(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図において各構成要素は本発明が理解できる程度の形状、大きさおよび配置関係を概略的に示したものであり、実寸とは異なっている。また、数値範囲の「〜」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0012】
図1は、本実施形態における硫化リチウムの製造方法に使用する反応容器100の一例を示す模式図である。
本実施形態の硫化リチウムの製造方法は、水酸化リチウムと硫化水素との反応によって硫化リチウムを合成する硫化リチウムの製造方法である。より具体的には、本実施形態の硫化リチウムの製造方法は、以下の2つの工程を含んでいる。
(A)ガス導入管101とガス排出管103とを備えた反応容器100の内部に粒子状の水酸化リチウム105を配置する工程
(B)ガス導入管101から反応容器100の内部に硫化水素を含む反応ガスを導入し、粒子状の水酸化リチウム105に反応ガスを接触させて粒子状の水酸化リチウム105と硫化水素とを反応させることにより、粒子状の硫化リチウムを生成する工程
そして、本実施形態の硫化リチウムの製造方法では、工程(B)において、反応容器100の内部の圧力が、絶対圧力で0.101MPa未満であり、より好ましくは0.100MPa以下であり、さらに好ましくは0.098MPa以下である。
反応容器100の内部の圧力が上記上限値未満または以下であると、水酸化リチウム粒子表面における多硫化リチウムの生成を抑制することができ、その結果、硫化リチウムの生産性を向上させることができる。
さらに、反応容器100の内部の圧力が上記上限値未満または以下であると、反応容器100の内部の水分が蒸発しやすくなり、水酸化リチウム105と硫化水素との反応により生成する水の排出を促進できる。これにより、上記反応ガスに含まれる水によって粒子状の水酸化リチウム105が塊状化することを抑制でき、水酸化リチウム105と硫化水素との反応効率が向上し、硫化リチウムの生産性を向上させることができる。
また、工程(B)において、反応容器100の内部の圧力の下限は特に限定されないが、例えば、絶対圧力で0.010MPa以上であり、より好ましくは0.030MPa以上であり、さらに好ましくは0.050MPa以上であり、特に好ましくは0.070MPa以上である。こうすることにより、水酸化リチウムと硫化リチウムとの反応速度がより一層速くなり、その結果、硫化リチウムの生産性をより一層向上させることができる。
【0013】
さらに、本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法によれば、硫化リチウムは粒子状で生成され、生成する硫化リチウムが原料の水酸化リチウムの形状をそのまま継承して反応容器から取り出せる。また、得られる硫化リチウムは原料の水酸化リチウムの形状をそのまま継承できるため粒子径を大きくできることから、大気との接触による表面の酸化分解を抑制できる。
以上から、本実施形態の硫化リチウムの製造方法によれば、硫化リチウムの生産性に優れるとともに、作業性にも優れている。さらに純度が高い硫化リチウムを得ることができる。そのため本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法は工業的生産に優れている。
【0014】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0015】
(工程(A))
はじめに、ガス導入管101とガス排出管103とを備えた反応容器100の内部に粒子状の水酸化リチウム105を配置する。
【0016】
反応容器100は、例えば、カーボン、ステンレス鋼、ガラス、アルミナ、アルミニウム、インコネル、ハステロイ等の耐熱性材料により構成されている。得られる硫化リチウムにおいて、不純物である炭酸リチウムの量を低減させる観点および反応容器100の耐強度と金属不純物の混入を防ぐ観点から、反応容器100はステンレス鋼およびガラスから選択される一種または二種以上により構成されていることが好ましく、ガラス製であることがより好ましく、硬質ガラス製または石英ガラス製であることが特に好ましい。
また、反応容器100は撹拌機能が付加された容器でもよい。撹拌機能としては、例えば、ロータリーキルン方式の撹拌機能等が挙げられる。
【0017】
水酸化リチウム105を反応容器100の内部に配置する構成としては特に限定されないが、例えば、
図1に示すように、反応容器100の内部に配置された多孔性シート111上に粒子状の水酸化リチウム105を配置する構成が挙げられる。これにより、水酸化リチウム105へ流れてきた反応ガスと、水酸化リチウム105との接触面積を増大させることができるため、反応ガスと水酸化リチウム105との反応をより効果的に進めることができる。
多孔性シート111としては、例えば、ステンレスメッシュ等の金属メッシュ;ステンレスパンチング等のパンチングメタル;ステンレスエキスパンド等のエキスパンドメタル等が挙げられる。
【0018】
水酸化リチウム105はあらかじめ結晶水の脱水および付着水の乾燥を行っておくことが好ましい。これにより、水酸化リチウム105が塊状化することを抑制できたり、水硫化物の生成を抑制できたりするため、反応ガスと水酸化リチウム105との反応をより効果的に進めることができる。
水酸化リチウム105の脱水や乾燥は、例えば、大気中で加熱する方法、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス等のガスを流しながら加熱する方法、減圧化で加熱する方法等が挙げられる。
【0019】
(工程(B))
つぎに、ガス導入管101から反応容器100の内部に硫化水素を含む反応ガスを導入し、粒子状の水酸化リチウム105に反応ガスを接触させて粒子状の水酸化リチウム105と硫化水素とを反応させることにより、粒子状の硫化リチウムを生成する。
ここで、下記(1)式のような反応が起きていると考えられる。
2LiOH + H
2S → Li
2S +2H
2O (1)
水酸化リチウム105と硫化水素との反応が進行し、反応系から原料である水酸化リチウム105が消失すると、反応による水の発生が止まるため、水の発生量をモニタリングすることにより、反応の進行度合を知ることができる。
【0020】
工程(B)において、粒子状の水酸化リチウム105と硫化水素との反応は、前述したように、減圧下でおこなわれる。
工程(B)において、反応容器100の内部への反応ガスの導入量を調節することにより、反応容器100の内部の圧力を制御することが好ましい。
また、本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法においては、硫化水素が消費されると反応容器100の内部の圧力が低下するので、その圧力低下を圧力センサ等の圧力検出部で検知し、圧力低下に相当する硫化水素が硫化水素を貯蔵した容器から補給されることが好ましい。これら操作は自動制御で行うことができる。この場合、使用する硫化水素は水酸化リチウム105との反応に必要な量と、硫化水素循環系内の滞留量のみであるため、硫化水素の利用率は大幅に向上し、排ガスの処理も軽減することができる。
【0021】
上記反応ガス中の硫化水素の含有量は、粒子状の水酸化リチウム105との反応速度をより速める観点から、好ましくは50体積%以上であり、より好ましくは70体積%以上であり、さらに好ましくは90体積%以上である。また、上記反応ガス中の硫化水素の濃度は100体積%以下である。
ここで、上記反応ガス中の硫化水素の含有量は、反応容器100の内部に導入される窒素ガスやアルゴンガス、水素ガス等の希釈ガスの導入量を調整することにより制御できる。なお、通常、反応終了時点以降の排ガスに含まれ硫化水素の濃度が反応ガス中の硫化水素の濃度に相当する。
【0022】
粒子状の水酸化リチウム105のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d
50は、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1.0mm以下である。平均粒子径d
50が上記上限値以下であると、水酸化リチウム105と反応ガスとの接触面積が大きくなり反応が促進されるため、得られる硫化リチウム中の未反応原料をより低減させることができる。その結果、より高純度の硫化リチウムを得ることができる。
また、水酸化リチウム105のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d
50は、好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.2mm以上である。平均粒子径d
50が上記下限値以上であると、反応系で発生した水が硫化リチウム粒子に付着して粒子が固着するのを防ぐことができる。また反応ガスとともに水酸化リチウムや得られた硫化リチウムが排気されてしまうことを抑制することができるため、排ガス処理をより単純なものにすることができる。また、水酸化リチウムや得られた硫化リチウムが反応ガスによって飛散することを抑制することができるため、硫化リチウムの収率を向上させることができる。
【0023】
工程(B)では、例えば、反応ガスと水酸化リチウム105を接触させながら加熱することにより反応ガスと水酸化リチウム105を反応させる。これにより硫化リチウムを生成することができる。
反応ガスと水酸化リチウム105を加熱する温度としては、445℃以下が好ましく、420℃以下がより好ましい。加熱する温度が上記上限値以下であると、水酸化リチウム105が溶融するのを抑制できるため、水酸化リチウムの相互間で融着が起こって塊状になることを抑制できる。これにより、反応ガスと水酸化リチウム105との反応をより効果的に進めることができる。
また、反応ガスと水酸化リチウム105を加熱する温度としては、130℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。加熱する温度が上記下限値以上であると、反応ガスと水酸化リチウム105との反応速度をより向上させることができる。
【0024】
水酸化リチウム105を加熱する加熱装置は特に限定されないが、例えば、反応容器100の内部を加熱できる加熱手段と、この加熱手段の出力を調整して、反応容器100の内部を一定の温度に保持できる温度調整器とから構成される。加熱手段は特に限定されないが、発熱線、ランプ加熱等の公知の加熱手段が使用でき、反応容器100の内部を加熱できるものなら何でもよい。
【0025】
工程(B)において、反応容器100の内部へ導入する反応ガスの流量を上げて、粒子状の水酸化リチウム105を反応ガス中に懸濁浮遊させた状態で、粒子状の水酸化リチウム105と硫化水素とを反応させてもよい。すなわち、粒子状の水酸化リチウム105と硫化水素との反応は流動床でおこなってもよい。こうすることで、反応ガスと水酸化リチウム105との反応効率をより高めることができる。
【0026】
また、本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法において、ガス排出管103から反応容器100の外部に未反応の硫化水素を含む反応ガスを排出する工程(C)をさらに含んでもよい。
未反応の反応ガスや反応ガスと水酸化リチウム105との反応で生成する水を含む排ガスは、例えば、ガス排出管103から反応容器100の外部へ排出される。
【0027】
また、工程(B)において、反応容器100の外部に排出した反応ガスをガス導入管101から反応容器100の内部に再度導入し、未反応の粒子状の水酸化リチウム105と再度導入した上記反応ガスとを反応させることにより、粒子状の硫化リチウムを生成する工程(D)をさらに含むことが好ましい。これにより、硫化水素の利用率は大幅に向上し、排ガスの処理も軽減することができる。
【0028】
ここで、反応容器100の外部に硫化リチウムが生成する際に発生する水を捕捉する水回収部を設けておくことが好ましい。反応ガスと水酸化リチウム105との反応が終了すれば、硫化リチウムが生成する際に発生する水が水回収部へ凝縮しなくなる。そのため、硫化リチウムが生成する際に発生する水が水回収部へ凝縮しなくなるまで上記工程(B)をおこなうことにより、排ガスの量を最小限にすることができる。
【0029】
上記工程(D)では、反応容器100の外部に排出した上記反応ガスに含まれる水分を除去してから、上記水分を除去した上記反応ガスをガス導入管101から反応容器100の内部に再度導入することが好ましい。これにより、上記反応ガスに含まれる水によって粒子状の水酸化リチウム105が塊状化することを抑制でき、水酸化リチウム105と硫化水素との反応効率がより向上し、生産性をより向上させることができる。
【0030】
上記工程(D)では、例えば、脱水剤を用いて反応容器100の外部に排出した上記反応ガスに含まれる水分を除去することができる。より具体的には、反応容器100の外部に排出した上記反応ガスを脱水剤が充填されたカラムに通過させることにより、水分を上記脱水剤に吸着させ、上記反応ガスに含まれる水分を除去することができる。
上記脱水剤としては、水分を吸着し、硫化水素を吸着しないものであれば特に限定されないが、例えば、例えば、活性炭、ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、塩化カルシウム、五酸化ニリン等が挙げられる。これらの中でも、硫化水素を吸着せずに水分のみをより効果的に吸着できる観点から、ゼオライトが好ましい。
【0031】
以上の工程により、硫化リチウムを得ることができる。
【0032】
つづいて、本実施形態における硫化リチウムの製造方法の一例について、より具体的に説明する。
図2は、本実施形態における硫化リチウムの製造方法に使用する装置500の一例を示す模式図である。
本実施形態における硫化リチウムの製造方法に使用する装置500は、例えば、硫化水素循環系200と、硫化水素導入系300により構成される。
装置500では、圧力センサ119により硫化水素循環系200内の圧力を測定し、硫化水素導入系300から硫化水素循環系200内に反応ガスを導入し、硫化水素循環系200内の圧力を一定の範囲内に調節できるようにしてある。
【0033】
はじめに硫化水素循環系200について説明する。
水酸化リチウム105と硫化水素との反応の終点は、例えば、露点計113を用いて露点を測定することによって確認することができる。
ここで、水酸化リチウム105と硫化水素との反応時に発生する水を全て露点計113に流すと、配管内が結露して正確な露点を測ることができない場合がある。そのため、例えば、冷却部109で大部分の水を凝縮させ、水回収部107に溜めることが好ましい。
露点は常時測定してもよいが、ある程度の反応が進行し、例えば水回収部107への貯水量が増加しなくなってきたら、露点計113内に反応ガスを流し、露点測定を行い反応終了の確認をすることが好ましい。
露点計113は、硫化水素に触れても露点の計測が可能なものであれば機種を問わない。例えば、塩化リチウム露点計等を用いることができる。
【0034】
冷却部109は、例えば、冷却ジャケットが取り付けられた容器を用いることができる。凝縮を効率的に進めるには、反応ガスとの接触面積が大きい方がよいので、冷却蛇管を設けたカラム等が適している。冷却部109には、例えば、5℃から30℃の冷却水を流すことができる。
水回収部107は、例えば、冷却部109で凝縮した水を溜める容器である。硫化水素を循環させるので密閉性に優れた水排出バルブを有した容器が適している。
【0035】
硫化リチウムは水との接触で分解するため、水回収部107を通過した反応ガスは脱水剤を使用して脱水を行うことが好ましい。
脱水部110は、例えば、脱水剤を充填したカラムである。脱水部110は2系統以上設けるのが好ましい。こうすることで、一方の脱水部110が飽和したら、もう一方の脱水部110に切り替え、その間に一方の脱水部110の再生処理を実施することができる。
【0036】
ポンプ115は、例えば、ダイヤフラムポンプであり、硫化水素循環系200内の反応ガスを流通させるためのポンプである。硫化水素に触れても機能を失わないポンプであればよい。例えば、ダイヤフラムポンプであれば、反応ガスはポンプの金属部と接触することはないので好ましい。
フローメーター117は、反応容器100に通じる反応ガスの流量を制御できればよい。例えば、硫化水素に触れても機能を失わない耐食性のある材質のものが好ましい。
反応ガスの流量は特に限定されないが、流量が大きい場合、水酸化リチウム105は流動床となり、合成は短時間で完了する。流量が小さい場合、水酸化リチウム105は固定床になり、合成時間は長くなるが、水酸化リチウム105の飛散に伴う循環系の汚染や回収歩留まりの低下は抑制される。
【0037】
つぎに、硫化水素導入系300について説明する。
硫化水素容器127は硫化水素が充填された容器であり、例えば、液化硫水素を充填したボンベを用いることができる。硫黄と水素から触媒を介して硫化水素を製造する硫化水素製造設備を接続しても構わない。この場合、硫化水素製造設備にはバッファタンクのように一時的に液化硫化水素を貯蔵できる容器を設け、バッファタンクから硫化水素を供給できるようにすることで安定補給が可能になる。
硫化水素は腐食性ガスであるため、コイル部がガスと接触しないようにエアオペレート弁131、133を使用することが好ましい。
ガス容器129は、例えば、硫化水素循環系200の配管内のガスを硫化水素以外のガスに置換するために使用する。
図2では、エアオペレート弁131、133を駆動するためのエアの代わりにも使用している。エアオペレート弁131、133の駆動は、圧空でも構わない。ガス容器129に充填するガスとしては、例えば、アルゴンガス、窒素ガス、水素ガス等が挙げられる。
【0038】
圧力センサ119は、硫化水素循環系200内の圧力を測定する。圧力センサ119としては、例えば、硫化水素で腐食しないステンレス製筐体のセンサを用いることができる。
表示器125は、圧力センサ119の信号を受けて硫化水素容器127やガス容器129に接続された電磁弁121、123を駆動する制御機器である。リレー制御でもよいが、PLCで制御するすると温度、露点等複数のデータを連携して制御が可能になる。
エアオペレート弁131、133は、表示器125からの信号を受けた電磁弁121、123が駆動し、ガスの補給、停止を制御する弁である。
ポンプ135は、硫化水素循環系200の内部のガスを外部に排出するために使用する。ポンプ135を用いることにより、硫化水素循環系200の内圧が何らかの異常で高くなった場合、または合成の開始前や終了後に硫化水素循環系200に滞留したガスを強制的に排出させることができる。
【0039】
本実施形態の製造方法により得られた硫化リチウムは、例えば、リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料、化学薬品の中間原料として好適に用いることができる。本実施形態の製造方法により得られた硫化リチウムは、高純度であるため、特に高純度が求められるリチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料の原料として特に好適に用いることができる。
また、本実施形態の製造方法により得られた硫化リチウムは、高純度であるため、リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料の原料として用いた場合、得られる電池材料のリチウムイオンの伝導度が特に優れている。
【0040】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
図1に示す反応容器100および
図2に示す装置を用いた。反応容器100としては、石英製縦型容器を使用した。脱水部110にはゼオライトが充填されたカラムを使用した。
はじめに、多孔性シート111上に粒子状の水酸化リチウム105(平均粒子径d
50:0.7mm、6.6mol)を配置した。
次いで、純度が99%の硫化水素(住友精化社製)を含む反応ガスを、反応容器100の下部に設置したガス導入管101から反応容器100の内部に10L/分の流量で導入した。ここで、反応ガスとしては100体積%の硫化水素ガスを用いた。粒子状の水酸化リチウム105の加熱温度は300℃である。硫化水素循環系200内の圧力は絶対圧力で0.081MPa以上0.096MPa以下(0.8〜0.95atm)の範囲に制御した。
ここで、水酸化リチウムの平均粒子径d
50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)を用いて測定した。
【0043】
より具体的には以下のとおりである。バルブV1、V3、V6及びV7を閉じ、バルブV2、V4及びV5を開いた後、反応ガスの循環を開始した。反応容器100を300℃に昇温した後、2時間で水回収部107への貯水量の増加がみられなくなった。ガス循環を開始してから3時間後にバルブV2を閉じ、バルブV1を開いて露点計113(塩化リチウム露点計)で露点を計測したところ0℃であったため、反応容器100の加熱を停止した(合成時間3時間)。
反応容器100が40℃以下になったら、硫化水素循環系200のポンプ115(ダイヤフラムポンプ)を停止し、バルブV6を開いて硫化水素導入系300のポンプ135で硫化水素循環系200の滞留ガスを排出した。滞留ガスの排出後、バルブV6を閉じ、バルブV7を開にして硫化水素循環系200にガス容器129からアルゴンガスを常圧に達するまで導入した後、停止した。その後、反応容器100から粉末を回収した。
得られた粉末について、X線回折装置(XRD)によりX線回折パターンを測定した。得られた粉末のX線回折パターンを
図3に示す。
このX線回折パターンから得られた粉末は硫化リチウムであることがわかった。また、原料である水酸化リチウムのピークは認められず、得られた硫化リチウムの純度が高いことがわかった。
また収率は99.9%であった。硫化水素循環系200の滞留ガス量は硫化水素導入系300のポンプ135で排出されたガス量にほぼ相当し、その値は12Lであった。したがって、反応に使用された硫化水素は、約(3.3mol×22.4L)+12L=85.9Lであった。
【0044】
(比較例1)
図1に示す反応容器100を用いた。反応容器100としては、石英製縦型容器を使用した。多孔性シート111上に粒子状の水酸化リチウム105(平均粒子径d
50:0.7mm、6.6mol)を配置した。反応容器100のガス排出管103には、
図2に示す冷却部109、水回収部107、脱水部110(ゼオライトが充填されたカラム)、バルブV1、バルブV2、および露点計113を接続し、外部解放とした。ここで、外部解放とは、
図2において、V5を閉じ、V6を開くことによって、ガス排出管103から排出された反応ガスを反応容器100に循環させずに外部へ排出させる状態である。
次いで、純度が99%の硫化水素(住友精化社製)を含む反応ガスを、反応容器100の下部に設置したガス導入管101から反応容器100の内部に10L/分の流量で導入した。ここで、反応ガスとしては100体積%の硫化水素ガスを用いた。粒子状の水酸化リチウム105の加熱温度は300℃である。露点計113の後に接続された圧力センサが示す圧力は絶対圧力で0.106MP(1.05atm)であった。
【0045】
より具体的には以下のとおりである。アルゴンガスで反応容器100内を置換した後、硫化水素を導入しながら反応容器100を300℃に昇温した。300℃に昇温した後、2.5時間で水回収部107への貯水量の増加がみられなくなった。4時間後にバルブV2を閉じ、バルブV1を開いて露点計113(塩化リチウム露点計)で露点を計測したところ0℃であったため、反応容器100の加熱を停止した(合成時間4時間)。次いで、硫化水素ガスをアルゴンガスに切り替え、反応容器100が40℃以下になったら、反応容器100から粉末を回収した。
得られた粉末について、X線回折装置(XRD)によりX線回折パターンを測定した。得られた粉末のX線回折パターンを
図4に示す。
このX線回折パターンから得られた粉末は硫化リチウムであることがわかった。また、原料である水酸化リチウムのピークは認められず、得られた硫化リチウムの純度が高いことがわかった。
また収率は99.9%であった。反応に使用された硫化水素は、約(10L/分×60分×4時間)=2400Lであった。
【0046】
以上から、本実施形態の硫化リチウムの製造方法によれば、硫化リチウムの合成時間を短縮できることがわかった。さらに、本実施形態の硫化リチウムの製造方法によれば、硫化水素の使用量も減らすことができることがわかった。
すなわち、本実施形態の硫化リチウムの製造方法は工業的生産に優れていることが理解できる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
水酸化リチウムと硫化水素との反応によって硫化リチウムを合成する硫化リチウムの製造方法であって、
ガス導入管とガス排出管とを備えた反応容器の内部に粒子状の水酸化リチウムを配置する工程(A)と、
前記ガス導入管から前記反応容器の内部に硫化水素を含む反応ガスを導入し、前記粒子状の水酸化リチウムに前記反応ガスを接触させて前記粒子状の水酸化リチウムと前記硫化水素とを反応させることにより、粒子状の硫化リチウムを生成する工程(B)と、
を含み、
前記工程(B)において、前記反応容器の内部の圧力が、絶対圧力で0.101MPa未満である硫化リチウムの製造方法。
2.
1.に記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)において、前記反応容器の内部への前記反応ガスの導入量を調節することにより、前記反応容器の内部の圧力を制御する硫化リチウムの製造方法。
3.
1.または2.に記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)は、前記ガス排出管から前記反応容器の外部に未反応の硫化水素を含む反応ガスを排出する工程(C)をさらに含む硫化リチウムの製造方法。
4.
3.に記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)は、前記反応容器の外部に排出した前記反応ガスを前記ガス導入管から前記反応容器の内部に再度導入し、未反応の粒子状の水酸化リチウムと再度導入した前記反応ガスとを反応させることにより、粒子状の硫化リチウムを生成する工程(D)をさらに含む硫化リチウムの製造方法。
5.
4.に記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記工程(D)では、前記反応容器の外部に排出した前記反応ガスに含まれる水分を除去してから、前記水分を除去した前記反応ガスを前記ガス導入管から前記反応容器の内部に再度導入する硫化リチウムの製造方法。
6.
5.に記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記工程(D)では、脱水剤を用いて前記反応容器の外部に排出した前記反応ガスに含まれる水分を除去する硫化リチウムの製造方法。
7.
1.乃至6.いずれか一つに記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)において、前記反応容器の内部へ導入する前記反応ガスの流量を上げて、前記粒子状の水酸化リチウムを前記反応ガス中に懸濁浮遊させた状態で、前記粒子状の水酸化リチウムと前記硫化水素とを反応させる硫化リチウムの製造方法。
8.
1.乃至7.いずれか一つに記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記反応ガス中の前記硫化水素の含有量が50体積%以上100体積%以下である硫化リチウムの製造方法。
9.
1.乃至8.いずれか一つに記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記粒子状の水酸化リチウムのレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が0.1mm以上1.5mm以下である硫化リチウムの製造方法。
10.
1.乃至9.いずれか一つに記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記反応容器の外部に前記硫化リチウムが生成する際に発生する水を捕捉する水回収部が設けられており、
前記水が前記水回収部へ凝縮しなくなるまで前記工程(B)をおこなう硫化リチウムの製造方法。
11.
1.乃至10.いずれか一つに記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記反応容器の内部に多孔性シートが配置されており、
前記粒子状の水酸化リチウムが前記多孔性シート上に配置されている硫化リチウムの製造方法。
12.
1.乃至11.いずれか一つに記載の硫化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)では、130℃以上445℃以下で前記反応ガスと前記水酸化リチウムを接触させる硫化リチウムの製造方法。