(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プランジャの軸方向の一方側に外部からの圧力が作用する受圧部が設けられ、前記プランジャの軸方向の他方側に燃料圧縮室が配置され、前記潤滑油貯留部は、前記潤滑油供給通路による潤滑油の供給位置より前記受圧部側に設けられることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射ポンプ。
前記プランジャは、軸方向の一方側にばね受け部材が固定され、前記ポンプケースと前記ばね受け部材との間に圧縮ばねが張設されることで前記プランジャが前記燃料圧縮室から離間する方向に付勢支持され、前記潤滑油貯留部は、前記ばね受け部材の固定位置より前記燃料圧縮室側に設けられることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射ポンプ。
前記プランジャは、軸方向の一方側が前記ばね受け部材を貫通して固定され、前記潤滑油貯留部は、前記プランジャにおける前記ばね受け部材から露出する位置より前記燃料圧縮室側に設けられることを特徴とする請求項3に記載の燃料噴射ポンプ。
前記燃料圧縮室は、前記プランジャバレルと前記プランジャとにより区画され、外部からの燃料を前記燃料圧縮室に供給する燃料吸入通路が設けられ、前記燃料圧縮室に供給される燃料が潤滑油として前記潤滑油供給通路により前記プランジャバレルと前記プランジャとの間に供給されることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の燃料噴射ポンプ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の燃料噴射ポンプは、プランジャがプランジャバレル内に軸方向に移動自在に支持されており、このプランジャが移動することで燃料を昇圧して吐出している。また、燃料噴射ポンプは、プランジャバレルとプランジャとの間に潤滑油が供給されて潤滑している。船舶が停止しているとき、また、船舶が低速で航行しているとき、内燃機関は低負荷で駆動することから、燃料噴射ポンプは、内燃機関への燃料の供給量が少なくなり、プランジャバレルに対するプランジャの移動ストロークも少なくなる。このとき、プランジャは、外周面に潤滑油が付着したままの状態となり、潤滑油の温度が低下してプランジャの外周面に固着してしまうことがある。特に、潤滑油として燃料(例えば、C重油)を使用している場合、温度の低下により燃料の粘度が高くなり、プランジャの外周面に固着しやすくなる。内燃機関が低負荷から高負荷に移動して駆動するとき、燃料噴射ポンプは、内燃機関への燃料の供給量が増加し、プランジャバレルに対するプランジャの移動ストロークも大きくなる。このとき、プランジャの外周面に潤滑油が固着していると、固着した潤滑油がプランジャバレルとプランジャの間に噛み込んでしまい、プランジャの作動不良が発生してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、プランジャの作動不良の発生を抑制する燃料噴射ポンプ、燃料噴射装置、内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本発明の燃料噴射ポンプは、ポンプケースと、前記ポンプケース内に配置されるプランジャバレルと、前記プランジャバレル内で軸方向に沿って移動自在に支持されるプランジャと、前記プランジャバレルと前記プランジャとの間に潤滑油を供給する潤滑油供給通路と、前記プランジャにおける前記プランジャバレルから露出する位置に凹形状をなして設けられる潤滑油貯留部と、を備えることを特徴とするものである。
【0007】
従って、プランジャがプランジャバレル内を軸方向に沿って移動するとき、潤滑油が潤滑油供給通路からプランジャバレルとプランジャとの間に供給されて潤滑が行われる。このとき、プランジャバレルとプランジャとの間に供給された潤滑油は、プランジャバレルから露出するプランジャの表面に押し出されて付着し、時間の経過に伴って固着するおそれがある。しかし、プランジャバレルから露出するプランジャに凹形状をなす潤滑油貯留部が設けられていることから、潤滑油がこの潤滑油貯留部に溜まって固着する。そのため、プランジャの外面に付着した潤滑油が外方に突出するように固着し難くなり、プランジャのストロークが増加して潤滑油の固着部がプランジャバレル内に侵入しても、固着部がプランジャバレルとプランジャの間に噛み込むことはなく、プランジャの作動不良の発生を抑制することができる。
【0008】
本発明の燃料噴射ポンプでは、前記プランジャの軸方向の一方側に外部からの圧力が作用する受圧部が設けられ、前記プランジャの軸方向の他方側に燃料圧縮室が配置され、前記潤滑油貯留部は、前記潤滑油供給通路による潤滑油の供給位置より前記受圧部側に設けられることを特徴としている。
【0009】
従って、潤滑油貯留部が潤滑油供給通路による潤滑油の供給位置より受圧部側に設けられることから、潤滑油供給通路からプランジャバレルとプランジャとの間に供給された潤滑油が潤滑油貯留部により早期に排出されることはなく、潤滑性能を維持することができる。
【0010】
本発明の燃料噴射ポンプでは、前記プランジャは、軸方向の一方側にばね受け部材が固定され、前記ポンプケースと前記ばね受け部材との間に圧縮ばねが張設されることで前記プランジャが前記燃料圧縮室から離間する方向に付勢支持され、前記潤滑油貯留部は、前記ばね受け部材の固定位置より前記燃料圧縮室側に設けられることを特徴としている。
【0011】
従って、潤滑油貯留部がばね受け部材の固定位置より燃料圧縮室側に設けられることから、潤滑油貯留部をばね受け部材の固定位置から燃料圧縮室側方向の範囲に設けることで、潤滑油貯留部に入った潤滑油の排出性を維持することができる。また、潤滑油貯留部を軸方向に長く形成することにより、低負荷時でプランジャのリフトが小さい場合に、潤滑油の固着が発生しても、潤滑油貯留部に溜めることができ、プランジャの作動不良の発生を抑制することができる。
【0012】
本発明の燃料噴射ポンプでは、前記プランジャは、軸方向の一方側が前記ばね受け部材を貫通して固定され、前記潤滑油貯留部は、前記プランジャにおける前記ばね受け部材から露出する位置より前記燃料圧縮室側に設けられることを特徴としている。
【0013】
従って、潤滑油貯留部がプランジャにおける前記ばね受け部材から露出する位置より燃料圧縮室側に設けられることから、潤滑油貯留部の形成領域を限定することで周辺部材の変更点が減少し、コストの増加を抑制することができる。
【0014】
本発明の燃料噴射ポンプでは、前記プランジャは、前記プランジャバレル内に嵌合して軸方向に沿って移動自在に支持される支持部が設けられ、前記潤滑油貯留部は、前記支持部より小径の細径部により構成されることを特徴としている。
【0015】
従って、支持部より小径の細径部により潤滑油貯留部を構成することから、非摺動部となる潤滑油貯留部の粗度を緩和することができ、加工コストを低減することができる。
【0016】
本発明の燃料噴射ポンプでは、前記支持部と前記細径部との間に傾斜部が設けられることを特徴としている。
【0017】
従って、支持部と細径部との間に傾斜部が設けられることから、傾斜部により形成される支持部と細径部との間の段差のエッジがプランジャバレルの内面に接触することを抑制し、プランジャバレルの損傷やプランジャのスティックを防止することができる。
【0018】
本発明の燃料噴射ポンプでは、前記燃料圧縮室は、前記プランジャバレルと前記プランジャとにより区画され、外部からの燃料を前記燃料圧縮室に供給する燃料吸入通路が設けられ、前記燃料圧縮室に供給される燃料が潤滑油として前記潤滑油供給通路により前記プランジャバレルと前記プランジャとの間に供給されることを特徴としている。
【0019】
従って、燃料圧縮室に供給される燃料の一部を潤滑油として潤滑油供給通路からプランジャバレルとプランジャとの間に供給することから、別途潤滑油の供給通路を設ける必要がなく、製造コストの増加を抑制することができる。
【0020】
また、本発明の燃料噴射装置は、内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁に燃料を供給する前記燃料噴射ポンプと、前記燃料噴射ポンプにおける前記プランジャの作動を制御する蓄圧管制弁装置と、を備えることを特徴とするものである。
【0021】
従って、燃料噴射ポンプにて、プランジャバレルから露出するプランジャに凹形状をなす潤滑油貯留部を設けることから、潤滑油供給通路によりプランジャバレルとプランジャとの間に供給された潤滑油は、潤滑油貯留部に溜まって固着するため、潤滑油の固着部がプランジャバレルとプランジャの間に噛み込むことはなく、プランジャの作動不良の発生を抑制することができ、その結果、内燃機関の燃焼室に対して適量の燃料を噴射することができる。
【0022】
また、本発明の内燃機関は、前記燃料噴射装置を備えることを特徴とするものである。
【0023】
従って、燃料噴射ポンプにおけるプランジャの作動不良の発生を抑制することで、内燃機関の燃焼室に対して適量の燃料を噴射することができ、その結果、内燃機関の作動性を向上することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の燃料噴射ポンプ、燃料噴射装置、内燃機関によれば、燃料噴射ポンプにおけるプランジャの作動不良の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る燃料噴射ポンプ、燃料噴射装置、内燃機関の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0027】
図6は、本実施形態の燃料噴射装置を表す概略構成図である。
【0028】
本実施形態において、
図6に示すように、燃料噴射装置10は、船舶に搭載される舶用大型ディーゼルエンジン(内燃機関)に搭載されている。燃料噴射装置10は、燃料噴射弁11と、燃料噴射ポンプ12と、蓄圧管制弁ブロック13とを備えている。
【0029】
燃料噴射弁11は、図示しないディーゼルエンジンの燃焼室に燃料(C重油)を噴射するものである。燃料噴射ポンプ12は、この燃料噴射弁11に燃料を圧送するものであり、燃料配管14を介して連結されている。蓄圧管制弁ブロック13は、燃料噴射ポンプ12を駆動制御するものであり、ディーゼルエンジンのシリンダブロック側面等に設置され、塔状に構成された燃料噴射ポンプ12がこの蓄圧管制弁ブロック13の上部に立設されている。
【0030】
以下、本実施形態の燃料噴射ポンプ12について詳細に説明する。
図1は、本実施形態の燃料噴射ポンプを表す概略断面図、
図2は、本実施形態の燃料噴射ポンプにおける要部を表す断面図、
図3は、燃料噴射ポンプにおけるプランジャのフルストローク状態を表す断面図、
図4は、燃料噴射ポンプの作動状態を表す断面図である。
【0031】
本実施形態の燃料噴射ポンプ12は、
図1に示すように、ポンプケース21と、プランジャバレル22と、プランジャ23と、吸入弁24と、吐出弁25とを備えている。そして、このプランジャバレル22と吸入弁24と吐出弁25は、ポンプケース21内で長手方向に沿って直線状をなすように直列に配置されると共に、外壁面がポンプケース21の内壁面に支持されている。
【0032】
ポンプケース21は、円筒形状をなすケース本体31と、円筒形状をなすケース取付台32と、円柱形状をなす押え部材33とを備えている。ケース本体31は、プランジャバレル22の大部分と吸入弁24と吐出弁25などを収容する第1収容部34と、プランジャ23などを収容する第2収容部35とが設けられている。第1収容部34及び第2収容部35は、連続した空間部により構成され、第1収容部34が第2収容部35より上方に位置し、第1収容部34の内径寸法より第2収容部35の内径寸法が大きく設定されている。
【0033】
ケース取付台32は、上端部の外周面がケース本体31における下端部(第2収容部35)の内周面に嵌合して連結ボルト(図示略)により連結されている。ケース取付台32は、径方向における中心部に軸方向に沿ってプランジャ23を移動自在に支持する支持孔36が形成されている。そして、このケース取付台32は、下端部が蓄圧管制弁ブロック13(
図6参照)の上面部に固定されている。
【0034】
押え部材33は、下端部の外周面がケース本体31における上端部(第1収容部34)の内周面に嵌合して固定されている。押え部材33は、外径寸法がケース本体31の外径寸法と同じであり、ケース本体31における第1収容部34の上端部に嵌合して吐出弁25を押圧する嵌合部37が設けられると共に、外周面側に軸方向に沿う取付孔38が周方向に所定間隔で複数形成されている。そして、押え部材33は、嵌合部37がケース本体31の第1収容部34に嵌合し、ケース本体31の上端面に密着した状態で、複数の締結ボルト39が各取付孔38を貫通し、ケース本体31に形成されたねじ穴40に螺合することでケース本体31に固定される。
【0035】
プランジャバレル22は、ポンプケース21におけるケース本体31内に配置されている。プランジャバレル22は、上部側の大径部41と下部側の小径部42とが設けられ、大径部41と小径部42との間に大径部41の外周面と小径部42の外周面とを連続させる傾斜面43が形成されている。一方、ポンプケース21は、第1収容部34の内周面において径方向の中心部側に突出する突出部(ストッパ)44が設けられている。突出部44は、リング形状をなし、上部に傾斜面45が形成されている。この突出部44の傾斜面45は、プランジャバレル22の傾斜面43と同じ角度に設定されている。また、プランジャバレル22は、径方向における中心部に軸方向に沿ってプランジャ23を移動自在に支持する支持孔46が形成されている。
【0036】
そのため、プランジャバレル22は、ポンプケース21内に配置され、傾斜面43が突出部44の傾斜面45に当接することで位置決めがなされ、ここから第1方向(軸方向における下方)Aへの移動が拘束される。
【0037】
プランジャ23は、上部側の小径部47と下部側の大径部48とが設けられ、小径部47の上面が加圧面49となり、大径部48の下面が受圧面(受圧部)50となる。プランジャ23は、ポンプケース21におけるケース本体31内に配置され、小径部47がプランジャバレル22の支持孔46内で軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、大径部48がケース取付台32の支持孔36内で軸方向に沿って移動自在に支持されている。
【0038】
また、プランジャ23は、リターンスプリング51の付勢力により第1方向Aに付勢支持されている。このリターンスプリング51は、圧縮コイルばねであり、プランジャ23とケース本体31との間に配置されている。プランジャ23は、小径部47と大径部48との段部にばね受け部材52が固定されている。一方、ケース本体31は、第1収容部34の内壁面と第2収容部35の内壁面との間の段部にばね受け部53が形成されている。そして、リターンスプリング51は、下端部がばね受け部材52に弾圧し、上端部がばね受け部53に弾圧することで、プランジャ23を第1方向Aに付勢している。なお、プランジャ23は、蓄圧管制弁ブロック13(
図4参照)により第1方向Aとは逆方向の第2方向B(軸方向における上方)に移動することができる。
【0039】
吸入弁24は、吸入弁本体61と、弁体62と、圧縮ばね63とから構成されている。吸入弁本体61は、径方向における中心部に軸方向に沿って燃料通路64が形成されている。吸入弁24は、吸入弁本体61の下面がプランジャバレル22の上面に密着することで、吸入弁24とプランジャバレル22とプランジャ23とにより径方向の中心部に位置して燃料圧縮室65が区画されている。また、吸入弁24における吸入弁本体61とケース本体31との間に燃料給排室66が区画されている。この燃料給排室66は、リング形状をなす空間部であり、吸入弁本体61を径方向に貫通する複数の燃料吸入通路67を介して燃料圧縮室65に連通されている。また、ポンプケース21は、ケース本体31を径方向に貫通する燃料供給路68と燃料排出路69が周方向に所定間隔を空けて形成されており、燃料供給路68及び燃料排出路69は、一端部が燃料給排室66に連通し、他端部が燃料供給装置(図示略)に連結されている。
【0040】
吸入弁24は、外部から燃料供給路68を通して燃料給排室66に供給された燃料を燃料吸入通路67から燃料圧縮室65に吸入することができる。即ち、弁体62は、吸入弁本体61における燃料通路64に配置され、軸方向に移動自在であると共に、圧縮ばね63の付勢力により吸入弁座に押圧され、燃料吸入通路67と燃料圧縮室65の連通を遮断している。そのため、燃料供給装置により燃料供給路68から燃料給排室66に供給され、燃料吸入通路67から弁体62に作用する燃料の圧力が高くなると、弁体62が圧縮ばね63の付勢力に抗して上昇して吸入弁座から離れ、燃料吸入通路67と燃料圧縮室65が連通する。すると、燃料給排室66の燃料が燃料吸入通路67を通して燃料圧縮室65に吸入される。
【0041】
吐出弁25は、吐出弁本体71と、弁体72と、圧縮ばね73とから構成されている。吐出弁本体71は、径方向における中心部に軸方向に沿って燃料通路74が形成されており、下面が吸入弁24の上面に密着することで、各燃料通路64,74が直列に連通している。吐出弁25は、燃料圧縮室65に供給された燃料を外部に吐出することができる。即ち、弁体72は、吐出弁本体71における燃料通路74に配置され、軸方向に移動自在であると共に、圧縮ばね73の付勢力により吐出弁座に押圧し、燃料通路64と燃料通路74の連通を遮断している。
【0042】
また、押え部材33は、径方向における中心部に燃料吐出通路75が設けられると共に、燃料吐出通路75の周囲にばね収容部76が設けられている。燃料吐出通路75は、一端部が燃料通路74に連通し、他端部に連結プラグ77が連結されている。ばね収容部76は、吐出弁25側に開口し、圧縮ばね73が収容されている。
【0043】
そのため、プランジャ23が第2方向Bに移動し、燃料圧縮室65内の燃料圧力が上昇すると、燃料圧縮室65内の燃料圧力が燃料通路64を通して弁体72に作用する。そして、燃料圧縮室65内の燃料圧力が更に高くなると、弁体72が圧縮ばね73の付勢力に抗して上昇して吐出弁座から離れ、燃料通路64と燃料通路74が連通する。すると、燃料圧縮室65内の燃料が燃料通路64を通して燃料通路74に流れ、燃料吐出通路75を通して連結プラグ77から外部に吐出される。
【0044】
また、燃料噴射ポンプ12は、燃料(C重油)を潤滑油としてプランジャ23に供給している。プランジャバレル22は、プランジャ23の外周面とプランジャバレル22の支持孔46の内壁面に潤滑油としての燃料を供給する潤滑油供給通路81が設けられている。潤滑油供給通路81は、プランジャバレル22の軸方向に沿う第1通路82と、径方向に沿う第2通路83から構成されている。第1通路82と第2通路83は、各一端部が連通し、第1通路82の他端部がプランジャバレル22上面に開口し、第2通路83の他端部がプランジャバレル22内壁面に開口している。そして、第1通路82は、他端部の開口がプランジャバレル22の上面と吸入弁本体61の下面との間に形成された通路(図示略)を介して燃料給排室66に連通している。
【0045】
プランジャ23は、小径部47に周方向に沿う油溝84が軸方向に所定間隔を空けて複数(本実施形態では、6個)形成されている。各油溝84は、プランジャ23が軸方向に移動することで、潤滑油供給通路81を構成する第2通路83の他端部が一時的に連通し、潤滑油を各油溝84に供給することができる。潤滑油供給通路81から各油溝84に供給された潤滑油は、プランジャ23が軸方向に移動するときにプランジャ23の外周面とプランジャバレル22の支持孔46の内壁面との間に供給される。
【0046】
なお、図示しないが、ケース取付台32も、プランジャバレル22と同様に、プランジャ23の外周面とケース取付台32の支持孔36の内壁面に潤滑油としての燃料を供給する潤滑油供給通路が設けられている。
【0047】
そして、プランジャ23は、プランジャバレル22から露出する位置に凹形状をなして潤滑油貯留部91が設けられている。
図2に示すように、プランジャ23は、小径部47と大径部48とが設けられ、小径部47は、プランジャバレル22の支持孔46に嵌合して軸方向に沿って移動自在に支持される支持部として機能する。潤滑油貯留部91は、小径部47より小径の細径部92として形成され、周方向に沿う溝部である。
【0048】
潤滑油貯留部91は、プランジャ23の小径部47にて、軸方向における所定の範囲(長さ)、つまり、各油溝84より下方(受圧面50側)で、且つ、大径部48より上方(加圧面49側、燃料圧縮室65側)に設けられている。具体的に、潤滑油貯留部91は、潤滑油供給通路81による潤滑油の供給位置より受圧面50側に設けることが望ましい。即ち、
図3に示すように、プランジャ23が第2方向Bにフルストローク移動してばね受け部材52がプランジャバレル22に当接しても、潤滑油供給通路81の第2通路83が連通しない位置に設けられている。
【0049】
また、
図2に示すように、プランジャ23は、ばね受け部材52を貫通し、小径部47と大径部48の間に設けられたねじ部47aがばね受け部材52の貫通孔52aに螺合することで、プランジャ23とばね受け部材52が一体に固定されている。潤滑油貯留部91は、このばね受け部材52の固定位置(ねじ部47a)より燃料圧縮室65側に設けられている。即ち、プランジャ23は、ねじ部47aの上部に段付部47bが形成され、小径部47の下端部が段付部47bの上面部に連結されている。潤滑油貯留部91は、プランジャ23の小径部47の下端部を所定の長さにわたって更に細径化して細径部92を形成することで構成している。
【0050】
そして、潤滑油貯留部91は、小径部47と細径部92との間に傾斜部93が設けられている。この傾斜部93は、プランジャ23の軸方方向の小径部47側に設けられる第1傾斜部93aと、細径部92側に設けられる第2傾斜部93bとから構成されている。この場合、第1傾斜部93aは、第2傾斜部93bよりプランジャ23の軸方向における長さが長く、且つ、プランジャ23の軸方向に対する角度が小さく設定されている。なお、細径部92と段付部47bとの間に傾斜部を設けてもよい。また、この傾斜部93は、周方向に沿って設けられており、軸方向に対して所定角度だけ傾斜した直線形状をなす平面であるが、凹部形状または凸部形状をなす曲面であってもよい。
【0051】
なお、本実施形態では、潤滑油貯留部91は、プランジャ23が第2方向Bにフルストローク移動したとき、第2通路83の開口より下方の位置から段付部47bの位置まで設けたが、この領域に限定されるものではない。
図5は、本実施形態の燃料噴射ポンプにおける変形例を表す要部の断面図である。
【0052】
本実施形態の燃料噴射ポンプにおける変形例において、
図5に示すように、潤滑油貯留部96は、プランジャ23におけるばね受け部材52から露出する位置より燃料圧縮室65側に設けられている。潤滑油貯留部96は、小径部47より小径の細径部97として形成され、周方向に沿う溝部である。潤滑油貯留部96は、プランジャ23が第2方向Bにフルストローク移動してばね受け部材52がプランジャバレル22に当接しても、潤滑油供給通路81の第2通路83が連通しない位置に設けられている。また、プランジャ23は、ねじ部47aがばね受け部材52の貫通孔52aに螺合することで、ばね受け部材52が一体に固定されており、潤滑油貯留部96は、このばね受け部材52から露出する位置まで設けられている。そして、潤滑油貯留部96は、細径部97の上下端部と小径部47との間に傾斜部98,99が設けられている。傾斜部98は、プランジャ23の軸方方向の小径部47側に設けられる第1傾斜部98aと、細径部92側に設けられる第2傾斜部98bとから構成されている。
【0053】
ここで、燃料噴射ポンプ12及び燃料噴射装置10の作動について説明する。
【0054】
図1に示すように、燃料噴射ポンプ12において、燃料噴射装置10により燃料供給路68及び燃料吸入通路67を通して吸入弁24の弁体62に所定圧力の燃料が供給されると、この弁体62が圧縮ばね63の付勢力に抗して移動することで燃料吸入通路67と燃料圧縮室65が連通するため、燃料給排室66の燃料が燃料吸入通路67から燃料圧縮室65に吸入される。この状態で、蓄圧管制弁ブロック13によりプランジャ23を第2方向Bに移動して燃料圧縮室65内の燃料が加圧され、燃料圧力が所定圧力を超えると、吐出弁25の弁体72が圧縮ばね73の付勢力に抗して移動することで燃料通路64と燃料通路74が連通するため、燃料圧縮室65内の燃料が燃料通路64を通して燃料通路74に流れ、燃料吐出通路75を通して外部に吐出される。すると、燃料噴射弁11は、ディーゼルエンジンの燃焼室に燃料を噴射することができる。
【0055】
また、燃料給排室66に供給された燃料は、一部が潤滑油供給通路81から複数の油溝84に供給される。各油溝84に供給された燃料(潤滑油)は、プランジャバレル22に対するプランジャ23の移動によりプランジャ23の外周面とプランジャバレル22の支持孔46の内壁面との間に供給されて潤滑される。そして、プランジャ23とプランジャバレル22との間を潤滑した燃料は、自重によりプランジャバレル22からプランジャ23の表面を伝って下方に流れ落ちる。このとき、プランジャ23の表面を伝って流れ落ちる燃料は、潤滑油貯留部91(96)を通って更に流れ落ち、図示しない貯留部に貯留される。
【0056】
船舶に搭載される舶用大型ディーゼルエンジンは、一般に所定負荷で運転されており、燃料噴射ポンプ12は、その負荷に見合った燃料を吐出している。プランジャ23は、
図1及び
図2に示す位置が燃料を吐出していない初期位置(停止位置)であり、
図3に示す位置が燃料を最大量吐出しているフルストローク位置であり、
図4に示す位置が燃料を所定負荷だけ吐出しているストローク位置である。このとき、プランジャ23は、全てがプランジャバレル22内に入り込まずに、長期間にわたって露出している領域が発生する。すると、プランジャ23の表面に付着した燃料は、プランジャバレル22により掻き落とされずにそのまま付着して固着してしまうことがある。特に、潤滑油としてC重油を使用している場合、温度の低下により燃料の粘度が高くなり、プランジャ23の外周面に固着しやすくなる。
【0057】
しかし、本実施形態では、プランジャ23の露出した外周面に細径化した潤滑油貯留部91が設けられていることから、プランジャ23の表面を流れ落ちる燃料は、潤滑油貯留部91に入り込んで固着する。この潤滑油貯留部91は、小径部47よりも細径であることから、燃料が入り込んで固着しても、固着した燃料の外径が小径部47の外径より大きくなるまでには所定期間がかかる。そのため、舶用大型ディーゼルエンジンの負荷が増加して燃料噴射ポンプ12による燃料の吐出量が増加し、プランジャ23がフルストローク位置まで移動しても、潤滑油貯留部91に入り込んで固着した燃料の外径が小径部47の外径より大きくなるまでは、固着した燃料がプランジャバレル22とプランジャ23の間に噛み込むことはない。
【0058】
ところで、潤滑油貯留部91(96)は、小径部47を細径化して細径部92(97)を形成することで構成しているが、その軸方向長さと径方向深さは、燃料の性状(粘度など)を考慮し、実験などにより設定することが望ましい。例えば、舶用大型ディーゼルエンジンは、所定期間ごとに分解してメンテナンスを実施するが、メンテナンス間に堆積する燃料の固着量を実験などにより把握し、燃料の固着量が小径部47の外径を超えないように潤滑油貯留部91(96)の軸方向長さと径方向深さを決定する。
【0059】
例えば、本実施形態の舶用大型ディーゼルエンジンが搭載された船舶が約5000時間運航後に燃料噴射ポンプ12を点検すると、外径が40mmのプランジャ23の外周面に、長さ15mmで、厚さ0.05mm程度のスラッジ(燃料の固着物)が堆積していた。そのため、潤滑油貯留部91(96)の径方向深さは、プランジャ23の外径の1.0mm〜2.0mmの範囲で、潤滑油貯留部91(96)の軸方向長さは、少なくとも15.0mmに設定することが望ましい。
【0060】
このように本実施形態の燃料噴射ポンプにあっては、ポンプケース21と、ポンプケース21内に配置されるプランジャバレル22と、プランジャバレル22内で軸方向に沿って移動自在に支持されるプランジャ23と、プランジャバレル22とプランジャ23との間に潤滑油(燃料)を供給する潤滑油供給通路81と、プランジャ23におけるプランジャバレル22から露出する位置に凹形状をなして設けられる潤滑油貯留部91(96)とを設けている。
【0061】
従って、プランジャバレル22とプランジャ23との間に供給された燃料(潤滑油)は、プランジャバレル22から露出するプランジャ23の表面に押し出され、潤滑油貯留部91に溜まって固着しやすくなるが、潤滑油貯留部91が凹形状をなしているため、固着した燃料がプランジャ23の外周面より外方に突出し難くなり、プランジャ23のストロークが増加して固着部がプランジャバレル22内に侵入しても、固着部がプランジャバレル22とプランジャ23の間に噛み込むことはなく、プランジャ23の作動不良の発生を抑制することができる。
【0062】
本実施形態の燃料噴射ポンプでは、プランジャ23の軸方向の一方側に外部からの圧力が作用する受圧面50が設けられ、プランジャの軸方向の他方側に燃料圧縮室65が配置され、潤滑油貯留部91は、潤滑油供給通路81による燃料の供給位置より受圧面50側に設けられる。従って、潤滑油供給通路81からプランジャバレル22とプランジャ23との間に供給された燃料が潤滑油貯留部91により早期に排出されることはなく、潤滑性能を維持することができる。
【0063】
本実施形態の燃料噴射ポンプでは、プランジャ23にばね受け部材52を固定し、ポンプケース21とばね受け部材52との間にリターンスプリング51を張設することでプランジャ23を燃料圧縮室65から離間する方向に付勢支持し、潤滑油貯留部91をばね受け部材52の固定位置より燃料圧縮室65側に設けている。従って、潤滑油貯留部91をばね受け部材52の固定位置から燃料圧縮室側方向の範囲に設けることで、潤滑油貯留部91に入った潤滑油の排出性を維持することができる。また、潤滑油貯留部91を軸方向に長く形成することにより、低負荷時でプランジャのリフトが小さい場合に、潤滑油の固着が発生しても、潤滑油貯留部91に溜めることができ、プランジャの作動不良の発生を抑制することができる。
【0064】
本実施形態の燃料噴射ポンプでは、プランジャ23がばね受け部材52を貫通して固定され、潤滑油貯留部91をプランジャ23におけるばね受け部材52から露出する位置より燃料圧縮室65側に設けている。従って、潤滑油貯留部91の形成領域を限定することで周辺部材の変更点が減少し、コストの増加を抑制することができる。
【0065】
本実施形態の燃料噴射ポンプでは、潤滑油貯留部91を小径部47より小径の細径部92により構成している。従って、非摺動部となる潤滑油貯留部の粗度を緩和することができ、加工コストを低減することができる。
【0066】
本実施形態の燃料噴射ポンプでは、小径部47と細径部92(97)との間に傾斜部93(98)を設けている。従って、傾斜部93(98)により形成される小径部47と細径部92(97)との間の段差のエッジがプランジャバレル42の支持孔46の内面に接触することを抑制し、プランジャバレル42の損傷やプランジャ23のスティックを防止することができる。
【0067】
また、本実施形態の燃料噴射装置にあっては、ディーゼルエンジンの燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁11と、燃料噴射弁11に燃料を供給する燃料噴射ポンプ12と、燃料噴射ポンプ12におけるプランジャ23の作動を制御する蓄圧管制弁ブロック13とを備えている。従って、燃料噴射ポンプ12にて、プランジャバレル22から露出するプランジャ23に凹形状をなす潤滑油貯留部91を設けることから、潤滑油供給通路81によりプランジャバレル22とプランジャ23との間に供給された燃料が潤滑油貯留部91に溜まって固着するため、燃料固着部がプランジャバレル22とプランジャ23の間に噛み込むことはなく、プランジャ23の作動不良の発生を抑制することができ、その結果、ディーゼルエンジンの燃焼室に対して適量の燃料を噴射することができる。
【0068】
また、本実施形態の内燃機関にあっては、上述した燃料噴射装置10を備えるので、燃料噴射ポンプ12におけるプランジャ23の作動不良の発生を抑制することで、ディーゼルエンジンの燃焼室に対して適量の燃料を噴射することができ、その結果、ディーゼルエンジンの作動性を向上することができる。
【0069】
なお、上述した実施形態では、潤滑油貯留部91,96を小径部47より小径の細径部92,97としたが、潤滑油貯留部は、この形状に限定されるものではない。例えば、潤滑油貯留部を周方向に所定間隔を空けて設けた凹部としてもよい。また、細径部を軸方向に沿って徐々に深くしたり、浅くしたり、部分的に深くしてもよい。
【0070】
また、上述した実施形態では、潤滑油を燃料としたが、燃料とは別の潤滑油を設けてもよい。