(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸部の中心軸に沿った断面において、前記連結部は、前記第1方向または前記第1方向と逆方向の第2方向に膨らむように湾曲していることを特徴とする請求項1または2に記載のオートテンショナ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、自動車用エンジンの補機を駆動する伝動ベルトの弛み側張力を一定に保つオートテンショナに本発明を適用した一例である。本実施形態のオートテンショナは、自動車用エンジンのクランクシャフトに連結された駆動プーリ(図示省略)と、オルタネータ等の補機を駆動する従動プーリ(図示省略)とにわたって伝動ベルトが巻き掛けられている補機駆動システムに用いられる。詳細には、オートテンショナの後述するプーリは、伝動ベルトの弛み側に接触するように配置されている。この補機駆動システムは、クランクシャフトの回転が伝動ベルトを介して従動プーリに伝達されて、補機が駆動されるようになっている。
【0026】
図1に示すように、本発明の第1実施形態のオートテンショナ1は、ベース2と、アーム3と、プーリ4と、押さえ部材5と、摺動部材6と、ダンピング部材7と、コイルばね8とを備える。ベース2は、
図1中二点鎖線で示すエンジンブロックEBに固定される。アーム3は、ベース2に対して
図1に示す軸Rを中心に回動自在に支持されている。ダンピング部材7は、ダンピング部71とダンピング支持部72の2つの部品で構成される。ダンピング部材7は、アーム3とベース2との間に配置される。ダンピング部材7は、アーム3とベース2との間で摩擦力を生じさせて、アーム3の揺動を減衰させる。ダンピング部71は、本発明のダンピング部に相当する。
【0027】
以下の説明において、
図1中の左右方向を前後方向とする。軸Rは、前後方向と平行である。以下の説明において、軸Rを中心とした円の径方向を単に径方向、軸Rを中心とした周方向を単に周方向という場合がある。前方は、本発明の第1方向に相当する。
【0028】
ベース2は、例えば、アルミニウム合金鋳物(例えばADC12)等からなる金属部品である。ベース2は、台座部21と、軸部22と、外筒部23とを有する。軸Rは、軸部22の中心軸と一致する。台座部21は、エンジンブロックEBに固着される。外筒部23は、台座部21の外縁部から前方に延びている。外筒部23は、円筒状に形成されている。軸部22は、台座部21の中央部から前方に延びている。軸部22の外周面は、前方に向かって先細りとなるテーパー状に形成されている。軸Rに沿った断面において、軸部22の外周面の前後方向に対する傾斜角度は、例えば3°である。軸部22の先端部には、押さえ部材5を嵌合するための段差22aが形成されている。
【0029】
軸部22の外周面と外筒部23の内周面との間には、ばね収容室9が形成される。このばね収容室9にコイルばね8が配置されている。
図2に示すように、コイルばね8は、後端から前端に向かってX方向に螺旋状に巻かれている。台座部21の前面には、コイルばね8の後端部を保持する保持溝21aが形成されている。
【0030】
押さえ部材5は、例えば、炭素鋼(例えばSPCC:冷間圧延鋼)などの金属で形成されている。押さえ部材5は、環状の板状部材である。押さえ部材5は、ベース2の軸部22の前端部(先端部)に固定される。押さえ部材5は、軸部22の段差22aに嵌め込まれて軸部22にかしめ固定される。押さえ部材5の後面は、平坦であって、軸Rに直交する。
【0031】
アーム3は、ベース2と同様に、例えば、アルミニウム合金鋳物(例えばADC12)等からなる金属部品である。アーム3は、ボス部31と、円盤部32と、プーリ支持部33とを有する。ボス部31は、略円筒状に形成されている。ベース2の軸部22は、ボス部31の内側に挿入される。つまり、ボス部31の内周面は、軸部22の外周面と対向する。
図2に示すように、アーム3は、ボス部31の外周面から径方向外側に突出した係止突起34を有する。
【0032】
ボス部31の内周面を、筒状摺動面31aとする。
図1に示すように、筒状摺動面31aは、後方に向かって先細りとなるテーパー状に形成されている。軸Rに沿った断面において、筒状摺動面31aの前後方向に対する傾斜角度は、ベース2の軸部22の外周面の前後方向に対する傾斜角度と同じであってもよく、それより小さくても大きくてもよい。ベース2の軸部22の外周面と筒状摺動面31aの内周面との間には、筒状隙間10が形成される。筒状隙間10の径方向の長さは、前方に向かうほど大きくなる。
【0033】
円盤部32は、ベース2の外筒部23よりも前方に配置される。円盤部32は、環状に形成されている。ボス部31の前端部は、円盤部32の内周面に接続されている。アーム3の前面は、円盤部32とボス部31との接続部分において、環状の窪み3aを有する。円盤部32の前面は、窪み3aより径方向外側に、環状摺動面32aを有する。環状摺動面32aは、筒状摺動面31aの径方向外側で且つ筒状摺動面31aより前方にある。環状摺動面32aと筒状摺動面31aは、窪み3aを介して接続される。環状摺動面32aは、前方を向いており、押さえ部材5の後面と対向とする。環状摺動面32aは、平坦であって、軸Rに直交している。環状摺動面32aと押さえ部材5の後面との間には、環状隙間11が形成される。環状隙間11の前後方向の長さは、径方向に関して一定である。
【0034】
プーリ支持部33は、円盤部32の外縁部の周方向一部から張り出すように形成されている。プーリ支持部33は、プーリ4を回転自在に支持する。プーリ4には、伝動ベルトBが巻き掛けられる。伝動ベルトBの張力の増減に伴って、プーリ4(およびアーム3)は、軸Rを揺動中心として揺動する。なお、
図1中、プーリ4の内部構造は省略して表示している。
【0035】
摺動部材6およびダンピング部71は、合成樹脂製であって、射出成形により形成される。摺動部材6およびダンピング部71の主成分となる合成樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポロフェニレンサルファイド、超高分子量ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、または、フェノール等の熱硬化性樹脂が用いられる。摺動部材6およびダンピング部71は、固体潤滑剤が配合されていてもよく、配合されていなくてもよい。摺動部材6およびダンピング部71は、補強用の繊維が配合されていてもよく、配合されていなくてもよい。摺動部材6およびダンピング部71の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。摺動部材6は、ダンピング部71よりも低摩擦係数の表面特性を有する材料で形成されていてもよい。
【0036】
図1および
図3に示すように、摺動部材6は、筒状摺動部61と、板状摺動部62と、複数の連結部63とを有する。筒状摺動部61は、筒状隙間10に配置される。筒状摺動部61は、略円筒状に形成されている。筒状摺動部61の内周面および外周面は、テーパー状に形成されている。軸Rに沿った断面において、筒状摺動部61の内周面と外周面のなす角度は、軸部22の外周面とボス部31の筒状摺動面31aのなす角度と同じである。筒状摺動部61は、軸部22の外周面およびボス部31の筒状摺動面31aに面接触して摺動する。筒状摺動部61は、滑り軸受として機能する。より詳細には、筒状摺動部61は、ラジアル荷重(回転体の軸方向に直交する方向の荷重)を受けるラジアル滑り軸受として機能する。アーム3のボス部31は、筒状摺動部61を介して、ベース2の軸部22に回転可能に支持される。
【0037】
板状摺動部62は、環状隙間11に配置される。板状摺動部62は、筒状摺動部61の径方向外側で且つ前方に位置する。板状摺動部62は、環状の板状に形成されている。板状摺動部62の厚みは、均一である。板状摺動部62は、押さえ部材5およびボス部31の環状摺動面32aに面接触して摺動する。板状摺動部62は、滑り軸受として機能する。より詳細には、板状摺動部62は、スラスト荷重(回転体の軸方向の荷重)を受けるスラスト滑り軸受として機能する。アーム3は、押さえ部材5および板状摺動部62を介して、ベース2の軸部22に回転可能に支持される。よって、アーム3は、摺動部材6を介して、ベース2と押さえ部材5に回動自在に支持される。
【0038】
複数の連結部63は、筒状摺動部61の前端部と板状摺動部62とを連結する。連結部63は、筒状摺動部61の前面の外周側の端部と、板状摺動部62の内周面の後端に接続されている。
図4に示すように、連結部63の数は3つである。複数の連結部63は、周方向に等間隔で配置される。各連結部63は、矩形状のシート状であって、軸R方向に見て周方向両端が径方向に延びている。連結部63の厚みは、均一である。連結部63の厚みは、筒状摺動部61の径方向の最小厚み、および、板状摺動部62の前後方向の厚みのいずれより薄い。連結部63の厚みは、例えば0.1mm以上1mm以下程度であってもよい。複数の連結部63は、オートテンショナ1に組み込まれていない状態の摺動部材6に、筒状摺動部61の軸R方向の圧縮力を付与した場合に、撓み変形できるように構成されている。複数の連結部63は、概ね5Nの圧縮力を受けた場合に撓み変形可能な靱性と可撓性を有することが好ましい。
複数の連結部63は、オートテンショナ1に組み込まれる前の外力を受けていない状態の摺動部材6が、どのような向きに配置されても、板状摺動部62の中心軸と筒状摺動部61の中心軸が一致する状態を維持できる程度の剛性を有する。それにより、摺動部材6をオートテンショナ1に組み込む作業を容易に行うことができる。各連結部63の幅(周方向長さ)は、特に限定されない。例えば、筒状摺動部61の前面の外周長が80mmの場合に、1つの連結部63の幅は5mm程度であってもよい。軸Rに沿った断面において、連結部63は、前方に膨らむように湾曲している。外力を受けていない状態の摺動部材6の軸Rに沿った断面において、連結部63は、全体として1つの円弧に沿っている。連結部63は、アーム3の窪み3aの前方に配置される。連結部63は、アーム3、ベース2、および押さえ部材5のいずれにも接触しない。
【0039】
摺動部材6は、以下の手順でオートテンショナ1に組み込まれる。予め、ベース2、アーム3、コイルばね8、ダンピング部材7を組み立てておく。そして、摺動部材6の筒状摺動部61を、筒状隙間10に前方から挿入する。次に、押さえ部材5を、軸部22の段差22aに嵌め込んでかしめ固定する。それにより、摺動部材6の板状摺動部62は、押さえ部材5とアーム3の環状摺動面32aとの間に配置される。かしめ力は、例えば25N程度であってもよい。
【0040】
ダンピング部材7は、アーム3のボス部31とベース2の外筒部23との間に配置される。ダンピング部材7は、径方向に若干圧縮された状態で、アーム3のボス部31とベース2の外筒部23との間に配置されていてもよい。上述したように、ダンピング部材7は、ダンピング部71と、ダンピング支持部72で構成される。ダンピング部71とダンピング支持部72とは、互いに固定されている。ダンピング部71は、上述した通り、合成樹脂製である。ダンピング支持部72は、例えば、アルミニウム合金鋳物(例えばADC12)等からなる金属部品である。なお、ダンピング支持部72は、合成樹脂製であってもよい。その場合、ダンピング支持部72の材質は、ダンピング部71と異なることが好ましい。
【0041】
図2に示すように、ダンピング支持部72は、アーム3のボス部31の外周面と係止突起34に接触する。ダンピング部材7は、係止突起34に係止されて、アーム3に対するX方向の相対移動が規制されている。ダンピング支持部72の係止突起34に接触する面を、係止面72bとする。係止面72bは、ほぼ径方向に沿っている。ダンピング支持部72の後面には、コイルばね8の前端部を保持する保持溝72aが形成されている。コイルばね8は、拡径方向にねじられた状態で配置されている。そのため、アーム2は、ダンピング支持部72を介して、コイルばね8によってX方向に回動付勢される。つまり、コイルばね8は、周方向の弾性復元力によって、ベース2に対してアーム3をX方向(即ち、プーリ4を伝動ベルトBに押し付けて伝動ベルトBの張力を増加させる方向)に、回動付勢している。アーム3が揺動したとき、ダンピング部材7はアーム3と同じ角度だけ移動する。
【0042】
図1に示すように、ダンピング部71は、湾曲部73および平坦部74で構成される。湾曲部73は、ダンピング支持部72の径方向外側に配置される。
図2に示すように、湾曲部73は、軸R方向に見て、1つの円弧に沿って形成されている。湾曲部73の径方向外側の面を、ダンピング摺動面73aとする。ダンピング摺動面73aは、外筒部23の内周面とほぼ同じ曲率に形成されている。ダンピング摺動面73aは、ベース2の外筒部23の内周面に面接触して摺動する。
【0043】
平坦部74は、湾曲部73の前端に接続されている。平坦部74は、ダンピング支持部72の前方に配置される。平坦部74は、アーム3の円盤部32の後面に面接触する。コイルばね8は、軸R方向(前後方向)に圧縮された状態で配置されている。そのため、コイルばね8は、軸R方向の弾性復元力によって、ダンピング部材7を介してアーム3を前方に押圧している。よって、摺動部材6の板状摺動部62は、アーム3の円盤部32と押さえ部材5との間に、コイルばね8の軸R方向の弾性復元力で挟まれている。
【0044】
次に、オートテンショナ1の動作について説明する。
伝動ベルトBの張力が増加した場合には、アーム3はコイルばね8の周方向の付勢力に抗して、
図5(a)に示す矢印A方向(X方向と逆方向)に回動する。そして、ダンピング部材7はアーム3の係止突起34から力を受けて矢印A方向に回動し、ダンピング部71のダンピング摺動面73aがベース2の外筒部23の内周面に対して摺動する。
【0045】
ダンピング部71のダンピング摺動面73aは、ダンピング支持部72の係止面72bよりも周方向に関してX方向と逆方向側に位置している。係止面72bがアーム3の係止突起34から受ける力Faは、係止面72bにおける接線方向の力である。よって、力Faの方向の直線上に、ダンピング摺動面73aが存在することになる。そのため、係止面72bがアーム3から受ける力Faを、ダンピング摺動面73aをベース2の外筒部23の内周面に押し付ける力に使うことができる。
【0046】
また、ダンピング部材7は、コイルばね8を拡径方向にねじり変形させたことによる弾性復元力(以下、「ねじり復元力」という。)Fsを受けている。ねじり復元力Fsは、X方向の分力Fs1と、縮径方向の分力Fs2との合力である。したがって、ダンピング部材7には、ダンピング部材7がアーム3から受けた力Faと、コイルばね8のねじり復元力Fsとの合力Frが作用する。力Faはねじり復元力Fsよりも大きいため、合力Frは径方向外向きの力となり、ダンピング部71のダンピング摺動面73aは合力Frによってベース2の外筒部23の内周面に押し付けられる。
【0047】
したがって、ダンピング部71のダンピング摺動面73aとベース2の外筒部23との間に大きい摩擦力を生じさせることができ、アーム3の揺動を十分に減衰させるような大きな減衰力を発生させることができる。
【0048】
一方、伝動ベルトBの張力が減少した場合には、コイルばね8のねじり復元力Fsにより、アーム3が
図5(b)に示す矢印B方向(X方向と同じ方向)に回動し、プーリ4がベルト張力を回復させるように揺動する。ダンピング部材7はコイルばね8からねじり復元力Fsを受けて矢印B方向に回動し、ダンピング部71のダンピング摺動面73aがベース2の外筒部23の内周面と摺動する。
【0049】
このとき、ダンピング部71は、ねじり復元力Fsの縮径方向の分力Fs2によって径方向内側に付勢されるため、ダンピング部71のダンピング摺動面73aとベース2の外筒部23の内周面との間に生じる摩擦力は、アーム3が矢印A方向に回動した場合に比べて小さい。よって、アーム3はコイルばね8のねじり復元力を十分に受けることができ、アーム3の揺動をベルト張力の減少に対して十分に追従させることができる。
【0050】
このように、ベルト張力が増加した場合と減少した場合で生じる摩擦力の大きさが異なっており、オートテンショナ1は、非対称な減衰特性(非対称ダンピング特性)を持つ。
【0051】
本実施形態のオートテンショナ1では、筒状摺動部61と板状摺動部62が連結部63によって連結されている。つまり、筒状摺動部61と板状摺動部62は、一体化されている。よって、筒状摺動部61と板状摺動部62が別部材である場合に比べて、部品点数および組み工数を減少でき、製造コストを低減できる。
【0052】
上述したように、摺動部材6は、射出成形により形成される。そのため、脱型後の成形品の収縮率のばらつきによって、摺動部材6の寸法にばらつきが生じる場合がある。例えばポリアミド樹脂で摺動部材6を形成する場合、筒状摺動部61の径方向の厚みに関する実寸法の目標寸法に対するばらつき(差異)量は、1%程度は見込む必要がある。
【0053】
以下、筒状摺動部61の径方向の厚み以外の要部の寸法が目標寸法と同じであって、筒状摺動部61の径方向の厚みに関する実寸法が目標寸法よりも1%程度大きい場合について説明する。
オートテンショナ1の組み立て時、摺動部材6の筒状摺動部61は、ベース2の軸部22とアーム3のボス部31との間に挿入される。このとき、
図6に示すように、筒状摺動部61は、筒状摺動部61の径方向の厚みが目標寸法通りの場合の筒状摺動部61の配置位置まで挿入できない。筒状摺動部61の位置が前方にずれる。それにより、板状摺動部62の位置も前方にずれる。そのため、板状摺動部62とアーム3の円盤部32との間には隙間が生じる。なお、
図6中、筒状摺動部61の径方向の厚みが目標寸法通りの場合の摺動部材6の配置位置を、二点鎖線で表示している。
【0054】
しかし、押さえ部材5を軸部22に固定する際、押さえ部材5によって板状摺動部62を後方に押圧することで、連結部63が撓み変形する。それにより、摺動部材6の前後方向長さが短くなる。詳細には、筒状摺動部61と板状摺動部62との前後方向の間隔が短くなる。それにより、板状摺動部62をアーム3の円盤部32に接触させることができる。そのため、板状摺動部62が押さえ部材5に軸R方向に過剰に押し付けられることなく、押さえ部材5を正常な位置に固定できる。したがって、板状摺動部62と押さえ部材5との間、および、板状摺動部62とアーム3の環状摺動面32aとの間に生じる摩擦力の大きさは、筒状摺動部61の径方向の厚みが目標寸法通りの場合と同じである。よって、板状摺動部62は、滑り軸受としての機能を正常に発揮することができる。
【0055】
また、押さえ部材5を軸部22に固定する際、連結部63が撓み変形することで、筒状摺動部61が軸R方向に圧縮されなくて済む。そのため、筒状摺動部61とベース2との間、および、筒状摺動部61とアーム3との間で生じる摩擦力の大きさは、筒状摺動部61の径方向の厚みが目標寸法通りの場合と同じである。よって、筒状摺動部61は、滑り軸受としての機能を正常に発揮することができる。
【0056】
また、連結部63はシート状であるため、長期間にわたって破断することなく撓み変形状態を保持することができる。よって、オートテンショナ1を長期間使用しても、筒状摺動部61が前方にずれにくい。したがって、板状摺動部62および筒状摺動部61は、長期間にわたって滑り軸受としての機能を正常に発揮することができる。
【0057】
次に、筒状摺動部61の径方向の厚み以外の要部の寸法が目標寸法と同じであって、筒状摺動部61の径方向の厚みに関する実寸法が目標寸法よりも1%程度小さい場合について説明する。
オートテンショナ1の組み立て時、摺動部材6の筒状摺動部61を、ベース2の軸部22とアーム3のボス部31との間に挿入すると、板状摺動部62がストッパーとなり、筒状摺動部61をベース2の軸部22とアーム3との間に隙間なく配置できない。よって、筒状摺動部61の内周面とベース2の軸部22との間、および、筒状摺動部61の外周面とアーム3の筒状摺動面31aとの間に、隙間が生じる。しかし、筒状摺動部61の径方向の厚みに関する実寸法の目標寸法に対するばらつき量が1%程度の場合、筒状摺動部61の内周側と外周側に生じた隙間は微小である。そのため、筒状摺動部61の内周側と外周側に生じた隙間は、筒状摺動部61の滑り軸受としての機能にほぼ影響しない。
また、板状摺動部62は押さえ部材で押圧しなくてもアーム3に接触できるため、板状摺動部62は、滑り軸受としての機能を、筒状摺動部61の径方向の厚みが目標寸法通りの場合と同様に発揮できる。
【0058】
よって、本実施形態のオートテンショナ1は、筒状摺動部61の径方向の厚みにばらつきがあっても、摺動部材6によって生じる摩擦力のばらつきを抑えて、摺動部材6が担う機能を十分に発揮させることができる。
【0059】
摺動部材6は、周方向に間隔を空けて配置された複数の連結部63を有する。この構成によると、摺動部材6が環状の1つの連結部63を有する場合に比べて、連結部63は、撓み変形が容易になる。よって、筒状摺動部61の径方向の厚みに関する実寸法が目標寸法より大きくても、押さえ部材5を軸部22に固定する際に、連結部63を確実に撓み変形させることができる。よって、摺動部材6が担う機能を十分且つ確実に発揮させることができる。
また、摺動部材6が環状の1つの連結部63を有する場合に比べて、連結部63全体の体積が少なくて済む。そのため、材料の量および成形時間を低減できるため、製造コストを低減できる。
また、連結部63の周方向の長さや数を変更することで、摺動部材6が有する連結部63全体の特性(可撓性や靱性や剛性)を調整しやすい。
【0060】
軸Rに沿った断面において、連結部63は、前方に膨らむように湾曲している。この構成によると、例えば、軸Rに沿った断面において、連結部63が直線状に形成されている場合に比べて、軸R方向の外力により連結部63に発生する内部応力(歪み)が、連結部63の特定部分に偏ることなく連結部63の全体に略均等に分散され易い。そのため、連結部63は撓み変形が容易になるとともに、連結部63の破断をより抑制できる。連結部63の撓み変形が容易になることで、筒状摺動部61の径方向の厚みに関する実寸法が目標寸法より大きくても、摺動部材6が担う機能を十分且つ確実に発揮させることができる。また、連結部63の破断を抑制できることで、筒状摺動部61の径方向の厚みに関する実寸法が目標寸法より大きくても、長期間にわたって、摺動部材6が担う機能を十分に発揮させることができる。
【0061】
連結部63は、アーム3、ベース2、および押さえ部材5の何れにも接触しない。そのため、アーム3が揺動したとき、連結部63は、アーム3、ベース2、および押さえ部材5の何れに対しても摺動しない。よって、連結部63の摩耗による破損を防止できる。
【0062】
次に、本発明の第2実施形態のオートテンショナ101について
図7を用いて説明する。但し、上記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0063】
第2実施形態のオートテンショナ101は、ダンピング部材7を有さない。上記第1実施形態では、摺動部材6とダンピング部71とは別部材であるが、第2実施形態では、摺動部材6の板状摺動部62が、ダンピング部として機能する。つまり、板状摺動部62が、本発明のダンピング部に相当する。
【0064】
アーム103の円盤部132の後面には、コイルばね8の前端部を保持する保持溝132bが形成されている。摺動部材6の板状摺動部62は、アーム103の円盤部132と押さえ部材5との間に、コイルばね8の軸R方向の弾性復元力で挟まれる。伝動ベルトBの張力が変化してアーム103が揺動すると、板状摺動部62は、押さえ部材5およびアーム103の円盤部132に対して摺動する。そして、板状摺動部62と押さえ部材5との間、および、板状摺動部62とアーム103の円盤部132との間で生じた摩擦力によって、アーム103の揺動は減衰される。第2実施形態のオートテンショナ101では、ベルト張力が増加した場合と減少した場合とで生じる摩擦力の大きさが同じである。オートテンショナ101は、対称な減衰特性を持つ。
【0065】
第2実施形態のオートテンショナ101において、筒状摺動部61の径方向の厚み以外の要部の寸法が目標寸法と同じであって、筒状摺動部61の径方向の厚みに関する実寸法が目標寸法よりも1%程度大きい場合について説明する。
第1実施形態と同様に、押さえ部材5を軸部22に固定する際、連結部63が撓み変形することで、板状摺動部62をアーム103の円盤部132に接触させることができる。そのため、板状摺動部62が押さえ部材5に軸R方向に過剰に押し付けられることなく、押さえ部材5を正常な位置に固定できる。したがって、板状摺動部62と押さえ部材5との間、および、板状摺動部62とアーム3の環状摺動面32aとの間に生じる摩擦力の大きさは、筒状摺動部61の径方向の厚みが目標寸法通りの場合と同じである。よって、板状摺動部62は、ダンピング部71としての機能を正常に発揮することができる。
【0066】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の第1および第2実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0067】
上記第1および第2実施形態において、押さえ部材5は、軸部22にかしめ固定される。しかし、押さえ部材5を軸部22に固定する方法はかしめでなくてもよい。例えば、軸部22にボルト挿通用の孔を設けて、押さえ部材5をボルトによって軸部22に固定してもよい。
【0068】
上記第1および第2実施形態において、アーム3は1つの部品で構成されている。しかし、アーム3は複数の部品で構成されていてもよい。上記第1および第2実施形態において、ベース2は1つの部品で構成されている。しかし、本発明において、ベース2は複数の部品で構成されていてもよい。
【0069】
上記第1および第2実施形態において、軸部22は、外周面全体がテーパー状に形成されている。しかし、軸部22の外周面は、少なくとも筒状摺動部61と接触する可能性のある部分が、テーパー状に形成されていればよい。その他の部分は、軸Rに沿ったストレート形状であってもよい。この場合、テーパー状の部分だけが、本発明の「軸部のテーパー状の外周面」に相当する。
【0070】
上記第1および第2実施形態において、アーム3の環状摺動面32aは、筒状摺動面31aの径方向外側で且つ筒状摺動面31aより前方にある。しかし、アーム3の環状摺動面32aは、筒状摺動面31aの径方向外側であれば、筒状摺動面31aの前端より後方であってもよい。
【0071】
上記第1および第2実施形態において、摺動部材6の連結部63は、軸Rに沿った断面において、前方(第1方向)に膨らむように湾曲している。しかし、本発明において、摺動部材6の連結部63は、軸Rに沿った断面において、後方(第2方向)に膨らむように湾曲していてもよい。また、摺動部材6の連結部63は、軸Rに沿った断面において、直線状に形成されていてもよい。
【0072】
上記第1および第2実施形態において、連結部63の周方向両端は、軸R方向に見て、軸Rを中心とした径方向に延びている。しかし、連結部63の周方向両端は、軸Rを中心とした径方向に対して傾斜していてもよい。
【0073】
上記第1および第2実施形態において、連結部63の数は、3つである。しかし、連結部63の数は、2つであっても、4つ以上であってもよい。また、摺動部材6は、環状の連結部を1つだけ有していてもよい。
【0074】
上記第1および第2実施形態において、複数の連結部63は、等間隔に配置されている。しかし、連結部63の数が4つ以上の場合、複数の連結部63の間隔は、等間隔でなくてもよい。例えば、狭い間隔と広い間隔が周方向に交互に並ぶように、複数の連結部63は配置されていてもよい。
【0075】
上記第1および第2実施形態において、連結部63の厚みは均一である。しかし、連結部63は、筒状摺動部61に連結される端部の厚みが、径方向の中央部の厚みより厚くてもよい。また、連結部63は、板状摺動部62に連結される端部の厚みが、径方向の中央部の厚みより厚くてもよい。但し、連結部63の厚みは滑らかに変化し、連結部63には段差が生じないことが好ましい。連結部63は、筒状摺動部61および板状摺動部62に連結される端部の厚みが、径方向の中央部の厚みよりも厚いことにより、連結部63を撓み変形させても破断しにくくなる。
【0076】
上記第1および第2実施形態において、板状摺動部62の前面および押さえ部材5の後面は、軸Rに対して直交している。しかし、板状摺動部62の前面および押さえ部材5の後面は、軸R方向に対して傾斜していてもよい。また、上記第1および第2実施形態において、板状摺動部62の後面およびアーム3の環状摺動面32aは、軸Rに対して直交している。しかし、板状摺動部62の後面およびアーム3の環状摺動面32aは、軸R方向に対して傾斜していてもよい。また、板状摺動部62の前面と後面は、平行でなくてもよい。
【0077】
上記第1および第2実施形態において、筒状摺動部61の外周面およびアーム3の筒状摺動面31aは、前後方向(軸Rと平行な方向)に対して傾斜している。しかし、筒状摺動部61の外周面およびアーム3の筒状摺動面31aは、前後方向に沿っていてもよい。
【0078】
ダンピング部71のダンピング摺動面73aは、軸R方向に見て円弧状の1つの面で構成されている。しかし、ダンピング摺動面73aは、周方向に離れた複数の面で構成されていてもよい。この場合、ダンピング部71は、複数の部品で構成されていてもよい。
【0079】
上記第1実施形態では、ダンピング部材7はダンピング部71とダンピング支持部72の2つの部品で構成されているが、ダンピング部材7は1つの部品で構成されていてもよい。この場合、ダンピング部材7の材質は、第1実施形態のダンピング部71と同じとする。また、この場合、ダンピング部材7が、本発明のダンピング部に相当する。
【0080】
上記第1実施形態において、摺動部材6と別個に設けられるダンピング部71は、アーム3に係止され、ベース2に対して摺動する。しかし、本発明において、摺動部材と別個に設けられるダンピング部は、ベースに係止され、アームに対して摺動してもよい。
【0081】
上記第2実施形態では、摺動部材6と別箇のダンピング部が設けられず、摺動部材6の板状摺動部62がダンピング部として機能し、筒状摺動部61は滑り軸受として機能する。
しかし、本発明では、摺動部材と別箇のダンピング部が設けられない場合、摺動部材の筒状摺動部がダンピング部として機能し、板状摺動部が滑り軸受として機能してもよい。この場合、オートテンショナは、対称な減衰特性を持つ。また、この場合、例えば、筒状摺動部は、板状摺動部を形成させる樹脂材料(例えば主成分がポリアミド)よりも高摩擦係数の表面特性を有する樹脂材料(例えば主成分がポリフェニレンサルファイド)で形成されるように構成するとよい。この場合、摺動部材は、2種類の樹脂材料を用いる2色成形法による射出成形で、一体に形成される。また、この場合、ベース2に対してアームを一方向に回動付勢するコイルばねは、板状摺動部に軸方向の付勢力を作用させないことが好ましい。
【0082】
また、本発明では、摺動部材と別箇のダンピング部が設けられない場合、摺動部材の筒状摺動部と板状摺動部の両方がダンピング部として機能してもよい。この場合、オートテンショナは、対称な減衰特性を持つ。また、この場合、ダンピング部(筒状摺動部と板状摺動部の両方)は、比較的高摩擦係数の表面特性を有する樹脂材料(例えば主成分がポリフェニレンサルファイド)で形成されるように構成するとよい。また、この場合、ベースに対してアームを一方向に回動付勢するコイルばねは、板状摺動部で生じる摩擦力を増大させるために、板状摺動部に軸方向の付勢力を作用させることが好ましい。
【0083】
また、本発明では、摺動部材と別箇の第1ダンピング部を設けつつ、摺動部材の板状摺動部を第2ダンピング部として機能させ、摺動部材の筒状摺動部を滑り軸受として機能させてもよい。この場合、第1ダンピング部と第2ダンピング部とによって、本発明のダンピング部が構成される。また、この場合、例えば、第1ダンピング部は、実施形態1のダンピング部71と同じ構成とし、第2ダンピング部(板状摺動部)は、筒状摺動部を形成させる樹脂材料(例えば主成分がポリアミド)よりも高摩擦係数の表面特性を有する樹脂材料(例えば主成分がポリフェニレンサルファイド)で形成されるように構成するとよい。この場合、摺動部材は、2種類の樹脂材料を用いる2色成形法による射出成形で、一体に形成される。また、この場合、ベースに対してアームを一方向に回動付勢するコイルばねは、板状摺動部で生じる摩擦力を増大させるために、板状摺動部に軸方向の付勢力を作用させることが好ましい。
【0084】
また、本発明では、摺動部材と別箇の第1ダンピング部を設けつつ、摺動部材の筒状摺動部を第2ダンピング部として機能させ、摺動部材の板状摺動部を滑り軸受として機能させてもよい。この場合、第1ダンピング部と第2ダンピング部とによって、本発明のダンピング部が構成される。また、この場合、例えば、第1ダンピング部は、実施形態1のダンピング部71と同じ構成とし、第2ダンピング部(筒状摺動部)は、板状摺動部を形成させる樹脂材料(例えば主成分がポリアミド)よりも高摩擦係数の表面特性を有する樹脂材料(例えば主成分がポリフェニレンサルファイド)で形成されるように構成するとよい。この場合、摺動部材は、2種類の樹脂材料を用いる2色成形法による射出成形で、一体に形成される。また、この場合、ベースに対してアームを一方向に回動付勢するコイルばねは、板状摺動部に軸方向の付勢力を作用させないことが好ましい。
【0085】
また、本発明では、摺動部材と別箇の第1ダンピング部を設けつつ、摺動部材の筒状摺動部と板状摺動部の両方を第2ダンピング部として機能させてもよい。この場合、第1ダンピング部と第2ダンピング部とによって、本発明のダンピング部が構成される。また、この場合、例えば、第1ダンピング部は、実施形態1のダンピング部71と同じ構成とし、第2ダンピング部(筒状摺動部と板状摺動部の両方)は、比較的高摩擦係数の表面特性を有する樹脂材料(例えば主成分がポリフェニレンサルファイド)で形成されるように構成するとよい。また、この場合、ベースに対してアームを一方向に回動付勢するコイルばねは、板状摺動部で生じる摩擦力を増大させるために、板状摺動部に軸方向の付勢力を作用させることが好ましい。