(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の横断歩行者との衝突防止策では、横断歩行者の速度と自車両の車速とに基づき、横断歩行者との衝突可能性を判断することが一般に行われているが、歩行者と自車両との距離が大きい場合に、歩行者が横断方向ではない別方向に移動したり、横断歩行者ではない障害物を歩行者と誤認したりするなどして、衝突を回避すべき横断歩行者ではないにも拘らず、衝突回避装置である自動ブレーキが不要に作動してドライバに違和感を与えるという問題がある。
【0005】
本発明は、自車両前方の横断歩行者のうち、自車両と衝突するおそれがある歩行者を的確に検知し、衝突のおそれがない場合には自動ブレーキを作動させず、自動ブレーキの不要な作動を未然に防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明の衝突回避装置は、自車両前方の歩行者を検知して、検知した前記歩行者との衝突を防止する衝突回避装置において、自車両前方のカメラ画像の画像認識処理により前方に存在する障害物が歩行者であるかどうかを認識する認識手段と、自車両の車速を検出する車速検出手段と、前記車速検出手段による検出車速および前記カメラ画像に基づき、前記自車両と前記歩行者との相対距離および前記歩行者の横断方向への移動速度を導出する導出手段と、前記障害物との衝突を回避すべき作動タイミングに達したときに自動ブレーキを作動させる制動手段と、少なくとも前記導出手段による前記相対距離から、現在時点が前記作動タイミングであるという第1の判断条件、
自車両と前記歩行者との相対速度と前記相対距離とに基づいて導出された、自車両が前記歩行者と衝突するまでの衝突予測時間に基づいて、自車両の中心から自車の推定進路内より小さい所定幅の範囲内において自車両と前記歩行者との衝突が予測されるという第2の判断条件、および、前記歩行者の現在位置が自車の推定進路中心に対して所定距離内に位置するという第3の判断条件の3つの判断条件すべてが成立したときに、前記制動手段を作動させる制御を実行する制御手段とを備え、前記第3の判断条件における前記所定距離の範囲が、前記自車両と前記歩行者との自車両進行方向における距離および前記歩行者の前記横断方向への移動速度、または、前記自車両に配置された舵角センサにより検出される舵角に基づくステアリングの操作状態のいずれかに応じて可変されることを特徴としている(請求項1)。
【0007】
また、前記カメラ画像に基づいて前記自車両が走行している車線である自車線の領域を検出する自車線検出手段をさらに備え、前記制御手段は、少なくとも前記導出手段による前記相対距離から、現在時点が前記作動タイミングであるという前記第1の判断条件、
自車両と前記歩行者との相対速度と前記相対距離とに基づいて導出された、自車両が前記歩行者と衝突するまでの衝突予測時間に基づいて、自車両の中心から自車の推定進路内より小さい所定幅の範囲内において自車両と前記歩行者との衝突が予測されるという前記第2の判断条件、前記歩行者の現在位置が自車の推定進路中心に対して所定距離内に位置するという前記第3の判断条件、前記歩行者が前記自車線検出手段による前記自車線の領域内に位置するという第4の判断条件の4つの判断条件すべてが成立したときに、前記制動手段を作動させる制御を実行するようにしてもよい(請求項2)。
【発明の効果】
【0008】
請求項1にかかる発明によれば、少なくとも導出手段による相対距離から、現在時点が制動手段の作動タイミングであると判断し、
自車両と歩行者との相対速度と前記相対距離とに基づいて導出された衝突予測時間に基づいて、自車両の中心から車幅より小さい所定幅の範囲内において自車両と歩行者との衝突が予測されると判断し、歩行者の現在位置が自車の推定進路中心に対して所定距離内に位置すると判断するという3つの判断条件により横断歩行者を認識することによって、これら3つの判断条件がすべて成立したときに、その歩行者は、障害物ではなく明らかに自車両の前方を横断すると判断する歩行者であって自車両との衝突が予測されるものと判断することができる。したがって、上記した3つの判断条件が成立すれば横断歩行者との衝突のおそれがあるとして、制動手段を作動させることにより、自車両の前方を横断する歩行者との衝突を未然に防止することができ、3つの判断条件の1つでも不成立であれば歩行者との衝突のおそれがないとして、制動手段を不要に作動させないようにすることができる。
【0009】
請求項2にかかる発明によれば、横断歩行者が自車線の外側において赤信号で立ち止まることが予想されるという制動手段の作動が不要な状況において、制動手段の誤作動を防止することができる。また、このような誤作動を防止することで、衝突回避装置の品質をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
本発明に係る衝突回避装置の第1実施形態について、
図1ないし
図3を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態でいう前後、左右とはシートに着座した状態で見た前後、左右を意味する。
【0012】
図1に示すように、衝突回避装置1は、自車両前方を撮影するカメラ2と、自車両の車速を検出する車速検出手段である車速センサ3と、マイクロコンピュータ構成のECU(Electronic Control Unit)4と、ECU4の制御により自動ブレーキをかけるブレーキアクチュエータ5と、ステアリングの操舵角を検出する舵角センサ6とを備える。
【0013】
ECU4は、カメラ2によるカメラ画像を取り込み、例えば内蔵メモリに格納された歩行者、各種車両、道路構造物等の照合用画像パターンとカメラ画像とを照合していわゆるパターン認識による画像認識処理を行い、自車両の前方に存在する障害物が歩行者であるかどうかを認識する認識手段としての機能を有する。
【0014】
また、ECU4は、自車両の前方に存在する障害物が歩行者であると認識すると、車速センサ3による検出車速およびカメラ2によるカメラ画像に基づき、自車両と歩行者と進行方向における相対距離(以下、縦距離ともいう)および歩行者の横断方向への移動速度を導出する導出手段としての機能を有する。
【0015】
そして、自車両と歩行者等の障害物との縦距離が、所定の減速度で自車両を制動した(ブレーキをかけた)ときに衝突を回避可能な限界である衝突を回避すべき作動タイミングに達したときにブレーキアクチュエータ5を制御して自動ブレーキを作動可能にする機能を有し、係るECU4の機能およびブレーキアクチュエータ5により、本発明における制動手段が構成される。
【0016】
ところで、ECU4は不要な自動ブレーキを作動させないようにするために、以下のような制御を行う。すなわち、
図2に示すように、カメラ2によるカメラ画像から自車両Cの前方を横断する歩行者Pを認識した状態で、(1)車速センサ3による検出車速、自車両Cと歩行者Pとの縦距離のほか、検出車速から算出される自車両Cの現在加減速度および自車両Cと歩行者Pとの相対速度などから、現在時点が自動ブレーキを作動させるべき作動タイミングであると判断し、かつ、(2)自車両Cと歩行者Pとの縦距離、自車両Cと歩行者Pとの相対速度などから自車両Cが歩行者Pと衝突するまでの衝突予測時間(TTC)を導出し、導出した衝突予測時間(TTC)に基づき、
図2に示す自車両Cの中心から車幅より小さい所定幅である第1の作動許可範囲Wの範囲内において自車両Cと歩行者Pとの衝突が予測されると判断し、かつ、(3)歩行者Pの現在位置が、
図2に示す自車両Cの自車の推定進路内Lよりも外側であって左右に所定距離である第2の作動許可範囲D内に位置すると判断したときに、自車両Cの前方を横断する歩行者Pが、
図2に現在位置、TTC、横方向速度などから導出する×印で示す衝突予測位置で自車両Cと衝突するおそれがあるとして、自動ブレーキを作動させる制御を実行するようになっている。
【0017】
このように、ECU4により、自動ブレーキを作動させる制御を実行すべき上記(1)〜(3)の3つの判断条件がすべて成立したときに、障害物ではなく明らかに自車両の前方を横断すると判断する歩行者であって自車両との衝突が予測されるものと判断することができ、3つの判断条件が成立すれば横断歩行者との衝突のおそれがあるとして、ブレーキアクチュエータ5を制御して自動ブレーキを作動させて、自車両の前方を横断する歩行者との衝突を未然に防止する一方、3つの判断条件の1つでも不成立であれば歩行者との衝突のおそれがないとして、ブレーキアクチュエータ5を非作動に制御して自動ブレーキを不要に作動させない。
【0018】
このとき、上記した(3)の判断条件の成否を判断する際の基準となる自車両の自車の推定進路中心CLに対して左右に設定すべき第2の作動許可範囲Dは、自車両Cと歩行者Pとの縦距離、横断する歩行者Pの横移動速度に応じて可変するのが望ましい。例えば、歩行者Pの横移動速度が速いときには、或いは、自車両Cと歩行者Pとの縦距離が長いときには、歩行者Pは自車両Cの中心前方における衝突予測位置に早く到達する可能性があることから、衝突回避対象となる歩行者Pの検知領域を広げるために第2の作動許可範囲Dを広くする。一方、歩行者Pの横移動速度が遅いときには、或いは、自車両Cと歩行者Pとの縦距離が短いときには、歩行者Pが自車両Cの中心前方における衝突予測位置に到達するのが遅くなるため、衝突回避対象となる歩行者Pの検知領域を広げる必要がない。なお、歩行者Pの移動速度、縦距離に対して、第2の作動許可範囲Dをどのように設定すればよいかを予め実験的に検証しておき、歩行者のPの移動速度、縦距離と作動許可範囲Dとの関係をマップ化してECU4の内蔵メモリ等に記憶させておき、現在の歩行者Pの移動速度、縦距離に対する最適な作動許可範囲Dを読み出して上記した(3)の判断条件の比較基準にすればよい。
【0019】
次に、ECU4の制御動作について、
図3のフローチャートを参照して説明する。いま、
図3に示すように、ECU4により、上記したようなカメラ画像に基づく画像認識処理により、自車両の前方に存在する障害物が歩行者であるかどうかの判定を行い(ステップS1)、この判定結果がYESであれば、上記した(1)の判断条件に関する現在時点が自動ブレーキを作動させるべき作動タイミングであるかどうか判定する(ステップS2)。
【0020】
そして、ステップS2の判定結果がYESであれば、上記した(1)の判断条件が成立したとして次のステップS3に移行し、導出した衝突予測時間(TTC)から、上記した(2)の判断条件に関する自車両の中心から車幅より小さい所定幅である第1の作動許可範囲W(
図2参照)の範囲内において自車両と歩行者との衝突が予測されるかどうかの判定がなされる(ステップS3)。
【0021】
このステップS3の判定結果がYESであれば、上記した(2)の判断条件も成立したとして次のステップS4に移行し、上記した(3)の判断条件に関する自車両の左右所定距離の第2の作動許可範囲D(
図2参照)内に歩行者が位置するかどうかの判定がなされ(ステップS4)、この判定結果がYESであれば、上記した(3)の判断条件が成立して、(1)〜(3)の3つの判断条件すべてが成立し、
図2中の×印で示す衝突予測位置で自車両と横断歩行者が衝突するおそれがあると判断されたとして次のステップS5に移行する。
【0022】
そして、ステップS4の判定結果がYESであれば、ステップS5において自動ブレーキ作動対象物と判断され(ステップS5)、ステップS4の判定結果がNOであれば、ステップS1,S2,S3の判定結果がNOの場合と共に、自動ブレーキ作動非対象物と判断され(ステップS6)、その後、車速センサ3による車速、方向指示器、シフトレンジなどの各種スイッチ情報、舵角センサ6による操舵角、他システムの作動状態などの車両側条件が確認されて車両側作動条件を満たしているかどうかの判定がなされ(ステップS7)、この判定結果がYESであれば自動ブレーキが作動され(ステップS8)、判定結果がNOであれば自動ブレーキは非作動となり(ステップS9)、その後動作は終了する。
【0023】
したがって、上記した第1実施形態によれば、上記した(1)〜(3)の3つの判断条件が成立すれば横断歩行者との衝突のおそれがあるとして、自動ブレーキを作動させることにより、自車両の前方を横断する歩行者との衝突を未然に防止することができる。
【0024】
さらに、3つの判断条件の1つでも不成立であれば歩行者との衝突のおそれがないとして、制動手段を不要に作動させないようにすることができ、例えば歩行者が
図2に示す第2の作動許可範囲Dの範囲よりも外側にいる場合に、当該歩行者との衝突のおそれがないにも拘らず自動ブレーキがむやみに作動してドライバが煩わしく感じることを防止できる。
【0025】
また、上記した(3)の判断条件の基準となる自車両の自車の推定進路中心CLに対して左右に設定する所定距離の第2の作動許可範囲Dを、自車両Cと歩行者Pとの縦距離、横断する歩行者Pの移動速度に応じて可変するようにしたため、移動速度、縦距離の異なる横断歩行車に対する自動ブレーキの作動条件を絞ることができ、衝突回避の精度のいっそうの向上を図ることが可能になる。
【0026】
<第2実施形態>
上記した第1実施形態では、ECU4は、不要な自動ブレーキの作動を回避するために、(1)〜(3)の判断条件を用いたが、さらに条件を付加して第2実施形態としてもよい。
【0027】
ECU4が、カメラ画像から前方に歩行者を認識し、(1)〜(3)の判断条件のすべてを満たしていた場合であっても、自動ブレーキの作動が不要の場合がある。例えば、自車両の前方に横断歩行者が検出された場合であっても、その歩行者の進行方向の信号が赤信号であった場合は、自車両の走行する車線(自車線)を横断せずに、停止する蓋然性が高い。このような状況で自動ブレーキを作動させるのはお節介となる可能性が高い。
【0028】
そこで、
図4に示すように、自車両が進行している車線(自車線)の領域(範囲)と横断歩行者との位置関係を判断条件に加える。自車線の範囲の検出は、ECU4がカメラ2によるカメラ画像を取り込み、自車両の進行方向の左右両側で、自車両の進行方向と平行方向に引かれた白線7を検出する。ECU4による白線7の検出方法としては、例えば、取り込んだカメラ画像を2値化した上で、エッジ検出処理を行うことにより検出する。このとき、進行方向の左右両側で白線7を検出できた場合は、これらの白線7の間隔(自車線の幅LW)が、自車両の車幅よりも広い一定幅である場合、ECU4は、当該両白線7が自車線を規定する白線7であって、両白線7に挟まれた領域を自車線の領域として検出する。このように、ECU4が、カメラ画像に基づいて自車線の領域を検出する機能が、本発明の自車線検出手段に相当する。
【0029】
そして、ECU4は、(1)〜(3)の判断条件のすべてを満たした際、(4)当該横断歩行者が自車線の領域内にいると判断した場合に、自動ブレーキを作動させる制御を実行し、自車線の領域外にいた場合は、自動ブレーキを作動させる制御を実行しない(後述する未指定走行モード)。なお、ECU4は、自車線の認定ができない場合は、(1)〜(3)の判断条件のすべてを満たせば、自動ブレーキを作動させる制御を実行する。自車線を規定するための白線7の検出方法は、適宜変更することができる。
【0030】
なお、左側走行の場合は、判断条件(1)〜(3)のすべてを満たす横断歩行者が赤信号で停止するのは、自車両進行方向の左側であるため、左側走行の場合は、自車線の左側に位置する歩行者と左側の白線7の位置関係を比較して、(4)の判断条件の成否を判断してもよい。一方、右側走行の場合は、自車線の右側に位置する歩行者と右側の白線7の位置関係を比較して、(4)の判断条件の成否を判断してもよい。また、左側走行モード、右側走行モード、未指定走行モードの3種類を設け、(4)の判断条件の成否の判断方法を切り換え設定できるようにしてもよい。
【0031】
次に、本例のECU4の制御動作について、
図5のフローチャートを参照して説明する。なお、ステップS1〜S4の処理については、上記した第1実施形態の処理(
図3のステップS1〜ステップS4参照)と同じであるため、説明を省略する。
【0032】
ステップS4の判定結果がYESであれば、一定幅の自車線が検出されたか否かの判定がなされ(ステップS10)、この判定がYESであれば、歩行者の現在位置が自車線の領域内にあるか否かが判定される(ステップS11)。この判定結果がYESの場合は、ステップS10で一定幅の自車線が検出されなかった場合(ステップS10でNOの場合)とともに、自動ブレーキ作動対象物と判断される(ステップS5)。一方、ステップS11の判定結果がNOであれば、ステップS1,S2,S3,S4の判定結果がNOの場合と共に、自動ブレーキ作動非対象物と判断される(ステップS6)。その後、車速センサ3による車速、方向指示器、シフトレンジなどの各種スイッチ情報、舵角センサ6による操舵角、他システムの作動状態などの車両側条件が確認されて車両側作動条件を満たしているかどうかの判定がなされ(ステップS7)、この判定結果がYESであれば自動ブレーキが作動され(ステップS8)、判定結果がNOであれば自動ブレーキは非作動となり(ステップS9)、その後動作は終了する。
【0033】
したがって、上記した第2実施形態によれば、横断歩行者が自車線の外側において赤信号で立ち止まることが予想されるという自動ブレーキの作動が不要な状況において、自動ブレーキの誤作動を防止することができる。また、このような誤作動を防止することで、衝突回避装置1の品質をさらに向上させることができる。
【0034】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能である。
【0035】
例えば、上記した実施形態における歩行者かどうかの認識は、上記したパターン認識による画像認識処理に限るものではない。
【0036】
また、車速センサ3による検出車速およびカメラ2によるカメラ画像に基づき、自車両と歩行者と進行方向における相対距離(縦距離)および歩行者の横断方向への移動速度を導出するようにしたが、相対距離(縦距離)および歩行者の横断方向への移動速度の導出方法はこれに限るものではない。
【0037】
また、上記した実施形態では、自車両と歩行者との縦距離、横断歩行者の移動速度に応じて、
図2に示す第2の作動許可範囲Dを可変にするとしたが、自車両に配置された舵角センサにより検出される舵角に基づくステアリングの操作状態に応じて第2の作動許可範囲Dを可変するようにしてもよく、例えば左方向にステアリング操作しているときには自車両の左側の作動許可範囲Dを広げ、右方向にステアリング操作しているときには自車両の右側の作動許可範囲Dを広げるとよい。こうすると、自車両のステアリングの操作状態に応じて横断歩行車に対する自動ブレーキの作動条件を絞ることができて衝突回避の精度の向上を図ることが可能になる。