【実施例】
【0026】
実施例1. 環状GMP-AMPは、サイトゾルDNAによる先天性免疫シグナル伝達における内因性二次メッセンジャーである
外来遺伝要素に対する宿主防衛は、生きている生物の最も基本的な機能の1つである。細胞質における自己DNAまたは外来DNAの存在は、危険シグナルまたは外来からの侵入の兆候として真核生物により感知される(1)。DNAは、細菌もしくはウイルス感染、トランスフェクション、または狼瘡のような自己免疫疾患を引き起こすある病的な状態にある核もしくはミトコンドリアからの「漏出」により、細胞質へ導入されうる。哺乳動物細胞では、サイトゾルDNAは、小胞体タンパク質STING (MITA、MPYS、またはERISとしても知られる)を通じて、I型インターフェロン(IFN)および他のサイトカインの産生を誘発する(2)。STINGは、転写因子NF-κBおよびIRF3をそれぞれ活性化するサイトゾルキナーゼIKKおよびTBK1を動員しかつ活性化する。NF-κBおよびIRF3はその後、核に入り、ともに機能して、IFNおよび他のサイトカインを誘導する。DNA依存性RNAポリメラーゼIIIは、ポリ[dA:dT]のようなATに富むDNAを検出し、該DNAをRIG-I経路を刺激してIFNを誘導できるRNAリガンドへと転写するセンサーであることが示されている(3, 4)。しかしながら、大部分のDNA配列は、RNAポリメラーゼIII−RIG-I経路を活性化しない。代わりに、サイトゾルDNAがSTING依存性経路を配列依存的に活性化する。サイトゾルDNAがSTING経路をいかにして活性化するかは、依然として把握されていない。
【0027】
本発明者らは、DNAが推定上のサイトゾルDNAセンサーに結合して、それを活性化し、これが今度は、STINGを直接的または間接的に活性化し、IRF3およびNF-κBの活性化につながるという仮説を立てた。このモデルについて試験するため、本発明者らは、STING依存的にインターフェロン-β(IFNβ)を誘導することが知られているマウス線維肉腫細胞株L929を用いてインビトロ相補性アッセイ法を開発した(5)。本発明者らは、DNAトランスフェクションが、推定上のDNAセンサーを含む、STING上流の因子のみを活性化させるように、STINGに対する短ヘアピン(sh)RNAを安定的に発現するL929細胞株を用いた。L929-shSTING細胞にさまざまなタイプのDNAをトランスフェクションし、その後、これらの細胞由来の細胞質抽出物を、ペルフリンゴリシンO (PFO)で透過処理されたヒト単球系細胞株THP1またはマウスマクロファージ細胞株Raw264.7と混合した。PFO処理は原形質膜に穴を開け(6)、細胞内部の小胞体(これはSTINGを含む)およびゴルジ装置を含む細胞小器官を保持しながらも、細胞質を細胞の内外に拡散させる(7)。STINGの上流活性化因子がDNAトランスフェクション細胞において生成されるなら、そのような活性化因子を含む細胞質は、PFO透過処理細胞においてSTINGを活性化し、IRF3のリン酸化および二量体化を引き起こすものと予想される。
【0028】
インターフェロン刺激性DNA (ISD) として知られるDNA配列、ポリ[dA:dT]、GCに富む50塩基対のdsDNA (G:C50)、ポリ[dI:dC]、またはニシン精巣DNA (HT-DNA)をトランスフェクションしたL929-shSTING細胞由来の細胞質抽出物は、透過処理されたTHP1細胞においてIRF3を活性化し、この活性がDNA配列と無関係であることが示唆された。
【0029】
STING活性化因子がタンパク質であるかどうか判定するため、本発明者らは、細胞質抽出物を95℃でインキュベートして、大部分のタンパク質を変性させ、その後「加熱上清」を透過処理THP1細胞とともにインキュベートした。驚いたことに、ISDまたはHT DNAでトランスフェクションした細胞由来の加熱上清は、IRF3二量体化を引き起こした。この活性は、DNAおよびRNAの両方を分解するベンゾナーゼ、またはプロテイナーゼKによる処理に抵抗性であった。したがって、STING活性化因子はおそらく、タンパク質でも、DNAおよびRNAでもない。
【0030】
DNAがインビトロで耐熱性STING活性化因子の生成を刺激しうるかどうか試験するため、本発明者らは、ATPの存在下においてHT DNAをL929-shSTING細胞質抽出物(S100)とともにインキュベートした。反応混合物を95℃で加熱して、タンパク質を変性させた。注目すべきは、上清と、透過処理されたRaw264.7細胞とのインキュベーションによって、IRF3の二量体化に至ったことである。この活性は、細胞質抽出物へのDNAの添加に依存していた。ポリ[dA:dT]、ポリ[dG:dC] 、およびISDを含む他のDNAも、L929-shSTING細胞質抽出物におけるSTING活性化因子の生成を刺激したが、ポリ[I:C]および一本鎖RNAは活性を有しなかった。類似の結果が透過処理THP1細胞で得られた。透過処理THP1細胞におけるSTINGのノックダウンによって、L929細胞へトランスフェクションされたDNAまたはL929細胞質抽出物に添加されたDNAにより生成された耐熱性因子によるIRF3活性化が消失された。対照実験から、STINGのノックダウンは、HT-DNAトランスフェクションによるTHP1細胞におけるIRF3の活性化ならびにIFNβおよびTNFαの誘導を阻害するが、しかし、RIG-I経路を活性化することが知られているポリ[I:C]トランスフェクションまたはセンダイウイルス感染によるIRF3活性化は、STINGノックダウンによって影響を受けないことが示された。本発明者らはまた、いくつかの細胞株由来の細胞質抽出物を、耐熱性STING活性化因子を産生するその能力について試験した。初代MEF細胞、マウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)、およびL929細胞由来の抽出物とともにHT-DNAをインキュベーションすることで、耐熱性因子が生成され、IRF3を活性化した。HEK293Tではなく、THP1由来のヒト細胞抽出物は、このSTING活性化因子を産生することができた。これらの結果は、HEK293T細胞ではなく、初代MEF、BMDM、L929、およびTHP1細胞が、I型インターフェロンを誘導するSTING依存性でRNAポリメラーゼIII非依存性の経路を保有していたという本発明者らの以前の知見と一致している(3)。
【0031】
本発明者らは次に、STING-Flagアフィニティー精製段階を含むいくつかのクロマトグラフィー段階を用いて、L929細胞抽出物から耐熱性STING活性化因子を精製した。以前の研究から、細菌の分子である環状di-AMPおよび環状di-GMPがSTINGに結合し、I型インターフェロンを誘導することが示されている(8, 9)。しかしながら、ナノ液体クロマトグラフィー質量分析(ナノ-LC-MS)を用いて、本発明者らは、c-di-GMP ([M+H]
+=691)またはc-di-AMP ([M+H]
+=659)に予想されたスペクトルと一致するMSまたはMS/MSスペクトルを検出しなかった。興味深いことに、MSスペクトルの徹底的調査から、675.1 (z=1
+)および338.1 (z=2
+)の質量対電荷比(m/z)を有する2つのイオンが明らかにされ、これらは活性画分には存在していたが、バックグラウンドのスペクトルには存在していなかった。これらのm/z値は、質量分析計(LTQ)の低い質量精度にもかかわらず、c-di-GMPおよびc-di-AMPの平均計算m/z値と同等(675=[691 + 659]/2)であった。この所見から、検出されたイオンがc-di-GMPおよびc-di-AMPのハイブリッド、すなわち、環状GMP-AMP (m/z = 675.107, z=1
+; m/z = 338.057, z=2
+)であることが示唆された。このイオンの衝突誘起解離(CID)断片化(m/z = 338.1, z=2
+)によって、c-GMP-AMP (cGAMP)の生成イオンに予想されたm/z値を有するいくつかの突出したイオンが明らかにされた。重要なことには、選択反応モニタリング(SRM)を用いた定量的質量分析によって、C18カラムからの画分中のcGAMPに相当するイオンの存在量が、該画分のIRF3刺激活性と非常によく相関することが示された。cGAMPは、近年、細菌コレラ菌(Vibro cholera)において同定されており、細菌走化性およびコロニー形成に関与することが示されている(10)。しかしながら、cGAMPが真核細胞において存在または機能することは報じられていない。
【0032】
耐熱性STING活性化因子の正体を確かめるため、本発明者らは、高分解能・高精度質量分析(Q Exactive, Thermo)を用いて、ナノ-LC-MS分析を行った。細胞由来のSTING活性化因子は、675.107 (z=1
+)および338.057 (z=2
+)のm/zを有し、これらはcGAMPの理論値と正確に適合していた。cGAMPの構造および機能をさらに特徴付けるため、本発明者らは、10段階単フラスコ・プロトコルを開発して、cGAMPを化学的に合成した。細胞由来のSTING活性化因子のMS/MSスペクトルは、化学的に合成されたcGAMPのものと同一であった。これらの結果から、L929細胞はcGAMPを産生したことが実証される。
【0033】
定量的RT-PCRおよびELISAアッセイ法により、化学的に合成されたcGAMPが細胞への導入後にL929細胞においてIFNβのRNAおよびタンパク質を誘導することが示された。滴定実験から、cGAMPが10 nMほどの低い濃度でさえも確実にIFNβのRNAを誘導することが示された。実際に、cGAMPは、ELISAアッセイ法に基づくIFNβの誘導においてc-di-GMPよりもはるかに強力であった。cGAMPはまた、IRF3の活性化においてc-di-GMPおよびc-di-AMPよりも強力であった。L929抽出物が、IRF3を活性化できる他のタイプのジヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを合成しうる酵素を含んでいたかどうか判定するため、本発明者らは、全4種のリボヌクレオチドをさまざまな組み合わせで試験した。ATPおよびGTPは、IRF3の活性化因子の合成を支持するのに必要かつ十分であり、L929が、ATPおよびGTPからcGAMPを合成する酵素を含有することをさらに支持していた。
【0034】
DNAウイルス感染が細胞におけるcGAMPの産生をもたらすかどうか判定するため、本発明者らは、感染細胞におけるインターフェロンの産生に拮抗することが知られているウイルスタンパク質であるICP34.5を欠いているHSV-1を、L929細胞に感染させた(11)。DNAトランスフェクションのように、HSV-1ΔICP34.5感染は、L929細胞におけるIRF3の活性化をもたらした。DNAトランスフェクション細胞またはウイルス感染細胞に由来する細胞抽出物は、透過処理したRaw264.7細胞においてIRF3を活性化しうる耐熱性因子を含有していた。対照として、本発明者らは、RIG-I経路を通じて強力なインターフェロン産生を誘発することが知られているRNAウイルスである水疱性口内炎ウイルスの菌株VSV-ΔM51-GFPをL929細胞に感染させた(12, 13)。HSV-1とは対照的に、VSV感染細胞は、同じインビトロアッセイ法において耐熱性IRF3活性化因子を含んでいなかったが、VSV感染はL929細胞においてIRF3の活性化を誘導した。HSV-1感染細胞における耐熱性因子を逆相HPLCによって濃縮し、SRMを用いたナノ-LC-MSによって定量化した。DNAトランスフェクション細胞またはHSV-1感染細胞は、上昇したレベルのcGAMPを産生したが、モック処理細胞またはVSV感染細胞はそうでなかった。速度論的実験から、DNAをL929細胞へトランスフェクションした後、IRF3二量体化およびIFNβ誘導が検出されうる前にcGAMPが産生されたことが示された。DNAウイルスがヒト細胞においてcGAMP産生を誘導しうるかどうか試験するため、本発明者らは、HSV1またはワクシニアウイルス(VACV)をTHP1細胞に感染させた。両方のウイルスが細胞においてIRF3二量体化を誘導した。重要なことには、どちらのウイルスもcGAMPの産生を誘発し、これによってIRF3が活性化された。まとめて、これらの結果から、ヒトおよびマウス細胞におけるDNAトランスフェクションおよびDNAウイルス感染がcGAMPを産生させ、これによってIRF3活性化がもたらされたものと示唆される。
【0035】
cGAMPがSTINGを通じてIRF3を活性化するかどうか判定するため、本発明者らは、3セットの実験を行った。第一に、本発明者らは、STINGを安定的に発現するHEK293T細胞株を樹立し、これらの細胞をcGAMPで刺激し、その後、定量的RT-PCRによってIFNβ誘導を測定した。HEK293T細胞は、おそらくこれらの細胞におけるSTING発現の欠如または非常に低レベルのSTING発現に起因して、cGAMPに応答しなかった。HEK293T細胞におけるSTINGの発現は、cGAMPによる高レベルのIFNβ誘導をもたらした。しかしながら、HEK293T細胞がDNA刺激に応答してcGAMPを産生しないことに一致して、DNAはIFNβを誘導するようにHEK293T/STING細胞を刺激しなかった。対照的に、L929細胞は、cGAMPまたはDNAのいずれかによる刺激に応答してIFNβを誘導した。HSV-1感染は、L929細胞においてIRF3二量体化を誘導したが、しかしHEK293TまたはHEK29T/STING細胞においてはそうでなかったことから、cGAMPの産生は、HSV-1が細胞においてIRF3を活性化するのに重要であることが示唆された。実際に、HEK293TまたはHEK293T/STING細胞由来ではなく、HSV1感染L929由来の抽出物は、透過処理されたRaw264.7細胞においてIRF3の二量体化をもたらすcGAMP活性を含んでいた。これらの結果から、HEK293T細胞におけるSTINGの発現は、cGAMPに応答してIRF3を活性化しかつIFNβを誘導する細胞の能力を導入したが、HEK293T細胞はcGAMPを合成しないため、DNAまたはDNAウイルスに対する応答を導入するには不十分であったことが示唆される。
【0036】
第二に、本発明者らは、cGAMPに対するL929およびL929-shSTINGの応答について試験した。ISDおよびc-di-GMPと同様に、cGAMP誘導性のIRF3二量体化は、STINGに依存していた。対照的に、ポリ[I:C]は依然として、STINGの非存在下においてIRF3二量体化を誘導した。これらの結果から、cGAMPがIRF3を活性化するにはSTINGが必要であることが実証される。
【0037】
最後に、本発明者らは、STINGが直接cGAMPに結合するかどうか調べた。c-di-GMPに結合することが示されている残基139〜379番を含む組み換えSTINGタンパク質(14)を、大腸菌(E. coli)から発現させ、精製し、次いで
32P-cGAMPとともにインキュベートした後に、UV誘導性の架橋を行った。STINGおよび
32P-cGAMPが両方存在した場合に、架橋されたSTING-cGAMP複合体に対応する放射性標識されたバンドが検出された。高濃度のATPまたはGTPは、STING-cGAMP複合体の形成と競合しなかった。対照的に、このバンドの強度は、競合する非放射性cGAMP、c-di-GMP、またはc-di-AMPの濃度が増加すると減少したことから、STING上のcGAMP結合部位が、c-di-GMPおよびc-di-AMPと相互作用する部位と重複することが示唆された。実際に、S161Y、Y240S、およびN242Aを含む、STINGのc-di-GMPへの結合に関与することが最近になって明らかにされたいくつかの残基の変異(14)により、STINGのcGAMPへの結合も損なわれた。まとめると、これらの結果から、cGAMPが、STINGに結合しかつSTINGを活性化するリガンドであることが実証される。
【0038】
環状ジヌクレオチドは、細菌運動性およびバイオフィルム形成を含む、種々の生理学的過程を調節する細菌の二次メッセンジャーとして機能することが示されている(15)。最近の報告から、c-di-GMPが原生動物のタマホコリカビ(Dictyostelium)において産生され、形態形成因子として機能し柄細胞分化を誘導することが示された(16)。本実施例において、本発明者らは、後生動物における最初の環状ジヌクレオチドとしてcGAMPを同定した。さらに、本発明者らは、cGAMPがI型インターフェロンの強力な誘導因子であることを示した。cGAMPの役割は、最もよく研究されている二次メッセンジャーcAMPの役割と類似している(17)。上流のリガンドでの活性化によってアデニル酸シクラーゼにより合成されるcAMPと同様に、cGAMPは、DNAリガンドによる刺激に応答してシクラーゼにより合成される(18)。cAMPは、タンパク質キナーゼAおよび他のエフェクタ分子に結合し、かつそれらを活性化する。同様にcGAMPは、STINGに結合し、かつSTINGを活性化して、下流のシグナル伝達カスケードを誘発する。哺乳動物細胞における内因性分子として、cGAMPは免疫療法においてまたはワクチンアジュバントとして用いられうる。
【0039】
参考文献および注記
【0040】
実施例2. 環状GMP-AMPシンターゼは、I型インターフェロン経路を活性化するサイトゾルDNAセンサーである
DNAは、遺伝物質であることが示されるよりずっと以前に、免疫応答を刺激することが知られていたが、DNAが免疫刺激剤として機能する機構は、よく理解されていないままである(1)。DNAは、エンドソーム中のToll様受容体9 (TLR9)への結合を通じて樹状細胞におけるI型インターフェロンの産生を刺激しうるが、サイトゾル中のDNAがIFNをいかにして誘導するかは、不明なままである。特に、インターフェロン経路におけるサイトゾルDNAを検出するセンサーは、依然として把握されていない(2)。DAI、RNAポリメラーゼIII、IFI16、DDX41およびいくつかの他のDNAヘリカーゼを含む、いくつかのタンパク質は、IFNを誘導する潜在的なDNAセンサーとして機能することが示唆されているが、どれも広く受け入れられていない(3)。
【0041】
環状GMP-AMPシンターゼ(cGAS)の精製および同定
本発明者らは、哺乳動物細胞またはサイトゾル抽出物へのDNAの送達が環状GMP-AMP (cGAMP)の産生を誘発し、環状GMP-AMPがSTINGに結合し、かつSTINGを活性化し、IRF3の活性化およびIFNβの誘導をもたらすことを示した(4)。cGAMPシンターゼ(cGAS)を同定するため、本発明者らは、cGAMP合成活性を含むマウス線維肉腫細胞株L929からサイトゾル抽出物(S100)を分画した。この活性は、ニシン精巣DNA (HT-DNA)の存在下においてATPおよびGTPとともにカラム画分をインキュベートすることによってアッセイされた。DNAをベンゾナーゼで消化し、95℃で加熱してタンパク質を変性させた後に、cGAMPを含有していた耐熱性上清を、ペルフリンゴリシンO (PFO)で透過処理したRaw264.7細胞(形質転換されたマウスマクロファージ)とともにインキュベートした。これらの細胞におけるcGAMP誘導性のIRF3二量体化は、ネイティブゲル電気泳動によって分析された(4)。このアッセイ法を用いて、本発明者らは、それぞれが4段階のクロマトグラフィーからなるが、カラムが異なるかまたは使われたカラムの順序が異なる、独立した3経路の精製を行った。特に、第3の経路には、ビオチン化DNAオリゴ(免疫刺激性DNAまたはISDとして知られる45 bpのDNA)を用いたアフィニティー精製段階を含めた。本発明者らは、これらの経路の分画から8000〜15,000倍の精製および2〜5%の活性回復の範囲を達成したものと推定した。しかしながら、これらの精製経路の各々の最終段階において、画分の銀染色から、cGAS活性で共精製された明瞭なタンパク質バンドは明らかにされず、推定上のcGASタンパク質の存在量はL929サイトゾル抽出物において非常に低い可能性があることが示唆された。
【0042】
本発明者らは定量的な質量分析戦略の開発を行って、各精製経路の最終段階においてcGAS活性で共精製されたタンパク質のリストを同定した。本発明者らは、推定上のcGASタンパク質が全3つの精製経路においてその活性により共精製されるはずであるが、大部分の「夾雑」タンパク質はそうでないものと判断した。かくして、各精製経路の最終段階から、本発明者らは、cGAS活性の大部分を含んでいた画分(ピーク画分) 、および非常に弱い活性を含んでいたかまたは活性を含んでいなかった隣接画分を選んだ。各画分中のタンパク質をSDS-PAGEにより分離し、ナノ液体クロマトグラフィー質量分析(ナノ-LC-MS)により同定した。MaxQuantソフトウェアを用いて無標識定量化によりデータを分析した(5)。注目すべきことに、1つまたは2つの精製経路においてはcGAS活性により多くのタンパク質が共精製されたが、全3つの経路においては3つのタンパク質しか共精製されなかった。3つ全てが推定上の特徴付けられていないタンパク質であった: E330016A19 (アクセッション番号: NP_775562)、デュアルPHドメイン含有タンパク質2を有するArf-GAP (NP_742145)、およびシグナル認識粒子9 kDaタンパク質(NP_036188)。これらのうち、24種超の独特なペプチドがE330016A19において同定され、507アミノ酸のこのタンパク質において41%のカバー率に相当していた。
【0043】
生物情報学的分析から、本発明者らの関心は、オリゴアデニル酸シンターゼ(OAS1)の触媒ドメインに対して構造的相同性および配列相同性を示すE330016A19に向けられたした。特に、E330016A19は保存されたG[G/S]x
9〜13[E/D]h[E/D]hモチーフを含み、ここでx
9〜13は、任意のアミノ酸からなる9〜13個の隣接残基を示し、hは疎水性アミノ酸を示す。このモチーフは、ヌクレオチジルトランスフェラーゼ(NTase)ファミリーにおいて見出される(6)。OAS1の他に、このファミリーはアデニル酸シクラーゼ、ポリ[A]ポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼを含む。E330016A19のC末端は、Male Abnormal 21(Mab21)ドメインを含み、これは線虫(C. elegans)タンパク質Mab21において最初に同定された(7)。配列アライメントによって、C末端NTaseおよびMab21ドメインは、ゼブラフィッシュからヒトまで高度に保存されているが、N末端配列はそれほど保存されていないことが明らかにされた(8)。興味深いことに、E330016A19のヒト相同体C6orf150 (MB21D1としても知られる)は近年、ウイルス複製を過剰発現によって阻害したインターフェロン刺激遺伝子(ISG)のスクリーニングにおいていくつかの陽性ヒットの1つとして同定された(9)。明確にするためにおよびこの論文において提示される証拠に基づき、本発明者らは、マウスタンパク質E330016A19をm-cGASと、およびヒト相同体C6orf150をh-cGASと命名するように提案する。定量的RT-PCRによって、m-cGASの発現が不死化MEF細胞では低いが、L929、Raw264.7、および骨髄由来マクロファージ(BMDM)では高いことが示された。同様に、h-cGAS RNAの発現はHEK293T細胞では非常に低かったが、ヒト単球系細胞株THP1では高かった。免疫ブロッティングによって、h-cGASタンパク質はTHP1において発現されるが、HEK293T細胞においては発現されないことがさらに確認された。このように、さまざまな細胞株におけるm-cGASおよびh-cGASの発現レベルは、これらの細胞がサイトゾルDNAに応答してcGAMPを産生し、かつIFNβを誘導する能力と関連していた(4, 10)。
【0044】
cGASによる触媒作用はI型インターフェロンの産生を誘発する
STING発現を欠くHEK293Tにおけるm-cGASの過剰発現では、IFNβは誘導されなかったが、HEK293T細胞におけるSTINGの安定発現によって、これらの細胞はm-cGASによるIFNβの誘導において高度にコンピテントとなった。重要なことには、推定上の触媒残基G198およびS199のアラニンへの点突然変異によって、m-cGASがIFNβを誘導する能力が消失した。これらの変異、ならびに他の推定上の触媒残基E211およびD213のアラニンへの変異によっても、m-cGASがHEK293T-STING細胞においてIRF3の二量体化を誘導する能力が消失した。c-GASによるIFNβ誘導の大きさは、MAVS (RNAセンサーRIG-Iの下流で機能するアダプタータンパク質)によって誘導されるものに匹敵し、DAI、IFI16、およびDDX41を含む、他の推定上のDNAセンサーによって誘導されるものよりも数桁高かった。cGASおよび他の推定上のDNAセンサーの過剰発現が細胞におけるcGAMPの産生をもたらしたかどうか判定するため、加熱処理した細胞抽出物由来の上清を、PFO透過処理したRaw264.7細胞とともにインキュベートし、その後にIRF3二量体化の測定を行った。HEK293T-STING細胞において発現された全てのタンパク質のなかで、cGASだけが細胞においてcGAMP活性を生成することができた。
【0045】
cGASがインビトロでcGAMPを合成しうるかどうか試験するため、本発明者らは、トランスフェクションしたHEK293T細胞から野生型(WT)および変異体Flag-cGASタンパク質を精製した。触媒的に不活性なcGAS変異体ではなく、WT m-cGASおよびh-cGASは、cGAMP活性を生成することが可能であり、これが透過処理したRaw264.7細胞におけるIRF3の二量体化を刺激した。重要なことには、m-cGASおよびh-cGASの両方のインビトロでの活性は、HT-DNAの存在に依っていた。DNAが細胞におけるcGASによるIFNβの誘導を増強するかどうか試験するため、さまざまな量のcGAS発現プラスミドをHT-DNA有りまたは無しで、HEK293T-STING細胞へトランスフェクションした。HT-DNAは、高用量(200 ng)ではなく低用量(10および50 ng)のcGASプラスミドによってIFNβの誘導を顕著に増強した。cGASとは対照的に、IFI16およびDDX41は、HT-DNAが同時にトランスフェクションされた場合でさえもIFNβを誘導しなかった。
【0046】
cGASはDNAトランスフェクションおよびDNAウイルス感染によるIFNβの誘導に必要とされる
本発明者らは、異なる2組のsiRNAを用いて、L929細胞においてm-cGASをノックダウンし、両方のsiRNAオリゴがHT-DNAによるIFNβの誘導を顕著に阻害したこと、および阻害度がm-cGAS RNAのノックダウンの効率と相関していたことを見出した。本発明者らはまた、異なるm-cGAS領域を標的化するshRNA配列を安定的に発現する2つのL929細胞株を樹立した。これらの細胞がHT-DNAに応答してIFNβを誘導する能力は、対照shRNA (GFP)を発現している別の細胞株と比べて大幅に損なわれていた。重要なことに、L929-sh-cGAS細胞においてcGASを発現させることによって、IFNβの誘導が回復した。また、L929-sh-cGAS細胞においてSTINGもしくはMAVSを発現させることにより、またはこれらの細胞へcGAMPを送達することにより、IFNβが誘導された。対照的に、cGASの発現またはcGAMPの送達は、L929-shSTING細胞においてIFNβを誘導できなかったが、STINGまたはMAVSの発現はこれらの細胞におけるIFNβの誘導を回復した。定量的RT-PCR分析から、対応するshRNAを安定的に発現するL929細胞株においてcGASおよびSTINGをノックダウンすることの特異性および効率性が確認された。これらの結果から、cGASがSTINGの上流で機能し、サイトゾルDNAによるIFNβの誘導に必要とされることが示唆される。
【0047】
単純ヘルペスウイルス1 (HSV-1)は、STINGおよびIRF3の活性化を通じてIFNを誘導することが知られているDNAウイルスである(3)。重要なことには、L929細胞において、GFPではなくm-cGASに対するshRNAが、HSV-1感染によって誘導されるIRF3の二量体化を強力に阻害した。対照的に、cGASのノックダウンは、センダイウイルス、つまりRNAウイルスによるIRF3の活性化に影響を与えなかった。cGASが細胞におけるcGAMPの生成に必要とされるかどうか判定するため、本発明者らは、HT-DNAをL929-shGFPおよびL929-sh-cGASにトランスフェクションするか、またはこれらの細胞にHSV-1を感染させ、その後、cGAMPを含む耐熱性画分を調製し、これをその後、透過処理したRaw264.7細胞へ送達して、IRF3の活性化を測定した。cGASのノックダウンは、DNAトランスフェクションまたはHSV-1感染がもたらすcGAMP活性を大幅に消失させた。選択反応モニタリング(SRM)を用いた定量的質量分析から、DNAトランスフェクションまたはHSV-1感染により誘導されたcGAMPの存在量は、cGASが枯渇したL929細胞では著しく低減されることが示された。まとめると、これらの結果から、cGASがDNAトランスフェクションまたはHSV-1感染に応答したcGAMPの産生およびIRF3の活性化に不可欠であることが実証される。
【0048】
cGASがヒト細胞におけるDNA感知経路において重要であるかどうか判定するため、本発明者らは、h-cGASを標的化するshRNAを安定的に発現するTHP1細胞株を樹立した。HT-DNAトランスフェクションによるか、またはワクシニアウイルス、つまりセンダイウイルスではなく、別のDNAウイルスによるIFNβの誘導が、h-cGASのノックダウンにより強力に阻害された。h-cGASのノックダウンも、THP1細胞においてHSV-1感染により誘導されるIRF3の二量体化を阻害した。この結果は、h-cGASの異なる領域を標的化するshRNAを発現する別のTHP1細胞株においてさらに確認された。マウスおよびヒトの両方の細胞株における、DNA誘導性のIRF3の活性化およびIFNβの誘導を阻害する際の、複数のcGAS shRNA配列の強力かつ特異的な効果から、STING依存性のDNA感知経路におけるcGASの重要な役割が実証される。
【0049】
組み換えcGASタンパク質は、DNA依存的にATPおよびGTPからのcGAMPの合成を触媒する
cGASがcGAMP合成を触媒するのに十分であるかどうか試験するため、本発明者らは、HEK293T細胞においてFlagタグ付のh-cGASを発現させ、見掛け上均質になるまでそれを精製した。HT-DNAの存在下で、精製したc-GASタンパク質はcGAMP活性の産生を触媒し、それによって、透過処理したRaw264.7細胞におけるIRF3の二量体化を刺激した。DNase-I処理によってこの活性は消失した。cGAS活性は、RNAポリ(I:C)ではなく、ポリ(dA:dT)、ポリ(dG:dC) 、およびISDを含む他のDNAによっても刺激された。cGASによるcGAMPの合成には、CTPまたはUTPではなく、ATPおよびGTPの両方が必要とされた。これらの結果から、精製cGASタンパク質のシクラーゼ活性が、RNAではなく、DNAにより刺激されたことが示唆される。
【0050】
本発明者らはまた、SUMO融合タンパク質として大腸菌中でm-cGASを発現させた。精製後、Sumo-m-cGASはDNA依存的にcGAMP活性をもたらした。しかしながら、SUMOタグをSumoプロテアーゼによって除去した後に、m-cGASタンパク質はDNA非依存的にcGAMP合成を触媒した。このDNA依存性の喪失の理由は不明であるが、Sumo除去後のいくらかの立体構造変化によるものでありうる。滴定実験から、1 nM未満の組み換えcGASタンパク質によって検出可能なIRF3二量体化がもたらされるのに対し、触媒的に不活性なcGAS変異体は高濃度においてさえもIRF3を活性化できないことが示された。cGASがcGAMPの合成を触媒することを正式に証明するため、SRMを用いたナノ-LC-MSによって反応産物を分析した。精製したcGAS、ATP、およびGTPを含有する60分の反応物において、cGAMPが検出された。衝突誘起解離(CID)を用いたイオン断片化によって、cGAMPの同一性がさらに確認された。精製cGASにより合成されたcGAMPの断片化パターンから、m/z値が、化学的に合成されたcGAMPのものと適合した生成イオンが明らかにされた。まとめると、これらの結果から、精製cGASがATPおよびGTPからのcGAMPの合成を触媒することが実証される。
【0051】
cGASはDNAに結合する
DNAによるcGAS活性の刺激から、c-GASがDNAセンサーであることが示唆される。実際に、GST-RIG-I N末端[RIG-I(N)]ではなく、GST-m-cGASおよびGST-h-cGASの両方がビオチン化ISDによって沈降された。対照的に、ビオチン化RNAはcGASに結合しなかった。欠失分析から、C末端断片の残基213〜522番ではなく、残基1〜212番を含むh-cGAS N末端断片が、ISDに結合することが示された。残基161〜522番を含むさらに長いC末端断片がISDに結合したことから、配列161〜212番がDNA結合にとって重要である可能性が示唆される。しかしながら、h-cGAS由来の残基161〜212番の欠失では、ISD結合があまり損なわれなかったことから、cGASがN末端の位置に別のDNA結合ドメインを含むことが示唆された。実際に、残基1〜160番を含むN末端断片もISDに結合した。このように、cGASはN末端の位置に2つの別々のDNA結合ドメインを含みうる。それにもかかわらず、残基1〜212番を含むh-cGASのN末端は、DNAを結合するのに必要かつ十分の両方であることが明らかである。
【0052】
h-cGASのさまざまな欠失変異体をHEK293T-STING細胞において過剰発現させて、IRF3を活性化し、かつIFNβおよびサイトカイン腫瘍壊死因子α(TNFα)を誘導するその能力について判定した。Mab21ドメインの多くを含むC末端の140残基を欠くタンパク質断片の残基1〜382番は、IFNβもしくはTNFαを誘導することも、またIRF3を活性化することもできなかったことから、インタクトなMab21ドメインがcGASの機能には重要であることが示唆された。予想通り、NTaseドメインの部分を含む、N末端の212残基の欠失(断片の残基213〜522番)によって、cGAS活性化が消失した。触媒残基に先行するNTase折り畳みの第1ヘリックス内のわずか4個のアミノ酸の内部欠失(KLKL, Δ171〜174)によっても、cGAS活性は損なわれた。興味深いことに、N末端の160残基の欠失は、cGASによるIRF3活性化またはサイトカイン誘導に影響を与えなかった。インビトロアッセイ法により、このタンパク質断片(161〜522)が依然として、DNA依存的にIRF3経路を活性化させることが示された。したがって、一次配列が進化的に高度に保存されていないh-cGASのN末端の160アミノ酸は、DNA結合およびcGASによる触媒作用に主として不必要であるように思われる。対照的に、NTaseおよびMab21ドメインはcGAS活性にとって重要である。
【0053】
cGASは主にサイトゾル中に局在している
cGASがサイトゾルDNAセンサーであるかどうか判定するため、本発明者らは、THP1細胞からサイトゾルおよび核の抽出物を調製し、免疫ブロッティングにより内因性h-cGASの局在について分析した。h-cGASはサイトゾル抽出物において検出されたが、核抽出物においてはほとんど検出できなかった。THP1抽出物を分画遠心法にさらに供して、細胞内小器官を互いにおよびサイトゾルから分離した。ほぼ同じ量のh-cGASがS100およびP100 (100,000×gの遠心分離後のペレット)において検出され、このタンパク質が細胞質中で可溶性であるものの、かなりの割合のタンパク質が軽小胞(light vesicle)または細胞小器官と結び付いていることが示唆された。ミトコンドリアおよびERを含有することが、それぞれVDACおよびSTINGの存在から裏付けられたP5においては、cGASタンパク質は検出されなかった。cGASはまた、主にERおよび重小胞(heavy vesicle)を含有していたP20おいて検出できなかった。
【0054】
本発明者らはまた、Flag-m-cGASを安定的に発現するL929細胞を用いて、共焦点免疫蛍光顕微鏡によりcGASの局在について調べた。cGASタンパク質は細胞質の全体に分布していたが、核または核周辺の領域においても観察することができた。興味深いことには、細胞に2または4時間、Cy3標識ISDをトランスフェクションした後に、点状の形態のcGASが観察され、それらはDNA蛍光と重なった。cGASおよびCy3-ISDのそのような共局在化および見掛け上の凝集が、観察下の細胞の50%超において観察された。これらの結果は、cGASがDNAと直接的に結合することの生化学的証拠と合わせて、cGASが細胞質中のDNAに結合することを示唆する。
【0055】
考察
本実施例において、本発明者らは、定量的質量分析を従来のタンパク質精製と組み合わせて、未精製の細胞抽出物から部分的に精製された生物学的に活性なタンパク質を同定するという戦略を開発した。この戦略は一般に、非常に存在量が少ないか、活性が不安定であるか、または出発材料が不十分であることに起因して、均質になるまで精製することが難しいタンパク質に適用可能である。原理の証明として、本発明者らはこの戦略を用いて、マウスタンパク質E330016A19を、cGAMPを合成する酵素として同定した。この発見は、魚類からヒトまで保存されている大きなcGASファミリーの同定につながり、細菌、古細菌、および原生動物でしか以前に見出されていなかった、環状ジヌクレオチドを合成する進化的に保存された酵素を、脊椎動物が含むということを正式に実証した(11〜13)。コレラ菌は、NTaseドメインを含むが哺乳動物cGASに対する有意な一次配列相同性を欠くコレラ菌のシクラーゼDncV (VC0179)を通じて、cGAMPを合成することができる(12)。
【0056】
本発明者らの結果は、cGASが、I型インターフェロン経路を誘発するサイトゾルDNAセンサーであることを実証するだけでなく、cGASが二次メッセンジャーcGAMPを生成し、これがSTINGに結合し、かつSTINGを活性化し(4)、それによってI型インターフェロンの産生を誘発する免疫シグナル伝達の新規の機構も明らかにする。サイトゾルDNAセンサーとしてのcGASの導入により、宿主免疫系によって検出される微生物のレパートリーが大いに広げられる。原理上は、DNAウイルス、細菌、寄生虫(例えば、マラリア)、およびレトロウイルス(例えば、HIV)のような、宿主細胞質へDNAを運搬できる全ての微生物が、cGAS-STING経路を誘発することができるであろう(14, 15)。cGASによるcGAMPの酵素合成は、強固かつ感受性の免疫応答のためのシグナル増幅の機構を提供する。しかしながら、cGASによる宿主細胞質中の自己DNAの検出はまた、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、およびアイカルディグチエール症候群のような、自己免疫疾患につながりうる(16〜18)。
【0057】
DAI、IFI16、およびDDX41のようないくつかの他のDNAセンサーは、I型インターフェロンを誘導することが報告されている(19〜21)。DAI、IFI16、またはDDX41の過剰発現は、cGAMPの産生につながらなかった。本発明者らはまた、siRNAによるDDX41およびp204 (IFI16のマウス相同体)のノックダウンが、HT-DNAトランスフェクションL929細胞におけるcGAMP活性の生成を阻害しないことを見出した。他の推定上のDNAセンサーおよび大部分のパターン認識受容体(例えば、TLR)とは異なり、cGASは、ヒト自己免疫疾患の処置のための治療剤となる小分子化合物による阻害の影響を受けやすいシクラーゼである。
【0058】
参考文献および注記
22.ヒトおよびマウスのcGAS配列に関するGenBankアクセッション番号は、KC294566およびKC294567である。
【0059】
実施例3. 混合ホスホジエステル結合を含む環状GMP-AMPは、STINGのための内因性の高親和性リガンドである
微生物感染の先天性免疫感知は、Toll様受容体(TLR)のような膜タンパク質ならびにNOD様受容体(NLR)およびRIG-I様受容体(RLR)のようなサイトゾルタンパク質を含む生殖細胞系にコードされたパターン認識受容体によって媒介される(Iwasaki and Medzhitov, 2010; Ronald and Beutler, 2010; Takeuchi and Akira, 2010)。実質的に全ての感染性微生物が、その生活環において核酸を含み、かつ必要とするため、先天性免疫系は宿主防衛の中心戦略として微生物のDNAおよびRNAを認識するように進化した。具体的には、いくつかのTLRがエンドソーム内腔中のRNAまたはDNAを検出するためにエンドソーム膜上に局在するのに対して、RLRは、細胞質中のウイルスおよび細菌のRNAの検出に関与している。
【0060】
DNAは、1世紀以上前から免疫刺激分子であることが知られているが、DNAが宿主免疫系をいかにして活性化するかは、最近まで十分には調べられていなかった(O'Neill, 2013)。エンドソーム中のDNAはTLR9により検出され、これは次いで、I型インターフェロンおよび炎症性サイトカインの産生を誘発する。微生物DNAまたは宿主DNAが細胞質へ送達されると、それはまた、小胞体膜タンパク質STING (MITA、ERIS、またはMPYSとしても知られる)を通じてI型インターフェロンを誘導しうる(Barber, 2011)。STINGは、タンパク質キナーゼIKKおよびTBK1を動員しかつ活性化するアダプタータンパク質として機能し、それが今度は、転写因子NF-κBおよびIRF3を活性化して、インターフェロンおよび他のサイトカインを誘導する。
【0061】
本発明者らは最近になって、STINGを活性化するDNAセンサーとして環状GMP-AMPシンターゼ(cGAS)を同定した(Sun et al., 2013; Wu et al., 2013)。具体的には、本発明者らは、cGASがDNAの存在下でATPおよびGTPからの環状GMP-AMP (cGAMP)の合成を触媒することを見出した。cGAMPが次いで、STINGに結合しかつSTINGを活性化する二次メッセンジャーとして機能する。これらの研究から、cGAMPが、哺乳動物細胞においてcGASにより産生される内因性の二次メッセンジャーであることが明らかに実証される一方、cGAMP中のGMPとAMPとの間の内部ホスホジエステル結合の正確な性質は、一つには、cGAMP異性体の全てを標準参照として利用することなく、質量分析のみではこれらの結合を明確には識別できなかったため、決定されなかった。同種の3'-5'結合を含む化学的に合成されたcGAMPは、IFMβを誘導することができるが、他のホスホジエステル結合を含むcGAMPも、STING経路を活性化しうるという可能性が残された。
【0062】
本研究において、本発明者らは、化学的および生物物理学的技法の組み合わせを通じてcGAMPの構造をさらに調べた。本発明者らは、cGASにより産生されたcGAMPがGMPの2'-OHとAMPの5'-リン酸との間にホスホジエステル結合を、およびAMPの3'-OHとGMPの5'-リン酸との間に別のホスホジエステル結合を含むことを見出した。本発明者らは、本明細書で2'3'-cGAMPと称するこの分子が、細胞質中のDNAに応答して哺乳動物細胞中で産生されることをさらに見出した。さらに、本発明者らは、2'3'-cGAMPが高い親和性でSTINGに結合し、かつインターフェロン-β (IFNβ)の強力な誘導因子であることを実証した。本発明者らはまた、cGAS生成物に結合したSTINGの結晶構造を解析し、それらの特異的かつ高親和性結合の構造的基礎となる2'3'-cGAMPとSTINGとの間の広範な相互作用を認めた。重要なことには、STING-cGAMP複合体の構造から、この天然リガンドが、その活性の基礎をなすSTINGの立体構造の再編成を誘導することが明らかにされた。
【0063】
cGASの生成物は、混合ホスホジエステル結合を含む環状GMP-AMPである
ヌクレオチド間の2'-5'および3'-5'の両方のホスホジエステル結合は、天然に存在することが知られているが、2'-5'結合はあまり多く見られない。cGASにより産生された天然cGAMPの内部ホスホジエステル結合は、まだ決定されていない。本発明者らはそれゆえ、全4つの可能なホスホジエステル結合を含むcGAMP分子を化学的に合成した(表S1)。公表されている方法を改変した手順を用いて、cGAMPアイソフォームの化学合成を行った(Gaffney et al., 2010; Zhang et al., 2006)。簡単にするために、本発明者らは、ホスホジエステル結合を形成するGMPのOH位置とそれに続くAMPのOH位置にしたがって、これらのcGAMP分子を命名する; 例えば、2'3'-cGAMPは、GMPの2'-OHとAMPの5'-リン酸との間にホスホジエステル結合を、およびAMPの3'-OHとGMPの5'-リン酸との間に別のホスホジエステル結合を含む。本発明者らはまた、精製cGASタンパク質を用いて、DNAの存在下でATPおよびGTPから天然cGAMPを酵素的に合成した(Sun et al., 2013)。精製されたcGAS生成物および合成cGAMP異性体を、核磁気共鳴(NMR)分光学によって分析した。際立っていたのは、cGAS生成物の
1H NMRスペクトルが、合成2'3'-cGAMPのものとは同一であったが、他のcGAMP異性体のものとは異なっていたことである。特に、アノマープロトン(H1')は、3'-リン酸による一重線および2'-リン酸による二重線であった。一貫して、2',3'-cGAMPのリン酸だけが、天然cGAMPのものと同じ
31P NMR化学シフトを有していた。本発明者らはまた、高い分解能および質量精度を有する機器Q-Exactiveを用いて、天然cGAMPおよび合成cGAMPの質量分析を行った。これらの一価分子([M+H]
+)の各々の全質量は675.107であり、cGAMPの理論的質量と厳密に一致していた。高エネルギー衝突解離(HCD)を用いて断片化されたcGAS生成物のタンデム質量(MS/MS)スペクトルは、合成2'3'-cGAMPのものと同一であり、2'2'-cGAMPおよび3'3'-cGAMPのものとほぼ同じであったが、同一ではなかった。3'2'-cGAMPのMS/MSスペクトルは、2'3'-cGAMPおよびcGAS生成物のものと最も異なるように思われた。逆相HPLC分析により、天然cGAMPが2'3'-cGAMPと同時に溶出するが、他のcGAMP分子とは同時に溶出されないことが示された。本発明者らはまた、円偏光二色性(CD)によりcGAS生成物の立体配置を判定し、それがD-リボースに由来することを確認した。天然cGAMPのCDスペクトルは、2'3'-cGAMPのものとよく重なった。近紫外線(UV) CDスペクトルから、4種のcGAMPが有意に異なる高次構造をとり、2'3'および2'2'-cGAMPが、3'2'-および3'3'-cGAMPのものとは異なるCDバンドパターンを形成することが示唆される。まとめると、これらの結果は、cGASがインビトロにおいて2'3'-cGAMPを合成するという決定的証拠を提供する。
【0064】
DNAトランスフェクション細胞において産生された内因性cGAMPは、混合ホスホジエステル結合を含む
哺乳動物細胞が、混合ホスホジエステル結合を含む内因性cGAMPを産生しうるかどうか試験するため、本発明者らは、マウス細胞株L929およびヒト単球THP1にニシン精巣DNA (HT-DNA)をトランスフェクションし、その後、細胞溶解物を95℃で加熱してタンパク質を変性させ、上清を質量分析による内因性cGAMPの分析のために調製した(Wu et al., 2013)。両細胞株由来の内因性分子のMS/MSスペクトルは、cGAS生成物および2'3'-cGAMPのものと同一であったことから、内因性二次メッセンジャーは2'3'-cGAMPであることが示唆された。
【0065】
2'3'-cGAMPはSTINGの高親和性リガンドである
本発明者らは、等温滴定熱量計実験を行って、天然cGAMPおよび合成cGAMPへのSTINGの結合の親和性(K
d)を測定した。細菌の二次メッセンジャー環状di-GMPへの結合を媒介することが以前に示されたヒトSTINGの残基139〜379番を包含するC末端ドメイン(CTD) (Burdette et al., 2011; Huang et al., 2012; Ouyang et al., 2012; Shang et al., 2012; Shu et al., 2012; Yin et al., 2012)を大腸菌において発現させ、ITC実験のために見掛け上均質になるまで精製した。以前の報告と一致して、本発明者らは、c-di-GMPが1.21 uMのK
dでSTINGに結合することを見出した。興味深いことに、天然cGAMPも合成2'3'-cGAMPもともに、曲線適合が困難であるような高い親和性でSTINGに結合した。さらに、発熱過程であるc-di-GMPの結合とは異なり、STINGへの天然cGAMPおよび2'3'-cGAMPの結合が吸熱性であったことから、そのエネルギーがSTINGの立体構造変化のために用いられうることが示唆された(下記参照)。STINGに対する天然2'3'-cGAMPおよび合成2'3'-cGAMPのK
dを得るため、本発明者らは、さまざまな量のこれらの化合物を競合体として、STING-c-di-GMP複合体へ滴定した。これらの測定により、cGAS生成物に対して4.59 nMおよび2'3'-cGAMPに対して3.79 nMのK
dが得られた。競合実験は、3'2'-cGAMPについても行った。というのは、STINGへのその結合がほとんど熱変化を生じなかったからである。この化合物は1.61 uMのK
dでSTINGに結合する。2'2'-および3'3'-cGAMPをSTINGに対して直接滴定し、K
d値はそれぞれ、287 nMおよび1.04 uMであると算出された。したがって、2'3'-cGAMPのK
dはc-di-GMP、3'2'-cGAMPおよび3'3'-cGAMPのK
dよりもおよそ300倍低く、2'2'-cGAMPのK
dよりもおよそ75倍低かった。
【0066】
cGAMPはI型インターフェロンの強力な誘導因子である
本発明者らは、さまざまな量のcGAMP異性体およびc-di-GMPをL929細胞へ送達し、q-RT-PCRによってIFNβの誘導を測定した。cGAMP分子は、15 nMから42 nMに及ぶEC
50でIFNβを誘導したが、c-di-GMPは500 nM超のEC
50を有していた。したがって、さまざまな環状ジヌクレオチドの結合親和性は、細胞に基づくアッセイ法においてそのEC
50とあまり相関していないように思われた。この理由は明らかではないが、異なる化合物は細胞中で異なる安定性または分布を有する可能性がある。それにもかかわらず、これらの実験は、cGAS生成物2'3'-cGAMPがSTINGに対する高親和性リガンド(K
d: およそ4 nM)および細胞における強力なIFNβ誘導因子(EC
50: およそ20 nM)であるという直接的な証拠を提供する。
【0067】
STING-cGAMP複合体の結晶構造から、リガンド誘導性のSTING立体構造再編成が明らかにされる
本発明者らは、精製cGAS生成物とともにSTING C末端ドメイン(CTD) (残基139〜379番)をC2空間群で同時に結晶化した。この複合体の構造を、探索モデルとしてアポSTING構造(PDBコード: 4F9E)を用いた分子置換によって解析し、1.88Åの分解能にまで精緻化した(表M1)。結晶学的な非対称単位の中に1つのSTINGプロトマーが存在し、これは、結晶学的な二回対称性でつなげられた、別のプロトマーと一緒に蝶形の二量体を形成する。結合したcGAMP分子は二回軸に位置する(詳細は下記を参照のこと)。STINGの秩序だった領域(Asn152からGlu336まで)は、4本のαヘリックスによって囲まれた中央のねじれβシートにより特徴付けられる、アポSTINGと類似の全体構造をとる。しかしながら、cGAMPとの複合体中のSTINGは、単量体の構造および二量体の配置の両方でアポSTINGとはいくつかの著しい違いを示す。アポ二量体と比べて、複合体構造の二量体中の2つのプロトマーは、cGAMP結合部位に対してかなり内側に回転する。このさらに接近した配置によって、2つのプロトマーの間にcGAMPを包囲するさらに深いポケットが作り出される。さらに、cGAMP結合部位は、2つのプロトマーの各々の残基219〜249番によって形成される連結ループおよび四本鎖逆平行βシートの蓋によって覆われる。対照的に、アポ構造中のこのセグメントはほとんどが無秩序である(Ouyang et al., 2012; Yin et al., 2012)。βシートの形成は結晶充填によるものではない。蓋内のドメイン間相互作用は、Tyr245の側鎖とGly234の主鎖カルボニル酸素原子との間の、Ser243の側鎖とLys236の主鎖アミド窒素原子との間の、ならびにAsp237およびLys224の側鎖の間の、いくつかの有極接点の対を伴う。
【0068】
2'3'-cGAMPとSTINGとの間の広範な相互作用は、それらの特異的かつ高親和性結合の基礎となる
結晶学的な二回軸は非対称性の2'3'-cGAMP分子を貫通するので、cGAMPは二回対称性でつなげられた2つの幾何学的配置をとるはずである。これは、STING二量体中の2つのプロトマーが、グアニジン部分またはアデノシン部分のいずれかと相互作用する確率が等しいと予想されるという事実と一致している。本発明者らはそれゆえ、cGAMPおよびいくつかの周囲アミノ酸残基に関して2つの代替的な立体構造を0.5の占有率で割り当てた。精緻化された構造のシミュレーテッドアニーリングオミットマップ(simulated annealing omit map)から、cGAMPに対しての適切な密度が示される。2'3'-cGAMPは、電子密度図によく適合するが、他のアイソフォームはそうでない。STINGに結合したc-di-GMPと比べて、cGAMPは、STING二量体界面間の隙間においておよそ2.5Åさらに深くに位置する。さらに、蝶形の2つの翼は、2つのSTINGプロトマーのさらに接近した配置により、STING:cGAMP構造中で互いにおよそ20Åさらに近くに位置する。cGAMP結合ポケットのさらなる分析から、cGAMPが、広範な極性および疎水性相互作用によって十分に配位されることを示す。cGAMPプリン塩基群の環は、周囲の4つの芳香族残基、すなわち2つのプロトマーの各々に由来するTyr240およびTyr167に積み重なる。特に、cGAMPの2つのαリン酸基は、2つのプロトマーに由来する両方のArg238および1つのプロトマーに由来するArg232と接する。GMPの遊離3'-OHは、ポケットの下方部分由来の2つのSer162残基の方に向いている。グアニン塩基は、Glu260およびThr263の側鎖、ならびにVal239の主鎖カルボニル酸素と直接相互作用する。これらの独特な有極接点は、2'3'-cGAMPがSTINGに対する特異的かつ高親和性リガンドである理由を説明する。加えて、cGAMP結合に関与するβシート由来の残基(Arg232、Arg238、Val239)は、蓋の形成およびSTINGのさらなる活性化を制御する可能性が高い。
【0069】
STINGのアルギニン232はサイトゾルDNAシグナル伝達経路にとって重要である
環状di-GMPが結合したSTINGの結晶構造に関する3つの過去の報告では、Arg232をヒスチジンと置換された希少なヒト変種を用いていた(Ouyang et al., 2012; Shu et al., 2012; Yin et al., 2012)。ヒト集団由来DNAの広範な配列決定により、Arg232対立遺伝子はよく見られるため、野生型STINGと見なされるべきであると示されている(Jin et al., 2011)。STINGのH232変種の使用は、これらの研究においてc-di-GMPがSTINGの有意な立体構造変化を誘導しなかった理由を説明しうる(Ouyang et al., 2012; Shu et al., 2012; Yin et al., 2012)。マウスSTINGのArg231 (ヒトSTINGにおけるArg232に等しい)のアラニンへの変異によって、DNAではなく、環状di-GMPによるIFNβの誘導が消失することが過去の報告によって示された(Burdette et al., 2011)。しかしながら、STING-cGAMP複合体に関する本発明者らの結晶構造に基づけば、Arg232のヒスチジンへの変異は、cGAMPの結合およびSTINGによる下流のシグナル伝達をかなり弱めるものと予想され、Arg232のアラニンへの変異はさらにいっそう有害なはずである。本発明者らはそれゆえ、2組の実験においてSTINGのArg232の機能を調べた。第一に、本発明者らは、L929細胞においてRNAiにより内因性STINGをノックダウンし、それをヒトSTINGのWT、R232A、またはR232Hと置き換えた。これらの安定細胞株にHT-DNAをトランスフェクションし、または安定細胞株を2'3'-cGAMPで処理し、その後q-RT-PCRによってIFNβの測定を行った。WT STINGを発現する細胞は、DNAまたはcGAMP刺激に応答してIFNβを誘導することができたが、R232AまたはR232Hのいずれかを発現するものには欠陥があった。対照として、二本鎖RNA類似体ポリ[I:C]は、これらの細胞株の全てでIFNβの発現を刺激した。第二に、本発明者らは、内因性STINGおよびcGASの検出不能な発現を有するHEK293T細胞においてWTまたは変異体STINGを安定的に発現させた(Sun et al., 2013)。細胞に次いで、ヒトcGAS発現プラスミドをトランスフェクションし、その後にIFNβ RNAの測定を行った。R232A変異体ではなく、WT STINGは、cGASによるIFNβの誘導を支持することができた。R232H変異体は部分的に欠陥があった。これはおそらく、正電荷を持つヒスチジンが、弱くともArg232の機能のいくつかの代わりになりうるからである。RIG-I経路の不可欠なアダプタータンパク質MAVS (Seth et al., 2005)は、これらの細胞株の全てにおいてIFNβを誘導することができた。まとめると、本発明者らの構造的および機能的データから、STINGの機能におけるArg232の重要な役割が強く示唆され、不可欠なサイトゾルDNAセンサーとしてのcGASの役割がさらに強調される。
【0070】
考察
本発明者らの以前の研究から、cGASは、サイトゾルDNAセンサーと同定され、かつ基質としてATPおよびGTPを用いてcGAMPを合成するシクラーゼと同定された(Sun et al., 2013; Wu et al., 2013)。cGAMPはその後、STINGに結合しかつSTINGを活性化する二次メッセンジャーとして機能する。ここで本発明者らは、化学合成およびいくつかの生物物理学的手法を利用して、cGAS生成物の内部ホスホジエステル結合をさらに特徴付け、それが2'3'-cGAMPであることを決定付けた。その後、Gaoらが、cGASの構造をそのアポ結合型およびDNA結合型として報告したが、それによって、cGASが実際に、ATPおよびGTPからのcGAMP合成を触媒するDNA活性化環状GMP-AMPシンターゼであることが確認された(Gao et al., 2013)。このエレガントな研究はまた、DNA結合がcGASの活性化につながる構造機構を解明した。異なる手法を用いて、Gaoらはまた、切断型cGASタンパク質がインビトロにおいて2'3'-cGAMPを合成することを見出した。しかしながら、Gaoらは、2'3'-cGAMPが何らかの生物学的または生化学的活性を有するかどうか試験しなかった。またGaoらは、内因性2'3-cGAMPが哺乳動物細胞において産生されるかどうか示していなかった。本報告において、本発明者らは、DNAによるマウスおよびヒト細胞の刺激が、内因性2'3'-cGAMPの産生につながることを示す。さらに、本発明者らは、2'3'-cGAMPが他のcGAMP異性体およびc-di-GMPよりもはるかに高い親和性でSTINGに結合することを実証する。本発明者らはさらに、2'3'-cGAMPおよび他のcGAMP異性体が、細胞においてIFNβを誘導する際にc-di-GMPよりもはるかに強力であることを示す。
【0071】
2'3'-cGAMPの構造および機能へのさらなる洞察は、この内因性リガンドに結合したSTING CTDの結晶構造から得られる。この結晶構造は1.88Åの分解能を有し、2'-5'および3'-5'の両方のホスホジエステル結合を含むリガンド構造を詳しく見ることを可能にする。この構造によって、2'3'-cGAMPの結合を媒介するSTING上の特定の残基が明らかにされる。さらに、この構造と、過去に公表されたそのアポ型としてのSTING CTD構造との比較から、天然リガンドによって誘導される広範な立体構造再編成が明らかにされる。具体的には、V形STING二量体の2本の腕部が約20Åだけさらに近づき、新しい4つのβ鎖シートがリガンド結合STING構造でのcGAMP結合部位の上部に蓋を形成する。R232H変異を含むSTING変種を用いていた、以前に決定されたSTING:c-di-GMP構造には、これらの特徴は見られない。これらの構造において、c-di-GMPの結合はSTINGの明らかな立体構造再編成を全く誘導しない(Ouyang et al., 2012; Shu et al., 2012; Yin et al., 2012)。しかしながら、WT STING (Arg232)およびc-di-GMPを含む他の2つの構造において、一方は、STING-cGAMP複合体において認められるのと類似の立体構造変化を示し(Huang et al., 2012)、他方は、Arg232の配向が異なるという点で異なる立体構造変化を示す(Shang et al., 2012)。Huangらによって観察された「閉じた」立体構造は、cGAMPより弱いながらも、STINGを活性化できるc-di-GMPによって誘導されるSTINGの活性状態を獲得していた可能性がある。
【0072】
STINGと2'3'-cGAMPとの間の広範な相互作用から、その高親和性結合のための構造的基礎が提供される。特に、Glu260、Thr263、およびVal239は、GMPのグアニン塩基と相互作用し、Ser162はGMPの遊離3'-OH基と相互作用し、GMPの2'-OHとAMPの5'-リン酸との間のホスホジエステル結合を含むcGAMPが、高親和性リガンドである理由を説明している。さらに、2つのα-リン酸基は、一方のプロトマー由来のArg232および両方のプロトマー由来のArg238と相互作用する。この構造分析から、R232AまたはR232H変異が、DNAまたはcGAMPに応答するSTINGの機能を強力に損なうことが説明される。本発明者らのデータは、構造的および機能的研究において野生型(Arg232) STINGを用いることの重要性を強調している。
【0073】
2'3-cGAMPは、他のホスホジエステル結合を含むcGAMP異性体よりもはるかに高い親和性でSTINGに結合するが、全4種のcGAMP異性体は類似のEC
50値でIFNβを誘導し、それはc-di-GMPのEC
50値よりもはるかに低かった。したがって、全てのcGAMP異性体はIFNβの強力な誘導因子である。
【0074】
要約すれば、本発明者らの結果から、1) サイトゾルDNA刺激に応答して哺乳動物細胞において産生される内因性二次メッセンジャーが2'3'-cGAMPであり; 2) 2'3'-cGAMPがSTINGに対する高親和性リガンドであり; 3) 2'3'-cGAMPが哺乳動物細胞における強力なIFNβ誘導因子であり; 4) 2'3'-cGAMPが、STING活性化の基礎をなしうるSTINGの立体構造再編成を誘導し; ならびに5) 複合体の結晶構造において観察された2'3'-cGAMPとSTINGとの間の広範な相互作用が、それらの特異的かつ高親和性結合を説明することが実証される。
【0075】
本発明者らは、2'3'-cGAMPが、哺乳動物細胞により産生される内因性二次メッセンジャーであり; 2'3'-cGAMPがSTINGの高親和性リガンドであり; 2'3'-cGAMPがI型インターフェロンの強力な誘導因子であり; および2'3'-cGAMPの結合がSTINGの立体構造変化を誘導すると結論付ける。
【0076】
アクセッション番号
2'3'-cGAMP結合ヒトSTING CTD構造の座標は、RCSBタンパク質データバンクに寄託されている(PDB: 4KSY)。
【0077】
参考文献
【0078】
(表M1)cGAMP結合STINGのデータ収集の統計学および精緻化
【0079】
括弧内の値は最外郭分解能を表す。R=Σ|F
obs-F
calc|/ΣF
obs、ここでFcalcは原子モデルから計算されたタンパク質構造因子である(Rfreeは、反射の10%を選択して計算された)。
【0080】
(表S1)cGAMPの化学合成。(A) 構成要素S1〜S4の構造。(B) 構成要素S1の合成。(C) 構成要素S3の合成。(D) 2'3'-cGAMPの合成。(E) 2'2'-cGAMPの合成。(F) 3'2'-cGAMPの合成。(G) 3'3'-cGAMPの合成。
【0081】
実施例4. 環状GMP-AMPシンターゼは、HIVおよび他のレトロウイルスの先天性免疫センサーである
HIVを含むレトロウイルスは、先天性免疫応答を活性化しうるが、レトロウイルスに対する宿主センサーは、ほとんど知られていない。ここで本発明者らは、HIV感染が環状GMP-AMP (cGAMP)シンターゼ(cGAS)を活性化してcGAMPを産生し、これがアダプタータンパク質STINGに結合し、かつそれを活性化して、I型インターフェロンおよび他のサイトカインを誘導することを示す。インテグラーゼではないHIVの逆転写酵素の阻害剤が、ウイルスによるインターフェロン-β誘導を抑止したことから、逆転写されたHIV DNAが先天性免疫応答を誘発することが示唆された。マウスまたはヒト細胞株におけるcGASのノックアウトまたはノックダウンは、HIV、マウス白血病ウイルス(MLV) 、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)によるサイトカインの誘導を遮断した。これらの結果から、cGASがレトロウイルスDNAを検出すること、ならびにcGASがHIVおよび他のレトロウイルスの先天性免疫センサーであることが示唆される。
【0082】
多くの微生物病原体の先天性免疫認識に関する本発明者らの理解において大幅な進歩が遂げられてきた(1〜3)が、レトロウイルス感染に対する先天性免疫応答に関しては比較的ほとんど知られていない(4)。レトロウイルスは、典型的には炎症性サイトカインおよびI型インターフェロンの産生を通じて測定される先天性免疫応答を弱く誘発するか、または全く誘発しないと考えられていた。しかしながら、最近の研究によって、HIVのようなレトロウイルスは、先天性免疫応答を誘発しうるが、それは通常、ウイルス因子または宿主因子でマスクされていることが明らかにされている(5〜8)。例えばTREX1は、HIVまたは内因性レトロエレメントに由来するDNAを分解し、それによって、そうでなければ先天性免疫を誘発するはずのサイトゾルDNAの蓄積を防ぐ、サイトゾルエキソヌクレアーゼである(9、10)。ヒトにおけるTREX1の機能喪失型変異は、アイカルディグチエール症候群(AGS)、つまり炎症性サイトカインおよびインターフェロン刺激遺伝子の発現上昇によって特徴付けられる狼瘡様疾患と密接につながっている(11)。
【0083】
本発明者らは最近、I型インターフェロンおよび他のサイトカインの産生を誘発するサイトゾルDNAセンサーとして、酵素である環状GMP-AMP (cGAMP)シンターゼ(cGAS)を同定した(12、13)。DNAはcGASに結合し、cGASを活性化し、それによって、ATPおよびGTPからの独特なcGAMP異性体の合成が触媒される。2'-5'および3'-5'の両方のホスホジエステル結合を含む2'3'-cGAMPと呼ばれるこのcGAMP異性体は、小胞体タンパク質STINGに結合しSTINGを活性化する二次メッセンジャーとして機能する(14〜17)。STINGは次いで、タンパク質キナーゼIKKおよびTBK1を活性化し、それらが今度は、転写因子NF-κBおよびIRF3を活性化して、インターフェロンおよび他のサイトカインを誘導する(18)。cGASのノックダウンは、単純ヘルペスウイルス-1 (HSV-1)およびワクシニアウイルスのようなDNAウイルスによるIFNβの誘導を阻害する(13)。レトロウイルスは逆転写によってウイルスRNAから相補DNAを生成するので、本発明者らは、cGASがレトロウイルスDNAを検出し、先天性免疫応答を誘発しうるという仮説を立てた。
【0084】
本発明者らは、HIV-1ウイルスのエンベロープタンパク質が水疱性口内炎ウイルスの糖タンパク質(VSV-G)に置き換えられており、それによって、ウイルスが多種多様なヒトおよびマウス細胞型に感染することが可能になるシングルラウンドのHIV-1ウイルスを用いた(9)。このウイルスはまた、GFPを発現するので、これを用いてウイルス感染をモニタリングすることができる。HIV-GFPによるヒト単球系細胞株THP1の感染が、IRF3の活性化の顕著な特徴であるIRF3の二量体化につながった。Tyr-701の位置でのSTAT1のリン酸化もHIV感染後に検出されたことから、インターフェロンシグナル伝達経路がウイルス感染細胞において活性化されたことが示唆された(19)。HIV感染は、HIV GagエピソームDNAの生成と同時に、IFNβおよびケモカインCXCL10の誘導をもたらした。IFNβ産生のレベルは、HIVによる感染の多重度に比例していた。HIV-GFPウイルスをDNase Iで処理することにより、IFNβを産生するその能力は損なわれなかったが、ニシン精巣DNA (HT-DNA)をDNase Iで処理することにより、IFNβの産生が阻害されたことから、HIV-GFPによるIFNβの誘導が何らかの混入DNAによるものではないことが示唆された。ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート(PMA)で細胞を処理することによりTHP1を単球からマクロファージに分化させることで、HIV-GFPの感染または複製が阻害され、IFNβの誘導が強力に阻害された。したがって、別段の指示がない限り、本発明者らの研究において用いられたTHP1細胞は、HIV感染の前にPMAで処理されなかった。
【0085】
HIVが先天性免疫応答を活性化するために、逆転写が必要とされるかどうか試験するため、本発明者らは、THP1細胞をHIV逆転写酵素阻害剤である、アジドチミジン(AZT)およびネビラピン(NVP)で処理した。どちらの阻害剤も、HIVによるIRF3活性化およびIFNβ誘導を遮断した。対照的に、HIVインテグラーゼ阻害剤であるラルテグラビル(RAL)は、この経路の活性化に影響を与えなかった。AZTおよびNVPは、高濃度においてさえも、HT-DNAによるIFNβの誘導を阻害しなかったことから、AZTおよびNVPの阻害効果がHIV逆転写のその特異的阻害によるものであることが示唆された。これらの結果から、逆転写されたHIV DNAが、IRF3活性化およびIFNβ産生の誘因であることが示唆される。
【0086】
驚くべきことに、THP1細胞におけるcGASまたはSTINGのshRNA媒介性のノックダウンにより、HIV-GFPによるIFNβおよびCXCL10の誘導ならびにIRF3の活性化が強力に阻害された。対照実験から、ルシフェラーゼに対するshRNAはこの経路の活性化を阻害しなかったこと、およびshRNAベクターが、意図された標的を特異的にノックダウンしたことが示された。特に、cGAS shRNAはcGASをノックダウンしたが、STINGをノックダウンせず、これらの細胞におけるIFNβの誘導が、cGAMPを細胞へ送達することによりレスキューされたことから、cGAS shRNAがSTING経路においてオフターゲット効果を持たないことが示唆された。
【0087】
過去の研究から、VSV-G偽型HIV-1は、TREX1欠損マウス胎児線維芽細胞(MEF)においてIFNβを強力に誘導するが、野生型(WT) MEFにおいてはそうでないことが示されている(9)。本発明者らは、cGAS、STING、または(対照として)ルシフェラーゼに対するshRNAを安定的に発現するTrex1
-/- MEF細胞株を作製した。HIV感染は、対照細胞(sh-ルシフェラーゼ)においてIFNβおよびCXCL10 RNAを誘導したが、cGASまたはSTING枯渇細胞においては誘導しなかった。対照的に、cGASまたはSTINGのノックダウンは、二本鎖RNA類似体ポリ[I:C]によるIFNβまたはCXCL10の誘導に影響を与えなかった。
【0088】
サイトゾルDNAおよびレトロウイルスの先天性感知におけるcGASの役割の決定的証拠を得るため、本発明者らはTALEN技術を利用し、L929細胞において、cGASをコードする遺伝子(Mb21d1)、具体的には触媒ドメインをコードする領域を破壊した(20)。L929細胞は、cGAS遺伝子を含む第9染色体を3コピー含むが、TALEN発現細胞のDNA配列決定により、全3つの染色体において欠失を有していた複数のクローンが同定された; さらなる研究のためにこれらのクローンのうちの3クローンを選んだ。3クローンの全てが、フレームシフト変異を生じるcGAS遺伝子座での欠失を含んでいた(21)。
【0089】
全3クローンのcGAS変異細胞株は、HT-DNAトランスフェクションまたは単純ヘルペスウイルス(HSV-1; 二本鎖DNAウイルス)感染に応答してIRF3を活性化することができなかった。対照として、これらの細胞は、ポリ[I:C]でのトランスフェクションまたはセンダイウイルス、つまりRNAウイルスでの感染に応答して、正常にIRF3を活性化させた。cGAS変異細胞はまた、HT-DNA応答性のCXCL10誘導に欠陥があったが、この欠陥は、細胞にマウスcGAS発現プラスミドをトランスフェクションすることによってレスキューされた。
【0090】
本発明者らはcGAS変異クローン#18および親L929細胞を選んで、HIV感染の先天性免疫認識におけるcGASの役割について調べた。対照のルシフェラーゼではなく、TREX1に対するshRNAを安定的に発現するL929細胞においては、HIV-GFP感染はIRF3二量体化ならびにIFNβおよびCXCL10の産生を誘導した。対照的に、L929 cGAS変異細胞は、TREX1が枯渇された場合でさえも、HIV感染に対して検出可能な免疫応答をいずれも開始することができなかったことから、HIVに対する免疫応答におけるcGASの不可欠な役割が実証された。cGASの枯渇は、センダイウイルスによるIFNβまたはCXCL10の誘導に影響を与えなかった。
【0091】
本発明者らは、HEK293T細胞が検出可能なレベルのcGASおよびSTINGを発現せず、そのためDNAトランスフェクションまたはDNAウイルス感染に応答してIRF3を活性化できないことを以前に示した(13)。レトロウイルス検出におけるcGASおよびSTINGの重要な役割と一致して、HIV-GFP感染は、HEK293T細胞ではなくTHP1細胞において、IRF3およびSTAT1を活性化させた。対照的に、センダイウイルスは、両方の細胞株においてIRF3およびSTAT1を活性化させた。HIV感染がヒト細胞において内因性cGAMPの産生をもたらすかどうか判定するため、本発明者らは、HIV感染THP1およびHEK293T細胞から溶解物を調製し、この溶解物を95℃で加熱して、大部分のタンパク質を変性させ、該タンパク質を遠心分離によって除去した(12)。cGAMPを含有する可能性のあった上清を、細菌毒素ペルフリンゴリシンO (PFO)で透過処理したTHP1細胞へ送達し、その後、IRF3二量体化をネイティブゲル電気泳動によってアッセイした。HIV感染させた、HEK293T細胞ではなく、THP1細胞由来の耐熱性上清は、レシピエント細胞においてIRF3の活性化を刺激したcGAMP活性を含んでいた。さらに、AZT、DDI (ディダノシン) 、またはNVPによるHIV逆転写の阻害により、cGAMP活性の生成が遮断されたが、HIVインテグラーゼ阻害剤RALは効果を及ぼさなかった。L929-shTrex1細胞におけるHIV-GFPの感染も、cGAMP活性の生成をもたらし、これはcGASに依存していた。まとめると、これらの結果から、HIV感染が、cGASおよびHIV RNAのcDNAへの逆転写に依存する形で内因性cGAMPの産生を誘導することが示唆される。
【0092】
HIV感染が細胞質中でレトロウイルスcDNAを産生させて、cGASを活性化するかどうか試験するため、本発明者らは、HEK293T細胞にHIV-GFPを感染させ、サイトゾル抽出物を調製し、これをその後、ATPおよびGTPの存在下で精製cGASタンパク質とともにインキュベートした。非感染細胞由来ではなく、HIV感染細胞由来のサイトゾル抽出物はcGASを刺激して、透過処理THP1細胞においてIRF3を活性化したcGAMP活性をもたらすことができた。AZTを用いたHEK293T細胞の処理によって、cGAS刺激活性の生成が阻害された。さらなる分析から、HIV感染細胞の細胞質が、ともにAZTによって阻害されたHIV Gag DNAおよびGFPタンパク質を含むことが示された。
【0093】
選択反応モニタリング(SRM)を用いた質量分析によるcGAMP存在量の定量的測定から、cGAMPが、モック処理THP1細胞ではなく、HIV感染THP1細胞において産生されるという直接的な証拠が提供された。HIV感染THP1細胞からの内因性cGAMPのタンデム質量分析によって、それがcGAS生成物2'3'-cGAMPと同一であることが明らかにされた(15)。
【0094】
初代ヒト免疫細胞におけるHIV感染がcGAMP産生をもたらすかどうか試験するため、本発明者らは単球由来マクロファージ(MDM)および単球由来樹状細胞(MDDC)に、それぞれ臨床HIV-1分離株HIV-BaLおよびHIV-GFPを感染させた。以前の研究から、ヒトマクロファージおよび樹状細胞が、dNTPを加水分解するヌクレアーゼSAMHD1を発現し、それによって、HIV逆転写を阻害することが示されている。HIV-2およびサル免疫不全ウイルス(SIV)はタンパク質Vpxを含んでおり、これはユビキチン媒介性のプロテアソーム分解のためSAMHD1を標的とし、かくして、この宿主制限因子を除去する。ヒトMDMおよびMDDCにおけるHIV感染を促すため、本発明者らはHIV感染の前にウイルス様粒子(VLP)を用いてこれらの細胞中へSIV Vpxを送達した。Vpxの存在下で、MDMおよびMDDCに、それぞれ、HIV-BaLおよびHIV-GFPを感染させることで、cGAMP活性の生成につながった。定量的質量分析から、Vpxを発現したHIV感染MDDCにおける2'3'-cGAMPの産生がさらに確認された。cGAMP活性は、さらなるヒトドナーのMDDCおよびMDMでも常に認められ、この活性は、Vpxだけで処理された細胞よりもHIVを感染させた細胞において高かった。これらの結果から、ヒトマクロファージおよび樹状細胞におけるHIV感染が、ウイルス複製が許容される条件下でcGAMPの生成をもたらすことが実証される。
【0095】
最後に、本発明者らは、L929およびL929-cGAS KO細胞株にマウス白血病ウイルス(MLV)およびSIVを感染させることにより、他のレトロウイルスに対する先天性免疫応答にcGASが必要とされるかどうか試験した。HIVと同様に、MLVおよびSIVは、内因性TREX1が枯渇されたL929細胞においてIFNβおよびCXCL10 RNAを誘導したが、そのような誘導はcGAS KO細胞において完全に消失した。レトロウイルスの先天性免疫感知におけるcGAS-STING経路の不可欠な役割をさらに支持して、Trex1
-/- MEF細胞におけるcGASまたはSTINGのノックダウンにより、MLVおよびSIVによるIFNβの誘導が強力に阻害された。
【0096】
ここで本発明者らは、cGASが、HIV、SIV、およびMLVに対する先天性免疫応答に不可欠であることを実証し、cGASがレトロウイルスDNAの一般的な先天性免疫センサーであることを示唆している。HIVはヒトCD4 T細胞に主に感染するが、HIVはまた、キャプシド内にウイルス核酸を隠すことにより、ならびにTREX1およびSAMHD1のような宿主因子の選出(co-opting)を通じてウイルスDNAの蓄積を制限することにより、顕在的な先天性免疫応答を、通常誘発することなく、マクロファージおよび樹状細胞に侵入しうる(8)。樹状細胞においてHIVに対する厳密な先天性免疫応答がないことは、産生性T細胞応答およびワクチン開発を妨げる主要な要因であると考えられる(7)。HIVおよび他のレトロウイルスが許容状態の下でcGASを通じてcGAMPの産生を誘導しうるという本発明者らの知見から、cGAMPを用いて、HIVに対する先天性免疫応答の遮断を回避できることが示唆される。したがって、cGAMPは、宿主先天性免疫系を巧みに妨害するHIVおよび他の病原体に有用なワクチンアジュバントとなる。
【0097】
参考文献および注記
21.クローン#18は、3つの染色体全てにおいて、フレームシフト変異を有している。フレームシフトに加えて、クローン#36は、1つの染色体において、触媒ドメイン内の3アミノ酸(215〜217)を除去する9-bpの欠失を含んでいた一方、クローン#94は、1つの染色体において12-bpの欠失を有し、かつ別の染色体において18-bpの欠失を有し、これによりそれぞれ触媒ドメイン内の4アミノ酸(214〜217)および6アミノ酸(212〜217)が除去された。
【0098】
実施例5. 抗ウイルス防御および免疫アジュバント効果におけるcGAS-cGAMPシグナル伝達の極めて重要な役割
動物細胞の細胞質への微生物DNAの侵入は、感染を除去するのに役立つ宿主免疫反応のカスケードを誘発する; しかしながら、細胞質中の自己DNAが自己免疫疾患を引き起こすことがある。生化学的手法により、先天性免疫応答を誘発するサイトゾルDNAセンサーとしての環状GMP-AMP (cGAMP)シンターゼ(cGAS)の同定につながった。ここで本発明者らは、線維芽細胞、マクロファージ、および樹状細胞を含む、cGAS欠損(cGas
-/-)マウス由来の細胞が、DNAトランスフェクションまたはDNAウイルス感染に応答してI型インターフェロンおよび他のサイトカインを産生できなかったことを示す。cGas
-/-マウスは、野生型マウスよりも単純ヘルペスウイルス-1 (HSV1)による致命的感染に感受性が高かった。本発明者らはまた、cGAMPが、抗原特異的T細胞活性化および抗体産生を後押しするアジュバントであることを示す。
【0099】
外来DNA侵入の検出は、宿主防衛の基本的機構である。哺乳動物細胞において、細胞質中の外来または自己DNAの存在は、宿主先天性免疫応答を誘発する危険シグナルである(1)。生化学的研究を通して、本発明者らは最近、I型インターフェロンおよび他の炎症性サイトカインの産生を誘発するサイトゾルDNAの先天性免疫センサーとして、環状GMP-AMP (cGAMP)シンターゼ(cGAS)を同定した(2、3)。cGASはDNAに、その配列とは無関係に結合する; この結合はcGASを活性化して、2'-5'および3'-5'の両方のホスホジエステル結合を含む独特なcGAMP異性体の合成を触媒する(4〜7)。2'3'cGAMPと名付けられたこの分子は、アダプタータンパク質STINGに結合しかつSTINGを活性化する二次メッセンジャーとして機能する(3、7)。STINGは次いで、タンパク質キナーゼIKKおよびTBK1を活性化し、これらが今度は、転写因子NF-κBおよびIRF3を活性化して、インターフェロンおよびサイトカインを誘導する(8)。
【0100】
インビボでcGASの機能を調べるため、本発明者らは、cGasノックアウトマウス系統を作製した。このマウスにおいては、第1エクソンがLacZカセットへスプライシングされ、かくして、その内因性遺伝子座での発現が消失する(9)。cGas
-/-マウスはメンデル比で生まれ、顕在的な発達異常を全く示さなかった。肺線維芽細胞および骨髄由来マクロファージ(BMDM)から得たRNAの定量的逆転写PCR (q-RT-PCR)分析により、cGas
-/-細胞はcGas RNAの産生において欠陥を有するが、cGas
+/-細胞は中間レベルのcGas RNAを産生することが確認された。
【0101】
本発明者らは、WT、cGas
+/-およびcGAS
-/-マウスから、ならびにSTINGの発現消失を引き起こす点突然変異を有するゴールデンチケット(gt/gt)マウスから、肺線維芽細胞を得た(10)。WTおよびcGas
+/-マウス由来の肺線維芽細胞に、ニシン精巣DNA (HT-DNA)、大腸菌DNA、およびインターフェロン刺激性DNA (ISD; 45 bpの二本鎖DNA)を含むさまざまなタイプのDNAをトランスフェクションすることにより(11)、ELISAによって測定される、IFNβタンパク質の強い産生につながった。対照的に、cGas
-/-およびSting
gt/gt細胞は、検出可能なレベルのIFNβを全く産生することができなかった。RIG-I様受容体(RLR)経路を通じてIFNβを産生することが知られている二本鎖RNA類似体であるポリ[I:C] (12)は、cGasまたはStingの非存在下において正常にIFNβを誘導した。興味深いことに、RNAポリメラーゼIII-RIG-I-MAVS経路を通じてI型インターフェロンを誘導することが以前に示されたポリ[dA:dT] (13、14)は、cGas
-/-およびSting
gt/gt細胞において正常にIFNβを誘導した。q-RT-PCR分析から、cGASが、ポリ[dA:dT]を除くさまざまなタイプの合成DNAまたは細菌DNAによるIFNβ RNAの誘導に不可欠であることがさらに確認された。経時的実験から、ISDによるIFNβの誘導が、DNAトランスフェクション後の早期の時点(2〜8時間)においてさえも、cGas
-/-肺線維芽細胞において完全に消失したことが示され、サイトゾルDNAによるIFNβの誘導にはcGASが欠かせないことが示唆される。
【0102】
WTおよびcGas
-/-細胞におけるcGAMPの産生を測定するため、本発明者らは、ISDトランスフェクション細胞由来の細胞質抽出物におけるcGAMP活性を測定するバイオアッセイ法を行った。抽出物を95℃で加熱して、大部分のタンパク質を変性させ、該タンパク質を遠心分離によって除去した。cGAMPを含有する可能性のあった上清を、細菌毒素ペルフリンゴリシン-O (PFO)で透過処理したヒト単球系細胞株THP1へ送達した。次いで、IRF3活性化の特徴であるIRF3の二量体化を、ネイティブゲル電気泳動により測定した。このアッセイ法により、cGas
-/-マウスではなく、WTマウス由来のISDトランスフェクション肺線維芽細胞の抽出物にcGAMPが含まれることが示されたことで、cGASがサイトゾルDNAに応答してこれらの細胞においてcGAMP合成を触媒する際に必須的役割を有することが実証された。
【0103】
次に、本発明者らは、DNAウイルスである、単純ヘルペスウイルス-1 (HSV1)、ワクシニアウイルス(VACV)、および免疫応答に拮抗することが知られているICP0のようなウイルスタンパク質の欠失を有する、d109と呼ばれるHSV1の変異株を肺線維芽細胞に感染させた(15)。これらのウイルスの各々によるIFNβの誘導は、cGas
-/-細胞およびSting
gt/gt細胞において大幅に消失し、cGas
+/-細胞において部分的に阻害された。対照的に、RIG-I経路を活性化することが知られているRNAウイルスである、センダイウイルスによるIFNβの誘導は、cGasまたはStingの欠陥によって影響されなかった。細胞質へcGAMPを送達することにより、Sting
gt/gt細胞ではなく、cGas
-/-細胞において、IFNβの誘導がレスキューされた。同様に、DNAウイルスによるケモカインCXCL10の誘導は、cGasおよびStingに依存していた。IRF3二量体化の測定から、cGas
-/-細胞は、HT-DNAのトランスフェクションまたはWT HSV1もしくは同じくインターフェロンアンタゴニストICP0を欠くHSV1株7134による感染に応答してIRF3を活性化できないことが示された(16)。cGas欠損は、センダイウイルスによるIRF3の活性化を損なわなかった。このように、cGASは、マウス肺線維芽細胞において、RNAウイルスではなくDNAウイルスによるIRF3の活性化およびサイトカインの誘導に必要とされる。
【0104】
cGas
-/-およびSting
gt/gtマウス由来のBMDMは、HT-DNAまたはISDによるトランスフェクションに応答するIFNβの産生において欠陥を有していた。同様に、VACVならびにHSV1株d109および7134によるIFNβの誘導は、cGas
-/-およびSting
gt/gt BMDMにおいて大幅に消失した。しかしながら、WT HSV1によるIFNβの誘導は、cGas
-/-またはSting
gt/gtのいずれかのBMDMにおいて完全にではないが、かなり遮断されたことで、これらの細胞が、WT HSV1感染を検出するためにcGAS-STING経路の喪失を部分的に補いうる別の経路を保有していることが示唆された。BMDMにおけるcGASまたはSTINGの喪失は、センダイウイルスによるIFNβの誘導に影響を与えなかった。速度論的実験から、ISDおよびHSV1-d109によるIFNβの誘導が、刺激の時間経過の間中cGas
-/- BMDMにおいて消失したことが明らかである。IFNβと同様に、HT-DNAまたはISDによるTNFαの誘導は、cGas
-/-またはSting
gt/gt BMDMにおいて消失した。q-RT-PCR分析から、HT-DNAもしくはISDのトランスフェクションまたはHSV1-d109の感染による、IFNβ、インターロイキン-6 (IL6) 、およびCXCL10 RNAの誘導が、cGasおよびStingに完全に依存していることが示された。対照的に、ポリ[I:C]またはセンダイウイルスにより誘導されたこれらのサイトカインのRNAレベルは、cGasまたはStingの欠陥によって影響されなかった。
【0105】
本発明者らは、それぞれ、GM-CSFおよびFlt3リガンド(Flt3L)を含有する馴化培地中で骨髄を培養することによって、通常型樹状細胞(cDC)および形質細胞様DC (pDC)を得た。cGas
-/-およびSting
gt/gtマウス由来の、主にcDCを含むGM-CSF DCは、HT-DNAまたはISDのトランスフェクションに応答してIFNαまたはIFNβを誘導することができなかった。GM-CSF DCにおけるcGASまたはSTINGの喪失は、HSV1-d109およびVACVによるIFNβの誘導を消失させ、WT HSV1によるIFNβの誘導を部分的に阻害した。対照的に、cGASまたはSTINGの欠陥は、センダイウイルスによるIFNαまたはIFNβの誘導を損なわなかった。q-RT-PCR実験から、HT-DNAもしくはISDのトランスフェクションまたはHSV1-d109の感染によるIFNβ、IL6、およびCXCL10 RNAの誘導には、cGASおよびSTINGが不可欠であるが、ポリ[I:C]またはセンダイウイルスによるこれらのサイトカインの誘導は、cGASまたはSTINGと無関係であることがさらに確認された。
【0106】
pDCは、ホスホロチオエート結合を含む合成CpG DNAによるI型インターフェロンの誘導に関与しているTLR9を発現することが知られている(17)。リポソーム(リポフェクタミン2000)の存在下または非存在下において、主にpDCを含むFlt3L-DCを刺激するためにCpG DNAを用いた場合に、これはcGas
-/-およびSting
gt/gt細胞においてさえもIFNαおよびIFNβの強い産生を誘導した。対照的に、ISD、ポリ[dA:dT] 、ならびに大腸菌およびコレラ菌由来のゲノムDNAを含む他の形態のDNAは、リポソームの存在下でのみFlt3L-DCにおいてIFNαを誘導し、各DNAによるこの誘導は、cGASまたはSTINGの非存在下では消失した。pDCにおけるポリ[dA:dT]によるIFNα誘導がcGASおよびSTINGに強く依存することから、Pol-III-RIG-I経路ではなく、cGAS-STING経路がこれらの細胞におけるDNAの感知において主要な役割を果たすことが示唆される。cGas
-/-およびSting
gt/gtマウス由来のFlt3L-DCは、HSV1ではなく、センダイウイルスによる感染に応答してIFNαおよびIFNβを誘導した。総合して、これらの結果から、樹状細胞において天然DNA (例えば、細菌DNA)およびDNAウイルス感染を検出するのにcGASが関与していることが実証される。
【0107】
DNAウイルスに対する免疫防御におけるcGASの役割をインビボで判定するため、本発明者らは、WTおよびcGas
-/-マウスに静脈内(i.v)経路からHSV1を感染させた。ELISA分析から、WTマウスの血清が上昇したレベルのIFNαおよびIFNβを含有し、これは、それぞれ、HSV1感染(1×10
7 pfu/マウス)後、8時間および4時間の時点でピークに達することが示された。IFNαおよびIFNβのレベルは、同じ感染用量のHSV1を感染させたcGas
-/-マウスではかなり弱められた。1×10
6 pfu/マウスの感染用量でのHSV1感染後に、マウスをその生存についてモニタリングした独立の実験において、5匹中4匹のcGas
-/-マウスが、ウイルス感染後3日のうちに運動失調およびまひを発症し、これらの症状が現れてから数時間後に死んだ。5匹目のcGas
-/-マウスは感染後4日目に死んだ。5匹中3匹のWTマウスが6日目にこれらの症状を発症し、その後間もなく死んだ。感染後3日目にウイルス力価を測定するためにWTおよびcGas
-/-マウスの脳を抽出した場合、全5匹のcGas
-/-マウスにおいて高レベルのHSV1が検出されたが、WTマウスはどれも脳内に検出可能なレベルのHSV1を有していなかった。HSV1の感染用量をマウスあたり1×10
7 pfuまで増加した独立の実験において、類似の生存曲線が観察され、類似の脳内ウイルス力価が検出された。HSV1感染に対するcGas
-/-マウスの感受性は、Sting
gt/gtマウスのそれと類似していたが、Sting
gt/gtマウスは同様に、血清中IFNαおよびIFNβの著しい低減を有し、HSV1感染後3〜4日以内に死んだ(18)。
【0108】
抗原提示細胞を含む複数の細胞型におけるサイトゾルDNAによるI型インターフェロンの誘導にはcGASが不可欠であるという本発明者らの結果から、cGAS産物である2'3'cGAMPを用いて、DNAワクチンのアジュバント効果を含む、DNAの免疫刺激効果を代替できることが示唆される(19)。2'3'cGAMPのアジュバント効果を確認するため、本発明者らは、WTまたはSting
gt/gtマウスへ、筋肉内(i.m)経路から、2'3'cGAMPの非存在下または存在下において、モデルタンパク質抗原のオボアルブミン(OVA)を注射した。このマウスに、同じ抗原配合物を10日目に1回追加免疫した。ELISA分析から、2'3'cGAMPがSting
gt/gtマウスではなく、WTマウスにおいて、17日目にOVA特異的抗体の産生を強力に増強したことが示された。また、2'3'cGAMPのこのアジュバント効果は、I型インターフェロン受容体欠損マウス(Ifnar
-/-)では観察されなかった。T細胞活性化に及ぼす2'3'cGAMPの効果を調べるため、7日間にわたってOVAまたはOVA + 2'3'cGAMPで免疫されたWTマウスから単離した脾臓白血球を、MHCクラスII分子I-A
bを通じてCD4 T細胞を刺激することが知られているOVAペプチドまたはMHCクラスI分子H-2K
bを通じてCD8 T細胞を刺激する別のOVAペプチドとともに培養した。OVA + 2'3'cGAMPで免疫したマウス由来のCD4 T細胞およびCD8 T細胞はどちらも、同族ペプチドでの刺激後に上昇したレベルのIFNγおよびIL-2を産生したが、OVAのみで免疫した場合は産生しなかった。H-2K
bと複合したOVAペプチドから構成される四量体を用いたフローサイトメトリーにより、OVA + 2'3'cGAMPで免疫したマウスにおいて四量体陽性CD8 T細胞の割合の著しい増加が示されたことから、2'3'cGAMPが、OVA特異的T細胞受容体を担持するCD8 T細胞の増殖を刺激したことが示唆された。まとめると、これらの結果から、2'3'cGAMPが免疫アジュバントとして機能し、抗原特異的T細胞およびB細胞応答を刺激することが示唆される。
【0109】
ここで本発明者らは、DNAトランスフェクションおよびDNAウイルス感染によるI型インターフェロンおよび他の炎症性サイトカインの誘導には、cGASが不可欠であるという証拠を提供する。ポリ[dA:dT]およびCpG DNAを除いて、大部分のDNA分子、とりわけ自然界に見られるもの(例えば、細菌DNAおよびウイルスDNA)が、cGAS-cGAMP-STING経路を通じて排他的にI型インターフェロンを刺激する。線維芽細胞、マクロファージ、および樹状細胞を含む複数の細胞型において、ワクシニアウイルスおよびいくつかのHSV1株によるI型インターフェロンの誘導が、cGASおよびSTINGに完全に依存している。しかしながら、特に、野生型HSV1によるIFNβの誘導は、cGas
-/-またはSting
gt/gtマウス由来のBMDMおよびGM-CSF DCにおいて完全にではないが、かなり消失した。IFI16またはDDX41のような他の推定上のDNAセンサーも、WT HSV1によるIFNβのこのいくらか残る誘導に関与しうる(20、21)。cGASの場合、cGas
-/-マウスの表現型は、Sting
-/-マウスのものに著しく類似している(本研究および参考文献18)。これらの結果は、cGASが一般的なDNAへのその結合により活性化されるサイトゾル酵素であることを示す本発明者らの生化学的データとともに(2、3)、cGASが、STINGを活性化する必須でかつ普遍的なサイトゾルDNAセンサーであることを公式に実証する。
【0110】
本発明者らは、2'3'cGAMPが、抗原特異的抗体の産生およびT細胞応答を促進する効果的なアジュバントであることを示す。潜在的なワクチンアジュバントとして、細菌の二次メッセンジャーである環状di-GMPおよび環状di-AMPが開発中である(22)が、2'3'cGAMPはいずれの細菌環状ジヌクレオチドよりもはるかに強力なSTINGリガンドである(7)。かくして、2'3'cGAMPは、感染性疾患およびがんを含むヒト疾患を、予防または処置するのに有用な次世代ワクチン用アジュバントを提供する。
【0111】
参考文献および注記