(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属材料と、その表面上に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化成処理剤を接触させることで形成された化成皮膜と、当該化成皮膜の表面上に、塗料組成物を含有する塗膜と、を有する塗装金属材料。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る化成処理剤は、
チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオンと、
フッ素イオンと、
アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸及びこれらのイオンからなる群から選択される少なくとも一種と、
3価の鉄を含有するイオンと、
を含有する化成処理剤である。以下、当該化成処理剤(成分、液性等の性質)、当該化成処理剤の製造方法、当該化成処理剤の使用方法等について、順に説明する。
【0009】
1.化成処理剤
(1)成分
(チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオン)
チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、チタンイオン、ジルコニウムイオン、ハフニウムイオン等の金属イオン、チタン、ジルコニウム又はハフニウムを含む錯体イオン、チタン、ジルコニウム又はハフニウムの酸化物イオン等を挙げることができる。前記イオンは、本発明の化成処理剤に一種又は二種以上用いることができる。
【0010】
(フッ素イオン)
本発明の化成処理剤中、フッ素イオンは、チタン、ジルコニウム及びハフニウム(さらに任意に添加されるアルミニウム、マグネシウム及び亜鉛)のそれぞれの金属イオンに配位ないし結合して存在するものと、前記金属イオンに配位ないし結合せずに、化成処理剤中にF
−1(1価のフッ素)として存在する(遊離する)ものとが併存する。本発明では、前者のフッ素イオンは、本発明に係る「チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオン」(及び任意に添加される「アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオン」)の一部であって、本発明に係る「フッ素イオン」には該当しないものとし、後者のみを本発明に係る「フッ素イオン」(以下、「遊離フッ素イオン」とも称する。)とする。このことは、別の観点からは、以下の様に説明できる。本発明において「フッ素イオンを含有する(遊離フッ素イオンを含有する)」とは、化成処理剤中に配合された各化合物の配合量から算出される各フッ素イオンの合計フッ素換算質量M
Fから、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオン」に含まれる全フッ素イオン(及び任意に添加される「アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオン」に含まれる全フッ素イオン)の合計フッ素換算質量M
F’を引いた値(M
F−M
F’)が0を超えていることを意味する。M
F’は、化成処理剤中に含まれる「チタン、ジルコニウム及び/又はハフニウムの金属を含有するイオン」(及び任意に添加されるアルミニウム、マグネシウム及び/又は亜鉛の金属を含有するイオン)」であってフッ素イオンが配位ないし結合する各金属イオンの金属換算質量(化成処理剤中に配合された各化合物の配合量から算出される各金属の合計金属換算質量)を各金属の原子量で割って算出した各金属のモル数(ジルコニウムモル数m
zr、チタニウムモル数m
Ti、ハフニウムモル数m
Hf、アルミニウムモル数m
Al、マグネシウムモル数m
Mg、亜鉛モル数m
Zn)に対して、各金属イオンにフッ素イオンが配位ないし結合する数(ジルコニウムイオンに対するフッ素イオンの配位数n
Zr等)をそれぞれかけた値の和(n
Zr×m
zr+n
Ti×m
Ti+n
Hf×m
Hf+n
Al×m
Al+n
Mg×m
Mg+n
Zn×m
Zn)に、フッ素原子量19をかけて算出される値である。即ち、本発明において「フッ素イオンを含有する」とは、{M
F−(n
Zr×m
zr+n
Ti×m
Ti+n
Hf×m
Hf+n
Al×m
Al+n
Mg×m
Mg+n
Zn×m
Zn)×19}が、0を超えていることをいう。
【0011】
(アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸のイオン)
アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸のイオンとしては、例えば、R−SO
3−(但し、Rはアルキル基又はヒドロキシアルキル基である)などである。アルキル基としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、C
1−20のアルキル基、更に好ましくはC
1−4のアルキル基である。アルカンスルホン酸イオンとしては、特に限定されるものはないが、例えば、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン等が挙げられる。アルカノールスルホン酸イオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、イセチオン酸イオン等が挙げられる。前記酸及びイオンは、本発明の化成処理剤に一種又は二種以上用いることができる。
【0012】
(3価の鉄を含有するイオン)
3価の鉄を含有するイオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、3価鉄イオン、3価鉄を含む錯体イオン等を挙げることができる。前記イオンは、本発明の化成処理剤に一種又は二種以上用いることができる。
【0013】
(2価の鉄を含有するイオン)
本発明の化成処理剤は、上記成分以外に2価の鉄を含有するイオンをさらに含有していてもよい。2価の鉄を含有するイオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、2価鉄イオン、2価鉄を含む錯体イオン等を挙げることができる。前記イオンは、本発明の化成処理剤に一種又は二種以上用いることができる。2価の鉄を含有するイオン(Fe
2+ないしこれを含む錯イオン等)における鉄換算質量濃度と3価の鉄を含有するイオン(Fe
3+ないしこれを含む錯イオン等)における鉄換算質量濃度との比率(以下、本明細書では「Fe
2+/Fe
3+」と表記する)としては、特に制限されるものではないが、好ましい順として、1.6以下、1.2以下、0.6以下、0.45以下、0.3以下、0.2以下である。最も好ましいのは、0.2以下(0.0以上0.2以下)である。なお、上記Fe
2+/Fe
3+の値は、温度25℃、pH=1.5の条件下で、EDTAを用いたキレート滴定法によってFe
2+とFe
3+の鉄換算質量濃度をそれぞれ測定し、算出した値である。キレート滴定法については、実施例で詳述する。
【0014】
(アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオン)
本発明の化成処理剤は、アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオンをさらに含有していてもよい。アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン等の金属イオン、アルミニウム、マグネシウム又は亜鉛を含む錯体イオン等を挙げることができる。なお、これらのイオンは、本発明の化成処理剤に一種又は二種以上用いることができる。二種の組み合わせとしては、特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウムを含有するイオンと亜鉛を含有するイオンとを挙げることができる。
【0015】
(水溶性及び水分散性の樹脂)
本発明の化成処理剤は、水溶性及び水分散性の樹脂から選択される少なくとも一種をさらに含有していてもよい。本発明の化成処理剤は、水溶性及び水分散性の樹脂をさらに含有していると、該化成処理剤によって形成される化成皮膜の耐食性をより改善できるので好ましい。なお、本発明において、「水溶性及び水分散性の樹脂」とは、25℃の水1kgで固形分の換算質量として1mg以上溶解あるいは分散している水溶性及び水分散性の樹脂を意味する。水溶性及び水分散性の樹脂としては、特に限定されるものではないが、分子量500超の繰り返し構造を有する有機化合物であることが好ましい。本発明に使用可能な水溶性及び水分散性の樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂等を挙げることができる。なお、これらの樹脂は、本発明の化成処理剤に一種又は二種以上用いることができる。
【0016】
(界面活性剤)
本発明の化成処理剤は、少なくとも一種の界面活性剤をさらに含有していてもよい。界面活性剤のイオン性としては、ノニオン性、カチオン性、アニオン性又は両性のいずれであってもよい。ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー等のポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル等の多価アルコール型ノニオン性界面活性剤、脂肪酸アルキロールアミド等のアミド型ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、高級アルキルアミン塩、ポリオキシエチレン高級アルキルアミン等のアミン塩型カチオン性界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンオキサイドが付加された高級アルキルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。なお、上記界面活性剤のHLB値(グリフィン法により算出)は、特に限定されるものではないが、6以上18以下が好ましく、10以上14以下がより好ましい。なお、上記界面活性剤は、本発明の化成処理剤に一種又は二種以上を用いることができる。上記界面活性剤を本発明の化成処理剤に含ませることにより、化成処理と脱脂処理を同時にすることができる、一工程での処理をすることが可能となる。
【0017】
本発明の化成処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、化成処理剤の添加剤として従来から公知である他の添加剤(例えば、オルガノシランを主鎖として有する化合物等)をさらに含有してもよい。
【0018】
(2)本発明の化成処理剤の性質
(pH)
本発明の化成処理剤のpHは、特に制限されるものではないが、好適には1.0以上7.0以下であり、より好適には3.0以上5.5以下である。pHが当該範囲内であると、より優れた耐食性を有する皮膜を形成することができる。ここで、本明細書でのpHは、pHメーターを用い、25℃での化成処理剤について測定した値である。本発明の化成処理剤のpHを前記範囲にするために、pH調整剤を用いてもよい。pHを上昇させたい場合に使用可能なpH調整剤は、特に制限されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液、水酸化カリウムの水溶液、アンモニア水等が好ましい。一方、本発明の化成処理剤は、アルカンスルホン酸等を必須の成分として含有するので、pHを下げたい場合は、当該酸の配合量を調整して、所定のpHの範囲内まで下げるのが好ましい。但し、本発明の効果を損なわない範囲で、他の酸(例えば硫酸、硝酸等の無機酸)を用いてもよい。なお、これらのpH調整剤は、一種又は二種以上を用いてもよい。
【0019】
(環境負荷成分フリー及び/又は環境負荷成分レス)
本発明の化成処理剤は、環境負荷成分フリー及び/又は環境負荷成分レスの化成処理剤として使用することができ、その場合には、環境保全(安全)性の向上及び排水処理性の向上に資することができる。ここで、環境負荷成分フリーとは、環境に負荷を与える元素(例えば、窒素、リン、硼素、ニッケル、クロム等)を化成処理剤に含まないこと及び/又は環境に負荷を与える元素を化成処理剤に少量のみ含むことを意味する。具体的には、環境負荷成分フリーとは、リン、硼素、ニッケル、クロムの場合ICP発光分光分析法、窒素の場合全窒素濃度分析法において、それぞれの元素について、その元素の検出限界未満であることを意味する。また、環境負荷成分レスとは、環境に負荷を与える元素、すなわち、リン、硼素、ニッケル、クロム等の質量濃度が、ICP発光分光分析法における各元素の定量測定可能な下限値をわずかに上回る質量濃度で存在し、環境に負荷を与える元素、すなわち、窒素の質量濃度が、全窒素濃度分析法における窒素の定量測定可能な下限値の50倍程度の質量濃度で存在することを意味する。
【0020】
(スラッジレス)
本発明の化成処理剤は、スラッジレスの化成処理剤として使用することもできる。ここでスラッジとは、金属材料の化成処理時に、化成処理剤中に溶出した金属成分が水酸化物や酸化物の形態として化成処理剤において沈殿したものを意味する。化成処理剤中のアルカンスルホン酸及びアルカノールスルホン酸から選ばれる少なくとも一種の酸の質量濃度を高めることで、スラッジ量を軽減することができる。具体的には、金属材料から溶出する金属成分に対して、その金属成分のモル濃度の3倍以上に相当するモル濃度である、アルカンスルホン酸及びアルカノールスルホン酸から選ばれる少なくとも一種の酸を含むことが好ましい。
【0021】
2.化成処理剤の製造方法
(1)方法
本発明の化成処理剤は液体として調製される。その製造方法については、特に制限されるものではないが、例えば、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオン源と、フッ素イオン源と、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸及びこれらのイオンからなる群から選択される少なくとも一種の源と、3価の鉄イオン源と、を原料として液体媒体に配合することにより製造可能である。必要に応じて、前記他の金属を含むイオン源及び/又は前記水溶性樹脂等の任意の成分を配合してもよい。また、本発明の化成処理剤の製造には、前記チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種のイオン源となる、一種又は二種以上を含む化合物を用いてもよい。例えば、成分源として、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれる少なくとも一種の金属元素とフッ素元素とを構成元素として含む化合物等を用いることもできる。液体媒体としては、特に限定されるものではないが、水(脱イオン水、蒸留水)が好ましい。また、液体媒体としては、前記源が溶解可能である限り、親水性溶媒(例えば低級アルコール)を水に混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0022】
(2)各種イオンの成分源及びその配合量
(チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオンの成分源)
本発明の化成処理剤の調製に使用可能なチタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオン源については特に限定されず、チタン、ジルコニウム又はハフニウムを含有するものを用いることができる。これらを2種以上含有する化合物も成分源として用いることができる。その例には、フルオロジチタン酸、硝酸チタン、硝酸チタニル、水酸化チタン、酸化チタン、フルオロジルコニウム酸、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、フルオロハフニウム酸、硝酸ハフニウム、酸化ハフニウム等の、化成処理剤中でチタン、ジルコニウム若しくはハフニウムイオン、当該金属の錯体イオン、又は酸化物イオンを形成し得るものが挙げられる。なお、これら成分源は一種又は二種以上を使用してもよい。
【0023】
(チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオンの成分源の配合量)
チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオンの成分源である化合物の配合量としては、特に制限されるものではないが、好適には該化合物の合計金属換算質量で5mg/kg以上2000mg/kg以下の範囲内であり、より好適には、10mg/kg以上1000mg/kg以下の範囲内である。
【0024】
(フッ素イオンの成分源)
フッ素イオンの成分源としては、例えば、フッ化水素酸、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フルオロ珪酸等、が挙げられる。なお、これら成分源は一種又は二種以上を使用してもよい。
【0025】
(フッ素イオンの成分源の配合量)
フッ素イオンの成分源である化合物の配合量としては、本発明の化成処理剤が「フッ素イオンを含有する」と言える量であれば特に制限されるものではない。例えば、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属に配位するフッ素イオンの数が4である場合には、チタン、ジルコニウム及びハフニウムの合計金属換算質量に対し、フッ素換算質量で4倍超のフッ素イオンの成分源である化合物を配合する。一方、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属に配位するフッ素イオンの数が6である場合には、チタン、ジルコニウム及びハフニウムの合計金属換算質量に対し、フッ素換算質量で6倍超のフッ素イオンの成分源である化合物を配合する。
【0026】
(アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸及びこれらのイオンから選ばれる少なくとも一種の源)
アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸及びこれらのイオンから選ばれる少なくとも一種の源としては、これらの酸が水溶性である場合にはそのまま、当該酸が水難溶性又は不溶性である場合には水溶性塩{当該塩を形成するカチオン性の対イオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウム等)イオン、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウム等)イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等を挙げることができる}を用いればよい。アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸及びこれらのイオンから選ばれる少なくとも一種の源としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、イセチオン酸等、又はそれらの塩が挙げられる。なお、これら成分源は一種又は二種以上を使用してもよい。
【0027】
(アルカンスルホン酸若しくはその塩、及び/又はアルカノールスルホン酸若しくはその塩の配合量)
アルカンスルホン酸若しくはその塩、及び/又はアルカノールスルホン酸若しくはその塩の配合量としては、本発明の化成処理剤において、「アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸のイオンを含有する」と言える量であれば特に制限されるものではない。例えば、3価の鉄を含有するイオンにおける鉄換算質量に対し、アルカンスルホン酸及び/又はアルカノールスルホン酸のスルホン酸イオンに相当する三酸化硫黄(SO
3)換算質量で3倍超のアルカンスルホン酸若しくはその塩、及び/又はアルカノールスルホン酸若しくはその塩を配合する。また、本発明の化成処理剤は2価の鉄を含有するイオンをさらに含有していてもよく、その場合は、2価の鉄を含有するイオンにおける鉄換算質量に対し、アルカンスルホン酸及び/又はアルカノールスルホン酸のスルホン酸イオンに相当する三酸化硫黄(SO
3)換算質量で2倍超のアルカンスルホン酸若しくはその塩、及び/又はアルカノールスルホン酸若しくはその塩を配合する。
【0028】
(3価の鉄を含有するイオンの成分源)
3価の鉄を含有するイオンの成分源としては、化成処理剤中で3価の鉄を含有するイオンとなるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)等が挙げられる。なお、これら成分源は一種又は二種以上を使用してもよい。
【0029】
(3価の鉄を含有するイオンの成分源の配合量)
3価の鉄を含有するイオンの成分源である化合物の配合量としては、特に制限されるものではないが、好適には鉄換算質量で5mg/kg以上2000mg/kg以下の範囲内であり、より好適には10mg/kg以上1500mg/kg以下の範囲内であり、さらに好適には10mg/kg以上1000mg/kg以下の範囲内である。
【0030】
(2価の鉄を含有するイオンの成分源及びその配合量)
本発明の化成処理剤は、2価の鉄を含有するイオンをさらに含有していてもよい。2価の鉄を含有するイオンの成分源としては、化成処理剤中で2価の鉄を含有するイオンとなるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、硝酸鉄(II)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)等が挙げられる。なお、これら成分源は一種又は二種以上を使用してもよい。2価の鉄を含有するイオンの成分源である化合物は、上記Fe
2+/Fe
3+が前記好ましい範囲となる様に配合するのが好ましい。
【0031】
(アルミニウムを含有するイオンの成分源及びその配合量)
アルミニウムを含有するイオンの成分源としては、例えば、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等が含まれる。これら成分源は一種又は二種以上を使用してもよい。アルミニウムを含有するイオンの成分源である化合物の配合量としては、特に制限されるものではないが、好適にはアルミニウム換算質量で5mg/kg以上1000mg/kg以下の範囲内であり、より好適には10mg/kg以上500mg/kg以下の範囲内である。なお、アルミニウムを含有するイオンの成分源である化合物を、本発明の化成処理剤に配合する場合には、例えば、該化合物のアルミニウム換算質量に対し、フッ素換算質量で3倍超のフッ素イオン成分源をさらに配合する。
【0032】
(亜鉛を含有するイオンの成分源及びその配合量)
亜鉛を含有するイオンの成分源としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛等が挙げられる。これらの成分源は、一種又は二種以上を使用してもよい。亜鉛を含有するイオンの成分源である化合物の配合量としては、特に制限されるものではないが、好適には亜鉛換算質量で5mg/kg以上5000mg/kg以下の範囲内であり、より好適には100mg/kg以上3000mg/kg以下の範囲内である。なお、亜鉛を含有するイオンの成分源である化合物を、本発明の化成処理剤に配合する場合には、例えば、該化合物の亜鉛換算質量に対し、フッ素換算質量で2倍超のフッ素イオン成分源、あるいは、三酸化硫黄(SO
3)に対し、三酸化硫黄(SO
3)換算質量で2倍超のアルカンスルホン酸若しくはその塩、及び/又はアルカノールスルホン酸若しくはその塩を、配合する。なお、フッ素イオン成分源、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸等の代わりに硫酸を用いてもよい。
【0033】
(マグネシウムを含有するイオンの成分源及びその配合量)
マグネシウムを含有するイオンの成分源としては、例えば、硝酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。これらの成分源は、一種又は二種以上を使用してもよい。マグネシウムを含有するイオンの成分源である化合物の配合量としては、特に制限されるものではないが、好適にはマグネシウム換算質量で10mg/kg以上20000mg/kg以下の範囲内であり、より好適には100mg/kg以上10000mg/kg以下の範囲内である。なお、マグネシウムを含有するイオンの成分源である化合物を、本発明の化成処理剤に配合する場合には、例えば、該化合物のマグネシウム換算質量に対し、フッ素換算質量で2倍超のフッ素イオン成分源、あるいは、三酸化硫黄(SO
3)換算質量で2倍超のアルカンスルホン酸若しくはその塩及び/又はアルカノールスルホン酸若しくはその塩を、配合する。なお、フッ素イオン成分源、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸等の代わりに硫酸を用いてもよい。
【0034】
(水溶性及び水分散性の樹脂の配合量)
本発明の化成処理剤に係る前記水溶性及び水分散性の樹脂の質量濃度は、一般的な方法で測定することができ、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー法を行うことにより測定することができる。本発明に係る水溶性及び水分散性の樹脂の質量濃度としては、特に限定されるものではないが、固形分換算質量濃度として、好適には5mg/kg〜3000mg/kgであり、より好適には10〜1000mg/kgである。
【0035】
(界面活性剤の配合量)
また、本発明の化成処理剤に係る前記界面活性剤の質量濃度も、前記の水溶性樹脂等の質量濃度の測定と、同様に測定することができる。前記界面活性剤の質量濃度は、特に限定されるものではないが、好適には10mg/kg〜3000mg/kgである。
【0036】
なお、アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するイオンは、意図的に添加しなくても、本発明の化成処理剤を所定の金属材料に継続して使用すると、素材の溶出により、化成処理剤に蓄積されることがあり、当該態様も、これらの金属を含有するイオンをさらに含有する態様に含まれる。
【0037】
その他、任意に配合可能な他の成分の例については、化成処理剤の任意成分として例示した化合物等と同様である。
【0038】
3.化成処理剤の使用(金属材料の表面上に化成皮膜を製造する方法)
(1)適用対象
本発明は、本発明の化成処理剤を用いた金属材料の表面上に化成皮膜を製造する方法にも関する。処理の対象として使用可能な金属材料の種類については、限定されない。その例には、鉄(例えば、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板、高張力鋼板、工具鋼、合金工具鋼、球状化黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄等)、めっき材料、例えば、亜鉛めっき材(例えば、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、合金化溶解亜鉛めっき、電気亜鉛合金めっき等)、アルミニウム材(例えば、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、アルミニウム鋳物、アルミニウム合金鋳物、ダイキャスト材等)、マグネシウム材が含まれる。
【0039】
(2)接触工程
前記方法は、金属材料の表面上に本発明の化成処理剤を接触させる接触工程を含む。これにより、金属材料の表面上に化成皮膜が形成される。当該接触方法としては、例えば、浸漬処理法、あるいは、スプレー処理法、流しかけ処理法等の電流を流さないで行う処理法が挙げられる。
【0040】
上記金属材料と化成処理剤との接触温度は10℃以上60℃未満が好ましく、20℃以上50℃未満がより好ましいが、これらの温度に制限されるものではない。また、上記金属材料と化成処理剤との接触時間は30〜300秒が好ましく、60〜180秒がより好ましいが、これらの処理時間に制限されるものではない。
【0041】
(3)任意の工程
(後工程)
本発明の表面処理方法としては、前記接触工程(以下、「本発明の接触工程」と称する。)で皮膜を形成した後に、さらに他の工程を実施してもよい。例えば、アルカリ洗工程、水洗工程、クロメート化成処理、リン酸亜鉛化成処理工程、ビスマス置換めっき工程、リン鉄化成処理工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程、乾燥工程等が挙げられる。なお、後工程としては、上記各種後工程のうち2以上の工程を組み合わせて順次行ってもよい。後工程として実施されるジルコニウム化成処理工程は、本発明の化成処理剤(上記接触工程で用いる化成処理剤と組成は同じであっても異なっていてもよい。)に接触する工程であってもよいし、本発明の化成処理剤とは異なる化成処理剤を接触する工程であってもよい。また、上記各種後工程を複数組み合わせる場合は、各種後工程後に水洗を行ってもよいし、行わなくてもよいし、一部の水洗を省略してもよい。
【0042】
(前工程)
また、本発明の表面処理方法としては、上記本発明の接触工程前に、前工程を行ってもよい。前工程としては、例えば、酸洗工程、脱脂工程、アルカリ洗工程、クロメート化成処理工程、リン酸亜鉛、リン酸鉄等を用いたリン酸塩化成処理工程、ビスマス置換めっき工程、バナジウム化成処理工程、乾燥工程等が挙げられる。なお、前工程としては、上記各種前工程のうち2以上の工程を組み合わせて順次行ってもよい。より具体的には、上記本発明の接触工程前に、第1の化成前処理工程としてリン酸塩化成処理工程を行い、続いて、クロメート化成処理工程、ビスマス置換めっき工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程、バナジウム化成処理工程等の第2の化成前処理工程を行ってもよい。前工程として実施されるジルコニウム化成処理工程は、本発明の化成処理剤(上記接触工程で用いる化成処理剤と組成は同じであっても異なっていてもよい。)に接触する工程であってもよいし、本発明の化成処理剤とは異なる化成処理剤を接触する工程であってもよい。なお、上記各種前工程を複数組み合わせる場合は、各種前工程後に水洗を行ってもよいし、行わなくてもよいし、一部の水洗を省略してもよい。
【0043】
(4)塗装工程
本発明の表面処理方法では、上記本発明の接触工程後、あるいは、上記後処理工程後に、形成された皮膜表面上に塗料を含む塗料組成物を接触させる塗装工程を行ってもよい。塗装方法は特に限定されず、従来公知の方法、例えば、転がし塗り、電着塗装(例えば、カチオン電着塗装)、スプレー塗装、ホットスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ローラーコーティング、カーテンフローコーティング、ハケ塗り、バーコーティング等の方法を適用することができる。
【0044】
上記塗装に用いる塗料としては、例えば、油性塗料、繊維素誘導体塗料、フェノール樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、尿素樹脂塗料、不飽和樹脂塗料、ビニル樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、さび止めペイント、防汚塗料、粉体塗料、カチオン電着塗料、アニオン電着塗料、水系塗料等が挙げられる。また、同一又は異なる各種塗料を含む組成物を用いて、1の塗装工程を行っても、2以上の塗装工程を行ってもよい。
【0045】
上記塗料組成物を硬化して塗膜を形成させる方法としては、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、対流型熱乾燥(例えば、自然対流型熱乾燥、強制対流型熱乾燥)、輻射型乾燥(例えば、近赤外線乾燥、遠赤外線乾燥)、紫外線硬化乾燥、電子線硬化乾燥、ベーポキュア等の乾燥方法が挙げられる。また、これらの乾燥方法は、1つ実施してもよいし、2以上を組み合わせて実施してもよい。
【0046】
塗装工程により得られる塗膜は、単層であっても複層であってもよい。複層である場合、各種層の塗料、塗装方法、乾燥方法等は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0047】
なお、上記塗装工程として、電着塗料を用いた電着塗装方法を適用する場合には、その前工程である、上記本発明の接触工程あるいは上記後工程で用いる化成処理剤中のナトリウムイオン濃度を、質量基準で500mg/kg未満に制御することが好ましい。
【0048】
4.皮膜付き金属材料及び塗装金属材料
(1)皮膜付き金属材料
本発明の皮膜付き金属材料は、金属材料の表面上に、本発明の化成処理剤を接触させることにより当該表面上に化成皮膜を形成することで製造することができる。本発明の化成処理剤によって形成された化成皮膜は、一般的には、ジルコニウム化成皮膜、チタン化成皮膜又はハフニウム化成皮膜と称される、主成分として含有される金属がジルコニウム、チタン又はハフニウムの化成皮膜であって、リン酸塩化成処理膜等とは区別される。本発明の化成処理剤によって形成された化成皮膜の質量は、ジルコニウム、チタン、又はハフニウム量として5mg/m
2以上200mg/m
2以下であることが好ましく、10mg/m
2以上100mg/m
2以下であることがより好ましいが、この範囲に制限されるものではない。2種以上の金属を用いる場合は、その合計が前記範囲内であるのが好ましい。また形成される皮膜の厚みは、5〜200nmの範囲内であるのが好ましい。
【0049】
本発明の化成処理剤によって形成された化成皮膜におけるジルコニウム、チタン、又はハフニウムの量は、化成皮膜を濃硝酸にて溶解した後、原子吸光分析やICP発光分光分析により測定することができる。また、皮膜付き金属材料を蛍光X線法で分析することにより測定することができる。
【0050】
本発明の皮膜付き金属材料は、上記化成皮膜上あるいは上記化成皮膜下に、1又は2以上の各種皮膜(例えば、クロメート化成皮膜、リン酸塩化成皮膜、ビスマス置換めっき皮膜等)を有していてもよい。
【0051】
(2)塗装金属材料
本発明は、本発明の皮膜付き金属材料の表面上に、塗料を含有する塗料組成物を塗装することにより塗膜を形成することで製造することができる。本発明の塗装金属材料は、上記皮膜付き金属材料の表面上、すなわち、上記化成皮膜上、あるいは、該化成皮膜上に形成された、1又は2以上の各種皮膜(例えば、クロメート化成皮膜、リン酸塩化成皮膜、ビスマス置換めっき皮膜、バナジウム化成皮膜等)の上に、塗料組成物を含む塗膜を有する。なお、該塗膜は、上記塗料組成物を用いた塗装工程によって形成することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
<金属材料>
次の金属材料を用意した(全て株式会社パルテック製)。
・冷延鋼板:SPC(SPCC−SD)70×150×0.8mm
・電気亜鉛めっき鋼板:EG(亜鉛目付量20g/m
2;両面とも)70×150×0.8mm
・溶融亜鉛めっき鋼板:GI(亜鉛目付量90g/m
2;両面とも)70×150×0.8mm
【0053】
<各成分源等>
本実施例においては、ジルコニウムイオン源としてヘキサフルオロジルコニウム酸を、チタンイオン源としてヘキサフルオロチタン酸を、ハフニウムイオン源としてヘキサフルオロハフニウム酸を、フッ素イオン源としてフッ化水素酸を、アルカノールスルホン酸としてイセチオン酸を、アルカンスルホン酸としてメタンスルホン酸又はエタンスルホン酸を、3価の鉄イオン源として硫酸鉄(III)を、2価の鉄イオン源として硫酸鉄(II)を、アルミニウム源として水酸化アルミニウムを、亜鉛源として酸化亜鉛を、マグネシウム源として水酸化マグネシウムをそれぞれ用いた。水溶性及び水分散性の樹脂としてポリアリルアミン塩酸塩(PAA−HCl−01;ニットーボーメディカル株式会社製)、ポリビニルアルコール(ゴーセノールNM−11:日本合成化学工業株式会社)、ポリジアリルアミン(PAS21−HCL;ニットーボーメディカル株式会社製)、ポリエチレンイミン(SP‐006;日本触媒株式会社製)、又はフェノール樹脂(レヂトップPL−4464;群栄化学株式会社)を用いた。また、下記表に示す通り、比較例3では、ジルコニウムイオン源として硫酸ジルコニウムを配合し、また比較例5〜8では、アルカノールスルホン酸又はアルカンスルホン酸に替えて、比較例5ではクエン酸、比較例6ではグルコン酸、比較例7ではりん酸、比較例8では塩酸をそれぞれ配合した。
【0054】
<化成処理剤の調製>
上記の各成分源を用いて、表1〜3に示すように、各成分源を所定量配合した後、水酸化ナトリウムで所定のpHに調整することにより、各実施例及び各比較例の化成処理剤を調製した。表1〜3中に、各成分源の配合量を示した。表中、実施例38及び39では、ヘキサフルオロジルコニウム酸にかえて、ヘキサフルオロチタン酸及びヘキサフルオロハフニウム酸をそれぞれ配合し、また比較例3では、硫酸ジルコニウムを配合したので、「ヘキサフルオロジルコニウム酸の配合量」の欄の数値は、実施例38ではヘキサフルオロチタン酸、実施例39ではヘキサフルオロハフニウム酸、及び比較例3では硫酸ジルコニウムそれぞれの配合量である。また、表中、「スルホン酸源」及び「スルホン酸配合量」とは、実施例1〜44並びに比較例1〜3及び9については、配合したアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の種類、及びその配合量をそれぞれ示し、また、比較例5〜8については、アルカノールスルホン酸及びアルカンスルホン酸の代替として用いた酸の種類(比較例5ではクエン酸、比較例6ではグルコン酸、比較例7ではりん酸、比較例8では塩酸)、及びその配合量をそれぞれ示す。
【0055】
<3価鉄濃度と2価鉄濃度の測定>
前述の通り、化成処理剤に配合する3価の鉄成分源としては硫酸鉄(III)、2価の鉄成分源としては硫酸鉄(II)を用いた。しかし、化成処理剤中で平衡反応により、3価鉄濃度及び2価鉄濃度が変化する可能性があるため、下記の方法を用いて3価鉄濃度と2価鉄濃度の測定を行った。
【0056】
3価鉄濃度と2価鉄濃度はキレート滴定法により測定可能である。キレート滴定薬として用いられるEDTAは、pH1.0〜2.0の領域では、3価鉄とキレートを形成するが、2価鉄とは殆どキレートを形成しない。ただし、化成処理剤に配合されているチタン、ジルコニウム、又はハフニウムは、pH1.0〜2.0の領域にてEDTAとキレートを形成するため、3価鉄濃度測定の妨害元素となりうる。そこで、還元剤であるアスコルビン酸を用いて、鉄還元前後のキレート滴定を行い、正確な3価鉄濃度の測定を行った。前述のとおり、pH1.0〜2.0の領域では、EDTAは2価鉄と殆どキレートを形成しない。また、アスコルビン酸は3価鉄を2価鉄に還元するが、チタン、ジルコニウム又はハフニウムには影響しない。従って、鉄還元前のキレート滴定結果は3価鉄、チタン、ジルコニウム又はハフニウムに由来する結果が、鉄還元後のキレート滴定結果はチタン、ジルコニウム又はハフニウムに由来する結果が得られる。よって、鉄還元前後のキレート滴定結果の差異を求めることで、3価鉄濃度が測定可能である。また、配合した原料から全鉄濃度を求め、全鉄濃度から3価鉄濃度を差し引くことで2価鉄濃度を測定した。
【0057】
<鉄還元前のキレート滴定>
各実施例及び各比較例の化成処理剤1gに蒸留水を加えて全量100gとした。この溶液10gに、pH1.5となるように0.2mol/kgのHClを加えた。この溶液に、0.2mol/kgのキシノールオレンジを0.2g加えて、0.1mmol/kgのEDTA水溶液を用いてキレート滴定を行った。滴定に要した0.1mmol/kgのEDTA水溶液の液量を、A(g)とした。
【0058】
<鉄還元後のキレート滴定>
各実施例及び各比較例の化成処理剤1gに蒸留水を加えて全量100gとした。この溶液10gに、アスコルビン酸を1.0g加えて、pH1.5となるように0.2mol/kgのHClを加えた。この溶液に、0.2mol/kgのキシノールオレンジを0.2g加えて、0.1mmol/kgのEDTA水溶液を用いてキレート滴定を行った。滴定に要した0.1mmol/kgのEDTA水溶液の液量を、B(g)とした。
【0059】
<3価鉄濃度と2価鉄濃度の計算>
前述のキレート滴定により測定された、AとBの値から以下の(式1)を用いて3価鉄濃度、(式2)を用いて2価鉄濃度を計算した。また、(式3)を用いてFe
2+/Fe
3+を計算した。
(式1)
3価鉄濃度=(A−B)×55.85
(式2)
2価鉄濃度=全鉄濃度―3価鉄濃度
(式3)
Fe
2+/Fe
3+=2価鉄濃度÷3価鉄濃度
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
<化成皮膜を有する金属材料の製造>
各種金属材料(SPC、EG又はGI)の表面上に、脱脂剤(日本パーカライジング社製FC−E2001)を43℃で120秒間スプレーすることにより防錆油を取り除いた。その後、30秒間スプレー水洗した。続いて、各実施例及び各比較例の化成処理剤に各金属材料を38℃で120秒間浸漬し、各金属材料の表面全面に化成皮膜を形成した。得られた化成皮膜を有する金属材料を水道水、脱イオン水の順で洗浄し、40℃で乾燥した。
【0064】
<ジルコニウム付着量測定>
蛍光X線(株式会社製の波長分散型蛍光X線分析装置:ZSX PrimusII)を用いて、上記の方法によって、各種金属材料の表面上に形成された各種化成皮膜におけるジルコニウム、チタン又はハフニウムの付着量を求めた。
【0065】
<カチオン電着塗装>
上記の方法によって製造した、各種化成皮膜を有する各金属材料を陰極とし、電着塗料(関西ペイント製GT−100V)を用いて陰極電解することで塗膜を得た。なお、陰極電解は、180Vの印加電圧及び30.0±0.5℃の塗料温度で行った。また、塗膜厚が15.0±1.0μmとなるように、電気量を調整し、陰極電解を行った。上記電着後、塗膜の表面を脱イオン水で洗浄し、170℃で26分間焼付けを行うことにより、塗膜を有する各金属材料(各試験片)を作製した。
【0066】
<耐食性試験1(複合サイクル試験)>
カッターで各試験板にクロスカットを施し、複合サイクル試験機に入れ、JASO−M609−91に則り複合サイクル試験を60サイクル実施した。60サイクル実施後のクロスカットからの両側最大膨れ幅を測定し、以下に示す評価基準に従って評価した。なお、以下の評価基準において、3点以上が実用上問題無いレベルである。
<評価基準>
6:両側最大膨れ幅が3mm未満
5:両側最大膨れ幅が3mm以上4mm未満
4:両側最大膨れ幅が4mm以上8mm未満
3:両側最大膨れ幅が8mm以上12mm未満
2:両側最大膨れ幅が12mm以上16mm未満
1:両側最大膨れ幅が16mm以上
【0067】
<耐食性試験2(カソード腐食試験)>
カッターで各試験板にカットを施し、0.1mol/L硫酸ナトリウム水溶液中で陰極電解を8時間行うことでカソード腐食試験を行った。なお、陰極電解は、10mAの定電流電解及び40.0±0.5℃の液温にて行った。陰極電解後のカット部をテープ剥離し、カット部からの両側最大剥離幅を測定し、以下に示す評価基準に従って評価した。なお、以下の評価基準において、3点以上が実用上問題無いレベルである。
<評価基準>
6:両側最大剥離幅が2mm未満
5:両側最大剥離幅が2mm以上3mm未満
4:両側最大剥離幅が3mm以上6mm未満
3:両側最大剥離幅が6mm以上9mm未満
2:両側最大剥離幅が9mm以上12mm未満
1:両側最大剥離幅が12mm以上
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
本発明の化成処理剤及びそれを用いた化成皮膜の製造方法によれば、金属材料の表面上に諸性能に優れた化成皮膜を形成することができる。当該化成皮膜を有する金属材料は、建材、電化製品、及び車両用等、種々の用途に有用である。