(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリプロピレン系樹脂組成物が、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)とプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)との合計100重量部に対して、更に充填剤(D)1〜100重量部を含有する請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は条件(a−1)〜(a−3)を満足するプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)50〜99重量%と、条件(b−1)〜(b−3)を満足するプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)1〜50重量%(但し、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)とプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)との合計を100重量%とする)と、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)とプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)との合計100重量部に対して、エラストマー(C)1〜100重量部とを含有することを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物及び、この発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体である。
以下、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の構成成分、該樹脂組成物、その製造や成形、部材等の各項目について、詳細に説明する。
尚、説明を簡便にする為、本願に於いて用いる「α-オレフィン」には、エチレンを含めるものとする。
【0013】
[I]ポリプロピレン系樹脂組成物の構成成分
1.プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)
本発明に用いられるプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)(以下、単に成分(A)ともいう。)は、以下の条件(a−1)〜(a−3)を満足する。
条件(a−1)
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が50〜200g/10分である。
条件(a−2)
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)は、単独重合体部分(a1)とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)とからなり、単独重合体部分(a1)が60重量%以上100重量%未満であり(但し、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)の残部はプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)である)、かつ当該単独重合体部分(a1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100〜400g/10分である。
条件(a−3)
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)において、α−オレフィン含有量が30〜60重量%である(但し、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)のプロピレン含有量とα−オレフィン含有量との合計を100重量%とする)。
【0014】
1)条件(a−1):プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)全体のメルトフローレート
本発明に用いられるプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)は、後述する条件(a−2)に記載の通り、単独重合体部分(a1)とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)とからなるプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体である。
【0015】
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)全体のメルトフローレート(以下、MFRと記すことがある。)は、50〜200g/10分である。50〜180が好ましく、55〜160が更に好ましく、60〜140がより好ましい。MFRをこの様な範囲とすることにより、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は良好な成形加工性(流動性)と良好な物性を両立することが可能となり、引張り伸び性と特に衝撃強度を良好なものとすることが可能となる。即ち、MFRが50g/10分未満であると、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形加工性(流動性)が劣るおそれがあり、一方、200g/10分を超えると、引張り伸び性や、特に衝撃強度が低下するおそれがある。なお、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)全体のMFRは、単独重合体部分(a1)のMFRとプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)のMFRとのバランス、及び単独重合体部分(a1)の割合等により調整、決定される。
【0016】
ここで、MFRは、JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定する値であり、以下、本明細書中MFRは、特別に断りが無い限り、いずれも同様の方法で測定される値である。
【0017】
2)条件(a−2):プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)の単独重合体部分(a1)の割合、及び単独重合体部分(a1)のメルトフローレート
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)は、単独重合体部分(a1)とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)とからなり、単独重合体部分(a1)が60重量%以上100重量%未満である(但し、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)の残部はプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)である)。単独重合体部分(a1)は65重量%以上、97重量%以下が好ましく、70重量%以上、95重量%以下が更に好ましい。
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)としてこのような共重合体を用いることにより、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物において、良好な剛性を得ることが可能となる。即ち、単独重合体部分の割合が、60重量%未満であると剛性が低下するおそれがある。
【0018】
また、当該単独重合体部分(a1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、100〜400g/10分である。120〜350が好ましく、140〜300が更に好ましく、160〜250がより好ましい。MFRをこの様な範囲とすることにより、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物において、良好な成形加工性(流動性)と良好な物性を両立することが可能となり、引張り伸び性と特に衝撃強度を良好なものとすることが可能となる。即ち、単独重合体部分(a1)のMFRが100g/10分未満であると、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形加工性(流動性)が劣るおそれがあり、一方、400g/10分を超えると、引張り伸び性や、特に衝撃強度が低下するおそれがある。
【0019】
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)の単独重合体部分(a1)を60重量%以上100重量%未満とする為には、単独重合体部分(a1)の重合工程における圧力、温度、滞留時間、及びプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)の重合工程における圧力、温度、滞留時間、アルコール類/有機アルミニウム化合物のモル比を変化させることによって、調整することができる。また、当該単独重合体部分(a1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、単独重合体部分(a1)の重合(前段重合)工程において、水素濃度(水素/プロピレン比)を調整することにより調整することができる。
【0020】
3)条件(a−3):プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)のα−オレフィン含有量
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)において、α−オレフィン含有量は30〜60重量%である(但し、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)のプロピレン含有量とα−オレフィン含有量との合計を100重量%とする)。すなわちプロピレン含有量は40〜70重量%である。α−オレフィン含有量は35〜55重量%が好ましく、38〜50重量%が更に好ましい。プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)のα−オレフィン含有量をこの様な範囲とすることにより、良好な剛性と衝撃強度を達成することが可能となる。即ち、α−オレフィン含有量が30重量%未満、すなわちプロピレン含量が70重量%を超えると、剛性及び衝撃強度が低下するおそれがある。また、α−オレフィン含有量が60重量%を超える、すなわちプロピレン含量が40重量%未満であると、衝撃強度が低下するおそれがある。なお、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)のα−オレフィン含有量はプロピレン−α−オレフィンランダム共重合部分(a2)の重合(後段重合)工程において、α−オレフィン濃度を変化させることにより調節することができる。
【0021】
ここで、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)における単独重合体部分(a1)とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)の割合、およびプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)のα―オレフィン含有量の測定は、以下の装置、条件を用い、以下の手順で測定することができる。また、後述するプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)においても、同様に測定することができる。
以下にプロピレン・エチレンランダム共重合体を例に、本明細書の実施例で用いた方法を代表例として説明するが、同等の性能を有する他の装置を用いて測定を行うこともできることは言うまでもない。
【0022】
(ア)使用する分析装置
(ア−1)クロス分別装置
ダイヤインスツルメンツ社製CFC T−100(以下、CFCと略す)
(ア−2)フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析
FT−IR、パーキンエルマー社製 1760X
CFCの検出器として取り付けられていた波長固定型の赤外分光光度計を取り外して代わりにFT−IRを接続し、このFT−IRを検出器として使用する。CFCから溶出した溶液の出口からFT−IRまでの間のトランスファーラインは1mの長さとし、測定の間を通じて140℃に温度保持する。FT−IRに取り付けたフローセルは光路長1mm、光路幅5mmφのものを用い、測定の間を通じて140℃に温度保持する。
(ア−3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)
CFC後段部分のGPCカラムは、昭和電工社製AD806MSを3本直列に接続して使用する。
【0023】
(イ)CFCの測定条件
(イ−1)溶媒:オルトジクロルベンゼン(ODCB)
(イ−2)サンプル濃度:4mg/mL
(イ−3)注入量:0.4mL
(イ−4)結晶化:140℃から40℃まで約40分かけて降温する。
(イ−5)分別方法:
昇温溶出分別時の分別温度は40、100、140℃とし、全部で3つのフラクションに分別する。なお、40℃以下で溶出する成分(フラクション1)、40〜100℃で溶出する成分(フラクション2)、100〜140℃で溶出する成分(フラクション3)の溶出割合(単位:重量%)を各々W40、W100、W140と定義する。W40+W100+W140=100である。また、分別した各フラクションは、そのままFT−IR分析装置へ自動輸送される。
(イ−6)溶出時溶媒流速:1mL/分
【0024】
(ウ)FT−IRの測定条件
CFC後段のGPCから試料溶液の溶出が開始した後、以下の条件でFT−IR測定を行い、上述した各フラクション1〜3について、GPC−IRデータを採取する。
(ウ−1)検出器:MCT
(ウ−2)分解能:8cm
−1
(ウ−3)測定間隔:0.2分(12秒)
(ウ−4)一測定当たりの積算回数:15回
【0025】
(エ)測定結果の後処理と解析
各温度で溶出した成分の溶出量と分子量分布は、FT−IRによって得られる2945cm−1の吸光度をクロマトグラムとして使用して求める。溶出量は各溶出成分の溶出量の合計が100%となるように規格化する。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。
使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A50
00、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式([η]=K×Mα)には以下の数値を用いる。
(エ−1)標準ポリスチレンを使用する較正曲線作成時
K=0.000138、α=0.70
(エ−2)プロピレン−エチレンブロック共重合体のサンプル測定時
K=0.000103、α=0.78
各溶出成分のエチレン含有量分布(分子量軸に沿ったエチレン含有量の分布)は、FT−IRによって得られる2956cm−1の吸光度と2927cm−1の吸光度との比を用い、ポリエチレンやポリプロピレンや13C−NMR測定等によりエチレン含有量が既知となっているエチレン−プロピレンラバー(EPR)及びそれらの混合物を使用して予め作成しておいた検量線により、エチレン含有量(重量%)に換算して求める。
【0026】
(オ)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)
本発明におけるプロピレン−エチレンブロック共重合体中、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分(以下、エチレン・プロピレン共重合体部と記載することもある。)の比率(Wc)は、下記式(I)で理論上は定義され、以下のような手順で求められる。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/B100 …(I)
式(I)中、W40、W100は、上述した各フラクションでの溶出割合(単位:重量%)であり、A40、A100は、W40、W100に対応する各フラククションにおける実測定の平均エチレン含有量(単位:重量%)であり、B40、B100は、各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(単位:重量%)である。
A40、A100、B40、B100の求め方は後述する。
【0027】
(I)式の意味は、以下の通りである。すなわち、(I)式右辺の第一項はフラクション1(40℃に可溶な部分)に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の量を算出する項である。フラクション1がプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のみを含み、プロピレン単独重合体部を含まない場合には、W40がそのまま全体の中に占めるフラクション1由来のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量に寄与するが、フラクション1にはプロピレン・エチレンランダム共重合体部分由来の成分のほかに少量のプロピレン単独重合体部由来の成分(極端に分子量の低い成分及びアタクチックポリプロピレン)も含まれるため、その部分を補正する必要がある。そこでW40にA40/B40を乗ずることにより、フラクション1のうち、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分由来の量を算出する。例えば、フラクション1の平均エチレン含有量(A40)が30重量%であり、フラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(B40)が40重量%である場合、フラクション1の30/40=3/4(即ち75重量%)はプロピレン・エチレンランダム共重合体部分由来、1/4はプロピレン単独重合体部由来ということになる。このように右辺第一項でA40/B40を乗ずる操作は、フラクション1の重量%(W40)からプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の寄与を算出することを意味する。右辺第二項も同様であり、各々のフラクションについて、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の寄与を算出して加え合わせたものがプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量となる。
【0028】
(オ−1)上述したように、CFC測定により得られるフラクション1〜2に対応する平均エチレン含有量をそれぞれA40、A100とする(単位はいずれも重量%である)。平均エチレン含有量の求め方は後述する。
【0029】
(オ−2)フラクション1の微分分子量分布曲線におけるピーク位置に相当するエチレン含有量をB40とする(単位は重量%である)。フラクション2については、ゴム部分が40℃ですべて溶出してしまうと考えられ、同様の定義で規定することができないので、本発明では実質的にB100=100と定義する。B40、B100は各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量であるが、この値を分析的に求めることは実質的には不可能である。その理由はフラクションに混在するプロピレン単独重合体部とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を完全に分離・分取する手段がないからである。種々のモデル試料を使用して検討を行った結果、B40はフラクション1の微分分子量分布曲線のピーク位置に相当するエチレン含有量を使用すると、材料物性の改良効果をうまく説明することができることがわかった。また、B100はエチレン連鎖由来の結晶性を持つこと、および、これらのフラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の量がフラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の量に比べて相対的に少ないことの2点の理由により、100と近似する方が、実態にも近く、計算上も殆ど誤差を生じない。そこでB100=100として解析を行うこととしている。
【0030】
(オ−3)上記の理由からプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)を以下の式に従い、求める。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/100 …(II)
つまり、(II)式右辺の第一項であるW40×A40/B40は、結晶性を持たないプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の含有量(重量%)を示し、第二項であるW100×A100/100は、結晶性を持つプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の含有量(重量%)を示す。
ここで、B40およびCFC測定により得られる各フラクション1および2の平均エチレン含有量A40、A100は、次のようにして求める。
微分分子量分布曲線のピーク位置に対応するエチレン含有量がB40となる。また、測定時にデータポイントとして取り込まれる、各データポイント毎の重量割合と各データポイント毎のエチレン含有量の積の総和がフラクション1の平均エチレン含有量A40となる。フラクション2の平均エチレン含有量A100も同様に求める。
【0031】
なお、上記3種類の分別温度を設定した意義は次の通りである。CFC分析においては、40℃とは結晶性を持たないポリマー(例えば、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の大部分、もしくはプロピレン単独重合体部の中でも極端に分子量の低い成分およびアタクチックな成分)のみを分別するのに必要十分な温度条件である意義を有する。100℃とは、40℃では不溶であるが100℃では可溶となる成分(例えば、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分中、エチレン及び/またはプロピレンの連鎖に起因して結晶性を有する成分、および結晶性の低いプロピレン単独重合体部)のみを溶出させるのに必要十分な温度である。140℃とは、100℃では不溶であるが140℃では可溶となる成分(例えば、プロピレン単独重合体部中、特に結晶性の高い成分、およびプロピレン・エチレンランダム共重合体部分中の極端に分子量が高くかつ極めて高いエチレン結晶性を有する成分)のみを溶出させ、かつ分析に使用する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体の全量を回収するのに必要十分な温度である。なお、W140にはエチレン・プロピレン共重合体は全く含まれないか、存在しても極めて少量であり実質的には無視できることからプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率やプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量の計算からは排除する。
【0032】
(カ)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量
本発明における結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量は、上述で説明した値を用い、次式から求められる。プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(重量%)=(W40×A40+W100×A100)/Wc
但し、Wcは先に求めたプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(重量%)である。
【0033】
4)その他
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)において、プロピレンと共重合され、コモノマーとして用いられるα―オレフィンは、通常はプロピレンを除く炭素数が2〜20のα―オレフィンであり、好ましくはプロピレンを除く炭素数が2〜8のα―オレフィンである。プロピレンと共重合させるプロピレンを除くα−オレフィンであるコモノマーは、1種用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、具体的に、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ペンテン−1共重合体、プロピレン−ヘキセン−1共重合体、プロピレン−オクテン−1共重合体のような二元共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ヘキセン−1共重合体のような三元共重合体などが挙げられ、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体などが高い剛性や衝撃強度をバランスよく得られると共に、入手や取り扱いも容易で経済性にも優れるので好ましい。
【0034】
また、プロピレンを除く炭素数2〜8のα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、1−オクテン等を挙げることができる。
【0035】
(1)製造法
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)は、単独重合体部分(a1)とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)との反応混合物であり、単独重合体部分(a1)の重合(前段重合)後、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合部分(a2)の重合(後段重合)を行う、即ち逐次重合することにより製造できる。
【0036】
上記重合に用いられる触媒としては、特に限定されるものではなく、公知の触媒が使用可能である。例えば、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒、あるいは、メタロセン触媒(例えば、特開平5−295022号公報参照。)が使用できる。チーグラー・ナッタ触媒は、チタン化合物として有機アルミニウム等で還元して得られた三塩化チタンまたは三塩化チタン組成物を電子供与性化合物で処理し更に活性化したもの(例えば、特開昭47−34478号公報、特開昭58−23806号公報、特開昭63−146906号公報参照。)、塩化マグネシウム等の担体に四塩化チタンを担持させることにより得られるいわゆる担持型触媒(例えば、特開昭58−157808号公報、特開昭58−83006号公報、特開昭58−5310号公報、特開昭61−218606号公報参照。)等が含まれる。
また、助触媒として使用される有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらを2種類以上混合して使用することも可能である。
【0037】
また、上述の触媒には、立体規則性改良や粒子性状制御、可溶性成分の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することができる。例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0038】
重合形式としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン若しくはトルエン等の不活性炭化水素を重合溶媒として用いるスラリー重合、プロピレン自体を重合溶媒とするバルク重合、また、原料のプロピレンを気相状態下で重合する気相重合が可能である。また、いずれの重合形式を組み合わせて行うことも可能である。例えば、単独重合体部分(a1)をバルク重合で行い、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)を気相重合で行う方法や、単独重合体部分(a1)をバルク重合、続いて気相重合で行い、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)は、気相重合で行う方法などが挙げられる。また、重合形式として、回分式、連続式、半回分式のいずれによってもよい。
【0039】
さらに、重合用の反応器としては、特に形状、構造を問わずに用いることができ、例えばスラリー重合、バルク重合で一般に用いられる攪拌機付き槽や、チューブ型反応器、気相重合に一般に用いられる流動床反応器、攪拌羽根を有する横型反応器などが挙げられる。
気相重合において、単独重合体部分(a1)の重合工程は、プロピレン、連鎖移動剤として水素を供給して、前記触媒の存在下に、温度50〜100℃、好ましくは70〜90℃、プロピレンの分圧1.5〜3.0MPa、好ましくは1.5〜2.5MPaの条件で、滞留時間は0.5〜6時間、好ましくは2〜4時間である。単独重合体部分(a1)には、本発明の効果を損なわない範囲で、プロピレン以外のα−オレフィン、例えばα−オレフィンがエチレンの場合は7重量%以下のエチレンが共重合されていても構わない。
【0040】
本発明に使用するプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)は単独重合体部分(a1)のMFRが比較的高いことを特徴とするため、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)全体のMFRを満足する範囲で、プロセス、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を比較的高い濃度に調整し、MFRをコントロールする必要がある。具体的には、水素/プロピレン比で0.04〜0.1で行うとよい。
【0041】
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)を製造する際は、引き続いて、即ち前段重合工程で製造された単独重合体部分(a1)の存在下、後段重合工程で、プロピレン、α−オレフィンとして例えばエチレンと水素を供給して、前記触媒(前記プロピレン単独重合体部の製造に使用した当該触媒)の存在下に40〜90℃、好ましくは50〜80℃、プロピレン及びエチレンの分圧各0.1〜2.0MPa、好ましくは0.1〜1.5MPa、滞留時間は0.5〜10時間の条件で、プロピレンとエチレンのランダム共重合を行い、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)を製造し、最終的な生成物として、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)を得る。
【0042】
プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)の製造は、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)全体のMFRを満足する範囲で、プロセス、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素濃度を、水素/(プロピレン+エチレン)比で、10
−5〜10
−4で行うのが好ましい。また、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)中のα−オレフィン含量を特定の範囲内に維持するため、後段のプロピレン濃度に対するα−オレフィン濃度を調整する。
さらに、ゲル発生やベタツキを抑えるために、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)の反応中あるいは反応前に、エタノールなどのアルコール類を添加することが望ましい。具体的には、例えば触媒として有機アルミニウムを使用する場合は、アルコール類/有機アルミニウム化合物の比で、0.5〜3.0モル比の条件で行う。また、このアルコール類の添加量でプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)中のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(a2)の割合も、コントロールすることができる。
また、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)は、各社から種々の市販品が上市されている(例えば、日本ポリプロ社製ノバテックシリーズや、エクソンモービル社の製品等)ので、これら市販品の物性を測定して、所望のものを用いることもできる。
【0043】
(2)配合量
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物において、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)の配合量は、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)と、後述するプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)との合計を100重量%として、50〜99重量%、好ましくは60〜95重量%、特に好ましくは70〜90重量%である。プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)の配合量をこの様な範囲とすることにより、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物において、良好な流動性を保ちながら、高い剛性及び衝撃強度を達成することが可能となる。即ち、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)の配合量が50重量%未満では、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の流動性及び剛性が悪くなるおそれがあり、一方、99重量%を超えると衝撃強度が悪くなるおそれがある。
【0044】
2.プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に用いられるプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)(以下、単に成分(B)ともいう。)は、以下の条件(b−1)〜(b−3)を満足する。
条件(b−1)
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1〜20g/10分である。
条件(b−2)
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)は、単独重合体部分(b1)とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)とからなり、単独重合体部分(b1)が50重量%以上85重量%未満であり(但し、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)の残部はプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)である)、かつ当該単独重合体部分(b1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が1〜50g/10分である。
条件(b−3)
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)において、α―オレフィン含有量が30〜45重量%、かつ135℃、デカリン溶液中で測定した固有粘度[ηcxs]が5〜10dl/gである(但し、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)のプロピレン含有量とα−オレフィン含有量との合計を100重量%とする)。
【0045】
1)条件(b−1):プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)全体のメルトフローレート
本発明に用いられるプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)は、後述する条件(b−2)に記載の通り、単独重合体部分(b1)とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)とからなるプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体である。
【0046】
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)全体のメルトフローレート(以下、MFRと記すことがある。)は、0.1〜20g/10分である。0.5〜15が好ましく、1.0〜10が更に好ましい。MFRをこの様な範囲とすることにより、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は良好な成形加工性(流動性)と良好な物性を両立することが可能となり、引張り伸び性と特に衝撃強度を良好なものとすることが可能となる。即ち、MFRが0.1g/10分未満であると、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形加工性(流動性)が劣るおそれがあり、一方、20g/10分を超えると、引張り伸び性や、特に衝撃強度が低下するおそれがある。なお、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)全体のMFRは、単独重合体部分(b1)のMFRとプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)のMFRとのバランス、及びプロピレン単独重合体部分(b1)の割合等により調整、決定される。
【0047】
2)条件(b−2):プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)の単独重合体部分(b1)の割合、及び単独重合体部分(b1)のメルトフローレート
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)は、単独重合体部分(b1)とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)とからなり、単独重合体部分(b1)が50重量%以上85重量%以下である(但し、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)の残部はプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)である)。単独重合体部分(b1)は60重量%以上、80重量%以下が好ましく、65重量%以上、75重量%以下が更に好ましい。
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)としてこのような共重合体を用いることにより、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物において、衝撃強度や剛性がバランスよく良好なものとなることが可能となる。即ち、単独重合体部分(b1)の割合が、50重量%未満であると剛性が低下するおそれがあり、85重量%を超えると、衝撃強度が低下する可能性がある。
【0048】
また、当該単独重合体部分(b1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、1.0〜50g/10分である。5〜40が好ましく、10〜30が更に好ましく、10〜20がより好ましい。MFRをこの様な範囲とすることにより、本発明のポリ
プロピレン系樹脂組成物において、良好な成形加工性(流動性)と良好な物性を両立することが可能となり、引張り伸び性と特に衝撃強度を良好なものとすることが可能となる。
即ち、単独重合体部分(b1)のMFRが
1g/10分未満であると、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形加工性(流動性)が劣るおそれがあり、一方、
50g/10分を超えると、引張り伸び性や、特に衝撃強度が低下するおそれがある。
【0049】
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)の単独重合体部分(b1)を50重量%以上85重量%以下とする為には、単独重合体部分(b1)の重合工程における圧力、温度、滞留時間、及びプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)の重合工程における圧力、温度、滞留時間、アルコール類/有機アルミニウム化合物のモル比を変化させることによって、調整することができる。また、当該単独重合体部分(b1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、単独重合体部分(b1)の重合(前段重合)工程において、水素濃度(水素/プロピレン比)を調整することにより調整することができる。
【0050】
3)条件(b−3):プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部(b2)のα−オレフィン含有量、及びプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)の固有粘度[ηcxs]
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)において、α−オレフィン含有量は30〜45重量%である(但し、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)のプロピレン含有量とα−オレフィン含有量との合計を100重量%とする)。すなわちプロピレン含有量は55〜70重量%である。α−オレフィン含有量は30〜45重量%が好ましく、30〜40重量%が更に好ましく、30〜35重量%がより好ましい。プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)のα−オレフィン含有量をこの様な範囲とすることにより、良好な剛性と衝撃強度を達成することが可能となる。即ち、α−オレフィン含有量が30重量%未満、すなわちプロピレン含量が70重量%を超えると、衝撃強度及び剛性が低下するおそれがある。また、α−オレフィン含有量が45重量%を超える、すなわちプロピレン含量が55重量%未満であると、衝撃強度が低下するおそれがある。なお、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)のα−オレフィン含有量はプロピレン−α−オレフィンランダム共重合部分(b2)の重合(後段重合)工程において、α−オレフィン濃度を変化させることにより調節することができる。
ここで、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)における単独重合体部分(b1)とプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)の割合、およびプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)のα−オレフィン含有量の測定は、前述の通り、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)と同様の方法によって測定すればよい。
【0051】
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)の固有粘度[ηcxs]は、5〜10dl/gであり、好ましくは6〜9.5dl/g、更に好ましくは7〜9dl/g、より好ましくは8〜8.5dl/gである。プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)の固有粘度[ηcxs]をこの様な範囲とすることにより、本発明のプロピレン系樹脂組成物に於いて良好な衝撃強度を達成することが出来る。即ち、5.0dl/g未満では、衝撃強度が悪化する場合があり、10dl/gを超えるとゴムの分散不良であるゲルが発生し衝撃強度の低下、及び外観の悪化のおそれがある。
【0052】
ここで、固有粘度[ηcxs]は、以下の式から算出される値である。
[ηcxs]=(100×[η]F−(100−Wc)×[η]p)/Wc
([η]Fはプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)の固有粘度(ウベローデ型粘度計を用いて、デカリンを溶媒として温度135℃で測定)、[η]pは単独重合体部分(b1)の固有粘度、Wcはプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分の割合(重量%)を表す。
また、2gのプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)を300mlのp−キシレン(0.5mg/mlのBHTを含む)に130℃で溶解させ溶液とした後、25℃で12時間放置し、その後、析出したポリマーを濾別し、濾液からp−キシレンを蒸発させ、さらに100℃で12時間減圧乾燥して室温キシレン可溶成分を回収し、これの固有粘度[ηcxs]をウベローデ型粘度計を用いてデカリンを溶媒として温度135℃で測定する方法によっても、測定することができる。
なお、当該プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)の固有粘度[ηcxs]は、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)の重合工程において、水素濃度(水素/プロピレン比)を調整することによって調整することができる。
【0053】
4)その他
プロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)において、プロピレンと共重合され、コモノマーとして用いられるα−オレフィンとしては、前述したプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(A)に用いられるα−オレフィンを同様に用いることができる。
【0054】
(1)製造法
本発明にポリプロピレン系樹脂(B)として用いられるプロピレン系ブロック共重合体の製造法としては、前述したプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(A)と同様の方法を使用できる。以下、代表例としてα―オレフィンとしてエチレンを例にとり説明する。
【0055】
単独重合体部分の重合(前段重合)においては、プロピレン、必要に応じてコモノマー、水素等の連鎖移動剤を反応器に供給して、重合触媒の存在下に、例えば、温度50〜150℃、好ましくは50〜80℃、プロピレンの分圧0.5〜4.5MPa、好ましくは1.0〜3.0MPa、反応器内に存在する保有パウダーの平均滞留時間0.5〜5.0Hrの条件で、プロピレンの重合を行い、単独重合体部分を製造することができる。この際、単独重合体部分のメルトフローレートを1〜50g/分にする必要があるため、プロセス、触媒の種類にもよるが、水素等の連鎖移動剤を調整する必要がある。
【0056】
続いて、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の重合(後段重合)が行われ、プロピレン、エチレン、必要に応じてコモノマー、水素等の連鎖移動剤を反応器に供給して、前記重合触媒(前段重合で使用した当該触媒)の存在下に、例えば、温度50〜150℃、好ましくは50〜90℃、プロピレン及びエチレンの分圧各0.3〜4.5MPa、好ましくは0.5〜3.5MPa、反応器内に存在する保有パウダーの平均滞留時間1.0〜7.0Hrの条件で、プロピレンとエチレンのランダム共重合を行い、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造することにより、最終的な生成物として、プロピレン系ブロック共重合体を得ることができる。また、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)中のエチレン含量を特定の範囲内に維持するため、後段のプロピレン濃度に対するエチレン濃度を調整する。
【0057】
この際、本発明で用いられるプロピレン系ブロック共重合体におけるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[ηcxs]は5〜10dl/gにする必要があるため、プロセス、触媒の種類にもよるが、水素等の連鎖移動剤を比較的低い濃度に調整することが好ましい。
プロピレン・エチレンランダム共重合体の製造時は、連鎖移動剤を存在させる場合と、させない場合とがあるが、得られるプロピレン・エチレンランダム共重合体の固有粘度[ηcxs]を微妙に調節する目的で少量存在させることが好ましい。
連鎖移動剤として水素を用いる場合、第二反応器の水素とプロピレンとのモル比は、好ましくは0.00001〜0.05、より好ましくは0.0001〜0.001である。
【0058】
また、本発明で用いられるプロピレン系ブロック共重合体においては、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の割合が高いことを一つの特徴とする。そのため、後段重合では、触媒の活性を高く維持出来るようにするため、前段重合においては、重合温度、プロピレン分圧が低く、重合時間が短い、触媒の活性を抑制する条件が好まれる。一方、後段重合においては、触媒の活性が高くなる条件(重合温度、プロピレン、エチレン分圧が高く、重合時間が長い条件)が好まれる。
具体的には、前段重合の重合時間(平均滞留時間)が、後段重合の重合時間(平均滞留時間)よりも短いことが好ましい。すなわち、前段重合を行う第一反応器の保有パウダーの平均滞留時間が、後段重合を行う第二反応器の保有パウダーの平均滞留時間よりも短いことが好ましい。ここで、平均滞留時間は、回分式重合の場合は重合時間であり、連続重合の場合は反応器中の保有パウダーの重量(kg)と単位時間当たり反応器から抜き出す重合体パウダーの重量(kg/時間)とから、反応器中の保有パウダーの重量(kg)/単位時間当たり反応器から抜き出す重合体パウダーの重量(kg/時間)の計算式で算出する値である。前段重合が多段で行われる場合、各段の平均滞留時間の合計を第一反応器の保有パウダーの平均滞留時間とみなす。同様に、後段重合が多段で行われる場合、各段の平均滞留時間の合計を第二反応器の保有パウダーの平均滞留時間とみなす。
【0059】
また、前段重合の重合温度が、後段重合の重合温度よりも低いことが好ましい。すなわち、第一反応器の重合温度が、第二反応器の重合温度よりも低いことが好ましい。第一反応器の重合温度が、第二反応器の重合温度よりも2℃以上低いことが好ましい。前段重合が多段で行われる場合、各段の重合温度の算術平均を第一反応器の重合温度とみなす。同様に、後段重合が多段で行われる場合、各段の重合温度の算術平均を第二反応器の重合温度とみなす。
【0060】
さらに、プロピレン・エチレンランダム共重合体の分散不良が原因と考えられているゲルの発生を防止する目的で、前段重合工程での重合後、後段重合工程での重合途中に、アルコールを装入することが好ましい。装入する量としては、前段重合時に装入する有機アルミニウム量に対し(アルコール/有機アルミニウム)、1.0〜2.0mol比であることが好ましい。すなわち、第二反応器に供給するアルコールと第一反応器に供給する有機アルミニウムとのモル比(アルコール/有機アルミニウム)が1.0〜2.0であることが好ましい。
アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコールなどが挙げられる。
【0061】
本発明に用いられるプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)は、上記のプロピレン系ブロック共重合体を水中カット造粒法により造粒したプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)である。樹脂温度180℃〜250℃にて混練後、水中カット造粒機で造粒することにより製造できる。混練に用いる混練機としては、混練押出機、特に単軸混練押出機、二軸混練押出機が好ましい。
【0062】
本発明に用いられるプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)には、酸化防止剤、中和剤、帯電防止剤、耐候剤等が処方されていてもよい。また、プロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)の造粒体には、プロピレン−エチレンブロック共重合体、無機充填剤、エラストマー等が含まれていてもよい。前記成分は、ポリプロピレン系樹脂組成物の一部になりうる。
また、プロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)として使用できる製品が、各社から種々の市販品として上市されているので、これら市販品の物性を測定して、所望のものを用いることもできる。
【0063】
(2)配合量
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物におけるプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)の配合量は、前記プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)とプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)との合計を100重量%として、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%を、特に好ましくは10〜30重量%であり、その効果については、先にプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)の配合量の説明に記載の通りである。
【0064】
3.エラストマー(C)
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に用いられるエラストマー(C)(以下、単に成分(C)ともいう。)は、熱可塑性のエラストマーであり、例えばオレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマーなどを例示できる。該エラストマーは、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体において、寸法安定性などの向上や、特に衝撃強度の向上に寄与するという特徴を有する。
【0066】
本発明に用いられるエラストマー(C)は本願の効果を阻害しないものであれば特に限定されず、所望の特性に応じて適宜選択することができる。使用することができるエラストマー(C)の具体例としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)等のエチレン・α−オレフィン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体エラストマー等のエチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマー(EPDM)、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック共重合体の水素添加物(SEBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体の水素添加物(SEPS)等のスチレン系エラストマー等が挙げられる。なかでも、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物における衝撃強度の向上に対して良好な効果を示し、入手や取り扱いが容易で経済的であるとの観点からエチレン・α−オレフィン共重合体エラストマーが好ましく、特にエチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)及びエチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)が本発明のポリプロピレン系樹脂組成物における各種物性のバランスも良く好ましい。
エラストマー(C)の形状としては、ペレット状、クラム状、顆粒状等が挙げられるが、特に限定されず、用いることができる。また、本発明において、エラストマー(C)は、1種類に限定されるものではなく、MFR、密度などの異なる2種類以上の混合物の使用であってもよい。
【0067】
これらのエラストマー(C)の製造法は、特に限定されず、メタロセン系触媒、バナジウム系触媒やチーグラー系触媒などを用いて、重合することができる。
重合法としては、触媒成分と各モノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式の方
法を採用することができる。具体的には、これらの触媒の存在下でのスラリー法、気相流
動床法や溶液法、あるいは圧力が20MPa以上、重合温度が100℃以上での
高圧バルク重合法等の製造プロセスを適用して重合することができる。好ましい製造法と
しては、高圧バルク重合法や溶液法が挙げられる。
なお、エラストマー(C)として使用できる種々の市販品が、多くの会社から販売されている(例えば、ダウ・ケミカル社製Engageシリーズなど)ので、所望特性を備えた市販品を購入し、使用することもできる。
【0068】
(2)配合量比
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物におけるエラストマー(C)の配合量は、前記プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)とプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)との合計100重量部に対して、エラストマー(C)1〜100重量部であり、好ましくは5〜75重量部、特に好ましくは10〜50重量部である。エラストマー(C)の配合量をこの様な範囲とすることにより、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物が良好な流動性を保つと共に、衝撃強度や剛性をバランスよく良好なものとなることが可能となる。即ち、エラストマー(C)の配合量が1重量部未満であると、衝撃強度が悪化するおそれがあり、一方、100重量部以上では、ポリプロピレン系樹脂組成物の流動性及び剛性が悪化するおそれがある。
【0069】
4.充填剤(D)
本発明の樹脂組成物においては、剛性や衝撃強度等の向上を図る目的で、更に充填剤(D)を含有するのが好ましい。本発明に於いて用いられる充填剤(D)(以下、単に成分(D)ともいう。)は、本発明の効果を阻害しない限り、求められる物性に応じて種類、組成、形状等は特に限定されない。
無機充填剤としては、具体的には、シリカ、ケイ藻土、バリウムフェライト、酸化ベリリウム、軽石、軽石バルンなどの酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、ドーソナイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウムなどの硫酸塩または亜硫酸塩、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維、ガラスバルーン、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、モンモリロナイト、ベントナイトなどのケイ酸塩、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素中空球などの炭素類や、硫化モリブデン、ボロン繊維、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、マグネシウムオキシサルフェイト、塩基性硫酸マグネシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、各種金属繊維、ウィスカーなどを挙げることができる。
【0070】
有機充填剤としては、具体的には、モミ殻などの殻繊維、木粉、木綿、ジュート、紙
細片、セロハン片、芳香族ポリアミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリエステ
ル繊維、ポリプロピレン繊維、各種合成繊維、熱硬化性樹脂粉末などを挙げることができ
る。これら充填剤は、一種類でも二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
充填剤(D)の中でも、樹脂組成物とした時の物性のバランスがよく、入手や取り扱いが容易で経済的である点から、タルクが好ましく、特に平均粒径が15μm以下、好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは2〜8μmのタルクは、物性バランス及び経済性が特に優れた本発明のポリプロピレン系樹脂組成物及び成形体が得られ易いなどの点で好ましい。
この平均粒径は、レーザー回折散乱方式粒度分布計などを用いて測定した値であり、測定装置としては、例えば、堀場製作所製LA−920型が挙げられる。また、タルクは、平均アスペクト比が4以上20以下、特に5以上10以下のものがより好ましい。タルクのアスペクト比の測定は、顕微鏡などにより測定された値より求められる。
【0072】
充填剤(D)の形状については、特に制限はなく、粒状、板状、繊維状、棒状、ウィスカー状など、いずれの形状のものも、使用することができる。中でも板状、繊維状、ウィスカー状のものは、剛性や衝撃強度の物性バランスや寸法安定性などに優れた本発明のポリプロピレン系樹脂組成物及び成形体が得られやすい点で、好ましい。また、ポリマー用フィラーとして市販されているものは、いずれも使用できる。これらは、一般的な粉末状の外に、取り扱いの利便性などを高めた、圧縮魂状、ペレット(造粒)状、顆粒状、チョップドストランド状などの形態で製造されることが多いが、いずれも使用することができる。中でも粉末状、圧縮魂状、顆粒状が好ましい。
【0073】
タルク等の充填剤は、重合体との接着性又は重合体への分散性を向上させる目的で、各種の有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸又はその酸無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面処理したものを用いてもよい。
【0074】
(1)製造法
本発明に於いて使用される充填剤(D)の製造方法は、特に限定されたものではなく、公知の各種製造方法などにて製造される。例えば、タルクの場合、天然に産出されたものを機械的に微粉砕化することにより得られたものを、さらに精密に1回又は複数回分級することによって得られる。粉砕機としては、例えば、ジョークラシャ−、ハンマークラシャ−、ロールクラシャー、スクリーンミル、ジェット粉砕機、コロイドミル、ローラーミル、振動ミルなどを用いることができる。
これらの粉砕されたタルクは、本発明で示される平均粒径に調節するために、例えば、サイクロン、サイクロンエアセパレーター、ミクロセパレーター、サイクロンエアセパレーター、シャープカットセパレター、などの装置で1回または繰り返し湿式または乾式分級する。特定の粒径に粉砕した後、シャープカットセパレターにて、分級操作を行うことが好ましい。
なお、これらの充填剤(D)に相当する種々の製品が多くの会社から市販されており、所望により、それらの製品を購入して使用することもできる。これらの充填剤(D)は、後述するポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法において、そのもののみを直接添加してもよく、充填剤(D)を高濃度で含む樹脂組成物(所謂マスターバッチ)として、添加してもよい。
【0075】
(2)配合量比
本発明における充填剤(D)の配合量は、前記プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)とプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)との合計100重量部に対し、充填剤(D)1〜100重量部が好ましく、5〜80重量部が更に好ましく、より好ましくは10〜60重量部である。充填剤(D)の配合量をこの様な範囲とすることにより、良好な流動性(成形性)を保ちつつ、剛性を向上させることが可能となる。即ち、充填剤(D)の配合量が1重量部未満であると、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物及び射出成形体の剛性やその他の物性バランス(耐熱性など)が低下する場合がある。一方、配合量比が100重量部を超えると、流動性(成形性)が低下する場合がある。
【0076】
5.任意添加成分
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物においては、上記プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)、エラストマー(C)及び好ましく用いられる充填剤(D)以外に、さらに必要に応じ、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、たとえば発明の効果をさらに向上させたり、他の性能・効果を付与するため、任意添加成分を配合することができる。任意添加成分の添加量としては、ポリプロピレン系樹脂組成物全体を基準として、通常は0.2〜2.0重量%である。
【0077】
任意添加成分として具体的には、非イオン系などの帯電防止剤、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、物理発泡剤や化学発泡剤などの発泡剤、有機金属塩系などの分散剤、顔料などの着色剤、フェノール系などの酸化防止剤、無機化合物などの中和剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、非イオン系などの界面活性剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物などの難燃剤、蛍光増白剤、気泡防止(消泡)剤、架橋剤、過酸化物、プロセスオイル(配合油)、ブロッキング防止剤、可塑剤、上記成分(A)、(B)以外のポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミドやポリエステルなどの熱可塑性樹脂、その他添加剤などを挙げることができる。これらの成分は、二種以上併用してもよく、組成物に添加してもよいし、各成分に添加されていてもよく、それぞれの成分においても二種以上併用してもよい。
【0078】
帯電防止剤、中でも非イオン系やカチオン系などの帯電防止剤は、ポリプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の帯電防止性の付与、向上に有効であり、その具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリオキシエチレンアルキルアミド;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ステアリン酸モノグリセリド;アルキルジエタノールアミン;アルキルジエタノールアミド;アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル;テトラアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0079】
光安定剤や紫外線吸収剤としては、例えば、ヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系の化合物などが挙げられ、これらはポリプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の耐候性や耐久性などの付与、向上に有効である。
これらの具体例として、ヒンダードアミン系には、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの縮合物;ポリ〔〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕〕;テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート;テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート;ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート;ビス−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルセバケートなどが、ベンゾトリアゾール系には、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール;2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどが、ベンゾフェノン系には、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンなどが、サリシレート系には、4−t−ブチルフェニルサリシレート;2,4−ジ−t−ブチルフェニル3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエートなどがそれぞれ挙げられる。
【0080】
発泡剤としては、例えば、物理発泡剤や化学発泡剤などが挙げられ、これらは、ポリプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の軽量化、剛性や寸法特性などの付与、向上などに有効である。
これらの具体例としては、物理発泡剤には、炭酸ガス;窒素ガス;空気;プロパン;ブタン;ジクロロジフルオロメタンなどが、化学発泡剤には、クエン酸;重曹;アゾジカルボンアミド;ベンゼンスルホニルヒドラジド;トルエンスルホニルヒドラジド;N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミド;P−トルエンスルホニルセミカルバジドなどがそれぞれ挙げられる。
【0081】
分散剤としては、例えば、有機金属塩などが挙げられ、着色顔料などや、特に充填剤(D)の分散性を高め、ポリプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の耐熱性、ウエルド外観、フローマーク外観、風合いなどの付与、特に剛性の向上などに有効である。
その具体例としては、ステアリン酸カルシウム;ステアリン酸マグネシウム;ベヘン酸カルシウム;ベヘン酸マグネシウム;ベヘン酸亜鉛;モンタン酸亜鉛;モンタン酸カルシウム;モンタン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0082】
着色剤としては、例えば、無機系や有機系の顔料などが挙げられ、ポリプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の着色外観、見映え、風合い、商品価値、耐候性や耐久性などの付与、向上などに有効である。
その具体例としては、無機系顔料には、酸化チタン;酸化鉄(ベンガラ等);クロム酸(黄鉛など);モリブデン酸;硫化セレン化物;フェロシアン化物およびカーボンブラックなどが、有機系顔料には、難溶性アゾレーキ;可溶性アゾレーキ;不溶性アゾキレート;縮合性アゾキレート;その他のアゾキレートなどのアゾ系顔料;フタロシアニンブルー;フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;アントラキノン;ペリノン;ペリレン;チオインジゴなどのスレン系顔料;染料レーキ;キナクリドン系;ジオキサジン系;イソインドリノン系などがそれぞれ挙げられる。また、メタリック調やパール調にするには、アルミフレーク;パール顔料を含有させることができる。また、染料を含有させることもできる。
【0083】
[II]ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法、成形体の製造方法及び用途
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、例えば、前記成分(A)〜成分(D)(必要に応じ、任意添加成分)を、前記配合割合で、従来公知の方法で配合・混合・溶融混練することにより、製造することができる。
【0084】
混合は、通常、タンブラー、Vブレンダー、リボンブレンダーなどの混合機器を用いて行い、溶融混練は、通常、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーなどの混練機器を用いて溶融混練し、造粒する。
また、溶融混練・造粒して製造する際には、前記各成分の配合物を同時に混練してもよく、さらに、性能向上をはかるべく各成分を分割して混練し、その後に残りの成分を混練・造粒するといった方法を採用することもできる。
【0085】
本発明の成形体は射出成形体であるのが好ましく、前記方法で製造されたポリプロピレン系樹脂組成物を、例えば、射出成形(ガス射出成形、二色射出成形、コアバック射出成形、サンドイッチ射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)などの周知の成形方法にて、成形することにより得ることができる。
本発明の成形体が射出成形体である場合は、高い流動性を保持したまま、剛性及び衝撃強度の物性バランスにも優れる。そのため、これらの性能をバランスよく、より高度に必要とされる用途、例えば、インストルメントパネル、ドアトリム、バンパー、サイドモール等の自動車部品、テレビ等の家電機器製品の部品などの自動車内外装部品の用途に好適に用いることができる。これらの点などから、該ポリプロピレン系樹脂組成物及びそれからなる射出成形体の工業的価値は大きい。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、ポリプロピレン系樹脂組成物またはその構成成分についての諸物性は、下記の評価方法に従って測定、評価した。
【0087】
1.物性測定、評価方法、分析方法
(1)メルトフローレート(MFR):
JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定した(単位はg/10分)。
【0088】
(2)比重:
JIS K 7112に準拠し、試験温度23℃で測定した(単位はg/cm
3)。試験片は、東芝機械社製EC20射出成形機を用い、成形温度200℃、金型温度40℃で平板(厚さ4mm 幅10mm 長さ80mm)を成形し使用した。
【0089】
(3)曲げ弾性率及び曲げ強度:
ISO178に準拠し、試験温度23℃、試験速度2.0mm/分で測定した(単位はMPa)。なお、試験片は、東芝機械社製EC20射出成形機を用い、成形温度200℃、金型温度40℃で平板(厚さ4mm 幅10mm 長さ80mm)を成形し使用した。
【0090】
(4)シャルピー衝撃強度:
ISO179(ノッチ付)に準拠し、試験温度23℃で測定した(単位はkJ/m
2)。試験片は、東芝機械社製EC20射出成形機を用い、成形温度200℃、金型温度40℃で平板(厚さ4mm 幅10mm 長さ80mm)を成形し使用した。
【0091】
(5)ポリプロピレン系樹脂の分析法
プロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(A)及びプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)の単独重合体部分の割合及びプロピレン―α―オレフィンランダム共重合体部分の割合と、各成分中のエチレン含量については、明細書中に記載のクロス分別法とFT−IR法の組み合わせの手法により決定した。
【0092】
(6)固有粘度[ηcxs]:
プロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)のプロピレン―α−オレフィンランダム共重合体部分(b2)の固有粘度[ηcxs]は、ウベローデ型粘度計を用いてデカリンを溶媒として温度135℃で測定した。
まず、2gのプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)を300mlのp−キシレン(0.5mg/mlのBHTを含む)に130℃で溶解させ溶液とした後、25℃で12時間放置する。その後、析出したポリマーを濾別し、濾液からp−キシレンを蒸発させ、さらに100℃で12時間減圧乾燥し室温キシレン可溶成分を回収し、これの固有粘度[ηcxs]を測定した。
【0093】
2.材料
実施例、比較例において、原材料として、以下のものを使用した。
(1)プロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(A)
(A)−1:エクソンモービル社製のポリプロピレンから、以下の特性を有する製品を使用した。各特性は次の通り。
・全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重):108g/10分
・プロピレン−α―オレフィンブロック共重合体の単独重合体部分の含量:92重量%
・プロピレン単独重合体部分のメルトフローレート:228g/10分
・プロピレン−α―オレフィンランダム共重合体部分のエチレン含有量:47重量%
【0094】
(2)プロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)
(B)−1:ライオンデールバゼル社製のポリプロピレンから、次の特性を有するプロピレン−エチレンブロック共重合体を使用した。
・全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重):1.2g/10分
・プロピレン−α―オレフィンブロック共重合体の単独重合体部分の含量:70重量%
・プロピレン単独重合体部分のメルトフローレート:13g/10分
・プロピレン−α―オレフィンランダム共重合体部分のプロピレン含有量:67重量%
・プロピレン−α―オレフィンランダム共重合体部分の固有粘度[ηcxs]:8.4dl/g
【0095】
(B)−2:日本ポリプロ社製、「ノバテック」から、次の特性を有するプロピレン−エチレンブロック共重合体を使用した。
・全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重):30g/10分
・プロピレン−α―オレフィンブロック共重合体の単独重合体部分の含量:80重量%
・プロピレン単独重合体部分のメルトフローレート:83g/10分
・プロピレン−α―オレフィンランダム共重合体部分のプロピレン含有量:65重量%
・プロピレン−α―オレフィンランダム共重合体部分の固有粘度[ηcxs]:2.9dl/g
【0096】
(B)−3:エクソンモービル社製のポリプロピレンから、次の特性を有するプロピレン−エチレンブロック共重合体を使用した。
・全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重):36g/10分
・プロピレン−α―オレフィンブロック共重合体の単独重合体部分の含量:92重量%
・プロピレン単独重合体部分のメルトフローレート:80g/10分
・プロピレン−α―オレフィンランダム共重合体部分のプロピレン含有量:51重量%
・プロピレン−α―オレフィンランダム共重合体部分の固有粘度[ηcxs]:8.9dl/g
なお、プロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)−1から(B)−3の各サンプルの特性を表1にまとめた。
【0097】
【表1】
【0098】
(3)エラストマー(C)
エラストマー(C)として、以下に示す市販のエラストマー2種を使用した。
(C)−1:DOW社製、エチレン・オクテンランダム共重合体「ENGAGE8100」(商品名)、MFR(230℃、2.16kg荷重):2.0g/10分
(C)−2:DOW社製、エチレン・オクテンランダム共重合体「ENGAGE8200」(商品名)、MFR(230℃、2.16kg荷重):10.0g/10分
【0099】
(4)充填剤(D)
(D)−1:日本タルク社製タルクPC25RC、平均粒径:5.7μm
【0100】
3.実施例及び比較例
[実施例1および比較例1〜3]
プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(A)とプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(B)との合計100重量部に対して、酸化防止剤であるテトラキス{メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン0.132重量部、同様に酸化防止剤であるトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.132重量部、及び中和剤であるステアリン酸カルシウム0.132重量部と共に、上記各成分(A)〜(C)を表2に示す割合で配合し、下記の造粒条件で造粒し、前述の評価・分析方法に従って、成形・性能評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0101】
(1)造粒条件
(a)押出機:テクノベル社製KZW−15−45MG2軸押出機
(b)スクリュー:口径15mm L/D=45
(c)押出機設定温度:(ホッパ下から)40,80,160,200,200,200
(ダイ℃)
(d)スクリュー回転数:400rpm
(e)吐出量:スクリューフィーダーにて約5kg/hrに調整
(f)ダイ:口径3mm ストランドダイ 穴数2個
【0102】
【表2】
【0103】
表2に示すように、本発明の必須構成要件における各規定を満たす、実施例1に示す組成を持ったポリプロピレン系樹脂組成物およびその成形体は、良好な成形性(高流動性)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)に優れている。そのため、工業部品部材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム、ピラー、バンパー、ドアプロテクター、サイドプロテクター、サイドモール等の自動車部品、とりわけバンパーなどの自動車外装部品等に適する性能を有していることが、明白になっている。
【0104】
一方、本発明の必須構成要件における各規定を満たさない比較例1〜3は、これらの性
能バランスが不良で見劣りしている。
即ち、比較例1から3は、本願規定のプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)を含有しない(比較例1)か、成分(B)の要件を満たさない(比較例2及び3)ため、常温でのシャルピー衝撃強度が劣っている。これは、プロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)による衝撃強度向上が著しく、該成分が不可欠であることを示している。
【0105】
[実施例2および比較例4〜6]
実施例1同様に、上記各成分(A)〜(C)を表3に示す割合で配合し、同様の条件で造粒し、成形したものについて性能評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3に示すように、本願規定のプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)を含有しない(比較例4)か、成分(B)の要件を満たさない(比較例5及び6)場合は、エラストマー(C)の含有量を増加させた場合においても、常温でのシャルピー衝撃強度が劣っている。
【0108】
[実施例3および比較例7]
実施例1同様に、上記各成分(A)〜(C)及び充填剤(D)を表4に示す割合で配合し、同様の条件で造粒し、成形したものについて性能評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0109】
【表4】
【0110】
表4に示すように、本願規定のプロピレン―α―オレフィンブロック共重合体(B)の要件を満たさない(比較例7)場合は、充填剤(D)を含有させた場合においても、常温でのシャルピー衝撃強度が劣ることは避けられない。
【0111】
上記の実施例と各比較例の結果から、本発明の構成と各要件の合理性と有意性が実証さ
れ、さらに本発明の従来技術に対する優位性も明らかである。