(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示のある種の局面をさらに実証するために含まれる。本開示は、詳細な説明と組み合わせてこれらの図面のうちの1つまたは複数を参照することによってさらによく理解されうる。
【0011】
【
図1A】mdxマウスにおけるCRISPR/Cas9媒介Dmd修正。
図1A: マウスDmdの標的エクソンならびに野生型マウス(上)およびmdxマウス(下)由来の配列の概略図。mdx点突然変異(CからTへの)を有する早期終止コドンに下線が引かれている。
【
図1B】
図1B: mdx対立遺伝子(上)の20塩基のsgRNA標的配列およびPAMの概略図。矢印はCas9切断部位を示す。標的部位の両側に隣接している90 bpの相同配列を含むssODNを、HDR鋳型として用いた。ssODNは、4つのサイレント変異(灰色)を組み込み、HDR媒介遺伝子編集の遺伝子型判定および定量化のためにTseI制限酵素部位(下線部)を付加する(
図4B)。
【
図1C】
図1C: HDRまたはNHEJによる遺伝子修正の概略図。対応するDNAおよびタンパク質配列を
図5Aに示す。
【
図1D】
図1D: mdxマウスにおける生殖細胞系遺伝子治療による遺伝子修正の戦略。
【
図1E】
図1E: 2〜100%修正されたDmd遺伝子のモザイク現像を有するmdx-Cマウスの遺伝子型判定結果。2%アガロースゲル上での、未消化PCR産物(上パネル)、TseI消化(中パネル)およびT7E1消化(下パネル)。中パネルの上方矢印は、TseI消化によって生成されたHDR媒介修正を示すDNAバンドに印付けしている。下方矢印は、修正されていないmdx対立遺伝子のDNAバンドに印付けしている。DNAバンド(下方および上方矢印によって示される)の相対強度は、ゲノムDNA中のHDRの割合を反映する。HDRの比率は中パネルの下にある。バンド強度をImageJ (NIH)によって定量化した。下方パネルにおける下方および上方矢印は、T7E1による未切断および切断バンドを示す。Mはサイズマーカーレーンを意味する。bpはマーカーバンドの塩基対の長さを示す。
【
図2】野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウス由来の筋肉の組織学的分析。7〜9週齢の野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウス(HDR-17%、HDR-41%またはNHEJ-83%)由来の筋肉の免疫染色および組織学的分析。野生型マウスにおけるジストロフィン免疫蛍光は、大腿四頭筋、ヒラメ筋、横隔膜および心臓を含む全ての筋肉に存在し、骨格筋における単一の復帰変異体線維を除いて、mdxマウスには存在しない。HDR-41%またはNHEJ-83% mdx-C骨格筋はジストロフィン陽性筋線維だけで構成されているのに対して、HDR-17%マウス由来の骨格筋は、ジストロフィン陽性線維のクラスタがジストロフィン陰性線維のクラスタに隣接するユニークなパターンを有する。白色の矢印は、ジストロフィン陽性線維の隣接クラスタを示す。スケールバー, 100ミクロン。
【
図3A】mdx-Cマウス由来の衛星細胞の分析およびCRISPR/Cas9媒介ゲノム修正による筋ジストロフィーの救済のモデル。
図3A: mdx-C腓腹筋の凍結切片をポリエチレン膜フレームスライド上に載せ、衛星細胞のマーカーであるPax-7について免疫組織化学的に染色した。レーザー解剖の前(左)および後(右)の筋肉の横断面は、衛星細胞の正確な単離(円内)を示す。スケールバー, 25ミクロン。
【
図3B】
図3B: mdx-Cマウスの衛星細胞から単離されたゲノムDNAから、Dmdエクソン23に対応するPCR産物を生成した。PCR産物を配列決定し、CRISPR/Cas9媒介ゲノム編集がインビボで衛星細胞のサブセットを修正したことを示す。第4の矢印(l-r)は、HDRによって媒介された修正対立遺伝子を示す。他の矢印はサイレント変異部位を示す。対応するアミノ酸残基は、DNA配列の下に示されている。灰色のボックスは修正された部位を示す。
【
図3C】
図3C: CRISPR/Cas9媒介ゲノム修正による筋ジストロフィーの救済のモデル。mdx-Cマウスには3タイプの筋線維が存在する: 1) 正常なジストロフィン陽性筋線維(灰色膜)および修正された前駆細胞に由来する衛星細胞(灰色核); 2) ジストロフィー性ジストロフィン陰性筋線維(薄灰色膜)およびmdx前駆細胞に由来する衛星細胞(薄灰色核); 3) 修復前駆細胞とmdx前駆細胞の融合によって生成された、または修正された衛星細胞と既存のジストロフィー線維との融合によって生成された中心核(灰色および薄灰色核)を有するモザイクジストロフィン陽性筋線維。mdx-Cマウスにおける3タイプの筋線維の免疫染色を
図11Cに示す。
【
図4A】野生型マウスにおけるDmdのHDR媒介およびNHEJ媒介遺伝子編集。
図4A: Dmdの20塩基のsgRNA標的配列およびPAM (灰色)の概略図。矢印はCas9切断部位を示す。
【
図4B】
図4B: PCRに基づく遺伝子型判定の戦略。標的部位の両側に隣接している90 bpの相同配列を含むssODNを、HDR鋳型として用いた。ssODNは、sgRNA/Cas9複合体による再切断を排除する4つのサイレント変異(灰色)を組み込み、HDR媒介遺伝子編集の遺伝子型判定および定量化のためにTseI制限酵素部位(下線部)を付加する。黒色の矢印は、Dmd遺伝子編集部位に対応するPCRプライマーの位置を示す。TseIによるPCR産物(729 bp)の消化から、HDR (437 bp)の出現が明らかとされる。
【
図4C】
図4C: (上パネル)表S1に記載したプライマーでの同腹仔1匹からの仔マウス17匹(表S2)の尾生検から単離されたDNAを用いたPCRに基づく遺伝子型判定。(中パネル) PCR産物を制限断片長多型(RFLP)分析のためにTseIで切断して、HDRをスクリーニングした。(下パネル) CRISPR/Cas9媒介ゲノム編集によって引き起こされるヘテロ二本鎖DNAに特異的なT7エンドヌクレアーゼI (T7E1)を用いて、変異をスクリーニングした。DNA産物を2%アガロースゲルに負荷した。矢印は、TseIまたはT7E1の切断バンドを示す。Mはサイズマーカーレーンを意味する。「bp」はマーカーバンドの塩基対の長さを示す。
【
図4D】
図4D: Dmd遺伝子のHDR媒介編集を示す(上パネル)マウス#07 (
図4Cから)の、およびNHEJ媒介編集を示す(下パネル)マウス#14 (
図4Cから)のPCR産物の配列決定結果。矢印は、HDRによって導入された点突然変異の位置を示す。矢印は、標的部位近くのクロマトグラム上の混合配列決定ピークを指し、ヘテロ接合性NHEJ媒介遺伝子編集を示す。
【
図4E】
図4E: B6C3F1マウス接合体へのCas9、sgRNAおよびssODNの微量注入から得た4匹のF
0マウス(
図4Cからの#07、#13、#14および#15)由来のDmd対立遺伝子の配列。各マウスの尾部ゲノムDNA由来のPCR産物を、pCRII-TOPOベクターにサブクローニングし、個々のクローンを選び、配列決定した。点突然変異およびサイレント変異は、灰色の文字で示される。小文字は、矢じりで示された部位に挿入された配列である。欠失された配列は黒色のダッシュ記号に置き換えられている。各ゲノムDNAクローンの遺伝子型は配列の隣に記載されており、インフレームの挿入または欠失はIF-Ins.およびIF-Del.と称される。挿入されたヌクレオチドの数は(+)により示され、欠失は(-)で示される。同一の配列を有するクローンの数(No.)を(×)によって示す。
【
図5A】mdxマウスにおけるHDR媒介およびNHEJ媒介遺伝子修正。
図5A: HDRまたはNHEJを介したCRISPR/Cas9媒介遺伝子修正を説明する概略図。対応するアミノ酸残基は、DNA配列の下に示されている。
【
図5B】
図5B: WTマウス、mdxマウスおよび修正mdx-Cマウスの直接配列決定結果。矢印はWT対立遺伝子を示す(上)。矢印はmdx対立遺伝子を示す(中央)。第4の矢印(l-r)は、HDRによって媒介された修正対立遺伝子を示す。他の矢印はサイレント変異部位を示す(下)。対応するアミノ酸残基は、DNA配列の下に示されている。灰色のボックスは修正された部位を示す。
【
図5C-1】
図5C: mdxマウス(C57BL/10ScSn-Dmd
mdx/J)接合体へのCas9、sgRNAおよびssODNの微量注入から得たF
0 mdx-Cマウス(
図1E)に存在するDmd対立遺伝子の配列。各マウスの尾部ゲノムDNA由来のPCR産物を、pCRII-TOPOベクターにサブクローニングし、個々のクローンを選び、配列決定した。mdx点突然変異(CからTへの)およびサイレント変異は、灰色の文字で示される。同一の配列を有するクローンの数(No.)を(×)によって示す。各mdx-Cマウスのmdx配列に対するHDRまたはNHEJ配列の比において観察されるバラツキは、モザイク現象の程度を反映する。
【
図5C-2】
図5C: mdxマウス(C57BL/10ScSn-Dmd
mdx/J)接合体へのCas9、sgRNAおよびssODNの微量注入から得たF
0 mdx-Cマウス(
図1E)に存在するDmd対立遺伝子の配列。各マウスの尾部ゲノムDNA由来のPCR産物を、pCRII-TOPOベクターにサブクローニングし、個々のクローンを選び、配列決定した。mdx点突然変異(CからTへの)およびサイレント変異は、灰色の文字で示される。同一の配列を有するクローンの数(No.)を(×)によって示す。各mdx-Cマウスのmdx配列に対するHDRまたはNHEJ配列の比において観察されるバラツキは、モザイク現象の程度を反映する。
【
図6A】標的部位(Dmd)および32箇所の理論的オフターゲット部位のディープシークエンシング分析。
図6A: 4つのマウス群: mdx、mdx+Cas9、WTおよびWT+Cas9由来DNAのディープシークエンシングから得た、標的部位(Dmd)でのHDR媒介(バーの底部)およびNHEJ媒介(バーの上部)遺伝子修正の頻度。
【
図6B】
図6B: 4つのマウス群由来DNAのディープシークエンシング結果から得た、ゲノム全般での「上位10位」の理論的オフターゲット部位(OT-01〜OT-10) (表S3)におけるNHEJ媒介indelの頻度(凡例の上から下が、左から右に示される)。
【
図6C】
図6C: 4つのマウス群由来DNAのディープシークエンシングから得た、エクソン内の22箇所の理論的オフターゲット部位(OTE-01〜OTE-22) (表S3)におけるNHEJ媒介indelの頻度(凡例の上から下が、左から右に示される)。
【
図7A-1】野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウス由来の筋肉の組織学的分析およびウエスタンブロット分析。
図7A: 7〜9週齢の野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウス(HDR-17%、HDR-41%およびNHEJ-83%修正対立遺伝子;
図2に見られる通り)由来の筋肉のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびに免疫染色。免疫蛍光はジストロフィンを検出する。核はヨウ化プロピジウム(赤色)によって標識される。スケールバー, 100ミクロン。
【
図7A-2】野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウス由来の筋肉の組織学的分析およびウエスタンブロット分析。
図7A: 7〜9週齢の野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウス(HDR-17%、HDR-41%およびNHEJ-83%修正対立遺伝子;
図2に見られる通り)由来の筋肉のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびに免疫染色。免疫蛍光はジストロフィンを検出する。核はヨウ化プロピジウム(赤色)によって標識される。スケールバー, 100ミクロン。
【
図7B】
図7B: 野生型マウス、mdxマウス、ならびに部分的に修正された(HDR-17%) mdx-Cマウスおよび完全に修正された(HDR-41%) mdx-Cマウス由来の心臓および骨格筋(大腿四頭筋)サンプルのウエスタンブロット分析。赤色の矢印(>250 kD)は、ジストロフィンの免疫反応性のバンドを示す。mdxサンプルにも存在しなかった、低い方のバンド(<250 kD)は、全長ジストロフィンタンパク質、天然変種またはタンパク質合成中間体のタンパク質分解性の分解を表す可能性が高い。野生型マウスおよびmdx-Cマウス由来のサンプルでは、同じバンドパターンが観察された。GAPDHはロード対照である。PVDF膜を2%ポンソーレッドにより全タンパク質について染色した。Mはサイズマーカーレーンを意味する。kDはマーカーバンドのタンパク質の長さを示す。
【
図8A】Dmd対立遺伝子のCRISPR/Cas9媒介ゲノム編集による線維症および壊死の減少を示す筋肉の組織構造。(
図8A) 7〜9週齢の野生型、mdx、HDR-17%およびHDR-41%由来の、全ヒラメ筋、腓腹筋、前脛骨筋、総指伸筋、大腿四頭筋および横隔膜のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色横断凍結切片。スケールバー, 125ミクロン。
【
図8B】(
図8B) 3週齢の野生型、mdx、HDR-40%-3wk由来の、全ヒラメ筋、腓腹筋、前脛骨筋、総指伸筋、大腿四頭筋および横隔膜のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色横断凍結切片。スケールバー, 125ミクロン。
【
図9A】野生型マウス、mdxマウスおよび修正mdx-Cマウス由来の筋肉のRFLP分析および筋線維測定。
図9A: 野生型マウス、mdxマウス、HDR-17%マウスおよびHDR-41%マウスの、尾部、ヒラメ筋(Sol)、横隔膜(Dia)および心臓(Hrt)から単離されたゲノムDNAのモザイク現象の程度を定量化するためのRFLP分析。プライマー(Dmd729FおよびDmd729R) (上パネル)を用いゲノムDNAを使ってPCRを行い、TseI (下パネル)で消化した。DNA産物を2%アガロースゲルにロードした。下の矢印は、TseI消化によって生成された、HDR媒介修正を示すDNAバンドに印付けしている。上の矢印は、修正されていないmdx対立遺伝子のDNAバンドに印付けしている。Mはサイズマーカーレーンを意味する。bpはマーカーバンドの塩基対の長さを示す。
【
図9B】
図9B: 大腿四頭筋、ヒラメ筋、横隔膜および心臓におけるジストロフィン陽性細胞の定量化。WTの場合にはn=6; mdxの場合にはn=3。エラーバーは、複数の筋肉切片からのデータに基づく標準偏差を示す(凡例の上から下が、左から右に示される)。
【
図9C】
図9C: 野生型マウスのヒラメ筋由来の筋線維の断面積の分布の測定から、線維の90%が700〜1499 μm
2の範囲に及ぶ均一なサイズの線維が示された。対照的に、mdxマウス由来の筋線維は、サイズが不均一であり、300〜1899 μm
2の範囲に及んだ。HDR-41%の筋由来の筋線維のサイズ分布は、野生型マウスのものと著しく類似していた。WTの場合にはn=6; mdxの場合にはn=3。エラーバーは、複数の筋肉切片からのデータに基づく標準偏差を示す(凡例の上から下が、左から右に示される)。
【
図9D】
図9D: 中心核を有するヒラメ筋線維の分布。HDR-17%由来の筋肉の再生筋線維の割合は、700〜1099 μm
2の範囲に及び、これはmdxの筋由来の線維の割合よりも高かった(凡例の上から下が、左から右に示される)。
【
図10A】CRISPR/Cas9を介したDmd対立遺伝子のゲノム編集後の、心臓ではなく骨格筋の漸進的回復。3週齢および9週齢の野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウス(3週齢はHDR-40%-3wkであり; 9週齢はHDR-41%である)由来の(
図10A)ヒラメ筋のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびにジストロフィン免疫染色。免疫蛍光はジストロフィンを検出する。核はヨウ化プロピジウム(赤色)によって標識される。囲まれた領域の拡大図は、3週齢(HDR-40%-3wk)および9週齢(HDR-41%)の筋肉を示す。3週齢で、筋線維の、全てではないが、多くは、部分回復を示すジストロフィンを発現する。白色の星印はジストロフィン陰性筋線維を示す。9週齢までに、修正された筋肉中の全ての筋線維がジストロフィン発現を示す。ジストロフィンの発現はmdx-Cマウスの心臓において回復したが、3週齢から9週齢まで、加齢に伴う漸進的改善は見られない。スケールバー, 100ミクロン。
【
図10B】CRISPR/Cas9を介したDmd対立遺伝子のゲノム編集後の、心臓ではなく骨格筋の漸進的回復。3週齢および9週齢の野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウス(3週齢はHDR-40%-3wkであり; 9週齢はHDR-41%である)由来の(
図10B)心臓のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびにジストロフィン免疫染色。免疫蛍光はジストロフィンを検出する。核はヨウ化プロピジウム(赤色)によって標識される。囲まれた領域の拡大図は、3週齢(HDR-40%-3wk)および9週齢(HDR-41%)の筋肉を示す。3週齢で、筋線維の、全てではないが、多くは、部分回復を示すジストロフィンを発現する。白色の星印はジストロフィン陰性筋線維を示す。9週齢までに、修正された筋肉中の全ての筋線維がジストロフィン発現を示す。ジストロフィンの発現はmdx-Cマウスの心臓において回復したが、3週齢から9週齢まで、加齢に伴う漸進的改善は見られない。スケールバー, 100ミクロン。
【
図11】mdx-Cマウスにおける衛星細胞および3タイプの筋線維の分析。
図11A: 衛星細胞特異的マーカーであるPax7 (左)および核(中央、ヨウ化プロピジウム)について免疫染色したmdx-Cマウス由来の腓腹筋の横断面。重ね合わせた画像(右)は、筋繊維の縁に位置する「黄色の」衛星細胞を示し、それらを「赤色の」筋線維核から区別する。白色の矢印はPax-7陽性衛星細胞を示す。スケールバー, 40ミクロン。
図11B: 野生型マウス、mdx-Cマウス、およびmdxマウスのレーザー解剖した衛星細胞からのDmd遺伝子のエクソン23に対応する232 bpのPCR産物を2%アガロースゲルで分析した。Mはサイズマーカーレーンを意味する。bpはマーカーバンドの塩基対の長さを示す。
図11C: 部分的に修正されたmdx筋肉における3タイプの筋線維を強調する抗ジストロフィンおよびヨウ化プロピジウムによるmdx-Cヒラメ筋の免疫染色: 1) CRISPR/Cas9媒介ゲノム修正筋前駆細胞に由来する正常ジストロフィン陽性筋線維; 2) mdx変異体前駆細胞に由来するジストロフィー性ジストロフィン陰性筋線維; 3) 修正された衛星細胞と既存のジストロフィー筋との融合から形成された中心核を有するモザイクジストロフィン陽性筋線維。
【
図12】エクソンスキッピングのための戦略。ジストロフィンのドメインおよびエクソンの構造が示されている。イントロン-エクソン接合部の形状は、スプライシング時に読み取り枠を維持する相補性を示している。
【
図13】2タイプのMyo編集媒介エクソンスキッピング。NHEJによってエクソン23をバイパスするための戦略が示されている。
【
図14】mdxマウスの生殖系列におけるMyo編集媒介エクソンスキッピングの戦略。
図14A: エクソン23の5'および3'を標的とするガイドRNAを、黒色および青色の矢じりによって示した。
図14B: Cas9 mRNAおよびガイドRNAをmdx卵に共注入した。
図14C: 仔からのDmdエクソン23に対応するPCR産物をアガロースゲルで分析した。上のバンドは全長PCR産物を示し、下のバンドはおよそ200 bpの欠失(エクソン23)を有するPCR産物を示す。仔9匹中7匹がエクソン23をスキップした。Mはサイズマーカーレーンを意味する。レーン2〜5および9、ならびにレーン6および7は、それぞれ、大きいおよび小さいindel変異を有する陽性mdx仔を示す。
【
図15】Myo編集後のエクソン23のスキッピング。示されたプライマーセット(FおよびR)を用いて、mdxマウスおよび編集されたmdxマウスからのRNAのRT-PCRを行った。エクソン23スプライス部位の破壊により、エクソン22から24へのスプライシング(低い方のバンド)およびジストロフィン読み取り枠の回復が可能になる。
【
図16】エクソン23のスキッピングによるmdxマウスにおけるジストロフィン発現の救済。mdxマウス、およびエクソン23のNHEJ媒介スキッピング後のmdxマウス由来の、筋肉のジストロフィン染色(緑色)が示される。ジストロフィンの発現は、エクソン23をスキップすることによって完全に回復する。
【
図17A】AAV媒介Myo編集によるmdxマウスにおける筋ジストロフィーのインビボ救済の概略図。
図17A: エクソン23の5'および3'を標的とするガイドRNAを、上矢じりによって示した。
【
図17B】
図17B: AAVウイルスベクターからのCas9、ガイドRNAおよびGFP発現のための戦略。
【
図17C】
図17C: 異なるAAV9送達様式の概略図: 腹腔内注射(IP)、筋肉内注射(IM)、眼窩後方注射(RO)、および心臓内注射(IC)。黒色の矢印は、組織収集のための注射後の時点を示す。
【
図18】直接筋肉内注射(IM-AAV)または心臓内注射(IC-AAV)によるAAV9-Cas9送達を用いたMyo編集によるmdxマウスにおけるジストロフィン発現の救済。
図18A: mdxマウス前脛骨筋の連続切片からの天然緑色蛍光タンパク質(GFP)およびジストロフィン免疫染色を、AAV9-Cas9 + AAV9-gsRNA-GFPのIM-AAV (出生後10日目のIM-AAV; P10)から3週後に示している。IM-AAVから3週後の処置mdxマウス脛骨前筋において、筋線維の形質導入頻度または7.7%±3.1%の救済が推定される(n=3、全筋線維に応じたジストロフィン陽性筋線維)。
図18B; IC-AAV (28日齢時のIC-AAV)から4週後の心筋細胞救済の証拠を示す、mdxマウス心臓の連続切片からの天然GFPおよびジストロフィン免疫染色。点線は注入針の軌跡を示し、ボックスは高倍率の視野を示し、星印は連続切片の筋線維整列を示す。
【
図19】IM-AAVを用いたMyo編集によるmdxマウスにおけるジストロフィン発現の漸進的救済。注射後3および6週時の、野生型マウス(WT)、mdxマウス、およびIM-AAV処置mdxマウスについて、前脛骨筋のジストロフィン免疫染色が示されている。IM-AAV (n=3)後6週までに、形質導入頻度(救済)が筋線維の推定25.5%±2.9%に増加する。スケールバー, 40ミクロン。
【
図20】眼窩後方注射によるAAV9-Cas9 (RO-AAV)全身送達を用いたMyo編集によるmdxマウスにおけるジストロフィン発現の漸進的救済。注射後4および8週時の、野生型マウス(WT)、mdxマウス、およびRO-AAV処置mdxマウス(P10時RO-AAV)について、前脛骨筋および心臓のジストロフィン免疫染色が示されている。RO-AAV後4週時の処置mdxマウス脛骨前筋においておよび処置mdxマウス心臓の心筋細胞の1.3%±0.05%において、筋線維の1.9%±0.51%の形質導入頻度(救済)が推定される。RO-AAV後8週までに(全群についてn=3)、救済は、前脛骨筋における筋繊維の推定6.1±3.2%、および心筋細胞の8.7% (5.0%±2.1%)もの数の救済に増加する。未編集mdx対照マウスの前脛骨筋の筋線維壊死は、白色の星印で強調表示されている細胞質を満たす自家蛍光を示す。矢じりは、RO-AAV処置後4週のmdxマウス心臓におけるジストロフィン陽性心筋細胞を示す。スケールバー, 40ミクロン。
【
図21】腹腔内注射によるAAV9-Cas9 (IP-AAV)全身送達を用いたMyo編集によるmdxマウスにおけるジストロフィン発現の救済。注射後4週時(P1時IP-AAV)の、野生型マウス(WT)、mdxマウス、およびIP-AAV処置mdxマウスについて、前脛骨筋および心臓のジストロフィン免疫染色が示されている。IP-AAV後28日の時点で、処置mdxマウス前脛骨筋(n=1)において筋線維の3.0%、および処置mdxマウス心臓(n=1)において心筋細胞の2.4%の形質導入頻度(救済)が推定される。星印および矢じりは、IP-AAV処置mdxマウスにおける、それぞれ、ジストロフィン陽性筋線維および心筋細胞を示す。スケールバー, 40ミクロン。
【
図22】sgRNAのプールは、DMDにおけるホットスポット変異領域を標的とする。矢じりは標的部位を示す。
【
図23】ヒト細胞におけるMyo編集標的エクソン51スプライスアクセプタ部位。
図23A: ガイドRNAライブラリを用いて、エクソン51の5 'を標的とする3つのガイドRNAを選択した。
図23B: T7E1アッセイ法を介してMyo編集効率が実証された。ガイドRNA #3 (赤色)は293T細胞において高い活性を示したが、ガイドRNA #1および2は検出可能な活性を有していなかった。ガイドRNA #3の同じ結果が正常なヒトiPSCにおいて観察された。
【
図24】正常iPSC、DMD iPSC (Riken HPS0164)および編集iPSCから分化した心筋細胞のRT-PCR。
図24A: DMD患者における欠失(エクソン48〜50)はエクソン51におけるフレームシフト変異を生じる。
図24B: エクソン51スプライスアクセプタ配列がMyo編集によって破壊された心筋細胞由来のRNAのRT-PCRを、表示されたプライマーセット(FおよびR)で行った。DMD-iPSCにおけるエクソン51スプライスアクセプタの破壊により、エクソン47から52へのスプライシングおよびジストロフィン読み取り枠(最も低いバンド)の回復が可能になる。
【
図25】DMD iPSCに由来する心筋細胞における、CRISPR/Cas9 Myo編集によるジストロフィン発現の救済の成功。ジストロフィン発現の免疫細胞化学(緑色染色)は、DMD iPSC (Riken HPS0164)由来の心筋細胞が、通常、ジストロフィンを欠き、DMD iPSC心筋細胞でのMyo編集の成功により、ジストロフィン発現を有することを示す。免疫蛍光(赤色)は、心臓マーカーであるトロポニン-Iを検出する。核はHoechst色素(青色)によって標識されている。
【
図26】DMD-iPSCにおけるMyo編集の概略図。
【
図27】患者DC0160の偽エクソン47AのMyo編集戦略。DMDエクソンは灰色のボックスとして表されている。終止コードを有する偽エクソンは、終止の標識によって印付けされている。黒色のボックスは、Myo編集媒介性のindelを示す。灰色の膜は、正常なジストロフィン陽性心筋細胞を示す。
【
図28】患者DC0160の偽エクソン47AのためのガイドRNAの配列。DMDエクソンは黒色のボックスとして表され、偽エクソンは薄い灰色のボックス(47A)として表されている。灰色のボックスはindelを示す。
【
図29】正常iPSC、DMD iPSCおよび編集iPSCから分化したヒト心筋細胞のRT-PCR。
【
図30】DMD (DC0160)-iPSCに由来するヒト心筋細胞のMyo編集によるジストロフィン発現の救済。ジストロフィン発現の免疫細胞化学は、ジストロフィン発現を欠くDMD iPSC (DC0160)心筋細胞を示す。Myo編集の成功により、編集されたDMD iPSC心筋細胞はジストロフィンを発現する。免疫蛍光は、心臓マーカーであるトロポニン-Iを検出する。核はHoechst色素によって標識されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、遺伝的原因の他の多くの疾患と同様に、困難な治療シナリオを提示する。最近、「遺伝子編集」の開発により、細胞における遺伝的影響を修正する能力が高まっている。以下の開示は挿入/欠失(indel)変異を生じる非相同末端結合(NHEJ)を用いるか、または標的遺伝子座の位置に正確な修飾を生じる相同組み換え修復(HDR)によって、ジストロフィン遺伝子の欠陥部を保有している細胞のゲノムを編集するためのCRIPSR/Cas9システムの使用について記述する。本開示のこれらのおよび他の局面は、以下に詳細に記載される。
【0013】
I. デュシェンヌ型筋ジストロフィー
A. 背景
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は劣性X連鎖型筋ジストロフィーであり、3,500人の少年のうち約1人が罹患し、筋肉変性および早期死亡をもたらす。この障害は、タンパク質ジストロフィンをコードするヒトX染色体上に位置する遺伝子ジストロフィンの変異によって引き起こされる。ジストロフィンは、細胞膜のジストログリカン複合体(DGC)に構造的安定性を与える筋組織内の重要な成分である。どちらの性別も変異を保有するが、女性は骨格筋形態の疾患の影響を受けることはめったにない。
【0014】
B. 症状
症状は通常、2〜3歳の男児に現れ、早期乳児期に見られることもある。早期乳児期までは症状が現れなくても、検査室検査では、出生時に活性変異を保有する幼児を特定することができる。筋肉量の喪失に関連する脚および骨盤の近位筋の進行性の衰弱が最初に観察される。最終的にこの衰弱は腕、首、および他の領域に広がる。初期の徴候には、仮性肥大(ふくらはぎおよび三角筋の肥大)、低持久力、人の手を借りずに起立するのが難しいこと、または階段を上がれないことが含まれうる。病状が進行するにつれて、筋組織は消耗を起こし、最終的には脂肪および線維性組織に置き換えられる(線維症)。10歳までには、歩行を補助するために支持具が必要とされることがあり、ほとんどの患者は、12歳までに車椅子に頼っている。その後の症状には、脊椎の湾曲を含めて、骨格の変形をもたらす異常な骨の発達が含まれうる。進行性の筋肉劣化によって、運動の喪失が起こり、最終的には麻痺に至る。知的障害があるかもしれないし、またはないかもしれないが、存在しても、子供が年を取るにつれて次第に悪化することはない。DMDに罹患している男性の平均余命は25歳前後である。
【0015】
進行性の神経筋障害であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの主な症状は、筋肉疲労に伴う筋衰弱であり、随意筋、特に臀部、骨盤部、大腿部、肩部およびふくらはぎの随意筋が最初に冒される。筋衰弱は、後に、腕、首、および他の領域でも生じる。ふくらはぎが肥大することが多い。症状は通常、6歳より前に現れ、早期乳児期に現れることもある。他の身体症状は以下である。
・ ぎこちない歩き方、足踏みのし方、または走り方− (患者は、ふくらはぎの筋肉の緊張のため、足の前部で歩く傾向がある。また、つま先歩きは、膝伸筋の弱さに対する代償的適応である。)
・ 頻繁な転倒
・ 疲労
・ 運動技能(ランニング、ホッピング、ジャンピング)の障害
・ 股関節屈筋の短縮をもたらすおそれのある、過度の腰部脊柱前彎(lumbar hyperlordosis)。これは、全体の姿勢および歩き方、足踏み方または走り方に影響を及ぼす。
・ アキレス腱および膝腱の筋拘縮は、結合組織において筋線維が短くなり、繊維を形成するので、機能を損なう。
・ 進行性の歩行困難
・ 筋線維の変形
・ 舌およびふくらはぎの筋肉の仮性肥大(増大)。筋組織は最終的に、脂肪および結合組織により置き換えられ、ゆえに仮性肥大との用語になる。
・ 脳内のジストロフィンの欠損または機能不全の結果であると考えられる、神経行動障害(例えば、ADHD)、学習障害(失読症)、および特定の認知技能(特に短期言語記憶)の非進行性衰弱の高いリスク。
・ 歩く能力の最終的喪失(通常は12歳までに)
・ 骨格変形(場合によっては脊柱側弯症を含む)
・ 臥位または座位から起き上がることが困難
【0016】
この状態は、患者が最初の措置を講じるときから臨床的に観察されることが多く、歩行能力は通常、少年が9歳から12歳の間に完全に失われる。DMDに罹患したほとんどの男性は、21歳までに本質的に「首より下から麻痺する」ようになる。筋肉疲労は、脚および骨盤で始まり、次に肩および首の筋肉に進行し、続いて腕の筋肉および呼吸筋が失われる。ふくらはぎの筋肉の増大(仮性肥大)が一目瞭然である。心筋症、特に(拡張型心筋症)が一般的であるが、うっ血性心不全または不整脈(不規則な心拍)の発症はごくまれである。
【0017】
ガワーズ徴候陽性は、下肢筋肉のより重度の障害を反映する。幼児は、まず初めに腕と膝をついて立ち上がり、次いで手を脚の上において直立して「歩行する」ことにより、上肢で起き上がるのを補助する。罹患した幼児は通常、より疲れやすく、同等者よりも全体的な力が弱い。血流中のクレアチンキナーゼ(CPK-MM)レベルは極めて高い。筋電図検査(EMG)から、衰弱は神経の損傷ではなく筋組織の破壊によって引き起こされることが明らかである。遺伝子検査により、Xp21遺伝子の遺伝的誤りを明らかにすることができる。筋生検(免疫組織化学もしくは免疫ブロッティング)または遺伝子検査(血液検査)によりジストロフィンの欠如が確認されるが、遺伝子検査の改善によってこれが不要になることが多い。
・ 異常な心筋(心筋症)
・ うっ血性心不全または不規則な心調律(不整脈)
・ 胸部および背部の変形(脊柱側弯症)
・ ふくらはぎ、臀部および肩の筋肥大(4歳または5歳前後)。これらの筋肉は最終的に、脂肪および結合組織により置き換えられる(仮性肥大)。
・ 筋肉量の喪失(萎縮)
・ かかと、脚の筋肉拘縮
・ 筋肉の変形
・ 肺炎および(疾患の後期段階において)嚥下時に食物または流体が肺に流入することを含む、呼吸器障害
【0018】
C. 原因
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、X染色体の短腕に位置する遺伝子座Xp21のジストロフィン遺伝子の変異によって引き起こされる。ジストロフィンは、多くのサブユニットを含むタンパク質複合体を通じて、各筋線維の細胞骨格を、基礎となる基底層(細胞外マトリックス)に接続する役割を担う。ジストロフィンが存在しないことで、過剰なカルシウムが筋線維鞘(細胞膜)に浸透することが可能になる。カルシウムおよびシグナル伝達経路の変化は、水をミトコンドリアに侵入させ、ミトコンドリアは破裂する。
【0019】
骨格筋ジストロフィーにおいて、ミトコンドリア機能不全は、ストレス誘発性サイトゾルカルシウムシグナルの増幅およびストレス誘発性活性酸素種(ROS)産生の増幅を生じる。いくつかの経路を含み、明らかに理解されていない複雑なカスケード過程において、細胞内の酸化ストレスの増加は、筋線維鞘に損傷を与え、最終的には細胞死をもたらす。筋線維は壊死を起こし、最終的に脂肪組織および結合組織に置き換えられる。
【0020】
DMDはX連鎖劣性パターンで遺伝する。女性が典型的にはこの疾患の保因者になり、男性が罹患する。典型的には、女性保因者は、罹患した息子を有するまでは変異を保有することに気付かないであろう。保因者である母親の息子は、母親から欠陥遺伝子を引き継ぐ可能性が50%ある。保因者である母親の娘は、保因者である可能性が50%および遺伝子の2つの正常コピーを有する可能性が50%ある。いかなる場合でも、罹患していない父親は、正常なYを息子に、または正常なXを娘に渡す。DMDのような、X連鎖劣性状態の女性保因者は、X不活性化のパターンに依存して症状を示しうる。
【0021】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは3,500人の男性乳児のうち1人の発生率を有する。ジストロフィン遺伝子内の変異は、生殖細胞系伝達の間に遺伝するか、または自発的に発生しうる。
【0022】
D. 診断
障害の家族歴を有する人には、遺伝カウンセリングが勧められる。デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、妊娠中に行われる遺伝子検査によって約95%の精度で検出することができる。
【0023】
DNA検査
ジストロフィン遺伝子の筋肉特異的アイソフォームは79個のエクソンから構成され、DNA検査および分析は通常、影響を受けるエクソンの特定のタイプの変異を同定することができる。DNA検査はほとんどの場合に診断を確定する。
【0024】
筋生検
DNA検査で変異を見つけられない場合は、筋生検検査が行われうる。小さな筋組織サンプルを抽出し(通常は針の代わりにメスで)、ジストロフィンの存在を明らかにする色素を適用する。タンパク質の完全な欠如は、その病状を示す。
【0025】
過去数年間に、病状を引き起こす多くの変異のいっそう多くを検出するDNA検査が開発されており、デュシェンヌの存在を確認するための頻繁な筋生検は必要とされない。
【0026】
出生前検査
DMDはX連鎖劣性遺伝子によって運ばれる。男性はX染色体を1つしか持たないので、変異した遺伝子の1コピーでDMDを引き起こす。父親はX連鎖形質を息子に渡すことができないので、変異は母親によって伝達される。
【0027】
母親が保因者であり、それゆえ2つのX染色体のうちの1つがDMD変異を有する場合、女児がその変異を2つのX染色体の1つとして受け継ぎ、保因者になる可能性は50%ある。男児がその変異を1つのX染色体として受け継ぎ、それゆえDMDを有する可能性は50%ある。
【0028】
出生前検査では、胎児が最も一般的な変異を有するかどうかを伝えることができる。DMDに関与する多くの変異が存在するも、いくつかは同定されていないので、遺伝子検査は、DMDを有する家族成員が、同定されている変異を有する場合にのみ機能する。
【0029】
侵襲的検査の前に、胎児の性別の判定が重要である; 男性はこのX連鎖疾患の影響を受けることもあるが、女性のDMDは極めて稀有である。これは、最近では無料の胎児DNA検査により16週以上の時点で超音波スキャンによって達成することができる。絨毛膜標本採取(CVS)は11〜14週の時点で行うことができ、1%の流産リスクを有する。羊水穿刺は15週後に行うことができ、0.5%の流産リスクを有する。胎児の採血は約18週の時点で行うことができる。不明確な遺伝子検査結果の場合の別の選択肢は、胎児筋生検である。
【0030】
E. 処置
DMDの現行の治療法はなく、規制当局によって継続的な医学的必要性が認識されている。ある種の変異に対するエクソンスキッピング処理を用いた第1〜2a相試験は、歩行の減退を止め、わずかな臨床的改善をもたらした。処置は一般に、生活の質を最大限にするために症状の発症を制御することを目的とし、以下を含む。
・ プレドニゾロンおよびデフラザコートのようなコルチコステロイドは、エネルギーおよび強度を高め、いくつかの症状の重症化を遅らせる。
・ ランダム化対照試験は、β2アゴニストが筋力を増加させるが、疾患の進行を改変しないことを示している。β2アゴニストに対するほとんどのRCTの経過観察時間は、わずか12ヶ月前後であり、ゆえにその時間枠を超えて結果を外挿することはできない。
・ 水泳などの、軽度な不快感のない身体活動が推奨される。不活動であること(たとえば、ベッドでの静養)は筋肉疾患を悪化させうる。
・ 理学療法は筋力、柔軟性、および機能を維持するのに役立つ。
・ 矯正装具(支持具および車椅子のような)は、移動性および自己ケア能力を改善しうる。睡眠中に足首を適切な位置で支える、体にぴったりした取り外し可能な脚支持具は、拘縮の発症を遅らせることができる。
・ 疾患の進行に応じて適切な呼吸補助が重要である。
【0031】
DMDの総合的な多分野ケア標準/ガイドラインは、疾病管理予防センター(CDC)によって開発されており、2010年にThe Lancet Neurologyのなかで二部に分けて出版された。二つの論文をPDF形式でダウンロードするには、TREAT-NMDのウェブサイトにアクセスされたい。
【0032】
1. 理学療法
理学療法士は、患者が最大限の身体的可能性に達することを可能とすることに携わっている。彼らの目的は以下を行うことである。
・ 必要に応じてストレッチおよび運動のプログラムを開発することによって拘縮および変形の発症を最小限に抑えること
・ 固定具および耐久性のある医療機器を推薦することによって、身体的な性質の他の二次性合併症を予測し、最小限に抑えること
・ 呼吸機能を監視し、呼吸運動を補助するための技法および分泌物を取り除く方法について助言すること
【0033】
2. 呼吸補助
筋ジストロフィーに関連した呼吸障害を有する人の処置において、呼吸のたびに調節可能な体積(量)の空気を人に送達する最新の「従量式酸素吸入器/人工呼吸器」が有益である。酸素吸入器は、空気を直接送達する侵襲性の気管内チューブまたは気管切開チューブを必要とすることもあるが、一部の人にとっては、フェイスマスクまたはマウスピースによる非侵襲性の送達で十分である。この後者の方法においては気道陽圧機器、特に二相性の気道陽圧機器が用いられることもある。呼吸具は、携行性のために外部バッテリを備えた電動車椅子の底面または背面の酸素吸入器トレイに容易に適合しうる。
【0034】
呼吸筋が崩壊し始める可能性がある場合、酸素吸入器による処置が十代の半ばから後半に始まりうる。肺活量が正常の40%未満に低下した場合、呼吸低下(「低呼吸」)の可能性が最も高い時間である睡眠時間中に従量式酸素吸入器/人工呼吸器が用いられうる。睡眠中の低呼吸は、睡眠障害の詳しい病歴と酸素測定試験および毛細血管の血液ガスとによって判定される(肺機能検査を参照のこと)。咳の補助装置は、肺内の過剰な粘液を肺の過膨張により陽気圧、次いで負圧で粘液上昇させるのを助けうる。肺活量が正常の30パーセント未満に減少し続ける場合、さらに多くの補助のため日中に従量式酸素吸入器/人工呼吸器が必要とされることもある。人は、必要に応じて、日中に酸素吸入器/人工呼吸器を用いる時間の量を徐々に増加させるであろう。
【0035】
F. 予後
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、最終的に全ての随意筋に影響を及ぼし、後期に心筋および呼吸筋に影響を与える進行性疾患である。平均余命は現在25歳前後であると推定されているが、これは患者によって異なる。最近の医学の進歩は、罹患者の生活を拡大させている。全ての筋疾患に焦点を当てた指導的立場の英国慈善団体である、The Muscular Dystrophy Campaignは、「高い基準の医学的ケアにより、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する若年男性は30代を優に超えるまで生きることが多い」と述べている。
【0036】
稀に、DMDを有する者は、必要に応じて、車椅子およびベッドでの適切な位置調整、酸素吸入器の補助(気管切開術またはマウスピースによる)、気道浄化、ならびに心臓薬を用いて、40代または50代前半まで生き残ることが見られている。晩年のケアのために必要な支援の早期計画では、DMDを抱えながら生きている人において長寿が示されている。
【0037】
不思議なことに、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのmdxマウスモデルにおいて、ジストロフィンの欠如は、カルシウムレベルの上昇および骨格筋の筋壊死と関連している。内喉頭筋(ILM)は保護されており、筋壊死を起こさない。ILMは、表層筋(outher muscle)と比較してカルシウムの変化を処理する能力がより優れていることを示唆するカルシウム調節系プロファイルを有しており、これにより、それらの独特の病態生理学的特性についての機構的洞察を提供することができる。ILMは、種々の臨床シナリオにおける筋肉疲労の予防および処置のための新規戦略の開発を容易にしうる。
【0038】
II. CRISPR/CASシステム
A. CRISPR/CAS
CRISPR (Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)は、塩基配列の短い反復を含んだDNA遺伝子座である。各反復の後に、ウイルスへの事前曝露由来の「スペーサーDNA」の短いセグメントが続く。CRISPRは、配列決定された真正細菌ゲノムの約40%および配列決定された古細菌の90%に見出される。CRISPRは、CRISPRに関連するタンパク質をコードするcas遺伝子と関連していることが多い。CRISPR/Casシステムは、原核生物の免疫系であり、プラスミドおよびファージのような外来遺伝要素に対する耐性を付与し、後天性免疫の一形態を提供する。CRISPRスペーサーは、真核生物におけるRNAiのような、これらの外因性遺伝要素を認識かつサイレンシングする。
【0039】
反復配列は、1987年に細菌である大腸菌(Escherichia coli)について最初に記述された。2000年には、さらなる細菌および古細菌において同様の群生性反復配列が同定され、SRSR(Short Regularly Spaced Repeats)と呼ばれた。SRSRは2002年にCRISPRに改名された。推定上のヌクレアーゼまたはヘリカーゼタンパク質をコードするものもある、遺伝子のセットは、CRISPR反復配列(casまたはCRISPR関連遺伝子)と関連していることが分かった。
【0040】
2005年に、独立した3人の研究者が、CRISPRスペーサーはいくつかのファージDNAおよびプラスミドのような染色体外DNAと相同性を示すことを示した。これは、CRISPR/casシステムが細菌における適応免疫に関与しうることの表れであった。Kooninとその仲間らは、スペーサーが、RNA干渉と呼ばれるシステムを用いる真核細胞と同様に、RNA分子の鋳型として働くことを提唱した。
【0041】
2007年、Barrangou、Horvath (Daniscoの食品産業の科学者)および他者らは、スペーサーDNAを用いてファージ攻撃に対するサーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)の耐性を改変しうることを示した。DoudnaおよびCharpentierは独立的に、細菌が免疫防御においてスペーサーをどのように配置するかを知るために、CRISPR関連タンパク質を探索していた。彼らは、Cas9と呼ばれるタンパク質に依るいっそう単純なCRISPRシステムを共同で研究した。彼らは、細菌がスペーサーおよび回文DNAを長いRNA分子に転写することによって侵入ファージに応答し、細胞はtracrRNAおよびCas9を用いてそれを、crRNAと呼ばれる断片に切断することを見出した。
【0042】
CRISPRは、2012年までにヒト細胞培養でのゲノム遺伝子操作/編集ツールとして働くことが初めて示された。それ以来、パン酵母(出芽酵母(S. cerevisiae))、ゼブラフィッシュ、線形動物(線虫(C. elegans))、植物、マウスおよび他のいくつかの生物を含む多種多様な生物において用いられてきた。さらに、CRISPRは、科学者が特定の遺伝子を標的化し、活性化またはサイレンシングすることを可能にする、プログラム可能な転写因子を生じるように改変された。現在、何万ものガイドRNAのライブラリが利用可能である。
【0043】
CRISPRが生きている動物の疾患症状を反転できるという最初の証拠は、2014年3月、MITの研究者が稀有な肝臓障害のマウスを治癒したときに実証された。2012年以降、CRISPR/Casシステムは、マウスおよび霊長類のような真核生物でも機能する遺伝子編集(特定遺伝子のサイレンシング、強化または変化)に用いられている。cas遺伝子および特異的にデザインされたCRISPRを含むプラスミドを挿入することにより、生物のゲノムを任意の所望の位置で切断することができる。
【0044】
CRISPR反復配列は、サイズが24〜48塩基対に及ぶ。それらは通常、ヘアピンのような二次構造の形成を意味するいくつかの二回転対称を示すが、しかし本当の意味で回文ではない。反復配列は、同様の長さのスペーサーで隔てられている。いくつかのスペーサーは原核生物のゲノム(自己標的化スペーサー)と一致するが、いくつかのCRISPRスペーサー配列はプラスミドおよびファージ由来の配列と正確に一致する。新しいスペーサーは、ファージ感染に応答して迅速に付加されうる。
【0045】
CRISPR関連(cas)遺伝子は、CRISPR反復配列-スペーサーアレイと関連することが多い。2013年現在、40種類を超える異なるCasタンパク質ファミリーが記述されている。これらのタンパク質ファミリーのうち、Cas1は異なるCRISPR/Casシステムの間で遍在しているように思われる。8つのCRISPRサブタイプ(Ecoli、Ypest、Nmeni、Dvulg、Tneap、Hmari、ApernおよびMtube)を定義するためにcas遺伝子および反復構造の特定の組み合わせが用いられており、そのいくつかは、RAMP(repeat-associated mysterious proteins)をコードするさらなる遺伝子モジュールと関連している。単一のゲノム中に2つ以上のCRISPRサブタイプが存在しうる。CRISPR/Casサブタイプの散在的分布は、システムが微生物の進化中に遺伝子水平伝播を受けることを示唆している。
【0046】
外因性DNAは、明らかに、Cas遺伝子によりコードされたタンパク質によって小さな要素(長さがおよそ30塩基対)にプロセッシングされ、これは次にリーダー配列の近くのCRISPR遺伝子座に何らかの形で挿入される。CRISPR遺伝子座からのRNAは、構成的に発現され、Casタンパク質により個々の、外因性に由来する配列要素と、隣接する反復配列とから構成される小さなRNAにプロセッシングされる。RNAは他のCasタンパク質をガイドして、RNAまたはDNAレベルで外因性遺伝要素をサイレンシングする。証拠から、CRISPRサブタイプ間の機能的多様性が示唆されている。Cse (CasサブタイプE.coli)タンパク質(大腸菌中のCasA-Eと呼ばれる)は、CRISPR RNA転写産物を、Cascadeが保持するスペーサー-反復配列単位にプロセッシングする機能的複合体Cascadeを形成する。他の原核生物では、Cas6がCRISPR転写産物をプロセッシングする。興味深いことに、大腸菌でのCRISPRに基づくファージ不活性化には、CascadeおよびCas3が必要とされるが、Cas1およびCas2は必要とされない。パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)および他の原核生物において見出されるCmr (Cas RAMPモジュール)タンパク質は、相補的な標的RNAを認識かつ切断する小さなCRISPR RNAとの機能的複合体を形成する。RNAガイドCRISPR酵素は、V型制限酵素として分類される。
【0047】
米国特許公報第2014/0068797号も参照されたく、これは参照によりその全体が組み入れられる。
【0048】
B. Cas9
Cas9はヌクレアーゼ、つまりDNAを切断するために特化した酵素であり、二重らせんの各鎖に対して1つずつの、2つの活性切断部位を有する。チームによって、標的DNAを狙った場所に位置付けるCas9の能力を保持しながら、一方または両方の部位を無効にできることが実証された。Jinekら(2012)はtracrRNAおよびスペーサーRNAを組み合わせて「単一のガイドRNA」分子にし、これはCas9と混合されて、正しいDNA標的を見出し、切断しえた。Jinekら(2012)は、そのような合成ガイドRNAを遺伝子編集に使用できる可能性があることを提唱した。
【0049】
Cas9タンパク質は、病原細菌および共生細菌において高度に濃縮されている。CRISPR/Cas媒介遺伝子調節は、特に真核生物宿主との細菌相互作用中の、内因性細菌遺伝子の調節に寄与しうる。例えば、フランシセラ・ノビサイダ(Francisella novicida)のCasタンパク質Cas9は、固有の小さなCRISPR/Cas関連RNA (scaRNA)を用いて、F.ノビサイダが宿主応答を弱め病原性を促進するのに不可欠な細菌性リポタンパク質をコードする内因性転写産物を抑制する。Wangらは、生殖細胞系(接合体)へのCas9 mRNAおよびsgRNAの共注入が、変異で上手くいくことを示した。Cas9 DNA配列の送達も企図される。
【0050】
C. gRNA
RNAガイドタンパク質として、Cas9はDNA標的の認識を指示する短いRNAを必要とする(Mali et al., 2013a)。Cas9は、PAM配列NGGを含むDNA配列を選択的に調べ、プロトスペーサー標的なしでここに結合することができる。しかしながら、Cas9-gRNA複合体は、二本鎖切断をもたらすためにgRNAに近い一致を必要とする(Cho et al., 2013; Hsu et al., 2013)。細菌中のCRISPR配列は複数のRNAにおいて発現され、次いでRNAのためのガイド鎖を作るためにプロセッシングされる(Bikard et al., 2013)。真核生物系はCRISPR RNAをプロセッシングするために必要なタンパク質のいくつかを欠いているため、RNAポリメラーゼIII型プロモーターU6で発現される単一のRNAにCas9標的化に不可欠なRNA断片を組み合わせるために合成構築体gRNAを作った(Mali et al., 2013a, b)。合成gRNAは、最小長で100 bpをわずかに上回り、PAM配列NGGの直前の20個のプロトスペーサーヌクレオチドを標的とする部分を含む; gRNAはPAM配列を含まない。
【0051】
III. 核酸送達
上記のように、ある種の態様において、その後の精製および細胞/対象への送達のため、または遺伝子に基づく送達アプローチにおいて直接使用するため、転写因子産物を発現させるように発現カセットが利用される。発現は、適切なシグナルがベクター内に提供され、細胞における関心対象の遺伝子の発現をもたらす、ウイルスおよび哺乳動物両方の起源からのエンハンサー/プロモーターなどのさまざまな調節要素を含むことを必要とする。宿主細胞におけるメッセンジャーRNAの安定性および翻訳可能性を最適化するようにデザインされた要素も定義される。産物を発現する永久安定細胞クローンを樹立するためのいくつかのドミナント薬物選択マーカーの使用のための条件も提供され、薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現と関連付ける要素も提供される。
【0052】
A. 調節要素
本願の全体にわたって、「発現カセット」という用語は、核酸コード配列の一部または全部が転写され翻訳されうる、すなわち、プロモーターの制御下にある、遺伝子産物をコードする核酸を含有している任意のタイプの遺伝子構築体を含むものとする。「プロモーター」とは、遺伝子の特異的な転写を開始させるために必要とされる、細胞の合成機構により認識されるか、または合成機構へ導入されるDNA配列をいう。「転写制御下」という語句は、プロモーターが、RNAポリメラーゼ開始および遺伝子の発現を制御するため、核酸に対して正確な位置および方向にあることを意味する。「発現ベクター」とは、複製能を有する遺伝子構築体に含まれており、したがって、複製起点、転写終結シグナル、ポリA領域、選択可能マーカー、および多目的クローニング部位のうちの1つまたは複数を含む発現カセットを含むものとする。
【0053】
プロモーターという用語は、RNAポリメラーゼIIのための開始部位の周辺に密集した転写制御モジュールの群をいうように本明細書で用いられる。プロモーターの組織化に関する思考の大部分は、HSVチミジンキナーゼ(tk)およびSV40初期転写単位のためのものを含む、いくつかのウイルスプロモーターの分析に由来する。より最近の研究により強化されたこれらの研究は、各々、およそ7〜20 bpのDNAからなり、転写活性化タンパク質または抑制タンパク質のための1個または複数個の認識部位を含有している不連続の機能性モジュールから、プロモーターが構成されることを示している。
【0054】
各プロモーター内の少なくとも1個のモジュールは、RNA合成のための開始部位を位置決めするために機能する。これの最も周知の例は、TATAボックスであるが、哺乳動物末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のためのプロモーターおよびSV40後期遺伝子のためのプロモーターのような、TATAボックスを欠くいくつかのプロモーターにおいては、開始部位自体に重なる不連続の要素が、開始の場所を固定するのを助ける。
【0055】
付加的なプロモーター要素は、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30〜110 bp上流の領域に位置するが、最近、多数のプロモーターが開始部位の下流にも機能性の要素を含有していることが示された。要素が反転されるかまたは互い関して移動される場合に、プロモーター機能が保存されるように、プロモーター要素間の間隔はフレキシブルであることが多い。tkプロモーターにおいて、プロモーター要素間の間隔を50 bp間隔にまで増加させることができ、その後、活性が減退し始める。プロモーターに依って、個々の要素は、転写を活性化するため、協同的にまたは独立に機能することができると考えられる。
【0056】
ある種の態様において、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列、ラットインスリンプロモーター、およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼのようなウイルスプロモーターが、関心対象のコード配列の高レベルの発現を入手するために用いられうる。発現のレベルが所定の目的のために十分であるならば、関心対象のコード配列の発現を達成するための、当技術分野において周知であるその他のウイルスまたは哺乳動物細胞または細菌ファージのプロモーターの使用も、同様に企図される。周知の特性を有するプロモーターを用いることにより、トランスフェクションまたは形質転換の後の関心対象のタンパク質の発現のレベルおよびパターンを最適化することができる。さらに、特定の生理学的シグナルに応答して調節されるプロモーターの選択は、遺伝子産物の誘導性発現を可能にすることができる。
【0057】
エンハンサーは、同一DNA分子上の遠位に位置するプロモーターからの転写を増加させる遺伝的要素である。エンハンサーの組織化は、プロモーターによく類似している。すなわち、それらは、各々、1種または複数種の転写タンパク質と結合する、多くの個々の要素から構成される。エンハンサーとプロモーターとの間の基本的な区別は、機能性である。エンハンサー領域は全体として離れて転写を刺激することができなければならない。このことは、プロモーター領域またはその成分要素には当てはまる必要がない。他方、プロモーターは、特定の部位における特定の方向でのRNA合成の開始を指示する1個または複数個の要素を有しなければならないが、エンハンサーはこれらの特異性を欠く。プロモーターおよびエンハンサーは、多くの場合、重複し、連続しており、多くの場合、極めて類似したモジュール機構を有すると考えられる。
【0058】
以下は、発現構築体において関心対象の遺伝子をコードする核酸と組み合わせて用いられうるプロモーター/エンハンサーおよび誘導性プロモーター/エンハンサーのリストである。さらに、(Eukaryotic Promoter Data Base; EPDBによる)任意のプロモーター/エンハンサー組み合わせも、遺伝子の発現をもたらすために用いられうる。送達複合体の一部として、または付加的な遺伝子発現構築体として、適切な細菌ポリメラーゼが提供される場合、真核細胞は、ある種の細菌プロモーターからの細胞質転写を支持することができる。
【0059】
(表A)プロモーターおよび/またはエンハンサー
【0061】
特に興味深いのは、筋肉特異的プロモーターである。これらには、ミオシン軽鎖2プロモーター(Franz et al., 1994; Kelly et al., 1995)、αアクチンプロモーター(Moss et al., 1996)、トロポニン1プロモーター(Bhavsar et al., 1996); Na
+/Ca
2+交換輸送体プロモーター(Barnes et al., 1997)、ジストロフィンプロモーター(Kimura et al., 1997)、α7インテグリンプロモーター(Ziober and Kramer, 1996)、脳性ナトリウム利尿ペプチドプロモーター(LaPointe et al., 1996)およびαBクリスタリン/低分子量熱ショックタンパク質プロモーター(Gopal-Srivastava, 1995)、αミオシン重鎖プロモーター(Yamauchi-Takihara et al., 1989)およびANFプロモーター(LaPointe et al., 1988)が含まれる。
【0062】
cDNA挿入断片が用いられる場合には、遺伝子転写産物の適切なポリアデニル化を達成するため、ポリアデニル化シグナルを含めることが、典型的には、望まれると考えられる。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の実施の成功にとって重大ではないと考えられ、ヒト成長ホルモンおよびSV40のポリアデニル化シグナルのような、任意のそのような配列が用いられうる。ターミネーターも発現カセットの要素として企図される。これらの要素は、メッセージレベルを増強し、カセットから他の配列へのリードスルーを最小限に抑えるために役立ちうる。
【0063】
B. 2Aペプチド
本発明者は、昆虫ウイルスであるThosea asigna由来の2A様自己切断ドメイン(TaV 2Aペプチド)を利用する(Chang et al., 2009)。これらの2A様ドメインは、真核生物全体で機能することが示されており、アミノ酸の切断を、2A様ペプチドドメイン内で同時翻訳的に起こさせる。それゆえ、TaV 2Aペプチドを含めることで、単一のmRNA転写産物からの複数のタンパク質の発現が可能とされる。重要なことに、真核生物系で試験した場合、TaVのドメインは、99%を超える切断活性を示した(Donnelly et al., 2001)。
【0064】
C. 発現ベクターの送達
発現ベクターを細胞へ導入できるいくつかの方法が存在する。本発明のある種の態様において、発現構築体は、ウイルス、またはウイルスゲノムに由来する操作された構築体を含む。ある種のウイルスは、受容体により媒介されるエンドサイトーシスを介して細胞に侵入することができ、宿主細胞ゲノムへ組み込まれ、安定的かつ効率的にウイルス遺伝子を発現することができるため、哺乳動物細胞へ外来遺伝子を移入するための魅力的な候補である(Ridgeway, 1988; Nicolas and Rubenstein, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Temin, 1986)。遺伝子ベクターとして用いられた最初のウイルスは、パポーバウイルス(サルウイルス40、ウシパピローマウイルス、およびポリオーマ) (Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986)ならびにアデノウイルス(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986)を含むDNAウイルスであった。これらは、比較的低い外来DNA配列の収容量を有し、限定された宿主スペクトルを有する。さらに、許容細胞における発がんの可能性および細胞変性効果のため、安全性に問題がある。それらは、8 kBまでの外来遺伝物質しか収容しえないが、種々の細胞株および実験動物へ容易に導入されうる(Nicolas and Rubenstein, 1988; Temin, 1986)。
【0065】
インビボ送達のための好ましい方法のうちの一つは、アデノウイルス発現ベクターの使用を含む。「アデノウイルス発現ベクター」とは、(a) 構築体のパッケージングを支持し、(b) その中にクローニングされたアンチセンスポリヌクレオチドを発現するために十分なアデノウイルス配列を含有している構築体を含むものとする。これに関して、発現は、遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0066】
発現ベクターには、アデノウイルスの遺伝子操作された形態が含まれる。36 kBの直鎖状二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子組織化の知識は、アデノウイルスDNAの大断片の、7 kBまでの外来配列への置換を可能にする(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスとは対照的に、アデノウイルスDNAはエピソームとして複製しうるため、宿主細胞のアデノウイルス感染は、染色体組み込みをもたらさず、潜在的な遺伝毒性がない。また、アデノウイルスは構造的に安定しており、広範な増幅の後にもゲノム再編成は検出されていない。アデノウイルスは、細胞周期に関わらず、事実上全ての上皮細胞を感染させることができる。現在のところ、アデノウイルス感染は、ヒトにおける急性呼吸器疾患のような軽度の疾患にのみ関連付けられていると考えられる。
【0067】
アデノウイルスは、ゲノムのサイズが中程度であり、操作が容易であり、力価が高く、標的細胞範囲が広く、感染性が高いため、遺伝子移入ベクターとして用いるのに特に適している。ウイルスゲノムの両端は、ウイルスDNAの複製およびパッケージングのために必要なシス要素である100〜200塩基対逆方向反復(ITR)を含有している。ゲノムの初期(E)領域および後期(L)領域は、ウイルスDNA複製の開始により分割される異なる転写単位を含有している。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび少数の細胞遺伝子の転写の調節を担うタンパク質をコードする。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNA複製のためのタンパク質の合成をもたらす。これらのタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現、および宿主細胞シャットオフに関与している(Renan, 1990)。ウイルスカプシドタンパク質の大半を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)により生じた単一の一次転写産物の有意なプロセッシングの後にのみ発現される。(16.8 m.u.に位置する) MLPは、感染の後期に特に効率的であり、このプロモーターから生じたmRNAは、全て、5'トリパータイトリーダー(TPL)配列を保有しているため、翻訳のための好ましいmRNAである。
【0068】
あるシステムにおいて、組み換えアデノウイルスは、シャトルベクターとプロウイルスベクターとの間の相同組み換えから生成される。2種のプロウイルスベクターの間の可能性のある組み換えのため、この過程から野生型アデノウイルスが生成される可能性がある。それゆえ、個々のプラークからウイルスの単一クローンを単離し、そのゲノム構造を調査することが重要である。
【0069】
複製欠損である現在のアデノウイルスベクターの生成および繁殖は、Ad5 DNA断片によりヒト胎児腎細胞から形質転換され、E1タンパク質を構成的に発現している、293と名付けられた独特のヘルパー細胞株に依る(Graham et al., 1977)。E3領域は、アデノウイルスゲノムにとって不可欠でないため(Jones and Shenk, 1978)、現在のアデノウイルスベクターは、293細胞の補助により、E1領域、D3領域のいずれかまたは両方に外来DNAを保持する(Graham and Prevec, 1991)。本来、アデノウイルスは、野生型ゲノムのおよそ105%をパッケージングすることができ(Ghosh-Choudhury et al., 1987)、したがって、約2 kbのDNAを余分に収容しうる。E1領域およびE3領域において置換可能なおよそ5.5 kbのDNAと組み合わせると、現在のアデノウイルスベクターの最大収容量は、7.5 kb、またはベクターの全長の約15%未満である。アデノウイルスのウイルスゲノムの80%超が、ベクター骨格に残存し、ベクター由来の細胞傷害の起源となる。また、E1欠失ウイルスの複製欠損は不完全である。
【0070】
ヘルパー細胞株は、ヒト胎児腎細胞、筋肉細胞、造血細胞、またはその他の間葉系もしくは上皮系のヒト胎児細胞のようなヒト細胞に由来しうる。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスについて許容性の他の哺乳動物種の細胞に由来してもよい。そのような細胞には、例えば、Vero細胞またはその他の間葉系もしくは上皮系のサル胎仔細胞が含まれる。上述のとおり、好ましいヘルパー細胞株は293である。
【0071】
Racher et al.(1995)は、293細胞を培養し、アデノウイルスを繁殖させるための、改善された方法を開示した。あるフォーマットにおいて、100〜200 mlの培地を含有している1リットルシリコン処理スピナフラスコ(Techne,Cambridge, UK)へ個々の細胞を接種することにより、天然細胞凝集物を増殖させる。40 rpmで攪拌した後、細胞生存能をトリパンブルーにより推定する。別のフォーマットにおいては、Fibra-Celマイクロキャリア(Bibby Sterlin,Stone, UK) (5 g/l)を以下のとおりに用いる。5 mlの培地に再懸濁した細胞接種材料を、250 ml三角フラスコ内の担体(50 ml)へ添加し、1〜4時間、時々撹拌しながら、静置する。次いで、培地を50 mlの新鮮な培地に交換し、振盪を開始する。ウイルス産生のため、細胞を、約80%コンフルエントにまで増殖させ、その後、培地を(最終体積の25%に)交換し、アデノウイルスを0.05のMOIで添加する。培養物を一夜静置し、その後、体積を100%に増加させ、さらに72時間、振盪を開始する。
【0072】
アデノウイルスベクターが複製欠損であるかまたは少なくとも条件的複製欠損であるという要件以外、アデノウイルスベクターの性質は、本発明の実施の成功にとって重要ではないと考えられる。アデノウイルスは、42の異なる公知の血清型またはサブグループA〜Fのうちの任意のものでありうる。サブグループCの5型アデノウイルスは、本発明において用いるための条件的複製欠損アデノウイルスベクターを入手するための好ましい出発材料である。これは、5型アデノウイルスが、多量の生化学的情報および遺伝学的情報が既知のヒトアデノウイルスであり、ベクターとしてアデノウイルスを用いる大部分の構築のために歴史的に使用されているためである。
【0073】
上述のとおり、本発明による典型的なベクターは、複製欠損であり、アデノウイルスE1領域を有しないと考えられる。したがって、E1コード配列が除去された位置に、関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを導入することが、最も便利であると考えられる。しかしながら、アデノウイルス配列内の構築体の挿入の位置は、本発明にとって重要ではない。Karlsson et al.(1986)により記述されたような、E3置換ベクターの欠失E3領域の代わりに、またはヘルパー細胞株もしくはヘルパーウイルスがE4欠損を補完するE4領域に、関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを挿入することも可能である。
【0074】
アデノウイルスは、増殖させ操作するのが容易であり、インビトロおよびインビボで広い宿主範囲を示す。ウイルスのこの群は、高い力価、例えば、1 ml当たり10
9〜10
12プラーク形成単位で入手することができ、高度に感染性である。アデノウイルスの生活環は宿主細胞ゲノムへの組み込みを必要としない。アデノウイルスベクターにより送達された外来遺伝子は、エピソームであり、それゆえ、宿主細胞に対する低い遺伝毒性を有する。野生型アデノウイルスを用いた予防接種の研究において、副作用は報告されておらず(Couch et al., 1963; Top et al., 1971)、このことは、インビボ遺伝子移入ベクターとしての安全性および治療的可能性を証明している。
【0075】
アデノウイルスベクターは、真核生物遺伝子発現(Levrero et al., 1991; Gomez-Foix et al., 1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz, 1992; Graham and Prevec, 1991)において用いられている。動物研究は、組み換えアデノウイルスが遺伝子治療に用いられうることを示唆した(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991; Stratford-Perricaudet et al., 1990; Rich et al., 1993)。種々の組織への組み換えアデノウイルスの投与における研究には、気管滴注(Rosenfeld et al., 1991; Rosenfeld et al., 1992)、筋肉注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈注射(Herz and Gerard, 1993)、および脳への定位接種(Le Gal La Salle et al., 1993)が含まれる。
【0076】
レトロウイルスは、逆転写の過程により、感染細胞において、それらのRNAを二本鎖DNAへ変換する能力を特徴とする一本鎖RNAウイルスの群である(Coffin, 1990)。次いで、得られたDNAは、プロウイルスとして細胞染色体へ安定的に組み込まれ、ウイルスタンパク質の合成を指示する。組み込みは、レシピエント細胞およびその子孫におけるウイルス遺伝子配列の保持をもたらす。レトロウイルスゲノムは、カプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素、およびエンベロープ成分をそれぞれコードする3種の遺伝子gag、pol、およびenvを含有している。gag遺伝子から上流に見出される配列は、ゲノムのビリオンへのパッケージングのためのシグナルを含有している。2個の末端反復配列(LTR)配列が、ウイルスゲノムの5'末端および3'末端に存在する。これらは強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含有しており、宿主細胞ゲノムへの組み込みのためにも必要とされる(Coffin, 1990)。
【0077】
レトロウイルスベクターを構築するためには、複製欠損であるウイルスを作製するため、ウイルスゲノム内のある種のウイルス配列の代わりに、関心対象の遺伝子をコードする核酸を挿入する。ビリオンを作製するため、gag遺伝子、pol遺伝子、およびenv遺伝子を含有しているが、LTRおよびパッケージング成分を有しないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al., 1983)。レトロウイルスLTRおよびパッケージング配列とともに、cDNAを含有している組み換えプラスミドを、(例えば、リン酸カルシウム沈殿により)この細胞株へ導入すると、パッケージング配列が、組み換えプラスミドのRNA転写産物がウイルス粒子へパッケージングされることを可能にし、次いで、それは培養培地へ分泌される(Nicolas and Rubenstein, 1988; Temin, 1986; Mann et al., 1983)。次いで、組み換えレトロウイルスを含有している培地を、収集し、任意で濃縮し、遺伝子移入のために用いる。レトロウイルスベクターは、極めて多様な細胞型を感染させることができる。しかしながら、組み込みおよび安定的発現は、宿主細胞の分裂を必要とする(Paskind et al., 1975)。
【0078】
ウイルスエンベロープへの乳糖残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学的修飾に基づく、レトロウイルスベクターの特異的な標的化を可能にするためにデザインされた新規のアプローチが、最近開発された。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染を可能にすることができた。
【0079】
レトロウイルスエンベロープタンパク質および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を用いる、組み換えレトロウイルスの標的化のための異なるアプローチがデザインされた。抗体はストレプトアビジンを用いることによりビオチン成分を介してカップリングされた(Roux et al., 1989)。主要組織適合複合体クラスI抗原およびクラスII抗原に対する抗体を用いて、インビトロで、それらの表面抗原を保持している多様なヒト細胞のエコトロピックウイルスによる感染が証明された(Roux et al., 1989)。
【0080】
本発明の全ての局面において、レトロウイルスベクターの使用には、ある種の限界がある。例えば、レトロウイルスベクターは、一般的に、細胞ゲノム内のランダムな部位へ組み込まれる。これは、宿主遺伝子の中断を通して、またはウイルス調節配列の挿入を通して、隣接遺伝子の機能に干渉しうる挿入変異誘発をもたらす場合がある(Varmus et al., 1981)。欠損レトロウイルスベクターの使用に関する別の懸念は、パッケージング細胞における複製能を有する野生型ウイルスの可能性のある出現である。これは、宿主細胞ゲノム内に組み込まれたgag配列、pol配列、env配列の上流に、組み換えウイルス由来の完全配列が挿入される組み換え事象に起因しうる。しかしながら、組み換えの可能性を大幅に減少させるはずである新たなパッケージング細胞株が、現在では入手可能である(Markowitz et al., 1988; Hersdorffer et al., 1990)。
【0081】
他のウイルスベクターが、本発明において発現構築体として利用されてもよい。ワクシニアウイルス(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Coupar et al., 1988)、アデノ随伴ウイルス(AAV) (Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Hermonat and Muzycska, 1984)、およびヘルペスウイルスのようなウイルスに由来するベクターが用いられうる。それらは、さまざまな哺乳動物細胞のため、いくつかの魅力的な特色を示す(Friedmann, 1989; Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Coupar et al., 1988; Horwich et al., 1990)。
【0082】
センスまたはアンチセンスの遺伝子構築体の発現を達成するためには、発現構築体を細胞へ送達しなければならない。この送達は、細胞株を形質転換するための実験室手法などの場合、インビトロで達成されてもよいか、またはある種の疾患状態の処置のなどの場合、インビボもしくはエクスビボで達成されてもよい。発現構築体が感染性ウイルス粒子においてカプシド形成する場合、送達のための一つの機序はウイルス感染を介したものである。
【0083】
培養哺乳動物細胞への発現構築体の移入のためのいくつかの非ウイルス法も、本発明により企図される。これらには、リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973; Chen and Okayama, 1987; Rippe et al., 1990)、DEAE-デキストラン(Gopal., 1985)、エレクトロポレーション(Tur-Kaspa et al., 1986; Potter et al., 1984)、直接微量注入(Harland and Weintraub, 1985)、DNA負荷リポソーム(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al., 1979)、およびリポフェクタミン-DNA複合体、細胞超音波処理(Fechheimer et al., 1987)、高速度微粒子銃を使用した遺伝子銃(Yang et al., 1990)、および受容体により媒介されるトランスフェクション(Wu and Wu, 1987; Wu and Wu, 1988)が含まれる。これらの技術のうちのいくつかは、インビボまたはエクスビボの使用のためにうまく適合しうる。
【0084】
一度発現構築体が細胞へ送達されると、関心対象の遺伝子をコードする核酸は、異なる部位において位置付けられ発現されうる。ある種の態様において、遺伝子をコードする核酸は、細胞のゲノムへ安定的に組み込まれうる。この組み込みは、相同組み換え(遺伝子置換)を介して同族の位置および方向で起こる場合があるか、またはランダムな非特異的な位置において組み込まれる場合がある(遺伝子強化)。さらなる態様において、核酸は、DNAの別々のエピソームセグメントとして細胞内に安定的に維持される場合がある。そのような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主細胞周期と無関係に、または同期的に、維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。発現構築体が如何にして細胞へ送達されるか、および細胞内の何処に核酸が残存するかは、利用される発現構築体のタイプに依存する。
【0085】
本発明のさらに別の態様において、発現構築体は、単純に裸の組み換えDNAまたはプラスミドからなっていてもよい。構築体の移入は、物理的にまたは化学的に細胞膜を透過性化する前掲の方法のうちのいずれかにより実施されうる。これは、インビトロの移入のために特に適用可能であるが、インビボの使用にも同様に適用されうる。Dubensky et al.(1984)は、成体マウスおよび新生仔マウスの肝臓および脾臓へ、リン酸カルシウム沈殿物の形態で、ポリオーマウイルスDNAを注射することに成功し、活発なウイルス複製および急性感染を証明した。Benvenisty and Neshif(1986)も、リン酸カルシウムにより沈殿させたプラスミドの直接腹腔内注射が、トランスフェクションされた遺伝子の発現をもたらすことを証明した。関心対象の遺伝子をコードするDNAは、インビボでも同様に移入され、遺伝子産物を発現しうることが構想される。
【0086】
本発明のさらに別の態様において、細胞への裸のDNA発現構築体の移入は、粒子銃を含みうる。この方法は、細胞膜を貫通し、細胞を死滅させることなく細胞に侵入することを可能にする高速度にまで、DNAによりコーティングされた微粒子銃を加速する能力に依る(Klein et al., 1987)。小さな粒子を加速するためのいくつかの装置が開発されている。そのような一つの装置は、電流を発生させるために高電圧放出に頼り、次に、その電流が原動力を提供する(Yang et al., 1990)。使用される微粒子銃は、タングステンまたは金のビーズのような生物学的に不活性の物質からなる。
【0087】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚、および筋肉組織を含む、選択された器官が、インビボで照射された(Yang et al., 1990; Zelenin et al., 1991)。これは、銃と標的器官との間に介在する組織を排除するため、組織または細胞の外科的露出、すなわち、エクスビボ処置を必要とする場合がある。特定の遺伝子をコードするDNAは、この方法を介して送達されてもよく、なお本発明に組み入れられる。
【0088】
本発明のさらなる態様において、発現構築体はリポソームに捕捉させてもよい。リポソームとは、リン脂質二重膜および内部水性媒体を特徴とする小胞構造である。多層リポソームは、水性媒体により分離された複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質を過剰の水性溶液に懸濁させた場合に自然に形成される。脂質成分が自己再配置を受けた後、閉じた構造を形成し、脂質二重層の間に水および溶解した溶質を捕捉する(Ghosh and Bachhawat, 1991)。リポフェクタミン-DNA複合体も企図される。
【0089】
インビトロの外来DNAのリポソームにより媒介される核酸送達および発現は、大いに成功している。Wong et al.,(1980)は、培養されたニワトリ胚細胞、HeLa細胞、および肝臓がん細胞において、リポソームにより媒介される外来DNAの送達および発現の実現可能性を証明した。Nicolau et al.,(1987)は、静脈注射後のラットにおけるリポソームにより媒介される遺伝子移入の成功を達成した。Lipofectamine 2000 (商標)として公知の試薬は、広く使用され市販されている。
【0090】
本発明のある種の態様において、リポソームは血球凝集性ウイルス(HVJ)と複合体化されてもよい。これは、細胞膜との融合を容易にし、かつリポソームに封入されたDNAの細胞侵入を促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様において、リポソームは、核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体化されるかまたはともに利用されてもよい(Kato et al., 1991)。さらなる態様において、リポソームは、HVJおよびHMG-1の両方と複合体化されるかまたはともに利用されてもよい。そのような発現構築体は、インビトロおよびインビボで、核酸の移入および発現においてうまく利用されているため、本発明のために適用可能である。細菌プロモーターがDNA構築体において利用される場合、リポソーム内に適切な細菌ポリメラーゼを含めることも望ましいと考えられる。
【0091】
特定の遺伝子をコードする核酸を細胞へ送達するために利用されうるその他の発現構築体は、受容体により媒介される送達ビヒクルである。これらは、ほぼ全ての真核細胞における受容体により媒介されるエンドサイトーシスによる高分子の選択的取り込みを活用する。さまざまな受容体の細胞型特異的な分布のため、送達は高度に特異的でありうる(Wu and Wu, 1993)。
【0092】
受容体により媒介される遺伝子標的化ビヒクルは、一般に、2種の成分: 細胞受容体特異的なリガンドおよびDNA結合剤からなる。いくつかのリガンドが、受容体により媒介される遺伝子移入のために用いられている。最も広範に特徴決定されているリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR) (Wu and Wu, 1987)およびトランスフェリン(Wagner et al., 1990)である。最近、ASORと同一の受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が、遺伝子送達ビヒクルとして用いられ(Ferkol et al., 1993; Perales et al., 1994)、上皮増殖因子(EGF)も、扁平上皮がん細胞へ遺伝子を送達するために用いられている(Myers, EP 0273085)。
【0093】
IV. 薬学的組成物および送達方法
臨床適用が企図される場合、薬学的組成物は、意図された適用のために適切な形態で調製されると考えられる。一般に、これは、発熱性物質およびヒトまたは動物にとって有害でありうるその他の不純物を本質的に含まない組成物を調製することを要すると考えられる。
【0094】
一般に、薬物、タンパク質、または送達ベクターを安定化し、標的細胞による取り込みを可能にするため、適切な塩および緩衝液を用いることが望まれると考えられる。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散した有効量の薬物、ベクター、またはタンパク質を含む。「薬学的にまたは薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトへ投与された場合に有害反応、アレルギー反応、またはその他の不都合な反応を生じない分子実体および組成物をいう。本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される担体」には、ヒトへの投与に適した医薬などの医薬の製剤化において用いるために許容される、溶媒、緩衝液、溶液、分散媒、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および剤の使用は、当技術分野において周知である。本発明の活性成分と非適合性でない限り、任意の従来の媒体または剤が、治療用組成物において用いられることが企図される。組成物のベクターまたは細胞を不活化しない限り、補足的な活性成分が、組成物に組み込まれてもよい。
【0095】
本発明の活性組成物には、古典的な薬学的調製物が含まれうる。標的組織が任意の一般的な経路を介して利用可能である限り、本発明によるこれらの組成物の投与は、その経路を介するものであってもよいが、全身投与を一般に含む。これには、経口、経鼻、または経頬が含まれる。あるいは、投与は、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、もしくは静脈内注射によってもよいか、または筋組織への直接注射によってもよい。前述のように、そのような組成物は、通常、薬学的に許容される組成物として投与されると考えられる。
【0096】
活性化合物は、非経口投与されてもよいかまたは腹腔内投与されてもよい。例として、遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適切に混合された水で調製することができる。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物、ならびに油で、分散液を調製してもよい。保管および使用の通常の条件の下で、これらの調製物は、一般に、微生物の増殖を防止するための保存剤を含有している。
【0097】
注射可能な使用に適した薬学的形態には、例えば、無菌の水性の溶液または分散液、および無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製のための無菌の粉末が含まれる。一般に、これらの調製物は、無菌であり、かつ容易な注射可能性を維持する程度に液体である。調製物は、製造および保管の条件の下で安定していなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保護されるべきである。適切な溶媒または分散媒は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適当な混合物、ならびに植物油を含有しうる。適度の流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用により、分散液の場合には必要とされる粒子サイズの維持により、そして界面活性剤の使用により維持されうる。微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン系、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされうる。多くの場合において、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいと考えられる。注射可能組成物の吸収の長期化は、吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に用いることによりもたらされうる。
【0098】
無菌の注射可能溶液は、所望により他の成分(例えば、上に列挙されたもの)とともに、適切な量の活性化合物を溶媒に組み入れ、続いて、ろ過減菌することにより調製されうる。一般に、分散液は、例えば、上に列挙されたとおりの基本的な分散媒および所望の他の成分を含有している無菌の媒体に、さまざまな滅菌された活性成分を組み込むことにより調製される。無菌の注射可能溶液の調製のための無菌の粉末の場合、好ましい調製の方法は、事前に滅菌ろ過された溶液からの真空乾燥および凍結乾燥の手法を含み、これは任意の付加的な所望の成分が加わった活性成分の粉末を与える。
【0099】
本発明の組成物は、一般に、中性または塩の形態で製剤化されうる。薬学的に許容される塩には、例えば、無機酸(例えば、塩酸もしくはリン酸)、または有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸など)に由来する(タンパク質の遊離アミノ基により形成された)酸付加塩が含まれる。タンパク質の遊離カルボキシル基により形成された塩を、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化鉄)または有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなど)から得ることも可能である。
【0100】
製剤化の後、溶液は、好ましくは、投薬製剤と適合性の様式で、かつ治療的に有効であるような量で投与される。製剤は、注射可能溶液、薬物放出カプセルなどのような多様な剤形で容易に投与されうる。例えば、水性溶液での非経口投与の場合、溶液は、一般に、適切に緩衝され、最初に、液体希釈剤が、例えば、十分な生理食塩水またはグルコースにより等張にされる。そのような水性溶液は、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、および腹腔内への投与のために用いられうる。特に、本開示を考慮すれば、当業者に公知であるように、好ましくは、無菌の水性媒体が用いられる。例として、単一用量を、1 mlの等張NaCl溶液に溶解させ、1000 mlの皮下注入液に添加するか、または提案された注入部位に注射する(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版、1035〜1038頁および1570〜1580頁を参照のこと)。投薬量のある程度の変動が、処置される対象の状態に依って、必然的に起こると考えられる。投与を担う者が、いかなる場合にも、個々の対象のための適切な用量を判定すると考えられる。さらに、ヒトへの投与の場合、調製物は、FDA Office of Biologics standardsにより必要とされるような無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【実施例】
【0101】
V. 実施例
以下の実施例は、本開示の好ましい態様を実証するために含まれる。当業者は、以下の実施例において開示される技法が、本開示の実践において良好に機能すると本発明者によって発見された技法を表しており、したがってその実践のために好ましい様式を構成すると考えられうることを理解するはずである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な態様において多くの変更を行うことができ、それでも同様のまたは類似の結果を得ることができるものと理解するはずである。
【0102】
実施例1 - 材料および方法
プラスミド
ヒトコドン最適化Cas9遺伝子を含んだhCas9プラスミド(Addgeneプラスミド41815)およびsgRNAの骨格を含んだgRNAクローニングベクタープラスミド(Addgeneプラスミド41824)を、Addgeneから購入した。sgRNAのクローニングは、Church Lab CRISPRプラスミド取扱説明書(addgene.org/crispr/church/のワールドワイドウェブ)にしたがって行った。
【0103】
Cas9 mRNAおよびsgRNAのインビトロ転写
T3プロモーター配列をPCRによってhCas9コード領域に付加した。T3-hCas9 PCR産物をゲル精製し、製造元の取扱説明書にしたがってpCRII-TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。直線化したT3-hCas9プラスミドを、mMESSAGE mMACHINE T3転写キット(Life Technologies)を用いたインビトロ転写の鋳型として用いた。T7プロモーター配列をPCRによってsgRNA鋳型に付加した。ゲル精製したPCR産物を、MEGAshortscript T7キット(Life Technologies)を用いたインビトロ転写の鋳型として用いた。hCas9 RNAおよびsgRNAをMEGAclearキット(Life Technologies)によって精製し、ヌクレアーゼを含まない水(Ambion)で溶出した。RNAの濃度は、NanoDrop機器(Thermo Scientific)によって測定した。
【0104】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)
ssODNをHDR鋳型として用い、Integrated DNA TechnologiesからUltramer DNA Oligonucleotideとして購入した。ssODNを精製せずに直接Cas9 mRNAおよびsgRNAと混合した。ssODNの配列を表S1に記載する。
【0105】
1細胞胚注入によるCRISPR/Cas9媒介ゲノム編集
全ての動物手順は、テキサス大学サウスウエスタン医療センター(University of Texas Southwestern Medical Center)の動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。B6C3F1 (C57BL/6NCr雌性×C3H/HeN MTV雄性)、C57BL/6NCrおよびC57BL/10ScSn-Dmd
mdx/Jは、卵母細胞ドナーとして用いられた3つのマウス系統であった。過剰排卵させた雌性B6C3F1マウス(6週齢)をB6C3F1種付け雄と交配させた。過剰排卵させた雌性C57BL/6NCr雌(12〜18グラム)をC57BL/6NCr雄と交配させ、過剰排卵させた雌性ホモ接合体C57BL/10ScSn-Dmd
mdx/J (12〜18グラム)をヘミ接合体C57BL/10ScSn-Dmd
mdx/J種付け雄と交配させた。受精卵を収集し、M16培地(100 U/mlのペニシリンおよび50 mg/mlのストレプトマイシンを含む卵子培養のためのブリスター培地)中37℃で1時間維持した。受精卵をM2培地(M16培地および20 mM HEPES)に移し、hCas9 mRNA、sgRNAおよびssODNを注入した。Cas9/sgRNAを前核のみ(Nucと呼ぶ)または前核および細胞質(Nuc+Cytと呼ぶ)に注入した。異なる用量のCas9 mRNA、sgRNAおよびssODNをNucまたはNuc+Cytで受精卵に注入した(表S2に詳述の通り)。注入済の受精卵をM16培地中37℃で1時間培養し、次いで偽妊娠ICR雌性マウスの卵管に移入した。
【0106】
ゲノムDNAの単離
尾生検を25 mM NaOH/0.2 mM EDTA溶液100 μlに添加し、95℃に15分間置いた後、室温に冷却した。40 mM Tris-HCl (pH 5.5) 100 μlの添加後、チューブを15,000×gで5分間遠心分離した。DNAサンプルは数週間4℃で保管、または長期間貯蔵の場合-20℃で保管した。TRIzol (Life Technologies)を用い製造元の取扱説明書にしたがって筋肉からゲノムDNAを単離した。
【0107】
PCRによる標的ゲノム領域の増幅
PCRアッセイにはGoTaq (Promega) 2 μl、5×Green GoTaq反応緩衝液20 μl、25 mM MgCl
2 8 μl、10 μMプライマー(DMD729FおよびDMD729R) (表S1) 2 μl、10 mM dNTP 2 μl、ゲノムDNA 4 μl、およびddH
2O 〜100 μlを含めた。PCR条件は、2分間94℃; 32×(15秒間94℃、30秒間59℃、1分間72℃); 7分間72℃; その後4℃であった。直接配列決定のためPCR産物を2%アガロースゲル電気泳動によって分析し、QIAquick PCR Purification Kit (Qiagen)を用いてゲルから精製した。これらのPCR産物を、製造元の取扱説明書にしたがってpCRII-TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。個々のクローンを選び、DNAを配列決定した。
【0108】
PCR産物のRFLP分析
ゲノムPCR産物20 μl、10×NEB緩衝液CS 3 μlおよびTseI (New England BioLabs) 1 μlからなる消化反応物を65℃で1時間インキュベートし、2%アガロースゲル電気泳動によって分析した。野生型DNAからの消化PCR産物は581 bpであり、その一方でF
0マウスからのHDR媒介ゲノム編集DNAは約437 bpのさらなる産物を示す。
【0109】
PCR産物のT7E1分析
ミスマッチ二重鎖DNAは、以下の条件を用いてゲノムPCRサンプル25 μlの変性/再生により得た: 10分間95℃、95℃から85℃(-2.0℃/秒)、1分間85℃、85℃から75℃(-0.3℃/秒)、1分間75℃、75℃から65℃(-0.3℃/秒)、1分間65℃、65℃から55℃(-0.3℃/秒)、1分間55℃、55℃から45℃ (-0.3℃/秒)、1分間45℃、45℃から35℃ (-0.3℃/秒)、1分間35℃、35℃から25℃ (-0.3℃/秒)、1分間25℃、4℃に保持。変性/再生後、以下のものをサンプルに添加した: 10×NEB緩衝液2 3 μl、T7E1 (New England BioLabs) 0.3 μlおよびddH
2O 〜30 μl。消化反応液を37℃で1時間インキュベートした。消化されていないPCRサンプルおよびT7E1消化PCR産物を、2%アガロースゲル電気泳動によって分析した。消化されていないPCR産物は729 bpであり、その一方でミスマッチDNAを有するF
0マウスからのゲノムDNAは約440 bpおよび290 bpの2つのさらなる消化産物を示した。
【0110】
握力試験
筋力は、UT Southwestern Medical CenterのNeuro-Models Core Facilityによって実施された握力行動課題によって評価された。ケージからマウスを取り出し、体重を測定し、尾部を持ち上げて、前腕が握力計(Columbus Instruments)に接続されたプルバーアセンブリをつかむようにした。把持できなくなるまでマウスをセンサから遠ざけるように真っすぐ引っ張り、力のピーク量をグラム単位で記録した。これを5回繰り返した。
【0111】
血清クレアチンキナーゼ(CK)測定
血液を顎下静脈から採取し、血清CKレベルをVITROS Chemistry Products CK Slidesにより測定して、VITROS 250 Chemistry Systemを用いCK活性を定量的に測定した。
【0112】
筋肉の組織学的分析
野生型マウス、mdxマウス、および修正されたmdx-Cマウス由来の骨格筋を個別に解剖し、ガムトラガカント粉(Sigma-Aldrich)と組織凍結培地(TFM) (Triangle Bioscience)の1:2体積混合物中で凍結包埋した。心臓をTFM中で凍結包埋した。-155℃に過冷却されたイソペンタン熱抽出剤中で全ての包埋物を急速凍結した。得られたブロックを-80℃で終夜貯蔵した後に、切片化した。骨格筋の8ミクロンの横断切片、および心臓の前面切片をLeica CM3050クリオスタット上で調製し、同日染色前に風乾した。確立された染色プロトコルにしたがってH&E染色を行い、MANDYS8モノクローナル抗血清(Sigma-Aldrich)を用い製造元の取扱説明書に改変を加えてジストロフィン免疫組織化学を行った。簡単に説明すると、クリオスタット切片を解凍し、1%トライトン/リン酸緩衝生理食塩水, pH 7.4 (PBS)中で再水和/脱脂した。脱脂後、切片を洗浄してトライトンを除去し、マウスIgGブロッキング試薬(M.O.M. Kit, Vector Laboratories)とともにインキュベートし、洗浄し、連続してMOMタンパク質濃縮物/PBSで平衡化し、MANDYS8をMOMタンパク質濃縮物/PBS中で1800分の1に希釈した。4℃で終夜の一次抗体インキュベーションの後、切片を洗浄し、MOMビオチン化抗マウスIgGとともにインキュベートし、洗浄し、Vectorフルオレセイン-アビジンDCSのインキュベーションで検出を完了した。Vectashieldでのカバースリッピングの前に、ヨウ化プロピジウム(Molecular Probes)で核を対比染色した。
【0113】
画像化および分析
標本は、落射蛍光照射、CRIカラーホイール、およびZeiss Axiocam単色CCDカメラを備えたZeiss Axioplan 2iE直立顕微鏡写真機で再調査した。OpenLab 4.0取得および制御ソフトウェア(Perkin-Elmer)を用いて4倍、10倍および20倍の対物倍率視野をとらえ、それをさらに用いて、インデックス付きの擬似カラー表示および重ね合わせ画像オーバーレイを適用した。画像をAdobe Photoshop CS2でピークレベル調整し、画像解析のために保存した。ImageJ 1.47を用いて立体的形態計測ランダム化グリッドオーバーレイを適用し、このソフトウェアの計数機能を用いて、各筋肉群からのジストロフィン陽性および陰性免疫染色につき約500の凝集筋線維をマークかつスコア化した(最小3区間切片から)。各遺伝子型のヒラメ筋のH&E染色切片を、サイズおよび特徴についてImageJ 1.47でさらに分析した。簡単に説明すると、115+立体的ランダム化筋線維の筋線維鞘境界を手作業で描写し、それらの断面積を計算し、中心核表現型を記録した。
【0114】
ウエスタンブロット分析
筋肉を解剖し、液体窒素中で急速凍結した。タンパク質抽出およびウエスタンブロット分析を、記述(Nicholson et al., 1989 and Kodippili et al., 2014)のように改変を加えて行った。サンプルを、10% SDS, 62.5 mM Tris, 1 mM EDTAおよびプロテアーゼ阻害剤(Roche)を含有するサンプル緩衝液400 μL中で2×20秒間ホモジナイザー(POLYTRON System PT 1200 E)によりホモジナイズした。BCA Protein Assay Kit (Pierce)を用いてタンパク質濃度を測定した。各筋肉サンプル由来のタンパク質50マイクログラムを勾配SDS-PAGE (Bio-Rad)にロードした。ゲルを2.5時間100 Vで泳動した。分離されたタンパク質をコールドルーム(4℃)中で終夜35 VにてPVDF膜に転写した。PVDF膜を2%ポンソーレッド(Ponceau Red)により全タンパク質について染色し、その後、穏やかに振盪しながら25℃で5% w/v脱脂粉乳、1×TBS、0.1% Tween-20 (TBST)により1時間ブロッキングした。ブロッキングされた膜をマウス抗ジストロフィンモノクローナル抗体(MANDYS8, Sigma-Aldrich, 5%ミルク/TBST中で1,000分の1希釈)とともに4℃で終夜インキュベートし、その後、TBST中で洗浄した。次いで、ブロットを西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG二次抗体(Bio-Rad, 10,000分の1希釈)とともに25℃で1時間インキュベートした。TBSTで洗浄した後に、ブロットをウエスタンブロッティングルミノール試薬(Santa Cruz Biotech)に1分間曝露してシグナルを検出した。タンパク質ロードを、抗GAPDH抗体(Millipore, 10,000分の1希釈)によってモニターした。
【0115】
オフターゲット部位のディープシークエンシング
(A) mdx (B) mdx+Cas9 (C) WTおよび(D) WT+Cas9に関して、表S1に記載されているプライマーを用いてPCRによりオフターゲット遺伝子座を増幅させた。PCR産物をMinElute PCR精製キット(QIAGEN)により精製し、同じ濃度(10 ng/μL)に調整し、群ごとに等量(5 μL)を合わせた。ライブラリ調製を製造元の取扱説明書(標準的PCRライブラリ増幅モジュールを有するKAPA Library Preparation Kit, Kapa Biosystems)にしたがい実施した。配列決定をIlluminaのHiseq 2500で実施し、Rapid Mode 150PE chemistryを用いて行った。配列決定の読み取りをBWA (bio-bwa.sourceforge.net/)によりマッピングした。変種発見のため、マッピング品質を満たす30超の読み取りを保持した。全領域および全サンプルにわたる平均の読み取り深度は2570倍であった。SAMtools (samtools.sourceforge.net/)に加えてカスタムスクリプトを用いて変種を呼び出した。各領域において、3塩基対またはそれ以上の挿入および欠失を、Cas9潜在的切断部位を中心とする50 bpのウインドウにおいて計数した。
【0116】
衛星細胞のレーザーマイクロダイセクション
腓腹筋の凍結包埋物からの凍結切片を、Pax-7免疫組織化学の同日セットアップのためポリエチレン膜フレームスライド(Leica Microsystems PET-Foil 11505151)上にマウントした。PET-箔膜フレームスライドで作業する場合には(Gjerdrum et al., 2001)、記述(Murphy et al., 2011)に抗原回復のための改変を加えて、モノクローナルPax-7抗体(Developmental Studies Hybridoma Bank)を用いた。簡単に説明すると、腓腹筋凍結切片を風乾し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、トライトン-X100で脱脂し、抗原回復緩衝液(クエン酸ナトリウム緩衝液Ph 6.0)中65℃で20時間インキュベートした。抗原回復後、切片をクエンチし、0.6%過酸化水素によって内因性ペルオキシダーゼを除去し、マウスIgGブロッキング試薬(M.O.M. Kit, Vector Laboratories)とともにインキュベートし、PBSで洗浄し、MOMタンパク質濃縮物/PBSとともにインキュベートし、その後に4℃でMOMタンパク質濃縮物/PBS中Pax-7抗体(2 μg/ml)との終夜インキュベーションを行った。切片をPBSで洗浄し、MOMビオチン化抗マウスIgG、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼ(Vector Laboratories)とともにインキュベートし、ジアミノベンジジン色素 (DAB, Dako)で発色させた。ヌクレアーゼを含まないMayerのヘマトキシリンで核を対比染色した。Pax-7陽性衛星細胞を顕微鏡で同定し、Leica AS-LMDを用いて63倍の対物倍率でレーザーマイクロダイセクションにより単離した。遺伝子型ごとに60〜70個のPax-7陽性衛星細胞を単離し、捕捉緩衝液(DirectPCR Lysis Reagent, Viagen Biotech Inc.) 10 μlにプールし、-20℃で保管した。標的ゲノム領域を、上記のように、プライマーDMD232_fおよびDMD232_r (表S1)を用いPCRによって増幅した。
【0117】
実施例2 - 結果
この研究の目的は、インビボでのCRISPR/Cas9媒介ゲノム編集によって、mdxマウスのDmd遺伝子における遺伝子欠損を修正することであった。mdxマウス(C57BL/10ScSn-Dmd
mdx/J)は、Dmd遺伝子のエクソン23にナンセンス変異を含む(14, 15) (
図1A)。本発明者らは、筋原性前駆細胞を含む身体の全ての細胞における変異を修正する可能性を有する戦略である、生殖細胞系列における疾患原因遺伝子変異修正のために、Cas9、sgRNAおよびHDR鋳型をマウス受精卵に注入した(16, 17)。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子治療の安全性および有効性も評価した。
【0118】
最初に、本発明者らは、野生型マウス(C57BL6/C3HおよびC57BL/6)におけるCRISPR/Cas9媒介Dmd遺伝子編集の実現可能性を試験し、CRISPR/Cas9媒介Dmd遺伝子編集の条件を最適化した。本発明者らは、HDR媒介遺伝子修復のための鋳型としてDmdエクソン23 (
図4A)および一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)を標的とするsgRNAをデザインした(
図4Bおよび表S1)。野生型受精卵にCas9 mRNA、sgRNA-DMDおよびssODNを共注入し、次いで偽妊娠雌性マウスに移植した。子孫マウス由来のDmdエクソン23に対応するポリメラーゼ連鎖反応産物を配列決定した(
図4C〜E)。CRISPR/Cas9媒介Dmd遺伝子編集の効率を表S2に示す。
【0119】
本発明者らは次に、最適化されたCRISPR/Cas9媒介ゲノム編集方法をmdxマウスに適用した(
図1B)。CRISPR/Cas9媒介ゲノム編集システムは、HDRまたはNHEJを介して胚発生中mdxマウスにおける変異を修正する(
図1C〜Dおよび
図5A)。RFLP分析およびミスマッチ特異的T7エンドヌクレアーゼI (T7E1)アッセイ法により、「修正された」mdx子孫(mdx-Cと称する)を同定した(
図1E、表S2)。本発明者らは、計11匹の異なるmdx-Cマウスを分析した。HDR媒介遺伝子修正を伴う7匹のmdx-Cマウス(mdx-C1〜C7と称する)および終止コドンのNHEJ媒介インフレーム欠失を含む4匹のmdx-Cマウス(mdx-N1〜N4と称する)由来のDmdエクソン23のPCR産物を配列決定した。配列決定の結果、CRISPR/Cas9媒介生殖系列編集が、Dmd遺伝子の2〜100%の修正を示す遺伝的モザイクmdx-Cマウスをもたらすことが明らかとなった(
図1Eおよび
図5B〜C)。接合糸期の後にCRISPR/Cas9媒介修復が起こり、その結果、胚細胞のサブセットでのゲノム編集が生じる場合、広範なモザイク現象が起こる(Yen et al., 2014)。全てのマウス子孫は、腫瘍増殖または他の異常表現型の兆候なしに成体になった。
【0120】
本発明者らは、CRISPR/Cas9媒介ゲノム編集の、可能性のあるオフターゲット効果について、異なる4種のマウス群: (a) 処置なしのmdxマウス(mdxと称する)、(b) CRISPR/Cas9編集mdxマウス(mdx+Cas9と称する)、(c) 処置なしの野生型対照マウス(C57BL6/C3H) (WTと称する)および(d) CRISPR/Cas9編集野生型マウス(WT+Cas9と称する)を試験した(
図6A)。マウスゲノム中の標的部位(Dmdエクソン23)および計32個の潜在的なオフターゲット(OT)部位の配列は、CRISPRデザインツール(crispr.mit.edu/)により予測され、表S3に記載されている。OT-01〜OT-10と称した、32のうち10の部位は、ゲノム全般での上位10位のヒットを表す。OTE-01〜OTE-22と称した、32のうち22の部位は、エクソン内に位置している。
【0121】
Dmdエクソン23に対応するPCR産物のディープシークエンシングにより、B群およびD群において高い比率のHDRおよびNHEJ媒介遺伝子改変が明らかにされたが、対照群AおよびCではそうでなかった(
図6Aおよび表S4)。異なる群の間で32箇所の潜在的なオフターゲット領域におけるindel変異の頻度に差はなかった(
図6B〜C、表S5)。これらの結果はまた、最近のゲノム全般での研究と一致しており、Cas9によるDNA切断が無差別ではないことを示している(Wu et al., 2014; Kuscu et al., 2014およびDuan et al., 2014)。かくして、オフターゲット効果は、インビトロで以前観察されたほどインビボでは懸念がないかもしれない(Pattanayak et al., 2013およびFu et al., 2013)。
【0122】
本発明者らは、筋ジストロフィーの発達に及ぼすCRISPR/Cas9媒介ゲノム編集の効果を分析するために、野生型マウス、mdxマウスおよび7〜9週齢で異なる割合のDmd遺伝子修正を有する選択した3匹のmdx-Cマウス由来の異なる4種の筋肉型(大腿四頭筋、ヒラメ筋(後肢筋)、横隔膜(呼吸筋)および心筋)の組織学的分析を行った。mdx筋肉は、線維直径の変化、中心核、変性線維、壊死線維および石灰化線維ならびに間質性線維症を含めて、筋ジストロフィーの病理組織学的特徴を示した(
図2、
図7Aおよび
図8A)。免疫組織化学によりmdxマウスの骨格筋または心臓においてジストロフィン発現は示されなかったが、野生型マウスでは、線維および心臓の筋細胞膜下領域においてジストロフィン発現が示された(
図2)。mdxマウスはDmd遺伝子に停止変異を保有するが、本発明者らは、以前の報告(24)と一致して、0.2〜0.6%の復帰突然変異体線維を観察した。HDRにより修正された41%のmdx対立遺伝子を有するmdx-Cマウス(HDR-41%と称する)またはインフレームNHEJにより83%の修正を有するmdx-Cマウス(NHEJ-83%と称する)は、ジストロフィー筋表現型の完全な欠如およびジストロフィン発現の回復を全ての筋線維の筋細胞膜下領域において示した(
図2)。著しくは、変異体Dmd対立遺伝子のわずか17%の修正(HDR-17%と称する)は、野生型マウスのものに匹敵する強度レベルで筋線維の大部分においてジストロフィン発現を可能とするのに十分であり、筋肉はmdx筋肉よりも少ない筋ジストロフィーの病理組織学的特徴を示した(
図7A)。わずか17%の遺伝子修正とは分けて相当高い割合(47〜60%)のジストロフィン陽性線維(
図9A〜B)から、修正された骨格筋細胞の選択的優位性が示唆される。ウエスタンブロット分析から、ジストロフィン陽性線維の割合と一致するレベルまでの、mdx-Cマウスの骨格筋(大腿四頭筋)および心臓におけるジストロフィンタンパク質の回復が示された(
図7Bおよび
図9B)。
【0123】
経時的な救済の効率を比較するために、本発明者らは、救済がおよそ40%の同等のモザイク現象を有するmdx-Cマウスを選んだ。
図10Aに示されるように、およそ40%のHDR媒介遺伝子修正を有する3週齢mdx-Cマウス(HDR-40%-3wksと称する)は、ジストロフィン陽性線維が大部分であるが所々ジストロフィン陰性筋線維を示した。対照的に、9週齢の時点で同等の遺伝子修正を有するマウスにおいてジストロフィン陰性線維は見られず、骨格筋において年齢に伴う漸進的な救済が示唆された。同等のモザイク現象を有するmdx-Cマウスにおいて、本発明者らは、3〜9週齢の心臓でのジストロフィン発現の有意な差異を観察せず(
図10B)、年齢依存性の改善が骨格筋に制限されうることを示唆するものであった。
【0124】
骨格筋におけるジストロフィン発現の広範かつ漸進的な救済は、筋線維の多核構造を反映している可能性があり、したがって修正されたDmd遺伝子を有する核のサブセットは、Dmd変異を有する核を補うことができる。ジストロフィー線維を有する修正された衛星細胞(骨格筋の幹細胞集団)の融合も、ジストロフィー筋の再生に漸進的に寄与しうる(Yin et al., 2013)。この可能性を調べるために、本発明者らは、衛星細胞の特異的マーカーであるPax-7による免疫染色により、mdx-Cマウスの筋肉切片中の衛星細胞を同定した(
図11A)。レーザーマイクロダイセクションを用いて、本発明者らは、Pax-7陽性衛星細胞を詳細に分析し、PCR分析のためにゲノムDNAを単離した(
図3Aおよび
図11B)。これらの単離された衛星細胞からのDmdエクソン23に対応するPCR産物の配列決定の結果によって、修正されたDmd遺伝子が示された(
図3B)。これらの結果は、CRISPR/Cas9ゲノム編集が衛星細胞における変異を修正し、これらの筋幹細胞がジストロフィー筋を救済することを可能にしたことを示している(
図3Cおよび
図11C)。
【0125】
野生型マウス、mdxおよびmdx-Cマウスにおいて、筋肉漏出を反映する筋ジストロフィーの診断マーカーである血清クレアチンキナーゼ(CK)を測定した。組織学的結果と一致して、mdx-Cマウスの血清CKレベルはmdxマウスと比べてかなり減少し、ゲノム修正の割合に反比例した(表1)。野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウスをまた、握力試験に供して筋肉性能を測定すると、mdx-Cマウスはmdxマウスと比べて筋肉性能の増強を示した(表1)。
【0126】
CRISPR/Cas9媒介ゲノム編集(Myo編集(Myo-editing))を介した永続的エクソンスキッピング
出生後組織におけるゲノム編集に対する課題は、筋線維および心筋細胞のような分裂後細胞においてHDRが起こらないことである。しかしながら、NHEJは起こるので、突然変異誘発の精度を必要とせずに変異を破壊するために用いることができる。エクソンスキッピングは、遺伝子の一部を「スキップ」し、部分的に機能するジストロフィンを生じることを可能にする戦略である(Aartsma-Rus, 2012)。しかしながら、伝統的なアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を介する一過性エクソンスキッピングは、オリゴヌクレオチドの組織取り込みの非効率性、オリゴヌクレオチドの生涯送達の必要性、および不完全なエクソンスキッピングに悩まされる。この課題を回避するために、本発明者らは、CRISPR/Cas9システムを用いて、DMD変異より前のエクソンスプライス部位を破壊するか、または変異体もしくはフレーム外エクソンを欠失させ、それにより周辺エクソン間のスプライシングが、変異を欠くインフレームジストロフィンタンパク質を再作製することを可能にした。DMDに関与する遺伝子損傷を永続的に修正することにより、ゲノム編集は、心臓または骨格筋への編集成分の必要性が一回の送達のみで済む。さらに、経時的な筋機能の漸進的な改善は、ゲノム編集が行われてから長い間、筋機能の継続的な回復を可能にする。
【0127】
ジストロフィンタンパク質の模式図を
図12に示す。3685アミノ酸のこの大きなタンパク質は、N末端のアクチン結合ドメイン、一連のスペクトリン様反復配列およびアクチン結合反復配列を有する中央ロッドドメイン、ならびにジストログリカン、ジストロブレビンおよびシントロフィンへの結合を媒介するC末端のWWおよびシステインリッチドメインを含めて、よく特徴付けられたいくつかのドメインを含む。重要なことに、このタンパク質の多くの領域が、エクソンスキッピング戦略の治療効果を可能にする機能には不可欠である。ジストロフィンのC末端は機能にとって必須であるため、C末端を修復するエクソンスキッピング戦略は、DMDを、早期死亡または運動機能の重度喪失を引き起こさない比較的軽度の疾患であるベッカー筋ジストロフィー(BMD)に変え、劇的な機能改善を可能にすることができる。
【0128】
ヒトで同定された何千もの個々のDMD変異を考えると、CRISPR/Cas9媒介ゲノム編集によってこのような多数の変異をいかに容易に修正しうるかが明らかな問題である。この課題を回避するために、本発明者らは、CRISPR/Cas9を用いて、DMD変異より前のスプライスアクセプタ/ドナー部位を破壊するか、または変異体エクソンを欠失させ、それにより周辺エクソン間のスプライシングが、変異のないインフレームジストロフィンタンパク質を再作製することを可能にすることを提唱する。この手法の模式図が
図13に示されており、図中でNHEJは内部ゲノム欠失を生じて読み取り枠を修正しうる、またはスプライスアクセプタ部位を破壊しうる。この実施例は、mdxマウスのジストロフィー表現型に関与するエクソン23変異をバイパスするためにこのアプローチをどのように適用できるかを示しているが、原理上は、遺伝子内の多数のタイプの変異に適用することができる。DMD患者の80%もがジストロフィン発現を部分的に回復させるエクソンスキッピング戦略の恩恵を受ける可能性があると推定されている。
【0129】
mdxマウス生殖細胞系列に対するCRISPR/Cas9媒介性の永続的Dmdエクソンスキッピング
mdxマウスにおいてエクソン23変異のMyo編集を試験し始めるために、本発明者らは最初にエクソン23の5'末端および3'末端を標的とするsgRNA (sgRNA-LおよびR)のプールを作製した(
図14A)。NHEJ媒介indelは、保存されたRNAスプライス部位をなくすか、エクソン23を欠失させることができる。これらのガイドRNAをプラスミドspCas9-2A-GFP (Addgene #48138)にクローニングした。最初に、本発明者らは、マウス10T1/2細胞におけるガイドRNAの効率を評価した。Myo編集効率は、以前に記述のT7E1アッセイ法によって検出された。エクソン23のsgRNA-R3標的3'末端は高い活性を示した。次いでそれらに、Cas9ならびにガイドRNA mdxおよびR3をmdx受精卵へHDR鋳型なしで共注入した(
図14B)。著しくは、9匹の子孫マウスのうち7匹が3'ドナー部位にindelを含むか、またはエクソン23全体を欠失した(
図14C)。以前の研究では、mdx仔マウスの約8%しかHDR媒介修正を含んでいなかった。新しい方法を用いることで、効率が10倍に大幅に高められた。エクソン23の標的部位由来のPCR産物をクローニングし、配列決定した。結果から、Myo編集がNHEJ媒介indel変異を効率的に作製して、ジストロフィン遺伝子の読み取り枠を救済しうることが示された。
【0130】
NHEJ遺伝子編集mdxマウスのサブセットは、エクソン23におけるスプライス部位をなくす遺伝子欠失を有していた。本発明者らは、エクソン22および24におけるプライマーを用いて、作製されたRT-PCR産物を配列決定することにより、これらのマウスをエクソンスキッピングの可能性について分析した。配列決定の結果から、エクソン22は、エクソン23を除いて、エクソン24に直接スプライシングされていることが示された(
図15)。エクソン23をスキッピングした結果として、ジストロフィンの読み取り枠が維持され、タンパク質発現が回復する(
図16)。エクソン23「スキッパー」マウス(mdx-ΔE23マウスとも呼ばれる)のRT-PCR産物の配列決定から、エクソン23配列がないことおよびジストロフィンの71アミノ酸のインフレーム欠失に対応する213ヌクレオチドの欠失が確認された。これらの所見は、NHEJ媒介ゲノム編集を用いてDmd遺伝子における多数の異なる変異をバイパスするために提唱される研究に対する重要な概念実証を確立するものである。
【0131】
AAV媒介Myo編集によるマウスにおける筋ジストロフィーのインビボ救済
AAVは、ヒト骨格筋および心臓への正確なMyo編集のためのCas9タンパク質およびガイドRNAの安全な送達に最も有望かつ適切なビヒクルの1つである。AAVによるCRISPR/Cas9精密Myo編集療法の送達の問題は、ウイルスの送達とゲノム工学のプロセスの両方の効率を最適化することに密接に関連していることを強調することが重要である。本発明者らは、インビボで筋細胞にCRISPR/Cas9ゲノム編集機構を送達するための最高力価のAAV9調製物の開発に焦点を当てた。これは集中的な国際研究領域である(Senis et al., 2014; Schmidt & Grimm, 2015)。
【0132】
本発明者らは、検証されたガイドRNA-mdx/R3を用いてAAV9ガイドRNAを作製した(
図17A)。本発明者らは、ユニークなAAV9 CRISPR/Cas9ベクター(miniCMV-Cas9-shortPolyAプラスミド)を得た(
図17B)。このウイルス構築体は、できるだけ最短の「ミニ」-CMVプロモーター/エンハンサー配列を利用してCas9タンパク質の発現をもたらす。本発明者らは、これらの組み換えウイルスをmdxマウスモデルにおいてインビボで評価した。本発明者らは、最大のDmd編集を達成するための最適な方法を特定するために、異なるAAV9送達様式および発現のタイミングの変化を系統的に試験している。本発明者らは、さまざまな年齢で4タイプの注射経路の投与を行った: (i) P1で腹腔内(IP)、(ii) P10で筋肉内(IM)、(iii) P14で眼窩後方(RO)および(iv) P28で心臓内(IC)。心臓および骨格筋を
図17Cに示す時点で収集した。
【0133】
概念実証実験において、本発明者らは、P10マウスのIM注射またはP28のIC注射によって組み換えAAVを注射した。筋肉組織を、
図18Aに示すように、注射後3週間のジストロフィンタンパク質発現の免疫染色により分析した。天然の緑色蛍光タンパク質(GFP)は、筋線維におけるAAV媒介遺伝子発現を示す。注射マウス由来の骨格筋は、ジストロフィン陰性線維のクラスタに隣接するジストロフィン陽性線維のクラスタのユニークなパターンを有する。7.7%±3.1%の筋線維の形質導入頻度または救済が、IM-AAV後3週間の処置mdxマウスの前脛骨筋において推定される。(
図18B)心筋細胞におけるジストロフィンタンパク質発現を示すmdxマウス心臓の連続切片からの天然GFPおよびジストロフィン免疫染色(IC-AAVから4週後)。形質導入頻度(救済)は、IM-AAVから6週後までに筋線維の推定25.5%±2.9%に増加する(
図19)。IM-AAVの3週後から6週後に、加齢に伴う漸進的改善が見られ、これは生殖系列編集の結果と一致する(
図10A)。
【0134】
P14で眼窩後方注射により組み換えAAV (RO-AAV)を注射されたマウス由来の筋組織を、注射から4週後および8週後に免疫組織化学によって調べた(
図20)。ジストロフィン陽性線維または筋細胞の割合を、推定総線維の関数として計算した。mdxマウスにおけるRO注射後4週の時点で、筋線維の1.9%±0.51%がジストロフィン陽性であり、その一方で、心筋細胞の1.3%±0.05%がジストロフィン陽性である。RO-AAVの4週後から8週後まで、加齢に伴う漸進的改善が観察される。救済は、前脛骨筋中の筋線維の推定6.1±3.2%、および心筋細胞の5.0%±2.1%にRO-AAV後8週までに増加する。
【0135】
P1 mdx仔マウスのIP注射後4週の時点で、骨格筋および心臓を免疫組織化学によって調べた(
図21)。処置されたmdxマウスの前脛骨筋および心筋細胞2.4%において筋線維の形質導入頻度(救済) 3.0%が推定される。本発明者らは、より高い比率の筋肉修正が時間とともに漸進すると予想している。実際、本発明者らの以前の生殖系列研究では、インビボ編集は時間とともに漸進的に改善した(Long et al., 2014)。心臓におけるジストロフィンの低レベル(4〜15%)発現でさえ、mdxマウスにおいて心筋症を部分的に改善できることが報告されている(van Putten et al., 2014)。
【0136】
20倍の対物倍率でスキャンした心臓および前脛骨筋の全段階切片の複製物に対して、ジストロフィン陽性のおよび全体の筋線維および心筋細胞の形態計測分析を行った。Nikon Imaging Solution Elements v4.20.00ソフトウェアのAnnotations and Measurements機能(NIS/AM)を用いて、サイズが7889×7570ピクセルから27518×18466ピクセルの範囲のスキャン画像を解析した。ジストロフィン陽性筋線維および心筋細胞の計数を個々にカウントし、NIS/AMを用いて記録したが、全筋線維および心筋細胞の計数は、8つの20倍の対物画像の平均から作成した視野域あたりの細胞カウントから推定し、スキャンされた切片域全体に外挿した。
【0137】
結果から、AAV媒介Myo編集がmdxマウスにおいてインビボでジストロフィンの読み枠を効率的に救済できることが示唆される。異なるAAV送達方法は、組織に異なる影響を及ぼす。IMは、注射された骨格筋(TA)における最も高い救済率の筋線維を有し、一方、ROは、心臓において最高の成績を示す。
【0138】
Myo編集によるDMD心筋細胞機能の救済
長期目標は、Myo編集を生後心筋および骨格筋細胞に適用し、このアプローチを活用してヒトのDMD変異を修正することである。本発明者らは今回、DMD患者由来iPSCのゲノムにおける変異体エクソンのスキッピングを操作することにより、マウスからヒトDMD患者由来の細胞へMyo編集を進展させた。患者におけるDMD変異は、遺伝子の特定の領域に固まって存在している(「ホットスポット」変異) (
図22)。本発明者らは、潜在的にDMD患者の80%に適用可能な上位12のホットスポット変異エクソンを標的とするために、sgRNAのプールを用いた「ホットスポット」DMD変異のMyo編集を最適化した。本発明者らは、各エクソンの5'または3'末端を標的とするために3〜6個のPAM配列を選択した(表2)。Myo編集媒介indelは、保存されたRNAスプライスアクセプタ/ドナー部位をなくし、フレーム外エクソンを救済する。既知のDMD変異に基づいて、本発明者らは、大部分のDMD患者においてジストロフィン機能を救済するMyo編集のための最適な標的DMD配列を選択するためのオンライン情報源(Duchenne Skipper Database)を確立している。
【0139】
例えば、本発明者らは、エクソン51の5'を標的とするために3つのガイドRNAをデザインした(
図23A)。これらのガイドRNAをプラスミドspCas9-2A-GFP (Addgene #48138)にクローニングした。最初に、本発明者らは、トランスフェクションおよびヌクレオフェクションによるヒト293T細胞および正常ヒトiPSCにおけるガイドRNAの効率を評価した。トランスフェクションされた293T細胞およびヌクレオフェクションされたiPSCを、GFPレポーターによって選別した。Myo編集効率は、以前に記述されているようにT7E1アッセイ法によって検出された(
図23B)。GFP+選別された293T細胞では、ガイドRNA番号3は高い活性を示し、ガイドRNA番号1および2は検出可能な活性を示さなかった。この結果は、標的配列の最適化の重要性を強調している。本発明者らは次に、ヒトiPSCにおいてガイドRNA番号3を適用し、同じ結果を観察した。エクソン51の標的部位由来のPCR産物をクローニングし、配列決定した。結果から、Myo編集がスプライシングアクセプタ部位を効率的になくす(Δag)か、またはindelを行って読み枠を救済しうることが明らかである。
【0140】
次に、本発明者らは、
図24Aに視覚化されているように、フレームシフト変異を生じる欠失(エクソン48〜50)を有するDMD患者由来のiPSC系統(別名Riken HPS0164)に対してMyo編集を行った。エクソン51におけるスプライスアクセプタの破壊は、原理上は、エクソン47のエクソン52へのスプライシングを可能にし、それによって読み取り枠を再構築する。本発明者らは、ガイドRNA (エクソン51-sgRNA番号3 (
図23B))を用いて、この患者由来のiPSCにおけるエクソン51中のスプライスアクセプタの破壊に成功し、NHEJ変異により読み取り枠を回復させた(
図24B)。本発明者らは、Myo編集されたDMD-iPSCのプールをとり、標準化された条件を用いてそれらを心筋細胞(iCM)に分化させ、免疫細胞化学によるジストロフィンタンパク質発現の救済をこれらの細胞のサブセットにおいて確認した(
図25)。
【0141】
Myo編集概念をさらに拡張するために、UTSWのMyo編集コアによってさらなるDMD iPSC細胞株を作製し、これを用いて永続的なエクソンスキッピング戦略を試験した(
図26)。本発明者らは、皮膚細胞の代わりに患者の血液サンプルからDMD-iPSCを作製した。というのは、血液細胞はリスクを最小限にしながら、いっそう患者へアクセスしやすいからである。全血から得られたPBMC (末梢血単核球)を培養し、その後、再プログラム化因子を発現する組み換えセンダイウイルスベクター(Cytotune 2.0, Life Technologies)を用いてiPSCへ再プログラム化した。iPSCコロニーは、免疫細胞化学、マイコプラズマ試験および奇形腫形成によって有効性が確認される。
【0142】
22歳の男性患者は、新規のRNAスプライシングアクセプタ部位(YnNYA
G)を生じエクソン47Aの偽エクソンをもたらすイントロン47における自然突然変異(c.6913-4037T>G)を有する(
図27)。この偽エクソンは早期停止シグナルをコードする。本発明者らは、変異部位を正確に標的とする2つのガイドRNAをデザインした(
図28)。Myo編集は、新規のスプライスアクセプタ部位をなくし、偽エクソンを永続的にスキップしうる。変異対立遺伝子および野生型対立遺伝子の両方を有する女性DMD保因者における潜在的なMyo編集に重要であるPAM配列(A
GG)は、野生型DMDには含まれていないため、ガイドRNA番号2は変異対立遺伝子を標的とするだけであることに注目する価値がある。さらに、Myo編集媒介indel変異は、コードされたジストロフィンの正常な機能に影響を与えないイントロン領域の中間にある。理論的には、偽遺伝子をスキップすることにより、得られたジストロフィン遺伝子は全長mRNAおよびジストロフィンタンパク質を生じることができる。記述のように特定のガイドRNAをクローニングし、iPSCにヌクレオフェクションした。本発明者らは、これらのDMD-iCMでのRT-PCRによるエクソンスキッピングの有効性を試験した(
図29)。修正されたiPSCに由来する筋細胞を免疫細胞化学によってジストロフィンタンパク質発現についてアッセイし、これによってmyo編集DMD心筋細胞においてジストロフィン発現が示された(
図30)。
【0143】
結論として、精密Myo編集により、本発明者らはDMD「ホットスポット」(例えば、Riken HPS0164 DMD-iPSC)を標的とするだけでなく、任意の他の稀有な変異(例えば、DC0160 DMD)を容易に修正することが可能になる。Myo編集は、DMDの遺伝的原因を永続的に排除するための新しく強力なアプローチとなる。本発明者らは、有糸分裂後成体組織における耐久性および進行性の治療応答の可能性を考慮して、これは、Myo編集を適用してDMDに関連する筋異常を永続的に修正するのに適した時期であると考える。
【0144】
実施例3 - 考察
これらの結果は、CRISPR/Cas9媒介ゲノム編集が、mdxマウスにおいて筋ジストロフィー(DMD)に関与する原発性遺伝子病変を修正し、この疾患に特有の特徴の発達を予防しうることを示す。生殖系列におけるゲノム編集によって、広範囲のモザイク現象(2〜100%)を有する遺伝的に修正された動物が生み出されたので、本発明者らは、正常な筋肉構造および機能の救済の程度とゲノム修正率を比較することができた。本発明者らは、インビボで修正された細胞のサブセットのみが完全な表現型の救済に十分であることを観察した。
図3Cに図式化されるように、部分的に修正されたmdxマウスの組織学的分析により、3タイプの筋線維が明らかになった: 1) 正常ジストロフィン陽性筋線維; 2) ジストロフィー性ジストロフィン陰性筋線維; および3) 筋再生を示す中心核を含んだモザイクジストロフィン陽性筋線維。本発明者らは、後者のタイプの筋線維が、損傷した筋線維への修正された衛星細胞の動員から生じ、中心核を有するモザイク筋線維を形成することを提唱する。インビボ生着のための細胞源としてエクスビボで衛星細胞を増殖させる努力は、培養下のこれらの細胞の増殖能および再生能の喪失によって妨げられている(Montarras et al., 2005)。したがって、CRISPR/Cas9システムによるインビボでの衛星細胞の直接編集は、DMDにおける筋肉修復を促進する潜在的に有望な代替アプローチとなる。
【0145】
特定の技術的課題を克服することができれば、原理上は、インビボの生後細胞内でゲノム編集を想定することができよう。例えば、インビボでジストロフィー筋肉または衛星細胞にCRISPR/Cas9システムの成分を向けることができる適切な体細胞送達システムの必要性が存在している。この関連で、非病原性アデノ随伴ウイルス(AAV)送達システムは、安全かつ有効であることが証明されており、遺伝子治療のための臨床試験において既に進展している(Nathwani et al., 2011およびPeng et al., 2005)。さらに、AAV9血清型は、DMD患者において影響を受ける主要な組織である骨格筋、心臓および脳において強力な発現をもたらすことが示されている。裸のプラスミドDNA (Peng et al., 2005)、化学修飾されたmRNA (Kormann et al., 2011およびL. Zangi et al., 2013)、および核酸を含有するナノ粒子(Harris et al., 2010)の注入を含めて、他の非ウイルス性遺伝子送達方法も考えるに値する。CRISPR/Cas9システムの臨床適用の実現可能性に関するもう1つの課題は、げっ歯類とヒトとの間の体のサイズの増大であり、相当なスケールアップを必要とする。CRISPR/Cas9システムの臨床使用への進展のためには、出生後体細胞組織でのより効率的なゲノム編集も必要とされる。CRISPR/Cas9は、体細胞においてNHEJ媒介indel変異を効果的に作製することができるが、HDR媒介修正は、これらの細胞が相同組み換えに不可欠なタンパク質を欠いているため、筋線維および心筋細胞のような、有糸分裂後細胞において比較的効果がない(Hsu et al., 2014)。HDR経路の成分とCRISPR/Cas9システムとの同時発現は、HDR媒介遺伝子修復を増強しうる。最後に、特に長期間使用するための、CRISPR/Cas9システムの安全性の問題は、大型の疾患動物モデルでの前臨床試験において評価される必要がある。上記の課題にもかかわらず、遺伝子送達システムの急速な技術的進歩およびCRISPR/Cas9編集システムの改良により(Hsu et al., 2014)、本発明者らが記述するアプローチは、予知できるほど近い将来においてDMDおよび他のヒト遺伝的疾患に治療的有用性を最終的に供与することができよう。
【0146】
まとめると、本明細書でのアプローチは、CRISPR/Cas9システムを用いて、ジストロフィン遺伝子の変異を含むエクソン上流のエクソンスプライスアクセプタを欠失させる。このアプローチは、イントロン内の他の機能的要素(エンハンサー、代替プロモーターおよびマイクロRNAなど)を破壊することを避ける、ゲノム上のわずかな変化(2〜3個のヌクレオチド)のみを行う。遺伝子修正のためのこの機構は、他者らによって報告された機構とは異なっている。主要なスプライソソームは、5'スプライス部位にGUおよび3'スプライス部位にAGを含むイントロンをスプライスする。単一ガイドRNA (sgRNA)によってガイドされるCas9は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣の標的ゲノム遺伝子座に結合し、二本鎖切断(DSB)を生成する。古典的なCas9 (化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来)のPAM配列はN
AGまたはNGGであり、これは、原理上は、変異を有するエクソンのいずれかを標的化し、エクソンスキッピングによって遺伝子発現を救済しうることを意味する。さらに、本明細書でのアプローチは、AAV9を用いるCRISPR/Cas9システムの送達(および他の送達方法)を介してインビボで衛星細胞または筋線維のゲノム編集を指示することである。ヒトにおける直接的なゲノム編集はこれまでに報告されていない。この直接的なアプローチは、DMDでの筋肉修復を促進するための潜在的に有望な代替方法となる。
【0147】
(表1)野生型マウス、mdxマウス、およびmdx-Cマウスの血清クレアチンキナーゼ(CK)レベルおよび前肢握力
【0148】
(表2)DMD遺伝子の12エクソンに対するガイドRNAの配列
注記: 太字はMyo編集用の最良のガイドを示している
【0149】
(表S1)オリゴヌクレオチドおよびプライマー配列
【0150】
(表S2)細胞質および前核注入によるCRISPR/Cas9媒介ゲノム編集の効率
【0151】
(表S3)マウスゲノム中の標的部位(Dmdエクソン23)および32箇所の潜在的なオフターゲット(OT)部位の配列
【0152】
(表S4)Dmd標的部位由来のPCR産物のディープシークエンシング結果
【0153】
(表S5)32箇所の潜在的なオフターゲット領域由来のPCR産物のディープシークエンシング結果
【0154】
本明細書において開示され主張された組成物および/または方法は全て、本開示を考慮すれば、過度の実験なしに作製され実施されうる。本開示の組成物および方法が好ましい態様に関して記述されたが、本開示の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書において記述された組成物および/または方法ならびに方法の段階または段階の順序に変動が適用されてもよいことは、当業者には明白であろう。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連しているある種の剤が本明細書に記述された剤の代わりに用いられても、同一のまたは類似の結果が達成されることが明白であろう。当業者に明白なそのような類似の代用物および修飾は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本開示の趣旨、範囲および概念に含まれるものと見なされる。
【0155】
VI. 参照文献
以下の参照文献は、本明細書において記載されたものを補足する例示的な手順またはその他の詳細を提供するという点で、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。