(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケルとコバルトの総モル数に対してコバルトを0.1モル%以上10モル%以下含み、厚みが50μm以上800μm以下であるニッケル触媒層がニッケル多孔基材表面に形成された陽極であって、
前記ニッケル触媒層中のニッケルの(111)面によって回折されるX線のピーク強度をINi、酸化ニッケルの(012)面によって回折されるX線のピーク強度をINiOとしたとき、[INiO/(INi+INiO)]×100の値が0以上15以下であり、
前記ニッケル触媒層の比表面積が1.0m2/g以上10.0m2/g以下である、
ことを特徴とする陽極。
ニッケルとコバルトの総モル数に対してコバルトを0.1モル%以上10モル%以下含み、厚みが50μm以上800μm以下であるニッケル触媒層がニッケル多孔基材表面に形成されたアルカリ水電解用陽極であって、
前記ニッケル触媒層中のニッケルの(111)面によって回折されるX線のピーク強度をINi、酸化ニッケルの(012)面によって回折されるX線のピーク強度をINiOとしたとき、[INiO/(INi+INiO)]×100の値が0以上15以下であり、
前記ニッケル触媒層の比表面積が1.0m2/g以上10.0m2/g以下である、
ことを特徴とするアルカリ水電解用陽極。
前記隔膜の少なくとも一方の表面を、蛍光X線法を用いて解析した際の、ニッケル原子濃度とコバルト原子濃度との合計が、0.01原子%以上1.0原子%以下である、請求項12から14の何れか一項に記載の複極式電解セル。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明を限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0028】
(アルカリ水電解用陽極)
本実施形態のアルカリ水電解用陽極は、ニッケルとコバルトの総モル数に対してコバルトを0.1モル%以上10モル%以下含み、厚みが50μm以上800μm以下であるニッケル触媒層がニッケル多孔基材表面に形成され、上記ニッケル触媒層中のニッケルの(111)面によって回折されるX線のピーク強度をI
Ni、酸化ニッケルの(012)面によって回折されるX線のピーク強度をI
NiOとしたとき、[I
NiO/(I
Ni+I
NiO)]×100の値が0以上15以下であり、上記ニッケル触媒層の比表面積が1.0m
2/g以上10.0m
2/g以下である。
本実施形態のアルカリ水電解用陽極は、ニッケル触媒層の比表面積が大きいために過電圧が低い。ニッケル触媒層が多孔質であると、過電圧を一層低くすることができる。また、ニッケル触媒層中に適量のコバルトが含まれるために、初期性能及び耐久性に優れる。さらに、コバルトが適量であるため、隔膜への吸着を抑制でき、電解セルの電圧が上昇しにくい。
【0029】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、アルカリ水電解用陽極は、少なくとも、ニッケル多孔基材の表面上の一部または全部に、コバルトを含むニッケル触媒層を有しているものである。上記ニッケル触媒層は、ニッケル多孔基材の片面に設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。
【0030】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、ニッケル多孔基材とは、ニッケルまたはニッケルを主成分とした材料で構成される、多数の孔を有する板状基材である。ニッケルを主成分とした材料としては、例えば、モネル、インコネル、ハステロイなどのニッケル基合金が挙げられる。具体的な形状としては、エキスパンドメタル、パンチングメタル、平織メッシュ、発泡金属、又はこれらに類似する形状が挙げられ、エキスパンドメタルが好ましい。
【0031】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、ニッケル多孔基材の材質は、ニッケルまたはニッケルを主成分とした材料であることが好ましい。ニッケルまたはニッケルを主成分とした材料は、アルカリ水溶液中の酸素発生電位においても溶解されず、貴金属と比較して安価に入手できる金属であるため、耐久性、導電性及び経済性の点で好ましい。
【0032】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、ニッケル多孔基材としては、ニッケルまたはニッケルを主成分とした材料からなるエキスパンドメタルが好ましく、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるため、また、機械的強度の観点から、メッシュの短目方向の中心間距離(SW)は2mm以上5mm以下であることが好ましく、より好ましくは3mm以上4mm以下である。また、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)は3mm以上10mm以下であることが好ましく、より好ましくは4mm以上6mm以下である。また、厚みは0.2mm以上2.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.8mm以上1.5mm以下である。また、開口率は、20%以上80%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以上60%以下である。
上記SW、LW、厚み、開口率の範囲は、本発明の効果を好適に得るうえで、それぞれ個別に選択されてもよい。
【0033】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、上記ニッケル触媒層は、ニッケルを主成分として構成されるが、他の元素を含んでもよい。ニッケルは、アルカリ水溶液中の酸素発生電位においても溶解されず、貴金属と比較して安価に入手できる金属であるため、耐久性、導電性及び経済性の点で好ましい。ニッケル触媒層中のニッケル原子及びコバルト原子の総モル数に対するニッケル原子のモル割合は、75モル%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上である。また、99.9モル%以下であることが好ましく、より好ましくは99.5モル%以下である。
ニッケルは導電性の観点から金属状態で存在することが好ましいが、ニッケル酸化物や、他の元素との合金や複合酸化物、または水酸化物や、硫化物やリン化物といった他の化合物が含まれていてもよい。
ここで、本明細書において、「主成分」とは、層全体の質量(100質量%)に対して、該成分を80質量%以上(好ましくは85質量%以上)含むことをいう。
【0034】
本実施形態において、上記ニッケル触媒層中のニッケル原子及びコバルト原子の総モル数に対する、コバルト原子のモル割合が0.1モル%以上10モル%以下であることが一つの特徴である。本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、上記ニッケル触媒層中のコバルト原子のモル割合は、好ましくは0.1モル%以上5モル%以下、より好ましくは0.5モル%以上2モル%以下である。
ニッケル触媒層中のニッケル原子及びコバルト原子の総モル数に対する、ニッケル原子のモル割合又はコバルト原子のモル割合は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
上記ニッケル触媒層中に含まれるコバルトの存在状態は限定されず、金属コバルトやコバルト酸化物といった状態でよい。
本実施形態において、ニッケル触媒層に電子導電性の高いコバルト化合物がニッケル化合物と隣接して存在することにより、ニッケル化合物の酸素発生の活性点が増加するため、酸素発生過電圧が一層低い電極が得られる。そのため、本実施形態の陽極をアルカリ水電解用電解セルに適合させることにより、一層低電圧での水電解が可能になる。
電子導電性が高いコバルト化合物とニッケル化合物が隣接することで、ニッケル化合物の酸素発生の活性点が増加する理由は以下である。即ち、ニッケル化合物の、アルカリ溶液中の水酸化物イオンから、電子を抜き取るような、液相から固相への電子授受は、白金族などと遜色がないほど円滑である。しかしながら、固体中の電子導電性が乏しいため、基材と触媒、或いは、触媒と触媒粒子間、即ち、固体中から固体への電子授受は円滑ではない。
一方、コバルト化合物は、電子伝導性が高いため、固体から固体への電子授受に関しては、ニッケルの数10倍から100倍円滑である。そのため、ニッケル触媒層中にコバルト化合物を適量混ぜると、固体中の電子導電性が乏しいニッケルの電子授受を、電子伝導性が高いコバルト化合物によって補うことが出来る。その結果、ニッケル化合物の利用効率が高くなり、触媒としての機能を高めることができる。
しかし、コバルト酸化物は、アルカリ溶液に対してわずかではあるが溶解性を有するため、コバルト酸化物の割合が多すぎると触媒層の溶解が進行し、最終的には触媒層が脱落し、酸素過電圧が上昇してしまう場合がある。また、自然エネルギーのような供給が不安定なエネルギー源を用いて、電解を行う場合、電解の停止や再開によって、電解液に溶解したコバルトが電解セル中で析出し得る。この際、析出したコバルトもしくはコバルト化合物が、電解液もしくは発生ガスの流路配管や、電解セルを構成する隔膜といった他の部材に付着して、電解液の流れを阻害することで、セル電圧が大きく上昇し、電解効率が大幅に低下してしまう場合がある。
本発明者らは、ニッケル触媒層にコバルトを含有させる際に、ニッケル原子とコバルト原子のモル比を調整することによって、コバルトによるニッケルの利用効率を高める効果を保持しつつも、電解セルに組み込んで使用した場合も長時間運転に耐えうる高い耐久性を有する組成があることを見出した。即ち、ニッケル化合物のモル比を、コバルトの効果を損なわない程度に大きくする。その結果、アルカリに対する化学的な安定性が高いニッケル化合物が触媒層の骨格を形成する支持体として機能するため、コバルトが若干溶解しても、触媒層全体の脱落は生じにくくなる。
【0036】
本実施形態において、上記ニッケル触媒層の厚みが、50μm以上800μm以下であることが一つの特徴である。ニッケル触媒層の厚みは、厚すぎると電気抵抗が増加し過電圧を上昇させる場合があり、逆に薄すぎると長期間の電解や電解の停止によりニッケル触媒層が脱落などにより減耗することで電極が劣化し、過電圧が上昇する場合がある。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、ニッケル触媒層の厚みは、好ましくは100μm以上500μm以下、より好ましくは100μm以上300μm以下である。
なお、ニッケル触媒層の厚みは、例えば電子顕微鏡にて電極の断面を観察することにより測定できる。具体的には、電子顕微鏡で、電極の断面を観察し、触媒層の厚みを5点測定した値の平均値を触媒層の厚みとする。
【0037】
本実施形態において、上記ニッケル触媒層中のニッケルの(111)面によって回折されるX線のピーク強度をI
Ni、酸化ニッケルの(012)面によって回折されるX線のピーク強度をI
NiOとしたとき、[I
NiO/(I
Ni+I
NiO)]×100の値が0以上15以下の範囲であることが一つの特徴である。
上記ニッケル触媒層中のニッケル酸化物の割合が多いと、触媒層の電気抵抗が低く、酸素発生を行う際の電圧ロスが小さくなる。上記ニッケル触媒層中の酸化ニッケルの部分では、導電性が低下するが、酸素発生反応も起き難い。また、酸化ニッケルは比較的化学的に安定であるため、ニッケル触媒層が酸化ニッケルを含有することは、ニッケル触媒層の強度を維持するには有効な場合がある。なお、I
Ni及びI
NiOは、ニッケル触媒層についてのXRD(X−Ray Diffraction)の測定結果から求めることができ、具体的には、後述の実施例の方法で測定することができる。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、[I
NiO/(I
Ni+I
NiO)]×100の値は、5以下であることがより好ましく、さらに好ましくは3以下である。
【0038】
本実施形態において、上記ニッケル触媒層の比表面積が1.0m
2/g以上10.0m
2/g以下であることが一つの特徴である。本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、上記ニッケル触媒層の比表面積は、2.0m
2/g以上5.0m
2/g以下であることが好ましく、より好ましくは2.0m
2/g以上4.5m
2/g以下である。
ニッケル触媒層の比表面積が1.0m
2/g未満であると、単位面積当たりの反応活性点が少なくなるので、低い過電圧が得られない場合がある。一方、ニッケル触媒層の比表面積が10.0m
2/g超であると、触媒層の機械的強度が低下し、耐久性が低下する場合がある。
【0039】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、上記ニッケル触媒層は細孔が形成されていることが好ましい。
上記ニッケル触媒層中には形成される細孔のうち、孔径が2〜5nmである第一細孔の比表面積は0.6〜2.0m
2/gであることが好ましい。また、上記第一細孔の細孔容積は3×10
−4〜9×10
−4ml/gであることが好ましい。
上記ニッケル触媒層中には形成される細孔のうち、孔径が0.01〜2.00μmの範囲内である第二細孔の比表面積は2.0〜5.0m
2/gであることが好ましい。また、上記第二細孔の細孔容積は、0.04〜0.2ml/gであることが好ましい。
【0040】
孔径が0.01〜2.00μmの範囲内である上記第二細孔は、比表面積は小さいが、細孔容量が大きいため、上記第一細孔は、第二細孔の内部に存在することになる。上記第一細孔は、ニッケル触媒層の表面積を非常に大きくする。上記第一細孔の表面は、水酸化物イオンの酸化反応(酸素の生成反応)の反応場(反応界面)として機能する。上記第一細孔の内部では、酸素発生の際に水酸化ニッケルが生成され、そのため細孔を更に小さくしてしまうと予想される。しかし、上記第一細孔は孔径が大きな上記第二細孔の内部に存在するため、電解する際に第一細孔内で発生する酸素が第二細孔を通じて触媒層の外へ抜けやすく、電解を阻害しにくい。そのため、本実施形態では酸素発生過電圧が高くならないと推定される。
【0041】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、上記第一細孔の比表面積は、より好ましくは0.6〜1.5m
2/g、更に好ましくは0.6〜1.0m
2/gである。また、上記第一細孔の比表面積は0.62〜0.98m
2/gであってもよい。一般的には第一細孔の比表面積の増加に伴い、酸素発生電位が低くなると考えられる。ただし、第一細孔が小さすぎると酸素発生時に生成する水酸化ニッケルにより第一細孔が完全に埋まり、第一細孔の実質的な表面積が少なくなる傾向がある。第一細孔の比表面積が減少すると、触媒層全体の表面積も減少する傾向がある。ニッケル触媒層全体の表面積の減少に伴い、酸素発生電位が上昇する傾向がある。
【0042】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、上記第一細孔の細孔容積は、より好ましくは3.3×10
−4〜8.5×10
−4ml/g、更に好ましくは3.6×10
−4〜7.9×10
−4ml/gである。第一細孔の細孔容積の増加に伴い、比表面積が減少する傾向がある。第一細孔の細孔容積の減少に伴い、比表面積が増加する傾向がある。
【0043】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、上記第二細孔の比表面積は、より好ましくは2.0〜4.5m
2/g、更に好ましくは2.0〜4.0m
2/gである。第二細孔の比表面積の増加に伴い容積が減少する傾向がある。第二細孔の比表面積の低下に伴い細孔容積が増加する傾向がある。
【0044】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)において、上記第二細孔の細孔容積は、より好ましくは0.04〜0.15ml/g、更に好ましくは0.04〜0.1ml/g、特に好ましくは0.04〜0.09ml/gである。第二細孔の細孔容積の増加に伴い、ニッケル触媒層内で発生した酸素ガスの脱泡が進行し易い傾向がある。第二細孔の細孔容積の減少に伴い、ニッケル触媒層からのガス抜けが阻害され酸素発生過電圧が高くなる傾向があるが、機械的強度は高まる傾向がある。
【0045】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)では、過電圧と耐久性の観点から、アルカリ水電解用陽極の電気二重層容量は、好ましくは0.3F/cm
2以上10.0F/cm
2以下であり、より好ましくは0.5F/cm
2以上5.0F/cm
2以下である。
ここで、電気二重層容量は、例えば電気化学インピーダンス法により測定することができる。交流インピーダンス測定により得られた実部と虚部をプロットしたCole−Coleプロットに対して、等価回路フィッティングにより解析することで、電気二重層容量を算出する。具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0046】
ニッケル多孔基材上にニッケル触媒層を形成させる方法は特に限定されないが、めっき法やプラズマ溶射法、基材上に前駆体層溶液を塗布した後に熱を加える熱分解法、触媒物質をバインダー成分と混合して基材に固定化する方法、および、スパッタリング法などの真空成膜法といった手法が挙げられる。
中でも、プラズマ溶射法は好ましい手法である。プラズマ溶射法によって得られるコーティング層(触媒層)は、多孔質であり、強度が強く、基材との高い密着性を示す。
【0047】
プラズマ溶射法の原料は、金属、金属酸化物の粉末が好ましく用いられる。金属酸化物の粉末を原料に用いる場合、スプレードライ法により調製することもできる。平均粒径が0.2μm〜5.0μm(例えば、1.0〜5.0μm、0.2〜2μmであってもよい)である金属酸化物粉末を噴霧乾燥造粒機により造粒し、平均粒径が5〜100μm(例えば、10〜100μm、5〜50μmであってもよい)である金属酸化物粒子を得る。この金属酸化物粒子をプラズマガスなどの高温のガス中に吹き込み、溶融させて、ニッケル多孔基材等の基材に吹き付ける。つまり、基材を溶融した金属酸化物でコーティングする。造粒する前の金属酸化物の粒径が大きすぎても、小さすぎても、電極を形成した際に必要な孔径や比表面積、細孔容量が得られない。造粒前の金属酸化物粉末の平均粒径は0.2〜5.0μmであることが好ましく、0.2〜2.0μmであることがより好ましい。
【0048】
本実施形態において、上記プラズマ溶射法の原料として用いられる金属もしくは金属酸化物の粉末は、少なくともニッケルおよびコバルトを含む。ニッケル及びコバルトは、酸化ニッケル、酸化コバルトであってもよい。その他の材料を原料に加えてもよい。他の材料としては、チタン、クロム、モリブデン、コバルト、マンガン、鉄、タンタル、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、白金族および希土類元素などからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属もしくは金属酸化物の粉末等が挙げられる。さらに、導電性基材に吹き付ける前の酸化ニッケル粒子に、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースおよびラウリル硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤を混ぜてもよい。
【0049】
プラズマ溶射法としては、アセチレンなどの可燃性ガスと酸素の燃焼熱で溶射原料を溶融する方法、溶射法に用いる溶射原料を棒状に加工し、可燃性ガスを燃焼した熱で溶融した素材を燃焼ガスで吹き付ける方法、アルゴン、水素、窒素、ヘリウム、又はこれらの混合物などのガスを加熱して得たプラズマガスで溶射原料を溶融する方法等がある。その中では、窒素またはアルゴンに水素を混ぜたガスをプラズマ化して、プラズマで溶射原料を溶融するプラズマ溶射法が好ましい。プラズマガスの速度が音速を超える程度に大きく、ガスの温度が5000℃以上である。そのため、融点の高い溶射原料を溶融することができ、溶融した溶射原料を高速で基材に付着させることができる。その結果、緻密で強度の強いニッケル触媒層等のコーティング層を形成することが可能になる。プラズマ溶射法を用いた場合、原料粉末のコーティング速度が速いため、10〜1000μmの厚みを有するニッケル触媒層等のコーティング層を比較的短時間で形成することができる。プラズマ溶射法では、その条件にもよるが、溶融した原料粉末の粒子が導電性基材上に積層する過程で粒子間に形成される細孔が、他の溶射法を用いた場合に比べ緻密になりやすい。水素を含むプラズマガスを用いた溶射法で金属酸化物を基材に吹き付ける場合、コーティングの一部が還元されやすく、コーティング層の導電性が増し、導電性に優れた電極を製造することが可能となる。
【0050】
プラズマ溶射法によって形成されたニッケル触媒層等のコーティング層を、水素気流下で還元することにより、ニッケル触媒層等のコーティング層に細孔を形成することもできる。
プラズマ溶射法によって形成されたニッケル触媒層等のコーティング層を水素で還元する際の温度は重要である。還元の温度が高すぎる場合、還元により生じた細孔が熱によりつぶされて、期待する細孔、比表面積および細孔容量が得られない場合がある。また還元温度が低すぎると、金属酸化物の還元が進まない。例えば、金属酸化物として酸化ニッケルを用いる場合、水素による金属酸化物層の還元温度としては、180〜300℃が好ましく、180〜250℃が特に好ましい。
ニッケル触媒層等のコーティング層は電解によって還元してもよい。
【0051】
(アルカリ水電解用電解槽)
図1に、本実施形態のアルカリ水電解用陽極を備える複極式電解セルを含む複極式電解槽の一例の全体についての側面図を示す。
図2に、本実施形態のアルカリ水電解用陽極を備える複極式電解セルを含む複極式電解槽の一例のゼロギャップ構造の図(
図1に示す破線四角枠の部分の断面図)を示す。
本実施形態の複極式電解槽50は、
図1、2に示すように、陽極2aと、陰極2cと、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1と、隔壁1を縁取る外枠3とを備える複数のエレメント60が隔膜4を挟んで重ね合わせられている複極式電解槽であることが好ましい。
【0052】
本実施形態の電解槽は、単極式であっても、複極式であってもよく、隔膜を介して複極式エレメントがスタックされたアルカリ水電解用複極式電解槽であることが好ましい。
単極式とは、1又は複数のエレメントそれぞれを直接電源に接続する方法であり、並列に並べた各エレメントの陽極に隔膜を挟んで陰極ターミナルエレメントを設け、陰極に隔膜を挟んで陽極ターミナルエレメントを設け、各ターミナルエレメントに電源をつなぐ並列回路である。
複極式とは、多数の複極式エレメントを電源に接続する方法の1つであり、片面が陽極、片面が陰極となる複数の複極式エレメントを同じ向きに並べて直列に接続し、両端のみを電源に接続する方法である。
複極式電解槽は、電源の電流を小さくできるという特徴を持ち、電解により化合物や所定の物質等を短時間で大量に製造することができる。電源設備は出力が同じであれば、定電流、高電圧の方が安価でコンパクトになるため、工業的には単極式よりも複極式の方が好ましい。
【0053】
本実施形態では、
図1に示すとおり、複極式電解槽50は複極式エレメント60を必要数積層することで構成されている。
図1に示す一例では、複極式電解槽50は、一端からファストヘッド51g、絶縁板51i、陽極ターミナルエレメント51aが順番に並べられ、更に、陽極側ガスケット部分、隔膜4、電陰極側ガスケット部分、複極式エレメント60が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント60は陽極ターミナルエレメント51a側に陰極2cを向けるよう配置する。陽極ガスケットから複極式エレメント60までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極ガスケットから複極式エレメント60までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分、隔膜4、電陰極側ガスケット部分を並べて配置し、最後に陰極ターミナルエレメント51c、絶縁板51i、ルーズヘッド51gをこの順番で配置される。複極式電解槽50は、全体をタイロッド51rで締め付けることによりー体化され、複極式電解槽50となる。
複極式電解槽50を構成する配置は、陽極側からでも陰極側からでも任意に選択でき、上述の順序に限定されるものではない。
【0054】
図1に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置され、隔膜4は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、及び複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
【0055】
本実施形態の複極式電解槽50では、
図2に示すとおり、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触してゼロギャップ構造Zが形成されている。
本実施形態では、特に、複極式電解槽50における、隣接する2つの複極式エレメント60間の互いの隔壁1間における部分、及び、隣接する複極式エレメント60とターミナルエレメントとの間の互いの隔壁1間における部分、を電解セル65と称する。電解セル65は、隔膜4、一方のエレメントの隔壁1、陽極室5a、及び陽極2a、並びに他方のエレメントの陰極2c、陰極室5c及び隔壁1を含む。
本実施形態の複極式電解セルは、本実施形態のアルカリ水電解用陽極を含むことが好ましい。
【0056】
アルカリ水電解において、隔膜4と、陽極2aや陰極2cとの間に隙間がある場合、この部分には電解液の他に電解で発生した大量の気泡が滞留することで、電気抵抗が非常に高くなる。電解セル65における大幅な電解電圧の低減を図るためには、陽極2aと陰極2cの間隔(以下、「極間距離」ともいう。)をできるだけ小さくして、陽極2aと陰極2cの間に存在する電解液や気泡の影響をなくすことが効果的である。
【0057】
そこで、電極全面にわたり、陽極2aと隔膜4とが互いに接触し、且つ、陰極2cと隔膜4とが互いに接触している状態、又は、電極全面にわたり、極間距離が隔膜4の厚みとほぼ同じとなる距離で、陽極2aと隔膜4との間及び陰極2cと隔膜4との間に隙間のほとんど無い状態、に保つことのできる、ゼロギャップ構造が採用される。
【0058】
また、複極式電解槽50では、
図2に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
なお、
図1〜
図2に示す複極式電解槽50に取り付けられる、電解液を配液又は集液する管であるヘッダー管の配設態様として、代表的には、内部ヘッダー型と外部ヘッダー型とがあるが、本発明では、いずれの型を採用してもよく、特に限定されない。
【0059】
以下、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解セル、複極式電解槽の構成要素について詳細に説明する。
また、以下では、本発明の効果を高めるための好適形態についても詳述する。
【0060】
−隔壁−
上記隔壁1は、陰極2cと陽極2aとの間であって、陽極2aと陰極集電体2rとの間及び/又は陰極2cと陽極集電体2rとの間に設けられることが好ましい。
本実施形態における隔壁の形状は、所定の厚みを有する板状の形状としてよいが、特に限定されない。
【0061】
隔壁のサイズとしては、特に限定されることはなく、電極室のサイズに応じて適宜設計されてよい。
【0062】
隔壁の材料としては、電力の均一な供給を実現する観点から、高い導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0063】
−陰極−
陰極のサイズとしては、特に限定されることなく、電極室のサイズに合わせて定められてよく、縦:0.4m〜4.0m、横:0.4m〜6.0m、厚さ:0.1mm〜3mmとしてよい。
【0064】
本実施形態の複極式電解セルにおける陰極としては、電解に用いられる表面積を増加させるため、また、電解により発生するガスを効率的に電極表面から除去するために、陰極が多孔体であることがより好ましい。特に、ゼロギャップ電解槽の場合、隔膜との接触面の裏側から発生するガスを脱泡する必要があるため、電極の膜に接する面と反対に位置する面が、貫通していることが好ましい。
【0065】
多孔体の例としては、平織、綾織等のメッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金属発泡体等が挙げられる。
【0066】
基材の材料は、特に制限されないが、使用環境への耐性から、軟鋼、ステンレス、ニッケル、ニッケル基合金が好ましい。
【0067】
陰極の触媒層は、水素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、あるいはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。具体的には、ラネーニッケルや、ニッケルとアルミニウム、あるいはニッケルと錫等の複数の材料の組み合わせからなるラネー合金、ニッケル化合物やコバルト化合物を原料として、プラズマ溶射法により作製した多孔被膜、ニッケルと、コバルト、鉄、モリブデン、銀、銅等から選ばれる元素との合金や複合化合物、水素発生能が高い白金やルテニウム等の白金族元素の金属や酸化物、及び、それら白金族元素の金属や酸化物と、イリジウムやパラジウム等の他の白金族元素の化合物やランタンやセリウム等の希土類金属の化合物との混合物、グラフェン等の炭素材料等が挙げられる。高い触媒活性や耐久性を実現するために、上記の材料を複数積層してもよく、触媒層中に複数混在させてもよい。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子材料等の有機物が含まれていてもよい。
【0068】
基材上に触媒層を形成させる方法としては、めっき法やプラズマ溶射法、基材上に前駆体層溶液を塗布した後に熱を加える熱分解法、触媒物質をバインダー成分と混合して基材に固定化する方法、及び、スパッタリング法等の真空成膜法といった手法が挙げられる。
【0069】
陰極の比表面積(基材を含む陰極全体の比表面積)が小さいと、単位面積当たりの反応活性点が少なくなるので、低い過電圧が得られない場合がある。一方、陰極の比表面積が大き過ぎると触媒層の機械的強度が低下し、耐久性が低下する場合がある。そのため、本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)においては、陰極の比表面積は0.001m
2/g以上、1m
2/g以下が好ましく、より好ましくは、0.005m
2/g以上、0.1m
2/g以下である。
上記陰極の比表面積は例えばBET法を用いて測定することができる。測定試料を専用セルに入れ、加熱真空排気を行うことにより前処理を行い、細孔表面への吸着物を予め取り除く。その後、−196℃で測定サンプルへのガス吸着の吸脱着等温線を測定する。得られた吸脱着等温線をBET法で解析することにより、測定サンプルの比表面積を求めることができる。
【0070】
電極表面で電解に使用される面積は、電極と電解液との界面で形成される電気二重層の容量を測定することで、疑似的に求めることができる。
なお、二重層容量は例えば電気化学インピーダンス法により測定することができる。交流インピーダンス測定により得られた実部と虚部をプロットしたCole−Coleプロットに対して、等価回路フィッティングにより解析することで、二重層容量を算出する。
【0071】
電極の被膜抵抗が高すぎると、高いエネルギー効率を得るために電流密度が高い条件で電解する際に過電圧が上昇するため、その被膜抵抗は2Ω・cm
2以下が好ましく、より好ましくは0.5Ω・cm
2以下である。
なお、被膜抵抗は例えば電気化学インピーダンス法により測定することができる。交流インピーダンス測定により得られた実部と虚部をプロットしたCole−Coleプロットに対して、等価回路フィッティングにより解析することで、被膜抵抗を算出する。
【0072】
−外枠−
本実施形態の複極式電解セルにおける外枠3の形状は、隔壁1を縁取ることができる限り特に限定されないが、隔壁1の平面に対して垂直な方向に沿う内面を隔壁1の外延に亘って備える形状としてよい。
外枠の形状としては、特に限定されることなく、隔壁の平面視形状に合わせて適宜定められてよい。
外枠の寸法としては、特に限定されることなく、電極室の外寸に応じて設計されてよい。
【0073】
外枠の材料としては、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0074】
−隔膜−
本実施形態の複極式電解セル65において用いられる隔膜4としては、イオンを導通しつつ、発生する水素ガスと酸素ガスを隔離できる膜であれば、特に限定はされず、イオン交換膜や多孔質膜といったイオン透過性の隔膜が使用される。膜厚を薄くすることで、電極間距離を小さくすることが可能になり、電解液由来の抵抗を減らすことで電解効率高めることができるため、特に、多孔質膜が好ましく用いられる。
【0075】
多孔質膜は、複数の微細な貫通孔を有し、隔膜を電解液が透過できる構造を有する。電解液が多孔質膜中に浸透することにより、イオン伝導を発現するため、孔径や気孔率、親水性といった多孔構造の制御が非常に重要となる。一方、電解液だけでなく、発生ガスを通過させないこと、すなわちガスの遮断性を有することが求められる。この観点でも多孔構造の制御が重要となる。
【0076】
多孔質膜は、複数の微細な貫通孔を有するものであるが、高分子多孔質膜、無機多孔質膜、織布、不織布等が挙げられる。これらは公知の技術により作製することができる。
高分子多孔質膜の製法例としては、相転換法(ミクロ相分離法)、抽出法、延伸法、湿式ゲル延伸法等が挙げられる。無機多孔質膜の製法例としては、焼結法等が挙げられる。
【0077】
多孔質膜は、高分子材料と親水性無機粒子とを含むことが好ましく、親水性無機粒子が存在することによって多孔質膜に親水性を付与することができる。
【0078】
−−−高分子材料−−−
高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、であることが好ましく、ポリスルホンであることがより好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
高分子材料として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンを用いることで、高温、高濃度のアルカリ溶液に対する耐性が一層向上する。
また、例えば、非溶媒誘起相分離法等の方法を用いることで、隔膜を一層簡便に製膜することができる。特にポリスルホンであれば、孔径を一層精度よく制御することができる。
【0080】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンは架橋処理が施されていてもよい。かかる架橋処理が施されたポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンの重量平均分子量は、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として、4万以上15万以下であることが好ましい。架橋処理の方法は、特に限定されないが、電子線やγ線等の放射線照射による架橋や架橋剤による熱架橋等が挙げられる。なお、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量はGPCで測定することができる。
【0081】
上記高分子材料は、市販品を用いることもできる。ポリスルホンとしては、例えば、BASF社の「Ultrason S PSU(登録商標、以下同様)」、ソルベイアドバンストポリマーズ社の「ユーデル(登録商標)」等が挙げられる。ポリエーテルスルホンとしては、例えば、BASF社の「Ultrason E PES(登録商標)」、ソルベイアドバンストポリマーズ社の「レーデル A(登録商標)」等が挙げられる。ポリフェニルスルホンとしては、例えば、BASF社の「Ultrason P PPSU(登録商標、以下同様)」、ソルベイアドバンストポリマーズ社の「レーデル R(登録商標)」等が挙げられる。ポリフェニレンサルファイドとしては、例えば、東レ社の「トレリナ(登録商標)」等が挙げられる。ポリテトラフルオロエチレンとしては、三井デュポンフロロケミカル社の「テフロン(登録商標)」、ダイキン社の「ポリフロン(登録商標)」、旭硝子社の「フロオン(登録商標)」等が挙げられる。
【0082】
多孔質膜は、分離能、強度等適切な膜物性を得る為に、孔径を制御することが好ましい。また、アルカリ水電解に用いる場合、陽極から発生する酸素ガス及び陰極から発生する水素ガスの混合を防止し、かつ電解における電圧損失を低減する観点から、多孔質膜の孔径を制御することが好ましい。
多孔質膜の平均透水孔径が大きい程、単位面積あたりの多孔質膜透過量は大きくなり、特に、電解においては多孔質膜のイオン透過性が良好となり、電圧損失を低減しやすくなる傾向にある。また、多孔質膜の平均透水孔径が大きい程、アルカリ水との接触表面積が小さくなるので、ポリマーの劣化が抑制される傾向にある。
一方、多孔質膜の平均透水孔径が小さい程、多孔質膜の分離精度が高くなり、電解においては多孔質膜のガス遮断性が良好となる傾向にある。さらに、後述する粒径の小さな親水性無機粒子を多孔質膜に担持した場合、欠落せずしっかりと保持することができる。これにより、親水性無機粒子が持つ高い保持能力を付与でき、長期に亘ってその効果を維持することができる。
【0083】
本実施形態の複極式電解セルの隔膜としての多孔質膜においては、平均透水孔径は、0.1μm以上1.0μm以下、かつ/または最大孔径は0.1μmよりも大きく2.0μm以下の範囲であることが好ましい。多孔質膜は、孔径がこの範囲であれば、優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを両立することができる。また、多孔質膜の孔径は実際に使用する温度域において制御されることが好ましい。従って、例えば90℃の環境下での電解用隔膜として使用する場合は、90℃で上記の孔径の範囲を満足させることが好ましい。また、多孔質膜は、アルカリ水電解用隔膜として、より優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを発現できる範囲として、平均透水孔径が0.1μm以上0.5μm以下、かつ/または最大孔径が0.5μm以上1.8μm以下であることがより好ましい。
【0084】
多孔質膜の平均透水孔径と最大孔径とは、以下の方法で測定することができる。
多孔質膜の平均透水孔径とは、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP−Plus」)を使用して以下の方法で測定した平均透水孔径をいう。まず、多孔質膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを任意の耐圧容器にセットして、容器内を純水で満たす。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度(例えば、90℃)になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から純水が透過してくる際の圧力及び透過流量の数値を記録する。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量との勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めることができる。
平均透水孔径(m)={32ηLμ
0/(εP)}
0.5
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは多孔質膜の厚み(m)、μ
0は見かけの流速であり、μ
0(m/s)=流量(m
3/s)/流路面積(m
2)である。また、εは空隙率、Pは圧力(Pa)である。
【0085】
多孔質膜の最大孔径は、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP−Plus」)を使用して以下の方法で測定することができる。まず、多孔質膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを純水で濡らし、多孔質膜の孔内に純水を含浸させ、これを測定用の耐圧容器にセットする。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から気泡が連続して発生してくるときの窒素圧力を、バブルポイント圧力とする。最大孔径はヤング−ラプラスの式を変形させた下記バブルポイント式から求めることができる。
最大孔径(m)=4γcosθ/P
ここで、γは水の表面張力(N/m)、cosθは多孔質膜表面と水の接触角(rad)、Pはバブルポイント圧力(Pa)である。
【0086】
本実施形態において、特に多孔質膜の表面の孔が小さいと、電極から溶解、析出したコバルトもしくはコバルト化合物が、多孔質表面に付着し、孔を閉塞することで、電解液の流れを阻害することで、セル電圧が大きく上昇し、電解効率が大幅に低下してしまうことが懸念される。そのため、表面の平均孔径は0.5μm以上5μm以下が好ましく、1μm以上3μm以下がより好ましい。
表面の平均孔径は、例えば、多孔質膜表面のSEM画像を、画像解析ソフトを用いて2値化することで求めることができる。
【0087】
多孔質膜の孔径を制御する方法としては、例えば、多孔質膜の製造方法等が挙げられる。
【0088】
多孔質膜の厚みは、特に限定されないが、60μm以上700μm以下であることが好ましく、200μm以上700μm以下であることがより好ましい。多孔質膜の厚みが、250μm以上であれば、一層優れたガス遮断性が得られ、また、衝撃に対する多孔質膜の強度が一層向上する。この観点より、多孔質膜の厚みの下限は、300μm以上であることがより好ましく、350μm以上であることが更に好ましく400μm以上でることがより一層好ましい。一方で、多孔質膜の厚みが、700μm以下であれば、運転時に孔内に含まれる電解液の抵抗によりイオンの透過性を阻害されにくく、一層優れたイオン透過性を維持すことができる。かかる観点から、多孔質膜の厚みの上限は、600μm以下であることがより好ましく、550μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることがより一層好ましい。特に、高分子樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである場合に、かかる効果は一層向上する。
【0089】
−−−親水性無機粒子−−−
多孔質膜は、高いイオン透過性及び高いガス遮断性を発現するために親水性無機粒子を含有していることが好ましい。親水性無機粒子は多孔質膜の表面に付着していても良いし、一部が多孔質膜を構成する高分子材料に埋没していても良い。また親水性無機粒子が多孔質膜の空隙部に内包(包埋)されると、多孔質膜から脱離しにくくなり、多孔質膜の性能を長時間維持できる。
【0090】
親水性無機粒子としては、例えば、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、ビスマス、セリウム等の酸化物又は水酸化物;周期律表第IV族元素の酸化物;周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性の観点から、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、ビスマス、セリウムの酸化物又は水酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物がより好ましく、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、ビスマス、セリウムの酸化物が更に好ましい。その中でも、親水性が特に優れている酸化ジルコニウムがより更に好ましく用いられる。親水性無機粒子の粒子表面は、極性を帯びている。水溶液である電解液内における、極性の小さな酸素分子や水素分子と、極性の大きな水分子との親和性等を踏まえると、極性の大きな水分子の方が親水性無機粒子と吸着し易いとと考えられる。よって、このような親水性無機粒子が膜表面に存在することで、膜表面には水分子が優先的に吸着し、酸素分子や水素分子等の気泡は膜表面に吸着しない。その結果、隔膜(例えば、多孔質膜)の表面への気泡の付着を効果的に抑制することができる。但し、本実施形態の作用効果はこれらに限定されない。
酸化ジルコニウムの隔膜(例えば、多孔質膜)からの脱落を抑えるために、酸化ジルコニウムに加えて、親水性を有し、かつ、化学的安定性に特に優れた酸化ニッケルや酸化コバルトといったニッケル原子及び/又はコバルト原子を含む化合物をさらに含有してもよい。
ニッケル原子及び/又はコバルト原子を含む化合物は、電極や集電体などのエレメントの構成材料に含まれるニッケル原子やコバルト原子が、電解液に触れることで極微量ながら溶解し、析出物として多孔質膜表面等の隔膜に付着することもある。
この場合、付着量が多過ぎると、隔膜の孔(例えば、多孔質膜の孔)を閉塞することで、電解液の流路が減少し、電解時のセル電圧が上昇することで、電解効率を低下させてしまう恐れがある。そのため、隔膜(特に多孔質膜)の表面のニッケル原子濃度とコバルト原子濃度との合計は、0.01〜1.0原子%が好ましい。より好ましくは0.02〜1.0原子%であり、さらに好ましくは0.05〜0.08原子%である。隔膜や多孔質膜の表面のニッケル原子濃度とコバルト原子濃度は、乾燥させた隔膜や多孔質膜の表面を、蛍光X線法を用いて解析することで求めることができる。上記ニッケルとコバルトの表面濃度は、電解後の表面濃度であってよく、後述の実施例9、比較例5に記載の条件の電解後の表面濃度であってもよい。
ニッケル原子濃度とコバルト原子濃度との上記合計は、上記隔膜の少なくとも一方の表面において上記範囲を満たせばよく、両表面が上記範囲を満たしていてもよいし、一方の表面が上記範囲を満たしていてもよい。中でも、陽極側表面が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0091】
−−多孔性支持体−−
隔膜として多孔質膜を用いる場合、多孔質膜は多孔性支持体と共に用いてよい。好ましくは、多孔質膜が多孔性支持体を内在した構造であり、より好ましくは、多孔性支持体の両面に多孔質膜を積層した構造である。また、多孔性支持体の両面に対称に多孔質膜を積層した構造であってもよい。
【0092】
上記隔膜は、厚さ60μm以上600μm以下の多孔質膜であることが好ましい。多孔質膜の厚さが60μm以上であると、隔膜が破れにくくなる。また、600μm以下であると、過電圧が高くなりすぎず、低過電圧とすることができる。上記隔膜の厚さは、より好ましくは100μm以上500μm以下、更に好ましくは300μm以上500μm以下である。
【0093】
((ゼロギャップ構造))
ゼロギャップ型電解セル65では、極間距離を小さくする手段として、電極2と隔壁1との間に弾性体2eであるバネを配置し、このバネで電極を支持する形態をとることが好ましい。例えば、第1の例では、隔壁1に導電性の材料で製作されたバネを取り付け、このバネに電極2を取り付けてよい。また、第2の例では、隔壁1に取り付けた電極リブ6にバネを取り付け、そのバネに電極2を取り付けてよい。なお、このような弾性体を用いた形態を採用する場合には、電極が隔膜に接する圧力が不均一にならないように、バネの強度、バネの数、形状等必要に応じて適宜調節する必要がある。
【0094】
また弾性体を介して支持した電極の対となるもう一方の電極の剛性を強くすること(例えば、陽極の剛性を陰極の剛性よりも強くすること)で、押しつけても変形の少ない構造としている。―方で、弾性体を介して支持した電極については、隔膜を押しつけると変形する柔軟な構造とすることで、電解槽の製作精度上の公差や電極の変形等による凹凸を吸収してゼロギャップ構造を保つことができる。
【0095】
上記ゼロギャップ構造Zとしては、陽極ターミナルエレメント51aとエレメントとの間、エレメント間、エレメントと陰極ターミナルエレメント51cとの間に形成されるゼロギャップ構造が挙げられる。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解セル65では、
図2に示すように、陰極2cと隔壁1との間に、導電性弾性体2e及び陰極集電体2rが、導電性弾性体2eが陰極2cと陰極集電体2rとに挟まれるように、設けられていることが好ましい。また、陰極集電体2rは、陰極のリブ6と接していることが好ましい。
【0096】
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解セル65のゼロギャップ構造Zは、
図2に示すように、隔壁1の陽極2a側に陽極リブ6及び陽極2aがこの順に重ねられ、隔壁1の陰極2c側に陰極リブ6、陰極集電体2r、導電性弾性体2e及び陰極2cがこの順に重ねられた複極式エレメント60が、隔膜4を挟んで重ね合わせられた、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触する構造であることが好ましい。
【0097】
−集電体−
集電体としては、例えば、陰極集電体、陽極集電体が挙げられる。
集電体は、その上に積層される導電性弾性体や電極へ電気を伝えるとともに、それらから受ける荷重を支え、電極から発生するガスを隔壁側に支障なく通過させる役割がある。従って、この集電体の形状は、エキスパンドメタルや打ち抜き多孔板等が好ましい。この場合の集電体の開口率は、電極から発生した水素ガスを支障なく隔壁側に抜き出せる範囲であることが好ましい。しかし、あまり開口率が大きいと強度が低下する、或いは導電性弾性体への導電性が低下する等の問題が生ずる場合があり、小さすぎるとガス抜けが悪くなる場合がある。
【0098】
集電体の材質は、導電性と耐アルカリ性の面からニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、軟鋼等が利用できるが、耐蝕性の面からニッケル或いは軟鋼やステンレススチールニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0099】
−導電性弾性体−
導電性弾性体は、集電体と電極の間にあって集電体及び電極と接しており、電気を電極に伝えること、電極から発生したガスの拡散を阻害しないことが必須要件である。ガスの拡散が阻害されることにより、電気的抵抗が増加し、また電解に使用される電極面積が低下することで、電解効率が低下するためである。そして最も重要な役割は、隔膜を損傷させない程度の適切な圧力を電極に均等に加えることで、隔膜と電極とを密着させることである。
【0100】
−電極室−
本実施形態における複極式電解槽50では、
図2に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。ここで、隔壁1を挟んで陽極側の電極室5が陽極室5a、陰極側の電極室5が陰極室5cである。
【0101】
−リブ−
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解セル65では、リブ6が電極2と物理的に接続されていることが好ましい。かかる構成によれば、リブ6が電極2の支持体となり、ゼロギャップ構造Zを維持しやすい。また、リブ6は隔壁1と電気的につながっていることが好ましい。
前述の一例のアルカリ水電解用複極式電解セルでは、陰極室において、陰極リブ−陰極集電体−導電性弾性体−陰極の順に重ね合わせられた構造が採用され、陽極室において、陽極リブ−陽極の順に重ね合わせられた構造が採用されている。ただし、本発明ではこれに限定されることなく、陽極室においても「陽極リブ−陽極集電体−導電性弾性体−陽極」構造が採用されてもよい。
【0102】
リブ(陽極リブ、陰極リブ)には、陽極又は陰極を支える役割だけでなく、電流を隔壁から陽極又は陰極へ伝える役割を備えることが好ましい。
【0103】
リブの材料としては、一般的に導電性の金属が用いられる。例えば、ニッケルメッキを施した軟鋼、ステンレススチール、ニッケル等が利用できる。リブの材料は、特に隔壁と同じ材料であることが好ましく、特にニッケルであることが最も好ましい。
【0104】
−ガスケット−
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解セル65では、
図2に示すように、隔壁1を縁取る外枠3同士の間に、隔膜4と共にガスケット7が挟持されることが好ましい。
ガスケット7は、複極式エレメント60と隔膜4との間、複極式エレメント60間を電解液と発生ガスに対してシールするために使用され、電解液や発生ガスの電解槽外への漏れや両極室間におけるガス混合を防ぐことができる。
【0105】
ガスケットの一般的な構造としては、エレメント(複極式エレメント、陽極ターミナルエレメント、陰極ターミナルエレメント等)の枠体に接する面に合わせて、電極面をくり抜いた四角形状または環状である。このようなガスケット2枚で隔膜を挟み込む形でエレメント間に隔膜をスタックさせることができる。さらに、ガスケットは、隔膜を保持できるように、隔膜を収容することが可能なスリット部を備え、収容された隔膜がガスケット両表面に露出することを可能にする開口部を備えることも好ましい。これにより、ガスケットは、隔膜の縁部をスリット部内に収容し、隔膜の縁部の端面を覆う構造がとれる。したがって、隔膜の端面から電解液やガスが漏れることをより確実に防止できる。
【0106】
ガスケットの材質としては、特に制限されるものではなく、絶縁性を有する公知のゴム材料や樹脂材料等を選択することができる。
ゴム材料や樹脂材料としては、具体的には、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム(SR)、エチレン−プロピレンゴム(EPT)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)、イソブチレン−イソプレンゴム(IIR)、ウレタンゴム(UR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂材料や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアセタール等の樹脂材料を用いることができる。これらの中でも、弾性率や耐アルカリ性の観点でエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)が特に好適である。
【0107】
−ヘッダー−
アルカリ水電解用電解槽は、電解セル毎に、陰極室、陽極室を有することが好ましい。電解槽で、電気分解反応を連続的に行うためには、各電解セルの陰極室と陽極室とに電気分解によって消費される原料を十分に含んだ電解液を供給し続ける必要がある。
【0108】
電解セルは、複数の電解セルに共通するヘッダーと呼ばれる電解液の給排配管と繋がっている。一般に、陽極用配液管は陽極入口ヘッダー、陰極用配液管は陰極入口ヘッダー、陽極用集液管は陽極出口ヘッダー、陰極用集液管は陰極出口ヘッダーと呼ばれる。エレメントはホース等を通じて各電解液配液管及び各電解液集液管と繋がっている。
【0109】
ヘッダーの材質は特に限定されないが、使用する電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうるものを採用する必要がある。ヘッダーの材質に、鉄、ニッケル、コバルト、PTFE、ETFE、PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用しても良い。
【0110】
−内部ヘッダー−
内部ヘッダー型とは、複極式電解槽とヘッダー(電解液を配液又は集液する管)とが一体化されている形式をいう。
【0111】
内部ヘッダー型の例として、隔壁の端縁にある外枠のうちの下方に位置する部分の一部に、陽極入口ヘッダーと陰極入口ヘッダーとを備えており、また、同様に、隔壁の端縁にある外枠のうちの上方に位置する部分の一部に、陽極出口ヘッダーと陰極出口ヘッダーとを備えている。なお、外枠と、陽極室又は陰極室とは、電解液を通す電解液入口又は電解液出口でつながっている。
【0112】
−外部ヘッダー−
外部ヘッダー型とは、複極式電解槽とヘッダー(電解液を配液又は集液する管)とが独立している形式をいう。
【0113】
外部ヘッダー型複極式電解槽は、陽極入口ヘッダーと、陰極入口ヘッダーとが、電解槽の通電面に対し、垂直方向に、電解槽と並走する形で、独立して設けられる。この陽極入口ヘッダー、及び陰極入口ヘッダーと、各エレメントが、ホースで接続される。
【0114】
なお、内部ヘッダー型及び外部ヘッダー型の複極式電解槽において、その内部に電解によって発生した気体と、電解液を分離する気液分離ボックスを有してもよい。気液分離ボックスの取付位置は、特に限定されないが、陽極室と陽極出口ヘッダーとの間や、陰極室と陰極出口ヘッダーの間に取付けられてもよい。
【0115】
−電解液−
本実施形態の複極式電解槽内においては、陰極を取り付けた陰極室枠と、陽極を取り付けた陽極室枠とが、隔壁を介して配置されている。つまり、陽極室と陰極室とは隔壁によって区分されている。電解液は、この陽極室及び陰極室に供給される。
電解液としては、水電解に一般に使用されるものを使用することができる。例えば、水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。また、電解質濃度は1N以上12N以下が好ましく、6N以上10N以下がより好ましい。
【0116】
((水素の製造方法))
次に、本実施形態の複極式電解槽を用いたアルカリ水電解による水素の製造方法について説明する。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)においては、前述のような陽極及び陰極を備え、電解液が循環した複極式電解槽に電流を印加して水電解を行うことにより、陰極で水素を製造する。
本実施形態の水素の製造方法としては、アルカリを含有する水を電解槽により水電解し、水素を製造する水素製造方法であって、上記電解槽は、少なくとも陽極と陰極とを有し、上記陽極は、ニッケルとコバルトの総モル数に対してコバルトを0.1モル%以上10モル%以下含み、厚みが50μm以上800μm以下であるニッケル触媒層がニッケル多孔基材表面に形成された陽極であって、上記ニッケル触媒層中のニッケルの(111)面によって回折されるX線のピーク強度をI
Ni、酸化ニッケルの(012)面によって回折されるX線のピーク強度をI
NiOとしたとき、[I
NiO/(I
Ni+I
NiO)]×100の値が0以上15以下であり、上記ニッケル触媒層の比表面積が1.0m
2/g以上10.0m
2/g以下である方法が好ましい。
【0117】
このとき、電源として、例えば変動電源を用いることができる。変動電源とは、系統電力等の、安定して出力される電源と異なり、再生可能エネルギー発電所由来の数秒乃至数分単位で出力が変動する電源のことである。再生可能エネルギー発電の方法は特に限定されないが、例えば、太陽光発電や風力発電が挙げられる。
例えば、複極式電解槽を利用した電解の場合、電解液中のカチオン性電解質は、エレメントの陽極室から、隔膜を通過して、隣接するエレメントの陰極室へ移動し、アニオン性電解質はエレメントの陰極室から隔膜を通過して、隣接するエレメントの陽極室へ移動する。よって、電解中の電流は、エレメントが直列に連結された方向に沿って、流れることになる。つまり、電流は、隔膜を介して、一方のエレメントの陽極室から、隣接するエレメントの陰極室に向かって流れる。電解に伴い、陽極室内で酸素ガスが生成し、陰極室内で水素ガスが生成する。
【0118】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[16]の形態等)の複極式電解セル65は、複極式電解槽50、アルカリ水電解用電解装置70等に用いることができる。上記アルカリ水電解用電解装置70としては、例えば、本実施形態の複極式電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72と電解により消費した水を補給するための水補給器と、を有する装置等が挙げられる。
上記アルカリ水電解用電解装置は、さらに、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器79、圧力制御弁80等を備えてよい。
【0119】
上記アルカリ水電解用電解装置を用いたアルカリ水電解方法において、電解セルに与える電流密度としては、4kA/m
2〜20kA/m
2であることが好ましく、6kA/m
2〜15kA/m
2であることがさらに好ましい。
特に、変動電源を使用する場合には、電流密度の上限を上記範囲にすることが好ましい。
【0120】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態の陽極、複極式電解セル、水素の製造方法について例示説明したが、本発明の陽極、複極式電解セル、水素の製造方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0121】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0122】
(実施例1)
粒径が0.2〜2μmである酸化ニッケル粉末99.25質量部、粒径が0.2〜2μmである酸化コバルト0.75質量部、アラビアゴム2.25質量部、カルボキシルメチルセルロース0.7質量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.001質量部、及び水100質量部を混合・攪拌して、懸濁液を調製した。噴霧乾燥造粒機を用いて、懸濁液から、粒径が5〜50μmである造粒物を調製した。
【0123】
造粒物をプラズマ溶射法によってニッケル多孔基材の両面に吹き付けた。ニッケル多孔基材としては、SW3.0mm、LW4.5mm、厚み1.2mm、開口率54%のニッケルエキスパンドメタルを用意し、ブラスト処理を施した。プラズマ溶射法では、プラズマガスとして、アルゴンと窒素とを1:0.8の割合で混合したガス用いた。この電極を、石英管中に設置した。この石英管を、管状炉内に差し込んで、石英管内を200℃に加熱し、石英管内へ水素気流を2時間供給し続けることにより、触媒層を還元した。以上の工程により、ニッケル多孔基材表面にコバルトを含むニッケル触媒層が形成された水電解用陽極を得た。ニッケル触媒層の厚みは220μmであった。
【0124】
(実施例2〜8、比較例1、比較例3)
表1に示すコバルト比率で調製した造粒物を用い、ニッケル触媒層の厚みを変えたこと以外は、実施例1と同じ方法で水電解用陽極を作製した。
【0125】
(比較例2)
実施例1と同じ方法で調製した造粒成形物をプラズマ溶射法によってニッケル多孔基材の両面に吹き付けた。ニッケル多孔基材としては、SW3.0mm、LW4.5mm、厚み1.2mm、開口率54%のニッケルエキスパンドメタルを用意し、ブラスト処理を施して、水電解用陽極を得た。プラズマ溶射法では、プラズマガスとして、アルゴンと窒素とを1:0.8の割合で混合したガス用いた。以上の工程により、ニッケル多孔基材表面にコバルトを含むニッケル触媒層が形成された水電解用陽極を得た。ニッケル触媒層の厚みは220μmであった。
【0126】
作製した水電解用陽極の特性について下記のとおり分析した。結果を表1に示す。
【0127】
[(1)ニッケル触媒層中のコバルト原子のモル割合]
実施例、比較例で得られた陽極を縦2cm×横2cmに切断加工し、ペンチで捻じることで応力を加え、表面のニッケル触媒層を剥離させた。この触媒層を0.1g測り取り、王水で加熱溶解した。純水で50mlに定容し、ICP発光分光装置により金属元素の存在割合(質量部)を測定した。ICP発光分光装置はサーモフィッシャーサイエンティフック社製のiCAP6300Duoを使用した。ニッケルの質量部にニッケルのモル質量58.69を乗じた値を(A)とし、コバルトの質量部にコバルトのモル質量58.93を乗じた値を(B)とし、ニッケル原子及びコバルト原子の総モル数に対するコバルト原子のモル割合({B/(A+B)}×100)(モル%)を求めた。
【0128】
[(2)ニッケル触媒層の厚み]
水電解用陽極の小片を切り出し、エポキシ樹脂に包埋した後に、陽極の切断面をBIB加工装置(日立ハイテクノロジーズ社製「E3500」)を用いて、加速電圧6kVにて加工処理した。上記の切断面を、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製「S4800」)にて250倍の拡大率により観察し、断面写真を取得した。得られた断面写真から、金属酸化物の層の厚みを5点測定した値の平均値を金属酸化物の層の厚みとして求めた。
【0129】
[(3)[I
NiO/(I
Ni+I
NiO)]×100]
株式会社リガク製X線回折装置「RINT2000型」を用い、励起電圧40kV、励起電流200mAとし、操作軸は2θ/θとして測定し、水電解用陽極のX線回折チャートを得た。X線回折解析ソフトウェア「JADE」を用いて、X線回折チャートのKα線由来のピークを除去した後に、ベースライン補正を行い、ピーク強度I
NiおよびI
NiOをそれぞれ算出した。
【0130】
[(4)比表面積]
ニッケルエキスパンドメタル基材から剥がしたニッケル触媒層を(株)島津製作所製の試料前処理装置バキュプレップ中に設置した。触媒層が設置されたチャンバー内を排気して、触媒層を80℃の真空雰囲気下に2時間保持することにより、比表面積の測定に用いる試料を得た。定容のガス吸着法によって、試料の吸脱着等温線を測定した。BJH(Barrett‐Joyner‐Halenda)法により、吸脱着等温線から、試料中の細孔の孔径と各孔径における細孔の比表面積(単位:m
2/g)を算出した。吸脱着等温線の測定では、(株)島津製作所製の自動比表面積/細孔分布測定装置「トライスターII3020」を用いた。ガス吸着法では、吸着ガスとして窒素ガスを用い、冷媒として液体窒素を用いた。
各孔径における細孔の比表面積を積算した。これにより、触媒層中の細孔のうち孔径が2〜5nmの範囲内である第一細孔の比表面積(単位:m
2/g)を求めた。同様の方法で、触媒層中の細孔のうち孔径が0.01〜2.00μmの範囲内である第二細孔の比表面積(単位:m
2/g)を求めた。
【0131】
[(5)細孔容積]
ニッケルエキスパンドメタル基材から剥がしたニッケル触媒層中の細孔の孔径と各孔径における細孔容積を、水銀圧入法によって測定した。細孔容積の測定には、(株)島津製作所製の自動ポロシメータ「オートポア9520」を用いた。各孔径における細孔容積を積算した。これにより、触媒層中の細孔のうち孔径が2〜5nmの範囲内である第一細孔の細孔容積(単位:ml/g)を求めた。同様の方法で、触媒層中の細孔のうち孔径が0.01〜2.00μmの範囲内である第二細孔の細孔容積(単位:ml/g)を求めた。
【0132】
[(6)陽極の酸素過電圧、電気二重層容量]
陽極の酸素過電圧は下記の手順で測定した。
試験陽極を2cm×2cmに切り出し、PTFEで被覆したニッケル製の棒にニッケル製のネジで固定した。対極には白金メッシュを使用し、80℃、32wt%水酸化ナトリウム水溶液中で、電流密度6kA/m
2で電解し、酸素過電圧を測定した(初期過電圧の測定)。酸素過電圧は、液抵抗によるオーム損の影響を排除するために、ルギン管を使用する三電極法によって測定した。ルギン管の先端と陽極との間隔は、常に1mmに固定した。酸素過電圧の測定装置としては、ソーラートロン社製のポテンショガルバノスタット「1470Eシステム」を用いた。三電極法用の参照極としては、銀−塩化銀(Ag/AgCl)を用いた。三電極法を使用しても排除しきれない電解液抵抗を交流インピーダンス法で測定し、電解液抵抗の測定値に基づき前記酸素過電圧を補正した。ソーラートロン社製の周波数特性分析器「1255B」を使用して、実部と虚部をプロットしたCole−Coleプロットを取得した後に、等価回路フィッティングにより解析することで、電解液抵抗と電気二重層容量を算出した。
【0133】
[(7)CV4000回後の過電圧]
上記三電極法をもちいて、±0V vs. Ag/AgClから+0.35V vs. Ag/AgClの掃引幅でサイクリックボルタンメトリー測定を行った。電位の掃引速度は200mV/secとした。+0.35Vからスタートし、±0Vを経由し、再び+0.35Vに到達するまでをサイクル1回(CV1回)とした。4000回のサイクル後の過電圧(CV4000回後の過電圧)を測定した。
実施例及び比較例における評価結果を表1に示す。
【0134】
[(8)24時間電解後の多孔質膜へのCo付着量]
片面に上記多孔質膜を密着させた試験陽極を、PTFEで被覆したニッケル製の棒にニッケル製のネジで固定した。対極には白金メッシュを使用し、80℃、32wt%水酸化ナトリウム水溶液中で、電流密度6kA/m
2で24時間電解した。
電解後、取り出した膜を、蒸留水で洗浄した後に、完全に水分を除去するまで乾燥させた。乾燥した膜の、試験陽極と接していた面を、Thermo Fisher Scientific社製携帯型成分分析計ナイトンXL3tにて、元素分析した。隔膜1枚につき3点測定した平均値を、Coの表面濃度(原子%)とした。
実施例及び比較例における評価結果を表1に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
表1に示すように、実施例の初期過電圧は240mVより低く、良好な過電圧が得られた。一方で、比較例1および2の酸素過電圧では240mV以上であった。
また、実施例の電位サイクル試験後の酸素過電圧は310mV以下であり、良好な電位サイクル耐性が確認された。
【0137】
(実施例9)
アルカリ水電解用電解セル、複極式電解槽を下記の通りに作製した。
【0138】
−陽極−
実施例3で作製した陽極を使用した。
【0139】
−陰極−
導電性基材として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュで編んだ平織メッシュ基材を用いた。重量平均粒径100μm以下のアルミナ粉を用いてブラストし、次に、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗、乾燥した。
次に、硝酸パラジウム溶液(田中貴金属製、パラジウム濃度:100g/L)とジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:100g/L)とを、パラジウムと白金のモル比が1:1となるように混合し、第一塗布液を調製した。
【0140】
塗布ロールの最下部に上記第一塗布液を入れたバットを設置し、EPDM製の塗布ロールに塗布液をしみこませ、その上部にロールと塗布液とが常に接するようにロールを設置し、さらにその上にPVC製のローラーを設置して、該導電性基材に塗布液を塗布した(ロール法)。塗布液が乾燥する前に手早く、2つのEPDM製スポンジロールの間にこの導電性基材を通過させて、導電性基材のメッシュの交点に溜まる塗布液を吸い取って除いた。その後、50℃で10分間乾燥させて塗布膜を形成した後、マッフル炉を用いて500℃で10分間の加熱焼成を行って該塗布膜を熱分解させた。このロール塗布、乾燥及び熱分解のサイクルを2回繰り返し、第一層を形成させた。
【0141】
次に、塩化イリジウム酸溶液(田中貴金属製、イリジウム濃度:100g/L)とジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:100g/L)を、イリジウムと白金とのモル比が0.73:0.27となるように混合し、第二塗布液を調製した。第一層と同様にロール法にて第二塗布液を上記第一層が形成された基材上へ、塗布、乾燥及び熱分解を行った。乾燥温度は、50℃、熱分解温度は500℃で2回繰り返し、第二層を形成させた。さらに、空気雰囲気中500℃で1時間の後加熱を行い、試験陰極を作製した。
【0142】
−隔壁、外枠−
複極式エレメントとして、陽極と陰極とを区画する隔壁と、隔壁を取り囲む外枠と、を備えたものを用いた。隔壁及び複極式エレメントのフレーム等の電解液に接液する部材の材料は、全てニッケルとした。
【0143】
−導電性弾性体−
導電性弾性体は、線径0.15mmのニッケル製ワイヤーを織ったものを、波高さ5mmになるように波付け加工したものを使用した。厚みは5mmであり、目開きは5メッシュ程度であった。
【0144】
−隔膜−
酸化ジルコニウム(商品名「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製)とN−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)とを、粒径0.5mmのSUSボールが入った容量1000mLのボールミルポットに投入した。これらを回転数70rpmで3時間攪拌して、分散させて混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス製のざる(網目30メッシュ)により濾過し、混合物からボールを分離した。ボールを分離した混合物にポリスルホン(「ユーデル」(登録商標)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)及びポリビニルピロリドン(重量平均分子量(Mw)900000、和光純薬工業社製)を加え、スリーワンモータを用いて12時間攪拌して溶解させ、以下の成分組成の塗工液を得た。
ポリスルホン :15質量部
ポリビニルピロリドン :6質量部
N−メチル−2−ピロリドン :70質量部
酸化ジルコニウム :45質量部
上記塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイドメッシュ(くればぁ社製、膜厚280μm、目開き358μm、繊維径150μm)の両表面に対して、コンマコータを用いて塗工厚みが各面150μmとなるよう塗工した。塗工後直ちに、塗工液を塗工した基材を、30℃の純水/イソプロパノール混合液(和光純薬工業社製、純水/イソプロパノール=50/50(v/v))を溜めた凝固浴の蒸気下へ晒した。その後直ちに、塗工液を塗工した基材を、凝固浴中へ浸漬した。そして、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成させた。その後、純水で塗膜を十分洗浄して多孔質膜を得た。
この多孔質膜の90℃の平均透水孔径で0.3μmであった。厚みは580μmであった。多孔質膜表面の平均孔径は2.3μmであった。
【0145】
−ガスケット−
ガスケットは、厚み4.0mm、幅18mmの内寸504mm角の四角形状のもので、内側に平面視で電極室と同じ寸法の開口部を有し、隔膜を挿入することで保持するためのスリット構造を有するものを使用した。スリット構造は、開口部の内壁の厚み方向の中央部分に、隔壁を挿入することでこれを保持するための、0.4mmの隙間を設けた構造とした。このガスケットは、EPDMゴムを材質とし、100%変形時の引張応力が4.0MPaであった。
【0146】
−ゼロギャップ型複極式エレメント−
外部ヘッダー型のゼロギャップ型セルユニット60は、540mm×620mmの長方形とし、陽極2aおよび陰極2cの通電面の面積は500mm×500mmとした。ゼロギャップ型複極式エレメント60の陰極側は、陰極2c、導電性弾性体2e、陰極集電体2rが積層され、陰極リブ6を介して隔壁1と接続され、電解液が流れる陰極室5cがある。また、陽極側は、陽極2aが陽極リブ6を介して隔壁1と接続され、電解液が流れる陽極室5aがある(
図2)。
陽極室5aの深さ(陽極室深さ、
図2における隔壁と陽極との距離)は25mm、陰極室5cの深さ(陰極室深さ、
図2における隔壁と陰極集電体との距離)25mmとし、材質はニッケルとした。高さ25mm、厚み1.5mmのニッケル製の陽極リブ6と、高さ25mm、厚み1.5mmのニッケル製の陰極リブ6を溶接により取り付けたニッケル製の隔壁1の厚みは2mmとした。
陰極集電体2rとして、集電体として、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用いた。基材の厚みは1mmで、開口率は54%であった。導電性弾性体2eを、陰極集電体2r上にスポット溶接して固定した。このゼロギャップ型複極式エレメントを、隔膜を保持したガスケットを介してスタックさせることで、陽極2aと陰極2cとが隔膜4に押し付けられたゼロギャップ構造Zを形成することができる。
陰極入口ヘッダーを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口ヘッダーを介して、電解液を流した。また、陽極入口ヘッダーを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口ヘッダーを介して、電解液を流した。
図3に示すように、陰極電解液入口は平面視で長方形の外枠の下辺の一方端側に、陰極電解液出口は平面視で長方形の外枠3の下辺の他方端側に繋がる側辺の上側に、それぞれ接続されている。ここでは、陰極電解液入口と陰極電解液出口とを、平面視で長方形の電解室5において電極室5の電極室5の中央部を挟んで向かい合うように、設けた。電解液は、鉛直方向に対して傾斜しながら下方から上方へ流れ、電極面に沿って上昇した(
図3)。
この実施例の複極式電解槽50では、陽極室5aや陰極室5cの電解液入口から、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの電解液出口から、電解液と生成ガスとが、電解槽50外へ流出する構造とした。
陰極室5cでは、電解により水素ガスが発生し、陽極室5aでは、電解により酸素ガスが発生するため、前述した、陰極出口ヘッダーでは、電解液と水素ガスとの混相流となり、陽極出口ヘッダーでは、電解液と酸素ガスとの混相流となった。
実施例9の複極式電解槽は下記のとおりの手順で作製した。
上記陰極を陰極ターミナルフレームに取付けたものを、陰極ターミナルエレメントとした。上記陽極を陽極ターミナルフレームに取付けたものを、陽極ターミナルエレメントとした。
上記複極式エレメントを9個用意した。また、上記陰極ターミナルエレメント、上記陽極ターミナルエレメントを、1個ずつ用意した。
全ての複極式エレメントと、陰極ターミナルエレメントと、陽極ターミナルエレメントの、金属フレーム部分にガスケットを貼付けた。
陽極ターミナルエレメントと、複極式エレメントの陰極側との間に、上記隔膜を1枚挟み込んだ。9個の複極式エレメントを、隣接する複極式エレメントのうちの一方の陽極側と他方の陰極側とが対向するように、直列に並べ、隣接する複極式エレメントの間に、8枚の隔膜を1枚ずつ挟み込み、陰極と陽極とが隔膜に押しつけられたゼロギャップ構造を形成した。更に、9個目の複極式エレメントの陽極側と、陰極ターミナルエレメントとの間に、隔膜Aを1枚挟み込んだ。これらを、ファストヘッド、絶縁板、ルーズヘッドを用いたうえで、プレス機で締付けたものを、複極式電解槽とした。
送液ポンプ、気液分離タンク等は、いずれも当該技術分野において通常使用されるものを用いて、
図3に示すようなアルカリ水電解装置を作製した。
【0147】
(比較例4)
比較例1と同様にして作製した陽極を用いたこと以外は、実施例9と同様にしてゼロギャップ型複極式エレメントを製造した。
【0148】
(比較例5)
比較例3と同様にして作製した陽極を用いたこと以外は、実施例9と同様にしてゼロギャップ型複極式エレメントを製造した。
【0149】
上記電解装置を用いて、電流密度が6kA/m
2となるように連続で11時間正通電し、水電解を行ったのち電解を停止した。そのままの状態で1時間保持した後、再度6kA/m
2の正通電を11時間行った。正通電・停止をそれぞれ一回ずつ行うことを1サイクルの通電として、1000サイクルの通電を行った。実施例9、比較例4、比較例5の各セルの対電圧をモニターし、対電圧の推移を記録した。各セルの初期の対電圧および1000サイクル後の対電圧を、実施例9、比較例4、比較例5それぞれ3セルの平均値をとった。結果を表2に示す。
【0150】
実施例9では3セル平均過電圧が、初期過電圧で1.78V、1000サイクル後も1.79Vと低い値であったのに対して、比較例4では初期過電圧が高く、十分低い電解効率が得られなかった。また、比較例5ではサイクル試験後にセル電圧の上昇が確認され、十分な耐久性が得られなかった。よって、実施例9の陽極が低い過電圧と高い耐久性を持つことで、長時間運転においても低いセル電圧の維持が実現できたと結論付けられる。
さらに、上記サイクル試験が終わった後に、電解槽から取り出した隔膜の陽極側の表面を、Thermo Fisher Scientific社製携帯型成分分析計ナイトンXL3tにて、元素分析を実施した。隔膜1枚につき3点測定したCo原子%の平均値を、Co原子濃度とした。同様にしてNi原子%の平均値を求め、Ni原子濃度とした。
その結果、実施例9では、ニッケル原子濃度とコバルト原子濃度との合計が0.23原子%(Co0.22原子%、Ni0.01原子%)であったのに対して、比較例5では、1.58原子%(Co1.50原子%、Ni0.08原子%)であった。実施例9では、適度な量のコバルト化合物が表面に付着することで、多孔質膜の親水性が増加し、電解により発生した気泡の膜表面への滞留が抑制された結果、良好なセル電圧が得られていると考えられる。一方、比較例5では、コバルト化合物が膜表面に大量に付着することで、孔の一部が閉塞して電解液の流路が減少した結果、セル電圧と初期と比較して増加したと考えられる。尚、実施例9の隔膜の断面をSEM−EDX解析した結果、Co原子が酸化ジルコニウム粒子の表面に局在して存在していることが確認できた。
【0151】
【表2】