(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱分解性を有する銀化合物(a)と、(a)と錯体形成しうるアミン化合物(b)とを有機溶媒(c)中で反応させて錯体を形成し、得られた錯体を加熱して熱分解させることにより、銀ナノ粒子を形成する銀ナノ粒子の製造方法であって、(b)が、1級アミノ基又は2級アミノ基と水酸基とを1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコールであることを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法であって、(b)が、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールであることを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法。
熱分解性を有する銀化合物(a)と、(a)と錯体形成しうるアミン化合物(b)と、有機溶媒(c)とを含有する組成物であって、b)が、1級アミノ基もしくは2級アミノ基と水酸基を1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコールであることを特徴とする、銀化合物含有組成物であって、(b)が、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールであることを特徴とする銀化合物含有組成物。
平均粒径350nm以下で、変動係数30〜80%であり、銀粒子表面に、1級アミノ基もしくは2級アミノ基と水酸基を1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコールが結合した銀ナノ粒子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献3では、実施例では8μmに達しない厚さの塗膜しか作成していない。仮に10μm以上の導電性塗膜を作成したとしても、銀粒子は一次粒子径が数10nmの粒子が主体なので、有機保護剤量も多く、保護剤離脱による体積収縮が生じるため、寸法安定性が低く、クラックによる断線の現象が起こる可能性が高い。
【0008】
また、特許文献5〜8のように副生ガスの量を制御したとしても、最終的に系外へアルキルアミンを含んだ炭酸ガスを排出する事には変わりはない。
【0009】
さらに、銀ナノ粒子分散体や塗料組成物(インク)は、基材に塗布して利用されるが、基材に塗布するのに適した粘度挙動を有する銀ナノ粒子の条件は十分に検討されていなかった。このため、実際に得られた塗膜は十分な性能を有さないこともあった。特にスクリーン印刷においては、スクリーンを通過させるためには小粒子径化だけでなく、粘度についても精密な粘度特性が求められる為、適切な粘度に調整する必要がある。粘度の調整には、粒子径を小粒子径化することや、有機バインダーの添加等の方法で、粘度を高くすることができるが、小粒子径化しすぎると、表面保護材の含有量が多くなりすぎてしまい、焼結時に体積収縮が起こって、クラックが発生したり、有機バインダーを添加しすぎると、銀粒子の焼結を阻害してしまい、焼結体の導電性や強度を悪化させてしまったりする恐れがある。
【0010】
本発明は、以上の問題点を解決し、作業性・安全性・環境面等のスケールアップを考慮した銀ナノ粒子の製造方法、及び高分布の粒度分布範囲を持つ銀ナノ粒子の製造方法と、各種印刷法、特にスクリーン印刷に適した粘度に調整しやすい銀ナノ粒子、及び銀ナノ粒子塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を重ねた。その結果、銀化合物と錯体形成しうるアミン化合物として、特定のアミノアルコールを使用することにより、アルキルアミンの排出が抑えられ、環境にやさしく、しかも同時に、得られる銀粒子は粒径と分布が優れたものであり、得られる焼結塗膜も優れた性能を有することを見出し、本発明に到達した。さらに、この特定のアミノアルコールが表面に結合された銀粒子は、意外なことに従来のアルキルアミンが結合した銀粒子よりも、高粘度の分散体(ペースト)を得ることができ、アミノアルコールの種類や量を変化させることにより、その粘度調整も可能である。その結果、増粘効果のある有機バインダー等の添加量を抑えられ、特にスクリーン印刷に適した粘度域を持つ、銀塗料組成物が得られることがわかった。
【0012】
すなわち、本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 熱分解性を有する銀化合物(a)と、(a)と錯体形成しうるアミン化合物(b)とを有機溶媒(c)中で反応させて錯体を形成し、得られた錯体を加熱して熱分解させることにより、銀ナノ粒子を形成する銀ナノ粒子の製造方法であって、(b)が、1級アミノ基又は2級アミノ基と水酸基とを1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコールであることを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法。
【0013】
(2) (b)が、i)炭素数3〜4の分岐型1級アミノアルコールであって、かつ(ii)炭素数2のアルキル鎖を介して、アミノ基と水酸基が結合されているアミン化合物(b1)、またはiii)炭素数3の直鎖状2級アミノアルコール(b2)であることを特徴とする上記(1)記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(3) (b)が、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(4) (a)がシュウ酸銀である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の銀ナノ粒子の 製造方法。
【0014】
(5) (a)と(b)との錯体形成反応時に、(b)以外の分子の長さが5Å以上のアミン化合物(d)を存在させることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(6) [(b)+(d)]/[(a)に含まれる銀原子]のモル比が0.7〜2.0であることを特徴とする上記(5)記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(7) (c)/(a)の重量比が0.8〜1.3であることを特徴とする上記(3)〜(6)のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(8) (a)と(b)との錯体形成反応時に、水を存在させることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(9) 上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法により銀ナノ粒子を作製し、得られた銀ナノ粒子を有機溶媒に分散することを特徴とする、銀ナノ粒子分散体の製造方法。
(10) 上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法により銀ナノ粒子を作製し、得られた銀ナノ粒子を有機溶媒に分散し、さらに有機バインダーを添加することを特徴とする、銀塗料組成物の製造方法。
【0015】
(11) 上記(9)記載の方法により得られた銀ナノ粒子分散体又は上記(10)記載の方法により得られた銀塗料組成物を基板上に塗布し、焼成して銀導電層を形成する工程を含む銀導電材料の製造方法。
(12) 熱分解性を有する銀化合物(a)と、(a)と錯体形成しうるアミン化合物(b)と、有機溶媒(c)とを含有する組成物であって、b)が、1級アミノ基もしくは2級アミノ基と水酸基を1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコールであることを特徴とする、銀化合物含有組成物。
(13) [(b)+(d)]/[(a)に含まれる銀原子]がモル比で0.7〜2.0であることを特徴とする上記(12)記載の銀化合物含有組成物。
(14) 熱分解性を有する銀化合物(a)と、有機溶媒(c)との含有割合が、(c)/(a)が重量比で0.8〜1.3であることを特徴とする上記(12)又は(13)記載の銀化合物含有組成物。
【0016】
(15) 銀化合物(a)と錯体形成しうるアミン化合物として、1級アミノ基もしくは2級アミノ基と水酸基を1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコール(b)と、(b)以外の分子の長さが5Å以上のアミン化合物(d)とを含み、かつ(b)/[(b)+(d)]がモル比で0.3〜0.8であることを特徴とする上記(12)〜(14)のいずれかに記載の銀化合物含有組成物。
(16) 水の含有量が銀化合物(a)100重量部に対して5〜20重量部含有することを特徴とする上記(12)〜(15)のいずれかに記載の銀化合物含有組成物。
(17) 平均粒径350nm以下で、変動係数30〜80%であり、銀粒子表面に、1級アミノ基もしくは2級アミノ基と水酸基を1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコールが結合した銀ナノ粒子。
(18) 上記(17)記載の銀ナノ粒子であって、銀ナノ粒子表面に、i)炭素数3〜4の分岐型1級アミノアルコールであり、かつ(ii)炭素数2のアルキル鎖を介して、アミノ基と水酸基が結合されているアミン化合物(b1)、または(b1)とiii)炭素数3の直鎖状2級アミノアルコール(b2)が結合した銀ナノ粒子。
【0017】
(19) 上記(18)記載の銀ナノ粒子であって、アミン化合物(b1)として2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールが結合した銀ナノ粒子。
(20) 上記(17)〜(19)のうちいずれかに記載の銀ナノ粒子であって、さらに(b1)及び(b2)以外の分子の長さ7〜8Åのアミン化合物が結合した銀ナノ粒子、
(21) 上記(17)〜(20)のいずれかに記載の銀ナノ粒子が有機溶媒中に分散されていることを特徴とする銀ナノ粒子分散体。
(22) 上記(17)〜(20)のいずれかに記載の銀ナノ粒子が有機溶媒に分散され、さらに有機バインダーを含有することを特徴とする、銀塗料組成物。
(23) 上記(21)記載の銀ナノ粒子分散体又は上記(22)記載の銀塗料組成物を基板上に塗布し、焼成して銀導電層を形成する工程を含む銀導電材料の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る粒径制御された銀粒子を含む銀塗料組成物は、150℃以下の低温領域であっても焼結が可能で、生成する焼結体はバルクの銀に近い低抵抗値を示す。本発明は、スクリーン印刷を代表とする印刷方法により、PETやポリプロピレンなどの比較的耐熱性の低いプラスチック基板上に、数〜数10μmの厚膜の銀配線を成形できる材料、または導電性の接合材料やパワーデバイス等の大電流を取り扱う電気機器の接合材として利用が期待できる。
【0019】
また、本発明での銀粒子の合成では、使用するアミン化合物量が従来の合成法よりも少ない他、熱分解性を持つ銀化合物と錯形成を起こすアミン化合物として、特定の炭素数4以下のアミノアルコールを用いることにより、人体や環境の負荷の高いアルキルアミンの利用をさらに低減できるので、スケールアップされた工業的な製造において、安全性の高い製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、アミノアルコールの銀原子への配位モデル(直鎖型)、アミノアルコールの銀原子への配位モデル(OH基接近型)及びアルキルアミンの銀原子への配位モデルのイメージ図である。
【
図2】
図2は、銀の吸着モデルと銀の粒子成長のイメージ図である。
【
図3】
図3は、実施例1で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例2で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例3で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例4で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例5で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例6で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例7で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例8で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例9で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例10で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例11で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図14】
図14は、比較例1で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図15】
図15は、比較例2、3で得られた粒子のSTEM写真を示す図である。
【
図16】
図16は、比較例4で得られた粒子のSTEM写真を示す図である。
【
図17】
図17は、実施例1で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図18】
図18は、実施例2で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図19】
図19は、実施例3で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図20】
図20は、実施例4で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図21】
図21は、実施例5で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図22】
図22は、実施例6で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図23】
図23は、実施例7で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図24】
図24は、実施例8で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図25】
図25は、実施例9で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図26】
図26は、実施例10で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図27】
図27は、実施例11で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図28】
図28は、比較例1で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図29】
図29は、比較例2、3で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図30】
図30は、比較例4で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図31】
図31は、実施例12で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図32】
図32は、実施例13で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図33】
図33は、実施例14で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図34】
図34は、実施例15で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図35】
図35は、比較例5で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図36】
図36は、比較例6で得られた粒子のSEM写真を示す図である。
【
図37】
図37は、実施例12で得られた粒子から作製したペーストの塗膜表面のSEM写真を示す図である。
【
図38】
図38は、実施例13で得られた粒子から作製したペーストの塗膜表面のSEM写真を示す図である。
【
図39】
図39は、実施例14で得られた粒子から作製したペーストの塗膜表面のSEM写真を示す図である。
【
図40】
図40は、実施例15で得られた粒子から作製したペーストの塗膜表面のSEM写真を示す図である。
【
図41】
図41は、比較例5で得られた粒子から作製したペーストの塗膜表面のSEM写真を示す図である。
【
図42】
図42は、比較例6で得られた粒子から作製したペーストの塗膜表面のSEM写真を示す図である。
【
図43】
図43は、実施例12で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図44】
図44は、実施例13で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図45】
図45は、実施例14で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図46】
図46は、実施例15で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図47】
図47は、比較例5で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図48】
図48は、比較例6で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
【
図49】
図49は、実施例12〜15、比較例5,6で得られた粒子から作製したペーストの粘度比較データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、熱分解性を有する銀化合物(a)と錯体形成するアミン化合物(b)を反応させて銀ナノ粒子を製造する方法において、アミン化合物(b)として、1級アミノ基もしくは2級アミノ基と水酸基を1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコールを使用することが特徴である。
このような特定のアミノアルコールを使用することにより、銀粒子に対し、2つの吸着モデルを有することができ、したがって広分布で比較的大粒径の銀ナノ粒子を容易に得ることができ、特に200〜500nmの大粒径領域の銀ナノ粒子を合成しやすく、またアミン化合物全体の使用量を少なくすることができるため環境に優れている。
また、特定のアミノアルコールを使用することにより、従来のアルキルアミンのみを用いた銀ナノ粒子よりも高粘度に銀ペーストを作製することが可能で、特にスクリーン印刷の粘度に適した銀塗料組成物を作製することを可能にする。
以下、詳細に説明する。
【0022】
<銀ナノ粒子合成における材料の説明>
〔1.銀化合物(a)の説明〕
本発明の銀粒子の製造方法では、まず、出発原料として熱分解性を有する銀化合物を用いる。熱分解性を有する銀化合物とは、後述する成分(b)と錯体化して、通常の設備で可能な加熱条件下で熱分解する銀化合物をいう。具体的には、シュウ酸銀、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、亜硝酸銀、安息香酸銀、シアン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀等を適応できる。これら銀化合物のうち、特に好ましいのは、炭酸銀又はシュウ酸銀(Ag
2C
2O
4)である。さらに好ましくはシュウ酸銀である。シュウ酸銀は、還元剤を要することなく比較的低温で分解して銀粒子を生成することができる。また、分解により生じる二酸化炭素はガスとして放出されることから、溶液中に不純物を残留させることもないためである。
【0023】
〔2.錯体形成するアミン化合物(b)〕
次に、本発明においては、(b)成分である銀化合物と錯体形成しうるアミン化合物として、以下のものを使用することを特徴とする。すなわち、1級アミノ基もしくは2級アミノ基と水酸基を1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコールである。
これらのアミン化合物は、極性溶媒(特にアルコール溶媒)中に溶解することができるので、極性溶媒存在下で、銀化合物と錯体を形成することが可能である。その結果、極性溶媒中でも銀化合物の熱分解温度を下げ、低温で銀粒子を生成することを可能にする機能を有する。
炭素数が7以上のアミノアルコールや、水酸基が2つ以上有するアミノアルコールは、アルコール溶媒への溶解性低い固体状の物質が多く、銀化合物との錯形成反応が起こりにくいため、不適である。また、アミノ基を2つ以上有するアミノアルコールは、極性が高くなりすぎ、錯形成反応よりも、還元反応が強くなり、銀粒子が析出しやすく粒子径のコントロールが実質できない状態になり、目的の銀粒子を得ることは難しくなる。
さらに、本発明の(b)成分は、後述するように、銀粒子に対し2つの吸着モデルを持つことが特徴であり、このため、得られる銀粒子の粒径を容易に大きくかつ広い分布のものとすることも可能にする。
アミン化合物(b)は、1級アミノ基もしくは2級アミノ基と水酸基を1つずつ持つ炭素数6以下のアミノアルコールであればよく、骨格は直鎖状でも分岐型でも良い。
以上の条件を満たすアミノアルコール(b)としては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、1−アミノ−2−ブタノール、DL−1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(以下、AMP)、DL−2−アミノ−1−プロパノール、N−メチルエタノールアミン、3−アミノ―1−プロパノール、4−アミノ―1−ブタノール、5−アミノ―1−ペンタノール、6−アミノ―1−ヘキサノールが挙げられる。
さらに、銀粒子の大粒子径化・広分布化させる効果をさらに発現するためには、(b)成分として、以下の特徴を持つアミノアルコールを使用することが特に好ましい。i)炭素数3〜4の分岐型1級アミノアルコールであって、かつ(ii)炭素数2のアルキル鎖を介して、アミノ基と水酸基が結合されているアミン化合物(b1)、またはiii)炭素数3の直鎖状2級アミノアルコール(b2)である。
ここで、(i)「分岐型」とは、炭素原子とヘテロ原子とからなる骨格が、直線状ではなく枝分かれしていることをいう。また(ii)「炭素数2のアルキル鎖を介して、アミノ基と水酸基が結合されている」とは、炭素原子とヘテロ原子とからなる骨格中、隣り合った2つの炭素原子に各々、アミノ基と水酸基とが結合していることをいう。
【0024】
アミン化合物(b1)の場合、炭素数2のアルキル鎖を介して、アミノ基と水酸基が1つずつ結合されており、その2つの官能基の位置関係が、「シュウ酸銀と錯形成できる適度なアミン化合物の極性」と「銀粒子との2つの吸着モデルの実現」を両立している。
さらに、(b2)はアミノ基と水酸基の位置関係は(b1)と同様であるが、アミノ基が2級であるので、全体の炭素数が3という構造を持つことで、(b1)と同様に、「シュウ酸銀と錯形成できる適度なアミン化合物の極性」と「銀粒子との2つの吸着モデルの実現」を両立している。
2級アミン化合物の場合、炭素数が4以上であると、アミノ基の立体障害が大きく、また全体的に極性が低くなり、シュウ酸銀との錯形成が起こりにくくなることがある。
【0025】
以上の条件を満たすアミノアルコール(b1)としては、例えば、1−アミノ−2−ブタノール、DL−1−アミノ−2−プロパノール、AMP、DL−2−アミノ−1−プロパノール、が挙げられる。
これらのうち特に、AMPが扱いやすく、アルコール溶媒のような極性溶媒存在下での錯形成が容易に起こり、かつ大粒径かつ広い粒度分布の銀粒子を容易に得ることができるので最も好ましい。さらに銀表面に結合することで、分散体の粘度を上げる効果も優れている。
また、同様に(b2)としては、例えばN−メチルエタノールアミンが挙げられる。
【0026】
上記の(b)成分は、従来使用されていた脂肪族炭化水素アミン化合物のような強い刺激臭もなく、取り扱う上でも安全面で有利である。
また、アミン化合物の使用量が少なくて済む。具体的には、(b)成分を用いることで、銀化合物との錯体形成を促すために、従来技術で用いられてきた炭素数4〜5の短鎖脂肪族炭化水素アミン化合物を使用しなくても、銀化合物との錯体形成反応を十分に促すことができる。したがって以下説明する成分(b)のアミノアルコール以外のアミン化合物(d)を併用したとしても、トータルの脂肪族炭化水素アミン化合物の使用量を減量又は無くすことも可能である。
なお、以上の(b)成分は、1種のみを用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0027】
(2−1. (b)成分添加による大粒子径銀粒子生成メカニズム)
以上説明した(b)成分を銀化合物と錯体形成するアミン化合物を用いることにより、大粒径で分布の広い銀ナノ粒子を得ることのできるメカニズムは完全には明らかではない。しかし、本発明者は以下のように推測している。
アミン化合物と銀化合物の錯体形成は、アミン化合物が有機溶媒(c)中に溶解されることで、銀化合物と反応し、アミン化合物のアミノ基の非共有電子対が、銀原子の空軌道に配位して形成される。さらに本発明で使用するアミン化合物はアミノアルコールであり、水酸基を有している。この水酸基も、アミノ基と同様に極性がありマイナスに帯電していることから、銀原子へ接近しやすい挙動を示すと考えられる。この性質を踏まえ、(b)成分として本発明で使用する特定のアミノアルコールの銀原子の配位結合状態について、以下の2つのモデルがあると考えられる。i)アルキルアミンと同様に、アミノ基が銀原子へ配位し、アルキル鎖が外側(分散媒側)へ直線状に配向するモデル(
図1−1)、ii)アミノ基が銀原子へ配位し、水酸基も銀原子側へ近づき安定化するモデル(
図1−2)である。この2つの配位結合モデルが存在するために、銀原子周辺でのアミン化合物による立体障害が一様ではない。このため、出来上がる粒子径にバラつきが生まれ、大粒子径から小粒子径まで幅広く形成されると考えられる(
図2)。
また、アミン化合物のアミノ基の極性の強さは、i)アミン化合物全体の炭素数、ii)アミノ基と水酸基の位置関係、iii)アミン化合物の立体構造の3つのファクターが関係していると考えられる。具体的には、炭素数が大きすぎると、錯形成自体が起こりにくい(上記(i)のファクター)。また、アミノ基と水酸基の位置関係が、離れすぎると、水酸基が銀粒子表面に近づきにくく(上記(ii)及び(iii)のファクター)、
図1−2に示す吸着モデルが起こりづらい。
以上の理由から、本発明のように、1級アミノ基または2級アミノ基と水酸基を1つずつ持ち、かつ炭素数6以下のアミノアルコールでは、これら3つのファクターを満たし、上記の2つの吸着モデルを実現することができていると考えられる。
さらに、i)炭素数3〜4の分岐型1級アミノアルコールであって、かつ(ii)炭素数2のアルキル鎖を介して、アミノ基と水酸基が結合されているアミン化合物(b1)、またはiii)炭素数3の直鎖状2級アミノアルコール(b2)は、上記の3つのファクターの面でも最適なため、特に優れた効果を発現していると考えられる。
【0028】
これに対し、従来用いられてきたアルキルアミンについては、アミノ基部分しか電子供与性がないので、直線状にしか配向しないので、
図1−3のようになる。したがって、粒子のばらつきは生まれず、粒子の揃った銀粒子しか合成できないのはこのためであると考えられる。
なお、後述のように、(b)成分のアミノアルコールと水添加との併用で、さらに大粒子径化と広分布化の効果は拡大する。
【0029】
〔3.立体障害による分散安定化効果を持つアミン化合物(d)〕
本発明ではさらに、(a)と(b)の錯体形成時に、(b)成分以外のアミン化合物を存在させることができる。この化合物は、分子の長さが5Å以上であり、立体障害効果により、銀粒子の分散安定性の効果を持たせる機能を有する。ここでの分子の長さとは、水素原子を含まない最も距離の長い2原子の距離であり、計算条件は、密度汎関数法、関数 ωB97X-D、基底関数 6-31+G*、環境 真空中 エネルギー状態 基底状態、で、Spartan’‘16V1,1,0など各種の分子計算ソフトウェアで計算できる。
【0030】
分子の長さは好ましくは7Å以上である。もっとも、あまり長いと沸点が高くなり、除去することが難しくなるので、好ましくは、8Å以下である。
【0031】
特に、アミノ基を含めて7原子以上で構成された主鎖(主骨格)を持つアミン化合物が好ましい。
中でも、アミン化合物を構成する原子が、N、C及びHであるもの、又はN、C、H及びOであるものが好ましい。アミン化合物のアミノ基に結合する炭化水素基の数は限定されないが、1つまたは2つである1級アミン又は2級アミンが特に銀と配位結合しやすいので好ましい。
このような(d)成分としては、例えば炭素総数4以上の脂肪族炭化水素モノアミンが挙げられる。
【0032】
炭素数4以上の脂肪族炭化水素モノアミンは、従来技術で説明した銀化合物と錯体を形成して銀ナノ粒子を形成する方法で多く用いられているものである。しかし、炭素数4以上の脂肪族炭化水素モノアミンは、刺激臭が強く、分解反応時に炭酸ガスと共に高温で排出されるリスクがあるので、他のアミン化合物を用いても良い。具体的には、炭素数4以上の、酸素原子を含むアミン化合物(アルコキシアミン、アルキルエーテルアミン、アミノアルコール)である。本発明においては、(b)成分として前述した特定のアミノアルコールを用い、(d)成分として酸素原子を含むアミン化合物であって前述の(b)成分以外のものを用いることで、錯体化反応時、分解反応時に刺激臭の強い脂肪族炭化水素アミン化合物を全く用いることなく、低温焼結性に優れ、厚膜導電焼結体を形成しやすい銀ナノ粒子を製造することができる。
【0033】
以上の(d)成分の具体例として、アルキルアミンとしては、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等が挙げられる。アルコキシアミンとしては、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン等が挙げられる。アルキルエーテルアミンとしては、HUNTSMAN製JEFFAMINEのMシリーズ、M−600、M−1000、M−2005、M−2070等が挙げられる。アミノアルコールとしては、4−アミノ−1−ブタノール、5−アミノ−1−ペンタノール、6−アミノ−1−ヘキサノール等が挙げられる。その他、ジグリコールアミン等が挙げられる。
より好適な具体例としては、アルキルアミンとしては、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等が挙げられる。アルコキシアミンとしては、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン等が挙げられる。アミノアルコールとしては、5−アミノ−1−ペンタノール、6−アミノ−1−ヘキサノール等が挙げられる。アミノエトキシとしては、ジグリコールアミン等が挙げられる。さらに好ましくは、n−ヘキシルアミン、3−エトキシプロピルアミンである。
以上の(d)成分は、1種類もしくは2種類以上併用しても可能である。
【0034】
(3−1.アミン化合物内でのモル比率 (b)/[(b)+(d)])
(b)/[(b)+(d)]は、好ましくは0.3〜0.8(モル比)、好ましくは0.4〜0.8である。この範囲は、大粒子で高分布を持つ銀ナノ粒子を製造するのに、最も適している。前記モル比率が、0.3よりも小さくなると、分子の長さが長いアミン化合物の添加量が多くなり、粒子が全体に小さくなり、粒度分布も狭くなる傾向があり好ましくない。また、前記モル比率が0.8より大きくなると、保護剤としての立体障害効果が弱くなり、合成時に銀粒子の融着が起こるリスクが高くなり、好ましくない。
【0035】
(3−2.アミン化合物(b)(d)と銀化合物(a)の比率・添加量について)
銀化合物の銀原子とアミン化合物(b)+(d)との混合量について、そのモル比(アミン化合物/銀化合物の銀原子)が、0.7〜2.0 となるようにしてアミン化合物(b)+(d)の量を調整するのが好ましい。より好ましくは0.7〜1.5、さらに好ましくは0.7〜1.3もっとも好ましくは0.7〜1.3である。そうすることにより、粒径にばらつきが生まれ、目的の粒径範囲の銀粒子を得ることが容易である。
【0036】
前述した従来の各種の合成方法(特許文献1〜9)においては、アミン化合物/銀化合物の銀原子のモル比が2.0以上用いられている。これに対して本発明では、より少ないアミン量でも銀粒子を得ることができるので、アミン排出量も少なくて済む。したがって、アミンの系外放出による人体や環境負荷のリスクを軽減できる。また同時に、このような従来の方法では、粒子径も小さく、分布の狭い粒子が合成されやすくなってしまうのに対し、本発明においては、分布が広く大粒径の銀粒子を得ることができ、最終的に低温焼結性に優れ、低抵抗な厚膜導電焼結体が得ることができるのである。
【0037】
〔4.有機溶媒(c)の説明〕
本発明は、以上説明した銀化合物とアミン化合物の錯体形成反応を、有機溶媒の存在下で行う。
本発明では、極性の官能基を持っている溶媒が好ましく、具体的には、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アルデヒド系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒、エーテル系溶媒、グリコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエステル系溶媒、グライム系溶媒が好ましい。特にアルコール系溶媒が好ましく、中でも炭素数3〜12のアルコールが好ましい。例えば、n−プロパノール(沸点bp:97℃)、イソプロパノール(bp:82℃)、n−ブタノール(bp:117℃)、イソブタノール(bp:107.89℃)、sec−ブタノール(bp:99.5℃)、tert−ブタノール(bp:82.45℃)、n−ペンタノール(bp:136℃)、n−ヘキサノール(bp:156℃)、n−オクタノール(bp:194℃)、2−オクタノール(bp:174℃)、n−ノナノール(bp:215℃)、5−ノナノール(bp:195℃)、n−デカノール(bp:232.9℃)、n−ウンデカノール(bp:243℃)、2−ウンデカノール(bp:131℃)、n−ドデカノール(bp:259℃)、2−ドデカノール(bp:250℃)等が挙げられる。
また、グライム系溶媒の使用も好ましく、例えば、モノグライム(bp:85℃)、エチルグライム(bp:121℃)、ジグライム(bp:162℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(bp:171℃)、エチルジグライム(bp:188℃)、トリグライム(bp:216℃)、ブチルジグライム(bp:256℃)、テトラグライム(bp:275℃)等が挙げられる。中でも沸点が150℃以上のものが扱いやすい。
これらの中でも、後に行われる錯化合物の熱分解工程の温度を高くできること、銀ナノ粒子の形成後の後処理での利便性を考慮して、n−ブタノール、n−ヘキサノール、n−デカノール、ジグライムが好ましい。これら単独で用いても良いし、2種類以上混同して用いてもよい。
【0038】
(4−1.有機溶媒の添加量について)
また、有機溶媒は、各成分の十分な撹拌操作のため、前記銀化合物(a)100重量部に対し、80〜130重量部(すなわち(c)/(a)の重量比が0.8〜1.3となる量)の有機溶媒を混合したものが好ましい。さらに好ましくは80〜125重量部である。
【0039】
(4−2.有機溶媒の添加方法について)
本発明において、アミン化合物(b)または(d)と銀化合物(a)とを銀化合物とアミン化合物の錯体形成反応を、有機溶媒の存在下で行うには、いくつかの形態をとり得る。
例えば、固体の銀化合物と有機溶媒特にアルコール溶媒とを混合して、銀化合物―アルコールスラリーを得て、次に得られた銀化合物−アルコールスラリーに、アミン化合物(b)または(d)を添加してもよい。本発明においてスラリーとは、固体の銀化合物が有機溶媒または有機溶媒とアミン化合物との混液中に分散されている混合物を表している。
スラリーを得るには、反応容器に、固体の銀化合物を仕込み、それに有機溶媒または有機溶媒とアミン化合物との混液を添加しスラリーを得ると良い。
【0040】
あるいは、有機溶媒とアミン化合物との混液を反応容器に仕込み、それに銀化合物を添加しても良い。
尚、シュウ酸銀については、乾燥状態において爆発性があることが報告されている。したがって、銀化合物としてシュウ酸銀を用いる場合には、湿潤状態にしたものを利用するのが好ましい。湿潤状態にすることで爆発性が著しく低下し、取扱い性が容易になるためである。そこで、水又は前述した有機溶媒を混合して湿潤状態にして用いればよい。
【0041】
〔5.脂肪族カルボン酸について〕
また、粒子径、粒度分布の調整のために、錯形成時に脂肪族カルボン酸を用いてもよい。脂肪族カルボン酸を添加することで、粒子径は小さく、粒度分布は狭くなる傾向にある。水分量と適宜調整し、利用することが望ましい。前記脂肪族カルボン酸は前記アミン類と共に用いるとよく、銀化合物とアミンを混合させる際に添加して用いることもできる。前記脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸が用いられる。例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、エイコセン酸等の炭素数4以上の飽和脂肪族モノカルボン酸; オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、パルミトレイン酸等の炭素数8以上の不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
【0042】
これらの内でも、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボンが好ましい。炭素数8以上とすることにより、カルボン酸基が銀粒子表面に吸着した際に他の銀粒子との間隔を確保できるため、銀粒子同士の凝集を防ぐ作用が向上する。入手のし易さ、焼成時の除去のし易さ等を考慮して、通常、炭素数18までの飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸化合物が好ましい。特に、オクタン酸、オレイン酸等が好ましく用いられる。前記脂肪族カルボン酸のうち、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(5−2.脂肪族カルボン酸の添加量について)
前記脂肪族カルボン酸は、用いる場合には、原料の前記銀化合物の銀原子1モルに対して、例えば0.05〜10モル程度用いるとよく、好ましくは0.1〜5モル、より好ましくは0.5〜2モル用いるとよい。前記脂肪族カルボン酸の量が、前記銀原子1モルに対して、0.05モルよりも少ないと、前記脂肪族カルボン酸の添加による粒子径制御の効果が弱い。一方、前記脂肪族カルボン酸の量が10モルに達すると、粒子径が小さく揃いすぎる可能性もあるし、洗浄もしくは、表面保護剤置換工程においても、残存する可能性があるので、低温焼成での該脂肪族カルボン酸の除去がされにくくなる。ただし、脂肪族カルボン酸を用いなくてもよい。
【0044】
〔6.水・水分量の説明〕
反応系の水分含有量は、銀化合物に対して20wt%以下の範囲内とするのが好適である。特に好ましくは15wt%以下である。水分含有量については、錯形成に使用するアミン化合物の種類にもよるが、水分含有量が少ないと、得られる銀粒子の粒度分布が揃い、焼結体の空隙が生まれ、本発明で期待される効果が発現しにくいことがある。一方、銀化合物に対して20wt%以上の水分含有量の場合、銀粒子が粗大になりすぎ、粒子が焼結・合一する部分が生まれ、好ましくない。使用する水に関しては、金属イオン不純物を低減したイオン交換水が好ましい。水を添加するタイミングについては、加熱工程の前であればよく、銀−アミン錯体の形成前、あるいは錯体形成後の、いずれの段階で添加してもよい。
また、前述した有機溶媒(c)と水との比率は、水/有機溶媒の重量比が0.03〜0.3が好ましい。より好ましくは0.1〜0.25である。この範囲で特に、後述する本発明の粒子径及び粒度分布を有する銀ナノ粒子を得るのが容易である。
【0045】
(6−1.水添加することにおける高分布銀粒子生成のメカニズムについて)
後述する熱分解による銀粒子形成の反応中、水を存在させることにより、形成される銀ナノ粒子の粒径に特にバラつきが生じ、特に高分布な銀粒子が得られる。このメカニズムについては、不明な部分もあるが、水が銀化合物、特にシュウ酸銀に近づき、銀アミン錯体形成または、加熱分解する際に、アミン化合物が銀原子へ吸着するのを阻害し、阻害された部分が粒子成長すると考えられる。さらに、この水分子のシュウ酸銀への吸着量も偏りがある(局在化している)ことから、粒径に適度なバラつきが生じさせるのが容易になると考える。逆に、銀化合物に対して20wt%よりも多い量の水を添加すると、銀粒子自体が肥大化し、隣の粒子とも焼結・合一を起こしやすい。これは、水がアミンの銀原子の吸着を阻害の程度が大きくなり銀粒子が肥大化しやすいためと推測される。
【0046】
<銀ナノ粒子の製造方法>
〔7.液体原料の混合〕
本発明において、通常は、前記極性溶媒(c)の中に、前記錯体形成するアミン化合物(b)と前記保護剤として働くアミン化合物(d)を入れ、混合する。必要に応じて、脂肪族カルボン酸、水を添加・混合し、反応に必要な液体原料を調整することができる。液体原料で、常温で固体の物質があった場合は、適宜加熱を行い混合する事もできる。加熱する温度としては、100℃以下、好ましくは、80℃以下、さらに好ましくは、60℃以下で加熱し、液状化する液体原料の構成が望ましい。前記温度域よりも高い温度だと、銀化合物と混ぜてスラリー化する場合に、先に一部錯体化・シュウ酸分解反応が始まってしまい、系内の均一性が確保されないまま銀ナノ粒子が生成されてしまう可能性がある。
【0047】
〔8.銀化合物含有組成物(銀化合物スラリー)の作製〕
前記銀化合物(a)と前記液体原料を混合し、本発明の銀化合物含有組成物を得ることができる。または、先に極性溶媒と前記銀化合物(a)のみを混合し、前記アミン化合物を後で添加してもよい。このようにして得られる本発明の銀化合物含有組成物を用いて本発明の製造方法を実施することができる。本発明の銀化合物含有組成物は通常、スラリーの状態で調製される。
銀化合物と、所定量のアミン混合液、または、必要に応じて脂肪族カルボン酸、水を混合する。この際の混合は、室温で撹拌しながら、あるいは銀化合物へのアミン類との配位反応(錯体化反応)は発熱を伴うため室温以下に適宜冷却して撹拌しながら行うとよい。銀化合物とアミン化合物等との混合液は、極性溶媒存在下にて行われるので、撹拌及び冷却は良好に行うことができる。極性溶媒とアミン化合物の過剰分が反応媒体の役割を果たす。
【0048】
従来、銀アミン錯体の熱分解法においては、反応容器中に液体のアルキルアミン成分を先ず仕込み、その中に粉体の銀化合物(シュウ酸銀)が投入されていた。液体のアルキルアミン成分は引火性物質であり、その中への粉体の銀化合物の投入には危険があった。すなわち、粉体の銀化合物の投入による静電気による着火の危険性があった。また粉体の銀化合物の投入により、局所的に錯体形成反応が進行し、発熱反応が暴発してしまう危険もあった。本発明によれば、このような危険を回避できる。
【0049】
それと、揮発性の高いアルキルアミンの臭気は作業環境への悪影響が大きい、本発明においては、銀ナノ粒子合成時に使用する揮発性の高いアルキルアミンの量を軽減、または無くすことができるので、原料を仕込む際に臭気や作業者への暴露を軽減できる。
【0050】
〔9.銀アミン錯体について〕
生成する錯化合物が一般にその構成成分に応じた色を呈するので、反応混合物の色の変化から、錯化合物の生成反応の進行を検知することができる。また、色の変化で確認がとりにくい場合、反応混合物の粘性の変化や、温度の変化などで生成状態を検知することができる。このようにして、極性溶媒及びアミン化合物を主体とする媒体中に銀アミン錯体が得られる。
【0051】
〔10.錯体化から分解反応までの昇温速度条件の説明〕
反応系の加熱工程において、加熱速度は析出する銀粒子の粒径に影響を及ぼすことから、加熱工程の加熱速度の調整により銀粒子の粒径をコントロールすることができる。ここで、加熱工程の速度は、設定した分解温度まで、3.0〜50℃/minの範囲で調整することが望ましい。昇温時間が遅い方が、粒子成長が起こりやすく大粒子径が形成されやすいが、3.0℃/minよりも遅い昇温速度であると、粒子成長が促進されやすく、隣の粒子とも同一してしまい、好ましくない。
【0052】
〔11.銀粒子の洗浄工程について〕
銀化合物の熱分解により、得られた粒子の粒子径により、色が異なるが、黒褐色からグレーまでの色に呈する懸濁液となる。この懸濁液から極性溶媒や過剰のアミン化合物等の除去操作、例えば、銀ナノ粒子の沈降、適切な溶媒(水または、有機溶媒)によるデカンテーション・洗浄操作を行うことによって、目的とする保護剤としてアミン化合物が結合した銀ナノ粒子が得られる。
【0053】
〔12.洗浄溶媒の説明〕
この銀粒子の洗浄は、溶媒としてメタノール、エタノール、プロパノール等の沸点が150℃以下のアルコールを適応するのが好ましい。そして、洗浄の詳細な方法としては、銀粒子合成後の溶液に溶媒を加え、懸濁するまで撹拌した後、デカンテーションで上澄み液を除去することが好ましい。アミンの除去量は、加える溶媒の体積と洗浄回数で制御可能である。上述の一連の作業を線回数1回とする場合、好ましくは、銀粒子合成後の溶液に対して1/20〜3倍の体積の溶媒を使用し、1〜5回洗浄する。
【0054】
〔13.保護剤置換工程〕
さらに、上記の銀ナノ粒子に対して、必要に応じて炭素数4以上のアミン化合物(酸素原子を含むものも可)に表面保護剤を置換させる工程により、用途に合ったアミン化合物へ置換してもよい。最終的に置換するアミン化合物は、銀ナノ粒子を製造する際に用いたものでもよいし、用いていないものを新たに使用してもよい。
【0055】
特に、炭素数4〜8のアルキルアミンまたは、酸素原子を含むアミン化合物(アルコキシアミン、アルキルエーテルアミン、アミノアルコール)である。その中でも、分子の長さが5〜8Åであるものが好ましく、さらに好ましいのは、分子の長さが7〜8Åのものである。アルキルアミンと、酸素原子を含むアミン化合物は、1種類もしくは2種類以上併用しても可能であり、その組成によって、ペーストに加工した際の粘性の調整も可能となる。
【0056】
洗浄後の銀粒子を最終的に置換したいアミン化合物の中で、一定時間撹拌・懸濁することで、銀粒子の表面保護剤が置換される。その際、含まれている純銀分に対して、最終的に置換したいアミン化合物を50〜100wt%添加して、約1h常温下で撹拌・懸濁させる。表面保護剤置換工程の前後の違いについては、DTA測定での焼結由来ピークの違いや、ヘッドスペースGC/MS、熱分解GC/MSなどで、表面保護剤の確認は可能である。上述した表面保護剤の置換工程後、再度洗浄工程を経て、目的の銀粒子を得る。
なお、(b)に該当する特定のアミノアルコール自体は洗浄工程でほとんど除去できるが、その他のアミンを使用してこれが残る場合は、必要に応じて適宜上記の置換工程を得ればよい。
〔14.生成された銀粒子の状態(保護剤、粒度分布)〕
【0057】
このようにして、アミン化合物が結合している銀ナノ粒子が形成される。銀ナノ粒子とは、以下の方法で製造されうる、銀成分を主体として通常1〜1000nmの粒径を有する微細な粒子をいう。
銀ナノ粒子に結合し保護剤として機能する物質としては、例えば、前記の特定の炭素数4以下のアミノアルコール(b)、及び/又は分子の長さが5Å以上のアミン化合物(d)、さらに用いた場合は前記脂肪族カルボン酸を含んでいる。保護剤中におけるそれらの含有割合は、前記アミン混合液中のそれらの使用割合と同等である。また、洗浄工程、必要であれば保護剤置換行程によって、保護剤の種類や総量を調整することが可能である。最終的に保護剤として結合しているアミン化合物の分子の長さは、2〜8Åが好ましく、さらに5〜8Åがより好ましい。そして、7〜8Åが最も好ましい。一方、保護剤の総量は純銀分に対して、0.3〜2.0wt%であることが好ましい。さらに0.5〜1.0wt%であればより好ましい。
【0058】
本発明の銀ナノ粒子は、通常、粒子径が1000nm以下である。
また、平均粒子径が70〜350nmが好ましく、特に好ましくは70〜300nm、さらに好ましくは80〜200nmである。
粒子径のばらつきを示す変動係数は好ましくは30〜80%、特に好ましくは40〜70%、さらに好ましくは50〜60%である。
【0059】
平均粒子径及び変動係数は、以下のようにして求める。得られた銀ナノ粒子をFE−SEMにて粒子形状の観察を行う。その後画像解析ソフトSCANDIUM(OLYMPUS製)を用いて、300個以上の粒子径の測長し、平均粒子径、標準偏差の値を解析により求める。これらの値を用いて、変動係数は以下の計算式に基づき計算する。
変動係数(%)={標準偏差(nm)/平均粒子径(nm)}×100
なお粒子径測定の機材は、上記の方法と同等の結果を得られるものであれば制限されない。
【0060】
以上の平均粒子径と変動係数とを有することにより、銀塗料を塗布して得られる塗膜の膜厚を厚くすることができる。具体的には、10〜30μmもの厚膜も得ることができる。さらに、厚いだけでなく、得られる膜の体積抵抗率も低くすることができる。具体的には、20μm以上の厚膜で、6〜7μΩ・cm程度の小さな体積抵抗率のものを得ることもできる。これは、粒度分布が広く、小さい粒子が大きい粒子の間に最密充填に近く充填されることにより、銀粒子が高充填されて銀粒子の含有量の高い膜が得られているためであると推測される。
平均粒子径が350nmを超えると、銀ナノ粒子の融点降下の現象が弱くなり、低温で焼結しづらくなるため、この場合も塗膜の体積抵抗率を低くすることができない。
また、変動係数が30%未満だと、粒子が揃ってしまい、粒子間の空隙を埋めることができず、塗膜の体積抵抗率を低くすることができなくなる。他方、変動係数が80%を超えると、粒子のばらつきがあっても、粒子サイズが異なりすぎるため、この場合も粒子間の空隙を埋めることが難しくなり、この場合も塗膜の体積抵抗率を低くすることができない。
【0061】
以上の平均粒子径とばらつきとを有する本発明の銀粒子を用いれば、銀塗料組成物として好適な粘度に調整することができる。
スクリーン印刷用インクの粘度においては、0.1〜500Pa・sの範囲(ずり速度5 1/sec 時)が好ましい。高すぎると、流動性がなく印刷不良を起こしやすい、また低すぎると印刷したインクがダレて、線幅が広がってしまうためである。そこで、粘度を高くするには、通常、有機バインダーを添加することが多いが、有機バインダーは得られる塗膜の抵抗値を上げてしまう。これに対し、本発明の銀粒子は、有機バインダーの量が比較的少量でもスクリーン印刷に適した粘度にすることができる。すなわち、有機バインダーとして例えば「エトセル45」(商品名。日新化成(株)製)を純銀分に対し1wt%添加した状態でも比較的高粘度とすることができ、例えば粒度を平均粒子径約80nm、変動係数約35%に調整することにより、30〜40Pa・s程度の粘度に調整できる。したがって有機バインダーの添加量が純銀分に対し1wt%以下でも上記のスクリーン印刷に適した粘度にすることができる。このように、粒度の調整で粘度をコントロールできるので、有機バインダーの添加量の自由度が上がり、少なくすることもできるため、非常に優れている。
【0062】
本発明の製造方法は、前述したように、使用するアミン種、有機溶媒種、水の添加量等で、粒子径コントロールが可能である。したがって、200〜500nmの大粒子径領域の銀粒子と50〜200nmの小粒子径領域の銀粒子を1バッチで合成することもできるなど、工業生産にも適している。
こうして得られる本発明の銀粒子は、200nm以上の大粒子径領域の銀粒子が存在しているため、銀ナノ粒子の余剰保護剤の洗浄・保護剤置換処理・ペースト化などの工程途中においても凝集(焼結)しにくく、本来の銀粒子の特性を損ねることなく、銀ナノ粒子分散体・銀塗料組成物を製造しやすいと期待できる。このことは、スケールアップを考慮した際も有効である。
【0063】
<用途>
〔15.銀分散液・ペースト(塗料組成物)の製造方法〕
上記に記載の方法で得られた銀ナノ粒子を用いて、銀ナノ粒子分散隊を作製することができる。ここで、銀ナノ粒子分散体とは、少なくとも銀ナノ粒子及び分散媒を含有する組成物をいう。このような銀ナノ粒子分散隊は、制限されることなく、種々の形態をとり得る。銀ナノ粒子を適切な有機溶媒(分散媒体)中に懸濁状態で分散させることにより、本発明の銀ナノ粒子分散体を得ることができる。さらに、銀ナノ粒子及び分散媒のほか、いわゆるバインダー成分を含有させた銀塗料組成物を作製することができる。本発明により、7095重量%、さらに好ましくは75〜80重量%の銀ナノ粒子を含有させた銀塗料組成物を作製することもできる。
【0064】
(15−1.銀ナノ粒子分散体または銀塗料組成物の溶媒の説明)
銀ナノ粒子分散体又は銀塗料組成物を得るための分散媒としては各種の有機溶媒、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素溶媒; シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等のような芳香族炭化水素溶媒; メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ドデカノール等のようなアルコール溶媒等が挙げられる。
有機溶媒としてはこれらの中でも特に、炭素数8〜16で構造内に酸素原子を有する沸点280℃以下の有機溶媒が好ましい。銀粒子の焼結温度の目標を150℃以下とする場合、沸点280℃を超える溶媒は揮発・除去が困難だからである。この溶媒の好ましい具体例としては、ターピネオール(C10、沸点219℃)、ジヒドロターピネオール(C10、沸点220℃)、テキサノール(C12、沸点260℃)、エチルカルビトールアセテート(C8、沸点219℃)、ブチルカルビトールアセテート(C10、沸点247℃)、2,4−ジメチルー1,5−ペンタンジオール(C9、沸点150℃)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート(C16、沸点280℃)が挙げられる。溶媒は複数種を混合して使用しても良く、単品で使用しても良い。
所望の銀塗料組成物又は銀ナノ粒子分散体の濃度や粘性に応じて、有機溶媒の種類や量を適宜定めると良い。
【0065】
(15−2.塗料組成物の有機バインダーの説明)
銀塗料組成物において有機バインダーを添加することにより、銀粒子の分散性の補助、又は基材との密着性を付与することができる。有機バインダーの添加量としては、含有している銀に対して、0.1〜10wt%が好ましい。
上記バインダー樹脂の導電性インク中における存在形態は、溶媒に対して溶解していてもよいし、エマルジョン、またはサスペンションであってもよい。上記バインダー樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリブタジエン樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ロジン、ロジンエステル、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリビニルプチラール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。
使用するバインダー樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0066】
〔16.銀塗料組成物の説明(印刷方法・使い方)〕
調製された銀塗料組成物を基板上に塗布し、その後、焼成するのが一般的である。
塗布は、スピンコート、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディスペンサ印刷、凸版印刷(フレキソ印刷)、昇華型印刷、オフセット印刷、レーザープリンタ印刷(トナー印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、コンタクト印刷、マイクロコンタクト印刷などの公知の方法により行うことができる。印刷技術を用いると、パターン化された銀塗料組成物層が得られ、焼成により、パターン化された銀導電層が得られる。また、この銀導電層は導電性・熱伝導性に優れた接合材料としての応用が可能であり、パワーデバイス等の大電流を取扱う電気機器の接合材としても有用である。
【0067】
焼成は、200℃以下、例えば室温(25℃)以上150℃以下、好ましくは室温(25℃)以上120℃以下の温度で行うことができる。しかしながら、短い時間での焼成によって、銀の焼結を完了させるためには、60℃以上200℃以下、例えば80℃以上150℃以下、好ましくは90℃以上120℃以下の温度で行うとよい。焼成時間は、銀インクの塗布量、焼成温度などを考慮して、適宜定めるとよく、たとえば数時間(例えば3時間、あるいは2時間)以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分間以内にするとよい。
銀ナノ粒子は上記のように構成されているので、このような低温短時間での焼成工程によっても、銀粒子の焼結が十分に進行する。その結果、優れた導電性(低い抵抗値)が発現する。低い抵抗値(例えば15μΩcm以下、範囲としては7〜15μΩcm)を有する銀導電層が形成される。バルク銀の抵抗値は1.6μΩcmである。
【0068】
〔17.銀ナノ粒子分散体及び銀塗料組成物の用途〕
低温での焼成が可能であるので、基板として、ガラス製基板、ポリイミド系フィルムのような耐熱性プラスチック基板の他に、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどのポリエステル系フィルム、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系フィルムのような耐熱性の低い汎用プラスチック基板をも好適に用いることができる。また、短時間の焼成は、これら耐熱性の低い汎用プラスチック基板に対する負荷を軽減するし、生産効率を向上させる。
【0069】
銀導電層の厚みは、目的とする用途に応じて適宜定めるとよく、特に本発明に係る銀ナノ粒子を使用することで比較的膜厚の大きい銀導電層を形成した場合でも高い導電性を示すことができる。銀導電層の厚みは、例えば、100nm〜30μm、好ましくは1μm〜20μm、より好ましくは10μm〜20μmの範囲から選択するとよい。
本発明の銀導電材料は、電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、ICカード、ICタグ、太陽電池、LED素子、有機トランジスタ、コンデンサー(キャパシタ)、電子ペーパー、フレキシブル電池、フレキシブルセンサ、メンブレンスイッチ、タッチパネル、EMIシールド等に適応することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。
実施例及び比較例で用いたアミン化合物の名称、構造式等の特徴を、表−1〜3に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【表3】
【0073】
[実施例1]
(銀粒子の製造)
アルミブロック式加熱攪拌機にセットした試験管に原料となる銀化合物としてシュウ酸銀の乾燥品7.58g(24.95mmol) と、極性溶媒としてn−ヘキサノール9.21g(90.14mmol)とを撹拌し、シュウ酸銀を湿潤状態にさせた。その後、AMP2.50g(25.47mmol)、3−エトキシプロピルアミン4.83g(46.82mmol)を添加した。その後、1時間撹拌し、銀―アミン錯体を製造した。その後、昇温速度3℃/minで加熱し100℃でシュウ酸銀の分解反応が起こったと思われる二酸化炭素の発生を確認した。二酸化炭素の発生が止まるまで加熱を継続し、銀粒子が懸濁された液体を得た。銀粒子の析出後、反応液にメタノール20ccを添加して洗浄し、これを遠心分離した。この洗浄と遠心分離は3回行った。このようにして、銀ナノ粒子を得た。
【0074】
(粒子径の確認)
得られたメタノールで湿った状態の銀ナノ粒子をn−ヘキサノール中へボルテックスミキサーを用いて懸濁させ、その液をコロジオン膜等の支持体へ滴下し、溶媒を乾燥させて試料を得た。FE−SEM観察にて、倍率20000〜70000倍で観察・撮影し、画像の中で400個以上粒子が存在している倍率の画像を選定する。その後、FE−SEMにて粒子形状の観察を行った。その後画像解析ソフトSCANDIUM(OLYMPUS製)を用いて、粒子数400個以上をカウントし、粒子径の測長、平均粒径、粒度分布等の解析を実施した。
粒子の100nm以下、200〜500nm、500nm超の粒子割合(%)、平均粒径(nm)、変動係数(%)を表−4に示す。FE−SEM写真を
図3に示す。粒度分布ヒストグラムを
図17に示す。
【0075】
(銀ナノ粒子ペースト、インクの調製と焼成)
次に、回収した銀ナノ粒子に、溶媒としてテキサノールを銀分75wt%になるよう添加し、混合した。さらに銀粒子に対して添加量が1wt%になるように、有機バインダーとしてエトセル45(日新化成製)を添加し、最終的に銀分約70wt%の銀ナノ粒子ペーストインクを作製した。このペーストをスライドガラス上でキャストし、送風乾燥機にて、150℃で1h加熱した。乾燥後の塗膜厚みは10~30μmになるようにした。
得られた塗膜は、4端子法により表面抵抗値を測定し、得られた塗膜の厚みを乗じて、体積抵抗率を得た。
体積抵抗率の値を表−4に示す。
【0076】
[実施例2〜15、比較例1〜6]
(銀粒子の製造)
使用材料及び配合割合を表−4〜12に示すものに代え、銀―アミン錯体化合物生成後の昇温速度を表−4〜12に示すものに代え、反応容器/加熱装置を表−4〜12に示すものに代えた以外は実施例1の(銀粒子の製造)と同様にして、銀粒子を作製した。
表−6、7、12に示すとおり、実施例6、10、比較例5については、後述の内容の(保護剤置換処理)を行った。保護剤置換行程を以下に示す。シュウ酸銀のシュウ酸分解反応により、得られた銀ナノ粒子中のアミン化合物をn−ヘキシルアミンに置換するため、得られた銀ナノ粒子の純銀分に対して71.8wt%のn−ヘキシルアミンと銀ナノ粒子を常温で1時間撹拌し、上記と同様に洗浄と遠心分離を3回繰り返し、ヘキシルアミンを保護剤とした銀ナノ粒子を得た。
【0077】
得られた銀粒子について実施例1と同様の方法で(粒子径の確認)を行った。なお、比較例2〜4については、STEM像で粒子径の確認を実施した。
また、実施例2〜11、比較例1〜2については、得られた粒子を用いて実施例1と同様の方法で銀ナノ粒子ペースト、インクの調製と焼成を行った。
なお実施例4、5については、保護剤置換処理前の粒子と保護剤置換処理後の粒子を用いて各々(銀ナノ粒子ペースト、インクの調製と焼成)を行った。
また、比較例3及び、4については、特許文献1及び、2のように、銀分55wt%になるようにし、イソオクタン/n−ブタノール=4/1(体積比)の混合溶媒中に分散させた銀ナノ粒子分散体をスピンコートすることにより、ガラス上に塗工した。
また、実施例12〜15、比較例5〜6は、得られた粒子を用いて、溶媒としてテキサノールを銀分78.5%になるように添加・混合し、銀ナノ粒子ペーストの作製を行った。
実施例12,13,15、比較例5については、実施例1と同様に、銀ナノ粒子ペースト、インクの調製と焼成を行った。
【0078】
実施例2〜15、比較例1〜6について、得られた粒子の平均粒径(nm)、変動係数(%)、各粒子径範囲での粒子割合(%)、を表−4〜12に示す。SEMもしくはSTEM画像を
図4〜16、
図31〜
図36に示す。実施例2〜15、比較例1〜6の粒度分布ヒストグラムを
図17〜28、43〜48に示す。実施例1〜13、15及び、比較例1〜4について、焼結塗膜の体積抵抗率及び膜厚の値を表−4〜12に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【0085】
(塗膜観察)
実施例12〜15、比較例5〜6記載の粒子を用いて作成した銀分78.5%テキサノールペーストについて、アルミ箔上にスパチュラで塗布した膜をドライヤーで乾燥させた塗布膜表面についてSEM観察を実施した。SEM観察した塗布膜は
図37〜42のとおりである。
(銀ペーストの粘度測定)
さらに、実施例12〜15、比較例5〜6は記載の粒子を用いて作成した銀分78.5%テキサノールペーストについて、レオメーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製HAAKE MARSIII)にて粘度を測定した。測定条件は、測定モード:ヒステリシス・ループ、せん断速度:0.1s
−1→30s
−1(90s)、30s
−1→0.1s
−1(90s)、測定治具:コーンプレート(Cone C35/1°TiL、Lower plate TMP35)、ギャップ:0.052mm、測定温度:25℃とした。 測定した粘度データは
図49記載のとおりである。
以上のように、本発明により、錯体形成時に(b)成分のアミン化合物を添加し、合成された銀粒子を用いることで、20μm以上の焼結塗膜を形成することが可能でかつ、150℃での焼成条件において、塗膜の体積抵抗率が50μΩ・cm以下であり、導電性がある膜を得られることが確認できた。
【0086】
実施例1〜5では、(b1)成分のアミン化合物の添加量や使用するアルコール溶媒の極性の違いを利用して、変動係数30%以上で、ある程度粒子径のばらつきを持たせ、粒子径制御が可能であることがわかる。
また、実施例6〜8のように、粒子径を大きく、ばらつきを持たせるために、(b1)成分だけでなく、水を併用して用いてもよい。その中でも、アミン化合物としてAMPを使用した、実施例6については、150℃焼成において、10μΩ・cm以下の体積抵抗率を示すことができ、最も導電性の高い厚膜導電膜を得ることができた。
【0087】
さらに、実施例9のように、(b1)成分のアミン化合物とジグリコールアミンと併用して、大粒子径化、広分布化も可能であるし、実施例10のように、ジグリコールアミンと水も併用させることにより、より大粒子径化が可能である。特に実施例10の平均粒子径258.8nmの銀ナノ粒子についても、100〜150℃の焼成において、50μΩ・cmの厚膜導電膜を得ることができる。
また、実施例11のように、(b2)成分のアミン化合物を用いた場合でも、銀粒子を大粒子径・広分布化することが可能で、40μm以上、約30μΩ・cmの厚膜導電膜を得ることが確認できた。
【0088】
これに対し、比較例1、2では(b)成分のアミン化合物を添加しておらず、この場合は平均粒子径が70nm未満と小さいだけでなく、変動係数が30%未満でばらつきが小さく、99%以上が100nm以下の小さな粒子径を有している。このような小さくてばらつきの少ない粒子では、10μm以下の膜厚でないと、各焼成温度において、十分な導電性は得られないケース、もしくは体積収縮によりクラックが生じ、導電性自体がないケースがある。
【0089】
また、特許文献1,2の製法と同等の方法で作製した比較例3及び4の粒子では、インクを塗工すると、0.5μm程度の焼結塗膜となってしまい、厚膜化は困難である。
以上の結果からわかるように、(b)成分のアミン化合物を規定する範囲内で使用することにより、本発明の方法で本発明の銀ナノ粒子は、粒度分布に適度なバラつきを持たせることができ、低抵抗な厚膜導電膜を得られやすい銀塗料組成物を作製することが可能であることがわかる。
【0090】
以上により、本発明において、(b1)成分のアミン化合物、または(b1)と(b2)を併用したアミン化合物が銀粒子表面に結合した銀ナノ粒子を用いることで、銀ペーストの粘性をコントロール(高粘度化)することが確認できた。
図49に実施例12〜15、比較例5〜6の粘度データを記載しているが、(b1)成分としてAMPを用いている実施例12〜14については、粒子径が小さくなるにつれ、高粘度となっているが、一番粒子径が大きい実施例14(平均粒子径145.9nm)は、従来のアルキルアミンのみで表面保護されている銀粒子から作製されたペースト比較例5(平均粒子径108.7nm)と比較しても、高粘度である。
また、(b1)成分だけでなく(b2)成分を併用し、その配合を調整することにより、銀ペーストの粘度も調整ができる、(b1)のAMPの配合量を低くすることで、粘度が低くなる傾向がある。(b1)(b2)成分の配合をコントロールすることにより、同レベルの粒子径を持つ銀ナノ粒子から作製されたペーストの粘度を容易に調整することが可能である。さらに分子の長さ7〜8Åのアミン化合物を用いることで、安定性やハンドリングに優れた銀ナノ粒子ペーストを得ることができる。
【0091】
従来のアルキルアミンのみで表面保護されている銀粒子についても、比較例6のように粒子径を小さくすれば高粘度化は可能であるが、
図42に示す乾燥塗膜を見ると、非常にクラックを起こしやすく、塗膜表面に多くの凹凸が確認され、銀ナノ粒子が凝集状態にあり、優れた導電膜を得られないペーストとなっている。
【0092】
これに対して、実施例12〜15、比較例5の乾燥塗膜は、凝集物量も少なく小さいので、良好な導電膜が得られやすいと考えられるが、アルキルアミンのみで表面被覆された比較例5については、低粘度であるので、粘度を高めるためにより多くの有機バインダーを必要とするため、高精細なスクリーン印刷(線幅50μm以下)においては、本来の導電性を損なう可能性が高いと考えられる。
以上の事から、(b1)成分、もしくは(b1)(b2)成分を併用したアミン化合物が銀粒子表面に結合した銀ナノ粒子から作成されたペーストは、意外にも高粘度な銀ペーストが得られ、特にスクリーン印刷に適した粘度に調整しやすい銀塗料組成物を提供することが可能である。