(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記体液試料が腫瘍切除後の被検者から経時的に採取された体液試料であり、前記体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量をモニタリングし、前記被検者の健康状態を経時的に評価する、請求項1に記載の方法。
前記被検者の体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量が増加傾向にある場合に、前記被検者の腫瘍巣が増大している若しくは新たな転移が生じている、若しくは腫瘍巣が増大する若しくは新たな転移を生じる可能性が高い、又は
前記被検者の腫瘍巣は増大しておらず、新たな転移も生じていないが、健康状態が悪化している若しくは悪化する可能性が高い、
と評価する、請求項2に記載の方法。
前記化学療法に使用される化学療法剤が、フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、カペシタビン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、イリノテカン、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブから選択される一種以上である、請求項4又は5に記載の方法。
体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量の測定を、吸光度法、インターカレート法、リアルタイムPCR法、デジタルPCR法、次世代シーケンサー法、又は電気化学的検出方法により行う、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
前記腫瘍が、転移性髄芽腫、消化管間質腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、結腸直腸癌、大腸癌、肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、慢性骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病、甲状腺癌、すい臓癌、膀胱癌、腎臓癌、黒色腫、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頚部癌、脳腫瘍、肝細胞癌、血液悪性腫瘍、又はこれらの癌を引き起こす前癌である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
前記被検者の健康状態を評価する際、化学療法の継続若しくは休止、又は使用する化学療法剤の変更を行うか否かの決定のための資料とされる、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
前記被検者が、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肺癌、肝癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、食道癌、頭頸部癌、子宮癌、及び子宮頸癌からなる群より選択される1種又は2種以上に罹患している、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、がん患者、特に腫瘍切除後のがん患者の健康状態、特に、腫瘍の再発や転移、化学療法の奏功性や副作用等を、組織生検採取よりも低侵襲な方法で採取した体液等のサンプル中のcfDNA量に基づいて評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、体液中のcfDNA量は、腫瘍切除処理により短期的に上昇するが、その後には低い水準で安定すること、また、腫瘍の再発や転移が生じたり、化学療法による副作用が生じた場合には上昇する傾向を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の第一態様に係る
体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量を健康状態の評価
のための指標とする方法は、腫瘍切除後の被検者から採取された体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量を測定し、
前記体液試料が、血液、血清、又は血漿であり、測定された前記セルフリーDNA量を、基準値と比較し、前記被検者の健康状態を評価し、前記基準値が
、前記被検者から前記腫瘍切除
から42〜90日が経過した時点に採取された体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量
であり、前記被検者の健康状態を評価する際、前記セルフリーDNA量が前記基準値よりも高い場合に、前記被検者の腫瘍巣が増大している若しくは新たな転移が生じている、若しくは腫瘍巣が増大する若しくは新たな転移が生じる可能性が高い、又は前記被検者の腫瘍巣は増大しておらず、新たな転移も生じていないが、健康状態が悪化している若しくは悪化する可能性が高い、と評価する。
上記第一態様において、前記体液試料が腫瘍切除後の被検者から経時的に採取された体液試料であり、前記体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量をモニタリングし、前記被検者の健康状態を経時的に評価してもよい。
上記第一態様において、前記被検者の体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量が増加傾向にある場合に、前記被検者の腫瘍巣が増大している若しくは新たな転移が生じている、若しくは腫瘍巣が増大する若しくは新たな転移を生じる可能性が高い、又は前記被検者の腫瘍巣は増大しておらず、新たな転移も生じていないが、健康状態が悪化している若しくは悪化する可能性が高い、と評価してもよい。
上記第一態様において、前記被検者が化学療法を受けており、前記被検者の健康状態を評価する際、前記セルフリーDNA量が前記基準値よりも高い場合に、前記化学療法による副作用が生じている若しくは生ずる可能性が高いと評価してもよい。
上記第一態様において、前記被検者が化学療法を受けており、前記被検者の健康状態を評価する際、前記セルフリーDNA量が前記基準値よりも高い場合に、前記化学療法が効果を奏していないと評価してもよい。
上記第一態様において、前記化学療法に使用される化学療法剤が、フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、カペシタビン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、イリノテカン、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブから選択される一種以上であってもよい
。
上記第一態様において、前記基準値が、血漿1mL当たり1000ngのセルフリーDNA量であってもよい。
上記第一態様において、体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量の測定を、吸光度法、インターカレート法、リアルタイムPCR法、デジタルPCR法、次世代シーケンサー法、又は電気化学的検出方法により行ってもよい。
上記第一態様において、前記腫瘍が、転移性髄芽腫、消化管間質腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、結腸直腸癌、大腸癌、肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、慢性骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病、甲状腺癌、すい臓癌、膀胱癌、腎臓癌、黒色腫、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頚部癌、脳腫瘍、肝細胞癌、血液悪性腫瘍、又はこれらの癌を引き起こす前癌であってもよい。
上記第一態様において、前記被検者の健康状態を評価する際、化学療法の継続若しくは休止、又は使用する化学療法剤の変更を行うか否かの決定のための資料とされてもよい。
【0010】
本発明の第二態様に係る体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量を抗がん剤に対する長期奏功性の予測のための指標とする方法は、
抗がん剤を投与された被検者から経時的に採取された2以上の体液試料について、単位量当たりのセルフリーDNA量を測定し、前記被検者の体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量をモニタリングし、得られた前記セルフリーDNA量を、予め設定された基準値と比較し、前記セルフリーDNA量が、前記基準値超から前記基準値以下にまで低下した場合、又は全ての体液試料の前記セルフリーDNA量が前記基準値以下の場合に、前記被検者は前記抗がん剤に対して長期奏功性が得られると予測し、前記セルフリーDNA量が、前記基準値以下の状態から前記基準値超にまで上昇した場合、又は全ての体液試料の前記セルフリーDNA量が前記基準値超の場合に、前記被検者は前記抗がん剤に対して長期奏功性が得られないと予測し、前記基準値が、前記被検者から腫瘍切除から42〜90日が経過した時点に採取された体液試料の単位量当たりのセルフリーDNA量であり、前記体液試料が、血液、血清、又は血漿である。
上記第二態様において、前記基準値が、血清又は血漿1mL当たり20ngのセルフリーDNA量であってもよい。
上記第二態様において、前記長期奏功性が、少なくとも6ヶ月、腫瘍組織の体積の増大、転移、又は再発が生じないことであってもよい。
上記第二態様において、前記被検者が、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肺癌、肝癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、食道癌、頭頸部癌、子宮癌、及び子宮頸癌からなる群より選択される1種又は2種以上に罹患していてもよい。
上記第二態様において、前記抗がん剤が、EGFR阻害剤及びVEGF阻害剤からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記態様に係る健康状態の評価方法により、腫瘍切除後の被検者の健康状態、特に腫瘍の再発や転移、化学療法の奏功性や副作用等を、生検等の侵襲的で負担の大きい検査を要することなく、比較的非侵襲的に感度よく評価することができる。
また、本発明の上記態様に係る抗がん剤に対する長期奏功性の予測方法により、抗がん剤治療を受けている被検者について、当該抗がん剤の長期奏効性を比較的非侵襲的に予測することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<健康状態の評価方法>
本発明の一実施形態に係る健康状態の評価方法は、体液中のcfDNA量を指標として用いて、腫瘍切除後の被検者の健康状態を評価することを特徴とする。具体的には、腫瘍切除後の被検者から採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量を測定する定量工程と、前記定量工程において得られた前記cfDNA量を、基準値と比較し、前記被検者の健康状態を評価する評価工程と、を有する。
【0014】
後記実施例で示すように、がん患者の末梢血等の体液中の単位量当たりのcfDNA量は、腫瘍の悪性度が高いほど多くなる。例えば、体液中の単位量当たりのcfDNA量は、腫瘍組織の体積が大きくなるほど多くなり、転移が生じると転移前よりも多くなり、再発すると再発前よりも多くなる。このため、体液中の単位量当たりのcfDNA量を、転移や再発の可能性等を評価するための指標として用いることができる。
【0015】
また、腫瘍患者が化学療法等の治療を受けている場合、当該治療が適切に奏功している場合には、当該患者において腫瘍の悪性化(腫瘍の増大又は新規転移)は抑制されている。そのため、体液中の単位量当たりのcfDNA量もさほど増大しない。一方で、当該治療が適切に奏功していない場合には、当該患者において腫瘍の増大等が進行する。その結果、体液中の単位量当たりのcfDNA量が増大する。すなわち、体液中の単位量当たりのcfDNA量は、化学療法等の治療の奏功性の評価又は予測のための指標となり得る。
【0016】
腫瘍患者が比較的重篤な副作用が問題となる化学療法を受けている場合、当該化学療法が奏功しており、腫瘍の増大等が抑制されている場合であっても、副作用により患者の健康状態が悪化すると、末梢血等の体液中の単位量当たりのcfDNA量は多くなる傾向にある。実際に、化学療法の副作用により肺炎など別の合併症を引き起こしている患者中のDNA量も増加する傾向にある。このため、体液中の単位量当たりのcfDNA量は、化学療法等の副作用の有無や副作用の強度の評価又は副作用のリスク予測のための指標にもできる。
【0017】
このように、腫瘍切除後のがん患者の健康状態、例えば、再発及びその可能性、転移及びその可能性、薬剤奏功状態、副作用の影響等について、体液中の単位量当たりのcfDNA量に基づいて評価することができる。なお、従来、がん患者の末梢血中のcfDNA量が、健常者に対して増加することは知られていた。しかしながら、この従来の知見と、薬剤奏功状態、転移、再発可能性、副作用状態などとに相関があることは未だ報告されていない。
【0018】
また、腫瘍切除後のがん患者においては、再発や転移が生じた場合には速やかに検出し適切な治療を施すことが重要である。このため、再発や転移の有無について、定期的に検査が行われる。この際、被検者への侵襲性やコスト等の点から、臨床実務上、CT(コンピュータ断層撮影)を高頻度に使うことはあまりされておらず、抹消血(血液)中のCEAやCA−19などのごく一般的な腫瘍マーカーをモニタリングする方法が用いられている(日本の公的保険では、CTは6ヶ月に1回、採血は月1回が認められている)。しかし、これらの腫瘍マーカーは、腫瘍が存在していても異常値を示さないことは稀ではない。また健常者であったり、腫瘍を持つ患者が腫瘍以外の疾患に罹患することによっても、しばしば基準値を超えてしまうことがあり、確度が低いという問題がある。本実施形態に係る健康状態の評価方法では、腫瘍切除後のがん患者を体液中の単位量当たりのcfDNA量に基づいて評価する。そのため、CEAやCA−19等の特定の腫瘍マーカーにのみ基づく場合よりも、比較的高い確度で信頼性の高い評価が期待できる。
【0019】
また、治療効果を予測する方法としては、例えば、EGFR阻害剤の治療効果予測因子としてKRAS遺伝子変異が用いられている。ただし、KRAS遺伝子変異がない患者においてもEGFR阻害剤が奏功しないケースも有る。また、術後再発をモニタリングする際には、原発巣がKRAS遺伝子変異型だった患者のケースに限定される。これに対して、本実施形態に係る健康状態の評価方法は、患者の遺伝子型にかかわらず薬剤奏功状態を評価することができる。そのため、腫瘍組織中の体細胞変異のステイタスを検出する必要がなく、化学療法剤の治療効果の予測に臨床上非常に有用である。このように、腫瘍組織中のKRASなどの癌関連遺伝子のステイタスではなく、血中のDNA量そのものを指標とし、化学療法が適切に作用しているかどうかを評価することは、本発明者らによってはじめて見出された知見である。特に、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)阻害剤の奏功性予測に利用可能な特異的な核酸マーカーは未だない。しかしながら、本実施形態に係る健康状態の評価方法により、VEGF阻害剤の治療効果の予測を行うこともできる。
【0020】
本実施形態に係る健康状態の評価方法の定量工程において、体液試料の単位量当たりのcfDNA量の測定方法は特に限定されず、DNAの定量的検出のために使用されている方法の中から適宜選択して用いることができる。当該方法としては、吸光度法、インターカレート法、リアルタイムPCR法、デジタルPCR法、次世代シーケンサー法、及び電気化学的検出方法等が挙げられる。これらの方法は常法により行うことができる。
【0021】
吸光度法やインターカレート法、電気化学的検出方法は、DNA測定において最も汎用性が高く簡便な方法である。吸光度測定によりDNA濃度を測定する場合は、体液試料から精製されたDNAを用いることが好ましい。体液試料からDNAの抽出・精製は、常法により行うことができ、市販されている一般的な抽出キット、精製キットを用いることもできる。また、インターカレート法に用いられる蛍光インターカレーターとしては、例えば、ピコグリーン、サイバーグリーン、エチジウムブロマイド、チアゾールオレンジ、オキサゾールイエロー等が挙げられる。
【0022】
また、リアルタイムPCR法やデジタルPCR法は、DNAの定量的検出を高感度に行える点で好ましい。また、デジタルPCRと同様の理論により、次世代シーケンサーを用いたcfDNA量の定量も可能である。但し、血清又は血漿中のDNAは断片化がおきていることが既に報告されており、PCR産物長が100〜200bp程度、若しくは100bp以下になるようにプライマーを設計することが好ましい。
【0023】
例えば、血液試料中のcfDNA量は、デジタルPCRを用いて検出することによって決定できる。特にバイオラッド社のドロップレットデジタルPCR(ddPCR)の技術(Hindson,et.al.,Analytical Chemistry,2011,vol.83(22),pp. 8604−8610)やRainDance Technologies社のデジタルPCR装置「RainDrop Digital PCR System」を利用することにより、高感度に検出することができる。ドロップレットの数が多ければ多いほど、解析精度が高くなる。充分な検出感度を担保するために、PCRのマスターミックス中の界面活性剤濃度を規定することが好ましい。例えば、DNA伸長酵素等の保存液として用いられるエチレングリコール又はグリセロールは、終濃度で0.15%以下、又はTriton−Xは、終濃度0.0003%以下であることが好ましい。当該界面活性剤が前記終濃度以上になると、エマルジョン数が激減し、高感度にPCR産物を検出することが困難になる。この場合、増幅する遺伝子箇所は、非遺伝子領域と遺伝子領域とのどちらでも任意の選択が可能である。
【0024】
その他の方法としては、例えば、血液試料中の核酸を鋳型としたリアルタイムPCR等により、特定の領域のプライマーをセットし、例えば、TCF4遺伝子中をコードする領域を含む断片を増幅した後、この増幅産物に対して、TCF4の特定の遺伝子型に特異的にハイブリダイズ可能なプローブを接触させて会合体が形成されたか否かを高感度に検出する方法が挙げられる。これらを行い、cfDNA量を定量することは可能である。
【0025】
前記プローブは、例えば放射性同位元素(
3H、
32P、
33P等)、蛍光剤(ローダミン、フルオレセン等)、又は発色剤で検出可能に標識される。また、当該プローブは、アンチセンスオリゴマー、例えばPNA、モルホリノ−ホスホロアミデート類、LNAであってもよい。なお、当該プローブの塩基長さは、約8ヌクレオチドから約100ヌクレオチド、好ましくは約10ヌクレオチドから約75ヌクレオチド、より好ましくは約15ヌクレオチドから約50ヌクレオチド、さらに好ましくは約20ヌクレオチドから約30ヌクレオチドである。
【0026】
なお、体液試料中のcfDNA量を測定するために使用される試薬をキット化することにより、本実施形態に係る健康状態の評価方法をより簡便に行うことができる。当該キットには、体液試料中のcfDNA量の測定方法についてのプロトコル、得られたcfDNA量に基づいて健康状態を評価するために使用される基準値や評価方法についての説明等が記載された書面等が含まれていてもよい。
【0027】
本実施形態に係る健康状態の評価方法の定量工程に供される体液試料としてはcfDNAが存在することが期待できる体液であれば特に限定されない。例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、細胞質ゾル、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液、及び気管支肺胞洗浄液等が挙げられる。本実施形態に供される体液試料としては、血液、血清、又は血漿が好ましく、血清又は血漿がより好ましい。本実施形態においては、原発巣切除等の生検採取処理による試料を必要としなくてもよいため、より低侵襲的に試料採取を行うことができる。
【0028】
また、本実施形態に係る健康状態の評価方法ではcfDNA量を指標にする。そのため、微量な体細胞変異を検出する方法よりも、必要とする体液試料を少量に抑えることができる。例えば、血漿又は血清では、1mLの試料があれば測定可能である。この点からも、本実施形態に係る健康状態の評価方法は、被検者への負担が小さく、臨床上好適である。
【0029】
本実施形態に供される体液試料は、腫瘍切除後の被検者から採取されたものであればよく、被検者の腫瘍の種類は特に限定されない。また、原発性腫瘍であってもよく、転移性腫瘍であってもよく、再発性腫瘍であってもよい。さらに、腫瘍が、被検者の体内の複数個所に存在していてもよい。当該腫瘍には、脳、肝臓、腎臓、膀胱、乳房、胃、卵巣、結腸直腸、前立腺、膵臓、乳房、肺、外陰部、甲状腺、結腸直腸、食道、及び肝臓の癌、肉腫、膠芽細胞腫、頭頸部癌、白血病並びにリンパ性悪性疾患が含まれる。より詳細には、神経芽細胞腫、腸癌(例えば、直腸癌、大腸癌、家族性大腸ポリポーシス癌及び遺伝性非ポリポーシス大腸癌)、食道癌、口唇癌、喉頭癌、下咽頭癌、舌癌、唾液腺癌、胃癌、腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺動脈乳頭癌、腎臓癌、腎実質癌、卵巣癌、頸癌、子宮体癌、子宮内膜癌、絨毛癌、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、乳癌、尿管癌、メラノーマ、脳腫瘍(例えば、膠芽細胞腫、星状細胞腫、髄膜腫、髄芽細胞腫及び末梢神経外胚葉性腫瘍)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病骨(AML)、慢性髄性白血病(CML)、成人T細胞白血病、肝細胞癌、胆嚢癌、気管支癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、多発性骨髄腫、基底細胞腫、奇形腫、網膜芽細胞腫、脈絡膜メラノーマ、精上皮腫、横紋筋肉腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyngeoma)、骨肉腫、軟骨肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、ユーイング肉腫及び形質細胞腫が含まれ得る。本実施形態に供される体液試料が採取される被検者の切除された腫瘍としては、転移性髄芽腫、消化管間質腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、結腸直腸癌、大腸癌、肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、慢性骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病、甲状腺癌、すい臓癌、膀胱癌、腎臓癌、黒色腫、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頚部癌、脳腫瘍、肝細胞癌、血液悪性腫瘍、又はこれらの癌を引き起こす前癌が好ましく、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、肝細胞癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腎臓癌、頭頸部癌、又は子宮頸癌がより好ましい。
【0030】
評価工程においては、定量工程において得られたcfDNA量を、基準値と比較し、前記被検者の健康状態を評価する。具体的には、被検者の体液試料の単位量当たりのcfDNA量が基準値よりも高い場合に、当該被検者は、腫瘍巣が増大している若しくは新たな転移を生じている、若しくは、腫瘍巣が増大する若しくは新規転移を生じる可能性が高い、又は当該被検者は、腫瘍巣は増大しておらず、新たな転移も生じていないが、健康状態が悪化している若しくは悪化する可能性が高い、と評価する。
【0031】
前記基準値は、下記(i)〜(iii)のいずれかである。
(i)予め設定された閾値。
(ii)前記被検者から腫瘍切除前に採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量、又は、前記被検者から腫瘍切除後1週間から3ヶ月までの期間に採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量。
(iii)前記被検者から前記体液試料の採取時までに採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量。
【0032】
前記(i)の閾値は、実験的に設定することができる。例えば、腫瘍の再発や転移が生じていることが他の診断方法により確定しているがん患者群から体液試料を採取する。また、腫瘍の再発や転移が生じていないことが他の診断方法により確定しているがん患者群又は健常者群から体液試料を採取する。両群の体液試料に対して、単位量当たりのcfDNA量を同じ測定条件で測定し、両群の測定値を比較することにより、両群を識別するための閾値を適宜設定することができる。健常者群に代えて、がん以外の疾患に罹患している患者群を用いてもよい。また、腫瘍の再発や転移が生じていることが他の診断方法により確定しているがん患者群に代えて、がんの発症が確認されている腫瘍切除処理前のがん患者群を用いてもよい。
【0033】
例えば、体液試料が血漿の場合、血漿1mL当たり500ngのcfDNAが検出された場合は、腫瘍の再発若しくは転移が生じている可能性がある。さらに、cfDNA値が750ngではその可能性がさらに高くなり、更にcfDNA値が1000ngを超えた場合には、確実性が高まる。このため、血漿1mL当たり1000ngのcfDNA値を基準値とすることができる。この場合、腫瘍切除後の被検者の血漿1mL当たりのcfDNA値が1000ngを超える場合には、当該被検者は、腫瘍の再発若しくは転移が生じている又はその可能性が高い、と評価される。なお、血漿と血清での基準値はほぼ同等である。
【0034】
また、腫瘍切除処理により体内における腫瘍組織の存在量が少なくなる一方で、腫瘍切除処理は侵襲性が高く、被検者の身体への負担が大きい。このため、一般的に、体液中のcfDNA量は、腫瘍切除処理直後に短期的に上昇した後、切除処理の影響が薄れると低い値で安定化する。そこで、評価工程で用いる基準値としては、この切除処理の影響から身体が回復した状態であり、かつ腫瘍の再発や転移等がまだ生じていない時期の体液試料の単位量当たりのcfDNA量を用いることができる。切除処理の影響からの回復には少なくとも1週間は必要となる場合が多く、通常は、腫瘍切除後1ヶ月から3ヶ月経過時までの間には、切除処理の影響から身体が回復する。そこで、この期間内に採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量を評価工程で用いる基準値として用いることができる。本実施形態における前記(ii)の基準値としては、腫瘍切除後1週間から3ヶ月までの間に被検者から採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量を用いることができる。好ましくは腫瘍切除後1ヶ月から3ヶ月までの間、より好ましくは腫瘍切除後40日から3ヶ月までの間、さらに好ましくは腫瘍切除後42〜90日までの間に、被検者から採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量が好ましい。ただし、被検者によっては、腫瘍切除処理前における体液中のcfDNA量のほうが、腫瘍切除処理後であって身体が回復した後の体液中のcfDNA量よりも低い場合もある。この場合には、被検者から腫瘍切除前に採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量を評価工程で用いる基準値として用いることが好ましい(前記(ii))。
【0035】
なお、腫瘍切除処理から1ヶ月程度以上経過している時点における被検者のcfDNA量は、手術侵襲の影響によるcfDNA量の増加は終了している。このため、当該期間内における体液中のcfDNA量が減少していない被検者においては、何等かの疾患的作用が起きており、このため、健康状態が悪化していると推定される。つまり、本実施形態に係る健康状態の評価方法において、腫瘍切除処理から1〜3ヶ月以内に被検者から採取された体液試料と、基準値として例えば前記(i)の値とを用いることもできる。この場合、定量された体液試料の単位量当たりのcfDNA量が当該基準値よりも高い場合に、当該被検者は何らかの疾患的作用が生じており、健康状態が悪化している若しくは悪化する可能性が高い、と評価することができる。当該評価により、CTの追加撮像や副作用の所見などがないかの医師の治療選択肢を提供することができる。
【0036】
評価工程で用いる基準値としては、同一の被検者から以前に採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量を用いることもできる(前記(iii))。当該基準値としては、腫瘍切除後に採取されたものが好ましい。例えば、腫瘍切除処理から3ヶ月経過後に採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量を基準として用いて、当該体液試料の採取後に採取された体液試料の評価を行うことができる。
【0037】
腫瘍切除後のがん患者の再発や転移の有無等は、できるだけ早く検出することが好ましい。そこで、本実施形態に係る健康状態の評価方法を、被検者から経時的に採取された体液試料に対して行い、被検者の体液試料の単位量当たりのcfDNA量をモニタリングし、当該被検者の健康状態を経時的に評価することが好ましい。被検者の体液試料の単位量当たりのcfDNA量が増加傾向にある場合には、当該被検者は、腫瘍巣が増大している若しくは新規転移を生じている、若しくは腫瘍巣が増大する若しくは新規転移を生じる可能性が高い、又は腫瘍巣は増大しておらず、新規転移も生じていないが、健康状態が悪化している若しくは悪化する可能性が高い、と評価することができる。通常、がん治療においては、腫瘍マーカー検査のための採血が、月に1回程度の頻度で行われている。そこで、腫瘍マーカー検査の血液サンプルの残余分を使用して経時的に本実施形態に係る健康状態の評価方法を行うことも可能である。いわゆる遺伝子検査とは異なり、血清又は血漿中のcfDNA量を定量すればよいため、試料量は少量でよい点からも、本実施形態は臨床的に実施しやすい。
【0038】
被検者が化学療法を受けている場合、腫瘍の増大又は新規転移は、当該化学療法が奏功していないことを意味する。このため、腫瘍切除後、被検者が化学療法を受けている場合には、定量工程で測定されたcfDNA量が、前記(i)〜(iii)のいずれかの基準値よりも高い場合に、当該化学療法が効果を奏していないと評価することができる。
【0039】
また、腫瘍の増大又は新規転移が生じていない場合であっても、治療行為等による副作用等によって健康状態が悪化すると、体液中のcfDNA量は増大する。そこで、腫瘍切除後、被検者が化学療法を受けている場合には、定量工程で測定されたcfDNA量が、前記(i)〜(iii)のいずれかの基準値よりも高い場合に、当該化学療法による副作用が生じている若しくは生ずる可能性が高いと評価することができる。
【0040】
抗がん治療において、化学療法は特に重篤な副作用が問題になる場合が多い。特に、副作用として、重度の皮膚障害や脱毛、(間質性)肺炎、又は腹膜炎などが引き起こされる。その結果、その後の薬剤治療の継続が困難な場合があり、休薬の判断が必要になるケースが多い。医師が休薬のタイミングを計るためにも、副作用の予測や評価は重要であるが、副作用を予測したり、早期に検出するための臨床適用可能なバイオマーカーは、従来知られていなかった。本実施形態に係る健康状態の評価方法は、cfDNA量を指標として用いることにより、健康状態の悪化を引き起こす副作用のリスク予測や早期検出が可能となる。
【0041】
例えば、体液試料が血漿であり、血漿1mL当たり1000ngのcfDNA値を基準値とした場合、腫瘍切除後で化学療法を受けている被検者の血漿1mL当たりのcfDNA値が1000ngを超える場合には、当該被検者は、当該化学療法により副作用が生じている若しくは生ずる可能性が高いと評価することができる。得られた評価は、化学療法の継続若しくは休止、又は使用する化学療法剤の変更を行うか否かの決定のための情報(資料)として有用である。例えば、血漿1mL当たりのcfDNA量が1000ng付近、又はそれを越えて増加傾向にある場合、休薬することによりその後の治療も安定し、抗がん治療をやりやすくなる。このように、本実施形態により得られる評価は、休薬を示唆できる予測指標として臨床上極めて有用である。なお、被検者が過去に化学療法剤を投与されたことがある場合には、前記評価工程で用いられる基準値として、当該化学療法剤が投薬された後60日間が経過した後に採取された体液試料の単位量当たりのcfDNA量を用いることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る健康状態の評価方法において、被検者が受ける化学療法で使用され、副作用や奏功状態の評価が行われる化学療法剤は、限定されず、細胞毒性又は細胞分裂阻害性を有する化合物であり得る。具体的には、(i)代謝拮抗剤、例えばフルオロウラシル、カペシタビン、シタラビン、フルダラビン、5−フルオロ−2’−デオキシウリジン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS−1)、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、又はメトトレキセート;(ii)DNA断片化剤、例えば、ブレオマイシン;(iii)DNA架橋剤、例えば、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、又はナイトロジェンマスタード;(iv)インターカレート剤、例えばアドリアマイシン(ドキソルビシン)、又はミトキサントロン;(v)タンパク合成阻害剤、例えば、L−アスパラギナーゼ、シクロヘキシミド、ピューロマイシン、又はジフテリア毒素;(vi)トポイソメラーゼI毒、例えばカンプトセシン、又はトポテカン;(vii)トポイソメラーゼII毒、例えばエトポシド(VP−16)、又はテニポシド;(viii)微小管関連剤、例えばコルセミド、コルヒチン、パクリタキセル(paclitexel)、ビンブラスチン、又はビンクリスチン;(ix)キナーゼ阻害剤、例えば、フラボピリドール、スタウロスポリン、STI571(CPG57148B)、又はUCN−01(7−ヒドロキシスタウロスポリン);(x)様々な治験薬、例えばチオプラチン(thioplatin)、PS−341、フェニルブチレート、ET−18−OCH3、又はファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(L−739749、L−744832);ポリフェノール類、例えばケルセチン、レスベラトロール、ピセタノール、エピガロカテキン没食子酸塩、テアフラビン類、フラバノール類、プロシアニジン類、ベツリン酸及びその誘導体;(xi)ホルモン、例えばグルココルチコイド又はフェンレチニド;(xii)抗ホルモン、例えばタモキシフェン、フィナステライド、又はLHRHアンタゴニストが含まれる。また、フォリン酸(ロイコボリン)、オキサリプラチン、イリノテカン、ダウナルビシン、タキソテール、及びマイトマイシンCも含まれる。さらに、セツキシマブ、パニツムマブ、ベバシヅマブ、ゲフィニチブ、エルロチニブ、レゴラフェニブ、クリゾチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、エベロリムス、トラスツズマブ、ラパチニブ、及びリツキシマブ等の分子標的薬剤も含まれる。これらの化学療法剤のうち1種のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。本実施形態において副作用や奏功状態が評価される化学療法剤としては、フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、カペシタビン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、イリノテカン、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブから選択される一種以上であることが好ましい。
【0043】
被検者は、化学療法以外の他の抗腫瘍療法を受けていてもよい。当該他の抗腫瘍療法としては、具体的には、放射線治療等が挙げられる。また、評価の対象となる化学療法剤とは異なる化学療法剤を用いた治療を過去に受けていてもよい。
【0044】
例えば、腫瘍切除後40〜90日経過時に被検者から採取された血漿の単位量当たりのcfDNA量を基準値とした場合に、被検者から採取された血漿の単位量当たりのcfDNA量が当該基準値よりも高い場合には、現治療が奏功していない可能性が高い、と評価できる。つまり、癌の再燃、つまり、転移又は再発が生じている可能性が高い、又は現治療により看過できない副作用が生じている可能性が高い、と評価できる。当該評価が得られた場合には、当該被検者にはCT撮像検査などを追加で行うことが好ましい。一方、逐次的に体液試料中のcfDNA量をモニタリングした場合に、cfDNA量が安定して低い、具体的には1mL中の血漿あたり1000ng以下にある場合、又は術前よりもcfDNA量が低い状態を保持している場合には、現治療で使用されている化学療法剤が奏功している、又は転移や再発のリスクも少なく、当該化学療法剤による何らかの副作用状態にもない可能性が高いと評価できる。
【0045】
<抗がん剤に対する長期奏功性の予測方法>
前述のように、体液中の単位量当たりのcfDNA量は、抗がん剤等の化学療法の治療の奏効性の評価又は予測のための指標とし得る。つまり、抗がん剤治療を受けた被検者の体液中の単位量当たりのcfDNA量を指標とすることにより、抗がん剤に対する長期奏功性を予測し得る。なお、「抗がん剤の長期奏効性」とは、抗がん剤を投与された被検者が、少なくとも6ヶ月、腫瘍組織の体積の増大、転移、又は再発が生じないことを意味する。
【0046】
すなわち、本実施形態に係る抗がん剤に対する長期奏功性の予測方法(以下、「本実施形態に係る予測方法」ということがある。)は、被検者から経時的に採取された2以上の体液試料について、単位量当たりのcfDNA量を測定し、前記被検者の体液試料の単位量当たりのcfDNA量をモニタリングするモニタリング工程と、前記モニタリング工程において得られた前記cfDNA量を、予め設定された基準値と比較し、前記被検者の抗がん剤に対する長期奏功性が得られるか否かを予測する予測工程と、を有する。
【0047】
抗がん剤が長期奏効性を示し、腫瘍の悪化が抑制されている状態では、がん患者の体液試料の単位量当たりのcfDNA量は少ない傾向にある。また、抗がん剤が奏効しておらず、腫瘍が悪化する状態では、当該cfDNA量は多くなる傾向にある。そこで、予測工程においては、被検者の体液試料の単位量当たりのcfDNA量が、前記基準値を超える状態から前記基準値以下にまで低下した場合、又は全ての体液試料のcfDNA量が前記基準値以下の場合に、当該被検者は服用していた抗がん剤に対して長期奏功性が得られると予測する。逆に、被検者の体液試料の単位量当たりのcfDNA量が、前記基準値以下の状態から前記基準値を超える状態まで上昇した場合、又は全ての体液試料のcfDNA量が前記基準値を超える場合に、当該被検者は投与されていた抗がん剤に対して長期奏功性が得られないと予測する。
【0048】
予測工程において用いられる基準値は、例えば、予め実験的に設定することができる。
例えば、抗がん剤を服用しているがん患者のうち、腫瘍の組織増大、再発、及び転移が生じておらず、当該抗がん剤が奏効していることが他の診断方法により確定しているがん患者群から体液試料を採取する。また、腫瘍の組織増大、再発、又は転移のいずれかが生じており、当該抗がん剤が奏効していないことが他の診断方法により確定しているがん患者群から体液試料を採取する。両群の体液試料に対して、単位量当たりのcfDNA量を同じ測定条件で測定し、両群の測定値を比較することにより、両群を識別するための閾値を適宜設定することができる。
【0049】
例えば、体液試料が血清の場合、血清1mL当たり20ngのcfDNA値を基準値として用いることができる。この場合、被検者の血清1mL当たりのcfDNA値が20ngを超える場合には、当該被検者において、服用している抗がん剤では長期奏功性が得られないと予測される。
【0050】
当該予測工程における予測は、被検者が抗がん剤の継続若しくは休止、又は使用する抗がん剤の変更を行うか否かの決定のための資料とすることができる。たとえば、抗がん剤治療を受けている被検者において、当該抗がん剤の使用を継続するか否かを判断する際に、当該予測工程において当該抗がん剤が長期奏効性ありと予測された場合には、当該抗がん剤の使用を継続すると判断することができる。また、当該抗がん剤が長期奏効性なしと予測された場合には、当該抗がん剤の使用を中止する、又は他の抗がん剤へ変更すると判断することができる。
【0051】
本実施形態に係る予測方法において、抗がん剤の長期奏効性を予測する対象の被検者は、分子治療薬を含む抗がん剤が投与された患者であればよい。罹患している腫瘍の種類は特に限定されず、体内の複数個所に存在する腫瘍であってもよい。また、原発性腫瘍であってもよく、転移性腫瘍であってもよく、再発性腫瘍であってもよい。当該腫瘍の種類としては、本実施形態に係る健康状態の評価方法の被検者が罹患している腫瘍として例示されたものが挙げられる。本発明に係る予測方法において予測対象の被検者としては、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肺癌、肝癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、食道癌、頭頸部癌、子宮癌、及び子宮頸癌からなる群より選択される1種又は2種以上に罹患している被検者が好ましい。
【0052】
本実施形態に係る予測方法において、長期奏功性を予測する対象の抗がん剤は、特に限定されるものではなく、本実施形態に係る健康状態の評価方法において、被検者が受ける化学療法で使用され、副作用や奏功状態の評価が行われる化学療法剤と同様のものが挙げられる。
本実施形態に係る予測方法においては、中でも、EGFR阻害剤及びVEGF阻害剤からなる群より選択される1種以上の抗がん剤の長期奏功性の予測に好適に用いられる。
【0053】
本実施形態に係る予測方法において、供される体液試料としては、被検者から採取された血液そのものであってもよい。特に、血清又は血漿が好ましい。血液試料としては、がん治療において腫瘍マーカー検査のために採血された血液サンプルの残余分を用いることができる。ただし、モニタリング工程の途中では、供される体液試料の種類の変更は行わないことが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る予測方法のモニタリング工程における体液試料の単位量当たりのcfDNA量の測定方法としては、本実施形態に係る健康状態の評価方法におけるcfDNA量の測定方法として例示されたものが挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下の試験は、日本医科大学付属病院内の倫理審査委員会で承認されており、全ての患者からは本研究を包含するインフォームドコンセントを得て行った。
【0056】
[実施例1]
既に原発巣は切除されており、新たに転移巣(肝臓)を外科的切除した大腸癌患者6名(A〜F)について、術前、術後に経時的に採取された血液から調製された血漿に含まれるcfDNA濃度を、市販のキット(製品名:Qubit2.0(Life Technologies社製))を用いて蛍光測定し、cfDNA濃度を算出した。得られた値から血漿1mL当たりのcfDNA量を算出した。以下に詳細を説明する。
【0057】
(臨床サンプル)
既に原発巣は切除されており、新たに転移巣(肝臓)の外科的切除手術の術前又は術後に、再発性大腸癌患者の末梢血6〜9mLを採血した。得られた血液を遠心分離処理(1500rpm、10分間)した。得られた粗血漿成分をさらに追加で遠心分離処理(1500rpm、10分間)した。その後、細胞断片を除去した上清部を回収し、これを血漿サンプルとした。
【0058】
(血漿中のCEA及びCA−19−9の測定)
血漿中のCA−19−9、CEAを、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)により測定した。CA−19−9の基準値は、37U/mL以下、CEAの基準値は5.0ng/mL以下とした。
【0059】
(血漿からのcfDNAの単離精製)
血漿からのcfDNAの単離精製は、QIAamp Circulating Nucleic Acid Kit(キアゲン社製)を用いて行った。本キットに供した血漿サンプルの量は、1mLとした。DNAの単離精製工程は、キットに付属されているインストラクションに従った。スピンカラムからの最終溶出は、TE緩衝液50μLを用いて行った。
【0060】
(cfDNAの定量)
cfDNAの定量は、Qubit(登録商標) Fluorometer(Life Technologies社製)を用いて行った。測定するサンプルは全て、単離したDNAを所定の反応液で200倍に希釈して用いた。
【0061】
本試験における患者情報とcfDNA量等の測定結果とについて表1に示す。また、各患者の経時的なDNA量について
図4〜9に示す。表1中、「術後7d」は、肝切除手術後7日目付近で採血した結果を示す。表1中、「術後1−2m」、「術後3−4m」、「術後6m」、及び「術後9m」は、それぞれ、肝切除手術後1〜2ヶ月経過後付近、肝切除手術後3〜4ヶ月経過後付近、肝切除手術後6ヶ月経過後付近、肝切除手術後9ヶ月経過後付近で採血した結果を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
患者A及びCは、いずれも肝切除手術前に、FOLFOX化学療法(フルオロウラシル・フォリン酸・オキサリプラチン)を行っていた。具体的には、400mg/bodyのフォリン酸(ロイコボリン)と、85mg/bodyのオキサリプラチンとを、2時間かけて点滴静脈内投与した。その後、フルオロウラシル(5−FU)を、400mg/bodyを急速点滴静脈内投与し、さらに2,400mg/bodyを46〜48時間持続点滴静脈内投与した。投与レジメンを
図1に示す。
【0064】
患者B及びFは、いずれも肝切除手術前に、mFOLFOX+パニツムマブの併用療法を
図2に示すレジメンにて行った。パニツムマブ(6mg/kg)を60分間以上かけて点滴静注した。その後、ロイコボリン(400mg/m
2)とオキサリプラチン(85mg/m
2)とを120分間かけて点滴静注した。続けて、5−FU(400mg/m
2)を急速静注し、5−FU(2,400mg/m
2)を46〜48時間かけて持続静注した。また、患者Bに対しては、肝切除手術後にも、
図2と同様のレジメンにてmFOLFOX+パニツムマブの併用療法を行った(表中、「ケモ開始」)。
【0065】
患者Dに対しては、ベバシズマブ併用XELOX化学療法(オキサリプラチン・カベシタビン)を行った(表中、「ケモ開始(XELOX)」)。レジメンを
図3に示す。1日目は、午前中にベバシズマブ(7.5mg/kg)を静注し、続けてオキサリプラチン(130mg/m
2)を120分間以上かけて静注した。さらに、夕食後にカペシタビン(850〜1000mg/m
2)経口投与した。2〜14日目までは、1日2回(朝・夕食後)カペシタビン(850〜1000mg/m
2/回)経口投与した。15日目以降、朝食後にのみカペシタビン(850〜1000mg/m
2)経口投与した。16〜21日目を休薬とし、1サイクルとした。
【0066】
患者Eに対しては、化学療法を行わなかった。
【0067】
患者A、C、E、F(
図4、6、8、9)は、予後が良く、抗がん剤治療も奏功していた。それぞれの術後1〜2ヶ月経過後付近のcfDNA量は低く、その後の追跡においても急激な上昇は認められなかった。
【0068】
全患者に共通していることは、術後1週間程度では、手術による侵襲からcfDNA濃度は高く、少なくとも血漿1mL中に1000ngのcfDNAが存在していた。このため、この時点のcfDNA量を前後の比較対象とすると判断を誤る可能性が高い。そのため、評価に用いる基準値としては、少なくとも術後1週間以上経過しており、好ましくは30日間以上、より好ましくは40日間以上経過した時点で採取した体液試料の測定値であることが好ましいことが確認された。
【0069】
一方、患者B(
図5)は、術後再発を起こしていた。患者Bについては、術後、CTにより肝再発は確認されなかった。しかしながら、術後1〜2ヶ月経過後付近に肺転移が観察され、術後3〜4ヶ月経過後付近では、血漿1mL当たりのcfDNA量が約800ngも増加しており、血漿1mL当たり1000ngを超過していた。つまり、血漿中のcfDNA量は、肺転移に伴って増加する傾向が認められた。さらに、化学治療を開始してからは減少傾向が観察されており、血漿中のcfDNA量が化学治療の奏功にも応答していることが読み取れた。一方で、CEAとCA−19は、一貫して正常値を保持しており、転移に対して全く応答していなかった。この結果から、CEAやCA−19といった従来の腫瘍マーカーの検査では検出できない転移であっても、体液中のcfDNA量を指標とすることによって高感度に検出できることが明らかである。
【0070】
患者D(
図7)では、2014年11月に実施したCTでは転移は確認されなかった。しかしながら、その後の2015年1月に実施したPET−CTでは転移が確認された。患者Dでは、転移が確認される前の術後1〜2ヶ月経過後付近から血漿1mL当たりのcfDNA量が高くなっており、化学治療を開始してからは減少傾向が観察された。つまり、CT撮像よりも1ヶ月先にcfDNA量の顕著な増加が観察された。CEA及びCA−19は、術前から異常値を示していたものの、術後の数値はほとんど変化せず、一定であり、転移に関しては全く応答していなかった。この結果からも、体液中のcfDNA量の上昇が、腫瘍の転移や再発を予測できることが明らかである。
【0071】
このように、がん患者のcfDNA量は、リアルタイムの腫瘍状態を反映している可能性があり、少なくともCEAやCA−19などの腫瘍マーカーよりも、転移への堅調な応答性を確保していることが明らかになった。
【0072】
[実施例2]
実施例1の患者とは別の患者(患者G)であって、原発巣(肝臓)を外科的切除した大腸癌患者について、経時的に採血し、血漿1mL当たりのcfDNA量を測定した。cfDNA量の測定は実施例1と同様にして行った。患者Gに関する臨床情報及び血漿1mL当たりのcfDNA量(ng)の変化を
図10に示す。当該患者は、実施例1の患者Bと同様に、mFOLFOX+パニツムマブの併用療法を
図2に示すレジメンにて行ったが、副作用により肺炎をおこした。肺炎の重篤度に伴い、cfDNA量が応答して高くなったが、休薬すると、患者の肺炎は改善し、cfDNA量も一気に低下した。肺炎が改善した後に再びmFOLFOX+パニツムマブの併用療法を続けたところ、当該併用療法は安定して奏功していた。また、副作用も落ち着いており、血漿中のcfDNA量も低下していた。患者の奏功状態としては、転移があるもののSD(病状安定化)を保持していた。これらの結果から、化学療法の副作用により肺炎など別の合併症を引き起こしている患者の体液中のcfDNA量は増加する傾向にあることが推測可能であることが示された。また、cfDNA量を追跡することにより医師が休薬のタイミングを計ることも可能であることが示された。
【0073】
[実施例3]
原発巣を外科的切除後に再発した大腸癌患者8名について、血清中のDNA量(cfDNA量)を経時的に測定し、さらに、腫瘍の状態をCTにより観察した。これらの患者について、予め、原発巣、転移巣、及び転移巣確認後に採取された血液から調製された血清に含まれるKRASについて、ノンシノニマスなアミノ酸置換を伴う突然変異を調べた。
【0074】
(臨床サンプル)
原発巣の外科的切除手術の術前又は術後に、再発性大腸癌患者の末梢血6〜9mLを採血後、遠心分離処理(3,000rpm、10分間)を行い、血清成分を得た。また、一部の患者の原発巣、転移巣のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)切片も実験サンプルとした。
【0075】
(血清からのセルフリー(cf)DNAの単離精製)
血清からのcfDNAの単離精製は、QIAamp Circulating Nucleic Acid Kit(キアゲン社)を用いて行った。本キットに供した血清サンプルの量は、患者によって異なり、2mL〜4mlであった。DNAの単離精製工程は、キットに付属されているインストラクションに従った。スピンカラムからの最終溶出は、TE緩衝液50μLを用いて行った。
【0076】
(FFPE切片からのDNAの単離精製)
FFPE切片からのDNA単離精製は、QIAamp DNA FFPE Tissue Kit(キアゲン社)を用いて行った。1サンプルにつき、10μmにスライスされたFFPE切片を3枚用いた。DNAの単離精製工程は、キットに付属されているインストラクションに従った。スピンカラムからの最終溶出は、TE緩衝液100μLを用いて行った。
【0077】
(DNAの定量)
cfDNA及びFFPE切片から単離精製したDNAの定量は、Quant−iT(登録商標)PicoGreen(登録商標)dsDNA Reagent and Kits(invitorogen社)を用いて行った。測定するサンプルは全て、単離したDNAをTE緩衝液で20倍に希釈して用いた。蛍光測定装置は、SAFIRA(TECAN社)を用いた。結果を表2に示す。
【0078】
(ダイレクトシークエンシング)
原発巣や転移巣の手術標本、並びに原発巣の外科的切除手術の術前又は術後に採取された血清中のKRAS塩基配列解析は、ダイレクトシークエンシングにて行った。より詳細には、KRASの塩基配列に特異的なプライマーを用い、ビッグダイターミネーター法によるサイクルシークエンシングを常法により行った。結果を表2に示す。
【0079】
(血清中のCA−19−9の測定)
血清中のCA−19−9を、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)により測定した。測定結果を表2に示す。
【0080】
(抗がん剤投与)
FFPE組織中にKRAS遺伝子変異が認められなかったケースに関しては、セツキシマブを、KRAS遺伝子変異が観察された患者にはベバシズマブを、それぞれ投与した。
ベバシズマブを投与した場合の投与レジメンを
図11に示す。
【0081】
具体的には、原発巣がKRAS変異型である患者に対して、抗VEGF阻害剤であるベバシズマブとFOLFOX化学療法(フルオロウラシル・フォリン酸・オキサリプラチン)を行った。ベバシズマブ2週間間隔投与法で行い、5mg/kgを投与速度0.5mg/kg/分(5mg/kgでは10分)にて点滴静脈内投与を行った。投与時間は、初回90分間、忍容性により、2回目60分間、3回目以降30分間投与とした。FOLFOX化学療法は、400mg/bodyのフォリン酸(ロイコボリン)と、145又は140mg/bodyのオキサリプラチンとを、2時間かけて点滴静脈内投与した。その後、フルオロウラシル(5−FU)は、675又は650mg/bodyを急速点滴静脈内投与した後、さらに4,100mg/bodyを22時間持続点滴静脈内投与した。
【0082】
原発巣がKRAS野生型である患者に対しては、セツキシマブあるいはマニツムマブとFOLFOX(フルオロウラシル・フォリン酸・オキサリプラチン)あるいはFORFIRI(フルオロウラシル・フォリン酸・イリノテカン)とによる化学療法を行った。セツキシマブは2週間間隔投与法で、800mg/bodyを1時間かけて点滴静脈内投与を行った。FOLFOX化学療法は、350mg/bodyのフォリン酸(ロイコボリン)と、140mg/bodyのオキサリプラチンとを、2時間かけて点滴静脈内投与した。その後、フルオロウラシル(5−FU)を、650mg/bodyを急速点滴静脈内投与し、さらに4,110mg/bodyを22時間持続点滴静脈内投与した。
【0083】
(治療効果)
各患者について、大腸のCT撮像結果から、治療効果を、PD(進展性)、PR(部分寛解)、CR(完全寛解)の3段階に分けて評価した。評価結果を表2に示す。表2の備考欄中の「切除」は、腫瘍組織の切除手術を行ったことを意味する。
【0084】
【表2】
【0085】
より詳細には、ケース7の患者は、2013年1月31日からセツキシマブとFOLFOX化学療法を開始し、2015年4月16日までPRであった。つまり、ケース7の患者では、抗がん剤治療は、cfDNA量の低下が確認された2013年8月29日から約1年8カ月程度、抗がん剤治療開始から約2年もの長期間奏効した。
また、ケース10の患者は、2013年7月15日にセツキシマブとFOLFOX化学療法を開始し、2015年2月5日までPRであった。つまり、ケース10の患者では、抗がん剤治療は、cfDNA量の低下が確認された2013年11月27日から約1年2カ月程度、抗がん剤治療開始から約1年6カ月もの長期間奏効した。
ケース13の患者は、2012年6月19日にセツキシマブとFOLFOX化学療法を開始し、少なくとも2014年5月16日までPRであったが、2014年8月6日に再発が確認された。つまり、ケース13の患者では、抗がん剤治療は、cfDNA量の低下が確認された2013年8月8日から約9カ月程度、抗がん剤治療開始から約2年もの長期間奏効した。
ケース5の患者は、2012年8月22日から同年9月2日まで、2013年2月20日から同年3月3日まで、及び2013年10月30日から同年11月10日まで、ベバシズマブとFOLFOX化学療法を行った。当該患者では、2012年9月2日の時点でPRを確認し、2013年12月20日までPRであることが確認できた。
【0086】
この結果、治療効果がPR又はCRであり、抗がん剤の奏効性が確認されたがん患者(ケース5、7、10、及び13)の最終採血日における血清中のcfDNA量の平均値は、9.8ng/mLであり、標準偏差は、3.40ng/mLとばらつきは少なかった。つまり、少なくとも奏功しているケースでは血中のcfDNA量は、非常に少ないことがわかった。一方で、治療効果がPDであり、抗がん剤が非奏効であったがん患者(ケース1、4、6、及び8)では、最終採血日における血清中のcfDNA量の平均値は、100ng/mLを超えており、ばらつきが大きい結果となった。実際の判断基準としては、奏功しているケースでの平均値+3σが、非奏功のケースの最小値のDNA量以下であるため、妥当である。すなわち、判断指標としては、EGFR阻害剤又はVEGF阻害剤の治療が奏功している指標として、血清中のcfDNA量の基準値は、20ng/mLと設定できた。
【0087】
また、非奏功であったケース4のがん患者の原発巣切除手術前のcfDNAからは、結果的に原発巣と同様のKRAS遺伝子変異(G12A)が観察された。しかしながら、原発巣切除手術後のcfDNA中からは、G12Aは検出されなかった。しかし、術後、血清KRASからG12Aが検出され、4ヶ月後に再発し、ベバシズマブとFOLFIRIとは奏効しなかった。ケース4のがん患者のモニタリングによるcfDNA量は87.3ng/mLと比較的高濃度であった。ケース4のがん患者のCT撮像図を
図12に示す。
【0088】
ケース5のがん患者は、顕著なベバシズマブ+FOLFOX併用療法が長期に奏効した症例であった。当該患者は、腫瘍縮小率(縮小効果)が半年以上、変化しない状態を維持した。腫瘍縮小率はCT画像の腫瘍の直径から算出し、腫瘍が多点的に存在する場合は、それらの直径を合計して算出した。ケース5のがん患者のCT撮像図を
図13に示す。図中、矢印は腫瘍再発部分を示す。当該患者の最終採血日における血清中のcfDNA量は5.7ng/mLであった。
【0089】
実施例における再発大腸癌患者におけるEGFR阻害剤又はVEGF阻害剤を含む治療の奏功性の簡便な予測において、末梢血、特に血清又は血漿中を循環しているDNA量を定量することは、サンプル量が少なくてすむこと、簡便な検査方法であることに鑑み有用である。また、それらcfDNA量の変動を追跡することにより、治療が適切に働いているかを医師が確認できる。さらに、一般的な腫瘍マーカーである、CA19−9等の既存のバイオマーカーと同様に治療が適切に働いているかを精度良く確認できた。