特許第6838258号(P6838258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838258
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】温間サイジング装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/24 20060101AFI20210222BHJP
   B22F 5/10 20060101ALI20210222BHJP
   B21J 5/06 20060101ALI20210222BHJP
   B21J 13/02 20060101ALI20210222BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20210222BHJP
【FI】
   B22F3/24 101Z
   B22F5/10
   B21J5/06 Z
   B21J13/02 M
   !C22C38/00 304
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-38773(P2017-38773)
(22)【出願日】2017年3月1日
(65)【公開番号】特開2018-145452(P2018-145452A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】栄田 壮亮
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−180002(JP,A)
【文献】 特開2014−005794(JP,A)
【文献】 特開2006−219706(JP,A)
【文献】 特開2004−141962(JP,A)
【文献】 実開昭63−025230(JP,U)
【文献】 実開平03−096322(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04−1/05
C22C 33/02
B21J 1/00−13/14
B21J 17/00−19/04
B21K 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の鉄系焼結体が装入され、前記焼結体を圧縮する金型と、前記金型を冷却する冷却機構とを備え、
前記金型は、前記焼結体の外周面に接するダイと、前記焼結体の内周面に接するコアロッドとを備え、
前記ダイ及び前記コアロッドそれぞれ、冷却媒体が流通する冷媒流路を有し、
前記冷却機構は、前記冷媒流路に前記冷却媒体を流通させ
前記コアロッドは、外筒部と、前記外筒部に嵌め込まれる内筒部とを有し、
前記コアロッドの前記冷媒流路は、前記内筒部の内部に形成される第1流路と、前記内筒部と前記外筒部との間に形成される第2流路とを含み、
前記第1流路及び前記第2流路はそれぞれ、前記コアロッドの軸方向に冷却媒体が流通するように形成され、
前記第1流路と前記第2流路とは、前記コアロッドの先端側でつながっており、
前記コアロッドの根元側は、前記第1流路に連通する供給口と、前記第2流路に連通する排出口とを有し、
前記内筒部の外周面には、前記第2流路となる溝が形成され、
前記内筒部の外周面と前記外筒部の内周面とは密着しており、
前記第2流路となる溝は、前記コアロッドの先端側から根元側に向かって螺旋状に形成された螺旋溝と、前記螺旋溝から前記コアロッドの根元側まで延びる直線状の直線溝とを有し、
前記螺旋溝は、前記コアロッドにおける前記ダイ内に配置される部分を含む先端側の領域に配置され、
前記直線溝は、前記先端側の領域を除く根元側の領域に配置され、
前記冷却機構は、前記第1流路を往路とし、前記第2流路を復路とする温間サイジング装置。
【請求項2】
前記外筒部が工具鋼で形成され、
前記内筒部がニッケルクロムモリブデン鋼で形成されている請求項1に記載の温間サイジング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温間サイジング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法により得られる鉄系焼結体は、複雑形状の部品を高い寸法精度で安価に製造できるなどの利点があるため、自動車部品など各種分野の機械部品に使用されている。
【0003】
より高い寸法精度を必要とする場合は、鉄系焼結体を金型で圧縮して寸法矯正を行うサイジング又はコイニング(以下、まとめて単に「サイジング」と呼ぶ)が施される。また、より高い硬度を必要とする場合は、鉄系焼結体に焼入れや焼戻しなどの熱処理が施される。
【0004】
高精度で、且つ高硬度の鉄系焼結体を得る方法の1つとして、焼結体をサイジングした後、熱処理することが知られている(例えば、特許文献3の段落[0005]を参照)。しかし、この方法では、サイジングにより生じた残留応力が、その後の熱処理によって解放され、焼結体の寸法精度が低下することがある。そのため、高い寸法精度を達成するために、焼結体にサイジングと熱処理を施した後、必要に応じて焼結体を機械加工する必要がある。
【0005】
このような問題を解決する技術として、例えば特許文献1〜3には、温間サイジングが提案されている。温間サイジングとは、鉄系焼結体を加熱してオーステナイト化した後、オーステナイト化温度(Ae1点)よりも低く、且つマルテンサイト変態開始温度(Ms点)よりも高い温度まで急冷して、その焼結体を金型で圧縮し、焼結体の寸法矯正(サイジング)と焼結体のマルテンサイト変態(焼入れ)とを金型内で同時に行う技術である。これにより、高精度で、且つ高硬度の鉄系焼結体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−137539号公報
【特許文献2】特開2006−219706号公報
【特許文献3】特開2016−141847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3には、温間サイジングの際に金型を冷却することが記載されている。例えば、特許文献2では、金型の内部に形成された溝(冷媒流路)に冷却媒体(冷却水など)を流通させて、金型(ダイ)を冷却することが開示されている(特に、特許文献2の段落[0036]〜[0038]及び図4、5などを参照)。
【0008】
しかしながら、従来技術では、金型のダイのみを冷却しており、鉄系焼結体がダイに接する外周面側からのみ冷却される。そのため、環状の鉄系焼結体の温間サイジングに際し、外周面側からのみ冷却すると、内周面側の冷却速度が不十分になるため、内周面側を十分に急冷できないことがある。この場合、冷却が不均一になるため、温間サイジング後の焼結体の寸法精度の低下や硬度の低下を招く虞がある。例えば、温間サイジングの際に金型内でマルテンサイト変態が完了せず、金型から抜き出した後にマルテンサイト変態することがある。マルテンサイト変態は体積膨張を伴うため、金型外でマルテンサイト変態が起こると、寸法バラツキが大きくなる。また、冷却速度が遅いと、部分的に残留オーステナイトが生じて残留オーステナイトの量が増えるため、硬度が低下する。そこで、焼結体を金型内に保持する時間を延ばしたり、金型(ダイ)の冷却能力を高めることが考えられるが、その場合は、生産性の低下や設備コストの増加を招く問題がある。
【0009】
そこで、環状の鉄系焼結体の冷却速度を向上させると共に均一化できる温間サイジング装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る温間サイジング装置は、
環状の鉄系焼結体が装入され、前記焼結体を圧縮する金型と、前記金型を冷却する冷却機構とを備え、
前記金型は、前記焼結体の外周面に接するダイと、前記焼結体の内周面に接するコアロッドとを備え、
前記ダイ及び前記コアロッドにはそれぞれ、冷却媒体が流通する冷媒流路を有し、
前記冷却機構は、前記冷媒流路に前記冷却媒体を流通させる。
【発明の効果】
【0011】
上記温間サイジング装置は、環状の鉄系焼結体の冷却速度を向上させると共に均一化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】温間サイジング装置に備える金型の一例を示す模式図である。
図2】実施形態1に係る温間サイジング装置に備える金型の構成を示す概略縦断面図である。
図3】コアロッドの概略縦断面図である。
図4】コアロッドの概略部分断面斜視図である。
図5】ダイの概略平面図である。
図6図5のVI−VI線で切断したダイの概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列挙して説明する。
【0014】
(1)本発明の実施形態に係る温間サイジング装置は、
環状の鉄系焼結体が装入され、前記焼結体を圧縮する金型と、前記金型を冷却する冷却機構とを備え、
前記金型は、前記焼結体の外周面に接するダイと、前記焼結体の内周面に接するコアロッドとを備え、
前記ダイ及び前記コアロッドにはそれぞれ、冷却媒体が流通する冷媒流路を有し、
前記冷却機構は、前記冷媒流路に前記冷却媒体を流通させる。
【0015】
上記温間サイジング装置は、ダイとコアロッドとを備える金型を用いて環状の鉄系焼結体(以下、単に「焼結体」と呼ぶ場合がある)を温間サイジングするものであり、焼結体の寸法矯正(サイジング)と焼結体のマルテンサイト変態(焼入れ)とを金型内で同時に行う。上記温間サイジング装置では、ダイとコアロッドのそれぞれに冷却媒体が流通する冷媒流路が設けられ、冷却機構により各々の冷媒流路に冷却媒体を流通させることで、ダイとコアロッドのそれぞれを冷却する。これにより、環状の鉄系焼結体がダイに接する外周面側からだけでなく、コアロッドに接する内周面側からも冷却されることなる。そのため、環状の鉄系焼結体を温間サイジングする際に外周面側と内周面側の両側から冷却することができ、焼結体の冷却速度を向上させつつ、焼結体を均一に冷却することができる。
【0016】
したがって、上記温間サイジング装置は、環状の鉄系焼結体の冷却速度を向上させると共に均一化できる。この温間サイジング装置によれば、環状の鉄系焼結体全体を急冷できるため、金型内でマルテンサイト変態を短時間で完了させることができ、焼結体の寸法バラツキが小さくなり、生産性も向上する。また、残留オーステナイトの生成が抑制されるので、残留オーステナイトの量が減り、部分的な硬度低下が抑制されることから、温間サイジング後の焼結体の硬度を均一に保つことができる。よって、上記温間サイジング装置によれば、高精度で、且つ高硬度の環状の鉄系焼結体を得ることができる。
【0017】
(2)上記温間サイジング装置の一態様として、次のものが挙げられる。
前記コアロッドは、外筒部と、前記外筒部に嵌め込まれる内筒部とを有し、
前記冷媒流路は、前記内筒部の内部に形成される第1流路と、前記内筒部と前記外筒部との間に形成され、前記コアロッドの先端側で前記第1流路につながる第2流路とを含み、
前記冷却機構は、前記第1流路及び前記第2流路のうち、一方の流路を往路とし、他方の流路を復路として、前記冷媒流路に前記冷却媒体を流通させる。
【0018】
冷媒流路が、内筒部の内部に形成される第1流路と、内筒部と外筒部との間に形成される第2流路とを含んで構成されていることで、簡易な構成で冷媒流路を実現でき、コアロッドを冷却することができる。また、第1流路及び第2流路のうち、一方の流路を往路とし、他方の流路を復路とすることで、往路と復路とを含む冷媒流路を構成でき、冷却媒体を循環させることができる。
【0019】
(3)上記温間サイジング装置の一態様として、前記第2流路が螺旋状に形成されていることが挙げられる。
【0020】
第2流路が螺旋状に形成されていることで、コアロッドの外周面を効率的、且つ均等に冷却し易く、コアロッドを効果的に冷却できるため、十分な冷却効果を得易い。
【0021】
(4)上記温間サイジング装置の一態様として、前記第1流路を往路とし、前記第2流路を復路とすることが挙げられる。
【0022】
上記温間サイジング装置で環状の鉄系焼結体を温間サイジングする場合、加熱された環状の鉄系焼結体を金型に装入した際、環状の鉄系焼結体の内側にコアロッドの先端側が挿入された状態で配置される。第1流路を往路とし、第2流路を復路とした場合、温度の低い冷却媒体が第1流路を通ってコアロッドの先端側に送られ、冷却媒体が先端側から第2流路を通って根元側に戻されることになる。この場合、コアロッドを先端側から冷却することになるため、先端側の冷却効率を向上させることができる。温間サイジングの際、コアロッドの先端側が環状の鉄系焼結体の内周面に接するため、先端側の冷却効率を向上させることで、冷却効果を高め易い。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る温間サイジング装置の具体例を、図面を参照しつつ以下に説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0024】
[実施形態1]
(温間サイジング装置の概要)
図1図6を参照して、実施形態1に係る温間サイジング装置Aについて説明する。温間サイジング装置A(図2を参照)は、ダイ10とコアロッド20とを備える金型1を用いて環状の鉄系焼結体S(図1を参照)を温間サイジングするものであり、焼結体の寸法矯正と焼結体のマルテンサイト変態とを金型1内で同時に行う。実施形態1の温間サイジング装置Aの特徴の1つは、図2に示すように、金型1と冷却機構4とを備え、ダイ10及びコアロッド20がそれぞれ、冷却媒体が流通する冷媒流路15、25を有し、冷却機構4が冷媒流路15、25に冷却媒体を流通させる点にある。初めに、温間サイジング装置Aの概要を説明し、次いで、主な特徴部分であるダイ10及びコアロッド20の構成例を説明する。以下の説明では、便宜上、図面における紙面の上側を「上」とし、紙面の下側を「下」として説明し、金型1(ダイ10及びコアロッド20)の縦断面とは、上下方向(縦方向)に沿って切断した断面のことである(図2図3及び図6を参照)。
【0025】
(金型)
金型1は、図1に示すように、環状の鉄系焼結体Sが装入され、焼結体Sを圧縮する。金型1の構成としては、例えば、ダイ10と、ダイ10内に配置されるコアロッド20と、ダイ10とコアロッド20との間に挿通される上下一対の上パンチ30及び下パンチ31とを備える構成が挙げられる。ダイ10及びコアロッド20の形状は、焼結体Sに対応した形状である。金型1に焼結体Sを装入したとき、焼結体Sの外側にダイ10が配置され、焼結体Sの内側にコアロッド20が挿入された状態で配置される。金型1で焼結体Sを圧縮するときは、上パンチ30及び下パンチ31で焼結体Sの上下面を押圧して、上下方向から圧縮する。このとき、焼結体Sの外周面にダイ10が接し、焼結体Sの内周面にコアロッド20が接して、焼結体Sの外周面がダイ10に押し当てられると共に、焼結体Sの内周面がコアロッド20に押し当てられることで、金型1によって焼結体Sの寸法矯正(サイジング)を行う。
【0026】
(環状の鉄系焼結体)
環状の鉄系焼結体Sは、鉄系粉末(鉄粉、鉄基合金を含む)を主成分とする焼結体であり、例えば、鉄粉に銅粉、黒鉛粉などを混合した鉄系原料粉を金型で所定の形状に加圧成形した後、その圧粉体を焼結することで得られたものである。焼結体Sの組成としては、例えば、3.5〜4.5質量%のNiと、1.2〜1.8質量%のCuと、0.3〜0.7質量%のMoと、0.5〜0.9%質量のCとを含有し、残部がFeである組成が挙げられる。環状の鉄系焼結体Sとしては、例えば、自動車用オイルポンプの構成部品であるアウターロータやインナーロータなどの部品が挙げられる。後述する図2図6では、アウターロータ用の金型1(ダイ10及びコアロッド20)を例示している。図2に示す金型1では、上パンチ及び下パンチの図示を省略している。
【0027】
環状の鉄系焼結体Sは、例えば、720℃以上780℃以下の温度域にオーステナイト化温度(Ae1点)を有し、Ae1点よりも低い50℃以上350℃以下(更には150〜250℃)の温度域にマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を有することが挙げられる。焼結体SのAe1点及びMs点は組成によって決まるので、上記温度範囲に限定されるものではない。焼結体Sは、温間サイジングの前にAe1点よりも高い温度に加熱してオーステナイト化された後、Ae1点よりも低く、且つMs点よりも高い温度まで急冷される。このときの冷却速度は、組織がパーライトにならない冷却速度(例えば50℃/秒超)である。焼結体Sは、Ae1点よりも低く、且つMs点よりも高い温度域にある状態で温間サイジング装置A(図2を参照)に送られる。
【0028】
(温間サイジング装置)
温間サイジング装置A(図2を参照)では、Ae1点よりも低く、且つMs点よりも高い温度域にある環状の鉄系焼結体Sを金型1に装入し、金型1で圧縮することで、焼結体Sを温間サイジングする。温間サイジング装置Aに供給されるときの焼結体Sの温度は、例えば、Ms点が150〜250℃である場合は、270〜320℃程度である。Ae1点よりも低く、且つMs点よりも高い温度域で焼結体Sの圧縮を開始した場合、焼結体Sがマルテンサイト変態開始前であり、マルテンサイトが生成されていないため、焼結体Sを塑性変形させ易く、焼結体Sの寸法矯正が容易になる。また、金型1で焼結体Sを圧縮するときの加圧力によってMs点が一時的に上昇してマルテンサイト変態が誘起されると共に、焼結体Sが金型1に接触して急冷されるため、焼結体Sがマルテンサイト変態する。温間サイジングする際の金型1の温度は、例えば5℃以上50℃未満に冷却することが挙げられる。
【0029】
温間サイジング装置Aは、図2に示すように、金型1(ダイ10及びコアロッド20)を冷却する冷却機構4を備えており、温間サイジングする際にダイ10及びコアロッド20を冷却している。具体的には、ダイ10及びコアロッド20にはそれぞれ、冷却媒体が流通する冷媒流路15、25を有し、冷却機構4は各々の冷媒流路15、25に冷却媒体を流通させることで、ダイ10とコアロッド20のそれぞれを冷却する。
【0030】
図2図6を参照して、温間サイジング装置Aに備える金型1のダイ10及びコアロッド20の構成の一例を説明する。以下、コアロッド20について先に説明し、その後にダイ10について説明する。
【0031】
(コアロッド)
コアロッド20は、図2図4に示すように、外筒部21と、この外筒部21に嵌め込まれる内筒部22とを有し、冷媒流路25が設けられている。冷媒流路25は、内筒部22の内部に形成される第1流路251と、内筒部22と外筒部21との間に形成される第2流路252とを含む。第1流路251と第2流路252とは、コアロッド20の先端側(上側)でつながっている(図4を参照)。第1流路251及び第2流路252はそれぞれ、コアロッド20の軸方向に冷却媒体が流通するように形成されている。
【0032】
外筒部21の内部には、図3に示すように、軸方向に沿って貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔に内筒部22を嵌め込むことで、内筒部22が収納されている。外筒部21の先端側は、蓋23が嵌め込まれ、密閉されている。内筒部22の内部には、図3、4に示すように、先端側が開口し、先端側から根元側(下側)に向かって軸方向に延びる第1流路251が形成されている。また、内筒部22の外周面には、図4に示すように、先端側から根元側に向かって螺旋状に溝24が形成されている。外筒部21に内筒部22が嵌め込まれることで、内筒部22の外周面と外筒部21の内周面とが密着して、溝24により内筒部22と外筒部21との間に形成された空間が第2流路252となる。螺旋状の溝24を形成した場合、第2流路252が螺旋状に形成されることになる。外筒部21と内筒部22とは、例えば、外筒部21と内筒部22との間にクリアランスを設けて嵌め合わせ、そのクリアランスにOリング(図示せず)を入れたり、焼嵌めなどにより接合することが挙げられる。
【0033】
この例では、内筒部22の外周面に螺旋状の溝24を形成しているが、外筒部21の内周面に螺旋状の溝24を形成して、内筒部22と外筒部21との間に螺旋状の第2流路252を形成することも可能である。また、この例では、螺旋状の溝24を形成しているが、これに限定されるものではなく、例えば、周方向に間隔をあけて軸方向に延びる複数の溝を形成してもよい。この場合、内筒部22と外筒部21との間に軸方向に延びる複数の第2流路252が形成されることになる。
【0034】
冷媒流路25において、第1流路251及び第2流路252のうち、一方の流路が往路、他方の流路が復路となり、冷媒流路25には、冷却媒体が供給される供給口25i及び冷却媒体が排出される排出口25oが設けられる。この例では、第1流路251を往路とし、第2流路252を復路としており、図2図3に示すように、コアロッド20の根元側には第1流路251に連通する供給口25iと、第2流路252に連通する排出口25oとが設けられている。図2に示すように、供給口25iには後述する冷却機構4の供給ホース42aが接続され、排出口25oには排出ホース42bが接続される。第1流路251を往路とし、第2流路252を復路とした場合、供給口25iから供給された低温の冷却媒体が第1流路251を通ってコアロッド20の先端側に送られる。そして、第1流路251の先端側の開口から冷却媒体が第2流路252を通って根元側に戻り、排出口25oから排出される。
【0035】
外筒部21及び内筒部22は、例えば、炭素鋼、工具鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼などの鋼材や超硬合金で形成されている。外筒部21と内筒部22とは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。この例では、外筒部21が工具鋼で形成され、内筒部22がニッケルクロムモリブデン鋼で形成されている。
【0036】
(ダイ)
ダイ10は、図2図5及び図6に示すように、外環部11と、この外環部11に嵌め込まれる内環部12とを有し、外環部11と内環部12との間に冷媒流路15が形成されている。冷媒流路15には、冷却媒体が供給される供給口15i及び冷却媒体が排出される排出口15oが設けられる。この例では、図6に示すように、外環部11の内周面に螺旋状に溝14が形成されている。外環部11に内環部12が嵌め込まれることで、外環部11の内周面と内環部12の外周面とが密着して、溝14により外環部11と内環部12との間に螺旋状の冷媒流路15が形成されている。また、外環部11には、冷媒流路15の一端側に連通する供給口15iと、冷媒流路15の他端側に連通する排出口15oとが設けられている。図2に示すように、供給口15iには後述する冷却機構4の供給ホース41aが接続され、排出口15oには排出ホース41bが接続される。この場合、供給口15iから供給された低温の冷却媒体が冷媒流路15を通って排出口15oから排出される。外環部11と内環部12とは、例えば焼嵌めなどにより接合することが挙げられる。
【0037】
外環部11及び内環部12は、コアロッド20と同様に、例えば、炭素鋼、工具鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼などの鋼材や超硬合金で形成されている。外環部11と内環部12とは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。この例では、外環部11がニッケルクロムモリブデン鋼で形成され、内環部12が超硬合金で形成されている。
【0038】
(冷却機構)
冷却機構4は、ダイ10及びコアロッド20のそれぞれの冷媒流路15、25に冷却媒体を流通させる。冷却機構4は、図2に示すように、供給ホース41a、42aと、排出ホース41b、42bと、冷却媒体を貯留する冷却媒体タンク43とを備える。供給ホース41a、42aは、ダイ10及びコアロッド20の冷媒流路15、25の供給口15i、25iにそれぞれ接続され、冷却媒体タンク43から冷媒流路15、25に冷却媒体を供給する。排出ホース41b、42bは、ダイ10及びコアロッド20の冷媒流路15、25の排出口15o、25oにそれぞれ接続され、冷媒流路15、25から排出された冷却媒体を冷却媒体タンク43に戻す。この冷媒循環路の途中には、冷却媒体タンク43から冷却媒体を供給ホース41a、42aに圧送するポンプ(図示せず)が設けられており、これにより、ダイ10及びコアロッド20の冷媒流路15、25に冷却媒体をそれぞれ循環させることができる。冷却媒体タンク43には、冷却器(図示せず)が設けられており、冷却媒体を所定の温度に冷却する。冷却媒体の温度は、例えば5℃以上50℃未満とすることが挙げられる。冷却媒体には、適宜なものを採用すればよく、例えば水、油、ガスなどが利用できる。
【0039】
{作用効果}
上述した実施形態1に係る温間サイジング装置Aは、次の効果を奏する。
【0040】
(1)ダイ10とコアロッド20のそれぞれに冷媒流路15、25が設けられ、冷却機構4により各々の冷媒流路15、25に冷却媒体を流通させることで、ダイ10及びコアロッド20のそれぞれを冷却することができる。これにより、環状の鉄系焼結体Sを温間サイジングする際に、ダイ10に接する外周面側からだけでなく、コアロッド20に接する内周面側からも冷却することができ、焼結体Sの冷却速度を向上させつつ、焼結体Sを均一に冷却することができる。したがって、環状の鉄系焼結体Sの冷却速度を向上させると共に均一化できる。環状の鉄系焼結体Sを金型内で均一に急冷できるため、金型1内でマルテンサイト変態を短時間で完了させることができ、焼結体の寸法バラツキが小さくなる。また、残留オーステナイトの生成が抑制されるので、残留オーステナイトに起因する部分的な硬度低下が抑制され、温間サイジング後の焼結体Sの硬度を均一に保つことができる。よって、高精度で、且つ高硬度の環状の鉄系焼結体Sを得ることができる。更には、金型内保持時間を短縮して生産性を向上できる他、冷却媒体をより低温に冷却する必要がないなど、設備コストを低減することが可能である。
【0041】
(2)コアロッド20の冷媒流路25が第1流路251及び第2流路252を含んで構成されていることで、簡易に冷媒流路を構成できる。第2流路252が螺旋状に形成されていることで、コアロッド20の外周面を効率的、且つ均等に冷却し易く、コアロッド20を効果的に冷却できるため、十分な冷却効果が期待できる。
【0042】
(3)図2に示すように、コアロッド20は、その先端側がダイ10内に配置され、環状の鉄系焼結体Sを金型1に装入した際、焼結体Sの内側にコアロッド20の先端側が挿入された状態となる。コアロッド20の冷媒流路25において、第1流路251を往路とし、第2流路252を復路とした場合、低温の冷却媒体が第1流路を通ってコアロッドの先端側に送られ、冷却媒体が先端側から第2流路を通って根元側に戻される。この場合、コアロッド20を先端側から冷却することになるため、先端側の冷却効率を向上させることができる。温間サイジングの際、コアロッド20の先端側が環状の鉄系焼結体Sの内周面に接するため、先端側の冷却効率を向上させることで、冷却効果を高め易い。
【0043】
{用途}
本発明の実施形態に係る温間サイジング装置は、環状の鉄系焼結体のサイジング及び熱処理(焼入れ)に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
A 温間サイジング装置
S 環状の鉄系焼結体
1 金型
10 ダイ
11 外環部
12 内環部
14 溝
15 冷媒流路
15i 供給口
15o 排出口
20 コアロッド
21 外筒部
22 内筒部
23 蓋
24 溝
25 冷媒流路
251 第1流路
252 第2流路
25i 供給口
25o 排出口
30 上パンチ
31 下パンチ
4 冷却機構
41a、42a 供給ホース
41b、42b 排出ホース
43 冷却媒体タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6