【0009】
また、高い伸長性を得るためには、エネルギー線硬化型塗料に高分子アルキル鎖を有するモノマーやオリゴマーを加える手法も知られているが、この場合は架橋密度が下がることにより、耐汚染性が損なわれる。
【0010】
この様に、高い耐汚染性と良好な加工性(伸長性・可とう性)が共存する硬化物を形成することが可能なエネルギー線硬化型塗料についてはこれまで見出されていなかった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、高い耐汚染性を有するとともに良好な加工性(伸長性・可とう性)を有する硬化物を形成することが可能な活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、高い耐汚染性を有するとともに良好な加工性を有する硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のウレタン(メタ)アクリレートを必須成分として含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を硬化させることで、高い耐汚染性を有するとともに良好な加工性を有する硬化物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、ウレタン(メタ)アクリレート(X)を含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であって、前記のウレタン(メタ)アクリレート(X)が、ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールからなる群より選択される少なくとも1つのポリオール(A);ポリイソシアネート(B);脂肪族ポリオール、芳香環を有するポリオール、及びポリエーテルポリオールからなる群より選択される少なくとも1つのポリオールであって、その分子量が60〜2000であるポリオール(C);及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の反応物であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を提供する。
【0014】
また、前記のポリオール(A)としてはポリカーボネートポリオールを含むことが好ましく、ポリオール(C)としては分子量が60〜2000の脂肪族ポリオールを含むことが好ましい。
【0015】
また、ポリオール(A)が有する水酸基1モルに対し、ポリイソシアネート(B)が有するイソシアネート基は2.3モル以上であることが好ましい。
【0016】
また、前記の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は塗料として用いられることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明では、前記の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物についても提供する。
【0018】
さらに、本発明では、基材の少なくとも一方の面に前記の硬化物の層を有する積層体についても提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は上記構成を有するため、高い耐汚染性を有するとともに、良好な加工性(伸長性・可とう性)を有する硬化物を形成することが可能である。また、本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物により得られた硬化物は高い耐汚染性を有するとともに、良好な加工性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪活性エネルギー線硬化型樹脂組成物≫
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート(X)を含み、前記のウレタン(メタ)アクリレート(X)は、ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールからなる群より選択される少なくとも1つのポリオール(A)(以下、単に「ポリオール(A)」と称することがある)と、ポリイソシアネート(B)と、脂肪族ポリオール、芳香環を有するポリオール、及びポリエーテルポリオールからなる群より選択される少なくとも1つのポリオールであって、その分子量が60〜2000であるポリオール(C)(以下、単に「ポリオール(C)」と称することがある)と、水酸基含有(メタ)アクリレート(D)との反応物であるウレタン(メタ)アクリレートであることを特徴とする。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレート(アクリレート及びメタクリレートのいずれか一方又は両方)を意味する。
【0021】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート(X)以外にも、さらに光重合開始剤(Z)、ウレタン(メタ)アクリレート(X)以外の樹脂、溶剤、添加剤等を含有してもよい。
【0022】
<ウレタン(メタ)アクリレート(X)>
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物におけるウレタン(メタ)アクリレート(X)は、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ポリオール(C)、及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の反応物である。なお、本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物において、ウレタン(メタ)アクリレート(X)は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
ウレタン(メタ)アクリレート(X)は、公知の方法で合成することが可能である。例えば、所定量のポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、及びポリオール(C)を、残存イソシアネート濃度が所定量になるまで反応させ、その後、所定量の水酸基含有(メタ)アクリレート(D)を添加して、残存イソシアネート濃度が所定量以下になるまで反応させることにより得ることができる。
【0024】
本発明のウレタン(メタ)アクリレート(X)を合成するための反応(以下、「本反応」と称することがある)におけるポリオール(A)の使用量は、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート(X)の構成成分の全量(例えば、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ポリオール(C)、及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の全量)100重量部に対して、10〜90重量部が好ましく、より好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜70重量部である。ポリオール(A)の使用量を上記範囲内とすることにより、硬化物の耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0025】
本反応におけるポリイソシアネート(B)の使用量は、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート(X)の構成成分の全量(例えば、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ポリオール(C)、及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の全量)100重量部に対して、5〜80重量部が好ましく、より好ましくは10〜60重量部、さらに好ましくは15〜50重量部である。ポリイソシアネート(B)の使用量を上記範囲内とすることにより、硬化物の耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0026】
本反応におけるポリオール(C)の使用量は、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート(X)の構成成分の全量(例えば、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ポリオール(C)、及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の全量)100重量部に対して、0.1〜30重量部が好ましく、より好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは2〜15重量部である。ポリオール(C)の使用量を上記範囲内とすることにより、硬化物の耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0027】
本反応における水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の使用量は、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート(X)の構成成分の全量(例えば、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ポリオール(C)、及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の全量)100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、より好ましくは2〜30重量部、さらに好ましくは3〜20重量部である。水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の使用量を上記範囲内とすることにより、硬化物の耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0028】
本反応におけるポリオール(A)とポリオール(C)の重量比は、特に限定されないが、例えば、ポリオール(A)100重量部に対するポリオール(C)の使用量は、1〜80重量部が好ましく、より好ましくは3〜60重量部、さらに好ましくは5〜40重量部のである。水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の使用量を上記範囲内とすることにより、硬化物の耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0029】
本反応では、十分な反応速度を得るために、触媒を用いて進行させてもよい。触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、オクチル酸スズ、塩化スズ等が挙げられる。中でも、反応速度の点から、ジブチルスズジラウレートが好ましい。触媒の添加量(使用量)は、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート(X)の構成成分の全量(例えば、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ポリオール(C)、及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の全量)に対して、通常、1〜3000ppmが好ましく、より好ましくは50〜1000ppmである。触媒の添加量を1ppm以上とすることにより、十分な反応速度が得られる傾向がある。一方、3000ppm以下とすることにより、生成物の諸物性に対して触媒由来の悪影響が及びにくい傾向がある。
【0030】
本反応は、公知の有機溶剤の存在下で進行させることもできる。有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルアセテート、キシレン、トルエン等が挙げられる。中でも、沸点と経済性の観点から、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン等が好ましい。なお、有機溶剤は、ウレタン(メタ)アクリレート(X)の製造後、減圧等により留去することができる。
【0031】
本反応では、重合を防止する目的で、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、ジブチルヒドロキシトルエン等の重合禁止剤の存在下で進行させてもよい。これらの重合禁止剤の添加量(使用量)は、ウレタン(メタ)アクリレート(X)の構成成分の全量(例えば、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ポリオール(C)、及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の全量)に対して、1〜10000ppm(重量基準)が好ましく、より好ましくは100〜1000ppmである。重合禁止剤の添加量を1ppm以上とすることにより、十分な重合禁止効果が得られる傾向がある。一方、10000ppm以下とすることにより、生成物の諸物性に対して重合禁止剤由来の悪影響が及びにくい傾向がある。
【0032】
本反応における反応温度は特に限定されないが、130℃以下の温度(反応温度)で進行させることが好ましく、より好ましくは40〜130℃である。反応温度を40℃以上とすることにより、反応速度がより向上する傾向がある。一方、反応温度を130℃以下とすることにより、熱によるラジカル重合が抑制され、ゲル化物の生成をより効率的に抑制できる傾向がある。
【0033】
ウレタン(メタ)アクリレート(X)の重量平均分子量は、特に限定されないが、1000〜1000000が好ましく、より好ましくは2000〜100000、さらに好ましくは3000〜50000である。
【0034】
ウレタン(メタ)アクリレート(X)の数平均分子量は、特に限定されないが、500〜200000が好ましく、より好ましくは1000〜50000、さらに好ましくは1500〜20000である。
【0035】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物におけるウレタン(メタ)アクリレート(X)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の樹脂分の総重量(100重量%)に対して、20重量%以上(例えば、20〜100重量%)が好ましく、より好ましくは40重量%以上(例えば、40〜99重量%)、さらに好ましくは60重量%以上(例えば、60〜95重量%)である。なお、「樹脂分」とは、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物から溶剤や光重合開始剤を除いた成分(例えば、ウレタン(メタ)アクリレート(X)、及びウレタン(メタ)アクリレート(X)以外の樹脂)を指す。
【0036】
本反応により得られたウレタン(メタ)アクリレート(X)は、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ポリオール(C)、及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の反応物をそのまま使用することもできるし、公知乃至慣用の方法により精製したものを使用することもできる。
【0037】
[ポリオール(A)]
本発明のポリオール(A)は、ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールからなる群より選択される少なくとも1つのポリオールである。なお、ポリオール(A)は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0038】
ポリカーボネートポリオールは、分子中に2個以上の水酸基を有するポリカーボネートであり、例えば、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ホスゲン等の炭酸誘導体と、ポリオールとの反応により得られる化合物が挙げられる。
【0039】
ポリカーボネートポリオールを形成するために用いられるポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等の脂環式骨格を有しない脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、トリシクロデカンジメタノールビスフェノールA、水添ビスフェノールA等の脂環式骨格を有する脂肪族ジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン等の脂環式骨格を有しない脂肪族トリオール;脂環式骨格を有する脂肪族トリオール等を挙げることができる。
【0040】
ポリカーボネートポリオールとしては特に限定されないが、耐汚染性の向上の観点から脂環式骨格を有するポリカーボネートポリオールが好ましい。前記の脂環式骨格を有するポリカーボネートポリオールは、ポリオールとして脂環式骨格を有する脂肪族ポリオール(例えば、脂環式骨格を有する脂肪族ジオール、脂環式骨格を有する脂肪族トリオール)を用いた反応により得ることができる。また、ポリカーボネートポリオールとしては、耐汚染性の向上と共に加工性が付与されることから、ポリカーボネートジオールを用いることが好ましい。
【0041】
ポリカーボネートポリオールとしては市販品を使用することができ、例えば、プラクセルCD205、CD210、CD220、CD205PL、CD205HL、CD210PL、CD210HL、CD220PL、CD220HL、CD220EC、CD221T(以上、(株)ダイセル製)、ETERNACOLL UM−90(1/3)、ETERNACOLL UM−90(1/1)、ETERNACOLL UM−90(3/1)、ETERNACOLL UH−CARB50、ETERNACOLL UH−CARB100、ETERNACOLL UH−CARB300、ETERNACOLL UH−CARB90(3/1)、ETERNACOLL UH−CARB90(1/1)、ETERNACOLL UH−CARB90(1/3)、ETERNACOLL UH−CARB100(以上、宇部興産(株)製)、DURANOL T6002、DURANOL T5651、DURANOL T5652、DURANOL T4672、DURANOL T4692、DURANOL G3452(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)、クラレポリオールND、MPD(以上、(株)クラレ)等を用いることができる。なお、ETERNACOLL UM−90(1/3)、ETERNACOLL UM−90(1/1)、ETERNACOLL UM−90(3/1)は、ポリオールとして順に1/3、1/1、3/1のモル比のシクロヘキサンジメタノールと1,6−ヘキサンジオールとを使用することにより得られるポリカーボネートポリオールであり、数平均分子量は全て900である。また、DURANOL T5651及びDURANOL T5652は、ポリオールとして1/1のモル比の1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールとを使用することにより得られるポリカーボネートポリオールであり、数平均分子量は順に1000、2000である。
【0042】
ポリエステルポリオールは、分子中に2個以上の水酸基を有するポリエステルであり、例えば、ポリオールとポリカルボン酸との反応や、ラクトンの開環重合により得られる化合物が挙げられる。
【0043】
ポリエステルポリオールを形成するために用いられるポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等の脂環式骨格を有しない脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、トリシクロデカンジメタノールビスフェノールA、水添ビスフェノールA等の脂環式骨格を有する脂肪族ジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン等の脂環式骨格を有しない脂肪族トリオール;脂環式骨格を有する脂肪族トリオール等を挙げることができる。ポリカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アゼライン酸、クエン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シトララコン酸、1,10−デカンジカルボン酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、乳酸、リンゴ酸、グリコール酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等が挙げられる。ラクトン類としては、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0044】
ポリエステルポリオールとしては特に限定されないが、耐汚染性の向上の観点から脂環式骨格を有するポリエステルポリオールが好ましい。前記の脂環式骨格を有するポリエステルポリオールは、ポリオールとして脂環式骨格を有する脂肪族ポリオール(例えば、脂環式骨格を有する脂肪族ジオール、脂環式骨格を有する脂肪族トリオール)を用いた反応により得ることができる。また、耐汚染性の向上と共に、加工性が付与されることから、ポリエステルジオール用いることが好ましい。
【0045】
ポリオール(A)の数平均分子量は特に限定されないが、200〜10000が好ましく、より好ましくは300〜5000、さらに好ましくは400〜3000、特に好ましくは500〜2000である。ポリオール(A)の数平均分子量が上記範囲内であることで、耐汚染性、加工性が良好であると共に、ハンドリング性が良好となる。
【0046】
ポリオール(A)の水酸基価は特に限定されないが、200〜20000mgKOHであることが好ましく、より好ましくは500〜5000mgKOHである。
【0047】
ポリオール(A)に由来する構成単位の含有量は、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート(X)(100重量%)に対して、10〜90重量%が好ましく、より好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%である。ポリオール(A)の含有量を上記範囲内とすることにより、硬化物の耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0048】
[ポリイソシアネート(B)]
ポリイソシアネート(B)は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。ウレタン(メタ)アクリレート(X)の原料としてのポリイソシアネート(B)は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0049】
ポリイソシアネート(B)としては、例えば、分子中に環状構造を有しないポリイソシアネート[例えば、1,6−ヘキサンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネート;ジイソシアネートの三量体(ビウレット、アダクト)等]、分子中に環状構造を有するポリイソシアネート[例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;芳香族ポリイソシアネートを水添して得られるポリイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート化合物や2,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート化合物等のジイソシアネートの三量体(ヌレート)等]等が挙げられる。
【0050】
ポリイソシアネート(B)としては特に限定されないが、脂環式骨格を有するポリイソシアネートが耐汚染性の向上の観点から好ましい。また、耐汚染性の向上と共に、加工性が付与されることから、ポリイソシアネート(B)は分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物(ジイソシアネート)であることが好ましい。
【0051】
ポリイソシアネート(B)としては市販品を使用することができ、例えば、製品名「タケネートD−170N」(ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体、三井化学(株)社製)、製品名「スミジュールN3300」(1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート由来のヌレート化合物、住友バイエルウレタン社製)、製品名「IPDI」(イソホロンジイソシアネート、エポニック(株)社製)等を用いることができる。
【0052】
ポリイソシアネート(B)に由来する構成単位の含有量は、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート(X)(100重量%)に対して、5〜80重量%が好ましく、より好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは15〜50重量%である。ポリイソシアネート(B)の含有量を上記範囲内とすることにより、硬化物の耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0053】
本発明におけるポリオール(A)が有する水酸基に対するポリイソシアネート(B)が有するイソシアネート基の比率は特に限定されないが、例えば、ポリオール(A)が有する水酸基1モルに対し、ポリイソシアネート(B)のイソシアネート基が2.3モル以上であることが好ましく、2.3〜6モルがより好ましく、2.5〜5モルがさらに好ましく、2.8〜4.2モルが特に好ましい。
【0054】
[ポリオール(C)]
本発明のポリオール(C)は脂肪族ポリオール、芳香環を有するポリオール、及びポリエーテルポリオールからなる群より選択される少なくとも1つのポリオールであって、その分子量が60〜2000であるポリオールである。つまり、ポリオール(C)は、分子量が60〜2000の脂肪族ポリオール、分子量が60〜2000の芳香環を有するポリオール、及び分子量が60〜2000のポリエーテルポリオールはからなる群より選択される少なくとも1つのポリオールである。前記の脂肪族ポリオールは、脂肪族炭化水素の少なくとも2つの水素原子が水酸基に置換された化合物であり、例えば、直鎖脂肪族ポリオール、分岐鎖脂肪族ポリオール、及び脂環式骨格を有する脂肪族ポリオールが挙げられる。ウレタン(メタ)アクリレート(X)にポリオール(C)が含まれることにより、分子中のウレタン結合数を適切な値に調節することができ、その結果、硬化物の可とう性や弾性が向上する。なお、ポリオール(C)は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0055】
ポリオール(C)の分子量は60〜2000であれば特に限定されないが、例えば、60〜1000が好ましく、より好ましくは60〜500、さらに好ましくは60〜300である。ポリオール(C)の分子量が上記範囲内にあることで、硬化物の可とう性や弾性が向上する。
【0056】
直鎖脂肪族ポリオールとしては、直鎖状の炭化水素の少なくとも2つの水素原子が水酸基に置換された化合物であり、例えば、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,2−プロパンジオール(1,2−プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール(1,3−プロピレングリコール)、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール等の直鎖アルカンジオール;1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール等の直鎖アルカントリオールが挙げられる。
【0057】
分岐鎖脂肪族ポリオールとしては、分岐鎖状の炭化水素の少なくとも2つの水素原子が水酸基に置換した化合物であり、例えば、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(ブチルエチルプロパンジオール)等の分岐鎖アルカンジオールが挙げられる。
【0058】
脂環式骨格を有する脂肪族ポリオールとしては、脂環式骨格を有する炭化水素の少なくとも2つの水素原子が水酸基に置換された化合物であり、例えば、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水添ビスフェノールA、1,2,3−シクロヘキサントリオール等が挙げられる。
【0059】
芳香環を有するポリオールとしては、芳香環を有する炭化水素の少なくとも2つの水素原子が水酸基に置換された化合物であり例えば、ビスフェノールA等が挙げられる。
【0060】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール等のポリプロピレングリコール、ビスフェノールA又は水添ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加体等が挙げられる。
【0061】
ポリオール(C)は特に限定されないが、分子量が60〜2000の直鎖アルカンジオール、分子量が60〜2000の分岐鎖アルカンジオール等の分子量が60〜2000のアルカンジオールであることが好ましい。
【0062】
ポリオール(C)としては市販品を使用することができ、例えば、1,4−ブタンジオール(和光純薬(株)製)、ブチルエチルプロパンジオール(KHネオケム(株)製)等を用いることができる。
【0063】
ポリオール(C)に由来する構成単位の含有量は、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート(X)(100重量%)に対して、0.1〜30重量%が好ましく、より好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは2〜15重量%である。ポリオール(C)の含有量を上記範囲内とすることにより、硬化物の加工性や耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0064】
ポリオール(A)に由来する構成単位の含有量と、ポリオール(C)に由来する構成単位の含有量との重量比は特に限定されないが、例えば、ポリオール(A)(100重量%)に対して、1〜80重量%が好ましく、より好ましくは3〜60重量%、さらに好ましくは5〜40重量%である。ポリオール(C)の含有量を上記範囲内とすることにより、硬化物の耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0065】
[水酸基含有(メタ)アクリレート(D)]
水酸基含有(メタ)アクリレート(D)としては、水酸基を少なくとも1個有する(メタ)アクリレートであれば特に限定されないが、加工性の観点からは分子中に1個の水酸基を有する(メタ)アクリレートであることが好ましい。なお、ウレタン(メタ)アクリレート(X)の原料としての水酸基含有(メタ)アクリレート(D)は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0066】
水酸基含有(メタ)アクリレート(D)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルモノ(メタ)アクリレート等のエポキシアクリレート及びそれらを水添したもの等の水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の水酸基を有する多官能(メタ)アクリレート等を使用することができる。なお、加工性の観点からは単官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0067】
水酸基含有(メタ)アクリレート(D)としては市販品を使用することができ、例えば、製品名「HEA」(2−ヒドロキシエチルアクリレート、日本触媒(株)製)等を用いることもできる。
【0068】
水酸基含有(メタ)アクリレート(D)に由来する構成単位の含有量は、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート(X)(100重量%)に対して、1〜40重量%が好ましく、より好ましくは2〜30重量%、さらに好ましくは3〜20重量%である。水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の含有量を上記範囲内とすることにより、硬化物の耐汚染性がより向上する傾向がある。
【0069】
<光重合開始剤(Z)>
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物における光重合開始剤(Z)としては、公知乃至慣用の光重合開始剤を使用することができ、特に限定されないが、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン等が挙げられる。なお、本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物において光重合開始剤(Z)は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0070】
光重合開始剤(Z)としては市販品を使用することができ、例えば、Irgacure 184(BASF社製、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)等の市販品を用いることもできる。
【0071】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物における光重合開始剤(Z)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に含まれる樹脂分の全量(100重量部)に対して、0.001〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.005〜1重量部、さらに好ましくは0.01〜0.1重量部である。光重合開始剤(Z)の含有量を0.001重量部以上とすることにより、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化性がより向上し、十分に硬化させることができる傾向がある。一方、光重合開始剤(Z)の含有量を5重量部以下とすることにより、硬化物における光重合開始剤(Z)由来の臭気の残存や着色等が抑制され、硬化物の諸物性に悪影響が及ぶことが抑制される傾向がある。なお、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の「樹脂分」は、前述の通りである。
【0072】
<ウレタン(メタ)アクリレート(X)以外の樹脂>
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物では、ウレタン(メタ)アクリレート(X)以外の樹脂を含んでいてもよい。この様な樹脂としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート(X)以外のウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリブタジエン、ポリプロピレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート、及びこれらの重合体(例えば、アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂)等が挙げられる。なお、これらの樹脂は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0073】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物にウレタン(メタ)アクリレート(X)以外の樹脂が含まれる場合、その樹脂の含有量(配合量)は、耐汚染性や加工性に悪影響を及ぼさない限り特に限定されないが、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の樹脂分の総重量(100重量%)に対して、80重量%以下(例えば、0〜80重量%)が好ましく、より好ましくは50重量%以下(例えば、1〜50重量%)、さらに好ましくは20重量部以下(例えば、2〜20重量部)、特に好ましくは10重量部以下(例えば、5〜10重量部)である。なお、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の「樹脂分」は、前述の通りである。
【0074】
<溶剤>
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、必要に応じて溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、上記「ウレタン(メタ)アクリレート(X)」の項で例示した有機溶剤と同様のものが挙げられる。なお、溶剤は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。溶剤の含有量(配合量)は、特に限定されないが、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の全量(100重量%)に対して、0〜80重量%が好ましく、より好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは10〜40重量%である。
【0075】
<添加剤>
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、必要に応じて種々の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、フィラー、染顔料、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、分散剤、チクソトロピー性付与剤等が挙げられる。
【0076】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート(X)と、光重合開始剤と、さらに必要に応じてその他の成分を混合することによって得ることができる。混合の手段としては、公知乃至慣用の手段を利用でき、特に限定されないが、例えば、ディゾルバー、ホモジナイザー等の各種ミキサー、ニーダー、ロール、ビーズミル、自公転式撹拌装置等の手段を使用できる。また、混合の際の温度や回転数等の条件は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0077】
≪硬化物≫
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物にエネルギー線(活性エネルギー線)を照射することにより硬化物を得ることができる。このため、各種物品に対する塗料(コーティング剤)として使用することができる。つまり、本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を、基材の表面に塗布して硬化させることにより、高い耐汚染性と良好な加工性(伸長性・可とう性)を有する積層体を得ることができる。つまり、前記の積層体は、基材の少なくとも一方の面に前記の硬化物の層を有する積層体を意味する。
【0078】
塗布の方法は特に限定されず、エアレススプレー、エアスプレー、ロールコート、バーコート、グラビアコート、ダイコート等の公知乃至慣用の手段を利用して実施できる。なお、塗布は、家具類や建築材料等の製造工程中で行う、いわゆるインラインコート法で実施することもできるし、既に製造された家具類や建築材料等に対して塗布を行う(家具類や建築材料等の製造とは別工程で塗布を行う)、いわゆるオフラインコート法で実施することもできる。
【0079】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を基材の表面に塗布する際の膜厚(塗膜の厚み)は、特に限定されないが、1〜100μmが好ましく、より好ましくは5〜50μmである。厚みを100μm以下とすることにより、塗布する樹脂組成物の量を少量に留めることができ、乾燥や硬化時間が短くなり、コストの観点からより有利となる傾向がある。一方、厚みを1μm以上とすることにより、耐汚染性と加工性をより効果的に発揮させることができる傾向がある。
【0080】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が溶剤(揮発性有機溶剤)を含む場合には、前記の樹脂組成物を塗布した後、熱風等による加熱乾燥を実施してもよい。この後、塗布した樹脂組成物に対して、紫外線や電子線等の活性エネルギー線を照射することにより、極めて短時間で硬化させることができる。例えば、紫外線照射を行う時の光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯等を使用できる。エネルギー線の照射時間は、光源の種類、光源と塗布面との距離、その他の条件により異なるが、長くとも数十秒であり、通常は数秒である。通常、ランプ出力80〜300W/cm程度の照射源が用いられる。例えば、電子線照射の場合は、50〜1000KeVの範囲のエネルギーを持つ電子線を用い、2〜5Mradの照射量とすることが好ましい。エネルギー線照射後は、必要に応じて加熱を行ってさらに硬化の促進を図ってもよい。
【0081】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が適用される基材としては、特に限定されないが、例えば、木製基材;鉄、ステンレス、アルミニウム等の金属基材;セメント類、石灰類、石膏類等のセメント系基材;ポリ塩化ビニル類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、アクリル類等のプラスチック系基材が挙げられる。なお、これらの基材としては、建材、建築物、構造物等の建築・建材分野の各種被塗物等を挙げることができる。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0083】
[ウレタン(メタ)アクリレートの合成]
(合成例1:ウレタン(メタ)アクリレート(P−1)の合成)
還流用冷却管、温度計、混気ガス導入管、攪拌装置を備えた四つ口フラスコに、混気ガス(空気5cc:窒素15ccの混合ガス)を20cc/分供給しながら、82.8gのイソホロンジイソシアネートを投入し、内温を50℃に設定した。続いて、0.075gのジブチルスズジラウレートを投入した後、125.7gのDURANOL T5651、11.2gの1,4−ブタンジオール、及び107.1gの酢酸ブチルをあらかじめ混合した溶液を2時間かけて滴下した。その後、1時間反応させ、イソシアネート基濃度が3.20%±0.05に達したことを確認した。続いて、内温を70℃に設定し、0.125gのジブチルヒドロキシトルエン投入し、続けて30.3gのヒドロキシエチルアクリレートを30分かけて滴下した。その後、2時間反応させ、イソシアネート基濃度が0.1%未満となっていることを確認した後に、四つ口フラスコから取り出し、120メッシュのろ布により濾過するとともに、130℃、2時間、大気圧の条件にて揮発成分を取り除いた。得られたポリマー(P−1)の不揮発分は69.0重量%、数平均分子量は2554、重量平均分子量は6116であった。
【0084】
(合成例2:ウレタン(メタ)アクリレート(P−2)の合成)
還流用冷却管、温度計、混気ガス導入管、攪拌装置を備えた四つ口フラスコに、混気ガス(空気5cc:窒素15ccの混合ガス)を20cc/分供給しながら、90.5gのイソホロンジイソシアネートを投入し、内温を50℃に設定した。続いて、0.105gのジブチルスズジラウレートを投入した後、202.0gのDURANOL T5652、32.7gのブチルエチルプロパンジオール、116.7gの酢酸ブチルをあらかじめ混合した溶液を4時間かけて滴下した。その後1時間反応させ、イソシアネート基濃度が1.94%±0.05に達したことを確認した。続いて、内温を70℃に設定し、0.175gのジブチルヒドロキシトルエン投入し、続けて24.8gのヒドロキシエチルアクリレートを30分かけて滴下した。その後、2時間反応させ、イソシアネート基濃度が0.1%未満となっていることを確認した後に、四つ口フラスコから取り出し、120メッシュのろ布により濾過するとともに、130℃、2時間、大気圧の条件にて揮発成分を取り除いた。得られたポリマー(P−2)の不揮発分は75.2重量%、数平均分子量は3505、重量平均分子量は9730であった。
【0085】
(合成例3:ウレタン(メタ)アクリレート(P−3)の合成)
還流用冷却管、温度計、混気ガス導入管、攪拌装置を備えた四つ口フラスコに、混気ガス(空気5cc:窒素15ccの混合ガス)を20cc/分供給しながら、87.3gのイソホロンジイソシアネートを投入し、内温を50℃に設定した。続いて、0.075gのジブチルスズジラウレートを投入した後、118.9gのETERNACOLL UM−90(1/3)、11.8gの1,4−ブタンジオール、107.1gの酢酸ブチルをあらかじめ混合した溶液を2時間かけて滴下した。その後1時間反応させ、イソシアネート基濃度が3.39%±0.05に達したことを確認した。続いて、内温を70℃に設定し、0.125gのジブチルヒドロキシトルエン投入し、続けて31.9gのヒドロキシエチルアクリレートを30分かけて滴下した。その後、2時間反応させ、イソシアネート基濃度が0.1%未満となっていることを確認した後に、四つ口フラスコから取り出し、120メッシュのろ布により濾過するとともに、130℃、2時間、大気圧の条件にて揮発成分を取り除いた。得られたポリマー(P−3)の不揮発分は69.3重量%、数平均分子量は2529、重量平均分子量は5485であった。
【0086】
(合成例4:ウレタン(メタ)アクリレート(P−4)の合成)
還流用冷却管、温度計、混気ガス導入管、攪拌装置を備えた四つ口フラスコに、混気ガス(空気5cc:窒素15ccの混合ガス)を20cc/分供給しながら、87.6gのイソホロンジイソシアネートを投入し、内温を50℃に設定した。続いて、0.075gのジブチルスズジラウレートを投入した後、118.5gのETERNACOLL UM−90(1/1)、11.8gの1,4−ブタンジオール、107.1gの酢酸ブチルをあらかじめ混合した溶液を2時間かけて滴下した。その後1時間反応させ、イソシアネート基濃度が3.40%±0.05に達したことを確認した。続いて、内温を70℃に設定し、0.125gのジブチルヒドロキシトルエン投入し、続けて32.0gのヒドロキシエチルアクリレートを30分かけて滴下した。その後、2時間反応させ、イソシアネート基濃度が0.1%未満となっていることを確認した後に、四つ口フラスコから取り出し、120メッシュのろ布により濾過するとともに、130℃、2時間、大気圧の条件にて揮発成分を取り除いた。得られたポリマー(P−4)の不揮発分は69.9重量%、数平均分子量は2519、重量平均分子量は5366であった。
【0087】
(合成例5:ウレタン(メタ)アクリレート(P−5)の合成)
還流用冷却管、温度計、混気ガス導入管、攪拌装置を備えた四つ口フラスコに、混気ガス(空気5cc:窒素15ccの混合ガス)を20cc/分供給しながら、86.9gのイソホロンジイソシアネートを投入し、内温を50℃に設定した。続いて、0.075gのジブチルスズジラウレートを投入した後、119.5gのETERNACOLL UM−90(3/1)、11.8gの1,4−ブタンジオール、107.1gの酢酸ブチルをあらかじめ混合した溶液を2時間かけて滴下した。その後1時間反応させ、イソシアネート基濃度が3.37%±0.05に達したことを確認した。続いて、内温を70℃に設定し、0.125gのジブチルヒドロキシトルエン投入し、続けて31.8gのヒドロキシエチルアクリレートを30分かけて滴下した。その後、2時間反応させ、イソシアネート基濃度が0.1%未満となっていることを確認した後に、四つ口フラスコから取り出し、120メッシュのろ布により濾過するとともに、130℃、2時間、大気圧の条件にて揮発成分を取り除いた。得られたポリマー(P−5)の不揮発分は69.7重量%、数平均分子量は2676、重量平均分子量は5825であった。
【0088】
なお、ウレタン(メタ)アクリレート(P−1)〜(P−5)の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーション・ガスクロマトグラフィー)法により、下記の測定条件で、標準ポリスチレンを基準にして求めた。
使用機器 : TOSO HLC−8220GPC
ポンプ : DP−8020
検出器 : RI−8020
カラムの種類: Super HZM−M, Super HZ4000, Super HZ3000, Super HZ2000
溶剤 : テトラヒドロフラン
相流量 : 1mL/分
カラム内圧力: 5.0MPa
カラム温度 : 40℃
試料注入量 : 10μL
試料濃度 : 0.2mg/mL
【0089】
[活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の作製]
(実施例1〜5)
100重量部のウレタン(メタ)アクリレート(P−1)〜(P−5)それぞれに42重量部の酢酸ブチル、2.1重量部の光重合開始剤(Irgacure 184)を加え活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を調製した。
【0090】
(比較例1)
100重量部の2官能ウレタン(メタ)アクリレート(EB8804、ダイセル・オルネクス(株)製)に82.8重量部の酢酸ブチル、2.7重量部の光重合開始剤(Irgacure 184)を加え活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を調製した。
【0091】
(比較例2)
100重量部の3官能ウレタン(メタ)アクリレート(KRM8667、ダイセル・オルネクス(株)製)に103重量部の酢酸ブチル、3.0重量部の光重合開始剤(Irgacure 184)を加え活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を調製した。
【0092】
(比較例3)
100重量部の6官能ウレタン(メタ)アクリレート(EB1290、ダイセル・オルネクス(株)製)に103重量部の酢酸ブチル、3.0重量部の光重合開始剤(Irgacure 184)を加え活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を調製した。
【0093】
<耐汚染性試験>
実施例1〜5、比較例1〜3にて作製した活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を、乾燥後の膜厚が20μmとなるようにポリカーボネート板(厚み:1mm)に塗布し、乾燥させた後に積算光量800mJ/cm2の条件で紫外線を照射することで試験サンプルを作製した。前記の試験サンプルの透過率(「初期透過率(%)」と称する)を測定した。次に、JIS K6902に準拠し、ビゲンクリームトーン7G(ホーユー(株)製)を前記の試験サンプル上に塗布し、2mm厚とした後、25℃、50%RHで24時間放置後、エタノールを含んだ脱脂綿でふき取り、全光線透過率(「試験後透過率(%)」と称する)を測定した。これらの結果から、下記の計算式を用いて透過率保持率を算出した。この結果を表1、2の「耐汚染性」の欄に示した。
[保持率(%)]=[試験後透過率(%)]/[初期透過率(%)]×100
【0094】
<伸張性試験>
実施例1〜5、比較例1〜3にて作製した活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を、乾燥後の膜厚が60μmとなるようにガラス板(厚みが:3mm)に塗布し、乾燥させた後に積算光量800mJ/cm2の条件で紫外線を照射することで硬化させ、硬化物をガラス板から剥離し、10mm×60mmの試験サンプルを作製した。
テンシロン万能材料試験機(型番:RTC−1350A、エーアンドデイ(株)製)を用い、以下の条件で前記の試験サンプルの破断伸度を測定し、結果を表1、2の「破断伸度(%)」の欄に示した。なお、比較例3では割れが発生したため、試験サンプルが作製できなかった。
環境温度:23℃
環境湿度:50%RH
荷重フルスケール:1N
試験速度:100mm/min
標線間距離:30mm
チャック間距離:30mm
【0095】
<180°折り曲げ性>
実施例1〜5、比較例1〜3にて作製した活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を、乾燥後の膜厚が20μmとなるようにPET(100um,コスモシャインA4100,東洋紡(株))に塗布し、乾燥させた後に積算光量800mJ/cm2の条件で紫外線を照射することで試験サンプルを作製した。次に、試験サンプルを180°折り曲げて、割れの有無を確認した。なお、180°折り曲げ性の判断基準は以下の通りとし、下記表1及び表2の「180°折り曲げ性」の欄に示した。
折り曲げることにより割れが生じなかった:「〇」
折り曲げることにより割れが生じた:「×」
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
実施例1〜5及び比較例1〜3の結果から、本願発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、高い耐汚染性を有すると共に、良好な加工性を有する硬化物を与えることが明らかになった。また、実施例3〜5に係る硬化物がより高い耐汚染性を備えることが明らかになった。