(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838042
(24)【登録日】2021年2月15日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】フレーク状ガラス及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C03C 17/30 20060101AFI20210222BHJP
C03C 17/28 20060101ALI20210222BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20210222BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20210222BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
C03C17/30 A
C03C17/28 A
C08K9/04
C08L71/12
C08L77/06
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-500064(P2018-500064)
(86)(22)【出願日】2017年2月8日
(86)【国際出願番号】JP2017004608
(87)【国際公開番号】WO2017141792
(87)【国際公開日】20170824
【審査請求日】2019年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-28891(P2016-28891)
(32)【優先日】2016年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】田井 伸暁
【審査官】
永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0165585(US,A1)
【文献】
国際公開第2007/111221(WO,A1)
【文献】
国際公開第2003/091015(WO,A1)
【文献】
特開2004−11036(JP,A)
【文献】
特開2013−151582(JP,A)
【文献】
特表2014−512323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B37/005
C03C17/28−17/32
C03C25/24−25/36
C08K9/04
C08L71/12,77/06
C09C3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状ガラス基材と、
前記フレーク状ガラス基材の表面の少なくとも一部を被覆する、結合剤からなる被覆膜と、
を含み、
前記被覆膜は、以下の(a)又は(b)を満たし:
(a)前記結合剤が、滑剤(ただし、シリコーンを除く)と、カップリング剤とを含む、
(b)前記結合剤が、滑剤と、アミノシランを含むカップリング剤とを含む、
前記結合剤における前記カップリング剤の割合が42.3質量%以上であり、
前記結合剤における前記滑剤の割合が9.2質量%以上30質量%以下である、
フレーク状ガラス。
【請求項2】
前記被覆膜が前記(a)を満たす場合は、前記滑剤は、アルキルイミダゾリン誘導体、脂肪酸・ポリエチレンポリアミン縮合物、脂肪酸とポリエチレンイミン及びアミド置換ポリエチレンイミンとの縮合物、ポリエチレンイミンポリアミド、部分アミド化ポリエチレンイミン、シリル化ポリアミン潤滑剤、脂肪酸アミド、飽和又は不飽和脂肪酸アミド、ポリ不飽和脂肪酸アミド、高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールとの縮合物、ポリエチレンイミン、パラフィン、脂肪酸トリグリセリド、大豆油、ヤシ油、ナタネ油、パーム油、キャンディラワックス、カルナウバワックス、みつろう、ラノリン、動植物油及びこの水素添加物、モンタンワックス、並びに、鉱物系ワックスからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記被覆膜が前記(b)を満たす場合は、前記滑剤は、アルキルイミダゾリン誘導体、脂肪酸・ポリエチレンポリアミン縮合物、脂肪酸とポリエチレンイミン及びアミド置換ポリエチレンイミンとの縮合物、ポリエチレンイミンポリアミド、部分アミド化ポリエチレンイミン、シリル化ポリアミン潤滑剤、脂肪酸アミド、飽和又は不飽和脂肪酸アミド、ポリ不飽和脂肪酸アミド、高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールとの縮合物、ポリエチレンイミン、パラフィン、脂肪酸トリグリセリド、大豆油、ヤシ油、ナタネ油、パーム油、キャンディラワックス、カルナウバワックス、みつろう、ラノリン、動植物油及びこの水素添加物、モンタンワックス、鉱物系ワックス、並びに、シリコーンからなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項1に記載のフレーク状ガラス。
【請求項3】
前記被覆膜が前記(a)を満たしており、
前記滑剤が、脂肪酸・ポリエチレンポリアミン縮合物、ポリエチレンイミンポリアミド及びパラフィンからなる群から選択される少なくともいずれか1種を含む、
請求項2に記載のフレーク状ガラス。
【請求項4】
前記被覆膜が前記(b)を満たしており、
前記滑剤が、脂肪酸・ポリエチレンポリアミン縮合物、ポリエチレンイミンポリアミド、パラフィン及びシリコーンからなる群から選択される少なくともいずれか1種を含む、請求項2に記載のフレーク状ガラス。
【請求項5】
前記フレーク状ガラス基材は、平均厚さが0.1〜7μm、平均粒径が10〜2000μmである、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフレーク状ガラス。
【請求項6】
前記フレーク状ガラス基材は、平均厚さが0.1〜2μm、平均粒径が10〜2000μmである、
請求項5に記載のフレーク状ガラス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフレーク状ガラスと、
マトリックス樹脂と、
を含む、樹脂組成物。
【請求項8】
前記マトリックス樹脂がポリアミドを含む、
請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアミドがPA66及びPA9Tからなる群から選択される少なくともいずれか1種である、
請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記マトリックス樹脂が変性ポリフェニレンエーテルを含む、
請求項7に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレーク状ガラスと、それを含む樹脂組成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フレーク状ガラスは、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の補強材及び防食ライニング用充填材等の用途に広く使用されている。
【0003】
例えば、フレーク状ガラスを熱可塑性樹脂に配合して、その強度及び寸法安定性を向上させる技術が、特開昭62−109855号公報に記載されている。また、国際公開2007/111221号、国際公開2012/026127号及び国際公開2013/121756号には、結合剤又は表面処理剤を用いて造粒した顆粒タイプのフレーク状ガラスを熱可塑性樹脂に配合することが記載されている。
【0004】
フレーク状ガラスには、鱗片状の薄片であるため飛散性が高く、熱可塑性樹脂に配合するまでの作業性が悪いという問題があった。また、フレーク状ガラスを熱可塑性樹脂に配合する場合、一般に押出機が用いられるが、フレーク状ガラスは嵩が高く流動性が悪いため、フィード部にフレーク状ガラスが詰まったり、熱可塑性樹脂への食い込みが悪かったりするという問題があった。これらの問題を解決するために、フレーク状ガラスを結合剤又は表面処理剤を用いて造粒して顆粒状にしてから熱可塑性樹脂に配合する技術が開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−109855号公報
【特許文献2】国際公開第2007/111221号
【特許文献3】国際公開第2012/026127号
【特許文献4】国際公開第2013/121756号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高強度かつ低収縮率の樹脂成形品を提供するために、フレーク状ガラスをフィラーとして樹脂に配合することは公知である。しかし、フレーク状ガラスを樹脂に配合することによって得られる樹脂組成物には、以下のような問題があった。
【0007】
フレーク状ガラスは微細であるので、フレーク状ガラスが配合されている樹脂組成物は溶融時の流動性が低下する。その結果、樹脂の種類や成形条件によっては、金型の微細なキャビティへの樹脂組成物の充填性が悪くなるという問題、さらに、ジェッティングの発生によりコンパウンドが不均一になり、得られる樹脂成形品に応力集中が発生して機械的強度が低下するという問題が発生していた。なお、樹脂組成物のある一定以上の流動性を確保しようすると、フレーク状ガラスが配合される樹脂に分子量の低いものを使用せざるを得ず、樹脂の選択の範囲が非常に限定的になってしまっていた。
【0008】
また、フレーク状ガラスを結合剤又は表面処理剤を用いて造粒して顆粒状にしてから樹脂に配合する場合、フィーダーの供給能力が不十分であると、顆粒状フレーク状ガラス自体の滑り性の悪さによって、樹脂への配合時に顆粒状フレーク状ガラスが押出機の部品に付着して、フレーク状ガラスを樹脂に良好に食い込ませることができず、得られた樹脂組成物にフレーク状ガラスの配合割合が高い部分と低い部分とが生じる。その結果、フレーク状ガラスによる樹脂成形品への高い機械的強度の付与という効果を低減させることになる。
【0009】
本発明の目的は、樹脂に配合された際に、樹脂組成物の流動性の低下を小さく抑えて、樹脂成形品の強度低下及び樹脂組成物の充填性の悪化を改善できるフレーク状ガラスを提供することである。さらに、樹脂への配合時に用いられる押出機の部品への付着等の問題も生じにくく、フィード性が良好で、樹脂へ配合しやすいフレーク状ガラスを提供することも目的とする。さらに、本発明は、高い機械的強度を有する樹脂成形品を実現でき、さらに熔融時の流動性が良好で優れた充填性を有する樹脂組成物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
フレーク状ガラス基材と、
前記フレーク状ガラス基材の表面の少なくとも一部を被覆する、結合剤からなる被覆膜と、
を含み、
前記結合剤が、滑剤(ただし、シリコーンを除く)を含む、又は、滑剤とアミノシランとを含み、
前記結合剤における前記滑剤の割合が30質量%以下である、
フレーク状ガラスを提供する。
【0011】
また、本発明は、上記本発明のフレーク状ガラスと、マトリックス樹脂と、を含む樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフレーク状ガラスは、樹脂に配合された際に、樹脂組成物の流動性の低下を小さく抑えて、樹脂成形品の強度低下及び樹脂組成物の充填性の悪化を改善できる。さらに、本発明のフレーク状ガラスは、樹脂への配合時に用いられる押出機の部品への付着等の問題も生じにくく、フィード性が良好で、樹脂へ配合しやすいフレーク状ガラスである。また、本発明の樹脂組成物は、このような本発明のフレーク状ガラスが含まれているので、高い機械的強度を有する樹脂成形品を実現でき、さらに熔融時の流動性が良好で優れた充填性も有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】フレーク状ガラス基材の製造装置の一例を説明する模式図
【
図2】フレーク状ガラス基材の製造装置の別の例を説明する模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
本実施形態のフレーク状ガラスは、フレーク状ガラス基材と、当該フレーク状ガラス基材の表面の少なくとも一部を被覆する、結合剤からなる被覆膜と、を含んでいる。この結合剤は、滑剤(ただし、シリコーンを除く)を含むか、又は、滑剤とアミノシランとを含む。さらに、結合剤における滑剤の割合は30質量%以下である。このような本実施形態のフレーク状ガラスは、樹脂に配合された際に、樹脂組成物の流動性の低下を小さく抑えて、その結果、樹脂成形品の強度低下及び樹脂組成物の充填性の悪化を改善できる。さらに、本実施形態のフレーク状ガラスは、樹脂への配合時に用いられる押出機の部品への付着等の問題も生じにくく、フィード性が良好で、樹脂へ配合しやすいものである。また、本実施形態のフレーク状ガラスは、結合剤からなる被覆膜によって互いに結合し、顆粒状となっていてもよい。
【0016】
本実施形態のフレーク状ガラスに用いられるフレーク状ガラス基材は、例えば、特公昭41−17148号公報及び特公昭45−3541号公報に開示されている、いわゆるブロー法や、特開昭59−21533号公報及び特表平2−503669号公報に開示されている、いわゆるロータリー法で作製することができる。
【0017】
ブロー法では、
図1に示すガラス製造装置を使用できる。このガラス製造装置は、耐火窯槽12、ブローノズル15及び押圧ロール17を備えている。耐火窯槽12(熔解槽)で熔融されたガラス素地11は、ブローノズル15に送り込まれたガスによって、風船状に膨らまされ、中空状ガラス膜16となる。中空状ガラス膜16を押圧ロール17により粉砕し、フレーク状ガラス基材1を得る。中空状ガラス膜16の引張速度、ブローノズル15から送り込むガスの流量等を調節することにより、フレーク状ガラス基材1の厚さを制御できる。
【0018】
ロータリー法では、
図2に示すガラス製造装置を使用できる。このガラス製造装置は、回転カップ22、1組の環状プレート23及び環状サイクロン型捕集機24を備えている。熔融ガラス素地11は、回転カップ22に流し込まれ、遠心力によって回転カップ22の上縁部から放射状に流出し、環状プレート23の間を通って空気流で吸引され、環状サイクロン型捕集機24に導入される。環状プレート23を通過する間に、ガラスが薄膜の形で冷却及び固化し、さらに、微小片に破砕されることにより、フレーク状ガラス基材1を得る。環状プレート23の間隔、空気流の速度等を調節することによって、フレーク状ガラス基材1の厚さを制御できる。
【0019】
フレーク状ガラス基材の組成としては、一般的に知られているガラスの組成を使用できる。具体的には、Eガラス等のアルカリ金属酸化物の少ないガラスを好適に使用できる。Eガラスの代表的な組成を以下に示す。下記の組成の単位は質量%である。
【0020】
SiO
2:52〜56
Al
2O
3:12〜16
CaO:16〜25
MgO:0〜6
Na
2O+K
2O:0〜2(好ましくは0〜0.8)
B
2O
3:5〜13
F
2:0〜0.5
【0021】
また、アルカリ金属酸化物の少ないガラスとして、質量%で表して、
59≦SiO
2≦65、
8≦Al
2O
3≦15、
47≦(SiO
2−Al
2O
3)≦57、
1≦MgO≦5、
20≦CaO≦30、
0<(Li
2O+Na
2O+K
2O)<2、
0≦TiO
2≦5、
の成分を含有し、B
2O
3、F、ZnO、BaO、SrO、ZrO
2を実質的に含有しないガラス組成を使用できる。当該ガラス組成は、国際公開2006/068255号に、本出願人によって開示されている。
【0022】
なお、「実質的に含有しない」とは、例えば工業用原料により不可避的に混入される場合を除き、意図的に含ませないことを意味する。具体的には、B
2O
3、F、ZnO、BaO、SrO及びZrO
2のそれぞれの含有率が0.1質量%未満(好ましくは0.05質量%未満、より好ましくは0.03質量%未満)であることを意味する。
【0023】
また、フレーク状ガラス基材の平均厚さ及び平均粒径は、特に限定はされない。薄いフレーク状ガラス基材は、薄くなるほどアスペクト比(平均粒径を平均厚さで除した値)が大きくなるので、フレーク状ガラスを充填した樹脂組成物への水分やガスなどの浸透を防止する遮蔽効果が大きくなるが、作業性が悪化する。また平均厚さと平均粒径は、遮蔽効果、樹脂成形品の補強効果及び成形収縮率の低減効果、作業性、技術的難易度、並びに、製品の経済性などのバランスから決定することができる。具体的には、フレーク状ガラスを作製する際に、平均厚さが7μm以下であって、かつアスペクト比が50以上のフレーク状ガラスを用いることが、上記の遮蔽効果、樹脂成形品の補強効果及び成形収縮率の低減効果、作業性、並びに、製品の経済性のバランスが取れており、好ましい。しかしながら、さらに遮蔽効果、並びに、樹脂成形品の補強効果及び成形収縮率の低減効果を高めるためには、平均厚さが2.0μm以下であることが好ましい。フレーク状ガラス基材が薄くなるほど、フレーク状ガラスを樹脂に配合して樹脂組成物とした際に、当該樹脂組成物の樹脂溶融時の粘度が急激に上昇して流動性が低下しやすくなる。したがって、上述の滑剤の効果は、フレーク状ガラス基材が薄くなるほど顕著になる。また、技術的難易度及び製品の経済性を考慮すると、平均厚さは0.1μm以上が好ましい。さらに、平均粒径は、樹脂成形品の補強効果をより効果的に実現するために、10〜2000μmであることが好ましい。また、平均アスペクト比は、樹脂への分散性の理由から、2000以下が好ましい。なお、本明細書において、フレーク状ガラス基材の平均厚さとは、フレーク状ガラス基材から100枚以上のフレーク状ガラスを抜き取り、それらのフレーク状ガラス基材について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて厚さを測定し、その厚さ合計を測定枚数で割った値のことである。平均粒径とは、レーザー回折散乱法に基づいて測定された粒度分布において、累積質量百分率が50%に相当する粒径(D50)のことである。
【0024】
被覆膜を形成する結合剤は、上述のとおり、
(a)滑剤(ただし、シリコーンを除く)を含むか、又は、
(b)滑剤とアミノシランとを含むか、
のいずれかである。
【0025】
結合剤が上記(a)である場合、結合剤に含まれる滑剤としては、アルキルイミダゾリン誘導体(例えば脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとの反応により形成)、脂肪酸・ポリエチレンポリアミン縮合物、脂肪酸とポリエチレンイミン及びアミド置換ポリエチレンイミンとの縮合物、ポリエチレンイミンポリアミド、部分アミド化ポリエチレンイミン、シリル化ポリアミン潤滑剤、脂肪酸アミド、飽和又は不飽和脂肪酸アミド(例えばステアリン酸アミド)、ポリ不飽和脂肪酸アミド、高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールとの縮合物、ポリエチレンイミン、パラフィン、脂肪酸トリグリセリド、大豆油、ヤシ油、ナタネ油、パーム油、キャンディラワックス、カルナウバワックス、みつろう、ラノリン、牛脂及び鯨蝋等の動植物油及びこの水素添加物、モンタンワックス、並びに、石油ワックス等の鉱物系ワックスが用いられる。その中で、脂肪酸・ポリエチレンポリアミン縮合物、ポリエチレンイミンポリアミド、及びパラフィンが好適に用いられる。
【0026】
結合剤が上記(b)である場合、すなわち結合剤がアミノシランを含む場合には、結合剤に含まれる滑剤の例として、上記の他にさらにシリコーンを挙げることができる。ここで、アミノシランは、後述のカップリング剤として結合剤に含まれる化合物である。結合剤がアミノシランを含む場合にシリコーンが滑剤として使用可能となる理由の1つは、次のとおりと考えられる。シリコーンは、シロキサン結合が主体であるので、炭化水素系の滑剤と比べると樹脂とのなじみが比較的劣る。シランカップリング剤は、樹脂との反応性が高い官能基により樹脂と結合し、さらにシリコーンともなじみがよい。シランカップリング剤の中でも、特にアミノシランは樹脂との反応性が高い。したがって、結合剤にアミノシランが含まれることにより、滑剤としてシリコーンが含まれる場合であっても、被覆膜と樹脂との界面接着性を低下させることなく、滑剤によるフレーク状ガラスの流動性改良効果によって樹脂成形品の機械的強度を向上させることができると考えられる。
【0027】
結合剤に含まれる滑剤の割合は、30質量%以下であり、20質量%以下が好ましい。また、結合剤に含まれる滑剤の割合は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。滑剤の割合が1質量%よりも低いときは、樹脂組成物の流動性の改善効果(フレーク状ガラスが配合されたことによる樹脂組成物の流動性の低下をより小さく抑える効果)が低い場合があり、樹脂成形品の強度低下抑制の効果が現れにくい。一方、滑剤の割合が30質量%よりも高いときは、樹脂組成物のそれ以上の流動性の改善効果は現れにくく、過剰の滑剤がガラスとマトリックス樹脂との密着性を阻害して、却って樹脂成形品の強度低下を引き起こす場合がある。例えば、結合剤における滑剤の配合割合を1質量%以上30質量%以下とすることにより、フレーク状ガラスが樹脂に配合された際に、樹脂組成物の流動性が改善され、強度特性が向上されやすい。その結果、高強度及び低収縮率の特性を有する樹脂成形品が実現されやすい。
【0028】
結合剤は、フレーク状ガラスを顆粒化するとともに、フレーク状ガラスとマトリックス樹脂との親和性を上げるための接着剤、及び/又は、フレーク状ガラス基材の表面と反応して、ガラス表面とマトリックス樹脂との親和性を上げるためのカップリング剤をさらに含んでいてもよい。結合剤は、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。
【0029】
結合剤が接着剤を含む場合、その接着剤は特に限定されない。例えば有機系の接着剤として、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉、カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、酢酸ビニル及びポリウレタン樹脂等が挙げられる。また無機系の接着剤としては、水ガラス、コロイダルシリカ及びコロイダルアルミナ等が例示される。
【0030】
結合剤がカップリング剤を含む場合、そのカップリング剤は特に限定されない。シランカップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及び、ジルコニア系カップリング剤等が例示され、これらの混合物も使用できる。シランカップリング剤としては、例えばアミノシランを用いることができる。アミノシランとしては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、等が挙げられる。また、その他のシランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
結合剤の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、結合剤を含む溶液(結合剤溶液)は、常温大気圧下で滑剤等の各成分を溶媒中に適宜添加し、均一になるまで攪拌することにより、製造できる。
【0032】
本実施形態では、例えば、結合剤を含む結合剤溶液をフレーク状ガラス基材に添加して攪拌し、乾燥させることによって、フレーク状ガラス基材の表面の少なくとも一部を被覆する被覆膜を形成する。結合剤溶液の添加、攪拌及び乾燥の具体的な方法は、特には限定されないが、その例を以下に説明する。
【0033】
例えば、回転円盤混合機や、混合容器内に回転式ブレードを備えたヘンシェルミキサー等の混合機において、フレーク状ガラス基材を流動させつつ所定量の結合剤をスプレー等で添加し、混合攪拌する。次に、混合機中で攪拌しながらフレーク状ガラス基材を乾燥させる、又は混合機からフレーク状ガラス基材を取り出して乾燥させる。この方法により、フレーク状ガラス基材の表面の少なくとも一部に被覆膜が設けられたフレーク状ガラスを得ることができる。
【0034】
また、別の例として、特開平2−124732号公報に記載されるような転動造粒方式を用いても、フレーク状ガラスを作製することができる。すなわち、攪拌羽根を備える水平振動型造粒機内にフレーク状ガラス基材を入れ、これに結合剤溶液を噴霧して造粒することによっても、フレーク状ガラスを作製することができる。
【0035】
上記以外でも、一般的に攪拌造粒法、流動層造粒法、噴射造粒法及び回転造粒法と呼ばれる公知の方法を適用することによって、フレーク状ガラスを作製できる。
【0036】
乾燥工程は、例えば、結合剤溶液に用いられている溶媒の沸点以上の温度にフレーク状ガラス基材を加熱して、溶媒が揮発するまで乾燥させることによって行われる。
【0037】
フレーク状ガラスにおける被覆膜の含有割合(フレーク状ガラスにおける結合剤の付着率)は、添加又は噴霧する結合剤溶液における結合剤の濃度を調整することにより制御できる。すなわち、所定量のフレーク状ガラス基材に対して、所定量の結合剤溶液を結合剤が所定量になるように添加又は噴霧することにより、結合剤からなる被覆膜の含有割合が所定値となるフレーク状ガラスを製造できる。
【0038】
フレーク状ガラスにおいて、被覆膜の含有割合は0.05〜3質量%が好ましく、0.2〜2質量%であることがより好ましく、0.3〜1質量%であることがさらに好ましい。被覆膜の含有割合が0.05質量%未満の場合、フレーク状ガラス基材を結合剤で十分に被覆することができず、樹脂成形品の強度低下を引き起こす場合がある。被覆膜の含有割合が3質量%よりも大きい場合、押出し成形時にガスが発生し、金型の汚染を引き起こしたり、樹脂成形品が変色したりする等の問題が発生する場合がある。また、被覆膜の含有割合が3質量%を超えると、フレーク状ガラス同士の結合力が強くなりすぎて、樹脂成形の混練が不十分な場合にはフレーク状ガラスが凝集物として樹脂成形品中に残存し、樹脂成形品の強度低下を引き起こす場合がある。さらに、被覆膜の含有割合が3質量%よりも大きいと、過剰な被覆膜の各成分が逆にガラスとマトリックス樹脂との密着性を阻害し、良好な成形品特性が得られない場合がある。
【0039】
次に、本実施形態の樹脂組成物について説明する。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物は、上記のような本実施形態のフレーク状ガラスと、マトリックス樹脂とを含む。
【0041】
マトリックス樹脂としては、特に限定されず、例えばポリ塩化ビニル、ポリブチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート又はこれらの共重合体、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー(I型、II型及びIII型)等が挙げられる。
【0042】
なお、従来のフレーク状ガラスを含む樹脂組成物では、樹脂組成物にある一定以上の流動性を確保しようとする場合、マトリックス樹脂に分子量の低いものを使用せざるを得なかった。しかし、本実施形態のフレーク状ガラスは、フレーク状ガラスが配合されることによる樹脂組成物の流動性の低下を小さく抑えることができるので、マトリックス樹脂に分子量の高い樹脂を使用することが可能である。したがって、本実施形態の樹脂組成物は、マトリックス樹脂に分子量の高い樹脂を用いることにより、樹脂成形品に高い機械的強度を付与することができる。
【0043】
樹脂組成物中のフレーク状ガラスの含有率は、5〜70質量%が好ましい。5質量%以上とすることで、フレーク状ガラスの補強材としての機能を十分に発揮させることができる。一方、70質量%以下とすることで、樹脂組成物中でフレーク状ガラスを均一に分散させやすくなる。成形収縮率をより低く抑えるために、フレーク状ガラスの含有率を30質量%以上とすることがより好ましい。
【0044】
なお、樹脂組成物は、その用途に応じて、ガラス繊維等のフレーク状ガラス以外の補強材を含有してもよい。例えば、電器・電子機器部品の用途では、非常に高い強度が要求されることから、フレーク状ガラスと同量程度のガラス繊維を混合してもよい。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物を用いて作製した樹脂成形品は、フレーク状ガラスによる補強効果によって、高い引張強度および曲げ強度を得ることができる。また、本実施形態の樹脂組成物は、成形収縮率が低いため、寸法安定性に優れた樹脂成形品を得ることができる。また、本実施形態の樹脂組成物に含まれるフレーク状ガラスの平均厚さは従来よりも小さいので、本実施形態の樹脂組成物によれば、表面粗さが小さく、滑らかな表面を有する成形品を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は、本発明の要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1〜8]
(フレーク状ガラス)
まず、表1に示す組成を有するEガラスにて、ブロー法によりフレーク状ガラス基材を作製した。具体的には、1200℃以上に加熱した溶解槽にEガラスを入れて溶解し、この溶解槽にノズルを入れ、このノズルから空気を吹き込みながら薄いガラスを作製し、この薄いガラスをローラーで連続的に引き出した。空気の吹き込み量及びローラー回転数を調整し、平均厚さ0.7μmのガラスを得た。その後、粉砕及び分級を行い、平均粒径160μmのフレーク状ガラス基材を得た。
【0048】
【表1】
【0049】
次に、このフレーク状ガラス基材5kgをヘンシェルミキサーに投入し、結合剤溶液をスプレーで添加しながら15分間混合攪拌を行った。結合剤溶液は、結合剤成分(固形分)として滑剤、接着剤及びシランカップリング剤を含み、溶媒として水を含んでいた。滑剤としては、脂肪酸・ポリエチレンポリアミン縮合物(東邦化学工業株式会社製 ソフノン GW−18)、ポリエチレンイミンポリアミド(Pulcra Chemicals社製 KATAX 6717L)、パラフィン(カンエイ産業株式会社製 KEW J−200)、又は、水素基含有シリコーンエマルジョン(信越化学工業株式会社製 Polon MWS)が用いられた。接着剤としては、ポリウレタン樹脂(住化バイエルウレタン株式会社製 インプラニール DLS)が用いられた。シランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(JNC株式会社製 サイラエース S330)が用いられた。実施例1〜8において用いられた結合剤溶液の結合剤成分における各成分の割合は、表3に示すとおりである。その後、ミキサーからフレーク状ガラス(未乾燥)を取り出し、乾燥機にて125℃で8時間乾燥を行い、実施例1〜8のフレーク状ガラスを得た。
【0050】
得られたフレーク状ガラスにおける結合剤の付着率を強熱減量法にて調べた。具体的には、得られたフレーク状ガラスから適量のフレーク状ガラスを抜き取り、これを110℃にて乾燥した後、625℃の雰囲気で加熱してフレーク状ガラスの表面から結合剤を除去した。加熱前のフレーク状ガラスの質量と加熱後のフレーク状ガラスの質量との差から、フレーク状ガラスにおける結合剤の付着率を算出した。結果を表3に示す。
【0051】
(比較例1)
結合剤溶液において、結合剤成分(固形分)に占める滑剤(固形分)の割合が30質量%を超えるように、結合剤溶液における各成分(接着剤及びシランカップリング剤)を調整した点以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例1のフレーク状ガラスを得た。なお、フレーク状ガラスにおける結合剤の付着率は、実施例1〜8のフレーク状ガラスと同様の方法で求めた。
【0052】
(比較例2)
結合剤溶液において滑剤を含有せず、結合剤溶液における各成分(接着剤及びシランカップリング剤)を調整した点以外は、実施例1〜8と同様の方法にて、比較例2のフレーク状ガラスを得た。なお、フレーク状ガラスにおける結合剤の付着率は、実施例1〜8のフレーク状ガラスと同様の方法で求めた。
【0053】
(樹脂成形品)
各実施例及び比較例のフレーク状ガラスと、マトリックス樹脂とを押出成形機(株式会社テクノベル製、KZW15−30MG、成形温度:約270〜320℃)にて混練し、補強用の充填材としてのフレーク状ガラスとマトリックス樹脂とを含む樹脂組成物を得た。各実施例及び比較例において、マトリックス樹脂をそれぞれ3種用いた。すなわち、実施例1〜8及び比較例1及び2において、それぞれ3種の樹脂組成物を得た。樹脂組成物を射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、HM7)にて成形して、樹脂成形品を得た。得られた樹脂成形品におけるフレーク状ガラスの含有率は50質量%であった。なお、マトリックス樹脂として、ポリアミドであるPA66(東レ株式会社製、アミランCM3001−N)若しくはPA9T(株式会社クラレ ジェネスタN1000A)、又は、変性ポリフェニレネーテルであるPPE(旭化成ケミカルズ ザイロン500V)を用いた。
【0054】
[特性評価]
(フレーク状ガラスの配合しやすさ)
フレーク状ガラスの配合しやすさは、フレーク状ガラスを目開き2mmの篩に入れて篩ったときの、落下のしやすさと篩への付着の度合いを目視にて確認することによって評価した。評価は、以下の表2に従って行った。落下しやすいほど、また篩いへの付着が少ないほど、押出機の部品への付着等に起因するフレーク状ガラスの樹脂への食い込み不良が生じにくく、供給能力の高いフィーダーを使用しなくてもフレーク状ガラスを樹脂に十分に配合させることができ、樹脂組成物中のフレーク状ガラスの配合割合が均一になりやすいことを示す。結果を表3に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
(樹脂成形品の強度特性)
樹脂成形品の強度特性を評価するために、引張強さを測定した。引張強さは、JIS K 7113に従って測定した。結果を表3に示す。
【0057】
(樹脂成形品の充填率)
成形時の樹脂組成物の流動性の評価として、充填率を求めた。射出成形機の射出速度を下限にし、金型キャビティに樹脂を充填しにくくする条件で樹脂組成物の充填を行った。射出速度が低いと、熔融した樹脂組成物が金型の中で隅隅まで充填する前に冷却固化してしまうため、金型のキャビティに樹脂組成物が充填されにくくなる。充填率は、下記の式で計算した。充填率が高いほど流動性が高いことを示す。結果を表3に示す。なお、下記の式において、「成形品重量(通常)」とは射出成形機の射出速度が通常の場合の成形品重量のことであり、射出速度が通常とは金型キャビティに樹脂が100%充填されるように設定された射出速度のことである。すなわち、「成形品重量(通常)」とは、金型キャビティに樹脂が100%充填された場合の重量のことである。
充填率[%]={成形品重量(射出速度下限)/成形品重量(通常)}×100
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示された実施例1〜8の結果と、比較例1及び2の結果とを比較すると、結合剤が滑剤を30質量%以下の範囲内で含むことにより、フレーク状ガラスは、配合しやすさについても良好な結果を示しており、さらに成形時の流動性が良好で、その樹脂成形品は高い強度特性を示した。特に、結合剤に含まれる滑剤の割合が1質量%以上30質量%以下である実施例1〜7のフレーク状ガラスは、配合しやすさについてもより良好な結果を示しており、さらに成形時の流動性が良好で、その樹脂成形品は高い強度特性を示した。
【0060】
結合剤に含まれる滑剤の割合が2質量%以上30質量%以下の場合(実施例1〜4、6、7)は、フレーク状ガラスの配合のしやすさの評価点が4以上であり、さらにマトリックス樹脂にポリアミドを用いた場合の成形時の流動性の評価である樹脂成形品の充填率が90%以上と高く、さらに樹脂成形品の引張強度も高かった。特に滑剤としてシリコーンを用いた実施例4では、樹脂成形品の高い強度特性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のフレーク状ガラスは、樹脂に混合された際に、樹脂成形品の効果的な補強と良好な外観とを共に実現できるため、様々な用途に適用可能である。例えば、本発明のフレーク状ガラス、さらに当該フレーク状ガラスが含まれる樹脂組成物は、自動車用分野、電気・電子部品分野などで好適に用いられる。