特許第6838035号(P6838035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838035
(24)【登録日】2021年2月15日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】抗微生物組成物及び抗微生物部材
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/20 20060101AFI20210222BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20210222BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20210222BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20210222BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20210222BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20210222BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20210222BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210222BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20210222BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   A01N59/20 Z
   A01N25/04 103
   A01N25/10
   A01P1/00
   A23L5/00 Z
   B32B27/18 F
   C09D5/14
   C09D7/61
   C09D7/63
   C09D201/00
【請求項の数】17
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-215697(P2018-215697)
(22)【出願日】2018年11月16日
(65)【公開番号】特開2020-40935(P2020-40935A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2020年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2018-167973(P2018-167973)
(32)【優先日】2018年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀野 克年
(72)【発明者】
【氏名】大塚 康平
(72)【発明者】
【氏名】横田 晃章
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−57855(JP,A)
【文献】 特開昭63−41408(JP,A)
【文献】 特開平7−138155(JP,A)
【文献】 特開2015−218162(JP,A)
【文献】 特開平8−252302(JP,A)
【文献】 特開平8−299418(JP,A)
【文献】 特開平8−324195(JP,A)
【文献】 特開2013−166705(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/170593(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
A23L 5/00−5/49
B32B 1/00−43/00
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなる抗ウィルス成分と未硬化のバインダ成分とからなり、光触媒を含まず、食品関連施設の抗ウィルス処理に用いられることを特徴とする抗ウィルス性組成物。
【請求項2】
前記バインダ成分は、有機バインダ、無機バインダ及び有機・無機ハイブリッドバインダから選ばれる少なくとも1種以上を含む請求項1に記載の抗ウィルス性組成物。
【請求項3】
前記抗ウィルス性組成物は、重合開始剤を含む請求項1又は2に記載の抗ウィルス性組成物。
【請求項4】
前記重合開始剤は、光重合開始剤を含む請求項3に記載の抗ウィルス性組成物。
【請求項5】
前記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂又は熱硬化性樹脂である請求項2に記載の抗ウィルス性組成物。
【請求項6】
前記電磁波硬化型樹脂は、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項5に記載の抗ウィルス性組成物。
【請求項7】
前記無機バインダは、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル及びケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項2に記載の抗ウィルス性組成物。
【請求項8】
硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなる抗ウィルス成分とバインダ成分とからなり、光触媒を含まず、バインダ硬化物が基材表面に固定されてなり、食品関連施設に用いられることを特徴とする抗ウィルス性部材。
【請求項9】
前記バインダ硬化物は、基材表面に島状に散在しているか、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられてなる請求項8に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項10】
前記バインダ硬化物は、基材表面の10〜95%を被覆している請求項8又は9に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項11】
前記バインダ硬化物は、有機バインダ、無機バインダ及び有機・無機ハイブリッドバインダから選ばれる少なくとも1種以上の硬化物を含む請求項8〜10のいずれか1項に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項12】
前記バインダ硬化物は、重合開始剤を含む請求項8〜11のいずれか1項に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項13】
前記バインダ硬化物は、光重合開始剤を含む請求項8〜12のいずれか1項に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項14】
前記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂又は熱硬化性樹脂である請求項11に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項15】
前記電磁波硬化型樹脂は、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項14に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項16】
前記無機バインダは、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル及びケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項11に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項17】
前記抗ウィルス成分は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認される請求項8〜16のいずれか1項に記載の抗ウィルス性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物組成物及び抗微生物部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体である種々の微生物を媒介とした感染症が短時間で急激に広がる、いわゆる「パンデミック」が問題になっており、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、ノロウィルス、鳥インフルエンザ等のウィルス感染による死者も報告されている。
【0003】
そこで、様々の細菌、ウィルスに対して抗菌・抗ウィルス活性を発揮する抗菌・抗ウィルス剤の開発が活発に行われており、実際に様々な部材に抗菌・抗ウィルス活性を有するPd等の金属や有機化合物からなる抗菌・抗ウィルス剤を含む樹脂等を塗布したり、抗菌・抗ウィルス剤が担持された材料を含む部材を製造することが行われている。
【0004】
特に、抗菌・抗ウィルス活性を有する部材が食品工場や給食施設等の食品関連施設で強く望まれており、例えば、特許文献1には、一般式AO−(L−Men+を有する組成物からなる抗ウィルス剤を食品工場の抗菌・抗ウィルス処理に使用することが開示されている。
上記した一般式AOx−(L−Men+を有する組成物において、AOとして、コロイド状シリカ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化スズ、酸 化亜鉛等が挙げられており、Lとして、ピリジン、メルカプト酪酸、4−メルカプトフェニルボロン酸等が挙げられており、Men+として、AgやCu++等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−505887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る抗菌・抗ウィルス組成物に含まれる、4−メルカプトフェニルボロン酸、ピリジン、メルカプト酪酸等は毒性があり、食品工場の壁面などの抗菌・抗ウィルス処理に使用した場合、壁面から当該物質が脱落しないような処理や上記物質と人体が接触しないような処理が必要となるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、食品工場や給食施設等の食品関連施設において、露出した壁面、天井、床材、食品棚、テーブル、台所、調理台、換気扇等に抗微生物処理を施す場合であっても、脱落防止等の処理が不要な抗微生物組成物及び該抗微生物組成物が用いられた抗微生物部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の抗微生物組成物は、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなる抗微生物成分と未硬化のバインダ成分とからなり、食品関連施設の抗微生物処理に用いられることを特徴とする。
【0009】
本発明の抗微生物部材における、抗微生物とは、抗ウィルス、抗菌、抗カビ、防カビを含む概念である。従って、抗微生物成分とは、抗ウィルス成分、抗菌成分、抗カビ成分、防カビ成分を含む概念であり、抗微生物剤とは、抗ウィルス剤、抗菌剤、抗カビ剤、防カビ剤を含む概念であり、抗微生物組成物とは、抗ウィルス性組成物、抗菌組成物、抗カビ組成物、防カビ組成物を含む概念である。
【0010】
本明細書において、上記抗微生物部材は、抗ウィルス、抗菌、抗カビ及び防カビのうちいずれか1種の活性を示す部材であってもよく、抗ウィルス、抗菌、抗カビ及び防カビのうち、いずれか2種類の活性を示す部材であってもよく、いずれか3種類の活性を示す部材であってもよく、4種類全ての活性を示す部材であってもよい。
本発明の抗微生物部材における抗微生物特性の中で、特に抗菌、抗ウィルスに有効である。
【0011】
本明細書において、抗菌・抗ウィルス性部材は、抗菌活性部材、抗ウィルス活性部材、又は、抗菌活性及び抗ウィルス活性の両方の活性を示す部材を意味するものとする。
本明細書において、抗菌・抗ウィルス性組成物は、抗菌活性組成物、抗ウィルス活性組成物、又は、抗菌活性及び抗ウィルス活性の両方の活性を示す組成物をいうものとする。
【0012】
本明細書において、抗菌・抗ウィルス処理を行うとは、抗菌処理を行うか、抗ウィルス処理を行うか、又は、抗菌処理及び抗ウィルス処理の両方を行うことを意味するものとする。
本明細書において、抗菌・抗ウィルス活性が高いとは、抗菌活性が高いか、抗ウィルス活性が高いか、又は、抗菌活性及び抗ウィルス活性の両方の活性が高いことを意味するものとする。
本明細書において、抗菌・抗ウィルス活性を有するとは、抗菌活性を有するか、抗ウィルス活性を有するか、又は、抗菌活性及び抗ウィルス活性の両方の活性を有することを意味するものとする。
本明細書において、抗菌・抗ウィルス成分は、抗菌活性成分か、抗ウィルス活性成分か、又は、抗菌活性及び抗ウィルス活性の両方の活性を示す成分を意味するものとする。
【0013】
本発明の抗微生物組成物は、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなる抗微生物成分と未硬化のバインダ成分とからなり、上記抗微生物組成物は、抗微生物活性を有する銅イオンを有するので、抗微生物活性が高い組成物となる。
【0014】
また、硫酸銅やグルコン酸銅は、食品添加物として知られており、その他の銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウムも、食品添加物であるので、食品工場や給食施設等の食品関連施設の抗微生物処理に本発明の抗微生物組成物を用いることができ、脱落防止等の処理が不要となる。
【0015】
本発明の抗微生物部材は、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなる抗微生物成分とバインダ成分とからなるバインダ硬化物が基材表面に固定されてなり、食品関連施設に用いられることを特徴とする。
【0016】
本発明の抗微生物部材は、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなる抗微生物成分とバインダ成分とからなるバインダ硬化物が基材表面に固定されており、上記バインダ硬化物は、抗微生物活性を有する銅イオンを含んでいるので、抗微生物活性が高い抗微生物部材を提供することができる。
【0017】
また、抗微生物部材に含まれている硫酸銅やグルコン酸銅は、食品添加物として知られており、その他の銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウムも、食品添加物であるので、基材表面に上記抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固定された抗微生物部材は、食品工場や給食施設等の食品関連施設に用いることができ、脱落防止等の処理が不要となる。
本発明の抗微生物部材としては、食品関連施設の壁面、天井、窓ガラス、トイレ、床材、食品棚、テーブル等が挙げられる。また、本発明の食品関連施設として、食品の調理施設である台所および台所に設置されているシンク、流し台、換気扇も含まれる。
【0018】
本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物は、基材表面の全体に層状に存在してもよく、基材表面に島状に散在しているか、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられていてもよい。
【0019】
本発明の抗微生物部材において、上記バインダ硬化物が基材表面に島状に散在しているか、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられていると、バインダ硬化物が厚くなることがなく、バインダ硬化物の総表面積を大きくすることができ、抗微生物活性が高い抗微生物部材を提供することができる。
【0020】
また、上記バインダ硬化物が基材表面に島状に散在しているか、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられていると、バインダ硬化物により被覆されていない部分が存在するので、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合であっても、意匠等の外観や美観を損ねることがない。
【0021】
さらに、上記バインダ硬化物が基材表面の全体には存在せず、島状に散在しているか、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられていると、上記バインダ硬化物の基材表面との接触面積を小さくすることができ、バインダ硬化物の残留応力や冷熱サイクルにより発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有し、基材から剥がれにくいバインダ硬化物となる。
【0022】
本明細書において、島状とは、基材表面のバインダ硬化物が他のバインダ硬化物と接触しない孤立した状態で存在していることをいう。島状に散在しているバインダ硬化物の形状は特に限定されず、その輪郭を平面視した際、円形、楕円形等の曲線から構成される形状であってもよく、多角形等の形状であってもよく、円形、楕円形等が細い部分を介して繋がり合ったような形状であってもよい。
【0023】
本発明の抗微生物部材では、バインダ硬化物は、基材表面の10〜95%を被覆していることが望ましい。
本発明の抗微生物部材において、バインダ硬化物が基材表面の10〜95%を被覆していると、バインダ硬化物により被覆されていない部分が存在するので、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合であっても、意匠等の外観や美観を損ねることがない。
【0024】
本発明の抗微生物組成物又は抗微生物部材では、上記未硬化のバインダ成分またはバインダ硬化物は、有機バインダ、無機バインダおよび有機・無機ハイブリッドバインダから選ばれる少なくとも1種以上を含む。
上記有機バインダは、熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0025】
本発明の抗微生物組成物又は抗微生物部材では、上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが望ましい。上記電磁波硬化型樹脂は、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0026】
本発明の抗微生物組成物又は抗微生物部材において、上記電磁波硬化型樹脂が、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であると、バインダ硬化物は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
【0027】
本発明の抗微生物組成物又は抗微生物部材では、上記無機バインダは、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル及びケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0028】
本発明の抗微生物組成物又は抗微生物部材において、上記無機バインダが、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル及びケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種であると、抗微生物成分の種類に応じて水を分散媒としたゾル等や有機溶媒を分散媒としたゾルを使い分けることができ、抗微生物成分が良好に分散したバインダ硬化物を形成することができる。
【0029】
本発明の抗微生物組成物又は抗微生物部材において、上記バインダ成分は、無機バインダ及び/又は電磁波硬化型樹脂であると、比較的容易に密着性に優れたバインダ硬化物を、基材表面に形成することができる。
【0030】
本発明の抗微生物組成物又は抗微生物部材では、上記バインダ硬化物は、重合開始剤を含んでいてもよく、特に光重合開始剤を含んでいてもよい。
本発明の抗微生物部材が重合開始剤、特に光重合開始剤を含むことにより、基材表面に存在する電磁波硬化型樹脂に光を照射することにより、容易にバインダ硬化物を形成することができる。
【0031】
また、本発明においては、重合開始剤は、銅に対する還元剤として使用することができる。重合開始剤により、銅(II)を銅(I)に還元することができる。銅(I)の方が銅(II)よりも抗微生物性能が高いため、重合開始剤を共存させることで、銅(I)の量を増やすことができ、抗微生物活性を改善できる。重合開始剤としては、光重合開始剤であることが望ましい。
【0032】
本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物が島状に散在して基材表面に固着している場合は、上記バインダ硬化物の島の基材表面に平行な方向の最大幅は、0.1〜200μmであり、その厚さの平均値は、0.1〜20μmであることが望ましい。
【0033】
本発明の抗微生物部材において、上記バインダ硬化物の島の上記基材の表面に平行な方向の最大幅を0.1〜200μmとすることにより、基材の表面がバインダ硬化物により被覆されていない部分の割合を適切に保つことができ、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合でも、意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができる。
【0034】
本発明の抗微生物部材において、バインダ硬化物の厚さの平均値が0.1〜20μmであると、バインダ硬化物の厚さが薄いので、バインダ硬化物の連続層となりにくく、バインダ硬化物が島状に散在し易くなり、意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができ、高い抗微生物活性を得ることができる。
【0035】
本発明の抗微生物部材において、その厚さの平均値が0.1μm未満のバインダ硬化物を形成するのは技術的に難しく、バインダ硬化物の基材表面の被覆率も低くなってしまい、抗微生物活性が低下してしまう。一方、バインダ硬化物の厚さの平均値が20μmを超えると、バインダ硬化物が厚すぎるので、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合、バインダ硬化物の凹凸により意匠等が見にくくなり、意匠等の外観や美観が損なわれてしまう。
【0036】
本発明の抗微生物部材では、上記抗微生物成分は、銅化合物であって、上記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認されることが望ましい。Cu(I)およびCu(II)が共存していた方が、それぞれ単独に存在している場合に比べて、抗微生物活性が高いからである。
【0037】
本発明の抗微生物部材では、上記抗微生物部材は、抗菌・抗ウィルス性部材であることが望ましい。
本発明の抗微生物部材は、抗ウィルス、抗菌、抗カビ及び防カビの特性を有するが、特に抗菌、抗ウィルスが最も高い活性を有するからである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1(a)は、本発明の抗微生物部材の一実施形態を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、図1(a)に示した抗微生物部材の平面図である。
図2図2は、本発明の抗微生物部材の他の一実施形態を示す光学顕微鏡写真である。
図3図3は、実施例1で得られた抗菌・抗ウィルス性部材を示す光学顕微鏡写真である。
【0039】
(発明の詳細な説明)
まず、本発明の抗微生物組成物について説明する。
本発明の抗微生物組成物は、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなる抗微生物成分と未硬化のバインダ成分とからなり、食品関連施設の抗微生物処理に用いられることを特徴とする。
【0040】
本発明の抗微生物組成物を構成する抗微生物成分は、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなる。
【0041】
上記抗微生物成分は、抗微生物活性を有する銅イオンを有するので、これらの抗微生物成分を含む抗微生物組成物は、抗微生物活性が高い組成物となる。
【0042】
また、硫酸銅やグルコン酸銅は、食品添加物として知られており、その他の銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウムも、食品添加物であるので、食品工場や給食施設等の食品関連施設の抗微生物処理に本発明の抗微生物組成物を用いることができ、脱落防止等の処理が不要となる。
【0043】
本発明の抗微生物組成物は、未硬化のバインダ成分を含んでいる。
上記バインダ成分は、有機バインダ、無機バインダおよび有機・無機ハイブリッドバインダから選ばれる少なくとも1種以上を含むことが望ましい。
上記有機バインダは、熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
有機・無機ハイブリッドバインダとしては、シロキサン結合を形成できるアルコキシシランを使用できる。
【0044】
本発明の抗微生物組成物では、上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが望ましい。上記電磁波硬化型樹脂は、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0045】
上記電磁波硬化型樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0046】
上記アクリル樹脂としては、エポキシ変性アクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂(ウレタン変性アクリレート樹脂)、シリコーン変性アクリレート樹脂等が挙げられる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0047】
上記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂とオキセタン樹脂を組み合わせたもの等が挙げられる。
アルキッド樹脂としては、ポリエステルアルキッド樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
【0048】
本発明の抗微生物組成物が未硬化の上記電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーを含む場合には、上記抗微生物組成物は、さらに光重合開始剤と各種添加剤とを含むことが望ましい。
【0049】
本発明の抗微生物組成物が、未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーと光重合開始剤と各種添加剤とを含む場合、基材表面に形成された抗微生物組成物の層又は液滴に電磁波を照射することにより硬化し、バインダ硬化物を形成することができるからである。
重合開始剤により、銅(II)を銅(I)に還元することができる。銅(I)の方が銅(II)よりも抗微生物性能が高いため、重合開始剤を共存させることで、銅(I)の量を増やすことができ、抗微生物活性を改善できる。重合開始剤としては、光重合開始剤であることが望ましい。
【0050】
上記無機バインダとしては、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル及びケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。上記無機バインダにおけるシリカ等の無機酸化物の含有割合は、固形分換算で2〜80重量%が好ましい。
【0051】
上記無機バインダは、分散媒として、水を用いたものと有機溶媒を用いたものが存在するので、添加する抗微生物成分の種類を考慮して、無機バインダを選択することができ、抗微生物成分が均一に分散した上記抗微生物組成物を得ることができる。
【0052】
上記無機バインダ、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウムから選ばれる少なくとも1種以上の銅源及び、分散媒からなる抗微生物組成物に重合開始剤を添加してもよい。
重合開始剤には、銅に対する還元作用があるため、銅(II)を銅(I)に還元できる。銅(I)の方が、銅(II)よりも抗微生物性能が高いため、還元剤として重合開始剤を添加することで抗微生物活性を向上させることができる。
有機・無機ハイブリッドのバインダは、シロキサン結合を形成するアルコキシシランなどを使用することができる。
【0053】
本発明の抗微生物組成物は、上記抗微生物成分と未硬化のバインダ成分とを含むので、壁面、床、天井、窓ガラス、トイレ、机の天板、木工製品、食品加工・調理設備の構成部材など、食品を取り扱う施設において露出している部分に、上記抗微生物組成物を塗布し、電磁波を照射したり、熱を加えて乾燥・硬化させ、バインダ硬化物の層又は島状、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態で形成することにより、上記部材が抗微生物活性が高い部材となる。
【0054】
また、上記した抗微生物活性を有する部材は、毒性を有さないので、仮にバインダ硬化物が劣化したり、物理的な力によってバインダ硬化物が脱落して食品中に混入しても、人体に対する悪影響がない。
従って、本発明の抗微生物組成物は、上記した食品関連施設の抗微生物処理に好適に用いることができる。
【0055】
次に、本発明の抗微生物部材について説明する。
本発明の抗微生物部材は、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなる抗微生物成分とバインダ成分とからなるバインダ硬化物が基材表面に固定されてなり、食品関連施設に用いられることを特徴とする。
【0056】
本発明の抗微生物部材に用いられる抗微生物成分及びバインダ成分は、上記した抗微生物組成物に含まれる抗微生物成分及びバインダ成分と同様である。
【0057】
本発明の抗微生物部材においては、バインダ硬化物は、基材表面の全体に層状に形成されていてもよく、基材表面に島状に散在、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態で形成されていてもよい。
【0058】
本発明の抗微生物部材では、スプレー等により基材表面に簡単に島状もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態のバインダ硬化物を形成することができる。
バインダ硬化物の基材表面被覆率は、特に限定されるものではないが、基材表面の10〜95%を被覆していることが望ましい。
【0059】
図1(a)は、本発明の抗微生物部材の一実施形態を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、図1(a)に示した抗微生物部材の平面図である。
【0060】
図1に示すように、本発明の抗微生物部材10では、基材11の表面に、抗微生物成分を含むバインダ硬化物12が島状に散在している。
【0061】
図2は、本発明の抗微生物部材の他の一実施形態を示す光学顕微鏡写真である。
図2に示す抗微生物部材では、基材表面が、バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態になるように被覆されている。基材表面の被覆率は84%である。
【0062】
本発明の抗微生物部材で、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が島状に散在していると、バインダ硬化物が厚くなることがなく、広い表面積を確保することができ、抗微生物活性が高い抗微生物部材を提供することができる。
【0063】
また、本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物は、基材表面を島状、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態になるように被覆しており、バインダ硬化物により被覆されていない部分が存在するので、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合であっても、意匠等の外観や美観を損ねることがない。
【0064】
さらに、本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物が基材表面の全体には存在せず、島状に散在、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態となっているため、上記バインダ硬化物の基材表面との接触面積を小さくすることができ、バインダ硬化物の残留応力や冷熱サイクル時に発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有し、基材から剥がれにくいバインダ硬化物となる。
【0065】
本発明の抗微生物部材を構成する基材の材料は、食品関連施設に用いられるものであれば特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。
また、本発明の抗微生物部材を構成する基材となる部材も、食品関連施設に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、建築物内部の内装材、壁材、天井材、窓ガラス、ドア、トイレ、机の天板、木工製品等であってもよく、家具等であってもよく、上記内装材の外、食品関連の用途に用いられる化粧板等であってもよい。また、本発明の食品関連施設には、食品を調理する台所や台所に設置されているシンクや流し台、換気扇も含む。
【0066】
上記内装材、壁材、家具、机の天板として化粧板を使用できる。
上記化粧板は、基板と基板の表面上に積層された表面樹脂層を有する。
上記化粧板に使用する基板は、特に限定されるものではなく、一般的に化粧板に使用されるコア紙やマグネシアセメント等の不燃板等を使用することができる。コア紙は単独でもよく複数枚のコア紙を積層した積層体としてもよい。コア紙の枚数は特に限定されないが、1〜20枚とすることができる。コア紙としては、例えば、水酸化アルミニウム抄造紙を使用することができる。コア紙には、フェノール樹脂を含浸させることができる。また、コア紙とマグネシアセメント不燃板を積層させて基板とすることもできる。
【0067】
マグネシアセメント不燃板は、単独で使用することにより、又は、コア紙の中心部に積層して配置させることにより基板を構成することができる。マグネシアセメント不燃板は、酸化マグネシウム(MgO)と塩化マグネシウム(MgCl)を混合し、さらに骨材と水を加えて混練し、板状に成形することにより製造されるものである。骨材としては、ロックウール、グラスウール等の無機質繊維、ウッドチップ、パルプ等の有機質繊維を用いることができる。また、マグネシアセメント不燃板の強度を高めるため、中間層として網目状等に形成されたガラス繊維層を設けることができる。
【0068】
また、上記化粧板を構成する表層樹脂層に用いることができる樹脂としては、メラミン樹脂、ジアリルフタレート(DAP)樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、グアナミン樹脂などが挙げられる。これらの中では、メラミン樹脂を用いることが望ましい。
【0069】
メラミン樹脂は、透光性などの光学的、視覚的特性を損なうことなく、寸法安定性や靭性を改善した樹脂である。メラミン樹脂としては、メラミン及びその誘導体をモノマーとする樹脂であれば公知のものを採用することができる。また、メラミン樹脂は、単一のモノマーからなる樹脂であってもよく、複数のモノマーからなる共重合体であってもよい。メラミンの誘導体としては、例えば、イミノ基やメチロール基、メトキシメチル基、ブトキシメチル基等のアルコキシメチル基などの官能基を有する誘導体が挙げられる。また、メチロール基を有するメラミン誘導体に低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物をモノマーとして用いることができる。モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等のメチロール基を有する誘導体(以下、「メチロール化メラミン」という。)を架橋剤としてメラミンと共重合させてなるメラミン樹脂を用いることができる。
【0070】
上記表層樹脂層は、模様や色彩が印刷された印刷紙に樹脂が含浸された化粧層であってもよく、填料の量が15%以下で樹脂を含浸した場合には透光性となるオーバーレイ紙に樹脂が含浸されたオーバーレイ層でもよい。表層樹脂層がオーバーレイ層である場合には、化粧層はオーバーレイ層の下に設けられる。
なお、填料とは紙に添加して、白色度や平滑度を調整するための無機粒子(フィラー)であり、炭酸カルシウム、タルク、クレーおよびカオリンから選ばれる少なくとも1種以上が望ましい。填料は無機粒子であるため、填料の含有量は紙の重量と紙を強熱して残存する灰分の重量から計算することができる。
【0071】
次に、本発明の抗微生物部材における電磁波硬化型樹脂を含むバインダ硬化物について説明する。
上記したように、未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーと光重合開始剤と各種添加剤と抗微生物成分とを含んだ抗微生物組成物を用いて基材表面の全体に塗布膜を形成したり、基材表面に液滴を散布した後、電磁波を照射することにより、光重合開始剤は、開裂反応、水素引き抜き反応、電子移動等の反応を起こし、これにより生成した光ラジカル分子、光カチオン分子、光アニオン分子等が上記モノマーや上記オリゴマーを攻撃してモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応が進行し、抗微生物成分及び電磁波硬化型樹脂を含む層状のバインダ硬化物又は島状に散在、もしくは、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態になるようにバインダ硬化物が基材上に固着形成される。
上記バインダ硬化物の製造方法については、後で詳細に説明する。
【0072】
このような電磁波硬化型樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0073】
上記アクリル樹脂としては、エポキシ変性アクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂(ウレタン変性アクリレート樹脂)、シリコン変性アクリレート樹脂等が挙げられる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0074】
上記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂とオキセタン樹脂を組みわせたもの等が挙げられる。
アルキッド樹脂としては、ポリエステルアルキッド樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
【0075】
次に、本発明の抗微生物部材における無機バインダの硬化物について説明する。
上記未硬化の無機バインダと上記抗微生物成分と必要により銅化合物を還元する重合開始剤、各種添加剤や分散媒とを混合して抗微生物組成物を調製し、これを用いて基材表面の全体に塗布膜を形成したり、基材表面に液滴を散布した後、加熱、乾燥させることにより、基材表面に抗微生物成分及び無機バインダを含む層状のバインダ硬化物又は島状、もしくは、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態になるように被覆したバインダ硬化物が形成される。
【0076】
上記無機バインダとしては、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル及びケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。上記無機バインダにおけるシリカ等の無機酸化物の含有割合は、固形分換算で2〜80重量%が好ましい。
上記無機バインダは、分散媒として、水を用いたものと有機溶媒を用いたものが存在するので、添加する抗微生物成分の種類を考慮して、無機バインダを選択することができ、抗微生物成分が均一に分散した上記抗微生物組成物を得ることができる。
【0077】
本発明の抗微生物部材では、島状にバインダ硬化物が基材表面に固着形成されている場合は、バインダ硬化物の島の基材表面に平行な方向の最大幅は、0.1〜200μmであり、その厚さの平均値は、0.1〜20μmであることが望ましい。
本発明の抗微生物部材において、島状のバインダ硬化物の厚さの平均値が0.1〜20μmであると、バインダ硬化物の厚さが薄いので、バインダ硬化物の連続層となりにくく、バインダ硬化物が島状に散在し易くなり、意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができ、高い抗微生物活性を得ることができる。
また、島状のバインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅を0.1〜200μmとすることにより、基材の表面がバインダ硬化物により被覆されていない部分の割合を適切に保つことができ、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合でも、意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができる。
上記バインダ硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅やその厚さの平均値は、走査型顕微鏡、レーザー顕微鏡を用いることにより、測定することができる。
具体的には、画像解析・画像計測ソフトウェアを備えた走査型顕微鏡やレーザー顕微鏡を用いることにより、又は、走査型顕微鏡、レーザー顕微鏡で得られた画像を画像解析・画像計測ソフトウェアを用いて画像解析等を行うことにより、上記したバインダ硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅やその厚さの平均値を求めることができる。
【0078】
本発明の抗微生物部材によれば、食品関連施設に用いられる建築物内部の内装材、壁材、天井材、窓ガラス、ドア、トイレ、机の天板、木工製品等や家具等、食品関連の用途に用いられる化粧板等に抗微生物性を付与することができ、抗微生物活性が高い抗微生物部材となる。また、食品を調理するための台所、台所のシンク、流し台、換気扇などに抗ウィル性を付与することもできる。
さらに、バインダ硬化物が基材の表面に固着された抗微生物部材では、食品関連施設に用いられる建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、ドア、トイレ、台所用品、家具等や、種々の用途に用いられる化粧板等に、表面に形成されたパターン、色彩、意匠、色調等を変えることなく、抗微生物性を付与することができ、抗微生物活性が高い抗微生物部材となる。
【0079】
次に、上記した抗微生物部材の製造方法について説明する。
まず、バインダとして電磁波硬化型樹脂を用い、基材表面に島状、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態のバインダ硬化物を形成する場合について説明する。
上記抗微生物部材を製造する際には、まず、基材の表面に、抗微生物成分と未硬化の電磁波硬化型樹脂と分散媒と重合開始剤とを含む抗微生物組成物を散布する散布工程を行い、続いて上記散布工程により散布された上記抗微生物組成物を乾燥させて上記分散媒を除去する乾燥工程を行い、最後に上記乾燥工程で分散媒を除去した上記抗微生物組成物中の上記未硬化の電磁波硬化型樹脂に電磁波を照射して上記電磁波硬化型樹脂を硬化させる硬化工程を行い、基材の表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が島状に散在、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態の抗微生物部材を得ることができる。
【0080】
(1)散布工程
本発明の抗微生物部材を製造する際には、まず、散布工程として、基材の表面に、抗微生物成分と未硬化の電磁波硬化型樹脂と分散媒と重合開始剤とを含む抗微生物組成物を散布する。
【0081】
散布の対象となる基材の材料は、食品関連施設に用いられるものであれば特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。
また、基材となる部材も、食品関連施設に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、建築物内部の内装材、壁材、天井材、窓ガラス、ドア、トイレ、机の天板、木工製品等であってもよく、家具等であってもよく、上記内装材の外、食品関連の用途に用いられる化粧板等であってもよい。また、本発明の食品関連施設には、食品を調理する台所や台所に設置されているシンクや流し台、換気扇も含む。
【0082】
上記抗微生物成分としては、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。
【0083】
上記電磁波硬化型樹脂は、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0084】
上記分散媒の種類は特に限定されるものではないが、安全性、安定性を考慮した場合にはアルコール類や水を使用する事が好ましい。アルコール類としては、粘性を下げる事を考慮して、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。これらのアルコールのなかでは、安全性が高く、粘度が高くなりにくいエチルアルコールが好ましく、アルコールと水との混合液が望ましい。
【0085】
上記重合開始剤は、具体的にはアルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0086】
上記アルキルフェノン系の重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル-プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホニル)フェニル]−1−ブタノン等が挙げられる。
【0087】
アシルフォスフィンオキサイド系の重合開始剤としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0088】
分子内水素引き抜き型の重合開始剤としては、例えば、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、オキシフェニルサクサン、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルトオキシフェニル酢酸と2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルとの混合物等が挙げられる。
【0089】
オキシムエステル系の重合開始剤としては、例えば、1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0090】
上記抗微生物組成物中の抗微生物成分の含有割合は、2.0〜30.0重量%が望ましく、未硬化の電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)の含有割合は、15〜40重量%が望ましく、分散媒の含有割合は、30〜80重量%が望ましい。
【0091】
上記抗微生物組成物中には、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着促進剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、消泡剤等が配合されていてもよい。
【0092】
上記抗微生物組成物を調製する際には、分散媒に抗微生物成分とモノマー若しくはオリゴマーと重合開始剤を添加した後、ミキサー等で充分に攪拌し、抗微生物成分、未硬化の電磁波硬化型樹脂等、重合開始剤が均一な濃度で分散する組成物とした後、散布することが望ましい。
【0093】
本明細書において、散布とは、上記抗微生物組成物を、分割された状態で基材表面に付着させることをいう。
上記散布方法としては、例えば、スプレー法、二流体スプレー法、静電スプレー法、エアロゾル法等が挙げられる。塗布用のバーコーター、アプリケーター等の塗布冶具を用いて抗微生物組成物を膜状に塗布してもよい。
【0094】
本発明において、スプレー法とは、高圧の空気などのガスや機械的な運動(指やピエゾ素子など)用いて抗微生物組成物を霧の状態で噴霧し、基材表面に上記抗微生物組成物の液滴を付着させることをいう。
本発明において、二流体スプレー法とは、スプレー法の一種であり、高圧の空気などのガスと抗微生物組成物とを混合した後、ノズルから霧の状態で噴霧し、基材表面に上記抗微生物組成物の液滴を付着させることをいう。
本発明において、静電スプレー法とは、帯電した抗微生物組成物を利用する散布方法であり、上記したスプレー法により抗微生物組成物を霧の状態で噴霧するが、上記抗微生物組成物を霧状にするための方式には、上記抗微生物組成物を噴霧器で噴霧するガン型と、帯電した抗微生物組成物の反発を利用した静電霧化方式があり、さらに、ガン型には帯電した抗微生物組成物を噴霧する方式と、噴霧した霧状の抗微生物組成物に外部電極からコロナ放電で電荷を付与する方式とがある。霧状の液滴は、帯電しているため、基材表面に付着し易く、良好に上記抗微生物組成物を、細かく分割された状態で基材表面に付着させることができる。
本発明において、エアロゾル法とは、金属の化合物を含む抗微生物組成物を物理的及び化学的に生成した霧状のものを対象物に吹き付ける手法である。
【0095】
上記散布工程により、抗微生物成分と未硬化の電磁波硬化型樹脂と分散媒と重合開始剤とを含む抗微生物組成物が基材表面に島状に散在した状態となる。
【0096】
(2)乾燥工程
上記散布工程により基材の表面に散布された抗微生物成分と未硬化の電磁波硬化型樹脂と分散媒と重合開始剤とを含む抗微生物組成物を乾燥させ、分散媒を蒸発、除去し、抗微生物成分を含むバインダ硬化物を基材表面に仮固定させるとともに、バインダ硬化物の収縮により、抗微生物成分をバインダ硬化物の表面から露出させることができる。乾燥条件としては、60〜100℃、0.5〜5.0分が望ましい。
【0097】
(3)硬化工程
上記した抗微生物部材を製造する際には、硬化工程として、上記乾燥工程で分散媒を除去した抗微生物組成物中の上記未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマーやオリゴマーに電磁波を照射して上記電磁波硬化型樹脂を硬化させ、バインダ硬化物とする。
本発明の抗微生物部材の製造方法において、未硬化の電磁波硬化型樹脂に照射する電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が望ましい。
また、上記電磁波は、光重合開始剤を励起して、銅化合物を還元する働きをもつ。このため、銅(II)を還元して銅(I)の量を増やして抗微生物活性を高くすることができる。
【0098】
本発明の抗微生物部材では、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))は、0.5〜50であることが望ましい。
また、Cu(I)の銅は、Cu(II)の銅と比較して抗微生物性により優れているため、第1の本発明の抗微生物部材において、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.0〜4.0であると、より抗微生物性に優れた抗微生物部材となる。
【0099】
これらの工程により、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が島状に散在、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態で固着形成でき、本発明の抗微生物部材を製造することができる。
【0100】
上記抗微生物組成物中には、上記した重合開始剤が添加されているので、電磁波を照射することにより未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応等が進行し、銅化合物を含むバインダ硬化物が形成される。
【0101】
上記バインダ硬化物の基材表面への被覆率は、抗微生物組成物中の分散媒の濃度、重合開始剤の濃度、抗微生物成分の濃度等や散布の圧力、散布時間等を操作することにより、調整することができる。バインダ硬化物が基材表面の10〜95%を被覆するように、抗微生物部材を製造することにより、バインダ硬化物が厚くなることがなく、広い表面積を確保することができ、抗微生物活性が高い抗微生物部材を提供することができる。
例えば、スプレーガンを用いて噴射する場合には、スプレーガンの圧力やスプレー時間、を変化させることにより、バインダ硬化物の表面被覆率を調整することができる。
【0102】
バインダ成分として電磁波硬化型樹脂を用い、基材表面の全体に層状のバインダ硬化物を形成する場合には、上記した散布工程の代わりに、例えば、スプレーコート、ローラーコート、静電塗装、インクジェット、ハケ塗り、電着塗装等の方法により抗微生物組成物の塗布層を基材表面の全体に形成する。この後は、上述のバインダ硬化物の製造方法と同様に、乾燥工程及び硬化工程を行えばよい。
【0103】
次に、バインダとして、無機バインダを用い、基材表面に島状もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態のバインダ硬化物を形成する場合について説明する。
上記抗微生物部材を製造する際には、まず、基材の表面に、抗微生物成分と無機バインダと分散媒とを含む抗微生物組成物を散布する散布工程を行い、続いて上記散布工程により散布された上記抗微生物組成物を乾燥させて上記分散媒を除去するとともに、抗微生物組成物を硬化させる乾燥・硬化工程を行い、基材の表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が島状に散在、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在した状態で基材表面に固着している抗微生物部材を得ることができる。
【0104】
本発明においては、無機バインダ、銅化合物および分散媒からなる抗微生物組成物に重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、光重合開始剤であることが望ましい。重合開始剤により、銅(II)を銅(I)に還元することができる。銅(I)の方が銅(II)よりも抗微生物性能が高い。
【0105】
(1)散布工程
本発明の抗微生物部材を製造する際には、まず、散布工程として、基材の表面に、抗微生物成分と無機バインダと分散媒とを含む抗微生物組成物を散布する。
【0106】
散布の対象となる基材の材料は、食品関連施設に用いられるものであれば特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。
また、基材となる部材も、食品関連施設に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、建築物内部の内装材、壁材、天井材、窓ガラス、ドア、トイレ、机の天板、木工製品等であってもよく、家具等であってもよく、上記内装材の外、食品関連の用途に用いられる化粧板等であってもよい。また、本発明の食品関連施設には、食品を調理する台所や台所に設置されているシンクや流し台、換気扇も含む。
【0107】
上記抗微生物成分としては、硫酸銅、グルコン酸銅、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。
【0108】
上記無機バインダは、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル及びケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0109】
上記分散媒の種類は特に限定されるものではないが、アルコール類や水を使用する事が好ましい。アルコール類としては、粘性を下げる事を考慮して、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
【0110】
上記抗微生物組成物中の抗微生物成分の含有割合は、2〜30重量%が望ましく、無機バインダの含有割合は、15〜60重量%が望ましく、分散媒の含有割合は、30〜80重量%が望ましい。この場合、上記抗微生物組成物中のシリカ等の無機酸化物の含有割合は、5〜20重量%となる。
【0111】
上記抗微生物組成物中には、必要に応じて、銅化合物を還元する重合開始剤、pH調整剤、接着促進剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、消泡剤等が配合されていてもよい。
上記抗微生物組成物を調製する際には、分散媒に抗微生物成分、無機バインダ等を添加した後、ミキサー等で充分に攪拌し、抗微生物成分、無機バインダ等が均一な濃度で分散する組成物とした後、直ちに散布することが望ましい。
【0112】
上記散布方法としては、例えば、スプレー法、二流体スプレー法、静電スプレー法、エアロゾル法等が挙げられる。また、ローラーや刷毛を用いてもよい。
本発明において、スプレー法とは、高圧の空気などのガスや機械的な運動(指やピエゾ素子など)用いて抗微生物組成物を霧の状態で噴霧し、基材表面に上記抗微生物組成物の液滴を付着させることをいう。
本発明において、二流体スプレー法とは、スプレー法の一種であり、高圧の空気などのガスと抗微生物組成物とを混合した後、ノズルから霧の状態で噴霧し、基材表面に上記抗微生物組成物の液滴を付着させることをいう。
本発明において、静電スプレー法とは、帯電した抗微生物組成物を利用する散布方法であり、上記したスプレー法により抗微生物組成物を霧の状態で噴霧するが、上記抗微生物組成物を霧状にするための方式には、上記抗微生物組成物を噴霧器で噴霧するガン型と、帯電した抗微生物組成物の反発を利用した静電霧化方式があり、さらに、ガン型には帯電した抗微生物組成物を噴霧する方式と、噴霧した霧状の抗微生物組成物に外部電極からコロナ放電で電荷を付与する方式とがある。霧状の液滴は、帯電しているため、基材表面に付着し易く、良好に上記抗微生物組成物を、細かく分割された状態で基材表面に付着させることができる。
本発明において、エアロゾル法とは、金属の化合物を含む抗微生物組成物を物理的及び化学的に生成した霧状のものを対象物に吹き付ける手法である。
また、ローラーや刷毛で塗布してもよい。
【0113】
上記散布工程により、抗微生物成分と無機バインダと分散媒とを含む抗微生物組成物が基材表面に固着した状態となる。
【0114】
(2)乾燥・硬化工程
上記散布工程により散布された抗微生物成分と無機バインダと分散媒とを含む抗微生物組成物を乾燥させ、分散媒を蒸発、除去することにより硬化させ、抗微生物成分を含むバインダ硬化物を基材表面に固定させる。乾燥条件としては、20〜100℃、0.5〜5.0分が望ましい。
【0115】
上記バインダ硬化物の基材表面への被覆率は、抗微生物組成物中の抗微生物成分の濃度、分散媒の濃度等や散布の圧力、塗液の噴出速度、塗工時間等を操作することにより、調整することができる。
スプレーガンを用いて噴射する場合は、スプレーガンのエアー圧力やスプレー塗布幅、スプレーガンの移動速度、塗液の噴出速度、塗布距離を変化させることにより、バインダ硬化物の被覆率を調整することができる。
【0116】
また、本発明において、無機バインダ、硫酸銅やグルコン酸銅、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウムから選ばれる少なくとも1種以上の銅源、及び、分散媒からなる抗微生物組成物に重合開始剤を添加した抗微生物組成物を用いた場合は、乾燥硬化前後に、電磁波を照射することが望ましい。
上記電磁波は、光重合開始剤を励起して、銅化合物を還元する働きをもつ。このため、銅(II)を還元して銅(I)の量を増やして抗微生物活性を高くすることができる。
電磁波としては、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が望ましい。
【0117】
本発明の抗微生物部材では、上記抗微生物成分は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認されることが望ましい。Cu(I)およびCu(II)が共存していた方が、それぞれ単独に存在している場合に比べて、抗ウィルス活性が高いからである。
【0118】
本発明の抗微生物部材では、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))は、0.5〜50であることが望ましい。
また、Cu(I)の銅は、Cu(II)の銅と比較して抗微生物性により優れているため、第1の本発明の抗微生物部材において、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.0〜4.0であると、より抗微生物性に優れた抗微生物部材となる。
【0119】
バインダ成分として無機バインダを用い、基材表面の全体に層状のバインダ硬化物を形成する場合には、上記した散布工程の代わりに、例えば、ローラーコート、静電塗装、インクジェット、ハケ塗り、電着塗装等の方法により抗微生物組成物の塗布層を基材表面の全体に形成する。この後は、上述のバインダ硬化物の製造方法と同様にして、乾燥工程及び硬化工程を行えばよい。
【実施例】
【0120】
(実施例1)
(1)硫酸銅の濃度が2.2wt%になるように、硫酸銅(II)・5水和物粉末(富士フイルム和光純薬社製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。電磁波硬化樹脂含有液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)を重量比98:2で混合し、ホモジナイザーを用い、8000rpmで30分間撹拌して調製した。上記硫酸銅水溶液と電磁波硬化樹脂含有液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗ウィルス性組成物を調製した。
なお、IGM社製のOmnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンとベンゾフェノンとの混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶であり、紫外線により還元力を発現する。
【0121】
(2)ついで、300mm×300mmの大きさの鏡面仕上げしたSUS304板上に、分散媒を含んだ状態で121.6g/mに相当する抗ウィルス性組成物を0.1MPaのエアー圧力でスプレーガン(明治機械製作所製 FINER SPOT G12)を用いて霧状に散布し、抗ウィルス性組成物の液滴をガラス板表面に島状に散在させた。
【0122】
(3)この後、SUS304板を80℃で1分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cmの照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材であるSUS304板表面に銅化合物を含むバインダ硬化物が島状に散在する抗菌・抗ウィルス性部材を得た。
【0123】
また、以下の方法で、実施例1で得られたバインダ硬化物に含まれる銅化合物に関し、Cu(I)とCu(II)のイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))を測定した。その結果、実施例1では、Cu(I)/Cu(II)=0.4であった。また、グルコン酸銅を用いた実施例2では、Cu(I)/Cu(II)=0.6であった。
硫酸銅(I)は、一般に水と反応したり、熱により不均化反応が進行して、Cu(0)と硫酸銅(II)を生成してしまうが、本実施例では、バインダ硬化物中に、硫酸銅(I)と硫酸銅(II)の共存を実現しており、Cu(II)に比べて、高い抗ウィルス性能が得られる。
【0124】
(Cu(I)/Cu(II)の測定試験)
Cu(I)とCu(II)のイオンの個数の比率は、X線光電子分光分析法(XPS分析法)により計測した。測定条件は以下の通り。
・装置:アルバックファイ製 PHI 5000 Versa probeII
・X線源:Al Kα 1486.6eV
・検出角:45°
・測定径:100μm
・帯電中和:有り
−ワイドスキャン
・測定ステップ:0.8eV
・pass energy:187.8eV
−ナロースキャン
・測定ステップ:0.1eV
・pass energy:46.9eV
測定時間は5分で、Cu(I)のピーク位置は、932.5eV ±0.3eV、Cu(II)のピーク位置は933.8eV ±0.3 eVであり、それぞれのピークの面積を積分して、その比率からCu(I)/Cu(II)を得た。
【0125】
(実施例2)
2.2wt%の硫酸銅を含む水溶液に代えて、4.0wt%のグルコン酸銅(II)を含む水溶液を用いて抗ウィルス性組成物を調製するほかは、実施例1と同様にして、銅化合物を含むバインダ硬化物が島状に散在する抗菌・抗ウィルス性部材を得た。
【0126】
(実施例3)
2.2wt%の硫酸銅を含む水溶液に代えて、28.0wt%の銅クロロフィルを含む水溶液を用いて抗菌・抗ウィルス性組成物を調製するほかは、実施例1と同様にして、銅化合物を含むバインダ硬化物が島状に散在する抗菌・抗ウィルス性部材を得た。
【0127】
(実施例4)
2.2wt%の硫酸銅を含む水溶液に代えて、6.4wt%の銅クロロフィリンナトリウムの水溶液を用いて抗ウィルス性組成物を調製するほかは、実施例1と同様にして、銅化合物を含むバインダ硬化物が島状に散在する抗菌・抗ウィルス性部材を得た。
【0128】
(抗ウィルス性部材の形状及びバインダ硬化物の分散状態の評価)
得られた抗菌・抗ウィルス性部材について、金属顕微鏡(Nikon製 OPTIPHOT)で写真を撮影した。図3は、実施例1で得られた抗菌・抗ウィルス性部材を示す光学顕微鏡写真(100倍)である。基材であるSUS304板表面にバインダ硬化物が島状に散在していることが分かる。
【0129】
実施例1〜4で作製した抗菌・抗ウィルス性部材(SUS304板)の抗ウィルス性を評価するために、JIS R1756 可視光応答形光触媒材料の抗ウィルス性試験方法を改変した手法により抗ウィルス性に関する測定を行った。改変点は、「4時間の1000ルクス光照射」を「室内蛍光灯下(300ルクス程度)での放置」とした点である。測定結果は、大腸菌に対して不活化されたウィルス濃度で表す。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用した。ウィルス不活度とは、バクテリオファージを用いた抗ウィルス性試験で、ファージウィルスQβ濃度:830万個/ミリリットルを用いて、大腸菌に感染することができるウィルスの濃度を測定することにより、大腸菌に対して不活化されたウィルスの濃度を算出した結果である。すなわち、ウィルス不活度は、ファージウィルスQβ濃度に対して、大腸菌に感染することができない濃度の度合いであり、(ファージウィルスQβ濃度−大腸菌に感染することができるウィルスの濃度)/(ファージウィルスQβ濃度)×100で算出することができる。ウィルス不活度の値が高いほど(ウィルス不活性度の絶対値が高い程)、抗ウィルス活性が高いといえる。
【0130】
また、上記したように、ウィルス不活度からウィルス不活性度を計算することができる。
ウィルス不活性度とは、元のウィルスの量を1とし、ウィルス失活処理後に失活したウィルスの相対量をXとした場合に、常用対数log(1−X)で示される数値(負の値で示される)であり、絶対値が大きい程ウィルスを不活性化する能力が高い。例えば、元のウィルスの99.9%が失活した場合、ウィルス不活性度は、log(1−0.999)=−3.00で表記される。なお、ウィルス失活処理前の全ウィルス量に対するウィルス失活処理後に失活したウィルス量の割合を%で表したもの(上記の場合、99.9%)をウィルス不活度という。上記のようにして、ウィルス不活度からウィルス不活性度を求めた。その結果を表1に示す。なお、このウィルス不活性度を抗菌・抗ウィルス活性値とする。
【0131】
(黄色ブドウ球菌を用いた抗菌性評価)
黄色ブドウ球菌を用いた抗菌性評価を、以下のように実施した。
(1)実施例1〜4で得られた抗菌・抗ウィルス性部材(SUS304板)を、50mm角の正方形に切り出した試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験菌液(菌数2.5×10〜10×10/mL)を0.4mL接種する。
試験菌液は、培養器中で温度35±1℃で16〜24時間前培養した培養菌を、さらに斜面培地に移植して、培養器中で温度35±1℃で16〜20時間前培養したものを、1/500NB培地により適宜調整したものを使用する。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様に試験菌液を接種する。
(3)接種した試験菌液の上から40mm角のポリエチレンフイルムを被せ、試験菌液を均等に接種させた後、温度35±1℃で24±1時間反応させる。
(4)接種直後または反応後、SCDLP培地10mLを加え、試験菌液を洗い出す。
(5)洗い出し液を適宜希釈し、標準寒天培地と混合して生菌数測定用シャーレを作成し、温度35±1℃で40〜48時間培養した後、集落数を測定する。
(6)生菌数の計算
以下の計算式を用いて生菌数を求める。
N=C×D×V
N:生菌数
C:集落数
D:希釈倍率
V:洗い出しに用いたSCDLP培地の液量(mL)
(7) 以下の計算式を用いて抗菌活性値を算出する。
R=(U−U)−(A−U)=U−A
R:抗菌活性値
:無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値の平均値
:無加工試験片の 24 時間後の生菌数の対数値の平均値
:抗菌加工試験片の 24 時間後の生菌数の対数値の平均値
参考規格 JIS Z 2801
試験菌はStaphylococcus aureus NBRC12732を使用した。
得られた抗菌活性値を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
ついで、抗カビ性について評価した。
抗カビ性については以下の方法で評価した。
(クロコウジカビを用いた抗カビ性評価)
クロコウジカビを用いた抗カビ性評価を、以下のように実施した。
(1)実施例で得られた抗菌・抗ウィルス性部材を、50mm角の正方形に切り出した試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、胞子懸濁液(胞子濃度>2x10個/ml)を0.4mL接種する。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様に胞子懸濁液を接種する。
(3)接種した胞子懸濁液の上から40mm角のポリエチレンフイルムを被せ、胞子懸濁液を均等に接種させた後、温度26℃で約900LUXの光を照射しながら42時間反応させる。
(4)接種直後または反応後、JIS L 1921 13発光量の測定に従い、ATP量を測定する。
(5)以下の計算式を用いて抗カビ活性値を算出する。
=(LogC―LogC)―(LogT―LogT
:抗カビ活性値
LogC:接種直後の対照試料3検体のATP量の算術平均の常用対数値
LogC:培養後の対照試料3検体のATP量の算術平均の常用対数値
LogT:接種直後の試験試料3検体のATP量の算術平均の常用対数値
LogT:培養後の試験試料3検体のATP量の算術平均の常用対数値
参考規格 JIS Z 2801、JIS L 1921
試験カビはAspergillus niger NBRC105649を使用した。
評価結果を表2に記載する。
【0134】
【表2】
【0135】
上記した実施例1〜4によれば、実施例1〜4で得た抗菌・抗ウィルス性部材では、基材であるガラス板表面に抗菌・抗ウィルス成分を含むバインダ硬化物が層状に形成されているか又は島状に散在しているので、抗菌・抗ウィルス活性が高い抗菌・抗ウィルス性部材となることが立証された。
また、実施例1〜4で得られた抗菌・抗ウィルス性部材には、抗カビ性も認められ、広く抗微生物部材として用いることができることが立証された。
【0136】
さらに、使用している抗菌・抗カビ・抗ウィルス剤である金属銅または銅化合物は、食品添加物として許容されており、人体に有毒なものではなく、食品関連施設に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0137】
10 抗微生物部材
11 基材
12 バインダ硬化物
図1
図2
図3