特許第6837654号(P6837654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6837654
(24)【登録日】2021年2月15日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】透明な酸性乳性飲料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20210222BHJP
   A23L 2/70 20060101ALI20210222BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20210222BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20210222BHJP
   C12G 3/00 20190101ALN20210222BHJP
【FI】
   A23L2/00 B
   A23L2/00 K
   A23L2/38 P
   A23C9/13
   !C12G3/00
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-191803(P2016-191803)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-50554(P2018-50554A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208086
【氏名又は名称】大洋香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】望月 好子
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜一
(72)【発明者】
【氏名】中出 啓一
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭51−033182(JP,B1)
【文献】 特表2004−520851(JP,A)
【文献】 特表2003−515353(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/111383(WO,A1)
【文献】 特表平11−512604(JP,A)
【文献】 特開平08−154652(JP,A)
【文献】 特公昭49−020508(JP,B1)
【文献】 特表2013−521779(JP,A)
【文献】 特開平05−219884(JP,A)
【文献】 透明なのに「カルピス」の乳酸菌が入っている新しい健康水『アサヒ おいしいプラス 「カルピス」の乳酸菌』新発売,アサヒ飲料株式会社 ニュースリリース2016年, 2016年6月7日,p.1-2,https://www.asahiinryo.co.jp/company/newsrelease/2016/pick_0607_2.html, 検索日:2020/5/20
【文献】 「サントリー 南アルプスの天然&ヨーグリーナ」新発売,サントリー食品インターナショナル株式会社 ニュースリリース, 2015年2月26日,p.1-2,https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/d/sbf0246.html#, 検索日:2020/5/20
【文献】 Milk Science, 2001年,Vol.50, No.3,p.107-112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−2/84
A23C 9/13
C12G 1/00−3/08
C12H 6/00−6/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳、及び水を配合すると共に、pH調整剤を添加してpH2.5〜pH3.3となる中間飲料を調製するpH調製処理と、
前記中間飲料を、80℃〜85℃で行う加熱処理とからなり、
増粘多糖類若しくは大豆多糖類からなる安定剤が配合されず、
pH2.5〜pH3.3であり、
無脂乳固形分の含有量が0.01重量%〜0.02重量%であり、
OD660nm値が0.02以下である
ことを特徴とする透明な酸性乳性飲料の製造方法。
【請求項2】
殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳、及び水を配合すると共に、pH調整剤を添加してpH2.5〜pH3.3となる中間飲料が調製され、
前記中間飲料が、80℃〜85℃で加熱され、
増粘多糖類若しくは大豆多糖類からなる安定剤が配合されず、
pH2.5〜pH3.3であり、
無脂乳固形分の含有量が0.01重量%〜0.02重量%であり、
OD660nm値が0.02以下である
ことを特徴とする透明な酸性乳性飲料。
【請求項3】
殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳を原料とした酸性乳性飲料に、透明な外観、及び自然なヨーグルトコク味を付与する方法であって、
増粘多糖類若しくは大豆多糖類からなる安定剤を配合せず、
殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳、及び水を配合すると共に、pH調整剤を添加してpH2.5〜pH3.3となる中間飲料を調製するpH調製処理と、
前記中間飲料を、80℃〜85℃で加熱を行う加熱処理とを含み、
無脂乳固形分の含有量が0.01重量%〜0.02重量%であって、pH2.5〜pH3.3、およびOD660nm値が0.02以下の酸性乳性飲料とする
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な酸性乳性飲料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、殺菌乳酸菌飲料等が配合された乳性飲料は、白濁した状態で市場に供給されており、乳性飲料といえば白濁した飲料という印象が需要者にも持たれていた。そして、このような乳性飲料の白濁した状態を保つため、飲料中の乳蛋白が沈殿せずに分散状態を安定に保持させることを目的として、HMペクチンや大豆多糖類等の安定剤が使用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−056960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが近年、白濁した殺菌乳製品飲料を原料とした酸性乳性飲料においても、水のように透明な外観を備える飲料が求められるようになった。
【0005】
また、従来透明飲料を製造するには、発酵乳、乳酸菌飲料を原料として使用することは難しく、発酵乳又は乳酸菌飲料に基づく自然なヨーグルトのコク味に近い香り成分を有する香料で風味をつけることが一般的であったが、このような香料で付加された風味は人工的な風味に感じられるといった問題があった。
【0006】
しかし、従来からの増粘多糖類若しくは大豆多糖類からなる安定剤が配合された乳性飲料の製造方法を改良しても、白濁の度合いをある程度低くすることはできても、水のように透明でクリアな色調を実現することはできなかった。また、従来の安定剤が配合された乳性飲料は、乳成分を含まない清涼飲料水に比べて粘性が高くなる傾向があり、水のようなさらりとした飲み口が損なわれてしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上記課題を解決する手段を次に示す。
〔1〕 殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳、及び水を配合すると共に、pH調整剤を添加しpH2.5〜pH3.3となる中間飲料を調製するpH調製処理と、前記中間飲料を、80℃〜85℃で行う加熱処理とからなり、増粘多糖類若しくは大豆多糖類からなる安定剤が配合されず、pH2.5〜pH3.3であり、無脂乳固形分の含有量が0.01重量%〜0.02重量%であり、OD660nm値が0.02以下であることを特徴とする透明な酸性乳性飲料の製造方法。
〔2〕 殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳、及び水を配合すると共に、pH調整剤を添加しpH2.5〜pH3.3となる中間飲料が調製され、前記中間飲料が、80℃〜85℃で加熱され、増粘多糖類若しくは大豆多糖類からなる安定剤が配合されず、pH2.5〜pH3.3であり、無脂乳固形分の含有量が0.01重量%〜0.02重量%であり、OD660nm値が0.02以下であることを特徴とする透明な酸性乳性飲料。
〔3〕 殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳を原料とした酸性乳性飲料に、透明な外観、及び自然なヨーグルトコク味を付与する方法であって、増粘多糖類若しくは大豆多糖類からなる安定剤を配合せず、殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳、及び水を配合すると共に、pH調整剤を添加してpH2.5〜pH3.3となる中間飲料を調製するpH調製処理と、前記中間飲料を、80℃〜85℃で加熱を行う加熱処理とを含み、無脂乳固形分の含有量が0.01重量%〜0.02重量%であって、pH2.5〜pH3.3、およびOD660nm値が0.02以下の酸性乳性飲料とすることを特徴とする方法。

【0008】
OD660nm値とは、波長660nmにおけるOD(Optical Density)値をいう。
【0009】
前記増粘多糖類若しくは大豆多糖類からなる安定剤は、C(HO)の分子式で表される炭水化物の重合体によって構成されてなるものを指し、カゼインは含まない。
【0010】
ここで、特許請求の範囲に係る請求項3及び請求項4において、本発明に係る透明な酸性乳性飲料を製造方法で表すが、これは、酸性乳性飲料に含まれる乳蛋白そのものの成分分析又は、形状の顕微鏡観察が理論上可能であり、これにより乳蛋白の存在を証明することができたとしても、例えば、個々の乳蛋白の成分・大きさ・形状がどのようなものであれば酸性乳性飲料としては透明であること、すなわち人間の目には乳蛋白の存在がわからない状態であることを証明することは不可能か、又はおよそ実際的ではないという事情があることに基づく。また、OD660nm値が所定の値となるように個々の乳蛋白粒子を加工することも不可能、又はおよそ実際的でないことからも、酸性乳性飲料が所定のOD660nm値を示すための製造方法で、本発明に係る酸性乳性飲料を記載する必要があった。
【0011】
使用する殺菌乳酸菌飲料の性状としては、無脂乳固形分として3〜7重量%程度のものが望ましい。さらに、殺菌乳酸菌飲料は、ショ糖や果糖、ぶどう糖等の糖類を配合し糖安定させたものであることが好ましい。糖安定させた殺菌乳酸菌飲料の最終糖度としてBrix45〜70°であることが好ましい。Brixの値をこのような値とすることで乳蛋白の水分活性を抑制し、飲料としての賞味期限を延ばすことができる。
【0012】
また使用する発酵乳の性状に関しては、同様の理由で安定剤不使用品であり且つ、無脂乳固形分として8〜20重量%程度のものが望ましい。
【0013】
前記殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳が配合されてなる酸性乳性飲料中の無脂乳固形分(主成分;乳糖、乳蛋白)は0.01重量%から0.02重量%が適当である。酸性乳性飲料中の無脂乳固形分が0.02重量%よりも高くなると、乳蛋白電荷バランスの不拮抗による凝集やそれに伴う沈殿が生じやすくなる可能性があるからである。また、適切なpH調整に必要となる酸味料の配合量が必然的に多くなることによる酸味強度の増大による嗜好性低下が飲料として問題となるからである。一方で、本発明は、酸性乳性飲料に係るものであるため、無脂乳固形分は乳性飲料としての乳風味を与えるために必要な成分であり、酸性乳性飲料中の無脂乳固形分が0.01重量%より少ないと、乳性飲料としての乳風味が感じられにくくなるという問題が生じる。
【0014】
殺菌乳酸菌飲料及び発酵乳は、原料乳類に乳酸菌やビフィズス菌等の微生物を作用させて得られるものであり、殺菌乳酸菌飲料は発酵乳を一部に含む飲料をいう。発酵乳を得る方法としては、例えば乳酸菌スターターを原料乳類に対して接種し、通常行われている乳酸発酵の条件により発酵する方法が挙げられ、その方法により得られる乳酸発酵乳を発酵乳として用いることができる。発酵乳には、生菌タイプのもの、及び前記生菌タイプのものを殺菌して得られる死菌タイプのものが含まれる。
【0015】
上記殺菌乳酸菌飲料及び発酵乳の原料乳類としては、例えば、牛乳、山羊乳、羊乳等の動物由来の液状乳、脱脂粉乳、全粉乳あるいは粉乳、濃縮乳から還元した乳が挙げられる。
【0016】
原料乳類に作用させる乳酸菌やビフィズス菌等の微生物としては、特に限定されないが、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・マリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.ブルガリカス、ラクトバチルス・ヘルベティカス等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス等のラクトコッカス属細菌、ロイコノストク属細菌、エンテロコッカス・フェカリス等のエンテロコッカス属細菌、あるいは、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム等のビフィドバクテリウム属細菌、バチルス属、アセトバクター属等の細菌類、サッカロミセス属、ピキア属等の酵母類等を挙げることができ、いずれも使用することが出来る。これら微生物は単独使用もしくは2種以上を併用してもよい。
【0017】
酸性乳性飲料のpHが2.5よりも更に低下すると酸味強度が強くなりすぎ、本来の乳酸菌飲料が有する乳風味が損なわれてしまう可能性が高くなる。また、pH域が3.3を超えて上昇し等電点付近となると、乳蛋白の電気的反発性による溶解安定性が崩れて分子凝集による白濁が生じ、その後時間経過により目視確認出来る程の凝集沈殿が発生する事となる。よって、本発明に係る酸性乳性飲料における飲料安定性・透明度・風味面を考慮した最適pH域は、pH2.5〜pH3.3であることが望ましく、より好ましくはpH2.9〜pH3.3である。pH調整剤としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸ナトリウム、等の有機酸及び有機酸塩や無機酸が使用出来る。
【0018】
加熱処理を行う時間は、1秒〜15分であることが好ましい。また、酸性乳性飲料の透明状態の安定性を高めるために、5分〜15分の加熱処理時間であることが好ましい。
【0019】
本発明に配合されない安定剤としては、具体的には、HMぺクチン、LMペクチン、大豆多糖類、κ-カラギナン、ι-カラギナン、λ-カラギナン、アルギン酸、フコイジン、寒天、グルコマンナン、ガラクトマンナン、プルラン、グリコーゲン、アミロース、アミロペクチン、デキストラン、キシラン、植物ガム類、ムコ多糖類が挙げられ、前記植物ガム類としては、アラビヤガム、グァーガム、キサンタンガム等が、前記ムコ多糖類としては、キチン、キトサン、コンドロイチン等が挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳を原料とした、透明な酸性乳性飲料、及びその製造方法を提供することができる。
【0021】
本発明によれば、殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳を原料とした、透明でかつ発酵乳又は乳酸菌飲料に基づく自然なヨーグルトコク味を備えた酸性乳性飲料、及びその製造方法を提供することができる。
【0022】
さらに本発明によれば、殺菌乳酸菌飲料又は発酵乳を原料とした、水のようなさらりとした飲み口を備えた透明な酸性乳性飲料、及びその製造方法を提供することができる。
【0023】
本発明によれば、発酵乳、乳酸菌飲料を原料とした酸性乳性飲料に、透明な外観、及び発酵乳又は乳酸菌飲料に基づく自然なヨーグルトコク味を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】加熱温度に対する最終飲料の濁度(OD660nm値)の変化を表すグラフである。
図2】各加熱温度で加熱処理を行った最終飲料の外観画像を示す図である。(a)は供試飲料処方1−1により作製された安定剤が配合されていない酸性乳性飲料であり、(b)は供試飲料処方1−2により作製された安定剤の配合されている比較試料である。
図3】最終飲料のpHに対する最終飲料の濁度(OD660nm値)の変化を表すグラフである。
図4】各pH値で作製した試料の外観画像を示す図である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明に係る実施例を説明するが、本発明の技術的範囲はこの説明に限定されるものではない。なお、以下の実施例に用いられる殺菌乳酸菌飲料には、原料乳類に脱脂粉乳を用いたものを使用した。また、以下の実施例に示す各処方及び加熱処理から作製される飲料には本発明に係る酸性乳性飲料と、本発明に含まれない飲料が含まれるので、これらを合わせて最終飲料という場合がある。
【0026】
実施例1;殺菌乳酸菌飲料糖安定品を原料とした最終飲料の加熱処理温度に対する透明度及び濁度の影響
〔供試飲料処方1−1〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0027】
〔供試飲料処方1−2〕乳酸菌飲料安定剤有り品
殺菌乳酸菌飲料大豆多糖類使用品 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤有り)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0028】
上記のそれぞれの処方に基づく原料を攪拌混合することで、処方1−1についてはpH3.20、処方1−2についてはpH3.15となる中間飲料を調製した。その後密閉可能な透明ガラス瓶に充填し、未加熱処理(20℃)、及び湯煎にて50〜85℃、達温の加熱処理を行い各試験区水冷後に、各試料のOD660nm値(濁度)の測定結果及び透明度の目視確認の結果を表1(a)(b)及び図1のグラフに示す。また、各加熱温度おける試料の外観画像を図2に示す。
【0029】
濁度測定は、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 U2010型分光光度計)にて次の手順に従って行った。以下、同様の手順で測定された濁度を、OD660nm値という。
【0030】
〔OD660nm値の測定方法〕
(1)ブランクとして精製水(株式会社アテクト社製)3mlを注入したガラス製ブランクセル(12.5mm×12.5mm×45mm)を、測定波長を660nmにセットした分光光度計試料室内のサンプル側ホルダに載置する。
(2)試料室の蓋を閉めた後、操作用PCに表示された波長表示が安定したことを確認し、ゼロ点調整実施する。
(3)試料室内からブランクセルを取り出し、ブランクセルと同じ大きさのガラス製試料用セルに供試サンプル3mlを注入し、分光光度計試料室内のサンプル側ホルダに載置する。
(4)試料室の蓋を閉めた後、波長表示が安定した時点でその試料におけるOD660nm値の測定を行い記録する。
【0031】
また、表1における透明度の目視確認は、6人のパネラーが試料を目視した結果を示したものである。パネラーによる評価方法は以下のとおりである。
【0032】
〔透明度の目視確認方法〕
(1)パネラーを6人とした。
(2)用時調製品として、5%脱脂粉乳溶液を作成後、適宜水希釈を実施しOD660nm=0.000(無添加品)〜0.050までの評価標品数点を作製した。
(3)OD660nm=0.000〜0.015までを目視比較用「透明」標品とし、実サンプルと目視比較により各パネラーが判定を実施した。
(4)各試験サンプルの目視評価判断は、パネラー数の2/3(66%以上)以上の判定結果を以て決定した。
なお、以下の各実施例における試験結果に示される透明度の目視確認の項目においても評価方法は同様である。
【0033】
【表1】
【0034】
表1及び図1より、安定剤を配合していない処方1−1による試料について、透明度の目視確認を行った結果、加熱処理75℃達温までは白濁を生じるが、80℃以上での加熱処理によって十分に透明な飲料であると認識されることが分かった。また、80℃で加熱処理された処方1−1の試料のOD660nm値は0.016であり、前記透明度の目視確認の標準サンプルともほぼ一致し、本発明に係る酸性乳性飲料に関してはOD660nm値が0.02以下で透明な飲料と判断できた。また、図2(a)においても、加熱温度が上昇するにつれて飲料の透明度が上がっていることが目視確認できたことが示されている。
【0035】
一方、安定剤有りの乳酸菌飲料を使用した処方1−2に基づく最終飲料については、加熱処理温度を上げると濁度(OD660nm値)は下がる傾向にあったが、85℃に達してもOD660nm値が0.02を下回ることはなく、図2(b)の外観画像からもいずれの加熱温度においても白濁しており、透明な酸性乳性飲料を実現することはできなかった。
【0036】
実施例2;殺菌乳酸菌飲料糖安定品を原料とした最終飲料のpH変動に対する透明度及び濁度の影響
〔供試飲料処方2〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.200重量%
クエン酸ナトリウム 0.000〜0.280重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0037】
上記の処方に基づく原料を攪拌混合することで、約pH2.5〜4.4の中間飲料を調製した。その後密閉可能な透明ガラス瓶に充填し、湯煎にて、85℃10分間の加熱処理を行い、各試験区水冷後に、各試料のOD660nm値(濁度)の測定結果及び透明度の目視確認を行った。
【0038】
各pHで作製された試料をpHが低い方から処方2−1〜処方2−10とし、各pHにおける試料のOD660nm値の測定結果及び透明度の目視確認の結果を、表2及び図3のグラフに示す。また、各pHおける試料の外観画像を図4に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2及び図3の結果より、pH3.3以下の試料はOD660nm値が0.02を下回り、目視確認の結果も透明であるが、pH3.3を超えた値となった場合、乳蛋白の分散安定性が崩れたことによるものと思われる白濁が生じた。また、pH3.3を超えた値領域においては、試料作製後、時間経過により沈殿が発生する事となった。また、図4においても、pHが3.3を超えてから試料が白濁している様子が目視確認できたことが示されている。
【0041】
実施例3;殺菌乳酸菌飲料糖安定品又は業務用発酵乳を原料とした最終飲料の無脂乳固形分含有量による透明度及び濁度への影響
〔供試飲料処方3−1〕(無添加Blank)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.000重量%
【0042】
〔供試飲料処方3−2〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0043】
〔供試飲料処方3−3〕業務用発酵乳安定剤無し品
業務用発酵乳 0.070重量%
(無脂乳固形分;18%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0044】
〔供試飲料処方3−4〕業務用発酵乳安定剤無し品
業務用発酵乳 0.120重量%
(無脂乳固形分;18%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.021重量%
【0045】
上記処方3−1〜処方3−4に基づいて原料を攪拌混合することで、約pH3.2の中間飲料を調製した。その後密閉可能な透明ガラス瓶に充填し、湯煎にて85℃10分間の加熱処理を行、各試験区水冷後に、各試料のOD660nm値(濁度)の測定結果及び透明度の目視確認を行った。各試料における飲料のOD660nm値の測定結果及び透明度の目視確認の結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果、無脂乳固形分が含まれていない処方3−1に係る最終飲料と比較しても、酸性乳性飲料中の無脂乳固形分を0.012重量%とした場合、飲料原料が糖安定された殺菌乳酸菌の場合の酸性乳性飲料(処方3−2)と糖安定されていない発酵乳の場合の酸性乳性飲料(処方3−3)とでは、濁度に差異はなく、いずれも十分に透明であった。
【0048】
一方、糖安定されていない発酵乳から得た酸性乳性飲料中の無脂乳固形分の含有量を0.021重量%とした場合(処方3−4)の濁度を比較すると、酸性乳性飲料に含まれる無脂乳固形分量が0.012重量%の処方3−3で得られる酸性乳性飲料より濁度が高まる傾向が確認された。表3の結果から酸性乳性飲料中の無脂乳固形分の含有量が0.021重量%までは良好な透明度を実現できることがわかった。
【0049】
実施例4;殺菌乳酸菌飲料糖安定品を原料とした最終飲料のpH調整剤の種類に対する透明度及び濁度への影響
〔供試飲料処方4−1〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0050】
〔供試飲料処方4−2〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
乳酸 0.130重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0051】
〔供試飲料処方4−3〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
リンゴ酸 0.100重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0052】
上記処方4−1〜処方4−3に基づく原料を攪拌混合することで、約pH3.0の中間飲料を調製した。その後密閉可能な透明ガラス瓶に充填し、湯煎にて、85℃で10分間の加熱処理を行い、各試験区水冷後に、各試料のOD660nm値(濁度)の測定結果及び透明度の目視確認を行った。各試料におけるOD660nm値の測定結果及び透明度の目視確認の結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4の結果から、pH調整剤の種類によって、濁度に影響が無いことが確認された。
【0055】
実施例5;殺菌乳酸菌飲料糖安定品を原料とした最終飲料の55℃加速保管試験
〔供試飲料処方5−1〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0056】
〔供試飲料処方5−2〕乳酸菌飲料安定剤有り品
殺菌乳酸菌飲料大豆多糖類使用品 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤有り)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0057】
上記処方5−1〜処方5−2に基づく原料を攪拌混合することで、約pH3.0の中間飲料を調製した。その後密閉可能な透明ガラス瓶に充填し、湯煎にて85℃10分間の加熱処理を行い、各試験区水冷後に、各試料のOD660nm値(濁度)の測定結果及び透明度の目視確認を行った。各試料におけるOD660nm値の測定結果及び透明度の目視確認の結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5(a)の結果から、処方5−1の試料を55℃、2週間加速保管試験(25℃、420日相当)においても、熱による色彩変化(黄変)は見られるものの、飲料の濁度は維持されることが確認された。一方で表5(b)の結果から、処方5−1の試料について同じく加速保管試験を行った結果として、保管条件に係わらずOD660nm値は0.02を超え、白濁状態であった。
【0060】
実施例6;殺菌乳酸菌飲料糖安定品を原料とした最終飲料に果汁を添加した場合における透明度及び濁度への影響
〔供試飲料処方6〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
各種果汁 各1.000重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0061】
上記のそれぞれの処方に基づく原料を攪拌混合することで、約pH3.0の中間飲料を調製した。その後密閉可能な透明ガラス瓶に充填し、85℃10分間の加熱処理を行い、各試験区水冷後に、各試料のOD660nm値(濁度)の測定結果及び透明度の目視確認を行った。果汁無添加の試料を処方6−1、果汁をレモンとした試料を処方6−2、果汁をアップルとした試料を処方6−3、果汁をグレープフルーツとした試料を処方6−4とし、各試料におけるOD660nm値の測定結果及び透明度の目視確認の結果を表6に示す。なお、処方6−1の場合、果汁相当量の水を混合して調製した。
【0062】
【表6】
【0063】
表6の結果から、レモン、アップル、グレープフルーツの果汁を添加しても、最終飲料の透明度及び濁度に影響を及ぼさないことが確認された。
【0064】
実施例7;殺菌乳酸菌飲料糖安定品を原料とした最終飲料にアルコールを添加した場合における透明度及び濁度への影響
〔供試飲料処方7−1〕(無添加Blank)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
ウォッカ(Alc.50容量%) 10.0重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.000重量%
【0065】
〔供試飲料処方7−2〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
ウォッカ(Alc.50容量%) 10.0重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0066】
〔供試飲料処方7−3〕乳酸菌飲料安定剤無し品
殺菌乳酸菌飲料 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤無し)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
ウォッカ(Alc.50容量%) 20.0重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0067】
〔供試飲料処方7−4〕乳酸菌飲料安定剤有り品
殺菌乳酸菌飲料大豆多糖類使用品 0.300重量%
(無脂乳固形分;5%)(安定剤有り)
果糖 2.500重量%
グラニュー糖 3.000重量%
精製はちみつ 0.300重量%
食塩 0.025重量%
クエン酸 0.095重量%
クエン酸ナトリウム 0.024重量%
ビタミンC 0.020重量%
ヨーグルト香料 0.100重量%
ウォッカ(Alc.50容量%) 10.0重量%
水 残量
*最終飲料中の無脂乳固形分割合:0.012重量%
【0068】
上記処方7−1〜処方7−4に基づく原料を攪拌混合することで、約pH3.0の中間飲料を調製した。その後密閉可能な透明ガラス瓶に充填し、湯煎にて85℃10分間の加熱処理を行い、各試験区水冷後に、各試料のOD660nm値(濁度)の測定結果及び透明度の目視確認を行った。各試料におけるOD660nm値の測定結果及び透明度の目視確認の結果を表7に示す。
【0069】
【表7】
【0070】
表7の結果から、安定剤を添加していない処方7−2及び処方7−3においてはAlc.10容量%〜Alc.20容量%まで混合しても透明性を維持し、OD660nm値にも影響がみられなかったことから、酸性乳性飲料の透明性に影響を及ぼさないことが確認された。一方で、原料として安定剤を添加した殺菌乳酸菌飲料を用いてアルコールを混合した場合にはAlc.10容量%でも白濁し、OD660nmが0.02を大きく上回ったことから、本発明に係る酸性乳性飲料によれば、飲料の透明性を維持した状態でアルコール飲料を提供することもできることが確認された。
【0071】
本実施例で作製された酸性乳性飲料によって、本発明によれば発酵乳、乳酸菌飲料を原料としつつ、透明な外観を備え、かつ、香料を添加せずとも発酵乳又は乳酸菌飲料に基づく自然なヨーグルトコク味を備える新しい酸性乳性飲料を実現することができることがわかった。
図1
図2
図3
図4