特許第6838183号(P6838183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6838183
(24)【登録日】2021年2月15日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】校正作業補助装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20210222BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20210222BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   G01S7/40 126
   G01S13/931
   G01M17/007 H
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-55476(P2020-55476)
(22)【出願日】2020年3月26日
【審査請求日】2020年9月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】里 廉太郎
【審査官】 渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2019/0391233(US,A1)
【文献】 特開2008−203179(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/139129(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0293817(US,A1)
【文献】 特開2014−234994(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2019/0331482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − 7/64
13/00 − 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(61)に搭載されて前記車両(61)の周囲の物体を検出する物体検知装置(63)の軸調整作業であって、工場(60)の床面に設置される作業補助ツール(33)を用いて行われる前記軸調整作業を補助する校正作業補助装置(10)において、
前記軸調整作業を行う工場(60)の作業環境データを記憶する記憶部(15)と、
前記軸調整作業を行う対象車両(61)の情報及び前記作業環境データに基づいて決定され、前記軸調整作業を行う際に作業環境を設定するための設定情報を提示する提示部(25)と、
を備え
前記作業環境データは、少なくとも、前記対象車両(61)の車輪の設置面及び前記作業補助ツール(33)の設置面間の高低差の情報を含み、
前記設定情報は、作業者により設置される前記作業補助ツール(33)の配置位置、前記対象車両(61)との距離、高さ位置又は仰角のうちの少なくとも一つの情報を含む、ことを特徴とする校正作業補助装置。
【請求項2】
前記設定情報は、前記軸調整作業に使用する作業補助ツール(33)の設置位置の高さ調整用のシムの高さ又は個数の情報をさらに含む、ことを特徴とする請求項に記載の校正作業補助装置。
【請求項3】
前記作業補助ツール(33)は、前記物体検知装置(63)としてのレーダセンサ又は超音波センサの少なくとも一方からの放射波を反射するリフレクタ(33)を含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の校正作業補助装置。
【請求項4】
前記作業補助ツール(33)は、前記車両(61)側から見て前記リフレクタ(33)の後方に配置されて前記物体検知装置(63)としてのレーダセンサ(63)からの放射波を吸収する吸収体を含む、ことを特徴とする請求項に記載の校正作業補助装置。
【請求項5】
前記作業補助ツール(33)は、前記物体検知装置(63)としての撮像カメラに撮影させる検査板を含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の校正作業補助装置。
【請求項6】
前記軸調整作業の完了時に、前記作業環境データ及び前記設定情報を含む作業報告書のデータを生成する作業依頼処理部(21)をさらに備える、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の校正作業補助装置。
【請求項7】
前記作業依頼処理部(21)は、前記作業報告書の書換えを不可能とするために前記作業報告書のデータにロックをかける、ことを特徴とする請求項に記載の校正作業補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された物体検知装置の軸調整作業を補助するための校正作業補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両には、先行車両や他車両、歩行者、障害物等の車両の周囲の物体との衝突を防止するための衝突防止装置や、先行車両との車間距離を一定の範囲内に保持するための車間距離制御装置、車線からのはみ出しを注意喚起したりはみ出しをしないようにステアリングを制御したりする運転支援装置等(以下、これらの車載装置をまとめて「運転支援装置」と総称する)が搭載されている。このような運転支援装置を搭載した車両には、ミリ波電磁波や超音波等の放射波を利用して物体を検出するレーダセンサや、レーザ波やレーザ光を利用して物体を検出するLiDAR、撮像画像の解析により物体を検出する撮像カメラ等の物体検出装置が備えられている。
【0003】
物体検知装置には、車両に対する周囲の物体の位置や方位、距離を高精度に検出することが求められるため、放射波の軸方向や、レーザ光又は撮像カメラの光軸方向を適切に調整しておく必要がある。このため、放射波の軸方向や、レーザ光又は撮像カメラの光軸方向を調整する軸調整作業(「エイミング作業」ともいう)が行われる。
【0004】
例えば、特許文献1には、撮像カメラの光軸調整及びレーダ装置の角度軸調整を行う軸調整装置であって、より省スペース化を図り、より作業効率を向上させた軸調整装置が提案されている。具体的に、特許文献1の軸調整装置のターゲット部は、ミリ波レーダセンサから送信されるレーダ波を反射するリフレクタの反射面側にターゲットボードが接着され、ターゲット部はアーム部に連結され、アーム部を上下方向に回動することでターゲット部の開閉状態を変更することができる軸調整装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−156609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような物体検知装置の校正作業を高精度に行うには、校正作業に適した環境が整っている必要がある。例えば、校正作業を高精度に行うには、車両及びリフレクタ等の作業補助ツールの設置位置が平面かつ水平であり、作業ピットの照度が一定であり、かつ、車両の周囲に所定以上の空間があることが必要となる。このうち、リフレクタ等の作業補助ツールの設置位置や高さ位置は、車種によって変わり得ることから、これらの作業補助ツールを適切に配置した作業環境を整えることは容易ではない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、車両に搭載された物体検知装置の軸調整作業を行うための作業環境を適切に整えるための設定情報を提示して、軸調整作業を高精度に実施できるようにする校正作業補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある観点によれば、工場の床面に設置される作業補助ツールを用いて、車両に搭載されて車両の周囲の物体を検出する物体検知装置の軸調整作業を補助する校正作業補助装置であって、軸調整作業を行う工場の作業環境データを記憶する記憶部と、軸調整作業を行う対象車両の情報及び作業環境データに基づいて決定され、軸調整作業を行う際に作業環境を設定するための設定情報を提示する提示部と、を備え、作業環境データは、少なくとも、対象車両の車輪の設置面及び作業補助ツールの設置面間の高低差の情報を含み、設定情報は、作業者により設置される作業補助ツールの配置位置、対象車両との距離、高さ位置又は仰角のうちの少なくとも一つの情報を含む校正作業補助装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、車両に搭載された物体検知装置の軸調整作業を行うための作業環境を適切に整えるための設定情報を提示して、軸調整作業が高精度に実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る校正作業補助装置を備えた校正作業管理システムの全体構成例を示す模式図である。
図2】作業ピットの条件を説明するための模式図である。
図3】同実施形態に係る校正作業管理システムの全体構成例を示す説明図である。
図4】作業環境の設定情報を説明するための図である。
図5】校正作業管理システム全体の処理フローを示すフローチャートである。
図6】同実施形態に係る校正作業補助装置が実行する処理を示すフローチャートである。
図7】同実施形態に係る校正作業補助装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<1.校正作業管理システム>
まず、本発明の一実施形態に係る校正作業補助装置を適用可能な校正作業管理システムの一例を説明する。図1は、本実施形態に係る校正作業管理システム100の全体構成の一例を示す模式図である。
【0013】
(概略)
車両61には、例えば、長距離レーダセンサ、中距離レーダセンサ、LiDAR、フロントカメラ、バックカメラ、ナイトビジョンカメラ、近接カメラ、超音波センサのうちの少なくとも一つを含む車両物体検知装置が搭載される。軸調整作業では、これらの車両物体検知装置の放射波あるいは光軸の軸方向が車両61に対して適切な方向を向くように物体検知装置の向きが調整される。
【0014】
校正作業管理システム100において、校正作業補助装置10は、システム管理サーバとして機能し、認定工場60の作業者による物体検知装置の軸調整作業の適切な実施を補助する。車両61に搭載された物体検知装置の軸調整作業の依頼者3が作業依頼の申請を校正作業補助装置10へ送信すると、校正作業補助装置10は、認定工場60へ作業依頼を通知する。作業依頼の通知を受けた認定工場60の作業者が依頼内容に沿って軸調整作業を実施する。
【0015】
作業者は、軸調整作業の完了時に作業内容や作業条件等のデータを校正作業補助装置10へ送信する。校正作業補助装置10は、受信したデータに基づいて作業報告書を生成し、作業報告書のデータを保存する。校正作業補助装置10は、データベースに保存する作業報告書のデータに対して、書換えを不可能とするためのロックをかけてもよい。また、校正作業補助装置10は、軸調整作業が適正に行われたことを証明する作業証明書を発行して、依頼者3及びシステム管理者1へ作業完了の連絡を通知する。依頼者3、認定工場60及びシステム管理者1は、データベースに保存された作業報告書を適宜閲覧することができる。
【0016】
校正作業補助装置10は、認定工場60において軸調整作業が適切に実施されるように、軸調整作業を行う作業環境を設定するための設定情報を認定工場60に対して提示する。設定情報は、軸調整作業を行う対象車両61の情報と、あらかじめ登録された認定工場60の作業環境データとに基づいて設定される。これにより、認定工場60の作業者が、提示される設定情報にしたがって対象車両61に対するリフレクタ等の作業補助ツールの距離や配置位置を調整することにより、軸調整作業が適切に実施される。
【0017】
校正作業管理システム100では、あらかじめ所定の条件を満たす認定工場60が登録される。認定工場60として登録可能となる条件は、例えば、以下の条件を含む。
A1:作業ピットのサイズ(広さ)
A2:作業ピットの高低差及び水平度
A3:直射日光の日射状態及び作業照度
A4:軸調整作業の実施能力
【0018】
条件A1は、少なくとも1種の物体検知装置の軸調整作業を実施するために最低限必要な作業ピットのサイズを規定したものである。具体的に、条件A1は、間口及び奥行きのそれぞれの最低限の寸法を規定する。
【0019】
条件A2は、高さ調整用のシムを利用することにより車両61の四輪の設置面及び作業補助ツールの設置面を水平な平面に設定できることを規定したものである。例えば、条件A2は、それぞれの設置面間の高低差が10mm以内、それぞれの設置面の水平角度が±0.5°以下、及びすべての設置面の平面度が1°以下であることを規定する。
【0020】
条件A3は、軸調整作業時の明るさ又は発生する明暗の差の許容範囲を規定したものである。物体検知装置が撮像素子を備えた撮像カメラである場合、例えば、条件A3は、軸調整作業時に直射日光を遮断できること及び軸調整作業時の明るさ(明度、照度、あるいは輝度)が所定範囲内であることを規定する。
【0021】
条件A4は、言うまでもなく、当該認定工場60において、物体検知装置の軸調整作業を遂行可能であることを規定したものである。
【0022】
図2は、作業ピット30の条件を説明するための模式図である。例えば、車両61に搭載されたミリ波レーダ63の軸調整作業を実施する場合、作業ピットの奥行きLは、少なくとも、リフレクタ33の調整作業に必要なスペースAと、ミリ波レーダ63からリフレクタ33の反射面までの距離Bと、対象とする一種又は複数種の車両61を停車可能な停車スペースCとを確保できる長さが必要とされる。種類の異なる複数の物体検知装置が車両61に搭載されていることを想定すると、最も大きな奥行きが必要な物体検知装置を基準として、作業ピット30に必要な奥行きLが規定される。図示しないが、車両61の側方あるいは後方の物体を検知する物体検知装置の軸調整作業においても同様のスペースが必要になり、作業ピット30の間口Wが規定される。
【0023】
また、作業ピット30の床面Fには、少なくとも車両61の四輪の設置面とリフレクタ33の設置面とが水平な平面であることが必要とされる。この条件は、床面Fそのものが水平な平面であってもよいし、高さ調整用のシムを利用してリフレクタ33の設置面を車両61の四輪の設置面に一致させてもよい。このため、高さ調整用のシムにより調整可能な範囲内の高低差の誤差を許容しつつ、上記の条件A2を満たすことが規定される。
【0024】
システム管理者1は、あらかじめ認定工場60としての登録申請のあった整備工場等を現地確認し、登録可能となる条件を満たす整備工場等を認定工場60として校正作業補助装置10に登録する。その際に、整備工場ごとに、作業ピットのサイズ、高低差及び水平度の情報を含む作業環境データが記憶される。
【0025】
(全体構成例)
図3は、本実施形態に係る校正作業管理システム100の全体構成例を示す説明図である。校正作業管理システム100は、校正作業補助装置10、管理者端末40、依頼者端末50及び作業者端末70を備える。管理者端末40は、システム管理者1が利用する端末装置である。依頼者端末50は、軸調整作業の依頼者が利用する端末装置である。作業者端末70は、認定工場60において利用される端末装置である。依頼者は、例えば、車両61の所有者から車両61の整備作業あるいは点検の依頼を受けた業者である。システム管理者1が依頼者である場合、管理者端末40が依頼者端末50でもあり得る。
【0026】
校正作業補助装置10、管理者端末40、依頼者端末50及び作業者端末70は、例えばWi−fiや移動体通信等の通信ネットワーク5を介して互いに通信可能に構成されている。通信ネットワーク5は、無線又は有線のいずれの通信ネットワークであってもよい。また、通信ネットワーク5は、校正作業管理システム100の専用回線であってもよい。
【0027】
管理者端末40、依頼者端末50及び作業者端末70は、ラップトップ型のコンピュータや携帯型端末装置等の汎用のコンピュータ装置から構成されてもよく、校正作業管理システム100の専用端末装置であってもよい。システム管理者1、依頼者3及び認定工場60の作業者は、それぞれ管理者端末40、依頼者端末50及び作業者端末70を介して校正作業補助装置10へアクセス可能になっている。
【0028】
管理者端末40は、通信部41、入力部45、表示部47、制御部43及び記憶部49を備える。通信部41は、通信ネットワーク5を介して校正作業補助装置10と通信するためのインタフェースである。通信部41は、通信ネットワーク5の通信方式に適合する無線通信用あるいは有線通信用のインタフェースにより構成される。入力部45は、操作者による入力操作を受け付ける構成要素である。入力部45は、例えば、キーボードやマウス、タッチパネルの少なくとも一つを含む。表示部47は、種々のテキストデータや画像データ等を表示する構成要素である。表示部47は、例えば、光学パネルであってもよい。
【0029】
制御部43は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサや電気回路を備えて構成される。制御部43の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。記憶部49は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の記憶素子、あるいは、HDD(Hard Disk Drive)やCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、SSD(Solid State Drive)、USB(Universal Serial Bus)フラッシュ、ストレージ装置等の記憶媒体の少なくとも一つを含む。記憶部( )は、CPU等により実行される演算処理のプログラムや、演算処理に用いられる種々の演算パラメータ、取得したデータ、演算結果等を記憶する。
【0030】
管理者端末40の制御部43は、入力部45を介して入力されるシステム管理者1の操作に基づいて所定の演算処理を実行する。制御部43は、表示部47の表示動作を制御する機能も有している。制御部43は、校正作業管理システム100の操作画面を表示部47に表示させる。また、制御部43は、システム管理者1が入力する入力データあるいは演算処理の結果を、表示部47に表示させ、あるいは、校正作業補助装置10へ送信する。システム管理者1が入力する入力データは、認定工場60の作業環境データを含む。また、制御部43は、校正作業補助装置10から取得した情報を表示部47に表示させる。表示される情報は、軸調整作業の作業報告書の情報を含む。
【0031】
依頼者端末50は、通信部51、入力部55、表示部57、制御部53及び記憶部59を備える。これらの各部は、基本的に、管理者端末40の対応する各部と同様に構成される。依頼者端末50の制御部53は、入力部55を介して入力される依頼者3の操作に基づいて所定の演算処理を実行する。制御部53は、校正作業管理システム100の操作画面を表示部57に表示させる。また、制御部53は、依頼者3が入力する入力データあるいは演算処理の結果を、表示部57に表示させ、あるいは、校正作業補助装置10へ送信する。依頼者3が入力する入力データは、例えば、指定する認定工場60のデータ又は軸調整作業の対象車両61のデータを含む。また、制御部53は、校正作業補助装置10から取得した情報を表示部57に表示させる。表示される情報は、軸調整作業の作業報告書の情報を含む。
【0032】
作業者端末70は、通信部71、入力部75、表示部77、制御部73及び記憶部79を備える。これらの各部は、基本的に、管理者端末40の対応する各部と同様に構成される。作業者端末70の制御部73は、入力部75を介して入力される依頼者3の操作に基づいて所定の演算処理を実行する。制御部73は、校正作業管理システム100の操作画面を表示部77に表示させる。また、制御部73は、作業者が入力する入力データあるいは演算処理の結果を、表示部77に表示させ、あるいは、校正作業補助装置10へ送信する。制御部73は、校正作業補助装置10から取得した情報を表示部77に表示させる。表示される情報は、軸調整作業を行う際に作業環境を設定するための設定情報を含む。作業者が入力する入力データは、例えば、対象車両61のデータ、対象車両61に搭載された物体検知装置のデータ、軸調整作業の作業条件のデータ、作業内容のデータ、作業日時のデータ、作業担当者のデータ及び作業結果のデータを含む(以下、これらのデータを「作業データ」ともいう)。また、制御部73は、入力された作業データを校正作業補助装置10へ送信する。
【0033】
校正作業補助装置10は、例えばクラウドサーバであってもよい。校正作業補助装置10の具体的な構成例は、後で詳しく説明し、ここでは、校正作業補助装置10の機能について説明する。校正作業補助装置10は、依頼者端末50から軸調整作業の依頼を申請するメッセージを受信し、作業者端末70へ作業依頼を通知するメッセージを送信する。このとき、依頼者が特定の認定工場60を指定してもよく、校正作業補助装置10が適当な認定工場60を指定してもよい。また、校正作業補助装置10は、指定された認定工場60の作業環境データを参照し、対象車両61の軸調整作業を行う際に作業環境を設定するための設定情報を設定する。校正作業補助装置10は、設定した設定情報を作業者端末70に対して送信する。送信された設定情報は、作業者端末70が表示装置へ表示する等により作業者に提示される。作業者は、設定情報を参照しながら対象車両61に合わせて作業環境を整え、軸調整作業を実施する。これにより、軸調整作業を高精度に実施することができる。
【0034】
また、軸調整作業を完了した作業者は、作業者端末70を操作して、実施した作業内容及び作業結果等の作業データを入力する。作業者端末70は、入力された作業データを校正作業補助装置10へ送信する。校正作業補助装置10は、作業者端末70から送信される作業データに基づいて作業報告書のデータを生成し、データベース15に保存する。保存される作業報告書のデータは、書換えを不可能とするためにロックがかけられてもよい。また、校正作業補助装置10は、作業報告書の作成が完了したことを通知するメッセージを、管理者端末40及び依頼者端末50へ送信する。このとき、校正作業補助装置10は、校正作業管理システム100に登録された認定工場60による軸調整作業が完了したことを証する作業報告書のデータを生成してもよい。
【0035】
作業報告書の作成完了の通知を受けた依頼者3は、軸調整作業が完了したことを車両61の所有者へ報告する。システム管理者1、依頼者3及び作業者は、適宜校正作業補助装置10のデータベース15へアクセスして、作業報告書の内容を参照し、及び、作業報告書を取得することができる。
【0036】
なお、管理者端末40あるいは依頼者端末50と校正作業補助装置10とを接続する通信ネットワークは、作業者端末70と校正作業補助装置10とを接続する通信ネットワーク5と共通のネットワークであってもよく、異なるネットワークであってもよい。また、本実施形態に係る校正作業管理システム100においては、通信ネットワーク5を介して、管理者端末40、依頼者端末50あるいは作業者端末70と校正作業補助装置10との通信が行われる。ただし、管理者端末40、依頼者端末50あるいは作業者端末70と校正作業補助装置10との間で行われるデータの送受信の一部が、通信ネットワーク5を介して行われなくてもよい。例えば、システム管理者1、依頼者3あるいは認定工場60の相互間で、書面あるいは電子メール等の手段によりメッセージが伝達されてもよい。
【0037】
<2.校正作業補助装置の構成例>
以下、図3を参照して、本実施形態に係る校正作業補助装置10の構成例を説明する。
【0038】
校正作業補助装置10は、通信部11、制御部13、記憶部14及びデータベース15を備える。通信部11は、通信ネットワーク5を介して管理者端末40、依頼者端末50及び作業者端末70と通信するためのインタフェースである。通信部11は、通信ネットワーク5の通信方式に適合する無線通信用あるいは有線通信用のインタフェースにより構成される。管理者端末40、依頼者端末50又は作業者端末70と校正作業補助装置10との間の通信ネットワーク5が互いに異なる場合には、通信部11は、複数の通信インタフェースを含んでいてもよい。
【0039】
記憶部14及びデータベース15は、RAM又はROM等の記憶素子、あるいは、HDDやCD、DVD、SSD、USBフラッシュ、ストレージ装置等の記憶媒体の少なくとも一つを含んで構成される。記憶部14及びデータベース15は、一つの記憶部として構成されてもよく、別の記憶部として構成されてもよい。記憶部14は、制御部13により実行される演算処理のプログラム及び当該プログラムの実行に用いる種々のパラメータ等を記憶する。
【0040】
データベース15は、校正作業管理システム100に登録された認定工場60の作業環境データを記憶する。作業環境データは、作業ピットのサイズ、高低差及び水平度の情報を含み、認定工場60ごとに登録される。作業環境データは、それぞれの認定工場60の環境条件に応じて個別の情報を含んでいてもよい。例えば、直射日光が差し込み得る窓の有無の情報を含んでいてもよい。また、データベース15は、作業依頼処理部21により生成される作業報告書のデータを記憶する。データベース15に記憶されるデータは、管理者端末40、依頼者端末50又は作業者端末70から常時アクセス可能に保存される。データベース15に保存されたデータへのアクセスに制限がかけられていてもよい。
【0041】
制御部13は、例えばCPU又はMPU等のプロセッサや電気回路を備えて構成される。制御部13の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御部13は、作業依頼処理部21、設定情報決定部23及び提示部25を備える。これらの作業依頼処理部21、設定情報決定部23及び提示部25は、CPU等のプロセッサによるプログラムの実行により実現される機能であってもよい。
【0042】
作業依頼処理部21は、依頼者端末50又は作業者端末70から送信される、軸調整作業の依頼を申請するメッセージ(以下、「作業依頼申請」ともいう)を受信して、所定の処理を実行する。作業依頼処理部21は、作業依頼申請を受信したときに、依頼者が指定した認定工場60の作業者端末53、あるいは、データベース15に登録された認定工場のうちの適当な認定工場60の作業者端末70へ、作業依頼を通知するメッセージ(以下、「作業依頼連絡」ともいう)を送信する。
【0043】
また、作業依頼処理部21は、作業者端末70から送信される作業データを受信したときに、作業データに基づいて所定の形式の作業報告書を生成して、当該作業報告書のデータをデータベース15に保存する。作業報告書のデータは、例えば、作業日時、認定工場、対象車両61、作業内容、作業条件、作業担当者及び作業結果のデータを含む。作業依頼処理部21は、作業報告書のデータをデータベース15に保存する際に、作業報告書のデータの書換えを不可能とするロックをかける。また、作業依頼処理部21は、作業報告書のデータをデータベース15に保存した後、管理者端末40及び依頼者端末50へ、作業報告書の作成完了を通知するメッセージ(以下、「作業完了報告」ともいう)を送信する。
【0044】
設定情報決定部23は、軸調整作業の対象車両61の情報、及び、データベース15に保存された認定工場60の作業環境データに基づいて、認定工場60で軸調整作業を行う際に作業環境を設定するための設定情報を決定する。設定情報は、対象車両61に搭載された一つ又は複数の物体検知装置の種類や位置に対して、適切な位置、高さ、角度で作業補助ツールが設定されるようにするための条件である。作業補助ツールは、放射波を反射するリフレクタや、撮像カメラに撮影させる検査板を含む。
【0045】
例えば、設定情報は、作業補助ツールの配置位置、対象車両61との距離、高さ位置又は仰角のうちの少なくとも一つの情報を含んでいてもよい。リフレクタ33の設置位置は、図4に示した二つのリフレクタ33のそれぞれの位置関係を規定する情報である。リフレクタ33の高さ位置は、例えば、リフレクタ33の設置面Fからリフレクタ33を支持するバー34までの高さHを規定する情報であってもよい。リフレクタ33の仰角は、水平面に対してリフレクタ33の反射面が成す角度を規定する情報である。かかる設定情報は、物体検知装置からの放射波の反射角度に影響する情報であり、対象車両61の車種や搭載された物体検知装置の種類に基づいてあらかじめ定められる。
【0046】
また、物体検知装置がミリ波レーダ63である場合、設定情報は、ミリ波を吸収する吸収体の設置位置、高さ位置又は仰角のうちの少なくとも一つの情報を含んでいてもよい。かかる吸収体は、ミリ波レーダから放射されたミリ波が、リフレクタ33以外で反射されてミリ波レーダに検知されることを抑制するための部材であり、ボードの表面に凹凸が設けられている。かかる吸収体の設置位置や角度によってミリ波の吸収度合が変わり、軸調整作業への影響度合いが変わり得る。かかる設定情報のうちの設置位置の情報は、システム管理者1が認定工場60を現地確認した際に行われる測量に基づいて設定される。
【0047】
また、設定情報は、リフレクタ33等の作業補助ツールの設置位置の高さ調整用のシムの高さ又は個数の情報を含んでもよい。例えば、作業ピット30の床面Fのうち、車両61の四輪の設置面の高さと、リフレクタ33の設置面の高さとが異なる場合、両者を一致させるためのシムの高さを規定する。高さの異なる複数のシムが準備されている場合には選択すべきシムの高さを規定すればよく、一定の高さのシムが準備されている場合には用いるシムの数を規定すればよく、これらを組み合わせてもよい。かかる設定情報は、作業環境データの作業ピット30の床面Fの高さの情報に基づいて決定することができる。
【0048】
提示部25は、設定情報決定部23により決定された設定情報を作業者端末70へ送信する。設定情報を受信した作業者端末70の制御部73は、設定情報を表示部77へ表示させる。これにより、設定情報が作業者に提示される。作業者は、提示された設定情報にしたがって作業環境を設定し、物体検知装置の軸調整作業を実施する。その結果、放射波の軸方向や、撮像カメラや赤外線レーザの光軸方向が正しい方向に向けられて物体検知装置が所望の検知結果を取得するように、物体検知装置の向きを調整することができる。
【0049】
<3.校正作業管理システムの処理フロー>
次に、図5及び図6を参照して、校正作業管理システム100を用いた校正作業管理の処理フローを説明する。図5は、校正作業管理システム100全体の処理フローを示す。
【0050】
図5において、依頼者3は、依頼者端末50を操作し、作業依頼内容を入力して校正作業補助装置10へ作業依頼申請を送信する(ステップS11)。作業依頼内容は、対象車両61の車種、搭載されている物体検知装置の種類、依頼する軸調整作業の内容の情報を含む。作業依頼内容は、認定工場60の情報を含んでもよい。作業依頼申請を受信した校正作業補助装置10は、依頼者3が指定した認定工場60あるいは適宜選択される認定工場60へ作業依頼連絡を送信するとともに、作業環境を整えるための設定情報を提示する処理を実行する(ステップS13)。設定情報を提示する処理は、作業依頼連絡の送信と同時に行われてもよく、作業者端末70からのリクエストを受信したときに行われてもよい。
【0051】
図6は、ステップS13において校正作業補助装置10が実行する処理を示すフローチャートである。まず、校正作業補助装置10の作業依頼処理部21は、依頼者端末50から作業依頼申請を受信する(ステップS21)。これに伴って、作業依頼処理部21は、作業依頼連絡を、所定の認定工場60の作業者端末70へ送信する(ステップS23)。次いで、設定情報決定部23は、データベース15に記憶された認定工場60の作業環境データを参照するとともに、作業依頼内容の情報に照らして作業環境を整えるための設定情報を決定する(ステップS25)。設定情報は、作業補助ツールの配置位置、対象車両61との距離、高さ位置又は仰角のうちの少なくとも一つの情報を含む。また、設定情報は、作業補助ツールの設置位置の高さ調整用のシムの高さ又は数の情報を含んでもよい。次いで、提示部25は、決定された設定情報を作業者端末70へ送信する(ステップS27)。
【0052】
図5に戻り、校正作業補助装置10から提供された設定情報を受信した作業者は、設定情報を参照して作業環境を整え、物体検知装置の軸調整作業を実施する(ステップS15)。軸調整作業の具体的な内容は、従来公知の方法であってよいため、ここでの説明は省略する。次いで、軸調整作業を完了した作業者は、作業者端末70を操作して、作業内容及び作業結果等の作業データを入力し、校正作業補助装置10へ作業データを送信する(ステップS17)。作業データを受信した校正作業補助装置10は、作業報告書のデータを生成してデータベース15へ保存するとともに、依頼者3及びシステム管理者1へ作業報告書の作成完了を通知するメッセージを送信する処理を実行する(ステップS19)。
【0053】
図9は、ステップS19において校正作業補助装置10が実行する処理を示すフローチャートである。校正作業補助装置10の作業依頼処理部21は、作業者端末70から受信した作業データに基づいて作業報告書のデータを生成する(ステップS31)。次いで、作業依頼処理部21は、作業報告書のデータに、書換えを不可能とするロックをかけて、作業報告書のデータをデータベース15に保存する(ステップS33)。次いで、作業依頼処理部21は、校正作業管理システム100に登録された認定工場60による軸調整作業が完了したことを証する証明書(鑑定書)のデータを生成し、依頼者3へ作業完了報告のメッセージを送信する(ステップS35)。作業依頼処理部21は、証明書のデータを添付して作業完了報告のメッセージを送信してもよい。また、作業依頼処理部21は、同時にシステム管理者1に作業完了報告のメッセージを送信してもよい。
【0054】
作業完了報告のメッセージを受信した依頼者3あるいはシステム管理者1は、データベース15に保存された作業報告書のデータへアクセスすることにより、作業内容及び作業結果をいつでも確認することができる。データベース15に保存される作業報告書のデータに、依頼者3の識別データを紐づけて、当該作業報告書のデータにアクセス可能なユーザに制限をかけてもよい。
【0055】
以上説明したように、本実施形態に係る校正作業補助装置10を備えた校正作業管理システム100によれば、それぞれの認定工場60の作業環境データが登録されていることから、軸調整作業の対象車両61に応じて作業環境を整えるための設定情報を提供することができる。このため、従来高い技術や経験、時間を要した軸調整作業を短時間で正確に実施することができる。また、高精度の軸調整作業を実施したことを証する作業報告書のデータを保存することができるため、物体検知装置を備えた車両61の信頼性を向上させることができる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0057】
10…校正作業補助装置、13…制御部、15…記憶部、21…作業依頼処理部、23…設定情報決定部、25…提示部、33…作業補助ツール、61…車両、63…物体検知装置、
【要約】
【課題】車両に搭載された物体検知装置の軸調整作業を行うための作業環境を適切に整えるための設定情報を提示して、軸調整作業を高精度に実施できるようにする校正作業補助装置を提供する。
【解決手段】車両(61)に搭載されて車両(61)の周囲の物体を検出する物体検知装置(63)の軸調整作業を補助する校正作業補助装置(10)は、軸調整作業を行う工場(60)の作業環境データを記憶する記憶部(15)と、軸調整作業を行う対象車両(61)の情報及び作業環境データに基づいて決定され、軸調整作業を行う際に作業環境を設定するための設定情報を提示する提示部(25)とを備える。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7