【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ボイラ炉壁の伝熱管の過熱損傷は、必ずしも熱負荷最大部で起こるとは限らないことが確認されている。例えば、超臨界貫流ボイラで、伝熱管内面の腐食を抑制するために酸素処理を施した場合、給水中に存在する鉄酸化物(ヘマタイトFe
2O
3)が伝熱管内面に堆積し、パウダ状のスケール層(以下「パウダスケール」とも言う。)が形成される。酸素処理とは、中性又は弱アルカリ性の水に共存させることで、伝熱管内面に難溶解性の酸化物を密着させ、伝熱管内面の腐食を抑制する方法である。
パウダスケールはポーラスであるため、熱抵抗が大きく、多量に生成した場合は伝熱阻害因子となって伝熱管の温度上昇を引き起こし、この温度上昇に起因するクリープ損傷を引き起こす場合がある。
【0006】
また、亜臨界ドラム型ボイラでは、相対的に熱負荷が小さい部位でスラッジなどの混入、堆積により伝熱管温度が上昇し、クリープ損傷を引き起こす場合がある。また、当該部位が堆積腐食UDC(Under Deposit Corrosion)の核となり腐食損傷を引き起こす場合がある。
パウダスケールやスラッジの付着や堆積が起こる部位はばらつきがあり、発生する部位を予測することは困難である。一方、特許文献1に開示された予測方法は、スケールの生成はボイラ炉壁の各部位で一様に発生することを前提としており、パウダスケールの生成やスラッジの堆積を考慮したものではない。従って、特許文献1に開示された予測方法では、パウダスケールなどに起因した熱損リスク部位を予測することはできない。
【0007】
少なくとも一実施形態は、パウダスケールなどに起因した過熱損傷リスクを含めて、ボイラ炉壁に設けられた伝熱管の過熱損傷しやすい高リスク部位を予測可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)少なくとも一実施形態に係る高リスク部位予測方法は、
ボイラ炉の炉壁に設けられた伝熱管の熱損リスクが高い部位を予測する高リスク部位予測方法であって、
前記炉壁の外面の温度計測対象部位のうち異なる複数の部位の温度を任意の時刻に計測する第1温度計測ステップと、
前記任意の時刻から一定時間が経過した後、前記複数の部位の温度を計測する第2温度計測ステップと、
前記複数の部位の各々において前記第1温度計測ステップで得られた第1温度計測値と前記第2温度計測ステップで得られた第2温度計測値との差分を夫々算出し、算出した複数の前記差分から統計的処理によって閾値を設定する閾値設定ステップと、
前記差分が前記閾値から逸脱した前記部位を高リスク部位と判定する判定ステップと、
を備える。
【0009】
パウダスケールの生成状況やスケールの堆積状況によって、炉内側伝熱管の温度と炉外側伝熱管の温度との相関関係は異なってくる。このため、上記(1)の方法では、上記炉内外の伝熱管温度の相関から炉内側伝熱管の温度を推定するのではなく、ボイラ炉の外壁温度の初期状態からの一定時間後の相対的変位(上記差分)を、炉壁の複数の部位で相対比較することで、高リスク部位を判定する。即ち、複数の部位において夫々算出した上記差分から統計的処理によって設定した閾値から逸脱した部位を高リスク部位と判定する。これによって、パウダスケールの生成などに起因した過熱損傷も含めた高リスク部位を予測できる。
そして、高リスク部位を予測した後、当該部位の炉内温度を監視し、さらには抜管によるモニタリング等を行う。必要とあれば、伝熱管内部を洗浄することで過熱損傷を防止できる。
【0010】
(2)一実施形態では、前記(1)の方法において、
前記閾値設定ステップは、前記複数の部位で算出された前記差分の平均値を算出する平均値算出ステップをさらに備え、
前記閾値設定ステップにおいて、前記平均値より一定値だけ高い温度を閾値とする。
上記(2)の方法によれば、上記差分の平均値から閾値を設定するので、複数の部位の相対的変位を客観的に比較でき、これによって、予測の確率を高めることができる。
【0011】
(3)一実施形態では、前記(2)の方法において、
前記差分の平均値をμとし、前記差分の標準偏差をσとしたとき、前記閾値は前記平均値μに前記標準偏差σを加算した温度(μ+σ)とする。
複数の部位において夫々算出した複数の上記差分は正規分布を形成すると考えられる。
上記(3)の方法によれば、閾値を上記温度(μ+σ)とすることで、漏れが少なく、かつ高リスク部位予測の確率を高くすることができる。
【0012】
(4)一実施形態では、前記(1)〜(3)の何れかの方法において、
前記炉壁は、複数の前記伝熱管と、隣接する伝熱管の間に介在するフィン部と、を含み、
前記第1温度計測ステップ及び前記第2温度計測ステップにおいて、前記フィン部の外面の温度を計測する。
本発明者等が得た知見によれば、ボイラ炉壁内面側の伝熱管の温度変化はボイラ炉壁外面のうちフィン外面の温度に最も顕著に現れることがわかった。そのため、フィン外面の温度を計測することで、ボイラ炉壁内面側の伝熱管の温度推移を感度良く把握できるため、高リスク部位の選定の確率を高めることができる。
【0013】
(5)一実施形態では、前記(1)〜(4)の何れかの方法において、
前記閾値設定ステップにおいて、
前記閾値は、前記温度計測対象部位ごとに異なる温度に設定される。
温度計測対象部位のうち、例えば、伝熱管を流れる蒸気の温度が高い部位では、他の部位より絶対温度が高くなり、熱負荷が大きい部位では他の部位より温度上昇値が大きくなる。そこで、かかる部位では高リスク部位と判定される頻度が高くなるように閾値を設定する。これによって、リスク予測確率を高めることができる。
【0014】
(6)一実施形態では、前記(1)〜(5)の何れかの方法において、
前記第1温度計測ステップは、前記ボイラ炉が熱平衡に達した後に行われる。
「熱平衡」とは、ボイラの始動後炉壁温度その他の状態量が定常運転時の状態に達した状態を言う。熱平衡に達してない時、伝熱管の温度は過熱損傷の指標とはならないので、ボイラが熱平衡に達した後、第1温度計測ステップを行うことで、高リスク部位を正確に選定できる。
【0015】
(7)一実施形態では、前記(6)の方法において、
前記複数の部位の各々において、前記差分が予め設定された値を下回ったとき、前記熱平衡に達したと判定する。
上記(7)の方法では、熱平衡に達する時と差分との相関関係を予め求めておき、熱平衡に達する時の差分の値を設定しておく。従って、差分がこの設定値を下回ったとき熱平衡に達したと判定することで、熱平衡に達する時を容易かつ正確に把握できる。
【0016】
(8)一実施形態では、前記(6)の方法において、
前記複数の部位の各々において、前記第1温度計測値が予め設定された値になったとき、前記熱平衡に達したと判定する。
上記(8)の方法では、熱平衡に達する時と第1温度計測値との相関関係を予め求めておき、熱平衡に達する時の第1温度計測値を設定しておく。従って、第1温度計測値がこの設定値になった時熱平衡に達したと判定することで、熱平衡に達する時を容易かつ正確に把握できる。
【0017】
(9)一実施形態では、前記(1)〜(8)の何れかの方法において、
前記判定ステップで前記高リスク部位の存在が確認されたとき、前記ボイラの運転を停止させ、前記伝熱管の内部を洗浄する洗浄ステップをさらに備える。
上記(9)の方法によれば、高リスク部位の存在が確認されたとき、伝熱管の内部を洗浄することで、運転再開後、伝熱管の温度を低減でき、過熱損傷を未然に防止できる。
【0018】
(10)少なくとも一実施形態に係る高リスク部位予測装置は、
ボイラ炉の炉壁に設けられた伝熱管の熱損リスクが高い部位を予測する高リスク部位予測装置であって、
前記炉壁の外面の温度を計測する温度センサと、
前記炉壁の外面の温度計測対象部位のうち異なる複数の部位の温度を任意の時刻に計測した第1温度計測値と、前記任意の時刻から一定時間が経過した後、前記複数の部位で計測した第2温度計測値との差分を夫々算出する差分算出部と、
算出した複数の前記差分から統計的処理によって閾値を設定する閾値設定部と、
前記差分が前記閾値から逸脱した前記部位を高リスク部位と判定する判定部と、
を備える。
【0019】
上記(10)の構成において、炉壁の複数の部位における外壁温度の初期状態からの相対的変位、即ち、複数の部位において夫々算出した複数の上記差分から統計的処理によって設定した閾値に基づいて、過熱損傷しやすい高リスク部位を予測する。これによって、パウダスケールの生成などに起因した過熱損傷も含めた高リスク部位を予測できる。
そして、高リスク部位を予測した後、当該部位の温度監視及び抜管によるモニタリングを行う。必要とあれば、伝熱管内部を洗浄することで過熱損傷を防止できる。
【0020】
(11)一実施形態では、前記(10)の構成において、
前記温度センサが前記炉壁の外面に配設された光ファイバである。
上記(11)の構成によれば、ボイラ炉壁外面に温度センサとして光ファイバを配設することで、低コストで多数の計測点をもつことができる。従って、炉壁外面に広範囲に亘って連続的に温度分布を計測できる。