特許第6837300号(P6837300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6837300-屋根の遮熱構造及びその施工方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6837300
(24)【登録日】2021年2月12日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】屋根の遮熱構造及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20210222BHJP
   E04B 1/80 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   E04B1/76 400A
   E04B1/80 100P
   E04B1/80 100L
   E04B1/80 100B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-144156(P2016-144156)
(22)【出願日】2016年7月22日
(65)【公開番号】特開2018-13007(P2018-13007A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村上 知由
(72)【発明者】
【氏名】福家 正志
(72)【発明者】
【氏名】山下 博史
(72)【発明者】
【氏名】松原 重人
【審査官】 松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−051482(JP,A)
【文献】 特開2010−031631(JP,A)
【文献】 特開2010−001699(JP,A)
【文献】 特開2006−118167(JP,A)
【文献】 特開2004−332276(JP,A)
【文献】 特開2004−100352(JP,A)
【文献】 米国特許第01902639(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B1/80
E04B1/58
E04B7/02
E04D12/00
E04D3/40
E04B1/70
E04B1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根骨格を基礎に構築される屋根の遮熱構造であって、
前記屋根骨格が複数の垂木を備え、
隣り合う前記垂木の間には、少なくとも1枚の遮熱パネルが配設され、
前記遮熱パネルは木質ボード、合板、集成板または無垢板のいずれかからなる厚さ5〜15mmの基板に遮熱層を有する構成であり、前記遮熱層は輻射熱に対して高反射性の金属薄膜または金属蒸着フィルムからなる素材であり、
前記垂木は側面に長手方向に延在する溝を有し、
前記遮熱パネルの両辺が前記垂木の溝に嵌合し、
前記垂木の上端面に野地板が敷設され、前記野地板と前記遮熱パネルとの間に通気層を有することを特徴とする屋根の遮熱構造。
【請求項2】
請求項1記載の遮熱構造の施工方法であって、
前記遮熱パネルを前記垂木の側面の長手方向に延在する溝に嵌合させる工程を備えることを特徴とする屋根の遮熱構造の施工方法。
【請求項3】
前記工程は、前記遮熱パネルが前記垂木の軒側から挿入されることを特徴とする請求項2記載の屋根の遮熱構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根の遮熱構造及びその施工方法に関するものであり、木造家屋建築の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化の観点から家屋等といった木造建物においても、屋根や壁等を通じての熱損失を防止すべく、屋根や壁等に断熱材を用いて断熱性を付与することが行われている。建物に断熱性を付与する断熱工法には、内断熱工法と外断熱工法とが知られ、内断熱工法は躯体柱等の間に、又外断熱工法は躯体柱等の外側に断熱材を取付けるものである。しかし、これらの断熱工法は何れも熱伝導型の断熱材を使用するため伝導熱に対しては効果的であるが、輻射熱に対しては殆んど効果が期待できないという問題がある。
【0003】
このような輻射熱対策として、近年、断熱材等の表面にアルミニウム箔等の輻射熱に対して高反射性の素材を用いて遮熱性を付与することが提案されている。アルミニウム箔等の輻射熱に対して高反射性の素材は、輻射熱の約97%をその進入面側に反射する性質を有する為、アルミニウム箔等を表面に有する断熱材を屋根や壁等に用いた場合、高い遮熱断熱効果を得ることができるが、輻射熱に対して高反射性の素材は伝導熱及び対流熱には逆効果となる為、これらの反射面と接する屋根材や外装材等は胴縁等により通気層が形成されるよう取り付ける必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、垂木上に、木質ボードの表面にアルミニウム箔等を設けた遮熱ボードを直接釘やビス等で取り付けた後、遮熱ボード上に胴縁等を設けることで遮熱ボードと屋根材との間に通気層を形成する屋根の遮熱工法が記載されている。特許文献2には、垂木上に野地板を敷設した後、小屋裏側から隣接する垂木間に、表面側の両側端部に凸条部を形成して表面側に通気層を形成した長尺平板状の遮熱断熱材を埋め込んで固定する遮熱断熱工法が記載されている。特許文献3には、層着面に通気用条溝と肉厚部とを交互・平行に備え、幅中央部と両側縁部とに縦桟を一体化した断熱層上に、遮熱反射層を配置し、遮熱反射層上面にパネル全幅に亘る屋根下地を、通気胴縁を介して通気層を確保した形態で一体化した屋根パネルが記載され、該屋根パネルを棟木、母屋、軒桁等の上面に直接固定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−231716
【特許文献2】特開2001−342695
【特許文献3】特開2010−84481
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の遮熱工法は、屋根の施工手順において一般的に垂木上に野地板が施工されるものが、垂木上に遮熱ボードを施工した後、胴縁取り付け、野地板施工と順次施工する必要があり、非常に施工手間がかかる問題がある。また、野地板を敷設する前の、屋根骨格の傾斜面での足場が悪い状態で垂木に遮熱ボードを施工する為、遮熱ボードの施工作業が危険である。
【0007】
特許文献2に記載の遮熱断熱工法は、垂木上に野地板を敷設した後、小屋裏側から垂木と垂木との間に遮熱断熱材を埋め込むことから、安全に遮熱断熱構造を形成することができるが、この遮熱断熱材は通気層を形成するための凸条部が一体成形された遮熱断熱パネルとなっている為、複寄棟、方形、入母屋等の複雑な屋根形状の場合、それぞれの屋根の位置に対応する形状のパネルを製作しなくてはならず、パネルの製作自体が煩雑であり、施工現場の寸法に合わせたパネル製作は非現実的である。一方で、特定サイズのパネルを製作し、施工現場にてパネルを加工して埋め込むことも考えられるが、パネルの加工自体が複雑になる。
【0008】
また、特許文献3に記載の屋根パネルは、通気胴縁を介して通気層を確保した形態で一体化したパネルであるため、施工性には優れるが、上述したように、複雑な屋根形状に合わせてパネルを製作することは非常に煩雑となる。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑みなされたもので、製作が容易で、施工性に優れ、機能上も優れた遮熱効果を発揮する屋根の遮熱構造を、合理的に構築できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
(1)屋根骨格を基礎に構築される屋根の遮熱構造であって、
前記屋根骨格が複数の垂木を備え、
隣り合う前記垂木の間には、少なくとも1枚の遮熱パネルが配設され、
前記垂木は側面に長手方向に延在する溝を有し、
前記遮熱パネルの両辺が前記垂木の溝に嵌合していることを特徴とする屋根の遮熱構造が提供され、
(2)前記垂木の上端面に野地板が敷設され、前記野地板と前記遮熱パネルとの間に通気層を有することを特徴とする(1)記載の屋根の遮熱構造が提供され、
(3)複数の垂木を備える屋根骨格と、隣り合う前記垂木の間に配設された遮熱パネルと、を備える屋根の遮熱構造の施工方法であって、
前記遮熱パネルを前記垂木の側面の長手方向に延在する溝に嵌合させる工程を備えることを特徴とする屋根の遮熱構造の施工方法が提供され、
(4)前記工程は、前記遮熱パネルが前記垂木の軒側から挿入されることを特徴とする(3)記載の屋根の遮熱構造の施工方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の屋根の遮熱構造及びその施工方法は、遮熱パネルの両端部が垂木の溝に嵌合した構造である為、胴縁等のスペーサーを介在させることなく、容易に通気層を形成することができる。また、遮熱パネルが簡易な構成であり、遮熱パネルの端部を切除しても遮熱性能が損なわれることがない為、現場で容易に屋根に対応した形状・寸法に調整することができる。更に、垂木の側面に長手方向に延在する溝を形成している為、垂木の軒側から垂木間に容易に遮熱パネルを挿入することができ、屋根工事とほぼ同時に屋根の遮熱構造を完成させることができる。それ故、建設中の降雨による柱や梁の濡れ等を最小限にすることができるとともに、屋根骨格の傾斜面での足場が悪い状態での施工を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る屋根の遮熱構造の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る屋根の遮熱構造の、図1におけるA−A’線拡大断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る垂木の長手方向に対する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、以下に説明する構成は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0014】
先ず、図1乃至図3により、本実施形態に係る屋根の遮熱構造Sについて説明する。本発明の屋根の遮熱構造Sは、屋根骨格1と遮熱パネル2とを有している。屋根骨格1は、棟束11aと、この棟束11aを中心にこれに平行に立設する小屋束11bと、棟束11a及び小屋束11bの下端部を受けて固定する梁11cと、相対向するように平行に配設された棟束11aの天端間を架け渡すように配設される棟12aと、相対向するように平行に配設された小屋束11bの天端間を架け渡すように配設されて互いに平行に配置された母屋12bと、相対向するように平行に配設された梁11c間を架け渡すように配設される桁12cと、棟12aと母屋12bと桁12cとを架け渡すように配設されて互いに平行に配設される垂木13と、により形成されている。なお、本実施形態における屋根骨格1の各部材の名称は、屋根骨格1における部位を示すものであり、その素材を限定するものではない。従い、各部材の素材として、木材以外を使用しても良い。
【0015】
垂木13は、その側面13bに遮熱パネル2を嵌合するための長手方向に延在する溝13aを有している。この溝13aは、長手方向に直線状に延在していることが好ましい。本発明においては、垂木13に遮熱パネル2を嵌合するための溝13aを設けることにより、遮熱パネル2の両端部を垂木の溝13aに嵌合した構造とすることができ、野地板3と遮熱パネル2との間に通気層Tを形成することができる。垂木の溝13aは、通気・換気を効率的に行うことができる程度の通気層Tを確保できる位置に設けられていれば良く、特に制限するものではないが、通気層Tは15mm以上の高さが確保されていることが好ましい。従い、垂木の溝13aは、垂木の上端面13cから溝上部までの距離(h)が15mm以上の位置に形成されていることが好ましい。
【0016】
垂木の溝の深さ(d1)は、遮熱パネル2を嵌合できる深さであれば良く、特に制限するものではないが、具体的には、5mm〜20mmである。垂木の溝の幅(d2)は、遮熱パネル2を嵌合できる幅であれば良く、基本的に遮熱パネル2の厚さが基準となる。特に制限するものではないが、具体的には、遮熱パネル2の厚さ+1〜3mmである。遮熱パネル2を介して屋内の気密性を高める場合、遮熱パネル2の寸法を考慮して溝の深さ及び幅を適宜設計すれば良い。
【0017】
なお、本実施形態において、垂木の溝13aの形状を断面視でコの字型としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、V字型、半円型、台形型、W字型等でも良い。これらの垂木の溝13aと遮熱パネル2の端部とを嵌合させる形状は、垂木の溝13aの形状と遮熱パネル2の端部形状とで相対的に設計すれば良い。また、遮熱パネル2の端部に垂木の溝13aに嵌合させる手段を設けて嵌合させても良い。
【0018】
隣り合う垂木13の間に配置される矩形状の遮熱パネル2は、基板2a上に遮熱層2bを有する構成であり、該遮熱層2bが通気層Tの内底面となるよう垂木の溝13aに嵌合され配置される。本発明においては、遮熱パネル2の遮熱層2bが通気層Tの内底面を構成することにより、遮熱層2bが赤外線等の熱線を反射するとともに、遮熱層2bの輻射熱が周囲の空気に伝熱されたとしても該空気が該通気層Tを介して上部へ逃がされ、高い遮熱性を発揮できる。また、遮熱パネル2は、基板2a上に遮熱層2bを有する簡易な構成であり、遮熱パネル2の端部等を切除しても、遮熱層2bによる遮熱性能が損なわれることがない為、複雑な屋根形状等の場合でも、現場で容易に屋根に対応する形状・寸法に遮熱パネル2を調整することができる。なお、遮熱パネル2は、隣り合う垂木13の間に複数枚を挿入していても良い。
【0019】
遮熱層2bとしては、輻射熱に対して高反射性の素材から構成されていれば良く、特に制限するものではないが、例えば、アルミニウム箔等の金属薄膜、アルミニウム蒸着フィルム等の金属蒸着フィルムを用いることができる。また、遮熱層2bは、基板上に遮熱塗料を塗布して形成しても良い。なお、遮熱層2bは基材2aの両面に設けられていても良い。
【0020】
基板2aとしては、中密度繊維板、パーティクルボード、OSBボード等の木質ボード、合板、集成板、無垢板、合成樹脂板等を用いることができる。基板2aの厚さとしては、特に制限するものではないが、例えば、5〜35mmであることが好ましく、5〜25mmであることがより好ましく、5〜15mmであることがさらに好ましい。遮熱パネル2に断熱性を付与する場合、基板自身を断熱材で構成しても良く、又断熱層を遮熱パネル2に設けても良い。遮熱パネル2に断熱層を設ける場合、断熱層を基板2aと遮熱層2bとの間に介在させても良く、又基板2aの遮熱層2bを有する面と反対側の面に設けても良い。断熱材としては、従来公知の素材を用いることができ、例えば、スチレン系樹脂発泡体、オレフィン系樹脂発泡体、ウレタン系樹脂発泡体、フェノール系樹脂発泡体、エポキシ系樹脂発泡体、或いはこれらを適宜混合した発泡体等の合成樹脂発泡体、グラスウール、ロックウール等を用いることができる。
【0021】
次に、本実施形態に係る屋根の遮熱工法について説明する。
先ず、工程1で垂木の側面13bに遮熱パネルを嵌合するための長手方向に延在する溝13aを形成する。(溝形成工程)この溝形成工程は、現場で加工しても、事前にプレカットしておいても良いが、現場での施工性の観点から、垂木の溝13aは事前にプレカットしておくことが好ましい。
【0022】
次いで、工程2で屋根骨格1を組み立てる。このとき、垂木13は、棟12aと複数の母屋12bと桁12cとを架け渡すように配置され、これらの上部に釘等で固定される。また、垂木13は、遮熱パネル2を嵌合するための長手方向に延在する溝を有する側面13bが鉛直方向となるよう、互いに平行に配置される。(垂木設置工程)
【0023】
次いで、工程3で矩形状の遮熱パネル2を、遮熱パネル2の両端部が垂木の溝13aに嵌合するよう垂木の軒側(垂木の木口面13e)から挿入し、隣り合う垂木13の間に遮熱パネル2を配置する。(遮熱パネル設置工程)このとき、遮熱パネル2は、必要に応じて釘や接着剤等で垂木13に固定する。垂木の溝に嵌合した遮熱パネルの端部と該溝との間に隙間がある場合、にシーリング材等で隙間をシールしても良い。
【0024】
その後、工程4で垂木の上端面13cに野地板3を敷設するとともに、ルーフィング施工及び屋根材施工を行い、屋根を完成させる。このように、本発明においては、垂木13に遮熱パネル2を嵌合するための溝13aを形成しておくことで、胴縁等のスペーサーを介在させることなく、野地板3と遮熱パネル3との間に通気層Tを形成することができる。また、遮熱パネル2は、基板2a上に遮熱層2bを有する簡易な構成であり、遮熱パネルの端部等を切除しても、遮熱層による遮熱性能が損なわれることがない為、複雑な屋根形状等の場合でも、現場で容易に屋根に対応する形状・寸法に遮熱パネルを調整することができ、現場での施工性に優れる。更に、垂木の側面に長手方向に延在する溝を形成している為、垂木の軒側から垂木間に容易に遮熱パネルを挿入することができ、屋根工事とほぼ同時に屋根の遮熱構造を完成させることができる。
【0025】
なお、本発明においては、垂木13の軒側から垂木間に容易に遮熱パネル2を挿入できる為、垂木設置工程後、遮熱パネル設置工程を後にし、先に野地板3の敷設やルーフィング施工等を行い、屋根を完成させても良い。このような工法とすることにより、建設中の降雨による柱や梁の濡れ等を最小限にすることができる。また、垂木の溝13aは、垂木設置工程後、つまりは屋根骨格が組み上がった後に形成しても良い。
【符号の説明】
【0026】
1:屋根骨格
11a:棟束
11b:小屋束
11c:梁
12a:棟
12b:母屋
12c:桁
13:垂木
13a:垂木の溝
13b:垂木の側面
13c:垂木の上端面
13d:垂木の下端面
13e:垂木の木口面
2:遮熱パネル
2a:基板
2b:遮熱層
3:野地板
d1:垂木の溝の深さ
d2:垂木の溝の幅
h:垂木の上端面から溝上部までの距離
S:遮熱構造
T:通気層
図1
図2
図3