特許第6837706号(P6837706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6837706
(24)【登録日】2021年2月15日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】フッ素樹脂膜材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20200101AFI20210222BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20210222BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210222BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20210222BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20210222BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20210222BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20210222BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20210222BHJP
   B01J 31/38 20060101ALI20210222BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   C08J7/04 ZCEW
   B32B27/18 ZZAB
   B32B27/30 D
   B32B7/023
   B32B27/20 A
   B01J35/02 J
   B01J37/02 301C
   B01J37/08
   B01J31/38 M
   B01D53/86 222
【請求項の数】17
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-165705(P2016-165705)
(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公開番号】特開2018-30967(P2018-30967A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108604
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 義人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 和広
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−042257(JP,A)
【文献】 特開2005−041117(JP,A)
【文献】 特開2009−056809(JP,A)
【文献】 特開2014−046255(JP,A)
【文献】 特開2009−291689(JP,A)
【文献】 特開2006−192906(JP,A)
【文献】 特開2007−167771(JP,A)
【文献】 特開平09−316214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00− 7/18
B32B 1/00− 43/00
B01D 53/86− 53/90
B01J 21/00− 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂としてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を含むフッ素樹脂層の少なくとも一方の最表面に、光触媒とフッ素樹脂とを含む光触媒層を有するフッ素樹脂膜材であって、
前記光触媒層に含まれる光触媒とフッ素樹脂は、それらを併せたものの重量に対する光触媒の重量の比率である、光触媒比率が40%以下であるとともに、
前記光触媒層に含まれるフッ素樹脂は、融点が240℃以上かつ連続使用温度が200℃以上のフッ素化樹脂共重合体である特定フッ素樹脂とPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とからなり、前記光触媒層に含まれる特定フッ素樹脂とPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とは、それらを併せたものの重量に対する特定フッ素樹脂の重量の比率である、特定フッ素樹脂比率が50%以下である、
フッ素樹脂膜材。
【請求項2】
前記光触媒比率が25%以下である、
請求項1記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項3】
前記光触媒比率が20%以下である、
請求項1記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項4】
前記光触媒比率が15%以上である、
請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項5】
前記特定フッ素樹脂比率が30%以下である、
請求項1〜4のいずれか記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項6】
前記特定フッ素樹脂比率が25%以下である、
請求項1〜4のいずれか記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項7】
前記特定フッ素樹脂比率が20%以下である、
請求項1〜4のいずれか記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項8】
前記特定フッ素樹脂比率が10%以上である、
請求項1〜7のいずれか記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項9】
前記特定フッ素樹脂は、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)とPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)の少なくとも一方である、
請求項1〜8のいずれか記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項10】
前記光触媒層には、炭酸塩が含まれている、
請求項1〜9のいずれかに記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項11】
前記光触媒層に含まれる前記炭酸塩の重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒の重量に対して20重量%以下とされている、
請求項10記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項12】
前記光触媒層に含まれる前記炭酸塩の重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒の重量に対して10重量%以下とされている、
請求項10記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項13】
前記光触媒層に含まれる前記炭酸塩の重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒の重量に対して5重量%以上とされている、
請求項10〜12のいずれかに記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項14】
前記光触媒層に、前記光触媒層を着色するための無機顔料が含まれている、
請求項10〜13のいずれかに記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項15】
前記光触媒層に含まれる前記光触媒と前記炭酸塩とを併せたものの重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒と前記炭酸塩と前記フッ素樹脂とを併せた重量の40%以下である、
請求項10〜13のいずれかに記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項16】
前記光触媒層に含まれる前記光触媒と前記炭酸塩と前記無機顔料とを併せたものの重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒と前記炭酸塩と前記無機顔料と前記フッ素樹脂とを併せた重量の40%以下である、
請求項14記載のフッ素樹脂膜材。
【請求項17】
フッ素樹脂としてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を含むフッ素樹脂層の少なくとも一方の最表面に、光触媒とフッ素樹脂とを含む光触媒層を形成することでフッ素樹脂膜材を得るための、フッ素樹脂膜材の製造方法であって、
前記フッ素樹脂層の少なくとも一方の最表面に、前記光触媒と前記フッ素樹脂とを含むディスパージョンを塗布する過程、
前記ディスパージョンを乾燥させる過程、
前記ディスパージョンに含有されるフッ素樹脂のいずれかのフッ素樹脂の融点以上の温度で、前記ディスパージョンを塗布された前記フッ素樹脂層を焼成する過程、
焼成された前記ディスパージョンを塗布された前記フッ素樹脂層を室温まで冷却する過程、
を含んでおり、
前記フッ素樹脂層に塗布される前記ディスパージョンに含まれる光触媒とフッ素樹脂は、それらを併せたものの重量に対する光触媒の重量の比率である、光触媒比率が40%以下とされるとともに、
前記フッ素樹脂層に塗布される前記ディスパージョンに含まれるフッ素樹脂は、融点が240℃以上かつ連続使用温度が200℃以上のフッ素化樹脂共重合体である特定フッ素樹脂とPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とからなり、前記ディスパージョンに含まれる特定フッ素樹脂とPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とは、それらを併せたものの重量に対する特定フッ素樹脂の重量の比率である、特定フッ素樹脂比率が50%以下とされる、
フッ素樹脂膜材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂膜材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば膜構造物を構築するための建材として用いられる膜材料の中に、フッ素樹脂を主な材料とするフッ素樹脂膜材が存在する。フッ素樹脂膜材は、剛性の高い板等とは異なり、滑らかな曲面を構成することが可能であり、また、必要に応じてある程度の透光性を与えることが可能である等の理由により、広く普及している。つまり、かかる膜材料が普及する大きな理由の1つに、その美観に関する優位性がある。
【0003】
フッ素樹脂膜材には様々なものがあるが、その中の1つに、ガラス繊維を織って作られたガラス繊維基材を有しており、その少なくとも一方の面をフッ素樹脂の一種であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆したものがある。
かかるガラス繊維基材と、PTFEの組合せによるフッ素樹脂膜材は、不燃性及び耐久性の観点から見て優れており、日本においては、建築基準法によってA種膜材料として分類されている。かかるA種膜材料は、建築基準法において、建造物の屋根にも用いることができるものとされており、球技場、陸上競技場等の大規模なドーム状構造物の屋根等に応用されている。
日本ではA種膜材料に分類されるガラス繊維基材と、PTFEの組合せをその基本構造とするフッ素樹脂膜材は、上述のように多く使われている。また、国外においてもA種膜材料の同等品が多く使用されている。
【0004】
ところで、フッ素樹脂膜材は上述のように建築用の用途で使われることが多いところ、フッ素樹脂膜材は所定の形状に裁断した上、裁断したパーツ同士を接合加工する必要があり、その接合は、熱溶着により行うことが一般的である。PTFEは融点が高い上、それが溶融したときの粘度が高く熱溶着には不向きであるため、PTFEよりも融点が低く且つその溶融粘度が低いFEPをフッ素樹脂膜材の少なくとも一方の面に設けることにより、フッ素樹脂膜材同士の熱溶着を容易且つ確実に行えるようにすることができる。
また、フッ素樹脂の汚れにくさという特性によりフッ素樹脂膜材はその美観を比較的長く保つことができるものではあるが、しかしながらフッ素樹脂膜材が屋外で使用される場合にはその表面に汚れが付着することを免れない。そのような汚れを典型的には粉末状の酸化チタンである光触媒のセルフクリーニング機能によって分解、除去することを目的として、フッ素樹脂膜材の少なくとも一方の面に光触媒層を設けるということも多く行われている。
幸いなことに、日本の分類では、ガラス繊維基材とPTFEの組合せをその主な構造としているのであれば、PTFEの層に例えばその素材をガラスビーズとするフィラーを加えたり、或いはPTFE層の表面に、他の樹脂、例えば四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)や、光触媒を有する層が設けられていても、A種膜材料であることに影響がないとされている。
そこで、日本のフッ素樹脂膜材では、PTFEの層の少なくとも一方の表面に、フッ素樹脂としてFEPを含み、且つ光触媒をも含む光触媒層を形成したものが実用化されており、熱溶着を容易且つ確実に行えるようにすることと、セルフクリーニング機能によって美観を長持ちさせることとを両立させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、PTFEの層の少なくとも一方の表面に、フッ素樹脂としてFEPを含み、且つ光触媒をも含む光触媒層が形成されたフッ素樹脂膜材を屋外で使用していると、何年か経過した後、典型的には5、6年後にフッ素樹脂膜材の表面が汚れてくるという現象がしばしば見られることに本願発明者は気付いた。
【0006】
本願発明の課題は、光触媒層をその表面に有するPTFEをその主な材料とするフッ素樹脂膜材において生じる、その使用を開始してから何年か経過した後にその表面が汚れてくるという現象を防止するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本願発明者は研究を重ねた。その結果判明したのが、上述の汚れの原因は、光触媒層の表面に生じた細かなクラックの中に藻類やカビ等の生物系汚れが繁殖することだ、ということである。
上述のように、光触媒層に含まれるフッ素樹脂は、フッ素樹脂膜材同士の熱溶着を容易にするためにFEPとされることが多い。これが光触媒層の表面にクラックが生じる原因となっている。光触媒層は一般に、フッ素樹脂の層の最表面に、フッ素樹脂としてのFEPと光触媒とを含むディスパージョンを塗布し、FEPの融点以上の温度で加熱、焼成することで形成される。FEPは、加熱、焼成時に一旦溶融し、その後室温まで冷却される過程で硬化(固化)する。ここで、FEPは、PTFEとは溶融粘度が異なるから、冷えていく過程でFEPの表面にクラックが生じるのである。もっとも、かかるクラックの発生は必ずしも悪いことと捉えられていたわけではない。むしろ、従来は、クラックが生じることにより、FEPに担持された粉状の光触媒の外部と接触する表面積が増えるから、光触媒層の表面にクラックが生じるのは、光触媒層がセルフクリーニング機能等の光触媒機能をより良く生じさせるには好ましい、という考え方が支配的とさえいえる状況であった。
他方、本願発明者は、上述の如きクラックが生じる原因の1つが、PTFEの層を構成するPTFEとは溶融粘度が異なるフッ素樹脂であるFEPを光触媒層を構成するフッ素樹脂として用いることなのであるから、光触媒層を構成するフッ素樹脂としてFEPに代えてPTFEを用いることで上述の如きクラックの発生を抑制でき、ひいてはクラックの存在に起因する藻類の発生をも抑制できるのではないか、と考えた。
ただし、上述したように、PTFEは溶融粘度が大きく(言い換えれば、溶融したときの流動性に乏しく)、熱溶着には時間を要し、効率が悪くなる傾向があるから、フッ素樹脂膜材を他のフッ素樹脂膜材と熱溶着可能な実用的なものとするためには、光触媒層を構成するフッ素樹脂をPTFEのみとするわけにはいかない。そこで、本願発明者は、光触媒層を構成する樹脂として、PTFEとFEPとの双方を用いることとし、そうすると光触媒層が、或いはその光触媒層を有するフッ素樹脂膜材がどのような性質を持つか、ということにつき研究を行った。
本願発明は、そのような研究の成果として得られたものである。
【0008】
本願発明は、フッ素樹脂としてPTFEを含むフッ素樹脂層の少なくとも一方の最表面に、光触媒とフッ素樹脂とを含む光触媒層を有するフッ素樹脂膜材である。
そして、このフッ素樹脂膜材における前記光触媒層に含まれる光触媒とフッ素樹脂は、それらを併せたものの重量に対する光触媒の重量の比率である、光触媒比率が40%以下である。また、このフッ素樹脂膜材における前記光触媒層に含まれるフッ素樹脂は、融点が240℃以上かつ連続使用温度が200℃以上のフッ素化樹脂共重合体である特定フッ素樹脂とPTFEとからなり、前記光触媒層に含まれる特定フッ素樹脂とPTFEとは、それらを併せたものの重量に対する特定フッ素樹脂の重量の比率である、特定フッ素樹脂比率が50%以下である。
本願のフッ素樹脂膜材は、従来のフッ素樹脂膜材、例えば、日本におけるA種膜材料と同様に、フッ素樹脂層を備えている。そして、本願のフッ素樹脂膜材は、フッ素樹脂層の少なくとも一方の表面に、光触媒層を備えている。
ここで、本願のフッ素樹脂膜材における光触媒層に含まれるフッ素樹脂は、上述の研究の成果により、PTFE、及び融点が240℃以上かつ連続使用温度が200℃以上のフッ素化樹脂共重合体である特定フッ素樹脂とされる。本願では、光触媒層におけるクラックの発生を、光触媒層を構成するフッ素樹脂として、当該光触媒層をその表面に設けられるPTFEの層を構成する成分と同じPTFEを選択することにより抑制することとしている。他方、光触媒層に含まれるフッ素樹脂をPTFEのみとすると、フッ素樹脂膜材同士の熱溶着が時間を要するため効率が悪くなるおそれがあるため、本願では、光触媒層にPTFEに加えて、融点が240℃以上かつ連続使用温度が200℃以上のフッ素化樹脂共重合体である特定フッ素樹脂のをも含めることで、そのような不具合の発生を抑制することとしている。上述のように、従来のフッ素樹脂膜材における光触媒層にクラックが生じる原因の1つは、光触媒層に含まれるFEPと、光触媒層の下のPTFEの層におけるPTFEとの溶融粘度の違いである。したがって、光触媒層に混入させるFEPの量が多くなると、光触媒層にクラックが発生する。かかるクラックが完全に発生しなくなるとまでは言えないが、光触媒層に含まれる特定フッ素樹脂とPTFEを併せたものの重量に対する特定フッ素樹脂の重量の比率である、特定フッ素樹脂比率を50%以下とすると、クラックが存在しないか、仮に存在したとしても、本願のフッ素樹脂膜材の光触媒層に生じるクラックは少なくとも、従来のフッ素樹脂膜材の光触媒層に生じるクラックよりも有意に抑制された状態になる。なお、従来技術で説明した光触媒層は、フッ素樹脂としてFEPのみを含むものとして説明したが、その一部、或いは全部をPFAに置換したものにPTFEを加えた場合においても、本願発明の効果を得られることを本願発明者は確認している。注意すべきは、本願発明における光触媒を構成するPTFE以外のフッ素樹脂は、FEPに限られず、融点が240℃以上かつ連続使用温度が200℃以上のフッ素化樹脂共重合体である特定フッ素樹脂であれば良い、という点である。特定フッ素樹脂は、例えば、FEPとPFAの少なくとも一方とすることができる。
他方、本願のフッ素樹脂膜材の光触媒層では、光触媒とフッ素樹脂(つまり、PTFE+特定フッ素樹脂)を併せたものの重量に対する光触媒の重量の比率である、光触媒比率が40%以下とされている。上述したように、本願のフッ素樹脂膜材では、光触媒層を構成するフッ素樹脂としてPTFEと特定フッ素樹脂とをブレンドしたものを選択し、且つそのPTFEの重量を特定フッ素樹脂の重量以上とすることで、光触媒層においてクラックが生じるのを防止することとしている。しかしながら、本願発明者の行った研究によれば、光触媒層に含まれるフッ素樹脂が上記の条件を充足していたとしても、光触媒層に含まれる光触媒のフッ素樹脂に対する重量比がある程度以上となると光触媒層にクラックが生じることがあり、また、フッ素樹脂膜材同士の熱溶着が難しくなるということがわかった。本願発明者の研究によれば、光触媒層において光触媒比率を40%以下とすることにより、クラックが存在しないか、仮に存在したとしても、本願のフッ素樹脂膜材の光触媒層に生じるクラックは少なくとも、従来のフッ素樹脂膜材の光触媒層に生じるクラックよりも有意に抑制された状態になるのみならず、少なくとも片面コート品の場合にフッ素樹脂膜材同士の熱溶着を行うことが可能となる。なお、ここで、「片面コート品」とは、その片面のみに、本願発明における光触媒層を有するフッ素樹脂膜材を意味する。この場合、片面コート品の他方の面には、光触媒を有さないFEP又はPFAの少なくとも一方からなる層が設けられることになる。このような片面コート品では、フッ素樹脂膜材同士の熱溶着が行われる場合、光触媒層と、光触媒を含まないFEP又はPFAの少なくとも一方からなる層とが接触した状態で、フッ素樹脂膜材の例えば縁部同士が熱溶着されることになる。上述した、「片面コート品の場合にフッ素樹脂膜材同士の熱溶着を行うことが可能」というのは、かかる熱溶着が可能であるという意味である。
また、光触媒層にPTFEを含めることにより、更なる効果が生じることを本願発明者は見出した。光触媒層にPTFEを含めた場合、PTFEがその特性としてそもそも持つ細かな空隙であるボイドが、光触媒層中に形成される。この空隙は、上述のクラックよりも遥かに小さいものであり、生物系汚れが繁殖する可能性は殆どないものではあるが、その空隙が光触媒の表面積を増やすに貢献する。それにより、本願発明のフッ素樹脂膜材によれば、光触媒層中の光触媒の重量が同じ場合、光触媒層中に含まれるフッ素樹脂が特定フッ素樹脂のみの場合よりも、光触媒機能がより良く発揮されるようになる。この場合の光触媒機能は例えば、セルフクリーニング機能であり、或いはNOx分解による空気浄化機能である。
なお、本願における光触媒は粉体である。また、これには限られないが、光触媒は、例えばTiOである。
【0009】
上述したように、本願のフッ素樹脂膜材の光触媒層では、光触媒と光触媒層に含まれるフッ素樹脂を併せたものの重量に対する光触媒の重量の比率である、光触媒比率が40%以下とされる。つまり、光触媒比率は、40%以下の範囲で適宜決定することができる。
例えば、前記光触媒比率は25%以下とすることができる。そうすることにより、特定フッ素樹脂比率が50%以下であれば、クラックが存在しないか、仮に存在したとしても、本願のフッ素樹脂膜材の光触媒層に生じるクラックは少なくとも、従来のフッ素樹脂膜材の光触媒層に生じるクラックよりも有意に抑制された状態になる。特に特定フッ素樹脂比率が30%以下、特には20%以下であれば、光触媒層にクラックが存在しない状態となる。また、光触媒比率を25%以下とすることにより、両面ともに本願の光触媒層を有するフッ素樹脂膜材(これは、上述のネーミング方法に倣うのであれば、「両面コート品」と呼ぶべきフッ素樹脂膜材である。)の光触媒層同士を確実に熱溶着することが可能となる。本願発明者の研究によれば、かかる熱溶着の確実性は、特定フッ素樹脂比率よりも、光触媒比率に依存する。その意味で、光触媒比率を25%以下とするのは、特に両面コート品であるフッ素樹脂膜材同士を熱溶着する場合において、その確実性を高めるという点で意味を持つ。なお、片面コート品の場合には光触媒比率が40%以下で良いのは既に述べた通りである。
前記光触媒比率は20%以下であってもよい。光触媒層中の光触媒の量をこの程度まで減らすことによって、光触媒層にクラックが生じる可能性を減じることができる。のみならず、この程度まで光触媒比率を下げたとしても、光触媒層が持つセルフクリーニング機能と、空気浄化機能とは必要最小限以上の性能を充足するものとすることができる。
他方、前記光触媒比率は15%以上とすることができる。光触媒層中の光触媒比率を下げることによって、光触媒層にクラックが生じる可能性を減じることができる。しかしながら、光触媒比率を下げ過ぎると当然に、光触媒層が持つセルフクリーニング機能と、空気浄化機能とが必要最小限の機能を下回る。これらのうち特に、使用中のフッ素樹脂膜材の光触媒層の美観を保つに有用なセルフクリーニング機能は、光触媒比率が15%以上のときによく保たれる。
【0010】
光触媒比率の如何によらず、上述したように、本願のフッ素樹脂膜材の光触媒層では、光触媒層に含まれる特定フッ素樹脂とPTFEを併せたものの重量に対する特定フッ素樹脂の重量の比率である、特定フッ素樹脂比率が50%以下とされる。つまり、特定フッ素樹脂比率は、光触媒比率の如何によらず、50%以下の範囲で適宜決定することができる。
例えば、前記特定フッ素樹脂比率は30%以下とすることができる。特定フッ素樹脂比率をこの大きさ以下まで小さくすることによって、特に光触媒比率を15%程度とした場合には、光触媒層にクラックが生じなくなるとともに、光触媒層のセルフクリーニング能力が十分なものとなる。
前記特定フッ素樹脂比率を25%以下とすることもできる。この程度まで特定フッ素樹脂比率を小さくすると、光触媒比率を25%程度まで大きくしたとしても光触媒層のクラックが少なくとも従来品より有意に改善し、また、光触媒層のセルフクリーニング能力も十分なものとなる。
前記特定フッ素樹脂比率を20%以下とすることもできる。この程度までPTFEを増やすと、空気浄化性能がボイドの効果により向上する。
前記特定フッ素樹脂比率を10%以上とすることも可能である。これによれば、熱溶着の効率が向上する。特定フッ素樹脂比率を小さくすればするほど、光触媒層にクラックが生じなくなるし、また、光触媒層中にPTFEが作るボイドが増えるから、セルフクリーニング機能、空気浄化機能も向上して、必要な光触媒の量も減らせるようになる。もっともその半面、特定フッ素樹脂比率が小さくなりすぎると、フッ素樹脂膜材同士の熱溶着に時間を要して効率が悪くなるおそれがある。フッ素樹脂膜材の熱溶着の効率を良くするためには、特定フッ素樹脂比率を10%以上としておくのが良い。
【0011】
光触媒比率、特定フッ素樹脂比率の如何によらず、本願のフッ素樹脂膜材における前記光触媒層には、炭酸塩が含まれてもよい。炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸ストロンチウム等を利用できる。
本願発明者は、光触媒層に炭酸カルシウムを始めとする炭酸塩を加えることにより、光触媒層のセルフクリーニング機能と、空気浄化機能とが増すことを発見した。光触媒層に炭酸塩を加えることで、それら2つの光触媒機能を上昇させるか、さもなくばそれら2つの光触媒機能を従来と同等とするのであれば、安価な炭酸塩を用いることでそれより高価な光触媒の使用量を減らすことができるようになる。
前記光触媒層に含まれる前記炭酸塩の重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒の重量に対して20重量%以下とすることができる。また炭酸塩の量は、光触媒の重量に対して10%程度(例えば、10%±2%程度)とするのが望ましい。本願発明者の研究によれば、光触媒層の空気浄化機能は、光触媒層に炭酸塩を加える量を増加させるに連れて向上するが、光触媒の重量に対して10%を超えると低下し始め、光触媒の重量に対して20%程度になると、光触媒層に炭酸塩を加えない場合と殆ど同等になる。したがって、光触媒層に炭酸塩を加えることに上述の如き効果はあるものの、それが光触媒の重量に対して20%を超えることには、特に空気浄化機能に関していえば意味がない。
また、前記光触媒層に含まれる前記炭酸塩の重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒の重量に対して10重量%以下とされていてもよい。本願発明者の研究によれば、光触媒層のセルフクリーニング機能は、光触媒層に炭酸塩を加える量を増加させるに連れて向上するが、光触媒の重量に対して10%を超えると殆ど変化しなくなる。したがって、光触媒の重量に対して10%程度になると、光触媒層に炭酸塩を加えない場合と殆ど同等になる。したがって、光触媒層に10%以下の炭酸塩を加えることにより、空気浄化機能についても、セルフクリーニング機能についても、殆ど上限に近い機能を得ることができる。
前記光触媒層に含まれる前記炭酸塩の重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒の重量に対して5重量%以上とされていても構わない。光触媒の重量に対して5重量%以上の炭酸塩を加えることにより、光触媒層のセルフクリーニング機能と、空気浄化機能とが、それが無いときよりも5割程度上昇する。
光触媒層に炭酸塩が含まれる場合、前記光触媒層に含まれる前記光触媒と前記炭酸塩とを併せたものの重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒と前記炭酸塩と前記フッ素樹脂とを併せた重量の40%以下とすることができる。光触媒層中の光触媒と炭酸塩とを併せたものの量が過度に増えると、フッ素樹脂膜材の長期接着性能が劣るものとなる可能性があるが、光触媒層中の光触媒と炭酸塩を併せた物の量を上記の量程度にしておけばそのような不具合を防ぐことが可能となる。特に、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩とを併せたものの重量を、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩とフッ素樹脂とを併せた重量の40%以下とすると、片面コート品としてのフッ素樹脂膜材の長期接着性能が満足されやすく、また、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩とを併せたものの重量を、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩とフッ素樹脂とを併せた重量の25%以下とすると、両面コート品としてのフッ素樹脂膜材の長期接着性能が満足されやすい。
【0012】
本願のフッ素樹脂膜材において、光触媒層に炭酸塩が含まれている場合、前記光触媒層に、前記光触媒層を着色するための無機顔料が含まれていても構わない。本願発明者の研究によれば、無機顔料を加えた光触媒層に炭酸塩を加えた場合、その光触媒層は炭酸塩を加えない場合と較べて発色が良くなるということがわかった。光触媒層を着色しようとしても発色が良くならないというのは従来から存在していた課題ではあったが、その課題が光触媒層に無機顔料に加えて炭酸塩を加えることにより解決される。
前記光触媒層に含まれる前記無機顔料の重量は、前記光触媒層の重量に対して3重量%以下とすることができる。 光触媒層に炭酸塩及び無機顔料が含まれる場合、前記光触媒層に含まれる前記光触媒と前記炭酸塩と前記無機顔料とを併せたものの重量は、前記光触媒層に含まれる前記光触媒と前記炭酸塩と前記無機顔料と前記フッ素樹脂とを併せた重量の40%以下とすることができる。光触媒層中の光触媒と炭酸塩と無機顔料とを併せたものの量が過度に増えると、フッ素樹脂膜材の長期接着性能が劣るものとなる可能性があるが、光触媒層中の光触媒と炭酸塩と無機顔料とを併せた物の量を上記の量程度にしておけばそのような不具合を防ぐことが可能となる。特に、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とを併せたものの重量を、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とフッ素樹脂とを併せた重量の40%以下とすると、片面コート品としてのフッ素樹脂膜材の長期接着性能が満足されやすく、また、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とを併せたものの重量を、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とフッ素樹脂とを併せた重量の25%以下とすると、両面コート品としてのフッ素樹脂膜材の長期接着性能が満足されやすい。
【0013】
本願発明者は、本願発明によるフッ素樹脂膜材と同様の効果を生じるものとして、フッ素樹脂膜材の製造方法をも本願発明の一態様として提案する。
そのフッ素樹脂膜材の製造方法の一例は、フッ素樹脂としてPTFEを含むフッ素樹脂層の少なくとも一方の最表面に、光触媒とフッ素樹脂とを含む光触媒層を形成することでフッ素樹脂膜材を得るための、フッ素樹脂膜材の製造方法であって、前記フッ素樹脂層の少なくとも一方の表面に、前記光触媒と前記フッ素樹脂とを含むディスパージョンを塗布する過程、前記ディスパージョンを乾燥させる過程、前記ディスパージョンに含有されるフッ素樹脂のいずれかのフッ素樹脂の融点以上の温度で、前記ディスパージョンを塗布された前記フッ素樹脂層を焼成する過程、焼成された前記ディスパージョンを塗布された前記フッ素樹脂層を室温まで冷却する過程、を含んでおり、前記フッ素樹脂層に塗布される前記ディスパージョンに含まれる光触媒とフッ素樹脂は、それらを併せたものの重量に対する光触媒の重量の比率である、光触媒比率が40%以下とされるとともに、前記フッ素樹脂層に塗布される前記ディスパージョンに含まれるフッ素樹脂は、融点が240℃以上かつ連続使用温度が200℃以上のフッ素化樹脂共重合体である特定フッ素樹脂とPTFEとからなり、前記ディスパージョンに含まれる特定フッ素樹脂とPTFEとは、それらを併せたものの重量に対する特定フッ素樹脂の重量の比率である、特定フッ素樹脂比率が50%以下とされる、フッ素樹脂膜材の製造方法である。
なお、上述の冷却は、自然冷却でも、強制冷却でも構わないし、また冷却時間にも特に制限はない。冷却条件の差によっては光触媒層に生じるクラックの状態に殆ど差がないことを本願発明者は確認している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】試験例1で得られた膜試材の光触媒層の表面の拡大写真であって、(A)VTi15FEP100についてのもの、(B)VTi15FEP75についてのもの、(C)VTi15FEP50についてのもの、(D)VTi15FEP40についてのもの。
図2】試験例1で得られた膜試材の光触媒層の表面の拡大写真であって、(E)VTi15FEP35についてのもの、(F)VTi15FEP30についてのもの、(G)VTi15FEP25についてのもの、(H)VTi15FEP0についてのもの。
図3】試験例2で得られた膜試材の光触媒層の表面の拡大写真であって、(A)VTi15FEP25についてのもの、(B)VTi20FEP25についてのもの、(C)VTi25FEP25についてのもの。
図4】試験例2で得られた膜試材の光触媒層の表面の拡大写真であって、(A)LTi15FEP25についてのもの、(B)LTi20FEP25についてのもの、(C)LTi25FEP25についてのもの。
図5】試験例3で得られた膜試材の光触媒層の表面の拡大写真であって、(A)LTi20FEP100についてのもの、(B)LTi25FEP100についてのもの、(C)LTi30FEP100についてのもの、(D)LTi35FEP100についてのもの。
図6】試験例3で得られた膜試材の光触媒層の表面の拡大写真であって、(E)LTi40FEP100についてのもの、(F)LTi45FEP100についてのもの。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0016】
本実施形態によるフッ素樹脂膜材は、フッ素樹脂としてPTFEを含むフッ素樹脂層の少なくとも一方の最表面に、光触媒とフッ素樹脂とを含む光触媒層を有する。
かかるフッ素樹脂膜材の構成のうち、光触媒層を除く部分の構成はすべて、既存の、もっと言えば市販のもので構わない。例えば、中興化成工業株式会社は、FGTシリーズ(商標)なる名称の「ふっ素樹脂膜材」を製造、販売している。かかるふっ素樹脂膜材は、グラスファイバーBヤーンクロスをPTFEのディスパージョンに含浸させ、ディスパージョンを例えば加熱して乾燥させ、その後焼成するという処理を繰り返して製造されるものである。結果、このふっ素樹脂膜材は、グラスファイバーによる布の両面をPTFEで被覆した構造となる。グラスファイバーによる布のディスパージョンへの含浸と、加熱、焼成という両過程を繰り返すのは、上述の過程を一回行うことによりグラスファイバーによる布の表面に形成することのできるPTFE層の厚さはそれ程大きくないので、上述の両過程を繰り返すことにより、PTFE層の厚さを十分なものとするためである。
かかるふっ素樹脂膜材の製造方法は公知或いは周知である。以下に説明する本実施形態によるフッ素樹脂膜材の製造方法のうちの光触媒層を製造する過程を除く過程は、上述の如き公知或いは周知の方法をそのまま流用することができる。
【0017】
この実施形態において、上述の完成後の光触媒層に含まれる光触媒とフッ素樹脂とは、それらを併せたものの重量に対する光触媒の重量の比率である、光触媒比率が40%以下とされる。また、上述の光触媒層に含まれるフッ素樹脂は、融点が240℃以上かつ連続使用温度が200℃以上のフッ素化樹脂共重合体である特定フッ素樹脂とPTFEとからなり、光触媒層に含まれる特定フッ素樹脂とPTFEとは、それらを併せたものの重量に対する特定フッ素樹脂の重量の比率である、特定フッ素樹脂比率が50%以下とされる。光触媒は、従来の光触媒層で用いられていたものと同じもので構わない。光触媒は粉状であり、典型的にはTiOである。特定フッ素樹脂は、例えば、FEPとPFAの少なくとも一方とすることができる。
より詳細には、光触媒層における光触媒比率は、25%以下とすることができ、更には20%以下とすることができる。また、これには限られないが、光触媒層の光触媒比率は、15%以上とすることができる。
また、より詳細には、光触媒層における特定フッ素樹脂比率は、30%以下とすることができ、更には25%以下とすることができ、更には、20%以下とすることができる。また、これには限られないが、光触媒層における特定フッ素樹脂比率は、10%以上とすることができる。
また、上述の光触媒層には、炭酸塩を含めることができる。炭酸塩は、例えば炭酸カルシウムであるが、他に、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸ストロンチウム等を用いることができる。光触媒層に含まれる炭酸塩の重量は、これには限られないが、例えば光触媒層に含まれる光触媒の重量に対して20重量%以下とすることができ、更には、光触媒層に含まれる光触媒の重量に対して10重量%以下とすることができる。また、これには限られないが、光触媒層に含まれる炭酸塩の重量は、光触媒層に含まれる光触媒の重量に対して5重量%以上とされている。光触媒層に含まれる炭酸塩の重量は、光触媒層に含まれる光触媒の重量に対して10%程度(例えば、10%±2%程度)とするのが望ましい。
また、光触媒層に炭酸塩が含まれている場合、光触媒層には、光触媒層を着色するための無機顔料が含まれていても構わない。光触媒層に無機顔料が含まれる場合、無機顔料の重量は、光触媒層の重量(光触媒と、フッ素樹脂(PTFE+特定フッ素樹脂)と、炭酸塩と、顔料とを併せたものの重量)に対して3重量%以下とすることができる。
光触媒層に炭酸塩が含まれる場合、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩とを併せたものの重量は、光触媒層に含まれる前記光触媒と前記炭酸塩とフッ素樹脂とを併せた重量の40%以下とすることができる。光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩とを併せたものの重量を、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩とフッ素樹脂とを併せた重量の40%以下とすると、片面コート品としてのフッ素樹脂膜材の長期接着性能が満足されやすく、また、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩とを併せたものの重量を、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩とフッ素樹脂とを併せた重量の25%以下とすると、両面コート品としてのフッ素樹脂膜材の長期接着性能が満足されやすい。
光触媒層に炭酸塩及び無機顔料が含まれる場合、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とを併せたものの重量は、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とフッ素樹脂とを併せた重量、つまり光触媒層の重量の40%以下とすることができる。光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とを併せたものの重量を、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とフッ素樹脂とを併せた重量の40%以下とすると、片面コート品としてのフッ素樹脂膜材の長期接着性能が満足されやすく、また、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とを併せたものの重量を、光触媒層に含まれる光触媒と炭酸塩と無機顔料とフッ素樹脂とを併せた重量の25%以下とすると、両面コート品としてのフッ素樹脂膜材の長期接着性能が満足されやすい。
【0018】
上述の如きフッ素樹脂膜材を製造する方法は、以下のようなものである。
まず、中興化成工業株式会社が製造するFGTシリーズのごとき適当なフッ素樹脂膜材(最終製品となるフッ素樹脂膜材とは異なるものであり、それが最終製品として販売されているか否かによらず、この実施形態では半製品と捉えるべきものである。)を準備する。かかる準備は、第三者が製造し販売されているものを購入するのでも良いし、上述した公知、或いは周知の方法で自らが製造するのでも良い。
次いで、FGTシリーズが一例となるフッ素樹脂膜材のPTFE層の少なくとも一方の表面に、光触媒層を形成する。光触媒層は、それが形成されるフッ素樹脂層の全面を覆う必要は必ずしもないが、この実施形態ではそうすることとしている。
【0019】
光触媒層は、以下のようにしてPTFE層の最表面に形成する。まず、最終的に光触媒層に含まれることになるフッ素樹脂としてのPTFEとFEPと、最終的に光触媒層に含まれることになる光触媒とを含むディスパージョンを調整する。かかるディスパージョンは、基本的には、PTFEが含まれていることを除き、従来の光触媒層を形成するために用いられていたディスパージョンと同じもので良い。
もっとも簡単なものであれば、ディスパージョンには、光触媒、特定フッ素樹脂(例えば、FEP(或いはPFA、又はFEPとPFA)、以下も同様。)、及びPTFEが含まれている。もちろんディスパージョンには、公知、周知の消泡剤、界面活性剤等が含まれていてもよく、また、光触媒、特定フッ素樹脂、及びPTFE等を分散させるための液体としては例えば水を選択することができる。かかるディスパージョンを用いた場合、追って得られる光触媒層には、光触媒、特定フッ素樹脂、及びPTFEが含まれることになる。
上述したように、光触媒層には、炭酸カルシウム(上述した炭酸塩の候補物質のいずれでも良いが、簡単のため炭酸塩は炭酸カルシウムであるものとする。以下も同様である。)が含まれる場合がある。その場合、上述したもっとも簡単なディスパージョンに、粉体である炭酸カルシウムを加えれば良いし、ディスパージョンを準備作製する際に予め、炭酸カルシウム含有酸化チタンディスパージョンを準備しておいてもよい。
また、上述したように、炭酸カルシウムが加えられた場合における光触媒層には、無機顔料が含まれる場合がある。そのような光触媒層を得るには、炭酸カルシウムが含まれた上述のディスパージョンに更に、粉体である無機顔料を添加すれば良い。もっとも、ディスパージョンを作る場合に、炭酸カルシウムと無機顔料のいずれを先に添加するかに制限はない。
いずれのディスパージョンを用いる場合であっても、光触媒層を形成する場合には、FGTシリーズが一例となるフッ素樹脂膜材のPTFE層の上に、上記ディスパージョンを所定の厚さで塗布する。かかる塗布はバーコータを用いる、或いはフッ素樹脂膜材にディスパージョンを潜らせる等の、適当な手法により実現することができる。次いで、PTFE層の表面にディスパージョンが塗布された半完成品としてのフッ素樹脂膜材を加熱乾燥させ、その後焼成する。焼成時の温度は、ディスパージョンに含まれるフッ素樹脂のうち最も融点の高いもの(つまりはPTFE)の融点(約327℃)以上の温度が好ましいが、各フッ素樹脂のブレンドの比率によっては最も融点の高いフッ素樹脂の融点以下の温度で焼成してもよく、少なくとも光触媒層を形成するための上記ディスパージョンに含まれるいずれかのフッ素樹脂の融点よりも高い温度で焼成すればよい。それにより、加熱乾燥時において、ディスパージョン中の水が蒸発するだけでなく、焼成時にディスパージョン中のPTFEと特定フッ素樹脂とがともに溶融する。
その後、室温まで冷却することで、PTFEと特定フッ素樹脂とを固化させそれらに光触媒を担持させる。これにより、この実施形態におけるフッ素樹脂膜材が完成する。光触媒層の厚さが不足するのであれば、ディスパージョンを塗布し、加熱乾燥し、焼成して、冷却するという以上の処理を光触媒層の厚さが適当なものとなるまで繰り返せば良い。
ディスパージョン中の固形成分(光触媒、PTFE、特定フッ素樹脂、炭酸カルシウム、無機顔料)は、それをPTFE層の最表層に塗布し、加熱乾燥し、焼成し、そして冷却する各過程を経てもその重量に変化がない。つまり、ディスパージョン中の各固形成分の重量、及び重量の割合は、ディスパージョン中におけるそれらと、光触媒層中におけるそれらとの間で変わりがない。したがって、ディスパージョン中における固形成分(光触媒、PTFE、特定フッ素樹脂、炭酸カルシウム、無機顔料)の重量の割合、例えば、光触媒比率やFEP比率が上述の割合となるように予め調整しておけば、そのディスパージョンを用いて製造されたフッ素樹脂膜材における光触媒層中の固形成分の割合を、上述した通りのものとすることができる。
【0020】
以下、試験例について説明する。以下の各試験例では、上述した半製品としてのふっ素樹脂膜材として、中興化成工業株式会社が製造するFGTシリーズのうちのFGT−800(商標、以下、「半製品膜」と称する。)を用いることとし、いずれもがPTFEでできている(ただし、最表面はFEPでできている)その両面のうちの一方の最表面に、光触媒層を形成することとする。
【0021】
<試験例1>
試験例1では、以下のようにして、ディスパージョンを生成した。
ディスパージョンは、酸化チタンスラリーである酸化チタンスラリーV(酸化チタン(石原産業株式会社製、品番:ST−01)、水、分散剤、その他添加剤を含み、酸化チタン濃度15%に調整したものを便宜上「酸化チタンスラリーV」と称することにする。)、水、FEPディスパージョン(E. I. du Pont de Nemours and Company製、固形分濃度55%、品番:FEP−D121)、PTFEディスパージョン(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、固形分濃度60%、品番:PTFE−31JR)、シリコーン系消泡剤、界面活性剤(DIC製、品番F444)からなり、これらを適宜の量ずつ混合し、撹拌することによって生成された。
試験例1では、8種類のディスパージョンを生成した。すべてのディスパージョンにおいて、最終的に得られる光触媒層における酸化チタン(TiO)とフッ素樹脂の比率が15:85と一定となるように(つまり、光触媒比率が15%で一定となるように)した。また、各ディスパージョンでは、それらに含まれるフッ素樹脂におけるFEPとPTFEの比率を変化させた。具体的には、各ディスパージョンを用いた場合に最終的に得られる光触媒層におけるFEPとPTFEの比率が100:0〜0:100の間で変化するように(つまり、特定フッ素樹脂比率(なお、以下、特定フッ素樹脂比率のうち、特定フッ素樹脂がFEPのみである場合における特定フッ素樹脂比率を、単に、「FEP比率」ということにする。)が100%〜0%の範囲で変化するように)した。各ディスパージョン中の酸化チタンとフッ素樹脂とを併せた固形分濃度は28%に調整した。
なお、以下も同様であるが、各ディスパージョン(及びそれを用いて作られた光触媒層)を、例えば、「VTi15FEP100」のように表記するものとする。この場合、先頭の「V」は、このディスパージョン(又はそのディスパージョンを用いて作られた光触媒層を有するフッ素樹脂膜材、以下同じ。)に炭酸カルシウムが含まれていないことを意味する。なお、後述するように、ディスパージョンに炭酸カルシウムが含まれている場合には、先頭の記号は「L」となる。次いで、Tiの後の15は、光触媒比率(%)を示している。また、FEPの後の100は、FEP比率(%)を示している。つまり、「VTi15FEP100」という記号は、炭酸カルシウムが入っていない、光触媒比率が15%でFEP比率が100%のディスパージョン、という内容を示している。
以上の表記方法によって記載すると、試験例1で生成されたディスパージョンは、VTi15FEP100、VTi15FEP75、VTi15FEP50、VTi15FEP40、VTi15FEP35、VTi15FEP30、VTi15FEP25、VTi15FEP0の8種類である。
【0022】
次いで、上記8種類のディスパージョンのうちの1つを、半製品膜の一面にガラス棒を用いてコーティングした。ガラス棒は、直径10mm、長さ240mmである。次いで、ディスパージョンによりその一面をコーティングされた半製品膜を、60℃雰囲気の乾燥炉で3分間乾燥させ、水を蒸発させ、塗膜を形成させた。その後、300〜330℃のうちの適宜の温度(焼成中の温度は一定でも、上記の間で変動があっても構わない。なお、焼成中の温度が上記の範囲内であればその温度はFEPの融点以上の温度である。)で5分間焼成したのち、室温雰囲気下で空冷し、フッ素樹脂膜材を作製した。
上記の処理を8種類のディスパージョンを用いて行うことにより、8種類の膜試材(フッ素樹脂膜材)を得た。
【0023】
次いで、8個の上記膜試材に対して試験を行った。試験は、クラックの有無についての試験と、光触媒層のセルフクリーニング機能についての試験である。
[クラックの有無]
クラックの有無は、光触媒層の表面をSEM(Scanning Electron Microscope:走査型顕微鏡)で観察することにより行った。用いたのは、日本電子株式会社製の電子顕微鏡(品番:JSM-6510LA)であり、観察の倍率は200倍である。
試験の結果は下記表1に示したとおりであり、表面に繋がったクラックが認められないものを評価○、細長いクラックがあるが亀の甲羅状にクラックが発生していないものを評価△、現行品と同じような亀の甲羅状にクラックが発生しているものを評価×とした。
【表1】
上記のうち、VTi15FEP100は、光触媒層を構成するフッ素樹脂がFEPのみであるので、事実上現行品に相当する。これには、亀の甲羅状にクラックが発生しているのがわかる(図1(A))。他方、VTi15FEP75だとまだ亀の甲羅状のクラックが残っているが(図1(B))、FEP比率が下がっていき、VTi15FEP50になると、細長いクラックがあるが亀の甲羅状にクラックが発生していない状態になり(図1(C))、VTi15FEP40、VTi15FEP35でも、同様の状態となる(図1(D)、図2(E))。FEP比率が更に下がっていき、VTi15FEP30になると、表面に繋がったクラックが認められなくなり(図2(F))、その状態はVTi15FEP25、VTi15FEP0でも同様であった(図2(G)、(H))。
以上により、光触媒比率が一定の場合には、FEP比率が下がる程クラックが生じなくなるということがわかる。
【0024】
[セルフクリーニング機能]
セルフクリーニング機能についての評価は、JIS R 1703-2の「ファインセラミックス-光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法-第2部:湿式分解性能」によって分解活性指数を求めることにより行った。求められた分解活性指数が20nmol/L/min以上のものを評価○、15〜20nmol/L/minのものを評価△、15nmol/L/min以下のものを評価×とした。
評価の結果を、表2に示す。
【表2】
セルフクリーニング機能については、光触媒層にPTFEが入っていない、事実上の現行品に相当するVTi15FEP100に比べれば、光触媒層にPTFEが含まれる他の膜試材のすべてで、そのセルフクリーニング機能が改善されている。光触媒比率が一定であれば、FEP比率が小さくなる程セルフクリーニング機能が大きくなる傾向が見られ、特に、FEP比率が40%以下となると、セルフクリーニング機能に顕著な改善が見られる。
【0025】
<試験例2>
試験例2では、試験例1の場合と同様にしてまず複数種類のディスパージョンを生成した。生成されたディスパージョンは炭酸カルシウムを含まないもの3種類と、炭酸カルシウムを含むもの3種類であった。
炭酸カルシウムを含まないディスパージョンを生成するのに用いた材料は、試験例1と同じである。また、各ディスパージョン中の酸化チタンとフッ素樹脂とを併せた固形分濃度は28%に調整した。
試験例2で生成した炭酸カルシウムを含まないディスパージョンは、VTi15FEP25、VTi20FEP25、VTi25FEP25の3種類である。
他方、炭酸カルシウムを含むディスパージョンを生成するのに用いたものも、基本的に試験例1と同じであるが、炭酸カルシウムを含むディスパージョンを生成する場合には、試験例1の酸化チタンスラリーVに代えて、酸化チタンスラリーL(酸化チタン(石原産業株式会社製、品番:ST-01)、炭酸カルシウム(白石カルシウム株式会社製、品番:ソフトン1200、水、分散剤、その他添加剤を含み、酸化チタン濃度28%、炭酸カルシウム2.8%となるように調整したものを便宜上「酸化チタンスラリーL」と称することにする。)を用いた。酸化チタンスラリーLには、酸化チタンの重量に対して10%分の重量の炭酸カルシウムが含まれている。また、各ディスパージョン中の酸化チタンとフッ素樹脂とを併せた固形分濃度は28%に調整した。
試験例2で生成した炭酸カルシウムを含むディスパージョンは、LTi15FEP25、LTi20FEP25、LTi25FEP25の3種類である。
以上6種類のディスパージョンを用いて、試験例1のときと同じ条件で、膜試材を6種類作製した。
【0026】
以上6種類の膜試材に対して、試験例1の場合と同じ条件で、クラックの有無についての試験と、光触媒層のセルフクリーニング機能についての試験とを行った。また、以上6種類の膜試材に対して、後述するNOxの分解機能の試験を行った。
[クラックの有無]
試験結果を、以下の表3に示した。
【表3】
炭酸カルシウムが含まれている場合においても、炭酸カルシウムが含まれていない場合においても、試験結果は同一となった。いずれの場合においても、FEP比率が一定であれば、光触媒比率が小さい程クラックが生じにくくなる。なお、上述のように試験結果は同一であったが、炭酸カルシウムが含まれないものと比べると、炭酸カルシウムが含まれる光触媒層においては、クラックが少ない傾向にあった(図3(A)VTi15FEP25、同(B)VTi20FEP25、同(C)VTi25FEP25、図4(A)LTi15FEP25、同(B)LTi20FEP25、同(C)LTi25FEP25)。これは、ディスパージョン中に炭酸カルシウムが存在すると加熱乾燥した後の焼成により一旦溶融したフッ素樹脂が冷却され固化されるときにその流動性が抑制されるためだと思われる。
【0027】
[セルフクリーニング機能]
セルフクリーニング機能についての評価は、試験例1と同様にして行った。
評価の結果を、表4に示す。
【表4】
表4に示したように、炭酸カルシウムが含まれている場合においても、炭酸カルシウムが含まれていない場合においても、FEP比率が一定であれば、光触媒比率が大きい程セルフクリーニング機能に向上が見られた。また、炭酸カルシウムが含まれないものと比べると、炭酸カルシウムが含まれる光触媒層においては、そのセルフクリーニング機能が、問題となるほどではないがやや劣る傾向が見られた。
【0028】
[NOx分解機能]
光触媒材料の空気浄化性能を、NOx分解機能の試験により評価した。NOx分解機能の評価は、「JIS R 1701-1のファインセラミックス-光触媒材料の空気浄化性能試験方法-第1部:窒素酸化物の除去性能の除去量が小さい試験片の試験方法(所謂、緩和条件)」にて1枚あたりの試験片のNOxの除去量を測定した。
NOxの空気浄化性能の評価は、光触媒工業会の空気浄化性能(NOx)のPIAJの製品認証基準値である0.5μmol以上のものを○、測定可能な下限値から認証基準値の範囲である0.25〜0.5μmolのものを△、測定可能な下限値以下である0.25μmol以下のものを×とした。
評価の結果を、表5に示す。
【表5】
表5に示したように、炭酸カルシウムが含まれている場合においても、炭酸カルシウムが含まれていない場合においても、FEP比率が一定であれば、光触媒比率が大きい程NOx分解機能に向上が見られた。また、炭酸カルシウムが含まれないものと比べると、炭酸カルシウムが含まれる光触媒層においては、そのNOx分解機能が、顕著に大きくなることがわかった。これは、炭酸カルシウムが酸性ガスを中和するからだと思われる。なお、フッ素樹脂膜材が、その用途或いは機能として、NOx分解機能に強く着目するものである場合には、炭酸カルシウムをディスパージョン或いは光触媒層に加えるのが好ましいことがわかる。それにより、NOx分解機能を強化するか、或いはNOx分解機能が同じであれば光触媒の添加量を抑えることができるようになる。
【0029】
<試験例3>
試験例3では、試験例2における炭酸カルシウムを含むディスパージョンを生成する場合と同様にして、炭酸カルシウムを含む複数種類のディスパージョンを生成した。かかるディスパージョンを生成するために用いた材料は、試験例2で説明したものと同じである。各ディスパージョン中の酸化チタンとフッ素樹脂とを併せた固形分濃度は25%に調整した。
試験例3で生成した炭酸カルシウムを含むディスパージョンは、いずれもPTFEを含まないものであり、光触媒とFEPとの比率を変化させたものである。具体的には、LTi20FEP100、LTi25FEP100、LTi30FEP100、LTi35FEP100、LTi40FEP100、LTi45FEP100の6種類である。
以上6種類のディスパージョンを用いて、試験例1のときと同じ条件で、膜試材を6種類作製した。
【0030】
以上6種類の膜試材に対して、試験例1の場合と同じ条件で、クラックの有無についての試験と、光触媒層のセルフクリーニング機能についての試験とを行うとともに、試験例2の場合と同じ条件で、NOx分解機能の試験を行った。また、以上6種類の膜試材に対して、後述する長期接着力に対する試験を行った。
[クラックの有無]
試験結果を、以下の表6に示した。
【表6】
これによれば、光触媒層にPTFEが含まれていない場合には、光触媒層にクラックを減少させる効果を持つ炭酸カルシウムが含まれているにもかかわらず、光触媒比率の大小によらず、光触媒層にクラックが生じ、現行品と略差がないことがわかった(図5(A)〜(D)、図6(E)、(F))。
【0031】
[セルフクリーニング機能]
評価の結果を、表7に示す。
【表7】
これによれば、光触媒層にPTFEが含まれていない場合には、光触媒層にクラックを減少させる効果を持つ炭酸カルシウムが含まれていたとしても、光触媒比率の大小はセルフクリーニング能力に大きな影響を与えないことがわかった。
【0032】
[NOx分解機能]
評価の結果を、表8に示す。
【表8】
これによれば、光触媒層にPTFEが含まれておらず、また、光触媒層にクラックを減少させる効果を持つ炭酸カルシウムが含まれている場合には、NOx分解機能は、光触媒比率の増加にしたがって向上することがわかった。
【0033】
[長期接着力]
長期接着力の試験は以下のように行った。各膜試材を2枚重ねその間に厚さが125μmのFEPでできたフィルムであるFEPフィルムを介在させた状態で、370℃、70秒、圧力0.5kg/ cm2の条件で熱板により熱溶着した。溶着は2通り行った。1つ目は、両面に光触媒層を有するいわゆる両面コート品を想定した、光触媒層同士の熱溶着であり、2つ目は、その片面にしか光触媒層を有しないいわゆる片面コート品を想定した、光触媒層とPTFE層との熱溶着である。
いずれの場合でも、溶着を行った後、照射強度18mW/cm2(300〜400nm)、ブラックパネル温度63±2(℃)設定のスーパーキセノン促進暴露試験機(スガ試験機株式会社製、SX-75)を用いて1000時間照射した。その後、幅2cm、長さ15cmの矩形型の短冊を切り出し、はじめの5cmをカッターで切り込みを入れてT字型のピール試験片を作製し、速度50mm/minでピール試験を行い、その時の接着力及び外観を評価した。
初期状態と比較して、接着力の保持率が80%以上で且つピール試験後のグラスファイバーとフッ素樹脂の界面で剥離した面積が80%以上の場合には評価○、接着力の保持率が50〜80%で且つピール試験後の繊維とフッ素樹脂の界面で剥離した面積が50〜80%の場合には評価△、接着力の保持率が50%以下で且つピール試験後の繊維とフッ素樹脂の界面で剥離した面積が50%以下の場合には評価×とした。
評価結果を、表9に示す。
【表9】
表9に示したように、両面コート品を想定した光触媒層同士の熱溶着の場合において長期接着性が安定する量は、光触媒比率が25%以下の場合であるということがわかる。他方、片面コート品を想定した光触媒層とPTFE層との熱溶着の場合において、長期接着性が安定するのは光触媒比率が40%以下の場合であるということがわかる。
【0034】
<試験例4>
試験例4では、試験例2における炭酸カルシウムを含むディスパージョンを生成する場合と同様にして、炭酸カルシウムを含む複数種類のディスパージョンを生成した。かかるディスパージョンを生成するために用いた材料は、試験例2で説明したものと同じである。各ディスパージョン中の酸化チタンとフッ素樹脂とを併せた固形分濃度は28%に調整した。
試験例4で生成した炭酸カルシウムを含むディスパージョンは、光触媒比率を15%〜45%の間で6段階で変化させるとともに、FEP比率を0%〜60%の間で4段階で変化させたものである。具体的には、LTi15FEP0、LTi18FEP0、LTi20FEP0、LTi25FEP0、LTi35FEP0、LTi45FEP0、LTi15FEP20、LTi18FEP20、LTi20FEP20、LTi25FEP20、LTi35FEP20、LTi45FEP20、LTi15FEP40、LTi18FEP40、LTi20FEP40、LTi25FEP40、LTi35FEP40、LTi45FEP40、LTi15FEP60、LTi18FEP60、LTi20FEP60、LTi25FEP60、LTi35FEP60、LTi45FEP60の24種類である。
以上24種類のディスパージョンを用いて、試験例1のときと同じ条件で、膜試材を24種類作製した。
【0035】
以上24種類の膜試材に対して、試験例1の場合と同じ条件で、クラックの有無についての試験と、光触媒層のセルフクリーニング機能についての試験とを行うとともに、試験例2の場合と同じ条件で、NOx分解機能の試験を行い、また、試験例3の場合と同じ条件で長期接着力についての試験を行った。
[クラックの有無]
試験結果を表10に示す。
なお、表10では、各光触媒層における光触媒比率を横欄にFEP比率を縦欄に取り、その交わった部分に当該光触媒比率とFEP比率とにより特定される光触媒層についての評価を書き込む、という表現手法を採用している。同様の表の読み方は以下も同様である。
【表10】
表10からわかるように、FEP比率を50%程度より下げた場合には、光触媒比率が40%以下とされている限り、現行品で発生する亀の甲羅状のクラックの発生を低減することができる。
【0036】
[セルフクリーニング機能]
試験結果を表11に示す。
【表11】
炭酸カルシウムを含むいずれの光触媒においても、セルフクリーニング機能には問題はなかった。
【0037】
[NOx分解機能]
試験結果を表12に示す。
【表12】
表12によれば、FEP比率が100%の場合と比べると、FEP比率を下げる(FEPに対するPTFEの比率を上げる)ことにより、酸化チタンの添加量を減量した状態でも空気浄化性能であるNOx分解機能を維持させることが可能となる、ということがわかる。
特に、光触媒比率が18%〜25%で、且つFEP比率が20%〜40%の光触媒層は、NOx分解機能に優れると言える。
【0038】
[長期接着力]
試験結果を表13に示す。長期接着力の試験に関しては、12種類の膜試材のみを試験の対象とした。
【表13】
表13に示したように、両面コート品を想定した光触媒層同士の熱溶着の場合においても、片面コート品を想定した光触媒層と光触媒を含まないFEPのみからなるFEP層との熱溶着の場合においても、FEP比率に違いがあっても、長期接着力について大きな違いは出なかった。他方、両面コート品を想定した光触媒層同士の熱溶着の場合においても、片面コート品を想定した光触媒層とFEP層との熱溶着の場合においても、光触媒比率の大小は、長期接着力の安定性に影響を与えた。言い換えれば、FEP比率より、光触媒比率の方が長期接着力を決める結果となった。FEP比率の大小によらず、両面コート品を想定した光触媒層とPTFE層との熱溶着の場合において長期接着性が安定する量は、光触媒比率が25%以下の場合であり、片面コート品を想定した光触媒層とFEP層との熱溶着の場合において、長期接着性が安定するのは光触媒比率が40%以下の場合であるということがわかった。
両膜試材の間に介在させるのをFEPフィルムからPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)でできたPFAフィルムに代えても試験結果は同様であった。
【0039】
<試験例5>
試験例5では、試験例2における炭酸カルシウムを含むディスパージョンを生成する場合と同様にして、炭酸カルシウムを含む複数種類のディスパージョンを生成した。かかるディスパージョンを生成するために用いた材料は、試験例2で説明したものと同じである。各ディスパージョン中の酸化チタンとフッ素樹脂とを併せた固形分濃度は28%に調整した。
試験例5で生成するディスパージョンは、基本的には、LTi15FEP25と、LTi20FEP25との2種類である。ただし、試験例5では、これら2種類のディスパージョンのそれぞれに、ブルー系の無機顔料(コバルトブルー)を30%含む水系スラリーを、それを加える前のディスパージョンの重量に対して1又は3%(無機顔料の固形分添加重量割合として、0.6%又は0.9%)含むものを作製した。つまり、試験例5におけるディスパージョンは都合4種類である。これらを識別するために、「LTi15FEP25P1」といった表記を用いることにする。かかる表記のうちの「LTi15FEP25」までは従前と同じ意味であり、末尾の「P1」は、その手前の「LTi15FEP25」という表示にて特定されるディスパージョンにそのディスパージョンの重量に対して1%のブルー系無機顔料の水系スラリーを添加したことを意味する。同様に、ディスパージョンの重量に対して3%のブルー系無機顔料の水系スラリーを添加した場合には、末尾に「P3」の表記が追加される。
つまり、試験例5で作成されたディスパージョンは、LTi15FEP25P1と、LTi20FEP25P1と、LTi15FEP25P3と、LTi20FEP25P3である。
以上4種類のディスパージョンを用いて、試験例1のときと同じ条件で、膜試材を4種類作製した。
【0040】
以上4種類の膜試材に対して、試験例1の場合と同じ条件で、光触媒層のセルフクリーニング機能についての試験を行うとともに、試験例2の場合と同じ条件で、NOx分解機能の試験を行い、また、試験例3の場合と同じ条件で長期接着力についての試験を行った。
[セルフクリーニング機能]
試験結果を表14に示す。
【表14】
いずれも、セルフクリーニング機能は良好であった。無機顔料の添加がある場合と無い場合の対比は、表14と表4との対比により行うことが可能であるが、無機顔料が存在する方が却ってセルフクリーニング機能が向上している。
【0041】
[NOx分解機能]
試験結果を表15に示す。
【表15】
NOx分解機能の評価は、無機顔料の多寡には依存せず、むしろ光触媒比率に依存することがわかった。無機顔料の添加が有る場合と無い場合の対比は、表15と表5との対比により行うことが可能であり、無機顔料が存在してもNOx除去性能に悪影響を与えないとの結果となった。
【0042】
[長期接着力]
試験結果を表16に示す。
【表16】
表16に示したように、両面コート品を想定した光触媒層同士の熱溶着の場合においても、片面コート品を想定した光触媒層とPTFE層との熱溶着の場合においても、無機顔料を加えたことによる悪影響は生じないことが確認された。特に、表13との対比を行うことでそれがより明らかになる。
【0043】
<試験例6>
試験例6では、試験例2における炭酸カルシウムを含むディスパージョンを生成する場合と同様にして、炭酸カルシウムを含む複数種類のディスパージョンを生成した。かかるディスパージョンを生成するために用いた材料は、試験例2で説明したものと基本的に同じである。各ディスパージョン中の酸化チタンとフッ素樹脂とを併せた固形分濃度は28%に調整した。
試験例6で生成するディスパージョンは、基本的には、LTi20FEP25のみの1種類である。ただし、試験例6では、この1種類のディスパージョンに対して、炭酸カルシウム(キシダ化学株式会社製、品番:000-13435)の添加量が異なる3種類のディスパージョンを生成した。各ディスパージョンにおける炭酸カルシウムの添加量は、光触媒重量に対して0%、10%、20%である。この試験例では、光触媒重量に対する炭酸カルシウムの重量(%)に相当する数字を冒頭に付すこととし、上記3種類のディスパージョンをそれぞれ、0LTi20FEP25、10LTi20FEP25、20LTi20FEP25と表記することにする。
以上3種類のディスパージョンを用いて、試験例1のときと同じ条件で、膜試材を3種類作製した。
【0044】
以上3種類の膜試材に対して、試験例1の場合と同じ条件で、光触媒層のセルフクリーニング機能についての試験を行うとともに、試験例2の場合と同じ条件で、NOx分解機能の試験を行った。
[セルフクリーニング機能]
試験結果を表17に示す。
【表17】
いずれも、セルフクリーニング機能は良好であった。また、炭酸カルシウムが存在しないときよりも炭酸カルシウムが存在するときの方がセルフクリーニング機能は向上したが、炭酸カルシウムの重量が光触媒の重量の10%を超えた場合にはセルフクリーニング機能の大幅な向上は見られなかった。
【0045】
[NOx分解機能]
試験結果を表18に示す。
【表18】
NOx分解機能は、炭酸カルシウムが存在しないときよりも炭酸カルシウムが存在するときの方が向上したが、炭酸カルシウムの重量が光触媒の重量の10%を超え、20%に至ったときにはNOx分解機能は炭酸カルシウムが存在しない場合と殆ど変わらなくなった。したがって、NOx分解機能に着目するのであれば、炭酸カルシウムの重量が光触媒の重量の10%を超えて添加することに意味は無い。
【0046】
<試験例7>
試験例7では、試験例1と同様の方法で炭酸カルシウムを含まない複数種類のディスパージョンを生成するとともに、試験例6と同様の方法で炭酸カルシウムを含む複数種類のディスパージョンを生成した。
試験例7では、25種類のディスパージョンを生成した。すべてのディスパージョンにおいて、最終的に得られる光触媒層におけるフッ素樹脂におけるFEPとPTFEの比率が25:75と一定となるようにした(つまり、FEP比率が25%となるようにした。)。また、各ディスパージョンでは、それらに含まれる光触媒と炭酸カルシウムの比率を変化させた。具体的には、各ディスパージョンを用いた場合に最終的に得られる光触媒層における酸化チタン重量の比率が15〜40%の間で変化するようにし、さらに、炭酸カルシウムの重量の比率が酸化チタンに対して0〜25%の間で変化するように加えた。各ディスパージョン中の酸化チタンとフッ素樹脂とを併せた固形分濃度はいずれも28%に調整した。
生成されたディスパージョンのうち炭酸カルシウムを含まないものは5種類であり、炭酸カルシウムを含むものは20種類であった。結果として25種類のディスパージョンを作った。
生成したディスパージョンの一覧を以下に示す。なお、以下のディスパージョンにおけるFEP比率はすべて25%であるから、以下の一覧における記号ではFEP比率に関する部分を省略する。また、以下に示す各記号の先頭には、酸化チタンの光触媒の重量に対する炭酸カルシウムの重量の比率(%)を示す「Ca〜」という記号が付されている。例えば、「Ca5Ti15」という記号は、酸化チタンの重量に対しして5%の重量の炭酸カルシウムが含まれており、その光触媒比率が15%であり、且つFEP比率が25%であるディスパージョン、という内容を示している。
以上の表記方法によって記載すると、試験例7で生成されたディスパージョンは、Ca0Ti15、Ca5Ti15、Ca10Ti15、Ca20Ti15、Ca25Ti15、Ca0Ti20、Ca5Ti20、Ca10Ti20、Ca20Ti20、Ca25Ti20、Ca0Ti25、Ca5Ti25、Ca10Ti25、Ca20Ti25、Ca25Ti25、Ca0Ti30、Ca5Ti30、Ca10Ti30、Ca20Ti30、Ca25Ti30、Ca0Ti40、Ca5Ti40、Ca10Ti40、Ca20Ti40、Ca25Ti40、の25種類である。
【0047】
次いで、上記25種類のディスパージョンを用いて、試験例1のときと同じ条件で、膜試材を25種類作製した。
以上25種類の膜試材に対して、試験例2の場合と同じ条件で、NOx分解機能試験を行うとともに、試験例3の場合と同じ条件で長期接着力試験を行った。
【0048】
[NOx分解機能/長期接着力]
NOx分解機能試験及び長期接着力試験の結果をまとめて、表19に示す。
なお、表19では、各光触媒層における光触媒比率を縦欄に、酸化チタンの光触媒の重量に対する炭酸カルシウムの重量の比率(%)を横欄に取り、その交わった部分に当該光触媒比率と酸化チタンの光触媒の重量に対する炭酸カルシウムの重量の比率(%)とにより特定される光触媒層についての評価を書き込む、という表現手法を採用している。
表19の縦欄における、「評価」の文字が入っていない欄中の上段に記載された数値はNOx分解機能(単位:μmol)を示している。また、表19の縦欄における、「評価」の文字が入っていない欄中の下段に記載された「接着○」、「接着△」という文字は、長期接着性能を示している。この場合の長期接着性能は、片面コート品におけるものである。また、表19の縦欄における、「評価」の文字が入っている欄における○、△の評価は、当該光触媒層を有するフッ素樹脂膜材のNOx分解機能と長期接着力とを併せた評価であって、NOx分解機能と長期接着力とをそれぞれ○、△、×の三段階で評価した上で、それら2つの評価が互いに一致したときにはその一致した評価を、またそれら2つの評価が相互に異なったときにはその悪い方の評価を記載したものとなっている。
【表19】
【0049】
<試験例8>
試験例8では、試験例6と同様の方法で炭酸カルシウムを含む複数種類のディスパージョンを生成するとともに、試験例5と同様の方法で炭酸カルシウムと無機顔料とを含む複数種類のディスパージョンを生成した。
試験例8では、24種類のディスパージョンを生成した。すべてのディスパージョンにおいて、最終的に得られる光触媒層におけるフッ素樹脂におけるFEPとPTFEの比率が25:75と一定となるようにした(つまり、FEP比率が25%となるようにした。)。また、各ディスパージョンにおける炭酸カルシウムの添加量は、光触媒重量に対して10%となるように固定した。また、各ディスパージョンでは、それらに含まれる酸化チタン及び炭酸カルシウムに対する無機顔料の比率(総量)を変化させた。具体的には、各ディスパージョンを用いた場合に最終的に得られる光触媒層における酸化チタンの比率が15〜40%の間で変化するようにし、さらに、光触媒層における炭酸カルシウムの重量の比率を酸化チタンの重量に対して0〜25%の間で変化するように加えた。各ディスパージョン中の酸化チタンとフッ素樹脂とを併せた固形分濃度は28%に調整した。
生成されたディスパージョンのうち、光触媒とフッ素樹脂に加えて炭酸カルシウムのみを含むものは6種類であり、光触媒とフッ素樹脂に加えて炭酸カルシウムと無機顔料とを含むものは18種類であった。結果として24種類のディスパージョンを作った。 生成したディスパージョンの一覧を以下に示す。なお、以下のディスパージョンにおけるFEP比率はすべて25%であるから、以下の一覧における記号ではFEP比率に関する部分を省略する。また、以下のディスパージョンにおける炭酸カルシウムの重量はすべて光触媒重量に対して10%であるから、以下の一覧における記号では炭酸カルシウムの添加量に関する記載も省略する。また、以下に示す各記号の末尾には、ブルー系の無機顔料(コバルトブルー)を30%含む水系スラリーを、それを加える前のディスパージョンの重量に対して何%含むかということを示す「P〜」という記号が付されている。例えば、例えば、「LTi15P1」という記号は、酸化チタンの重量に対しして10%の重量の炭酸カルシウムが含まれており、その光触媒比率が15%であり、FEP比率が25%であり、無機顔料が、無機顔料を30%含む水系スラリーを、それを加える前のディスパージョンの重量に対して1%含まれているディスパージョン、という内容を示している。
以上の表記方法によって記載すると、試験例8で生成されたディスパージョンは、LTi15P0、LTi15P1、LTi15P3、LTi15P5、LTi20P0、LTi20P1、LTi20P3、LTi20P5、LTi25P0、LTi25P1、LTi25P3、LTi25P5、LTi30P0、LTi30P1、LTi30P3、LTi30P5、LTi35P0、LTi35P1、LTi35P3、LTi35P5、LTi40P0、LTi40P1、LTi40P3、LTi40P5の24種類である。
【0050】
次いで、上記24種類のディスパージョンを用いて、試験例1のときと同じ条件で、膜試材を24種類作製した。
以上25種類の膜試材に対して、NOx分解機能試験を行うとともに、試験例3の場合と同じ条件で長期接着力試験を行った。
以上24種類の膜試材に対して、試験例3の場合と同じ条件で長期接着力試験を、片面コート品を想定した場合と両面コート品を想定した場合について行った。
【0051】
[長期接着力]
長期接着力試験の結果を表20、表21にそれぞれ示す。表20が、両面コート品を想定した場合における長期接着力の試験の結果であり、表21が、片面コート品を想定した場合における長期接着力の試験の結果である。
なお、表20、表21では、各光触媒層における光触媒比率を横欄に、また各光触媒層に含まれる無機顔料の比率を縦欄に取り、その交わった部分に当該光触媒比率と無機顔料の比率とにより特定される光触媒層についての評価を書き込む、という表現手法を採用している。
【表20】
【表21】
図1
図2
図3
図4
図5
図6