特許第6837239号(P6837239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6837239農産物皮剥き装置および農産物皮剥き用ドラムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6837239
(24)【登録日】2021年2月12日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】農産物皮剥き装置および農産物皮剥き用ドラムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23N 7/00 20060101AFI20210222BHJP
【FI】
   A23N7/00 A
   A23N7/00 D
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-82782(P2018-82782)
(22)【出願日】2018年4月24日
(65)【公開番号】特開2019-187279(P2019-187279A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2020年7月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510081562
【氏名又は名称】株式会社徳尾商事
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】徳尾 健太
【審査官】 大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6143556(JP,B2)
【文献】 特開平09−256135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23N 7/00
C23C 4/129
A47J 17/00−17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農産物が水平方向に送られる搬送路を形成する一対のドラムと、
これらのドラムを回転自在に支持する機枠と、
前記両ドラムを回転させる駆動装置とを備え、
前記ドラムは、
前記搬送路の底となる筒状壁を有しかつこの筒状壁を厚み方向に貫通する多数の貫通穴を有する筒状本体を含み、
前記筒状壁の外面は、外周面と、前記貫通穴の穴壁面を含み、
前記外面には、前記貫通穴の開口縁に沿う抜きバリが形成され、
前記筒状壁の外周面と、前記貫通穴の穴壁面と、前記抜きバリとが耐摩耗性を有する溶射材料からなる溶射皮膜で覆われ
前記溶射皮膜の厚みは150μm以上であって200μm以下であり、前記筒状壁の前記外周面に前記抜きバリと前記溶射皮膜とからなる突起が形成されていることを特徴とする農産物皮剥き装置。
【請求項2】
多数の貫通穴が穿設された金属材料からなる板を円筒状に成形して農産物皮剥き用のドラムを形成するドラム形成ステップと、
耐摩耗性を有する溶射材料からなる溶射皮膜を前記ドラムの外面に高速フレーム溶射法によって形成する溶射ステップとを有し、
前記貫通穴は、前記板に打ち抜き加工を施すことによって形成され、
前記ドラム形成ステップにおいて、前記打ち抜き加工によって生じた抜きバリが前記ドラムの外面に露出するように前記板を円筒状に成形し、
前記溶射ステップで前記ドラムが回転し、前記ドラムの外周面と、前記貫通穴の穴壁面と、前記抜きバリとに、厚み150μm以上であって200μm以下の前記溶射皮膜が形成され、前記ドラムの外周面に前記抜きバリと前記溶射皮膜とからなる突起が形成されていることを特徴とする農産物皮剥き用ドラムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の貫通穴を有する農産物皮剥き用ドラムが回転して農産物の皮を剥く農産物皮剥き装置および農産物皮剥き用ドラムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の農産物皮剥き装置としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。特許文献1に開示された農産物皮剥き装置は、一対の回転するドラムの上で農産物を転がして皮を剥くものである。農産物の皮は、ドラムに擦り付けられることによって剥ける。前記一対のドラムは、農産物を水平方向に送る搬送路の底を構成しており、互いに平行に並ぶ状態で機枠に回転自在に支持されている。これらのドラムには、農産物の皮を剥くための多数の穴が穿設されている。
【0003】
ドラムの多数の穴は、ドラムの外周壁となる筒体の母材に打ち抜き加工を施すことによって形成されている。
筒体の母材に打ち抜き加工を施すと、穴の開口縁に抜きバリや角部が生じる。このように抜きバリや角部が外周面に形成されているドラムは、農産物の皮を効率良く剥くことができるものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6143556号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の農産物皮剥き用のドラムは、長期間にわたって使用することによって摩耗し、皮を剥く性能が低下する。すなわち、ドラムの穴の開口縁に形成されている抜きバリが摩耗で小さくなったり、角部が摩耗して丸みを帯びることによって、農産物が擦り付けられ難くなって皮が剥け難くなる。摩耗が進行したドラムは、新品と交換される。
このため、従来の農産物皮剥き装置においては、皮剥き用のドラムの寿命を長くするために、耐摩耗性を高くすることが要請されている。
【0006】
本発明の第1の目的は、耐摩耗性が高い皮剥き用ドラムを備えた農産物皮剥き装置を提供することである。また、本発明の第2の目的は、耐摩耗性が高い皮剥き用ドラムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明に係る農産物皮剥き装置は、農産物が水平方向に送られる搬送路を形成する一対のドラムと、これらのドラムを回転自在に支持する機枠と、前記両ドラムを回転させる駆動装置とを備え、前記ドラムは、前記搬送路の底となる筒状壁を有しかつこの筒状壁を厚み方向に貫通する多数の貫通穴を有する筒状本体を含み、前記筒状壁の外面は、外周面と、前記貫通穴の穴壁面を含み、前記外面には、前記貫通穴の開口縁に沿う抜きバリが形成され、前記筒状壁の外周面と、前記貫通穴の穴壁面と、前記抜きバリとが耐摩耗性を有する溶射材料からなる溶射皮膜で覆われ、前記溶射皮膜の厚みは150μm以上であって200μm以下であるものである。
【0010】
本発明に係る農産物皮剥き用ドラムの製造方法は、多数の貫通穴が穿設された金属材料からなる板を円筒状に成形して農産物皮剥き用のドラムを形成するドラム形成ステップと、耐摩耗性を有する溶射材料からなる溶射皮膜を前記ドラムの外面に高速フレーム溶射法によって形成する溶射ステップとを有し、前記貫通穴は、前記板に打ち抜き加工を施すことによって形成され、前記ドラム形成ステップにおいて、前記打ち抜き加工によって生じた抜きバリが前記ドラムの外面に露出するように前記板を円筒状に成形し、前記溶射ステップで前記ドラムが回転し、前記ドラムの外周面と、前記貫通穴の穴壁面と、前記抜きバリとに、厚み150μm以上であって200μm以下の前記溶射皮膜が形成される方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る農産物皮剥き装置においては、ドラムの貫通穴の開口縁に形成されている抜きバリや角部を覆う溶射皮膜が農産物に擦り付けられることにより農産物の皮が剥ける。溶射皮膜は耐摩耗性を有する溶射材料によって形成されているから、農産物と接触しても摩耗し難い。
したがって、本発明によれば、耐摩耗性が高い皮剥き用ドラムを備えた農産物皮剥き装置を提供することができる。
本発明に係る農産物皮剥き用ドラムの製造方法においては、ドラムの貫通穴の開口縁に形成されている抜きバリや角部に溶射皮膜が形成される。溶射皮膜は耐摩耗性を有しているから、農産物と接触しても摩耗し難い。したがって、この発明によれば、耐摩耗性が高い皮剥き用ドラムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る農産物皮剥き装置の構成を示す斜視図である。
図2】ドラムの分解斜視図である。
図3】本発明に係る農産物皮剥き用ドラムの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図4】ドラムの要部を拡大して示す断面図で、図4(A)は、抜きバリが外周面に形成されている筒状壁の溶射前の状態を示し、図4(B)は、抜きバリが外周面に形成されている筒状壁の溶射後の状態を示す。
図5】ドラムの要部を拡大して示す断面図で、図5(A)は、貫通穴の開口縁からなる角部が外周面に形成されている筒状壁の溶射前の状態を示し、図5(B)は、貫通穴の開口縁からなる角部が外周面に形成されている筒状壁の溶射後の状態を示す。
図6】溶射装置の概略の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る農産物皮剥き装置および農産物皮剥き用ドラムの製造方法の一実施の形態を図1図6を参照して詳細に説明する。この実施の形態による農産物皮剥き装置は、特許文献1に記載されている農産物皮剥き装置を流用して構成することができるものである。
【0016】
<装置全体の説明>
図1に示す農産物皮剥き装置1は、一対のドラム2,3(第1のドラム2と第2のドラム3)と、これらの第1および第2のドラム2,3を回転自在に支持する機枠4と、両ドラム2,3を駆動する駆動装置5とを備えている。
第1および第2のドラム2,3は、農産物6が水平方向に送られる搬送路7を形成する機能と、農産物6の皮を剥く機能とを有している。この農産物皮剥き装置1に用いることができる農産物6は、じゃがいも、里芋、さつまいも、人参、大根、キウイフルーツ、アボカドなどである。
【0017】
第1および第2のドラム2,3は、搬送路7が延びる方向とは直交する水平方向に所定の間隔をおいて互いに平行に並んでいる。すなわち、これら一対のドラム2,3は、農産物6が水平方向に送られる谷状の搬送路7を構成している。
農産物6を送るにあたっては、搬送方向の下流側が上流側より低くなるように傾斜させたり、搬送装置(図示せず)を用いることができる。この実施の形態は、農産物6が図1において右側から左側に向けて送られると仮定して説明する。なお、以下において、搬送方向に長い部品の端部を説明するにあたっては、搬送方向の上流側の端部を単に「上流側端部」といい、搬送方向の下流側の端部を単に「下流側端部」という。
【0018】
<第1および第2のドラムの説明>
第1のドラム2と第2のドラム3は、図2に示すように、それぞれ上述した搬送路7の底となる筒状壁11を有するドラムスリーブ12と、このドラムスリーブ12の中に挿入される軸組立体13とによって構成されている。図2においては、第1のドラム2のみが図示してある。第2のドラム3は、第1のドラム2とは筒状壁11の後述する貫通穴の形状が異なるだけである。このため、第2のドラム3の部品の説明は、第1のドラム2の部品と同一符号を付して省略する。
【0019】
<ドラムスリーブの説明>
ドラムスリーブ12の筒状壁11は、金属材料からなる平板(図示せず)を母材とし、この平板を成形して円筒状に丸めることによって形成されている。筒状壁11を形成する金属材料は、例えばステンレス鋼を使用することができる。第1のドラム2の筒状壁11には、厚み方向に貫通する多数の丸穴14が形成されている。これらの丸穴14は、第1のドラム2の軸線方向と回転方向とにそれぞれ所定の間隔をおいて並部ように形成されている。
【0020】
第2のドラム3の筒状壁11には、厚み方向に貫通する多数の第1および第2の長穴15,16(図1参照)が形成されている。
第1の長穴15は、第2のドラム3の軸線方向と回転方向とに対して所定の方向に傾斜して延びている。第2の長穴16は、第1の長穴15とは第2のドラム3の軸線方向に対して逆方向に傾斜して延びている。多数の第1の長穴15と多数の第2の長穴16は、それぞれ第2のドラム3の周方向に所定の間隔をおいて並ぶとともに、第2のドラム3の軸線方向に交互に位置するように設けられている。
【0021】
これらの丸穴14と第1および第2の長穴15,16は、筒状壁11の母材となる平板に打ち抜き加工を施すことによって形成されている。この打ち抜き加工を行うにあたっては、平板における筒状壁11の外周面となる表面にパンチ(図示せず)を押し付けて行う場合と、平板における筒状壁11の内周面となる裏面にパンチを押し付けて行う場合とがある。この実施の形態においては、これらの丸穴14と第1および第2の穴15,16とが本発明でいう「貫通穴」に相当する。
【0022】
筒状壁11の下流側端部にはリング17が挿入されて溶接されている。筒状壁11の上流側端部には複数の突起18が設けられている。これらの突起18は、筒状壁11の軸線方向に突出している。
ドラムスリーブ12は、筒状壁11とリング17とによって構成されている。筒状壁11の外周面と、丸穴14の穴壁面、第1および第2の長穴15,16の穴壁面などからなる筒状壁11の外面は、耐摩耗性を有する溶射材料からなる溶射皮膜19で覆われている。
この実施の形態においては、ドラムスリーブ12が請求項1記載の発明でいう「筒状本体」に相当し、請求項4記載の発明でいう「農産物皮剥き用のドラム」に相当する。
【0023】
<軸組立体の説明>
軸組立体13は、図2に示すように、複数の部材を溶接して一つの組立体として形成されている。軸組立体13は、第1および第2のドラム2,3の軸線方向に延びる円筒21と、この円筒21の長手方向の端部に溶接された上流側軸部材22および下流側軸部材23と、円筒21の外周面に立てて溶接された複数の仕切板24などを備えている。
上流側軸部材22は、ドラムスリーブ12の筒状壁11が嵌合するリング25と、2枚の仕切板24どうしの間に開口する複数の連通穴26と、軸心部に位置する軸孔27などを有している。
【0024】
リング25には、筒状壁11の中に嵌入する小径部25aと、筒状壁11の突起18が嵌合する切欠き25bとが形成されている。
軸孔27には、駆動装置5の一部を構成するモータ31の回転軸32が着脱可能に接続される。モータ31は、機枠4の上流側の壁4a(図1参照)に支持されている。回転軸32は、この壁4aに図示していない軸受によって回転自在に支持されて壁4aを貫通し、上流側軸部材22の軸孔27に嵌合している。この軸孔27と回転軸32の嵌合部は、回転軸32の回転が上流側軸部材22に伝達される構成が採られている。
【0025】
下流側軸部材23は、ドラムスリーブ12の筒状壁11の中に嵌入するリング33と、2枚の仕切板24どうしの間に開口する複数の連通穴34と、軸心部に位置する支軸35などを有している。
下流側軸部材23のリング33は、ドラムスリーブ12のリング17に軸線方向において重ねられ、複数の結合用ボルト36によって結合されている。
支軸35は、第1および第2のドラム2,3の軸線方向に延びており、ドラムスリーブ12のリング17の中空部を通ってドラムスリーブ12の外に突出している。この支軸35は、機枠4の下流側の壁4b(図1参照)に図示していない軸受を介して着脱可能かつ回転自在に支持されている。
【0026】
<第1および第2のドラムの製造方法の説明>
次に、第1および第2のドラム2,3の製造方法について説明する。
第1および第2のドラム2,3は、ドラムスリーブ12と軸組立体13とをそれぞれ個別に製造し、ドラムスリーブ12の中に軸組立体13を挿入して両者を結合用ボルト36で結合することによって完成する。ドラムスリーブ12は、図3の示すフローチャートに示す手順で製造される。軸組立体13は、円筒21に上流側軸部材22と、下流側軸部材23と、複数の仕切板24とをそれぞれ溶接して製造される。
【0027】
ドラムスリーブ12を製造するためには、図3のフローチャートに示すように、ドラム形成ステップS1と、溶射ステップS2とが実施される。ドラム形成ステップS1においては、最初に打ち抜きステップS1Aが実施される。打ち抜きステップS1Aにおいては、例えば、図示していないダイとパンチとを使用して筒状壁11の母材である平板に打ち抜き加工が施され、多数の丸穴14や第1および第2の長穴15,16が穿設される。なお、筒状壁11の突起18もこの打ち抜きステップS1Aで形成される。打ち抜きステップS1Aで平板を打ち抜く際の打ち抜き方向は、筒状壁11の外周面となる平板の表面にパンチを押し付けて行う場合と、筒状壁11の内周面となる平板の裏面にパンチを押し付けて行う場合とがある。平板の表面にパンチを押し付けて打ち抜き加工を行うと、平板の裏面に抜きバリが生じる。一方、平板の裏面にパンチを押し付けて打ち抜き加工を行うと、平板の表面に抜きバリが生じる。
【0028】
打ち抜き加工が終了した後、筒状壁11の母材である平板が円筒成形機(図示せず)によって筒状に丸められる(成形ステップS1B)。このとき、抜きバリが形成されている面が筒状壁11の外面に露出するように平板が丸められると、図4(A)に示すように、外周面11aに抜きバリ41が形成された筒状壁11が得られる。一方、抜きバリが形成されていない面が筒状壁11の外面に露出するように平板が丸められると、図5(A)に示すように、外周面11aに丸穴14や第1および第2の長穴15,16の開口縁からなる角部42が形成された筒状壁11が得られる。
【0029】
筒状の筒状壁11が形成された後、筒状壁11にリング17が溶接される(溶接ステップS1c)。このように筒状壁11にリング17が溶接されることにより未溶射の状態であるドラムスリーブ基材が形成され、ドラム形成ステップS1が終了する。
溶射ステップS2は、図6に概略の構成を示す溶射装置43を使用して実施される。
溶射装置43は、高速フレーム溶射法の1つである、HVOF(High Velocity Oxy-Fuel)溶射法で溶射を行うもので、ドラムスリーブ基材44の両端部を支持する支持部45,46と、溶射ガン47を有する溶射部48とを有している。
【0030】
溶射は、以下の手順で行われる。
(1)前処理を行う。前処理は、アンダーカットとブラスト処理がある。アンダーカットは、丸穴14や第1および第2の長穴15,16の穴壁面を穴の開口幅が拡がるような傾斜面とする処理である。アンダーカットは、溶射結果に基づいて必要に応じて行われる。ブラスト処理は、ドラムスリーブ基材44の表面に微小粒子を衝突させ、この表面を粗面にする処理である。
(2)約90℃で予熱する。
(3)250℃以下でアンダーコートを施す。
(4)250℃以下でトップコートを施す。
(5)研磨や機械加工で仕上げ処理を施す。
【0031】
アンダーコートとトップコートとを施す溶射は、HVOF溶射法で超硬合金パウダーを溶射材料とする超硬溶射である。このときに使用する溶射材料は、耐摩耗性を有する溶射材料で、例えばタングステンカーバイト(炭化タングステン)を用いることができる。
支持部45,46は、ドラムスリーブ基材44を支持する機能と、ドラムスリーブ基材44をその軸線が回転中心となるように所定の回転速度で回転させる機能とを有している。この実施の形態による支持部45,46は、ドラムスリーブ基材を水平方向に延びる状態として支持する。
【0032】
この実施の形態による溶射部48は、ドラムスリーブ基材44の軸線方向に延びるレール49を備え、溶射ガン47がこのレール49に沿って水平方向に移動する構成が採られている。溶射ガン47は、高圧の酸素と液体燃料の混合ガスを燃焼させて高速度ジェットフレーム51を発生させ、耐摩耗性を有する溶射材料をこの高速度ジェットフレーム51の圧力でドラムスリーブ基材44に衝突させる。
【0033】
溶射ステップS2は、ドラムスリーブ基材44を予め定めた回転速度で回転させるとともに、高速度ジェットフレーム51が発生している状態の溶射ガン47をドラムスリーブ基材44の軸線方向に予め定めた速度で移動させて行われる。このようにドラムスリーブ基材44が回転するとともに溶射ガン47がドラムスリーブ12の軸線方向に移動することによって、筒状壁11の外面の全域に溶射材料からなる溶射被膜が形成される。ここでいう筒状壁11の外面とは、外周面11aと、丸穴14や第1および第2の長穴15,16の穴壁面を含む。
【0034】
筒状壁11の外周面11aに抜きバリ41が形成されているドラムスリーブ基材44に溶射が行われると、図4(B)に示すように、筒状壁11の外周面11aに抜きバリ41と溶射皮膜19とからなる突起52が形成される。この突起52は、表面が耐摩耗性を有する溶射材料によって形成されているから摩耗し難い。
一方、筒状壁11の外周面11aに丸穴14や第1および第2の長穴15,16の開口縁からなる角部42が形成されているドラムスリーブ基材44に溶射が行われると、図5(B)に示すように、角部42が溶射皮膜19によって被覆される。
【0035】
溶射は、溶射皮膜19の厚みが予め定めた最適値となるように行うことが望ましい。溶射被膜19の厚みは、好ましくは100μm〜200μmで、溶射皮膜19の厚みの最適値は、150μm以上であって200μm以下である。溶射皮膜19の厚みが150μmより少ないと、最適な耐摩耗性を得ることができなくなることが実験によって判った。また、溶射皮膜19の厚みが200μmより多いと、抜きバリ41や角部42の先端が丸みを帯び、皮剥きの効率が最適ではなくなることが実験により判った。
筒状壁11の全域に溶射が行われることにより溶射ステップS2が終了する。
【0036】
<農産物皮剥き装置の動作の説明>
このように構成された農産物皮剥き装置1を用いて農産物6の皮を剥くためには、第1のドラム2と第2のドラム3とが回転している状態で搬送路7に農産物6を供給する。搬送路7に供給された農産物6は、第1および第2のドラム2,3のドラムスリーブ12と接触することによって、搬送路7内で跳ねながら回るようになる。この農産物皮剥き装置1においては、ドラムスリーブ12の丸穴14や第1および第2の長穴15,16の開口縁に形成されている抜きバリ41や角部42を覆う溶射皮膜19が農産物6に擦り付けられることによって、農産物6の皮が剥ける。
【0037】
<実施の形態による効果の説明>
溶射皮膜19は、耐摩耗性を有する溶射材料によって形成されているから、農産物6と接触しても摩耗し難い。
したがって、この実施の形態によれば、耐摩耗性が高い皮剥き用ドラム(第1および第2のドラム2,3)を備えた農産物皮剥き装置を提供することができる。
この実施の形態による農産物皮剥き用ドラム(ドラムスリーブ12)の製造方法においては、ドラムスリーブ12の丸穴14や第1および第2の長穴15,16の開口縁に形成されている抜きバリ41や角部42に溶射皮膜19が形成される。溶射皮膜19は耐摩耗性を有しているから、農産物6と接触しても摩耗し難い。したがって、この実施の形態によれば、耐摩耗性が高い皮剥き用ドラムの製造方法を提供することができる。
【0038】
筒状壁11の丸穴14や第1および第2の長穴15,16を打ち抜き加工によって形成する際に、パンチ(図示せず)が筒状壁11の母材となる平板に筒状壁11の内周面側から押し付けられた場合には、筒状壁11の外周面11aに抜きバリ41が形成される。
このため、この筒状壁11に溶射皮膜19が形成されることにより、筒状壁11の外周面11aに抜きバリ41と溶射皮膜19とからなる突起52{図4(B)参照}が形成される。この突起52は、表面が耐摩耗性を有する溶射材料によって形成されているから摩耗し難い。
したがって、この実施の形態によれば、農産物6の皮を効率良く剥くことができるとともに皮剥き用ドラム(ドラムスリーブ12)の寿命が長い農産物皮剥き装置を提供することができる。
【0039】
この実施の形態による溶射皮膜19の厚みは150μm以上であって200μm以下である。
溶射皮膜19の厚みが150μmより少ないと、充分な耐摩耗性が得られず、溶射皮膜19の厚みが200μmより多いと、丸穴14や第1および第2の長穴15,16の開口縁の抜きバリ41や角部42の先端が丸みを帯びるようになる。したがって、この実施の形態によれば、耐摩耗性が高くなるとともに農産物6の皮を効率良く剥くことが可能な農産物皮剥き装置を実現することができる。
【0040】
この実施の形態による筒状壁11の丸穴14や第1および第2の長穴15,16は、金属材料からなる平板に打ち抜き加工を施すことによって形成されている。ドラムスリーブ12を形成するにあたっては、ドラム形成ステップS1で打ち抜き加工によって生じた抜きバリ41が筒状壁11の外面に露出するように母材となる平板を円筒状に成形して行うことができる。この場合、溶射ステップS2は、抜きバリ41が溶射皮膜19で覆われるように実施される。
【0041】
抜きバリ41に溶射皮膜19が形成されることにより、筒状壁11の外面に抜きバリ41と溶射皮膜19とからなる突起52が形成される。この突起52は、表面が耐摩耗性を有する溶射材料によって形成されているから摩耗し難い。
したがって、この実施の形態による農産物皮剥き用ドラムの製造方法よれば、農産物6の皮を効率良く剥くことができるとともに寿命が長い皮剥き用ドラムを製造することが可能になる。
【0042】
この実施の形態による溶射法は、高速フレーム溶射法である。高速フレーム溶射法によれば、他の溶射法では得られない緻密な溶射皮膜19が形成されるとともに、形成範囲の全域にわたって均一な硬度の皮膜が形成される。溶射ステップS2においては、ドラムスリーブ基材44が回転してドラムスリーブ基材44の外面の全域に溶射皮膜19が形成される。このため、この実施の形態によれば、緻密で均質な溶射皮膜19がドラムスリーブ12の外面の全域に均等に形成されるから、耐摩耗性の向上と品質向上とが両立した農産物皮剥き用ドラムを製造することができる。
【0043】
上述した実施の形態においては、第1のドラム2に貫通穴として多数の丸穴14が形成され、第2のドラム3に貫通穴として多数の第1および第2の長穴15,16が形成されている。しかし、貫通穴の形状や数は、この実施の形態に示す形状や数に限定されることはなく、適宜変更することができる。
【0044】
また、上述した実施の形態においては、溶射時にドラムスリーブ基材44が回転するとともに溶射ガン47が平行移動する例を示した。しかし、本発明による農産物皮剥き用ドラムの製造方法を実施するにあたって、溶射材料や溶射方法は、この実施の形態に示す溶射材料、溶射方法に限定されることはなく、適宜変更することができる。溶射材料は、金属、セラミック、サーメット(超硬合金)、プラスチックなどを使用することができる。これらの溶射材料の形状は、ワイヤー、ロッド、粉末などがある。
【0045】
農産物皮剥き用ドラムを製造するために採用可能な溶射方法は、いわゆる低温溶射と呼称されている溶射方法である。なお、従来の溶射方法としては低温溶射法の他に高温溶射法が知られている。しかし、農産物皮剥き用ドラムは板厚が薄く、高温溶射によって1000℃前後に加熱されることにより熱の影響で歪むおそれがあるから、溶射時にドラムスリーブ基材44の温度が250℃以下となる低温溶射法を採用する方が好ましい。
【0046】
低温溶射法は、ガス式溶射法と電気式溶射法とに分類されるが、これらのいずれの方法であっても農産物皮剥き用ドラムを製造ことが可能である。
ガス式溶射法は、フレーム溶射法と高速フレーム法とがある。さらに、フレーム溶射法は、溶線式、溶棒式、粉末式に分けられる。一方、高速フレーム法は、HVOF、HP(High Puressure)/HVOF、爆発溶射などに分けられる。
電気式溶射法は、プラズマ溶射、レーザー溶射、アーク溶射に分けられる。さらに、プラズマ溶射には、大気式と減圧式とがある。
【0047】
農産物皮剥き用ドラム製造するうえで好適な低温溶射法は、上述したHVOF溶射法の他に、下記4種類の溶射方法がある。
第1の溶射方法は、ワイヤーによるアーク溶射もしくはガスフレーム溶射である。
第2の溶射方法は、金属パウダー(メタライジング)によるフレーム溶射である。
第3の溶射方法は、プラズマ溶射法などのセラミックス溶射である。
第4の溶射方法は、サーメット(超硬合金パウダー)、超硬ロッドを使った溶射である。
【符号の説明】
【0048】
1…農産物皮剥き装置、2…第1のドラム、3…第2のドラム、4…機枠、5…駆動装置、6…農産物、7…搬送路、11…筒状壁、11a…外周面、12…ドラムスリーブ(筒状本体)、14…丸穴、15…第1の長穴、16…第2の長穴、19…溶射皮膜、41…抜きバリ、S1…ドラム形成ステップ、S2…溶射ステップ。
図1
図2
図3
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図6