特許第6837861号(P6837861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6837861繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置と、この裁断装置に使用される繊維マット打ち抜き刃物の製造方法と、裁断装置を使用する繊維マットの裁断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6837861
(24)【登録日】2021年2月15日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置と、この裁断装置に使用される繊維マット打ち抜き刃物の製造方法と、裁断装置を使用する繊維マットの裁断方法
(51)【国際特許分類】
   B26F 1/40 20060101AFI20210222BHJP
   B26F 1/44 20060101ALI20210222BHJP
   B29D 15/00 20060101ALI20210222BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   B26F1/40 Z
   B26F1/44 B
   B26F1/44 D
   B26F1/44 J
   B29D15/00
   F16H55/06
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-27382(P2017-27382)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-130809(P2018-130809A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】300082863
【氏名又は名称】喜岡 達
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】喜岡 達
【審査官】 藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−227061(JP,A)
【文献】 特開昭50−121883(JP,A)
【文献】 実開昭52−144492(JP,U)
【文献】 特開平10−235600(JP,A)
【文献】 特開2013−244541(JP,A)
【文献】 特開昭61−129248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26F 1/40
B26F 1/44
B29D 15/00
F16H 55/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維マットを載せて裁断する裁断面を上面に有する受け台と、この受け台の裁断面に向かって移動して、裁断面の繊維マットを、ヘリカルギア形状の歯車マットに裁断する刃先を先端縁に設けてなる歯形刃物を有する打ち抜き刃物と、
前記打ち抜き刃物を往復運動させる刃物駆動機構とを備え、
前記歯形刃物は、歯車の歯先円を切断する歯先刃と、歯車の歯底を切断する歯底刃と、前記歯先刃と前記歯底刃とに連結されて歯車の歯面を切断する歯面刃とを有する刃先を有し、
さらに前記歯形刃物は、前記歯底刃と歯面刃とを先端縁とし、かつ先端縁から後端に向かって延びる複数のV溝を外周面に所定の間隔で設けており、かつ、内周面には、先端から後端に向かって往復運動方向に伸びる縦溝と凸条とを交互に所定の間隔で設けており、
さらにまた、前記歯形刃物は、
前記縦溝の先端縁を前記歯先刃、
前記縦溝と前記凸条との間の先端縁を前記歯面刃、
前記凸条の先端縁を前記歯底刃としており、
かつまた、前記歯形刃物は、前記V溝の内側対向位置に前記凸条が配置されて、前記V溝と前記凸条とが歯形刃物の中心軸に対して一定の傾斜角で傾斜する姿勢に配置しており、
また、前記刃物駆動機構は、前記打ち抜き刃物の中心軸を回転軸として前記打ち抜き刃物を回転させながら、前記受け台の前記繊維マットを裁断する回転機構を備え、
前記刃物駆動機構が前記打ち抜き刃物を回転させながら、前記受け台の前記繊維マットを打ち抜きして裁断する構造としてなる繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置。
【請求項2】
請求項1に記載される繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置であって、
前記V溝は、刃先から前記歯形刃物の後端に向かって次第に浅く、
前記歯底刃から前記歯形刃物後端までの歯底ラインの刃物角(α1)が、前記歯先刃から歯形刃物後端までの歯先面の刃物角(α2)よりも大きく、
さらに、前記歯形刃物は、前記歯底刃の後端部の厚さ(W1)が、前記歯先刃の後端部の厚さ(W2)よりも厚くしてなることを特徴とする繊維強化プラスチック製のヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載される繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置であって、
前記歯形刃物が、
先端縁に前記刃先を設けてなる刃物部と、
前記刃物部の後端側に一体構造に連結してなるベース部とからなり、
前記ベース部の硬度が前記刃物部の硬度よりも低いことを特徴とする繊維強化プラスチック製のヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置。
【請求項4】
請求項3に記載される繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置であって、
前記刃物部と前記ベース部とが異なる鋼材からなり、前記刃物部と前記ベース部とが溶接構造で連結されてなるることを特徴とする繊維強化プラスチック製のヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載される繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置であって、
前記打ち抜き刃物が、前記歯形刃物の内側に配置されて、前記歯車マットに貫通穴を裁断する円筒刃物とを有し、
前記円筒刃物は先端縁にサブ刃先を有し、前記サブ刃先が前記歯形刃物の先端に設けてなる刃先と同一平面に配置されて前記歯形刃物に固定されてなることを特徴とする繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置。
【請求項6】
繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットを受け台の裁断面に載せてヘリカルギア形状の歯車マットに打ち抜きする歯形刃物を有する繊維マット打ち抜き刃物の製造方法であって、
前記歯形刃物の製造工程が、
鋼材を所定の厚さの筒状であって、前記繊維マットをヘリカルギア形状に裁断する刃先を先端縁に設けてなる切削刃物とする切削工程と、
前記切削刃物を焼き入れして焼き入れ刃物とする焼き入れ工程と、
前記焼き入れ刃物を研磨する研磨工程とからなり、
前記切削工程は、内周面に一定の間隔で凸条と縦溝を交互に平行姿勢に設ける内面切削工程と、外周面に一定の間隔でV溝を設ける外面切削工程とからなり、
前記内面切削工程で設けられる前記凸条の外面対向位置に前記外面切削工程で設けるV溝を配置して、前記V溝の先端部を歯底刃と歯面刃として、前記V溝の間に歯先刃を設け、
さらに、前記凸条と前記縦溝と前記V溝とを中心軸に対して一定の角度で傾斜する姿勢に加工し、
さらにまた、前記外面切削工程において設ける前記V溝は、先端縁から後端に向かって浅くして、前記歯底刃の刃物角(α1)を、前記歯先刃の刃物角(α2)よりも大きくし、さらに、前記歯形刃物の後端部の厚さは、前記歯底刃の後端部の厚さ(W1)を、前記歯先刃の後端部の厚さ(W2)よりも厚く加工することを特徴とする繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マット打ち抜き刃物の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載される繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マット打ち抜き刃物の製造方法であって、
前記内面切削工程が鋼材を放電加工して内面に凸条と縦溝とを設けことを特徴とする繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マット打ち抜き刃物の製造方法。
【請求項8】
繊維強化プラスチックのヘリカルギアに使用される繊維マットを受け台の裁断面に載せて、打ち抜き刃物で前記繊維マットをヘリカルギアの外形に打ち抜きして裁断する裁断方法であって、
前記打ち抜き刃物に、前記繊維マットをヘリカルギアの刃先を裁断する歯先刃と、ヘリカルギアの歯底を裁断する歯底刃と、ヘリカルギアの歯面を裁断する歯面刃とからなる刃先を先端縁に設けてなる円筒状の歯形刃物を使用し、
前記歯形刃物を前記受け台の裁断面に接近させるにしたがって、前記歯形刃物と前記受け台の何れか又は両方を回転して、前記歯形刃物と前記受け台とを相対的に回転して、前記繊維マットをヘリカルギア形状の繊維マットを裁断することを特徴とする繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法。
【請求項9】
請求項8に記載されるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法であって、
前記歯形刃物に、以下のA〜Cの全ての構成の刃物を使用することを特徴とするヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法。
A.前記歯形刃物は、前記歯底刃と歯面刃とを先端縁とし、かつ先端縁から後端に向かって延びる複数のV溝を外周面に所定の間隔で設けており、かつ、内周面には、先端から後端に向かって往復運動方向に伸びる縦溝と凸条とを交互に所定の間隔で設けている。
B.前記歯形刃物は、
前記縦溝の先端縁を前記歯先刃、
前記縦溝と前記凸条との間の先端縁を前記歯面刃、
前記凸条の先端縁を前記歯底刃としている。
C.前記歯形刃物は、前記V溝の内側対向位置に前記凸条が配置されて、前記V溝と前記凸条とが歯形刃物の中心軸に対して一定の傾斜角で傾斜する姿勢に配置されてなる。
【請求項10】
請求項9に記載されるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法であって、
前記歯形刃物に、以下のA及びBの構成の刃物を使用することを特徴とするヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法。
A.前記V溝は、刃先から前記歯形刃物の後端に向かって次第に浅く、
前記歯底刃から前記歯形刃物後端までの歯底ラインの刃物角(α1)が、前記歯先刃から歯形刃物後端までの歯先面の刃物角(α2)よりも大きい。
B.前記歯形刃物は、前記歯底刃の後端部の厚さ(W1)が、前記歯先刃の後端部の厚さ(W2)よりも厚くしてなる。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載されるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法であって、
前記歯形刃物に、先端縁に前記刃先を設けてなる刃物部と、前記刃物部の後端側に一体構造に連結してなるベース部とからなり、前記ベース部の硬度を前記刃物部の硬度よりも低くしてなる刃物を使用することを特徴とするヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載されるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法であって、
前記打ち抜き刃物に、以下のAとBの構成の刃物を使用することを特徴とするヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法。
A.前記打ち抜き刃物が、前記歯形刃物の内側の同心位置あって前記歯形刃物に連結してなる円筒刃物を備える。
B.前記円筒刃物は先端縁にサブ刃先を有し、前記サブ刃先が前記歯形刃物の先端に設けてなる刃先と同一平面に配置されてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)、ポリイミド繊維、PBO繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリリート繊維、炭素繊維、フッ素繊維、PPS繊維等の有機繊維や、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維、金属繊維等の無機繊維を所定の厚さに集合してなる繊維マットをヘリカルギア形状に裁断する裁断装置と、この裁断装置に使用する打ち抜き刃物の製造方法と、繊維マットをヘリカルギア形状に裁断する裁断方法とに関する。
本明細書において「繊維マット」は、繊維を方向性なく所定の厚さの集合した不織布に特定するものでなく、複数枚の不織布を積層したもの、さらに繊維を種々の織り方で編組してなる複数の繊維クロスを積層したもの、さらに積層した繊維層を厚さ方向に貫通する厚さ方向糸のある三次元繊維などの立体繊維組織として所定の厚さとしてなるものを含む意味に使用する。
さらに、「繊維マット」は繊維組織のみからなるものには特定せず、繊維間に熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を添加してなるプリプレグを含む意味に使用する。
【背景技術】
【0002】
繊維シートで補強された繊維強化プラスチック歯車は開発されている。このプラスチック歯車の製造方法として、繊維強化プラスチックを円筒形に成形した後、外周を切削して歯形とする方法(特許文献1参考)と、強化用長繊維と熱可塑性樹脂プリプレグの積層体を歯車の形状に打ち抜きして歯車とする方法(特許文献2)とが開発されている。
【0003】
円筒状に加工して外周を歯形に切削する方法は、切削工程における切削量が多く、製造コストが高くなる欠点がある。プリプレグを歯形に打ち抜きして歯車を製造する方法は、切削加工を簡単にして能率よく多量生産できる特徴がある。
【0004】
特許文献2に記載される製造方法は、ポンチを使用して、繊維強化プラスチック歯車に使用される強化用長繊維と熱可塑性樹脂プリプレグの有角度積層板を歯形に打ち抜きする。ポンチは、雌型に設けた貫通穴に挿入されて有角度積層板を打ち抜きする。ポンチによる裁断は、厚い有角度積層板を正確な外形の歯形に裁断することが難しく、とくにカーボン繊維などの強靭な強化用長繊維からなる有角度積層板を能率よく裁断できない欠点がある。とくに、小さい歯車の外形を正確な歯型に裁断できない欠点がある。また、裁断時におけるポンチ外周縁の損傷が甚だしく、充分な耐久性を実現できないことから、ランニングコストが相当に高くなる欠点もある。
【0005】
本発明者はポンチの欠点を解消するために、先端縁に歯先を設けた金属板を歯型に折曲加工してトムソン刃を製作した。トムソン刃を使用して、平面状の受け台に繊維シートを載せ、繊維シートに歯先を押し付けて裁断すると、切断しやすい繊維を集合している薄い繊維シートを歯型に裁断できるが、カーボン繊維やケブラー繊維などの強靭な繊維シートを繰り返し裁断できない。とくに、トムソン刃は、強靭な繊維を厚く積層している繊維マットを切断できない。歯先が強靭な繊維を切断できず、また、切断時に金属板が変形して歯形が崩れるからである。
【0006】
プラスチック歯車は金属歯車に代わって使用されることから、金属に匹敵する強度が要求される。とくに、伝達トルクの大きい繊維強化プラスチック歯車は、強靭な繊維を相当に厚く集合している繊維マットが使用される。このことから、繊維強化プラスチック歯車用の繊維マットを裁断する打ち抜き刃物には、強靭な繊維を厚く集合している繊維マットを、繰り返し正確な歯型に裁断できるという極めて難しい特性が要求される。
【0007】
本発明者は、以上の難しい課題を解決することを目的に図11に示す裁断装置を開発した。(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−97700号公報
【特許文献2】特開平6−114863号公報
【特許文献3】特願2016−196056号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図11の裁断装置は、繊維マット10を載せて裁断する裁断面2を上面に有する受け台1と、この受け台1の裁断面2に向かって移動して、裁断面2の繊維マット10を、歯車形状に裁断する刃先4を先端縁に設けてなる打ち抜き刃物3と、この打ち抜き刃物3を往復運動させる刃物駆動機構5とを備える。
【0010】
図11の裁断装置の打ち抜き刃物を図12に示す。この打ち抜き刃物3は、繊維マット10を歯車形状に裁断する刃先4を先端に設けている鋼材からなる筒状の歯形刃物3Aを備えている。歯形刃物3Aの刃先4は、歯車の歯先面を切断する歯先刃4Aと、歯車の歯底を切断する歯底刃4Bと、歯先刃4Aと歯底刃4Bとに連結されて歯車の歯面を切断する歯面刃4Cとからなる。
【0011】
以上の裁断装置は、打ち抜き刃物3を使用して、強靭な補強繊維を厚く集合している繊維マットを正確な歯形に裁断でき、さらに多数の繊維マットを繰り返し裁断しながら、正確な歯形の歯車マットに打ち抜きできる特徴を実現する。
【0012】
しかしながら、この裁断装置は平歯車しか製造できず、繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアを製作できない欠点がある。ヘリカルギアは平歯車にない種々の特徴、たとえばなめらかに回転して、面圧強度を大きくし、さらに騒音レベルを低くできる等の特徴があることから、種々の用途に多用される。
【0013】
本発明はヘリカルギアを低コストに製作できることを目的として開発されたもので、安価に多量生産できる打ち抜き刃物を使用しながら、補強繊維を厚く集合している繊維マットをも能率よく正確にヘリカルギアの歯形に裁断でき、さらに多数の繊維マットを繰り返し裁断しても正確なヘリカルギアの歯形に打ち抜きして、繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用するヘリカルギア形状の繊維マットを能率よく裁断できる裁断装置と、この裁断装置に使用する打ち抜き刃物3の製造方法と、ヘリカルギアに使用する繊維マットの裁断方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0014】
本発明の繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置は、繊維マット10を載せて裁断する裁断面2を上面に有する受け台1と、この受け台1の裁断面2に向かって移動して、裁断面2の繊維マット10をヘリカルギア形状の歯車マット11に裁断する刃先4を先端縁に設けている歯形刃物3Aを有する打ち抜き刃物3と、打ち抜き刃物3を往復運動させる刃物駆動機構5とを備える。歯形刃物3Aは、ヘリカルギアの歯先円を切断する歯先刃4Aと、ヘリカルギアの歯底を切断する歯底刃4Bと、歯先刃4Aと歯底刃4Bとに連結されてヘリカルギアの歯面を切断する歯面刃4Cとを有する刃先4を有する。さらに歯形刃物3Aは、歯底刃4Bと歯面刃4Cとを先端縁とし、かつ先端縁から後端に向かって延びる複数のV溝16を外周面に所定の間隔で設けて、内周面には、先端から後端に向かって伸びる縦溝21と凸条22とを交互に所定の間隔で設けている。さらにまた、歯形刃物3Aは、縦溝21の先端縁を歯先刃4Aとし、縦溝21と凸条22との間の先端縁を歯面刃4Cとし、凸条22の先端縁を歯底刃4Bとしている。また、歯形刃物3Aは、V溝16の内側対向位置に凸条22を配置して、V溝16と凸条22とを歯形刃物3Aの中心軸に対して一定の傾斜角で傾斜する姿勢に配置している。刃物駆動機構5は、打ち抜き刃物3の中心軸を回転軸として打ち抜き刃物3を回転させながら受け台1の繊維マット10を裁断する回転機構5Aを備える。刃物駆動機構5が打ち抜き刃物3を回転させながら受け台1の繊維マット10を打ち抜きして繊維マット10をヘリカルギア形状の歯車マット11に裁断する。
【0015】
以上の繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置は、安価に多量生産できる打ち抜き刃物を使用しながら、補強繊維を厚く集合している繊維マットをも能率よく正確にヘリカルギア形状に裁断でき、さらに多数の繊維マットを繰り返し裁断しても正確なヘリカルギア形状の歯車マットに打ち抜きできる特徴がある。
【0016】
それは、以上の裁断装置が、繊維マット10をヘリカルギア形状に裁断する歯先刃4Aと歯底刃4Bと歯面刃4Cからなる刃先4を先端縁に設けている歯形刃物3Aを、回転機構5Aのある刃物駆動機構5で回転させながら受け台1の繊維マット10を裁断すると共に、歯形刃物3Aには、歯底刃4Bと歯面刃4Cとを先端縁とし、かつ先端縁から後端に向かって延びる複数のV溝16を外周面に所定の間隔で設けて、内周面には、先端から後端に向かって往復運動方向に伸びる縦溝21と凸条22とを交互に所定の間隔で設け、さらにまた、縦溝21の先端縁を歯先刃4A、縦溝21と凸条22との間の先端縁を歯面刃4C、凸条22の先端縁を歯底刃4Bとして、V溝16の内側対向位置に凸条22を配置して、V溝16と凸条22とを歯形刃物3Aの中心軸に対して一定の傾斜角で傾斜する姿勢に配置してい刃物を使用し、この歯形刃物3Aを刃物駆動機構5で回転させながら受け台1の繊維マット10を打ち抜きして繊維マット10をヘリカルギア形状の歯車マット11に裁断するからである。
【0017】
ヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置は、歯形刃物3AのV溝16を、刃先4から歯形刃物3Aの後端に向かって次第に浅くし、歯底刃4Bから歯形刃物3A後端までの歯底ラインの刃物角(α1)を、歯先刃4Aから歯形刃物3A後端までの歯先面の刃物角(α2)よりも大きくし、さらに、歯形刃物3Aの歯底刃4Bの後端部の厚さ(W1)を、歯先刃4Aの後端部の厚さ(W2)よりも厚くすることができる。
【0018】
以上のヘリカルギアは、局部的に内側に突出する形状から変形しやすい歯底刃を強靭な構造として、打ち抜き時の衝撃で歯底刃が変形するのを確実効果的に防止できる特徴がある。歯底刃は、歯車の歯底部を切断するために、局部的に内側に突出する形状で、打ち抜き時の瞬間的な応力で変形しやすく、歯底刃は、打ち抜きされた繊維マットを内側に案内するために片刃形状とされることから、図6の断面図に示すように、歯先両面の中心線(A)がヘリカルギア3Aの刃先4が矢印で示す往復運動する方向に対して内側に傾斜し、打ち抜き時に矢印Bで示す応力を受ける。この応力は、繊維マット10を裁断する毎に繰り返し歯底刃4Bに作用して変形させる原因となる。歯底刃4Bが水平方向に作用する応力で次第に変形すると、打ち抜き刃物3は多数の繊維マット10を正確なヘリカルギア形状に裁断できないが、以上の歯形刃物3Aは以上の弊害を防止して、多数の繊維マット10を正確なヘリカルギア形状に裁断しながら、優れた耐久性も実現する特徴がある。
【0019】
さらに、以上の打ち抜き刃物は、歯形刃物を前述の独得の形状として、打ち抜き時に瞬間的に作用する応力による刃先の変形を防止するので、裁断するのが極めて難しい強靭な繊維を厚く集合してなる繊維マットをも、正確なヘリカルギア形状に裁断でき、しかも繰り返し厚い繊維マットを裁断しながら正確なヘリカルギア形状に裁断できる特徴を実現する。
【0020】
本発明の裁断装置の歯形刃物3Aは、先端縁に刃先4を設けている刃物部3aと、この刃物部3aの後端側に一体構造に連結しているベース部3bとで構成して、ベース部3bの硬度を刃物部3aの硬度よりも低くすることができる。この歯形刃物は、刃物部よりも低硬度のベース部の緩衝作用で、打ち抜き時の衝撃を吸収できるので、歯形刃物で繊維マットをスムーズに打ち抜きできる特徴がある。この構造の歯形刃物3Aは、刃物部3aとベース部3bとを異なる鋼材として、刃物部3aとベース部3bとを溶接構造で連結することができる。
【0021】
本発明の裁断装置は、打ち抜き刃物3に円筒刃物3Bを設け、この円筒刃物3Bを歯形刃物3Aの内側に配置して、先端縁にはサブ刃先4Dを設けて、サブ刃先4Dを歯形刃物3Aの刃先4と同一平面に配置して、円筒刃物3Bで歯車マット11に歯形刃物3Aに固定する構造として、歯車マット11に貫通穴を設ける構造とすることができる。この打ち抜き刃物は、外形がヘリカルギア形状で、中心に貫通穴のある歯車マットを裁断できる。また、この打ち抜き刃物は、裁断された歯車マットの外周面と内周面の歪みを少なくして正確な形状に裁断できる特徴も実現する。
【0022】
本発明の打ち抜き刃物の製造方法は、繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マット10を受け台1の裁断面2に載せて、ヘリカルギア形状の歯車マット11に打ち抜きする歯形刃物3Aを製造する方法であって、この製造方法は、歯形刃物3Aの製造工程を、鋼材を所定の厚さの筒状であって、前記繊維マット10をヘリカルギア形状に裁断する刃先4を先端縁に設けてなる切削刃物31とする切削工程と、切削刃物31を焼き入れして焼き入れ刃物とする焼き入れ工程と、焼き入れ刃物を研磨する研磨工程とからなる。切削工程は、内周面に一定の間隔で凸条22と縦溝21を交互に平行姿勢に設ける内面切削工程と、外周面に一定の間隔でV溝16を設ける外面切削工程とからなる。内面切削工程で設けられる凸条22の外面対向位置に外面切削工程で設けるV溝16を配置して、V溝16の先端部を歯底刃4Bと歯面刃4Cとして、V溝16の間に歯先刃4Aを設け、さらに、凸条22と縦溝21とV溝16とを中心軸に対して一定の角度で傾斜する姿勢に加工する。さらにまた、外面切削工程において設けるV溝16は、先端縁から後端に向かって浅くして、歯底刃4Bの刃物角(α1)を、歯先刃4Aの刃物角(α2)よりも大きくし、さらに、歯形刃物3Aの後端部の厚さは、歯底刃4Bの後端部の厚さ(W1)を、歯先刃4Aの後端部の厚さ(W2)よりも厚く加工する。
【0023】
以上の方法で製造される歯形刃物は、安価に多量生産できると共に、補強繊維を厚く集合している繊維マットをも能率よく正確にヘリカルギアの歯形に裁断でき、さらに多数の繊維マットを繰り返し裁断しても正確なヘリカルギアの歯形に打ち抜きして、繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用するヘリカルギア形状の繊維マットを能率よく裁断できる特徴がある。
【0024】
本発明の繊維マット打ち抜き刃物の製造方法は、内面切削工程においては、鋼材を放電加工して内面に凸条22と縦溝21とを設けることができる。この方法は、鋼材を能率よく加工して内面をヘリカルギア形状に加工できる特徴がある。
【0025】
本発明の繊維マットをヘリカルギア形状の歯車マットに打ち抜きして裁断する裁断方法は、繊維マット10を受け台1の裁断面2に載せて、打ち抜き刃物3で繊維マット10をヘリカルギアの外形の歯車マット11に打ち抜きする。この裁断方法は、打ち抜き刃物3に、繊維マット10をヘリカルギアの刃先4を裁断する歯先刃4Aと、ヘリカルギアの歯底を裁断する歯底刃4Bと、ヘリカルギアの歯面を裁断する歯面刃4Cとからなる刃先4を先端縁に設けている全体を円筒状とする歯形刃物3Aを使用する。歯形刃物3Aが受け台1の裁断面2に接近するにしたがって、歯形刃物3Aと受け台1の何れか又は両方が回転されて、歯形刃物3Aと受け台1とが相対的に回転されて、繊維マット10をヘリカルギア形状の繊維マット10を裁断する。
【0026】
以上の裁断方法は、低コストに多量生産できる打ち抜き刃物3を使用しながら、補強繊維を厚く集合している繊維マットをも能率よく正確にヘリカルギアの歯形に裁断でき、さらに多数の繊維マットを繰り返し裁断しても正確なヘリカルギアの歯形に打ち抜きして、繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用するヘリカルギア形状の繊維マットを能率よく裁断できる特徴がある。
【0027】
本発明の繊維マットの裁断方法は、裁断に使用する歯形刃物3Aに、以下のA〜Cの全ての構成の刃物を使用することができる。
A.歯形刃物3Aは、歯底刃4Bと歯面刃4Cとを先端縁とし、かつ先端縁から後端に向かって延びる複数のV溝16を外周面に所定の間隔で設けており、かつ、内周面には、先端から後端に向かって往復運動方向に伸びる縦溝21と凸条22とを交互に所定の間隔で設けている。
B.歯形刃物3Aは、
縦溝21の先端縁を歯先刃4A、
縦溝21と凸条22との間の先端縁を歯面刃4C、
凸条22の先端縁を歯底刃4Bとしている。
C.歯形刃物3Aは、V溝16の内側対向位置に凸条22が配置されて、V溝16と凸条22とが歯形刃物3Aの中心軸に対して一定の傾斜角で傾斜する姿勢に配置されてなる。
【0028】
本発明のヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法は、歯形刃物3Aに、以下のA及びBの構成の刃物を使用することができる。
A.V溝16は、刃先4から歯形刃物3Aの後端に向かって次第に浅く、
歯底刃4Bから歯形刃物3A後端までの歯底ラインの刃物角(α1)が、歯先刃4Aから歯形刃物3A後端までの歯先面の刃物角(α2)よりも大きい。
B.歯形刃物3Aは、歯底刃4Bの後端部の厚さ(W1)が、歯先刃4Aの後端部の厚さ(W2)よりも厚くしてなる。
【0029】
本発明のヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法は、歯形刃物3Aに、先端縁に刃先4を設けてなる刃物部3aと、刃物部3aの後端側に一体構造に連結してなるベース部3bとからなり、ベース部3bの硬度を刃物部3aの硬度よりも低くしてなる刃物を使用することができる。
【0030】
本発明のヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断方法は、
打ち抜き刃物3に、以下のA及びBの構成を備える刃物を使用することができる。
A.打ち抜き刃物3が、歯形刃物3Aの内側の同心位置あって歯形刃物3Aに連結してなる円筒刃物3Bを備える。
B.円筒刃物3Bは先端縁にサブ刃先4Dを有し、サブ刃先4Dが歯形刃物3Aの先端に設けてなる刃先4と同一平面に配置されてなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例にかかる裁断装置に使用する打ち抜き刃物の斜視図である。
図2図1に示す打ち抜き刃物の平面図である。
図3図1に示す打ち抜き刃物の正面図である。
図4図1に示す打ち抜き刃物の底面図である。
図5図1に示す打ち抜き刃物のV溝と縦溝に沿って切断した断面図である。
図6】打ち抜き刃物の歯底刃が繊維マットを裁断する状態を示す断面図である。
図7】金属ブロックを加工して筒体とし筒体を研削して歯形刃物とする状態を示す斜視図である。
図8】繊維マットを打ち抜きする裁断装置の概略断面図である。
図9】繊維マットを打ち抜きして得られる歯車マットの半径方向の略断面図である。
図10】打ち抜き刃物が繊維マットを打ち抜きする状態を示す概略断面図である。
図11】本発明者が先に開発した繊維マットを打ち抜きする裁断装置の概略斜視図である。
図12図11の裁断装置の打ち抜き刃物を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための繊維強化プラスチックからなるヘリカルギアに使用される繊維マットの裁断装置と、これに使用する打ち抜き刃物の製造方法と、この打ち抜き刃物を使用する繊維マットの裁断方法を例示するものであって、本発明は裁断装置と打ち抜き刃物の製造方法と裁断方法を以下に特定しない。さらに、この明細書は、特許請求の範囲を理解しやすいように、実施例に示される部材に対応する番号を、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段の欄」に示される部材に付記している。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【0033】
本発明の裁断装置は、繊維マットをヘリカルギアの歯車マットに裁断する。裁断された歯車マットはプラスチック製ヘリカルギアの補強繊維に使用される。プリプレグの繊維マットを裁断して得られる歯車マットは、加圧状態でプラスチックを硬化させて繊維強化プラスチック製のヘリカルギアとし、プラスチックを含まない歯車マットは、プラスチックを含浸し、あるいはプラスチックに埋設し、プラスチックを成形して繊維強化プラスチック製のヘリカルギアに加工する。歯車マットを埋設している繊維強化プラスチック製のヘリカルギアは、プラスチックを硬化させた状態で外周面を切削し、あるいは研磨してより高精度な外形のヘリカルギアとなる。
【0034】
本発明は、繊維強化プラスチック製のヘリカルギアに使用する繊維マットを裁断するための装置と打ち抜き刃物の製造方法と繊維マットの裁断方法にかかるものであって、ヘリカルギアの製造装置や製造方法にかかるものでない。したがって、繊維マットをヘリカルギアに裁断して得られる歯車マットを使用して繊維強化プラスチック製のヘリカルギアとする方法や装置は、現在使用され、あるいはこれから開発される方法と装置が使用できる。
【0035】
繊維強化プラスチック製のヘリカルギアの補強用に使用される繊維マットは、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)、ポリアミド繊維、PBO繊維、超高強力ポリエチレン繊維、高強力ポリアリレート繊維等の有機繊維や、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維、金属繊維等の無機繊維をからなり、これ等の繊維を集合して所定の厚さとしたもの、さらに繊維間に熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を添加してなるプリプレグである。繊維マットは、繊維を集合したもので、とくに厚さ方向に延びる繊維によって層間剥離が防止される。したがって、繊維マットを補強繊維として埋設している繊維強化プラスチック製のヘリカルギアは金属歯車に匹敵する強度を実現する。
【0036】
繊維マットをヘリカルギア形状に裁断した歯車マットは、積層し、あるいは積層することなくプラスチックに埋設されて繊維強化プラスチック製のヘリカルギアに加工される。刃幅の広い、言い換えると厚いヘリカルギアは、歯車マットを積層枚数で刃幅を調整できる。また、薄い歯車マットは積層して刃幅の広いヘリカルギアにできる。したがって、歯車マットを積層して製作されるヘリカルギアは、歯車マットの厚さと、ヘリカルギアの刃幅で積層枚数を調整する。
【0037】
図8の裁断装置は、繊維強化プラスチック製のヘリカルギアに使用される繊維マットを裁断する装置で、この装置は、繊維マット10を載せて打ち抜き刃物3で裁断する裁断面2を上面に有する受け台1と、この受け台1の裁断面2に向かって移動して、裁断面2に配置している繊維マット10を、ヘリカルギア形状に裁断する打ち抜き刃物3と、この打ち抜き刃物3を往復運動させる刃物駆動機構5とを備える。
【0038】
受け台1は金属プレートで、裁断面2を平面状としている。受け台1は、全体又は表面をプラスチックやゴム製とすることもできる。金属プレートの受け台1は、図1に示すように、表面に弾性シート1Aを積層している。弾性シート1Aは厚さを1mm〜10mmとするゴム状弾性体のシートである。上面に弾性シート1Aを積層している受け台1は、打ち抜き刃物3で繊維マット10を打ち抜きする状態で、打ち抜き刃物3の刃先4を弾性シート1Aに密着させ、あるいは打ち抜き刃物3の刃先4を弾性シート1Aの表面に挿入して、繊維マット10から裁断される歯車マット11の裁断縁11Aを綺麗に裁断できる。ただし、受け台1は、必ずしも上面に弾性シートを配置する必要はなく、弾性シートに代わって刃先で切断される軟質シートを積層し、あるいは弾性シートや軟質シートを積層することなく、受け台の裁断面に打ち抜き刃物を接近ないし接触させて、繊維マットを打ち抜き加工して裁断することもできる。
【0039】
刃物駆動機構5は、打ち抜き刃物3を水平面内で回転させながら繊維マット10を裁断する。この刃物駆動機構5は、打ち抜き刃物3の回転機構5Aを備える。図の刃物駆動機構5は、打ち抜き刃物3を固定する上下台6と、この上下台6を上下に往復運動させるシリンダ7とを備え、回転機構5Aで上下台6を水平面内で回転させる。打ち抜き刃物3は上下台6の下面に垂直姿勢に固定され、回転機構5Aが上下台6を回転して、シリンダ7が上下に上下に移動して、受け台1に載せている繊維マット10をヘリカルギア形状の歯車マット11を裁断する。ヘリカルギアは、外周面の歯先が回転軸に対して傾斜している。したがって、打ち抜き刃物で裁断される歯車マットは、外周の歯先が回転軸に対して傾斜するヘリカルギア形状に裁断される。
【0040】
回転機構5Aは降下する上下台6を水平面内で回転させる。回転機構5Aは、上下台6の上下位置で回転位置を特定する。回転機構5Aは、打ち抜き刃物3の刃先4が、繊維マット10をヘリカルギア形状に裁断する回転位置に、打ち抜き刃物3を回転させる。上下台6が回転することなく降下すると、裁断される歯車マットの外形が平歯車の外形となるからである。回転機構5Aで回転されながら降下する打ち抜き刃物は、繊維マットをヘリカルギア形状、すなわち回転軸に対して傾斜する歯先の歯車マットに裁断する。以上の回転機構5Aは、上下台6を介して打ち抜き刃物3を水平面内で回転させるが、回転機構は、受け台を回転し、あるいは上下台と受け台の両方を回転して、繊維マットをヘリカルギア形状に裁断することもできる。したがって、本発明は、刃物駆動機構の回転機構を、上下台を回転させる機構に特定するものでなく、受け台を回転し、あるいは受け台と上下台の両方を回転する機構とすることもできる。
【0041】
回転機構5Aは、上下台6が降下するときに、降下する上下台6の降下位置に対して特定の回転角とするように上下台6を回転する。回転機構5Aが降下する上下台6を回転する回転角、言い換えると、上下台6の降下距離に対する回転角は、ヘリカルギアの歯先の傾斜角を特定する。したがって、回転機構5Aが上下台6を回転する回転角、正確には降下距離に対する回転角は、裁断される歯車マットの歯先が、ヘリカルギアの傾斜角となる角度に設定される。
【0042】
図8の回転機構5Aは、上下台6の降下位置で上下台6の回転位置を特定するために、上下台6から半径方向に外側に向かって突出するガイド凸部24と、このガイド凸部24を案内するガイド溝25を内面に設けている螺旋ガイド26とを備える。螺旋ガイド26は内面にガイド溝25を設けている。ガイド溝25は螺旋状で、ここにガイド凸部24を案内して、降下する上下台6の回転位置を特定する。この回転機構5Aは、ガイド溝25の中心軸に対する傾斜角を調整して、上下台6の降下位置に対する回転位置を調整できる。ガイド溝25の中心軸に対する傾斜角は、裁断される歯車マット11の刃先4の傾斜角に設定される。図の回転機構5Aは、上下台6の外周の対向位置にガイド凸部24を設けているが、回転機構は、図示しないが、外周に多数のガイド凸部を設け、各々のガイド凸部を案内するガイド溝を螺旋ガイドに設けることもできる。また、図の回転機構は、上下台にガイド凸部を設けて、螺旋ガイドにガイド溝を設けているが、ガイド凸部を螺旋ガイドに設けて、このガイド凸部を案内するガイド溝を上下台の外周に設けることもできる。
【0043】
以上の回転機構5Aは、上下台6が降下する状態で、ガイド凸部24をガイド溝25に案内し、ガイド凸部24がガイド溝25に沿って移動することで、上下台6の降下位置に対する回転位置を正確に特定できる。また、この回転機構5Aは、極めて簡単な機構としながら、上下台6の降下位置に対する回転位置を正確に特定して、裁断される歯車マット11を正確なヘリカルギア形状に裁断できる。機構を簡単にできるのは、上下台を回転するためにモータやシリンダなどのアクチュエーターを必要とせず、さらにアクチュエーターを制御するための制御機構も必要としないからである。ただし、本発明は、回転機構を以上の構造に特定するものでなく、たとえば、上下台の上下位置をセンサで検出し、センサの検出位置で、上下台をシリンダやモータなどのアクチュエーターで回転する機構とすることもできるのは言うまでもない。
【0044】
以上の刃物駆動機構5は、打ち抜き刃物3を上下に往復運動させて、受け台1の裁断面2に配置している繊維マット10を受け台1と打ち抜き刃物3で挟んで、ヘリカルギア形状の歯車マット11に裁断する。
【0045】
図1ないし図5は、繊維マット10をヘリカルギア形状に裁断する打ち抜き刃物3を示す。これ等の図に示す打ち抜き刃物3は、繊維マット10を歯車マット11に裁断する歯形刃物3Aと、この歯形刃物3Aの内側に固定されて、歯車マット11の中心に貫通穴を設ける円筒刃物3Bとを備える。
【0046】
歯形刃物3Aは、繊維マット10をヘリカルギア形状の歯車マット11に裁断し、円筒刃物3Bで歯車マット11の中心に円形の貫通穴を裁断する。歯形刃物3Aと円筒刃物3Bは、各々の先端縁に、同一平面に刃先4を配置して、歯車マット11の外形と貫通穴とを同時に打ち抜きする。この打ち抜き刃物3で裁断される歯車マット11は、中心に貫通穴のあるヘリカルギアに使用される。図1の打ち抜き刃物は、中心に貫通穴のある歯車マットを裁断するが、打ち抜き刃物は必ずしも円筒刃物を設けることなく、歯形刃物のみの構造とすることもできる。円筒刃物のない打ち抜き刃物は、中心に貫通穴のないヘリカルギアに歯車マットを裁断する。中心に貫通穴のない歯車マットは、中心に貫通穴のないヘリカルギアに使用され、あるいは、後工程で中心貫通穴を設けて、貫通穴のあるヘリカルギア形状に加工される。
【0047】
図に示す歯形刃物3Aは、薄い金属板を歯形に折曲加工したものではない。歯形刃物3Aは、所定の厚さの金属ブロック19を切削し、研削し、焼き入れして製作される。切削される金属ブロック19は鋼材で、円柱状、円筒状又は厚い板状で、金属ブロックを切削工程で切削して切削刃物31とし、焼き入れ工程で切削刃物31を焼き入れして焼き入れ刃物とし、研磨工程で焼き入れ刃物を研削して製作される。切削工程は、金属ブロックを放電加工して内側に凸条22と縦溝21のある筒状に切削し、外側を研削して切削刃物31とする。
【0048】
図の歯形刃物3Aは、先端縁に刃先4を設けている刃物部3aと、この刃物部3aの後端側に一体構造に連結しているベース部3bとからなる。この歯形刃物3Aは、ベース部3bの硬度を刃物部3aの硬度よりも低くする。この歯形刃物3Aは、刃物部3aとベース部3bとを異なる金属で製作し、ベース部3bの金属を刃物部3aの金属よりも低硬度の金属製とする。この歯形刃物3Aは、低硬度のベース部3bの緩衝作用が打ち抜き時の衝撃を吸収する。したがって、この歯形刃物3Aは、繊維マット10を打ち抜きするときの衝撃がベース部3bに吸収されて、繊維マット10をスムーズに打ち抜きできる特徴がある。刃物部とベース部とからなる歯形刃物は、刃物部とベース部とを同じ炭素鋼で製作して、焼き入れ工程で刃物部の硬度をベース部よりも高くすることもできる。
【0049】
図1の歯形刃物3Aは、刃物部3aの内形をヘリカルギア形状の外形とし、ベース部3bの内形を刃物部3aの内形よりも大きくしている。この歯形刃物3Aは、裁断された歯車マット11をスムーズにベース部3bに案内できる。この歯形刃物3Aは、刃物部3aの高さ(h)、すなわち歯形刃物3Aの軸方向の長さを、好ましくは裁断される歯車マット11の厚さに等しく、あるいはこれよりも長くする。この刃物部3aは、歯車マット11を正確なヘリカルギア形状に裁断できる。裁断された歯車マット11を刃物部の内側に案内できるからである。ただし、刃物部3aの高さ(h)は、歯車マット11の厚さよりも低くすることもできる。それは、繊維マット10のクッション性で、裁断された歯車マット11のヘリカルギア形状を弾性変形して、刃物部3aとベース部3bに案内できるからである。
【0050】
図1の歯形刃物3Aは、ベース部3bの高さ(H)を刃物部3aの高さ(h)よりも大きくしている。この歯形刃物3Aは、ベース部3bの緩衝作用が大きく、打ち抜き時の衝撃を少なくしてスムーズに繊維マット10を歯車マット11に打ち抜きできる。また、ベース部3bを上下台6に連結して、上下台6に簡単に取り付けできる特徴もある。さらに、刃物部3aよりも内形を大きくしているベース部3bは、裁断された歯車マット11を変形させることなく、あるいはわずかに変形して内側に案内できるので、裁断された複数枚の歯車マット11をベース部3bに案内してスムーズに取り出すことで、能率よく繊維マット10を裁断できる特徴もある。
【0051】
図1の歯形刃物3Aは、刃物部3aとベース部3bとを溶接構造で一体構造に連結して製作される。一体構造に連結される歯形刃物3Aは、焼き入れされない切削刃物と、焼き入れされないベース部とを連結して一体構造とし、その後焼き入れし、研削して製作される。刃物部3aとベース部3bに加工される鋼材は、加工性に優れた炭素鋼が適している。炭素鋼は、要求される硬さと脆さとを考慮して炭素の含有量を用途に最適な値に調整する。歯形刃物3Aは、炭素の含有量を多くして硬くできる。ただ、炭素の含有量が多くなると脆くなるので、刃物部3aに加工される鋼材の炭素の含有量は、例えば0.4%以上であって1.4%以下、好ましくは0.45%以上であって0.7%以下とする。ベース部3bは、刃物部3aよりも炭素の含有量の少ない炭素鋼板、たとえば、0.3%以上であって1%以下、好ましくは0.4%以上であって0.6%以下の炭素鋼板を使用する。ただし、刃物部とベース部とを同じ炭化含有量の鋼材で製作することもできる。本明細書において鋼材の炭素含有量は質量パーセント濃度とする。
【0052】
刃物部3aは、切削工程において、鋼材を放電加工して筒状に加工した後、研削工程において、砥石やヤスリで切削して先端にヘリカルギアの刃先4を設けて切削刃物31とする。切削刃物はベース部と一体構造に連結されて焼き入れ工程で焼き入れされて焼き入れ刃物とし、さらに焼き入れ刃物を研削して製作される。ベース部3bは、筒状の炭素鋼板を円筒状に加工して内面を切削し、あるいは炭素鋼を研削して製作される。
【0053】
図7は、歯形刃物の製造工程を示す。ただし、この図は、刃物部3aとベース部3bとを異なる鋼材で製作して、一体構造に連結する歯形刃物3Aの刃物部3aの製造工程を示している。この工程で製造された刃物部3aは、ベース部3bを一体構造に連結して歯形刃物3Aとされる。
図示しないが、歯形刃物は、ひとつの金属ブロックを切削加工して製造することもできるが、この方法で製造される歯形刃物は、切削工程において金属ブロックの内面と外面を刃物で切削して図1に示す形状として製作される。
【0054】
[切削工程]
この工程は、内面を切断する切断工程と、切断工程で内面が加工された筒体の外面を研削する研削工程とからなる。
【0055】
[切断工程]
切断工程は、金属ブロック19を放電加工して所定の厚さの筒体20に加工する。放電加工は、金属ブロック19にワイヤ(図示せず)を貫通し、ワイヤと金属ブロック19との間で放電させて、金属ブロック19を切断する。放電加工は、ワイヤと金属ブロック19とを相対的に移動させて、金属ブロック19から筒体20を切り離す。放電加工で金属ブロック19から切り離された筒体20の内面には、中心軸に対して傾斜する縦溝21と凸条22とが交互に平行に設けられている。内面に縦溝21と凸条22を設けている筒体20は、内面の形状を、ヘリカルギア形状の外形としている。縦溝21と凸条22は筒体20の中心軸に対して傾斜し、傾斜角を、ヘリカルギアの外周に設けられる歯の回転軸に対する傾斜角に等しくしている。
【0056】
筒体20は、放電加工で鋼材の金属ブロックから切り離されて外面を円柱に沿う形状とする。外面を円柱状とし、内面をヘリカルギア形状とする筒体20は、放電加工で金属ブロックから簡単に加工される。金属ブロックと放電加工のワイヤとを相対的に移動して、筒体20の内面と外面の両方を加工できるからである。筒体20は、放電加工で内面形状をヘリカルギア形状とし、あるいは、図示しないが、内面形状を先端から後端に向かって大きくなる形状に加工される。さらに、筒体20は、放電加工で外面形状を先端から後端に向かって大きくするテーパー状に、あるいは先端から後端まで同じ外形に放電加工される。円柱状や円筒状の金属ブロックを筒体に放電加工する方法は、筒体20径に等しい円柱状又は円筒状の金属ブロックを使用して、筒体の内形のみを放電加工して筒体を製作できる。
【0057】
[研削工程]
この工程は、外面を円柱状とする筒体20の外側面を研削して、先端から後端に向かって外径を大きくするテーパー状に研削する。放電加工で外面をテーパー状に加工している筒体は、外面を研削してテーパー状に加工する工程を省略できる。さらにこの工程は、筒体20の先端部の外側面を研削して、先端に歯先刃4Aを設けた切削刃物31とする。
【0058】
切削刃物31の刃先4は、繊維マット10をヘリカルギア形状に裁断するもので、歯先刃4Aと歯面刃4Cと歯底刃4Bとを連結する刃先である。歯先刃4Aは、ヘリカルギアの歯先面となる部分を切断し、歯面刃4Cはヘリカルギアの歯面となる部分を切断し、歯底刃4Bは歯車の歯底となる部分を切断する。歯先刃4Aと歯面刃4Cと歯底刃4Bとからなる刃先4は、筒体20の外側面を研削して設けられる。
【0059】
研削工程は、筒体20の先端部の外面にV溝16を研削して設けて、歯面刃4Cと歯底刃4Bとを設ける。V溝16は、筒体20内面に設けた凸条22の外側に設けられる。V溝16は、凸条22との対向位置に設けられる。凸条22は筒体20の中心軸に対して傾斜するので、V溝16も中心軸に対して傾斜する。V溝16は先端縁の両面を歯面刃4Cとして、溝底部を歯底刃4Bとする。V溝16の溝底部が刃先4を歯底刃4Bとするので、図7に示すように、溝底部を所定の曲率半径で湾曲する形状とし、あるいは図示しないが所定の横幅とすることができる。V溝16は、筒体20の先端から後端に向かって次第に浅くなる形状で、歯底刃4Bの刃物角を歯先刃4Aの刃物角より大きくする。
【0060】
図5は、V溝16を長手方向に切断した断面図である。この図は歯先刃4Aと歯底刃4Bの断面形状を示している。この図において、実線はV溝16の長手方向に沿って切断した歯底刃4Bの断面形状を示し、鎖線は縦溝21の長手方向に沿って切断した歯先刃4Aの断面形状を示している。歯底刃4Bの刃物角は、V溝16を先端から後端に向かって浅くすることで、歯先刃4Aの刃物角よりも大きくなる。図1図3の歯形刃物3Aは、図3の正面図に示すように、V溝16を後端(図において下端)まで延長せず、また歯底刃4Bを、筒体20の内面に突出する部分に設けているので、歯底刃4Bを設けている刃物部3aの後端部の厚さ(W1)は、歯先刃4Aを設けている刃物部3aの後端部の厚さ(W2)よりも厚い。耐久性に優れた歯形刃物3Aの実現において、この独得の構造は極めて重要である。繊維マット10の打ち抜き工程において、内側に突出する歯底刃4Bの変形歪みを防止して耐久性を向上させるからである。
【0061】
図1ないし図5に示す歯形刃物3Aの刃物部3aは、V溝16を後端に向かって次第に浅くし、さらに、歯底刃4Bを設けた部分の後端部の厚さ(W1)を、歯先刃4Aを設けた部分の後端部の厚さ(W2)より大きくすることで、歯底刃4Bから歯形刃物3Aである刃物部3aの後端までの歯底ライン17の傾斜角、即ち歯底刃4Bの刃物角(α1)を、歯先刃4Aから歯形刃物3A後端までの傾斜角である歯先刃4Aの刃物角(α2)よりも大きくしている。
【0062】
さらに、刃先4の先端部分を、先端縁から1mm〜5mm幅で外側面を研削して、刃物角を先端に向かって次第に大きくして、刃先4先端の仕上げ角を10度以上であって60度以下、さらに好ましくは15度以上であって45度以下として耐久性を向上できる。さらに刃物部3aは、筒体20の内側面の一部を研削して、先端から後端に向かって内側形状を次第に大きくするテーパー状に加工することもできる。
【0063】
[切削刃物とベース部との連結工程]
研削工程で得られた刃物部となる切削刃物31は、焼き入れすることなく、後端にベース部3bが一体構造に連結される。ベース部3bは、筒状の炭素鋼板の内面を切削し、あるいは研削して製作されたものである。歯形刃物3Aは、ベース部3bの内形を刃物部3aの内形よりも大きくしている。刃物部となる切削刃物31に連結されるベース部3bは、内形を大きくして、先端から後端に向かって内形を次第に大きくすることができる。この歯形刃物3Aは、ベース部3bに設けた凸条22を先端から後端に向かって低くして、後端部の内形を先端部よりも大きくできるので、裁断された歯車マット11をスムーズにベース部3bの内側に案内でき、また、裁断された歯車マット11を歯形刃物3Aの後端からスムーズに分離できる。
【0064】
[焼き入れ工程]
焼き入れされない切削刃物31とベース部3bとが一体構造に連結された状態で、刃先4を硬くするために焼き入れする。焼き入れ工程は、刃先4のHRC硬度を62以上、好ましくは約65とするように焼き入れする。刃先4の硬度は硬くして寿命を長くできるが、硬すぎると脆くなって打ち抜き加工時に損傷しやすくなる。したがって、焼き入れ工程は、刃先4のHRC硬度を62よりも高く、好ましくは64よりも高く、かつ72よりも低く、好ましくは66より低くなるように焼き入れする。焼き入れ後の刃先4の硬度は、炭素の含有量と焼き入れ温度でコントロールする。焼き入れの温度を高くして刃先4の硬度を高くでき、温度を低くして硬度を低くできる。たとえば、刃物部3aの鋼材に、炭素の含有量を0.6%とする炭素鋼を使用し、焼き入れ温度を780℃〜950℃として、HRC硬度を62〜72の範囲にできる。焼き入れ後のHRC硬度を65とする歯形刃物3Aは、炭素の含有量を0.6%、焼き入れ温度を850℃とする。
【0065】
[研磨工程]
焼き入れ刃物は、最後に仕上げ研磨して鋭利な刃先4とする。特に研削工程は、刃先4の先端部分の外側面を研磨して、仕上げ角を最適値に調整する。
【0066】
歯形刃物3Aは以上の工程で製作されるが、円筒刃物3Bは、細長い炭素鋼板を円柱に沿う形状に湾曲し、両端を溶接して筒状に加工すると共に、先端部分を研削して刃先4を設けた後、焼き入れし、焼き入れの後さらに仕上げ研磨して製作される。円筒刃物3Bは、2mm〜5mmの炭素鋼板で製作される。炭素鋼板は、焼き入れする前工程で湾曲して円筒状に加工して、先端縁に円形のサブ刃先4DDを設ける。円筒状の炭素鋼板は、先端部分の内側面を研削して円形のサブ刃先4DDを設ける。
【0067】
円筒刃物3Bは、サブ刃先4DDに向かって刃物角が次第に大きくなる形状として、打ち抜き時の衝撃でサブ刃先4DDが損傷するのを防止する。先端に向かって次第に刃物角を大きくする円筒刃物3Bは、先端の仕上げ角が、耐久性と裁断能力に影響を与える。したがって、円筒刃物3Bの仕上げ角は、好ましくは、15度以上であって60度以下、最適には約30度とする。円筒刃物3Bは、刃先4のHRC硬度を歯形刃物3Aと同等とするように焼き入れする。
【0068】
円筒刃物3Bは連結金具23を介して歯形刃物3Aに固定される。連結金具23は、円筒刃物3B及び歯形刃物3Aの後端に溶接して固定されて、円筒刃物3Bを歯形刃物3Aの同心位置に配置し、かつ、円筒刃物3Bと歯形刃物3Aの刃先4を同一平面に配置する。図4の打ち抜き刃物3は、円筒刃物3Bと歯形刃物3Aとの間に4本の連結金具23を放射状に固定している。図4の連結金具23は、一端を円筒刃物3Bの外側に溶接して固定し、他端を歯形刃物3Aに設けた嵌合凹部に入れて溶接して固定している。連結金具23と円筒刃物3Bと歯形刃物3Aは後端面を同一平面に配置している。この打ち抜き刃物3は、連結金具23と円筒刃物3Bと歯形刃物3Aとを同一平面に配置している後端面を刃物駆動機構5で押圧して、繊維マット10を裁断する。
【0069】
以上の打ち抜き刃物を備える図8の裁断装置は、以下の工程で繊維強化プラスチックのヘリカルギアに使用される繊維マットをヘリカルギア形状に裁断する。
[繊維マットを受け台にセットする工程]
シリンダ7で上下台6を持ち上げ、上下台6の下面に固定している打ち抜き刃物3を上昇位置に配置する。この状態で、打ち抜き刃物3は受け台1から上に離して配置される。
受け台1の裁断面2に繊維マット10を載せる。繊維マット10と裁断面2との間には弾性シート1Aを積層している。
【0070】
[打ち抜き刃物を降下する状態]
シリンダで上下台6を押し下げる。上下台6が水平面内で回転しながら降下するので、打ち抜き刃物3が繊維マット10を裁断する。このとき、打ち抜き刃物3は回転しながら降下するので、刃先4で繊維マット10をヘリカルギア形状に裁断する。打ち抜き刃物3の刃先4は、繊維マット10をヘリカルギア形状の歯車マット11に裁断した後、さらに弾性シートに食い込んで繊維マット10を確実に裁断する。
【0071】
打ち抜き刃物3は、歯形刃物3Aの内側に円筒刃物3Bを固定しているので、歯形刃物3Aで歯車マット11の外形をヘリカルギア形状に裁断し、円筒刃物3Bで歯車マット11の中心に貫通穴を設ける。歯形刃物3Aと円筒刃物3Bは刃先4を同一面内に配置しているので、歯形刃物3Aと円筒刃物3Bの両方が繊維マット10を裁断して歯車マット11に裁断する。裁断時に、歯形刃物3Aは回転しながら降下して、歯車マット11の外形をヘリカルギア形状に裁断し、円筒刃物3Bも回転しながら歯車マット11に貫通穴を裁断する。回転しながら歯車マット11に貫通穴を設ける円筒刃物3Bは、円周方向に回転するので、刃先4が貫通穴に円周に方向に移動して、歯車マット11の中心に確実に綺麗な貫通穴を開口する。
【0072】
歯形刃物3Aの内側に円筒刃物3Bを固定して、歯形刃物3Aと円筒刃物3Bとの両方で同時に繊維マット10を裁断する打ち抜き刃物3は、裁断される歯車マット11を正確なヘリカルギア形状に裁断できる。それは、歯形刃物3Aと円筒刃物3Bとの間に繊維マット10を挟む状態で中心に貫通穴のあるヘリカルギア形状に裁断するからである。弾性変形する繊維マット10を打ち抜き刃物3で打ち抜きして貫通穴のないヘリカルギア形状に裁断すると、図9の(1)に示すように、外周面は中央に凹部ができる形状に変形して裁断される傾向がある。それは、図10の鎖線で示すように、打ち抜き刃物3が繊維マット10を押し潰す状態となって、上面が突出して大きく湾曲する状態で裁断されるからである。これに対して、歯形刃物3Aの内側に円筒刃物3Bを固定している打ち抜き刃物3で繊維マット10を裁断すると、図10の実線で示すように、歯形刃物3Aと円筒刃物3Bの両方が繊維マット10の表面に押し付けられて裁断するので、歯形刃物3Aと円筒刃物3Bとの間で湾曲して突出する高さが小さくなり、表面がほぼ平面状に近い状態で裁断されて、図9の(2)で示すように、外周面と内周面の中央部の凹部は小さくできる。このことは、裁断された歯車マットの外周面と内周面の両方をより正確なヘリカルギア形状に裁断できる特徴を実現する。
【0073】
[裁断された歯車マットの取り出し工程]
裁断された歯車マット11は、歯形刃物3Aと円筒刃物3Bとの間に挿入される。シリンダで上下台6を上昇し、上下台6で打ち抜き刃物3を上昇して、打ち抜き刃物3の内側に挿入された歯車マット11を打ち抜き刃物3から抜き出す。
繊維マット10は、以上の工程を繰り返して歯車マット11に裁断される。
【符号の説明】
【0074】
1…受け台 1A…弾性シート
2…裁断面
3…打ち抜き刃物
3A…歯形刃物
3a…刃物部
3b…ベース部
31…切削刃物
3B…円筒刃物
4…刃先
4A…歯先刃
4B…歯底刃
4C…歯面刃
4D…サブ刃先
5…刃物駆動機構
5A…回転機構
6…上下台
7…シリンダ
10…繊維マット
11…歯車マット
11A…裁断縁
16…V溝
17…歯底ライン
18…外側ライン
19…金属ブロック
20…筒体
21…縦溝
22…凸条
23…連結金具
24…ガイド凸部
25…ガイド溝
26…螺旋ガイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12