特許第6837995号(P6837995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6837995量子ドット発光ダイオードおよびその製造方法、並びに表示パネルおよび表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6837995
(24)【登録日】2021年2月15日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】量子ドット発光ダイオードおよびその製造方法、並びに表示パネルおよび表示装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20210222BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20210222BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20210222BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20210222BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20210222BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20210222BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20210222BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20210222BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   H05B33/10
   H05B33/14 Z
   H05B33/22 D
   H05B33/22 A
   H05B33/22 C
   H01L27/32
   G09F9/30 365
   G09F9/00 338
   B82Y20/00
   B82Y40/00
   C09K11/66
【請求項の数】19
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-557904(P2017-557904)
(86)(22)【出願日】2016年11月14日
(65)【公表番号】特表2020-513639(P2020-513639A)
(43)【公表日】2020年5月14日
(86)【国際出願番号】CN2016105693
(87)【国際公開番号】WO2018086114
(87)【国際公開日】20180517
【審査請求日】2019年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】510280589
【氏名又は名称】京東方科技集團股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BOE TECHNOLOGY GROUP CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】チャンチェン・ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ズオ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンハイ・メイ
【審査官】 小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/120626(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105720204(CN,A)
【文献】 国際公開第2016/124324(WO,A1)
【文献】 特開昭63−295695(JP,A)
【文献】 特表2015−535390(JP,A)
【文献】 特開2000−144387(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/013171(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/124555(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/10
H05B 33/14
H01L 51/50 − 51/56
H01L 27/32
G09F 9/30
G09F 9/00
B82Y 20/00
B82Y 40/00
C09K 11/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドット発光ダイオードを製造する方法であって、
ベース基板上に電子輸送材料と無機ペロブスカイト材料を共堆積させて、電子輸送材料と無機ペロブスカイト材料が含まれる複合層を形成する工程を含み、
前記共堆積は、パルスレーザー堆積法によって実施される
方法。
【請求項2】
前記無機ペロブスカイト材料は、CsPbXを含んでおり、ただし、XはCl、Br、I、またはそれらの任意の組み合わせから選ばれる3つのハロゲン化物アニオンである
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複合層を焼きなまして、複数の量子ドットが含まれる量子ドット発光層と電子輸送層を形成する工程をさらに含み、
前記無機ペロブスカイト材料は、焼きなまし過程で前記複合層の表面上の前記複数の量子ドットに自己組織化される
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記共堆積は、同一のパルスレーザー堆積室において別々に設置した電子輸送材料ターゲットと無機ペロブスカイト材料ターゲットをレーザー光源に露光させるステップを含む
請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記複合層における、前記電子輸送材料に対する前記無機ペロブスカイト材料の体積比は、1:100〜1:10である
請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記複合層における、前記電子輸送材料に対する前記無機ペロブスカイト材料の体積比は、5:95である
請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記共堆積は、450℃〜700℃である堆積温度で実施される
請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記共堆積は、50mTorr〜150mTorrである堆積圧力下の酸素雰囲気において実施される
請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記共堆積は、5Hz〜20Hzであるレーザーパルス周波数で、および100mJ/cm〜270mJ/cmであるレーザーエネルギー密度で実施される
請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記電子輸送材料は、無機金属酸化物を含む
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記無機金属酸化物は、ZnO、TiO、WO、SnOからなる群から選ばれる
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記焼きなましは、10分間〜50分間で実施される
請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記電子輸送層は、10nm〜100nmである厚さを有し、
前記複数の量子ドットは、2nm〜20nmである平均直径を有する
請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記量子ドット発光層の前記電子輸送層から遠い側に正孔輸送材料が含まれる正孔輸送層を形成する工程をさらに含み、
前記正孔輸送材料は、4,4’−シクロへキシレンビス[N,N−ビス(4−トリル)アニリン](TAPC)、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPB)、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる
請求項に記載の方法。
【請求項15】
前記正孔輸送層の前記量子ドット発光層から遠い側に正孔注入材料が含まれる正孔注入層を形成する工程をさらに含み、
前記正孔注入材料は、MoO、CuPc、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸塩(PEDOT:PSS)からなる群から選ばれる
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記正孔注入層の前記正孔輸送層から遠い側に第1電極層を形成する工程と、
前記複合層を形成する前、前記ベース基板上に第2電極層を形成する工程と、をさらに含み、
前記第2電極層は、前記複合層の前記ベース基板に近い側に形成される
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法で製造される量子ドット発光ダイオード。
【請求項18】
請求項17に記載の量子ドット発光ダイオードを備える表示パネル。
【請求項19】
請求項18に記載の表示パネルを備える表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット発光ダイオード、該量子ドット発光ダイオードを具備する表示パネルおよび表示装置、並びに該量子ドット発光ダイオードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドット発光ダイオードは、一般的に、複数のセレン化カドミウムナノ結晶が含まれる発光層を備える。セレン化カドミウム層は、電子輸送層と正孔輸送層との間に挟まれる。量子ドット発光ダイオードに電界が印加されることで、電子および正孔をセレン化カドミウム層に移動させる。セレン化カドミウム層において、電子と正孔は量子ドットにトラップされて再結合し、光子を放出する。量子ドット発光ダイオードの発光スペクトルは、従来の有機発光ダイオードに比べて狭い。
【発明の概要】
【0003】
一態様では、本発明は、ベース基板上に電子輸送材料と無機ペロブスカイト材料を共堆積させて、電子輸送材料と無機ペロブスカイト材料が含まれる複合層を形成する工程を含む、量子ドット発光ダイオードを製造する方法を提供する。
【0004】
無機ペロブスカイト材料は、CsPbXを含んでもよく、ただし、XはCl、Br、I、またはそれらの任意の組み合わせから選ばれる3つのハロゲン化物アニオンである。
【0005】
共堆積は、パルスレーザー堆積法によって実施されてもよい。
【0006】
上記方法は、複合層を焼きなまして、複数の量子ドットが含まれる量子ドット発光層と電子輸送層を形成する工程をさらに含み、無機ペロブスカイト材料は、焼きなまし過程で複合層の表面上の複数の量子ドットに自己組織化されてもよい。
【0007】
共堆積は、同一のパルスレーザー堆積室において別々に設置した電子輸送材料ターゲットと無機ペロブスカイト材料ターゲットをレーザー光源に露光させるステップを含んでもよい。
【0008】
複合層における、電子輸送材料に対する無機ペロブスカイト材料の体積比は、約1:100〜約1:10であってもよい。
【0009】
複合層における、電子輸送材料に対する無機ペロブスカイト材料の体積比は、約5:95であってもよい。
【0010】
共堆積は、約450℃〜約700℃である堆積温度で実施されてもよい。
【0011】
共堆積は、約50mTorr〜約150mTorrである堆積圧力下の酸素雰囲気において実施されてもよい。
【0012】
共堆積は、約5Hz〜約20Hzであるレーザーパルス周波数で、および約100mJ/cm〜約270mJ/cmであるレーザーエネルギー密度で実施されてもよい。
【0013】
電子輸送材料は、無機金属酸化物を含んでもよい。
【0014】
無機金属酸化物は、ZnO、TiO、WO、SnOからなる群から選ばれてもよい。
【0015】
焼きなましは、約10分間〜約50分間で実施されてもよい。
【0016】
電子輸送層は、約10nm〜約100nmである厚さを有し、複数の量子ドットは、約2nm〜約20nmである平均直径を有してもよい。
【0017】
上記方法は、量子ドット発光層の電子輸送層から遠い側に正孔輸送材料が含まれる正孔輸送層を形成する工程をさらに含み、正孔輸送材料は、4,4’−シクロへキシレンビス[N,N−ビス(4−トリル)アニリン](TAPC)、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPB)、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれてもよい。
【0018】
上記方法は、正孔輸送層の量子ドット発光層から遠い側に正孔注入材料が含まれる正孔注入層を形成する工程をさらに含み、正孔注入材料は、MoO、CuPc、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸塩(PEDOT:PSS)からなる群から選ばれてもよい。
【0019】
上記方法は、正孔注入層の正孔輸送層から遠い側に第1電極層を形成する工程と、複合層を形成する前、ベース基板上に第2電極層を形成する工程と、をさらに含み、第2電極層は、複合層のベース基板に近い側に形成されてもよい。
【0020】
別の態様では、本発明は、前述の方法で製造される量子ドット発光ダイオードを提供する。
【0021】
別の態様では、本発明は、前述の量子ドット発光ダイオードを備える表示パネルを提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、前述の表示パネルを備える表示装置を提供する。
【0023】
以下の図面は、単なる開示された各実施形態を説明するための例であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】いくつかの実施形態における量子ドット発光ダイオードの構造を示す図である。
図2】いくつかの実施形態における例示的なパルスレーザー堆積工程を示す図である。
図3】いくつかの実施形態における量子ドット発光ダイオードを製造するための製造工程を示す図である。
図4】いくつかの実施形態における量子ドット発光ダイオードを製造するための製造工程を示す図である。
図5】いくつかの実施形態における量子ドット発光ダイオードを製造するための製造工程を示す図である。
図6】いくつかの実施形態における量子ドット発光ダイオードを製造するための製造工程を示す図である。
図7】いくつかの実施形態における量子ドット発光ダイオードを製造するための製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、いくつかの実施形態を参照しながらより具体的に説明する。なお、以下で説明される実施形態は、例示または説明を目的とするものに過ぎず、本発明の構成などについても網羅や限定することを意図しない。
【0026】
半導体量子ドットは、調整可能な発光波長、狭い発光スペクトル、高い発光安定性などのいくつかの独自の特徴を持っているので、近年、研究開発の焦点となる。量子ドット発光を利用した表示パネルは、高い発光効率、より広い色の範囲、より忠実な色再現、より低いエネルギー消費などの長所を持っている。従来の半導体量子ドットは、主にカドミウムベースの半導体材料を利用し、コアシェル構造を有する。その材料および複雑な製造工程に伴う高い製造コストのために、半導体量子ドットを利用した表示パネルに関する工業生産には限界がある。有機・無機ペロブスカイト材料は、コストが低い、キャリア移動度が高い、吸収係数が高い、太陽電池への応用も見出されている。しかしながら、有機・無機ペロブスカイト材料は、その自然欠陥に起因して、非常に低い蛍光量子効率(例えば、20%未満)および低い安定性を有する。しかも、従来の量子ドット構造は、一般的に、複雑な製造工程または非常に有毒な中間体副生成物を伴うホットインジェクション法によって形成されるので、環境に悪影響を及ぼし、製造コストが高くなる。
【0027】
本発明には、無機ペロブスカイト材料を利用して量子ドット発光ダイオードを製造する可能性が検討される。本発明によれば、堆積をベースとする工程は、優れた特性を有する量子ドット発光層を形成するように用いられる。該工程は、量子ドット発光ダイオードの製造工程をよく簡単化させるとともに、環境への悪影響を軽減させる。従って、本発明は、特に、従来技術の制限や欠点による複数の問題を実質的に解決するように、量子ドット発光ダイオード、それを備えた表示パネルおよび表示装置、並びに、それらの製造方法を提供する。一態様によれば、本発明は、電子輸送材料と無機ペロブスカイト材料とが含まれる複合層を有する量子ドット発光ダイオードを提供する。いくつかの実施形態では、量子ドット発光ダイオードは、ベース基板上の電子輸送層と、電子輸送層のベース基板から遠い側にある量子ドット発光層と、を含む。量子ドット発光層は、無機ペロブスカイト材料を含有する。電子輸送層は、電子輸送材料を含有する。また、電子輸送材料は、無機金属酸化物を含んでもよい。無機金属酸化物は、ZnO、TiO、WO、SnOからなる群から選ばれてもよい。複合層における、電子輸送材料に対する無機ペロブスカイト材料の体積比は、約1:100〜約1:10、例えば、約1:100〜約1:50、約1:50〜約1:25、約1:25〜約3:50、約3:50〜約1:10などであってもよい。複合層における、電子輸送材料に対する無機ペロブスカイト材料の体積比は、約5:95であってもよい。
【0028】
本明細書で使用される「無機ペロブスカイト材料」という用語は、ペロブスカイト型結晶構造(例えば、カルシウム酸化チタンと同じ型の結晶構造)を有する任意の無機材料となり得る。該材料は、ペロブスカイト結晶相に実際にあるかどうかに関係なく、そのような結晶層に存在してもよい。無機ペロブスカイト材料は、一般的な化学量論AMX3を有してもよく、ただし、「A」および「M」がカチオンであり、「X」がアニオンである。カチオン「A」および「M」は、様々な電荷を持つ。アニオンはそれと同一または異なる。ペロブスカイト材料は、同一または異なる3個または4個のアニオンと、2つまたは3つの正電荷を帯びている2個の金属原子とを有する構造を含んでもよい。無機ペロブスカイト材料は、CsPbXを含んでもよく、ただし、XはCl、Br、I、またはそれらの任意の組み合わせから選ばれる3つのハロゲン化物アニオンでる。
【0029】
いくつかの実施形態では、量子ドット発光層は、電子輸送層上にある複数の量子ドットを含む。図1は、いくつかの実施形態における量子ドット発光ダイオードの構造を示す図である。図1に示すように、量子ドット発光層3における複数の量子ドットは、電子輸送層2の表面に均一に分布している。ホットインジェクション法によって製造されてきた従来の量子ドット発光ダイオードに比べると、本発明の量子ドット発光ダイオードは、優れた特性を持っている。例えば、本発明の量子ドット発光ダイオードにおける量子ドット発光層は、焼きなまし過程で、固固分離によって電子輸送層の表面上に自己組織化される。従って、量子ドットは、接触面積が大きく、電子輸送層との接触特性が良好であるので、電子輸送効率が高くなる。量子ドットは、約2nm〜約20nm、例えば、約5nm〜約10nmである平均直径を有してもよい。電子輸送層は、約10nm〜約100nm、例えば、60nmである厚さを有してもよい。
【0030】
図1に示すように、本実施形態における量子ドット発光ダイオードは、量子ドット発光層3の電子輸送層2から遠い側にある正孔輸送層4と、
正孔輸送層4の量子ドット発光層3から遠い側にある正孔注入層5と、正孔注入層5の正孔輸送層4から遠い側にある第1電極層6と、電子輸送層2の量子ドット発光層3から遠い側にある第2電極層1と、を含む。
【0031】
正孔輸送層を形成するには、種々の適切な正孔輸送材料が用いられる。適切な正孔輸送材料の例としては、4,4’−シクロへキシレンビス[N,N−ビス(4−トリル)アニリン](TAPC)、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPB)、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらには限定されない。正孔輸送層は、任意の適切な厚さをすることができる。正孔輸送層は、TCTAからなるとともに、厚さが約5nm〜約20nm、例えば、約10nmであってもよい。また、正孔輸送層は、TAPCからなるとともに、厚さが約20nm〜約100nm、例えば、約50nmであってもよい。また、正孔輸送層は、TAPCサブレイヤとTCTAサブレイヤが含まれる積層体であってもよく、ただし、TAPCサブレイヤの厚さが約20nm〜約80nm、例えば、約40nmであり、TCTAサブレイヤの厚さが約5nm〜約20nm、例えば、約10nmである。また、正孔輸送層は、NPBからなるとともに、厚さが約20nm〜約100nm、例えば、約50nmであってもよい。また、正孔輸送層は、NPBサブレイヤとTCTAサブレイヤが含まれる積層体であってもよく、ただし、NPBサブレイヤの厚さが約20nm〜約80nm、例えば、約40nmであり、TCTAサブレイヤの厚さが約5nm〜約20nm、例えば、約10nmである。また、正孔輸送層は、PVKからなるとともに、厚さが約10nm〜約60nm、例えば、約30nmであってもよい。
【0032】
正孔注入層を形成するには、種々の適切な正孔注入材料が用いられる。適切な正孔注入材料の例としては、MoO、CuPc、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸塩(PEDOT:PSS)が挙げられるが、これらには限定されない。正孔注入層は、任意の適切な厚さをすることができる。正孔注入層は、MoOからなり、厚さが約20nm〜約80nm、例えば、約40nmであってもよい。
【0033】
第1電極層および第2電極層を形成するには、種々の適切な電極材料が用いられる。適切な電極材料の例としては、インジウムスズ酸化物、フッ化リチウム、アルミニウムが挙げられるが、これらに限定されない。電極は、任意の適切な厚さをすることができる。電極層は、フッ化リチウムからなり、厚さが約0.5nm〜約2nm、例えば、約1nmであってもよい。また、電極層は、アルミニウムからなり、厚さが約20nm〜約200nm、例えば、約100nmであってもよい。また、電極層は、インジウムスズ酸化物からなり、厚さが約40nm〜約150nm、例えば、約70nmであってもよい。
【0034】
本発明に係る量子ドット発光ダイオードは、優れた特性を実現するため、新たな方法によって製造される。いくつかの実施形態では、量子ドット発光ダイオードは、ベース基板上に電子輸送材料と無機ペロブスカイト材料を共堆積させて、電子輸送材料と無機ペロブスカイト材料が含まれる複合層を形成する工程を含む方法によって製造される。
【0035】
電子輸送材料と無機ペロブスカイト材料を共堆積させるには、様々な適切な堆積方法が用いられる。適切な堆積方法の例としては、パルスレーザー堆積、電子ビーム堆積、陰極アーク堆積などが挙げられるが、これらには限定されない。
【0036】
図2は、いくつかの実施形態における例示的なパルスレーザー堆積工程を示す図である。図2に示すように、パルスレーザー堆積装置は、回転軸受23に、無機ペロブスカイト材料ターゲット21(例えば、CsPbXターゲット)と電子輸送材料ターゲット22(例えば、ZnOターゲット)が別々に設置された真空チャンバ20を含む。ベース基板24(例えば、ベース基板24上に形成された酸化インジウムスズ電極層を有するベース基板)は、真空チャンバ20中の加熱ステージ25に設置される。入射するパルスレーザービーム26は、レーザー出射口27を介して真空チャンバ20に導入される。無機ペロブスカイト材料ターゲット21と電子輸送材料ターゲット22とは、入射するパルスレーザービーム26に曝される。ターゲットがレーザービームに曝されると、そのターゲットは、イオン化され、プラズマプルーム28として放出される。プラズマプルーム28がベース基板24に到達すると、ターゲット材料はベース基板24上に堆積される。
【0037】
図2に示すように、無機ペロブスカイト材料ターゲット21と電子輸送材料ターゲット22とは、異なる露光期間でレーザービームに曝されるように、回転支持部材23に配置される。いくつかの実施例では、無機ペロブスカイト材料ターゲットと電子輸送材料ターゲットとが略同じ堆積速度を維持すると、無機ペロブスカイト材料ターゲットの露光期間と電子輸送材料ターゲットの露光期間との比は、約1:100〜約1:10、例えば、約1:100〜約1:50、約1:50〜約1:25、約1:25〜約3:50、および約3:50〜約1:10に設定されてもよい。無機ペロブスカイト材料ターゲットと電子輸送材料ターゲットとの堆積速度は、例えば、ターゲットへのレーザーパルス周波数またはレーザーエネルギー密度の調整によって維持される。無機ペロブスカイト材料ターゲットと電子輸送材料ターゲットとの堆積速度が実質的同一の速度に維持されると、無機ペロブスカイト材料ターゲットの露光期間と電子輸送材料ターゲットの露光期間との比は、約5:95であってもよい。無機ペロブスカイト材料ターゲットと電子輸送材料ターゲットの露光期間の違いによって、無機ペロブスカイト材料ターゲットと電子輸送材料ターゲットとのベース基板24上に形成される複合層中の比率(例えば、体積百分率または重量百分率)は異なる。回転軸受23の有りまたは無しにする状態での、異なるターゲットによる異なる露光期間を実現するように、多数の代替実施形態は実施可能である。
【0038】
様々な堆積パラメータは、複合層の特定の厚さ、または2種類のターゲットの堆積比を実現するように調整される。これらのパラメータは、例えば、堆積温度、堆積圧力、レーザーパルス周波数、レーザーエネルギー密度、堆積期間などを含む。共堆積は、約300℃〜約700℃、例えば、約450℃〜約700℃、約500℃である堆積温度で実施されてもよい。共堆積は、約50mTorr〜約150mTorr、例えば、約100mTorrである堆積圧力下の酸素雰囲気において実施されてもよい。共堆積は、約5Hz〜約20Hz(例えば、約10Hz)であるレーザーパルス周波数で、および約100mJ/cm〜約270mJ/cm(例えば、約260mJ/cm)であるレーザーエネルギー密度で実施されてもよい。共堆積は、約5分間〜約40分間、例えば、約20分間である堆積期間で実施されてもよい。
【0039】
複合層を形成するには、種々の適切な電極材料が用いられる。いくつかの実施形態では、無機ペロブスカイト材料は、CsPbXを含んでおり、ただし、XはCl、Br、I、またはそれらの任意の組み合わせから選ばれる3つのハロゲン化物アニオンである。いくつかの実施形態では、電子輸送材料は、ZnO、TiO、WO、SnOなどのような無機金属酸化物を含む。ターゲット材料は、単結晶材料またはセラミック材料であってもよい。
【0040】
図3〜7は、いくつかの実施形態における量子ドット発光ダイオードを製造するための製造工程を示す図である。図3に示すように、電子輸送材料と無機ペロブスカイト材料は、(予め堆積された第2電極層1を有する)ベース基板7上に共堆積されて、複合層2Aを形成する。堆積は、上記のように、パルスレーザー堆積工程によって実施されてもよい。このようにして形成した複合層における、電子輸送材料に対する無機ペロブスカイト材料の体積比は、約1:100〜約1:10、例えば、約1:100〜約1:50、約1:50〜約1:25、約1:25〜約3:50、約3:50〜約1:10であってもよい。この複合層における、電子輸送材料に対する無機ペロブスカイト材料の体積比は、約5:95であってもよい。複合層の厚さは、約10nm〜約100nm、例えば、約60nmであってもよい。
【0041】
図4に示すように、本実施形態における方法は、複合層2Aを焼きなまして、複数の量子ドットが含まれる量子ドット発光層3を、電子輸送層2の第2電極層1から遠い側に形成する工程をさらに含む。焼きなまし処理過程において、無機ペロブスカイト材料と電子輸送材料との間には、異なる結晶格子エネルギーおよび2つの結晶の混合による不利な自由エネルギーに起因して相分離が発生する。その結果、複合層2Aにおける無機ペロブスカイト材料は、例えば、相の固固分離によって、複合層2Aの表面上の複数の量子ドットに自己組織化される。このようにして形成した量子ドット発光層3における量子ドットは、電子輸送層2との接触面積が大きくかつ接触特性が良好になるので、電子輸送効率が高くなる。このようにして形成した量子ドットは、約2nm〜約20nm、例えば、約5nm〜約10nmである平均直径を有してもよい。このようにして形成した電子輸送層は、約10nm〜約100nm、例えば、約60nmである厚さを有してもよい。
【0042】
量子ドット発光層と電子輸送層の一定の特性を実現するには、種々の適切な焼きなましパラメータが設定される。焼きなましは、約300℃〜約500℃、例えば、約400℃である焼きなまし温度で実施されてもよい。焼きなましは、約10分間〜約50分間、例えば、約30分間である期間で実施されてもよい。焼きなましは、酸素雰囲気において実施されてもよい。
【0043】
図5に示すように、本実施形態の方法は、量子ドット発光層3の電子輸送層2から遠い側に正孔輸送材料が含まれる正孔輸送層4を形成する工程をさらに含む。正孔輸送層を形成するには、種々の適切な正孔輸送材料が用いられる。適切な正孔輸送材料の例としては、4,4’−シクロへキシレンビス[N,N−ビス(4−トリル)アニリン](TAPC)、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPB)、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらには限定されない。
【0044】
図6に示すように、本実施形態の方法は、正孔輸送層4の量子ドット発光層3から遠い側に正孔注入材料が含まれる正孔注入層5を形成する工程をさらに含む。正孔注入層を形成するには、種々の適切な正孔注入材料が用いられる。適切な正孔注入材料の例としては、MoO、CuPc、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸塩(PEDOT:PSS)が挙げられるが、これらには限定されない。
【0045】
図7に示すように、本実施形態の方法は、正孔注入層5の正孔輸送層4から遠い側に第1電極層6を形成する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、該方法は、複合層2Aを形成する前、ベース基板7上に第2電極層1を形成する工程と、をさらに含む。第2電極層1は、複合層2Aのベース基板7に近い側に形成される。第1電極層および第2電極層を形成するには、種々の適切な電極材料が用いられる。適切な電極材料の例としては、インジウムスズ酸化物、フッ化リチウム、アルミニウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
別の態様では、本発明は、前述の方法によって製造されてきた量子ドット発光ダイオードを提供する。別の態様では、本発明は、前述した、または前述の方法によって製造されてきた量子ドット発光ダイオードを有する表示パネルを提供する。別の態様では、本発明は、前述した表示パネルを有する表示装置を提供する。適切な表示装置の例としては、電子ペーパー、携帯電話、タブレットコンピュータ、テレビジョン、モニタ、ノートパソコン、デジタルフォトアルバム、GPSなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の実施形態について前述した説明は、例示または説明するためのものである。前述した説明は、本発明を網羅すること、または、詳細な形態や例示的実施例に限定することを意図していない。従って、前述した説明は、限定ではなく例示とみなされるべきである。当業者であれば、様々な変形や変更が行えることは明らかであろう。実施形態は、本発明の原理または本発明を実行する最良の態様を説明する目的で提供されたものであり、それにより、当業者にとっては、実際的または意図的な適用に応じて、本発明が様々な実施形態および変更態様として実施することができることは明らかである。本発明の範囲は、添付した特許請求の範囲及びその均等物によって定義されることが意図されており、ここで使用されるすべての用語は特に説明しない限り、それらの最も広くて合理的な意味を表す。従って、「発明」、「本発明」などのような用語は、必ずしも請求の範囲を特定の実施形態に限定するものではない。本発明の実施形態に関する記載は、特に限定する意味ではなく、そのような限定も推測されるべきではない。本発明は、添付した特許請求の範囲の精神や範囲のみによって限定されるものである。また、これらの請求項は、名詞または構成要素が続く「第1」、「第2」などを使用する場合がある。数を特定しない限り、そのような用語は、名称と理解されるべき、構成要素の数量を制限するように解釈されるものではない。上記した利点および効果のいずれかは、すべての実施形態に適用されない場合がある。当業者であれば、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなしに、前述した実施形態に様々な変更を行うことができるのが好ましい。また、本開示における構成要素または部品は、クレームされているかどうかに関係なく、公衆に献呈されたとはいえない。
【符号の説明】
【0048】
1 第2電極層
2 電子輸送層
3 量子ドット発光層
4 正孔輸送層
5 正孔注入層
6 第1電極層
7 ベース基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7