(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1溶射層及び前記第2溶射層は、前記翼本体の長さ方向において前記翼先端から前記翼本体の長さの1/2までの領域の少なくとも一部に設けられている請求項1又は2に記載の風車翼。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、これらの実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0010】
図1は、風力発電装置10の全体構成を示す図である。
図1に示すように、一実施形態に係る風力発電装置10は、少なくとも1本の風車翼20と、風車翼20が取り付けられるハブ12と、ハブ12の回転によって駆動される発電機(不図示)と、風車翼20及びハブ12を含むロータ14を支持するナセル16と、ナセル16を支持するタワー18と、グランドG上に設けられタワー18を支持するベース19と、を備える。例えば、複数(例えば3本)の風車翼20が、放射状に配列されるようにハブ12に対して取り付けられる。各々の風車翼20は、ハブ12を中心として翼先端22が外径側に位置し、翼根24がハブ12に固定されている。タワー18及びベース19は、陸上又は洋上に立設される。なお、
図1は、一実施形態として風車翼20が陸上に設置された場合を図示している。
【0011】
この風力発電装置10においては、風を受けて風車翼20を含むロータ14が回転し、ロータ14の回転は不図示の発電機に入力されて、この発電機において電力が生成されるようになっている。
【0012】
次に、
図1〜
図4を参照して、一実施形態に係る風車翼20について説明する。
図2は、一実施形態に係る風車翼20の平面図である。
図3は、
図2に示す翼本体26の翼先端側部位を示す斜視図である。
図4は、
図2に示す翼本体26の先端部を示す斜視図である。
図2に示すように、風車翼20は、翼根24から翼先端22に向かって翼長方向に沿って延在する翼本体26を備えている。翼本体26は、前縁28、後縁30、回転方向上流側に面する圧力面32、及び回転方向下流側に面する負圧面34を有しており、横断面が翼型をなしている。翼本体26は、例えばバルサ等の木材やポリメタクリルイミド(PMI)等の樹脂発泡体からなる軽量コア材、又は、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック材を含んで構成される。
【0013】
図3に示すように、風車翼20の翼本体26には、溶射膜36(第1溶射層)が、翼本体26のうち少なくとも翼先端22側における前縁28を覆うように設けられ、前縁側部位のエロージョンを抑制する。また、翼本体26と溶射膜36との間には、溶射膜36より電気抵抗率が小さい溶射膜38(第2溶射層)が設けられている。溶射膜38には他端がグランド側に延在する導電部40(第1導電部)が接続され、溶射膜38は導電部40を介してグランドG側に電気的に接続されている。
【0014】
溶射膜36に落雷した場合、溶射膜36の直下に溶射膜36より電気抵抗率が小さい溶射膜38が存在するため、溶射膜36に帯電した落雷電流を速やかに導電部40を介してグランドG側に流すことができる。これによって、溶射膜38の損傷を抑制できる。
【0015】
一実施形態では、溶射膜38は溶射膜36より硬度が低く、かつヤング率も低い材料で構成されている。
図5は、溶射被膜の硬度及びヤング率と、耐摩耗性及び接合相手材に対する攻撃性との相関関係を示す図であり、ある文献での試験結果を示している。
図5は、溶射被膜の硬度及びヤング率が小さいほど、接合相手に対する攻撃性が低く、かつ溶射被膜の耐摩耗性が大きいほど接合相手に対する攻撃性が高いことを示している。上記文献は、溶射材としてCoをバインダとしたタングステンカーバイトとCr系の耐酸化材とを選び比較試験を実施した結果、接合相手材の摩耗重量が小さいほど相手材への攻撃性は低く、溶射皮膜のヤング率及び硬度と、耐摩耗性や相手に対する攻撃性との間には相関関係があるとし、溶射被膜の高度及びヤング率が小さいほど、相手材への攻撃性が低いという結論を述べている。
【0016】
さらに、密着性に関しては多くの文献があり、密着性へ影響するパラメータは多数あるものの、相手材への攻撃性が低いことは密着性向上のポイントの一つとなっている。この結果から、溶射膜38は溶射膜36より硬度が小さくかつヤング率も小さいので、翼本体26への攻撃性が低く、翼本体26への密着性が高い。これによって、溶射膜38を介することで、溶射膜36が翼本体26から剥離しあるいは脱落するのを抑制できる。
【0017】
一実施形態では、
図3に示すように、導電部40はダウンコンダクタ40(40a)で構成される。溶射膜36に帯電した落雷電流を溶射膜38及びダウンコンダクタ40(40a)を介して速やかにグランドG側に流すことができる。
なお、溶射膜38は必ずしも溶射膜36の全域に設ける必要はないが、溶射膜36の全域に設けることで、溶射膜36に帯電した落雷電流を溶射膜38を介して速やかにグランドG側へ流すことができる。
溶射膜36及び38の溶射方法として、例えば、プラズマ溶射法や高速フレーム溶射法(high velocity oxy−fuel:HVOF)等のガス式溶射法を用いることができる。
【0018】
図6は、溶射膜36及び溶射膜38の候補材の物性の一例を示している。この例では、溶射膜38の電気抵抗率が溶射膜36の1/2以下となるように、溶射膜36及び38を構成する材料を選択する。これによって、落雷電流を溶射膜36から速やかに流すための導電性を付与することが可能になる。溶射膜38の溶射前の材料は溶射後より低い電気抵抗率を示す。溶射後、電気抵抗率の高い溶射膜36と密着しかつ溶射による気孔率増加の影響などにより電気抵抗率は上昇する傾向があるものの、溶射膜38の1/2となる電気抵抗率は確保可能である。
図6に示す例では、溶射膜38の候補材のヤング率は溶射膜36の候補材の2/3以下であり、これによって、翼本体26への密着性を向上させることができる。
【0019】
エロージョンは翼本体26の周速に依存する為、周速が早い翼本体26の先端側が最もエロージョンの影響を受けやすく、先端側から翼根側に向かって、エロージョンの影響を受けにくくなる。従って、溶射の施工範囲は翼本体26の寿命を考慮して適切な周速範囲を選定して施工することで、エロージョンに対する寿命を延ばすことが出来る。例えば、一実施形態として、溶射膜36及び38は、翼本体26の長さ方向において翼先端22から翼本体26の長さの1/2までの領域の少なくとも一部に設けられる。
【0020】
例えば、翼本体26の周速が50m/秒程度以上の範囲に溶射膜36及び38を施工すれば、エロ―ジョンに対する翼本体26の寿命を実用上十分に長くすることが出来る。あるいは、それ以上の周速範囲に限定したとしても、耐エロージョンの寿命を延ばすことが出来、実用上十分な耐エロージョン性寿命を得られるか、もしくはエロージョンに対するメンテナンス費用を削減することが出来る。さらに、周速が低い部分に従来の耐エロージョン被膜を併用することで、コストを抑えて必要な寿命を得ることもできる。
【0021】
図7〜
図9は、夫々内部に中空部をもつ翼本体26の前縁側壁を直線状に展開して示すコード長方向に沿って断裁した断面図である。一実施形態では、
図7に示すように、導電部40は、翼本体26の表面に形成された金属層40(40b)を含み、金属層40(40b)は溶射膜38に接続されている。金属層40(40b)は電気抵抗率が小さい金属材料で構成される。翼本体26の表面に電気抵抗率が小さい金属層40(40b)を形成することで、溶射膜38と導電部40との間の導電路の導電性を高めることができる。これによって、溶射膜36に帯電した落雷電流を溶射膜38及び金属層40(40b)を介して速やかにグランドG側へ流すことができる。
【0022】
さらに、一実施形態では、
図7に示すように、金属層40(40b)にダウンコンダクタ40(40a)が接続され、導電部40はダウンコンダクタ40(40a)と金属層40(40b)とで構成される。溶射膜36に帯電した落雷電流を溶射膜38、金属層40(40b)及びダウンコンダクタ40(40a)を介して速やかにグランドG側へ流すことができる。
【0023】
金属層40(40b)は少なくとも溶射膜38と接触しておればよいが、
図7に示す実施形態では、金属層40(40b)は、翼本体26のコード長方向における溶射膜38の長さの少なくとも部分的な領域で溶射膜38の下面と面接触している。これによって、溶射膜38と金属層40(40b)との間の導電性を向上できるため、溶射膜36に帯電した落雷電流を速やかにグランドG側へ流すことができる。
溶射膜38と金属層40(40b)との接触面積はなるべく大きいほうが好ましい。例えば、
図7において、金属層40(40b)が溶射膜38の下面に面接触した領域の翼長方向長さL
2は、溶射膜38のコード長方向の全長L
1に対して、L
1/3≦2L
2となるのが好ましく、このように溶射膜38と金属層40(40b)とをオーバラップさせることで、溶射膜38と金属層40(40b)間の導電性を高く維持できる。
【0024】
一実施形態では、金属層40(40b)は、銅、銅合金、アルミ又はアルミ合金で構成されている。アルミ合金として、例えばジュラルミンを適用できる。金属層40(40b)をこのような電気抵抗率が小さい材料で構成することで、溶射膜36に帯電した落雷電流をグランドG側へ容易に流すことができ、溶射膜36に帯電した落雷電流の逃し効果を向上できる。
【0025】
一実施形態では、
図8A、
図8B及び
図9に示すように、金属層40(40b)は、帯状の金属メッシュ又は金属箔で構成されている。これらの図に示す金属層40(40b)は、一例として金属メッシュ40(40b−1)で構成されている。これらの実施形態によれば、金属層40(40b)として、金属箔又は金属メッシュ40(40b−1)を用いることで、翼本体26と金属層40(40b)との接合強度をさらに向上できる。
図8Aに示す実施形態は、溶射膜38が翼本体26と金属層40(40b)の間に入り込んでいる例を示し、
図8Bに示す実施形態は、一対の金属層40(40b)端部間に、金属層40(40b)の厚さと同等の厚さで溶射膜38が充填されている例を示している。これらの実施形態では、翼本体26と金属層40(40b)との接合強度をさらに向上できる。
【0026】
一実施形態では、
図9に示すように、翼本体26と溶射膜38との間に下地層42を形成させ、下地層42を介して翼本体26と溶射膜38とが結合される。翼本体26と溶射膜38との間に下地層42を介在させることで、翼本体26と溶射膜38との接合強度を向上できる。さらに、翼本体26と溶射膜38との間に下地層42を設けることで、接着性を向上できるだけでなく、溶射膜36や溶射膜38を翼本体26の表面に溶射するときに下地層42によって翼本体26を保護できる利点がある。下地層42として、例えば、樹脂などの非金属系の溶射材又はその複合材を用いることができる。
【0027】
一実施形態では、
図10に示すように、翼本体26の表面に凹部46を形成し、凹部46に金属層40(40b)を形成している。金属層40(40b)が形成されない翼本体26の表面と金属層40(40b)の表面とは段差がない連続面を形成するようにする。これによって、翼本体26の表面で無用な乱流の発生を抑制でき、風車翼20の空力性能の低下を抑制できる。なお、別な実施形態として、翼本体26の表面に金属層40(40b)だけでなく溶射膜36及び38をも収容可能な凹部を形成し、溶射膜36の表面と翼本体26の表面とで段差のない連続面を形成するようにしてもよい。
図10中の二点鎖線26aはこの実施形態における翼本体26の表面を示している。
【0028】
一実施形態では、溶射膜36は、アルミナ、タングステンカーバイド、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア又はクロムカーバイトの少なくとも一つを含むサーメット、又はCo合金により構成される。溶射膜36がこのような耐熱性や耐摩耗性に優れた材料で構成されることで、高い耐エロージョン性能を発揮できる。
【0029】
一実施形態では、溶射膜38は、銅、銅合金、アルミ又はアルミ合金(例えば、ジュラルミン)で構成される。溶射膜38が、このような電気抵抗率が小さい材料で構成されているため、溶射膜36に帯電した落雷電流を速やかにグランドG側へ流すことができる。さらに、溶射膜38を上記材料で構成するとき、溶射膜36より硬度及びヤング率が小さいので、翼本体26への攻撃性が低く、このため、翼本体26との密着性が高い。従って、溶射膜36が翼本体26から剥離したり又は脱落するのを抑制できる。
【0030】
一実施形態では、溶射膜36及び38の合計厚さが200〜2000μmとなるようにする。これによって、溶射膜36による耐エロージョン性能を保持しつつ、かつ翼本体26の表面で溶射膜36及び38をコンパクトに形成できる。なお、翼本体表面との間で段差が生じない様に厚さを高精度で調整することも可能であるため、施工後においても風車翼の空力性能を高く維持できる。
【0031】
溶射膜36の厚さは主として風車翼の先端周速によって決定され、第2溶射層の厚さは、主として電気抵抗率の必要性や翼本体表面の凹凸の吸収などで決定される。一実施形態では、溶射膜36の厚さは100〜1000μmの範囲とし、溶射膜38の厚さは100〜1000μmの範囲とする。これによって、溶射膜36は風車翼先端周速に対抗し得る耐エロージョン性能と被膜強度を確保できる。溶射膜38は、電気抵抗率を低下させて必要な電気伝導性を確保する断面積を確保することができる。さらに、翼本体26の表面の凹凸により溶射膜38も凹凸となる影響で、溶射膜36の厚さにむらができて耐エロージョン性と被膜強度を確保できなくなるリスクを無くすため、十分な厚さを持たせて凹凸を吸収することができる。この場合、溶射膜38の厚さは場所により変化することとなる。
【0032】
一実施形態では、
図1〜
図4及び
図11に示すように、翼本体26は、耐雷構造としてレセプタ50(50a、50b)を備える。レセプタ50は導電部40及び溶射膜38に接続されている。これによって、溶射膜36又はレセプタ50に落雷したとき、溶射膜36又はレセプタ50に帯電した落雷電流を溶射膜38及び導電部40を介して速やかにグランドGへ流すことができる。
【0033】
一実施形態では、
図3に示すように、レセプタ50は、翼本体26の翼先端22に設けられたチップレセプタ50(50a)で構成される。チップレセプタ50(50a)は溶射膜38に接続されている。さらに、導電部40とは別に、グランドGまで延在する導電部52(第2導電部)が設けられ、チップレセプタ50(50a)は導電部52に接続されている。これによって、溶射膜36から溶射膜38及び導電部40を介してグランドGに達する導電路と、溶射膜36から溶射膜38、チップレセプタ50(50a)及び導電部52を介してグランドGに達する導電路と、が形成される。溶射膜36に落雷したとき、溶射膜36に帯電した落雷電流を上記2つの導電路を介して速やかにグランドGへ流すことができる。これによって、溶射膜36の損傷を効果的に抑制できる。
【0034】
一実施形態では、
図3に示すように、導電部52はダウンコンダクタで構成され、このダウンコンダクタの一端がチップレセプタ50(50a)に接続されると共に、他端がグランドGまで延在している。
【0035】
図3及び
図4に示す実施形態では、溶射膜38の一端で溶射膜38の下面とチップレセプタ50(50a)の上面とが面接触している。面接触することで溶射膜38とチップレセプタ50(50a)との導電性を良くすることができるが、このように面接触しなくても両者は接続されていれば、両者間の導電性を保持できる。別な実施形態として、導電性をさらに高めたいときは、
図3中の二点鎖線48で示すように、溶射膜36及び38を翼先端22まで延在し、溶射膜38とチップレセプタ50(50a)とが面接触する面積を拡大してもよい。
【0036】
一実施形態では、導電部52の電気抵抗率は溶射膜38の電気抵抗率より小さくなるように構成されている。これによって、チップレセプタ50(50a)に落ちた落雷により発生した落雷電流の多くを導電部52を経由してグランドG側へ流すことができ、溶射膜38及び導電部40(40a、40b)を経由してグランドG側へ流れる落雷電流を抑制できるため、溶射膜36及び38の損傷を抑制できる。
【0037】
一実施形態では、
図11に示すように、レセプタ50は、溶射膜36に互いに離散して設けられた複数のディスクレセプタ50(50b)を含む。この実施形態では、落雷によって溶射膜36に帯電した落雷電流を複数のディスクレセプタ50(50b)から速やかにグランドG側へ流すことができる。
【0038】
図11に示す実施形態では、複数のディスクレセプタ50(50b)は、翼長方向に沿って溶射膜36に点在しているので、落雷の大部分をディスクレセプタ50(50b)で受けることができる。これによって、溶射膜36に落雷する確率を減らすことができ、溶射膜36の損傷を抑制できる。また、溶射膜36に落雷した場合、落雷電流をすぐに直近のディスクレセプタ50(50b)に誘導できる。
【0039】
一実施形態では、
図11に示すように、複数のディスクレセプタ50(50b)は、夫々翼本体26に埋設されたダウンコンダクタ40(40a)に接続される。このダウンコンダクタ40(40a)の他端はグランドGまで延在する。
【0040】
図12は、ディスクレセプタ50(50b)の一実施形態を示す。
図12に示すディスクレセプタ50(50b)は、中空の翼本体26の裏面に取り付けられた導電性の中継円板54を介してダウンコンダクタ40(40a)に接続されている。
図12に示す実施形態では、ディスクレセプタ50(50b)は、翼本体26及び溶射膜36及び38に形成された貫通孔56に挿入され、ディスクレセプタ50(50b)の端面は外側に露出し、溶射膜36の表面と連続面を形成している。この実施形態では、ディスクレセプタ50(50b)が外側に露出しているので、ディスクレセプタ50(50b)に落雷させることで、溶射膜36の損傷を抑制できる。
【0041】
一実施形態では、ディスクレセプタ50(50b)の製作方法として、例えばFRP製の翼本体26を製作後、貫通孔56を形成する。その後、貫通孔56にディスクレセプタ50(50b)のダミーを挿入するか、又はディスクレセプタ50(50b)を挿入した後、これらの挿入箇所にマスキングをして溶射膜36及び38を溶射する。別な製作方法として、翼本体26を製作した後、溶射膜36及び38を溶射し、その後、貫通孔56を形成する。貫通孔56を形成するとき、溶射膜36及び38が割れる可能性があるので、注意を要する。
【0042】
図13に示す実施形態では、翼本体26のみに貫通孔58が形成され、導電性の高い材料で構成された埋込治具60が貫通孔58に挿入されている。埋込治具60の端面は溶射膜38の裏面に接続されている。溶射膜36に落雷して溶射膜36に帯電した落雷電流を埋込治具60、中継円板54及びダウンコンダクタ40(40a)を介して速やかにグランドG側へ流すことができる。
【0043】
図12及び
図13に示す実施形態において、ディスクレセプタ50(50b)及び埋込治具60は金属製のボルト62を有し、ダウンコンダクタ40(40a)の接続端は金属製のボルト64を有する。ディスクレセプタ50(50b)、埋込治具60及びダウンコンダクタ40(40a)の接続端は、金属製のボルト62及び64を介して中継円板54に接続されている。このように金属製ボルト62及び64を介して接続することで、電気的な接続を確実に形成できる。
【0044】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0045】
1)一の実施形態に係る風車翼は、翼根から翼先端に向かって翼長方向に沿って延在する翼本体(26)と、前記翼本体のうち少なくとも前記翼先端側における前縁を覆うように設けられ、前記翼本体の前記前縁のエロージョンを抑制するための第1溶射層(36)と、前記翼本体と前記第1溶射層との間に形成され、前記第1溶射層より電気抵抗率が小さい第2溶射層(38)と、前記第2溶射層をグランド(G)に電気的に接続する第1導電部(40)と、を備える。
【0046】
本開示に係る風車翼によれば、耐エロージョン膜である第1溶射層と翼本体との間に電気抵抗率が小さい第2溶射層を形成したため、第1溶射層に帯電した落雷電流を第2溶射層を介してグランド側へ速やかに流すことができ、これによって、第1溶射層の損傷を抑制できる。
【0047】
2)別な態様に係る風車翼は、1)に記載の風車翼であって、第2溶射層は、第1溶射層より硬度及びヤング率が小さい。
【0048】
これによって、翼本体に対する第2溶射層の攻撃性を弱め、第2溶射層の翼本体に対する密着性を高めることができるため、第1溶射層が翼本体から剥離しあるいは脱落するのを抑制できる。
【0049】
3)別の態様に係る風車翼は、1)又は2)に記載の風車翼であって、前記第1溶射層及び前記第2溶射層は、前記翼本体の長さ方向において前記翼先端から前記翼本体の長さの1/2までの領域の少なくとも一部に設けられている。
【0050】
エロージョンは周速に依存する為、風車翼の先端側が最もエロージョンの影響を受けやすく、先端側から翼根側に向かって、エロージョンの影響を受けにくくなる。このような構成によれば、50m/秒程度以上の周速範囲に溶射膜を施工でき、エロ―ジョンの影響を受けやすい領域のほぼ全域をカバーできる。
【0051】
4)さらに別な態様に係る風車翼は、1)〜3)のいずれかに記載の風車翼であって、前記第1導電部は、前記翼本体の表面に形成された金属層(40(40b))を含み、前記金属層は前記第2溶射層に接続されている。
【0052】
このような構成によれば、翼本体の表面に電気抵抗率が小さい金属層を形成することで、第2溶射層と第1導電部との間の導電路の導電性を高めることができるため、第1溶射層に帯電した落雷電流を速やかにグランド側へ流すことができる。
【0053】
5)さらに別な態様に係る風車翼は、4)に記載の風車翼であって、前記金属層は、前記翼本体のコード長方向における前記第2溶射層の長さの少なくとも部分的な領域で前記第2溶射層の下面と面接触している。
【0054】
このような構成によれば、金属層が第2溶射層の下面と面接触しているため、金属層と第2溶射層間との間の導電性を高く維持でき、これによって、第1溶射層に帯電した落雷電流を速やかにグランド側へ流すことができる。
【0055】
6)さらに別な態様に係る風車翼は、4)又は5)に記載の風車翼であって、前記金属層は、銅、銅合金、アルミ又はアルミ合金で構成され、且つ/又は、帯状の金属メッシュ(40(40b−1))又は金属箔で構成されている。
【0056】
このような構成によれば、金属層が上記のような導電性が良い材料で構成されているため、第1溶射層に帯電した落雷電流の逃し効果を向上できる。また、金属層が金属メッシュ又は金属箔で構成されているため、金属層と翼本体との接合強度を向上できる。
【0057】
7)さらに別な態様に係る風車翼は、1)〜6)の何れかに記載の風車翼であって、前記翼本体と前記第2溶射層との間に形成された下地層(42)を備える。
【0058】
このような構成によれば、翼本体と第2溶射層との間に下地層が形成されることで、翼本体と第2溶射層との接合強度を向上できる。また、翼本体に金属製などの第2溶射層を直接溶射する場合は、溶射時の熱や衝撃等によって翼本体を傷付けるおそれがあるため、予め翼本体に樹脂製などの下地層を形成しておくことで、翼本体を保護できる。
【0059】
8)さらに別な態様に係る風車翼は、1)〜7)の何れかに記載の風車翼であって、前記第1溶射層は、アルミナ、タングステンカーバイド、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア又はクロムカーバイトの少なくとも一つを含むサーメット、又は、Co合金により構成されている。
【0060】
このような構成によれば、第1溶射層は上記のような耐熱性や耐摩耗性に優れた材料で構成されているため、高い耐エロージョン性能を発揮できる。
【0061】
9)さらに別な態様に係る風車翼は、1)〜8)の何れかに記載の風車翼であって、前記第2溶射層は、銅、銅合金、アルミ又はアルミ合金で構成されている。
【0062】
このような構成によれば、第2溶射層は上記のような電気抵抗率が小さい材料で構成されているため、第1溶射層に帯電した落雷電流を速やかに翼本体側へ流すことができる。また、第2溶射層は第1溶射層より上記のような硬度及びヤング率が小さい材料で構成されているので、翼本体への攻撃性が低く、このため翼本体との密着性も高くなるため、第1溶射層が翼本体から剥離したり又は脱落するのを抑制できる。
【0063】
10)さらに別な態様に係る風車翼は、1)〜9)の何れかに記載の風車翼であって、前記第1溶射層及び前記第2溶射層の合計厚さが200μm以上2000μm以下である。
【0064】
このような構成によれば、第1溶射層及び第2溶射層は上記範囲の合計厚さを有するため、第1溶射層による耐エロージョン性を保持しつつ、かつ翼本体の表面で第1溶射層及び第2溶射層をコンパクトに形成できる。なお、翼本体表面との間で段差が生じないように厚さを高精度で調整することも可能であるため、施工後においても風車翼の空力性能を高く維持できる。
【0065】
11)さらに別な態様に係る風車翼は、1)〜10)の何れかに記載の風車翼であって、前記第1溶射層の厚さは、100μm以上1000μm以下であり、前記第2溶射層の厚さは、100μm以上1000μm以下である。
【0066】
第1溶射層の厚さは、主として風車翼の先端周速によって決定され、第2溶射層の厚さは、電気抵抗率の必要性や翼本体表面の凹凸の吸収などで決定される。上記構成によれば、第1溶射層が上記厚さを有するために、風車翼先端周速に対抗し得る耐エロージョン性と被膜強度を確保できる。また、第2溶射層が上記厚さを有するため、電気抵抗率を低下させて必要な電気伝導性を確保する断面積を確保することができる。さらに、翼本体表面の凹凸により第2溶射層も凹凸となる影響で、第1溶射層の厚さにむらができて耐エロージョン性と被膜強度を確保できなくなるリスクを無くすため、十分な厚さを持たせて凹凸を吸収することができる。
【0067】
12)さらに別な態様に係る風車翼は、1)〜11)の何れかに記載の風車翼であって、前記翼本体は、前記第1導電部に接続されるレセプタ(チップレセプタ50(50a)及びディスクレセプタ50(50b))を備え、前記レセプタは前記第2溶射層に接続されている。
【0068】
このような構成によれば、レセプタが第2溶射層及び第1導電部に接続されているため、第1溶射層やレセプタに落雷したとき、第1溶射層又はレセプタに帯電した落雷電流を、第2溶射層及び第1導電部を介して速やかにグランド側へ流すことができる。
【0069】
13)さらに別な態様に係る風車翼は、12)に記載の風車翼であって、前記レセプタは、前記翼本体の前記翼先端に設けられたチップレセプタ(50(50a))を含むと共に、前記チップレセプタは前記第2溶射層に接続され、前記チップレセプタと前記グランドとを電気的に接続する第2導電部(52)を備える。
【0070】
このような構成によれば、第1溶射層に落雷した落雷電流は、第2溶射層及び第1導電部を介してグランド側へ流れる導電路と、チップレセプタから第2導電部を介してグランド側へ流れる導電路と、2つの導電路を形成できる。そのため、第1溶射層に帯電した落雷電流を速やかにグランド側へ流すことができる。これによって、第1溶射層の損傷を効果的に抑制できる。
【0071】
14)さらに別な態様に係る風車翼は、13)に記載の風車翼であって、前記第2導電部の電気抵抗率は前記第2溶射層の電気抵抗率より小さくなるように構成されている。
【0072】
このような構成によれば、チップレセプタに落ちた落雷により発生した落雷電流を第2導電部を経由してグランド側へ流すことができる。従って、第2溶射層を経由してグランド側へ流す落雷電流を抑制できるため、第1溶射層及び第2溶射層の損傷を抑制できる。
【0073】
15)さらに別な態様に係る風車翼は、12)〜14)の何れかに記載の風車翼であって、前記レセプタは、前記第1溶射層に互いに離散して設けられた複数のディスクレセプタ(50(50b))を含む。
【0074】
このような構成によれば、複数のディスクレセプタが第1溶射層に離散して設けられているため、落雷を複数のディスクレセプタに誘導できる。従って、第1溶射層への落雷を減らすことができるため、第1溶射層の損傷を抑制できる。また、第1溶射層に落雷した場合、落雷電流をすぐに直近のディスクレセプタに誘導できる。
【解決手段】翼根から翼先端に向かって翼長方向に沿って延在する翼本体と、翼本体のうち少なくとも翼先端側における前縁を覆うように設けられ、翼本体の前縁のエロージョンを抑制するための第1溶射層と、翼本体と第1溶射層との間に形成され、第1溶射層より電気抵抗率が小さい第2溶射層と、第2溶射層をグランドに電気的に接続する第1導電部と、を備える風車翼を提供する。