特許第6837096号(P6837096)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6837096バックパック用のショルダーベルト及びウエストベルトの支持機構、並びにこれを用いたバックパック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6837096
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】バックパック用のショルダーベルト及びウエストベルトの支持機構、並びにこれを用いたバックパック
(51)【国際特許分類】
   A45F 3/04 20060101AFI20210222BHJP
【FI】
   A45F3/04
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-106400(P2019-106400)
(22)【出願日】2019年6月6日
(65)【公開番号】特開2020-198957(P2020-198957A)
(43)【公開日】2020年12月17日
【審査請求日】2019年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】515184503
【氏名又は名称】株式会社FDR
(74)【代理人】
【識別番号】100095717
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 博文
(72)【発明者】
【氏名】國弘 正之
【審査官】 松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−544779(JP,A)
【文献】 特表2006−520242(JP,A)
【文献】 特開平10−146217(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0316895(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45F3/00−5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックパック用のショルダーベルト又はウエストベルトの支持機構であって、
前記バックパックの背負い面に取り付けるベース板と、
該ベース板の面上を上下直線移動と円心揺動を可能にして該ベース板の略中央部域に軸支した可動板と、
該可動板の軸支点を挟む略対称位置にそれぞれ回転自在に取り付けたショルダーベルト又はウエストベルト取り付け用の一対の取付板と、
から成ることを特徴とするバックパック用のショルダーベルト又はウエストベルトの支持機構。
【請求項2】
前記可動板の移動が、
前記ベース板に形成した貫通又は非貫通の長溝内の移動によるものであることを特徴とする請求項1記載のバックパック用のショルダーベルト又はウエストベルトの支持機構。
【請求項3】
前記長溝内を移動する部材が、
前記ベース板と前記可動板を重合わせて締結した締結部材であることを特徴とする請求項2記載のバックパック用のショルダーベルト又はウエストベルトの支持機構。
【請求項4】
前記のベース板、可動板、及び取付板のいずれか又は全てを、
面状部材、網目部材、又は枠部材のいずれか又はこれらの組合せから形成したことを特徴とする請求項1、2、又は3記載のバックパック用のショルダーベルト又はウエストベルトの支持機構。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか記載の支持機構を、
バックパックの背負い面の肩部側と腰部側のいずれか又は両方に取り付けて成ることを特徴とするバックパック。
【請求項6】
前記支持機構のベース板の前記背負い面への取り付けにおいて、
着脱可能な取付部材を用いて成ることを特徴とする請求項5記載のバックパック。
【請求項7】
前記背負い面へのベース板の取り付けにおいて、
取付位置を適宜変更可能な構成としたことを特徴とする請求項5、又は6記載のバックパック。
【請求項8】
前記支持機構を、バックパックの背負い面の肩部側及び腰部側の両方に取り付けた場合に、連係させて互いの間隔距離を適宜に調整可能にしたことを特徴とする請求項5、6、又は7記載のバックパック。
【請求項9】
上記連係が、
支持機構に配設した面ファスナーどうし、又は介在物を介して互いの間隔距離又は取付位置を自在としたことを特徴とする請求項8記載のバックパック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、バックパックの背負い面に配設したショルダーベルト及びウエストベルトの支持機構、並びに該支持機構を用いたバックパックに関する。
【背景技術】
【0002】
バックパックは、比較的重量物を収納して、ロングウォーキングや登山などの背負い袋体として、広く日常的にも用いられている。リュック、ザック、又はナップサックと同義である。
【0003】
従来のバックパックは、背負い面の肩部側に取り付けた2つのショルダーベルト(「ショルダーハーネス」ともいう。)が、それぞれ左右の肩の上を跨ぎ、左右の腰部側に腰部周囲を包むウエストベルトと連係させて併用するのが一般的な構成である。このショルダーベルト及びウエストベルトにより、バックパック(及びその中味)の荷重を着用者の肩及び腰の両方全体に分配できるようにしている。
【0004】
このバックパックの様々な使用状況における着用者の動きによっては、パッキングした荷物の重心と着用者の体重重心とのずれが、体に対して望ましくないずれを引き起こす可能性がある。このようなずれは、平坦路の歩行中又はハイキング中の自然な足取りであっても長時間の使用の結果として、一方の肩側のハーネスやウエストベルトに継続的な過剰負荷が掛かって着用者のストレス(肩の筋肉痛、腰痛、腰椎や脊髄の損傷、等)となっていた。
【0005】
これら着用者の身体上の荷重のずれを低減することを解決課題とする開示技術は多数提案されている。例えば、バックパックの重心を変えず安定させることを可能にする相互作用式平衡装置が開示されている(特許文献1)。この装置の概要は、バックパック本体の上下位置に平衡装置を備え、左右の肩ひもの頂端と末端をそれぞれの平衡装置に連係させて、荷重バランスの変化に連れて左右の肩紐の長さを調節することによりバックパックの重心を適切に調整するものである。
【0006】
また、身体の様々な動き及びずれ全体を通してバックパックの荷重を着用者の体全体に均一に分配するバックパック緩衝システムが開示されている(特許文献2)。この緩衝システムは、背面で枢動(凹凸部の適合によって回動すること)するロッカーアームによってバックパックの荷重を着用者の体全体に均一に分配するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−544779号公報
【特許文献2】特表2006−520242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしこれら特許文献による開示技術は、背負い者の動きに対応した荷重の負荷バランスの調整を目的とするものであった。すなわち、バランスの取れたパッキングであっても、左右のショルダーベルトが互いに連係してそれぞれ独立した動きを予定したものではないため、例えば、両手を使用して昇る急勾配の登山や険しい岩場の登攀(とはん)において、左右の手足の一方側を大きくして移動させたり、ときには突発的な体勢変化においては、上記開示技術では不十分なものであった。
【0009】
そこで、本願発明は、手足の大きな動きに対して、荷重のバランスを崩すことなく、素早く追従することができるショルダーベルト及び(又は)ウエストベルトの支持機構の提供と、これを用いたバックパックの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明に係るバックパック用のショルダーベルト又はウエストベルトの支持機構は、以下のように構成した。
【0011】
すなわち、前記バックパックの背負い面に取り付けるベース板と、該ベース板の面上を上下直線移動と円心揺動を可能にして該ベース板の略中央部に軸支した可動板と、該可動板の軸支点を挟む略対称位置にそれぞれ回転自在に取り付けたショルダーベルト又はウエストベルト取り付け用の一対の取付板と、から構成したものである。
【0012】
前記可動板の移動は、前記ベース板にそれぞれ形成した貫通又は否貫通の長溝内の移動によって行うのが作動の確実性から好ましいものである。この場合、前記長溝内を移動する部材としては、前記ベース板と前記可動板を重ね合わせて締結する締結部材となる、例えば、リベットやボルトナット、等とするのが好ましい。なお、前記のベース板、可動板、及び取付板を形成する材質としては、面状部材、網目部材、又は枠部材のいずれか又はこれらの組合せであることが好ましい。
【0013】
また、前記ベース板のバックパックの背負い面への取付部材としては、接着剤、面ファスナー、ボルトナット、及びリベットのいずれか又はこれらを組み合わせて用いるのが好適である。
【0014】
さらに、前記ベース板のバックパックの背負い面への取付部材を、着脱自在な構成とするほかに、体格に合わせて適宜に取付位置を設定できる構成としてもよい。
【0015】
本願に係る第2の発明は、上記いずれかの支持機構を、バックパックの背負い面の肩部側と腰部側のいずれか又は両方に取り付けて成るバックパックに関する。また、その取り付け仕様は、上記いずれかの支持機構を着脱自在とすること及び取り付け位置を自在に変更できるようにしてもよい。さらには、上記いずれかの支持機構を、バックパックの背負い面の肩部側と腰部側の両方に取り付けた場合には、それらを連係させてもよい。
【0016】
その連係手段の一つとしては、上記肩部と腰部との各支持機構の各ベース板に配設した面ファスナーどうし、又は介在物を介して互いの取り付け位置とその間隔距離を適宜に設定できるようにしてもよい。これにより背負い者は、自己の体格、又は好みに合わせて適切な位置に設定することができる。さらには、パッキングしたバックパックの重心の体への作用位置を適宜に設定することができる。
【発明の効果】
【0017】
上記した構成により、ベース板に対する可動板の直線移動と中心揺動を自在とし、かつ可動板に対する取付板の軸回転をも自在として、これらが相乗することによって、より背負い者の体勢の変化に迅速に対応することができる顕著な効果を奏する。これにより、背負い者の体勢変化に対して、背負い者の重心とバックパックの重心の移動量を小さくすることができる。すなわち、通常歩行時はもちろん、左右の手足の移動量が大きくなる登攀や急斜面の登り降りにおいても、体への追従性が良くなっていわゆるフィット感のあるバックパックを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施例1の組立斜視図である。
図2】本実施例1の平面図である。
図3】本実施例1の作動を説明した平面図である。
図4】本実施例2の平面図である。
図5】本実施例2の作動を説明した平面図である。
図6】本実施例1及び本実施例2をバックパックの背負い面に取り付けた状態を示す平面図である。
図7】本実施例3の平面図である。
図8】本実施例4の平面図である。
図9】本実施例3及び本実施例4をバックパックの背負い面に取り付けた状態を示す平面図である。
図10】本実施例を取り付けたバックパックの背負い者の体勢変化を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本願発明に係るバックパック用のショルダーベルト又はウエストベルトの支持機構の幾つかの実施例(以下、「本実施例」という。)について、図面に基づき詳細に説明する。先ず、支持機構1、13、14、の主要な構成要素は、ベース板2、132、142、可動板3、及び取付板4、である。
【0020】
なお、上記した各構成要素の名称は、本願発明の技術的思想を考慮して便宜的に用いたものであって、限定的に解してはならない。また、それぞれの名称は、当業界では他の名称で称することがある。さらに、図面で描画した各構成要素の形状は、これに限定するものではない。
【0021】
[本実施例1]
本実施例1は、支持機構1をバックパックBの肩部や肩甲骨付近に対応させたショルダーベルト用として用いるものである。以下に各構成要素について説明する。
【0022】
(1−1)ベース板について
図示符号2は、支持機構1を構成するベース板である。該ベース板2は、背中の肩甲骨付近を被う面積をもった矩形平板状を成している。このベース板2は、後述する可動板3を支持する基台となるものであって、該可動板3の移動行程を規制する複数の長溝を形成している。これらの長溝は、背負い者Pの背骨に対応した位置の面域(以下、「中央部域2c」という。)において、上下方向に所定の長さで延長した直行溝21を形成している。また、該直行溝21から水平体側方向へ略左右対称の面域(以下、「側部域2s」という。)において、前記直行溝21を対称軸とする対称位置に一対のガイド溝22、22を形成している。
【0023】
この一対のガイド溝22、22は、前記直行溝21内の適宜の位置を中心として同心揺動を可能とし、かつ上下に倣った直線移動を許容する溝幅を持った略曲線状の溝形に形成している。
【0024】
なお、本実施例1では、上記直行溝21と上記ガイド溝22のいずれもベース板2を貫通した長溝としているが、これに限らずいずれかを否貫通の凹状の長溝としてもよい。
【0025】
また、上記ガイド溝22は、作動を確実なものとするものであるが、必須の構成要素ではない。後述する可動板3のベース板2への取付強度や保形強度が十分に確保できる場合は、その省略が可能である。
【0026】
このベース板2は、バックパックBの背負い面Bfに取り付けられるものである。この取付方法としては、本実施例1では四隅に貫通させた固定部材(リベットやネジ、等)23を用いて行っている。これに限らず、接着剤やボルトナット、又は面ファスナー等の面着手段を用いてもよい。必要により着脱可能な構成としてもよい。また、他に公知の取付手段を選択使用することにより、固定又は着脱可能な機素材(例えば、バックパックのフレームへの螺合固定、ブッシュリベット、又は組ネジ、等)を用いて行ってもよい。
【0027】
さらに、本実施例のベース板2は、略矩形状に形成しているがこれに限定するものではなく、機能上必要となる上記中央部域2cと上記一対の側部域2s、2sが確保できる形状であれば、円形、楕円形、長楕円形、又は瓢箪形、など適宜形状でもよい。
【0028】
(1−2)可動板について
次に、上記ベース板2には、重ね合わせた状態で可動板3を配設している。この可動板3は、前記直行溝21内を移動可能にした軸支リベット(又は組ネジ)31でベース板2に回動可能にして取り付けている。それと共に前記一対のガイド溝22、22内をそれぞれ移動可能にした2個のガイドリベット32、32を貫通させてベース板2に取り付けている。この直行溝21とガイド溝22を貫通させた軸支リベット31及び2個のガイドリベット32は、ベース板2の背負い面Bf側に、単一板の安定板5を介して取り付けている。なお、この安定板5は、本願発明の必須構成要素ではないが、これを用いることにより上記軸支リベット31とこれを挟むガイドリベット32の取り付け位置関係を定常化して安定した溝内移動を確保し、これによって可動板3の前記溝内の動きを円滑にしている。
【0029】
(1−3)取付板について
次に、上記可動板3には、前記軸支リベット31の取り付け位置を挟んで左右対称に離隔した位置に、一対の取付板4を、回動リベット41によって回動自在に軸支している。この回動リベット41の取り付けにおいては、取付板4と可動板3の間に所定の厚さの滑りワッシャ43を介在させている。これにより、可動板3の面にそって旋回動する取付板4の動きを円滑にしている。
【0030】
この取付板4は、上記軸支位置から略扇状に拡がった形状に成しており、その扇形の周縁部には、上記各ショルダーベルトBs,又はウエストベルトBwを締結するための締結口42を形成している。
【0031】
(1−4)実施例1の作動
上記構成の本実施例1は、ショルダーベルトBs用の支持機構1としてバックパックBの肩部側に取り付けられて、背負い者の体勢の変化に即応して、次のように作動する(図3を参照)。
【0032】
上記構成の可動板3は、取付板4に作用するショルダーベルトBsからの力(矢印T)と、ベース板2に作用するバックパックBの荷重の動的変化(荷重重心の垂下位置の変化)により、ベース板2に対して上下動及び回動する。すなわち、軸支リベット31がベース板2の面上の直行溝21に倣って移動することによりベース板2に対して相対的に上下移動する(矢印a)。また軸支リベット31を中心軸として回動する(矢印b)。その回動する角度、すなわち揺動(往復円運動)する中心角は、前記ガイド溝22内の倣い移動の行程によって規制される。
【0033】
また、前記一対の取付板4、4は、それぞれ独立して回動するが(矢印c)、左右のショルダーベルトBsに異なる力(矢印Ts)が作用した場合は、それぞれの力のベクトルによって力のモーメント(角運動量)が発生して、可動板3は右回転(矢印Rr)又は左回転することとなる(矢印Rl)。敷衍すると図3に示すように、左右の取付板4にそれぞれ取り付けたショルダーベルトBsによって、左側の取付板4の方により大きな引き上げ力(矢印Ts+)が作用した場合には、可動板3はベース板2に対して右回転(矢印Rr)する(図3(C))。逆に、右側の取付板4の方により大きな引き上げ力(矢印Ts+)が作用した場合は、可動板3はベース板2に対して左回転(矢印Rl)する(図3(D))。
【0034】
(1−5)実施例1の効果
かかる構成により、登山道などの不整地の歩行や、登山用ストック等を用いた肩腕の動きが大きい歩行時には、左右のショルダーベルトBsの差動に対して取付板4が回動し、さらには回動板3をも回動してその差を吸収することができる。すなわち、バックパックBが背筋や体勢の変化に対しても安定した歩行を確保することができる。
【0035】
[実施例2]
実施例2は、支持機構1をバックパックBの腰部側に取り付けて、ウエストベルト用として用いた場合である。
【0036】
(2−1)実施例2の構成
図4に示したように、上記実施例1で用いた支持機構1を、主要の各構成要素を変えることなくウエストベルトBw用としてバックパックBの腰部に配設したものである。したがって、各構成要素の基本形態及びその機能は、上記実施例1と同様である。そのため、図面において、同様な構成要素には同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0037】
実施例2における相違は、可動板3に取り付けた一対の取付板4、4が、腰部(正確には腰骨の上位置)を体側の左右から別個に囲むウエストベルトBw、Bwを締結する構成であるため、略水平横向き状態としている点である。これは取付板4を軸支している回動リベット41が、いわゆるフリー回転状態であることによる。
【0038】
(2−2)実施例2の作動と効果
図5に示したように、バックパックBを背負って比較的平坦な路を歩行している状態(以下、「通常歩行」という。)では、実施例1と同様に、バックパックBの下向きの荷重力と、ウエストベルトBwが腰骨に乗った状態(下降移動を阻止した状態)で分担する荷重の反力とで、可動板3は相対的に上方移動となる。この場合、軸支リベット31はベース板2の直行溝21の上端部まで移動して規制される(図5(A))。また、通常歩行では、腰骨が左右交互に上下動するため、左右の取付板4には引上げ力の増減が交互に作用して、ベース板2に対して左右回転(矢印Rr、矢印Rl)が生じることになる(図5(C)(D))。
【0039】
別言すると、登山などで手足を使って岩場を登る(又は降りる)様な場合には、腕ばかりか大腿部や膝などの動き量(主に、上下動)が、左右で大きく異なる場合がある。この大きな腕や肩の動きに対しては上記した実施例1の支持機構の作動で対応できるが、骨盤や腰骨に大きな揺れや振動が生じた場合は、腰骨に乗った状態のウエストベルトBwから左右の取付板4に異なった力が作用する。その結果、可動板3は、軸支リベット31を回動軸として、かつガイド溝22によるガイドリベット32の移動規制により、往復回転動の円心揺動運動をすることとなる(図5(C)(D))。
【0040】
[実施例3]
実施例3は、ショルダーベルト用の支持機構13の取付手段として面ファスナーを用いたものである。この実施例3の構成においては、実施例1と同様の構成を取りながらも、前記回動板3や前記取付板4の可動域から図面視で下方に拡張した面積をもった拡張ベース板132を用いている。そして、この拡張した面の略全域に渡って、かつ回動板3の取り付け面と同一の面上に面ファスナー133を形成している。
【0041】
この面ファスナー133は、バックパックBの背負い面Bfに対面して、かつ上下を開放した状態で張り付けたクッションパッドBpの裏面側(対面する背負い面側)に形成した面ファスナー(図示省略)と対面接着(「面着」)させている。 このように構成することにより、クッションパッドBpの適宜の上下位置で拡張ベース板132を、着脱可能及び/又は位置変更を可能と面着させることができ、これにより、バックパックBにおける支持機構13の肩部位置を最適に設定することができる。
【0042】
[実施例4]
実施例4は、上記実施例3と同様にウエストベルト用の支持機構14の取付手段として面ファスナー143を配設したものである。この実施例4の構成においては、実施例1と同様の構成を取りながらも、前記回動板3や前記取付板4の可動域から図面視で下方に拡張した面積をもった拡張ベース板142を用いている。そして、この拡張面の略全域に渡って、かつ可動板3の取付面と同一の面上に面ファスナー143を形成している。
【0043】
このように面ファスナー143を配設したのは、上記クッションパッドBpの裏面側(背負い面側)に配設した面ファスナー(図示省略)と着脱可能及び位置変更可能にして面着させるためである。
【0044】
このように構成することにより、拡張ベース板142をクッションパッドBpの適宜の上下位置で面着させることにより、支持機構14を背負い者の最適な腰部位置に設定することができる。
【0045】
また、上記実施例3と実施例4の支持機構13、14を上下位置から互いの面ファスナー133、143、の部分をクッションパッドBpに取り付けることにより、該クッションパッドBpを介在物として連係させることができる。すなわち、背負い者Pの肩部位置と腰部位置との距離間隔を好みに合わせて自由に設定できることになる。
【0046】
[上記各実施例のバックパックへの取付仕様と作動状況]
上記した各実施例1〜4の支持機構は、適宜の仕様でバックパックBの背負い面Bfに取り付ける。取り付け仕様としては、バックパックBのフレーム(図示省略)にネジやリベット、又は接着剤、などの固定手段で固定する方法がある。また、上記したように面ファスナー133、143を用いて着脱及び位置変更を自在としてもよい。また、支持機構1、13、14の取り付けは、肩部と腰部の両方に取り付けることにより、ザックの収納容積が比較的大容量であっても背負い者Pの体の動きに迅速に追従して作動するため、背負い者Pに対して偏った無理な負荷が掛からず、より安定した登山歩行(特に、登攀時)を可能とすることができる。
【0047】
次に、上記した支持機構1、13、14をバックパックBの肩部と腰部の両方(以下、「上下」とも略称する。)に配設した場合における、各可動板3に固定された軸支リベット31及びガイドリベット32と、ベース板2に形成された直行溝21及びガイド溝22内との移動関係について、背負い者Pの体勢変化に基づいて説明する。
【0048】
(通常歩行状態)
通常歩行の状態では、バックパックBの荷重(下向き)は、ショルダーベルトBsとウエストベルトBwとでバランスの取れた状態で分担することとなる。したがって、これらと取付板4を介して連結した上下の各可動板3には、それぞれの分担荷重に見合った力が反力(上向き)として作用することとなる。この結果、可動板3は、ベース板2(バックパックBと一体化仕様)に対して上方に相対移動する。この状態では、上下の支持機構13、14の各軸支リベット31は、共に直行溝21の上端部に当接しており、かつ各ガイドリベット32はガイド溝22の略中間に位置する(図3(A)及び図5(A)の状態)。
【0049】
(前屈み体勢の場合)
次に、図10(A)に示したように、背負い者Pが前傾又は前屈の体勢となった場合は、バランスしていたショルダーベルトBsへ分担荷重が変化して負担荷重が増えることとなる。これにより肩部の可動板3への作用力(引上げ力)は増加するが、該可動板3の軸支ベルト31は直行溝21の上端部に位置しているため((図3(A)の実線)、肩部のベース板2には更なる引上げ力が作用することとなる。この更なる引上げ力が、バックパックBを上方に引上げ、これと共に該バックパックBと一体化した腰部のベース板2を引き上げることとなる。この引上げ力は、ウエストベルトBwで安定的に保持されていた腰部の可動板3に対して、腰部のベース板2を相対的に上方に移動させることとなる。その結果、通常歩行状態では腰部のベース板2の直行溝21の上端部にあった軸支リベット31(図5(A)の実線)が、相対的に直行溝21の下方に移動することなる(図5(A)の想像線)。
【0050】
この溝内の移動により、急な前屈体勢の変化においても背負い者Pの背中の丸み形状に速やかに追従して肩への(時には急激な)負担増を軽減している。
【0051】
(仰向け体勢の場合)
逆に、図10(B)に示したように、背負い者Pが仰向けなどの後傾体勢になった場合は、ショルダーベルトBsの分担荷重量が減ることとなる。これにより肩部の可動板3への作用力(引上げ力)が減少して、通常歩行時には直行溝21の上端部に位置((図3(A)の実線)していた軸支ベルト31は、相対的に直行溝21内を下方に移動することとなる(図3(A)の想像線)。
【0052】
このショルダーベルトBsへの分担荷重量の減少は、その分がウエストベルトBwへの分担荷重量が増加となる。そして、この増加は腰部のベース板2のさらなる増加となって作用するが、腰部の可動板3の軸支リベット31は、該ベース板2の直行溝21の上端部にあるため((図5(A)の実線)、該ベース板2はさらに下方移動することなく、そのまま増加分としてウエストベルトBwにかかることになる。
【0053】
なお、左右の一対のウエストベルトBw、Bwは、取付板4への取り付け部付近でウエストパッドWpによって連係されている。これにより左右のウエストベルトBw、Bwと一連に連結して腰部周りの保持を安定的なものとしている。別言すると、腰部への収まりを良くしているということができる。
【0054】
まとめると、上下の軸支リベット31の直行溝21内の移動は、背負い者Pの体勢変化によるバックパックBの荷重の上下の分担割合の変化が、各ベース板2、又は各拡張ベース板132、142に作用して、これに応じた挙動を示すこととなる。
【0055】
(可動板の揺動とその効果)
上下の各可動板3は、上記したようにそれぞれ直行溝21に規制されて相対移動する。さらに各直行溝21を貫通している軸支リベット31が、回動軸となって所定の中心角度範囲で往復回転(「揺動」)する。そしてその角度範囲は、各ガイド溝22の長さによって規定される。なお、それぞれの詳細な作動状況(揺動回転)は、上記(1−4)実施例1の作動と(2−2)実施例2の作動において説明しているので、省略する。
【符号の説明】
【0056】
B バックパック
Bf 背負い面
Bp クッションパッド
Bs ショルダーベルト
Bw ウエストベルト
Wp ウエストパッド
P 背負い者
1 支持機構(実施例1,2)
2 ベース板(実施例1,2)
2c 中央部域
2s 側部域
21 直行溝
22 ガイド溝
23 固定部材
3 可動板
31 軸支リベット
32 ガイドリベット
4 取付板
41 回動リベット
42 締結口
43 滑りワッシャ
5 安定板
13 支持機構(実施例3)
132 拡張ベース板
133 面ファスナー
14 支持機構(実施例4)
142 拡張ベース板
143 面ファスナー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10