(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836984
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】踏面摩擦子
(51)【国際特許分類】
F16D 65/092 20060101AFI20210222BHJP
F16D 69/00 20060101ALI20210222BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
F16D65/092 B
F16D69/00 A
F16D69/02 C
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-210998(P2017-210998)
(22)【出願日】2017年10月31日
(65)【公開番号】特開2019-82230(P2019-82230A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2019年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000189453
【氏名又は名称】上田ブレーキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】309027861
【氏名又は名称】株式会社ユーテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】上田 博之
(72)【発明者】
【氏名】松島 守
(72)【発明者】
【氏名】半田 和行
(72)【発明者】
【氏名】池内 健義
(72)【発明者】
【氏名】名切 仁
【審査官】
羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−503387(JP,A)
【文献】
特開2009−096280(JP,A)
【文献】
特公昭50−035632(JP,B1)
【文献】
特公昭49−040594(JP,B1)
【文献】
特開2001−018797(JP,A)
【文献】
特開2017−088787(JP,A)
【文献】
特公昭45−030253(JP,B1)
【文献】
米国特許第05234082(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61H 1/00−15/00
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪の踏面に押し当てられて該踏面に作用する踏面摩擦子であって、
駆動機構に接続するバックプレート部に背面を取り付けられた摩擦子本体部と、
その側部を前記摩擦子本体部の側部に配置され前記バックプレート部の外側にあって、前記摩擦子本体部の前記踏面への押し当てとともに前記車輪のフランジの喉元に押し当てられて前記フランジ部に潤滑性を与える固形潤滑材部と、を組み合わせた一体型踏面摩擦子において、
前記摩擦子本体部及び前記固形潤滑材部の互いの前記側部の間の異材境界にある境界層にその厚さ方向に摩擦材料/潤滑材料の組成傾斜が与えられて一体化されていることを特徴とする踏面摩擦子。
【請求項2】
前記踏面への押し当て面において、前記摩擦子本体部から前記境界層へ向けて段差を有しない平滑面であることを特徴とする請求項1記載の踏面摩擦子。
【請求項3】
前記境界層は前記バックプレート部の下部にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の踏面摩擦子。
【請求項4】
前記固形潤滑材部及び前記摩擦子本体部は、その一部に熱硬化性樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の踏面摩擦子。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂は、多孔性材料からなる前記摩擦子本体部に浸入して前記境界層を与えていることを特徴とする請求項4記載の踏面摩擦子。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂は、フェノールレジンを含むことを特徴とする請求項4又は5に記載の踏面摩擦子。
【請求項7】
前記固形潤滑材部は二硫化モリブデン及びグラファイト、又はその混合物を含むことを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の踏面摩擦子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車輪の踏面に押し当てられて該車輪の制動を行う踏面制輪子や該踏面を研磨しレール及び車輪間の摩擦係数の低下を防ぐための踏面研摩子などの該踏面に作用する踏面摩擦子であって、特に、車輪のフランジ部に潤滑性を与える固形潤滑材を含む踏面摩擦子に関する。
【背景技術】
【0002】
曲線路を走行している鉄道車両において、車輪のフランジ部の潤滑が不足していると、レールとの接触により車輪の摩耗が進行し、フランジ部の寸法が変化して安全な走行の妨げとなり得ることもある。そこで、特に車輪のフランジ喉元に潤滑性を与える装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ブレーキシューの裏当てプレートのフランジ部分に車輪のフランジに係合可能な摩擦表面を備えており、かかる摩擦表面に固体低摩擦係数改質材を含有する摩擦材料を与えたブレーキシューを開示している。かかる改質材を車輪フランジに塗布することで、結果的にこれを軌間面に移すことができて、車輪及びレールの摩耗を減少させるとともに、エネルギ消費量を減少させ、且つ、騒音レベルを低下させ、更に、レールのクライム傾向を減少させるとしている。このような固体摩擦改質材としては、二硫化モリブデン、グラファイト、またはその結合体からなるとしている。
【0004】
一方、レール及び車輪間の摩擦係数の低下を防ぐために車輪の踏面に間欠的に押し当てられて該踏面を研磨する踏面研摩子に対して、該車輪のフランジ喉元に潤滑性を与える装置を組み込んだものも提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2では、油を噴射する噴射具を研摩子に埋め込んで、この噴射具から車輪に向けて油を噴射し潤滑材を付与する方法を開示している。なお、液体潤滑材であるから、噴射具の車輪に対するギャップを安定させる必要が生じるため、研摩子の後退位置を規制するとしている。
【0006】
更に、特許文献3では、踏面研摩子や踏面制輪子(ブレーキシュー)などの踏面に作用する踏面摩擦子の側面に固形潤滑材を接着した一体型踏面摩擦子を開示しており、特に、摩擦子及び固形潤滑材の間に断熱機能を与える接着層を介在させた一体型踏面摩擦子を開示している。摩擦子が車輪の踏面に押付けられ摩擦熱を発生させ、摩擦子を固定しているバックメタルも加熱する。ここで、固形潤滑材はバックメタルと当接しておらず、更に、摩擦子との間の接着層でも断熱されている。故に、固形潤滑材は加熱せず、例えば、樹脂などからなる樹脂系潤滑材を利用し得るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−18797号公報
【特許文献2】特開2013−75666号公報
【特許文献3】特開2009−96280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、摩擦子の側面に固形潤滑材を接着した一体型踏面摩擦子において、摩擦子及び固形潤滑材の間に断熱機能を与える接着層を介在させることで、固形潤滑材に比較的融点の低い樹脂系潤滑材を用い得るようになる。一方、このような樹脂系潤滑材と摩擦子本体ではその硬さが大きく異なり、接着層部分に対応する車輪の踏面部分に異常摩耗が観察されることがわかった。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、良好な踏面を維持しつつ車輪のフランジ部に潤滑性を与える固形潤滑材を与えた踏面摩擦子の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による踏面摩擦子は、鉄道車両の車輪の踏面に押し当てられて該踏面に作用する踏面摩擦子であって、駆動機構に接続するバックプレート部に背面を取り付けられた摩擦子本体部と、前記摩擦子本体部の側部に突出し前記車輪のフランジ部に潤滑性を与える固形潤滑材部と、を組み合わせた一体型踏面摩擦子において、前記摩擦子本体部及び前記固形潤滑材部の境界層にその厚さ方向の組成傾斜が与えられていることを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、良好な踏面を維持しつつ車輪のフランジ部に潤滑性を与えることができるとともに、摩擦子本体部及び固形潤滑材部の境界層を組成傾斜させることで熱的及び機械的耐性を高めて固形潤滑材部の脱落を防止できる。
【0012】
上記した発明において、前記踏面への押し当て面において、前記摩擦子本体部から前記境界層へ向けて段差を有しない平滑面であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、踏面の異常摩耗を良好に予防し、良好な踏面を維持できる。
【0013】
上記した発明において、前記境界層は前記バックプレート部の下部にあることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、組成傾斜した境界層の背面全体をバックプレートで支持し、境界層への剪断力を小さくできる。
【0014】
上記した発明において、前記固形潤滑材部及び前記摩擦子本体部は、その一部に熱硬化性樹脂を含んでいることを特徴としてもよい。また、前記熱硬化性樹脂は、多孔性材料からなる前記摩擦子本体部に浸入して前記境界層を与えていることを特徴としてもよい。また、前記熱硬化性樹脂は、フェノールレジンを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、組成傾斜した境界層を容易に得ることができる。
【0015】
上記した発明において、前記固形潤滑材部は二硫化モリブデン及びグラファイト、又はその混合物を含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、組成傾斜した境界層を簡単に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例による踏面摩擦子と車輪の側面図である。
【
図2】本発明の実施例による踏面摩擦子の斜視図である。
【
図3】本発明の実施例による踏面摩擦子と車輪の正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による踏面摩擦子について
図1乃至
図3を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、踏面摩擦子10は、鉄道車両の車輪1の踏面2に当接する位置と離間した位置との間で移動可能となるよう駆動機構9によって支持されている。つまり、踏面摩擦子10は、駆動機構9によって踏面2に押し当てられて、踏面2を研磨したり踏面2を介して車輪1を制動したりして、踏面2に作用できる。すなわち、踏面摩擦子10は、押し当てられた踏面2に作用する踏面研摩子や踏面制輪子などである。踏面摩擦子10は車両の走行中において、車輪1の制動の必要な時にもしくは踏面2の研磨を必要とするときに用いられる。車両の走行中に用いられるので、踏面摩擦子10は、レール4に接触しない範囲で、駆動機構9の設置位置の都合等によって配置される。つまり、踏面摩擦子10は、同図に示すように車輪1の上方に配置される他、車両の進行方向に対して車輪1の前方や後方にも配置され得る。車輪1の踏面2の内側(軌間側)にはフランジ3が備えられており、フランジ3は踏面摩擦子10の踏面2への当接時に踏面摩擦子10の内側に位置する。
【0019】
図2に示すように、踏面摩擦子10は、駆動機構9に接続されるバックプレート11と、バックプレート11に背面を支持される摩擦子本体部12と、摩擦子本体部12の側部に突出して背面側にバックプレート11を配置されない固形潤滑剤部13とを含む。
【0020】
摩擦子本体部12と固形潤滑剤部13とは、互いの組成成分の比率を傾斜させた境界層14を介して組み合わされて一体化している。つまり、境界層14は、組成傾斜するための幅Wを有しており、摩擦子本体部12の一部であるとともに固形潤滑剤部13の一部でもある。摩擦子本体部12及び固形潤滑剤部13は、踏面2に当接する当接面15の形状を踏面2の形状に合わせた曲面としている。他方、摩擦子本体部12のバックプレート11側の面は、バックプレート11の形状に合せて略平面とされている。なお、バックプレート11は、駆動機構9への接続に用いられる接続金具11aを背面に備えている。
【0021】
また、境界層14は、その背面全体をバックプレート11に支持されるようバックプレート11の下部に位置する。これによって、境界層14は、その主面に沿った方向の剪断力を生じないようバックプレート11によって支持されることになる。さらに、踏面2へ押し当てられる当接面15は、摩擦子本体部12から境界層14へ向けて段差を有しない平滑面とされており、踏面2の異常摩耗を防止するようにされている。
【0022】
摩擦子本体部12は、固形潤滑剤部13を形成する固形潤滑剤をその一部に含ませて、組成傾斜した境界層14を容易に得られるものである。そのため、熱硬化性樹脂を固形潤滑剤とする場合には、熱硬化性樹脂を硬化させる前に含浸させる空隙を有する多孔性材料を用いることができる。多孔性材料でなくとも、固形潤滑剤部13の熱硬化性樹脂とともに組成傾斜した境界層14を得られるものであればよい。また、より高温でも溶融しない材料を固形潤滑剤とする場合には、これらの材料と成形前に混合して焼成・焼結などの成形加工で組成傾斜した境界層を得られる原料粉末から成形される樹脂成型体や焼結合金などによって得られる摩擦子とすることができる。つまり、摩擦子本体部12及び固形潤滑材部13の間の境界層14はその厚さ方向に組成傾斜を与えられるのである。
【0023】
固形潤滑剤部13は、上記したように、摩擦子本体部12を多孔性材料としたときに含浸させて硬化させることのできる熱硬化性樹脂や、摩擦子本体部12の原料粉末と混合した上で摩擦子に成形加工できる材料からなる。例えば、フェノールレジンなどの熱硬化性樹脂や、二硫化モリブデン、グラファイト、及びこれらの混合物を用い得る。熱硬化性樹脂を用いた場合は、境界層14を容易に組成傾斜させ得る。他方、二硫化モリブデンなどの比較的溶融温度の高い材料を用いた場合は摩擦子の原料粉末との配合比率を変化させることで境界層14を形成させることができて、組成傾斜を簡単に得られる。
【0024】
図3に示すように、踏面摩擦子10は、車輪1の車軸を含む断面において、踏面2の傾斜に沿って当接面15を傾斜させている。また、固形潤滑剤部13をフランジ3の喉元に押し当てることができる。これによって、踏面摩擦子10は、フランジ3の喉元を含めたフランジ部に潤滑性を与えつつ、車輪1の良好な制動を維持することができ、もしくは、レール4と車輪1との間の摩擦係数の低下を防ぐよう踏面2を研磨することができる。つまり、良好な踏面2を維持できる。
【0025】
このとき、固形潤滑剤部13は、バックプレート11には接続されておらず、温度上昇を抑制される。さらに、固形潤滑剤部13は、温度の上昇した場合に摩擦子本体部12との熱膨張の差を組成傾斜させた境界層14で吸収し得て、熱的耐性を高め得る。また、境界層14の主面に沿った方向の剪断力もこの境界層14の厚さ方向の組成傾斜によって分散し得て、機械的耐性を高め得る。これらによって、固形潤滑材部13は脱落を防止される。
【0026】
以上、本発明による代表的な実施例及びこれに伴う変形例について述べたが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、適宜、当業者によって変更され得る。すなわち、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0027】
10 踏面摩擦子
11 バックプレート
12 摩擦子本体部
13 固形潤滑剤部
14 境界層