(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836993
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】電気活性ターポリマーに基づく組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/16 20060101AFI20210222BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20210222BHJP
H01L 41/193 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
C08L27/16
C08L67/00
H01L41/193
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-537480(P2017-537480)
(86)(22)【出願日】2016年1月11日
(65)【公表番号】特表2018-505273(P2018-505273A)
(43)【公表日】2018年2月22日
(86)【国際出願番号】FR2016050042
(87)【国際公開番号】WO2016113492
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2018年10月25日
(31)【優先権主張番号】1550291
(32)【優先日】2015年1月14日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】517215467
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル デ シアンス アプリケ ドゥ リヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゲス・ドス・サントス,ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】ラニュゼル,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】カプサル,ジャン−ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】コティネ,ピエール−ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ガリノー,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ル,ミン−クェン
【審査官】
岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0248945(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/008940(WO,A1)
【文献】
特開平09−208784(JP,A)
【文献】
特開2014−043514(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0178880(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0284277(US,A1)
【文献】
米国特許第03541039(US,A)
【文献】
JEAN-FABIEN CAPSAL,PLASTICIZED RELAXOR FERROELECTRIC TERPOLYMER: TOWARD GIANT ELECTROSTRICTION, HIGH 以下備考,SENSORS AND ACTUATORS A: PHYSICAL,2013年12月19日,VOL:207,PAGE(S):25 - 31,MECHANICAL ENERGY AND LOW ELECTRIC FIELD ACTUATORS,URL,http://dx.doi.org/10.1016/j.sna.2013.12.008
【文献】
KIM K J,MISCIBILITY, PHASE BEHAVIOR, AND CURIE TRANSITION IN BLENDS OF VINYLIDENE 以下備考,POLYMER,英国,ELSEVIER SCIENCE PUBLISHERS B.V,1999年10月,VOL:40, NR:22,PAGE(S):6125 - 6134,FLUORIDE/TRIFLUOROETHYLENE COPOLYMER AND POLY(1,4-BUTYLENE ADIPATE),URL,http://dx.doi.org/10.1016/S0032-3861(98)00825-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/16
C08K 3/00 −13/08
H01L 41/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電気活性フルオロターポリマーであって、該電気活性フルオロターポリマーがフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンと第3のモノマーとのターポリマーであり、該第3のモノマーが1−クロロ−1−フルオロエチレンまたはクロロトリフルオロエチレンである、電気活性フルオロターポリマーと、
電気活性フルオロターポリマーと相溶性であり、電気活性フルオロターポリマーよりも低いガラス転移温度を示す少なくとも1つの第2のポリマーであって、該第2のポリマーがポリアジペート、ポリグルタレートおよびポリセバケートから選択されるポリエステルである、第2のポリマーと
を含む組成物。
【請求項2】
第2のポリマーが、電気活性フルオロターポリマーのガラス転移温度よりも、少なくとも5℃低いガラス転移温度を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
電気活性フルオロターポリマーのガラス転移温度が−50℃から+10℃の値を有し、および/または第2ポリマーのガラス転移温度は、−100℃から0℃の値を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
電気活性フルオロターポリマーおよび第2のポリマーが、50:50から99:1の重量比で存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、メチルイソブチルケトン、グリコールエーテル、グリコールエーテルエステル、n−ブチルアセテート、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、エチルアセトアセテート、ブチロラクトン、イソホロン、トリエチルホスフェート、カルビトールアセテート、プロピレンカーボネートおよびグリセリルトリアセテートから選択された少なくとも1つの溶媒を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
電気活性フルオロターポリマーは、200000から1500000の分子量を示し、および/または
第2のポリマーは、500から700000の分子量を示す、
請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
フッ化ビニリデンおよびトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレン、ならびにフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンのコポリマーから選択されるフルオロコポリマーをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
電気活性フルオロターポリマーがリラクサーターポリマーである、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
電気活性フルオロターポリマーを第2ポリマーと混合する段階を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項10】
混合が、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、メチルイソブチルケトン、グリコールエーテル、グリコールエーテルエステル、n−ブチルアセテート、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、エチルアセトアセテート、ブチロラクトン、イソホロン、トリエチルホスフェート、カルビトールアセテート、プロピレンカーボネートおよびグリセリルトリアセテートから選択される溶媒中にて行われる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
基板と、基板上に堆積された請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物のフィルムとを含むデバイス。
【請求項12】
フィルムの両側に電極をさらに備える請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
フィルムを基板上に堆積させる段階を含む、請求項11または12に記載のデバイスの製造方法。
【請求項14】
堆積の段階が、組成物を基板上にコーティングまたは印刷する段階である、請求項13に記載のデバイスの製造方法。
【請求項15】
金属、酸化インジウムスズ、導電性ポリマーの層、銀に基づく導電性インク、銀ナノワイヤ、またはグラフェンの電極の堆積の追加段階を含む、請求項13または14に記載のデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気活性フルオロターポリマー、および電気活性フルオロターポリマーと相溶性であり、電気活性フルオロターポリマーよりも低いガラス転移温度を示すポリマーを混合することによって得られる組成物に関する。本発明はまた、この組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーは、塗装または特殊コーティングからシーリングジョイント、ビアオプティクス、マイクロエレクトロニクスおよび膜技術まで、多数の用途のために顕著な特性を有する化合物の一種である。これらのフルオロポリマーの中で、コポリマーは、これらの多様性、これらのモルホロジー、これらの例外的な特性およびこれらの多用途性のために特に有利である。
【0003】
電極と組み合わせて、一般にフィルム、堆積物またはスタックの形態で使用される電気活性フルオロターポリマーは、注目に値する電気機械的特性を有する。これらは高い電気機械的エネルギー密度を有する。従って、このようなターポリマーを含むデバイスが電場に供される場合に、これらは歪を生じ、アクチュエータの製造を可能にする。
【0004】
US6787238は、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーと、テトラフルオロエチレン(TFE)またはトリフルオロエチレン(TrFE)のようなモノマーと、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニル、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)のようなモノマーとを含む3つのモノマーの混合物の重合方法によるターポリマーの調製を記載している。
【0005】
US6355479には、酸素の存在下でボラン化合物によって制御される共重合方法による、フッ化ビニリデンと、トリフルオロエチレンと、CTFEまたはHFPのようなコモノマーとのターポリマーの調製が記載されている。
【0006】
US5087679には、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンを含む誘電性ターポリマーの調製が記載されている。
【0007】
US4554335には、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよび他のフッ素含有モノマーを含む誘電性ポリマー材料が記載されている。
【0008】
論文High Electromechanical Responses in a Poly(vinylidene fluoride−trifluoroethylene−chlorofluoroethylene)Terpolymer by Xia et al.,published in Advanced Materials,14,1574−1577(2002)は、フッ化ビニリデンおよびトリフルオロエチレンのコポリマーのミクロ構造に影響を及ぼす第3モノマーの重要性を示している。
【0009】
論文Influencing dielectric properties of relaxor polymer system by blending vinylidene fluoride−trifluoroethylene−based terpolymer with a ferroelectric copolymer by Casar et al.in Journal of Applied Physics,115,104101(2014)は、リラクサーターポリマーP(VDF−TrFE−CFE)と強誘電性ポリマーP(VDF−TrFE)との混合物が記載されている。
【0010】
同様に、論文A polymer blend approach to tailor the ferroelectric reponses in P(VDF−TrFE)based copolymers by Chen et al.in Polymer,54,2373−2381(2013)にはまた、ターポリマーとコポリマーとの混合物が記載されている。
【0011】
WO2011/008940には、ターポリマーおよび別のフルオロポリマーの混合物が記載されている。EP0206926には、フルオロポリマーまたはフルオロコポリマーの混合物が記載されている。
【0012】
最後に、WO2014/170479には、フタレートタイプの可塑剤とのターポリマーP(VDF−TrFE−CFE)またはP(VDF−TrFE−CTFE)との混合物ならびにフィルムおよびアクチュエータを製造する際にこれらの混合物を使用することについて記載している。これらの混合物は、改善された誘電率を示すことが記載されている。
【0013】
しかしながら、これらの混合物は、生態毒性プロファイルが不十分であり、使用されるフタレート可塑剤は有毒である。さらに、本発明者らは、フタレート可塑剤が健康への危険性を示す放出(または発汗)傾向を示し、電極の析出を困難にし、得られるフィルムの機械的特性を著しく低下させ得ることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6787238号明細書
【特許文献2】米国特許第6355479号明細書
【特許文献3】米国特許第5087679号明細書
【特許文献4】米国特許第4554335号明細書
【特許文献5】国際公開第2011/008940号
【特許文献6】欧州特許第0206926号明細書
【特許文献7】国際公開第2014/170479号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】High Electromechanical Responses in a Poly(vinylidene fluoride−trifluoroethylene−chlorofluoroethylene)Terpolymer by Xia et al.,published in Advanced Materials,14,1574−1577(2002)
【非特許文献2】Influencing dielectric properties of relaxor polymer system by blending vinylidene fluoride−trifluoroethylene−based terpolymer with a ferroelectric copolymer by Casar et al.in Journal of Applied Physics,115,104101(2014)
【非特許文献3】A polymer blend approach to tailor the ferroelectric reponses in P(VDF−TrFE)based copolymers by Chen et al.in Polymer,54,2373−2381(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、満足する生態毒性プロファイルを有し、放出の危険性を示さない、良好な電気機械的特性(特にアクチュエータにおける使用のための)を示す組成物を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、まず
少なくとも1つの電気活性フルオロターポリマーと、
電気活性フルオロターポリマーと相溶性であり、電気活性フルオロターポリマーよりも低いガラス転移温度を示す少なくとも1つの第2のポリマーと
を含む組成物に関する。
【0018】
一実施形態によれば、第2のポリマーは、電気活性フルオロターポリマーのガラス転移温度より少なくとも5℃、好ましくは少なくとも10℃、または少なくとも15℃、または少なくとも20℃低いガラス転移温度を示す。
【0019】
一実施形態によれば、電気活性フルオロターポリマーのガラス転移温度は、−50℃から+10℃、好ましくは−40℃から−10℃の値を有する;および/または第2のポリマーのガラス転移温度は−100℃から0℃、好ましくは−100℃から−40℃の値を有する。
【0020】
一実施形態によれば、電気活性フルオロターポリマーは、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンと第3のモノマーとのターポリマーである。
【0021】
一実施形態によれば、第3のモノマーは、1−クロロ−1−フルオロエチレンまたはクロロトリフルオロエチレンである。
【0022】
一実施形態によれば、第2のポリマーは、好ましくはポリアジペート、ポリグルタレートおよびポリセバケートから選択されるポリエステルである。
【0023】
一実施形態によれば、電気活性フルオロターポリマーおよび第2のポリマーは、50:50から99:1、好ましくは70:30から95:5、より特に好ましくは80:20から90:10の重量比で存在する。
【0024】
一実施形態によれば、組成物は、好ましくはテトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、メチルイソブチルケトン、グリコールエーテル、グリコールエーテルエステル、n−ブチルアセテート、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、エチルアセトアセテート、ブチロラクトン、イソホロン、トリエチルホスフェート、カルビトールアセテート、プロピレンカーボネートおよびグリセリルトリアセテートから選択される少なくとも1つの溶媒を含む。
【0025】
一実施形態によれば、
電気活性フルオロターポリマーは、200000から1500000、好ましくは250000から1000000、より詳細には300000から700000の分子量を示し、および/または
第2のポリマーは、500から700000、好ましくは2000から100000、より詳細には5000から20000の分子量を示す。
【0026】
一実施形態によれば、組成物はまたフルオロコポリマー、特に強誘電性フルオロコポリマー、好ましくはフッ化ビニリデンおよびトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンのコポリマーから選択されるフルオロコポリマーを含む。
【0027】
本発明はまた、電気活性フルオロターポリマーを第2のポリマーと混合する段階を含む、上述の組成物の製造方法に関する。
【0028】
一実施形態によれば、混合は、好ましくはテトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、メチルイソブチルケトン、グリコールエーテル、グリコールエーテルエステル、n−ブチルアセテート、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、エチルアセトアセテート、ブチロラクトン、イソホロン、トリエチルホスフェート、カルビトールアセテート、プロピレンカーボネートおよびグリセリルトリアセテートから選択される溶媒中にて行われ、好ましくは電気活性フルオロターポリマーおよび次いで第2のポリマーを溶媒中に溶解させることによって行われる。
【0029】
本発明はまた、基板と、基板上に堆積された上述の組成物のフィルムとを含むデバイスに関する。
【0030】
一実施形態によれば、デバイスはフィルムの両側に電極をさらに含み、このデバイスはアクチュエータであることが好ましい。
【0031】
本発明はまた、基板上にフィルムを堆積させる段階を含む、上記デバイスの製造方法に関する。
【0032】
一実施形態によれば、堆積の段階は、基板上に組成物をコーティングするか、または印刷する段階である。
【0033】
一実施形態によれば、製造方法は、好ましくは金属、酸化インジウムスズ、導電性ポリマーの層、銀に基づく導電性インク、銀ナノワイヤ、またはグラフェンの蒸発またはスパッタリングによる電極の堆積の追加段階を含む。
【0034】
本発明は、最新技術の不利益を克服することができる。より詳細には、満足する生態毒性プロファイルを有し、放出の危険性を示さない、良好な電気機械的特性(特にアクチュエータにおける使用のための)を示す組成物を提供する。
【0035】
これは、電気活性フルオロターポリマーと、ターポリマーと相溶性であり、ターポリマーのガラス転移温度よりも低いガラス転移温度を示す第2のポリマーとの組み合わせにより達成される。
【0036】
本発明者らは、この組み合わせにより、ターポリマーのみの電気機械的特性に対して、大幅に改善された電気機械的特性(電場下でのより大きな歪、広範囲の温度範囲に及ぶ電気機械的特性)が得られると同時に、毒性の問題およびフタレートタイプの可塑剤を使用した場合に生じる放出の問題を防止することを見出した。ターポリマーのみに関しても、機械的特性(特に弾性率)に悪影響を及ぼさない。
【0037】
特に、本発明の組成物は、化合物の放出がない結果として、特に多層堆積物またはフィルムの製造中の加工処理の容易さを提供する。
【0038】
アクチュエータの製造に特に適している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
ここで本発明は、以下の説明において、より詳細に、非限定的に記載される。
【0040】
本発明は、まず、電気活性フルオロターポリマーの使用に基づいている。用語「フルオロ」は、−F基を含むターポリマーを意味すると理解される。「電気活性」という用語は、電場の影響下で歪むことができるターポリマーを意味すると理解される。
【0041】
好ましくは、フルオロターポリマーはリラクサー強誘電性ポリマーである。このような材料は、弱い保磁場(典型的には10V/μm未満)および弱い(典型的には10mC/m
2未満)、実際にはゼロの残留分極を示す。
【0042】
好ましくは、ターポリマーはフッ化ビニリデン単位を含む。
【0043】
好ましくはまた、ターポリマーは式:P(VDF−TrFE−X)を有し、式中、VDFはフッ化ビニリデン単位を表し、TrFEはトリフルオロエチレン単位を表し、Xは第3のモノマー、好ましくは第3のフルオロモノマーから生じる単位を表す。より特に好ましくは、XはCFE(1−クロロ−1−フルオロエチレン)またはCTFE(クロロトリフルオロエチレン)から生じる単位を表す。
【0044】
代わりに、第3のモノマーは、特にハロゲン化アルケン、特にハロゲン化プロペンまたはエチレンから選択することができ、例えばテトラフルオロプロペン(特に2,3,3,3−テトラフルオロプロペン)、クロロトリフルオロプロペン(特に2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン)、1−クロロ−2−フルオロエチレン、トリフルオロプロペン(特に3,3,3−トリフルオロプロペン)、ペンタフルオロプロペン(特に1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペンまたは1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン)、1−クロロ−2,2−ジフルオロエチレン、1−クロロ−2−フルオロエチレン、1−ブロモ−2,2−ジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、フルオロエチレン(またはフッ化ビニル)、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロペンから選択できる。第3のモノマーはまた、一般式:R
f−O−CF=CF
2のペルフルオロアルキルビニルエーテルであることができ、R
fは好ましくはC
1−C
4アルキル基である。好ましい例は、PPVE(ペルフルオロプロピルビニルエーテル)およびPMVE(ペルフルオロメチルビニルエーテル)である。
【0045】
本発明のターポリマーは、乳化重合、懸濁重合および溶液重合などの任意の既知の方法を使用することによって製造することができる。文献WO2010/116105に記載された方法の使用が特に好ましい。この方法は、高分子量のポリマーおよび適切な構造を得ることを可能にする。
【0046】
一実施形態によれば、ターポリマー中のX単位のモル比は、2から15%、好ましくは3から12%、より好ましくは5から10%の値を有する。
【0047】
一実施形態によれば、ターポリマー中のVDF単位対TrFE単位のモル比は、80/20から50/50、好ましくは72/28から60/40の値を有する。
【0048】
一実施形態によれば、この特許出願の文脈において、重量平均モル質量はまた、ターポリマーの「分子量」(Mw)によっても示され、200000から1500000、好ましくは250000から1000000、より詳細には300000から700000の値を有する。
【0049】
後者は、反応器内の温度などの方法の特定のパラメータを変更することによって、または移動剤を添加することによって調整することができる。
【0050】
分子量分布は、多孔率が増加する3カラムのセットを用いて、溶離剤としてジメチルホルムアミド(DMF)を用いたSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって評価することができる。固定相はスチレン−DVBゲルである。検出方法は屈折率の測定に基づいており、較正はポリスチレン標準で行われる。試料をDMF中に0.5g/lで溶解し、0.45μmのナイロンフィルタを通して濾過する。
【0051】
分子量は、ASTM D1238(ISO1133)に従い、230℃、5kgの荷重下でのメルトフローインデックスの測定によって評価することもできる。
【0052】
さらに、分子量はまた、標準ISO1628に従う溶液中の粘度の測定により特徴付けることもできる。メチルエチルケトン(MEK)は、粘度指数を決定するためのターポリマーの好ましい溶媒である。
【0053】
より一般的には、本発明のターポリマーのモル組成は、種々の手段によって決定することができる。炭素、フッ素および塩素または臭素元素の元素分析のための従来の方法は、2つの独立した未知数(例えば、%VDFおよび%TrFE、%X=100−(%VDF+%TrFE))を有する2つまたは3つの独立式の系をもたらし、モル組成が推定されるポリマーの重量により明確に組成を計算することを可能にする。
【0054】
適切な重水素化溶媒中のポリマーの溶液を分析することにより、多核、この場合はプロトン(
1H)およびフッ素(
19F)、NMR技術を使用することもできる。NMRスペクトルは、多核プローブを取り付けたFT−NMR分光計で記録される。次いで、1つまたは他の核に従って生成されたスペクトル中の異なるモノマーによって与えられる特定のシグナルが配置される。従って、例えば、TrFE(CFH=CF
2)単位は、プロトンNMRにおいて、CFH基の特定のシグナル特性(約5ppmで)を与える。VDFのCH
2基(3ppmを中心とする広い未分解ピーク)についても同様である。2つのシグナルの相対積分は、2つのモノマーの相対存在量、即ちVDF/TrFEのモル比を与える。
【0055】
プロトンNMRおよびフッ素NMRで得られた異なる信号の相対積分の組み合わせにより、連立方程式が得られ、この解が、得られる異なるモノマー単位のモル濃度をもたらす。
【0056】
最後に、元素分析、例えば塩素または臭素などのヘテロ原子およびNMR分析を組み合わせることが可能である。従って、CTFEまたはCFEの含有量は、元素分析による塩素含有量の測定によって決定することができる。
【0057】
従って、当業者は、本発明のターポリマーの組成を、あいまいさなく、および必要な精度で決定することを可能にする方法のパレットまたは方法の組み合わせを利用することができる。
【0058】
続いて本発明は、ターポリマーと相溶性であり、ターポリマーのガラス転移温度よりも低いガラス転移温度を示す第2のポリマーの使用に基づいている。
【0059】
「相溶性」という用語は、2つのポリマーの混合物が単一のガラス転移温度を有する均質相を形成することを意味すると理解される。
【0060】
本発明のポリマーのガラス転移温度は、示差走査熱量測定、例えば標準ASTM E1356に従って測定することができる。
【0061】
従って、好ましくは、第2のポリマーのガラス転移温度は、ターポリマーのガラス転移温度より少なくとも5℃、または少なくとも10℃、または少なくとも15℃、または少なくとも20℃低い。
【0062】
一実施形態によれば、ターポリマーのガラス転移温度は、10から−50℃、好ましくは0から−40℃、より具体的には−10から−40℃の値を有することができる(例えば約−20℃)。
【0063】
一実施形態によれば、第2のポリマーのガラス転移温度は、−20℃未満、好ましくは−30℃未満、より詳細には−40℃未満であることができる。例えば、これは−100℃から0℃、好ましくは−100℃から−40℃の値を有することができる。
【0064】
好ましくは、第2のポリマーは単一のガラス転移温度を含む。
【0065】
好ましくは、第2のポリマーは、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーではない。
【0066】
好ましくは、第2のポリマーは、モノマー単位が周期的に、ランダムにまたは統計的に分布している均質構造を有するホモポリマーまたはコポリマーのいずれかである。
【0067】
好ましくは、第2のポリマーはフッ素化されていない。
【0068】
好ましくは、第2のポリマーは強誘電性ポリマーではない。
【0069】
好ましくは、第2のポリマーは電気活性ポリマーではない。
【0070】
好ましくは、第2のポリマーは極性ポリマーである。
【0071】
好ましくは、第2のポリマーは非結晶性ポリマーである。示差走査熱量測定が5J/g未満の融解エンタルピーに匹敵する吸熱現象を示すポリマーは、非結晶性ポリマーとみなすことができる。
【0072】
第2のポリマーは、特にポリエステルであることができる。好ましくは第2のポリマーは、ポリアジペート、ポリグルタレートまたはポリセバケートである。
【0073】
第2のポリマーの分子量は、好ましくは500または2000または5000以上である。第2のポリマーは、好ましくは700000以下、より詳細には20000以下である。
【0074】
本発明の組成物は、上記の少なくとも1つのターポリマー(場合により2つ以上)と、上記の少なくとも1つの第2ポリマー(場合により2つ以上)とを含む。
【0075】
この組成物はまた、溶媒を含み得る(この場合、これは、例えば、基板上に堆積させるのに適した組成物であり得る。)。代わりに、これは溶媒を欠いていてもよい(例えば、このような組成物が、溶媒の蒸発による、例えば基板上への堆積後の先行するものから得られることが可能である。)。
【0076】
特に、適切な溶媒としては、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、メチルイソブチルケトン、グリコールエーテル、グリコールエーテルエステル、n−ブチルアセテート、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、エチルアセトアセテート、ブチロラクトン、イソホロン、トリエチルホスフェート、カルビトールアセテート、プロピレンカーボネートおよびグリセリルトリアセテートが使用され得る。
【0077】
本発明の組成物は、強誘電性フルオロコポリマー(例えばP(VDF−TrFE))または非強誘電性フルオロコポリマー(例えばP(VDF−CTFE)、P(VDF−HFP))などの1つ以上の追加のポリマーを含むこともできる。
【0078】
本発明の組成物はまた、特に可塑剤、塩および難燃剤から選択される1つ以上の添加剤を含むことができる。
【0079】
好ましくは、本発明による組成物は、フタレートタイプの化合物を欠いている。
【0080】
電気活性フルオロターポリマーおよび第2のポリマーは、有利には、50:50から99:1、好ましくは70:30から95:5、より好ましくは80:20から90:10の重量比のターポリマー:第2ポリマーの重量比で存在する。
【0081】
組成物が溶媒を含む場合、溶媒は、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、より特に好ましくは少なくとも95%、実際には少なくとも99%の割合で存在することができる。
【0082】
本発明の組成物は、この異なる化合物を溶媒中に(特に上述のように)溶解させることによって製造することができる。第2のポリマーの前にターポリマーを溶媒に溶解させることが好ましい。場合により、この後溶媒を蒸発させることができる。
【0083】
代わりに、組成物は、溶媒の非存在下で、溶融経路によって製造することができる。
【0084】
本発明は、特に、本発明の組成物から製造され、基板上に堆積されたフィルムを提供する。基板は、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)またはポリエチレンナフタレート基板のようなポリマー基板、または紙またはガラスもしくはシリコンの基板であってもよい。
【0085】
好ましくは、フィルムは、溶媒または溶融経路によって堆積され、次いで、結晶化するために乾燥およびアニールされる(組成物の融点より低い温度で1分以上の時間加熱することによって)。
【0086】
本発明はまた、本発明の組成物を有する少なくとも1つのフィルムと両側に電極とを含む多層構造を提供する。
【0087】
このような構造は、特に:
基板上に組成物をコーティングすること、溶媒を蒸発させること、金属堆積物、酸化インジウムスズ(ITO)の蒸発またはスパッタリングによる電極のアニーリングおよび堆積、導電性ポリマーの層の堆積、銀に基づく導電性インク、銀ナノワイヤ、またはグラフェンから出発する導電性層の堆積などによって;または他に
例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷などによって基板上に組成物を印刷し、次いで、金属堆積物、酸化インジウムスズ(ITO)の蒸発またはスパッタリングによる電極のアニーリングおよび堆積、導電性ポリマーの層の堆積、銀に基づく導電性インク、銀ナノワイヤから出発する導電性層の堆積などによって製造できる。
【0088】
従って、これらの多層構造は、アクチュエータを提供することができる。
【0089】
本発明の組成物によって製造することができる他の対象物は、溶媒経路または押出によって製造される中心導電性コアを含む繊維、フィラメント、ケーブルおよび多成分繊維を含む。
【実施例】
【0090】
以下の実施例は、本発明を例示し、限定しない。
【0091】
ポリマーの電気機械的特性を特徴付けるために、コンデンサカラムを載せた加熱された丸底フラスコ中で15重量%の電気活性ポリマーをメチルエチルケトンに溶解する。混合は、磁気撹拌しながら、80℃にて還流下で実施する。完全に溶解した後、溶液を1μmフィルタで濾過する。この後、溶液は、制御された雰囲気下で、ガラスシート上にコーティングすることによって堆積される。溶媒を12時間蒸発させる。この後、得られたフィルムをトレース量の溶媒を除去するためにオーブン中で80℃にする。この後、フィルムを115℃で1時間アニールする。
【0092】
この後、フィルムを周囲温度に置く。揮発性化合物の放出を、視覚的におよび12時間後に触れることによって調べる。
【0093】
金の減圧下での蒸発により、フィルムを電極で覆う。これらの誘電特性はインピーダンス分光法によって測定される。これらの機械的特性は、動的機械的分析によって測定される。
【0094】
電気機械的特性を測定するために、電極保持フィルムを接着剤(Scotch 3M ATG 924)を用いて100μmの可撓性ポリエチレンテレフタレート基板に付着させる。次いで、このようにして製造した多層を、D&K 4468Hラミネータを用いて15分間積層する。この後、フィルムを支持体に取り付ける。各フィルム面は、可変電圧発生器(Trek 609D−6)の極に接続される。
【0095】
サンプルに電圧を印加する場合に、レーザー歪センサー(Baumer CH−8501)を使用してこのたわみを測定する。ポリマーフィルムの縦方向の歪S
31(E)は、異なる層の機械的特性およびサンプルの幾何学的形状から計算される。
【0096】
実施例1において、使用されるポリマーは、モル組成が、61.0/30.1/8.9を有するP(VDF−TrFE−CTFE)ターポリマーである。
【0097】
実施例2は、ポリマーの溶解の終わりに、ポリマーに対して15重量%のポリエステルタイプの非結晶性極性ポリマー(Palamoll 652/BASF)を添加したことを除いて、実施例1と同様である。
【0098】
実施例3では、手順は実施例1と同様であるが、ポリマーの溶解の最後に、ポリマーに対して15重量%の非ポリマー性ジエチルヘキシルフタレート可塑剤を添加する。
【0099】
この可塑剤は、発癌性、突然変異誘発性および生殖毒性に分類される。
【0100】
【表1】
【0101】
本発明に対応する実施例は、良好な生態毒性プロファイルを有し、改善された低電場の電気機械的特性を有する放出のないフィルムおよびデバイスを得ることを可能にすることが分かった。