(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分を強調する目的で、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、同様の目的で、特徴とならない部分を省略して図示している場合がある。
【0027】
<第1実施形態>
[熱交換器]
図1および
図2は、実施形態の熱交換器80の概略図である。
熱交換器80は、冷媒を通過させるチューブとして伝熱管81を蛇行させて設け、この伝熱管81の周囲に複数のアルミニウム製の放熱板82を平行に配設した構造である。伝熱管81は、平行に配設した放熱板82を貫通するように設けた複数の挿通孔を通過するように設けられている。
【0028】
熱交換器80において伝熱管81は、放熱板82を直線状に貫通する複数のU字状の主管81Aと、隣接する主管81Aの隣り合う端部開口同士をU字形のエルボ管81Bで接続してなる。また、放熱板82を貫通している伝熱管81の一方の端部側に冷媒の入口部87aが形成され、伝熱管81の他方の端部側に冷媒の出口部87bが形成されることで熱交換器80が構成されている。
【0029】
図3は、伝熱管81の拡管工程を示す図である。
以下、本明細書において、拡管前の伝熱管を単に伝熱管10と呼び拡管後の伝熱管を拡張管81と呼び、その用語を使い分けるものとする。
図3に示す拡管工程は、所定間隔に平行に並設する複数の放熱板82に形成された挿通孔82aに伝熱管10を通した状態で、伝熱管10に拡管プラグ90を挿入して拡管し伝熱管10の外周を放熱板82の挿通孔82aのフィン3の頂面に密着させて熱交換器を製造する方法である。
【0030】
拡管プラグ90は、軸部92とその先端側に一体形成されたヘッド部93とからなる。ヘッド部93は、砲弾形状をなして軸部92より径が大きくなるように膨出形成されている。ヘッド部93の最大直径は伝熱管10のフィン3の頂点を結ぶ円の直径より大きく形成されている。
【0031】
拡管プラグ90を用いた拡管工程は、以下の手順で行われる。
まず、アルミニウム製の放熱板82を複数重ねて放熱板集合体86を構成する。それぞれの放熱板82には、互いに重ねられた時に一直線上に並ぶように挿通孔82aが形成されている。
【0032】
また、予め伝熱管10をU字状に曲げてヘアピンパイプを構成しておく。これにより伝熱管10の開口部10cは、一側にそろえられ他側にU字部10dが形成される。この
ヘアピンパイプ(伝熱管10)を必要本数だけ放熱板集合体16の挿通孔82aに挿通する。各伝熱管10の開口部10cは放熱板集合体86の一側に揃えておく。
【0033】
この状態において各伝熱管10の開口部10cから拡管プラグ90を強制的に押し込む。これによって、開口部10cから順にヘッド部93の外周面に沿って伝熱管10の拡管が行われる。拡管プラグ90のヘッド部93は、伝熱管10のU字部10d近傍に到達するまでヘッド部93を強制的に押込まれる。これにより、拡管プラグ90のヘッド部93が伝熱管10を径方向外側に押し広げ塑性変形させ拡張管81が形成される。拡張管81は、放熱板82の挿通孔82aを押し広げて結合する。最後に、拡管プラグ90を拡張管81から引き抜くことで拡管工程が完了する。
【0034】
[伝熱管]
次に上述の熱交換器80の製造に用いられる拡管前の伝熱管10について具体的に説明する。
図4は第1実施形態の伝熱管10の横断面図であり、
図5は縦断面図である。また、
図6は、伝熱管10の側面図である。
【0035】
伝熱管10は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いることができる。伝熱管10にアルミニウム合金を用いる場合は、そのアルミニウム合金に特に制限はなく、JISで規定される1050、1100、1200等の純アルミニウム系、あるいは、これらにMnを添加した3003に代表される3000系のアルミニウム合金等を適用できる。また、これら以外にJISに規定されている5000系〜7000系のアルミニウム合金のいずれかを用いて伝熱管10を構成しても良い。なお、本明細書において「アルミニウム」とは、アルミニウム合金および純アルミニウムからなるものを包含する概念とする。
【0036】
図4に示すように、伝熱管10は、横断面の外形状が円形の管材である。伝熱管10の外周面10aには、Zn濃度が比較的高い一対の高Zn領域7と、Zn濃度が比較的低い一対の低Zn領域8と、が設けられている。外周面10aにおいて高Zn領域7と低Zn領域8とは、周方向に沿って交互に設けられている。
また、
図6に示すように、外周面10aにおいて、高Zn領域7は、長手方向に沿って螺旋状に設けられている。高Zn領域7において、Znは伝熱管10の外周面10aから径方向内側に向かって拡散してZn拡散層6を形成する。上述したように高Zn領域7は、長さ方向に螺旋状に、周方向に間隔をあけて筋状に形成されている。したがって、Zn拡散層6も同様に、外周面10aの長手方向に沿って螺旋を描きながら筋状に形成されている。
【0037】
Zn拡散層を形成するには、伝熱管または伝熱管の基となる素管の表面にZn溶射によりZnを溶着させた後に拡散熱処理を行なうのが好ましい。しかし、伝熱管では溶射法では伝熱管の外周面の一部にZnが付着しない未溶射部が発生する。特にエアコン用の伝熱管として最適な外径(直径)が4mm以上15mm以下の伝熱管においてこのZnが存在しない部位の耐食性をいかに確保するかが重要となる。そこで、伝熱管10の外周面10aのZn被覆率や濃度、拡散深さなどを最適化することを検討した。その結果、外径が4mm以上15mm以下の伝熱管10において外周面10aのZn被覆率が50%以上かつ外周面10aの平均Zn濃度が3.0質量%以上12.0質量%以下で、更に外周面10aからの0.3%Zn濃度のZn拡散層6の深さが80μm以上285μm以下の範囲とし、更に、円周方向に2つ以上の帯状に分布するZn拡散層6のリード角が8°以上と螺旋状化していれば十分な耐孔食性が確保できることを見出した。
すなわち、本実施形態の伝熱管10は、長さ方向に沿って螺旋状に形成された筋状のZn拡散層6が設けられている。伝熱管10は、外周面10aの50%以上の領域にZn拡散層6が設けられている。伝熱管10は、外周面10aの全体の平均Zn濃度が3質量%以上12質量%以下である。伝熱管10は、外周面10aの周方向に沿う一部位の最大Zn濃度が15%以下である。伝熱管10は、0.3%Zn濃度の平均拡散深さが、80μm以上285μm以下である。伝熱管10は、螺旋状に形成されたZn拡散層6のリード角が、8°以上である。さらに、伝熱管10は、外径が4mm以上15mm以下であり、底肉厚が0.2mm以上0.8mm以下である。
【0038】
図4および
図5に示すように、伝熱管10の内周面10bには、長さ方向に沿って螺旋状に形成された複数のフィン(螺旋フィン)3が設けられている。また、フィン3の間には、螺旋溝4が形成されている。本実施形態において、フィン3は、例えば30個〜60個設けられている。フィン3の高さ(すなわち半径方向の寸法)は、0.1mm以上0.3mm以下である。また、伝熱管10の底肉厚d(すなわち、螺旋溝4の底部に対応する伝熱管10の厚さ)は、0.2mm以上0.8mm以下である。フィン3の頂角(フィン3の側面同士のなす角)は、10°以上30°以下である。
【0039】
後段において説明するように、本実施形態の伝熱管10は、直線状に形成したフィン3とZn拡散層6とを備える素管10B(
図7参照)に捻り加工を付与することにより形成されている。したがって、螺旋状のZn拡散層6およびフィン3の螺旋ピッチは、一致する。また、
図5に示すように、フィン3はリード角θ1の螺旋状に形成されている。一方で、
図6に示すように、Zn拡散層6は、リード角θ2の螺旋状に形成されている。αを内周長とし、βを底肉厚としたとき、フィン3のリード角θ1とZn拡散層6のリード角θ2は、以下の関係を満たす。
【0041】
上述したように、Zn拡散層6のリード角θ2は、8°以上である。Zn拡散層6のリード角θ2を8°未満とすると、伝熱管10の外周面10
aの長さ方向において、互いに隣り合うZn拡散層6同士の距離が大きくなり、十分な耐食性を得ることができない場合がある。本実施形態によれば、Zn拡散層6のリード角θ2を8°以上とすることで、長さ方向に並ぶZn拡散層6同士を十分に近接させて高い耐食性を有する伝熱管10を提供できる。
なお、Zn拡散層6のリード角θ2は、筋状に延びるZn拡散層6の幅方向の平均的な中心線L6のリード角θ2として把握される。
【0042】
高Zn領域7およびその径方向内側に形成されるZn拡散層6は、後段に説明するように伝熱管10の表面にZnを溶射し、さらに熱処理によりZnを拡散させることで形成される。Zn拡散層6の孔食電位は、Znが拡散していない伝熱管10の内周面10b、並びに外周面10aにおいてZn拡散層6が形成されない領域より卑となる。したがって、Znが拡散した部分(Zn拡散層6)は管材に対して犠牲陽極層として働き、孔食が生じることを防ぎ管材全体の寿命を長くする。
【0043】
次に、Zn拡散層6の各構成についてより詳細に説明する。
(i)Zn被覆率
伝熱管10は、外周面10aの50%以上の領域にZn拡散層6が設けられている。すなわち、Zn拡散層6の被覆率は、50%以上である。
上述したように伝熱管10のZn拡散層6は、犠牲材として作用し、Zn未溶射部の防食や伝熱管10の内部への孔食の進行を抑制する。外周面10aのZn被覆率が50%を下回る場合は伝熱管を防食することが困難となり、深い孔食が発生する。被覆率50%の見極めは、Zn拡散層6を有した伝熱管を10%硝酸水溶液に10S浸漬させ、取出し洗浄した後に、拡散部の円周方向長さを計測し求めることができる。拡散部は硝酸水溶液との反応で黒色に変色し、目視による見極めが容易である。
【0044】
(ii)最大Zn濃度および平均Zn濃度
伝熱管10の外周面10aの平均Zn濃度は、3.0質量%以上12.0質量%以下とする。平均Zn濃度が3.0質量%未満では防食効果が小さく、伝熱管10に短期間で貫通孔が発生するおそれがある。一方、平均Zn濃度が12.0質量%を超えると腐食速度が増大し、伝熱管の肉厚低下が問題となる。ここで、Zn濃度が高い部位は上記のように腐食速度が増大する。したがって、周方向における最大Zn濃度をなるべく低くし、最大Zn濃度を15.0%以下にすることが腐食速度の増大を防止する上で好ましい。
なお、低Zn領域8における最大表面Zn濃度は、3.0質量%未満であり0%であることが最も好ましい。すなわち、本明細書において、伝熱管10の外周面10aのうち、Zn濃度が3.0質量%以上の領域を高Zn領域7と呼び、3.0質量%未満の領域を低Zn領域8と呼ぶ。
【0045】
外周側表面最大Zn濃度および平均Zn濃度は、以下のようにして求めることができる。
先ずは、ニッパで適当な長さの伝熱管の長手方向にカットし、カット面から材料を開いて展開し、プレスで水平に潰して板状にする。その後に、押出方向に垂直な断面が計測面になるように板状のサンプルをたてて樹脂埋めし、エメリー♯1000までで研磨した後に、バフ研磨で仕上げる。Zn濃度の測定はEPMA(Electron Probe Microanalyzer)分析機を用い、先ほどの計測面について等間隔に72等分し、それぞれの伝熱管外周側の表層から内周側にむけて線分析し、5μmピッチで70点のAl強度とZn濃度を計測する。線分析は電流50nA、加速電圧20kV、測定時間50msecで行う。
得られた各測定位置のデータから、Al強度が1000を超えた箇所を伝熱管表層部とし、最大Zn濃度とする。また、それらの円周方向72点の平均値を平均Zn濃度とする。
【0046】
(iii)0.3%Zn濃度拡散深さ
Zn拡散処理を実施することで、Znが存在しない部位の面積率を低下させ、表面Zn濃度の均一化を図るとともに、表面Zn濃度低下により腐食速度も低減して、長期間耐食性を確保する効果が得られる。
【0047】
Zn拡散層6は、外周面10aから径方向内側に向かってZnがアルミニウムに拡散する層である。Zn拡散層6においてZnの濃度は、外周面10a側から深部に向かうに従い徐々に低下する。Zn拡散層6の0.3%Zn拡散深さは、80μm以上285μm以下とすることが好ましい。すなわち、0.3%以上Znが拡散してる領域は、外周面10aから深さ80μm以上285μm以下の領域とすることが好ましい。0.3%Zn拡散深さが80μm以上285μm以下とすることで、腐食速度を十分に低下させることができる。
【0048】
表層からの0.3%Zn拡散深さの計測は以下の方法で行なう。
平均Zn濃度の計測と同様に分析を実施した後、得られた各測定位置のデータから、Al強度が1000を超えた箇所を伝熱管表層部とし、表層部から内周側深さ方向にZn濃度を計測する。そして、0.3%Zn濃度の位置の深さを円周方向に調べ平均化した。伝熱管表面からの0.3%Zn濃度の拡散層の深さが80μm未満だと、早期に拡散層が消耗してしまい、伝熱管を長期に防食することができない。一方、Zn拡散層6の深さが285μmを超えると、Zn拡散層6を除く伝熱管母材に対して電位が卑なZn拡散層6が、母材よりも優先的に腐食してしまう。そのため、伝熱管の肉厚が減少し、伝熱管の強度低下が問題となる。したがって、本発明における伝熱管表面からの0.3%Zn濃度の拡散層の深さは、80μm以上285μm以下とする。
【0049】
本実施形態の伝熱管10は、Zn拡散層6が螺旋状に形成されている。一般的に、また、伝熱管が熱交換器に組まれ使用される際、伝熱管が水平方向に配置される場合や傾斜して配置される場合は、雨水や結露水がたれて管の下側に溜りやすくなる。本実施形態によれば、伝熱管10の外周面10aにおいて、Zn拡散層6が、長手方向に沿って一定間隔で断続的に配置される。したがって、雨水や結露水が、外周面10aの周方向の一部位に集中して溜る場合であっても、十分な耐食性を得ることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、拡管後の拡張管81により結合された放熱板82同士が密着するアベック現象や放熱板82同士の間の間隙が不均一となる乱れ現象を抑制することが可能となる。伝熱管10を構成するアルミニウム材料は、Zn拡散層6においてZnが拡散することで、引張強さが10〜20MPa程度高くなる。このため拡管工程において、Zn拡散層6が形成された部分が、他の部分と比較して変形し難くなる。本実施形態によれば、Zn拡散層6が設けられていることで拡管工程を行った際に変形し難い部分が螺旋状に形成される。これにより、拡管工程を行うことでZn拡散層6が一方向に偏って変形することを抑制できる。本実施形態によれば、拡管後の拡張管81により結合された放熱板82同士が密着するアベック現象や放熱板82同士の間の間隙が不均一となる乱れ現象を抑制することが可能となる。
【0051】
本実施形態によれば、伝熱管10の内周面10bに長さ方向に沿って螺旋状に形成された複数のフィン3が設けられている。内周面10bに螺旋状のフィン3を形成することにより、伝熱管10とその内部を流れる冷媒液との熱交換効率を高めることができる。螺旋状のフィン3を備えた伝熱管10は、押出加工により長さ方向に直線状に延びるフィンを形成した素管10Bに捻りを付与することで形成できる。また、捻りを付与する工程の前に、長さ方向に直線的な筋状に延びるZn溶射を行うことで、捻りを付与した後に、螺旋状のZn拡散層6を容易に形成することができる。
【0052】
[製造方法]
以下、本願発明に係る伝熱管10の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。伝熱管10の製造方法は、押出成形工程と、Zn溶射工程と、Zn拡散工程と、捻り工程と、O材化工程と、を含む。なお、Zn拡散工程とO材化工程は、一度の熱処理工程において同時に行ってもよい。
以下、各工程の詳細を説明する。
【0053】
<押出成形工程>
まず、押出成形工程について説明する。
図7は、押出成形工程により成形された素管(直線溝付管)10Bの縦断面図である。素管10Bは、アルミニウム合金ビレットを半連続鋳造法によって作製し、熱間押出を行なうことで製造される。押出性の向上のためにビレットの均質化処理を行うことが好ましいが、実施可否を問わず、耐食性は良好な結果が得られる。なお、熱間押出前にビレットを加熱する工程は均質化処理を兼ねているとみなすことができる。押出される素管の内面には直溝を有している。
図7に示すように、内面に長さ方向に沿う複数の直線溝4Bが周方向に間隔をおいて形成された素管10Bを製造(直線溝付管押出工程)する。
【0054】
<Zn溶射工程>
次に、Zn溶射工程について説明する。伝熱管の外表面へZn層を形成するには、Zn溶射を採用できる。Zn溶射の工程は、素管10Bを押出成型した際の加工熱を利用し、押出成型直後の高温の素管10Bに対してZnを溶射して表面に固着させることが好ましい。Znの溶射後に、素管はコイル状に巻き取られる。
【0055】
図8は、Zn溶射工程を示す概略図である。
図8に示すように、Zn溶射工程では、素管10Bをその長手方向に送りながら、素管10Bを径方向両側から挟むように配置された二つのガンGNを用いて、Znを溶射する。これにより、素管10Bの外周面には、長さ方向に沿って直線的な筋状にZn溶射が行われる。Zn溶射工程において、Znの溶射が行われた素管10Bの表面(ガンGNと対向する表面)が伝熱管10の高Zn領域7となる。また、Zn溶射が行われなかった素管10Bの表面が伝熱管10の低Zn領域8となる。すなわち、素管10Bの外周面において、Znの溶射方向と接線が略平行となる部位には、Zn付着量が少なくなり、未溶射層が形成される。この部位にもZnを付着させるためには、Znの溶射方向を左右方向とすればよいが、前述のようにZnの使用量および溶射ロスが増大し、さらなるコストアップの原因となる。したがって、少ないZn溶射量でも最大限の効果が得られるZn分布状態に制御することが望ましい。なお、Zn溶射法としては、一般的な線爆溶射法が適しているが、火炎溶射法、プラズマ溶射法、アーク溶射法なども適用できる。
【0056】
<Zn拡散工程>
次に、Zn拡散工程について説明する。
Zn拡散工程は、素管10Bの外周面にZn溶射工程により溶射されたZnを素管10Bの厚さ方向に拡散させる熱処理工程である。Zn拡散層の深さは加熱温度と保持時間によって変化する。生産性およびロット間の温度のバラツキ等を考慮し、最適な条件を設定することが必要となる。Zn拡散処理の加熱温度は350℃以上550℃以下の範囲が望ましい。350℃未満ではZnの拡散が十分に行われず、550℃を超えるとZn付着量が多い部位が局部溶融し、拡散深さの制御が困難となるからである。保持時間は目標とする拡散層の深さによって変化させるが、上記加熱温度で80〜285μmのZn拡散層の深さを得るには、0.5〜12時間保持する。Zn拡散処理の際の昇温は、伝熱管本体の均熱がある程度得られるように、200℃/hr以下の速度で行うことが好ましい。また、Zn拡散処理後の冷却は、粒腐食抑制のため加熱温度から300℃までは、50℃/hr以上でできるだけ速やかに行なうことが好ましい。なお、Zn拡散処理は捻り加工の後に行っても良い。
【0057】
<捻り工程>
次に、捻り工程について説明する。
捻り工程は、引抜きを行いながら上述の素管10Bに捻りを付与することで、Zn拡散層6、フィン3Bおよび直線溝4Bを螺旋状とする工程である。
【0058】
なお、本明細書において、捻りを付与する前の管材(すなわち上述の素管10B)を「直線溝付管」と呼ぶ。また、捻りを付与した後の管材(すなわち上述の伝熱管10)を「内面螺旋溝付管」と呼ぶ。また、直線溝付管から内面螺旋溝付管に至る過程において、内面螺旋溝付管と比較して半分程度の捻りが付与された中間形成品を「中間捻り管」と呼ぶ。更に、本明細書の「管材」とは、直線溝付管、中間捻り管および内面螺旋溝付管の上位概念であり、製造工程の段階を問わず、加工対象となる管を意味する。
本明細書において、「前段」および「後段」とは、管材の加工順序に沿った前後関係(すなわち、上流および下流)を意味し、装置内の各部位の配置を意味するものではない。
管材は内面螺旋溝付管の製造装置において、前段(上流)側から後段(下流)側に搬送される。前段に配置される部位は、必ずしも前方に配置されるとは限らず、後段に配置される部位は、必ずしも後方に配置されるとは限らない。
【0059】
<捻り工程を行う製造装置>
図9は、直線溝付管(素管)10Bに2回の捻りを付与して内面螺旋溝付管(伝熱管)10を製造する製造装置Mを示す正面図である。まず、製造装置Mについて説明した後に、製造装置Mを用いた捻り工程について説明する。
【0060】
製造装置Mは、公転機構30と、浮き枠34と、巻き出しボビン(第1のボビン)11と、第1のガイドキャプスタン18と、第1の引抜きダイス1と、第1の公転キャプスタン21と、公転フライヤ23と、第2の公転キャプスタン22と、第2の引抜きダイス2と、第2のガイドキャプスタン61と、巻き取りボビン(第2のボビン)71と、を備える。
以下、各部の詳細について詳細に説明する。
【0061】
(公転機構)
公転機構30は、前方シャフト35Aおよび後方シャフト35Bを含む回転シャフト35と、駆動部39と、前方スタンド37Aと、後方スタンド37Bと、を有している。
公転機構30は、回転シャフト35並びに、回転シャフト35に固定された第1の公転キャプスタン21、第2の公転キャプスタン22および公転フライヤ23を回転させる。
また、公転機構30は、回転シャフト35と同軸上に位置し回転シャフト35に支持される浮き枠34の静止状態を維持する。これにより、浮き枠34に支持された巻き出しボビン11、第1のガイドキャプスタン18および第1の引抜きダイス1の静止状態を維持する。
【0062】
前方シャフト35Aおよび後方シャフト35Bは、ともに内部が中空の円筒形状を有する。前方シャフト35Aと後方シャフト35Bは、ともに公転回転中心軸C(第1引抜ダイスのパスライン)を中心軸とする同軸上に配置されている。前方シャフト35Aは、前方スタンド37Aに軸受36を介し回転自在に支持され、前方スタンド37Aから後方(後方スタンド37B側)に向かって延びている。同様に、後方シャフト35Bは、後方スタンド37Bに軸受を介し回転自在に支持され、後方スタンド37Bから前方(前方スタンド37A側)に向かって延びている。前方シャフト35Aと後方シャフト35Bとの間には、浮き枠34が架け渡されている。
【0063】
駆動部39は、駆動モータ39cと直動シャフト39fとベルト39a、39d、プーリ39b、39eとを有している。駆動部39は、前方シャフト35Aおよび後方シャフト35Bを回転させる。
駆動モータ39cは、直動シャフト39fを回転させる。直動シャフト39fは、前方スタンド37Aおよび後方スタンド37Bの下部において前後方向に延びている。
前方シャフト35Aの前方の端部35Abは、前方スタンド37Aを貫通した先端にプーリ39bが取り付けられている。プーリ39bは、ベルト39aを介し直動シャフト39fと連動する。同様に、後方シャフト35Bの後方の端部35Bbは、後方スタンド37Bを貫通した先端にプーリ39eが取り付けられ、ベルト39dを介し直動シャフト39fと連動する。これにより、前方シャフト35Aおよび後方シャフト35Bは、公転回転中心軸Cを中心に同期回転する。
【0064】
回転シャフト35(前方シャフト35Aおよび後方シャフト35B)には、第1の公転キャプスタン21、第2の公転キャプスタン22および公転フライヤ23が固定されている。回転シャフト35が回転することで、回転シャフト35に固定されたこれらの部材は、公転回転中心軸Cを中心に公転回転する。
【0065】
(浮き枠)
浮き枠34は、回転シャフト35の前方シャフト35Aおよび後方シャフト35Bの互いに向かい合う端部35Aa、35Baに軸受34aを介し支持されている。また、浮き枠34は、巻き出しボビン11、第1のガイドキャプスタン18および第1の引抜きダイス1を支持する。
【0066】
図10は、
図9における矢印X方向から見た浮き枠34の平面図である。
図9、
図10に示すように、浮き枠34は、上下に開口する箱形状を有する。浮き枠34は、前後に対向する前方壁34bおよび後方壁34cと、左右に対向するとともに前後方向に延びる一対の支持壁34dと、を有する。
【0067】
前方壁34bおよび後方壁34cには貫通孔が設けられ、それぞれ前方シャフト35Aおよび後方シャフト35Bの端部35Aa、35Baが挿入されている。端部35Aa、35Baと前方壁34bおよび後方壁34cの貫通孔との間には、軸受34aが介在する。これにより、浮き枠34には、回転シャフト35(前方シャフト35Aおよび後方シャフト35B)の回転が伝達され難い。浮き枠34は、回転シャフト35が回転状態にあっても地面Gに対する静止状態を保つ。なお、公転回転中心軸Cに対し浮き枠34の重心を偏らせる錘を設けて浮き枠34の静止状態を安定させてもよい。
【0068】
図10に示すように、一対の支持壁34dは、巻き出しボビン11、第1のガイドキャプスタン18および第1の引抜きダイス1を左右方向(
図10紙面中の上下方向)両側に配置されている。一対の支持壁34dは、巻き出しボビン11を保持するボビン支持シャフト12および第1のガイドキャプスタン18の回転軸J18を回転可能に支持する。また、支持壁34dは、図示略のダイス支持体を介し第1の引抜きダイス1を支持する。
【0069】
(巻き出しボビン)
巻き出しボビン11には、直線溝4Bが形成された直線溝付管10B(
図7参照)が巻き付けられている。巻き出しボビン11は、直線溝付管10Bを巻き出して後段に供給する。
巻き出しボビン11は、ボビン支持シャフト12に着脱可能に取り付けられている。
【0070】
図10に示すように、ボビン支持シャフト12は、回転シャフト35と直交する方向に延びている。また、ボビン支持シャフト12は、浮き枠34に自転回転可能に支持されている。なお、ここで自転回転とは、ボビン支持シャフト12自身の中心軸を中心として回転することを意味する。ボビン支持シャフト12は、巻き出しボビン11を保持し、巻き出しボビン11の供給方向に自転回転することで、巻き出しボビン11の管材5の繰り出しを補助する。
【0071】
巻き出しボビン11は、巻き付けられた直線溝付管10Bを全て供給した際に取り外され、他の巻き出しボビンに交換される。取り外された空の巻き出しボビン11は、直線溝付管10Bを形成する押出装置に取り付けられ、再び直線溝付管10Bが巻き付けられる。巻き出しボビン11は、浮き枠34に支持され公転回転しない。したがって、巻き出しボビン11に直線溝付管10Bが乱巻されていても支障なく供給を行うことができ、巻き直しを行うことなく使用できる。また、巻き出しボビン11の重量により製造装置Mにおいて管材5に捻りを付与するための公転回転の回転数は制限されない。したがって、巻き出しボビン11に長尺の管材5が巻き付けることができる。これにより、長尺の管材5に対して、捻りを付与することができ、製造効率を高めることができる。
【0072】
ボビン支持シャフト12には、ブレーキ部15が設けられている。ブレーキ部15は、浮き枠34に対するボビン支持シャフト12の自転回転に制動力を与える。すなわち、ブレーキ部15は、巻き出しボビン11の巻き出し方向の回転を規制する。ブレーキ部15による制動力により、巻き出し方向に搬送される管材5には、後方張力が付加される。ブレーキ部15としては、例えば、制動力としてのトルク調節が可能なパウダーブレーキ又はバンドブレーキを採用できる。
【0073】
(第1のガイドキャプスタン)
第1のガイドキャプスタン18は、円盤形状を有している。第1のガイドキャプスタン18には、巻き出しボビン11から繰り出された管材5が1周巻き掛けられる。第1のガイドキャプスタン18の外周の接線方向は、公転回転中心軸Cと一致する。第1のガイドキャプスタン18は、管材5を第1の方向D1に沿って公転回転中心軸C上に誘導する。
第1のガイドキャプスタン18は、自転回転自在に浮き枠34に支持されている。また第1のガイドキャプスタン18の外周には、自転回転自在のガイドローラ18bが並んで配置されている。本実施形態の第1のガイドキャプスタン18は、自身が自転回転するとともにガイドローラ18bが転動するが、何れか一方が回転すれば、管材5をスムーズに搬送できる。なお、
図10において、ガイドローラ18bの図示は省略されている。
【0074】
図10に示すように、第1のガイドキャプスタン18と巻き出しボビン11との間には、管路誘導部18aが設けられている。管路誘導部18aは、例えば管材5を囲むように配置された複数のガイドローラである。管路誘導部18aは、巻き出しボビン11から供給される管材5を第1のガイドキャプスタン18に誘導する。
【0075】
なお、第1のガイドキャプスタン18に代えて、巻き出しボビン11と第1の引抜きダイス1との間にトラバース機能を有する誘導管を設けてもよい。誘導管を設ける場合には、巻き出しボビン11と第1の引抜きダイス1との距離を短くすることができ、工場内のスペースを有効活用できる。
【0076】
(第1の引抜きダイス)
第1の引抜きダイス1は、管材5(直線溝付管10B)を縮径する。第1の引抜きダイス1は、浮き枠34に固定されている。第1の引抜きダイス1は、第1の方向D1を引抜き方向とする。第1の引抜きダイス1の中心は、回転シャフト35の公転回転中心軸Cと一致する。また、第1の方向D1は、公転回転中心軸Cと平行である。
第1の引抜きダイス1には、浮き枠34に固定された潤滑油供給装置9Aにより潤滑油が供給される。これにより第1の引抜きダイス1における引抜力を軽減できる。
第1の引抜きダイス1を通過した管材5は、浮き枠34の前方壁34bに設けられた貫通孔を介して、前方シャフト35Aの内部に導入される。
【0077】
(第1の公転キャプスタン)
第1の公転キャプスタン21は、円盤形状を有している。第1の公転キャプスタン21は、中空の前方シャフト35Aの内外を径方向に貫通する横孔35Acに配置されている。第1の公転キャプスタン21は、円盤の中心を回転軸J21として、回転シャフト35(前方シャフト35A)の外周部に固定された支持体21aに自転回転が自在な状態で支持されている。
【0078】
第1の公転キャプスタン21は、外周の接線の1つが公転回転中心軸Cと略一致する。
第1の公転キャプスタン21には、公転回転中心軸C上の第1の方向D1に搬送される管材5が一周以上、巻き掛けられる。第1の公転キャプスタン21は、管材5を巻き掛けて前方シャフト35Aの内部から外部に引き出して公転フライヤ23に誘導する。
【0079】
第1の公転キャプスタン21は、公転回転中心軸Cの周りを前方シャフト35Aとともに公転回転する。公転回転中心軸Cは、第1の公転キャプスタン21の自転回転の回転軸J21と直交する方向に延びている。管材5は、第1の公転キャプスタン21と第1の引抜きダイス1との間で捻りが付与される。これにより、管材5は、直線溝付管10Bから中間捻り管10Cとなる。
【0080】
第1の公転キャプスタン21とともに、前方シャフト35Aには駆動モータ20が設けられている。駆動モータ20は、第1の公転キャプスタン21を管材5の巻き掛け方向(搬送方向)に駆動回転する。これにより、第1の公転キャプスタン21は、管材5に第1の引抜きダイス1を通過するための前方張力を付与する。
【0081】
第1の公転キャプスタン21および駆動モータ20は、前方シャフト35Aの公転回転中心軸Cに重心が位置するように公転回転中心軸Cに対して互いに対称の位置に配置されることが好ましい。これにより、前方シャフト35Aの回転のバランスを安定させることができる。なお、第1の公転キャプスタン21と駆動モータ20の重量差が大きい場合は、錘を設けて重心を安定させてもよい。
【0082】
(公転フライヤ)
公転フライヤ23は、第1の引抜きダイス1と第2の引抜きダイス2との間で、管材5の管路を反転させる。公転フライヤ23は、第1の引抜きダイス1の引抜き方向である第1の方向D1に搬送される管材5を反転させ、搬送方向を第2の引抜きダイス2の引抜き方向である第2の方向D2に向ける。より具体的には、公転フライヤ23は、第1の公転キャプスタン21から第2の公転キャプスタン22に管材5を誘導する。
【0083】
公転フライヤ23は、複数のガイドローラ23aとガイドローラ23aを支持するガイドローラ支持体(図示略)とを有する。ここでは、煩雑さを解消するためガイドローラ支持体の図示を省略するが、ガイドローラ支持体は、回転シャフト35に支持されている。ただし、フライヤの構造についてガイドローラは必須ではなく、単に管が通過するための板状の構造で、それに通過させるためのリングを取り付けた形状のものでも良い。このリングは板形状の部材に設けられても良い。このリングの一部はこの板形状の部材の一部で構成されてもよい。板形状の部材はガイドローラ支持体と同様に回転シャフト35に支持されてもよい。
ガイドローラ23aは、公転回転中心軸Cに対し外側に湾曲する弓形状を形成して並んでいる。ガイドローラ23a自身が転動して管材5をスムーズに搬送する。公転フライヤ23は、公転回転中心軸Cを中心として、浮き枠34並びに浮き枠34内に支持された第1の引抜きダイス1および巻き出しボビン11の周りを回転する。
【0084】
公転フライヤ23の一端は、公転回転中心軸Cに対し第1の公転キャプスタン21の外側に位置している。また、公転フライヤ23の他端は、中空の後方シャフト35Bの内外を径方向に貫通する横孔35Bcを通過して後方シャフト35Bの内部に延びている。公転フライヤ23は、第1の公転キャプスタン21に巻き掛けられて外側に繰り出された管材5を後方シャフト35B側に誘導する。また、公転フライヤ23は、管材5を後方シャフト35Bの内部において、第2の方向D2に沿って公転回転中心軸C上に繰り出す。
【0085】
なお、本実施形態の公転フライヤ23は、ガイドローラ23aにより管材5を搬送するものであるとして説明した。しかしながら公転フライヤ23を、弓状に形成した帯板から形成して、管材5を帯板の一面を滑動させて搬送してもよい。
また、
図9において、管材5がガイドローラ23aの外側を通過する場合を例示した。
しかしながら、公転フライヤ23の回転速度が速い場合には、管材5が遠心力により公転フライヤから脱線するおそれがある。このような場合は、管材5の外側に更にガイドローラ23aを設けることが好ましい。
公転フライヤ23と同等の重量を有し前方シャフト35Aから後方シャフト35Bに延びて公転フライヤ23と同期回転するダミーフライヤを複数設けてもよい。これにより、回転シャフト35の回転を安定させることができる。
【0086】
(第2の公転キャプスタン)
第2の公転キャプスタン22は、第1の公転キャプスタン21と同様に、円盤形状を有する。第2の公転キャプスタン22は、後方シャフト35Bの端部35Bbの先端に設けられた支持体22aに自転回転が自在な状態で支持されている。また、第2の公転キャプスタン22の外周には、自転回転自在のガイドローラ22cが並んで配置されている。本実施形態の第2の公転キャプスタン22は、自身が自転回転するとともにガイドローラ22cが転動するが、何れか一方が回転すれば、管材5をスムーズに搬送できる。
【0087】
第2の公転キャプスタン22は、外周の接線の1つが公転回転中心軸Cと略一致する。
第2の公転キャプスタン22には、公転回転中心軸C上の第2の方向D2に搬送される管材5が一周以上、巻き掛けられる。第2の公転キャプスタン22は、巻き掛けられた管材を公転回転中心軸C上の第2の方向D2に繰り出す。
【0088】
第2の公転キャプスタン22は、公転回転中心軸Cの周りを後方シャフト35Bとともに公転回転する。公転回転中心軸Cは、第2の公転キャプスタン22の自転回転の回転軸J22と直交する方向に延びている。第2の公転キャプスタン22から繰り出された管材5は、第2の引抜きダイス2において縮径される。第2の引抜きダイス2は、地面Gに対し静止しているため、第2の公転キャプスタン22と第2の引抜きダイス2との間で、管材5に捻りを付与できる。これにより、管材5は、中間捻り管10Cから内面螺旋溝付管10となる。
【0089】
第2の公転キャプスタン22を支持する支持体22aは、公転回転中心軸Cに対し第2の公転キャプスタン22と対称の位置に錘22bを支持する。錘22bは、後方シャフト35Bの回転のバランスを安定させる。
【0090】
(第2の引抜きダイス)
第2の引抜きダイス2は、第2の公転キャプスタン22の後段に配置される。第2の引抜きダイス2は、反対の第2の方向D2を引抜き方向とする。第2の方向D2は、公転回転中心軸Cと平行な方向である。第2の方向D2は、第1の引抜きダイス1の引抜き方向である第1の方向D1と反対である。管材5は、第2の方向D2に沿って第2の引抜きダイス2を通過する。第2の引抜きダイス2は、第2の引抜きダイス2は、地面Gに対して静止している。第2の引抜きダイス2の中心は、回転シャフト35の公転回転中心軸Cと一致する。
【0091】
第2の引抜きダイス2は、例えば図示略のダイス支持体を介して架台62に支持されている。また、第2の引抜きダイス2には、架台62に取り付けられた潤滑油供給装置9Bにより潤滑油が供給される。これにより第2の引抜きダイス2における引抜力を軽減できる。
第2の引抜きダイス2における縮径および捻り付与により、管材5は、中間捻り管10Cから内面螺旋溝付管10となる。
【0092】
(第2のガイドキャプスタン)
第2のガイドキャプスタン61は、円盤形状を有している。第2のガイドキャプスタン61の外周の接線方向は、公転回転中心軸Cと一致する。第2のガイドキャプスタン61には、公転回転中心軸C上の第2の方向D2に搬送される管材5が一周以上、巻き掛けられる。
【0093】
第2のガイドキャプスタン61は、回転軸J61を中心に架台62に回転可能に支持されている。また、第2のガイドキャプスタン61の回転軸J61は、駆動モータ63と駆動ベルト等を介し接続されている。第2のガイドキャプスタン61は、駆動モータ63により、管材5の巻き掛け方向(搬送方向)に駆動回転する。なお、駆動モータ63は、トルク制御可能なトルクモータを用いることが好ましい。
【0094】
第2のガイドキャプスタン61が駆動することによって管材5には、前方張力が付与される。これにより管材5は、第2の引抜きダイス2における加工に必要な引抜き応力が付与され前方に搬送される。
【0095】
(巻き取りボビン)
巻き取りボビン71は、管材5の管路の終端に設けられ、管材5を回収する。巻き取りボビン71の前段には、誘導部72が設けられている。誘導部72は、トラバース機能を有し管材5を巻き取りボビン71に整列巻きさせる。
【0096】
巻き取りボビン71は、ボビン支持シャフト73に着脱可能に取り付けられている。ボビン支持シャフト73は、架台75に支持され、駆動モータ74に駆動ベルト等を介し接続されている。巻き取りボビン71は、駆動モータ74により駆動回転され、管材5を弛ませることなく巻き取る。巻き取りボビン71は、管材5が十分に巻き付けられた場合に取り外され、他の巻き取りボビン71に付け替えられる。
【0097】
<捻り工程>
上述した内面螺旋溝付管の製造装置Mを用いて、内面螺旋溝付管10を製造する方法について説明する。
まず、予備工程として、直線溝付管10Bを巻き出しボビン11にコイル状に巻き付ける。更に、巻き出しボビン11を製造装置Mの浮き枠34にセットする。また、巻き出しボビン11から管材5(直線溝付管10B)を繰り出して、予め直線溝付管10Bの管路をセットする。具体的には、管材5を、第1のガイドキャプスタン18、第1の引抜きダイス1、第1の公転キャプスタン21、公転フライヤ23、第2の公転キャプスタン22、第2の引抜きダイス2、第2のガイドキャプスタン61、巻き取りボビン71の順に、通過させて、セットする。
【0098】
内面螺旋溝付管10の製造工程において、管材の搬送経路に沿って説明する。
まず、巻き出しボビン11から管材5を順次繰り出していく。
次に、巻き出しボビン11から繰り出された管材5を、第1のガイドキャプスタン18に巻き掛ける。第1のガイドキャプスタン18は、管材5を公転回転中心軸C上に位置する第1の引抜きダイス1のダイス孔に誘導する(第1の誘導工程)。
【0099】
次に、管材5を第1の引抜きダイス1に通過させる。更に、第1の引抜きダイス1の後段で管材5を第1の公転キャプスタン21に巻き掛けて前記回転軸の周りを回転させる。
これにより、管材5を縮径するとともに捻りを付与する(第1の捻り引抜き工程)。
【0100】
第1の捻り引抜き工程において、管材5には第1の公転キャプスタン21を駆動する駆動モータ20により、前方張力が付与される。また、同時に管材5には巻き出しボビン11のブレーキ部15により後方張力が付与される。このため、管材5に適度な張力を付与することが可能となり、管材5に座屈・破断を生じさせることなく安定した捻り角を付与できる。
【0101】
管材5は、第1の引抜きダイス1に通された後に、公転回転する第1の公転キャプスタン21に巻き掛けられる。管材5は、第1の引抜きダイス1により縮径されるとともに、第1の公転キャプスタン21により捻りを付与される。これにより、管材5(直線溝付管10B)の内面の直線溝4B(
図7参照)に捻りが付与され内面に螺旋溝4が形成される。第1の捻り引抜き工程により直線溝付管10Bは、中間捻り管10Cとなる。中間捻り管10Cは、内面螺旋溝付管10の製造工程における中間段階の管材であり、内面螺旋溝付管10の螺旋溝4より浅い捻り角の螺旋溝が形成された状態である。
【0102】
第1の捻り引抜き工程において、管材5には、捻りが付与されると同時に引抜きダイスによる縮径が行われる。すなわち、管材5は、捻りと縮径との同時加工による複合応力が付与させる。複合応力下においては、捻り加工のみを行う場合と比較して管材5の降伏応力が小さくなり、管材5の座屈応力に達する前に、管材5に大きな捻りを付与できる。これにより、管材5の座屈の発生を抑制しつつ大きな捻りを付与できる。
【0103】
第1の引抜きダイス1の前段には、第1のガイドキャプスタン18が設けられており管材5の回転が規制されている。すなわち、管材5は、第1の引抜きダイス1の前段で、捻り方向の変形が拘束されている。管材5には、第1の引抜きダイス1と第1の公転キャプスタン21との間で捻りが付与される。すなわち、第1の捻り引抜き工程において、管材5に捻りが付与される領域(加工域)は、第1の引抜きダイス1と第1の公転キャプスタン21との間に制限される。
加工域の長さと、限界捻り角(座屈を生じないで捻ることができる最大捻り角)の関係には、相関関係があり、加工域を短くすることで、大きな捻り角を付与しても座屈が生じにくい。第1のガイドキャプスタン18を設けることで、第1の引抜きダイス1の前段で捻りが付与されることがなく、加工域を短く設定できる。また、第1の引抜きダイス1と第1の公転キャプスタン21との距離を近づけることで加工域を短く設定し、座屈を生じさせずに管材5に大きな捻りを付与できる。
【0104】
第1の引抜きダイス1による管材5の縮径率は、2%以上とすることが好ましい。限界捻り角と縮径率の間には相関が認められ、引抜き時の縮径率を大きくするにつれて限界捻り角が大きくなる傾向が認められる。すなわち、縮径率が小さ過ぎる場合は引抜きによる効果が乏しく、大きな捻り角を得ることが難しいので、2%以上とするのが好ましい。なお、同様の理由から縮径率を5%以上とすることがより好ましい。
一方で、縮径率が大きくなり過ぎると加工限界で破断を生じ易くなるので、40%以下とするのが好ましい。
【0105】
次に、公転フライヤ23に管材5を巻き掛けて、管材5の搬送方向を公転回転中心軸C上の第2の方向D2に向ける。更に、第2の公転キャプスタン22に管材5を巻き掛けて、管材5を第2の引抜きダイス2に導入する(第2の誘導工程)。これにより、管材5の搬送方向は、第1の方向D1から第2の方向D2に反転し、第2の引抜きダイス2の中心に合わせられる。公転フライヤ23は、浮き枠34の周りを公転回転中心軸Cを中心として回転する。なお、第1の公転キャプスタン21、公転フライヤ23および第2の公転キャプスタン22は、公転回転中心軸Cを中心として同期回転する。したがって、第1の公転キャプスタン21から第2の公転キャプスタン22の間で、管材5は相対的に回転せず捻りが付与されない。
【0106】
次に、第2の公転キャプスタン22とともに回転する管材5を第2の引抜きダイス2に通過させる。これにより、管材5を縮径するとともに捻りを付与し、螺旋溝4の捻り角を更に大きくする(第2の捻り引抜き工程)。第2の捻り引抜き工程により中間捻り管10Cは、内面螺旋溝付管10となる。
【0107】
第2の捻り引抜き工程において、管材5には第2のガイドキャプスタン61を駆動する駆動モータ63により、前方張力が付与される。駆動モータ63としては、トルク制御可能なトルクモータを用いた場合、第2のガイドキャプスタン61は、管材5に付与する前方張力を調整できる。第2のガイドキャプスタン61により前方張力を調整することで、第2の捻り引抜き工程において管材5に適度な張力を付与することが可能となる。これにより、管材5に座屈・破断を生じさせることなく安定した捻り角を付与できる。
【0108】
管材5は、公転回転する第2の公転キャプスタン22に巻き掛けられた後に第2の引抜きダイス2を通過する。管材5は、第2の引抜きダイス2により縮径されるとともに、第2の公転キャプスタン22により管材5に捻りを付与される。これにより、管材5の内面の螺旋溝4に更に大きな捻りが付与され、螺旋溝4の捻り角が大きくなる。第2の捻り引抜き工程により中間捻り管10Cは、内面螺旋溝付管10となる。
【0109】
第2の引抜きダイス2の前段では、第2の公転キャプスタン22に管材5が巻き掛けられている。第2の引抜きダイス2の後段では、第2のガイドキャプスタン61が設けられ管材5の回転が規制されている。すなわち、管材5は第2の引抜きダイス2の前後で、捻り方向の変形が拘束されており、第2の公転キャプスタン22と第2のガイドキャプスタン61との間で、管材5に捻りが付与される。すなわち、第2の捻り引抜き工程において、管材5に捻りが付与される領域(加工域)は、第2の公転キャプスタン22と第2の引抜きダイス2との間に制限される。上述したように、加工域を短くすることで、大きな捻り角を付与しても座屈が生じにくい。第2のガイドキャプスタン61を設けることで、第2の引抜きダイス2の後段で捻りが付与されることがなく、加工域を短く設定できる。
【0110】
なお、本実施形態において、第2の公転キャプスタン22は、後方スタンド37Bの後方(第2の引抜きダイス2側)に設けられているが、第2の公転キャプスタン22は、前方スタンド37Aと後方スタンド37Bとの間に位置していてもよい。しかしながら、第2の公転キャプスタン22を、後方スタンド37Bに対し後方に配置して第2の引抜きダイス2に近づけることで、第2の捻り引抜き工程における加工域を短くすることができる。これにより、座屈の発生をより効果的に抑制できる。
【0111】
第2の捻り引抜き工程において、第1の捻り引抜き工程と同様に、捻りと縮径とが行われて、管材5には複合応力が付与させる。これにより、管材5の座屈応力に達する前に、管材に座屈の発生を抑制しつつ大きな捻りを付与できる。
【0112】
第2の引抜きダイス2による管材5の縮径率は、第1の捻り引抜き工程と同様に、2%以上(より好ましくは5%以上)40%以下とすることが好ましい。
なお、第1の引抜きダイス1において、大きな縮径(例えば縮径率30%以上の縮径)を行うと管材5が加工硬化するために、第2の引抜きダイス2での大きな縮径を行うことが困難になる。したがって、第1の引抜きダイス1の縮径率と第2の引抜きダイス2の縮径率との合計は、4%以上50%以下とすることが好ましい。
【0113】
次に、管材5は、巻き取りボビン71に巻き付けられ回収される。巻き取りボビン71は、駆動モータ74により、管材5の搬送速度と同期して回転することで、管材5を弛みなく巻き取ることができる。
【0114】
<O材化工程>
次に、O材化工程について説明する。
O材化工程は、捻り工程の後に行われる。O材化工程は、管材5に焼きなまし処理を施す熱処理工程である。O材化工程を行うことによって、アルミ材料の歪みを除去し、内部応力を除去できる。
O材化工程における温度、保持時間および冷却の条件は、管材5を構成するアルミニウム合金によって変化する。一例として、O材化処理の熱処理条件は、300℃以上500℃以下で、1時間〜3時間程度保持し、30℃/hrの冷却を行うことが好ましい。なお、後段において説明するように、O材化処理は、Zn拡散工程と同時に行ってもよい。
【0115】
<作用効果>
本実施形態の製造方法によれば、直線溝付管10Bに直接的に捻りを付与することで、Zn拡散層6とフィン3とを同時に螺旋状にすることが可能となる。これにより、螺旋状のZn拡散層6による拡管時の反り抑制の効果と、螺旋状のフィン3による熱交換率の向上の効果と、を同時に達成する内面螺旋溝付管10を製造できる。すなわち、Zn拡散層6とフィン3とをそれぞれ螺旋状とするための個別の製造工程を必要としないため、製造コストを高めることなく付加価値の高い内面螺旋溝付管10を製造できる。
【0116】
本実施形態の捻り工程は、上述の工程を経て形成された内面螺旋溝付管10に対して、再び第1の捻り引抜き工程および第2の捻り引抜き工程を行い、更に大きな捻り角を付与してもよい。この場合には、上述の工程を経た内面螺旋溝付管10に対して熱処理(焼きなまし)を行い、O材化する。更に巻き出しボビン11に巻き付けて、この巻き出しボビン11を適当な縮径率を有する第1の引抜きダイスおよび第2の引抜きダイスを有する製造装置Mに取り付ける。更に、製造装置Mにより上述の工程と同様の工程(第1の捻り引抜き工程および第2の捻り引抜き工程)を経ることで、更に大きな捻り角を付与した内面螺旋溝付管を製造できる。
【0117】
本実施形態の捻り工程によれば、捻りと同時に縮径を行っているため、出発材と最終製品の外径および断面積が異なる。また、管材に捻りと縮径の複合応力を付与する為に、捻り加工に必要なせん断応力を低減させることが可能となり、管材5の座屈応力に達する前に、管材5に大きな捻りを付与できる。したがって、リード角θ1の大きなフィン3を有するとともに、底肉厚が薄い伝熱管を、座屈を生じさせることなく製造することができる。内面螺旋溝付管10は、リード角θ1を大きくすることで熱交換効率を高めることができる。また、内面螺旋溝付管10は、底肉厚を薄くすることで、軽量化するとともに材料費を低減して安価とすることができる。すなわち、本実施形態によれば、軽量、安価かつ熱交換効率の高い内面螺旋溝付管10を製造できる。
なお、本実施形態によれば、0.2mm以上0.8mm以下の底肉厚を有する内面螺旋溝付管10を製造できる。また、本実施形態によれば、リード角θ1が10°以上45°以下のフィン3を有する内面螺旋溝付管10を製造できる。
【0118】
本実施形態の捻り工程によれば、直線溝付管10Bに対して捻りを付与するとともに、縮径を行うため、座屈発生を抑制しつつ大きな捻り角を付与できる。なお、本実施形態において、最終品である内面螺旋溝付管10の外径に対し、素材となる直線溝付管10Bの外径は1.1倍以上である。
【0119】
本実施形態の捻り工程によれば、第1の引抜きダイス1と第2の引抜きダイス2との間で第1の公転キャプスタン21により、管材5に捻りを付与している。更に、第1の引抜きダイス1と第2の引抜きダイス2との引抜き方向が反転している。これにより、第1の捻り引抜き工程と、第2の捻り引抜き工程における、捻り方向を一致させて、管材5に捻りを付与できる。また、管材5の管路の始端である巻き出しボビン11と管路の終端である巻き取りボビン71を公転回転させる必要がない。ラインの速度は、回転速度に依存するため、重量物である巻き出しボビン11又は巻き取りボビン71を回転させない本実施形態の捻り工程では、回転速度を容易に高めることができる。すなわち、本実施形態によれば容易にライン速度を高速化できる。
更に、本実施形態において、巻き出しボビン11を公転回転させることがないため、巻き出しボビン11に長尺の直線溝付管10B(管材5)を巻き付けることができる。このため、本実施形態の捻り工程によれば、巻き出しボビン11を付け替えることがなく、一気通貫で長尺の管材5に捻りを付与することができる。すなわち、本実施形態によれば内面螺旋溝付管10の大量生産が容易となる。
【0120】
本実施形態の捻り工程は、少なくとも2回の捻り引抜き工程を経て管材5に捻りを付与するものである。このため、各段階の捻り引抜き工程で付与する捻り角を積み上げて大きな捻り角を付与することができる。
【0121】
本実施形態の捻り工程によれば、第1の捻り引抜き工程および前記第2の捻り引抜き工程において、管材5に前方張力と後方張力が付与される。前方張力は、第2のガイドキャプスタン61により管材5に付与され、後方張力は、巻き出しボビン11を制動するブレーキ部15によって管材5に付与される。これにより、加工対象の管材5に適切な張力を安定して付与することができる。管材5の管路に弛みが無く、直線溝付管10Bが芯ずれせずに引抜きダイスに入るため、管材5に座屈・破断を生じさせることなく安定した捻り角を付与できる。
【0122】
本実施形態において、第1の引抜きダイス1および第2の引抜きダイス2ダイス孔の中心は、公転回転中心軸C上に位置している。これにより、ダイス孔を通過する管材5をダイス孔に対して直線的に配置できるため、管材5を均一に縮径して、捻り付与時の座屈を抑制できる。なお、第1の引抜きダイス1および第2の引抜きダイス2において、管材5が正常に縮径できる範囲であれば、公転回転中心軸Cに対するダイス孔の位置ズレは許容される。
【0123】
なお、本実施形態において、巻き出しボビン11が浮き枠34に支持され、巻き取りボビン71が地面Gに設置されているものとして説明した。しかしながら、巻き出しボビン11と巻き取りボビン71のうち何れが浮き枠34に支持されていてもよい。すなわち、
図9において、巻き出しボビン11と巻き取りボビン71とを入れ替えて配置してもよい。この場合には、管材5の搬送経路が反転する。また、第1の引抜きダイス1および第2の引抜きダイス2が入れ替えて配置されるとともに、搬送方向に沿ってそれぞれの引抜きダイス1、2の引抜き方向を反転させて配置する。更に、引抜きダイス1、2の前後に位置するキャプスタンにおいて、引抜きダイスの後段に位置するキャプスタンを管材の巻き掛け方向(搬送方向)に駆動させ、引抜きダイスにおける引抜力に抗する前方張力を与える。
【0124】
上記、捻り工程にて引抜きと捻りの複合加工による塑性加工を2回行なう理由として、1回の加工時に引抜きダイス入側で曲げ加工が、そしてダイスアプローチ最後の部分で曲げ戻しによるせん断応力が付与される。2回行なうことで、曲げ・曲げ戻しが繰り返されることにより、管が加工硬化し、捻りを付与した際に座屈することなく安定して加工できるようになる。また、溶射されたZn溶射層の厚さを円周方向に均一化するのに、2回の複合加工を実施し、ダイス入口で均す工程を繰り返すことが効果的であり、この効果は、拡散処理後に引抜き・捻り加工する工程よりも大きい。
【0125】
[各工程の順序について]
伝熱管10の製造方法における各工程の順序について説明する。
ここでは、第1の製法Aと、第2の製法Bについて説明する。
【0126】
<第1の製法>
第1の製法Aは、以下の(A1)〜(A5)の順序で行う。
(A1)押出成形工程。
(A2)Zn溶射工程。
(A3)Zn拡散工程。
(A4)捻り工程。
(A5)O材化工程。
第1の製法Aによれば、Zn溶射工程の直後にZn拡散工程を行うために、Zn溶射工程によって素管10Bの表面に付着したZnが素管10Bに定着した状態で、後段の捻り工程を行うことができる。したがって、第1の製法Aでは、捻り工程によってZn量が減少し難く、伝熱管10の外周面10aのZn濃度を高めやすいという利点がある。
【0127】
<第2の製法>
また、第2の製法Bは、以下の(B1)〜(B4)の順序で行う。
(B1)押出成形工程。
(B2)Zn溶射工程。
(B3)捻り工程。
(B4)熱処理工程(Zn拡散工程およびO材化工程)。
第2の製法Bによれば、Zn拡散工程とO材化工程を同時に行うことができる。Zn拡散工程の熱処理条件とO材化工程の熱処理条件は、類似している。このため、1回の熱処理工程によって、Zn拡散工程の効果と、O材化の効果を同時に得ることができる。
また、第2の製法Bによれば、Zn溶射工程において過度に付着したZn溶射層を捻り工程におけるダイスの通過で、平準化することができる。Zn溶射工程は、素管10Bに対して、Znを噴射するために、素管10Bの長さ方向に沿って、Zn溶射層の付着量が不均一になり易い。そのため、Zn溶射層には、局所的にZn量が高い部分が形成されている場合がある。また、Zn量が極端に高い部分は、Zn拡散後に腐食しやすくなってしまう場合がある。第2の製法Bによれば、Zn溶射工程後に、Zn拡散させることなく捻り工程を行うため、捻り工程におけるダイス通過で、Zn量が局所的に高まった部分において、Znをそぎ落とし、Zn量を平準化できる。これにより、より耐食性の高い伝熱管10の製造が可能となる。
【0128】
<第2実施形態>
図11は、第2実施形態の多重捻り管(伝熱管)150の斜視図である。
本実施形態の多重捻り管150は、外管151と内管152を備え、内管152の周方向に所定の間隔で放射状に複数の隔壁153が形成され、これら隔壁153は外管151と内管152に一体的に接続してこれらの管の長さ方向に螺旋状に延在されている。
これらの隔壁153が螺旋状に延在されることで内管152の外側に外管151と内管152と隔壁
153に区画された複数の捻り流路(第1の流路)154が形成されている。
また、内管152の内部には第2の流路155が形成されている。
【0129】
内管
152の外側に形成されている隔壁
153は、内管
152の長さ方向に沿って所定の捻り角と螺旋ピッチで螺旋状に形成されているので、内管
152の周囲を囲むように所定の螺旋ピッチと捻り角で螺旋状に複数の捻り流路
154が形成されている。
【0130】
本実施形態において、内管152の周囲に6個の捻り流路154が形成されるとともに、内管152の直径は外管151の直径の半分程度に形成され、外管151の径方向に沿う捻り流路154の高さは内管152の半径程度に形成されている。
【0131】
本実施形態の外管151の外周面には、長さ方向に沿って螺旋状に形成された筋状のZn拡散層106が設けられている。本実施形態の多重捻り管150によれば、螺旋状のZn拡散層106を設けることによって、第1実施形態と同様に、雨水や結露水が、外周面の周方向の一部位に集中して溜る場合であっても、十分な耐食性を得ることができる。
【0132】
本実施形態の多重捻り管150は、先の第1実施形態と同様に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。また、本実施形態の多重捻り管150は、外管と内管の間にこれら管の長さ方向に沿って帯板状に延在する螺旋状ではない隔壁を有する複合素管を押出加工で製造し、この複合素管を
図9に示す製造装置Mで捻り加工することで製造することができる。
【0133】
本実施形態の多重捻り管150は、第1の流路
154と第2の流路
155をそれぞれ冷媒の流通路として用いることができる。この場合には、第1の流路
154を流れる冷媒と、第2の流路
155を流れる冷媒との間で効率的に熱交換を行うことが可能となる。この場合には、多重捻り管150は、それ自体が熱交換器として機能する。なお、第1および第2の流路
154、
155のうち、一方を往路として、他方を復路として適用することもできる。
なお、本実施形態における内管152および隔壁153を含めた内部の流路を区画する構造物(隔壁)の形状は、あくまで、一例である。長さ方向に沿って螺旋状に延びるような少なくとも一つの流路を形成する構造物(隔壁)を内部に有する伝熱管であれば、その構造は、限定されることはない。
【実施例】
【0134】
JIS3003合金を使用して作製したビレットを595℃×12hrの条件で均質化処理を実施した後に、500℃で均熱し、伝熱管製造のための素管を熱間押出で行い製造した。素管の外径は9mmで底肉厚は0.5mmで、内周側のフィン高さは0.16mmで条数は45条である。
熱間押出された素管に下記のようにしてZn溶射を行った。
Zn溶射:素管の上下2方向から溶射を行い素管押出速度を20〜60m/minとし、Zn溶射機の電流値を制御することで、Zn付着量やZn被覆率を変量した種々の供試材を作製した。
【0135】
Zn溶射された素管に、製法A(第1の製法Aに対応)、製法B(第2の製法Bに対応)、捻りを付与しない製法Cに対応する。
製法Aは、Zn溶射された素管に、下記の表1に示す各種条件でZn拡散し、引抜き、捻り加工を付与した後、歪取りの熱処理を行う。
製法Bは、Zn溶射された素管に、引抜き、捻り加工を付与した後、下記の表1に示す各種条件でZn拡散を行う。
製法Cは、Zn溶射された素管に、引抜きを付与した後、下記の表1に示す条件でZn拡散を行う。
【0136】
その後、上記溶射まま素管に2回の引抜き・捻り加工を付与し、仕上げの引抜きを行なって、外径6.35mm、内面リード角0〜25°(Zn拡散リード角0〜26.1°)の螺旋溝付管に加工した。加工はフライヤの回転速度100rpm一定のもと1度目の複合加工速度を6〜45m/minの範囲で変量した。内面リード角およびZn拡散リード角0°の試料に関しては、フライヤ無回転のもと、1度目の引抜きダイスをライン速度10m/minで実施した。
捻り加工及び単に空引き加工の後、400〜500℃、3〜7hrの拡散熱処理を実施した。
【0137】
【表1】
【0138】
<評価につい
て>
表1に示した各種条件でZn拡散を実施し、拡散処理後に以下の測定を行った。
Zn被覆率:溶射部円周長さ/円周×100に基づいて算出した。
外周面のZn濃度分布はEPMAで面分析を行い、円周方向72の値を平均化した。0.3%Zn濃度の円周方向拡散深さを計測し、平均化した。
これら供試材について耐食性評価のためASTMG85−A3で規定されているSWAATを2000hr実施し、チューブの最大腐食深さと腐食速度を測定した。なお、製法C(空引き管)のものは未Zn溶射層が下側になるように配置した。その結果を表1に示す。
【0139】
表1から以下のことが判る。
(1)Zn被覆率が50%未満になると防食効果が小さくなり、最大腐食深さが大きくなる。
(2)平均Zn濃度が低すぎると防食効果が小さくなり、最大腐食深さが大きくなる。一方、平均Zn濃度が高すぎると、腐食速度が速くなる。この傾向は、最大Zn濃度も同様である。
(3)Zn拡散深さが小さいと、早期に
Zn拡散層が消耗するために、耐食性が不十分である。また、Zn拡散深さが大きいと、早期の穴あきが防止され耐食性は良好である。
(4)Zn拡散リード角が8°以上は耐食性が良好である。
(5)以上に対して、Zn被覆率、平均Zn濃度、Zn拡散深さが本発明の範囲内にあると、最大腐食深さ、腐食速度ともに、銅管と同等以上の耐食性を示している。
【0140】
以上に、本願発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本願発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本願発明は実施形態によって限定されることはない。