(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
予め設定されたブレーキシリンダ圧力を鉄道車両の車輪に供給して制動力を生じさせる圧力発生装置の内部に給気弁および排気弁から成るオン・オフ弁を設け、該オン・オフ弁を開閉することにより、ブレーキシリンダ圧力を変動させて、
空気圧ブレーキのみの非常ブレーキ制動の場合に、立ち上がりおよび立ち下がりに傾斜を有する台形波の指令値によって前記ブレーキシリンダ圧力を所定周期で所定の変動範囲で増減させる変動圧力制御と、制動される車輪が滑走した判断によってブレーキシリンダ圧力を緩める滑走再粘着制御と、再粘着したとの判断によって前記変動圧力制御に戻る制御とを行う制御手段を有し、
前記変動圧力制御におけるブレーキシリンダ圧力は、正弦波状に所定周期で増減することを特徴とする、
ブレーキ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について
図1〜
図21を参照して説明する。
図1(a)〜(c)は、本発明に係る鉄道車両のブレーキ制御方法を示す図であって、車輪に制動力を生じさせるブレーキシリンダへの指令値が示されている。
そして、これら
図1(a)〜(c)では、指標となるブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の目標設定値(例えば400kPa)を、ブレーキシリンダへの指令値「±0kPa」として示し、当該目標設定値(400kPa)に対し、正弦波状の圧力変動を一定周期で与えるための指令値の波形が示されている。すなわち、目標設定値である400kPa±XkPaとなるようにブレーキシリンダ圧力が増減するよう制御される。
すなわち、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の変動幅は、基準値となる「±0kPa(=目標となるブレーキシリンダ圧力:400kPa」に対して、±20〜40kPaの範囲内で、かつ変動周期が0〜2秒(周期の「秒」を「s」と表現する)の範囲に設定されている。
【0015】
具体的には、
図1(a)の試験例では、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の変動幅は、基準値となる「±0kPa(=目標となるブレーキシリンダ圧力:400kPa」に対して、±20kPaの範囲内で、かつ変動周期が0.8s(=1.25Hz)、1.2s(=0.83Hz)、1.6s(=0.63Hz)の範囲に設定されている。
また、
図1(b)の試験例では、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の変動幅は、基準値となる「±0kPa(=目標となるブレーキシリンダ圧力:400kPa」に対して、±30kPaの範囲内で、かつ変動周期が0.8s(=1.25Hz)、1.2s(=0.83Hz)、1.6s(=0.63Hz)の範囲に設定されている。
また、
図1(c)の試験例では、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の変動幅は、基準値となる「±0kPa(=目標となるブレーキシリンダ圧力:400kPa」に対して、±40kPaの範囲内で、かつ変動周期が0.8s(=1.25Hz)、1.2s(=0.83Hz)、1.6s(=0.63Hz)の範囲に設定されている。
【0016】
そして、以上のような
図1(a)〜(c)に示すブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の変動試験を、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の目標設定値「400kPa」とともに、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の目標設定値「200kPa、300kPa」についてもそれぞれ同様に行なった。
なお、このようなブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の変動試験は、ブレーキシリンダ圧力を供給する圧力発生装置の内部に給気弁と排気弁から構成されるオン・オフ弁を設け、該オン・オフ弁を所定周期で作動させることにより行った。
【0017】
また、ブレーキシリンダ圧力を供給する圧力発生装置内の排気路に流量計が設けられており、該流量計により、上述したブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の変動試験を行った際の平均流量(L/min)を測定し、その圧力変動試験の結果を、
図2で示す「圧力変動の周期と排気弁の平均流量の関係」としてまとめた。
そして、
図2に示されるように、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の目標設定値(200kPa、300kPa、400kPa)に対して、1.2sの周期でかつ「±30kPa」の範囲内で圧力変動を与えれば、圧力発生装置の排気路の平均流量が最大値となる「30L/min」となり、最適な圧力制御性が得られることが確認されている。
そして、さらに発明者が種々の実験を行った結果、ブレーキシリンダ圧力の目標設定値(200kPa、300kPa、400kPa)に対し、正弦波状の圧力変動を一定周期で与える制御を行う際、正弦波状の圧力変動は、ブレーキシリンダ圧力の目標設定値に対して±30kPaの範囲でかつ周期がおおよそ0.8s以上、2s以下に設定すれば、圧力発生装置の排気路の平均流量が最適値となることが確認されている。
また、
図2では、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の目標設定値(300kPa)におけるデータが記載されていないが、目標設定値(200kPa、400kPa)とほぼ同様の傾向となることが確認されている。
【0018】
次に、
図3のフローチャートを参照して、鉄道車両の運転台から「非常ブレーキ指令または地震ブレーキ指令」が発せられた際に、ブレーキシリンダ圧力の目標設定値に対して、正弦波状の圧力変動を一定周期で与える制御を行うための条件について説明する。
《ステップ1》
鉄道車両の運転台から非常ブレーキ(空気ブレーキのみ、いわゆる空制)か、地震ブレーキ(空気ブレーキのみ、いわゆる空制)かを判定し、いずれかのブレーキ操作がなされたと判定された場合に、次のステップ2に進む。
なお、地震ブレーキは、地震発生時に停電等が発生した場合に使用されるため、電気ブレーキは使用できない。したがって、空気ブレーキのみが作用する。
【0019】
《ステップ2》
「非常ブレーキ指令または地震ブレーキ指令」により空気ブレーキのみが作動したかどうかを判定し(電気ブレーキは作動せず)、YESの場合にステップ3に進み、NOの場合にステップ7に進む。
【0020】
《ステップ3》
予め設定したブレーキシリンダ圧力の目標設定値に対して正弦波状の圧力変動を一定周期で与える
ことによる空気ブレーキ制御を、ディスクブレーキに対して行う(ステップ3A)。これにより「非常ブレーキまたは地震ブレーキ」を作動させる(ステップ3B)。
なお、ステップ3の処理は、ブレーキシリンダ圧力の目標設定値に対して正弦波状の圧力変動を一定周期で与える制御を行うブレーキ制御プログラムに基づき実行される。
【0021】
《ステップ4》
車輪とレールとの粘着係数が急激に低下することにより、車輪の滑走が発生したか否かを判断し、YESの場合に次のステップ5に進む。
【0022】
《ステップ5》
ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)を緩める等の滑走再粘着制御を行う。
【0023】
《ステップ6》
車輪とレールとの粘着係数が上昇することにより、再粘着が生じたか否かを判断し、YESの場合に次のステップ3に戻り、NOの場合にはステップ6に戻る。
【0024】
《ステップ7》
ステップ2において「空気ブレーキのみを作用する非常ブレーキまたは空気ブレーキのみを作用する地震ブレーキ」が操作されないNOの場合には、該ステップ2において、通常の非常ブレーキ操作がなされたとして、電気ブレーキ及び空気ブレーキを併用した通常の非常ブレーキ動作を行う(ステップ7A,7B)。
【0025】
《ステップ8》
車輪とレールとの
粘着係数が急激に低下することにより、車輪の滑走が発生したか否かを判断し、YESの場合に次のステップ9に進む。
【0026】
《ステップ9》
ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)を緩める等の滑走再粘着制御を行う。
【0027】
《ステップ10》
車輪とレールとの粘着係数が上昇することにより、再粘着が生じたか否かを判断し、YESの場合に次のステップ7に戻り、NOの場合にはステップ10に戻る。
【0028】
次に、
図4〜
図7を参照して、「空気ブレーキのみを作用する非常ブレーキ指令または空気ブレーキのみを作用する地震ブレーキ指令」が発せられたことに伴い、ブレーキシリンダ圧力の目標設定値に対して正弦波状の圧力変動を一定周期で与えた場合の性能試験(非常ブレーキ相当試験、非常ブレーキ向上試験)結果について説明する。
なお、以下の「非常ブレーキ相当試験」では、300km/h又は400km/hで走行する車両に対して、最大で約400kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で非常ブレーキを作動させた試験例(試験例1,3)が示されている。
また、「非常ブレーキ向上試験」では、300km/h又は400km/hで走行していた車両に対して、より高く最大で約500kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で地震ブレーキを作動させた試験例(試験例2,4)が示されている。
【0029】
《試験例1》
試験例1に示される「非常ブレーキ相当試験」では、
図4に示すように、300km/hで走行していた車両に対して、およそ400kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で非常ブレーキを作動させた例が示されている。
そして、この試験例1の「非常ブレーキ相当試験」では、300km/hで走行していた車両に対して、目標設定値となる400kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で非常ブレーキを作動させるとともに、ブレーキ動作に、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)に対して、±30kPaの範囲内でかつ変動周期が0.8s以上(本例では1.2s)となるように正弦波状の圧力変動を行わせている。
【0030】
そして、上記のようなブレーキシリンダ圧力(BC圧力)に対する正弦波状の圧力変動を行わせることにより、ブレーキ性能(ブレーキトルク、瞬間摩擦係数、ブレーキ距離等)が大幅に改善されたことが確認されている。
具体的には、
図5(a)に示されるように正弦波状の圧力変動を与えない「従来制御」(以下、「従来制御」と言う)と、
図5(b)に示される正弦波状の圧力変動を与えた本発明に係る「提案制御」(以下、「提案制御」と言う)とを比較して分かるように、目標トルクに対するブレーキトルクについて、
図5(b)で示される「提案制御」の試験結果が全ての速度領域において上回っていることが確認されている。
なお、「従来制御」及び「提案制御」にてブレーキトルクをそれぞれ5回ずつ測定したが、
図5(a)及び(b)の各グラフではそれら測定値の平均を示した。
【0031】
また、
図6(a)に示されるように「従来制御」と、
図6(b)に示される「提案制御」とを比較して分かるように、制輪子を車輪踏面に押し付ける又はブレーキライニングをブレーキディスクに押し付けた際の瞬間摩擦係数について、
図6(b)で示される「提案制御」の試験結果が全ての速度領域において上回っていることが確認されている。
なお、「従来制御」及び「提案制御」にて瞬間摩擦係数をそれぞれ5回ずつ測定したが、
図6(a)及び(b)の各グラフではそれら測定値の平均を示した。
また、
図6(b)の「提案制御」では、ブレーキシリンダに正弦波状の圧力変動を与えることにより、所定の振幅を有する瞬間摩擦係数が得られるが、その振幅の範囲(正弦波の山と谷の頂点のプロット)を破線で示し、振幅の中央となる平均値を実線で示した。
【0032】
また、
図7(a)に示されるように「従来制御」及び「提案制御」の平均停止距離(m)を比較して分かるように、「従来制御」の平均停止距離が5182m、「提案制御」の平均停止距離が4475mとなり、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して14%短縮されたことが確認されている。
一方、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して14%短縮されたとしても、
図7(a)に示されるように、ディスク最高温度(ブレーキライニングをブレーキディスクに押し付ける方式)、ライニング最高温度(ブレーキライニングをブレーキディスクに押し付ける方式)の最高温度については、「従来制御」及び「提案制御」のいずれも同等の水準であることが確認されている。
【0033】
また、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して14%短縮されることに伴い、
図7(b)に示されるように、制輪子を車輪踏面に押し付ける又はブレーキライニングをブレーキディスクに押し付けた際の平均摩擦係数については、「提案制御」の方が「従来制御」と比較して15%向上したことが確認されている。
【0034】
また、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して14%短縮されたとしても、
図7(c)に示されるように、ディスク締結ボルト応力(引張応力、曲げ応力、軸力、最大軸力、最大荷重振幅)については、「従来制御」及び「提案制御」のいずれも同等の水準であることが確認されている。
また、
図7(d)に示されるように、圧力発生装置の排気路の平均流量については、「提案制御」の方が「従来制御」と比較して50%増加し、「提案制御」の停止距離向上に貢献したことが確認されている。
【0035】
《試験例2》
試験例2に示される「非常ブレーキ向上試験」では、
図8に示すように、300km/hで走行していた車両に対して、およそ500kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で地震ブレーキを作動させた例が示されている。
そして、この試験例2の「非常ブレーキ向上試験」では、300km/hで走行していた車両に対して、目標設定値となる500kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で非常ブレーキを作動させるとともに、ブレーキ動作に、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)に対して、±30kPaの範囲内でかつ変動周期が0.8s以上(本例では1.2s)となるように正弦波状の圧力変動を行わせている。
【0036】
そして、上記のようなブレーキシリンダ圧力(BC圧力)に対する正弦波状の圧力変動を行わせることにより、ブレーキ性能(ブレーキトルク、瞬間摩擦係数、平均停止距離等)が大幅に改善されたことが確認されている。
具体的には、
図9(a)に示されるように正弦波状の圧力変動を与えない「従来制御」と、
図9(b)に示される正弦波状の圧力変動を与えた本発明に係る「提案制御」とを比較して分かるように、目標トルクに対するブレーキトルクについて、
図9(b)で示される「提案制御」の試験結果が全ての速度領域において上回っていることが確認されている。
なお、「従来制御」及び「提案制御」にてブレーキトルクをそれぞれ3回ずつ測定したが、
図9(a)及び(b)の各グラフではそれら測定値の平均を示した。
【0037】
また、
図10(a)に示されるように「従来制御」と、
図10(b)に示される「提案制御」とを比較して分かるように、制輪子を車輪踏面に押し付ける又はブレーキライニングをブレーキディスクに押し付けた際の瞬間摩擦係数について、
図10(b)で示される「提案制御」の試験結果が全ての速度領域において上回っていることが確認されている。
なお、「従来制御」及び「提案制御」にて瞬間摩擦係数をそれぞれ3回ずつ測定したが、
図10(a)及び(b)の各グラフではそれら測定値の平均を示した。
また、
図10(b)の「提案制御」では、ブレーキシリンダに正弦波状の圧力変動を与えることにより、所定の振幅を有する瞬間摩擦係数が得られるが、その振幅の範囲(正弦波の山と谷の頂点のプロット)を破線で示し、振幅の中央となる平均値を実線で示した。
【0038】
また、
図11(a)に示されるように「従来制御」及び「提案制御」の平均停止距離(m)を比較して分かるように、「従来制御」の平均停止距離が3051m、「提案制御」の平均停止距離が2828mとなり、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して7%短縮されたことが確認されている。
一方、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して7%短縮されたとしても、
図11(a)に示されるように、ディスク最高温度(ブレーキライニングをブレーキディスクに押し付ける方式)、ライニング最高温度(ブレーキライニングをブレーキディスクに押し付ける方式)の最高温度については、「従来制御」及び「提案制御」のいずれも同等の水準であることが確認されている。
【0039】
また、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して7%短縮されることに伴い、
図11(b)に示されるように、制輪子を車輪踏面に押し付ける又はブレーキライニングをブレーキディスクに押し付けた際の平均摩擦係数については、「提案制御」の方が「従来制御」と比較して7%向上したことが確認されている。
【0040】
また、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して7%短縮されたとしても、
図11(c)に示されるように、ディスク締結ボルト応力(引張応力、曲げ応力、軸力、最大軸力、最大荷重振幅)については、「従来制御」及び「提案制御」のいずれも同等の水準であることが確認されている。
また、
図11(d)に示されるように、圧力発生装置の排気路の平均流量については、「提案制御」の方が「従来制御」と比較して50%増加し、「提案制御」の停止距離向上に貢献したことが確認されている。
【0041】
《試験例3》
試験例3に示される「非常ブレーキ相当試験」では、
図12に示すように、400km/hで走行していた車両に対して、およそ400kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で非常ブレーキを作動させた例が示されている。
そして、この試験例3の「非常ブレーキ相当試験」では、400km/hで走行していた車両に対して、目標設定値となる400kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で非常ブレーキを作動させるとともに、ブレーキ動作に、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)に対して、±30kPaの範囲内でかつ変動周期が0.8s以上(本例では1.2s)となるように正弦波状の圧力変動を行わせている。
【0042】
そして、上記のようなブレーキシリンダ圧力(BC圧力)に対する正弦波状の圧力変動を行わせることにより、ブレーキ性能(ブレーキトルク、瞬間摩擦係数、平均停止距離等)が大幅に改善されたことが確認されている。
具体的には、
図13に示されるように、正弦波状の圧力変動を与えない「従来制御」と、正弦波状の圧力変動を与えた本発明に係る「提案制御」とを比較して分かるように、目標トルクに対するブレーキトルクについて、「提案制御」の試験結果が全ての速度領域において上回っていることが確認されている。
【0043】
また、
図14に示されるように「従来制御」と「提案制御」とを比較して分かるように、制輪子を車輪踏面に押し付ける又はブレーキライニングをブレーキディスクに押し付けた際の瞬間摩擦係数について、「提案制御」の試験結果が全ての速度領域において上回っていることが確認されている。
【0044】
また、
図15に示されるように「従来制御」及び「提案制御」の平均停止距離(m)を比較して分かるように、「従来制御」の平均停止距離が10940m、「提案制御」の平均停止距離が9083mとなり、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して17%短縮されたことが確認されている。
一方、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して17%短縮されたとしても、
図15に示されるように、ディスク最高温度(ブレーキライニングをブレーキディスクに押し付ける方式)、ライニング最高温度(ブレーキライニングをブレーキディスクに押し付ける方式)の最高温度については、「従来制御」及び「提案制御」のいずれも同等の水準であることが確認されている。
【0045】
また、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して7%短縮されることに伴い、
図16に示されるように、制輪子を車輪踏面に押し付ける又はブレーキライニングをブレーキディスクに押し付けた際の平均摩擦係数については、「提案制御」の方が「従来制御」と比較して15%向上したことが確認されている。
【0046】
《試験例4》
試験例4に示される「非常ブレーキ向上試験」では、
図17に示すように、400km/hで走行していた車両に対して、およそ500kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で地震ブレーキを作動させた例が示されている。
そして、この試験例4の「非常ブレーキ向上試験」では、400km/hで走行していた車両に対して、目標設定値となる500kPaのブレーキシリンダ圧力(BC圧力)で非常ブレーキを作動させるとともに、ブレーキ動作に、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)に対して、±30kPaの範囲内でかつ変動周期が0.8s以上(本例では1.2s)となるように正弦波状の圧力変動を行わせている。
【0047】
そして、上記のようなブレーキシリンダ圧力(BC圧力)に対する正弦波状の圧力変動を行わせることにより、ブレーキ性能(ブレーキトルク、瞬間摩擦係数、平均停止距離等)が大幅に改善されたことが確認されている。
具体的には、
図18に示されるように、正弦波状の圧力変動を与えない「従来制御」と、正弦波状の圧力変動を与えた本発明に係る「提案制御」とを比較して分かるように、目標トルクに対するブレーキトルクについて、「提案制御」の試験結果が全ての速度領域において上回っていることが確認されている。
【0048】
また、
図19に示されるように「従来制御」と「提案制御」とを比較して分かるように、制輪子を車輪踏面に押し付ける又はブレーキライニングをブレーキディスクに押し付けた際の瞬間摩擦係数について、「提案制御」の試験結果が全ての速度領域において上回っていることが確認されている。
【0049】
また、
図20に示されるように「従来制御」及び「提案制御」の平均停止距離(m)を比較して分かるように、「従来制御」の平均停止距離が7098m、「提案制御」の平均停止距離が6372mとなり、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して10%短縮されたことが確認されている。
一方、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して10%短縮されたとしても、
図20に示されるように、ディスク最高温度(ブレーキライニングをブレーキディスクに押し付ける方式)、ライニング最高温度(ブレーキライニングをブレーキディスクに押し付ける方式)の最高温度については、「従来制御」及び「提案制御」のいずれも同等の水準であることが確認されている。
【0050】
また、「提案制御」の平均停止距離が「従来制御」と比較して10%短縮されることに伴い、
図21に示されるように、制輪子を車輪踏面に押し付ける又はブレーキライニングをブレーキディスクに押し付けた際の平均摩擦係数については、「提案制御」の方が「従来制御」と比較して10%向上したことが確認されている。
【0051】
以上詳細に説明したように本実施例に係る鉄道車両のブレーキ制御方法では、ブレーキシリンダ圧力(BC圧力)の目標設定値に対し、正弦波状の圧力変動を一定周期で与える制御を行うことにより、車輪踏面及び制輪子、又はブレーキディスク及びブレーキライニングの温度上昇を抑えながらブレーキトルク及び摩擦係数を向上させることができる。
これにより、鉄道車両のブレーキ制御方法では、試験例1〜4(
図5〜
図21)の「提案制御」のブレーキトルク、瞬間/平均摩擦係数、平均停止距離、ディスク/ライニング温度に示されるように、ブレーキ距離のばらつきを小さく収めてブレーキ性能を安定化できるとともに、ブレーキ距離を短縮させることができる。
【0052】
なお、上記実施形態では鉄道車両のブレーキ制御方法について説明した。
そして、このようなブレーキ制御方法は、鉄道車両の車輪にブレーキシリンダ圧力を供給して制動力を生じさせる圧力発生装置の内部に給気弁および排気弁(オン・オフ弁)とを具備し、該弁制御によってブレーキシリンダ圧力を変動させることができるブレーキ装置に適用されるものであって、前記ブレーキシリンダ圧力に対して正弦波状の変動を一定周期で与える制御を、前記オン・オフ弁に併設した弁制御手段にて行うようにする。このとき、弁制御手段に設定する処理は、
図3に示すフローチャートに基づき行うものである。
【0053】
また、本発明は、ブレーキシリンダ圧力の目標設定値に対して圧力変動を一定周期で与える制御を行うという制御方法に特徴を有しているものであり、実施形態に例示した特定の変動波形、圧力変動幅及び周期に限定されるものではない。
【0054】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。